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ダパグリフロジンは低アルブミン尿のCKD進行にも有効か

 わが国では、2021年に慢性腎臓病(CKD)にSGLT2阻害薬ダパグリフロジンが保険適用となり、糖尿病治療と同様に広く使用されている。ダパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬は、主に高アルブミン尿患者を対象とした大規模臨床試験で、CKDの進行を遅らせる効果が確認されている。しかし、低アルブミン尿のCKD患者へのダパグリフロジンの実際の使用状況や有効性についてはデータが不足していた。この課題に対し、カナダ・マニトバ大学内科のNavdeep Tangri氏らの研究グループは、ダパグリフロジンがCKDに対して承認された後に投与対象となった患者について検討した結果、アルブミン/クレアチニン比(UACR)<200mg/gのCKD患者にダパグリフロジンが有効であることが示唆された。Advances in Therapy誌オンライン版2024年1月19日号の報告。ダパグリフロジンの使用でeGFR勾配は減弱 本研究では、日本と米国のレセプトデータを用い、CKDに対する承認後にダパグリフロジン10mgの投与対象となった、UACR<200mg/gのCKD患者(投与開始患者と非投与患者)について検討した。推定糸球体濾過量(eGFR)勾配へのダパグリフロジン10mg投与開始と非投与の影響を評価するため、傾向スコアをマッチさせたコホートでprevalent new user designを用いて分位点回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ダパグリフロジンの投与開始者2万407例のほとんどがステージ3~4のCKDだった(データベース全体の69~81%)。・最も一般的な併存疾患は2型糖尿病、高血圧、心血管疾患だった。・ベースライン時には53〜81%の患者でレニン・アンジオテンシン系阻害薬が処方されていた。・適格であったが非投与だった患者は、投与開始患者より年齢が高く、eGFRが高値、併存疾患の負担が低かった。・ダパグリフロジンの投与開始後、投与開始患者と非投与患者のeGFR勾配の中央値の差は、UACR<200mg/gのすべての患者で1.07mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.40~1.74)、2型糖尿病のないUACR<200mg/gの患者で1.28mL/分/1.73m2/年(95%CI:-1.56~4.12)だった。 以上から研究グループは「UACR<200mg/gの患者では、ダパグリフロジンの投与開始は非投与と比較し、臨床的に意義のあるeGFR勾配の減弱と関連していた。これらの所見は、ダパグリフロジンの利用可能な臨床的有効性エビデンスを補足するものであり、その有効性がUACR<200mg/gのCKD患者にも及ぶ可能性を示唆する」と結論付けている。

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ジャディアンス、慢性腎臓病で国内製造販売承認(一部変更)取得/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムおよび日本イーライリリーは2024年2月9日付のプレスリリースで、SGLT2阻害薬ジャディアンス錠10mg(一般名:エンパグリフロジン)について、日本ベーリンガーインゲルハイムが、慢性腎臓病に対する効能・効果*および用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認を、厚生労働省より取得したことを発表した。 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、腎障害を示す所見や腎機能の低下が慢性的に持続する疾患である。死亡や心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心血管疾患のリスクファクターであり、進行すると末期腎不全に至り、透析療法や腎移植術が必要となることもある。慢性腎臓病の治療目的は、腎機能の低下を抑え末期腎不全への進行を遅らせること、および心血管疾患の発症を予防することである。 今回の製造販売承認(一部変更)は、慢性腎臓病患者におけるSGLT2阻害薬の臨床試験としては大規模・広範囲の臨床試験であり、糖尿病の有無やアルブミン尿の有無を問わず、日常診療でよくみられる6,609例(うち日本人612例)の慢性腎臓病患者を対象としたEMPA-KIDNEY第III相臨床試験のデータから得られた結果に基づく。同試験では、エンパグリフロジンの投与により、主要評価項目である慢性腎臓病の進行または心血管死のリスクがプラセボ投与群に比べて28%低下し、統計学的有意差が認められた(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.64~0.82、p<0.000001)。また、慢性腎臓病患者を対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験としては初めて、試験計画書で事前規定された主な検証的副次評価項目の1つであるすべての入院を有意に減少(14%)した試験となった (HR:0.86、95%CI:0.78~0.95、p=0.0025)。同試験における重篤な有害事象の発現割合は、プラセボ投与群で35.3%、エンパグリフロジン群で32.9%であった。 今回の承認により、ジャディアンス錠10mgは、2型糖尿病、慢性心不全*、慢性腎臓病*の3つの適応症を有することになった。両社は、慢性腎臓病患者の新たな治療選択肢を提供し、より幅広い治療に貢献できるものと考えている、としている。*慢性腎臓病もしくは慢性心不全に対する効能・効果は、それぞれ「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」および「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」。

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GLP-1受容体作動薬、従来薬と比較して大腸がんリスク低下

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は、2型糖尿病の治療薬として日本をはじめ海外でも広く承認されている。GLP-1受容体作動薬には、血糖低下、体重減少、免疫機能調節などの作用があり、肥満・過体重は大腸がんの主要な危険因子である。GLP-1受容体作動薬が大腸がんリスク低下と関連するかどうかを調査した研究がJAMA Oncology誌2023年12月7日号オンライン版Research Letterに掲載された。 米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のLindsey Wang氏らの研究者は、TriNetXプラットフォームを用い、米国1億120万人の非識別化された電子カルテデータにアクセスした。GLP-1受容体作動薬と、インスリン、メトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤(ただし、SGLT2阻害薬は2013年、DPP-4阻害薬は2006年が開始年)の7薬剤を比較する、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。 コホートは、人口統計、社会経済的な健康決定要因、既往症、がんや大腸ポリープの家族歴および個人歴、生活習慣要因などで調整され、ハザード比(HR)および95%信頼区間[CI]を用いた解析を行った。次いで、肥満・過体重、性別で層別化した患者を対象にした解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2005~2019年に2型糖尿病を理由に医療機関を受診し、それまでに抗糖尿病薬の使用歴がなく、受診後に抗糖尿病薬を処方された、大腸がんの診断歴がない122万1,218例が対象となった。・追跡期間15年時点で、GLP-1受容体作動薬はインスリン(HR:0.56、95%CI:0.44~0.72)、メトホルミン(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)と比較して、大腸がんのリスク低下と有意に関連していた。この有意差は男女でも一貫しており、肥満・過体重の患者ではインスリン(HR:0.50、95%CI:0.33~0.75)、メトホルミン(HR:0.58、95%CI:0.38~0.89)と、さらなるリスク低下が見られた。・SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤との比較でもリスク低下は見られたが、インスリン、メトホルミンほどではなかった。α-グルコシダーゼ阻害薬とDPP-4阻害薬との比較では、統計学的有意差は見出されなかった。 研究者らは、本研究の限界として「未測定または未制御の交絡因子、自己選択、逆因果、観察研究に特有のその他のバイアスの可能性があるため、本試験の結果は他のデータや研究集団による検証が必要である。また、抗糖尿病治療歴のある患者における効果、基礎となる機序、GLP-1受容体作動薬がほかの肥満関連がんに及ぼす効果についても、さらなる研究が必要である」としている。

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アルドステロン合成酵素阻害薬vs.鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎尿細管の鉱質コルチコイド受容体(MR)に作用して水・Na代謝を調節するが、その過剰は水・Na貯留を引き起こし、体液量増大を介して昇圧する。したがって、スピロノラクトンをはじめ、MR拮抗薬は降圧薬として用いられてきた。その一方で、降圧作用とは独立して、酸化ストレスの増加やMAPキナーゼの活性化を介して心臓や腎臓障害性に作用することが知られている。したがってMR拮抗薬は降圧薬であると同時に、臓器保護作用を期待して使用される。 アルドステロン合成酵素阻害薬も降圧薬(ジャーナル四天王「コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA」2023年9月27日配信)として注目されているが、このたびはCKDに対して尿アルブミンを強力に減少させ、SGLT2阻害薬との併用でも相加的に効果を現すことから、CKD治療薬としての期待を伺わせる報告がなされた。この2種類の薬剤の差別化は可能であろうか。これまでのMR拮抗薬の研究ではMRのリガンドは鉱質コルチコイドのみならず、糖質コルチコイドもリガンドであるが、体内でコルチゾールを速やかに非活性のコルチゾンに代謝する11β-水酸化ステロイド脱水酵素が十分に作用している状態では糖質コルチコイドによる作用はごく限られる。しかし、漢方薬に含まれるグリチルリチンはこの酵素の阻害作用があるため、糖質コルチコイドのMRを介した作用が起こりうる。また、低分子量G蛋白のRac1は、肥満、高血糖、食塩過剰でMR受容体を活性化する。 これらを考慮すると、MR拮抗薬のほうに分があるように見える。しかし、アルドステロンはMRを介した作用だけでなく、それを介さない非ゲノム作用の可能性も報告されており、そうであればアルドステロンの生成を抑えるほうに分がありそうである。この両薬剤の臨床効果の比較を待つことになろうか。

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新規アルドステロン合成酵素阻害薬、CKDでアルブミン尿を減少/Lancet

 過剰なアルドステロンは慢性腎臓病(CKD)の進行を加速するとされる。米国・ワシントン大学のKatherine R. Tuttle氏らASi in CKD groupは、基礎治療としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与を受けているCKD患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンとの併用でアルドステロン合成酵素阻害薬BI 690517を使用すると、用量依存性にアルブミン尿を減少させ、予期せぬ安全性シグナルを発現せずにCKD治療に相加的な効果をもたらす可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年12月15日号で報告された。2回の無作為化を行う29ヵ国の第II相試験 本研究は、日本を含む29ヵ国で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2022年2月~12月に、run-in期を終了した参加者の無作為割り付けを行った(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、CKDの診断を受け、2型糖尿病の有無は問わず、推算糸球体濾過量(eGFR)が30~<90mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が200~5,000mg/g、血清カリウム値が4.8mmol/L以下で、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与を受けている患者であった。 714例をrun-in期に登録し、エンパグリフロジン(10mg)群に356例、プラセボ群に358例を無作為に割り付け、8週間の経口投与を行った。引き続き、このうち586例(エンパグリフロジン群298例、プラセボ群288例)を、それぞれ3つの用量(3mg、10mg、20mg)のBI 690517またはプラセボを追加で経口投与(1日1回、14週間)する4つの群に無作為に割り付けた(全8群)。アルドステロン値も大きく低下 ベースライン(2回目の無作為化時)の全体の平均年齢は63.8(SD 11.3)歳、女性196例(33%)、非白人244例(42%)であり、平均eGFR値は51.9(SD 17.7)mL/分/1.73m2、UACR中央値は426mg/g(四分位範囲[IQR]:205~889)であった。 朝の起床時第一尿で測定した、UACRのベースラインから14週時の治療終了までの変化率(主要エンドポイント)は、プラセボ群が-3%(95%信頼区間[CI]:-19~17)であったのに対し、BI 690517単剤の3mg群は-22%(-36~-7)、同10mg群は-39%(-50~-26)、同20mg群は-37%(-49~-22)であった。 また、エンパグリフロジンにBI 690517を追加した場合のUACRの変化率も、BI 690517単剤と同程度の低下を示した(プラセボ群:-11%[95%CI:-23~4]、3mg群:-19%[-31~-5]、10mg群:-46%[-54~-36]、20mg群:-40%[-49~-30])。 血漿アルドステロン値(曲線下面積)は、14週時までにBI 690517の用量依存性に低下し、最大用量(20mg)では、プラセボ群と比較して単剤群で-62%(95%CI:-76~-41)、エンパグリフロジン併用群で-66%(-75~-53)となった。高カリウム血症の多くは介入を要さず BI 690517の安全性プロファイルは、エンパグリフロジン併用の有無にかかわらず許容できるものであった。投与期間中に4例が死亡したが、試験薬関連と判定されたものはなかった。また、重度の薬物性肝障害やケトアシドーシスは認めなかった。 高カリウム血症は、エンパグリフロジンの有無にかかわらず、プラセボ群では6%(9/147例)に発生したのに対し、BI 690517 3mg群で10%(14/146例)、同10mg群で15%(22/144例)、同20mg群では18%(26/146例)に認めた。また、高カリウム血症の多くは介入を要さず(86%[72/84例])、致死性のものはなかった。 とくに注目すべき有害事象としての副腎機能低下症は、BI 690517群で436例中7例(2%)、プラセボ群では147例中1例(1%)にみられた。 著者は、「アルドステロン合成酵素阻害薬とSGLT2阻害薬の併用により、臨床的に意義のあるアルブミン尿の改善が得られた。このアプローチは、今後、CKDの大規模な臨床試験で検討すべき有望な併用療法となる可能性がある」としている。

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IgA腎症の新たな治療薬sparsentanの長期臨床効果(解説:浦信行氏)

 エンドセリン受容体・アンジオテンシン受容体デュアル拮抗薬のsparsentanは慢性腎臓病(CKD)治療薬として、すでにIgA腎症で二重盲検無作為化実薬対照第III相試験(PROTECT試験)において、1次エンドポイントとして36週時のsparsentan投与群の尿蛋白変化量が-49.8%と、イルベサルタン群の-15.1%に比較して有意な低下を示したことが報告され、その解説が2023年4月14日公開のジャーナル四天王に掲載されている(「IgA腎症での尿蛋白減少、sparsentan vs.イルベサルタン/Lancet」)。今回は2次エンドポイントとして、110週までの尿蛋白低減効果とeGFRのスロープを両群で比較した。 110週にわたる試験で尿蛋白に関しては顕著な減少効果を持続し、0.3g/日未満の完全寛解率も31%と、イルベサルタン群の11%に比較して著明に高値で、1.0g/日未満の不完全寛解率も同様の結果であった。6週から110週までのeGFRのスロープは-2.7と、イルベサルタン群の-3.8に比較して有意な低値であった。1日目から110週までの全スロープでは、各々-2.9と-3.9でその差はp=0.058と傾向にとどまり、わずかながら有意差には届かなかったが、症例数がさほど多くないことなどを考えると意義のある成績といえる。有害事象は従来の報告と同様に、めまいと低血圧がsparsentan群で多かったが、これはエンドセリンの強力な血管収縮作用の抑制に基づくと考えられるであろう。また、エンドセリンは尿細管に対する作用としてバゾプレシンによるc-AMP産生の抑制を介した水利尿作用を呈するが、これを抑制するsparsentan群の末梢浮腫の発症は15%と、イルベサルタン群の12%と同程度にとどまった。 CLEAR!ジャーナル四天王-1752でFSGSの結果でも述べたが(「難治性ネフローゼ症候群を呈する巣状分節性糸球体硬化症の新たな治療薬sparsentanへの期待」)、対象の両群のeGFRがsparsentan群で56.8±24.3、イルベサルタン群で57.1±23.6であり、両群ともにeGFR60未満の症例が60%を超えている。eGFRが保たれている群同士の比較ではどうであったかが一層の評価につながる。 FSGSの稿でも述べたが、IgA腎症はステロイドによる治療効果は有意ではあるが完全に進行を阻止できるわけではなく、いまだに若年~中年期の末期腎不全は少なくない。ステロイドや免疫抑制薬に加えて一部のSGLT2阻害薬は糖尿病性腎症以外のCKDでも保険適用となり、いずれの薬剤とも作用機序は異なるので、近い将来sparsentanの併用療法も考慮されるのではないか。

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CKD治療、ダパグリフロジンにzibotentan併用の有用性/Lancet

 現行の推奨治療を受けている慢性腎臓病(CKD)患者において、エンドセリンA受容体拮抗薬(ERA)zibotentanとSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの併用治療は、許容可能な忍容性と安全性プロファイルを示し、アルブミン尿を減少させ、CKDの進行を抑制する選択肢となることが示された。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らが「ZENITH-CKD試験」の結果を報告した。先行研究で、SGLT2阻害薬およびERAは、CKD患者においてアルブミン尿を減少させ、糸球体濾過量(GFR)低下を抑制することが報告されていた。今回、研究グループはzibotentan+ダパグリフロジンの有効性と安全性を評価した。Lancet誌オンライン版2023年11月3日号掲載の報告。zibotentan+ダパグリフロジン併用vs.ダパグリフロジン単独を評価、第IIb相試験 ZENITH-CKD試験は、18ヵ国の診療施設170ヵ所で行われた第IIb相の国際多施設共同無作為化二重盲検実薬対照試験。被験者は、推定GFR(eGFR)が20mL/分/1.73m2以上、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が150~5,000mg/gの成人(18歳以上90歳以下)を適格とした。 研究グループは被験者を無作為に2対1対2の割合で、(1)zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン10mg、(2)zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン10mg、(3)ダパグリフロジン10mg+プラセボの3群に割り付けた。全被験者にスクリーニング前の少なくとも4週間、安定用量のACE阻害薬またはARBを投与し、忍容性が認められた場合に(1)~(3)の割り付け治療薬が1日1回12週間投与された。 主要エンドポイントは、12週時点のUACR(zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン10mg群vs.ダパグリフロジン10mg+プラセボ群)の、ベースラインからの変化量であった。着目したイベントは体液貯留で、ベースラインからの体重増が3%以上(体内総水分量が2.5%以上であること)、または無作為化後のBNP値上昇が>100%、かつBNP値が>200pg/mL(心房細動が非併存)または>400pg/mL(同併存)と定義した。12週時点のUACR、併用群で有意に低下 2021年4月28日~2023年1月17日に1,492例が適格とされた。主要解析では449例(30%)が無作為化され、そのうち447例(99%)が解析に含まれた。平均年齢62.8歳(SD 12.1)、138例(31%)が女性、305例(68%)が白人、平均eGFRは46.7mL/分/1.73m2(SD 22.4)、UACR中央値は565.5mg/g(四分位範囲[IQR]:243.0~1,212.6)であった。447例の割り付けは、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群179例(40%)、zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン10mg群91例(20%)、ダパグリフロジン+プラセボ群177例(40%)。 試験期間を通して、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群とzibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン群は、ダパグリフロジン+プラセボ群と比較して、UACRの低下が認められた。 12週時点でダパグリフロジン+プラセボ群と比較したUACRの差は、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群は-33.7%(90%信頼区間[CI]:-42.5~-23.5、p<0.0001)、zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン群は-27.0%(-38.4~-13.6、p=0.0022)であった。 体液貯留は、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群で33/179例(18%)、zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン群で8/91例(9%)、ダパグリフロジン+プラセボ群14/177例(8%)で観察された。

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9月29日 世界心臓デー【今日は何の日?】

【9月29日 世界心臓デー】〔由来〕全世界で毎年1,750万人が心臓血管病を原因に亡くなっていることに鑑み、世界心臓連合が2000年より「世界ハートの日」を9月最終日曜日と定め、地球規模の心臓血管病予防キャンペーンを展開。その後、2011年から9月29日を「世界ハートの日」と制定し、この日を中心にフォーラムやイベントを各地で開催している。関連コンテンツ心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】知っておきたい循環器科で使うSGLT2阻害薬【診療よろず相談TV】心不全の入院後30日死亡率、国の経済レベルで3~5倍/JAMA冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会死亡・CVリスクを低下させる食事法は?40試験のメタ解析/BMJ

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2型糖尿病治療薬としてのGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutide(解説:住谷哲氏)

 筆者はこれまで、血糖降下薬多剤併用でも血糖管理目標が達成できない患者を少なからず経験したが、その多くは食欲がコントロールできない肥満合併患者であった。しかしGLP-1受容体作動薬の登場で、食欲抑制を介して体重を減少させることが可能となり、2型糖尿病治療は大きく前進した。最新のADA/EASDの血糖降下薬使用アルゴリズムにおいて、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬と同様に臓器保護薬として位置付けられている1)。しかし、GLP-1受容体作動薬はcardiovascular disease dominoのより上流に位置する肥満を制御することが可能な薬剤であり、この点がSGLT2阻害薬とは異なっている。 本試験は、GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの血糖降下薬としての有効性を検証した第II相臨床試験であるが、肥満症治療薬としての有効性を検証した試験の結果がほぼ同時に報告されている2)。そこでは約1年(48週)投与後の体重減少率が24%と、驚くべき効果が示されている。これはセマグルチド、チルゼパチドの体重減少作用を凌駕している。GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)が登場するまでは、最強のGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:オゼンピック)であった。しかしretatrutideが投与可能となれば、チルゼパチドは最強のGLP-1受容体作動薬の座をretatrutideに明け渡すことになるだろう。 開発企業のEli Lillyは、すでにretatrutideの臨床開発プログラムであるTRIUMPH programを開始しており、対象には肥満を合併した2型糖尿病だけではなく、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症の患者も含まれている。つまり、肥満を基礎とする広範な疾患に対する治療薬としての位置付けを目指しているようだ。 わが国で肥満症治療薬として認可されているGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:ウゴービ)だけであるが、近い将来にチルゼパチドもretatrutideも認可されるだろう。わが国でも増加し続けている肥満症患者のすべてに、これらの薬剤を投与することが医療経済的に正当化されるか否かは議論が必要だろう。英国のNICEのガイダンスのように3)、対象患者、投薬期間を明確にして無制限な使用に歯止めをかけることも必要かもしれない。

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遠隔血行動態モニタリングシステムは心不全患者のEFに関係なく入院を減少させ、QOLを改善する(解説:原田和昌氏)

 心不全患者のセルフケアは大きな問題である。心不全は高齢化の進行により増加し、多くの医療資源を必要とする。そのため、専門看護師が頻回に患者に電話連絡したり、心不全患者の各種パラメータを遠隔モニタリングしたりすることで、心不全の入院を防止したり、QOLを改善したり、死亡率を低下させたりすることが可能であるかという検討が以前より行われてきた。 遠隔モニタリングは何をモニタリングするか、侵襲的か非侵襲的か、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、警告値が出たときのアルゴリズムはどうするか、さらには警告値を見逃したり、発見が遅れたときの免責などが問題になる。したがって、遠隔モニタリング群がシステムとして、対照群よりも優れていることが臨床試験で証明されてガイドラインにて推奨され、各国の医療システムの償還の枠組みに載る、という手順を踏むことが必要となる。 肺動脈圧を持続的にモニタリングする遠隔血行動態モニタリングを用いたランダム化試験は、これまでにCHAMPION試験とGUIDE-HF試験の2つがある。前者は心不全入院歴のあるNYHAIII度の550例(EFは問わない)をランダム化し、6ヵ月で28%の入院の減少を得た。一方、後者は心不全入院歴のあるNT-proBNPが上昇したNYHAII~IV度の1,000例をランダム化したものであるが、HFrEF患者が中心であったとかCOVID-19などの関係もあり、はっきりした有効性を示すことができなかった。 MONITOR-HF試験は、オランダの25の施設が参加した非盲検無作為化試験であり、心不全入院歴のあるNYHAIII度の慢性心不全患者(EFは問わない)が、ARNIやSGLT2阻害薬を含む標準治療に加えて血行動態モニタリング(CardioMEMS-HFシステム、Abbott Laboratories)を行う群、または標準治療のみを受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。遠隔血行動態モニタリングは、QOLの実質的な改善をもたらし、心不全による入院を減少させた。 心不全の急性増悪は、臨床的うっ血すなわち徴候と症状の悪化の結果起こるが、徴候と症状が出現する前に血行動態的うっ血が出現すると考えられる。CardioMEMS-HFシステムはセンサーを肺動脈内に侵襲的に留置するシステムで、肺動脈圧を持続的にモニタリングすることで血行動態的うっ血を検出し、投薬量(主に利尿薬)の微調整によって心不全患者のうっ血状態の調整を行う。大事なのは、容量過多のときは利尿薬を増量するが、容量減少のときは利尿薬を減量する指示を適切に出すことである。さまざまな侵襲的、非侵襲的モニタリングシステムが開発されているが、最低でも利尿薬の微調整(増減)が可能な程度のクォリティが必要となる。 患者が間欠的にクイーンサイズ枕大の測定機器に寝転ぶと、測定された肺動脈圧が医療者のWEB画面に送信される。このデータを見て、投薬量の調整を患者に電話で指示するという仕組みである。論文には、「Clelandらによると、心不全を極めるにはうっ血を極めることである」とあるが、数多くの患者のWEB画面に対応する必要のある医療者の対応は、おそらくある程度決まったアルゴリズムに従うことになるであろう。 この研究は、今の時代において心不全診療における病院システムの負担を減らすためにもっと積極的にe-health、デジタル技術、遠隔モニタリングを活用することが必要であることを示すものである。しかし、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、異常値が出たときの指示のアルゴリズム、異常値を見逃したり、発見が遅れたときの法的問題などが、各国の医療システムに適応する際の共通の課題であると考えられる。

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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1~3章の改訂ポイント第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」で腎性貧血を伴う患者のHb目標値が改定第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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セマグルチド+cagrilintide配合皮下注、HbA1c低下に有効/Lancet

 2型糖尿病患者に対するセマグルチドとcagrilintideの皮下投与配合剤CagriSemaは、臨床的に意義のある血糖コントロール(持続血糖モニタリング[CGM]パラメータなど)の改善に結び付いたことが、米国・Velocity Clinical ResearchのJuan P. Frias氏らが行った、第II相多施設共同二重盲検無作為化試験で示された。CagriSemaによるHbA1c値の平均変化値は、cagrilintide単独よりも大きかったが、セマグルチド単独とは同等だった。体重は、CagriSema治療がcagrilintideやセマグルチドと比較して有意に大きく減少した。結果を踏まえて著者は、「今回のデータは、同様の集団を対象とした、より長期かつ大規模な第III相試験で、CagriSemaに関するさらなる試験を行うことを支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年6月23日号掲載の報告。メトホルミン治療中患者を対象に、CagriSema vs.セマグルチドvs. cagrilintide 試験は2021年8月~2022年7月に、米国の17医療機関で32週にわたって行われた。 BMI値27以上でメトホルミン治療中(SGLT2阻害薬服用の有無は問わず)の2型糖尿病成人患者を、無作為に1対1対1の3群に割り付け、CagriSema、セマグルチド、cagrilintide(いずれも2.4mgまで漸増)をそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化は、中央で双方向ウェブ応答システムを用いて行い、SGLT2阻害薬服用の有無で層別化もした。被験者、試験担当医、試験出資者側スタッフは、試験期間中、治療割り付けをマスクされた。 主要エンドポイントは、HbA1c値のベースラインからの変化で、副次エンドポイントは体重、空腹時血糖値、CGMパラメータおよび安全性などだった。 有効性に関する解析は、無作為化された全被験者を対象に行った。安全性に関する解析は、無作為化後に試験薬を1回以上投与された被験者を対象に行った。32週のHbA1c値、CagriSemaはcagrilintideより有意に低下、セマグルチドとは同等 2021年8月2日~10月18日に、被験者92例が、CagriSema群(31例)、セマグルチド群(31例)、cagrilintide群(30例)に無作為化された。59例(64%)が男性、平均年齢は58歳(SD 9)だった。 HbA1c値のベースラインから32週までの平均変化は、CagriSema群-2.2ポイント(平均変化値[SE]:0.15)、セマグルチド群-1.8ポイント(0.16)、cagrilintide群-0.9ポイント(0.15)だった。CagriSema群は、cagrilintide群よりも有意に変化幅が大きかった(推定治療群間差:-1.3ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.7~-0.8、p<0.0001)が、セマグルチド群とは有意差は認められなかった(-0.4ポイント、-0.8~0.0、p=0.075)。 ベースラインから32週までの体重の平均変化は、CagriSema群-15.6%(SE:1.26)、セマグルチド群-5.1%(1.26)、cagrilintide群-8.1%(1.23)と、CagriSema群はセマグルチド群、cagrilintide群のいずれよりも減少幅が有意に大きかった(両比較のp<0.0001)。 ベースラインから32週までの空腹時血糖値の平均変化は、CagriSema群が-3.3mmol/L(SE 0.3)、セマグルチド群-2.5mmol/L(0.4)、cagrilintide群-1.7mmol/L(0.3)で、CagriSema群はcagrilintide群と比べて有意に変化幅が大きかったが(p=0.0010)、セマグルチド群とは同等だった(p=0.10)。 time in range(TIR、3.9~10.0mmol/L)は、ベースラインではCagriSema群45.9%、セマグルチド群32.6%、cagrilintide群56.9%だったが、32週後にはそれぞれ、88.9%、76.2%、71.7%に上昇した。 有害事象は、CagriSema群21例(68%)、セマグルチド群22例(71%)、cagrilintide群24例(80%)で報告された。また、軽度~中等度の消化器系有害事象が多くみられたが、レベル2~3の低血糖や致死的有害事象は報告されなかった。

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肥満2型DMへの経口セマグルチド、最適な用量・期間は?/Lancet

 十分な血糖コントロールが得られていない2型糖尿病成人患者において、経口セマグルチド25mgおよび50mgは糖化ヘモグロビン(HbA1c)値低下および体重減少に関して、同14mgに対する優越性が確認され、安全性に関して新たな懸念は認められなかった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のVanita R. Aroda氏らが、14ヵ国177施設で実施された第IIIb相多施設共同無作為化二重盲検比較試験「PIONEER PLUS試験」の結果を報告した。セマグルチド1日1回経口投与は2型糖尿病の有効な治療法であり、セマグルチドの経口投与および皮下投与試験の曝露-反応解析では、曝露量の増加に伴いHbA1c値の低下および体重減少が大きくなることが示されていた。Lancet誌オンライン版2023年6月26日号掲載の報告。BMI値25以上、HbA1c値8.0~10.5%の1,606例を対象 研究グループは、HbA1c値8.0~10.5%、BMI値25.0以上、メトホルミン、スルホニルウレア系薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬のうち1~3種類の経口血糖降下薬の安定用量を投与されている18歳以上の2型糖尿病患者を登録し、セマグルチド14mg群、25mg群または50mg群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回朝空腹時の経口投与を68週間にわたって行った。 いずれの投与群もセマグルチド3mgから投与を開始し、4週時に7mg、8週時に14mg、その後、25mg群では12週時に25mg、50mg群では12週時に25mg、16週時に50mgに漸増した。また、ベースラインで服用していた経口血糖降下薬は、DPP-4阻害薬のみ中止とし、それ以外は同一の用法・用量で継続した。 主要エンドポイントは、HbA1c値のベースラインから52週時までの変化、検証的副次エンドポイントは体重のベースラインから52週時までの変化とし、intention-to-treat集団を対象に治療指針に基づく推定使用量(試験薬の中止やレスキュー治療の有無を問わない用量)を用いて評価した。また、セマグルチドを1回以上服用した全患者を対象に安全性を評価した。 2021年1月15日~9月29日に2,294例がスクリーニングを受け、1,606例が無作為に割り付けられた(14mg群536例、25mg群535例、50mg群535例)。患者背景は、男性936例(58.3%)、女性670例(41.7%)、平均(±SD)年齢58.2±10.8歳、平均HbA1c値9.0±0.8%、平均体重96.4±21.6kgであった。52週時のHbA1c値と体重の低下、14mg群と比較し25mg群、50mg群が有意に優れる 52週時におけるHbA1cの平均変化値(SE)は、セマグルチド14mg群-1.5%(SE 0.05)、25mg群-1.8%(0.06)、50mg群-2.0%(0.06)であった。治療指針に基づく推定使用量での評価の結果、セマグルチド14mg群に対する推定治療差(ETD)は、セマグルチド25mg群で-0.27%(95%信頼区間[CI]:-0.42~-0.12、p=0.0006)、50mg群で-0.53%(-0.68~-0.38、p<0.0001)であり、セマグルチド14mg群に対する優越性が示された。 52週時における体重の平均変化値(SE)は、セマグルチド14mg群-4.4kg(SE 0.3)、25mg群-6.7kg(0.3)、50mg群-8.0kg(0.3)であった。セマグルチド14mg群に対するETDは、セマグルチド25mg群で-2.32kg(95%CI:-3.11~-1.53、p<0.0001)、50mg群で-3.63kg(-4.42~-2.84、p<0.0001)であり、セマグルチド14mg群に対して優越性が示された。 有害事象は、セマグルチド14mg群で404例(76%)、25mg群で422例(79%)、50mg群で428例(80%)報告された。ほとんどが軽度から中等度であったが、胃腸障害が14mg群と比較して25mg群および50mg群で高率であった。死亡は10例報告されたが、治療との関連はないと判断された。 なお、著者は、用量漸増期間が最大16週と短期間であったこと、セマグルチド25mg群と50mg群の差は検証されていないこと、対象患者の大部分が白人であったことなどを研究の限界として挙げている。

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高齢者糖尿病診療ガイドライン2023、薬物療法のエビデンス増え7年ぶりに改訂

 日本老年医学会・日本糖尿病学会の合同編集である『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が5月に発刊された。2017年時にはなかった高齢者糖尿病における認知症、サルコペニア、併存疾患、糖尿病治療薬などのエビデンスが集積したことで7年ぶりの改訂に至った。今回、日本老年医学会の編集委員を務めた荒木 厚氏(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の改訂点について話を聞いた。 高齢者糖尿病とは、「65歳以上の糖尿病」と定義されるが、医学的な観点や治療、介護上でとくに注意すべき糖尿病高齢者として「75歳以上の高齢者と、身体機能や認知機能の低下がある65~74歳の糖尿病」と、より具体的な定義付けもなされている。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023の改訂ポイント6点 日本老年医学会、日本糖尿病学会の両学会は上記のような高齢者糖尿病患者における「低血糖による弊害」「認知症などの併存疾患の影響」などの課題解決のために2015年に合同委員会を設立、その2年後に高齢者糖尿病診療ガイドライン2017年版を発刊した。当時は治療薬のエビデンスなどが乏しかったが、国内外の新しいエビデンスが集積したこと、新薬が登場したこと、そして併存疾患に対する対策や治療目的が明確になったことから、今回6年ぶりの発刊となった。そのような背景のある『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』について、荒木氏は改訂ポイント6点を示した。<注目すべき6つのポイント>1)2017年時点では得られていなかった認知症、フレイル、サルコペニア、悪性腫瘍、心不全などの併存疾患やmultimorbidityに関するエビデンスが記載されている、Question・CQ(Clinical Question)に反映2)血糖コントロール目標を設定するためのカテゴリー分類を行うことができる認知・生活機能質問票(DASC-21)を掲載[p.228付録3]3)運動療法が糖尿病のみならず認知機能やフレイルにも良い影響を与える4)薬物療法ではSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の心血管疾患や腎イベントに対するリスク低減効果に関するエビデンスも集積5)2型糖尿病患者の注射のアドヒアランス低下の対策として、インスリン治療の単純化を記載6)社会サポート制度の活用 このほか、「高齢者糖尿病患者の背景・特徴については第I章に、治療については第IX章p.151~170に掲載されているので一読してほしい」とし、「治療の基本的な内容は『糖尿病治療ガイド2022-2023』にのっとっているので、両書を併せて読むことが理解につながる」とも話した。インスリン治療の単純化はアドヒアランス向上だけでなく、低血糖を減らす 高齢者の場合、腎・肝機能低下による薬剤の排泄・代謝遅延から有害事象を来しやすい。そのため低血糖をはじめ、これまで注意点が強調されることが多かった。一方で、高齢者糖尿病ではポリファーマシーになりやすく、さらに認知機能障害のため服薬アドヒアランスの低下を来しやすい。そのため減薬だけでなく、複雑な処方をシンプルにする“治療の単純化”を行うことが必要になる。2型糖尿病のインスリン治療においても注射のアドヒアランス低下の対策としてインスリン治療の単純化を行う研究が行われている。 これについて同氏は「たとえば、インスリン注射を1日複数回注射している2型糖尿病患者の場合、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などを追加することでインスリン投与回数を1日1回の持効型インスリンのみにすることが治療の単純化となる。このインスリン治療の単純化は、注射回数を1回にしても血糖コントロールは変わらない、もしくは改善し、インスリンの単位数が減ることで低血糖が減ることも報告されてきているため、インスリン治療の単純化は低血糖回避という観点からも有用であると考える。また、複数回のインスリン注射を週1回のGLP-1受容体作動薬やインスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更にすることも治療の単純化となり、低血糖を減らすことが可能となる」とコメント。「これは高齢者のインスリン治療法の大きな進歩」だとも述べ、また、「絶食の不要な経口のGLP-1受容体作動薬において種々の製剤が開発中であり、今後のインスリン治療の単純化にも役立つ可能性がある」ともコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドラインにSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のCQ追加SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は心・腎イベントに関するCQが『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』に新たに盛り込まれた。―――CQ IX-2:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は心血管イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ IX-3:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ X-1:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑制する【推奨グレードA】。CQ X-2:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。――― これについて「高齢者糖尿病においてもSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用は心・腎イベントのリスクや心不全による再入院リスクを低減させるエビデンスがあり、additional benefitがあることが明らかになった。したがって、この両剤はこれらの心・腎に対するベネフィットと副作用のリスクのバランスを考慮しながら使用する必要がある」と同氏はコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023でマルチコンポーネント運動を推奨 高齢者糖尿病でも若年者同様に運動療法は推奨され、血糖コントロールのみならず脂質異常症、高血圧、生命予後などの改善に有効とされ、『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』でも推奨されている。また、糖尿病のない患者と比べ筋量が減少しやすいため、サルコペニア予防としても重要な位置付けにある。今回、有酸素運動・レジスタンス運動・バランス運動・ストレッチングを組み合わせたマルチコンポーネント運動も推奨されている。ただし、高齢者糖尿病患者が行う際には、年齢や合併症、併存疾患、生活スタイルに合わせることがポイントである。 最後に同氏は、地域社会で高齢者糖尿病患者を支えることが今後より一層求められる時代になることから、『社会サポート制度』(p.217)についても言及し、「認知症然り、糖尿病でも地域で生活を続けていけるように、各自治体で高齢者糖尿病のQOLに寄り添うサービスが設けられている場合がある。たとえば、デイケア、通いの場、訪問看護、訪問栄養指導、訪問薬剤指導がそうであるが、そのようなサービスの存在に踏み込んだことも、本改訂での大きな特徴とも言える」と話した。

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急性冠症候群における早期SGLT2阻害薬使用の効果

 SGLT2阻害薬は糖尿病治療だけでなく、現在では心不全(HF)や腎不全の治療にその活躍のフィールドを拡大している。HFの臨床転帰を改善することは、すでにさまざまなエビデンスが報告されているが、早期の急性冠症候群(ACS)ではエビデンスは限定的であった。この疑問に対し、国立循環器病研究センターの金岡 幸嗣朗氏らの研究グループは、入院中の急性冠症候群患者に対し、SGLT2阻害薬の早期使用と非SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬の使用の関連を検討した結果を報告した。European Heart Journal-Cardiovascular Pharmacotherapy誌オンライン版2023年5月12日掲載。ACSへのSGLT2阻害薬の早期介入はイベント抑制につながる可能性 本研究は、レセプト情報・特定健診情報データベースを用いて後方視的コホート研究で行われた。対象は2014年4月~2021年3月までに20歳以上のACSで入院した患者。 主要アウトカムは、全死因死亡またはHF/ACS再入院の複合とした。1:1の傾向スコアマッチングを用いて、HF治療に応じて、非SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬と比較した早期SGLT2阻害薬使用(入院後14日以下)の転帰との関連を明らかにした。 対象となった38万8,185例のうち、重度のHFを有する患者は11万5,612例、有さない患者は27万2,573例であった。 主な結果は以下のとおり。・SGLT2阻害薬非使用者と比較し、SGLT2阻害薬使用者は、主要アウトカムとのハザード比(HR)が、重症HF群で低かった(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.76~0.91、p<0.001)・非症状HF群では有意差はなかった(HR:0.92、95%CI:0.82~1.03、p=0.16)・SGLT2阻害薬の使用は、DPP-4阻害薬と比較し、重症HFおよび糖尿病患者における転帰のリスクが低いことが示された(HR:0.83、95%CI:0.69~1.00、p=0.049) 以上の結果から金岡氏らの研究グループは、「早期ACS患者におけるSGLT2阻害薬の使用は、重症HF患者において主要転帰のリスクを低下させたが、重症HFではない患者ではその効果は不明だった。そのほか、HFあり群のうち、糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の開始は、わが国でよく用いられているDPP-4阻害薬の開始と比較しても、主要エンドポイントの減少と関連していた」と早期使用がイベント抑制につながる可能性を示唆した。

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併存症のある患者での注意点~高齢者糖尿病診療ガイドライン2023/糖尿病学会

 5月11日~13日に城山ホテル鹿児島をメイン会場に第66回 日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 高齢者の糖尿病患者では、糖尿病とは別に併存症があるケースが多い。では、糖尿病以外の疾病もある高齢者の糖尿病患者の診療はどうあるべきであろう。 本稿では、「シンポジウム10 より良い高齢糖尿病ケアを目指して」より「高齢者糖尿病の合併症と併存症」(杉本 研氏 [川崎医科大学総合老年医学])の口演をお届けする。 2023年5月に『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2023』(以下「ガイドライン」と略す)が上梓され、今回の口演は、このガイドラインの内容を踏まえて構成されている。 今回のガイドラインの改訂では、合併症と併存症につき、「併存症」が独立して章立てされた。また、併存症の予防・管理が、健康寿命の延伸には重要となることが改めて確認され、引き続き、高齢の糖尿病患者の診療では、平均余命の減少と低血糖の高リスクをどのように防止するかが重要とされている。 とくに杉本氏は「高齢者の併存疾患で注意したいのが、動脈硬化性疾患であり、高齢者のADLとQOLを大きく損ない健康寿命などに影響を与える」と診療での注意点を強調した。 続いて先のガイドライン中で「高齢者の併存疾患」を取り上げ、重要なポイントを説明した。 なお、ガイドラインでは、「CQ」と「Q」に分けて、「CQ」は「推奨度(推奨グレード)を問う疑問として回答が可能な臨床的疑問」を、「Q」は「CQ以外の臨床的疑問(推奨グレードは付さない)」について記述している。■高齢者の糖尿病治療が認知機能などの低下抑制になるかは不明 CQ V-3「高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か?」というCQでは「血糖コントロールが認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU:推奨するだけの明確根拠がない)、「糖尿病治療薬による治療が認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU)として研究の余地を残している。 Q V-4「高齢者糖尿病の高血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病または高血糖は、フレイル、サルコペニアの危険因子である」とされ、これについて杉本氏は「8つのメタ解析から糖尿病はフレイルの危険因子となり(オッズ比1.48)1)、サルコぺニアはBMI25以下で増加する」と説明した。 同様にQ V-5「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコぺニアに危険因子である」としている。 Q V-6「高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か?」というQでは「高齢者糖尿病の血糖コントロールが筋量や筋力の維持に有効かは明らかではない」としている。ただ、HbA1cとサルコぺニアの関係では、いくつかの論文で弱い相関を示唆するものもあり、今後研究が待たれる。また、薬物治療の影響については、フレイルとSGLT2阻害薬との関係は「現状では『明らかでない』としか言えない」と杉本氏は説明した。 Q V-8「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子であり、インスリン使用者ではとくに注意を要する」と転倒への注意を記載している。 Q V-9「高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か?」というQでは「高齢者糖尿病における血糖コントロール状態は転倒に影響するが、厳格な血糖コントロールの影響は明らかではない」、「高齢者糖尿病における血糖コントロールの改善が転倒の予防に有用であるかは不明である」と研究の余地を残している。■高齢者糖尿病の心不全の予防・改善に糖尿病治療薬は有効か 悪性腫瘍や心不全、multimorbidity(多疾患罹患)についても触れ、とくに心不全、multimorbidityでは次の3つのQについて説明を行った。 Q V-16「高齢者糖尿病において糖尿病治療薬は心不全の予防・改善に有効か?」というQでは、「高齢者糖尿病においてSGLT2阻害薬は心不全の予防・改善に有効な可能性がある」とする一方で「高齢者糖尿病においてDPP-4阻害薬が心不全リスクに及ぼす影響は明らかではない」と記載している。 そして、このQに関して杉本氏は、SGLT2阻害薬による心不全への影響は70歳以上でより良かったとする報告2)がある一方で、有意なBNPの低下がなかったとする報告もある3)ことを述べ、自験例としながらもSGLT2阻害薬で左室心筋重量係数(LVMI)の低下がみられたことを報告した。 Q V-18「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすいか?」というQでは、「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすい」と記載している。 また、Q V-19「高齢者糖尿病のmultimorbidityではどのような点に注意すべきか?」というQでは「高齢者糖尿病のmultimorbidityにどのような対応を行うべきかのエビデンスは不足しているが、低血糖に注意し、多職種で患者・家族の意思決定の支援をしながら目標を設定していくことが望ましい」と記載している。 今回のガイドラインを受け杉本氏は75歳以上では4つ以上の疾患の合併割合が多くなること、とくに認知症、腎機能不全、骨折が多くなることを指摘するとともに、「重症低血糖では、糖尿病治療薬もインスリンやSU薬など3剤以上の併用も多くなり、ポリファーマシーへの配慮も必要」と述べ、口演を終えた。■参考文献1)Hanlon P, et al. Lancet Healthy Longev. 2020 Dec;1:e106-e116.2)Martinez FA, et al. Circulation. 2020;141:100-111.3)Tamaki S, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e007048.

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フォシーガ、心不全の罹患期間によらず、循環器・腎・代謝関連の併存疾患で一貫したベネフィット/AZ

 AstraZeneca(英国)は、チェコのプラハで開催された欧州心臓病学会の心不全2023年次総会において、第III相DELIVER試験の2つの新たな解析結果から、心不全(HF)の罹患期間にかかわらず、循環器・腎・代謝(CVRM)疾患のさまざまな併存状態におけるフォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)の一貫したベネフィットが裏付けられたと発表した。 第III相DELIVER試験の事前規定された解析として、左室駆出率(LVEF)が40%超の心不全患者におけるフォシーガの治療効果を、HFの罹患期間(6ヵ月以内、6ヵ月超~12ヵ月以内、1年超~2年以内、2年超~5年以内、および5年超)別に検討した。その結果、フォシーガのベネフィットがHFの罹患期間にかかわらず一貫していることが示された。さらに、高齢かつ1つ以上の併存疾患を有し、HF悪化および死亡率の高い、罹患期間が長期にわたるHF患者において、絶対利益が増加した(治療必要数[NNT]:HF罹患期間5年超の患者と6ヵ月以内の患者との比較で24:32)。 CVRM関連の併存疾患の有病率およびさまざまな併存状態でのフォシーガに対する被験者の反応を評価した第III相DELIVER試験の事後解析結果も発表され、同時にJACC Heart Failure誌に掲載された。本解析結果によると、LVEFが40%超のHF患者では、5例中4例以上の割合で他のCVRM疾患を少なくとも1つ併発しており、5例中1例の割合でHFに加えて3つのCVRM疾患を併発していた。また、フォシーガは忍容性が良好であり、その治療ベネフィットはCVRM疾患の併存状態に関係なく一貫していた。 ハーバード大学医学部およびブリガム&ウィメンズ病院の内科学教授で、第III相DELIVER試験の主任治験責任医師を務めるScott Solomon氏は「現在の診療では、罹患期間が長期にわたる心不全患者は、新しい治療を追加しても反応しない、または忍容性が低い進行性疾患に罹患していると見なされる可能性がある。第III相DELIVER試験のデータは、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンによる治療ベネフィットは心不全の罹患期間にかかわらず一貫しており、患者にとって治療が決して遅すぎることがないことを示している。このデータは、心不全におけるダパグリフロジンの有効性に関するエビデンスの拡大を裏付け、ダパグリフロジンが、新たに診断された患者と同じように長期に罹患している患者に対しても役立つことを実証している」と述べた。 また、AstraZenecaのバイオ医薬品事業部門担当、エグゼクティブバイスプレジデントであるRuud Dobber氏は「CVRM疾患が患者そして社会に及ぼす影響は計り知れない。しかしながら、これらの患者に対する診断、治療は不十分であり、CVRM疾患における相互関係も十分に認識されていない。第III相DELIVER試験の結果から、心不全患者が2型糖尿病や慢性腎臓病といった他のCVRM疾患を併発していることがいかに一般的であるかが浮き彫りとなった。今回発表された新たな解析は、あらゆる心・腎疾患に対してベネフィットをもたらすフォシーガの価値をさらに示しており、心不全や他のCVRM疾患を有する何百万人もの患者の治療を根本的に変えるという私たちのコミットメントを強調している」とした。

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SGLT2阻害薬の高齢者への処方の安全性-EMPA-ELDERLY/糖尿病学会

 5月11~13日に鹿児島で第66回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 本稿では、近年、心血管疾患への治療適応も拡大しているSGLT2阻害薬について、口演「日本人高齢2型糖尿病患者を対象としたエンパグリフロジンの製販後試験」(矢部 大介氏[岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 教授])をお届けする。SGLT2阻害薬の高齢者への有効性・安全性について検討したEMPA-ELDERLY試験 日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」によれば、SGLT2阻害薬の位置付けは、肥満の有無(インスリンの分泌不全/抵抗性)にかかわらずStep1で選択されることになっている。また、併存疾患として慢性腎臓病、心不全、心血管疾患でも選択が表記されている(Step3)。その一方、SGLT2阻害薬の使用頻度が増す中で、高齢2型糖尿病患者への安全性は十分に確立されていない現状がある。 そこで矢部氏は、高齢糖尿病患者への有効性・安全性について検討されたSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの国内第IV相臨床試験であるEMPA-ELDERLY試験の内容を報告した。 EMPA-ELDERLY試験は、わが国の2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの長期投与と血糖降下への効果、安全性、体組成・筋力などへの影響をプラセボと比較した多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間試験である。【主たる組み入れ基準】・65歳以上の日本人2型糖尿病患者・食事療法、運動療法のみ、または経口血糖降下薬(ビグアナイド、DPP-4阻害薬など)で血糖コントロール不十分な患者【評価項目】主要評価項目:ベースラインから52週間後までのHbA1c変化量副次評価項目:ベースラインから52週間後までの体組成(筋肉量、体脂肪量、徐脂肪量など)の変化量、握力の変化量など【対象患者の背景】(127例)患者数:プラセボ(63例)、エンパグリフロジン(64例)年齢平均:プラセボ(74.0歳)、エンパグリフロジン(74.2歳)平均ベースラインBMI:プラセボ(25.4)、エンパグリフロジン(25.7)(*BMI22未満の痩身者は非対象として除外)罹病歴平均:プラセボ(11.8年)、エンパグリフロジン(12.4年)HbA1c平均:プラセボ(7.6%)、エンパグリフロジン(7.6%)EMPA-ELDERLY試験で高齢者でもSGLT2阻害薬が血糖コントロールを改善 SGLT2阻害薬の高齢者への有効性・安全性について検討したEMPA-ELDERLY試験の主な結果は以下のとおり。・ベースラインから52週間後までのHbA1c変化量推移は、プラセボ群と比べエンパグリフロジン群はHbA1cの低下が52週目まで続いていた。・HbA1c調整平均変化量では、プラセボ群-0.12%に対し、エンパグリフロジン群では-0.69%(調整平均の差-0.57%)とエンパグリフロジン群が有意に低下していた(p<0.0001)。・52週後のベースラインからの体重変化では、プラセボ群が-0.90kg、エンパグリフロジン群が-3.27kg(調整平均の差-2.37kg)とエンパグリフロジン群で有意に低下していた(p<0.0001)。・体組成では、体脂肪についてプラセボ群で+0.08kg、エンパグリフロジン群で-1.77kg(調整平均の差-1.84kg)と体脂肪で大きく変化がみられた(p<0.0001)。・筋力について、握力ではプラセボ群で-0.6kg、エンパグリフロジン群で-0.9kg(調整平均の差-0.3kg)と大きな差はなかった(p<0.4208)。また、5回椅子立ち上がりテスト(秒数)でもプラセボ群で-0.9秒、エンパグリフロジン群で-0.9秒(調整平均の差0秒)と差はなかった(p<0.9276)。・有害事象としては、重症度の軽い低血糖がプラセボ群、エンパグリフロジン群で各1例ずつ報告があったが、エンパグリフロジン群では死亡などは報告されなかった。 以上のEMPA-ELDERLY試験の結果を踏まえ、矢部氏は「高齢者においても、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは血糖コントロールを有意に改善した。また、脂肪量を減らすことで体重を低下させると同時に筋肉量減少などの変化は、プラセボ群と比較し、変化が認められなかった。エンパグリフロジンは忍容性も良好で、新たな有害事象もなかった」と報告をまとめた。

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2型糖尿病の薬物療法で最適な追加オプションは?(解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の登場により、近年2型糖尿病の薬物療法が大きく変わった。既存の糖尿病治療薬では認められなかった、心血管イベントや腎不全を抑制する効果が数多く報告されたからだ。さまざまな糖尿病治療薬の中からどの薬剤を選択するか、その判断の一助になるネットワークメタ解析の論文がBMJ誌に発表された1)。 この論文の背景として、2年前の2021年に同じBMJ誌に掲載された論文について少し触れたい。この当時すでにGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬のエビデンスは集積しており、これら2製剤がこれまでの糖尿病治療薬と比較して全死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全、体重減少などのベネフィットがあることがネットワークメタ解析により明らかになった2)。また桑島 巖先生(J-CLEAR理事長)がこの論文に対するコメントを執筆しているのでご一読いただきたい3)。 今回の論文の新しい点は、従来治療薬に追加するオプションとして、最近登場したGIP/GLP-1受容体作動薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)の2製剤が加わったことである。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、MR拮抗薬を含む13種類の薬剤の中から追加投与した場合の、死亡や心血管系および腎臓系の有害アウトカムの減少、体重減少などについてシステマティックレビューとネットワークメタ解析が実施された。 解析の結果、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬については全死亡、心血管死、非致死性心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全の抑制に有効であることが示されたが、これまでのRCTやネットワークメタ解析の結果と同様であり新規性はない。一方、MR拮抗薬のフィネレノンが全死亡、心不全による入院、末期腎不全の減少に効果的である可能性が示された点は新しい知見である。MR拮抗薬は糖尿病治療薬ではないが、腎臓系の有害アウトカムについてはSGLT2阻害薬より劣るものの効果がある可能性があり、心不全による入院や全死亡も低下させる可能性が示されたため、今後日常診療で使用される頻度が増えるだろう。 今回の解析で、13種類の製剤の中でGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が心血管系および腎臓系の有害アウトカムや死亡の減少、さらにQOLの改善に最も効果があることが確認された。一方、GIP/GLP-1受容体作動薬については、体重減少効果は最も大きかったが、GLP-1受容体作動薬で認められる死亡や心血管・腎イベントの抑制効果は認められなかった。新しい薬剤のため解析対象となった試験が少ないことが影響しているのかもしれない。今後のGIP/GLP-1受容体作動薬の臨床研究に期待したい。 有害事象については、SGLT2阻害薬では性器感染症、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬では胃腸障害、MR拮抗薬では入院を要する高カリウム血症のリスクが高かった。いずれも薬剤クラス固有のものであり、とくに目新しい有害事象の報告はなかった。 近年、ネットワークメタ解析を用いた臨床研究の論文が増えていると感じる。従来のメタ解析では2種類の治療薬の比較しかできないが、今回の論文のように3種類以上の比較を行うことができるのがネットワークメタ解析のメリットである。しかし、このネットワークメタ解析により、新たに大きなエビデンスが生み出されるというわけではないことに注意しなければならない4)。ネットワークメタ解析は、RCTよりエビデンスレベルは下がるものの、今回のように比較したい糖尿病治療薬が多数あるような場合には、治療の「次の一手」を選択する際に参考となるデータを提供してくれる手法である。

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心不全患者とポリファーマシーの本質を考える【心不全診療Up to Date】第8回

第8回 心不全患者とポリファーマシーの本質を考えるKey Pointsポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーへの対策潜在的不適切処方、有害事象を起こす可能性のある薬剤はないか?本気の多職種連携で各施設・地域に合った効率良い対策を考えるはじめにこれまで、心不全患者において、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)を行うことの重要性を詳しく説明してきた。ただ、その際、常に議論となるのが、ポリファーマシー(多剤併用)問題である。この問題の本質は何か、そしてその対策としてすぐにできることは何か、本稿ではこのポリファーマシーを取り上げてみたい。 ポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーを考える上で大切になってくるのが、「質」と「量」という視点である。「質」的なポリファーマシーとは、臨床的に必要とされる以上に多くの薬剤を処方されている状態であり、「量」的なポリファーマシーとは、5種類以上の薬剤内服と定義される。「量」的なポリファーマシーの中でも、10種類以上を内服している場合を“ハイパーポリファーマシー”と呼ぶが、TOPCAT試験(EF≥45%、平均69歳)のサブ解析1)にて、このような症例では入院のリスクが1.2倍であったという報告もあり(図1)、数が多いということも予後に大きく関連することがわかっている。つまり、「質」と「量」の両面から、このポリファーマシーというものをしっかり考えることが、薬剤数を適切に減らすうえで、極めて重要となる。(図1)心不全患者のポリファーマシー画像を拡大するでは、「質」的なポリファーマシーを考えるうえで何が一番重要となるか。それは、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼす疾患・病態をしっかり把握し、薬剤の中でもできる限りの優先順位をつけておくことであろう。この連載のテーマは、心不全診療であるので、今回は、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼすものが心不全である場合を考えていきたい。たとえば、駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者においては、第1回で説明した通り、生命予後・QOL改善のために、原則4剤(RAS阻害薬/ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)の投与が推奨されており、どれだけ薬剤数が多くて何かを減らしたいとしても、この4剤は原則最後まで残しておくべきである。もちろん、食事摂取状況やADLなどの患者背景、腎機能などの検査所見などから、この4剤のうちどれかを中止せざるを得ない場面に遭遇することもあるが、安易な中断はかえって予後を悪化させるリスクもあり、注意が必要である。さらに例えて言うと、高カリウム血症よりも心不全予後改善薬を中止するほうが、長期的には予後やQOLを悪化させる可能性もあり2)、一旦中止してもその後に再開できないかを常に検討することが重要と考えられる。そして、もしその4剤の中のどれか1つでも投与開始や再開を見送る場合は、その薬剤を『投与しないリスク』についても患者側としっかり共有しておくことも忘れてはならない。そして、ポリファーマシーを考える上で、もう一つのキーとなる言葉が、『服薬アドヒアランス』である。この大きな原因は、患者自身がなぜその薬剤を飲んでいるか理解していないことが挙げられる。ある研究では、心不全患者の41%において、服薬アドヒアランスの低下を認め、この群では、アドヒアランス良好な群と比較して、心不全入院または死亡のリスクが2.2倍に上昇していたと報告されている3) 。つまり、ポリファーマシー対策を考える上で、患者といかに共同意思決定(Shared Decision Making)を行うか、など服薬アドヒアランス向上のための戦略もセットで、それぞれの施設や地域に適した形で考えることも大変意義のあることである。では少し具体的な対策について考えてみたい。ポリファーマシーへの対策1. 潜在的不適切処方(Potentially inappropriate medications:PIMs)、有害事象を起こす可能性がある薬剤(Potentially harmful drug:PHD)はないか?ポリファーマシー改善の第一歩は、PIMsがないか、適宜、処方されているすべての薬剤の見直しを行うことである。とくに、外来主治医が一人ではない場合、システム上それが漏れてしまうことが多く、年に1回でもよいので、総点検を実施することが大切である(できれば病院のシステムとして)。その際に参考となるプロトコル、アルゴリズムを表と図2に示す。(表)処方中止プロトコル画像を拡大する(図2)処方薬の中止/継続を判断するためのアルゴリズム画像を拡大するこのようなものをベースに、それぞれの施設に合った形で実施していただければ、大変効果的であると考える。そして、もう一つ重要なのが、心不全患者で注意すべき有害事象を起こす可能性がある薬剤(PHD)を服用していないか、ということにも注意を払うことである。その薬剤については、米国のガイドラインに明記されており、(1)抗不整脈薬、(2)Ca拮抗薬(アムロジピン以外)、(3)NSAIDs、(4)チアゾリジン薬(商品名:アクトスほか)である10)。とくに、抗不整脈薬は、加齢に伴い生理・代謝機能が低下することで、体内の薬物動態が変化し、本来の目的ではない催不整脈作用や併用薬の相互作用が顕在化するリスクがあるので、きわめて注意が必要である。また、NSAIDsは、腎臓の血管拡張を抑制(低下)させる腎プロスタグランジンの合成を阻害し、太いヘンレ係蹄上行脚や集合管でのナトリウム再吸収を直接阻害することで、ナトリウムと水分の貯留を引き起こし、利尿薬の効果を鈍らせる可能性がある4-9)。いくつかのコホート研究にて、心不全患者がNSAIDsを使用することで罹患率、死亡率が増加すること、また2型糖尿病患者のデータで、1ヵ月以内の短期のNSAIDsの使用であっても、その後の心不全新規発症率上昇と有意に関連していたという報告も最近されており、たとえ短期の使用であっても定期内服はかなり注意が必要と言える11)。 なお、心不全入院からの退院後90日以内に処方された潜在的有害薬物と再入院・死亡との関連をみた観察研究によると、潜在的有害薬物が実際に処方されていた割合は約12%で、最も頻繁に処方されていた薬剤はNSAIDs(6.7%)であった。次に多かったのが、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(4.7%)で、Ca拮抗薬はその後の再入院とも有意に関連していた12)。これらのことから、とくに高齢心不全患者では、上記4種の薬剤のなかでも、抗不整脈薬、NSAIDsの定期投与は、必要最小限に留め、処方する場合も常に中止を検討することが望ましいと考える。2. 本気の多職種連携で、それぞれの施設、地域に合った効率良い対策を考えるこれまで述べてきたポリファーマシー対策を効率よく実施し、それを長続きさせるには、医師だけでできることは時間的にも大変限られており、薬剤師、看護師、心不全療養指導士の皆さまにも積極的に介入してもらえるようなシステム作りが重要と考える。薬剤師による介入は、高齢者における薬剤有害事象のリスクを軽減することに有用であるという報告もあるし13)、これらのスタッフ全員がうまく役割分担をして、尊重し合い、サポートし合いながら、ポリファーマシー対策を実施することが、高齢心不全患者が増加しているわが国ではとくに必要であり、今後その重要性はますます増してくるであろう。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムの重要性は本邦の心不全診療ガイドラインでも明記されており14)、ぜひ、年に1回は、『処方薬、総点検週間』を設けるなど、積極的なポリファーマシーへの介入を実施していただければ幸いである。1)Minamisawa M, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e008293.2)Rossignol P, et al. Eur Heart Fail. 2020;22:1378-1389.3)Wu JR, et al. J Cardiovasc Nurs. 2018;33:40-46.4)Gislason GH, et al. Arch Intern Med. 2009;169:141-149.5)Heerdink ER, et al. Arch Intern Med. 1998;158:1108-1112.6)Hudson M, et al. BMJ. 2005;330:1370.7)Page J, et al. Arch Intern Med. 2000;160:777-784.8)Feenstra J, et al. Arch Intern Med. 2002;162:265-270.9)Mamdani M, et al. Lancet. 2004;363:1751-1756.10)Yancy CW, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;62:e147-239.11)Holt A, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1459–1470.12)Alvarez PA, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:1862-1871.13)Vinks THAM, et al. Drugs Aging. 2009;26:123-133.14)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

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