新型コロナ変異株、現行ワクチンの有効性は?

急速な広がりを見せている新型コロナウイルスの変異株に対しては、従来型の新型コロナウイルスへの感染により、あるいはワクチン接種により得られた免疫が効かない可能性があるとする研究結果が、「Nature Medicine」に3月4日報告された。研究を行った米ワシントン大学医学部のMichael Diamond氏らは、「このことは、今後、新型コロナウイルス変異株が多数を占めるようになるにつれ、これまでに開発されたワクチンや抗体ベースの治療薬が効きにくくなる恐れがあることを意味するものだ」と危機感をあらわにしている。
新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質を利用して、細胞表面に結合して内部に侵入する。既感染者では、スパイクタンパク質に対する抗体が作られ、これによりその後のウイルス侵入がブロックされる。これまで米食品医薬品局(FDA)が承認した3種類の新型コロナウイルスワクチン(ファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬として開発が進められている中和抗体製剤(スパイクタンパク質に結合して、ウイルスの細胞内への侵入を防ぐ)は、このスパイクタンパク質を標的としている。
ウイルスは常に変異しているが、新型コロナウイルスの場合、この1年ほどの間は、スパイクタンパク質に的を絞った予防・治療戦略が、変異により脅かされることはなかった。ところが、2020〜2021年にかけての冬に入ると、主として英国、南アフリカおよびブラジルで変異株(それぞれ、英国型、南アフリカ型、ブラジル型変異株)が急速に広がり始めた。これらの変異株は、スパイクタンパク質をコードする遺伝子に複数の変異を持っているため、COVID-19の予防と治療に使われているワクチンや薬剤が、これらに対しても有効に働くのか懸念されている。
Diamond氏らは今回、新型コロナウイルス感染回復者またはファイザー社製ワクチン接種者の血液を用いて、3種類の変異株に対する抗体の中和能力を確かめた。
その結果、英国型変異株は、従来型の新型コロナウイルスの中和に必要とされるのと同程度の抗体量で中和できた。ところが、ブラジル型変異株と南アフリカ型変異株の中和には、従来型の新型コロナウイルスを中和できる抗体量の3.5〜10倍を必要とした。このような、抗体を弱める効果は、スパイクタンパク質のただ一個のアミノ酸の変異(E484K変異)によるものである。E484K変異は南アフリカ型とブラジル型の変異株で確認されているが、英国型変異株では確認されていない。あるワクチンを試験した際、南アフリカでは効果が弱かったのは、このことによるものと思われる。
Diamond氏は、「新型コロナウイルス既感染者、あるいはワクチン既接種者では、従来型の新型コロナウイルス感染を防御し得るレベルの抗体ができていると考えられる。しかし、これらの人々が持つ抗体では、変異株を防御できない可能性がある」と懸念を示している。そして、「ワクチン接種やウイルス感染に反応して産生される抗体の量には、個人間で大きなばらつきがある。非常に高いレベルの抗体が作られれば、変異株を防御できる可能性はある。しかし、特に高齢者や免疫不全者などでは、そのような高レベルの抗体を作ることはできないと思われる」と話している。
Diamond氏は、変異株がどのような結果をもたらすのかについては、はっきりとは分からないとしている。それでも同氏は、「抗体だけが防御手段ではない。ウイルスが抗体に対して強い耐性を持つようになったとしても、免疫システムが持っている、別のファクターで対抗できる可能性もある」と述べている。そして、「変異株の出現と拡散に対抗すべく、抗体が有効であるか確認するための検査をこれからも続け、ワクチンと抗体治療の戦略を修正していくのは、言うまでもないことだ」と話している。
[2021年3月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2021 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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