免疫チェックポイント阻害薬による治療で心血管リスクが上昇

提供元:HealthDay News

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公開日:2020/09/30

 

 免疫系の働きを高めるがん免疫療法が、心臓から血液を送り出す動脈の炎症を悪化させる可能性があるとする、小規模研究の結果が発表された。免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた直後のオーストリアのメラノーマ患者20人において、大動脈の炎症促進が認められたという。この研究論文の上席著者であるウィーン医科大学(オーストリア)のMarcus Hacker氏は、「研究結果は、免疫チェックポイント阻害薬により既存のアテローム性動脈硬化が悪化し得ることのエビデンスとなるものだ。治療に当たる医師は、合併症の可能性を考慮すべきだ」と述べている。詳細は、米国心臓協会(AHA)発行の「Circulation」9月8日オンライン版に報告された。

 免疫療法は、免疫細胞を活性化することでがん細胞の攻撃力を高める治療法で、化学療法や放射線療法が奏効しないがん患者に有効となり得ることが示されている。免疫細胞が活性化し過ぎると、健康な細胞まで傷つけてしまう可能性もある。これに対しては、過剰な免疫反応にブレーキをかける免疫チェックポイント分子が機能する。免疫チェックポイント阻害薬は、このような分子の働きを抑えて免疫抑制のブレーキを解除することで、T細胞によるがん細胞の排除を容易にするが、潜在的な心血管損傷などの副作用を伴う。

 がん患者は健常人と比べて、心血管疾患で死亡するリスクが高い。「European Heart Journal」に掲載された2019年の研究では、ほぼ40年の間に、米国のがん生存者の10人に1人が心血管疾患で死亡すると報告されている。また、米国がん協会(ACS)によると、米国には約1700万人のがんサバイバーがいるという。

 今回の研究はメラノーマ患者のみを対象にしたものだが、Hacker氏らは未発表の研究で、対象をリンパ腫患者にまで広げて同様の結果を得ているという。次のステップは、免疫チェックポイント阻害薬を投与されている患者での動脈の炎症促進が、その後の心臓の問題につながるかどうかを調べることだという。

 今回の研究には関与していない、米エモリー大学教授で、がん領域と循環器領域の医師たちが連携して患者の治療に当たるCardio-Oncologyに関する最近のAHA科学的声明の共著者でもあるCarolyn Miller Reilly氏は、患者を10年、ないし20年かけて追跡する、より規模の大きな研究が、次のステップとして妥当であるとしている。

 Reilly氏は、「今回の研究で患者に認められた変化が、直ちに有害事象に結び付くことはないだろう。ただ、プラークが蓄積して、不安定になることは考えられる。長期的には、心血管疾患が引き起こされる可能性がある」と話す。しかし、炎症が最も進んでいたのは、プラークの蓄積が最も軽かった部分であった点を取り上げて、「今回の研究は、たとえ心血管疾患を有する患者であっても、免疫チェックポイント阻害薬による治療を先送りすべきことを示唆するものではない。免疫チェックポイント阻害薬による治療のベネフィットはリスクを上回るため、私自身はこの治療を控えたりはしない」と付け加えている。その上で同氏は、がん専門医は、患者の心臓への影響を緩和する方法を検討し、心臓腫瘍医と連携して、特定の患者の心血管疾患リスクを評価していくべきではないかと述べている。

 さらにReilly氏は、「がんと心疾患のリスク因子は同じ」と述べ、そのリスク因子をコントロールするためには、体重を最適化し、コレステロール値を下げ、健康的な食生活を送り、運動を行い、適切な血圧を維持できるように、生活スタイルを変えることが必要だと、しばしば患者に教えているという。

 一方、Hacker氏は、場合によっては薬が有用である可能性もあることを指摘する。そして、「前向き研究で今回の研究が再現できたら、将来的には、免疫療法後の心血管疾患のリスクから患者を守るために、スタチンのようなアテローム性動脈硬化安定薬との併用療法を考慮すべきだろう」と述べている。

[2020年9月8日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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