犬は人間のストレスも嗅ぎ分けられる

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/10/21

 

 犬に鋭い嗅覚があることはよく知られているが、英クイーンズ大学ベルファストのClara Wilson氏らの研究から、犬は、人間が吐いた息や汗に含まれるストレスのにおいまで嗅ぎ分けられることが明らかになった。この研究結果は、「PLOS ONE」9月28日号に発表された。

 今回の研究の背景についてWilson氏は、「犬には驚くほど優れた嗅覚がある。これまでの研究でも、血糖値の変動など人間の体内の変化をにおいのみから検知する能力が犬に備わっていることが示されていた。しかし、心的経験に関わるにおいを検知する能力に関しては、ほとんど検討されてこなかった」と説明する。

 これまで、犬はがんやパーキンソン病、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を嗅ぎ分けられることが示されているが、Wilson氏らは今回、犬が音声や視覚的な手がかりではなく、においから人間の心理状態を検知できるのかどうかを調べた。

 研究には4頭の犬(平均年齢2.25歳)が参加した。4頭のうちの2頭は救助犬で、1頭はラーチャー、もう1頭はテリア、残る2頭は子犬の頃から同じ飼い主に育てられたコッカプーとコッカースパニエルだった。Wilson氏らは参加者36人に、ストレスを誘発する暗算の課題に取り組んでもらい、課題の前と課題終了後に参加者の汗と呼気のサンプルを採取した(ベースラインサンプル、ストレスサンプル)。また、参加者には自分のストレスレベルを自己評価してもらった。さらに、参加者の血圧と心拍の測定も行い、いずれも上昇していた場合のサンプルのみを研究に使用した。

 実験は、ベースラインサンプル、ストレスサンプルに加え、未使用のサンプル採取用のガーゼ(ブランクサンプル)を用いて、2つのフェーズからなるセッションを、4頭の犬で合計36回実施された。セッションは、フェーズ1で、参加者から採取したストレスサンプル1点とブランクサンプル2点を提示してストレスサンプルを検知できるかを10回観察し、次のフェーズ2で、同一の参加者から採取したストレスサンプルとベースラインサンプル、およびブランクサンプルを1点ずつ提示して、ストレスサンプルを検知できるかを20回試すという内容であった。

 実験室や現場では、犬は隠された爆弾のにおいを検知して知らせることができることが示されている。Wilson氏は、「今回の実験は、とてもよく似た複数のにおいサンプルから該当するものを選ぶという点で、爆弾検知などとは異なる」と話す。

 実験の結果、4頭の犬のストレスサンプル検知の正確度には、90.00%から96.88%までの幅があったが、2つのフェーズを組み合わせた正確度は93.75%であることが明らかになった。

 Wilson氏は今後の研究で、犬がストレスのにおいからどのような感情を認識するのかをテーマにする可能性を示唆している。また、今回の研究結果は、現在は視覚的な手がかりを使って訓練が行われている不安や心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者の介助犬にも活用できる可能性があるとしている。

 Wilson氏は、「この研究によって、“人間の最良の友”である犬に驚くべき能力があることを裏付けるエビデンスがまた増えることになった」と話す。そして、「犬がにおいだけを頼りに人間の何を理解できるのかを調べるというのは、今まさに進展しつつある研究領域である」と付け加えている。

[2022年9月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら