日本語でわかる最新の海外医学論文|page:93

体脂肪だけを減らせる持久力運動

 高強度の持久力運動により、体脂肪だけを効果的に減らせることを示す研究結果が報告された。中年男性が7日間で1,440kmのロードサイクリングを行った結果、全身の体脂肪は9%減少、内臓脂肪は15%減少して、血圧や血清脂質にも良い影響が生じ、一方で体重はわずか1%しか減らなかったという。  この研究は、ラヴァル大学(カナダ)のJean-Pierre Despres氏らによるもので、詳細は「American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism」9月号に掲載された。論文の責任著者である同氏は、「われわれの研究結果は、肥満予防にはカロリー制限よりも、身体的に活動的なライフスタイルを促進することが重要であるという事実を裏付けている」と述べている。また研究グループは、「人間はできるだけ食べないようにするのではなく、身体的に活動的になるように設計されていることを示す、一つのエビデンスといえる」という別の言い方で研究結果を総括している。

人類の平均寿命はここ30年で延び幅が鈍化

 「人生100年時代」の到来は、現状では期待できないようだ。食生活の向上や医学の進歩の恩恵を受け、19世紀から20世紀にかけて平均寿命はほぼ2倍に延びたが、ここ30年でその延び方が鈍化し、最も長寿の国でも1990年以降の平均寿命の延び幅は平均するとわずか6.5年だったことが、新たな研究で明らかになった。米イリノイ大学シカゴ校公衆衛生学部のS. Jay Olshansky氏らによるこの研究結果は、「Nature Aging」に10月7日掲載された。  Olshansky氏は、1990年に「Science」誌に、人間の平均寿命は85歳で上限に近づいているとする論文を発表した。この見解に異を唱えた研究者らは、医療と公衆衛生の進歩により20世紀に認められた寿命の延長は加速を続けたまま21世紀に突入すると予測した。しかし、今回発表された新たな研究では、老化の容赦ない影響を受ける人が増えるにつれ、平均寿命の延び方は鈍化し続けることが予測された。

再発・転移子宮頸がん、化学療法+cadonilimabがPFS・OS改善/Lancet

 持続性、再発または転移を有する子宮頸がんの1次治療において、標準治療の化学療法単独と比較して、化学療法にPD-1とCTLA-4のシグナル伝達経路を同時に遮断する二重特異性抗体cadonilimabを追加すると、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に改善し、安全性プロファイルは管理可能であることが、中国・復旦大学上海がんセンターのXiaohua Wu氏らが実施した「COMPASSION-16試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年10月26日号で報告された。

日本人アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾール治療

 香川大学の中村 祐氏らは、日本人アルツハイマー病患者におけるアジテーション(攻撃的行動および発言、非攻撃的行動の亢進、焦燥を伴う言動等)の治療に対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価した。Alzheimer's & Dementia誌オンライン版2024年10月6日号の報告。  本研究は、第II/III相多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験として実施された。アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する患者は、ブレクスピプラゾール1mg/日群または2mg/日群、プラセボ群に3:4:4でランダムに割り付けられ、10週間投与を行った。主要エンドポイントは、ベースラインから10週目までのCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)合計スコアの変化とした。

女性医師の未来を開くリーダー育成とキャリア展望/日本血液学会

 女性医師キャリアシンポジウムは、三谷氏が女性初の会長を務めた2016年の第78回日本血液学会学術集会より続けられている。そうした背景もあり、現在、本学会における女性会員の比率は25%を超え、女性評議員が14%を占めるまでになっている。しかし一方で、「日本の女性は本来あるべき地位をいまだ得ていない」「管理職における男女格差は依然大きい」といった指摘もある。熱田氏は、「女性医師がいかにリーダーシップを発揮し、自身のキャリアを築き上げていくのかを、お招きした先生方にご教授賜りたい」と、本シンポジウムの開会を宣言した。

心不全への五苓散、有効性は?

 本邦では、心不全患者に五苓散が用いられることがあるが、そのエビデンスは症例報告などに限られている。そこで、磯貝 俊明氏(東京大学大学院医学系研究科 ヘルスサービスリサーチ講座/東京都立多摩総合医療センター)らの研究グループは、DPCデータを用いた後ろ向き研究により、心不全に対する標準治療への五苓散併用の有用性を検討した。その結果、五苓散を併用しても1年以内の心不全による再入院リスクは低下しなかったが、腎疾患を有する患者では、再入院リスクが低下することが示唆された。Journal of Cardiology誌オンライン版2024年9月26日号掲載の報告。  本研究は、日本全国の急性期病院から収集されたDPCデータを用いて実施した。対象は、2016年4月~2022年3月の期間に心不全により初回入院し、心不全に対する標準治療を受けた後に退院した患者43万1,393例とした。対象患者を退院時の薬物療法に基づき、標準治療に五苓散を併用した群(併用群)と標準治療のみの群(非併用群)に分類し、1対4の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は、1年以内の心不全による再入院とし、主要な副次評価項目は、1年以内の心不全による再入院と再入院中(入院理由は問わない)の死亡の複合とした。

ビタミンB1が便秘リスクを軽減、とくに有効な人は?

 これまでの多くの研究から、食事からの微量栄養素の摂取と便秘発生との相関関係が示されている。中国・蘇州大学付属病院Wenyi Du氏らは、国民健康栄養調査(NHANES)の成人参加者におけるデータを用い、食事におけるビタミンB1摂取と慢性便秘との関連を調べた。BMC Gastroenterology誌2024年5月17日号の報告。  2005~10年に実施されたNHANESのデータを使用した。ビタミンB1摂取に関するデータは24時間の総栄養摂取量インタビューを通じて収集された。参加者はデータ収集前の30日間に記録された糞便の特徴と排便頻度に関する情報を提供し、便秘は排便頻度(週3回未満)または便の硬さ(ブリストル便スケールタイプ1または2)によって判定された。

長いスクリーンタイムは子どものメンタルヘルス症状と関連

 9歳と10歳の子ども約1万人を2年間追跡した研究で、テレビやその他のスクリーンの視聴時間(以下、スクリーンタイム)の長さは抑うつなどのメンタルヘルス症状のリスク上昇と関連することが明らかにされた。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のJason Nagata氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Public Health」に10月7日掲載された。Nagata氏は、「スクリーンタイムにより、身体活動、睡眠、対面での交流、抑うつや不安を軽減するその他の行動に費やされる時間が失われている可能性がある」と述べている。

2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2iの影響はデュラグルチドと同等

 高齢2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2阻害薬(SGLT2i)の影響は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のデュラグルチドと同程度ではないかとする研究結果が報告された。推定リスク差の95%信頼区間は-2.45~0.63パーセントポイントだという。成均館大学(韓国)薬学部のBin Hong氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に8月27日掲載された。  SGLT2iとGLP-1RAはいずれも、2型糖尿病に対して血糖降下以外の多面的な作用のあることが知られており、神経保護作用も有する可能性が報告されている。ただし、認知症予防という点での評価は定まっておらず、これら両剤の有効性を比較し得るデータは限られており、臨床上の疑問点として残されている。これを背景としてHong氏らは、リアルワールドデータを用いてランダム化比較試験を模倣する、ターゲット試験エミュレーション研究を行い、SGLT2iとGLP-1RAであるデュラグルチドの認知症リスクを比較検討した。

発酵乳製品、加齢による歩行速度の低下を抑制

 発酵乳製品が加齢に伴う歩行速度の低下を抑制することを示唆するデータが報告された。摂取頻度の多寡によって、男性では歩行速度に7.3年分に相当する差が生じ、さらに日常の歩数の多寡も考慮した場合、最大で22.0年分の差が生じる可能性があるという。東京都健康長寿医療センター研究所運動科学研究室の青栁幸利氏らの研究によるもので、詳細は「Beneficial Microbes」に7月5日掲載された。  加齢に伴い身体機能およびストレス耐性が低下した、要介護予備群とも言える「フレイル」への公衆衛生対策が急務となっている。

新規2型DM、短期強化インスリン後リナグリプチン+メトホルミンが有用/BMJ

 新たに2型糖尿病と診断されたHbA1c値8.5%以上の患者において、短期強化インスリン療法(SIIT)後に経口療法(とくにリナグリプチンとメトホルミンの併用)を用いるという強力かつ簡便な戦略は、持続的な血糖コントロールをもたらし、β細胞機能を改善することが示された。中国・中山大学第一付属病院のLiehua Liu氏らが、中国の15施設で実施した無作為化非盲検比較試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「この治療戦略は、2型糖尿病の臨床管理における意思決定に有望な方向性を示すものである」とまとめている。BMJ誌2024年10月15日号掲載の報告。

局所進行子宮頸がん、導入化学療法+CRTがPFS・OS改善/Lancet

 局所進行子宮頸がん患者において、短期間導入化学療法後に化学放射線療法(CRT)を行うことで、CRTのみの場合と比較して無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に延長したことが、ブラジル、インド、イタリア、メキシコおよび英国の32施設で実施された無作為化第III相試験「INTERLACE試験」で示された。英国・University College Hospital NHS TrustのMary McCormack氏らINTERLACE investigatorsが報告した。局所進行子宮頸がんの標準治療はCRTであるが、再発する患者が依然として多く、転移がんにより死に至る。結果を踏まえて著者は、「この短期間導入化学療法レジメンと7日以内のCRTを現在の標準治療と考えるべきである」とまとめている。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。

医師の働き方改革後、小児・救急などで実際に縮小・撤退/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催。はじめに松本氏が「財政制度等審議会財政制度分科会の議論を受けて」をテーマに医師会の考え方などを説明した。その中で、「財務省などの試案では、さらなるコストカットが示されているが、すでにその施策も現場では限界に来ていること、この12年間で医療従事者は賃金が抑えられていること、また、新型コロナ以後も患者は戻っておらず、関連の補助金もカットされたことで全国の診療所などは厳しい経営状況にあること」を説明した。松本氏は「今後も政府や関係省庁へ地域の安全を担保するインフラである医療や医療産業の充実のために財政上の手当てを要望する」と語った。

日本人の産後うつ病、10年間にわたる男女の軌跡

 周産期うつ病は、妊娠中および産後において、女性だけでなく男性にも影響を及ぼす重大な懸念事項である。母親の産後うつ病は、広く研究されている。しかし、父親のうつ病は、有病率も高く、家族のウェルビーイングへの影響があるにもかかわらず、十分に研究が行われてこなかった。横浜国立大学の久保 尊洋氏らは、10年間にわたる日本の周産期および産後うつ病の軌跡を推定し、母親および父親におけるうつ病の相互影響を考慮したうえで、各軌跡での産後うつ病の症状を特定するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年9月30日号の報告。

携帯電話の頻用で、CVDリスクが高まる

 携帯電話を頻用することで睡眠障害と心理的ストレスが高まり、心血管疾患(CVD)リスク増加につながる可能性があることが、新たな研究で示された。中国・広州の国立腎臓病臨床研究センターのYanjun Zhang氏らによる本研究は、The Canadian Journal of Cardiology誌オンライン版2024年7月22日号に掲載された。  研究者らは50万例以上が参加する大規模コホートである英国バイオバンクのデータを用い、CVDの既往歴のない44万4,027例を対象とした。携帯電話の定期的な使用は、少なくとも週1回の通話・受信と定義した。携帯電話の使用時間は、過去3ヵ月間の週平均(5分未満、5〜29分、30〜59分、1〜3時間、4〜6時間、6時間以上)を自己申告によって得た。主要評価項目は新規CVD(冠動脈性心疾患[CHD]、心房細動[AF]、心不全[HF]の複合)発症、副次評価項目は新規脳卒中、個別のCHD、AF、HF発症、および頸動脈内膜中膜厚(cIMT)発症 だった。

高齢者の転倒は認知症リスクを高める

 高齢者での転倒は、転倒後1年以内に認知症の診断を受けるリスクの上昇と関連することが、高齢の外傷患者200万人以上を対象にした後ろ向きコホート研究により明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院外科・公衆衛生センター副所長のMolly Jarman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に9月30日掲載された。  研究グループは、転倒は高齢者が外傷センターに入院する最も一般的な理由の一つであり、高齢者での主な外傷の原因だと指摘する。近年の研究により、アルツハイマー病および関連認知症(ADRD)の前段階とされる軽度認知障害の高齢者において転倒リスクが増加しているとするエビデンスが増えつつある。しかし、転倒を経験した高齢者において認知症リスクが高まるのかどうかについては明らかになっていない。

外来で実施するCAR-T細胞療法も安全で効果的

 急速に進行する大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)患者に対して、外来ベースでCAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法を実施しても、患者は治療によく反応することが、CAR-T細胞療法の外来環境での使用を検討した研究としては最大規模の前向き研究で明らかになった。CAR-T細胞療法は、患者の血液から採取したT細胞にCARを発現させるための遺伝子を導入し、特定のがん細胞を攻撃できるようにした上で患者の体内に戻す治療法。CAR-T細胞製品のブレヤンジ(一般名リソカブタゲン マラルユーセル)を製造販売するブリストル・マイヤーズ スクイブ社の資金提供を受けて米マイアミがん研究所リンパ腫サービス責任者のYuliya Linhares氏らが実施したこの研究の詳細は、「Blood Advances」に9月30日掲載された。

早期乳がんの遠隔転移再発率、1990年代からどのくらい低下した?/Lancet

 英国・Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)は同グループのデータベースを用いた統合解析を行い、エストロゲン受容体(ER)陽性およびER陰性乳がんの遠隔転移再発率が、1990年代に比べ2000年以降に診断された女性では約5分の1低下していることを報告した。この改善は、本研究に参加する低リスクの女性患者の割合が高くなったことと、補助療法の進歩により説明される。ER陽性乳がんの遠隔再発の長期リスクは、依然として存在するものの前回の報告よりも約10分の1低下した。ER陽性早期乳がん女性の遠隔転移再発率は診断後20年以上にわたって一定の割合で持続するが、ER陰性乳がんに関するデータはこれまでほとんどなかった。Lancet誌2024年10月12日号掲載の報告。

慢性疾患患者のインフルワクチン接種率、電子メールで改善/JAMA

 デンマークにおける全国規模登録ベースの無作為化臨床試験において、慢性疾患を有する青年~中年患者のインフルエンザワクチン接種率は、電子メールを用いたナッジにより有意に上昇することが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のNiklas Dyrby Johansen氏らが、「Nationwide Utilization of Danish Government Electronic Letter System for Increasing Influenza Vaccine Uptake Among Adults With Chronic Disease trial:NUDGE-FLU-CHRONIC試験」の結果を報告した。世界的にガイドラインで強く推奨されているにもかかわらず、慢性疾患を有する若年~中年患者のインフルエンザワクチン接種率は依然として十分とは言えない状況(suboptimal)で、接種率向上のための効果的で柔軟性のある戦略が求められている。本試験の結果を受けて著者は、「費用対効果の高い電子メール戦略は、簡便で柔軟性があり、公衆衛生に大きな影響を与える可能性があることが示された」と述べている。JAMA誌オンライン版10月11日号掲載の報告。

心筋梗塞の血栓溶解療法の時代を思い出す(解説:後藤信哉氏)

1988年のLancet誌に掲載されたSecond International Study of Infarct Survival (ISIS-2) trialは、心筋梗塞の診療に劇的インパクトをもたらした。抗血小板薬アスピリン、線溶薬ストレプトキナーゼはともに急性心筋梗塞の院内死亡率を25%程度減少させ、両者の併用により死亡率はほぼ半減した。アスピリンはそのまま世界の標準治療になった。ストレプトキナーゼは重篤な出血合併症を増加させたため、出血リスクの少ない薬剤開発が模索された。ストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。体内のフィブリンに結合し、プラスミン産生効果を発揮するt-PAに期待が集まった。