ブタに蔓延するスーパー耐性菌、ヒトに広がる可能性も

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/27

 

 抗菌薬では死滅しないスーパー耐性菌のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)CC398(以下、CC398)は、ブタを中心とするヨーロッパの家畜の間に50年以上にわたって安定して存在しているとする研究結果が、英ウェルカム・サンガー研究所のGemma Murray氏らにより報告された。CC398の出現の背景には、農場での抗菌薬使用の普及が考えられるという。研究グループらは、このCC398が耐性を保持したままヒトに広がる可能性があるとして、警鐘を鳴らしている。研究結果の詳細は、「eLife」に6月28日掲載された。

 CC398は、ヨーロッパではブタやその他の家畜におけるMRSAの主要なタイプであり、特にブタとの関連性が強い。その好例はデンマークの養豚場で、CC398を保菌するブタの割合が、2008年の5%から2018年には90%にまで増加している。ただし、CC398陽性のブタでも、病気になることはないという。また、CC398を原因とするヒトMRSA感染症の報告例も増加しつつある。

 Murray氏らは今回の研究で、27年にわたり家畜とヒトから収集した1,180個のCC398サンプルのゲノムを用いて、MRSAに抗菌薬に対する耐性を付与する2つの特定の可動遺伝因子(Tn916とSCCmec)の進化の歴史について調べた。可動遺伝因子とは、ゲノム中、あるいは他のゲノムなどに移動できるDNA配列のこと。

 その結果、これらの可動遺伝因子は数十年にわたってブタのCC398の中で安定して存在し続けていることが明らかになった。このうち、テトラサイクリン耐性遺伝子を有するTn916は、CC398が出現した当初から約57年にわたって存続していることが示唆された。一方、SCCmecについては、メチシリン、テトラサイクリン、および金属耐性の遺伝子を有するSCCmec V型が35年前から存在していることが分かった。

 これとは対照的に、CC398がヒトの免疫系を回避することを可能にするφSa3と呼ばれる第3の可動遺伝因子は、ヒト関連および家畜関連のCC398の双方で、時間の経過とともに頻繁に消失と出現を繰り返していることが明らかになった。これは、CC398がヒト宿主に迅速に適応できることを示唆している。

 Murray氏は、「養豚場での抗菌薬の過剰使用により、MRSAが抗菌薬に対する極めて高い耐性を獲得するように進化した可能性がある。われわれの研究からは、この家畜関連MRSAの抗菌薬に対する耐性は、高い安定性を持ったまま数十年にわたって維持されていること、また、この細菌がさまざまな家畜種に広がっていることが確認された」と話す。

 ヨーロッパでは、農場での抗菌薬の使用が以前よりは控えられるようになった。しかし、研究グループは、CC398の安定性の高さを考えると、使用制限の継続がもたらす影響は限定的なものにとどまる可能性が高いと見ている。研究論文の上席著者である英ケンブリッジ大学獣医学分野のLucy A. Weinert氏は、「ヨーロッパでCC398がいかにして生まれ、家畜の間で広まり、ヒトに感染するまでになったのかを理解することは、公衆衛生上のリスクを管理する上で非常に重要だ」と強調する。

 Weinert氏はさらに、「ヒトにおける家畜関連MRSA感染症の症例は、現状ではヒトにおけるあらゆるMRSA感染症症例のほんの一部を占めるに過ぎない。しかし、症例が増加しつつあるという事実は危惧すべき兆候だ」と危機感を示す。なお、世界保健機関(WHO)は、MRSAなどの耐性菌を人間の健康に対する最大の脅威の一つとみなしている。

[2022年6月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら