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2型糖尿病患者には程度の差はあるがインスリン抵抗性とインスリン分泌不全の両者が存在する。したがって病態生理学的にはその両者に早期から介入する薬物療法が、その一方だけに介入する薬物療法よりも血糖管理においてより有効であることは理解しやすい。血糖降下薬の有効性を評価する指標はいくつもあるが、どれだけ長期間にわたってHbA1cを<7.0%に維持可能であるかを示すdurabilityもその1つである。インスリン抵抗性改善薬であるメトホルミンとインスリン分泌不全改善薬のDPP-4阻害薬であるビルダグリプチンを診断直後から併用することが(early combination therapy:早期併用療法)、メトホルミン単剤で治療を開始して血糖コントロールが維持できなければビルダグリプチンを併用する段階的治療(sequential metformin monotherapy:段階的治療)に比較してdurabilityを延長できるか否かを検討したのが本試験である。 本試験は試験デザインが複雑で、かつ治療失敗treatment failureという見慣れないエンドポイントが設定されているので論文を一読するだけでは内容を容易に理解しがたい。試験に組み込まれたのは2型糖尿病診断後2年以内、未治療(メトホルミン使用4週間以内は許容されている)、HbA1c 6.5~7.5%の初回治療患者である。3週間のrun-in期間でメトホルミンを1,500mgまで増量を試みて、メトホルミン1,000mg以上服用できた患者のみ無作為化された。つまり本試験は最初から併用療法で治療を開始するinitial combination therapyではない。2,001例の患者が早期併用療法群(メトホルミン1,000mg+ビルダグリプチン50mg x 2)と段階的治療(メトホルミン1,000mg+プラセボ x 2)の2群に1対1に振り分けられた。すべての患者で無作為化後の4週間にメトホルミンは2,000mgまで増量が試みられた。患者は13週ごとに受診したが、HbA1c 7.0%以上が連続した2回の受診で認められた場合にその時点で治療失敗と定義された。主要評価項目は1回目の治療失敗までの時間(period 1)とした。2回目の治療失敗までの時間(period 2)は副次評価項目とされた。段階的治療は1回目の治療失敗後にメトホルミン+ビルダグリプチンの併用療法に移行した。つまりperiod 2の治療法は両群で同一となっている。試験観察期間が予定より短くなることの多いevent-driven型の心血管アウトカム試験とは異なり、すべての患者は無作為化後5年にわたり観察された。 試験開始5年後の主要評価項目のイベント発生率は段階的治療が62.1%、早期併用療法が43.6%であった。別の表現にすると50%の患者が1回目の治療失敗に至るまでの時間(median observed time to treatment failure)が段階的治療では36.1ヵ月、早期併用療法では61.9ヵ月(これはカプランマイヤー曲線からの推定値である)、つまり早期併用療法において段階的治療に比較してdurabilityが約2年延長したことになる。副次評価項目のイベント発生率は本文に記載がないが、Figure 3Bのグラフから読み取ると多く見積もって段階的治療が45%、早期併用療法が35%であった。 以上の結果をどのように解釈したら良いのだろうか? period 1で検討されたdurabilityは早期併用療法で約2年延長することが証明された。しかし段階的治療のイベント発生率は62.1%であり、約40%の患者はメトホルミン単剤のみで5年間HbA1c<7.0%を維持できたことになる。さらに実臨床でより重要なのは、治療失敗する前から併用する早期併用療法と、メトホルミン単剤で開始して治療失敗した後に併用する段階的治療とを比較した副次評価項目である。その差はわずかに10%であり、単純にいえば90%の患者はどちらの治療法でも結果は同じだったことになる。しかしこの点についても解釈に注意が必要である。実臨床で併用療法に移行する、言い換えればメトホルミンに他の血糖降下薬を追加するのは容易でないのに対して、本試験では1回目の治療失敗患者はすべて併用療法に移行している点である。したがってリアルワールドにおける両群の差が10%以上になる可能性は十分にある。 2型糖尿病治療においてもclinical inertiaの重要性が強調されている。しかしあらゆる治療にはbenefitとharmがある。天秤の皿の一方に載せるのがclinical inertiaとすればもう一方の皿に載せるべきはovertreatmentであろう。もしすべての患者に早期併用療法を実施したとすると、本試験の結果によればその中の約40%の患者は不要な治療、すなわちovertreatmentを受けたことになる。本試験はclinical inertiaとovertreatmentとのバランスの重要性をVERIFYした試験といっても良いだろう。(12月2日 一部記事内容を修正いたしました)