全ての変異株に有効なコロナワクチン開発に向け前進

米陸軍はこのほど、オミクロン株を含む全ての新型コロナウイルス変異株に有効なワクチン開発に向けた研究が前進したことを報告した。このワクチンはスパイクフェリチンナノ粒子(SpFN)をベースにしたもので、新型コロナウイルス野生株の感染を予防するだけでなく、主要な変異株に対しても極めて強力な抗体産生を誘導することが、サルを用いた研究で確認された。この研究の詳細は、「Science Translational Medicine」に12月16日掲載された。なお、同ワクチンについては、2021年4月より72人を対象に第I相試験が開始されており、その結果の発表が待たれている。
SpFNワクチンの開発グループの一人で、米ウォルター・リード陸軍研究所のKayvon Modjarrad氏は、「さまざまなコロナウイルス株やウイルス種に対して安全で有効、かつ持続的な予防効果が得られる“汎コロナウイルス”ワクチン技術を開発する、というのがわれわれの計画だった」と説明する。米軍事防衛ニュース専門サイト「Defense One」によると、SpFNワクチンは、24個のサブユニットから構成された、サッカーボールのような外形のフェリチンと呼ばれるタンパク質を利用している。各サブユニットが新型コロナウイルスの各変異株由来のさまざまなスパイクタンパク質を認識することができるため、新型コロナウイルスに対して幅広い免疫反応が引き起こされるのだという。
サルを用いた動物実験では、高用量(50μg)のSpFNワクチンを28日の間隔を空けて2回接種したところ、Th1バイアス型CD4陽性ヘルパーT細胞の応答と、新型コロナウイルス野生株と懸念される変異株、ならびにSARSコロナウイルスに対する中和抗体が誘導されたことが確認された。
このニュースは、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のAnthony Fauci氏らがコロナウイルスに対するユニバーサルワクチンの開発を目指した新たな研究を呼び掛ける論評を、「The New England Journal of Medicine」に発表した直後に明らかになった。Fauci氏らはこの論評で、2000年代前半に2回にわたって流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012年に出現したMERS(中東呼吸器症候群)、そしてこれまでに80万人以上の米国人を死に追いやった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、致死性のあるコロナウイルスの流行が過去20年間に4回も起こったことを指摘している。
この論評の筆頭著者でNIAIDのDavid Morens氏は、米陸軍のワクチン開発について、「さまざまな新型コロナウイルスの変異株由来のスパイクタンパク質の複数の部位を標的とすることで、ユニバーサルワクチンを作り出そうとする試みの一つである」と説明。「ただし、ユニバーサルワクチンは、ウイルスの一部分を成すスパイクタンパク質だけでなく、ウイルス全体に対する免疫反応を引き起こす働きを持つことが望ましい」と付け加えている。
その最も重要なターゲットの候補として米感染症財団のWilliam Schaffner氏が挙げているのは、ある領域が変異しても、変異せず同じ状態が維持されるウイルスの保存領域である。「全てのウイルスに共通する部分を探し、その部位を標的とした免疫システムを作り出すことができれば、多くの感染症を予防できる」と同氏は言う。一方Morens氏は、「複数回のワクチン接種について検討したり、ワクチンに対するより強力な免疫反応を促す物質を作り出したりすることも、ユニバーサルワクチンに関する研究で必要になる可能性がある」との見方を示している。
ただSchaffner氏によると、ユニバーサルワクチンに限らず、新型コロナウイルスなどの呼吸器感染症を引き起こすウイルスと戦うワクチンを作るのは容易ではないという。同氏は、「理想としては、ウイルスが体内に足がかりを得るのを防ぎたい。しかし、ウイルスは体内に入ると呼吸器系の細胞に侵入し、鼻や喉の粘膜に存在する細胞に感染し始める。この段階で、血流で循環している抗体が直ちに粘膜の細胞に感染したウイルスにたどり着くのは難しい」と説明している。
[2021年12月22日/HealthDayNews]Copyright (c) 2021 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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