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DOAC時代の終わりの始まり(解説:後藤信哉氏)

 製薬企業というのは戦略的な情報企業だと思う。経口Xa阻害薬アピキサバン、リバーロキサバンが世界で毎年1兆円以上売れている。現状をつくるために、製薬企業はきわめて巧みな情報統制を行った。非弁膜症性心房細動は、心不全、突然死などのリスクのマーカーである。しかし、「非弁膜症性心房細動=脳血栓塞栓症」と徹底的に宣伝した。確かに、心房細動症例に脳卒中が多いことはFramingham研究が示した事実である。しかし、脳血栓塞栓症が多いことは誰も示していない。部分的に真実を入れた広報はプロパガンダの初歩である。将来を見越してしっかりとストーリーをつくった能力には敬服する。 筆者は経口Xa阻害薬など(DOAC)の開発を主導したが、途中で限界が明確に見えてしまった。しかし、企業は第III相試験の結果を徹底的に使ってDOACを広報した。心房細動の脳卒中予防試験は4種のDOACにとっておおむね成功であった。成功の最大の鍵は対照群をPT-INR 2-3のワルファリン治療としたところにあった。実臨床ではPT-INR 2程度を標的としていた医師が多かったのではないだろうか? PT-INR 2-3を過去の標準治療とする明確な根拠はなかった。PT-INRが高くなれば頭蓋内出血、出血性脳卒中が増える。DOAC開発試験の有効性エンドポイントは脳卒中であったため、出血性脳卒中は有効性エンドポイントとなる。まったくの嘘ではない。部分的な真実を入れたプロパガンダはワルファリン群との比較でも成功であった。 ランダム化比較試験を実行していないと気付かないが、DOAC開発試験のワルファリン群のPT-INRは通常の臨床と同じ方法で計測されたわけではない。医師も患者も、ワルファリン服用なのか、DOAC服用なのかわからない。そこで、ベッドサイドで採血して、割り付け番号を入れるとワルファリン群ではPT-INRが、DOAC群では嘘の値が出るPOC装置が使われた。POCによる計測は検査室と同じではない。さまざまにワルファリン群に制限をかけてようやくDOACの認可・承認に至った。 特許期間には膨大な利潤がある。DOAC開発企業・株主は大きなメリットを得た。しかし、特許は喪失する。低分子化合物なので原価数十円に近いジェネリック品に置き換わる。利潤が年間兆円規模となると次が苦しい。血液凝固第XI因子は出血を惹起しない抗凝固標的として以前から注目されていた。Xa阻害薬が売れている間は、XI阻害薬への期待などを企業は話せない(自らのXa阻害薬の欠点:出血リスクを自ら認めることになるので…)。しかし、Xa阻害薬の特許が切れたら、スムーズに次につながる新薬が欲しい。 AXIOMATIC-TKR試験の結果は、経口薬milvexianに血栓イベント抑制効果があること、効果に用量依存性がありそうなこと、重篤な出血リスクは増えなそうことを示唆した。 製薬企業はDOACからXI阻害薬へのスムーズな転換への論理を示せるだろうか? 本研究は第III相試験の用量決定には役立つと想定される。DOACの開発ではワルファリンのPT-INRの恣意的な調節により、一種、人工的な差を出すことに成功した。今後第III相に進むとすれば、市場規模の大きな血栓症ではDOACとの比較試験が必要となる。DOACに勝る有効性、安全性を第III相試験で示しても、マーケットでの競争は安価なDOACのジェネリック品となる。世界の俊英を集めた巨大製薬企業のブレインたちは、次世代の巨大な利潤に向けたmilvexianの絵を描けるだろうか? 筆者は、新薬の価格を著しく釣り上げて特許期間内のみ巨額の利潤を得る現在のモデル自体の転換が必要と考えている。さまざまな意味で期待を持たせる論文であった。

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がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?【見落とさない!がんの心毒性】第8回

がん患者における血栓症は、頻度が多いにも関わらず見逃されやすい病気です。慎重な身体診察と適切な検査を行うことで、早期診断、早期治療を行うことが重要です。近年、がん患者の血栓症の発症頻度は増加傾向にあり、がん関連血栓症(CAT :Cancer-Associated Thrombosis)と呼ばれて注目されています。とくに、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE :venous thromboembolism)の頻度が高く、入院中のがん患者では約20%に起こると報告されています1)。主な原因は、がんや治療による血液凝固能の異常な活性化、長期臥床や血管の圧迫などによる血流のうっ滞、検査や治療による血管内皮障害により静脈血栓が形成されやすくなることです。さらに、診断率の向上、がん治療の長期化、がん患者の高齢化、心血管毒性を有する抗がん剤の使用なども増加の一因と考えられています。一方、がん患者の動脈血栓塞栓症の頻度は1%以下ですが、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患などの重篤な病態の原因となり注意が必要です。本稿では、VTEの診断と治療のポイントを解説します。症状と診断VTEを診断するための重要なポイントは、症状を見逃さないように注意深く病歴を聴取し、全身の診察を怠らないことです。DVTの症状では、四肢の腫脹、疼痛、皮膚の色調変化が重要ですが、時に症状に乏しく突然のPTEを来たして診断されることもあります。PTEの症状では、呼吸困難、胸痛が多く、そのほかに咳嗽、喘鳴、動悸、失神などが見られます。急性PTEは致死率が高いため、Dダイマー上昇などの検査所見からVTE を疑うことも重要です。(表1)にDVT、PTEの診断を予測する代表的な「Wellsスコア」「改訂ジュネーブスコア」を示します。「Wellsスコア」では合計点数が3点以上では高リスクで精査が必要ですが、2点以下(低or中リスク)でDダイマー陰性であればDVTの可能性は低くなります2)。「改訂ジュネーブスコア」においてPTEの頻度は1点以下で7.7%(95%信頼区間[CI]:5.2~10.8)、2~4点で29.4%(%同:26.6~33.1)、5点以上では64.3%(同%:48.0~78.5) と予測されています3)。日本のガイドラインでも、問診・診察・Dダイマー検査を行い、DVTが疑われる場合は下肢静脈超音波検査・造影CT、PTEの場合は胸部造影CTなどで確定診断を行うことを推奨しています4)。(表1)DVT、PTE診断における代表的なスコア画像を拡大するVTEのリスク因子がん患者におけるVTE発症のリスク因子は(表2)に示すように患者・がん・治療関連の因子に大別されます。先天性血栓素因やVTEの既往などの一般的な患者関連リスク因子に加えて、がん関連またはがん治療関連リスク因子が報告されています。がんの原発部位別にみると、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍でVTEのリスクが高く、組織型、進行度も重要です。また、大手術や中心静脈カテーテル留置もリスクを上げます5)。化学療法中のがん患者は、非がん患者と比べるとVTE発症のリスクが6~7倍上昇すると報告され6)、とくに血管新生阻害薬、血液がんの治療に用いる免疫調整薬、ホルモン療法(タモキシフェンなど)では注意が必要です。(表2)がん患者のVTE発症リスク因子画像を拡大する管理法・治療法VTEの標準治療は抗凝固療法です。本邦で使用可能な抗凝固療法には点滴製剤である未分画ヘパリン(海外では低分子ヘパリンが推奨)、経口製剤としてワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどがあり、経口製剤単独もしくは点滴製剤と組み合わせて治療を行います。DOACは、がん患者を対象とした大規模臨床試験(Hokusai-VTE Cancer7)、CARAVAGGIO8)、SELECT-D9))において、VTE再発や重篤な出血に関して低分子ヘパリンと比較して遜色ない良好な成績が示されたことから、海外の最新のガイドラインではがん患者の急性VTEに対する治療として推奨されています10)。しかし、がん患者では抗がん剤と抗凝固薬との薬物相互作用(例:ワルファリンと5−FU)、抗凝固療法による出血リスクの上昇など、患者ごとに慎重な抗凝固療法の適応判断と薬剤選択を検討する必要があります。抗凝固療法の継続期間は、がん患者では再発リスクの観点から3ヵ月以上の長期的な使用が推奨されています。(表3)DOAC3剤とワルファリンの注意点画像を拡大するそのほかの治療として、血行動態が不安定となるような重症PTEに対して血栓溶解療法(商品名:クリアクター)や外科的血栓除去術を行うこともあります。また抗凝固療法が困難な症例や、抗凝固療法を行っているにもかかわらずVTEが増悪する症例に対しては下大静脈フィルターを留置し突然死を予防することもあります。VTEを発症した症例において、がん治療を中断・中止すべきかどうかは、個々の例の状況に応じて、腫瘍内科医と循環器内科医とが緊密に連携して検討する必要があります。1)Lecumberri R, et al. Thromb Haemost. 2013;110:184-190.2)Wells PS, et al. Lancet.1995;345:1326-1330.3)Klok FA, et al. Arch Intern Med. 2008;168:2131-2136.4)日本循環器学会編. 日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)2017年改訂版)5)Ay C, et al. Thromb Haemost. 2017;117:219-230.6)Blom JW, et al. JAMA. 2005,;293:715-722.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Stevens SM, et al. Chest. 2021 Aug 2.[Epub ahead of print]講師紹介

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~【見落とさない!がんの心毒性】第6回

新しい抗がん剤が続々と臨床に登場しています。厚生労働大臣によって承認された新医薬品のうち、抗悪性腫瘍用薬の数はこの3年で36もありました1)。効能追加は85もあり、新しい治療薬が増え、それらの適応も拡大しています。しかし、そのほとんどの薬剤は循環器疾患に注意して使う必要があり、そのうえで拠り所になるのが添付文書です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページの医療用医薬品情報検索画面2)から誰でもダウンロードできます。警告、禁忌、使用上の注意…と読み進めます。さらに、作用機序や警告、禁忌の理由を詳しく知りたいときは、インタビューフォーム(IF)を開きます。循環器医ががん診療に参加する際には、患者背景や治療薬のことをサッと頭に入れる必要がありますが、そんな時に便利です。前置きが長くなりましたが、今回は時間のない皆さまのために、添付文書の『警告』『禁忌』『重要な基本的注意』に循環器疾患を含んでいる抗がん剤をピックアップしてみました。『警告』に書かれていること(表1)の薬剤では重篤例や死亡例が報告されていることから、投与前に既往や危険因子の有無を確認のうえ、投与の可否を慎重に判断することを警告しています。infusion reaction、静脈血栓症、心不全、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症、QT延長、高血圧性クリーゼなどが記載されています。副作用に備え観察し、副作用が起きたら適切な処置をし、重篤な場合は投与を中止するように警告しています。(表1)画像を拡大するこうした副作用でがん治療が中止になれば予後に影響するので、予防に努めます。『警告』で最も多かったのはinfusion reactionですが、主にモノクローナル抗体薬の投与中や投与後24時間以内に発症します。時に心筋梗塞様の心電図や血行動態を呈することもあり、循環器医へ鑑別診断を求めることもあります。これらの中には用法上、予防策が講じられているものもあり、推奨投与速度を遵守し、抗ヒスタミン薬やアセトアミノフェン、副腎皮質ステロイドをあらかじめ投与して予防します。過敏症とは似て非なる病態であり、発症しても『禁忌』にはならず、適切な処置により症状が治まったら、点滴速度を遅くするなどして再開します。学会によってはガイドラインで副作用の予防を推奨してるところもあります。日本血液学会の場合、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを含む免疫調節薬(iMiDs:immunomodulatory drugs)による治療では、深部静脈血栓症の予防のために低用量アスピリンの内服を推奨しています3)。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、アントラサイクリンやトラスツズマブを含む治療では、心不全の進行予防に心保護薬(ACE阻害薬、ARB、および/またはβ遮断薬)を推奨しています。スニチニブ、ベバシズマブ、ラムシルマブなどの抗VEGF薬を含む治療では、血圧の管理を推奨しています4)。『禁忌』に書かれていること『禁忌』には、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」が必ず記されています。禁忌に「心機能異常又はその既往歴のある患者」が記されているのは、アントラサイクリン系の抗がん剤です。QT延長や、血栓症が禁忌になるものもあります。(表2)画像を拡大するここで少し注意したいのは、それぞれの副作用の定義です。たとえば「心機能異常」とは何か?ということです。しばしば、がん医療の現場では、左室駆出率(LVEF)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値だけが、一人歩きをはじめ、患者の実態とかけ離れた判断が行われることがあります。循環器医ががん患者の心機能を検討する場合、LVEFやBNPだけではなく、症状や心電図・心エコー所見や運動耐容能などを多角的に捉えています5)。心機能は単独で評価できる指標はないので、LVEFやBNP値だけで判断せず、心機能を厳密かつ多面的に測定して総合的に評価することをお勧めします。添付文書によく記載されている「心機能異常」。漠然としていますが、これの意味するところを「心不全入院や死亡のリスクが高い状態」と、私は理解しています。そこで、「心機能異常」診断の乱発を減らし、患者ががん治療から不必要に疎外されないよう努めます。その一方で、心保護薬でがん治療による心不全のリスクを最小限に抑えるチャンスを逃さないようにもします。上述の定義のことは「血栓症」にも当てはまります。血栓症では下腿静脈の小血栓と肺動脈本管の血栓を一様には扱いません。また、下肢エコーで見つかる米粒ほどの小血栓をもって血栓症とは診断しません。そこそこの大きさの血栓がDOACなどで制御されていれば、血栓症と言えるのかもしれませんが、それでも抗がん剤を継続することもあります。QT延長は次項で触れます。『重要な基本的注意』に書かれていることー意外に多いQT延長『重要な基本的注意』で多かったのは、心機能低下・心不全でした。アントラサイクリン系薬剤、チロシンキナーゼ阻害薬、抗HER2薬など25の抗がん剤で記載がありました。これらの対応策については既に本連載企画の第1~4回で取り上げられていますので割愛します。(表3)その1画像を拡大する(表3)その2画像を拡大する意外に多かったのは、QT延長です。21種類もありました。QT間隔(QTc)は男性で450ms、女性で460ms以上をQT延長と診断します。添付文書では「投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査及び電解質検査 (カリウム、マグネシウム、カルシウム等)を行い、 患者の状態を十分に観察する」などと明記され、血清の電解質の補正が求められます。とくに分子標的薬で治療中の患者の心電図でたびたび遭遇します。それでも重度の延長(QTc>500ms)は稀ですし、torsade de pointes(TdP)や心臓突然死はもっと稀です。高頻度にQT延長が認められる薬剤でも、新薬を待ち望むがん患者は多いため、臨床試験で有効性が確認されれば、QT延長による心臓突然死の回避策が講じられた上で承認されています。測定法はQTcF(Fridericia法)だったりQTcB(Bazett法)だったり、薬剤によって異なりますが、FMS様チロシンキナーゼ3-遺伝子内縦列重複(FLT3-ITD)変異陽性の急性骨髄性白血病治療薬のキザルチニブのように、QTcFで480msを超えると減量、500msを超えると中止、450ms以下に正常化すると再開など、QT時間次第で用量・用法が変わる薬剤があるので、測定する側の責任も重大です。詳細は添付文書で確認してみてください。抗がん剤による心臓突然死のリスクを予測するスコアは残念ながら存在しません。添付文書に指示は無くても、循環器医はQTが延長した心電図ではT波の面構えも見ます。QT dispersion(12誘導心電図での最大QT間隔と最小QT間隔の差)は心室筋の再分極時間の不均一性を、T peak-end時間(T波頂点から終末点までの時間)は、その誘導が反映する心室筋の貫壁性(心内膜から心外膜)の再分極時間のバラツキ(TDR:transmural dispersion of repolarization)を反映しています。電気的不均一性がTdP/心室細動の発生源になるので注意しています。詳細については、本編の参考文献6)~8)をぜひ読んでみてください。3つ目に多かったのはinfusion reactionで、該当する抗がん剤は17もありました。抗体薬の中には用法及び用量の項でinfusion reaction対策を明記しているものの、『重要な基本注的意』に記載がないものがあるので、実際にはもっと多くの抗がん剤でinfusion reactionに注意喚起がなされているのではないでしょうか。血圧上昇/高血圧もかなりありますが、適正使用ガイドの中に対処法が示されているので、各薬剤のものを参考にしてみてください。そのほかの心臓病についても同様です。なお、適正使用ガイドとは、医薬品リスク管理計画(RPM:Risk Management Plan)に基づいて専門医の監修のもとに製薬会社が作成している資料のことです。抗がん剤だけではない、注目の新薬にもある循環器疾患についての『禁忌』今年1月、経口グレリン様作用薬アナモレリン(商品名:エドルミズ)が初の「がん悪液質」治療薬としてわが国で承認されました。がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。その本質はタンパク質の異常な異化亢進であり、“病的なるい痩”が、がん患者のQOLやがん薬物療法への忍容性を低下させ、予後を悪化させます。アナモレリンは内服によりグレリン様作用を発揮し、がん悪液質患者の食欲を亢進させ、消耗に対抗します。切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質患者のうち、いくつかの基準をクリアすると使用できるので、対象となる患者が多いのが特徴です。一方、添付文書やインタビューフォームを見ると、『禁忌』には以下のように心不全・虚血・不整脈に関する注意事項が明記されています。「アナモレリンはナトリウムチャネル阻害作用を有しており、うっ血性心不全、心筋梗塞、狭心症又は高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者では、重篤な副作用を起こすおそれがあることから、これらの患者を禁忌に設定した」9)。また、『重要な基本的注意』には、「心電図異常(顕著なPR間隔又はQRS幅の延長、QT間隔の延長等)があらわれることがあるので注意すること」とあります。ピルシカイニド投与時のように心電図に注意が必要です。実際、当院では「アナモレリン投与中」と書かれた心電図の依頼が最近増えています。薬だけではない!?注目の新治療にもある循環器疾患につながる『警告』免疫の知識が今日ほど国民に浸透した時代はありません。私たちの体は、病原体やがん細胞など、本来、体の中にあるべきでないものを見つけると、攻撃して排除する免疫によって守られていることを日常から学んでいます。昨今のパンデミックにおいては、遺伝子工学の技術を用いてワクチンを作り、免疫力で災禍に対抗しています。がん医療でも遺伝子工学の技術を用いて創薬された抗体薬を使って、目覚ましい効果を挙げる一方で、アナフィラキシーやinfusion reaction、サイトカイン放出症候群(CRS:cytokine release syndrome)などの副作用への対応に迫られています。免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大に伴い、自己免疫性心筋炎など重篤な副作用も報告されており、循環器医も対応に駆り出されることが増えてきました(第5回参照)。チサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)は、採取した患者さんのT細胞を遺伝子操作によって、がん細胞を攻撃する腫瘍特異的T細胞(CAR-T細胞)に改変して再投与する「ヒト体細胞加工製品」です。PMDAホームページからの検索では、医療用「医薬品」とは別に設けてある再生医療等「製品」のバナーから入ると見つかります。「再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病」と「再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の一部に効果があります。ノバルティスファーマ株式会社のホームページで分かりやすく説明されています10)。この添付文書で警告しているのはCRSです。高頻度に現れ、頻脈、心房細動、心不全が発症することがあります。緊急時に備えて管理アルゴリズムがあらかじめ決められており、トシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体、商品名:アクテムラ)を用意しておきます。AlviらはCAR-T細胞治療を受けた137例において、81名(59%)にCRSを認め、そのうち54例(39%)がグレード2以上で、56例(41%)にトシリズマブが投与されたと報告しています11)(図)。(図)画像を拡大するトロポニンの上昇は、測定患者53例中29例(54%)で発生し、LVEFの低下は29例中8例(28%)で発生しました。いずれもグレード2以上の患者でのみ発生しました。17例(12%)に心血管イベントが発生し、すべてがグレード2以上の患者で発生しました。その内訳は、心血管死が6例、非代償性心不全が6例、および不整脈が5例でした。CRSの発症から、トシリズマブ投与までの時間が短いほど、心血管イベントの発生率が低く抑えられました。これらの結果は、炎症が心血管イベントのトリガーになることを改めて世に知らしめました。おわりに本来であれば添付文書の『重大な副作用』なども参考にする必要がありますが、紙面の都合で割愛しました。腫瘍循環器診療ハンドブックにコンパクトにまとめてありますので、そちらをご覧ください12)13)。さまざまな新薬が登場しているがん医療の現場ですが、心電図は最も手軽に行える検査であるため、腫瘍科と循環器科の出会いの場になっています。QT延長等の心電図異常に遭遇した時、循環器医はさまざまな医療情報から適切な判断を試みます。しかし、新薬の使用経験は浅く、根拠となるのは臨床試験の数百人のデータだけです。そこへ来て私は自分の薄っぺらな知識と経験で患者さんを守れるのか不安になります。患者さんの一路平安を祈る時、腫瘍科医と循環器医の思いは一つになります。1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)新医薬品の承認品目一覧2)PMDA医療用医薬品 添付文書等情報検索3)日本血液学会編.造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 金原出版.2018.p.366.4)Curigliano G, et al. Ann Oncol. 2020;31:171-190. 5)日本循環器学会編. 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版(班長:筒井裕之).6)Porta-Sanchez A, et al. J Am Heart Assoc. 2017;6:e007724.7)日本循環器学会編. 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン2017 年改訂版(班長:青沼和隆)8)呼吸と循環. 医学書院. 2016;64.(庄司 正昭. がん診療における不整脈-心房細動、QT時間延長を中心に)9)医薬品インタビューフォーム:エドルミズ®錠50mg(2021年4月 第2版)10)ノバルティスファーマ:CAR-T細胞療法11)Alvi RM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:3099-3108. 12)腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社. 2020.p.207-210.(森本 竜太. がん治療薬による心血管合併症一覧)13)腫瘍循環器診療ハンドブック.メジカルビュー社. 2020.p.18-20.(岩佐 健史. 心機能障害/心不全 その他[アルキル化薬、微小管阻害薬、代謝拮抗薬など])講師紹介

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特許切れの悪夢(製薬企業にとって)と新薬開発(解説:後藤信哉氏)

 製薬企業にとって自社製品の特許切れは大きな痛手である。直近ではARB、クロピドグレルなどの特許切れが業界に大きなインパクトを惹起した。日本ではあまり実感しないが、米国では特許切れと同時に価格が10分の1以下のジェネリック品に置き換わる。新薬開発メーカーは特許期間内に手厚く守られると同時に、特許切れショックを覚悟する必要がある。 2019年、世界で最も売れた薬(AnswersNews)を見ると、アピキサバンが2位(134億ドル!)、リバーロキサバンが第4位(103億ドル)となっている。すなわち、両者ともに1兆円を超える売り上げが毎年ある。特許が切れれば売り上げは急速にゼロになる。現在の仕組みでは、利潤をゆっくり上げることはできない。投資の損失を短期間に回収し、同時に特許切れに備えた革新的新薬開発が必須である。DOACはいずれも、第III相試験の結果を「エビデンス」として特許期間内の販売戦略に利用してきた。Xa阻害薬を超える有効性、安全性を持つ新薬を開発しないと特許切れに耐えられないが、特許期間内にはXa阻害薬の欠点が論じられると売り上げが落ちる。抗血栓薬の開発メーカーは現在の膨大な利潤を保持しつつ、現在のXa阻害薬の欠点を明らかにして、その欠点を乗り越える新薬を速やかに開発しなければならないとの困難な状態に置かれている。 本論文は新規の第XI因子阻害薬abelacimabの臨床開発第II相試験である。一般に、第II相試験は安全性の確認を目的として施行されることが多い。しかし、いずれXa阻害薬の市場の争奪を目指す第XI因子阻害薬は血液凝固内因系で、XI因子欠損症でも出血は少ない。本研究は、412例と少数例ではあるが、イベントリスクの高い静脈造影による静脈血栓再発を有効性のエンドポイントとして有効性に重点を置いていることが、一般的な第II相試験とは異なる。本研究はAnthos Therapeuticsが施行した。この第II相試験の結果を基に、どのような疾病を対象として、どのような第III相試験を計画して、abelacimabの特許期間内にどれだけの利潤を上げることができるか? 世界中の賢いヒトたちが戦略的に計画を練っていると想定される。 1990年代、日本経済が世界を席巻した時には日本流の長期安定雇用が良いとされた。製薬業界のように特許により短期利益確保がルールとなると、当たりを出した企業に人材が流動できるほうが有利である。日本経済の長期低迷には、米英による競争ルールの変更の寄与も大きいと思う。製薬業界は農耕民族よりも狩猟民族に有利な産業に見える。

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VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月【見落とさない!がんの心毒性】第4回

第4回はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI:Tyrosine Kinase Inhibitor)の心毒性メカニズムと管理法に、草場と森山が解説します。はじめに血管は、酸素や栄養素の供給、炎症部位への細胞輸送など、ヒトのからだにとって必要不可欠な組織です。血管形成は胎生期より始まり、出生後には創傷治癒や月経などの生理的機能、がんや糖尿病などの疾病と深くかかわっています。VEGFR-TKIとは?血管内皮細胞増殖因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)のファミリーにはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、 胎盤増殖因子(PIGF)-1、PIGF-2があり、これらは細胞表面に発現するVEGF受容体(VEGFR)-1、VEGFR-2、VEGFR-3、 NRP(neuropilin)1、NRP2のチロシンキナーゼ型受容体と結合して、下流のシグナル伝達経路を活性化することにより、血管内皮細胞の増殖・分化・遊走や血管透過性の調整など血管新生において中心的な働きをします(図1)。(図1)VEGFRシグナルとVEGFR-TKI画像を拡大する多くのがんにおいて、VEGFRを介したシグナル伝達経路の活性化は、がんの増殖や進展に促進的に働きます。VEGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体のリン酸化を阻害するTKIは「血管新生阻害薬」の一つとして、様々ながんの治療に用いられています。VEGFR-TKIの種類VEGFR-TKI は、主な標的分子であるVEGFR以外にも複数の分子の機能を阻害します。以下に各薬剤の主な標的分子、本邦での適応疾患を(表1)に示します。(表1) VEGFR-TKI の主な標的分子と適応疾患主な心毒性とリスク因子VEGFは、血管拡張作用を有する一酸化窒素とプロスタサイクリンを増加させ、血管収縮作用を有するエンドセリン-1産生を抑制するため、VEGFの機能が阻害されると血圧が上昇すると考えられています1)。そのため、VEGFR-TKIでは高血圧の頻度が高く(15~40%)、治療開始後2ヵ月以内に発症・増悪する場合が多いのが特徴です。また、微小血管の毛細血管床の密度低下や腎臓におけるメサンギウム細胞・内皮細胞障害なども高血圧発症に関与するとされています1)。リスク因子として、高血圧症の既往、NSAIDsやエリスロポエチン製剤との併用が報告されており2)、時に高血圧緊急症に至る場合があるため、適切な治療が必要です。また、心筋障害・心不全(~5%)、血栓塞栓症(0.6~11.5%)、QT延長(0.6~13.4%)などの心血管毒性も見られます3)。がん患者を対象とした研究のメタ解析でもVEGFR-TKIは、心不全、血栓塞栓症のリスク因子と報告されているのです4)5)。そのほか、倦怠感(35~50%)、下痢(30~70%)、手足症候群などの皮膚毒性(15~70%)、肝機能障害(5~50%)の頻度が高いです。管理法予防・治療の基本は、がん治療の効果を維持しながら、毒性のリスクを減らすことを目指します。VEGFR-TKIのみを対象とした心血管毒性の管理法の研究は少なく、特異的な管理法は未確立のため、通常の心血管リスク管理が重要です。高血圧診療の目標は、早期診断と血圧管理であり、リスク因子(高血圧の既往と現在の血圧など)の評価と既存の高血圧の治療は、VEGFR-TKI投与前に開始しましょう。投与開始後は、重篤な合併症を避けるために血圧上昇の早期発見と治療が重要で、通常の高血圧治療と同様に、ACE阻害薬、ARB、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が推奨されています6)。VEGFR-TKIはCYP3A4により代謝されるため、CYP3A4阻害作用を有する降圧剤(非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)との併用は避ける必要があります。心機能の低下した心不全患者では、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬を第一選択とします6)また、VEGFR-TKIは下痢の頻度が高く、利尿剤による脱水を助長する危険性もあります。利尿剤には電解質異常、二次性QT延長のリスクがあるため慎重に用います。重症高血圧があらわれた場合は、循環器専門医と連携して、頻繁なモニタリングと治療効果の評価を行うとともに、VEGFR-TKIの休薬・減量・再開について検討しましょう。心不全診療では、心不全症状発現前の心機能低下を早期発見する為に定期的な心エコー評価を行います。がん治療関連心筋障害を合併した場合は循環器専門医と相談しレニン・アンギオテンシン系阻害薬、β遮断薬などを開始します6)。血栓塞栓症診療では、下肢の浮腫やD-dimer上昇などの血栓症を疑う所見が見られた際に下肢静脈エコーで深部静脈血栓症の評価を行い、臨床的に肺塞栓症を疑う場合は胸部造影CTを行います。静脈血栓塞栓症の診断に至った際は、症例ごとに出血・血栓症のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断します。腎機能正常例では、ワルファリンよりも出血リスクが低い直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されます6)。心不全や血栓塞栓症の症例において、がん治療を休止・中止すべきかどうかはがん治療医と循環器専門医が連携して判断する必要があります。おわりに近年、悪性腫瘍の領域において、精力的な薬剤開発と良好な抗腫瘍効果から、VEGFR-TKIはがん治療に広く用いられるようになってきました。それに伴い、心血管毒性の管理の重要性が増しており、がん治療医と循環器専門医との緊密な連携がより重要になっているのです。1)Li W, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:1160-1178. 2)Robinson ES ,et al . Semin Nephrol. 2010;30:591-601.3)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.4)Ghatalia P, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 2015;94:228 -237.5)Abdel-Qadir H, et al. Cancer Treat Rev. 2017;53:120-127.6)Zamorano JL, et al. Eur Heart J. 2016;37:2768-2801.講師紹介

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添付文書改訂:オルミエント錠に新型コロナ肺炎追加/イグザレルトがDOACで初の小児適応追加/オキシコンチンTR錠に慢性疼痛追加【下平博士のDIノート】第73回

オルミエント錠に新型コロナ肺炎の適応追加<対象薬剤>バリシチニブ錠(商品名:オルミエント錠2mg/4mg、製造販売元:日本イーライリリー)<承認年月>2021年4月<改訂項目>[追加]効能または効果SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)<Shimo's eyes>ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬バリシチニブ(商品名:オルミエント錠)の効能または効果に、新型コロナウイルスによる肺炎が追加されました。わが国では、レムデシビル、デキサメタゾンに続いて3剤目の新型コロナウイルス感染症治療薬となります。現在、新型コロナウイルス感染症に係る入院加療は全額公費負担となっており、本剤もその対象となります。投与対象は、入院下で酸素吸入、人工呼吸管理、体外式膜型人工肺(ECMO)の導入が必要な中等症から重症の患者で、レムデシビルとの併用で最長14日間投与することができます。経口投与ができない患者には、同剤を粉砕・懸濁して、胃ろうや経鼻移管などの方法で投与します。使用にあたっては、RMP資材である、「適正使用ガイド SARS-CoV-2による肺炎」を参照してください。バリシチニブの主な排泄経路は腎臓のため、透析患者または末期腎不全の患者は禁忌です。また、リンパ球数が200/mm3未満の患者にも禁忌となっています。治療成績としては、1,033人の患者が登録された国際共同第III相試験で回復までの期間を比較した結果、バリシチニブ+レムデシビルの併用群(バリシチニブ群)は7日、レムデシビル単独群(対照群)は8日と有意差がありました。また、重症患者216人に絞って評価したところ、回復までの期間は、バリシチニブ群で10日、対照群は18日とより大きな差が見られました。なお、本剤は2020年12月にアトピー性皮膚炎の追加適応も得ています。参考日本イーライリリー プレスリリースイグザレルトがDOACで初の小児適応追加<対象薬剤>リバーロキサバン(商品名:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包10mg/15mg、製造販売元:バイエル薬品)<改訂年月>2021年1月<改訂項目>[追加]効能または効果小児:静脈血栓塞栓症の治療および再発抑制<Shimo's eyes>抗凝固薬のリバーロキサバン(商品名:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包)の効能または効果に、小児に対する「静脈血栓塞栓症の治療および再発抑制」が追加され、小児適応を持つ唯一の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)となりました。また、新生児や乳幼児の服用にも適した剤型であるドライシロップ(同:イグザレルトドライシロップ小児用51.7mg/103.4mg)も承認されました。本剤は、エドキサバン(同:リクシアナ錠・OD錠)、アピキサバン(同:エリキュース錠)とともに経口活性化凝固第Xa因子阻害薬に分類されます。血液凝固系におけるXa因子の活性化部位を直接的に阻害することで、トロンビンの生成を阻害して抗凝固作用を発揮します。近年の疾患に関する認知や診断技術の向上により、静脈血栓塞栓症(VTE)と診断される小児患者数は増加しています。小児における従来のVTE治療では、ワルファリンのみが適応を持っていたため、採血による定期的な凝固系のモニタリングだけでなく、薬物相互作用や食事など多方面で配慮が必要でしたが、本剤の適応追加により、患児および介助者の負担を軽減できることが期待されています。参考バイエル薬品 プレスリリース同 イグザレルト.jp 小児:静脈血栓塞栓症の治療および再発抑制(小児VTE)オキシコンチンTR錠の適応に慢性疼痛<対象薬剤>オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(商品名:オキシコンチンTR錠5mg/10mg/20mg/40mg、製造販売元:シオノギファーマ)<改訂年月>2020年10月<改訂項目>[追加]警告慢性疼痛に対しては、本剤は、慢性疼痛の診断、治療に精通した医師のみが処方・使用するとともに、本剤のリスクなどについても十分に管理・説明できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ用いること。また、それら薬局においては、調剤前に当該医師・医療機関を確認したうえで調剤を行うこと。[追加]効能・効果非オピオイド鎮痛薬またはほかのオピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛[追加]用法・用量慢性疼痛に用いる場合:通常、成人にはオキシコドン塩酸塩(無水物)として1日10~60mgを2回に分割経口投与する。なお、症状に応じて適宜増減する。<Shimo's eyes>オピオイド鎮痛薬のオキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(商品名:オキシコンチンTR錠)の効能・効果に、慢性疼痛が追加されました。本剤は容易に砕けない硬さと、水分を含むとゲル化するという乱用防止特性を有する徐放性製剤です。本剤は、依存や不適正使用につながる潜在的なリスクがあるため、今回の適応追加に際しては、医薬品リスク管理計画を策定して適切に実施するなどの承認条件が付され、医療機関・医師・薬剤師による厳重な管理が求められています。【オキシコンチンTR錠を慢性疼痛で使用する際の確認事項】<処方する医師>1.製造販売業者が提供するeラーニングを受講し、確認テストに合格し、確認書をダウンロードする。2.処方時に確認書の内容を患者に説明し、医師・患者ともに署名をして確認書を患者に交付する。3.確認書の控えを医療機関で保管する。<調剤する薬剤師>1.患者が持参した麻薬処方箋と確認書について、処方医名、施設名、交付日が一致していることを確認する。なお、患者が確認書を持参しておらず、がん疼痛か慢性疼痛か判断できない場合は、処方医に患者の適応を問い合わせる。2.確認書の患者確認事項を説明し、患者の理解を確認し、確認書にチェックを入れ、調剤する。近年、がん患者だけでなく、非がん患者の痛みに関する身体的症状と精神症状のケアが課題となっています。このような背景から、非がん性疼痛に適応を持つオピオイド鎮痛薬が増えてきました。すでに、トラマドール、コデインリン酸塩、ブプレノルフィン貼付薬、モルヒネ塩酸塩、フェンタニル貼付薬がありますが、今回、オキシコドン製剤として初めて本剤が慢性疼痛への適応を取得しました。参考PMDA「オキシコドン塩酸塩水和物徐放製剤の使用に当たっての留意事項について」同「確認書を用いた管理体制の全体図」シオノギ製薬「オキシコンチンTR錠で慢性疼痛の治療を受けられる患者さまへ」

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高齢NVAF患者、DOAC使用実態と2年間の転帰(ANAFIEレジストリ)/日本循環器学会

 本邦では、80代あるいは90代の心房細動患者も少なくないが、最適な抗凝固療法は必ずしも明らかになっていない。85歳以上の超高齢者が約25%を占める、3万例超の日本人高齢非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の大規模レジストリ(ANAFIE)の結果を、第85回日本循環器学会学術集会(2021年3月26日~28日)で井上 博氏(富山県済生会富山病院)が発表した。高齢NVAF患者での抗凝固療法の臨床転帰、DOACをワルファリンと比較 ANAFIEレジストリは、日本人高齢NVAF患者におけるリアルワールドでの抗凝固療法の使用状況と臨床転帰を調査するために実施された、多施設共同前向き観察研究。75歳以上のNVAF患者を登録、2年間の追跡調査が行われた。 脳卒中/全身性塞栓症(SEE)、大出血、および2年間の全死因死亡の発生率は、カプランマイヤー分析によって推定された。各イベントのハザード比は、治療群(抗凝固薬なし、ワルファリン[WF]、およびDOAC)間のCox比例ハザードモデルを使用して分析された。 75歳以上のNVAF患者を2年間追跡調査したANAFIEレジストリの主な結果は以下のとおり。・2016年10月~2018年1月に33,278例のNVAF患者が登録され、32,275例が解析対象とされた。・平均年齢は81.5歳、85歳以上は26.1%(8,419例)含まれた。男性:57.3%、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.5、平均HAS-BLEDスコア:1.9、発作性心房細動:42.1%/持続性心房細動:16.5%/長時間持続性・永続性心房細動:41.4%であった。・92.4%が経口抗凝固薬による治療を受けていた(ワルファリン:25.5%、DOAC:66.9%)。・DOACの投与状況は通常用量(appropriate:17.7%、overdose:3.2%)、減量用量(appropriate:44.2%、underdose:16.8%)。・ワルファリンの平均至適範囲内時間(TTR)は75.5%であった。・平均追跡期間1.88年における各イベントの発生率は以下のとおり: 脳卒中/SEE(全体:3.01%、85歳未満:2.69%、85歳以上:3.91%) 大出血(全体:2.00%、85歳未満:1.80%、85歳以上:2.55%) 頭蓋内出血(全体:1.40%、85歳未満:1.28%、85歳以上:1.76%) 心血管死亡(全体:2.03%、85歳未満:1.39%、85歳以上:3.85%) 全死因死亡(全体:6.95%、85歳未満:4.89%、85歳以上:12.77%) net clinical outcome(全体:10.14%、85歳未満:7.92%、85歳以上:16.44%)・転倒歴(登録前1年以内)、カテーテルアブレーション歴が、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡の独立したリスク因子であり、多剤併用は大出血および全死因死亡と関連していた。・ワルファリン群と比較して、DOAC群では出血性脳卒中および消化管出血を除く全てのイベントリスクが低く、抗凝固薬なし群では脳卒中/SEEおよび全死因死亡のリスクが高かった。  これらの結果を受けて井上氏は、日本人高齢NVAF患者においてDOACは広く用いられており、良好にコントロールされたワルファリン投与群と比較して、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡リスクが有意に低かったとして発表を締めくくった。

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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DOAC でどこまで攻めるか?心房細動を合併した弁置換術後の場合(解説:香坂俊氏)-1345

ワルファリンの有効な代替薬としてDOACが販売されるに至り、さまざまな病態に関して抗血栓治療に関する知見が集まりつつある(本当に2011年以降たくさんのエビデンスが出てきている)。まず心房細動や静脈血栓症といった従来からワルファリンが第1選択とされる病態に対してDOACが有効な代替薬であるということが示された。さらにその後、安全性(副作用としての出血の発症率)に関しては完全に勝るというところが定着し、現在たとえば新規心房細動に対してのDOACの処方率は7割を越えている。最近では、そこからさらに心房細動を合併する冠動脈疾患患者に対しては抗血小板治療を最小限に抑えてよい(ステントなどを使用して抗血小板薬を2剤使用しなくてはならない患者はなるべく早期に1剤に落とし、その後落ち着いて1年ぐらいたったらその1剤も落として抗凝固薬だけに絞る)という知見が得られるに至っている。ワルファリンを使わなくてはならない病態として、心房細動や静脈系の血栓症以外に、人工弁患者が挙げられる。DOACは基本的にこの分野に関しては効果が不十分であるといわれており、ダビガトランというDOACで一度RCTが行われたことがあるが、有害事象が多く、基本的に機械弁に対しては今でもワルファリンが用いられる。が、しかし生体弁に関してはどうか? という疑問は解決されずにきた(生体弁は膜で覆われていてそもそも抗凝固薬が必要ないのだが、心房細動を合併している場合などに問題となる)。今回発表されたRIVER試験では、DOACの中でもとくに抗血栓作用が強いとされるリバーロキサバンを用いてワルファリンとの比較が行われた。詳細に関しては関連記事に譲るが(生体弁による僧帽弁置換術後のAF患者、リバーロキサバンの効果は?/NEJM)、総じてリバーロキサバンはワルファリンに劣らぬ結果を出すことに成功している(非劣性であり、やはりこの分野でもワルファリンの有効な代替薬となることが示された)。DOACの特徴としては、比較的に均一の患者を扱うRCTよりも、多彩な患者を治療しなくてはならないリアルワールドで力を発揮するところにある(https://pmc.carenet.com/?pmid=32341789)。RIVERで用いられたリバーロキサバンの用量は海外用量(20mg、腎機能低下例では15mg)であり、わが国の用量(15mg、同10mg)と若干異なるというところはあるものの、今後この試験結果をきっかけとして心房細動を合併する生体弁患者に関してもDOAC使用の理解が深まっていくのではないか。

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日本人のCOVID-19による血栓症発症率は?

 合同COVID-19関連血栓症アンケート調査チームによる『COVID-19関連血栓症に関するアンケート調査』の結果が12月9日に発表された。それによると、日本人での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連血栓症の発症率は、全体では1.85%であることが明らかになった。 この調査は、COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることが欧米の研究で指摘されていることを受け、日本人COVID-19関連血栓症の病態及び診療実態を明らかにすることを目的として行われたもの。2020年8月31日までに入院したCOVID-19症例を対象とし、全国の病院399施設のうち109施設からCOVID-19患者6,082例に関する回答が寄せられた。なお、合同調査チームは厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会の3組織合同によるもの。 主な調査結果は以下のとおり。・Dダイマーは症例全体の72%で測定され、入院中に基準値の3~8倍の上昇を認めたのはそのうちの9.5%、8倍以上の上昇を認めたのは7.7%と、多くの症例で血栓傾向がみられた。・血栓症は1.85%(血栓症に関する回答のあった5,687例のうち105例)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例(血栓症症例の21.0%)、心筋梗塞7例(同6.7%)、深部静脈血栓症41例(同39.0%)、肺血栓塞栓症29例(同27.6%)、その他の血栓症21例(同20.0%)であった。・血栓症は、軽/中等症の症例での発症が31例(軽/中等症症例の0.59%)、人工呼吸器/ECMO使用中の発症が50例(人工呼吸/ECMO症例まで要した重症例の13.2%)であった。・症状悪化時に血栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が血栓症を発症していた。・抗凝固療法は、76病院で6,082例のうち880例(14.5%)に実施された。治療法の主な内訳は、未分画ヘパリン591例(880例中の67.2%)、低分子量ヘパリン111例(同13.0%)、ナファモスタット234例(同26.6%)、トロンボモジュリンアルファ42例(同4.8%)、前述の薬剤併用138例(同15.7%)、直接経口抗凝固薬[DOAC]91例(同10.3%)、その他42例(同4.8%)だった。・予防的抗凝固療法の実施について回答した49施設によると、予防的投与を行った患者背景として、Dダイマー高値、NPPV(非侵襲的陽圧換気)/人工呼吸患者、酸素投与患者などが挙げられた。

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がん患者、抗凝固薬の中止時期を見極めるには/日本癌治療学会

 がん患者は合併症とどのように付き合い、そして医師はどこまで治療を行うべきか。治療上で起こりうる合併症治療とその中止タイミングは非常に難しく、とりわけ、がん関連血栓症の治療には多くの腫瘍専門医らは苦慮しているのではないだろうかー。 10月23日(金)~25日(日)にWeb開催された第58回日本癌治療学会学術集会において、会長企画シンポジウム「緩和医療のdecision making」が企画された。これには会長の弦間 昭彦氏の“decision makingは患者の治療選択時に使用される言葉であるが、医療者にとって治療などで困惑した際に立ち止まって考える機会”という思いが込められている。今回、医師のdecision makingに向けて発信した赤司 雅子氏(武蔵野赤十字病院緩和ケア内科)が「合併症治療『生きる』選択肢のdecision making-抗凝固薬と抗菌薬-」と題し、困惑しやすい治療の切り口について講演した。本稿では抗凝固療法との向き合い方にフォーカスを当てて紹介する。医師のバイアスがかからない意思決定を患者に与える がん治療を行いながら並行して緩和医療を考える昨今、その場に応じた1つ1つの細やかな意思決定の需要性が増している。臨床上のdecision makingは患者のリスクとベネフィットを考慮して合理的に形成されているものと考えられがちであるが、実際は「多数のバイアスが関係している」と赤司氏は指摘。たとえば、医師側の合理的バイアス1)として1)わかりやすい情報、2)経験上の利益より損失、3)ラストケース(最近経験した事柄)、4)インパクトの大きい事象、などに左右される傾向ある。これだけ多数のバイアスのかかった情報を患者に提供し、それを基にそれぞれが判断合意する意思決定は“果たして合理的なのかどうか”と疑問が残る。赤司氏は「患者にはがん治療に対する意思決定はもちろんのこと、合併症治療においても意思決定を重ねていく必要がある」と述べ、「とくに終末期医療において抗凝固薬や抗菌薬の選択は『生きる』という意味を含んだ選択肢である」と話した。意思決定が重要な治療―がん関連血栓症(CAT) 患者の生死に関わる血栓症治療だが、がん患者の血栓症リスクは非がん患者の5倍も高い。通常の血栓症の治療期間は血栓症の原因が可逆的であれば3ヵ月間と治療目安が明確である。一方、がん患者の場合は原因が解決するまでできるだけ長期に薬物治療するよう現時点では求められているが、血栓リスク・出血リスクの両方が高まるため薬剤コントロールに難渋する症例も多い。それでも近年ではワーファリンに代わり直接経口抗凝固薬(DOAC)が汎用されるようになったことで、相互作用を気にせずに食事を取ることができ、PT-INR確認のための来院が不要になるなど、患者側に良い影響を与えているように見える。 しかし、DOACのなかにはP糖タンパクやCYP3A4に影響する薬物もあることから、同氏は「終末期に服用機会が増える鎮痛剤や症状緩和の薬剤とDOACは薬物相互作用を起こす。たとえば、アビキサバンとデキサメタゾンの併用によるデキサメタゾンの血中濃度低下、フェンタニルやオキシコドン、メサペインとの相互作用が問題視されている。このほか、DOACの血中濃度が2~3倍上昇することによる腎機能障害や肝機能障害にも注意が必要」と実状を危惧した。DOACの調節・中止時の体重換算は今後の課題 また、検査値指標のないDOACは体重で用量を決定するわけだが、悪液質が見られる場合には筋肉量が低下しているにも関わらず、浮腫や胸水、腹水などの体液の貯留により体重が維持されているかのように見えるため、薬物投与に適した体重を見極めるのが難しい。これに対し、同氏は「自施設では終末期がん患者の抗凝固療法のデータをまとめているが、輸血を必要としない小出血については、悪液質を有する患者で頻度が高かった。投与開始時と同量の抗凝固薬を継続するのかどうか、検証するのが今後の課題」と話した。また、エドキサバンのある報告2)によると、エドキサバンの血中濃度が上昇しても大出血リスクが上昇するも脳梗塞/塞栓症のリスクは上昇しなかったことから、「DOACの少量投与で出血も塞栓症も回避することができるのでは」とコメント。「ただし、この報告は非がん患者のものなので、がん患者への落とし込みには今後の研究が待たれる」とも話した。 さらに、抗凝固薬の中止タイミングについて、緩和ケア医とその他の医師ではそのタイミングが異なる点3)、抗凝固薬を開始する医師と中止する医師が異なる点4)などを紹介した。 このような臨床上での問題を考慮し「半減期の短さ、体内での代謝などを加味すると、余命が短め週の単位の段階では、抗凝固療法をやめてもそれほど影響はなさそうだが、薬剤選択には個々の状況を反映する必要がある」と私見をまとめ、治療の目標は「『いつもの普段の自分でいられること』で、“decision making”は合理的な根拠を知りながら、その上で個別に考えていくことが必要」と締めくくった。

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DOAC服用心房細動患者のイベント発生予測因子/日本循環器学会

 心房細動患者の抗凝固薬治療と予後を調べた多施設共同前向き観察研究であるRAFFINE研究から、直接経口抗凝固薬(DOAC)服用患者における脳梗塞および全身塞栓症の独立した予測因子として年齢、糖尿病、脳梗塞の既往が、また重大な出血の独立した予測因子として年齢、脳梗塞の既往が示唆された。第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で宮崎 彩記子氏(順天堂大学医学部循環器内科)が発表した。 RAFFINE(Registry of Japanese Patients with Atrial Fibrillation Focused on anticoagulant therapy in New Era)研究は、心房細動治療の実態把握とDOAC服用者におけるイベント発生の予測因子の調査を目的とした前向き研究である。対象は、2013~15年に研究参加施設に外来通院していた20歳以上の非弁膜症性心房細動(発作性、持続性、永続性のすべて)患者で、入院患者、研究参加の同意が得られなかった患者、余命1年以下と判断された患者を除外した3,706例が解析対象となった。観察は1年ごとに3年(最大5年)まで、観察期間中央値は1,364日であった。 主な結果は以下のとおり。<ベースライン時の状況>・3,706例の非弁膜症性心房細動患者のうち、ワルファリン服用患者(ワルファリン群)1,576例、DOAC服用患者(DOAC群)1,656例、経口抗凝固薬(OAC)投与なしの患者(No-OAC群)474例であった。・年齢およびCHADS2スコアはワルファリン群で高く、No-OAC群では低かった。また、うっ血性心不全既往歴、高血圧、糖尿病、脳梗塞/TIA既往歴を有する患者の割合もワルファリン群で高く、No-OAC群で低かった。・発作性心房細動の割合は、ワルファリン群28.0%、DOAC群41.0%、No-OAC群64.6%とNo-OAC群で高かった。消化管出血はNo-OAC群が最も高く、HAS-BLEDスコアはワルファリン群で最も高かった。・抗血小板薬を投与されていた割合は、ワルファリン群28.6%、DOAC群17.9%、No-OAC群40.7%で、No-OAC群で高かった。<観察期間での調査>・DOAC服用患者の割合はベースライン44.7%から3年時の58.7%まで徐々に増加していた。・DOAC投与量については、適応内の通常用量が38%、適応内の減量が29%、適応外の低用量が27%、適応外の過量が6%で、適応外用量は33%であった。適応外用量の割合を薬剤別にみると、ダビガトラン(n=653)では35%、リバーロキサバン(n=569)では35%、アピキサバン(n=408)では27%、エドキサバン(n=26)では31%であった。・DOAC服用者における脳梗塞および全身塞栓症の独立した予測因子として、年齢(ハザード比[HR]:1.09、95%CI:1.04~1.13、p<0.0001)、糖尿病(HR:2.17、95%CI:1.23~3.82、p=0.007)、脳梗塞/TIAの既往(HR:2.65、95%CI:1.46~4.80、p=0.001)が示唆されたが、適応外用量は関連しなかった。また、重大な出血(ISTH基準)の独立した予測因子としては、年齢(HR:1.07、95%CI:1.03~1.10、p<0.0001)、脳梗塞/TIAの既往(HR:2.06、95%CI:1.17~3.61、p=0.011)が示唆され、抗血小板薬投与は関連しなかった 宮崎氏は、DOAC服用者における適応外用量が33%に認められたことから、イベント発生におけるDOACの適応外用量の影響を調べるためにさらなる研究が必要と述べた。

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抗血栓療法受難の時代(解説:後藤信哉氏)-1246

 20世紀の後半からアスピリン、クロピドグレル、DOACsと抗血栓療法が世界の注目を集めた。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症などは致死的イベントの代表であった。抗血栓薬にて多少出血が増えても、「心血管死亡」が減るのであれば、メリットが大きいと考えられた。冠動脈ステントなど人工物では血栓性が高いとされ、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬併用療法も推奨されてきた。血栓イベント予防のために抗凝固薬と抗血小板薬を併用している症例も実臨床では多数見掛けた。 21世紀になって体重コントロール、運動習慣、食事への配慮が普及した。世界的に見れば血栓イベントは重要な死因の1つであるが、教育の行き届いた先進諸国での血栓イベントが目に見えて減少した。体内に入れる医療材料の血栓性も制御されるようになった。抗血栓薬による血栓イベント低下効果よりも、抗血栓薬による出血イベントが注目されるようになった。 本研究では、すでに抗凝固薬を服用中のTAVIの症例が対象となった。本研究の対象症例は326例と多くない。80歳以上で、ほとんどの症例が心房細動を合併したリスクの高い症例である。しかし、心血管死亡・総死亡、虚血性脳卒中いずれもクロピドグレルの追加により減少のサインすらない。出血はクロピドグレル群で多い。重篤な出血には有意差はないが、傾向としてクロピドグレルの追加により増加する。心房細動にてDOACと強いマーケット活動が持続しているが、実臨床ではワルファリン使用が一般的である。本研究の対象も多くはワルファリン治療下である。TAVIでは一般に抗血小板薬併用療法が施行されているが、抗凝固療法施行中の症例に抗血小板薬を追加する必要はない。重篤な出血を惹起する抗血栓薬は使わずに済めば使わないほうがよい。抗血栓薬にとっては受難の時代になった。

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がん患者のVTE治療、アピキサバンは低分子ヘパリンに非劣性/NEJM

 がん患者の静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、直接経口抗凝固薬(DOAC)アピキサバンは、低分子ヘパリン(LMWH)ダルテパリン皮下投与と比較して、VTE再発に関して非劣性で、消化管の大出血のリスクを増加させないことが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らが行った「Caravaggio試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月29日号に掲載された。現行の主要なガイドラインでは、がん患者のVTE治療にはLMWHが推奨され、最近、DOACであるエドキサバンとリバーロキサバンの使用の考慮が追加されたが、これらのDOACは出血のリスクが高いため有益性は限定的だという。LMWHと比較する無作為化非劣性試験 本研究は、がん患者のVTE治療におけるアピキサバンのダルテパリンに対する非劣性を検証する医師主導の非盲検無作為化非劣性試験である(Bristol-Myers SquibbとPfizerの提携組織の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、症候性または急性の近位型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症(PE)を有するがん患者であった。これらの患者が、アピキサバン群(10mg[1日2回]、7日間経口投与後、5mg[1日2回]を投与)、またはダルテパリン群(200 IU/kg[1日1回]、1ヵ月皮下投与後、150 IU/kg[1日1回]を投与)に無作為に割り付けられ、6ヵ月の治療が行われた。 有効性の主要アウトカムは、試験期間中に客観的に確定されたVTE再発(症候性のDVTまたはPEの再発)とした。安全性の主要アウトカムは大出血であった。事前に規定された非劣性マージンは、ハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)上限値2.00とした。VTE再発:5.6% vs.7.9%、大出血:3.8% vs.4.0% 2017年4月~2019年6月までに、欧州9ヵ国、イスラエル、米国の119施設に1,155例が登録された。アピキサバン群が576例(平均年齢67.2[SD 11.3]歳、男性292例[50.7%])、ダルテパリン群は579例(67.2[10.9]歳、276例[47.7%])であった。治療期間中央値は、アピキサバン群が178日(IQR:106~183)、ダルテパリン群は175日(79~183)だった(p=0.15)。 ベースラインのPE±DVTは、アピキサバン群が52.8%、ダルテパリン群は57.7%、DVTはそれぞれ47.2%、42.3%、症候性DVTまたはPEは、79.9%、80.3%であった。また、活動性のがんは、アピキサバン群が97.0%、ダルテパリン群は97.6%、局所進行・再発または転移を有するがんは、それぞれ67.5%、68.4%だった。 VTE再発は、アピキサバン群が576例中32例(5.6%)、ダルテパリン群は579例中46例(7.9%)で認められ、アピキサバン群のダルテパリン群に対する非劣性が確認され、優越性は示されなかった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.37~1.07、非劣性のp<0.001、優越性のp=0.09)。 このうち、DVT再発は、アピキサバン群が576例中13例(2.3%)、ダルテパリン群は579例中15例(2.6%)で発生し(HR:0.87、95%CI:0.34~2.21)、PE再発はそれぞれ576例中19例(3.3%)および579例中32例(5.5%)で発生した(0.54、0.29~1.03)。 大出血は、アピキサバン群が576例中22例(3.8%)、ダルテパリン群は579例中23例(4.0%)で発生し、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.82、95%CI:0.40~1.69、p=0.60)。消化管大出血は、アピキサバン群が576例中11例(1.9%)、ダルテパリン群は579例中10例(1.7%)で発生した(1.05、0.44~2.50)。 また、臨床的に重要な非大出血(アピキサバン群576例中52例[9.0%]vs.ダルテパリン群579例中35例[6.0%]、HR:1.42、95%CI:0.88~2.30)や、全死因死亡(576例中135例[23.4%]vs.579例中153例[26.4%]、0.82、0.62~1.09)の発生にも、両群間に差はなかった。 著者は、「これらのがん患者におけるアピキサバンの良好な安全性プロファイルは、一般集団のVTE治療におけるアピキサバンの無作為化試験の結果と一致する。これらの知見を合わせると、消化器がんを含め、アピキサバンが適応となるVTEを有するがん患者の割合が拡大する可能性がある」と指摘している。

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弁膜症治療のガイドライン、8年ぶり改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会は2020年3月13日、「2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン」を学会ホームページで公開した。診断や薬物治療も含めて弁膜症における診療全体に言及するとの意味から、これまでの「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」(2012年に一部改訂版が発行)から名称が変更され、全面改訂が行われている。弁膜症治療のガイドラインは欧米人との体格差を考慮した基準を提示 改訂された弁膜症治療のガイドラインでは、僧帽弁閉鎖不全症(MR)については、新たに心房性機能性MRの概念が導入されたほか、重症一次性MRの手術適応の判断において、日本独自の参考値が示された。無症候の場合の左室機能低下のマーカーとしてのLVEFやLVESDは、これまで欧米患者のデータに基づくものが使用されてきた経緯がある。今回、小柄な日本人に当てはめる場合の参考値として、BSA≦1.7m2の症例では LVESD index≧24mm/m2が提示された。 大動脈弁閉鎖不全症(AR)についても、慢性重症ARの手術適応の判断において、日本人観察研究のデータなどから体格差を考慮した左室サイズの基準を提案している。LVESDの基準は、ESC/ACC/AHAでともに>50mmとされているが、今回の弁膜症治療のガイドラインでは>45mmとしている。LVEDDについては、ESCでは>70mm、ACC/AHAでは>65mmとされており、本ガイドラインでは>65mmが採用された。弁膜症治療のガイドラインはTAVI vs.SAVRで患者背景や解剖学的安全性を重視 大動脈弁狭窄症(AS)について、改訂された弁膜症治療のガイドラインでは重症度評価のためのフローチャートを掲載。真の重症ASを見逃すことのないよう、また中等度ASへの不必要な介入を防ぐことを目的に、SViやLVEFから診断を進められるよう構成されている。  重症ASの手術適応では、欧米のガイドラインが有症候性のみをTAVIの適応としているのに対し、今回の弁膜症治療のガイドラインでは無症候性でも適応となりうる(例:LVEF<50%、very severe ASなど)とした点が大きな特徴となっている。 TAVI vs.SAVRの推奨については、欧米では年齢やSTSスコアの基準が設けられているのに対し、本ガイドラインではそれらは示されなかった。年齢に加え、手術リスクや弁の耐久性、フレイルなどのさまざまな要素を加味し、患者の希望も尊重したうえで、最終的には弁膜症チームで決定することが重要であることを強調している。 ただし、弁膜症治療のガイドラインとして優先的に考慮する大まかな目安としては、80歳以上TAVI、75歳未満SAVRとされている。また、選択の目安としてTAVI、SAVRそれぞれを考慮する具体的な因子が一覧表化されている。弁膜症治療のガイドラインは5つのCQを設定し、システマティックレビューを実施 改訂された弁膜症治療のガイドラインでは、従来のガイドラインに採用されているが実際にどの程度のエビデンスがあるのか疑問が残る項目や、いまだ議論が残る項目を、クリニカルクエスチョン(CQ)として5つ取り上げ、システマティックレビューの結果に基づき、推奨の強さとエビデンス総体の強さが示されている。5つのCQは、以下の通り:CQ 1 無症候性重症一次性MRで左室収縮末期径(LVESD)<40mmかつ左室駆出率(LVEF)>60%、心房細動も肺高血圧もない症例の早期手術は推奨すべきか?CQ 2  LVEFの保たれた(≧50%)無症候性重症ARに、LVESD index>25mm/m2で大動脈弁手術を推奨すべきか?CQ 3  LVEFの保たれた無症候性超重症ASに早期手術は必要か?CQ 4 左心系弁手術の際、軽症のTRであっても弁輪拡大が高度(>40mmもしくは>21mm/m2)な場合は三尖弁形成を加えるべきか?CQ 5 生体弁置換術後の心房細動例に直接経口抗凝固薬(DOAC)は使用可能か?

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第34回 ワルファリン服用時PT-INR2.0~3.0の根拠を説明できますか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはあまりにも有名な抗凝固薬であり、直接経口抗凝固薬(DOAC)もワルファリンとの非劣性試験を行っており、血栓塞栓症の予防薬としてのベンチマークとなっています。多くの薬剤師がその説明に慣れているのではないかと思いますが、スタンダードとされるその効果はどの程度で、なぜPT-INRを2.0~3.0くらいで管理する必要があるのか根拠を示しながら服薬指導できているでしょうか。今回は、意外に正確に即答するのが難しいワルファリンに関するエビデンスを紹介します。ワルファリンは脳卒中リスクを対照群に比べて60%、抗血小板薬に比べて40%低下ワルファリンの血栓塞栓症予防効果は、数多くの試験で示唆されています。非弁膜症性心房細動患者の脳卒中予防効果についてまとめたメタ解析がありますので、押さえておくとよいでしょう1)。この解析には29試験、合計2万8,044例の被験者が含まれており、その平均年齢は71歳で、平均フォローアップ期間は1.5年です。6試験、2,900例の解析によるワルファリン服用群の脳卒中の相対リスクは、抗血栓薬を服用していない対照群と比べて64%低下(95%信頼区間[CI]:49%~74%)、死亡率は26%低下しています。一方、8試験、4,876例の解析による抗血小板薬服用群の脳卒中の相対リスクは、対照群と比べて22%低下(95%CI:6%~35%)しています。また、12試験、1万2,963例の解析によるワルファリン群の脳卒中の相対リスクは、抗血小板薬群と比べて39%低下(95%CI:22%~52%)しています。対照群と比べて約60%、抗血小板薬群と比べて約40%の脳卒中リスク低減というのはとても大きな効果で、DOACが出るまでスタンダードとされていた理由もうなずけます。ただし、試験の前提としてワルファリンの用量が調整されていたことは留意しておくべきで、現実においても当然同様に必要です。上記解析では、抗血小板薬はワルファリンより小さいとはいえ、一定の脳卒中予防効果を示しています。しかし、日本人の非弁膜症性心房細動患者において、アスピリン150~200mg/日投与群と抗血小板薬や抗凝固薬を服用しないプラセボ群を比較した試験(JAST)では、アスピリンは脳卒中予防に対して有効でなかったうえに、中間解析で重篤な出血が増加して試験中止になっているため、推奨されているわけではありません2)。不整脈により生じる脳卒中予防でワルファリンがよく用いられるのにそういった背景があることを知っていると、説明で役に立つかもしれません。PT-INR 2.0~3.0管理群は1.5~1.9管理群よりも有意に深部静脈血栓塞栓症再発が少ないワルファリンの薬効評価では、血液の凝固速度を表すPT-INRの数値をみます。日本血栓止血学会によれば、ワルファリンによる一般的な抗凝固療法では2.0~3.0に管理するとあります。通常の標準値は1.0前後で、それより数値が大きいほど血が止まりにくくなるため、内出血や鼻血、歯茎からの出血などが生じやすくなります。なぜ2.0~3.0がよいのかについては、静脈血栓塞栓症予防におけるINRコントロールの最適値を検討した研究があります3)。ワルファリン治療を3ヵ月以上行っている静脈血栓塞栓症患者738例を、INR 1.5~1.9の低強度管理群とINR 2.0~3.0の通常強度管理群に1:1に割り付け、有効性と安全性を比較しています。主要アウトカムは静脈血栓塞栓症再発および出血です。その結果、深部静脈血栓塞栓症の再発は、INR 1.5~1.9管理群では16回(1.9/100人・年)、INR 2.0~3.0管理群では6回(0.7/100人・年)と有意差があり、ハザード比は2.8(95%CI:1.1~7.0)でした。一方で、重大な出血、全出血発生頻度はともに両群間に有意差はありませんでした。管理が不十分だと塞栓症リスクが3倍近く上昇することは知っておくとよいでしょう。さらに、PT-INRの目標値1.5~2.0と2.0~3.0で比較した別の研究においても、一貫性のある結果が得られており、目標値の妥当性がよくわかります。逆に3.0を超えても予防効果が用量依存的に上がるわけではなく、出血性リスクが高くなるのであくまでも基準値を目指すのがよいということになります4)。抗凝固療法などの予防薬は患者さん自身に治療効果が見えづらくてアドヒアランスが低下しがちです。どの程度の出血傾向があれば注意すべきなのかという目安を伝えることはもちろん重要ですが、治療しない場合と比べてどの程度の効果が期待できて、どのくらいの目標値で管理するとそれがリスクを避けながら最大化されるのかをしっかりと説明できるとよいと思います。そのようなときに、これらの知見をお役立ていただければ幸いです。1)Hart RG, et al. Ann Intern Med. 2007;146:857-867. 2)Sato H, et al. Stroke. 2006;37:447-451. 3)Kearon C, et al. N Engl J Med. 2003;349:631-639. 4)Crowther MA, et al. N Engl J Med. 2003;349:1133-1138.

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TAVRの術後は抗血小板療法?抗凝固療法?(解説:上妻謙氏)-1191

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、重症大動脈弁狭窄症に対する治療として標準治療となったが、術後の抗血栓療法についての十分なエビデンスが存在しない。今までTAVR後の抗血栓療法としては3~6ヵ月のアスピリンとクロピドグレルによる2剤併用抗血小板療法(DAPT)が標準とされてきたが、この抗血小板療法についての大規模研究は少なく、とくにランダマイズトライアルは皆無である。TAVR後に抗血小板療法が良いのか抗凝固療法が良いのかが疑問であったため、低用量アスピリンに加えてリバーロキサバン10mgとクロピドグレル投与を無作為で比較するGALILEO試験が行われ、結果はすでに発表された。 この試験ではリバーロキサバンを用いた抗凝固療法は有効性の複合エンドポイントで抗血小板療法群に劣り、出血のエンドポイントである安全性エンドポイントでも劣る傾向にあった。したがって、TAVR後の抗血栓療法は抗血小板療法が標準ということが守られた形になっている。一方、TAVRでも外科的手術の生体弁でも、術後早期からの弁尖肥厚と可動性低下が4D-CTを使用することによってレポートされていて、これが血栓の付着によるものと考えられ、生体弁の耐久性を低下させる原因となっているとされていた。 そこで、GALILEO試験の主なサブスタディとして、このGALILEO 4-D試験がデザインされた。4-D CTとは3-Dに加え時間の要素を加えた実際の弁尖の厚みと可動性を評価できるもので、それぞれ5段階に半定量化されて評価された。GALILEO試験1,644例の患者のうち、このサブスタディには231例がエンロールされた。115例がリバーロキサバン群、116例が抗血小板療法群に割り当てられ、実際に4-D CTで評価できたのはそれぞれ97例と101例であった。結果は術後90日の時点で評価され、プライマリーエンドポイントである少なくとも1つの弁尖の可動性低下がグレード3以上であった割合は、リバーロキサバン群2.1%に対し抗血小板療法群10.9%と有意にリバーロキサバン群が良好であり、弁尖肥厚についても12.4%対32.4%とリバーロキサバン群が良好であった。これらの所見はエコーでも評価されたが、エコーでは検出されなかった。 このスタディの結果から言えることは、生体弁の耐久性を向上させるためには抗凝固療法が良い可能性があるが、抗凝固療法による短期臨床イベントの上昇のデメリットが今のところ上回っているということである。このスタディの問題点は抗凝固に低用量のDOACがアスピリンと組み合わされて使用されていることだろう。アスピリンと抗凝固の併用は心房細動でも最もイベントの多い組み合わせであり、出血リスクの高い患者の多いTAVRに適さなかったと考えられる。DOAC単剤であればどうだったのかが検証されることが望ましい。

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長期透析中AF患者へのDOAC、臨床的メリットは

 脳卒中リスク低減のため、心房細動(AF)には直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されているが、長期間に渡って透析治療を受けている患者は出血リスクが高く、臨床的メリットは不明である。米国・マウントサイナイ・ベスイスラエル病院の工野 俊樹氏らは、長期透析中のAF患者に対するDOACの有効性および安全性についてネットワークメタ解析の手法を用いて調査を行った。Journal of American College of Cardiology誌オンライン版2020年1月28日号に掲載。DOACが長期透析中のAF患者の血栓塞栓症のリスク低下と関連しない 本調査では、2019年6月10日までにMEDLINEおよびEMBASEに登録された文献データを検索。その結果、AFのある長期透析患者に関する16件の観察研究(7万1,877例)が特定され、うち2件がDOACについて調査を行っていた。有効性のアウトカムは、虚血性脳卒中/全身性血栓塞栓症(SE)および全死因死亡、安全性のアウトカムには大出血だった。ただし、ダビガトランとリバロキサバンのアウトカムは、主要な出血イベントに限定されていた。 長期透析中AF患者へのDOACの有用性について調査した主な結果は以下の通り。・アピキサバンとワルファリンは、抗凝固薬なしと比べ脳卒中/SEの有意な減少と関連していなかった(アピキサバン5mg;ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.30〜1.17、アピキサバン2.5mg;HR:1.00、95%CI:0.52~1.93、ワルファリン;HR:0.91、95%CI:0.72~1.16)。・アピキサバン5 mgは、死亡リスクが有意に低かった(vs.ワルファリン;HR:0.65、95%CI:0.45~0.93、vs.アピキサバン2.5 mg;HR:0.62、95%CI:0.42~0.90、vs.抗凝固薬なし;HR:0.61、95%CI:0.41~0.90)。・ワルファリンは、アピキサバン5mg/2.5mgおよび抗凝固薬なし、よりも大出血のリスクが有意に高かった(vs.アピキサバン5mg;HR:1.41、95%CI:1.07~1.88、vs.アピキサバン2.5mg;HR:1.40、95%CI:1.07~1.8、vs.抗凝固薬なし;HR:1.31、95%CI:1.15~1.50)。・ダビガトランおよびリバロキサバンは、アピキサバンおよび抗凝固薬なしよりも重大な出血リスクが有意に高かった。 今回のネットワークメタ解析では、DOACが長期透析中のAF患者の血栓塞栓症のリスク低下と関連しないことを示しており、ワルファリン、ダビガトラン、およびリバロキサバンは、アピキサバンおよび抗凝固薬なしと比べ有意に高い出血リスクと関連していた。著者らは、「透析中のAF患者の抗凝固薬に関してはアピキサバンの有効性と安全性を調べたランダム化試験が必要であり、ワルファリンとの比較だけではなく抗凝固薬なしとの比較も必要である」と述べている。

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