COVID-19にラマの抗体が有効か

ラマ由来の小さな抗体「ナノボディ」が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の選択肢に加わる日が来る可能性を示した研究結果が、「Nature Communication」に9月22日に発表された。研究グループは、新型コロナウイルスに強力に結合して中和するこの抗体は、最終的にはラボで作製して点鼻スプレーで投与できるようになると見ている。
抗体、すなわち免疫グロブリンは、一般に重鎖と軽鎖から成る。両鎖の先端部分は可変領域と呼ばれ、さまざまな抗原と結合できる。ラマやアルパカなどのラクダ科の動物は、重鎖のみでできた免疫グロブリンを産生でき、その重鎖の可変領域をナノボディと呼ぶ。
研究論文の責任著者で、英ロザリンド・フランクリン研究所のRaymond Owens氏らは今回、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部である受容体結合ドメイン(RBD)をフィフィという名のラマに注射した。スパイクタンパク質はウイルス表面に存在するタンパク質の一種で、ウイルスはこのタンパク質を介して細胞に侵入する。この注射により、フィフィの体内で免疫システムが作動し、新型コロナウイルスと戦うためのナノボディが産生された。
次に同氏らは、フィフィから少量の血液検体を採取し、遺伝子クローニングなどを用いて、新型コロナウイルスの細胞内への侵入を阻止できる4種類のナノボディを同定した。さらに、ウイルスへの結合力を高めるために、これらのナノボディを3本鎖構造(トリマー)とした。
ナノボディの立体構造解析やナノボディと新型コロナウイルスのRBDとの反応解析などを通じて、これらのナノボディは、C5とH3、C1とF2とで結合するウイルスのRBD部位が異なることが明らかになった。また、3種類のナノボディトリマー(C5、H3、C1)は、新型コロナウイルスの従来株や感染力の強い英国由来のアルファ株を中和し、C1は南アフリカ由来のベータ株も中和することが確認された。
さらにOwens氏らは、新型コロナウイルスに感染したハムスターにナノボディ(C5)を投与した。その結果、ナノボディが投与されなかったハムスターと比べて投与されたハムスターでは、7日後には疾患の改善や体重減少の抑制が認められ、肺や気道におけるウイルス量の減少も確認された。
このような動物を用いた研究の結果が人間にも当てはまるとは限らない。それでも同研究所の所長であるJames Naismith氏は、「われわれはナノボディの全ての原子がスパイクタンパク質に結合したことを確認している。このことは、ナノボディがいかに特別なものであるのかをよく表している」と話す。
研究グループは、ラマ由来の抗体を使ったこの製剤による治療は、COVID-19から回復した人の抗体を使う治療よりも簡便なものとなりそうだとの見方を示す。なぜなら、ヒト由来の抗体を使う場合は通常、病院での点滴投与が必要となるからだ。
Owens氏は、「ヒト由来の抗体と比べると、ナノボディには多くの利点がある。例えば、製造コストがより安価だ。また、自宅で吸入器や点鼻スプレーによって気道に自己投与できる」と話している。また、Naismith氏によると、ナノボディは製造が容易で冷却保存の必要性もないため、世界中でナノボディを用いた治療を行える可能性があるという。
一方、英国公衆衛生庁(PHE)はこの研究について、「COVID-19の予防と治療の両面で大きな可能性を秘めた成果が得られた」と評価するとともに、「ナノボディは、これまでに検証されてきた新型コロナウイルスを中和する物質の中で、最も有効性の高いものの一つだ」と期待を示している。
PHEの国立感染症サービスの副局長であるMiles Carroll氏は、「この研究はまだ初期段階のものではあるが、効果的なナノボディによるCOVID-19治療の導入への道を開いたものだといえる」との見方を示している。
[2021年9月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2021 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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