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入院中の高齢者におけるせん妄が長期的な認知症リスクに及ぼす影響

 これまでの研究において、せん妄と認知症との関連性が示唆されているが、その多くは術後環境においての検討である。韓国・亜洲大学のGyubeom Hwang氏らは、幅広いリアルワールドデータを活用し、入院患者におけるせん妄とその後の認知症との関連を評価するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。The American Journal of Geriatric Psychiatry誌オンライン版2024年8月21日号の報告。 韓国の医療機関9施設より抽出された60歳以上の入院患者1,197万475例を対象に、分析を行った。せん妄の有無を特定し、傾向スコアマッチング(PSM)を用いて比較可能なグループを作成した。10年間の縦断分析を行うため、Cox比例ハザードモデルを用いた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。すべての結果を集約し、メタ解析を実施した。さまざまなサブグループ解析および感度分析を実施し、各条件における結果の一貫性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・1:1のPSM後、せん妄群および非せん妄群で合計4万7,306例がマッチングされた。・両群とも年齢中央値は75〜79歳、女性の割合は43.1%であった。・せん妄群は、非せん妄群と比較し、すべての原因による認知症リスクが有意に高かった(HR:2.70、95%CI:2.27〜3.20)。・認知症サブグループにおいても、せん妄群は、非せん妄群と比較し、認知症の発症リスクが高かった。【すべての原因による認知症または軽度認知障害】HR:2.46、95%CI:2.10〜2.88【アルツハイマー病】HR:2.74、95%CI:2.40〜3.13【血管性認知症】HR:2.55、95%CI:2.07〜3.13・これらのパターンは、すべてのサブグループおよび感度分析において、一貫していた。 著者らは「せん妄は、いずれの認知症タイプにおいてもリスクを有意に高めることが明らかとなった。これらの結果は、せん妄の早期発見および早期介入の重要性を示唆している」とし「せん妄と認知症とのメカニズムを明らかにするためには、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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病気が潜んでいる“ふるえ”とは

患者さん、それは…ふるえ かもしれません!「ふるえ」とは、医学用語で振戦(しんせん)とも呼ばれます。主に手足、頭、声で起こります。寒さや緊張などのように生理現象で生じるものもあれば、パーキンソン病や本態性振戦という病気が原因で生じるものもあるので、以下のことが該当するか確認してみましょう。●いつ、症状が表れますか?□安静時 □ある一定の姿勢を保持した状態●症状が出るのは、どの部位ですか?□手指□声(のど)□頭部□動作時(箸やペンを持つ…)□顔面□足□体幹◆ある病気が潜んでいる“手のふるえ”は…• 安静時に手がふるえれば、パーキンソン病を疑います• 手のふるえで字がうまく書けないときは、本態性振戦であることが多いです• 甲状腺機能亢進症や尿毒症を発症していると、手がふるえます出典:今日の治療指針2020、MSDマニュアルプロフェッショナル版_振戦監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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肛門扁平上皮がん1次治療、新規抗PD-1抗体上乗せが有用(POD1UM-30)/ESMO2024

 肛門管扁平上皮がん(SCAC)は、肛門がんの主要なリスク因子であるHPVウイルス感染の増加などを背景に、患者が増加傾向にある。新たな抗PD-1抗体であるretifanlimab単剤療法は、化学療法で進行したSCAC患者において抗腫瘍活性を示すことが報告されている1)。未治療の進行SCAC患者を対象に、retifanlimabの標準化学療法への追加投与を評価するPOD1UM-303試験が行われ、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)Presidential Symposiumで、英国・Royal Marsden HospitalのSheela Rao氏が初回解析結果を発表した。・試験デザイン:第III相二重盲検比較試験・対象:手術不適、化学療法未治療の局所再発/転移SCAC患者・試験群:retifanlimab 500mgを4週ごと(最長1年)+標準化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル、6サイクル)・対照群(プラセボ群):プラセボ+標準化学療法、PD後のクロスオーバー可・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2020年11月~2023年7月に308例(試験群154例、プラセボ群154例)が登録された。年齢中央値は62(SD 29~86)歳、72%が女性、87%が白人、4%がHIV陽性、36%が肝転移あり、90%がPD-L1≧1だった。・PFS中央値は、試験群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)に対し、プラセボ群は7.4ヵ月(95%CI:7.1~7.7)で、試験群が有意に良好な結果だった(ハザード比[HR]:0.63、95%CI:0.47~0.84、p=0.0006)。・OSは未成熟であるものの、試験群29.2ヵ月に対しプラセボ群23.0ヵ月と、試験群で改善傾向が認められた。クロスオーバー群のOSはプラセボ群とほぼ変わらない結果だった。・ORRは試験群55.8%に対してプラセボ群44.2%、DOR中央値は14.0ヵ月と7.2ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象は試験群83.1%、プラセボ群75.0%に発生した。うちGrade5はそれぞれ2.6%(4例)、0.7%(1例)だった。Grade3以上で多かったものは好中球減少症(35.1%と29.6%)、貧血(19.5%と20.4%)などだった。 Rao氏は「本試験は転移SCACにおける最大規模のランダム化試験であり、標準化学療法に比べてretifanlimab併用の有効性を示した。安全性シグナルもこれまでの免疫チェックポイント阻害薬の併用療法と一致していた。retifanlimabと化学療法の併用は、進行SCAC患者の新たな標準治療となる可能性がある」とまとめた。 ディスカッサントを務めたドイツ・シャリテー病院のDominik P. Modest氏は「retifanlimab群におけるPFSのハザード比は非常に良好で、しかも早い段階から効果が出ているのが印象的な結果だ。一方、クロスオーバー群はretifanlimabのベネフィットを受けておらず、投与が遅いと効果が出ない可能性もある。本試験のOSや、ニボルマブの化学療法への上乗せ効果を検討したEA2176試験などの結果を見て、さらに検証する必要があるだろう」とした。 retifanlimabは米国・インサイトが開発したPD-1阻害薬で、米国では再発性局所進行メルケル細胞がんに対して承認されている。また、今回のPOD1UM-30試験には日本の施設も参加している。

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日本人治療抵抗性うつ病に対するケタミン治療の有用性~二重盲検ランダム化比較試験

 治療抵抗性うつ病(TRD)に対しケタミンが抗うつ効果をもたらすことは、北米や欧州各国から頻繁に報告されているが、アジア人患者におけるエビデンスは、これまで十分ではなかった。慶應義塾大学の大谷 洋平氏らは、日本人TRD患者におけるケタミン静脈内投与の有効性および安全性を評価するため、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年8月30日号の報告。 TRDの日本人患者34例を対象に、ケタミン群(0.5mg/kg)またはプラセボ群にランダムに割り付け、2週間にわたり週2回、40分間静脈内投与を行った。主要アウトカムは、ベースラインから治療終了までのMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアの変化とした。副次的アウトカムは、その他のうつ病症状スコア、寛解率、治療反応率、部分反応率などであった。また、ベースライン時の臨床人口統計学的特性とMADRS合計スコアの変化との関連も調査した。 主な結果は以下のとおり。・ITT解析では、両群間でMADRS合計スコアの減少に有意な差は認められなかったが(−8.1±10.0 vs.−2.5±5.2、t [32]=2.02、p=0.052)、per-protocol解析では、ケタミン群はプラセボ群よりも、MADRS合計スコアの有意な減少が認められた(−9.1±10.2 vs.−2.7±5.3、t [29]=2.22、p=0.034)。・その他のアウトカムは、両群間で差は認められなかった。・ケタミン群はプラセボ群よりも有害事象の発現が多かったが、重篤な有害事象は報告されなかった。・ベースライン時のMADRS合計スコアが高い、およびBMIが高い場合、MADRS合計スコアの減少は大きかった。 著者らは「日本人TRD患者において、ケタミン静脈内投与は、プラセボよりも優れており、多様な民族におけるTRD患者の抑うつ症状軽減に対するケタミンの有用性が示唆された」と結論付けている。

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転移を有するホルモン感受性前立腺がん、ダロルタミド+ADTがrPFS改善(ARANOTE)/ESMO2024

 転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対して、ダロルタミド+アンドロゲン遮断療法(ADT)の併用療法が、プラセボ+ADTと比較して画像上の無増悪生存期間(rPFS)の有意な改善を示した。カナダ・モントリオール大学のFred Saad氏が、国際共同第III相ARANOTE試験の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で報告した。同患者に対しては、第III相ARASENS試験において、ダロルタミドをADT+ドセタキセルに加えた併用療法が、ADT+ドセタキセルと比較して全生存期間(OS)を有意に改善している。・対象: mHSPC患者(ECOG PS 0~2)・試験群(ダロルタミド+ADT群):ダロルタミド(1日2回、600mg)+ADT 446例・対照群(プラセボ+ADT群):プラセボ+ADT 223例・評価項目:[主要評価項目]中央判定によるrPFS[副次評価項目]OS、次の抗がん剤治療開始までの期間、mCRPCまでの期間、前立腺特異抗原(PSA)増悪までの期間、PSA不検出率(<0.2ng/mL)、疼痛増悪までの期間(BPI-SF)、安全性・層別化因子:内臓転移、局所療法の有無 主な結果は以下のとおり。・ベースライン特性は両群でおおむね一致しており、年齢中央値はともに70歳、アジア人がダロルタミド+ADT群32.3% vs.プラセボ+ADT群29.1%、PSA中央値が21.4ng/mL vs. 21.2ng/mL、初回診断時に転移あり(de novo)が71.1% vs.75.3%、CHAARTED試験の高腫瘍量に該当したのが70.6% vs.70.4%、内臓転移ありが11.9% vs.12.1%、局所療法歴ありがともに17.9%であった。・2024年6月7日のデータカットオフ時点におけるrPFS中央値は、ダロルタミド+ADT群未到達 vs.プラセボ+ADT群25.0ヵ月(ハザード比[HR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.41~0.71、p<0.0001)であった。・rPFSのサブグループ解析の結果、すべてのサブグループでダロルタミド+ADT群における一貫したベネフィットがみられた。・副次評価項目についても、すべての項目でダロルタミド+ADT群で優位な傾向がみられ、層別HRはOSが0.81(95%CI:0.59~1.12)、次の抗がん剤治療開始までの期間が0.40(0.29~0.56)、mCRPCまでの期間が0.40(0.32~0.51)、PSA増悪までの期間が0.31(0.23~0.41)、疼痛増悪までの期間が0.72(0.54~0.96)であった(OSのデータは未成熟)。・治療中に発現した有害事象(TEAE)の発生状況は同様であり、Grade3/4はダロルタミド+ADT群30.8% vs.プラセボ+ADT群30.3%、Grade5は4.7% vs.5.4%で発生した。・治療期間中央値はダロルタミド+ADT群24.2ヵ月 vs.プラセボ+ADT群17.3ヵ月であった。試験薬の中止につながるTEAEは、6.1% vs.9.0%で発生した。 Saad氏は、ドセタキセルを使用しないダロルタミド+ADT併用療法が、mHSPC患者の治療選択肢の1つとなるだろうと結論付けている。ディスカッサントを務めたオランダ・Radboud University Medical CenterのNiven Mehra氏は、本試験の対象とならなかった機能的に脆弱な集団における有効性についてのデータも求められるとし、ドセタキセルやアビラテロン、エンザルタミドに適応のなかった集団における本療法の有効性を評価する、進行中のPEACE-6試験の結果に注目したいとコメントした。

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複雑病変へのPCI、OCTガイドvs.血管造影ガイド/Lancet

 複雑病変に対し薬剤溶出ステント(DES)の留置が必要な患者において、光干渉断層撮影(OCT)ガイド下の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管造影ガイド下PCIと比較し、1年後の主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が有意に低下した。韓国・延世大学校のSung-Jin Hong氏らが、同国20病院で実施した医師主導の無作為化非盲検優越性試験「Optical Coherence Tomography-guided Coronary Intervention in Patients with Complex Lesions trial:OCCUPI試験」の結果を報告した。PCI施行中にOCTは詳細な画像情報を提供するが、こうした画像診断技術の臨床的有用性は不明であった。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。DESによるPCI施行予定患者を無作為化、1年後のMACEを評価 研究グループは、DESによるPCIが適応と判断された19~85歳の患者を登録してスクリーニングを行い、1つ以上の複雑病変を有する患者をOCTガイド下PCI群(OCT群)またはOCTを用いない血管造影ガイド下PCI群(血管造影群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 複雑病変の定義は、急性心筋梗塞、慢性完全閉塞、long lesion(ステント長≧28mm)、石灰化病変、分岐部病変、非保護の左主幹部病変、小血管疾患(血管径<2.5mm)、冠動脈内血栓、ステント血栓症、ステント内再狭窄、バイパスグラフト病変であった。 アウトカム評価者は割り付けについて盲検化されたが、患者、追跡調査の医療従事者、データ解析者は盲検化されなかった。PCIは、エベロリムス溶出ステントを用いて従来の標準的方法に従って実施された。 主要アウトカムは、PCI施行1年後のMACE(心臓死、心筋梗塞、ステント血栓症、虚血による標的血管血行再建の複合)で、ITT解析を行い、優越性のマージンはハザード比1.0とした。MACE発生率、OCT群5% vs.血管造影群7%、ハザード比は0.62 2019年1月9日~2022年9月22日に、複雑病変へのDESによるPCIを必要とする患者1,604例が無作為化された(OCT群803例、血管造影群801例)。患者背景は、1,290例(80%)が男性、314例(20%)が女性で、無作為化時の平均年齢は64歳(四分位範囲:57~70)であった。1,588例(99%)が1年間の追跡調査を完了した。 主要アウトカムのイベントは、OCT群で803例中37例(5%)、血管造影群で801例中59例(7%)に発生した。絶対群間差は-2.8%(95%信頼区間[CI]:-5.1~-0.4)、ハザード比は0.62(95%CI:0.41~0.93)であり、有意差が認められた(p=0.023)。 副次アウトカムの脳卒中、出血イベント(BARC出血基準タイプ3または5)、造影剤誘発性腎症の発生率に、両群間で有意差はなかった。 なお、著者は、追跡期間が短いこと、完全な盲検化が困難であったこと、血管造影ガイド下PCIは術者の経験に影響される可能性があること、韓国のみで実施されたことなどを研究の限界として挙げている。

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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StageIのTN乳がんにおける術前化療後のpCR率とOSの関係/ESMO2024

 StageIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)において、術前化学療法後のpCR率は良好な長期転帰と関連することが示され、同患者における術前化学療法の実施が裏付けられた。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのManon De Graaf氏が、1,000例以上のTNBC患者を対象としたレジストリ研究の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で報告した。 本研究では、2012~22年に術前化学療法後に手術が施行されたcT1N0のTNBC患者をオランダがん登録のデータから特定し、pCR率と全生存期間(OS)との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・アントラサイクリンおよびタキサンベースの術前化学療法を受けた患者1,144例が特定された。・年齢中央値は50.0(22.0~77.0)歳、94.1%がcT1c腫瘍で、90.4%が乳管がんであった。41.3%がプラチナベースの術前化学療法を受け、24.7%が術後カペシタビン療法を受けていた。・全体のpCR達成率は57.3%(656例)であった。・多変量ロジスティック回帰分析の結果、若年(50歳未満vs.50歳以上、オッズ比[OR]:1.75、95%信頼区間[CI]:1.36~2.26)および腫瘍グレードの高さ(グレード3 vs.1または2、OR:2.07、95%CI:1.55~2.76)はpCR率の高さと関連し、小葉がんはpCR率の低さと関連していた(小葉がんvs.乳管がん、OR:0.18、95%CI:0.03~0.69)(いずれもp<0.05)。・プラチナベースの術前化学療法は、pCR率の改善と有意な関連はみられなかった(プラチナベースの術前化学療法ありvs.なし、57.6% vs.57.1%、OR:1.02、95%CI:0.80~1.29、p=0.9)。・4年時OSは、pCR達成群で98% vs.残存病変群で93%となり、pCR達成群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.29、95%CI:0.15~0.36、log-rank検定のp<0.001)。・残存病変群における術後カペシタビン療法の有無によるOSへの影響をみると、4年時OSはカペシタビン群93% vs.術後化学療法なし群91%であった(HR:0.65、95%CI:0.31~1.39、log-rank検定のp=0.3)。 Graaf氏は、StageIのTNBC患者のうち術前化学療法が必要な患者を決めるため、またTILsや免疫関連遺伝子シグネチャ―などの予測バイオマーカーを評価するために、さらなる研究が必要と結んでいる。

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HER2陽性胃がん1次治療、ペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法の最終OS(KEYNOTE-811)/ESMO2024

 昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)において局所進行または切除不能のHER2陽性胃がん1次治療として、トラスツズマブ+化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることによって奏効率(ORR)と無増悪生存期間(PFS)が改善したことを報告したKEYNOTE-811試験。本試験における全生存期間(OS)の最終解析結果を、イタリア・Veneto Institute of Oncology のSara Lonardi氏がESMO2024で発表した。・試験デザイン:第III相無作為化プラセボ対照比較試験・対象:未治療の切除不能HER2陽性胃がんまたは胃食道接合部がん、PS 0~1・試験群(ペムブロリズマブ群):ペムブロリズマブ200mgを3週間ごと+トラスツズマブ+化学療法(5-FUおよびシスプラチン[FP]またはカペシタビンおよびオキサリプラチン[CAPOX])、最大35サイクル・対照群(プラセボ群):プラセボを3週間ごと+トラスツズマブ+化学療法・評価項目:[主要評価項目]PFS、OS[副次評価項目]ORR、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・計698例がランダム化され、ペムブロリズマブ群350例、プラセボ群348例に割り付けられた。最終データカットオフは2024年3月20日、追跡期間中央値は50.2ヵ月であった。・最終のOS中央値はペムブロリズマブ群20.0ヵ月に対し、プラセボ群 は16.8ヵ月と有意にペムブロリズマブ群で良好な結果だった(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.67~0.94、p=0.0040)。PD-L1 CPS≧1の患者におけるOS中央値は、ペムブロリズマブ群で20.1ヵ月、プラセボ群で15.7ヵ月であった(HR:0.79、95%CI:0.66~0.95)。・最終のPFS中央値は、ペムブロリズマブ群が10.0ヵ月に対しプラセボ群は 8.1ヵ月で、引き続きペムブロリズマブ群が良好な結果だった(HR:0.73、95%CI:0.61~0.87)。PD-L1≧1の患者におけるPFS中央値は10.9ヵ月対7.3ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.60~0.87)であった。・ORRはペムブロリズマブ群で72.6%、プラセボ群で60.1%であった。 ・Grade3以上の治療関連有害事象はペムブロリズマブ群59%、プラセボ群51%で発生した。 Lonardi氏は「切除不能なHER2陽性、PD-L1≧1の胃がん患者において、1次治療としてのペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法は、OSを統計的に有意に改善し、臨床的に意義のある改善をもたらした。これらのデータは、このレジメンの有用性を確認するものである」とした。 この最終結果をもって、国内においても同レジメンの承認が進むとみられる。

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急性心筋梗塞による心原性ショック、MCSデバイス使用は有益か/Lancet

 急性心筋梗塞による心原性ショック(AMICS)の患者に対する積極的な経皮的機械的循環補助(MCS)デバイスの使用は、6ヵ月死亡を抑制せず、大出血および血管合併症を増加したことが、ドイツ・ライプチヒ大学ハートセンターのHolger Thiele氏らMCS Collaborator Scientific Groupが行った個別患者データのメタ解析の結果で示された。ただし、低酸素脳症のリスクがないST上昇型心筋梗塞(STEMI)による心原性ショックの患者では、MCS使用後に死亡率の低下が認められた。積極的な経皮的MCSは、死亡への影響に関して相反するエビデンスが示されているにもかかわらず、AMICS治療での使用が増加しているという。本検討で研究グループは、AMICS患者における早期ルーチンの積極的な経皮的MCSと対照治療の6ヵ月死亡率への影響を確認した。結果を踏まえて著者は、「MCSの使用は、特定の患者のみに限定すべきである」としている。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。MCS(VA-ECMOなど)vs.対照治療の6ヵ月死亡率をメタ解析で評価 個別患者データのメタ解析は、言語を制限せず、PubMed経由のMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Embase、ClinicalTrials.govの電子データベースを2024年1月26日時点で検索し、適切な無作為化比較試験(3つの検索単語群を用い、各群の少なくとも1単語がマッチした試験)を特定した。 解析には、AMICS患者の治療について早期ルーチンの積極的な経皮的MCS治療(無作為化後カテーテル検査室でただちに施行)と対照治療の6ヵ月死亡のデータを比較しているすべての無作為化比較試験を組み入れた。 主要アウトカムは、対照治療を受けた場合と比較した、早期ルーチン積極的経皮的MCS治療を受けたAMICS患者の6ヵ月死亡率で、デバイスタイプ(loadingタイプ[venoarterial extracorporeal membrane oxygenation:VA-ECMOなど]、unloadingタイプ)および患者の選択(すべての心筋梗塞、低酸素脳症リスクがないSTEMI)に焦点を当て、Cox比例モデルを用いてハザード比(HR)を算出し評価した。MCS使用の6ヵ月死亡率への影響に有意差は認められず 無作為化比較試験の報告9件(患者1,114例)が詳細に評価された。 全体として、VA-ECMO治療と対照治療の試験が4件(611例)、左室unloadingデバイス使用治療と対照治療の試験が5件(503例)であった。2試験に含まれていたAMICSではない患者55例(44例がVA-ECMO、11例が左室unloadingデバイスで治療を受けていた)のデータは除外された。 患者の年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~73)、データが得られた1,058例のうち845例(79.9%)が男性で、213例(20.1%)が女性であった。 ITT集団において、早期MCS使用の6ヵ月死亡率への影響について有意差は認められなかった(HR:0.87[95%信頼区間[CI]:0.74~1.03]、p=0.10)。VA-ECMO治療と対照治療(0.93[0.75~1.17]、p=0.55)、左室unloadingデバイス使用治療と対照治療(0.80[0.62~1.02]、p=0.075)でも有意差は観察されなかった。 低酸素脳症リスクがないST上昇型心原性ショックの患者では、MCS使用による6ヵ月死亡率の低下がみられた(HR:0.77[95%CI:0.61~0.97]、p=0.024)。 大出血(オッズ比:2.64[95%CI:1.91~3.65])および血管合併症(4.43[2.37~8.26])は、対照治療群と比べてMCS治療群で多くみられた。

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これでイノカ(INOCA)?これでいいのだ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第76回

狭窄や閉塞のない原因不明の胸痛「本当に胸が痛いんです」外来の診察室で患者さんが話します。他病院を受診していたのですが、経過が思わしくなく当方を受診されたようです。「○○病院の循環器内科のお医者さんは、相手にしてくれないんです。本当に痛みがあるのに、心療内科に紹介するというのです。神経質だからとか、不安症だからという訳ではないんです。本当に胸が痛いんです。悔しいやら、情けないやら、先生、助けてください」患者は50歳の女性で、3ヵ月前から始まった胸痛を主訴に来院しました。胸痛は主に運動時に出現し、階段の上り下りや家事中に誘発されるそうです。前胸部に鈍痛として感じられ、締め付けられるような感覚を伴います。痛みは夜間にも現れることがあり、数分から10分程度持続します。全体的に疲れやすく、活動時に息苦しさもあるとの訴えです。○○病院を受診し、初診時の心電図や心エコーでは明らかな異常は認められませんでしたが、狭心症の疑いがあるからとの説明で心臓CT検査を受けました。その結果、冠動脈に狭窄や閉塞はなく大丈夫と言われたそうです。心臓CTを受ける前に、もし冠動脈に詰まりかけている部位があれば、入院してカテーテル治療が必要かもしれないと説明を受けたとのことでした。この時点までの医師の対応は、優しく患者に寄り添い、訴えにも親身に耳を傾けてくれたそうです。ところが、冠動脈に狭窄病変がないと結果が判明したときから、医師の対応が冷たくなり、症状を訴えても相手にしてくれなくなりました。近年注目されるINOCAこの患者さんのように、原因不明とされる胸痛に悩まされている方は、実は多く存在します。注目を集めている病態があります。目視できるサイズの冠動脈に閉塞や狭窄がない狭心症という意味で、虚血性非閉塞性冠疾患(Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)といい、スペルの頭文字からINOCAと略され、「イノカ」と発音します。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの動脈硬化リスクの高い患者では、冠動脈に明らかな閉塞・狭窄がみられます。一方で、動脈硬化リスクが低い患者では冠動脈が正常にみえることから、検査をしても異常なしとされることが多くありました。近年、INOCAを診断するための新しい検査機器が開発され、今まで診断することができなかった原因不明の胸痛に対する確定診断の道筋ができたのです。従来法の冠動脈造影検査が正常であっても、本当は心臓が血流障害のために悲鳴を上げている病態です。詳細は述べませんが、冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症の可能性があります。微小血管狭心症とは、肉眼では見えない髪の毛ほどの太さ(100μm以下)の微小な冠動脈の動脈硬化や拡張不全、収縮亢進のために胸痛が生じるのです。この患者さんの場合、専用のカテーテル検査機器と解析ソフトを用いて微小血管の血流や抵抗値を測定し、微小血管狭心症の診断が確定しました。その病態に応じて内服薬を調整し、胸痛から開放されました。難しい症例は共感が薄れる?この例を通じて多くの考えることがありました。診断が難しい、あるいは治療が困難な症例に直面すると、医師は精神的な負担を感じやすくなります。これにより患者に対する対応が冷たくなったり、共感が薄れたりするのです。治療が順調に進み見通しが良い場合に、より共感的に対応することは簡単です。反対に、診断がつかない、治療の見込みがない場合には、距離を置いてしまう傾向があります。紹介した症例で最初に対応した○○病院の循環器内科医を責めている訳ではありません。医師であれば、誰でも思い当たる感情の揺らぎなのです。また「後医は名医」というように、情報が集約された時間的に後から診療する医師のほうが優位な立場にあることは明白です。とはいえ、どのような状況でも心の平静を保ち、フラットに対応できる精神力を維持することの大切さを学んだのでした。自分は、INOCAの症例に出会うたびに自問自答する呪文があります。「これでイノカ?」カンファレンスの場で声に出すと恥ずかしいので、心の中で唱えます。「これでいいのだ!」ご存じのように、バカボンのパパのあまりにも有名な決めセリフです。ザ・昭和のギャグアニメの主人公にして、私も最も敬愛する人物であるバカボンのパパは、バカ田大学を主席で卒業し、定職に就かず「これでいいのだ!」を合い言葉に、日々楽しく自由に生きる男です。美人の妻と、バカボンとはじめちゃんという2人の息子がいます。バカボンのパパの名言を紹介します。「わしはバカボンのパパなのだ。わしはリタイヤしたのだ。すべての心配からリタイヤしたのだ。だからわしは疲れないのだ。どうだ、これでいいのだ。やっぱり、これでいいのだ」バカボンという名前の由来は、サンスクリット語の仏教用語「薄伽梵(ばぎゃぼん)」という言葉という説もあるそうです。「これでいいのだ」は、お釈迦さまの「すべてをありのままに受け容れる」という悟りの境地に到達していることを示す言葉なのです。話が脱線したようですが、患者さんの訴える症状を否定することなく受け容れることが、INOCAの診断の鍵であることは間違いありません。「これでイノカ? やっぱり、これでいいのだ!」

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第231回 入院料通則に入ったACP、「人生会議」のネーミングもそろそろ変えどきか?地域包括ケアシステム・セミナーを覗いて考えた(前編)

病院再編の時代から、在宅医療・かかりつけ医・介護との連携の時代へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。秋になって、政治の世界も野球の世界も、決戦の時を迎えようとしています。野球では、日本のプロ野球もMLBもシーズン終盤に差し掛かり、順位争いが熾烈になってきました。9月24日(日本時間)現在本塁打53、盗塁55を達成した大谷 翔平選手が属するロサンゼルス・ドジャースは、25日からナショナルリーグ西地区の首位を争う、サンディエゴ・パドレスとの3連戦です。先発、中継ぎ、抑えの投手陣全体がズタボロのドジャースが、今年のポストシーズンでどこまで駒を進めることができるのか、それを占う上でもパドレス戦の勝敗(とくに投手の出来)はとても重要です。できることなら2勝1敗でいきたいところですが……。さて、今回は9月2日に東京で開かれた「第10回 地域包括ケアシステム特別オープンセミナー」(医療経済研究機構主催)を覗いてきましたので、その内容を簡単に報告したいと思います。「地域包括ケアシステム」と言えば、かつては介護の世界で使われる言葉でしたが、最近では医療の世界でも普通に使われる言葉となりました。オープニングで、地域包括ケアシステムの育ての親とも言える田中 滋氏(埼玉県立大学理事長)が、医療の世界は「病院再編に重点が置かれた時代から、在宅医療・かかりつけ医・介護との連携重視」へと時代が移りつつあると指摘されたのは、まさに至言だと感じました。「地域包括ケアを支える上でACPは非常に大事」と仲井 培雄氏第10回となった同セミナーのテーマは「尊厳ある”在宅での看取り”とは」でした。基調講演の田中氏に続いて、武田 俊彦氏(日本在宅ケアアライアンス 副理事長)、花戸 貴司氏(東近江市 永源寺診療所 所長)、仲井 培雄氏(医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院理事長/地域包括ケア推進病棟協会 会長)、高砂 裕子氏(全国訪問看護事業協会 副会長)、柴田 久美子氏(日本看取り士会 会長)がそれぞれレクチャーし、その後パネルディスカションとなったのですが、私が印象的だったのは仲井氏のACPに関する発言です。地域包括ケア推進病棟協会(2024年6月までは地域包括ケア病棟協会)の会長を務め、2014年の診療報酬改定で新設された地域包括ケア病棟の発展に努めてきた仲井氏は、レクチャー、そしてその後のディスカッションにおいて、「地域包括ケアを支える上でACPは非常に大事」と話し、テーマである「尊厳ある”在宅での看取り”」だけでなく、地域包括ケア定着のためにも今後ACPが地域で広がっていくことが重要である、と幾度も強調していました。「人生会議」という珍妙なネーミング、国民には浸透せずACP(Advance Care Planning)は、将来意思決定能力を失った場合に備えた、患者さん本人によるあらゆる計画のことです。話し合う内容は、将来受けたい、あるいは受けたくない医療・ケア、希望する生活や看取りの場所など、さまざまです。医療機関のスタッフだけでなく、地域の訪問看護や介護サービスのスタッフと連携を取りながらACPを進めることが求められています。日本では、2018年3月に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改訂版を公表、この中にACPの概念が盛り込まれました。ACPのゴールは一般的に「その人が重篤な慢性疾患に罹患したときに、その人の価値観、目標や治療選好に一致した医療が受けられることが確実になるようにサポートすること」とされています。2018年11月には、厚生労働省の公募によって、 ACPの愛称が「人生会議」と決まり、一般に向けた普及・啓発活動もスタートしました。この「人生会議」という珍妙なネーミングは、巨額の広報予算を使ったにもかかわらずほとんど国民には浸透していませんが、ACPの取り組み自体は医療現場で徐々に広がっています。「入院料の通則」見直しでACPに関する指針の作成が必要な医療機関の対象拡大前回、2020年の診療報酬改定では、ACPの取り組み(適切な意思決定支援に係る指針を定めていること)がすべての地域包括ケア病棟の施設基準盛り込まれました(それまでは一部の同病棟)。そして、今年の診療報酬改定では、「入院料の通則」が見直され、「人生の最終段階における適切な意思決定支援の推進」のため、ACPに関する指針の作成が必要な医療機関の対象が拡大、小児や思春期精神科病棟など特定の病棟以外のすべて入院に求められることになりました。「入院料の通則」は入院基本料を算定するための基本的なルールです。実施しなければ、入院料の算定そのものが認められません。なお、この指針作成については、在宅療養支援診療所・病院をはじめとする「看取り」に関わる「かかりつけ医機能」を有する医療機関にも求められることになりました。厚生労働省が作った「人生会議」という言葉はダサすぎてわかりづらい地域包括ケア病棟での地道な実践などが認められるかたちで、ACPは小児以外のほぼ全病棟においてもその取り組みが必須となったわけです。しかし、実際には「指針」を作成するだけで、本当に患者に寄り添ったかたちでACPが医療・介護の現場で行われているかどうかは甚だ疑問です。とはいうものの、地域包括ケアの合言葉とも言える「ときどき入院、ほぼ在宅」を実践し、患者が望まない過剰な医療を提供せず、尊厳ある死を迎えてもらうためにも、ACPの普及・定着は必要でしょう。そのためには、医療機関側からの働きかけのみならず、患者や家族側からのアクション、ACPの要望を伝えることも必要だと思います。そう考えると、厚生労働省が作った「人生会議」という言葉はダサすぎてわかりづらく、普及・定着を逆に妨げているのではないでしょうか。なんならそのまま「ACP」でもいいので、今一度そのネーミングを考え直すべきだと思いますが、皆さんいかがでしょう。ところで、この地域包括ケアシステム特別オープンセミナーでは、もう一人、とても興味深い発言をした人がいました。武田 俊彦氏です。この日は、日本在宅ケアアライアンス副理事長という肩書での出席でしたが、これからの病院と診療所の役割について言及した発言は、元厚生労働省医政局長ということを踏まえると、なかなかに重いものでした。(この稿続く)

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切除不能肝細胞がん、TACE+レンバチニブ+ペムブロリズマブが有用(LEAP-012)/ESMO2024

 切除不能肝細胞がん(HCC)では、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が標準療法の1つだが、これにレンバチニブ+ペムブロリズマブの併用療法の上乗せが、TACE単独療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したという。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)Presidential Symposiumにおいてスペイン・バルセロナ病院のJosep Llovet氏がLEAP-012試験の初回解析結果を発表した。・試験デザイン:第III相多施設共同ランダム化二重盲検試験・対象:根治的治療不適のHCC患者、PS 0~1・試験群(併用群):レンバチニブ(体重により8または12mgを1日1回経口投与)+ペムブロリズマブ(400mgを6週間隔で静脈内投与、最長2年)+TACE・対照群(プラセボ群):プラセボを経口+静脈内投与+TACETACEは全身療法開始後2~4週間に行い、1つの腫瘍につき最大2回、計4回、1ヵ月に1回までとした。・評価項目:[主要評価項目]PFS、全生存期間(OS)[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・480例が併用群(n=237)またはプラセボ群(n=243)にランダムに割り付けられ、両群ともTACEを受けた。・初回解析までの追跡期間中央値は25.6ヵ月(SD 12.6~43.5)であり、計286件のイベントが発生した。・PFS中央値は併用群14.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.6~16.7)対プラセボ群10.0ヵ月(95%CI:8.1~12.2)であり、併用群はプラセボ群と比較してPFSが有意に改善した(ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.51~0.84、p=0.0002)。・OSは未達だったものの、併用群が優位な傾向を示した(HR:0.80、95%CI:0.57~1.11、p=0.0867)。・ORRは併用群46.8%に対し、プラセボ群33.3%だった。・Grade3~5の治療関連有害事象(TRAE)は、併用群の71.3%に発生したのに対し、プラセボ群では31.1%であった。TRAEにより併用群8.4%(20例)とプラセボ群1.2%(3例)の患者で薬剤投与が中止された。 Llovet氏は「LEAP-012は主要評価項目を達成した。レンバチニブ+ペムブロリズマブ+TACEは、PFSの統計的に有意で臨床的に意義のある改善を示し、OSについても早期に改善傾向を示した。有害事象も既知の安全性プロファイルと一致しており、この治療戦略は新たなオプションになる可能性がある。OSは今後の解析で再評価される予定だ」とまとめた。 CareNet.comにESMO2024消化器がん領域の速報を寄せた静岡県立静岡がんセンターの大場 彬博氏は「今年1月に行われたASCO-GIでは、HCCのデュルバルマブ+ベバシズマブ+TACEの、TACE単独に対する有用性を示したEMERALD-1試験の報告があった。TACEへの免疫療法の上乗せ効果は再現性がありそうだ。今後はどのレジメンがより有用かを探求することが主要な話題となってくるだろう」とした。

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腎ドナーの死亡リスク、過去最低に

 腎臓提供者(ドナー)が死亡するリスクは、これまでになく低下していることが新たな研究で明らかになった。腎ドナーの死亡率はすでに10年前から低かったが、現在では、さらにその半分以下になっていることが示されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部Center for Surgical and Transplant Applied Research Quantitative CoreのAllan Massie氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月28日掲載された。 臓器調達・移植ネットワークによれば、毎年およそ6,000人の米国人が腎臓の提供を志願している。Massie氏らは今回、1993年から2022年までの生体腎ドナーに関するデータを用いて、腎臓提供後90日以内のドナー死亡率を算出した。データは1993~2002年、2003~2012年、2013~2022年の3つの期間に分類して解析した。 研究対象期間中に16万4,593人が腎臓を提供しており、36人が提供後90日以内に死亡していた(ドナー1万人当たり2.2人の死亡)。期間別に死亡数と死亡率(ドナー1万人当たりの死亡数)を比較すると、1993〜2002年では13人(1万人当たり3.0人)、2003〜2012年では18人(1万人当たり2.9人)であったのが、2013〜2022年には5人(1万人当たり0.9人)と、統計学的に有意に減少したことが明らかになった。さらに、男性では女性よりも、また、提供前に高血圧の既往があった人ではなかった人よりも、腎臓提供後90日以内の死亡率が統計学的に有意に高かったが、年齢、人種/民族と死亡リスクとの間に有意な関連は認められなかった。 Massie氏は、「腎臓提供が安全であることは分かっていたが、今回の調査結果は、ドナーが死亡することは極めてまれであり、その処置はかつてないほど安全なことを示唆している」と話す。 Massie氏は、このような死亡率改善の背景には、手術方法の向上があるとの見方を示す。同氏によると、1990年代以降、手術方法は劇的に変化したという。例えば、以前は腎臓の摘出には6〜8インチ(約15〜20cm)の切開が必要だったが、現在では、より侵襲性の低い腹腔鏡手術による臓器の摘出が主流となり、切開創はかなり小さくなったと同氏は説明する。また研究グループは、医師によるドナー希望者の健康状態の確認や手術後のドナーに対するケアの向上も、死亡率低下に寄与しているとしている。 NYUグロスマン医学部の外科副部長であるDorry Segev氏は、「これらの結果は、腎臓提供の可能性があるドナーにリスクを知らせるために使用されている現行のガイドラインを、過去10年弱の間に成し遂げられた安全性の向上を反映した内容に更新する必要があることを示している」と述べている。 一方、2009年に従兄弟に自身の腎臓を提供した経験を持つ、論文の共著者でNYUグロスマン医学部のMacey Levan氏は、「腎ドナーとして、またこの分野の専門家として、進歩を目の当たりにするのは心強いことだ」とNYUのニュースリリースの中で述べている。

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英語で「脳神経は正常です」は?【1分★医療英語】第149回

第149回 英語で「脳神経は正常です」は?《例文1》Although the patient presented with mild dizziness, her cranial nerves were grossly intact on initial evaluation.(患者は軽度のめまいの訴えがありましたが、初回の診察では脳神経の明らかな異常は見られませんでした)《例文2》The cranial nerves were not intact on neurological exam, as the patient showed facial asymmetry.(神経学的検査において、患者は顔面の非対称性を示したため、脳神経に異常が見られました)《解説》今回は脳神経に関する単語の解説です。救急外来などでは、身体検査で脳神経系を評価する場面がしばしばあるかと思います。「正常な脳神経所見」はどのように伝えればよいでしょうか。医療英語では、I~XIIの12の脳神経のことを“cranial nerve”と呼びます。副詞の“grossly”は単語としては「甚だしく/著しく」といった意味ですが、これを“intact”(=「損なわれていない/完全な」という意味の形容詞)と組み合わせて“grossly intact”とすると、「(脳神経が)異常なし/正常である」という意味になります。この“grossly intact”は“Cranial nerves are (were) grossly intact.”(脳神経所見は正常です)というお決まりのフレーズとして、カルテでも口頭のプレゼンでも頻用されます。ただ、“grossly”という単語は基本的に脳神経所見に限って使われる単語であり、ほかの身体所見ではあまり使われないので注意してください。なぜ脳神経のみがこの表現なのかは明らかではないのですが、米国の医療現場で広く使われているのでそのまま覚えてしまいましょう。一方、“intact”のほうは、ほかの部位の正常所見を示す際にも使われます。直訳すれば、“physically and functionally complete.”(身体的、機能的に完璧である)という意味になりますが、実際にカルテに記載されている例を挙げると、“Skin is moist and intact.”(皮膚は湿潤、損傷なし)や、“Extraocular movements is intact.”(眼球運動は正常)といった使われ方をしています。講師紹介

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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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第233回 コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024

コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を生じ易いことが知られます。幸い、がん患者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の安全性はおおむね良好です。いまや可能な限り必要とされるがん患者のSARS-CoV-2ワクチン接種が、その本来のCOVID-19予防効果に加えて、なんとがん治療の効果向上という思わぬ恩恵ももたらしうることが、今月13~17日にスペインのバルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)での報告で示唆されました1)。報告したのは米国屈指のがん研究所であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏です。Grippin氏らは今回の報告に先立ち、mRNAワクチンがその標的抗原はどうあれ、腫瘍のPD-L1発現を増やして抗PD-L1薬などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を高めうることを、げっ歯類での検討で見出していました。そこでGrippin氏らはCOVID-19予防mRNAワクチンがPD-L1発現を促すことでICIが腫瘍により付け入りやすくなるのではないかと考え、StageIII/IVの進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者2,406例や転移黒色腫患者757例などの記録を使ってその仮説を検証しました。予想どおり、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種から100日以内のNSCLC患者の腫瘍では、PD-L1がより発現していました。また、5千例強(5,524例)の病理報告の検討でもSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種とPD-L1を擁する腫瘍細胞の割合の55%上昇が関連しました。SARS-CoV-2 mRNAワクチンとICI治療効果の関連も予想どおりの結果となりました。ICIが投与されたNSCLC患者群のうち、その開始100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種していた患者は、そうでない患者に比べて全生存期間(OS)がより長く(それぞれ1,120日と558日)、より多くが3年間を生きて迎えることができました(3年OS率はそれぞれ57.2%と30.7%)。一方、ICI非治療の患者の生存へのSARS-COV-2 mRNAワクチン接種の影響はありませんでした。黒色腫患者でも同様の結果が得られており、ICI治療開始100日以内のSARS-COV-2 mRNAワクチン接種はOS、無転移生存期間、無増悪生存期間の改善と関連しました。SARS-COV-2 mRNAワクチンはPD-L1発現亢進と黒色腫やNSCLC患者のICI治療後の生存改善と関連したとGrippin氏らは結論しています。Grippin氏らの研究はmRNAワクチンに的を絞ったものですが、昨年9月に中国のチームが報告した解析結果では、mRNA以外のSARS-CoV-2ワクチン接種とICI治療を受けたNSCLC患者の生存改善の関連が認められています2)。不活化ワクチン2種(BBIBP-CorVとCoronaVac)を主とするSARS-CoV-2ワクチンを接種してICI治療を受けたNSCLC患者は非接種群に比べてより長生きしました。中国からの別の2つの報告でもmRNA以外のSARS-CoV-2ワクチンのICIの効果を高める作用が示唆されています。それらの1つでは抗PD-1抗体camrelizumab治療患者2,048人が検討され、BBIBP-CorV接種と全奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)が高いことが関連しました3)。ただし年齢、性別、がんの病期や種類、合併症、全身状態指標(ECOG)を一致させたBBIBP-CorV接種群530例と非接種群530例のORRやDCRの比較では有意差はありませんでした。同じ研究者らによる翌年の別の報告では、抗PD-1薬で治療された上咽頭がん患者1,537例が調べられ、CoronaVac接種とORRやDCRの向上が関連しました4)。参考1)Association of SARS-COV-2 mRNA vaccines with tumor PD-L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade / ESMO Congress 20242)Qian Y, et al. Infect Agent Cancer. 2023;18:50.3)Mei Q, et al. J Immunother Cancer. 2022;10:e004157.4)Hua YJ, et al. Ann Oncol. 2023;34:121-123.

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T-DXdによる遅発期・延長期の悪心・嘔吐抑制にオランザピン6日間併用が有効(ERICA)/ESMO2024

 HER2陽性/低発現の転移乳がんへのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)治療による遅発期および延長期の悪心・嘔吐を、オランザピン6日間投与と5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの併用が抑制する可能性が、日本で実施された多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第II相比較試験(ERICA)で示唆された。昭和大学の酒井 瞳氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表し、Annals of Oncology誌オンライン版に同時掲載された。・対象:T-DXd治療を予定しているHER2陽性/低発現の転移/再発乳がん患者・試験群:T-DXd投与1~6日目にオランザピン5mg(1日1回)を5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾン(1日目に6.6mg静脈内投与または8mg経口投与)と併用・対照群:オランザピンの代わりにプラセボを投与・評価項目:[主要評価項目]遅発期(T-DXd投与後24~120時間)の完全奏効(嘔吐なし、レスキュー治療なし)割合[副次評価項目]急性期(0~24時間)/延長期(120~504時間)の完全奏効割合、急性期・遅発期・延長期の完全制御(嘔吐なし、レスキュー治療なし、悪心なし/軽度)割合、急性期・遅発期・延長期の総制御(嘔吐なし、レスキュー治療なし、悪心なし)割合、急性期・遅発期・延長期の悪心なし割合、1日毎の完全奏効割合、PRO-CTCAEによる患者報告症状、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2021年11月~2023年9月に国内43施設で168例が登録され、162例(オランザピン群80例、プラセボ群82例)がプロトコールに組み入れられた。・遅発期の完全奏効割合は、オランザピン群(70.0%)がプラセボ群(56.1%)より有意に高く(p=0.047)、主要評価項目を達成した。・副次評価項目のすべての項目において、遅発期および延長期でオランザピン群のほうが高かった。・1日毎の完全奏効割合および悪心なし割合も、21日間の観察期間を通してオランザピンのほうが高かった。・初回の悪心発現までの期間中央値はオランザピン群6.5日/プラセボ群3.0日、悪心発現患者における悪心期間中央値はオランザピン群4.0日/プラセボ群8.0日、レスキュー治療を実施した患者割合はオランザピン群38.8%/プラセボ群56.6%だった。・PRO-CTCAEによる患者自身の評価では、食欲不振がオランザピン群で少なかった。・有害事象はオランザピンの以前の報告と同様で、新たな安全性シグナルはみられなかった(傾眠:オランザピン群25.0%/プラセボ群10.8%、高血糖:オランザピン群7.5%/プラセボ群0%)。 これらの結果から、酒井氏は「オランザピンをベースとした3剤併用療法は、T-DXd治療により引き起こされる遅発期および延長期の悪心・嘔吐を抑制する有効な制吐療法と思われる」とまとめた。

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安定CAD併存の重症AS、TAVIとPCIの同時施行は有益か/NEJM

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を施行する冠動脈疾患(CAD)患者に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行は保存的治療と比較し、追跡期間中央値2年の時点で全死因死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の複合リスクが低いことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院RigshospitaletのJacob Lonborg氏らNOTION-3 Study Groupによる国際非盲検無作為化優越性試験「NOTION-3試験」で示された。安定CADで重症大動脈弁狭窄症(AS)を有する患者において、TAVIに加えてPCIを施行するベネフィットは、依然として明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年8月31日号掲載の報告。PCI施行vs.保存的治療で主要有害心イベントの発生を評価 研究グループは、重症ASで、少なくとも1つの冠動脈狭窄(冠血流予備量比[FFR]0.80以下または径狭窄率90%以上)を有する患者を、TAVIに加えてPCIを施行する群または保存的治療を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要エンドポイントは主要有害心イベントで、全死因死亡、心筋梗塞または緊急血行再建の複合と定義した。安全性については、出血イベントおよび手術の合併症などを評価した。追跡期間中央値2年、主要エンドポイントのハザード比は0.71で有意に低下 2017年9月~2022年10月に、12病院で合計455例が無作為化された(PCI群227例、保存的治療群228例)。患者の年齢中央値は82歳(四分位範囲[IQR]:78~85)、STS-PROM(Society of Thoracic Surgeons-Procedural Risk of Mortality)スコア(スケール:0~100%、高スコアほど術後30日以内の死亡リスクが高いことを示す)の中央値は3%(IQR:2~4)であった。 追跡期間中央値2年(IQR:1~4)の時点で、主要有害心イベント(主要エンドポイント)の発生は、PCI群60例(26%)、保存的治療群81例(36%)であった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.51~0.99、p=0.04)。 出血イベントは、PCI群で64例(28%)、保存的治療群で45例(20%)に発現した(HR:1.51、95%CI:1.03~2.22)。PCI群では、PCI施行関連合併症が7例(3%)報告された。

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フレイル女性では台所で過ごす時間が長いほど食生活が健康的

 高齢の日本人女性を対象に行われた研究から、台所で過ごす時間が長いほど健康的な食生活を送っていて、この関連はフレイルの場合により顕著であることが分かった。高崎健康福祉大学、および、お茶の水女子大学に所属する佐藤清香氏らが行った横断研究の結果であり、詳細は「Journal of Nutrition Education and Behavior」に7月20日掲載された。 フレイルは、「加齢により心身が老い衰えた状態」であり、健康な状態と要介護状態の中間のこと。フレイルを早期に発見して栄養不良や運動不足に気を付けることで、フレイルが改善される可能性がある。フレイルの初期には、台所で行われる調理作業の支障の発生という変化が生じやすいことが報告されており、調理に手を掛けられなくなることは栄養の偏りにつながる可能性がある。また、台所での作業は身体活動の良い機会でもある。そのため、台所で過ごす時間の減少を見いだすことは、フレイルの進行抑止につながる可能性がある。これらを背景として佐藤氏らは、高齢女性が台所で過ごす時間と健康的な食事を取る頻度との関係を調査し、その関係にフレイルが及ぼす影響を検討した。 2023年1月に、調査会社の登録者パネルを用いたオンライン調査を行い、国内に居住している65歳以上の女性600人(平均年齢73.8±5.7歳)から回答を得た。食生活については、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度を質問して、それが1日2回以上の場合を「健康的」と判定した。なお、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いほど「日本人の食事摂取基準」に示されている栄養素量を満たしていることが多いと報告されており、また「健康日本21(第三次)」でも「ほぼ毎日主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する人の割合を令和14年度までに50%とする」という目標が掲げられている。 フレイルの判定は、市町村の介護予防事業対象者の抽出に用いられている25項目の質問から成る基本チェックリストを用いた。その結果、21.2%がフレイル、34.0%がプレフレイルと判定された。主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する頻度については「ほぼ毎日」が77.5%を占めていたが、フレイルの有無別に比較すると、健常群では84.8%であるのに対して、プレフレイル群では77.0%、フレイル群では63.8%と少なかった(P<0.001)。台所で過ごす時間(P=0.02)や台所の使用頻度(P=0.004)についても、健常、プレフレイル、フレイルの順に低値となるという関連が認められた。なお、台所で過ごす時間は「1日2時間」が最も多く選択され(44.8%)、台所の使用頻度は「毎日」が最多(95.0%)だった。 次に、1日に2回以上主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を摂取する頻度を従属変数として、フレイルの判定および1日に台所で過ごす時間との関連を検討した。結果に影響を及ぼし得る、年齢、BMI、婚姻状況、独居/同居、就労状況、介護サービス利用状況の影響は調整した。 解析の結果、健常であること(b=0.61〔95%信頼区間0.34~0.89〕)と台所で過ごす時間が長いこと(b=0.38〔同0.23~0.53〕)はともに、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度の高さと有意な関連が認められた。また、フレイルと台所で過ごす時間の交互作用が認められた(b=-0.10〔-0.17~-0.035〕)。これは、フレイルまたはプレフレイルの人において、台所で過ごす時間が長いほど主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いという関連が、より強いことを示している。 著者らは、台所で過ごす時間が減少する背景因子が調査されていないことや、横断研究であるため台所で過ごす時間が長いことと健康的な食生活の因果関係は分からないことなどを限界として挙げた上で、「高齢女性、特にフレイルの女性に対して、料理や盛り付け、後片付けなどのために台所で過ごす時間を増やすという推奨が、健康的な食生活につながり、フレイルの進行抑制につながる可能性があるのではないか」と総括している。

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