短期間のテストステロン補充療法は心血管イベントを増やさない

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/06

 

 短期間のテストステロン補充療法では、心血管イベントのリスクが有意に上昇することはないとする論文が発表された。英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のChanna Jayasena氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、米国内分泌学会(ENDO 2022、6月11~14日、アトランタ)で発表されるとともに、「The Lancet Healthy Longevity」6月号に掲載された。

 男性更年期障害とも呼ばれる加齢性腺機能低下症に対して、男性ホルモンのテストステロンを補充する治療法が行われることがある。ただしこの治療は、ヘマトクリット〔血液中の血球成分(大半は赤血球)が占める割合〕の上昇を伴いやすく、血栓ができやすくなる可能性が指摘されている。しかし、それによる心血管イベントや死亡リスクへの影響の有無はよく分かっていない。この疑問解明の手がかりを探るため、Jayasena氏らはこれまでの無作為化比較試験(RCT)の結果を統合して解析する、システマティックレビューとメタ解析という手法による検討を行った。

 文献検索の結果、35件のRCTが抽出された。それらの研究参加者数は合計5,601人で、平均年齢は65±11歳だった。35件中17件の研究(49%)については、それぞれの報告者から研究参加者の生データ(IPD)を入手でき、その参加者数は3,431人、追跡期間は平均9.5カ月だった。

 解析の結果、追跡期間中の死亡はプラセボ群よりテストステロン群で少なかったが、群間差は有意でなかった〔オッズ比(OR)0.46(95%信頼区間0.17~1.24)、P=0.13〕。また、心血管イベントの発生率もプラセボ群との間に有意差がなかった〔OR1.07(同0.81~1.42)、P=0.62〕。同様に、不整脈や冠動脈性心疾患、心筋梗塞、心不全などのリスクの群間差も非有意だった。

 副次的に評価されたヘマトクリット〔平均差3.15%(2.42~3.88)〕やヘモグロビン〔同10.87mg/dL(8.19~13.55)〕は、テストステロン群の方が有意に高かった。反対に、総コレステロール〔同-5.8mg/dL(-7.7~-3.9)〕、HDL(善玉)コレステロール〔同-2.3mg/dL(-3.1~-1.5)〕、トリグリセライド〔同-8.0mg/dL(-15.9~-0.0)〕は、テストステロン群の方が有意に低かった。LDL(悪玉)コレステロールや血圧、血糖値、前立腺がんの発症は、有意差がなかった。このほか、生活の質(QOL)や性機能については、テストステロン投与のプラスの影響を報告している研究と、否定的な結果を報告した研究が混在していた。

 Jayasena氏は、「これらのデータは、加齢性腺機能低下症の男性と、その治療に当たる臨床医に対して、短期的または中期的なテストステロン補充療法の安全性に関する、ある程度の安心感を与えるものと言える。ただし、長期的な安全性を評価するデータは不足している。テストステロン補充療法に関する安全性のより完全な理解のために、長期にわたる研究が欠かせない」と述べている。なお、同氏によると、テストステロン補充療法を巡っては、「世界中の研究者が安全性向上のため、臨床試験のデータの共有に努めている」とのことだ。

[2022年6月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら