ブタの皮膚を用いた角膜インプラントで視力回復

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/09

 

 角膜の損傷により光を失った人の視力を、ブタが救ってくれるかもしれない。リンショーピング大学(スウェーデン)のNeil Lagali氏らが、ブタの皮膚から抽出したコラーゲンを用いたインプラントを作成し、ヒトを対象とするパイロット研究を行ったところ、良好な結果を得られたという。詳細は「Nature Biotechnology」に8月11日掲載された。

 角膜は眼球の最も外側に位置し、黒目に相当する部分を覆っているアーチ状の透明な組織。何らかの理由で角膜が傷ついたりアーチ状の形状が変化すると、網膜に光が届かなかったりピントが合わなかったりして視力が低下し、時には失明に至る。

 角膜は主にコラーゲンで構成されている。Lagali氏らは、豚の皮膚から抽出したコラーゲンを高度に精製した上で安定化させ、ヒトの眼に移植できる丈夫な透明のインプラントを作成。それを角膜疾患の患者20人に移植したところ、視力が改善した。移植前の患者の視機能は、全盲かそのリスクの高い状態だったという。研究者らは、「このインプラントは、角膜の外傷や疾患で失われた視力を回復するための画期的な手段になる可能性がある」と述べている。

 世界中で推定1270万人が角膜疾患のために視力を失っており、そのような人たちの視機能を回復させ得る唯一の方法は、ヒトのドナーからの角膜移植だ。しかしドナーからの角膜供給は少なく、70人に1人しか必要な移植を受けることができない。Lagali氏は、「われわれは、需要と供給のギャップを満たすために、安価で十分な量のインプラントを作成可能な技術の確立を目指してきた。ブタの皮膚は畜産業の副産物として豊富に入手でき、また米食品医薬品局(FDA)は、ブタ由来の皮膚を治療に用いることを既に承認し臨床応用されている」と説明する。加えて、「角膜インプラント作成に利用されるブタは一切、遺伝子操作をされていない」と話している。

 Lagali氏によると、このインプラントにはコラーゲン以外の生体物質を用いていないため、ヒトのドナーからの角膜移植よりも、拒絶反応がはるかに少ないという。さらに、角膜全層を移植するのではなく、薄く変化している部分のみに用いることで、侵襲性を最小限に抑えた使い方が可能とのことだ。「ドナーの角膜を用いた全層移植では、移植後に少なくとも1年は免疫抑制薬の点眼が必要だ。しかしわれわれのインプラントの部分移植であれば点眼は8週間のみで済み、縫合も要さないため1回の受診で治療が完結する」と同氏は語っている。

 Lagali氏らのパイロット研究は、イランとインドの円錐角膜の患者20人に対して実施された。研究の主目的は安全性の確認であったが、得られた結果は研究者を驚かせるものだった。手術前、20人中14人が全盲だったが、術後2年時点で盲に該当する患者はおらず、3人は1.0という完全な視力に回復していた。しかも2年間の追跡期間中に合併症は発生せず、角膜厚は維持されていた。Lagali氏によると、「以前に作成した、今回用いたインプラントよりも脆弱な素材でも、角膜内に少なくとも10年間は定着することが示されている。残っている角膜組織から新たなコラーゲンも生成されるため、長期的には角膜の再生も促されるのではないか」とのことだ。

 メリットはこれらばかりでない。ドナーから摘出された角膜は2週間以内に移植する必要があるが、このインプラントは最大2年間保管可能だ。「今後は、より多くの患者を対象とした無作為化比較試験を計画している。そこで有用性が確認できたら、その次は承認申請だ」とLagali氏は展望を語る。

 米ワイルコーネル医科大学の眼科医で米国眼科学会のスポークスパーソンであるChristopher Starr氏は、本研究を「非常に有望」と評価。その上で、「円錐角膜などの角膜疾患のケアに当たる専門医の一人として、この論文で示された結果に興奮しており、この技術がFDAによって承認されることを願っている」と述べている。

 なお、本パイロット研究は、スウェーデンのLinkoCare Life Sciences社が資金を提供して行われた。

[2022年8月11日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら