日本語でわかる最新の海外医学論文|page:59

手OAに電熱手袋は有効か?/BMJ

 バッテリー駆動型電熱線が内蔵され手指全体を温められるミトンタイプの手袋(電熱グローブ)は、手の変形性関節症(OA)患者の痛みや機能の改善に効果があるのか。デンマーク・Bispebjerg and Frederiksberg HospitalのCecilie Bartholdy氏らは無作為化対照試験を行い、6週間にわたる電熱グローブ使用は対照グローブ(温熱なし)使用と比較して、身体面および機能面に好ましい変化は認められなかったことを報告した。著者は「電熱グローブは、手OAに関連した問題や握力の評価に追加のベネフィットをもたらさなかった。手の痛みについてはわずかなベネフィットが検出されたが、過大評価されている可能性があった」と述べている。手OAはありふれた疾患で痛みや機能低下を引き起こす。既治療法の効果はわずか~中程度であり、米国リウマチ学会2020ガイドラインで「温めること」が症状緩和法として推奨されているが、その効果を裏付けるエビデンスの質は低かった。BMJ誌2024年12月17日号クリスマス特集号「SEASONS OF LOVE」掲載の報告。

心筋梗塞後のβ遮断薬の長期投与は不要か―統計学的には非劣性だが、臨床的にはそうとは限らない(解説:名郷直樹氏)

β遮断薬内服中で駆出率が40%以上の6ヵ月以前に発症した心筋梗塞患者で、β遮断薬を継続する群と中止する群で、死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管疾患による入院の複合アウトカムを1次アウトカムにしたランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)であるが、プラセボは使用せずオープン試験である。このRCTは薬剤中止試験と呼ばれるもので、歴史的にはジギタリスの中止試験が有名である。ジギタリスの中止試験では、いずれも中止による心不全症状の悪化が報告されている。対象者がすでに治療を継続できている患者だけが対象であることに留意すべきで、新規の患者にどうするかというのはまた別問題であると考えるのが重要である。

片頭痛予防にメラトニン介入が有望な可能性

 近年、とくにCOVID-19後において睡眠・覚醒障害の有病率が増加した。これに伴い、市販のサプリメントとしてメラトニンを使用するケースが有意に上昇した。メラトニンは、不眠症のマネジメントに有効であることは知られているが、使用用途はそれだけにとどまらないといわれている。その中でも、片頭痛の予防や治療に関しては、メラトニンの抗炎症、抗酸化、鎮痛作用が有効である可能性が示唆されており、研究者の大きな関心事項となっている。米国・California Institute of Behavioral Neurosciences & PsychologyのBhavana Nelakuditi氏らは、片頭痛予防に対するメラトニンの役割を評価し、標準療法およびプラセボと比較したメラトニンの有効性および副作用プロファイルを明らかにするため、システマティックレビューを実施した。Cureus誌2024年10月28日号の報告。

進行期低腫瘍量濾胞性リンパ腫の初回治療、watchful waiting対早期リツキシマブ(JCOG1411/FLORA)/ASH2024

 未治療の進行期低腫瘍量濾胞性リンパ腫(LTB-FL)では、診断後にすぐに治療を行わずに経過を診る、いわゆる無治療経過観察(watchful waiting、WW)が標準治療とされているが、高腫瘍量(HTB)への進行や組織学的形質転換といったリスクが懸念される。  一方、リツキシマブ単剤療法は、LTB-FLに対する初回治療の選択肢としてその有効性が示されているが、同剤を開始する最適な時期は明らかになっていない。そこで、未治療の進行期LTB-FL患者を対象に、WWに対する早期リツキシマブ導入の優越性を検証する無作為化第III相JCOG1411/FLORA試験が行われた。

タルラタマブ、既治療の小細胞肺がんでの承認根拠となったDeLLphi-301試験のアジア人データ/ESMO Asia2024

 腫瘍細胞上に発現するDLL3とT細胞上に発現するCD3に対する特異性を有するBiTE(二重特異性T細胞誘導)抗体タルラタマブ。既治療の小細胞肺がん(SCLC)患者を対象とした国際共同第II相試験「DeLLphi-301試験」において、タルラタマブ10mg投与例の奏効率は40%、無増悪生存期間(PFS)中央値は4.9ヵ月、全生存期間(OS)中央値は14.3ヵ月と良好な成績を示した。本試験の結果に基づき、本邦では2024年12月27日に「がん化学療法後に増悪した小細胞肺癌」の適応で製造販売承認を取得した。また、『肺癌診療ガイドライン2024年版』では、全身状態が良好(PS0~1)な再発SCLCの3次治療以降にタルラタマブを用いることを弱く推奨することが追加されている。欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia2024)において、DeLLphi-301試験のアジア人集団のpost-hoc解析結果を、赤松 弘朗氏(和歌山県立医科大学 内科学第三講座 准教授)が発表した。

85歳以上の日本人、高血圧は死亡リスクに影響する?しない?

 日本人高齢者の大規模コホート研究において、高血圧は65~74歳および75~84歳では全死亡リスクおよび心血管系死亡リスクを上昇させたが、85歳以上では上昇させなかったことを岡山大学/就実大学の赤木 晋介氏らが報告した。Geriatrics Gerontology International誌オンライン版2024年12月12日号に掲載。

甘いものの摂取、心臓の健康にとっての「スイートスポット」は?

 甘いものが心臓の健康にもたらす影響は、その種類により大きく異なる可能性のあることが新たな研究で明らかになった。論文の筆頭著者であるルンド大学(スウェーデン)のSuzanne Janzi氏は、「この研究結果で最も印象的だったのは、異なる摂取源の添加糖が心血管疾患(CVD)リスクに、それぞれ異なる影響を与えることを示した点だ」と述べている。例えば、加糖飲料の大量摂取は脳卒中や、心不全、不整脈の発症リスクを大幅に高めることが示された一方で、オートミールに蜂蜜を加えたり、甘いペストリーを時々食べたりしても心臓の健康に大きな害はなく、むしろ改善する可能性もあるという。この研究の詳細は、「Frontiers in Public Health」に12月9日掲載された。

野菜を先に食べている糖尿病患者は高次生活機能が高い

 野菜を先に食べる習慣のある高齢糖尿病患者は、高次生活機能が高いとする研究結果が報告された。一方で最初にタンパク質や炭水化物の食品を食べることは、高次生活機能との関連が有意でないという。伊勢赤十字病院糖尿病・代謝内科の井田諭氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Nutrition」に9月27日掲載された。  高齢の糖尿病患者が増加していることを背景に、糖尿病臨床においては血糖管理のみならず、患者の高次生活機能の低下を防ぐことが重要な課題となってきている。高次生活機能とは、買い物や金銭の管理などの手段的日常生活動作(IADL)のほか、知的な活動や社会的な活動を積極的に行うための機能であり、食後の高血糖がこの機能を低下させるリスク因子の一つである可能性が指摘されている。一方、食事の際に野菜を最初に食べることは、食後高血糖の抑制に役立つ。これらを背景として井田氏らは、野菜から食べ始めることが、糖尿病患者の高次生活機能の維持に対して保護的に働いているのではないかとの仮説の下、以下の横断的研究を行った。

タクシーと救急車の運転手、アルツハイマー病による死亡率低い/BMJ

 タクシーと救急車の運転手は、アルツハイマー病による死亡率がすべての職業の中で最も低いことが、米国・ハーバード医学大学院・ブリガム&ウィメンズ病院のVishal R. Patel氏らによる住民ベースの横断研究で示された。アルツハイマー病で最初に萎縮がみられる脳領域の1つに海馬がある。海馬は空間記憶とナビゲーションに使用される脳領域で、研究グループは、空間処理とナビゲーション処理を頻繁に必要とする職業のタクシーと救急車の運転手について、アルツハイマー病による死亡率を他職業と比較し分析した。先行研究で、タクシー運転手は一般集団と比較して、海馬の機能が強化されていることが示されていた。BMJ誌2024年12月17日号クリスマス特集号「Death is Just Around the Corner」掲載の報告。

低リスクDCIS、積極的モニタリングvs.標準治療/JAMA

 低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する積極的モニタリング(6ヵ月ごとに乳房画像検査と身体検査を実施)は、ガイドラインに準拠した治療(手術±放射線治療)と比較して、追跡2年時点の同側乳房浸潤がんの発生率を上昇せず、積極的モニタリングの標準治療に対する非劣性が示された。米国・デューク大学のE. Shelley Hwang氏らCOMET Study Investigatorsが前向き無作為化非劣性試験「COMET試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2024年12月12日号掲載の報告。  研究グループは、2017~23年にUS Alliance Cancer Cooperative Groupのクリニック試験地100ヵ所で、ホルモン受容体陽性(HR+)グレード1/2のDCISと新規診断された40歳以上の女性995例を登録して試験を行った。

アルツハイマー型認知症になりたくなければタクシーか救急車の運転手になろう?(解説:岡村毅氏)

アルツハイマー型認知症では「もの忘れ」もあるが、視空間障害が特徴的である。臨床現場では「知っている場所での迷子」とか、キツネさんの手の模倣の失敗があると、アルツハイマー型認知症の可能性を考える(あとはレビー小体型認知症)。さらには逆さキツネテスト(キツネさんの手を両手で作り、上下逆でくっつける)などで失敗すると、強く疑う。となると、空間的に道順をいつも考えている職業は、鍛えられており、アルツハイマー型認知症になりにくいのではないかと考えるのは自然だ。いきなり「○○まで行って下さい」と言われて、頭の中で必死に道順を考える職業といえば・・・タクシーと救急車の運転手だ!

診療所のマイナ保険証利用率は10%未満の施設が約7割/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催し、年末年始の感染症対策ならびに診療所における医療DXに係る緊急調査の結果について説明を行った。  はじめに松本氏が、会員医療機関の経営逼迫に対し政府などへの要望、医師偏在対策への提案など、この1年の医師会のさまざまな事業を振り返った。続いて「年末年始の感染症対策等について」として釜萢 敏副会長(小泉小児科医院 院長)が、この数週間で急増しているインフルエンザ流行への対策、同時に新型コロナウイルス感染症への対応について説明した。とくにインフルエンザの迅速診断キットが外来などの現場で不足していることに触れ、医師会として厚生労働省に要望を出していること、臨床現場では特定のメーカーのキットだけでなく、融通できるキットを使用して診断を行ってもらいたいと語った。また、予防対策として「『マスク着用、手指衛生とうがい、換気の実施』は、従来通り行ってもらいたい」と述べた。

抗精神病薬の多剤併用は50年間でどのように変化したのか

 抗精神病薬の多剤併用は、有害事象リスクが高く、単剤療法と比較し、有効性に関するエビデンスが少ないにもかかわらず、臨床的に広く用いられている。南デンマーク大学のMikkel Hojlund氏らは、精神疾患患者における抗精神病薬の多剤併用率、傾向、相関関係を包括的に評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The Lancet Psychiatry誌2024年12月号の報告。  対象研究は、年齢や診断とは無関係に、精神疾患または抗精神病薬を使用している患者における抗精神病薬の多剤併用率を報告したオリジナル研究(観察研究および介入研究)。2009年1月〜2024年4月までに公表された研究をMEDLINE、Embaseより検索した。2009年5月以前の関連研究は、抗精神病薬の多剤併用率に関するこれまでの2つのシステマティックレビューより特定した。プールされた抗精神病薬の多剤併用率は、ランダム効果メタ解析を用いて推定した。抗精神病薬の多剤併用に関連する相関関係の特定には、サブグループ解析および混合効果メタ回帰解析を用いた。実体験を有する人は、本プロジェクトには関与しなかった。

心房細動の早期発見、早期介入で重症化を防ぐ/日本心臓財団

 日本心臓財団メディアワークショップは、都内で「心房細動の診療」をテーマにメディアワークショップを開催した。  心房細動(AF)は心臓内の心房が異常な動きをし、不整脈を引き起こす疾患である。AFでは、自覚症状を伴わないことが多く、気付かずに長期間放置すると心房内に生じた血栓が血流にのり、脳血管障害や心不全などを発症させる恐れがある。早期発見が重要であり、治療ではカテーテルアブレーションや薬物による治療が行われる。そして、早期発見では、日常の検脈や健康診断が重要となるが、近年では、テクノロジーの発達とデジタルデバイスの普及により、これまで見つかりにくかった無症候性や発作性タイプのAFの早期発見が可能になってきている。

食品中の果糖はがんの進行を促進する?

 糖の一種である果糖(フルクトース)は、がん細胞の増殖を促す燃料になる可能性があり、果糖の摂取を控えることが、がんと闘う手段の一つになり得ることが、新たな研究で示唆された。米セントルイス・ワシントン大学遺伝学・医学部教授のGary Patti氏らが、米国立衛生研究所(NIH)から一部助成を受けて実施したこの研究の詳細は、「Nature」に12月4日掲載された。  米国人が毎日口にしている食品には高果糖コーンシロップが多用されており、果糖はすでに米国人の食生活に広く浸透している。Patti氏は、「高果糖コーンシロップは、キャンディーやケーキから、パスタソースやサラダ用ドレッシング、ケチャップまで、極めて多くの食品に含まれている。意図的に摂取を回避しようとしない限り、高果糖コーンシロップを食事から除くことは困難である」と話す。

明晰な頭脳の維持には骨格筋量の維持が重要

 筋肉を維持することは認知症の予防に役立つ方法の一つである可能性があるようだ。新たな研究で、高齢者の側頭筋の減少はアルツハイマー病(AD)のリスク上昇と関連していることが示された。この研究を実施した米ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経学教授のMarilyn Albert氏は、「骨格筋の少ない高齢者は、他の既知のリスク因子を考慮しても、認知症リスクが約60%高いことが明らかになった」と述べている。この研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2024、12月1〜5日、米シカゴ)で発表された。

中等~重度の椎骨脳底動脈閉塞、血管内治療vs.内科的治療/Lancet

 中等度~重度の症状を呈する椎骨脳底動脈閉塞患者において、標準的な内科的治療と比較して血管内治療は強固な有益性を示し、良好な機能的アウトカムの達成の可能性が高く、症候性頭蓋内出血のリスクは有意に増加するものの、全体的な機能障害および死亡率の有意な減少と関連することが、米国・ピッツバーグ大学のRaul G. Nogueira氏らが実施した「VERITAS研究」で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年12月11日号で報告された。  研究グループは、急性椎骨脳底動脈閉塞患者における血管内治療の安全性と有効性を評価するために、標準的な内科的治療(対照)と比較した無作為化試験の系統的レビューを行い、患者レベルのデータを統合したメタ解析により、事前に規定したサブグループにおける有益性を検討した(特定の研究助成は受けていない)。

重症血友病A、新たな第VIII因子発現遺伝子治療が有望/NEJM

 第VIII因子インヒビターのない重症血友病A患者において、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入した自己造血幹細胞(HSC)による遺伝子治療は、安定した第VIII因子発現が得られ、第VIII因子活性は末梢血中のベクターのコピー数と相関することが、インド・Christian Medical College VelloreのAlok Srivastava氏らの検討で示された。研究の成果はNEJM誌オンライン版2024年12月9日号に掲載された。  研究グループは、第VIII因子インヒビターのない重症血友病Aにおけるレンチウイルスベクターを用いた自己CD34陽性HSCによる第VIII因子発現遺伝子治療の安全性と有効性の評価を目的に、インドの単施設において第I相試験を行った(インド政府科学技術省などの助成を受けた)。

日本のメモリークリニックにおける聴覚障害や社会的関係とBPSDとの関連性

 認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知症患者とその介護者のQOLに悪影響を及ぼす。そのため、BPSDを予防するための修正可能なリスク因子を特定することは、非常に重要である。滋賀医科大学の田中 早貴氏らは、聴覚障害、社会的関係とBPSDとの関連を調査するため、横断的研究を実施した。Psychogeriatrics誌2025年1月号の報告。  対象は、2023年7月~2024年3月に日本のメモリークリニックを受診した患者179例。純音聴力検査および質問票によるインタビューを行い、医療記録をレビューした。聴覚障害の定義は、聴力がより良好な耳における純音聴力検査で測定された平均聴力レベル40dB以上とした。BPSDの有無および重症度の評価には、BPSD25Qベースの質問票を用いた。交絡因子で調整したのち、聴覚障害、社会的関係指標とBPSDの有無および重症度との関連を評価するため、部分回帰係数を算出する多重回帰分析を行った。

一部の主要ながんによる死亡回避、予防が治療を上回る

 「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」は、米国の建国の父ベンジャミン・フランクリンの有名な格言の一つだが、がんに関してはそれが間違いなく当てはまるようだ。米国立がん研究所(NCI)がん対策・人口科学部門長のKatrina Goddard氏らによる新たな研究で、過去45年間に、がんの予防とスクリーニングによって子宮頸がんや大腸がんなど5種類のがんによる死亡の多くが回避されていたことが明らかになった。この研究の詳細は、「JAMA Oncology」に12月5日掲載された。