医師の性別や人種に関する先入観が治療効果に影響する可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/25

 

 医師の性別や人種に関する患者側の先入観が、治療中の身体の反応に影響をもたらすのではないかとする研究結果が報告された。白人患者では、本人が女性医師や非白人医師の能力を高く評価しているにもかかわらず、それらの医師に治療された場合、治療効果が減弱する可能性があるという。チューリッヒ大学(スイス)経営学部のLauren Howe氏らの研究によるもので、詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に6月27日掲載された。

 Howe氏らの研究は、「健康行動に関する研究への参加の適格性を判断するスクリーニング」という趣旨での被験者募集に参加した、187人の白人(平均年齢35.06±18.82歳、女性64.2%)を対象に行われた。この被験者に対して、性別や人種の異なる13人の「医師」(白人男性、同女性、黒人男性、同女性、アジア人女性が各2人とアジア人男性が3人で、平均年齢27.22±2.19歳)から無作為に選ばれた1人が対応。まず、被験者の皮膚にヒスタミンを滴下してアレルギー反応を起こした後、「かゆみを軽減する薬を用いる」と伝えた上で、「抗ヒスタミン薬」を塗布した。ただし、「医師」は本当の医師ではなく、研究目的を知らされていない医学生か看護学生であり、被験者はそのことを知らされていなかった。さらに、塗布したのは「抗ヒスタミン薬」ではなく、アレルギーに対する効果のないハンドクリームだった。

 ヒスタミン滴下から15分間(ハンドクリーム塗布から9分間)にわたり、膨疹の大きさを計5回測定した。その測定は、被験者がどの医師(実際は学生。以下同様)の治療を受けたかを知らされていない研究助手が担当した。

 その結果、女性医師の治療を受けた患者は男性医師に治療された患者より、膨疹のサイズが有意に大きく変化していた。同様に、黒人医師の治療を受けた患者は白人医師に治療された患者より、膨疹のサイズが有意に大きく変化していた。アジア人医師と白人医師では、被験者の膨疹サイズの推移に有意差がなかった。まとめると、米国における医師像のステレオタイプである白人男性の治療を受けた時に、最も良好な反応が認められた。

 被験者の持つそのようなステレオタイプが結果に影響を及ぼした可能性を検討するため、Howe氏らは被験者に対して、自分の治療に当たった医師の印象を評価してもらうという調査を行った。その結果、被験者は男性医師より女性医師を、また、白人の医師より非白人の医師を好意的に受け入れ、かつ高く評価していたことが分かった。つまり、被験者が「女性医師や非白人医師の能力は高くない」と考えているとは言えないと判断された。これらの結果を基にHowe氏は、より根の深い問題が存在する可能性を指摘している。

 なお、Howe氏は、「かつては確かに米国の医師の大半が白人男性であったが、状況は大きく変化している」と述べている。具体的には、医学部への志願者は現在、女性と男性が拮抗しており、年によっては女性の方が多く、白人と非白人の割合も同レベルに近づいている。現役の医師で見ても、性別では女性が36%、人種別ではアジア人が12%、黒人が4%を占めている。

 一方、本研究には関与していない、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のAndrea Roberts氏は、「医療における性別と人種の先入観の影響に関しては、これまで多くの研究が行われてきた」としている。その上でHowe氏らの報告については、「白人患者の持つ先入観と患者の予後との関連というテーマでの研究において、決定的なデータとはなり得ない」と話している。Roberts氏らの研究グループが行った同様の研究では、女性や黒人の医療従事者の治療を受けた患者でネガティブな影響は認められなかったとのことだ。そして、「今回の研究報告は、研究者の推測の占める割合が大きい」と評している。

[2022年6月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら