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乾癬の患者報告アウトカム、PSSDスコアの有意な改善とは?

 カナダ・Probity Medical ResearchのKim A. Papp氏らは、乾癬患者を対象とした第III相試験で用いられた患者報告に基づくPsoriasis Symptoms and Signs Diary(PSSD)スコアの変化を、Patient Global Impression of Change(PGI-C)スコアおよびPatient Global Impression of Severity(PGI-S)スコアに照らし合わせ、患者にとって臨床的に意義のある有意な改善を示すPSSDスコアの変化量を検討した。解析の結果、PSSDスコアのベースラインからの改善が15ポイント以上の場合、PGI-Cスコアに意義のある変化が示された。乾癬の臨床試験では、PSSDスコアのベースラインからの変化が、患者報告アウトカムとして広く用いられているが、臨床的に意義のあるスコア変化の閾値が、臨床試験の設定では確立されていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年12月20日号掲載の報告。 研究グループは、Program to Evaluate the Efficacy and Safety of Deucravacitinib, a Selective TYK2 Inhibitor(POETYK), PSO-1(POETYK PSO-1)試験のデータを用いて、PSSDの臨床的に意義のあるスコア変化の閾値を評価した。 POETYK PSO-1試験は、成人の中等症~重症の乾癬患者を対象に、選択的TYK2阻害薬デュークラバシチニブの有効性と安全性を評価した国際共同第III相多施設共同無作為化二重盲検試験。本試験は、2018年8月7日~2020年9月2日に行われた。対象患者には、デュークラバシチニブ6mg(1日1回)またはプラセボ、アプレミラスト30mg(1日2回)のいずれかを投与し、追跡調査した。 今回の解析では、PSSDを毎日報告していた成人患者を対象とし、ベースラインから16週時までのPSSDスコアの平均変化量を、PGI-CおよびPGI-Sの改善のカテゴリーに照らし合わせて、臨床的に意義のあるスコア変化の閾値を導出した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、666例が含まれた。平均年齢は46.1(標準偏差13.4)歳、男性が453例(68.0%)であった。・ベースラインでPGI-SとPSSDを報告していたのは601例であった。16週時点でPGI-SとPSSDを報告していたのは481例であり、PGI-CとPSSDを報告していたのは486例であった。・609例を対象とした解析により、以下の3つの閾値が特定された。・PSSDスコアのベースラインから16週までの変化が15ポイント以上の場合、PGI-Cの臨床的に意義のある改善のカテゴリーに該当することが示された。・PSSDスコアの変化が25ポイント以上の場合、PGI-SおよびPGI-Cの両方が臨床的に意義のある改善のカテゴリーに該当することが示された。・PSSDスコアの変化が30ポイント以上の場合、乾癬の症状が大きく改善(PGI-Cによる評価が非常に大きく改善/大きく改善)した患者が特定された。

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乳房温存術後の局所再発率、70遺伝子シグネチャーで予測可能か(MINDACT)/JCO

 乳房温存手術を受けた早期乳がん患者の局所再発リスクは、70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)によるリスクと独立して関連しないことが、EORTC 10041/BIG 03-04 MINDACT試験の探索的サブ解析で示された。また、術後8年間の局所再発率は3.2%と推定された。オランダ・Netherlands Cancer Institute-Antoni van Leeuwenhoek HospitalのSena Alaeikhanehshir氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年1月19日号で報告。 本解析は、EORTC 10041/BIG 03-04 MINDACT試験において、乳房温存手術を受け、臨床的リスクおよび70遺伝子シグネチャーによるリスクが判明している女性を評価した。主要評価項目は累積発生率で推定した8年の局所再発率だった。 主な結果は以下のとおり。・登録患者6,693例中5,470例(81.7%)が乳房温存手術を受け、そのうち98%が放射線治療を受けていた。・8年間で189例に局所再発が発生し、8年累積発生率は3.2%(95%信頼区間[CI]:2.7~3.7)であった。・70遺伝子シグネチャーによる低リスク患者における8年累積発生率は2.7%(95%CI:2.1~3.3)であった。・単変量解析では、化学療法で調整後、12変数のうち70遺伝子シグネチャーを含む5変数が局所再発と関連した。多変量解析では、術後内分泌療法、腫瘍径、悪性度と関連していた。 著者らは「この探索的解析では、局所再発イベント数が少なかったためか、70遺伝子シグネチャーは独立して局所再発を予測するものではなく、現在のところ、局所再発に関する臨床的意思決定には使用できない」とした。

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自宅で受ける病院レベルの医療の安全性と有効性を確認

 自宅で病院レベルの医療を受けた人は、入院して治療を受けた人と同程度に良好な経過をたどる可能性のあることが、米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のDavid Michael Levine氏らによる研究から明らかになった。同研究では、自宅で病院レベルの医療を受けた人の死亡率は低く、すぐに救急外来受診を必要とする状態に陥る可能性も低いことが示されたという。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月9日掲載された。 Levine氏は、「患者の自宅で提供される病院レベルの医療は非常に安全で質も高いようだ。本研究では、患者の生存期間が延び、再入院の頻度も抑えられることが示された」と話した上で、「もし、自分の母親や父親、きょうだいがこのような形で医療を受けるチャンスがあるならば、そうすべきだ」と付け加えている。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対する対応として、米国のメディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)は、2020年にAcute Hospital Care at Home Waiver initiative(在宅急性期医療の規制免除イニシアチブ)を発足し、メディケア認定病院が、患者の自宅で病院レベルの医療を提供できるようにした。これを受け、米国37州、300施設の病院の数千人の患者が、病院ではなく自宅で医療を受けた。ただし、現行の規制免除プログラムは2024年12月に終了する見通しだ。 米国病院協会(AHA)によると、技術の進歩により病院は幅広いサービスを患者の自宅で提供できるようになった。例えば、X線検査や最新の心臓画像検査、静脈注射による治療や検査のための検体の採取が可能であり、ベッドサイドまで食事や薬を届けることもできる。 Levine氏らは今回の研究で、自宅で病院レベルの医療を受けた患者の状態を評価するため、出来高払い制のメディケアパートAの2022年7月1日から2023年6月30日の間の請求データを用いて、在宅急性期医療の規制免除プログラムによる医療を受けた患者5,858人(女性54%、白人85.2%、75歳以上61.8%、身体障害あり18.1%)のデータを分析した。対象患者のうち、42.5%が心不全、43.3%が慢性閉塞性肺疾患(COPD)、22.1%ががん、16.1%が認知症を抱えていた。 解析の結果、対象患者の死亡率は0.5%であり、24時間以内に病院に戻ることになった患者の割合も6.2%に過ぎないことが示された。さらに、自宅での急性期医療の終了から30日以内に介護施設への入所が必要となった患者の割合は2.6%、同期間に死亡した患者の割合は3.2%、病院への再入院が必要となった患者の割合は15.6%だった。 Levine氏は、「病院レベルの医療を自宅で受けることが良好な転帰につながる理由と思われるものは数多くある」と説明する。例えば、「医療専門家は、患者の自宅で患者にどのように自身のケアをすべきかを教えることができる上に、自宅という環境は、患者にとって病院よりも起き上がって動き回りやすい」ため、治療後の移行がスムーズなのだという。また、患者の自宅で医療を提供することを通じて、医療専門家が患者の生活を垣間見ることができるため、患者の健康状態の悪化につながり得る要因などに気付くことができるのも理由だという。 さらに今回の研究では、患者の人種や民族、あるいは障害の有無によって自宅で病院レベルの医療を受けた場合のアウトカムに差はないことも明らかになった。Levine氏は、「従来の入院治療ではアウトカムに大きな格差があることが分かっているだけに、社会的に疎外されている集団で臨床的に意味のある差がなかったことは心強い。このことは、自宅での急性期医療が多様な患者や家庭に対応できることを示唆している」と述べている。

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第200回 非オピオイド鎮痛薬が米国承認申請へ

まずは急性痛第III相試験が成功本連載で2年ほど前に取り上げた依存やその他のオピオイドにつきものの副作用の心配がない経口の非オピオイド鎮痛薬が2つの第III相試験で術後痛を有意に緩和し、いよいよ米国FDAの承認申請に進みます1)。試験の1つには腹部の脂肪を除去する腹壁形成手術患者1,118例、もう1つには外反母趾の瘤(バニオン)を取る手術患者1,073例が参加しました。それら2試験のどちらでも米国のバイオテック企業Vertex Pharmaceuticalsの神経ナトリウムチャネル阻害薬VX-548の時間加重合計(SPID48)がプラセボを有意に上回りました。SPID48は点数が大きいほど48時間に痛みがより鎮まったことを意味し、腹壁形成手術患者と外反母趾手術患者の試験でのVX-548投与群のSPID48はプラセボ群をそれぞれ有意に48点と29点上回りました。しかしながら、定番のオピオイド薬との比較ではVX-548は勝てませんでした。腹壁形成手術患者の試験でのVX-548投与群のSPID48はオピオイド薬(ヒドロコドンとアセトアミノフェンの組み合わせ)より高めでしたが勝ったとはいえず、外反母趾手術患者の試験でのVX-548投与群のSPID48はオピオイド薬未満でした。オピオイド薬との比較は残念な結果となりましたが、第一の目標であるプラセボとの比較で勝利したことを受けてVX-548はいよいよ今年中頃までに米国FDAに承認申請されます。手術や手術以外も含む多様な患者へのVX-548の効果や安全性を調べた別の第III相試験の結果も踏まえ、急な痛みの治療薬として承認申請される予定です。対照群なしのその第III相試験ではVX-548使用患者の83%が好転(good, very good, or excellent)したと自己評価しました。慢性痛の用途も目指すVX-548は慢性痛への効果の検討も進んでおり、去年の12月には糖尿病患者の神経痛(糖尿病神経障害)への効果を調べた第II相試験での有望な結果が報告されています2)。点数が大きいほどより痛いことを意味する下限0で上限10の数値的疼痛評価尺度(Numeric Pain Rating Scale:NPRS)が一日一回のVX-548投与で有意に2点強下がり、糖尿病神経障害の治療薬プレガバリンの1日3回投与と同程度の効果がありました。プレガバリンと効果が同程度でもVX-548の1日1回投与は強みになるかもしれません。Vertex社はFDAとの協議の後に糖尿病神経障害へのVX-548の大詰め試験を始める予定です。糖尿病神経障害は末梢神経痛の2割を占めます。Vertex社はさらに患者数が多い腰仙部神経根障害への同剤の第II相試験も昨年の12月に開始しています3)。腰仙部神経根障害は末梢神経痛の実に4割を占めます。装い新たなオピオイド薬も健闘オピオイド薬はとくに慎重な扱いが必要とはいえ、VX-548が勝てなかったことも示すように頼りになる薬として引き続き出番は多そうです。それゆえより安全に使えるようにする取り組みが脈々と続いています。米国のサンディエゴを拠点とするEnsysce Biosciences社が開発している半減期が長いオピオイド薬PF614はその1つで、第II相試験後のFDAとの協議結果を踏まえたうえで今年後半に第III相試験が始まります4)。VX-548の試験でも使われたhydrocodoneとアセトアミノフェンの合剤の製品Vicodinは4~6時間ごとの服用が必要ですが5)、PF614は半減期が12時間と長いので1日2回の服用で事足ります。また、乱用されやすさを確認する試験でPF614はオキシコドンに比べて好まれず、再び使いたいという欲求の程がより低くて済むことが確認されています。米国のオピオイド乱用の惨禍は深刻で、2021年のオーバードーズによる死者10万例(10万6,699例)の75%が処方用オピオイドを含む何らかのオピオイドに関連するものでした6)。ゆえにオピオイドの代わりとして使いうるVX-548やPF614のようなより安全な新しい処方薬の役割は大きいに違いなく、同国のオピオイド惨禍を落ち着けることに役立つでしょう。参考1)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BUSINESS WIRE 2)Vertex Announces Positive Results From Phase 2 Study of VX-548 for the Treatment of Painful Diabetic Peripheral Neuropathy / BUSINESS WIRE3)Evaluation of Efficacy and Safety of VX-548 for Painful Lumbosacral Radiculopathy (PLSR)4)Ensysce Biosciences Announces Positive End of Phase 2 Meeting with FDA for PF614 to Treat Severe Pain / ACCESSWIRE5)Vicodin / FDA6)Drug Overdose Death Rates / NIH

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双極性障害に対するリチウムの国際的な使用傾向と臨床的相関

 双極性障害治療において、リチウムによる治療は依然として重要な治療選択肢の1つである。シンガポール・Nanyang Technological UniversityのYao Kang Shuy氏らは、国際的なリチウム使用の薬理学的疫学的パターンを経時的に特徴づけ、双極性障害に関連する臨床的相関を解明するため、スコーピングレビューを実施した。Brain Sciences誌2024年1月20日号の報告。 Arksey and O'Malley(2005)による方法論的枠組みを用いて、スコーピングレビューを実施した。2023年12月までに報告された双極性障害に対するリチウム使用と臨床的相関を調査した研究を、各種データベースより収集した。 主な結果は以下のとおり。・1967~2023年に報告された55件の研究をレビューに含めた(北米:24件[43.6%]、欧州:20件[36.4%]、アジア:11件[20.0%])。・全体でのリチウム使用率は、3.3~84%(中央値:33.4%[カットオフ前]、30.6%[カットオフ後])の範囲であった。・時間の経過とともに、北米、欧州のリチウム使用が減少、アジアでは緩やかな増加が認められた。【北米】2010年以前:27.7%→2010年以降:17.1%【欧州】2003年以前:36.7%→2003年以降:35.7%【アジア】2003年以前:25.0%→2003年以降:26.2%・リチウム使用は、特定の人口統計学的因子(たとえば、年齢、男性)や臨床的因子(たとえば、自殺リスクの低下)と関連が認められた。 著者らは「リチウム使用は、欧米で減少している傾向が確認された。特定の臨床的相関は、リチウム使用の継続に関する臨床上の意思決定をサポートするうえで有用であろう」とまとめている。

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何はさておき記述統計 その1【「実践的」臨床研究入門】第40回

いきなり!多変量解析?臨床研究における統計解析というと、みなさんはいきなり多変量解析を行ったり、臨床研究といえば多変量解析というようなイメージを持っていないでしょうか。重回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析などの多変量解析のさまざまな手法を用いたことがある方や、学会などでこれらの統計解析手法を聞いたこと、論文で目にしたことがある方は多いでしょう。しかし、統計解析手法を正しく選択するためには、変数やアウトカム指標の型をよく知ることが必要となります。また、いきなり多変量解析に飛びつく前に、まずは変数やアウトカム指標の型を意識して正しく記述すること(記述統計)が重要です。今回からは、具体的な統計解析手法について、筆者らが行い英文論文化された臨床研究の実例などを引用して解説します。また、架空の臨床シナリオを元に立案したClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)に基づいた仮想データ・セットを用いて、統計解析の実際についても実践的に説明したいと思います。まずはここで、これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQの研究デザイン、セッティング、およびPECOについて整理します。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかD(研究デザイン):(後ろ向き)コホート研究S(セッティング):単施設外来P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準:ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者E(曝露要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(比較対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出O(アウトカム):1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)2)糸球体濾過量(GFR)低下速度われわれのRQのプライマリアウトカムは末期腎不全であり、アウトカム指標はその発生率となります。発生率は下記の計算式で求められるのでした(連載第37回参照)。発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計実際の臨床研究論文では、発生率は人年法という手法を用いて、1,000人を1年間観察すると(1,000人年)何件アウトカム(イベント)が発生したか、という形式で記述されることが多いです。以下に、筆者らが2023年に出版した臨床研究論文2)の実際の記述を示します。CKD患者において血清鉄代謝マーカーの1つであるトランスフェリン飽和度(TSAT)レベルと心血管疾患(CVD)およびうっ血性心不全(CHF)の発生リスクの関連を検討した論文です。Resultsの”Incidence of outcome measures"という小見出しで以下のように記載しました。"Supplementary Fig. S1 shows the incidence rates of CVD and CHF events based on serum TSAT levels. The overall incidence rates of CVD and CHF in the analysed participants were 26.7 and 12.0 events/1000 person-year, respectively. Participants with TSAT 40% (17.2 and 6.2 events/1000 person-year, respectively)."「補足図S1は、血清TSAT値に基づくCVDおよびCHFイベントの発生率を示している。全解析対象者におけるCVDおよびCHFの発生率は、それぞれ26.7および12.0イベント/1,000人年であった。TSATが20%未満の参加者でCVDおよびCHFの発生率が最も高かった(それぞれ33.9と16.5イベント/1,000人年)。一方、CVDとCHFの発症率はTSATが40%以上の患者で最も低かった(それぞれ17.2および6.2イベント/1,000人年)。(筆者による意訳)」この論文記載のポイントは、血清TSAT値20%未満(診療ガイドライン3)で鉄補充療法開始が推奨される基準値)のCKD患者において、CVDおよびCHFの発症率が最も高い、という記述統計の結果がまず示されたということです。次回からは仮想データ・セットを用いて、具体的な統計解析方法についても解説をしていきます。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.2)Hasegawa T, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023;38:2713-2722.3)日本透析医学会編集.2015 年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.

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ようやくドイツで災害医療向けのガイドラインが完成【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第33回

2024年、日本は大変なスタートとなってしまいました。連日、能登半島地震の被害状況がメディアで報道され、痛ましい映像が流されている状況です。毎年50億円くらいの予算を投じて作成されている地震ハザードマップでは、能登半島はむしろ「安全」な地域になっていました。と、言いますか新潟県中越地震(2004年)、熊本地震(2016年)のときもハザードマップでは、危険が低い地域になっていたと思います。うーん、どうやら地震の予測はまだまだ難しそうです。日本に住んでいる限りは、本当に明日はわが身と思っておかなければいけないことを痛感しています。災害の多い日本は、災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)をはじめてとして、災害医療のレベルが本当に高いですよね。大きな災害のたびに、何かしらの課題が指摘されて、次にはちゃんと修正されています。避けることができない災害なら、被害を最小限にするための努力を諦めない、そういった強い意志を感じます。自然災害が少ないドイツもやっと救急医療の整備を始めたドイツはほとんど地震がありません。近年は気候変動による河川の氾濫など、自然災害は増加傾向にありますが、わが国と比べると自然災害の頻度は低くなっています。実はドイツには救急に関して専門医制度が確立しておらず、大きな病院でも救急部門がありません。救急に関して遅れている国と言えます。救急認定医みたいな制度がありますが、医師会が実施している講習会を受けて、ちょっと実習するだけで取れるみたいです。以前、実習をさせてもらっていた開業医の先生が取っていましたが、「結局、救急のことはよく知らない」と言っているレベルでした。そんなドイツですが、最近、麻酔科学会と集中治療学会が中心となって、28個の学会が共同して災害医療のガイドラインの作成が行われました。ドイツの「災害医療のプレホスピタルガイドライン」です。画像を拡大する右上に作成日が書かれていますが、「2023年4月」と本当に最近作成されています。これまでなかったことにも驚きです。どちらかと言えば内容は自然災害よりもバイオテロなどへ意識を向けている印象となっています。自然災害が少ない代わりに、戦争や大規模テロのリスクが高いとされるヨーロッパ。一口に「災害医療」と言っても、国によってニーズがまちまちであることを感じます。

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糖尿病患者、カルシウムサプリ常用でCVDリスク増

 カルシウムは、骨の組成に重要であり、カルシウム補助食品やサプリメントは骨粗鬆症性骨折予防などに広く用いられている。一方で、カルシウムサプリ摂取が血中カルシウム濃度を急激に上昇させ、心血管系に有害となる可能性がある。とくに心血管疾患(CVD)のリスクが高く、カルシウム代謝が低下していることが多い糖尿病患者における安全性の懸念が提起されている。中国・武漢のTongji Medical CollegeのZixin Qiu氏らによる、糖尿病患者におけるカルシウムサプリ摂取の安全性をみた研究結果がDiabetes Care誌2024年2月号に掲載された。 研究者らはUKバイオバンクに登録された43万4,374人(うち糖尿病患者2万1,676例)を主要解析対象とし、カルシウムサプリの使用と糖尿病の状態との相互作用を検証した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・43万4,374人中2万9,360人(6.8%)がベースライン時に習慣的なカルシウムサプリ使用を報告した。糖尿病患者と非患者でサプリの使用率に有意差はなかった。・追跡期間中央値8.1年および11.2年の間に、それぞれ2万6,374件のCVDイベントおよび2万526件の死亡(うち4,007件がCVD)が記録された。・多変量調整後、糖尿病患者においては、習慣的なカルシウムサプリの使用はCVD発症(HR:1.34、95%CI:1.14~1.57)、CVD死亡(HR:1.67、95%CI:1.19~2.33)、全死亡(HR:1.44、95%CI:1.20~1.72)の高リスクと有意に関連していた。一方、糖尿病のない参加者では有意な関連はみられなかった。・CVDイベントおよび死亡のリスクに関して、習慣的なカルシウムサプリの使用と糖尿病の状態との間には有意な乗法的、相加的な相互作用が認められた。一方、食事または血清カルシウムと糖尿病の状態との間には有意な相互作用はみられなかった。 研究者らは、カルシウムサプリの習慣的使用は、糖尿病患者におけるCVDイベントおよび死亡の高リスクと有意に関連していた。糖尿病患者においては、カルシウムサプリの潜在的な有害作用と考えられる有益性とのバランスをとるためにさらなる研究が必要である、としている。

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統合失調症入院患者に対する長時間作用型注射剤や新規抗精神病薬治療が臨床アウトカムに及ぼす影響

 統合失調症治療に従事している医療関係者にとって、抗精神病薬のアドヒアランスや治療の中断は、依然として大きな課題となっている。米国・Johnson & Johnson Innovative MedicineのCharmi Patel氏らは、長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬治療を開始、または入院後に新規経口抗精神病薬に切り替えた統合失調症患者を対象に、臨床的質の尺度を用いて評価を行った。Drugs - Real World Outcomes誌オンライン版2023年12月21日号の報告。 本研究は、PINC AITM Healthcare Databaseを用いたレトロスペクティブコホート研究であり、統合失調症患者を対象とした2つのコホートから、入院後の臨床的質と治療継続のエンドポイントの評価を行った。対象患者は、all-payer databaseを用いて、米国の病院を拠点とするリアルワールドデータベースより抽出した。2017年4月~2020年4月、初回入院時にLAI抗精神病薬を開始した統合失調症患者7,292例または新規経口抗精神病薬に切り替えた統合失調症患者3万1,956例を分析対象に含めた。傾向スコアの重みづけは、2つのコホート間の患者、病院、臨床的特性の違いにより対応した。 主な結果は以下のとおり。・LAI抗精神病薬による治療は、新規経口抗精神病薬への切り替えと比較し、以下の点で有意な差が認められた(いずれも、p<0.001)。 ●30日間の抗精神病薬治療継続期間の延長 ●30日間の外来フォローアップ治療率の増加 ●治療中止までの平均期間の延長 ●治療中止リスクの低下・30日間の抗精神病薬治療継続率は、患者、臨床、病院の特徴で調整した後でも、LAI抗精神病薬治療患者において、新規経口抗精神病薬治療患者よりも、有意に高かった(調整オッズ比:1.2、95%信頼区間:1.1~1.3、p<0.001)。 著者らは「入院中にLAI抗精神病薬による治療を開始した統合失調症患者は、新規経口抗精神病薬に切り替えた患者よりも、より良い臨床的質と治療継続が得られる可能性がある。本知見は、統合失調症患者の退院後の薬物治療マネジメントの質の向上を目指すうえで、解決策の特定に役立つであろう」とまとめている。

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CAR-T療法ide-cel、多発性骨髄腫の早期治療に承認の意義/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2023年12月に同社のCAR-T細胞療法イデカブタゲン ビクルユーセル(ide-cel、商品名:アベクマ)が、再発または難治性の多発性骨髄腫の早期治療に承認されたことを受け、2024年1月31日にメディア向けプレスセミナーを開催した。セミナーでは日本赤十字社医療センター・血液内科の石田 禎夫氏が「早期ラインとしての CAR-T 細胞療法(アベクマ)が多発性骨髄腫(MM)の治療にもたらすもの」と題した講演を行い、新たな承認が臨床に与える意味について解説した。 多発性骨髄腫は抗体を産生する形質細胞ががん化し、骨病変、腎障害、免疫不全などを引き起こす疾患。10万人当たり6.2人(2017年)が罹患、高齢者に多い疾患で、高齢化に伴い患者数は増加傾向にある。 多発性骨髄腫の治療戦略は、65歳未満の初発患者は化学療法+自家造血幹細胞移植となり、65歳以上や移植不適患者、再発時には複数薬剤を併用する化学療法の適応となる。2次治療以降に使われる薬剤は、大きく分けてプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗体薬、HDAC阻害薬があり、これらにステロイド薬デキサメタゾンを組み合わせ、3剤にして投与するレジメンが主流となっている。承認されているレジメンは複数あり、これまで多発性骨髄腫治療におけるCAR-T療法の承認は、これらの薬剤クラスの組み合わせがすべて不適となった4次治療以降だった。 今回の3次治療における承認は、第III相KarMMa-3試験の中間解析結果に基づいたもの。同試験はプロテアソーム阻害薬、免疫調整薬、抗CD38モノクローナル抗体を含む2~4レジメンの前治療歴を有する患者を対象とし、ide-celと標準療法の有用性を比較した。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ide-cel群13.3ヵ月に対し標準療法群4.4ヵ月と、ide-cel群でPFSの有意な延長が認められ、かつ新たな安全性シグナルは認められなかった。 石田氏は「CAR-T療法は自身のT細胞を使うオーダーメードの治療法であり、投与までに2ヵ月ほどかかる。進行の速い患者さんでは手遅れになることもあり、早期段階で使えることには大きな意味がある。また、大量化学療法を受けて疲弊する前のリンパ球を使えることもメリットだ」とした。さらに「CAR-T療法が奏効した場合は、治療を停止することが可能となり、標準療法と比較して患者のQOLが上がることも大きな利点となる」と説明した。 今後、造血器腫瘍において広がりが見込まれる新規薬剤BiTE抗体(二重特異性T細胞誘導抗体)とCAR-T療法の使い分けについては、「BiTE抗体薬の作用機序として投与後に抗体が変異し、その後にCAR-T療法を行っても意味をなさない可能性がある。よってCAR-T療法を優先し、治療抵抗となったらBiTE抗体薬にスイッチする戦略が現実的ではないか」とした。

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肩関節脱臼のリハビリテーション、理学療法は有効か?/BMJ

 外傷性肩関節前方脱臼の急性期リハビリテーションにおいて、自己管理を支援する助言のみを受けた患者と比較して、助言に加えて個々の患者の病態に合わせて調整した理学療法を行っても、6ヵ月後の肩関節機能は改善せず、合併症プロファイルは両群で同程度であることが、英国・ブリストル大学のRebecca S. Kearney氏らが実施した「ARTISAN試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2024年1月17日号で報告された。英国41施設の無作為化対照比較試験 ARTISAN試験は、英国の国民保健サービス(NHS)トラストが運営する41施設で実施した実践的な無作為化対照比較試験であり、2018年11月~2022年3月に参加者を募集した(英国国立衛生研究所[NIHR]の助成を受けた)。 X線所見で初発の外傷性肩関節前方脱臼と確定し、非手術的に管理されている成人患者482例(平均年齢44.9[SD 19.6]歳、女性34%)を登録した。両肩脱臼や神経血管合併症がみられる患者、外科的治療が考慮されている患者は除外した。 全患者で、負傷した腕にスリングを装着し、自己管理のための助言(1回)を行った。その後、この助言以外の介入は行わないが、回復しない場合に自己申告で理学療法を選択するための連絡先の提供を受ける群(助言単独群、240例)、または追加介入として個々の患者の病態に合わせて調整した理学療法(1回最大30分、最長4ヵ月)を受ける群(助言+理学療法群、242例)に、無作為に割り付けた。  主要アウトカムは、割り付け日から6ヵ月後のオックスフォード肩関節不安定性スコア(Oxford shoulder instability score)(0~48点、点数が高いほど機能が良好)とした。6週、3ヵ月の時点でも有意差はない 354例(73%)がオックスフォード肩関節不安定性スコアの評価を完了した(助言単独群180例、助言+理学療法群174例)。合計96人の理学療法士が介入を行った。 6ヵ月の時点でのITT集団におけるオックスフォード肩関節不安定性スコアの平均値は、助言単独群が36.2(SD 10.7)点、助言+理学療法群は38.4(SD 9.2)点であり、両群間に有意な差を認めなかった(補正後群間差:1.5点、95%信頼区間[CI]:-0.3~3.5、p=0.11)。 6週(助言単独群23.3[SD 10.4]点vs.助言+理学療法群24.4[SD 9.9]点、補正後群間差:0.7点、95%CI:-1.0~2.4、p=0.44)および3ヵ月(30.0[SD 11.4]点vs.32.2[SD 10.4]点、1.6点、-0.5~3.6、p=0.13)の時点でも、オックスフォード肩関節不安定性スコアに関して両群間に有意差はなかった。QuickDASH、EQ-5D-5Lにも差はない 6ヵ月時のQuickDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand[DASH]の短縮版、0~100点、点数が高いほど機能障害が重度)(助言単独群14.4[SD 17.5]点vs.助言+理学療法群12.7[SD 16.9]点、補正後群間差:0.8点、95%CI:-4.0~2.5、p=0.65)および健康関連QOL(EQ-5D-5L、-0.594~1点、点数が高いほど健康状態が良好)(0.797[SD 0.217]点vs.0.815[SD 0.183]点、0.010点、-0.026~0.047、p=0.59)も、両群間に差はみられなかった。 事前に予測した合併症のプロファイルは、以下のとおり両群間で類似しており、肩腱板断裂(助言単独群9% vs.助言+理学療法群9%、p=0.87)、圧迫骨折(3% vs.2%、p=0.26)、肩関節再脱臼(3% vs.1%、p=0.22)、凍結肩(五十肩)(1% vs.3%、p=0.34)、神経損傷(<1% vs.0%、p=1.00)の発生率は、いずれも有意差を認めなかった。 著者は、「個別に調整された理学療法プログラムは有効ではないと知ることで、臨床医と患者は、手術を行わないリハビリテーションの最良のアプローチについて、エビデンスに基づいた話し合いを行うことができるだろう。今後は、自己管理戦略の最適化に向けた研究が求められる」としている。

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COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている1,2)。 同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験3)等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。 本研究では、30歳以上でCOVID-19発症から7日以内の外来患者を、高用量のフルボキサミン群とプラセボ群に無作為に割り付けて比較した。結果は、主要アウトカムである症状改善までの期間短縮は認めず(調整ハザード比:0.99、95%信頼区間:0.89~1.09、有効性のp=0.40)、副次アウトカムの28日以内死亡例は両群ともに0例で、入院や救急外来/救急診療部受診ではフルボキサミン群14例(2.4%)に対してプラセボ群21例(3.6%)とフルボキサミン群での医療介入イベントは3分の1程度少なかったが、事前に定めた基準を満たすほどの差はなかった4)。 また、忍容性の観点では、「調子が悪いため、薬を飲むつもりはない」と報告した患者は、フルボキサミン群6.4%に対してプラセボ群は2.1%と、以前から想定されていた高用量フルボキサミンにおける忍容性の低さが示されたと考える。以上より、昨年の論文に続き、本研究でもCOVID-19に対するフルボキサミン投与の有効性は示されなかった。 今回の主要アウトカムであるCOVID-19の症状改善までの期間短縮では、有意差を示した過去の報告は乏しく、COVID-19に対して死亡率低下や重症化予防効果を示したニルマトレルビルやモルヌピラビルでさえほとんどない。 統計学的に有意な症状改善効果を示した薬剤にはエンシトレルビルがあり、プラセボに比較して症状消失までの時間を約24時間短縮させている5)。本邦で重症化リスクは低いが症状の強い患者から対症療法以外の薬剤も処方希望がある場合は、フルボキサミンを処方するよりもエンシトレルビルを処方するほうが理にかなっているだろう。 ただし、昨今のCOVID-19診療では、流行株の変化やワクチン接種の効果により、死亡率や重症化率は低下傾向で、外来患者の症状もデルタ株流行時よりも軽減しているように感じている。流行株が変遷した現在において、症状改善までの期間短縮のメリットが薬価や副作用・ウイルス耐性化のリスクといったデメリットに勝る薬剤を発見・開発することは、今後もなかなか難しいかもしれない。 さて、現在の医療現場でCOVID-19に関する問題として残っていることには、施設入所や入院中の患者で発生するCOVID-19クラスターがある。執筆時点で、COVID-19に対する発症予防効果が期待されている薬剤は、ワクチンや抗体療法を除くと証明されておらず、現在の流行株によるクラスター対策で即時に有用な薬剤はない。COVID-19は、重症化リスクの乏しい患者においては、インフルエンザウイルスなどと近い重症度になりつつある6)が、現在でも感染力は強く、施設内・院内感染におけるクラスターはいまだに施設や医療機関に負荷をかける原因となっている。 しかし、COVID-19に対して重症化予防が証明された抗ウイルス薬でも、発症予防効果が証明された薬剤はなく、症状改善までの期間短縮の薬剤よりも発症予防効果のある薬剤のほうが医療現場でのニーズは高いかもしれない。■参考1)McCarthy MW, et al. JAMA. 2023;329:269-305.2)CareNet.comジャーナル四天王「フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA」(2023年1月30日)3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)CareNet.comジャーナル四天王「コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA」(2024年1月12日)5)日本感染症学会 COVID-19治療薬タスクフォース「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版」(2023年2月14日)6)Xie Y, et al. JAMA. 2023;329:1697-1699.

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耳内ムカデの1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第250回

耳内ムカデの1例イラストACより使用どうも、異物論文専門家の倉原です。週に1回は「foreign body」で異物論文を検索している日本人がいることに、PubMedのアクセス解析のスタッフもビックリしていることでしょう。異物論文というのは「迷入場所」×「異物の種類」で可能性は無限大にあります。中でも耳の異物は結構たくさん報告されており、この連載でも「耳内ゴキブリの1例」を紹介させていただいたことがあります。今日紹介するのは「耳内ムカデの1例」です。おいおい、ほとんど同じじゃねーか!と思われる方もいるかもしれませんが。Ding MC, et al. Safe Removal of a Centipede From the Ear By Using an Innovative Practicable Method: A Case Report. Ear Nose Throat J. 2023 Mar;102(3):NP123-NP125.31歳の女性が救急外来を受診しました。就寝中に突然右耳が痛くなり、耳元で大きな音がしたというのです。視診で、右耳の中に黒い生き物がうごめいているのが発見されました。いや、もうホラーとか呪いの類やん。懐中電灯を使っておびき寄せようとしましたが、出てきてくれません。右耳のビデオ内視鏡検査で、黒い節足動物がいることが確認されました。これは…ゴキ…じゃない、ムカデだ…ッ!!たとえば、ムカデを刺激する方法が選択されますが、飛び出して医師の手に噛みついたら大変です。というわけで、ペットボトルを半分に切って、耳に密着させ、ボトルに開けた穴からキシロカインスプレーを噴射して、ムカデを追い出す作戦を敢行しました。噴霧後、すぐに体長5cmの黒いムカデが出てきました。いやー楽勝、楽勝!ゴキブリと同じように、これはオリーブオイルでもよかったのかな?と思いましたが、Discussionにはそのことは書かれていませんでした。まあ、耳内ムカデに遭遇することなんてまずないので、適切な摘出法なんて存在しないのでしょうが。

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中年期のタンパク質摂取が多いほど、健康寿命が延びる

 世界中で高齢化が進む中、健康寿命を延ばすことが求められており、栄養はその中の重要な要素である。中でもタンパク質は身体の健康維持に大きな役割を果たしているが、中年期にタンパク質を多く摂取した人ほど、疾病なく健康的に加齢する可能性があることが新たな研究でわかった。米国・タフツ大学のAndres V. Ardisson Korat氏らによる本研究の結果はThe American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2024年1月17日号に掲載された。 研究者らは、Nurses' Health Study(NHS)コホートの女性参加者を対象とし、登録時の年齢が30~55歳の12万1,700人に対し、ベースライン時およびその後2年ごとに追跡調査を実施した。初回調査の回答に不備がなく、ベースライン時に該当疾患のない4万8,762人が対象となった。 調査票から総タンパク質、動物性タンパク質、乳製品タンパク質(動物性タンパク質のサブセット)、植物性タンパク質の摂取量を調べた。「健康的な加齢」は、11の主要な慢性疾患がなく、精神状態が良好で、認知機能または身体機能のいずれにも障害がないことと定義した。ライフスタイル、人口統計学、健康状態を調整した多変量ロジスティック回帰を用いて、健康的な加齢に関連するタンパク質摂取量のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の平均(SD)年齢は48.6(6.3)歳、38.6%がBMI値25以上、22.9%が現在喫煙者、88.2%が既婚者であった。・総タンパク質摂取量の平均値(エネルギー百分率)は18.3%であり、内訳は動物性タンパク質13.3%(うち乳製品タンパク質3.6%)、植物性タンパク質4.9%であった。・3,721/4万8,762人(7.6%)が健康的な加齢の定義に合致した。タンパク質の摂取は、健康的な加齢のORと有意に関連していた。エネルギー3%増加あたりの健康的な加齢のORは、総タンパク質1.05(95%CI:1.01~1.10)、動物性タンパク質1.07(95%CI:1.02~1.11)、乳製品タンパク質1.14(95%CI:1.06~1.23)、植物性タンパク質1.38(95%CI:1.24~1.54)であった。・植物性タンパク質の摂取は、身体機能の制限がないことや精神状態が良好であることのOR上昇とも関連していた。動物性または乳製品タンパク質、炭水化物、または脂肪を植物性タンパク質に同等のカロリーで置き換えた場合、健康的な加齢との有意な正の関連が観察された(3%のエネルギーを植物性タンパク質に置き換えた場合のOR:1.22~1.58)。・主な植物性タンパク源は、パン、野菜、果物、ピザ、シリアル、焼き菓子、マッシュポテト、ナッツ類、豆類、ピーナッツバター、パスタであった。 著者らは、女性看護師の大規模コホートにおいて、中年期の食事からのタンパク質摂取、とくに植物性タンパク質摂取は、健康的な加齢の高いORおよび健康状態のいくつかの領域と関連しているようだ、と結論付けている。

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TN乳がんの治療薬SG、日本での製造販売承認を申請/ギリアド

 ギリアド・サイエンシズは、2024年1月30日付のプレスリリースで、全身療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性かつHER2陰性(HR-/HER2-)乳がん治療薬として開発を進めている抗体薬物複合体(ADC)sacituzumab govitecan(SG)について、同日に日本における製造販売承認申請を行ったと発表した。 HR-/HER2-(IHCスコア0、IHCスコア1+またはIHCスコア2+/ISH陰性)乳がん(トリプルネガティブ乳がん)は、最も悪性度の高いタイプの乳がんで、乳がん全体の約10%を占めるといわれている。HR-/HER2-乳がんの細胞は、エストロゲンとプロゲステロンの受容体の発現がなく、HER2の発現も限定的もしくはまったく認められない。HR-/HER2-乳がんはその性質上、他の乳がんに比べて有効な治療法がきわめて限られており、再発や転移の可能性が高く、他の乳がんにおける転移・再発までの平均期間が5年であるのに対し、HR-/HER2-乳がんでは約2.6年、5年生存率は、一般的な再発乳がんの女性においては28%、HR-/HER2-再発乳がんにおいては12%とされている。 SGは、90%以上の乳がんを含む複数のがん種で高発現する細胞表面抗原であるTrop-2蛋白を標的とするADCである。Trop-2が発現したがん細胞に取り込まれると、トポイソメラーゼI阻害薬であるSN-38を直接届けるとともに、バイスタンダー効果により周辺のがん細胞のDNAにも作用し、がん細胞を死滅させる。 今回の承認申請は、2つ以上の化学療法レジメンによる前治療後に再発した切除不能な局所進行または転移・再発のHR-/HER2-乳がん患者を対象に海外で実施した第III相試験(ASCENT試験)および国内第II相臨床試験(ASCENT-J02試験)の結果に基づく。

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アルツハイマー病治療薬aducanumabの開発・販売を終了/バイオジェン

 米国・バイオジェンは2024年1月31日付のプレスリリースにて、同社とエーザイが共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬aducanumabの開発および販売を終了することを発表した。本剤は、米国食品医薬品局(FDA)から2021年6月8日に迅速承認を受けていた。迅速承認の条件として第IV相市販後検証試験であるENVISION試験を実施していたが、本試験を終了する。本剤は、日本では2020年12月に承認申請されていたが、翌21年12月の審議で明確な有効性を示すデータが不十分と判断され、承認が見送られ継続審議となっていた。 バイオジェンは今後のアルツハイマー病領域について、米国でフル承認を取得したレカネマブや、新規作用機序を有する治療薬候補でASOタウを標的とした「BIIB080」、経口のタウ凝集を阻害する低分子薬「BIIB113」の開発に優先的にリソースを配分する方針を示した。 また、同社はaducanumabの終了に伴う費用として、2023年第4四半期に約6,000万ドルの特別損失を計上し、Neurimmune社(スイス)から受けていたaducanumabのライセンス契約を終了したことも明らかにした。

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第82回 新たな疾患「殿様枕症候群」とは

illustACより使用SNSでバズりまくっている新しい疾患があります。それが「殿様枕症候群」です。これは国立循環器病研究センターから発表された疾患概念で1,2)、若年や中高年に起こる特発性椎骨動脈解離による脳卒中の一部であることが示されています。千鳥のノブさんがこの疾患にかかったことで有名になりましたが、椎骨動脈解離は私も数えるくらいしか診療したことがないので、こんなコラムでドヤれるほどの知識はございません。早々に凝固してくれれば軽症で済み、私が経験したことがある症例もすべて軽症でしたが、外膜にまで解離が進むとくも膜下出血を起こすことがあります。若年に多い疾患であるものの、原因不明の症例がほとんどだそうです。首をポキポキ鳴らすようなカイロプラクティックや整体によって椎骨動脈解離を起こす事例もあることから、日常生活における負荷も影響しているのではという見解もありました。首ポキと呼ばれる「スラスト法」については欧米でも危険視されており、平均年齢41歳の脳卒中患者集団では、30日以内にスラスト法を受けていた割合が4倍以上という報告もあります3)。とはいえ、誘因なく発症に至る椎骨動脈解離がいるのも事実です。国立循環器病研究センターの研究グループは、極端に高い枕を使っている人が存在することに注目しました。そう、「殿様枕」です。殿様だけではなくて、江戸中期では市中でも流行した枕です。これは、男性ではちょんまげ、女性では結い上げた髪を崩したくなかったという側面もあるようです。研究では、高い枕の使用が特発性椎骨動脈解離と関連があるかどうかを調べました。12cm以上を高値、15cm以上は極端な高値と定義しています。また、どのくらいの特発性椎骨動脈解離が高い枕に起因しているのかを検討しました。結果、特発性椎骨動脈解離の患者53例とコントロール患者53例を調査したところ、高い枕の使用と疾患の発症に有意な関連がみられました。とくに15cm以上の極端な高い枕では、オッズ比10.6倍という結果でした。臨床的に特発性椎骨動脈解離のうち、約1割がこの「殿様枕症候群」であることが示されました。この「殿様枕症候群」、英訳はどうなるんだろうと思ったら、さすがでした。「Shogun pillow syndrome」だそうです!参考文献・参考サイト1)国立循環器病研究センター:枕が高いと脳卒中になる? ―特発性椎骨動脈解離と高い枕の関係と、殿様枕症候群の提唱―2)Egashira S, et al. High pillow and spontaneous vertebral artery dissection: a case-control study implicating “Shogun pillow syndrome”. European Stroke Organisation 2024 Jan 29. [Epub ahead of print]3)Smith WS, et al. Spinal manipulative therapy is an independent risk factor for vertebral artery dissection. Neurology. 2003 May 13;60(9):1424-1428.

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せん妄マネジメントに対する抗精神病薬のQT延長リスク

 集中治療室でせん妄に関連した重度の興奮や知覚障害を認める患者では、抗精神病薬による短期治療が有用である可能性がある。しかし、一部の抗精神病薬は、QTc間隔を延長する可能性があり、致死的な心室性不整脈のリスク増加が懸念される。米国・マサチューセッツ総合病院のMonika Sadlonova氏らは、抗精神病薬とQTc延長に関するエビデンスをレビューし、QTc間隔のモニタリングにより不整脈リスクを軽減するための実践的な方法について検討を行った。Journal of Intensive Care Medicine誌オンライン版2023年12月21日号の報告。 2023年2月までに公表された抗精神病薬とQTc延長、または不整脈との関連を調査した研究をPubMed、Cochrane Libraryより検索した。 主な結果は以下のとおり。・せん妄のマネジメントに一般的に用いられるほとんどの抗精神病薬(ハロペリドール静脈内投与、オランザピン、クエチアピンなど)は、中程度のQTc延長を引き起こす可能性が示唆された。・他の抗精神病薬のうち、QTc延長リスクの最も高い薬剤はiloperidone、ziprasidoneであり、リスクが最も低い薬剤はアリピプラゾール、ルラシドンであると考えられる。・遺伝的脆弱性、女性、高齢、心血管疾患の既往、電解質異常、非精神科薬は、QTc延長リスクを高める可能性がある。・QTc延長リスクのある患者では、QTc間隔を正確かつ継続して測定し、必要に応じて薬物療法の調整を検討する必要がある。・抗精神病薬は、QTc延長に対する多くのリスク因子の1つである。・せん妄に関連する興奮をマネジメントする際、個々の患者のQTc延長リスクを評価し、リスクを鑑みた投薬およびモニタリング戦略を選択する必要がある。・集中治療の環境下では、線形回帰式を用いて心拍数を補正する定期的なECGモニタリングが推奨される。・重大なQTc延長(QTc 500msec超)が認められる場合には、薬理学的治療の変更も考慮すべきであると考えられるが、治療中止リスク(極度の興奮、侵襲的なモニタリング機器の取り外し)が不整脈リスクを上回る場合には、特定の薬剤の使用を検討することも重要である。

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卵巣がん再発の早期検出に腫瘍マーカーHE4とCA125の併用を/アボット

 ヒト精巣上体タンパク4(HE4)は、卵巣がんの腫瘍マーカーとして広く使用され、2022年には経過観察でも保険適用となっている。アボットジャパンは2024年1月、国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科の加藤 友康氏と宇野 雅哉氏を招き、HE4の卵巣がん経過観察に関する会見を行った。 卵巣がんは自覚症状に乏しく、進行した状態で見つかることが多い。いったん切除しても再発すると治療困難となるため、経過観察が重要である。経過観察は画像診断が主体だが、放射線被ばくやコスト面から頻回実施は困難である。そのため、定期的に腫瘍マーカーで上昇を確認したうえで、画像診断を行うことが望まれている。 腫瘍マーカーとしては、CA125が広く用いられている。しかし、CA125は月経、婦人科良性疾患(子宮内膜症、筋腫)や胸腹膜の炎症性疾患などの影響を受けてしまう。一方、HE4は上記病態や疾患の影響を受けにくいとされ、高精度の腫瘍マーカーとして、卵巣腫瘍の鑑別への活用が期待されている。 そこで、卵巣がん経過観察へのHE4の使用可能性を評価するため、宇野氏らは2014~21年の卵巣がん新規診断患者48例を対象に後方視的観察研究を行った1)。その結果、経過観察中における、HE4の高い感度と陰性的中率、CA125に匹敵する画像診断との一致率が示された(感度:CA125 85.2%、HE4 77.8%、陰性的中率:CA125 82.6%、HE4 75.0%、画像診断との一致率:CA125 87.5%、HE4 81.3%)。さらに、CA125とHE4を併用することで、さらに高い感度(92.6%)が得られた。一方、HE4には早期に再発を確認できる特性が認められ、HE4使用症例の78%が画像診断より前あるいは同時に数値が上昇していた。 加藤氏と宇野氏は、「HE4はCA125との相関性が低く、CA125に対して相補的な役割も果たす。両マーカーの測定による卵巣がんの経過観察への有用性が期待される」と結んだ。

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悪性黒色腫への個別化mRNAワクチン+ペムブロリズマブの効果は?(KEYNOTE-942)/Lancet

 完全切除後の高リスク悪性黒色腫に対する術後補助療法として、個別化mRNAがんワクチンmRNA-4157(V940)とペムブロリズマブの併用療法は、ペムブロリズマブ単剤療法と比較し、無再発生存期間(RFS)を延長し、安全性プロファイルは管理可能であった。米国・Laura and Isaac Perlmutter Cancer Center at NYU Langone HealthのJeffrey S. Weber氏らが、米国およびオーストラリアで実施した第IIb相無作為化非盲検試験「KEYNOTE-942試験」の結果を報告した。免疫チェックポイント阻害薬は、切除後のIIB~IV期悪性黒色腫に対する標準的な術後補助療法であるが、多くの患者が再発する。mRNA-4157は、脂質ナノ粒子製剤中に最大34個のネオアンチゲンをコードするmRNAを含む個別化ワクチンで、個人の腫瘍mutanomeとヒト白血球抗原(HLA)タイプに特異的に合わせて調製されている。著者は、「今回の結果は、mRNAに基づく個別化ネオアンチゲン療法の術後補助療法における有益性を示すエビデンスとなる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年1月18日号掲載の報告。主要評価項目は無再発生存期間(RFS) 研究グループは、切除可能なIIIB~IV期(IIIB期は前回の手術から3ヵ月以内の再発のみ適格)の悪性黒色腫を有する18歳以上で、ペムブロリズマブ初回投与の13週間前までに完全切除術を受け、試験開始時に臨床的および放射線学的に無病であり、ECOG PSが0または1の患者を、mRNA-4157+ペムブロリズマブ併用療法(併用療法群)またはペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)に、病期で層別化して2対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。mRNA-4157は1mgを3週間間隔で最大9回筋肉内投与、ペムブロリズマブは200mgを3週間間隔で最大18回静脈内投与した。 主要評価項目は、ITT集団におけるRFS、副次評価項目は無遠隔転移生存、安全性などであった。ペムブロリズマブ単剤に対するmRNA-4157併用のハザード比は0.561 2019年7月18日~2021年9月30日に、157例が併用療法群(107例)および単剤療法群(50例)に割り付けられた。追跡期間中央値は、それぞれ23ヵ月および24ヵ月であった。 データカットオフ時点(2022年11月14日)で、再発または死亡のイベントは併用療法群で24例(22%)、単剤療法群で20例(40%)に発生し、RFSは併用療法群が単剤療法群と比べて延長し(再発または死亡のハザード比[HR]:0.561、95%信頼区間[CI]:0.309~1.017、両側p=0.053)、18ヵ月RFS率はそれぞれ79%(95%CI:69.0~85.6)、62%(95%CI:46.9~74.3)であった。 治療関連有害事象の多くはGrare1または2であり、Grare3以上は併用療法群でmRNA-4157関連事象12例(12%)、ペムブロリズマブ関連事象24例(23%)、単剤療法群でペムブロリズマブ関連事象9例(18%)であった。 有害事象によりペムブロリズマブの投与を中止した患者は、併用療法群で26例(25%)、単剤療法群で9例(18%)であった。免疫関連有害事象は、併用療法群で37例(36%)、単剤療法群で18例(36%)に認められた。

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