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アジア人の小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの長期的な有用性

 韓国・Severance HospitalのByoung-Uk Kim氏らは、6~17歳のアジア人小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの長期的な改善効果と安全性を評価するため、本研究を実施した。その結果、アリピプラゾールは、小児期自閉スペクトラム症患者の問題行動や適応機能を改善し、その効果は治療開始から1年近くまで持続しており、忍容性も良好であることを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌2022年9月号の報告。 自閉スペクトラム症患者に対する12週間のアリピプラゾール治療の有効性および安全性を評価した先行研究の後に、52週間の非盲検フレキシブルドーズ(2~15mg/日)による延長試験を実施した。有効性の評価には、異常行動チェックリスト(ABC)、臨床全般印象度(CGI)、子供のYale-Brown強迫尺度(CY-BOCS)、Vineland適応行動尺度(VABS)、PSI育児ストレスインデックスショートフォーム(PSI-SF)を用いた。安全性および忍容性の評価には、有害事象、バイタルサイン、心電図検査、臨床検査、体重、錐体外路症状(EPS)を含めた。 主な結果は以下のとおり。・52週間の治療期間中に、ABC、CGI、CY-BOCS、VABS、PSI-SFのスコアを含むすべての有効性の改善が認められた。・安全性では、治療による有害事象(TEAE)を経験した患者の割合は、58.62%(58例中34例、75件)であった。・最も一般的なTEAEは、鼻咽頭炎20.69%(58例中15例)であり、発生率10%以上のTEAEは体重増加(18.97%、58例中11例)であった。・薬剤性副作用は27.59%(58例中16例、28件)で認められ、体重増加(15.52%、58例中9例)が最も多かった。・重篤な有害事象の発生率は5.17%(58例中3例、3件)で認められた。発現した骨端線離開、発作、自殺企図は、薬剤性の副作用ではなかった。・EPSの評価においては、臨床的に有意な変化は観察されなかった。

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非重度のうつ病治療における運動介入と薬物療法の比較~メタ解析

 中国・香港大学のFrancesco Recchia氏らは、重度でない成人うつ病の抑うつ症状軽減に対する運動介入、抗うつ薬治療、これらの併用療法の有効性を比較するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、重度でない成人うつ病患者の抑うつ症状軽減に対し、運動介入と薬理学的介入の効果に差はないことを報告した。著者らは、「本結果は、このような患者に対する抗うつ薬治療の代替療法または補助療法として、運動療法の検討を支持するものである」としている。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2022年9月16日号の報告。 対象研究は、1990年以降に報告された重度でない成人うつ病患者を対象に、運動介入、抗うつ薬治療、これらの併用療法の有効性について単独または対照/プラセボと比較したランダム化比較試験とし、Embase、MEDLINE、PsycINFO、Cochrane Library、Web of Science、Scopus、SportDiscusより検索した。バイアスリスク、非直接性、ネットワークの全体的な信頼性の評価は、2人の独立した研究者により行った。抑うつ症状の重症度における介入後の群間比較を行うため、ネットワークメタ解析を実施した。介入後の治療中止は、治療に対する受容性として評価した。 主な結果は以下のとおり。・25件の比較を含む21件のランダム化比較試験(2,551例)を分析に含めた。・運動介入、抗うつ薬治療、これらの併用療法の治療効果に差は認められなかった。ただし、すべての治療は、対照群よりも有益であった。 ●運動介入vs.抗うつ薬治療(標準化平均差[SMD]:-0.12、95%CI:-0.33~0.10) ●併用療法vs.運動介入(SMD:0.00、95%CI:-0.33~0.33) ●併用療法vs.抗うつ薬治療(SMD:-0.12、95%CI:-0.40~0.16)・運動介入は、抗うつ薬治療よりも治療中止率が高かった(リスク比:1.31、95%CI:1.09~1.57)。・不均一性は、中程度であった(τ2=0.03、I2=46%)。

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第131回 感染症後の体調不良(sickness behavior)を誘発する脳神経を同定

感染症は病原体を直接の原因とはしない食欲低下、水分を摂らなくなる(無飲症)、倦怠感、痛み、寒気、体温変化などのとりとめのない種々の症状や生理反応を引き起こします。ともすると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状の一因かもしれないそういう体調不良(sickness behavior)に寄与する脳の神経がマウス実験で同定されました1)。よく知られているとおり人体は絶えずある種の均衡を保とうとし、体温、食欲、睡眠などを調節しています。われわれが日々健康に生きられるのも恒常性と呼ばれるその均衡のおかげです2)。しかし病気になってその均衡が崩れると上述したような一連の症状や生理的反応が生じます。sickness behaviorの少なくとも幾らかは脳幹に端を発することが先立つ研究で示唆されています3)。今は米国バージニア州のJanelia Research Campusに籍を置くAnoj Ilanges氏やその同僚はさらに突き詰めて脳幹のどこがsickness behaviorの発端なのかを同定することを目指しました。最初にIlanges氏らは細菌感染と同様にsickness behaviorを引き起こす細菌毒素・リポ多糖(LPS)をマウスに注射し、続いて脳のどこが活性化するかをFOSと呼ばれるタンパク質を頼りに探りました。FOSは神経発火の後で発現することが多く、神経活動の目安となります2)。そのFOSがLPS注射マウスの脳幹で隣り合う2つの領域・孤束核(NTS)と最後野(AP)に多く認められました。LPSに反応するとみられるそれら2領域を活性化したところLPSがなくともsickness behaviorが生じ、NTS- AP領域こそsickness behaviorに寄与する神経の在り処であることが確かになりました。さらなる研究によりそれら神経はタンパク質(神経ペプチド)ADCYAP1を発現していることも判明し、ADCYAP1発現神経を活性化するとNTS- AP領域の活性化の時と同様にLPSが誘発するsickness behaviorが再現されました。また、それらADCYAP1発現神経を阻害するとLPS投与後に見られる食欲低下、無飲症、運動低下を解消とはいかないまでも和らげることができました。sickness behaviorに寄与するのはNTS- AP領域の神経のみというわけではなさそうで、今回の報告と同様にNatureに掲載された別のチームの最近の研究では発熱、食欲低下、暖を取る行動などのsickness behavior症状に視床下部の神経が不可欠なことが示されています4)。今回の研究で対象外だった睡眠障害や筋痛などの他のsickness behaviorの出どころの検討も興味深いところです2)。NTS-AP領域は脳と各臓器の連絡路・迷走神経からの信号を直接受け取り、血中に放たれたタンパク質などの体液性信号を感知することが知られています。今回の研究ではsickness behaviorを引き起こすNTS-AP神経の反応がどの生理成分を頼りにしているのかはわからず仕舞いでした。ウイルスや非細菌感染症でもNTS-AP神経が果たして活性化するのかどうかも調べられていません。ロックフェラー大学在籍時に今回の研究を手掛けたIlanges氏は今の職場であるJanelia Research Campusで続きに取り組む予定であり、他の研究者の加勢も期待しています。Ilanges氏等の今回の結果は何らかの理由でsickness behaviorが解消しない患者の治療の開発に役立ちそうです。たとえば慢性的に不調の患者の食欲を回復させる薬が実現するかもしれません。また、広い意味では感染症への対抗に脳の役割が不可欠なことを示した今回の成果を契機にADYAP1発現神経活性化後の脳の反応、sickness behaviorの持続の調節の仕組み、COVID-19の罹患後症状などの感染後慢性症状へのNTS-AP経路の寄与の検討5)などのさまざまな研究が今後続いていくでしょう2)。参考1)Ilanges A, et al.Nature.2022;609:761-771.2)Research Pinpoints the Neurons Behind Feeling Ill / TheScientist3)Konsman JP, et al. Trends Neurosci.2002;25:154-9. 4)Osterhout JA, et al.Nature.2022;606:937-944.5)Infection Activates Specialized Neurons to Drive Sickness Behaviors / Genetic Engineering & Biotechnology News.

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TILsを有するTN乳がんへの術前ニボルマブ±イピリムマブ、高い免疫活性示す(BELLINI)/ESMO2022

 術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の追加による、早期トリプルネガティブ(TN)乳がん患者の転帰改善が報告されているが、どのような患者にICIが有効なのか、そしてどのような患者で術前化学療法のde-escalationが可能なのかは分かっていない。また早期TN乳がんでは、抗PD-1抗体への抗CTLA-4抗体の追加は検討されていない。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏らは、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILsを有するTN乳がんにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的として、第II相非無作為化バスケット試験(BELLINI試験)を実施。その最初の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:T1c~T3、TILs≧5%のTN乳がん患者 31例・試験群:ニボルマブ群(NIVO群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル 16例ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル+イピリムマブ(1mg/kg)×1サイクル 15例※両群ともにTIL5~10%:5例、TIL11~49%:5例、TIL≧50%:5例※両群ともに4週間後患者は術前化学療法あるいは手術を受ける・評価項目:[主要評価項目]4週間後のCD8+T細胞および/またはIFN-γ発現の2倍変化で定義される免疫活性化[副次評価項目]安全性、放射線学的反応(RECIST1.1)、トランスレーショナル解析※Simonの2段階デザインにより、30%の患者で免疫活性が確認された場合、コホートの拡大が可能となる。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点の年齢中央値はNIVO群48歳、NIVO+IPI群50歳。grade3腫瘍が93.8%、73.3%。BRCA1/2変異有が18.8%、20.0%だった。無作為化されていないため、NIVO群ではN0が81.3%と最も多かったのに対し、NIVO+IPI群ではN1が60.0%と最も多かった。・4週間後の放射線学的部分奏効(PR)は7/31例(23%)で認められ、うちNIVO群3例(19%)、NIVO+IPI群4例(27%)であった。また、7例のうち3例はTIL≧50%、4例はTIL11~49%だった。・主要評価項目である4週間後の免疫活性化はNIVO群8例(53.3%)、NIVO+IPI群9例(60.0%)でみられ、コホート拡大基準(30%)を満たした。・PRを示した患者ではベースライン時点のIFN-γ発現量が多かった(p=0.014)。・ベースライン時点のCD8+T細胞レベルは奏効と相関しなかったが、空間解析により、CD8+T細胞が腫瘍細胞により隣接していることが奏効と強く関連していることが明らかになった(p=0.0014)。・ベースライン時点では全体の83%の患者でctDNA陽性が確認されたが、4週間後のctDNAクリアランスは24%の患者で確認された。・安全性については、Grade3以上の有害事象はNIVO群1例(6%、甲状腺機能亢進症)、NIVO+IPI群1例(7%、糖尿病)のみであった。 Kok氏らは、TILsを有するTN乳がん患者の多くが、わずか4週間のICI投与で免疫活性の上昇を示し、臨床効果が得られたことから、TN乳がん患者に対する術前化学療法なしのICI投与の可能性が示唆されたと結論付けている。そのうえで同氏は今後の展望として、NIVO群vs. NIVO+IPI群のシングルセル解析や、TIL>50%・N0の患者群における6週間のニボルマブ+イピリムマブ投与後手術を行った場合のpCR率の評価が必要とした。

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臨床留学の最大の魅力…それはバケーション!【臨床留学通信 from NY】第37回

第37回:臨床留学の最大の魅力…それはバケーション!臨床留学の最大の魅力…それはバケーションです。日本の病院だとどうも忙しいですし、有給があってもなかなか取りづらい。2週間も休むことはまずありませんでした。祝日は日本のほうが多いですが、ゴールデンウィークなどの連休は、循環器科は病院にいなければならない当直業務が多く、結局当該科が半分ずつ分担しながら休む程度で、長い休みを取ることはありませんでした。しかしながら、米国において臨床医はおおむね年4週間の休暇が取れます。ほとんどは2週間ずつ取る形でした。渡米後5年目になりますが、留学当初は日本に帰ることはありましたが、コロナの関係で帰りづらくなり、また、だんだんと帰りたい欲もなくなってきました。丸々2週間出掛けることは外食続きになってしまいなかなか難しく(もちろん金銭的にもですが)、旅行は4~5泊程度にしています。コロナのピーク時はまったくどこにも出掛けないこともありましたが、それでも2週間は仕事から(すなわち英語から)離れてリフレッシュできるというのは、日本ではなかなかできないと言えるでしょう。これまでの家族旅行としては、渡米当初に奮発したディズニー・クルーズで、フロリダからカリブ海の島々へ行ったり、最近ではカリブ海に浮かぶアメリカ領のプエルトリコに行ったりしました。日本の時より収入が格段に減っていて、かつ生活費が2~3倍以上にまで膨れ上がってる現状において、贅沢旅行は難しいですが、それでも家族と過ごす貴重な時間です。この夏の休暇に家族で訪れたプエルトリコ(FUJIFILM X-T4で撮影)米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)などの学会にかこつけて、ラスベガス、ロサンゼルス、サンディエゴ、ニューオリンズ、フィラデルフィア、フロリダなども家族で旅行することもできましたし、世界三大瀑布の1つであるナイアガラの滝までロードトリップで7~8時間ドライブしたのもいい思い出です。ボストン、ワシントンD.C.といった東海岸の主要都市も非常に近く、車で3~4時間の距離です。日本からよりも比較的近いヨーロッパなどは行きたいところですが、ビザの関係で行きづらくなっています。それでも当面は、アメリカ国内旅行で十分かと思っております。Column当方グループから出した抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)に関する論文を、Circulation誌の姉妹誌であるCirculation: Cardiovascular Intervention誌の8月号に掲載することができました。循環器関連誌四天王のJACC、Circulation、JAMA Cardiology、European Heart Journalにすべてリジェクトされましたが、なんとかCirculation 姉妹誌で落ち着かせることができました。Kuno T, et al. Comparison of Unguided De-Escalation Versus Guided Selection of Dual Antiplatelet Therapy After Acute Coronary Syndrome: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Circ Cardiovasc Interv. 2022;15:e011990.

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ケレンディア、2型糖尿病を合併するCKD患者に関する最新データ発表/バイエル

 バイエル薬品の2022年8月30日付のプレスリリースによると、欧州心臓病学会(ESC)学術集会2022において、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者(CKD)の死亡率にケレンディア(一般名:フィネレノン)が及ぼす影響を示した最新データが発表された。 2型糖尿病を合併するCKD患者を対象としたフィネレノン第III相臨床試験プログラムは、FIDELIO-DKDとFIGARO-DKDの2つの試験で構成されている。この2つの試験を含むFIDELITYは2型糖尿病を合併するCKD患者1万3,000名以上を対象に、心腎アウトカムを検討した最大規模の第III相臨床試験プログラムである。FIDELITYの全体集団では、全死因死亡および心血管死に対するフィネレノンの効果は統計学的有意差にわずかに至らなかったものの、FIDELITYの事前規定した探索的on-treatment解析から得られた最新データによると、本集団ではフィネレノン群がプラセボ群と比べ、全死因死亡の発現率(ハザード比[HR]:0.82[95%信頼区間[CI]:0.70~0.96]、p=0.014)および心血管死の発現率(HR:0.82[95%CI:0.67~0.99]、p=0.040)を有意に減少させることが示された。追跡期間4年時点での心血管死までの時間に関するイベント確率解析では、ベースライン時点の推算糸球体濾過率(eGFR)および尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に関係なくフィネレノンの有用性は一貫しており、eGFRが60mL/min/1.73m2以上の場合、プラセボと比べフィネレノンのより顕著な効果が示された。 Bayer(ドイツ)医療用医薬品部門の経営委員会メンバーで、研究開発責任者であるクリスチャン・ロンメル氏は、「最適な血糖値や血圧に管理しているにもかかわらず、2型糖尿病を合併するCKD患者さんの多くは腎不全に移行し、心血管死のリスクが著しく高くなっている。本日発表された探索的解析は、このような脆弱な患者さんの死亡リスクを低下させ、より長く健康な状態を維持するフィネレノンの可能性を示している」と述べた。 ケレンディアは2021年7月に米国食品医薬品局(FDA)、2022年2月に欧州委員会(EC)、2022年6月に中国国家薬品監督管理局(NMPA)よりそれぞれ販売承認を取得している。また、日本では2022年3月に厚生労働省より承認取得した。さらに他複数の国で審査当局の承認が得られたほか、現在販売認可の承認申請中である。

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第127回 インフルエンザワクチン高用量投与で高齢者の死亡リスク低下

およそ20万人を募る大規模試験を無理なく実施するための下調べ試験DANFLU-1で早くも高齢者へのインフルエンザワクチン高用量投与の死亡予防効果が認められました1)。インフルエンザと心血管疾患(CVD)の関連を調べた試験は幾つかあり、たとえばその1つではインフルエンザ感染判明後1週間は心筋梗塞を約6倍生じ易いことが示されています2)。別の試験ではインフルエンザの季節の心不全入院のおよそ19%がインフルエンザにどうやら起因していました3)。インフルエンザ入院成人の退院時データを調べたところ約12%が急な心血管イベントを被っていたという試験結果もあります4)。そういう心血管イベントの予防にインフルエンザワクチンがどうやら有効なことが観察試験5)や無作為化試験6)で示唆されています。目当てのインフルエンザウイルス株の血球凝集素(HA)抗原60μgを含む高用量ワクチンはほとんどの国で65歳以上の高齢者に使うことが承認されています。また幾つかの国では60歳以上から使えるようになっています。しかしながら高齢者にまず投与すべきを高用量ワクチンとしている国は数えるほどしかなく、ゆえにその接種はあまり普及していません1)。高用量ワクチンはHA抗原量15μgの標準用量ワクチンに比べてインフルエンザやインフルエンザ関連死亡をより防ぐことを裏付ける試験結果は増えてはいます。しかし巷の高齢者の入院や死亡などの深刻な事態の予防効果を高用量ワクチンと標準用量ワクチンで比較した無作為化試験はこれまでありませんでした。そういう無作為化試験では多くの被験者を募らなければならず、その実現のためには無理なく実施できるようにする工夫が必要です。DANFLU-1試験はその工夫の検証のために準備され、デンマークで実施されてその結果が今回ESC Congress 2022で発表されました。試験には65~79歳の高齢者が参加し、1対1の割合で高用量4価ワクチンか標準用量4価ワクチン投与に割り振られました。1,000回を超えるそれらの接種の場はワクチン販売会社が手配しました。各地で得られた被験者の情報は1箇所に集められ、デンマーク人の健康情報登記簿(administrative health registries)と紐づけすることでそれら被験者のワクチン接種後の経過や安全性情報が追跡されました。必要な情報のほぼすべてはその健康情報登記簿から入手します。よって試験で被験者が必要とする来院はわずか1回きりであり、被験者と試験担当者の負担を大幅に減らすことができました。DANFLU-1試験の主な目的はやがて実施予定の大規模試験の被験者数などの仕様の検討であり、副次的目的として高用量ワクチンと標準用量ワクチンの効果が比較されました。最終的な解析対象の被験者は12,477人で、高用量ワクチンにそのうち6,245人、標準用量ワクチンには6,232人が割り振られました。試験の要である健康情報登記簿からのデータ取得は実現可能であり、被験者のほぼ全員(99.97%)の必要な経過情報すべてが手に入りました。被験者の特徴はデンマークの巷の65~79歳高齢者と同等でした。たとえば慢性心血管疾患の有病率はどちらも20%ほどです(被験者は20.4%、巷の高齢者は22.9%)。副次的目標であった効果も早速認められ、高用量ワクチン接種群のインフルエンザや肺炎での入院率は標準用量ワクチン接種群の半分で済んでいました(0.2% vs 0.4%)。その結果によると高用量ワクチンの標準用量ワクチンに比べたそれら入院の予防効果は64.4%(95%信頼区間:24.4~84.6%)です。高用量ワクチンは死亡もより減らしました。死亡率は高用量ワクチンでは0.3%、標準用量ワクチンでは0.7%であり、高用量ワクチンは標準用量ワクチンに比べて死亡リスクをおよそ半分に抑えました(効果:48.9%、95%信頼区間:11.5~71.3%)。深刻な有害事象に有意差はありませんでした。以上のようなDANFLU-1試験結果からデンマーク国民の健康情報登記簿のデータを拠り所とする無作為化試験の実施が可能と分かりました1)。次はいよいよ高齢者への高用量ワクチンと標準用量ワクチンを比較する本番の試験です。被験者数はおよそ20万人になる見込みです。参考1)Innovative randomised trial hints at mortality benefits with high-dose influenza vaccines/European Society of Cardiology2)Kwong JC,et al. N Engl J Med. 2018 Jan 25;378:345-353.3)Kytomaa S, et al. JAMA Cardiol. 2019 Apr 1;4:363-369.4)Chow EJ, et al. Ann Intern Med. 2020 Oct 20;173:605-613.5)Modin D, et al. Circulation. 2019 Jan 29;139:575-586.6)Frobert O, et al. Circulation. 2021 Nov 2;144:1476-1484.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3【「実践的」臨床研究入門】第23回

MEDLINE(PubMed)のような1次情報源を活用した文献検索においては、できる限り多くの関連研究を収集できるように、網羅的かつ客観的で再現可能な検索式の構築が必要となります。そのために有用なツールであるMeSH(Medical Subject Headings)や(連載第21回参照)、検索式構成のための基本的なポイント(連載第22回参照)について説明しました。今回からは、実践的な検索式構築について解説していきます。MeSHとテキストワードの両方を使い、タグを活用して検索これまで、検索式構築におけるMeSHの有用性について強調してきましたが、MeSHにも弱点があります。MeSHでは、新しい概念や略語、薬剤の製剤名などはカバーされていないことが多いです。また、とくに新しい論文ほど個々の文献へのMeSHの付与(連載第21回参照)が漏れていることもあるようです(近年は自動化が進んでいるようですが)。そのため、実際の検索式では、MeSHだけでなくテキストワードも用いることが一般的です。テキストワードでは、MeSHで拾えない同義語・関連語、(アメリカ英語とイギリス英語で)異なるスペル、略語や(薬剤の)固有名詞など、を指定します。たとえば、前回PICOの例として取り上げた、われわれのコクラン・システマティックレビュー(SR: systematic review)論文1)のP(対象)の構成要素の概念である「透析」"dialysis"のMeSHは"Renal Dialysis"でした(連載第22回参照)。"MeSH Database"で"Renal Dialysis"を調べると、リンク(および下記)のように"Renal Dialysis"の説明がなされています(連載第21回参照)。"Therapy for the insufficient cleansing of the blood by the kidneys based on dialysis and including hemodialysis, peritoneal dialysis, and hemodiafiltration."「(自己の)腎臓による血液浄化が不充分な場合の、血液透析、腹膜透析、血液濾過透析を含む透析(という技術)に基づく治療法(筆者による意訳)。」"hemodialysis"や"hemodiafiltration"はイギリス英語のスペルではそれぞれ、"haemodialysis"、"haemodialysis"となります。"peritoneal dialysis"は"CAPD"などの略語で示されることもあります。また、この論文1)のI(介入)の構成概念である"aldosterone receptor antagonist"のMeSHは"Mineralocorticoid Receptor Antagonists"でしたが、具体的な個別の薬剤の固有名詞はカバーできないおそれがあります。そこで、検索式に"spironolactone"や"eplerenone"などの製剤名をテキストワードで加えて対応します。「タグ」を活用した検索項目の指定方法についても説明します。検索ワードの末尾に「タグ」を付けることにより、検索項目を限定することが出来ます。「タグ」で指定できる検索項目の一覧は、PubMedトップページの左下のリンク、FAQs & User Guideのページを下にスクロールすると"Search Field descriptions and tags"という小見出しの後に列記されていますので、ご参照ください。ここでは、検索式で良く使うタグを紹介します。実践的には、MeSHとテキストワードを併用し、タグを活用して検索式を組み立てるのです。1)Hasegawa T,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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脳梗塞の血栓除去前のtirofiban投与、機能障害の改善認めず/JAMA

 脳主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中で血管内血栓除去術を受けた患者では、血栓除去術前の血小板糖蛋白IIb/IIIa受容体阻害薬tirofibanの投与はプラセボと比較して、90日時の機能障害の重症度に有意な差はなく、症候性頭蓋内出血の頻度にも差を認めないことが、中国・人民解放軍第三軍医大学のQingwu Yang氏らが実施した「RESCUE BT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年8月9日号で報告された。中国の医師主導無作為化プラセボ対照比較試験 RESCUE BT試験は、脳主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中の治療における、血管内血栓除去術前のtirofiban静注の有効性と有害事象の評価を目的とする医師主導の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年10月~2021年10月の期間に、中国の55ヵ所の病院で参加者の登録が行われた(中国・Lunan Pharmaceutical Groupなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上(上限は設けず)、最終健常確認から24時間以内の急性期虚血性脳卒中で、NIHSS(0~42点、点数が高いほど神経障害が重度)スコアが30点以下、ASPECTS(0~10点、点数が高いほど梗塞巣が小さい可能性を示唆)が6点以上であり、CT血管造影またはMR血管造影、デジタル差分血管造影により頭蓋内内頸動脈または中大脳動脈(M1、M2)の閉塞が認められる患者であった。 被験者は、tirofibanまたはプラセボの静脈内投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。試験薬は、10μg/kgのボーラス投与後、0.15μg/kg/分で最長24時間持続的に静脈内注入された。全例が血管内治療を受けた。 主要アウトカムは、術後90日の時点における機能障害の程度とされ、修正Rankin尺度(0[まったく症候がない]~6[死亡]点)で評価された。安全性の主要アウトカムは、48時間以内の症候性頭蓋内出血の発生で、Heidelberg出血分類に準拠して評価が行われた。画像評価による症候性頭蓋内出血は有意に高率 948例(年齢中央値67歳[IQR:57~74]、女性391例[41.2%])が無作為化の対象となり、全例が試験を完了した。463例がtirofiban群、485例がプラセボ群に割り付けられた。 最終健常確認から無作為化までの時間中央値は、tirofiban群が405分、プラセボ群は397分で、病院到着から試験薬の静脈内投与開始までの時間中央値はそれぞれ121分および116分、動脈穿刺から再灌流の達成または手技終了までの時間中央値は67分および70分だった。 90日時のmRSスコア中央値は、tirofiban群が3点(IQR:1~4)、プラセボ群も3点(IQR:1~4)であり、補正後共通オッズ比(OR)は1.08(95%信頼区間[CI]:0.86~1.36)と、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.50)。 また、臨床的有効性に関する6つの副次アウトカム(90日時のmRS 0~1点の達成または発病前のスコアへの回復、NIHSSスコアのベースラインからの変化、90日時のQOL[EQ-5D-5Lスコア]など)は、いずれも両群間に有意差はみられなかった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血についても両群間に有意な差はなく、発生率はtirofiban群が9.7%(45/462例)、プラセボ群は6.4%(31/483例)であった(群間差:3.3%[95%CI:-0.2~6.8]、補正後OR:1.56[95%CI:0.97~2.56]、p=0.07)。 一方、画像評価による症候性頭蓋内出血は、tirofiban群で発生率が有意に高かった(34.9%[161/462例]vs.28.0%[135/483例]、群間差:6.9%[95%CI:1.0~12.8]、補正後OR:1.40[95%CI:1.06~1.86]、p=0.02)。90日死亡率には有意差がなかった(18.1% vs.16.9%、1.2%[-3.6~6.1]、1.09[0.77~1.55]、p=0.63)。 著者は、「tirofibanは、血管内治療のアウトカムを改善しないことが示された」とまとめ、「本試験におけるプラセボ群の実質的な再灌流達成率は90.5%(tirofiban群は92.2%、p=0.38)と高く、これはステント型血栓除去デバイスに関する5つの無作為化試験のメタ解析での達成率(71%)を上回る。この差は、この間の血管内治療技術の進歩を反映していると考えられ、結果として、tirofiban投与によるさらなる改善の余地は限られたものであった」と考察している。

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第125回 気疲れは脳のグルタミン酸蓄積の仕業?

プロのチェス選手でさえ試合で4~5時間も経つと間違えをするように1日中試験や発表(プレゼン)で過ごした後で頭が回らなくなるという経験は誰しも覚えがあるでしょう。そういう気疲れ(精神的疲労)に神経伝達物質・グルタミン酸の脳での蓄積が寄与しうることが新たな試験で示唆されました1)。運動している時の筋肉がそうであるように、より頭を使う難解な課題で気疲れするのは簡単な課題に比べてエネルギーがより消費されて枯渇するのが原因とするというこれまでの通説とは異なる結果であり、その試験結果はちょっとした物議を醸しています2)。Cellの姉妹誌Current Biologyに結果が発表された今回の新たな試験で研究者は集中の維持や予定を立てるときに働く脳領域・外側前頭前野のグルタミン酸濃度が気疲れした時によくある振る舞い・克己心の欠如などと関連するかどうかを調べました。被験者40人は2つに分けられ、一方は気疲れを誘う難解な課題に取り組み、もう一方はより簡単な課題をしました。それら課題をしている6時間半の間に気疲れのほどや外側前頭前野のグルタミン酸濃度が何度か調べられました。気疲れのほどは、後で手に入る大金のために目先の小銭を我慢する自制心を問う質問などで評価されました。その結果、より難解な課題の群は簡単な課題の群に比べて克己心を失った衝動的な選択が10%ほど多く、外側前頭前野のグルタミン酸濃度が8%ほど上昇していました2)。より簡単な課題の群ではそのようなグルタミン酸濃度上昇は認められませんでした。今回の試験結果はあくまでも関連を示しただけであり、知能の酷使が脳でのグルタミン酸の有害な蓄積を引き起こすと結論づけるものではありません。米国・ブラウン大学の神経科学者Sebastian Musslick氏はグルタミン酸の上昇は気疲れの主因ではなく何らかの役割を担っていると考えています2)。われわれの脳は臓器と絶えず通信し、いつ食べたり飲んだり寝たりすればいいかを知らせてくれます。それと似たような脳内の保守に前頭前野のグルタミン酸も携わっているのではないかと同氏は想定しています。また、プリンストン大学のJonathan Cohen氏もグルタミン酸のような余剰物を気疲れの主因とする考えを疑っています。脳はより手の込んだ処理で膨大な情報を捌いているに違いなく、余剰物の上げ下げといった単純な仕組みで事足りる筈がない(It just can‘t be that easy)と言っています。今後の課題として、代謝の残り滓を洗い流して脳を掃除する睡眠や休息でグルタミン酸濃度が落ち着くかどうかを調べる必要があります。先立つ研究によると睡眠中にグルタミン酸がシナプスから取り除かれることはかなり確かなようです3)。脳疾患の多くでグルタミン酸の異常な伝達が認められており、うつ病治療に使われるエスケタミンやアルツハイマー病症状を治療するメマンチンなどの神経のグルタミン酸受容体を狙う薬がすでに存在します。また、最近のアルツハイマー病や脊髄小脳失調症(SCA)の試験で残念ながら効果を示すことはできませんでしたが、グルタミン酸除去薬troriluzoleも臨床試験段階に進んでいます。外傷性脳損傷(TBI)、多発性硬化症、新型コロナウイルス感染(COVID-19)後にも生じうるらしい筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)などの脳を酷使させる病気の研究に今回のような成果は重要な意義を持ち、その議論を前進させる筈とKessler Foundationの神経学者Glenn Wylie氏は言っています4)。参考1)Wiehler A, et al.Curr Biol. 2022 Aug 4:S0960-9822.01111-3.2)Mentally exhausted? Study blames buildup of key chemical in brain / Science3)Why thinking hard makes you tired / Eurekalert4)Neurotransmitter Buildup May Be Why Your Brain Feels Tired / TheScientist

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第123回 ケタミンの依存性はどうやら低い

ケタミンは遡ること60年前の1962年に初めて合成されて長く麻酔薬として使われてきました。ケタミンはいまやすぐに効く抗うつ薬として研究や配慮を払った治療環境で使われることが増えていますが、いつもの治療で常用するとなると依存性が心配です。あいにくケタミンの依存性がどれほどかはその複雑な薬理作用などのせいで定まっていませんでしたが、先週水曜日にNature誌に掲載されたマウスでの新たな実験によると、依存性の恐れがある薬物に分類されているのとは裏腹にケタミンの依存性はどうやら低いようです1,2)。実験の結果、ケタミンは脳の側坐核(NAc)のドーパミンをコカインなどの依存性薬物と同様に一過性に増やすもののそれら依存性薬物でたいてい生じるシナプス可塑性を誘発しませんでした。ケタミンは側坐核と繋がる腹側被蓋野(VTA)のドーパミン放出神経をNMDA受容体遮断作用により脱抑制するものの、2型ドーパミン受容体の作用によってその脱抑制はすぐに打ち消されます。ドーパミンはそうしてすぐに消沈し、VTAやNAcでのシナプス可塑性は生じずに済み、依存を意味する振る舞いをマウスは示しませんでした。2019年に米国で承認されたJohnson & Johnson(J&J)社の治療抵抗性うつ病治療点鼻薬Spravatoの成分はその名前が示す通りケタミンの光学異性体S体・エスケタミン(esketamine)であり、ケタミンと同様にNMDA受容体遮断作用を有します3)。依存性(dependence)は服薬を突然中止したときや服薬量がかなり減ったときに生じる離脱症状/兆候で把握されます。Spravatoはケタミンのマウス実験結果と同様にどうやら依存性の心配は少ないらしく、その治療を止めてから4週間後までの観察で離脱症状は認められていません3)。ケタミンのもう1つの光学異性体R体の抗うつ効果も期待されており、米国のatai Life Sciences社の開発品PCN-101(R-ketamine、アールケタミン)はそのケタミンR体を成分とします。PCN-101は欧州で第II相試験が進行中です4)。大塚製薬はPCN-101の日本での権利をatai Life Sciencesの子会社Perception Neuroscienceから昨春2021年3月に手に入れており、日本での販売を目指して日本での臨床試験を担当します5)。J&Jもエスケタミンの日本での開発をどうやら進めており、臨床研究情報ポータルサイトによると治療抵抗性うつ病患者への同剤の国内での第II相試験が完了しています6)。S体やR体ではないただのケタミンも奮闘しており、たとえば今年初めにBMJ誌に掲載された比較的大規模なプラセボ対照無作為化試験結果では自殺願望の解消効果が認められています7)。その報告の論評者もまた依存性を懸念していますが8)、今回のマウスでの結果がヒトで検証されて依存性の懸念が晴れればエスケタミンがすでに期待の星9)となっているようにケタミンも治療抵抗性うつ病治療でのいつもの薬の地位をやがて手に入れることになるかもしれません。参考1)A short burst of reward curbs the addictiveness of ketamine / Nature2)Simmler LD,et al.Nature. 2022 Jul 27. [Epub ahead of print]3)SPRAVATO PRESCRIBING INFORMATION.4)atai Life Sciences announces FDA Investigational New Drug (IND) Clearance for PCN-101 R-ketamine Program / PRNewswire5)治療抵抗性うつ治療薬「アールケタミン」の日本国内におけるライセンス契約締結について/大塚製薬6)日本人の治療抵抗性うつ病患者を対象に,固定用量のesketamine を鼻腔内投与したときの有効性,安全性及び忍容性を検討するランダム化,二重盲検,多施設共同,プラセボ対照試験(臨床研究情報ポータルサイト)7)Abbar M,et al. BMJ. 2022 Feb 2;376:e067194.8)De Giorgi R, BMJ. 2022 Feb 2;376.9)Swainson J,et al. Expert Rev Neurother. 2019 Oct;19:899-911.

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不眠症治療薬、長期に有効・安全なのは?/Lancet

 不眠症治療薬のエスゾピクロンとレンボレキサントはいずれも有効性のプロファイルは良好であるが、エスゾピクロンは副作用発現例数が多く、レンボレキサントの安全性は結論に至っていないこと、またdoxepin、seltorexantおよびzaleplonは忍容性が良好であるが、有効性に関するデータは乏しく確固たる結論は得られていないことなどが、英国・オックスフォード大学のFranco De Crescenzo氏らが行ったシステマティック・レビューとネットワーク・メタ解析により示された。承認されている多くの薬剤は不眠症の急性期治療に有効であるが、忍容性が低いか長期の有効性に関する情報が得られておらず、メラトニン、ラメルテオンおよび未承認薬は全体的なベネフィットは示されなかった。著者は、「これらの結果は、エビデンスに基づく臨床診療に役立つと考えられる」とまとめている。Lancet誌2022年7月16日号掲載の報告。無作為化二重盲検比較試験154試験をネットワーク・メタ解析 研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、PubMed、Embase、PsycINFO、WHO International Clinical Trials Registry Platform、ClinicalTrials.govおよび規制当局のウェブサイトにて、2021年11月25日までに報告された不眠症治療薬の無作為化比較試験を検索し、特定の診断基準に基づいて不眠障害と診断された成人(18歳以上)患者を対象とした不眠症治療薬に関するプラセボまたは他の経口実薬単剤との比較試験について解析した。クラスター無作為化試験またはクロスオーバー試験、および二次性不眠症(精神疾患または身体的な併存疾患による不眠症、薬物またはアルコールなどの物質による不眠症)患者が含まれる試験は除外した。 個々の試験についてコクランバイアスリスクツールで評価するとともに、信頼性ネットワークメタ解析フレームワーク(CINeMA)を用いて、エビデンスの確実性を評価した。 主要評価項目は、有効性(患者評価による睡眠の質または睡眠指標による満足度)、治療中止(あらゆる理由で治療を中止した患者の割合)、忍容性(何らかの有害事象により中止した患者の割合)、安全性(少なくとも1件の有害事象を発現した患者数)で、いずれも急性期(投与4週間後、4週間後のデータがない場合は1~12週間のデータで4週間に近い時点)および長期(投与3ヵ月後の最長時点)の両方で評価した。ランダム効果モデルによるペアワイズおよびネットワーク・メタ解析を用い、要約オッズ比(OR)と標準化平均差(SMD)を算出した。 システマティック・レビューには170試験(36介入、4万7,950例)、ネットワーク・メタ解析には無作為化二重盲検比較試験154試験(30介入、4万4,089例)が組み込まれた。エスゾピクロンとレンボレキサントは有効性のプロファイルが良好 急性期治療に関しては、ベンゾジアゼピン系、doxylamine、エスゾピクロン、レンボレキサント、seltorexant、ゾルピデム、ゾピクロンがプラセボより有効であった(SMD範囲:0.36~0.83、CINeMAによるエビデンスの確実性は高~中)。ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロン、ゾルピデムおよびゾピクロンは、メラトニン、ラメルテオン、およびzaleplonよりも有効であった(SMD:0.27~0.71、中~非常に低)。 中間作用型ベンゾジアゼピン、長時間作用型ベンゾジアゼピン、およびエスゾピクロンは、ラメルテオンよりもあらゆる原因による中止率が低かった(OR:0.72[95%CI:0.52~0.99、中]、OR:0.70[95%CI:0.51~0.95、中]、OR:0.71[95%CI:0.52~0.98、中])。 ゾピクロンとゾルピデムは、プラセボに比べて有害事象による脱落が多かった(ゾピクロンのOR:2.00[95%CI:1.28~3.13、非常に低]、ゾルピデムのOR:1.79[95%CI:1.25~2.50、中])。また、ゾピクロンはエスゾピクロン(OR:1.82[95%CI:1.01~3.33、低])、daridorexant(OR:3.45[95%CI:1.41~8.33、低])、およびスボレキサント(OR:3.13[95%CI:1.47~6.67、低])より脱落が多かった。 試験終了時の副作用発現例数は、ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロン、ゾルピデム、ゾピクロンが、プラセボ、doxepin、seltorexant、zaleplonより多かった(OR範囲:1.27~2.78、高~非常に低)。 長期治療に関しては、エスゾピクロンとレンボレキサントはプラセボより有効で(エスゾピクロンのSMD:0.63[95%CI:0.36~0.90、非常に低]、レンボレキサントのSMD:0.41[95%CI:0.04~0.78、非常に低])、エスゾピクロンはラメルテオン(SMD:0.63[95%CI:0.16~1.10、非常に低])およびゾルピデム(SMD:0.60[95%CI:0.00~1.20、非常に低])より有効であった。 エスゾピクロンとゾルピデムは、ラメルテオンと比較してあらゆる原因による中止率が低かった(エスゾピクロンのOR:0.43[95%CI:0.20~0.93、非常に低]、ゾルピデムのOR:0.43[95%CI:0.19~0.95、非常に低])。しかし、ゾルピデムはプラセボに比べて副作用による脱落数が多かった(OR:2.00[95%CI:1.11~3.70、非常に低])。

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第122回 コロナは細胞間“トンネル”を伝って脳で広まるのかもしれない

すでによく知られている通り新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は脳のもやもや(brain fog)や混乱などの種々の神経症状と関連し、どうやら脳に直接影響するらしく、感染者の死後脳からウイルスが検出されています。SARS-CoV-2は感染の取っ掛かりでACE2受容体に結合することが知られますが、ACE2受容体がおよそ非常に乏しい脳でSARS-CoV-2がどうやって広まるのかはよく分かっていません。フランスの研究者による新たな実験の結果、SARS-CoV-2は感染細胞から伸ばした細い管を伝ってACE2受容体なしでも別の細胞に乗り移りうることが示されました1)。いわばトンネルのようなその仕組みのおかげでSARS-CoV-2は脳内で広まるのかもしれません。同国のパスツール研究所のチームはACE2を発現する上皮細胞(Vero E6細胞)とACE2を欠く神経細胞(SH-SY5Y細胞)それぞれとSARS-CoV-2をまずは一緒にしてみました。すると予想通りSARS-CoV-2は上皮細胞には感染し、神経細胞には感染できませんでした。しかしSARS-CoV-2感染上皮細胞と神経細胞を一緒にしたところ神経細胞へのSARS-CoV-2の感染が認められました。とりわけ高性能の顕微鏡で観察したところ細胞間を繋ぐ細い管が見て取れ、細胞膜ナノチューブ(tunneling nanotube;TNT)と呼ばれるその管の中にSARS-CoV-2のタンパク質やRNAがありました。また、ウイルスRNAを量産する二重膜小胞も認められました。すなわちSARS-CoV-2は感染細胞にTNTを作らせ、TNTと連結したよその非感染細胞にTNTを伝ってまんまと侵入しうることが裏付けられました。TNTがウイルスの通り道になることを示したのは今回が初めてではありません。酸素不足や感染などで負荷がかかった細胞が伸ばしたTNTが別の細胞と繋がり、ウイルス粒子がその通路を介して細胞間を行き来しうることがこれまでの研究で示されています。たとえばインフルエンザウイルス、HIV、ヘルペスウイルスはTNTを使って己のゲノムを非感染細胞へ輸送可能であり、その経路であれば免疫や抗ウイルス薬は手出しできそうにありません。今回の研究でTNTはSARS-CoV-2結合の足場がない細胞への侵入ルートになりうることが示されましたが、足場がある細胞間のSARS-CoV-2伝播さえも促しているかもしれません。TNTを構成するアクチンの重合や脱重合は素早く、ウイルスは他の経路よりTNTを介した方がより早く広まれる可能性があるからです。今後の課題として動物やヒトの脳内でTNTを介したSARS-CoV-2細胞感染が存在するかどうかを検討する必要があります2,3)。もしヒトの脳内やその他の体内でTNTを介したSARS-CoV-2感染があるならウイルスの広まりを早くに封じて感染の重症化を防ぐのにTNT形成阻止薬が役立つかもしれません。今のところTNTに限って阻害する化合物は存在しませんがパスツール研究所のチームはその同定を目指して化合物の選別に取り組んでいます3)。参考1)Pepe A, et al. Sci Adv. 2022 Jul 22;8:eabo0171. 2)SARS-CoV-2 Could Use Nanotubes to Infect the Brain / TheScientist3)Coronavirus may enter the brain by building tiny tunnels from the nose / NewScientist

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青年期の抑うつ症状とビタミンDレベルとの関係

 クウェートは、ビタミンD欠乏症の有病率が高い国の1つである。また、ビタミンD不足はうつ病のリスク因子であるといわれている。クウェート大学のReem Al-Sabah氏らは、同国の青年期における25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)と抑うつ症状との関連を調査した。その結果、ビタミンDの状態は、青年期の抑うつ症状と関連していないことを報告した。しかし著者らは、他の健康へのベネフィットを考慮し、青年期に十分なビタミンDレベルを維持することは重要であるとしている。Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health誌2022年6月27日号の報告。ビタミンD不足と抑うつ症状との間に有意な関連は認められず クウェートの中学校でランダムに選択された青年704人を対象に、学校ベースの横断的研究を実施した。抑うつ症状に関するデータは、小児抑うつ尺度(CDI)を用いて収集した。共変量に関するデータは、対象の青年より対面式インタビューで、その両親より自己記入式アンケートを用いて収集した。血液サンプルの分析は、認定された研究所で実施した。25[OH]Dの測定には、液体クロマトグラフィータンデム質量分析を用いた。 ビタミンD不足はうつ病のリスク因子であるかを研究した主な結果は以下のとおり。・抑うつ症状(CDIスコア19以上)が認められた青年は、94人(13.35%、95%CI:10.35~17.06)であった。・ビタミンDの状態の違いによるCDIスコア(中央値)に、有意差は認められなかった(p=0.366)。・血清25[OH]D濃度とCDIスコアとの間に有意な関連は認められなかった(Spearman's rank correlation=0.01、p=0.825)。・さまざまな分析でも、25[OH]Dと抑うつ症状との間に有意な関連は認められなかった。●25[OH]Dを連続変数として適応(粗オッズ比:0.99、95%CI:0.98~1.01、p=0.458)(調整オッズ比:1.01、95%CI:0.99~1.02、p=0.233)●許容可能なカットオフ値によるカテゴリ変数(粗分析:p=0.376、調整済み分析:p=0.736)●四分位数によるカテゴリ変数(粗分析:p=0.760、調整済み分析:p=0.549)

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片頭痛の有病率や割合を日本人で調査

 片頭痛は、反復性の頭痛発作で特徴付けられる慢性疾患であるにもかかわらず、日本におけるその疫学や治療状況に関して、最近の研究は十分に行われていない。埼玉精神神経センターの坂井 文彦氏らは、日本における片頭痛の有病率および治療状況を明らかにするため、健康保険協会員を対象に、レセプトデータおよび片頭痛・頭痛に関するオンライン調査のデータを用いて実態調査を行った。その結果、日本人片頭痛患者の80%が医療機関での治療を受けておらず、苦痛を感じながら日常生活を続けていることが明らかとなった。著者らは、革新的な治療アプローチが利用可能になることに併せ、片頭痛は単なる頭痛ではなく、診断や治療が必要な疾患であることを啓発していく必要があるとしている。The Journal of Headache and Pain誌2022年6月23日号の報告。片頭痛の有病率は女性が男性の4.4倍 データソース(DeSCヘルスケアのデータベースおよびオンライン調査)の組み合わせによる独自のアプローチを利用した調査を行った。主要アウトカムは、片頭痛患者の総数・割合、片頭痛の全体的な有病率、年齢や性別で層別化された片頭痛の全体的な有病率とした。副次的アウトカムは、医療利用状況、臨床的特徴、頭痛症状とした。 片頭痛患者の患者数や割合、有病率などを調査した主な結果は以下のとおり。・データの母集団は、2万1,480人。・可能性のある症例を含む片頭痛の全体的な有病率は、3.2%であった。・片頭痛の有病率が最も高かった年齢層は、30~39歳であった。・女性の片頭痛の有病率は、男性の4.4倍であった。・医師の診断を受けていない片頭痛患者の割合は、81.0%であった。・片頭痛患者の80%以上は市販薬を使用しており、処方薬を使用していた患者は4.8%であった。・頭痛症状が重症であると考えていた患者は、約52.9%であった。・片頭痛患者の大部分(72.9%)は、日常生活活動の障害程度が中等度~重度であると考えていた。

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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会

 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が5年ぶりに改訂、7月4日に発刊された。本ガイドライン委員長の岡村 智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授)が5日に開催されたプレスセミナーにおいて動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の変更点を紹介した(主催:日本動脈硬化学会)。 今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の改訂でキーワードとなるのが、「トリグリセライド」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」である。これを踏まえて2017年版からの変更点がまとめられている動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の序章(p.11)に目を通すと、改訂点が一目瞭然である。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版のPDFは動脈硬化学会のホームページより誰でもダウンロードできる。<動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の主な改訂点>1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。 (1)脂質異常症の検査 (2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付) (3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH) (4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加 (5)健康行動倫理に基づく保健指導 (6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理 (7)続発性脂質異常症動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に至った主な理由 1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントした(参照:BQ5)。 2)については、吹田スコアに代わり今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では久山町研究のスコアを採用している。その理由として、同氏は「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明(参照:BQ16)。 3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている(参照:FQ24)。 4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説した。 5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され(第6章)、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されている。<続発性脂質異常症の原因>1.甲状腺機能低下症 2.ネフローゼ症候群 3慢性腎臓病(CKD)4.原発性胆汁性胆嚢炎(PBC) 5.閉塞性黄疸 6.糖尿病 7.肥満8.クッシング症候群 9.褐色細胞腫 10.薬剤 11.アルコール多飲 12.喫煙――― このほか同氏は、「LDL-Cのコントロールにおいて飽和脂肪酸の割合を減らすことが重要(参照:FQ3)」「薬物開始後のフォローアップのエビデンスレベルはコンセンサスレベルだが、患者さんの状態を丁寧に見ていくことは重要(参照:BQ21)」などの点を補足した。 2007年版よりタイトルを“診療”から“予防”に変更したように、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版は動脈硬化性疾患の予防に焦点を当てて作成されている。同氏は「すぐに薬物治療を実行するのではなく、高リスク病態や他疾患の有無を見極めることが重要。治療開始基準と診断基準は異なるので、あくまでスクリーニング基準であることは忘れないでほしい」と締めくくった。

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第1回 新型コロナのイベルメクチン「もう使わないで」

いったん下火になっていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、国内の新規感染者数は6月下旬から増え始め、昨日7月6日は4万5千人を超え、現場は警戒心を持っています。―――とはいえ、BA.2以降、滅多に肺炎を起こすCOVID-19例に遭遇しません。おそらく次の波がやってきたとしても、大きな医療逼迫を招くことはないのでは、と期待しています。「イベルメクチンを処方しない医師は地獄へ落ちろ」さて、私はCOVID-19の診療でいくつかメディア記事を書いたことがあるのですが、当初からイベルメクチンに関してはやや批判的です。疥癬に対してはよい薬だと思っていますが、COVID-19に対しては少なくとも現在上市されている抗ウイルス薬には到底及びません。しかしSNSなどではいまだにイベルメクチン信奉が強く、そういった「派閥」から手紙が届くこともあります。中には、「COVID-19にイベルメクチンを処方しない倉原医師よ、地獄へ落ちろ」といった過激な文面を送ってくる開業医の先生もいました。確かに当初、in vitroでイベルメクチンの有効性が確認されたのは確かです。しかし、かなり初期の段階で、寄生虫で使用するイベルメクチン量の約100倍内服しないと抗ウイルス作用は発揮されないことがわかっており1,2)、副作用のデメリットの方が上回りそうだな…という印象を持っていました。その後の臨床試験の結果が重要だろうと思っていたので、出てくるデータを冷静に見る必要がありました。トップジャーナルでことごとく否定50歳以上で重症化リスクを有するCOVID-19患者への発症7日以内のイベルメクチンの投与を、プラセボと比較したランダム化比較試験があります(I-TECH試験)3)。これによると、重症化リスクのある発症1週間以内のCOVID-19患者に対するイベルメクチンの重症化予防への有効性は示されませんでした。また、1つ以上の重症化リスクを持つCOVID-19患者に対して、イベルメクチンとプラセボの入院率の低下をみたランダム化比較試験があります(TOGETHER試験)4)。この試験でも、入院・臨床的悪化のリスクを減少させませんでした(相対リスク0.90、95%ベイズ確信区間:0.70~1.16)。ITT集団、per protocolのいずれを見ても結果は同じでした。EBMの基本に立ち返って、使用を控えるべき万が一、イベルメクチンの投与量や投与するタイミングを工夫して、何かしら有効性が示せたとして、ではその効果は現在のほかの抗ウイルス薬(表)よりも有効と言えるのでしょうか。塩野義製薬が承認申請中のエンシトレルビルですら、現時点ではウイルス量を減少させる程度の効果しか観察されないということで、緊急承認は見送りとなっています。イベルメクチンについて、まず今後奇跡的なアウトカム達成など、起こらないでしょう。表. 軽症者向け抗ウイルス薬(筆者作成)何より、目の前にしっかりと効果が証明された抗ウイルス薬が複数あるのです。有効な薬剤を敢えて使わずにイベルメクチンを処方するというのは、EBMに背を向けているにすぎません。この行為、場合によっては法的に問われる可能性もあります。現時点では使用を差し控えるべき、と私は考えます。参考文献・参考サイト1)Chaccour C, et al. Ivermectin and COVID-19: Keeping Rigor in Times of Urgency. Am J Trop Med Hyg. 2020;102(6):1156-1157.2)Guzzo CA, et al. Safety, tolerability, and pharmacokinetics of escalating high doses of ivermectin in healthy adult subjects. J Clin Pharmacol. 2002;42(10):1122-1133.3)Lim SCL, et al. Efficacy of Ivermectin Treatment on Disease Progression Among Adults With Mild to Moderate COVID-19 and Comorbidities: The I-TECH Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2022 Apr 1;182(4):426-435.4)Reis G, et al. Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19. N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1721-1731.

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ビデオゲームで子どもの知力が高まる?

 一般的に子どもへの悪影響が懸念されがちなビデオゲームだが、その懸念とは裏腹に、ビデオゲームは脳の働きを高める可能性のあることが新たな研究で示唆された。ビデオゲームに平均より長い時間を費やしていた小児では、2年後に知力が大幅に増加していたことが確認されたという。カロリンスカ研究所(スウェーデン)認知神経科学分野教授のTorkel Klingberg氏らが実施したこの研究結果は、「Scientific Reports」に5月11日掲載された。 Klingberg氏らは、9〜10歳の小児9,855人分のデータを用いて、3種類のスクリーンタイム(テレビや動画の視聴、ビデオゲームのプレイ、ソーシャルメディアの使用)が小児の知力に及ぼす影響を検討した。小児のデータは、米国の小児に関する長期大規模研究であるABCD(Adolescent Brain Cognitive Development)研究のデータから抽出した。知力については、試験開始時と2年後に実施された一連の認知テストの結果を分析して評価した。ただし、2年後に追跡された小児は5,374人のみだった。 小児は、1日当たり平均して2.5時間をテレビの視聴に、30分をソーシャルメディアの使用に、1時間をビデオゲームに費やしていた。解析の結果、ビデオゲームに平均より多くの時間を費やしていた小児では、2年後の追跡時にIQが平均より2.5ポイント高いことが明らかになった。この結果は、世帯収入や親の教育レベルなどを考慮しても変わらなかった。これに対して、テレビの視聴やソーシャルメディアの使用に多くの時間を費やしていた小児では、知力に対してプラスの影響もマイナスの影響も認められなかった。 Klingberg氏は、「2年後に知力が最も増加していたのは、より多くの時間をビデオゲームに費やしていた小児だった。この結果は、ビデオゲームが認知に有益な影響を及ぼすことを示すエビデンスだ」と結論付けている。 この研究には関与していない、米国精神医学会のCouncil on Children, Adolescents, and Their Families(小児、青少年、およびその家族の評議会)のメンバーであるAnish Dube氏は、「ビデオゲームは、日常生活では経験しないようなタスクに取り組ませる“濃縮された”環境の中で子どもを考えさせる。それが、子どもをより賢くするのかもしれない。ビデオゲームでは多くの場合、積極的な戦略や計画、思い切った意思決定が必要になるからだ」と話す。その上で、「ビデオゲームをすればするほど、ゲーム上の目的達成に関わる神経回路が強化される。その回路が、われわれが知力を測定する際に考慮する現実世界での意思決定にも関わっているのかもしれない」との見方を示す。 一方、米Center for Developing MindのDamon Korb氏は、「この研究は、知力に関わる潜在的なベネフィットのみに着目しており、他の研究で報告されているような、ビデオゲームが健康に与え得る悪影響については考慮されていない」と指摘。「臨床的な経験からすると、ビデオゲームが大きなマイナスの影響を与え得ることは明らかだ」と話し、結果の慎重な解釈を求めている。 Korb氏は、「子どもの知力を高めたいのなら、ビデオゲーム以外にも選択肢はある。例えば、チェスのようなゲームやピアノのレッスン、卓球などは、認知機能にプラスの影響をもたらすことが過去の研究で報告されている。何よりビデオゲームには、やり始めるとなかなかやめられないという中毒性の問題もある。これは潜在的に危険だし、不健康でもある」と話している。

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第117回 英国の小児の原因不明の急な肝炎は減少傾向 / 血中のアミノ酸・プロリンとうつ症状が関連

英国の小児の原因不明の急な肝炎は減少傾向今年に入ってから6月13日までに英国ではA~E型以外の原因不明の急な肝炎が260人の小児に認められており、死亡例はありませんが12人(4.6%)が肝臓移植を必要としました1)。新たな発生は続いているものの一週間当たりの数はおおむね減っています。いまだはっきりしない病原の検査ではアデノウイルスの検出が引き続き最も多く、検査した241例中156例(約65%)からアデノウイルスが見つかりました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は入院の際の検査結果がある196人のうち34人(約17%)から検出されています。ほとんどはSARS-CoV-2ワクチン接種の対象年齢ではない5歳までの乳幼児に発生しており、SARS-CoV-2ワクチンとの関連は認められていません。英国の状況報告と時を同じくして米国からも報告があり、小児の肝炎と関連した救急科治療/入院や肝臓移植はSARS-CoV-2感染(COVID-19)流行前に比べて増えてはおらず2017年以降一定でした2)。たとえば0~4歳の小児の1ヵ月当たりの肝炎関連入院数はより最近の2021年10月~2022年3月までは22件、COVID-19流行前は19.5件であり、有意な変化はありませんでした。それに、原因不明の肝炎小児からアデノウイルス41型が検出されていますが、米国での調査ではアデノウイルス40/41型陽性の小児の割合の増加も認められませんでした(40と41型が一括りになっているのは市販の検査のほとんどがそれらを区別できないため)。だからといって小児の原因不明の肝炎はもはや心配する必要がないというわけではないと米国カリフォルニアの小児病院のリーダーRohit Kohli氏はMedscapeに話しています3)。小児肝炎の増加が認められている英国などの他の国のデータと違いがあるからです。血中のアミノ酸・プロリンが多いこととうつ症状が関連軽度~かなりのうつ病やうつでない人あわせて116人を調べたところ腸内細菌の組成に依存して血中(血漿)のアミノ酸・プロリン濃度が高いこととより重度のうつ症状の関連が認められました4-6)。プロリンはどうやらうつ発症の引き金となるらしく、マウスにプロリンを余分に与えたところうつを示す振る舞いが増えました。また、うつ症状と血漿プロリン濃度の関連が強い被験者20人の糞、つまり腸内微生物をマウスに移植したところ、血中のプロリンが多くてより重症のうつ患者の微生物が移植されたマウスほどプロリンを余分に与えた場合と同様にうつを示す振る舞いをより示しました。さらに遺伝子発現を調べたところ、微生物が移植されてよりうつになったマウスの脳ではプロリン輸送体遺伝子Slc6a20などの発現がより増えていました。そこで、プロリン輸送体のうつ症状への寄与がハエ(ショウジョウバエ)を使って調べられました。Slc6a20のショウジョウバエ同等遺伝子CG43066を抑制したショウジョウバエ、すなわち脳がプロリンを受け付けないショウジョウバエはうつを示す振る舞いを示し難くなりました。また、マウスでうつになり難いことと関連し、GABAを大量に生成する乳酸菌(ラクトバチルス プランタルム)を移植したショウジョウバエもうつ様になり難いことが確認されています。GABAやグルタミン酸はプロリンの分解で最終的に生み出されうる神経伝達物質であり、プロリンの蓄積はGABA生成やグルタミン酸放出を妨げてシナプス伝達を害しうることが先立つ研究で示されています7,8)。そういった先立つ研究と同様に今回の研究でもプロリンがGABA/グルタミン酸分泌シナプスのいくつかの経路と強く関連することが示されています。どうやら共生微生物はプロリン代謝に手出ししてグルタミン酸やGABA放出の均衡を妨害してうつに寄与しうるようであり、グルタミン酸やGABAの使われ方へのプロリンの寄与に共生微生物がどう関わるかを調べることがうつ病によく効く新しい治療の開発に必要でしょう4)。そういう今後の課題はさておき、今回の新たな研究によるとプロリンが控えめな食事をすることでうつ症状は大いに緩和できる可能性があります。参考1)Investigation into acute hepatitis of unknown aetiology in children in England: case update / gov.uk2)Kambhampati AK,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 17;71:797-802.3)Pediatric Hepatitis Has Not Increased During Pandemic: CDC / Medscape4)Mayneris-Perxachs J, et al.Cell Metab. 2022 May 3;34:681-701.5)Study Links Depression with High Levels of an Amino Acid / TheScientist6)A study confirms the relationship between an amino acid present in diet and depression / Eurekalert7)Crabtree GW, et al. Cell Rep. 2016 Oct 4;17(2):570-582.8)Wyse AT, et al. Metab Brain Dis. 2011 Sep;26:159-72.

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RSウイルスによる死亡率、生後6ヵ月未満で高い/Lancet

 2019年に、5歳未満(生後0~60ヵ月)の小児における呼吸器合胞体(RS)ウイルス(RSV)への罹患とこれによる死亡の負担は、とくに生後6ヵ月未満の乳幼児および低~中所得国の小児において世界的に大きく、生後0~60ヵ月の小児では50件の死亡のうち1件が、28日~6ヵ月の乳幼児では28件の死亡のうち1件がRSVに起因しており、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡1件につき、市中では約3件のRSV関連死が発生していると推定されることが、英国・エディンバラ大学のYou Li氏らが実施したRESCEU研究で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年5月28日号に掲載された。最新データを加え、系統的な解析で罹患率と死亡率を更新 研究グループは、生後0~60ヵ月の小児におけるRSV関連の急性下気道感染症の罹患率と死亡率を、2019年の時点での世界、地域、国のレベルで更新することを目的に、最新のデータを加えて系統的に解析を行った(欧州連合革新的医薬品イニシアチブの欧州RSウイルスコンソーシアム[RESCEU]による助成を受けた)。 医学データベース(MEDLINE、Embase、Global Health、CINAHL、Web of Science、LILACS、OpenGrey、CNKI、Wanfang、ChongqingVIP)を用いて、2017年1月1日~2020年12月31日に発表された論文をあらためて検索して新たなデータを収集し、これまでの世界的なRSV疾病負担のデータセットを拡張した。また、このデータセットには、Respiratory Virus Global Epidemiology Network(RSV GEN)の共同研究者による未発表データも含まれた。 対象は、次の3つのデータを報告している研究とした。(1)1次感染としてRSVによる市中の急性下気道感染症または入院を要する急性下気道感染症に罹患した生後0~60ヵ月の小児のデータ、(2)院内の症例死亡率(CFR)を除き少なくとも連続12ヵ月間のデータ、またはRSVの季節性が明確に定義されている地域(温暖な地域など)のデータ、(3)急性下気道感染症の発生率、入院率、急性下気道感染症による入院者におけるRSV陽性割合、または院内CFRのデータ。 リスク因子に基づくモデルを用いて、国レベルでのRSV関連の急性下気道感染症の罹患率が推定された。また、RSVによる総死亡数を推定するために、RSVによる市中死亡率の最新データを組み込んだ新たなモデルが開発された。新データ164件を加えた解析、院内死亡の97%以上が低~中所得国 以前のレビューに含まれた317件の研究に、新たに適格基準を満たした113件と未発表51件の研究の164件を加えた合計481件のデータが解析に含まれた。 RSV関連の急性下気道感染症の罹患率が最も高い年齢は、低所得国~低中所得国が生後0~3ヵ月であったのに対し、高中所得国~高所得国は生後3~6ヵ月であった。 2019年の生後0~60ヵ月の小児における世界的な推定値として、RSV関連の急性下気道感染症のエピソードが3,300万件(不確実性範囲[UR]:2,540万~4,460万)、RSV関連の急性下気道感染症による入院が360万件(290万~460万)、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡が2万6,300件(1万5,100~4万9,100)、RSVに起因する全死亡は10万1,400件(8万4,500~12万5,200)との結果が得られた。 生後0~6ヵ月の乳幼児では、RSV関連の急性下気道感染症エピソードが660万件(UR:460万~970万)、RSV関連の急性下気道感染症による入院が140万件(100万~200万)、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡が1万3,300件(6,800~2万8,100)、RSVに起因する全死亡は4万5,700件(3万8,400~5万5,900)と推定された。 生後0~60ヵ月の小児の死亡の2.0%(UR:1.6~2.4)(50件に1件)、生後28日~6ヵ月の乳幼児の死亡の3.6%(3.0~4.4)(28件に1件)が、RSVに起因していた。また、いずれの年齢層の小児における、RSV関連の急性下気道感染症エピソードの95%以上、およびRSVに起因する院内死亡の97%以上が、低~中所得国で発生していた。 著者は、「RSVによる院内死亡と全死亡の推定値に基づくと、生後0~60ヵ月の小児のRSV関連の院内死亡率は26%にすぎず、したがって、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡1件につき、市中では3件の死亡が発生していると推定される」とし、「多くのRSV予防薬の開発が予定されている現状において、これらの年齢層を絞った推定値は、製品の導入、優先順位の決定、評価に重要な基本的情報をもたらす。生後6ヵ月未満の乳幼児にRSV予防薬を投与すると、RSV負担の頂値が、より高い年齢に移行する可能性があるが、この意味を理解するにはさらなるエビデンスが必要とされる」と指摘している。

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