肺がんの予後に肺の細菌叢が関与か

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2020/12/15

 

 肺がん患者のうち、肺の中に特定の細菌を持っている人は、予後不良となるリスクが高いことを示唆する研究結果が明らかになった。がん患者の予後に体内の細菌叢が影響を及ぼす可能性を示唆する新たなエビデンスとなる結果である。米ニューヨーク大学グロスマン医学部のLeopoldo Segal氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer Discovery」に11月11日掲載された。

 細菌叢とは、体内に常在する多様な細菌などの微生物で構成された集団のことである。主に腸内細菌叢をターゲットにした近年の研究により、免疫系による防御機能をはじめ、身体のさまざまな機能における細菌叢の重要性が明らかにされつつある。こうした研究の中には、体内の細菌叢が、がんの進行やがん治療への反応に影響を与えている可能性を示唆するものもある。例えば、がん治療の一つである免疫療法が奏効した患者と奏効しなかった患者との間で、腸内細菌叢が異なっていたとの報告もある。

 こうした中、Segal氏らは、肺の細菌叢とがんの関係に着目するという、これまでとは違った角度からの解析を試みた。そのために、新規に肺がんと診断された83人の患者の上・下気道から生体試料を採取し、そこに含まれる細菌叢を分析した。同氏によると、昔から肺は「無菌」の状態だと考えられてきたため、これまでの細菌叢に関する研究では、肺の細菌叢は対象とされてこなかったという。しかし最近の研究では、健康な人でも肺にはわずかな量の細菌が常在することが示されている。

 分析の結果、がんが進行した患者(ステージIIIb~ステージIV)は、がんがまだ早期の段階の患者(ステージI~IIIa)と比べて、肺に常在する細菌の多いことが明らかになった。また、口腔内の常在菌であるVeillonella属、Prevotella属、Streptococcus属(レンサ球菌属)の細菌を、肺内に多く保有する患者は、たとえがんが早期であっても生存率の低いことが示された。さらに、これらの細菌を保有する患者では、炎症性免疫反応の兆候も確認された。炎症性免疫反応は、過去の研究で、肺がんの予後悪化と関連付けられている。

 ただしこの結果は、これらの細菌が原因で肺がん患者の予後が悪化することを証明するものではない。がんの存在により、肺が細菌の定着しやすい環境に変化している可能性も考えられる。そこでSegal氏らは、肺がんのモデルマウスにVeillonella属の細菌を移植する実験を行った。その結果、これらの細菌により炎症が生じ、腫瘍の増殖が促され、マウスの生存期間が短縮することが確認された。同氏は、この結果は肺の細菌が免疫反応を変化させ、それが肺がんの進行に影響を与えていることを示唆するものだと述べている。

 今回の研究には関与していない、米マウント・サイナイのティッシュがん研究所のThomas Marron氏は、「細菌叢は複雑であり、マウスの実験結果のみから結論を導き出すのは難しい」と指摘する。同氏は、「こうした研究は極めて興味深いが、研究結果をがん治療につなげるには、あと数十年は待たなくてはならないだろう」と話す。

 米MDアンダーソンがんセンターのJohn Heymach氏も、「今後の研究の足掛かりとなる説得力のある結果だが、ここからの道のりは長い」との見方を示す。そして、さまざまな要因から集団間あるいは個人間で細菌叢には大きな違いがあるなど、体内の細菌叢は複雑であることを指摘している。それでも、近年、細菌叢に関する研究が激増していることから、「将来、がん治療につながる結果が得られる可能性はある」と期待を寄せている。

[2020年11月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2020 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら