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1981.

妻の迅速な対応で脳梗塞から完全に回復した郵便配達員

 月曜日の午前5時15分、米国カリフォルニア州に住む男性、Levan Singletaryさんの目覚ましが鳴った。道路の清掃が始まる前に、路上に止めてある車を移動しなければいけない時間だった。アパートのドアを出て2階から階段を駆け下り、約200メートル歩いた所にあった車を移動。自宅に戻ってから、郵便局への出勤前にもう1時間、ひと眠りしようとベッドに入った。妻のAngelaさんは既に目を覚ましていたが、まだベッドの中にいた。「Van? 今日は休みじゃなかったの?」と彼女は尋ねた。彼女は夫のことを普段、Vanと呼んでいる。 Levanさんは普段、月曜日は非番だったが、その日は出勤を指示されていることを妻に伝えた。彼は郵便配達員としての仕事以外に、市営公園などで週に4日、夜間の仕事もしていた。Angelaさんは、Levanさんが仕事を抱え過ぎていると感じ、「非番の日の出勤など断ればよかったのに」と語った。すると、LevanさんがAngelaさんへ腕を伸ばし、身を寄せようとしてきた。Angelaさんは、会話の内容と脈絡のない夫の行動を、奇妙なものに感じた。 次の瞬間、Levanさんが何か言いたげに、言葉にならない声を発し、同時に体が痙攣した。「どうしたの?」との妻の問いに答えはなかった。「Van、大丈夫?」と重ねて問うと、夫は「大丈夫だよ」と答えた。確かに普段と変わらない様子だったが、体が硬直しているような感じもした。そこでAngelaさんは、夫に「座ってみて?」と、ベッドに腰掛けるように指示した。Levanさんは、その動作ができなかった。 Angelaさんは、自分の年老いた父親が以前、脳梗塞になった時のことを思い出した。Levanさんはまだ54歳で健康上の問題はなかったが、彼女の頭に浮かんだのは父親のその時の症状だった。「Van、あなたは脳梗塞を起こしているみたいよ」と彼女は夫に語った。Levanさん自身はいつも通りだと思ったが、数秒後に左半身が麻痺し始めた。Angelaさんはすぐに911番に通報し、「夫が脳梗塞を起こしているようだ」と状況を伝えた。 救急要請後、彼女は夫を病院に連れて行く準備に大わらわとなった。パジャマ姿だったため、とりあえず靴下を履かせ、タオルで顔を拭きローションを塗って、ひげを剃った。「どうなるのかな?」という夫の質問には、「大丈夫よ」とだけ言葉を返した。一方でLevanさんは、「救急治療室で治療が終わったら、すぐに仕事に行けるように服を整えておいて」と妻に頼んだ。Angelaさんは、「今日は仕事には行かないことになると思うよ」と答えた。 救急隊は15分かからずに到着し、約15分離れた脳卒中センターのある病院に彼を搬送した。病院到着後、血栓溶解薬による治療が行われた。血栓溶解薬は、脳梗塞発症から3~4.5時間以内であれば投与可能な薬剤で、この治療が行われた場合、良好な予後を期待できる。Levanさんの場合、発症から約1時間後の投与だった。 変化はすぐに現れた。Angelaさんが病院に到着した時、Levanさんは既に起き上がって朝食を食べていた。医師たちは、Angelaさんの素早い的確な行動を称賛した。脳梗塞発症から治療開始までの時間が短かったことが、Levanさんの回復に大きな違いをもたらしたという。 医師の説明によると、Levanさんの脳梗塞の原因は頸動脈の裂傷とのことで、いくつかの治療選択肢が示された。翌日、夫婦2人で保険会社からの連絡を待つ間に、Levanさんに二度目の脳梗塞が発生した。そばにいたAngelaさんは、その兆候に気付き直ちに看護師を呼んだ。緊急手術が施行され、頸動脈の裂傷の修復とステントの留置が行われた。 Levanさんはその後、経過観察のために数日間入院した。ただし、理学療法士や言語療法士が関与すべき障害は起こらず、同じ週の土曜日には自宅に戻っていた。翌日曜日、Levanさんは自宅周辺を歩き回り、月曜日の出勤に向けて体調を整えようとした。しかし、Angelaさんは「仕事のことは考えないで」と伝え、彼の母親も彼女の考えに同意した。 5週間後、Levanさんは郵便配達の任務に復帰した。その日、自宅に帰った時刻は、以前の帰宅時刻よりも2時間半ほど遅かった。帰宅が遅れた理由は、休んでいる最中に職場の人々から寄せられていた応援メッセージを読み、そしてその人たち全員に感謝を述べていたためだった。 この出来事以来、LevanさんとAngelaさんの生活にはいくつかの変化があった。まず、Levanさんの仕事内容が郵便配達から、ほかのスタッフをトレーニングするポジションに変わった。ただし、公園での夜間業務などはまだ続けている。「私は生来、一労働者として生きてきたが、これからは少し仕事のペースを落とすつもりだ」と彼は語っている。一方、Angelaさんは、2人の息子を育てた後は仕事を離れていたため、今後は夫への依存を減らす必要があると考えている。「私たちは結婚して33年、その5年前からともに暮らしてきたが、その間、主に彼の収入に頼っていた。これからは私も仕事に就いて家計を支えなければいけない」と彼女は話す。 Levanさんは今、機会があるごとに脳卒中という疾患に対する認識向上と、「time is brain(時は脳なり)」というフレーズの周知啓発に努めている。250人の郵便職員の前で、それらの重要性を語ったこともある。「脳卒中の兆候が見られたら、それを軽視しないでほしい。私は、妻が迅速に行動してくれたおかげで、完全に回復することができた」。[2023年8月21日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

1982.

実臨床における片頭痛予防に対する抗CGRP抗体の有用性~メタ解析

 片頭痛は、中等度~高度な頭痛エピソードを特徴とする神経疾患である。カルシトニン遺伝子に特異的なモノクローナル抗体由来の新規薬剤の開発により、従来治療で効果不十分であった片頭痛患者にとって、新たな治療選択肢がもたらされた。ブラジル・パラナ連邦大学のVinicius L. Ferreira氏らは、片頭痛予防に対する抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド抗体(抗CGRP抗体)の実臨床での効果を評価するため、観察コホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、片頭痛予防に対する抗CGRP抗体の使用に関する実臨床を反映した観察研究のメタ解析の結果は、これまでのランダム化比較試験で報告された結果と同様であり、抗CGRP抗体の有効性が確認された。Clinical Drug Investigation誌オンライン版2023年9月4日号の報告。 論文検索には、観察研究用の電子データベースを用いた。抗CGRP抗体(エレヌマブ、フレマネズマブ、ガルカネズマブ、eptinezumabなど)を使用している成人片頭痛患者を対象に有効性アウトカム(1ヵ月当たりの平均片頭痛/頭痛日数の減少、片頭痛/頭痛日数が50%以上減少した患者の割合)が報告された研究を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング後、データ抽出、定性的および定量的分析を行うため、47研究をメタ解析に含めた。・片頭痛に関して、1ヵ月当たりの平均片頭痛日数が50%以上減少した患者は54%(95%信頼区間[CI]:49~59)、1ヵ月当たりの平均片頭痛日数の減少は約7.7日(95%CI:8.4~7.0)であった。・頭痛に関して、1ヵ月当たりの平均頭痛日数が50%以上減少した患者は57%(95%CI:48~64)、1ヵ月当たりの平均頭痛日数の減少は約8.8日(95%CI:10.1~7.5)であった。・使用薬剤や片頭痛タイプを考慮したサブグループ解析は、これまでの結果と同様であった。

1983.

ChatGPT、医師と同程度の正確性で救急患者を診断

 医師は将来、救急外来患者の病気を迅速かつ正確に診断するために、ChatGPT(チャットGPT)などの人工知能(AI)プログラムの助けを借りるようになるかもしれない。医師とChatGPTに同じ内容の臨床情報が提供された場合、ChatGPTが正確に診断する能力は医師と同程度であることがイェルーン・ボッシュ病院(オランダ)のSteef Kurstjens氏らによる研究で示された。この研究結果は欧州救急医学会(EUSEM 2023、9月16~20日、スペイン・バルセロナ)で発表されるとともに、「Annals of Emergency Medicine」に9月9日掲載された。 この研究では、2人の医師チームとAIプログラムが2022年3月に同病院の救急外来を受診した30人の患者の診療記録や検査値を評価した。研究に用いられたAIプログラムは無料版と有料版のChatGPTだった。医師チームとChatGPTは、与えられた情報を基に、それぞれの患者で考えられる疾患をリストアップした。これらは過去の症例であるため、研究グループは実際の診断名を把握していた。 その結果、リストアップされた上位5つの疾患の中に実際の診断名が含まれていた確率は、医師チームで87%、無料版ChatGPTで97%、有料版ChatGPTで87%であった。Kurstjens氏は、「最終的には、医師とChatGPTの診断精度は同程度だった。つまりAIは、救急外来での診断プロセスを迅速化し、診断可能な患者数を増加させるのに役立つ可能性があるということだ」と説明している。また、今回の研究結果を踏まえ、今後はAIを救急部門での実際の診療に活用した場合の影響について評価するための臨床試験の実施が必要だと指摘している。 Kurstjens氏が今回の研究テーマを思いついたのは、複雑な健康問題を抱えている患者の診断が難しいと医師たちが話しているのを聞いたことがきっかけだった。同氏は、「私がある患者の訴えと服用中の薬剤の情報をChatGPTに入力したところ、すぐに正確な診断名が出てきた。しかも、ChatGPTはその疾患の原因として、患者が服用していた2種類の薬剤の相互作用を挙げていた」と言う。 医師は、すでに統計プログラムやスクリーニング目的の検査結果のスコアリングシステムなど、さまざまな形のコンピューターソフトウェアによる支援を受けているが、AIも似たような役割を果たすことになるのではないかとKurstjens氏は予測。「AIが、医師の診断精度の向上や診断の迅速化を助ける新たなツールとなる可能性はあるはずだ」と話している。 米救急医学レジデント協会(Emergency Medicine Residents' Association;EMRA)会長のJessica Adkins Murphy氏は、Kurstjens氏らの研究結果が、救急外来での診療がAIの導入により向上する可能性を示していることに同意する。その一方で、複数の健康問題を抱え、複雑な既往歴を持つ患者も多いため、ChatGPTのようなAIプログラムには分析が難しい場合もあり得ることを指摘。また、心筋梗塞を原因とする腹痛など、深刻な疾患によって思いがけない症状が発生する場合も多いと付け加えている。 Kurstjens氏とMurphy氏はいずれも、AIを使用して医師の事務作業を減らすことが短期的にはAIのベストな活用法であるとの見方を示している。Murphy氏は、「現時点ですぐにでも診療に活用できるAIの能力は、医師の業務の中で特に面倒なカルテ入力や記録作成などだろう。例えば現在、医師と患者の会話を聞きながら患者の既往歴や診察などを記録するAIアプリも存在する」と話す。 また、こうしたAIアプリでは可能性のある診断名を導き出すこともできるが、Murphy氏の同僚たちによると、AIがカルテの記録から導き出した診断には追加や削除が必ず必要な状況であるという。Murphy氏は「実際に、われわれがこの種の業務にかける時間は減っているため、業務を効率化して診察できる患者の数を増やすAIの能力についてはかなり楽観視している。それでも、AIは複雑な症例に対する医師の判断の代わりにはならない」と話している。

1984.

アントラサイクリン系薬剤による心機能障害をアトルバスタチンは抑制したがプラセボとの差はわずかであった(解説:原田和昌氏)

 近年、Onco-cardiologyが注目されており、がん化学療法に伴う心毒性を抑制できる薬剤の探索が行われている。動物実験や小規模なランダム化比較試験では、アントラサイクリン系薬剤による左室駆出率(LVEF)低下に対する、アトルバスタチンの抑制作用が報告されていたが、乳がんを中心としたPREVENT試験では効果を示せなかった(ドキソルビシン換算の中央値、240mg/m2)。 リンパ腫患者においてアトルバスタチン(40mg/日)の投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤に関連する心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であるSTOP-CA試験で示された(同、300mg/m2)。主要評価項目はLVEFが化学療法前後で絶対値において10%以上低下し、12ヵ月後に55%未満となった患者の割合で、プラセボ群22%対アトルバスタチン群9%であった(p=0.002)。しかし、群全体としてのEF低下幅はスタチン群4.1%で、プラセボ群5.4%との差は1.3%のみであった(p=0.029)。 がん化学療法の心毒性に対する抑制効果のメタ解析では、スピロノラクトン、エナラプリルが最も有効で、スタチン、β遮断薬がこれに続いた。また、アントラサイクリン系薬剤もしくはトラスツズマブ治療を受けた患者のコホート研究では、ACE阻害薬、β遮断薬の治療にて全死亡が少なかった。さらに、アントラサイクリン系薬剤治療に関するメタ解析では、β遮断薬によって心不全の発症が有意に低下した。 スタチンによる心保護作用についてはさまざまな機序が推定されており、その意味で本試験の結果は納得のいくものである。そもそも、最近のメタ解析によるとスタチンにはHFrEF患者の入院の抑制作用も示されている。しかし、EF低下幅の差1.3%で有意差を出すことができたのは、ひとえに試験デザインの秀逸さによるものと考えられる。

1985.

ボールペンで輪状甲状靭帯切開は可能か?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第242回

ボールペンで輪状甲状靭帯切開は可能か? Unsplashより使用どの医療系マンガか忘れましたが、ボールペンを使って胸腔ドレナージや輪状甲状靭帯切開を行うというのは、なかなかドラマティックなものです。日本酒を口に含んでブーっと消毒するシーンもカッコよく見えてきますが、あれはさすがに汚いかもしれません。既存の消毒剤と「日本酒ブー」のランダム化比較試験を誰かやっていただきたいところです。さて、ボールペンが緊急輪状甲状靭帯切開に使えるシロモノかどうかを検討した珍しい研究があります。Kisser U, et al.Bystander cricothyrotomy with ballpoint pen: a fresh cadaveric feasibility study.Emerg Med J. 2016 Aug;33(8):553-556.この研究は、3種類のボールペンが緊急輪状甲状靭帯切開に有用かどうか調べたものです。マネキンではなく、新鮮な死体を用いておこなわれた実臨床的なものとなっています。まずボールペンの特性です。内径が狭すぎると、そもそも切開しても呼吸ができないというジレンマに陥ります。3本のうち2本の内径が3mm以上ということで、気管切開のカニューレとしては妥当な水準だったようです。私たちが行っているようなセルジンガー法のキットは、輪状甲状靭帯切開の内径がだいたい4mmなので、2mmになってくると、さすがに呼吸がちょっとしんどいですね。さて、問題は皮膚から気管まで到達できるかどうかです。ボールペンは、先がメスになっているわけではないので、気管を貫通できたのは10例中1例という、残念な結果でした。この1例も、5分以上かけて3回気管切開を試みていますので、簡単にブスっというわけではなさそうです。そのため、ボールペンがあっても、緊急輪状甲状靭帯切開を行うことは事実上不可能であると思っておいたほうがよいです。ちなみに、「ナイフを併用してもよい」という条件であれば、10例中8例という成功率だったと報告されています1)。ただし、メスを持ち歩くと逮捕されそうなので、街中でドラマティックに緊急輪状甲状靭帯切開を行うのは難しいかもしれません。1)Braun C, et al. Bystander cricothyroidotomy with household devices - A fresh cadaveric feasibility study. Resuscitation. 2017 Jan;110:37-41.

1986.

医療従事者、職種ごとの自殺リスク/JAMA

 米国の非医療従事者と比較した医療従事者の自殺のリスクについて、正看護師、医療技術者、ヘルスケア支援従事者の同リスクが高いことを、米国・コロンビア大学のMark Olfson氏らがコホート研究の結果で報告した。歴史的に医師の自殺リスクは高かったが、この数十年で減少した可能性が指摘されていた。一方で、他の医療従事者の自殺リスクに関する情報は、依然として不足していた。今回の結果を踏まえて著者は、「米国の医療従事者のメンタルヘルスを守るため、新たな計画への取り組みが必要である」とまとめている。JAMA誌2023年9月26日号掲載の報告。26歳以上の184万2,000人について解析 研究グループは、2008年の米国コミュニティ調査(American Community Survey:ACS)を国民死亡記録(National Death Index:NDI)に連携させた米国コミュニティ間の死亡率格差(Mortality Disparities in American Communities:MDAC)データを用い、26歳以上の雇用されているACS参加者184万2,000人を同定し解析した。調査期間は、2019年12月31日まで。 主要アウトカムは、年齢および性別で標準化した自殺率で、6つの医療従事者グループ(医師、正看護師、その他の医療診断または治療従事者、医療技術者、ヘルスケア支援従事者、社会/行動ヘルスワーカー)および非医療従事者について推定した。Cox比例ハザードモデルを用い、年齢、性別、人種/民族、配偶者の有無、教育、居住地(都市部または地方)で調整後、非医療従事者に対する医療従事者の自殺に関するハザード比(HR)を算出した。ヘルスケア支援従事者、正看護師、医療技術者で自殺のリスクが上昇 10万人(年齢中央値44歳[四分位範囲[IQR]:35~53]、女性32.4%[医師]~91.1%[正看護師])当たりの年間標準化自殺率は、ヘルスケア支援従事者21.4(95%信頼区間[CI]:15.4~27.4)、正看護師16.0(9.4~22.6)、医療技術者15.6(10.9~20.4)、医師13.1(7.9~18.2)、社会/行動ヘルスワーカー10.1(6.0~14.3)、その他の医療診断または治療従事者7.6(3.7~11.5)、非医療従事者12.6(12.1~13.1)であった。 非医療従事者に対する自殺の調整後HR(aHR)は、医療従事者全体が1.32(95%CI:1.13~1.54)、ヘルスケア支援従事者が1.81(1.35~2.42)、正看護師が1.64(1.21~2.23)、および医療技術者が1.39(1.02~1.89)で増加したが、医師は1.11(0.71~1.72)、社会/行動ヘルスワーカーは1.14(0.75~1.72)、その他の医療診断または治療従事者は0.61(0.36~1.03)で増加しなかった。 なお、著者は研究の限界として、死亡率のデータは2019年に終了しており新型コロナウイルス感染症時代の自殺リスクを反映していないこと、ICD-10の臨床修正コードに基づく死亡データは自殺死を正確に分類していない可能性があること、個々の調査の回答の正確性を検証する手段がないこと、ACSは雇用前の自殺未遂や精神障害など重要な自殺のリスク因子を調べていないこと、などを挙げている。

1987.

カテーテルアブレーションは心房細動を伴う末期心不全の予後を改善する(解説:原田和昌氏)

 心房細動(AF)を伴う心不全にカテーテルアブレーションを行うと、AF burdenが減少し、左室の逆リモデリングが起こり、死亡率が下がることが知られている。AFを伴う末期心不全患者においても、カテーテルアブレーション+薬物療法は薬物療法単独に比べ、死亡、左心補助人工心臓(LVAD)の植え込み、緊急心臓移植の複合イベント発生を低下させることが、ドイツ・ルール大学ボーフムのSohns氏らによる非盲検無作為化比較試験(CASTLE-HTx試験)により示された。対象者は、心臓移植か人工心臓かの評価のためBad Oeynhausenの心臓・糖尿病センター(心臓移植年間約80例)に受診した、症候性AFを有する末期心不全患者である。 アブレーション群において、51例は肺静脈隔離のみ、30例は他の部位にもアブレーションを行った。処置関連合併症はアブレーション群3件、薬物療法群1件で、アクセス部位の血管合併症であった。追跡期間中央値18.0ヵ月において、主要エンドポイントはアブレーション群8例(8%)、薬物療法群29例(30%)で発生した(HR:0.24、95%CI:0.11~0.52、p<0.001)。内訳は、死亡がアブレーション群6例(6%)、薬物療法群19例(20%)(HR:0.29、95%CI:0.12~0.72)で、LVADの植え込みがアブレーション群1例、薬物療法群10例、緊急心臓移植がアブレーション群1例、薬物療法群6例であった。また、AF burdenが減少し、EFが改善した。 近年、重症心不全のハートチームに不整脈治療専門医を加えることが一部の施設で行われている。2021年改訂版の植込型補助人工心臓治療ガイドラインには、「薬物治療抵抗性の心房性頻脈性不整脈に対してはアブレーションを考慮し、治療抵抗性の持続性心室頻拍・心室細動については両心室補助も検討すべき」とあるが、これらの場合AFのアブレーションのみならずLVADのアウトレット周囲を起源とするVTのアブレーションなども含まれる。本試験の結果はある意味予想通りではあるが、手技の不成功がLVADの植え込みや緊急心臓移植(?)につながる可能性も否定できないため、わが国で一般的に推奨できるかどうかは明らかでない。

1988.

血栓高リスクの肺・消化器がん、エノキサパリンによる血栓予防で生存改善(TARGET-TP)

 肺がんや消化器がん患者において、バイオマーカーに基づく血栓リスクの分類と、高リスクに分類された患者に対するエノキサパリンによる血栓予防は、血栓塞栓症の発生を抑制するだけでなく、生存も改善することが報告された。本研究結果は、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのMarliese Alexander氏らによって、JAMA Oncology誌オンライン版2023年9月21日号で報告された。 2018年6月~2021年7月に第III相非盲検無作為化比較試験「Targeted Thromboprophylaxis in Ambulatory Patients Receiving Anticancer Therapies(TARGET-TP)」が実施された。本試験はオーストラリアの5施設において、肺がんまたは消化器がんに対する抗がん剤治療を開始する18歳以上の患者328例が対象となった。フィブリノゲン値とDダイマー値に基づき、血栓塞栓症リスクを低リスクと高リスクに分類した※。高リスクに分類された患者について、エノキサパリン40mg(1日1回、皮下投与)を90日間投与する群(エノキサパリン群)、血栓予防薬を投与しない群(高リスク対照群)に1対1に割り付け、比較した。なお、エノキサパリン群は血栓塞栓症リスクに応じて、180日まで投与期間を延長可能とした。主要評価項目は180日後までの血栓塞栓症の発生、副次評価項目は、血栓塞栓症リスクモデルの検証、出血、全死亡などであった。※ 以下の(1)~(3)のいずれかを満たすものを高リスクとした。(1)ベースライン時のフィブリノゲン値4g/L以上かつDダイマー値0.5mg/L以上、(2)ベースライン時のDダイマー値1.5mg/L以上、(3)1ヵ月後のDダイマー値1.5mg/L以上。 主な結果は以下のとおり。・対象患者328例(年齢中央値[範囲]:65歳[30~88]、男性:176例[54%])のうち、肺がんは127例(39%)、消化器がんは201例(61%)であった。転移を有していたのは132例(40%)、高リスクと判定されたのは200例であった。・血栓塞栓症は高リスク対照群で23例(23%)に発生したのに対し、エノキサパリン群では8例(8%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.31、95%信頼区間[CI]:0.15~0.70)。低リスク群では10例(8%)に発生したが、高リスク対照群よりも有意に少なかった(同:3.33、1.58~6.99)。・血栓塞栓症リスクモデルの感度は70%、特異度は61%であった。・大出血の発生に群間差は認められなかった(エノキサパリン群:1例[1%]、高リスク対照群:2例[2%]、低リスク群:3例[2%])。・6ヵ月死亡率は高リスク対照群が26%であったのに対し、エノキサパリン群では13%(HR:0.48、95%CI:0.24~0.93、p=0.03)、低リスク群では7%(同:4.71、2.13~10.42、p<0.001)であり、高リスク対照群と比較して有意に低かった。

1989.

動物咬傷(犬、猫)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第7回

今回は動物咬傷の処置を紹介します。一概に動物といっても種類は無数にあり、Review報告の頻度が高いのは想像どおり犬や猫ですが、それ以外にも蛇やげっ歯類、馬、クモ、サメ、アリゲーター/クロコダイルなどが報告に挙がっています1)。私は医師3年目のときに、アメリカの救急医向けの著書「Tintinalli's Emergency Medicine」でアナコンダにかまれたときの対処法を学びましたが、「人生で遭遇する機会はないだろうなぁ」と思いながら読んでいました2)。実際に私が経験する機会の多い咬傷の第1位は犬で、次いで猫、そして人です。蛇咬傷については第5回をご参照ください。今回は犬咬傷で、創が比較的小さく(3cm未満)、四肢をかまれた場合の処置に限定します。犬と猫は基本的には治療は変わりませんが、しいて言えば猫のほうが歯が細くて鋭く、創が小さく深い傾向にあります。創が大きい、もしくは美容的に縫合が必要な場合(顔面など)はアプローチが別になります。<症例>72歳男性主訴飼い犬にかまれた高血圧、糖尿病で定期通院中。受診2時間前に飼い犬のマルチーズに手をかまれた。自宅にあった消毒液で消毒し、包帯を巻いた状態で定期受診。診察が終わったときに自分から「今日手をかまれて血が出て大変だったんだよ」と言い、犬咬傷が判明。既往歴糖尿病、高血圧アレルギー歴なしバイタル特記事項なし右前腕2ヵ所に1cm程度の創あり。発赤なし。内科外来をしていると上記のようなことを偶然聴取することがあります。さて、これは「そうなんだ。大変だったね~」とこのまま帰してよいのでしょうか?報告によると、犬咬傷は咬傷全体の80%を占め、若い男性に多く、餌を取り上げるなど犬に不快感を与えたときにかまれることが多いそうです3)。私が小さいころ、田舎の犬が食事をしていたときに、いつもは喜ぶ頭なでなでをしたら吠えられて驚いた記憶があります。この患者さんはとくに理由もなくほぼ毎日かまれているそうですが、ここまで深くかまれたのは初めてだったとのことです。ちなみに、犬咬傷の次に多いのが猫咬傷で全体の10%程度、若い女性に多いようです1)。咬傷で危険なのは、かみ傷が神経や血管を損傷することですが、感染も同等に危険です。口腔内には多種多様な菌がいて、感染のリスクが高いです。動物にかまれた後1~2日してから病院を受診した患者では、入院や外科的処置が必要になるリスクが3.5~7倍高くなるという報告があります4)。早期に適切な処置をして感染を防ぐことが重要ですので、治療をステップに分けて説明します。(1)鎮痛、創の深さ・異物の有無の確認創に対して処置を行うのでしっかりと鎮痛しましょう。動物咬傷は感染リスクが高いため可能な限り縫合は避けます。縫合しない場合は、私は鎮痛薬としてキシロカインの注射剤ではなく、ゼリー剤を用います。塗布してガーゼで覆い、5分ほど待ってから創の深さと異物の有無を確認しましょう。私はこういった小さな創に対しては眼科用ピンセットを用いて深さや異物の有無を確認しています。創部内の観察が困難な場合もありますが、動物咬傷で異物となるのは歯ですので、疑わしい場合はレントゲンを撮影しましょう。本症例は眼科攝子を入れたところ創は浅く、可視範囲に異物はないと判断しました。(2)洗浄、消毒この患者が自宅で行った処置は創に消毒液を塗ったことだけでした。非医療者はこういった処置で終わることが非常に多い印象があります。しかし、咬傷は創の入口が狭くて深いことが多く、唾液などの汚染物質が創部内に残ります。ですので、表面だけを洗ったり消毒したりするだけでは十分な処置とはいえません。汚染された創を洗浄するためには、8psi(Pound per Square Inch)の圧が理想とされていて、図1のように20mLのシリンジの先に20ゲージの静脈留置針の外套を付けるとちょうどよい値になります5)。図1 20mLのシリンジに20G静脈留置針を装着画像を拡大する私は創が小さい場合、眼科用ピンセットがあればピンセットで入り口を広げ、シリンジを用いて圧をかけながら外から洗浄します。創の入り口を広げるのが難しい場合は、そのまま外から圧をかけて洗浄します。この際に「針を創に入れて洗浄すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、かけた圧力の逃げ場がないため、皮下に大きな死腔を作ってしまうことがありますので控えてください(図2)。洗浄の量は傷1cm当たり100~200mLが推奨されています6)。図2 入り口が狭い創に圧をかけると皮下に死腔ができる画像を拡大する創の消毒に関して有効性が示唆された報告はなく、ポピドンヨードや次亜塩素酸ナトリウムは組織障害性が強いこともあり、すべて症例に積極的な推奨はされていません7)。しかし、創の汚染が強いときに消毒することを否定する根拠もありませんので、状況に合わせて消毒を行うことをお勧めします。私は、「創の汚染が強いとき」「初回のみ」消毒しています。水道水や生理食塩水の代わりに、消毒液を用いて洗浄することは効果的ではないので控えましょう。次に必要になるのは創の処置です。口腔内には嫌気性菌を含めた細菌が多数いるため、動物咬傷では口腔内の汚染物質が創に入り込みます。入り口を塞ぐと、(1)空気に触れない、(2)創内のドレナージができない、という事態が生じて感染リスクが上がるとされているので、可能であれば縫合しません。もし美容的に問題がある場合はリスク・ベネフィットを説明して縫合します。今回のような小さく深い創の場合は、ナイロン糸を用いたドレナージが有効です。私は1-0から3-0の太さのナイロン糸1本を図3のように先端が輪っかになるように結び、輪っか側の先端を創に挿入してテープで固定します。図3 ドレナージ用のナイロンの作り方とドレナージの方法画像を拡大する創には抗菌薬入りの軟膏を塗ったガーゼを被せ、1日1回水道水で洗浄してから軟膏ガーゼを交換するように指導しています。若手医師からドレナージ抜去のタイミングに関して聞かれることがありますが、私は受傷2~3日して感染兆候がなければ除去しています。ガーゼを頻回(1日2回以上)交換しなければならないほど浸出液が多い場合は留置を継続しますが、長くても1週間としています。本症例は、嫌気性菌のカバーを目的に、アモキシシリン・クラブラン酸配合剤250mg+アモキシシリン単剤250mgを3錠ずつ5日分処方して帰宅としました。また、破傷風の予防接種を受けたことがなかったため、破傷風トキソイドも投与しました。患者には3日後に来院してもらい創を観察したところ、ナイロン糸は残っており、浸出液は少量で感染兆候がなかったため、糸ドレナージを除去しました。抗菌薬は飲み切り終了し、毎日のガーゼ交換は継続してもらったところ、1週間後の診察で創はきれいになっていたため、咬傷に対する通院は終了としました。軟膏ガーゼは浸出液が付かなくなるまで継続してもらい、何かあれば再診を指示しましたが、次の定期受診までとくに問題はありませんでした。患者さんは相変わらず毎日犬にかまれているものの、「犬と接する際はなるべく手袋、長袖を着るようにした」と工夫していました。そもそも犬にかまれないようにする何かよい方法はないのかなと思いましたが、私は犬を飼ったことがないため何もアドバイスできませんでした…。軽症の動物咬傷は患者自身が処置して感染症を引き起こすことがあり、より大きな処置が必要になることがあります。適切な診断・加療が必要ですので参考にしてください。動物咬傷の豆知識感染してしまったとき今回の症例で、もし残念ながら感染してしまった場合はどうしましょうか? この場合、ドレナージが十分にできていない可能性があります。そのため、糸ドレナージは抜去して、創内を十分にドレナージできる程度に切開する必要があります。自信がなければ専門科に相談しましょう。十分なドレナージと抗菌薬でほとんどの動物咬傷の感染は改善します。感染が関節にかかっている場合感染が関節にかかっている場合は、化膿性関節炎の可能性や手の咬傷でカナベルの4徴(屈筋腱に沿った圧痛、患指の腫脹、患指の軽度屈曲位、受動的に患指を伸展すると激痛を訴える)を認める場合は化膿性屈筋腱炎の可能性があり、専門的な処置が必要なためコンサルトしましょう8)。1)Savu AN, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021;9:e3778.2)Tintinalli JE, et al. Tintinalli’s Emergency Medicine: A Comprehensive Study Guide 8th edition. McGraw-Hill Education;2016.3)Basco AN, et al. Public Health Rep. 2020;135:238-244.4)Speirs J, et al. J Paediatr Child Health. 2015;51:1172-1174.5)Shetty R, et al. Indian J Plast Surg. 2012;45:590-591.6)Moscati RM, et al. Acad Emerg Med. 2007;14:404-409.7)Chisholm CD, et al. Ann Emerg Med. 1992;21:1364-1367.8)Kennedy CD, et al. Clin Orthop Relat Res. 2016;474:280-284.

1990.

医療費の支払いに関わる事務作業の負担はがん患者の治療遅延を招く

 がん患者の一部は、医療費の支払いに関わる書類作成などの負担に直面し、それが必要な治療を受ける妨げになっているとする研究結果を、米ペンシルベニア大学School of Social Policy and PracticeのMeredith Doherty氏らが、「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」に8月30日発表した。医療費の支払いに関わる事務作業の負担が大きい患者は、負担が大きくない患者に比べて、治療が遅れたり、治療を計画通りに進められない可能性の高まることが示されたという。 Doherty氏は、米国の医療システムを利用するには、患者と医療提供者、保険会社の間で一連の複雑なコミュニケーションを取る必要があり、医療費を把握し、請求ミスを修正する責任は、しばしば患者が負うことになっていると話す。同氏は、「医療と資本主義が結び付いている米国では、ヘルスケアの商品やサービスを効果的に利用し、その質を担保するために必要な知識や技術を身に付ける責任を消費者が負うことになっている。これは、医療制度としてはかなり特殊だと言える」と説明する。 今回の研究では、非営利団体CancerCareが収集した510人の米国のがん患者およびがんサバイバーの調査データを分析し、調査参加者が治療中に直面した医療費の支払いに関わる事務作業の負担と、治療の遅れや治療計画の不遵守との関連について検討した。調査では、治療の遅れや治療計画の不遵守、治療の同意や処方箋の受理、臨床検査受診の前に自己負担額を見積もる必要が生じた頻度などのほか、保険会社に補償内容を理解するために説明を求めた経験や、給付の否認に異議を唱えた経験についても尋ねられた。 分析からは、参加者の約45%が、がん治療の一環として、時々、しばしば、または常に、医療費の支払いに関わる事務作業に携わっていると回答し、そのような作業負担が大きいほど、がん治療の遅延リスクも上昇することが示された。支払いに関わる作業負担が1単位増えるごとに、治療の遅れや治療計画の不遵守が生じる頻度は32%増加していた。患者が報告した医療費の支払いに関わる作業を多い順に挙げると、処方薬の費用の見積もり(28%)、検査費用の見積もり(20%)、治療計画の費用の見積もり(20%)、保険会社への補償内容に関する問い合わせ(18%)、給付否認の異議申し立て(17%)であり、これらの全てが治療遅延のリスクの増加と関連していた。このほか、44歳以下の人は55歳以上の人よりも、また黒人は白人よりも、医療費の支払いに関わる事務作業が多く、治療遅延や治療計画の不遵守を経験する傾向が強かった。 こうした結果を受けてDoherty氏は、「このデータは、がん治療における医療費支払いのための事務作業の負担が、すでに健康格差に直面している集団に最も重くのしかかっていることを示している」と指摘する。そして、「このような負担を負っている人は、フラストレーションや疲労に加え、疎外感も感じているのではないだろうか。もし間違った請求書が送り付けられ、相手がその内容を正すのに協力しないのなら、それは自分のことなど気にかけていないと言っているのと同然だ」と話す。 この研究には関与していない、米国の医療政策シンクタンクであるコモンウェルス基金の代表を務めるJoe Betancourt氏は、「がん患者は信じられないほどのストレスを抱えており、心身ともに到底ベストとはいえない状態にあることが多い。そのような患者にとって、医療費の支払いに関わる事務作業の負担はとても大きく、率直に言って、受け入れがたいものとなる」と述べる。そして、「われわれは、慢性疾患を患い、ケアが必要な患者にかかるこのような負担を減らすよう訴えていく必要がある」と主張している。 Doherty氏は、がん患者の医療費の支払いに関わる事務作業の負担を軽減した場合に、アウトカムがどの程度改善されるかを数値化したいと話している。

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既治療胆道がんの経口FGFR1~4阻害薬「リトゴビ錠」【最新!DI情報】第1回

既治療胆道がんの経口FGFR1~4阻害薬「リトゴビ錠」今回は、抗悪性腫瘍剤/FGFR阻害薬「フチバチニブ(商品名:リトゴビ錠4mg、製造販売元:大鵬薬品)」を紹介します。本剤は、FGFR1~4遺伝子異常を持つ腫瘍細胞の増殖を抑制して細胞死を誘導する経口の抗がん剤であり、胆道がん患者さんの新たな治療選択肢の1つとして期待されています。<効能・効果>がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がんの適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得し、9月7日より販売されています。なお、本剤の1次治療および術後補助療法としての有効性および安全性は確立していません。<用法・用量>通常、FGFR2融合遺伝子が確認された成人には、フチバチニブとして1日1回20mgを空腹時に経口投与します。食後に本剤を投与した場合、本剤のCmaxおよびAUCが低下するという報告があるため、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けます。本剤投与により副作用が発現した場合には、通常投与量20mg→1段階減量16mg→2段階減量12mg→投与中止という基準を参考に減量・中止します。<安全性>国際共同第I/II相試験(TAS-120-101試験)第II相パートおいて多く認められた副作用は、高リン血症(85.4%)、脱毛症33.0%、口内乾燥30.1%、下痢28.2%、皮膚乾燥27.2%、口内炎20.4%、疲労25.2%、手掌・足底発赤知覚不全症候群21.4%、味覚異常18.4%、爪の障害15.5%などでした。なお、重大な副作用として、網膜剥離(漿液性網膜剥離[1.0%]、網膜色素上皮剥離[1.0%])など)、高リン血症(91.3%)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、FGFR2遺伝子に異常がある胆道がんの治療薬です。2.この薬は、ほかの抗がん剤による治療で効果が不十分になったときに使用されます。3.この薬を服用中は定期的に血液検査で血清リン濃度を測定する必要があります。高リン血症が現れることがありますが、ほとんどの場合は無症状です。4.網膜障害が起きることがあるので、視力が下がる、視野が狭くなる、飛蚊症など眼の異常を感じたら、速やかにご相談ください。5.妊娠する可能性のある女性は、この薬を使用している間および使用終了後1週間は適切な避妊をしてください。同様に男性もこの薬を使用している間および使用終了後1週間は、バリア法(コンドーム)で避妊してください。【ここがポイント!】胆道がんのうち、とくに胆管がんは予後不良で治療選択肢も限られているため、ドライバー遺伝子と考えられているFGFR2融合遺伝子を標的にした治療法が注目されています。FGFRは線維芽細胞増殖因子受容体と呼ばれ、線維芽細胞増殖因子と結合して細胞内シグナル伝達を活性化します。しかし、FGFR遺伝子に異常が起こると、増殖因子がなくても恒常的にシグナル伝達が活性化され、がん化やがんの進行が促進されます。本剤は、FGFR1~4の4種類すべてを選択的かつ不可逆的に阻害することで、FGFR遺伝子増幅、変異、融合または再構成などの異常を有するがん細胞において細胞内シグナル伝達を抑制し、抗悪性腫瘍効果を示すと考えられています。全身療法の治療歴のある局所進行または転移性の切除不能な肝内胆管がん患者を対象とした多施設オープンラベル単群試験TAS-120-101試験(FOENIX-CCA2試験)で、主要評価項目である奏効率は42%(95%信頼区間:32~52)で、奏効期間中央値は9.7ヵ月(同:7.6~17.1)、無増悪生存期間中央値は9ヵ月、全生存期間中央値は21.7ヵ月でした。類薬として、がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がんを適応とするペミガチニブが2021年3月に製造販売承認を取得しています。また、ペミガチニブは2023年3月にFGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍の追加承認を取得しています。本剤を食後に投与すると、最高血中濃度(Cmax)および血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が低下するので、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けます。FGFR阻害薬による高リン血症は高頻度で起こるので、インスタント食品やファストフード、清涼飲料水などのリンを多く含有する食品をなるべく控えることも指導しましょう。

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成人先天性心疾患、それは循環器専門医の中でも難しい領域【臨床留学通信 from NY】第52回

第52回:成人先天性心疾患、それは循環器専門医の中でも難しい領域私の所属するMontefiore Medical CenterのFellowshipのプログラムの中には、成人先天性心疾患のローテーションが4週間あります。というのも米国循環器専門医での出題範囲に含まれているからです。心房中隔欠損(ASD)、心室中隔欠損(VSD)、動脈管開存症(PDA)、ファロー四徴症であれば成人循環器専門医でも診ることはあります。しかし複雑心奇形でフォンタン手術後となると、臨床研究に関わったことがある程度で、実際の臨床はかなり難しい印象です1)。20年前、学生の頃にポリクリで小児科をローテートした際にこのような疾患群を診たりしておりましたが、当時は成人の患者さんは少なかった印象です。現在は複雑な成人先天性心疾患が医療の発達に伴い増えてきており、その患者さんたちを診ることができる医師が少ないともいわれています。日本との違いもいろいろ感じました。重症の患者さんに関しては、移植も選択肢になってきます。そのような選択肢がより多くあるのも米国ならではかと思います2)。また、日本にはほとんどが日本人しかおりませんが、ここは人種のるつぼのアメリカ、ニューヨーク。先天性心疾患の多い人種、家系もあり、複雑です3)。Interventional CardiologyはASD、PDA、卵円孔開存(PFO)、などの治療もしますし、また成人先天性心疾患は動脈硬化性の病気になりやすいともいわれており、私の分野であっても知見を深めていく必要がありそうです。参考1)Yasuhara J, et al. Predictors of Early Postoperative Supraventricular Tachyarrhythmias in Children After the Fontan Procedure. Int Heart J. 2019;60:1358-1365.2)松田 暉, et al. 成人先天性心疾患に対する心臓移植:Failed Fontanからみた海外の現状と我が国の課題. 日本成人先天性心疾患学会雑誌. 2017;6:6-15.3)早野 聡. 先天性心疾患における網羅的遺伝学的解析の歴史と展望. 日本小児循環器学会雑誌. 2021;37:193-202.ColumnCirculation誌の姉妹誌であるCirculation Cardiovascular Interventions誌9月号に、抗血小板薬2剤併用療法(Dual Antiplatelet Therapy)について調べた論文が掲載されました。Kuno T, et al. Short-Term DAPT and DAPT De-Escalation Strategies for Patients With Acute Coronary Syndromes: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Circ Cardiovasc Interv. 2023;16:e013242.日本の先生方のみならず、主にニューヨークで培った人脈を基に、Mount Sinai、ニューヨーク大学の先生方にも共同著者としてご参加いただきました。自信作ではありましたが、循環器四大雑誌であるJACC、Circulation、European Heart Journal、JAMA Cardiologyにはすべて断られ、Circulationの姉妹誌になんとか落ち着きました。追い追い、このようなメタ解析についてもお話しできればと思います。なお、米国のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)学会に付属するTCTMDというメディアからインタビューを受け、コメントを掲載していただきました。Maxwell YL. Unguided De-escalation, Short DAPT the Best Strategies in ACS: Meta-analysis. TCTMD. 2023 Sep 5.

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第183回 認知症を阻止するらしい神経細胞2種類を同定

認知症を阻止するらしい神経細胞2種類を同定アルツハイマー病(AD)の病変であるアミロイド蓄積がたとえあっても認知機能が維持されて認知症になりにくいことと関連する脳の神経細胞2種類が同定されました1,2)。それらの神経細胞が死なないようにする手段を新たな成果を頼りに開発できるかもしれません。ねばねばしたアミロイドタンパク質の脳での蓄積がADの病因と広く言われています。その蓄積がやがて垢のような塊になって神経を死なせ、ついには記憶や意識を損なわせるという考えです。しかし認知機能障害を被る高齢者の誰もが脳にアミロイド塊を有するというわけではありませんし、脳にアミロイドが蓄積していると必ずADが生じるというわけでもありません。それはなぜなのかを調べるべく米国・ピッツバーグ大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは数千人の高齢者の認知や振る舞いの推移を1994年から追っている試験・Religious Orders Study/Memory and Aging Project(ROSMAP)に目を向けました。AD病変や認知機能障害の程度がまちまちな死亡被験者427例の脳組織の前頭前皮質の細胞が活動遺伝子の配列を頼りに分類され、どこにどの細胞があるかを示す地図が作られました。その結果、認知機能全般がすこぶる良好な人に多く、逆に低下している人では乏しい細胞の集団2つが同定されました。その1つは統合失調症などの脳疾患と関連するタンパク質・リーリン(reelin)の遺伝子が発現している神経細胞、もう1つは体のあちこちの営みを調節するホルモン・ソマトスタチン(somatostatin)の遺伝子を発現する神経細胞です。認知機能が損なわれていない人ではADの特徴である脳のアミロイド大量蓄積があったとしてもそれらの神経細胞が脳に豊富に残っており、それらの細胞はAD発症を防ぐ役割をどうやら担うようです。ADの研究では電気信号を伝えて別の神経を活性化する興奮性神経細胞がもっぱら注目されてきました。しかし今回の研究で見つかった2種は興奮性神経とは正反対の抑制性神経です。抑制性神経は神経間の通信を止める働きを担います。少なくともいくらかの人のそれらリーリン/ソマトスタチン発現抑制性神経はAD病変によってとりわけ壊れやすいのではないかと研究者は考えています。今年の早くにNature Medicine誌に掲載されたリーリン遺伝子変異の報告3)はその考えを支持しています。リーリンの機能を底上げするその変異を有する男性は脳のアミロイド蓄積が半端なく大量にもかかわらず67歳になっても認知機能が正常でAD症状を示しませんでした。そういう先立つ成果があるのでリーリン発現神経に辿りついた今回の成果はそれほど驚くものではなく、一貫した成果が得られていることに安心していると研究者は言っています4)。これまでAD治療手段の開発といえば脳のアミロイド蓄積をどうにかする手段にもっぱら目が向けられていました。今回の結果はそうではなくADで壊れやすい脳細胞を守る手段を見つける取り組みを後押しするでしょう。個々の細胞の配列を読み取ってそれらの地図(atlas)を作った今回の成果は最新技術の賜物であるとカリフォルニアの研究所Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Instituteの神経科学者Jerold Chun氏は言っています4)。AD患者は神経が発火しすぎて生じる発作を生じやすいことが知られますが、それは抑制性神経損失のせいかもしれないと同氏は想定しています。今回の研究で作られた脳細胞の地図はどの研究者も使えるように公開5)されており、それを出発点にして研究の裾野が一層広まるでしょう。参考1)Mathys H, et al. Cell. 2023;186:4365-4385.2)Decoding the complexity of Alzheimer’s disease / Massachusetts Institute of Technology3)Lopera R, et al. Nat Med. 2023;29:1243-1252.4)The brain cells linked to protection against dementia / Nature5)Single-cell transcriptomic atlas of the aged human prefrontal cortex

1994.

統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及に対するEGUIDEプロジェクトの効果

 国立精神・神経医療研究センターの長谷川 尚美氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」を活用することによる、精神疾患の診療ガイドラインに関する教育のリアルワールドにおける効果を検証するため、本研究を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年9月8日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、「統合失調症薬物治療ガイドライン」と「うつ病治療ガイドライン」を日本国内で実践するための全国的なプロスペクティブ研究である。2016~19年、精神科病棟を有する176施設に所属する精神科医782人がプロジェクトに参加し、診療ガイドラインに関する講義を受講した。プロジェクト参加病院の統合失調症患者7,405例およびうつ病患者3,794例を対象に、ガイドラインが推奨する治療の実施割合を、プロジェクト参加者と非参加者から治療を受けている患者間で比較した。プロジェクト参加病院より毎年4~9月に退院する患者の臨床データおよび処方データも分析した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症に対する3つの質的指標(他の向精神薬の使用とは無関係の抗精神病薬単剤療法、他の向精神薬を使用しない抗精神病薬単剤療法、抗不安薬や睡眠薬の使用なし)の割合は、プロジェクト参加者のほうが非参加者よりも高かった。・うつ病治療ガイドラインでも同様な結果が得られた。・ガイドラインの推奨治療の普及におけるEGUIDEプロジェクトの有用性が確認された。 著者らは結果を踏まえて「精神疾患の診療ガイドラインに関する教育を実施することで、精神科医の治療に関連した行動を改善可能であることが示唆された。メンタルヘルス治療のギャップを解消するためには、EGUIDEプロジェクトのような教育ベースの戦略が重要であろう」としている。

1995.

他の母親が実施する心理療法が産後うつ病の症状を軽減

 カナダのオンタリオ州ブラント郡に住むLee-Anne Mosselman-Clarkeさんは、産後のメンタルヘルス危機との闘いがどのようなものかを、身をもって知っている。なぜなら、Mosselman-Clarkeさん自身が、2人の子どもの出産後にそれを経験したからだ。「私には11歳と9歳の子どもがいるが、上の子のときには自分が不安を感じていることに気が付いていなかった。2人目を妊娠したときに初めて、助産師から『産後うつ病を再発するリスクがあるので誰かに相談してほしい』と言われた」と振り返る。 ソーシャルワーカーとしての経歴を持つMosselman-Clarkeさんは、現在は産後ドゥーラ(産前・産後ケアの専門家)として妊娠・出産を経験する女性をサポートしている。彼女は、産後うつ病と闘う人に対してピア(仲間)が実施する認知行動療法(CBT)の効果を検討するために、マクマスター大学(カナダ)精神医学分野のRyan Van Lieshout氏らが新たな研究を実施することを知るやすぐに応募し、ピアファシリテーターとしての参加を認められた。それ以来、このセッションに彼女は情熱を注いでいる。 Van Lieshout氏らの研究では、ピアによるCBTを受けた産後うつ病患者はCBTを受けていない患者に比べて、寛解を経験する可能性が11倍高いことが示されるなど、いくつかの重要な知見が得られた。Mosselman-Clarkeさんは、「ピアが実施するCBTプログラムは、人から判断されていると感じたり、あるいは罪悪感、恥ずかしさを感じたりすることなく、自分と同じように苦しんでいる人と話すことができる素晴らしい方法だ。自分は1人ではないと感じ、孤立感を和らげる機会を与えてくれる」と語っている。Van Lieshout氏らの研究の詳細は、「Acta Psychiatrica Scandinavica」に8月31日掲載された。 米国の非営利団体マーチ・オブ・ダイムスによると、産後うつ病とは、出産後の母親に悲しみ、不安、倦怠感などの感情が持続し、自身や赤ちゃんの世話が困難になる状態のことをいう。産後うつ病を放置すると、母子双方に感情的な問題を引き起こすリスクが高まるなど、深刻な結果をもたらす可能性があるとVan Lieshout氏らは指摘している。 Van Lieshout氏らの研究は、オンタリオ州在住の18歳以上の産後うつ病患者183人を対象に、産後うつ病から回復した母親(ピア)がオンラインで実施するCBTの効果を検討したもの。対象者は、ピアによるオンラインでの9週間のCBT+通常のケアを受ける介入群(92人)と、通常のケア+9週間後に同じ介入を受ける待機群(91人)にランダムに割り付けられた。介入は、プログラムの実施前に3日間のトレーニングを受け、専門家による9週間の介入を見学したピアファシリテーターが2人1組で行った。対象者の産後うつ病は、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)により、試験登録時(T1)とランダム化から9週間後(T2)に評価した。介入群では介入の3カ月後(T3)にも評価を行った。 その結果、介入群ではT1からT2にかけてEPDSスコアが5.99点低下し、T3においてもそのスコアが維持されていたことが明らかになった。また、T2で介入群が大うつ病性障害(MDD)の基準を満たさないオッズは待機群の11倍であることも示された(オッズ比11.55、95%信頼区間3.53〜37.77)。T1でMDDの基準を満たした対象者の割合は、介入群で64%、待機群で66%であった。T2では、介入群で6%にまで減少したのに対して待機群では43%にとどまっていた。 Van Lieshout氏は、「この研究には重要な点がいくつかあるが、その一つは、出産を経験する母親の最大で5人に1人が産後うつ病を経験するにもかかわらず、必要な治療を受けているのは10人に1人に満たない点だ」と話す。そして、今回の研究で示したこの介入方法が、産後うつ病の母親が必要な治療を受けるための手段となる可能性があるとの見方を示している。 一方、米マウント・サイナイの精神科医であるThalia Robakis氏は、「心理療法は、一般的なうつ病や産後うつ病に対する重要かつ確立された介入方法だ。新米の母親が心理療法を受けるのは容易なことではない。なぜなら、セラピストとは高度に訓練を受けた専門家であり、その数が限られているため、見つけるのが困難だからだ。また、新米の母親は乳児の世話で手一杯で、心理療法に参加する時間が取れないこともある」と述べ、「この研究は、このようなアクセシビリティの問題に取り組んでいる点が非常に斬新だ」と評価している。

1996.

BRCA遺伝子変異保持者の乳がんリスクは過大評価されている

 BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有する女性は、乳がんの発症リスクが高いことが知られている。しかし、40万人以上の英国成人を対象にした新たな大規模研究で、そのリスクは考えられているほど高くはなく、特に、近親者に乳がん患者がいない女性では大幅に下がる可能性が示唆された。英エクセター大学ゲノム医療分野のLeigh Jackson氏らによるこの研究結果は、「eClinicalMedicine」に9月14日掲載された。 BRCA1/2遺伝子変異が乳がんと卵巣がんの発症リスクを高めることは、以前より知られている。米疾病対策センター(CDC)は、BRCA1/2遺伝子変異を持つ女性の半数が70歳までに乳がんを発症するとし、また、米国がん協会(ACS)は、BRCA1/2遺伝子変異を持つ女性の最大70%が80歳までに乳がんを発症するとしている。さらに、個々の研究からは、BRCA1/2遺伝子変異を持つ女性の85%が70歳までに乳がんを発症する可能性が示されている。このようなリスクの高さから、米国では、BRCA1/2遺伝子変異保持者の半数近くが予防的乳房切除術を受け、また一部の女性はエストロゲンの作用を抑える薬物治療を選択するという。 今回の研究では、エクソームシーケンシングデータと医療記録のそろうUKバイオバンク参加者45万4,712人(女性24万6,591人)のデータを用いて、BRCA1/2遺伝子変異の浸透率(何らかの遺伝子変異の保持者に対象疾患が生じる確率)を調べるとともに、乳がんの家族歴(第一度近親者)が乳がんの発症リスクに及ぼす影響について検討した。対象者のうち、BRCA1遺伝子変異保持者は230人、BRCA2遺伝子変異保持者は611人であり、BRCA1遺伝子変異保持者の78人、BRCA2遺伝子変異保持者の170人は、乳がんの家族歴を持っていた。 解析の結果、BRCA1/2遺伝子変異保持者での乳がんの発症リスクは非保持者よりも高く、特に、家族歴を有する場合に顕著に高まることが明らかになった(BRCA1遺伝子変異保持者の乳がん発症の相対リスクは、家族歴のある場合とない場合とで、それぞれ10.3と7.2、同様に、BRCA2遺伝子変異保持者の同リスクは、それぞれ7.8と4.7)。60歳時点のBRCA1/2遺伝子変異の浸透率は、家族歴を有する場合にはBRCA1遺伝子変異保持者で44.7%、BRCA2遺伝子変異保持者で24.1%、家族歴のない場合には同順で22.8%と17.9%であった。 平均的な米国人女性の乳がん発症率が約13%であることを考えると、この研究で示されたBRCA1/2遺伝子変異保持者の乳がん発症リスクが平均より高いことに変わりはないが、過去の研究で示されたリスクよりは大幅に低かった。このような大きな差はなぜ生じたのだろうか。Jackson氏は、研究対象の違いが原因である可能性を示し、「過去の研究では概して、早期乳がんの濃厚な家族歴を有するためにBRCA遺伝子検査を受けるような、乳がんリスクが特に高い人に焦点を当てていた。それに対して今回の研究では、英国の中高年成人約50万人から遺伝情報と健康情報を収集した巨大研究プロジェクトであるUKバイオバンクのデータを利用した点が異なる」と説明している。 専門家らは、この研究結果は、女性が自分の乳がんリスクについてより現実的な見方をするのに役立つ可能性があると話している。そして、今や自宅でDNA検査を行うことも可能だが、この研究で得られた結果は、そのプロセスにおいて医療専門家に相談することの重要性を強調するものだと主張する。Jackson氏は、「担当の臨床チームに相談し、家族歴の有無に照らし合わせた自分の乳がんリスクプロファイルについて話し合うべきだ。そうすることで、より多くの情報に基づきケアを選択することが可能になる」と助言している。

1997.

蘇生後呼吸管理でのPaCO2のターゲットはどこに置くか?(解説:香坂俊氏)

 「心肺蘇生の現場はドラマに溢れている…」などと思われがちだが、実は1から10までかなりプロトコールがはっきりと決められており、現代医療であまりそこに情緒が介在する余地はない。カギは低酸素性脳損傷(hypoxic brain injury)をいかに防ぐかというところであり、その思想にのっとりABCのうちのCが優先され、ACLSの手順も細かく決められ、低体温療法など蘇生後のケアも規定される。 しかし、蘇生後の「呼吸管理」についてはどうだろうか?この領域はいまだに解明されていない側面が多い。たとえば、蘇生後のPaCO2の目標値についてもはっきりとした規定はなされておらず、現時点でのガイドラインで推奨されているのは70~100mmHgあるいは酸素飽和度94~98%を目指す、というかなり広いターゲットが設定されている。 今回のTAME試験では、PaCO2の目標値の設定に関してランダム化が行われた。院外の蘇生後の患者1,700例を対象に、軽度のHypercapniaをターゲットとする群(50~55 mmHg)と正常PaCO2(35~45mmHg)にランダム化が行われ、6ヵ月後の神経学的転帰が比較されたが、軽度Hypercapnia群と正常PaCO2群で、ほとんど差は認められなかった(P値は0.76)。この試験の結果からどういった意味を見出すか? 先に述べたとおり、心肺蘇生後の患者管理においては、すでに高度に洗練されたプロトコールが存在し、ガイドラインも提供されている。今回のTAME試験の結果は、これらに大幅な変更をもたらすものではない。しかし、蘇生後管理はあまりミスが許容されない分野であり、呼吸管理で無理にHypercapniaの方向に持っていく必要がない、ということが示されたことは、かなり現場の助けとなるのではないだろうか(注意を向けなくてはならないことが1つ減れば、別のことに注意を向けられるようになる)。ただ、このTAME試験は、並行して低体温療法のランダム化も実施されており、もしかすると、そこに隠れた交互作用があったかもしれず、また、かなり自由度の高い試験プロトコールであったため、かなり現場判断が介在する余地があった(頭蓋内圧のモニターも全例で実施されていなかった)。この辺りは、試験の解釈に注意を要する点となるだろう。

1998.

HER3-DXd、EGFR-TKIおよび化療耐性のEGFR陽性NSCLCに良好な抗腫瘍活性(HERTHENA-Lung01)/WCLC2023

 抗HER3抗体薬物複合体patritumab deruxtecan(HER3-DXd)のEGFR-TKI、プラチナ化学療法耐性のEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する有効性が発表された。 EGFR‐TKIはEGFR変異のある進行期NSCLCの標準治療であるが、最終的に耐性が発現する。EGFR‐TKI耐性後はプラチナベースの化学療法が用いられるが、その効果は限定的である。 HER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)であるHER3-DXdは、第I相結果でEGFR‐TKIに対する多様な耐性機構を持つEGFR変異陽性NSCLCにおいて、管理可能な安全性と抗腫瘍活性が示されている。 世界肺癌学会(WCLC2023)では、EGFR‐TKI療法およびプラチナ化学療法後のEGFR変異陽性NSCLC患者に対する、HER3-DXdの第II相HERTHENA-Lung01試験の結果を、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのHelena A. Yu氏が発表した。対象:既治療の進行期EGFR変異陽性NSCLC患者(無症状の脳転移患者も含む)介入:HER3-DXd固定用量(5.6mg/kg)3週ごと(226例)、HER3-DXd用量漸増3週ごと(51例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による確定奏効率(confirmed ORR)[副次評価項目]BICRによる奏効期間(DOR)今回の発表は、固定用量群の有効性と安全性である。 主な結果は以下のとおり。・有効性追跡期間中央値は18.9ヵ月、安全性解析対象集団の治療期間中央値は5.5ヵ月であった。・ベースラインで、脳転移例32%、肝転移例33%が含まれた。・前治療歴(ライン数)は2ラインが26%、2ライン超が73%であった。・confirmed ORRは、全症例で29.8%、第3世代EGFR-TKI耐性例で29.2%、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ73.8%と72.7%であった。・DOR中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに6.4ヵ月であった。・PFS中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに5.5ヵ月であった。・OS中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに11.9ヵ月であった。・頭蓋内confirmed ORRは33.3%、DCRは76.7%であった。・治療下で発現した有害事象(TEAE)の発現は全Gradeで99.6%(治療中断7.1%、減量21.3%)、Grade3以上は64.9%であった。頻度の高いTEAEは悪心(66%)、血小板減少(44%)、食欲不振(42%)などであった。・治療関連ILDの発現は5.3%であった。 Yu氏らは、HER3-DXdはEGFR‐TKIおよびプラチナベース化学療法で進行したEGFR変異NSCLC患者にとって有望な治療法であると結論付けた。

1999.

豆乳の摂取と認知症リスク低下との関連が認められた

 これまでの研究において、ミルク(milk)の摂取は認知機能低下を予防可能であるかが調査されてきた。しかし、その結果は一貫していない。その理由として、これまで研究の多くは、ミルクそれぞれの役割を無視していることが重要なポイントであると考えられる。そこで、中国・中山大学のZhenhong Deng氏らは、各種ミルクの摂取と認知症リスクとの関連を調査した。その結果、豆乳(soy milk)の摂取と認知症(とくに非血管性認知症)リスク低下との関連が認められた。Clinical Nutrition誌2023年8月30日号の報告。豆乳摂取者はすべての原因による認知症リスクが低かった 英国バイオバンクのデータベースより、ベースライン時に認知機能低下が認められなかった参加者を対象に大規模コホート研究を実施した。ミルクの主な種類(全乳、無脂肪牛乳、豆乳、その他の牛乳、ミルク摂取なし)は、ベースライン時に自己報告により収集した。主要アウトカムはすべての原因による認知症とした。アルツハイマー病および血管性認知症を副次的アウトカムに含めた。 豆乳ほか各種ミルクの摂取と認知症リスクとの関連を調査した主な結果は以下のとおり。・参加者30万7,271人(平均年齢:56.3±8.1歳)のうち、フォローアップ期間中(中央値:12.3年)にすべての原因による認知症を発症した人は、3,789人(1.2%)であった。・潜在的な交絡因子で調整した後、ミルク摂取なしの人と比較し、豆乳摂取者のみにおいて、すべての原因による認知症リスクの有意な低下が認められた(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.54~0.90)。・豆乳の非摂取者(全乳、無脂肪牛乳、その他の牛乳)と比較した場合でも、豆乳摂取者は、すべての原因による認知症リスクが低かった(HR:0.76、95%CI:0.63~0.92)。なお、認知症の遺伝的リスクとの相互作用は認められなかった(p for interaction=0.15)・豆乳摂取者は、アルツハイマー病リスクが低かったが(HR:0.70、95%CI:0.51~0.94、p=0.02)、血管性認知症リスクとの有意な関連は認められなかった(HR:0.72、95%CI:0.47~1.12、p=0.14)。・豆乳の摂取量や頻度との関連性を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる。

2000.

緊急虫垂切除の穿孔・合併症リスク、8h vs.24h/Lancet

 虫垂炎の標準治療は虫垂切除術とされ、院内での待機時間が長くなるほど穿孔や合併症のリスクが高まると考えられている。フィンランド・ヘルシンキ大学のKaroliina Jalava氏らは「PERFECT試験」において、急性単純性虫垂炎が疑われる患者では、8時間以内の虫垂切除術と比較して24時間以内の虫垂切除術は、虫垂穿孔のリスクが高くなく、術後の合併症の発生率も増加しないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月14日号に掲載された。フィンランドとノルウェーの非劣性試験 PERFECT試験は、フィンランドの2つの病院とノルウェーの1つの病院で実施された非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年5月~2022年12月に参加者の適格性の評価を行った(Finnish Medical Foundationなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性虫垂炎と診断され、緊急虫垂切除術が予定されている患者であった。複雑性虫垂炎を除外するために、症状が3日以上持続している患者では画像診断が推奨された。 被験者を、8時間以内または24時間以内に虫垂切除術を施行する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、手術中に診断された穿孔性虫垂炎(米国外傷外科学会[AAST]のグレード3~5)とし、intention to treat解析を行った。非劣性マージンは5%であった。 1,803例を解析に含めた。8時間以内群に907例(年齢中央値35歳[四分位範囲[IQR]:28~46]、男性57%)、24時間以内群に896例(35歳[28~47]、53%)を割り付けた。手術部位感染の頻度も同程度 無作為化から手術開始までの時間中央値は、8時間以内群が6時間(IQR:3~10)、24時間以内群が14時間(8~20)(群間差8時間)で、入院期間も8時間以内群で8時間短かった。24時間以内群の24%が8時間以内に手術を受けた。待機時間中に、8時間以内群の51%、24時間以内群の48%が抗菌薬の投与を受けた。 穿孔性虫垂炎は、8時間以内群の8%(77/907例)、24時間以内群の9%(81/896例)で発生し(絶対群間リスク差:0.6%、95%信頼区間[CI]:-2.1~3.2、p=0.68、リスク比:1.065、95%CI :0.790~1.435)、24時間以内群の8時間以内群に対する非劣性が示された。 30日以内の合併症の発生率(8時間以内群7%[66/907例]vs.24時間以内群6%[56/896例]、群間差:-1.0%、95%CI:-3.3~1.3、p=0.39)には有意な差はなく、手術部位感染(3%[24例]vs.2%[22例]、-0.2%、-1.6~1.3、p=0.80)の頻度も両群で同程度だった。手術部位感染による経皮的ドレナージまたは再手術は、それぞれ1%(6例)、1%(8例)で要した。追跡期間中に死亡例はなかった。 著者は、「これらの知見により、虫垂切除術のスケジューリングが容易になる可能性がある。また、たとえば、虫垂切除術を夜間から日中に延期することで、他の緊急手術のための医療資源の確保につながるだろう」としている。

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