ネットいじめは加害者にもPTSDの可能性

ネットいじめは、いじめる側といじめられた側のどちらでも心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症につながる可能性があると、英インペリアル・カレッジ・ロンドン精神科のAna Pascual-Sanchez氏らが「Archives of Disease in Childhood」6月23日オンライン版に発表した。調査からは、ティーンエージャーにおけるネットいじめの発生率は10~40%と推定された。また、同氏らは、ネットいじめは昼夜を問わず匿名で行われるため、対面的な従来型のいじめとは異なる特別なリスクを伴うとの考えを示している。
ネットいじめとは、オンライン上での嫌がらせや誹謗中傷のことを言い、匿名でなされることが多い。今回の研究は、ロンドン市内4カ所の中等学校に通うティーンエージャー(11~19歳)の生徒2,218人を対象としたもの。質問票を用いてネットいじめの実態を調査した。
その結果、生徒の46%が従来型のいじめかネットいじめのいずれかの経験があり(従来型のいじめが33.5%、ネットいじめが25.5%)、17%は被害者として、12%は加害者として、4%はその両方でいじめに関与していた。
また、ティーンエージャーの13.3%はネットいじめの被害を受けた経験があり、8.4%は加害者になった経験があって、3.7%はその両方を経験していた。一方で、従来型のいじめについては、16.4%が被害を受けた経験があり、12.2%は加害者になった経験があって、6.6%はその両方を経験していた。なお、ネットいじめと従来型のいじめに関与した生徒は一部、重複していたが、ネットいじめの加害者が従来型のいじめに関与する頻度は低かった。
さらに、1,516人のティーンエージャーを対象にPTSDを評価し、自分では望んでいないのに人前で話すのがはばかられるような考えが浮かんでくる「侵入思考」や、不安や恐怖を体験することから逃げる「回避行動」のスクリーニングを実施した。その結果、ネットいじめの被害者の35%、加害者の29.2%、どちらも経験した人の28.6%にPTSD症状が認められることが明らかになった。
Pascual-Sanchez氏らは、ネットいじめは既に蔓延していることから、「小児科医は、患者の心理的な評価の一環として、ネットいじめに関わっているかどうかを日常的に尋ねるべきだ」と指摘。「親や学校の教師、医療従事者は、ネットいじめに関与している若者ではPTSD症状が現れやすいことを知っておく必要がある」と述べている。ただし、同氏らは、今回の研究は、ネットいじめとPTSDの因果関係を証明するものではないことを、研究の限界点として挙げている。
これらの結果を踏まえ、Pascual-Sanchez氏らは、「ネットいじめは従来型のいじめよりも頻度が低い。それにも関わらず、ネットいじめ加害者の3人に1人以上は従来型のいじめに関与したことがなく、また、ネットいじめ被害者の大多数は従来型のいじめにおいても、主に被害者(または被害者と加害者の両方)として関与している」という相違点に注目し、「このことから、匿名性がいじめの発生する新たな場を作り出している可能性が示唆される」と付け加えている。
[2020年6月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2020 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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