新型コロナ飲み薬、心疾患治療薬との併用で相互作用の可能性も

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の飲み薬の1つである抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)は、高リスク患者を重症化から守ることで世界のパンデミックの様相を大きく変えた。そうした中、脂質低下薬や抗血栓薬、抗不整脈薬など、広く処方されている心疾患の治療薬とパクスロビドを併用するとリスクがもたらされる可能性を警告する論文を、米レーヘイ・ホスピタル&メディカル・センターのSarju Ganatra氏らが「Journal of the American College of Cardiology」に10月12日発表した。同氏は、「一部の心疾患患者はパクスロビドの使用を避けるか、同薬による治療を受けている間は心疾患の薬を減らす必要があるかもしれない」と述べている。
パクスロビドはワクチンを接種していない高リスク患者の重症化リスクを89%低減することが示されているため、医師と患者にとっては、難しい判断を迫られる状況であるといえる。Ganatra氏は、「医師たちには、われわれがパクスロビドの処方をやめさせようとしていると受け取ってほしくない。パクスロビドがベネフィットをもたらす可能性が最も高いのは心疾患患者だ。心血管のリスク因子を持つ人では、COVID-19の重症化リスクが極めて高いからだ。われわれの目的は、人々に薬物相互作用について認識してもらうことだ」と強調している。
パクスロビドはニルマトレルビルとリトナビルの2種類の薬剤を組み合わせたものだが、専門家らは、薬物相互作用は主にリトナビルに起因していると考えている。米国心臓協会(AHA)臨床心臓病学評議会メンバーのRobert Page氏の説明によると、リトナビルは抗ウイルス薬の効果を増強する作用を持つことから、長年にわたってHIV治療薬として使用されている。しかし、リトナビルによって効果が増強される薬剤は他にも数多くあり、その割合は米国で販売されている薬剤の最大で3分の2を占めるという。
Page氏によると、パクスロビドは脂質低下薬のスタチンが体内に貯留する原因となり得る。スタチンが体内に貯留すると、肝機能障害や筋変性が惹起される。さらに、パクスロビドと一部の抗不整脈薬との間でも相互作用が生じる可能性があり、それによって致死性の異常な不整脈(心室性不整脈)のリスクが上昇すると考えられている。
米国心臓病学会(ACC)心血管ケアチーム評議会を率いるCraig Beavers氏は、パクスロビドとの相互作用が懸念される薬剤として抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)も挙げている。Ganatra氏らの論文には、パクスロビドに含まれるリトナビルが抗血小板薬のチカグレロル(商品名ブリリンタ)や抗凝固薬のワルファリンの効果を増強することで出血リスクが高まる可能性があると記されている。Beavers氏は、「出血リスクが高い患者に対しては、これらの薬剤とパクスロビドの併用は回避するか、慎重に患者をモニタリングする必要がある」としている。その一方で、パクスロビドを抗血小板薬のクロピドグレル(商品名プラビックス)と併用した場合、相互作用によって血栓リスクが高まるとされている。
さらなる問題としてGanatra氏は、薬剤の中には体内に蓄積されやすいものがあることを指摘する。そのため、COVID-19罹患患者がパクスロビドの使用を開始するにあたり、それまで使用していた薬剤の使用を中断しても、依然として重大な相互作用のリスクがある。例えば、一部の抗不整脈薬は半減期が極めて長いため、使用の中止後、何日も、あるいは何週間も体内に残る場合があるという。
さらに、リトナビルに関する情報のほとんどは、長期間にわたって処方されるHIV治療薬としての使用データから得られたものであることも、状況を複雑にしているとBeavers氏は指摘。「データがないため、COVID-19患者が短期間これらの薬剤を使用した場合に大きな影響があるのかどうかについては、今のところ不明」としている。
Beavers氏は、「現時点では、パクスロビドの使用を避けるか、あるいは心疾患の治療薬の使用を中止するかについては、最終的にはケースバイケースで判断することになる」と話している。一方、Ganatra氏は、パクスロビドと患者に処方されている心疾患の治療薬の間で相互作用が起こり得る場合には、警告が表示されるよう電子医療システムをプログラムすることを提案している。
[2022年10月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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