健康的な植物性食品により糖尿病リスク低下―メタボロミクス解析

生体内の代謝産物を網羅的に解析する、メタボロミクスという手法による研究から、健康的な植物性食品ベースの食事スタイルが糖尿病発症リスクを抑制することが明らかになった。米ハーバードT. H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏らによる研究で、詳細は「Diabetologia」に4月8日掲載された。
これまでの疫学研究から、健康的とされる植物性食品主体の食生活が、2型糖尿病発症リスクの低さと関連することが示されている。ただし、食習慣を反映すると考えられる血液中の代謝産物プロファイルから、その関係を解析した研究はまだ十分に行われていない。Hu氏らは、米国で行われている3件の大規模疫学研究のデータを統合し、この点を検討した。
解析に用いた3件の研究とは、女性看護師対象の疫学調査「Nurses' Health Study(NHS)」、および「NHS II」と、男性医療従事者対象の疫学調査「Health Professionals Follow-up Study(HPFS)」という前向きコホート研究。解析対象者数は合計1万684人で、大半が白人であり、平均年齢は54歳。平均BMIは25.6で過体重(日本の基準では肥満)に該当する値だった。
追跡期間中に2型糖尿病を発症した群は非発症群に比べて、平均BMIが高く、身体活動量が少なく、糖尿病の家族歴のある割合が高かった。また、高血圧と高コレステロール血症の有病率が高く、それらに対する薬剤が処方されている割合も高かった。そして、健康的とされる植物性食品の摂取量の少ない食生活を送っていた。
健康的な植物性食品とは、全粒穀物や野菜、果物、ナッツ、コーヒー/紅茶、植物油、豆類など。対して不健康とされる植物性食品には、精製穀物、フルーツジュース、ジャガイモ、加糖飲料、デザートなどが該当する。Hu氏は、「われわれの研究結果は、糖尿病予防において、健康的な植物性食品ベースの食事が重要であることを支持しており、今後の研究に向けて新たな視点を提供するものだ」と述べている。
研究の参加者は、食事摂取頻度調査票に回答。また採血検査を受け、血液中の代謝産物が解析された。食習慣については、全般的な植物性食品ベースの食事指数(PDI)、健康的な植物性食品ベースの食事指数(hPDI)、および不健康な植物性食品ベースの食事指数(uPDI)という3つの指標で評価。PDIでは55種類、hPDIでは93種類、uPDIでは75種類の代謝産物からなるプロファイルが特定された。
これらの代謝産物に基づくプロファイルスコアは全て、PDI、hPDI、uPDIのスコアと有意に相関していた(PDIはr=0.33~0.35、hPDIはr=0.41~0.45、uPDIはr=0.37~0.38、いずれもP<0.001)。また、PDIスコアについては、1標準偏差高いごとに2型糖尿病発症リスクが19%低下することが分かった〔ハザード比(HR)0.81(95%信頼区間0.75~0.88)〕。同様にhPDIスコアは、1標準偏差高いごとに23%低リスクだった〔HR0.77(同0.71~0.84)〕。PDIやhPDIに関連している代謝産物プロファイルによって、2型糖尿病発症リスクの8.5~37.2%を説明可能と計算された。なお、uPDIは2型糖尿病発症リスクとの間に有意な関連がなかった。
一連の結果を基にHu氏は、「本研究は食事パターンとしての分析であるため、個々の食品が2型糖尿病発症リスクに及ぼす影響を評価することは難しい。大まかにいえば、果物、野菜、コーヒー、マメ科植物などのポリフェノールが豊富な植物性食品とその代謝産物は、2型糖尿病発症リスクの低下と関連していると言える」と解説。その上で、「植物性食品ベースの食事と2型糖尿病発症リスクとの関連における代謝産物のかかわりの理解を深めるために、さらなる研究が必要」と述べている。
世界の成人2型糖尿病患者数は、2000年時点では1億5000万人だったが2019年には4億5000万人以上となり、過去20年足らずで3倍に増加した。また、2045年までに7億人に増えると予測されている。2型糖尿病は、心臓病などの合併症を引き起こし、腎臓、眼、神経系にダメージを与える。2型糖尿病の発症には、遺伝的背景のほかに食事・身体活動習慣が関与している。食事に関しては植物性食品ベースの食事スタイルが発症リスクを抑えることが知られているものの、そのメカニズムは完全には解明されていない。
[2022年4月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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