脳への埋め込み型デバイスによるてんかん治療、小児にも有効な可能性

重度のてんかんを有する成人患者の治療法の1つに、脳に埋め込んだデバイスでてんかん発作を抑える発作反応型脳刺激療法(RNS)と呼ばれるものがある。この治療法が、難治性のてんかん発作に苦しむ小児にも有効である可能性を示した研究結果がこのほど明らかになった。研究は米ラトガース・ロバート・ウッド・ジョンソン医科大学のYasunori Nagahama氏らが実施したもので、「Neurosurgery」12月号に発表された。
てんかん発作に悩まされている患者のうち、薬物治療が奏効しない人の割合は最大で40%に上ると見られている。非薬物治療の選択肢の一つとなっているRNSは、脳波の活動をモニタリングし、発作活動あるいは発作の引き金となり得る異常な電気活動を検知した際に弱い電気刺激を加えることで脳波を正常な状態に戻すという治療法だ。
RNSは、米国では既に薬物治療に抵抗性を示す成人のてんかん患者に対する治療法として、米食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。しかし、小児に対するRNSの安全性と有効性について検討した研究は少ない。Nagahama氏は、「RNSの使用を小児にも広げる際には、どのように下限年齢を見極めるかが重要だ」と話す。同氏は、「RNSでは、頭蓋骨の一部を切除して頭蓋内にデバイスを埋め込む。小児の頭蓋は生後2年間に急速に発達し、8歳頃までに成人の約90%のサイズになる。そのため、患者ごとに異なる頭蓋の発達を考慮した上でRNS施行の有益性と有害性を評価すべきである」と説明する。
Nagahama氏らは今回、薬物治療に抵抗性を示し、RNSが施行された3~25歳の難治性てんかん患者35人のデータを調べた。35人中17人は、RNS施行時に18歳未満だった。平均で1.7年(中央値1.8年)にわたる追跡調査の結果、治療を継続できた32人のうち、2人(6%)でてんかん発作が完全に消失したほか、4人(13%)ではRNS施行前と比べて発作回数が90%以上、13人(41%)では50%以上減少したことが明らかになった。これに対して、5人(16%)では全く改善が認められなかった。
Nagahama氏は、「この研究結果から、RNSが慎重に選択された薬物治療抵抗性の小児てんかん患者に対する有効な適応外の外科的治療となることが示された」と説明。また、「最も大きなベネフィットが得られる患者の特徴を明らかにするため、より長期の有効性と安全性を評価する研究を実施する必要がある」と述べている。
このように、今回の研究ではポジティブな結果が示されたが、この研究には関与していない専門家からは、RNSのリスクを指摘する声が上がっている。その一人で米メイヨー・クリニックの小児てんかん専門医であるKeith Starnes氏は、「RNSのデバイスは頭蓋内に埋め込まれる。そのため、頭蓋の発達途上にある低年齢児では、それに関連した合併症のリスクがあるかもしれない」と指摘。「小児患者の頭蓋骨の発達や骨の厚みを個々に考慮し、合併症の可能性とRNSによる神経変調のベネフィットのバランスを評価すべき」との見解を示している。また、現行のRNSデバイスのバッテリーの持続期間が約5~9年であるため、小児に埋め込んだ場合、バッテリーを再留置するための手術が大人よりも複数回多くなることも留意すべき点として挙げている。
一方、米モンテフィオーレ医療センターの小児てんかん専門医であるAparna Polavarapu氏は、RNSについて、「定期的な血液検査を要することもある治療薬を毎日服用する必要がなく、モニタリングの必要な全身性の副作用や薬物相互作用の心配もない新たなてんかんの治療法となり得る」と期待を示している。
[2022年1月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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