ロックダウン中に乳児のコミュニケーション能力発達が遅延?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/11/03

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのためロックダウンが行われていた間、乳児のコミュニケーションスキルの発達が遅延していた可能性を示唆するデータが報告された。アイルランド王立外科医学院のSusan Byrne氏らの研究によるもので、詳細は「Archives of Disease in Childhood」に10月11日掲載された。

 この研究から、ロックダウン中に乳児の約25%が、ほかの乳児に会わずに1年間過ごしていたことが分かった。また、保護者に連れられて買い物などに外出する機会が少なく、近所のコミュニティーで見知らぬ人に出会うことがないため、「バイバイ」と手を振ることもほとんどなかったことが示唆された。ただしByrne氏は、「心配する必要はない。赤ちゃんは非常に回復力があり、かつパンデミック対策の規模は縮小してきているため、今は赤ちゃんが保護者と一緒に外出して外の世界を見る機会がたくさんある」と話している。

 Byrne氏らの研究は、COVID-19パンデミック前の2008~2011年に生まれた乳児1,629人を対象に実施されていた疫学研究「BASELINE研究」と、ロックダウン中に生まれた乳児309人を対象とする「CORAL研究」のデータを用いて行われた。後者のCORAL研究は、パンデミックのアレルギーや自己免疫疾患への影響を検討する目的の研究であり、2020年3~5月に生まれた乳児が登録されていた。なお、Byrne氏は、「アイルランドではパンデミック中の約13カ月間にわたり、厳格なロックダウンが行われていた」としている。

 明確に意味のある言葉を口にする、物を指さす、「バイバイ」と手を振るなどのコミュニケーションスキルを含む、合計10項目で発達を評価し、二つの研究に登録された乳児を比較した。その結果、言語のスキルにわずかな差が認められた。例えば、明確に意味のある言葉を一つ以上口にした乳児の割合は、BASELINE研究が89%であるのに対して、CORAL研究では77%だった。また、物を指さすという行動は同順に93%、84%であり、「バイバイ」をするのは94%、88%だった。

 この結果についてByrne氏は、「ロックダウンの最中、乳児は大半の時間を家で過ごしていただろう。そのため人と出会うことがなく、また知らない大人の声を聞くことはなく、別れ際に手を振るような機会もなかったと考えられる。さらに、目新しい物に興味を引かれて指をさすようなこともなかっただろう」との考察を述べている。

 一方、別のスキルについては、パンデミック中の乳児の方が発達していたことも分かった。具体的には、ハイハイをする生後12カ月の乳児の割合は、BASELINE研究よりCORAL研究の乳児の方が高かった。

 今回報告された結果の解釈にはいくつかの留意点がある。一つはBASELINE研究とCORAL研究は別の研究目的で実施されたものであり、登録された乳児や保護者の人口統計学的特徴に差が存在していたことだ。例えば母親の教育歴はCORAL研究の方が長かった。また、乳児の発達状況の評価を、保護者の記憶に基づき判断していた。なお、CORAL研究に登録された乳児は現在2歳になっている。Byrne氏らは、子どもたちの発達状況を引き続き確認していくとしている。

 Byrne氏らの報告に関連して、米ウィスコンシン大学マディソン校のDipesh Navsaria氏は、「パンデミックが子どもの発達にとって良いものなのか、悪いものなのかを判断するのは難しい面がある。ほかの乳児や大人たちとの交流が制限されることは悪影響を及ぼし得ると考えることもできるし、反対に家族と長時間過ごせることは良い影響を及ぼすと考えることも可能だ」と話す。

 また、考慮すべき別の因子として、ロックダウン中には保護者のメンタルヘルスが悪化していた可能性があり、それが子どもの発達に影響を及ぼした可能性も否定できないとしている。ただしNavsaria氏によると、「乳児の脳は大きな可塑性を備えているため、何らかの発達の遅延を経験したとしても、いずれ追いついて大きな問題にはならないのではないか」とのことだ。Byrne氏とNavsaria氏はともに、「パンデミックの影響が一時期よりも小さくなった今、保護者は普通に子どもに接することでその成長を助けることができる」と述べ、買い物や旅行、子どもと遊ぶといったことを勧めている。

[2022年10月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら