食品中の鉄分減少などによって貧血が増加している

赤肉の摂取を控える人の増加と、食品に含まれている鉄分の減少とによって、鉄欠乏性貧血の有病率が上昇しているとする米国での研究結果が報告された。米パデュー大学のConnie Weaver氏と米ライダー大学のHongbing Sun氏の研究によるもので、詳細は「The Journal of Nutrition」7月号に掲載された。この報告に対し、米ニュージャージー生物医学研究所のIan Griffin 氏とMarta Rogido氏は、「鉄欠乏は米国のような先進国においてさえ、依然として公衆衛生上の主要な問題である」との付随論評を寄せている。
鉄は、肺で取り入れた酸素を全身に運ぶ赤血球の成分であるヘモグロビンを作るのに必要。米国立心肺血液研究所(NHLBI)によると、鉄不足により貧血になると、倦怠感やめまい、脱力感が生じたり、皮膚が蒼白になることがあり、治療せずに放置した場合には、心不全などの重大な健康問題を引き起こすこともある。
Weaver氏らはこの研究に、3件の米国政府ビッグデータを用いた。1つは国民健康栄養調査(NHANES)で、米国人の平均的な鉄摂取量、血清鉄濃度、ヘモグロビン値などの変化を解析。疾病対策センター(CDC)のデータからは、鉄欠乏性貧血関連死の死亡率の推移を把握。さらに農務省(USDA)のデータから、食品中の鉄濃度の経時的変化を調査した。これら3件のデータを解析した結果、以下の事実が明らかになった。
まず、1999年から2018年の間に、豚肉、鶏肉、果物、野菜、トウモロコシ、豆類などの千品目以上の食品のうち、62.4%の食品で鉄濃度が低下していた。この間、牛肉(吸収の良いヘム鉄が比較的多い)の摂取量は15.3%減少し、鶏肉の摂取量が21.5%増加していた。それらの結果として、鉄摂取量は男性で約6.6%、女性では約9.5%減少していた。
貧血の推定有病率は、年齢と性別により10.5~106%の範囲で増加していた。それとともに、鉄欠乏性貧血関連死の年齢調整死亡率は、10万人あたり約0.04人から約0.08人に上昇していた。その一方で、鉄欠乏性貧血以外の貧血(再生不良性貧血など)を含む全貧血の関連死は、25%以上低下していた。
食品に含まれる鉄の量が減少していることについて、Weaver氏らは既報を基に、「単位面積当たりの収穫が増えたため、農作物の栄養素が少なくなったのではないか」との考察を加えている。収穫を増やすために水の使用量を増やしたことで、農作物が利用できる土壌中の鉄分が減った可能性があるとのことだ。この点に関しては、「ミネラル含有量の高い種子/系統を選択して作付けすることによって、食品中の鉄分を増やせるかもしれない」との対策を提案している。
この研究報告に関連し、米国内の病院グループであるモンテフィオーレ・ヘルスシステムのJessica Shapiro氏は、「鉄欠乏性貧血は近年、確実に増加している」と語る。同氏によると、鉄欠乏性貧血は血液検査で診断でき、通常はまず食事療法とサプリメントの摂取により、鉄レベルを本来の数値に高めるように治療するという。
「鉄にはヘムと非ヘムの2種類がある。ヘム鉄は赤肉などの動物性食品に多く含まれており、レンズ豆、ほうれん草、ナッツ、およびレーズンなどのドライフルーツといった植物性食品に多い非ヘム鉄よりも、体への吸収が良い。また、ビタミンCが豊富な柑橘系の果物は、植物性食品からの鉄の吸収を助ける働きがある」と解説する。
ただしShapiro氏は、「鉄は両刃の剣になる可能性がある」とし、少な過ぎると貧血を引き起こすが、多過ぎると鉄過剰症に陥り悪影響が現れることがあると述べている。
[2021年8月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2021 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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