複数の精神疾患に共通する遺伝的構造を発見

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/06/16

 

 1種類の精神疾患の診断を受けた人の半数以上は、後に2種類目や3種類目の精神疾患の診断を受けるが、その理由の説明となり得る研究結果が報告された。同研究によると、対象とした11種類の精神疾患全てに共通する遺伝子というものは存在しないものの、双極性障害と統合失調症、あるいは神経性無食欲症と脅迫性障害など、一部の精神疾患は共通の遺伝的構造を持つことが明らかになったという。米コロラド大学ボルダー校心理学・神経科学分野のAndrew Grotzinger氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Genetics」に5月5日掲載された。

 Grotzinger氏らは、UKバイオバンクや米23andMeなどの大規模なデータセットが保有する、何十万人もの人々の遺伝子に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)データの解析を行い、11種類の主要な精神疾患と関連する遺伝子について検討した。11種類の精神疾患とは、統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害、不安障害、神経性無食欲症、強迫性障害、トゥレット症候群、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、問題のあるアルコール使用、注意欠如/多動性障害、および自閉症である。また、身体活動を追跡するウェアラブルデバイスにより集められたデータや、身体および行動特性に関する調査データも考慮した。その上で、新しい統計遺伝的手法を用いて、精神疾患間で共通する遺伝子パターンの特定を試みた。

 その結果、統合失調症に関連する遺伝的シグナルの70%は双極性障害にも関連していた。研究グループは、「現在の診断ガイドラインでは、統合失調症と双極性障害が同時に診断されることはないので、この結果は驚きだった」と述べている。また、神経性無食欲症と強迫性障害については、多数の遺伝的構造を共有しており、小さめの体格や低BMIの遺伝的素因を持つ人では、これらの精神疾患の遺伝的素因を持つ傾向があることも分かった。さらに、不安障害と大うつ病性障害についても、多くの遺伝的構造を共有していることが示された。

 ウェアラブルデバイスのデータを分析したところ、共通の遺伝的構造を持つ精神疾患のグループは、日中のどの時間帯にどのように活動するかに影響を及ぼす遺伝子も共有していた。例えば、内在化障害(不安、うつ病)を持つ人では、日中の活動量の少なさに関わる遺伝的構造を持っている確率が高かった。それに対して、強迫性の障害(強迫性障害、神経性無食欲症)を持つ人では、日中の活動量の多さと関わる遺伝子を、精神病性障害(統合失調症、双極性障害)を持つ人では、早朝の時間帯の過剰な活動に関わる遺伝子と関連する確率が高かった。最終的に本研究では、既知のものも含め、複数の精神疾患に共通する152の遺伝子座を特定できたという。

 Grotzinger氏は、「いくつかの精神疾患が高確率で併存する理由の一部は、遺伝的リスクが生じる経路が共通しているためだ。この研究結果は、そのことを裏付けるものだ」と述べている。

 その上でGrotzinger氏は、「今回の研究で特定された遺伝子変異が及ぼす影響を正確に把握するには、さらに多くの研究が必要だ」と述べる。また、「今回の研究結果は、1つの治療で複数の精神疾患に対処できる治療法の開発に向けた足掛かりとなるものだ」との見方を示している。

[2022年5月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら