テレビ視聴1日1時間未満なら心臓病になりにくい?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/04

 

 テレビの連続ドラマの一気見を始めたのに、1回か2回のエピソードで見るのを中断するのは難しいかもしれない。しかし、そうするだけの価値はあるようだ。テレビ視聴時間が1日1時間未満の人は1日4時間以上見る人よりも、冠動脈性心疾患(CHD)リスクが16%低いというデータが報告された。香港大学のYoungwon Kim氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Medicine」に5月24日掲載された。

 座位行動の時間の長さがCHDリスクの高さと関連することは既に知られている。Kim氏らの研究ではより具体的に、テレビの視聴時間とパソコンの操作時間に的を絞って、CHDリスクとの関連を検討した。また、CHDのなりやすさを表す遺伝的背景と、テレビ視聴やパソコン操作の時間の長さとの関連の有無を検討した。

 解析には英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」から、CHDおよび脳卒中の既往のない37万3,026人のデータを用いた。テレビ視聴時間とパソコン操作時間はアンケートを通じて把握され、遺伝的背景については、CHD発症に影響を与えることが知られている300の遺伝子変異をスコア化して評価した。

 中央値12.6年の追跡で9,185件のCHDの発症が記録されていた。遺伝的リスクスコアを含む交絡因子を調整後の比較で、テレビ視聴時間が短いほどCHDリスクの低いことが分かった。具体的には、テレビ視聴時間が1日に4時間以上の群を基準として、視聴時間2〜3時間の群は6%リスクが低く〔ハザード比(HR)0.94(95%信頼区間0.90~0.99)〕、視聴時間1時間以下の群は16%低リスクだった〔HR0.84(同0.79~0.90)〕。

 遺伝的リスクスコアが高い群は低い群よりも、実際にCHDリスクの高いことが確認された。しかし、遺伝的リスクスコアが高い群であってもテレビ視聴時間が短ければCHDリスクは低い傾向にあった。一方、パソコンの操作時間の長短は、CHDリスクに有意な影響を及ぼしていなかった。また、遺伝的リスクスコアと、テレビ視聴時間(P=0.362)、およびパソコン操作時間(P=0.418)との間には、有意な関連が認められなかった。

 この結果についてKim氏は、「テレビの視聴時間を制限することがCHDの予防につながる可能性を示す、強力なエビデンスと言える」と総括。また「テレビの視聴時間を減らす努力とともに、長時間の視聴の際には間に中断をはさみ、軽い運動をすると良いのではないか」とアドバイスしている。

 今回の研究では、パソコンの操作時間の長さはCHDリスクと関連が認められなかった。テレビとパソコンで影響が異なる理由について著者らは、それらを使用する時間帯の違いが関係している可能性を挙げている。つまり、テレビは一般に1日で最も高カロリーの食事である夕食後に視聴されやすく、体を動かさないことによって血糖値と血清脂質値の高い状態が長時間続くと考えられるという。また、「テレビ視聴時はパソコン操作時よりも菓子をつまんだりしがちなのではないか」とも指摘している。

 この研究報告に対して、マギル大学(カナダ)家庭医学部准教授で米国心臓協会(AHA)のボランティアであるTracie Barnett氏は、「CHDの遺伝的リスクを無視することはできないが、修正可能なリスク因子、つまりテレビの視聴時間を減らすことの重要性を示唆する研究と言える」と評価。その上で、「座位行動主体の生活では、屋外で過ごす時間の短縮や社会的交流の減少など、健康に有益な行動が少なくなりがちだ」と、CHDリスクへの影響が複合的なものである可能性も指摘している。

 米疾病対策センター(CDC)によると、米国では1年に約65万9,000人が心臓病で死亡し、CHDは心臓病による死亡の最も多い原因であり、2019年には36万900人がCHDで亡くなったという。一方、米労働統計局の2013~2017年の統計では、15歳以上の米国人の1日のテレビ視聴時間は平均2時間46分と報告されており、テレビ視聴は「アメリカ人お気に入りの娯楽」とも呼ばれている。

[2022年5月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら

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