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SYNTAXスコアII開発でCABGかPCIかの予測能がより高く/Lancet

 複雑な冠動脈疾患の血行再建術の選択について、解剖学的な複雑さを考慮しただけのSYNTAXスコアよりも、同スコアに左室駆出率などの臨床因子を加えたSYNTAXスコアIIが有効であることが報告された。オランダ・エラスムス大学メディカルセンターのVasim Farooq氏らが行った試験で明らかにしたもので、Lancet誌オンライン版2013年2月23日号で発表した。SYNTAXスコアは、欧米のガイドラインで至適な血行再建術選択ツールとして提唱されているが、予測能に限界があることが指摘されていた。そこで同研究グループは、8つの予測因子から成るSYNTAXスコアIIを開発し検証試験を行った。SYNTAXスコアにベースライン時の臨床因子などを追加 研究グループは、1,800人を対象に行った無作為化試験「SYNTAX試験」の結果を基に、4年死亡率との関連が強かったベースライン時の臨床因子などをSYNTAXスコアに加えたSYNTAXスコアIIを開発した。 SYNTAXスコアIIについて、冠動脈バイパス術(CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行った場合の4年死亡率の差の予測能を調べ、従来のSYNTAXスコアと比較した。 外的妥当性の検証は、CABGまたはPCIを行った多国籍の被験者2,891人を対象としたDELTAレジストリにて行った。SYNTAXスコアIIのC統計量、内的・外的妥当性いずれも0.7強 SYNTAXスコアIIに盛り込まれた予測因子は、解剖学的SYNTAXスコア、年齢、クレアチニンクリアランス、左室駆出率(LVEF)、非保護左冠動脈主幹部病変(ULMCA)、末梢血管疾患、女性、慢性閉塞性肺疾患(COPD)だった。 試験の結果、SYNTAXスコアIIは、CABGとPCIを行った患者の4年死亡率の差を有意に予測した(p=0.0037)。CABGまたはPCIを受けた人が同等の4年死亡率を達成するには、年齢が若く、女性であり、LVEFが低い人ではより解剖学的SYNTAXスコアが低いことが必要だった。一方で、高年齢でULMCAとCOPDがある人は、解剖学的SYNTAXスコアは高い必要があった。 糖尿病の有無は、CABGとPCIの選択においては重要ではなかった(p=0.67)。 SYNTAXスコアIIのSYNTAX試験による内的妥当性の結果は、C統計量0.725であり、DELTAレジストリによる外的妥当性では、C統計量0.716であった。これらは従来のSYNTAXスコアの各値0.567、0.612に比べ、いずれも有意に高値だった。 著者は、「複雑な冠動脈疾患患者の4年死亡率は、SYNTAXスコアIIによる予測のほうが良好であり、CABGかPCIかの意思決定に優れている可能性がある」と結論している。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(63)〕 SYNTAX試験の5年追跡結果、CABGのPCIに対する優位性が確認されるも、全死亡・脳卒中に有意差なし

SYNTAX試験は,左主幹部疾患および3枝疾患を、心臓外科医とPCI施行医がどちらの治療法でも施行可能と判断すればPCIかCABGに無作為に割り付け比較した研究である。PCIは第1世代の薬物溶出性ステントであるTaxusA を用いている。1年の追跡結果からの主論文では、「再血行再建も含めた主要エンドポイントについてTaxusを用いたPCIはCABGに対して非劣性を達成することができなかった」が結論である。この公式見解とは別に、従来はCABGの牙城とされていた左主幹部疾患の中でもPCIで治療可能な領域が存在することを示した点では画期的な研究であった。一方で、3枝疾患の中でも動脈硬化の進展した(SYNTAXスコアの高い)症例においては、PCIはCABGに及ばないことが確認された。 今回、このSYNTAX試験の5年の結果が報告された。今回の5年間の追跡結果でも、心疾患イベント発症率はCABGで26.9%、PCIで37.3%とCABGにおいて成績が勝っていた。しかし、結果をよく見ると、全死亡においては、11.4% 対13.9%とPCIでやや多いものの、P値は0.10と有意差は認められなかった。脳卒中については3.7% 対2.4%と、こちらはCABGの方が多いもののP値は0.09と有意差は認めなかった。 これまでは、CABGとPCIの比較試験においてはフォローアップの期間が延長されるほど、CABGの優位性が際立ってくるとされていた。5年間の観察期間をもってしても、全死亡という真のエンドポイントに差がないという今回の結果は、CABGの優位性を否定しないものの、症例に応じてではあるが、左主幹部疾患および3枝疾患においてもPCIは治療法の選択肢となりうることを示したといえる。 さらには、この研究で用いられたTaxusステントは日常臨床のアリーナから退場し、成績の勝る第2世代の薬物溶出性ステントが使用されている。また、FFRなどの生理学的指標を用いて多枝疾患のPCIの適応を判断することによって予後を改善させる可能性も報告されている。冠動脈血行再建において、PCIかCABGかという議論は、今後も当面は続くものと思われる。

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難治性の慢性特発性蕁麻疹、オマリズマブで症状改善/NEJM

 慢性特発性蕁麻疹(chronic idiopathic/spontaneous urticaria)で抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1拮抗薬)の高用量投与でも症状が改善されない患者について、抗IgEモノクローナル抗体オマリズマブの投与により症状が改善されたことが、ドイツ・Charite-UniversitatsmedizinのMarcus Maurer氏らによる第3相多施設共同無作為化二重盲検試験の結果、報告された。慢性特発性蕁麻疹患者の多くが、抗ヒスタミン薬の高用量投与でも症状が改善しない。抗IgE抗体オマリズマブ(商品名:ゾレア、本邦での適応は気管支喘息)の有効性については第2相試験で示され、本試験では有効性と安全性が検討された。NEJM誌オンライン版2013年2月24日号掲載報告より。323例をオマリズマブ75mg、150mg、300mg群とプラセボ群に割り付け検討 第3相試験は、成人および12歳以上の中程度~重度の慢性特発性蕁麻疹患者(抗ヒスタミン薬治療が無効)を対象とした28週間にわたるオマリズマブ治療の有効性と安全性を検討することを目的とした。 466例の患者がスクリーニングを受け、323例(42.5±13.7、76%が女性、平均体重82.4±21.9kg)が3つの皮下注治療(75mg、150mg、300mg)群またはプラセボ群に無作為化された。治療は4週間隔で行われた。12週の治療期間終了後、16週間にわたって追跡が行われた。 主要有効性アウトカムは、かゆみ重症度スコアのベースラインからの変化で週単位で評価が行われた(範囲:0~21週、最高スコアが最も重症度が高いことを示す)。150mg、300mg群で有意に症状が改善、重大有害イベントは300mg群が高い ベースラインのかゆみ重症度スコアは、年齢階層や性別、体重、罹患期間など、全4群において14階層群から得ていた。 12週時点において、プラセボ群のスコアのベースラインからの変化は、平均-5.1±5.6であり、75mg群は-5.9±6.5(p=0.46)、150mg群は-8.1±6.4(p=0.001)、300mg群は-9.8±6.0(p<0.001)であった。また同時点での、事前特定の副次アウトカムについてはほとんどが同等性を示した。有害事象の頻度も同程度であった。 重大な有害イベントの発生は概して低かったが、300mg群(6%)で、プラセボ群(3%)や75mg群および150mg群(いずれも1%)よりも高率だった。

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統合失調症の陰性症状有病率、脳波や睡眠状態が関連か

 統合失調症の研究では、臨床的な不均一性が混乱を招いていることを踏まえ、米国・ウェイン州立大学のNash N. Boutros氏らは、Deficit Syndrome(DS)を考慮した統合失調症の陰性症状集団の特定を試みた。統合失調症症候群に含まれる疾患として欠損型統合失調症(deficit schizophrenia)が提唱されており、欠損症候群診断基準(SDS;Scale for the Deficit Syndrome)の活用により持続的な陰性症状を特徴とするサブグループの特定が可能とされている。しかし長年にわたり、統合失調症の陰性症状集団の電気生理学的な相互作用を検討した研究は報告されているが、DSに焦点を当てた研究はごくわずかしかないのだという。Clinical Schizophrenia & Related Psychoses誌オンライン版2013年2月21日号の掲載報告。 研究グループは、PubMedおよびMedlineにて、「陰性症状」および「Deficit Syndrome」、電気生理学的評価ツール(「脳波検査(EEG)」「Evoked Potentials(EPs)」「睡眠ポリグラフ(PSG)」のうち1つ)が、インデックスとして付けられているすべての研究報告を検索した。 主な知見は以下のとおり。・この研究はまだ揺籃期にあるが、2つの有意な傾向が明らかになった。・第1に、EEGのスペクトル研究により、覚醒中の徐派(slow wave)活性の増大と陰性症状の有病率が結び付くこと。・第2に、睡眠研究が、徐波睡眠(slow-wave sleep)の減少と陰性症状の有病率との関連を示していることである。・また、数例の研究で陰性症状とα派活性の低下との関連も示されていた。・感覚情報のゲーティングやP300 attenuationなどその他の異常については、ほとんど報告がなかった。・DSの電気生理学的特性を対象としていた研究は2件であった。いずれの研究も、DSは統合失調症とは異なる疾患であり、単なる重症型ではない可能性を示唆するエビデンスが示されていた。関連医療ニュース ・抗精神病薬投与前に予後予測は可能か? ・長時間作用型注射製剤は、統合失調症患者の入院減少と入院期間短縮に寄与 ・統合失調症患者の再発を予測することは可能か?

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SYNTAX中・高スコア患者の標準治療はCABGとすべき/Lancet

 左冠動脈主幹部病変および3枝病変を有する患者を対象として、冠動脈バイパス術(CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を比較した無作為化試験「SYNTAX」の最終5年フォローアップの成績が、ドイツ・Herzzentrum Universitat LeipzigのFriedrich W Mohr氏らにより発表された。同試験についてはこれまで、1年時点(主要エンドポイントMACCEについてPCI群はCABG群に対して非劣性を達成せず)、3年時点(MACCEほか心筋梗塞発生、血行再建術がPCI群で有意に高い)の各成績が示されていた。今回の5年時点でも両群のイベント発生率の格差が認められたこと、とくに心筋梗塞発生、血行再建術がPCI群で有意に高いことなどが示された。研究グループは「SYNTAXスコアが中あるいは高の複雑病変患者の標準治療はCABGとすべきである」と結論し報告をまとめている。Lancet誌2013年2月23日号の掲載報告。3枝病変あるいは左冠動脈主幹部病変患者をCABGまたはPCIに無作為化 SYNTAX試験は、欧米85の施設で被験者を登録して行われたネステッド無作為化試験で、心臓外科医とインターベンション専門医の医療チームがスクリーニング時に、いずれの治療にも適合性があるとみなした患者は無作為に割り付け、どちらか一方のみが適切であると判断した患者についてはその治療群に割り付けた。 適格となった患者は無作為に1対1の割合で、第1世代パクリタキセル溶出性ステントによるPCIを受ける群またはCABGを受ける群に割り付けられた。PCIが適切と判断された患者はPCI群へ、CABGが適切と判断された患者はCABG群へ割り付けられた。 主要エンドポイントは、主要心臓・脳血管有害イベント(MACCE)であり、Mohr氏らはintention-to-treatをベースとしたKaplan-Meier解析で5年時点の成績を分析した。5年時点もMACCE、心筋梗塞、血行再建がPCI群で有意に高い 適格被験者は1,800例であり、CABG群に897例が、PCI群に903例が割り付けられたが、無作為化後CABG群50例、PCI群11例が試験参加の同意を取り下げた。ベースラインでの両群被験者の特性はほぼ同等であり、SYNTAXスコアはCABG群29.1(SD 11.4)、PCI群28.4(同11.5)だった。追跡1年目の抗血小板薬の服用はPCI群で高かったが、5年時点ではアスピリン服用者の割合について両群の有意差はなかった。ただし抗血小板併用療法を受けている患者はPCI群で高かった。 5年時点のKaplan-Meier解析によるMACCEは、CABG群26.9%、PCI群37.3%だった(p<0.0001)。 心筋梗塞(CABG群3.8% vs PCI群9.7%、p<0.0001)、血行再建(同13.7% vs 25.9%、p<0.0001)は、PCI群で有意に高かった。 全死因死亡(同11.4% vs 13.9%、p=0.10)、脳卒中(同3.7% vs 2.4%、p=0.09)については両群で有意な差はみられなかった。 SYNTAXスコア別に解析した結果、低スコア(0~22)群ではMACCEは、CABG群28.6%、PCI群32.1%と有意差はみられなかった(p=0.43)。 なお、左冠動脈主幹部病変の患者についても、5年時点のMACCEについて有意差はみられなかった(CABG群31.0%、PCI群36.9%、p=0.12)。 一方、SYNTAXスコアが中スコア(23~32)群、高スコア(≧33)群ではPCI群でMACCEの発生が有意に高かった。中スコア群の発生率はCABG群25.8%、PCI群36.0%(p=0.008)、高スコア群では26.8%、44.0%(p<0.0001)だった。 以上の結果を踏まえて著者は、「複雑な病変(SYNTAX中・高スコア)患者についてはCABGを引き続き標準治療とすべきである」と結論。また「病変部がそれほど複雑でない(SYNTAX低スコア)患者や左冠動脈主幹部病変の患者(SYNTAX低・中スコア)では、PCIは選択肢となりうる」と述べ、「複雑な多枝冠動脈疾患を有する患者については必ず、心臓外科医とインターベンション専門医の両者による考察と話し合いを行い、至適治療のコンセンサスを得るようにしなければならない」と提言している。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(61)〕 他人の糞便注入によるクロストリジウム・ディフィシル腸炎の治療に、明白な有効性を証明!

 近年、抗菌薬投与に伴うクロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)腸炎が欧米で流行し、binary toxin産生やニューキノロン耐性株による、重篤例・再燃例の増加が注目されている。本邦では、このような強毒株の流行はみられないものの、C.ディフィシル腸炎自体は広くみられており、院内感染対策上の重要な課題と捉えられている。 本症は、投与された抗菌薬により腸管内の正常細菌叢が抑制され、毒素産生性のC.ディフィシルが異常増殖して発症するものであり、重症例では偽膜性大腸炎の形をとる。C.ディフィシルは、遺伝子レベルで少数存在する例を含めれば、過半数の人の腸管に常在するが、病院や高齢者施設では、芽胞汚染による院内感染の事例も知られている。本症の治療には、C.ディフィシルに抗菌力を示すバンコマイシンやメトロニダゾールを投与すれば良いのだが、これらは栄養型には抗菌力を示すが、芽胞化して生き残るため、バンコマイシン治療を終えると芽胞から出芽し、再燃してくる。また、乾燥や消毒剤にも抵抗性の芽胞が病院を汚染し、二次感染を引き起こす事例も知られている。 C.ディフィシルは、正常な菌叢においては、乳酸菌やバクテロイデス、ユウバクテリウムなどの優勢菌に競りまけて、辛うじて細々と生きている。バンコマイシンを含め、抗菌薬を投与すると、これらの優勢菌種は大幅に減少し、C.ディフィシルなどの耐性化しやすい菌種が異常増殖するのである。すなわち、常在菌を復活させてC.ディフィシルを相対的に少数勢力に追い込むことが、永続的治癒には必要である。これまで、種々のプロバイオティクスが、常在菌の正常化、C.ディフィシル腸炎の再燃予防に試みられてきたが、必ずしもエビデンスのある結果は得られていない。 他人の常在菌を移植することが、最も手っ取り早く常在菌を復活させ、腸炎の治癒に導けるはずだと多くの専門家は予想してきた。しかし、他人の糞便を注腸することには患者さん自身に相当な心理的抵抗があり、また、移植による別の病原体による感染も危惧され、実際に行うことはかなり困難であった。1958年以来、85症例が散発的に報告され、75~85%の有効性が報告されてきているが、比較試験でのまとまった成績は報告されていなかった。 今回報告された論文は、2008~2010年にアムステルダムのAcademic Medical Centerが計画し、ドナーグループと移植細菌叢液を準備し、オランダ国内の病院に呼びかけて行った“open label randomized trial comparing donor feces infusion to 14days of vancomycin treatment for recurrent C.difficile infection”の報告である。 本試験では患者を以下の3 群に割り付けた。(1)バンコマイシン(500mg 1日4回、4日間)に続き、4Lのマクロゴールで腸洗浄後、糞便菌叢移植(2)14日間のバンコマイシン治療(3)14日間のバンコマイシン治療後、腸洗浄 除外規定(原疾患による予後3ヵ月以内、重症例など)に当てはまらない、承諾の得られた患者を、コンピューターで患者背景に偏りがないようにrandomに割り付けている。オランダの周到な実験計画による研究の報告である。すなわち、多くの感染因子の陰性を確認したドナーグループを編成し、ドナーの糞便採取直後に糞便溶液(多数の生きた嫌気性菌菌液)をセンターで調整し、6時間以内に該当病院に輸送して、十二指腸内に管で注入する方法である。C.ディフィシル腸炎の再燃であることが立証された例にバンコマイシンによる栄養型の除菌を行ったうえで、移植を行っている。比較対照群として、バンコマイシン投与のみの症例、バンコマイシン投与後腸洗浄例を用意しているが、効果に有意差が出るためには、各群最小40例必要と見なし、計140症例について試験が計画された。エンドポイントは再燃の有無であり、腸内フローラの経時的定量培養、血液検査も計画されている。 これだけの周到な準備のうえ、比較試験は開始されたが、各群十数例の検討を行い、糞便移植群で93.8%、対照群で23.1~30.8%という歴然とした有効率の差が観察された時点で、コントロール群に対する倫理性が問題とされ、比較試験は42/120例行ったところで中止された。また、コントロール群の希望者には糞便移植を行い、良好な成績を得ている。副反応としては、投与初日の下痢が目立つだけで、重篤なものはなかった。また、糞便菌叢の検討により、ドナーと同様な菌叢の定着が確認されている。 有効性が証明できず、非劣性を証明することにきゅうきゅうとしてきた中で、夢のような話である。プロトコール、付随資料も公表されており、試験の全容がよく理解できる重要な論文である。■「糞便移植」関連記事糞便移植は潰瘍性大腸炎の新たな治療となるか/Lancet

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てんかん患者、脳内ネットワークの一端が明らかに

 てんかん症状を呈する脳内ネットワークの特性の一端が明らかにされた。チェコ共和国・Central European Institute of TechnologyのIvan Rektor氏らが、てんかん患者と健常者の脳内を機能的MRIにて比較検証した結果で、てんかん患者では脳中央部にある被殻と表面部にある皮質との機能的結合(FC)が阻害されていることが明らかになったという。Rektor氏は「このことが大脳基底核(BG)機能の変質に反映している可能性がある」と示唆した。Brain Topography誌オンライン版2013年2月12日号の掲載報告。 てんかんは、安静時においても被殻と皮質の間の結合性に影響を及ぼす可能性が指摘されていた。被殻は、大脳基底核安静時ネットワーク(BG-RSN)の一部であり、健常被験者ではデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と逆相関の関連がみられる。研究グループは、DMNに関与する皮質領野である被殻、およびBG-RSNに関与する皮質領野の主要な体運動性皮質における、脳の機能的結合を調べることを目的とした。てんかんを有する患者と健常対照者の入手データを用いて比較した。 主な解析手順、結果は以下のとおり。・てんかん患者24例(外側頭葉てんかん14例、側頭葉てんかん10例)と健常対照者10例について、機能的MRI(fMRI)を行った。・1.5 T Siemens Symphonyスキャナーを用いて安静時fMRIデータを入手し、独立的成因分析のためにGroup ICA of fMRI Toolbox(GIFT)プログラムを用いて解析した。被殻と主要な体運動性皮質との機能的結合について、BG-RSN内の被殻の結合性を評価した。・また第2レベル解析では、SPMソフトウエアを使用しグループ間の差異を評価した。・てんかん患者では健常対照者と比較して、DMNでの被殻と脳領域との逆相関性が有意に低かった。・相関性は、健常対照者では陰性方向へと結びつくものであったが、外側頭葉・側頭葉てんかん患者では陽性方向への結びつきがみられた。・てんかん患者の大脳基底核の機能的結合の阻害は、健常対照者と比較して、左右の被殻と左右の体運動性皮質との結合性、すなわちBG-RSNに関与している部位との結合性が有意に減少していることによって例証された。関連医療ニュース ・側頭葉てんかんでの海馬内メカニズムの一端が明らかに ・摂食てんかんの特徴が明らかに ・妊娠可能年齢のてんかん女性にはレベチラセタム単独療法がより安全?

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患者評価の変形性関節症治療の疼痛改善報告、実臨床と臨床試験で異なる

 疼痛管理をより適切に行うため患者自身による治療効果評価(Patient-reported outcomes;PRO)尺度が開発されているが、フランス・INSERM/パリ第5大学のSerge Perrot氏らによる多施設前向きコホート研究の結果、患者が容認できる症状状態(patient acceptable symptom state:PASS)スコアならびに疼痛が改善したと報告した患者の疼痛スコアの変化の最小値(minimal clinically important improvement:MCII)は、実臨床と臨床試験とで異なっていることが明らかとなった。疼痛を伴う変形性関節症の治療効果は関節症の部位に左右される可能性があるという。個々の患者に応じた疼痛管理を行うため、治療効果の評価は患者の特性や日常生活に適したものでなければならない、とまとめている。Pain誌2013年2月号(オンライン版2012年10月30日号)の掲載報告。 変形性膝関節症または変形性股関節症に対する日常の疼痛管理におけるPASSおよびMCIIのカットオフ値を決めることが目的であった。 対象は、一般開業医を受診し7日以上治療を要した50歳以上の疼痛を有する変形性膝関節症または変形性股関節症患者2,414例である(男性50.2%、平均年齢67.3歳、BMI 27.9kg/m2、変形性股関節症33.5%)。 主な結果は以下のとおり。・治療7日後のPASSスコアは、変形性膝関節症患者および変形性股関節症患者のいずれも疼痛の数値評価スケール(以下、疼痛スケール)で安静時4ならびに動作時5と推定された。これは、臨床試験におけるPASSより高値であった。・PASSを得られやすかったのは、変形性膝関節症では男性、非高齢患者、治療開始時において安静時または動作時の疼痛スケールが低い非高齢者、特にスポーツ活動での疼痛の影響が最も大きかった患者、変形性股関節症では治療開始時の安静時疼痛スケールが低かった患者および非肥満患者であった。・治療7日後のMCIIは、変形性膝関節症患者および変形性股関節症患者のいずれも、安静時ならびに動作時ともに疼痛スケールで-1であった。この改善の度合いは、ランダム化比較試験で記録された値より小さかった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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消化管神経内分泌腫瘍〔GI-NET : gastrointestinal neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義消化管神経内分泌腫瘍は原腸系組織に存在する神経内分泌細胞由来の腫瘍群(neuroendocrine tumor: NET)である。消化管NETは、悪性度が低いものから高いものまで多彩であるにもかかわらず、これまで消化管カルチノイドの呼称でひとまとめに扱われてきたが、2010年以降、生物学的悪性度を指標としたWHO分類に従って扱われるようになってきている。本稿では、WHO分類に従ったデータは乏しいため、以下、消化管カルチノイド腫瘍として報告されてきた知見を示す。■ 疫学わが国における消化管カルチノイド腫瘍の発生頻度は、直腸(39%)、胃(27%)、十二指腸(15%)の順である。欧米では、小腸、虫垂での発生頻度が高い。■ 病因消化管粘膜の腺底部に存在する内分泌細胞が腫瘍化し、粘膜下層を主座としながら腫瘤を形成するため、粘膜下腫瘍様の形態を呈する。■ 症状(1)無症状で発見されることが多い。(2)腫瘍増大による腹痛、腸閉塞、下血で発見されることもある。(3)生理活性物質(セロトニン、ヒスタミンなど)を産生する腫瘍の肝転移例では、カルチノイド症候群と呼ばれる皮膚紅潮、喘息様発作、下痢、右弁膜傷害の症状がみられることがある。■ 分類1)WHO分類腫瘍細胞の核分裂像や細胞増殖マーカー(Ki-67)の発現指数に基づいて表1のようにNET grade 1、NET grade 2、Neuroendocrine carcinoma(NEC)に分類される。2)TNM分類腫瘍の深達度(T因子)、リンパ節転移の有無(N因子)、遠隔転移の有無(M因子)を評価し、腫瘍の進行度(病期)をI~IVの4段階に分類するもの。3)Rindi分類胃NETは他の消化管NETと比べ悪性度の低いものが多く、疾患背景や高ガストリン血症の有無でType I~IIIと低分化型内分泌細胞がんの4グループに分けるRindi分類が有用である(表2)。画像を拡大する画像を拡大する■ 予後1)胃NETType I、Type IIの胃NETは、高ガストリン血症を伴わないType III胃NETに比べ転移率が低く(I:4.9%、II:30%、III:62.5%)、5年生存率(I:正常生命期待値、II:87%、III:79%)は、明らかに良好である。Type IVの胃NETは、WHO分類のNECに相当し、予後が悪い。2)その他の消化管NET胃以外の消化管NETでは、予後予測因子が明らかでない。腫瘍径が1cmを超えた場合、転移率が20%以上とする報告が多い。米国の報告では、5年生存率が局所限局で79.7%、近傍進展で50.6%、遠隔転移を有する症例で21.8%である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)血液検査カルチノイド症候群を疑う場合は、血中セロトニン、尿中5-ヒドロキシインドール酢酸の測定を行う。機能性NETの場合は、疑うホルモンの血清値の測定を行う。2)画像診断内視鏡検査では、黄白色調の表面平滑な粘膜下腫瘍として観察されることが多い。確定診断は生検による組織診断で行う。転移の有無は、腹部超音波、CT、MRIなどの検査で行う。内視鏡的切除を行う場合には、超音波内視鏡検査による腫瘍の深達度が有用である。3)病理特徴的な細胞像(好酸性微細顆粒状の細胞質、円形~卵円形の均一な小型核、細胞分裂はまれ)と胞巣形態を呈する。銀染色やクロモグラニン免疫染色が有用である。NETのグレード分類には細胞増殖マーカーKi67の免疫染色が行われる。4)その他欧米では血中クロモグラニンA値を腫瘍マーカーとして用い、ソマトスタチン受容体シンチグラフィーを病変の検出に用いられているが、日本では未承認である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)外科的または内視鏡的切除(1)胃NET高ガストリン血症を伴うtype I、IIの腫瘍は2cm未満の場合、まず内視鏡治療を試み、病理組織学的に細胞異型が強い腫瘍の残存や脈管浸潤を認める場合には、外科的切除を追加する。腫瘍が2cm以上あるいは個数が6個以上、あるいは腫瘍が固有筋層に浸潤している場合は、リンパ節郭清を含む外科的切除を行う。Type III、IVの腫瘍は胃がんに準じた外科切除を行う。(2)その他の消化管NET筋層浸潤を伴わない1cm以下の腫瘍では、内視鏡的切除か筋層を含む局所切除を行う。筋層浸潤を伴わない1~2cmの腫瘍では、広範な局所切除または所属リンパ節郭清を含む腸管の部分切除を行う。筋層浸潤を伴う腫瘍または2cm以上の腫瘍では、広範なリンパ節転移を含む根治的切除術を行う。2)化学療法5-FU、ドキソルビシン、ストレプトゾトシン、インターフェロン、シクロホスファミドが投与されるが有効性は低い。肝転移巣に対して肝動脈塞栓術が有効な場合がある。NECは、小細胞がんに準じてシスプラチン+エトポシド、シスプラチン+イリノテカンが投与される(わが国ではすべて未承認)。3)カルチノイド症候群に対する治療ソマトスタチン誘導体であるオクトレオチド(商品名:サンドスタチン)は、NETからのセロトニンやヒスタミンの放出を抑制し、カルチノイド症候群でみられる症状(前述)を改善する。4 今後の展望消化管NETの解釈は、さまざまな分類によって取り扱われ混乱していたが、2010年に新しい WHO分類が提唱され、今後徐々にその分類に沿った治療成績や予後が明らかになり、データが整理されていくと思われる。治療の原則は、腫瘍の根治的切除と再発予防であるが、欧米で検討されているソマトスタチンアナログなど抗腫瘍効果が期待される新薬もNETの集約的治療に加わってくるかもしれない。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療に関する情報サイトNET Links(一般向け、医療従事者むけのサイト)患者会情報しまうま倶楽部(患者・患者の家族の会)

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禁煙法の段階的導入で、早産発生率が徐々に減少/BMJ

 ベルギーでは禁煙法が段階的に導入されたが、その結果、単胎児早産発生率も段階的に減少したことが明らかになったという。ベルギー・Hasselt大学のBianca Cox氏らが、2002~2011年の出生データを元に分析し明らかにしたもので、BMJ誌2013年2月14日号で発表した。受動喫煙が妊娠のアウトカムに悪影響を及ぼすことを示す試験結果は出てきているが、これまで禁煙法が同アウトカムに良い影響を及ぼすことを示した研究はほとんどなかった。職場、レストラン、バーへと段階的に禁煙法導入 ベルギーでは、2006年に公共の場所と職場で、2007年にレストランで、2010年には食事を提供するバーで、それぞれ禁煙法が施行された。Cox氏らは、2002~2011年にルーチンで集めた出生データについて、ロジスティック回帰分析を行い、禁煙法施行の各段階における、単胎児早産(在胎37週未満の出産)発生率を調べ、比較した。 試験の対象となった単胎児出産(在胎24~44週)60万6,877人で、そのうち自然分娩は44万8,520人だった。自然分娩のうち男児は51.4%、母親の出産年齢中央値は29.5歳、出生順位の中央値は2だった。 主要評価項目は、在胎37週未満の早産の発生割合だった。早産発生率は年率3%程度減少 分析の結果、自然早産発生率は禁煙法施行後徐々に減少し、2007年1月には同発生率は-3.13%(95%信頼区間:-4.37~-1.87、p<0.01)、2010年以降は年率-2.65%(同:-5.11~-0.13、p=0.04)と、有意に減少した。 自然早産以外のすべての早産についても同様な減少傾向がみられ、2007年1月には早産発生率は-3.18%(同:-5.38~-0.94、p<0.01)、2010年以降は年率-3.50(同:-6.35~-0.57、p=0.02)と、いずれも有意に減少した。 こうした減少傾向は、妊婦年齢、社会経済的状況、出生月、インフルエンザの流行などといった、個人的要因や出産時期による要因、人口全体の要因では、説明できなかった。なお、禁煙法施行前には、早産発生率の減少傾向は認められなかったという。

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てんかん患者の50%以上が不眠症を合併!

 てんかん患者では睡眠障害が頻繁にみられるものの、不眠症とてんかんとの関係はほとんど明らかとなっていない。ボストン大学のMartina Vendrame氏らは、てんかん患者における睡眠状態に関して調査した。Journal of clinical sleep medicine誌オンライン版2013年2月1日号の報告。 対象はてんかん患者152例(平均年齢:46歳)。目的は(1)てんかん患者における不眠症の有病率や程度を分析する(2)臨床的特徴と不眠症との相関を調査する(3)質の低い睡眠がQOLに及ぼす影響を検討する。調査項目は不眠重症度評定尺度、ピッツバーグ睡眠質問票、ベック抑うつ質問票、てんかん患者用QOL質問票(QOLIE-31)によるQOL評価とした。除外対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群など他の睡眠障害を有する患者。年齢、てんかんの罹病期間、抗てんかん薬の数、併存疾患、抑うつスコアで調整し、回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・てんかん患者の半数以上(55%)は不眠症であった。また、70%以上の患者は睡眠の質が低下していた。・不眠症や睡眠の質の低下は、抗てんかん薬の数や抑うつスコアと有意な相関が認められた。・不眠症や睡眠の質の低下は、QOL低下の有意な予測因子であった(共変量にて調整)。・これらの結果から、てんかん患者では、不眠症や睡眠の質の低下を有しており、QOLに悪影響を与えることが示唆された。・さらなる研究により、てんかん患者における睡眠の改善が発作のコントロールやQOL向上につながるかを検討する必要がある。関連医療ニュース ・検証!統合失調症患者の睡眠状態とは ・不眠症の人おすすめのリラクゼーション法とは ・睡眠薬、長期使用でも効果は持続

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腰椎椎間板切除術、日帰り手術により短期合併症が減少

 腰椎椎間板切除術は最も頻度の高い脊椎手術で、外来でも実施可能である。同外来手術は、低コストでより大きな患者満足度が得られ安全性に問題はないことがこれまで報告されていたが、今回、米国・アイオワ大学病院のAndrew J. Pugely氏らによる前向きコホート研究において、入院手術に比べ術後短期合併症が少ないことが確認された。腰椎椎間板切除術を行う場合、適切な症例には外来手術を考慮すべきであるとまとめている。Spine誌2月1日号の掲載報告。 本研究の目的は、単一レベル腰椎椎間板切除術後30日以内の合併症発生率を入院手術および外来手術で比較するとともに、合併症の独立した危険因子を同定することであった。 2005~2010年に、米国外科学会の外科手術質改善プログラム(NSQIP)データベースを用い医師診療行為用語(CPT)コードに基づいて初回単一レベル腰椎椎間板切除術を受ける患者4,310例を選出した。 術後30日以内の合併症発生率ならびに術前患者特性について検討した。統計解析は、傾向スコアマッチング法および多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・4,310例中、2,658例(61.7%)が入院手術、1,652例(38.3%)が外来手術であった。・合併症発生率は、未調整時ならびに傾向スコアマッチング後のいずれも入院手術群が外来手術群より高率であった(未調整時6.5% vs 3.5%、p<0.0001/マッチング後5.4% vs 3.5%、p=0.0068)。・多変量ロジスティック回帰分析でも、入院手術で合併症発生率が有意に高率となることが示された(調整済みオッズ比:1.521、95%CI:1.048~2.206)。・年齢、糖尿病、術前創傷感染、輸血、手術時間および入院手術が術後短期合併症の独立した危険因子であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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「岐阜県COPDストップ作戦」一丸となってCOPDに取り組む

大林 浩幸 ( おおばやし ひろゆき )氏岐阜県COPD対策協議会 本部長(東濃中央クリニック 院長)※所属・役職は2013年2月現在のものです。岐阜県におけるCOPDの現状大規模なCOPD疫学調査NICE Study*の結果によれば、COPD患者は40歳以上の8.6%、約530万人と推定されています。COPDによる死亡者数は年々増加しており2011年の死亡者数は16,639人です。このNICEstudyの有病率に岐阜県の人口を当てはめると、岐阜県のCOPD患者数は12万3070人と推定されます。一方、岐阜県の治療中のCOPD患者数を主要なCOPD治療薬の販売量から推定すると5,000人未満となり、推測患者数の1割にも満たないことがわかりました。すべての治療患者さんが対象ではないとしても、これはあまりにも少なすぎます。残りの10万人以上の方は潜在患者として、気づかれないままでいるか、他疾患の治療のみ受けている可能性もあるわけです。また、岐阜県のCOPD死亡者数は1997年から2009年までの12年間、全国平均を常に上回っています。このように岐阜県のCOPD治療は重要な課題を抱えていました。*NICE(Nippon COPD Epidemiology)study:2004年に順天堂大学医学部の福地氏らが報告した40歳以上の男女2,343名のデータによるCOPDの大規模な疫学調査研究COPD死亡率(人口10万人対)2009年画像を拡大するCOPD死亡率(人口10万人対)岐阜VS全国画像を拡大する手をかけなければいけない疾患COPD喘息には吸入ステロイドなどの治療薬があり、適切な治療で症状改善が可能ですが、COPDには進行を遅らせる治療しかありません。具体的には、禁煙、増悪防止のための感染予防(ワクチン)、日常管理といった基本と、その上で行われる気管支拡張薬、呼吸リハビリテーションなどがそれにあたります。この中の一つでも欠けると奏功しません。このように、COPDはさまざまな医療が必要となる“手をかけなければいけない疾患”だといえます。COPDの認知度の低さCOPDの認知度はきわめて低いものです。一般の方の半数以上はCOPDをご存じありませんし、知っていたとしても名前だけで、COPDがどういう疾患かわかる方はとても少ないです。息切れは年齢のせい、喫煙者だから多少の息切れは当たり前と考えているのですから、医療機関を受診をすることはありません。このように、COPDの認知の低さにより、自分がCOPDである事を知らずに過ごしている方が数多くいることになります。また、受診してもCOPDを理解していないと治療はうまくいきません。COPDの薬剤を吸入しながら喫煙しているケースなどは、その典型例といえます。肺機能検査の普及COPDの早期発見と診断には肺機能検査が必要です。しかし、プライマリ・ケア領域では機器がない、あるいは機器があっても使っていない状況であり、肺機能検査を実施しているのはほとんどが大病院です。つまり、COPD潜在患者のほとんどが医療機関未受診かプライマリ・ケア領域に潜んでいる可能性があります。高血圧などの循環器疾患、脂質異常症や糖尿病、消化器疾患などの疾患治療患者の何割かに隠れCOPDがいると思われます。COPDストップ作戦立ち上げこのような背景の中、岐阜県としては早急にCOPDへの対策を図る必要がありました。COPDは片道切符で、一旦悪化するとなかなか元に戻りません。ブレーキの始動が遅れると終着駅は在宅酸素になります。だからこそ、重症化する前にいかに早期発見・早期診断し、いかに禁煙、薬物治療、リハビリテーションという一連の治療を導入していくのかを考えなければなりません。また、これらの治療はバラバラでは意味をなさず、全県が同じレベルでこれらの治療がカバーできるよう足並み揃えて取り組む必要がありました。そこで平成23年度に岐阜県医師会と岐阜県で協議し、委託事業として県医師会がCOPD対策事業を始めることになりました。まず岐阜県医師会COPD対策協議会を立ち上げ、その下にCOPD対策本部を設置しました。そして岐阜県を5地区に分け、各地区に対策委員会を設置しました。地域医師会との連携がスムーズに行われるように、専門医と共に、地域医師会役員も地区委員に就任していただきました。そして私、大林が岐阜県COPD対策本部長に指名され、平成23年10月に全県一斉に「COPDストップ作戦」を立ち上げ開始しました。岐阜県5ブロック画像を拡大するCOPD対策協議会画像を拡大するCOPDストップ作戦の目的は、COPD死の減少です。活動の軸は、COPDの頭文字をとって、Care COPD(COPDの早期治療)、Omit COPD(COPD発症の最大原因である喫煙習慣の排除) 、Prevent COPD(COPD発症の原因であるタバコの害を啓発し、喫煙開始させない)、Discover COPD(COPDを早期から発見し、早期治療に結びつける)の4本としました。県医師会“COPDストップ作戦”の4つのコンセプト画像を拡大するCOPDストップ作戦 第1弾COPD教育講演会ストップ作戦の第1弾はCare COPDとして、COPD教育講演会を実施しました。COPDの適切な治療法の普及を目的とし、H23年10月〜12月に第1回、翌年のH24年10月〜12月に第2回を県内5地区すべてで行っています。H25年には第3回を実施の予定です。この講演会の特徴は、外部講師を招かず、地元の専門医に座長と講師をお願いしていることです。地域の核となる先生と地域の先生が顔の見える連携を築き、今後の病診連携に役立てることを意図しています。COPDストップ作戦第2弾 スパイロキャラバン第2弾はDiscover COPDとして、スパイロキャラバンを実施しました。COPDの早期発見・早期治療の最大の障壁は肺機能検査(スパイロメトリ―)の普及不足です。肺機能検査を体験していただき、より日常診療的な検査にしていただくことを目的として行っています。まず、岐阜県下の診療所等を対象に、各地区での説明会を行い、ボランティア参加で協力診療所を募りました。肺機能検査装置のない診療所には貸し出し、患者さんに無料で肺機能検査を実施していただくというものです。検査対象者は、COPD以外の疾患で受診中の、喫煙中または禁煙歴があり、労作性呼吸困難の訴えがある40歳以上の患者さんです。この方たちに書面で同意を得て肺機能検査を実施しました。第1回はH23年10月〜12月、第二回はH24年9月〜12月の期間に実施しています。第1回のスパイロキャラバンの結果、COPD疑いありの患者さんは、検査を行った方の30.9%でした。とくに、70歳代では半数、80歳代では6割が疑いありと非常に高い頻度でした。人数でいうと、計530例の潜在患者さんを参加51施設が引き出したことになります。また、肺年齢はII期以上から実年齢に比べ有意に下がっていることもわかりました。このスパイロキャラバンの結果は、県下において積極的にCOPDストップ作戦を展開すべき根拠を明らかにしたといえます。スパイロキャラバン実施結果画像を拡大する年齢別COPD(疑)存在率(%)画像を拡大するCOPDストップ作戦第3弾 禁煙指導セミナー第3弾はOmit COPDとして、プライマリ・ケアの医師、薬剤師を対象に県5地区すべてで禁煙治療法セミナーを開講しました。目的は禁煙治療ができる施設を増やし、禁煙治療をもっと市民に身近なものにすることと、県内の禁煙治療レベルの底上げです。COPDの進行を止める最も有効かつ根本的な治療法は禁煙です。ただし、禁煙指導は標準治療に則り正しく行わないと成果が上がりません。ところが、実際は施設によって禁煙指導のやり方に差があるなど多くの課題がありました。平成24年10月~12月に第1回を行いましたが、反響が大きく、各地域とも非常に多くの先生方に参加いただきました。今年は第2回を開催する予定です。COPDストップ作戦第4弾 吸入指導セミナー第4弾はCare COPDとして、吸入指導セミナーを薬剤師会との連携により実施していきたいと考えています。このセミナーは薬局の吸入指導技術の向上と、すべての薬局で同じ指導ができるようにすることが目的です。COPD治療薬の主軸は吸入薬です。しかし、吸入指導が不十分で、患者さんが誤った吸入方法を行ったり、有効に吸入できていないケースが多くみられます。吸入デバイスもメーカーごとに異なり、すべての薬剤・デバイスを網羅したセミナーが必要とされています。東濃地区では2009年から行っていますが、薬剤師の方は非常に熱心で、成果も上がっています。これから全県下に展開していきたいと思います。COPDストップ作戦の成果と今後スパイロキャラバンで新たに多くの潜在患者から引き出し、プライマリ・ケア領域に多くのCOPD患者さんが埋もれている可能性を示したことは、大きな成果といえます。また、この作戦を通し、医療者の意識の変化も感じられます。COPD患者さんを積極的にみられる先生方も増えるなどCOPDの意識が定着し始めてきたと思います。また、肺機能検査実施の意識が高まってきたと思います。スパイロキャラバンに2回とも参加したり、数多く肺機能検査を実施される熱心な先生も増えてきました。肺機能検査の重要性や簡単さが浸透し、第1回目のスパイロキャラバン開始後、肺機能検査装置の新規購入が増えたようです。禁煙指導セミナーについては非常に反響が強く、禁煙治療の標準化が県下で底上げされたと思います。とはいえ、一般市民へのCOPDの認知率向上は今後も必要ですし、Prevent COPDとして学校での禁煙教室も非常に重要です。さらに、病診連携の実現もありますので、これら4つのコンセプトを軸にCOPD作戦を今後も進めて行きたいと考えています。COPD治療は前述のとおり、しなければならないことが多いのですが、それだけのことを行わないと、患者さんに良い医療を十分に提供できたことにはなりません。しかし、個々の施設ごとで、十分に対応できるとは限りません。そこで、これまでのような局地戦でなく、県全体が力を合わせた総力戦で行うことで、患者さんが救われるのだと思います。

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紅茶・コーヒーの摂取量と前立腺がんリスクの関係

 近年、紅茶やコーヒーの摂取と前立腺がんリスク低下が関連付けられている。オランダ・マーストリヒト大学のMilan S. Geybels氏らは、米国ワシントン州キング郡におけるケースコントロール研究で、紅茶・コーヒーの摂取と前立腺がんリスクとの関連を検討した。その結果、紅茶の摂取と前立腺がんリスクの低下との関連性が認められ、コーヒーの摂取については関連が認められなかったことが報告された。Cancer Causes Control誌オンライン版2013年2月15日号の掲載報告。 ケースは2002~2005 年に前立腺がんと診断された患者で、5歳間隔でコントロールに対応させた。オッズ比と95%信頼区間(CI)の算出にはロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・コントロール群では、19%が紅茶を、また58%がコーヒーを、少なくとも1日1杯摂取していた。・ケース群892人とコントロール群863人が紅茶の分析に当てられ、紅茶摂取量が最も少ない群(週に1杯以下)に比べ、最も多い群(1日2杯以上)の調整オッズ比が0.63(95%CI:0.45~0.90、p for trend=0.02)で、紅茶の摂取が前立腺がんの全リスク低下に関連付けられた。・グリーソングレードや疾患ステージによるリスク推定値の大幅な変化はなかった。・コーヒーの摂取については、前立腺がんの全リスクやグレードやステージによるサブグループでのリスクとの関連が認められなかった。

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摂食てんかんが食事中に起こる種々のメカニズムが明らかに

 摂食てんかん(Eating Epilepsy)は、食事摂取によりてんかん発作が誘発される反射性てんかんの一つであるが、その病態はまだ十分に認識されていない。今回、この摂食てんかんについて、大半が最初の誘発刺激から長い期間を経て発症し、治療抵抗性の経過をたどるという特徴があることが、トルコ・イスタンブール大学のUlgen Kokes氏らにより明らかにされた。Clinical EEG and Neuroscience誌オンライン版2013年2月6日号の掲載報告。摂食てんかんは食事中に種々のメカニズムを介して起こる 本研究では、摂食てんかんの特徴を明らかとするため、てんかん患者8,996例のカルテファイルをレトロスペクティブに調べた。その結果、摂食てんかん患者は6例のみ(0.067%)で認められた。男性が4例、女性が2例であり、年齢は20~63歳であった。 摂食てんかん患者6例に認められた所見は以下のとおり。・6例には焦点発作がみられ、大半が食事により誘発された認知不全または経験的前兆があり、自発性の発作であった。・全例で、初期にてんかん発作の誘発刺激(頭部/分娩時外傷または脳炎)があった。・4例は食事の途中または食事直後にてんかん発作が起こり、2例は食事開始時にてんかん発作が起きた。このことから、2つの異なる摂食てんかんメカニズムの存在が示唆された。・MRI所見は2例で正常であったが、その他の症例では異常がみられた。・脳波所見において、5例で左側頭領域の広い範囲で頻繁なスパイク(棘波)が認められ、1例は右側頭領域で同所見がみられた。また、左側頭に由来する発作が3例で記録された。・2例において、脳波所見とPET検査所見が一致していた。・1例を除き、治療抵抗性の経過をたどった。 ・以上より著者は、摂食てんかんの特徴を以下のようにまとめた。  ・頻度が少なく、きわめてまれである。  ・初期の誘発刺激から長い期間を経た後に起こる。  ・大半が認知不全または経験的前兆を伴い、通常、発作は左側頭領域に由来する。  ・多くが治療抵抗性の経過をたどる  ・食事中に種々のメカニズムを介して起こる。関連医療ニュース ・妊娠可能年齢のてんかん女性にはレベチラセタム単独療法がより安全? ・検証!抗てんかん薬の免疫グロブリン濃度に及ぼす影響 ・うつ病患者の食事療法、ポイントは「トリプトファン摂取」

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高頻度振動換気法、成人ARDS患者の30日死亡率を改善せず:OSCAR試験/NEJM

 急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の治療において、高頻度振動換気法(high-frequency oscillation ventilation:HFOV)は従来の機械的換気法と30日死亡率が同等で、改善効果はないことが、英国・オックスフォード大学のDuncan Young氏らの検討で示された。ARDS患者は動脈血の酸素化を維持するために機械的人工換気を要するが、この治療法は2次的に肺傷害を引き起こすことがある。HFOVは、肺傷害のリスクの回避に有用な可能性があるという。NEJM誌オンライン版2013年1月22日号掲載の報告。HFOVの有用性を従来の人工換気法と比較 OSCAR(Oscillation in ARDS)試験は、ARDS患者に対するHFOVの有用性を従来の人工換気法と比較する無作為化対照比較試験。 対象は、年齢16歳以上、呼気終末陽圧(PEEP)≧5cm水柱の動脈血酸素分圧(PaO2)/吸気酸素分画(FIO2)≦200mmHg(26.7kPa)で、最低2日以上の機械的人工換気を要すると予測される症例とした。これらの患者が、HFOVを施行する群または通常の人工換気を行う群(参加施設の通常の換気法)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、割り付けから30日までの全死因死亡。30日全死因死亡率:41.7%vs 41.1%(p=0.85) 2007年12月~2012年7月までに、イングランド、ウェールズ、スコットランドの29施設から795例が登録され、HFOV群に398例(平均年齢54.9歳、男性64.3%、平均APACHE IIスコア21.8、平均PaO2/FIO2 113mmHg)が、通常介入群には397例(同:55.9歳、60.2%、21.7、113mmHg)が割り付けられた。 30日全死因死亡率は、HFOV群が41.7%(166/398例)、通常介入群は41.1%(163/397例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(p=0.85)。施設、性別、APACHE IIスコア、PaO2/FIO2で調整後の通常介入群のオッズ比は1.03(95%信頼区間:0.75~1.40、p=0.87)であった。 初回ICU退院時死亡率はHFOV群44.1%、通常介入群42.1%(p=0.57)、初回病院退院時死亡率はそれぞれ50.1%、48.4%(p=0.62)で、いずれも有意差はみられなかった。平均ICU入院期間はHFOV群17.6日、通常介入群16.1日(p=0.18)、平均病院入院期間はそれぞれ33.9日、33.1日(p=0.79)だった。 抗菌薬の平均投与期間はHFOV群12.8日、通常介入群12.4日(p=0.56)、そのうち肺感染症に対する投薬率はそれぞれ64.4%、67.5%であった。 著者は、「ARDSの治療において、HFOVは従来の機械的換気法に比べ30日死亡率を改善しなかった」と結論し、「本試験ではHFOVの有用性および有害性はともに示されなかった。HFOVはルーチンの治療には使用しないよう推奨する」としている。

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統合失調症、双極性障害の急性期興奮状態に対する治療:アリピプラゾール筋注に関するコンセンサス・ステートメント(英国)

 統合失調症患者や双極性障害患者の急性期興奮状態に対する薬物治療では、急速な鎮静作用だけでなく、長期的な治療を見据えた薬剤選択が重要である。英国・Northcroft HospitalのDomingo Gonzalez氏らは、双極性躁病と統合失調症の興奮に対する急速鎮静法としてのアリピプラゾール筋注について、コンセンサス・ステートメントを発表した。Current Medical Research and Opinion誌2013年3月号(オンライン版2013年2月4日号)の掲載報告。 本論文は、双極1型障害と統合失調症における興奮や異常行動に対する迅速コントロールを目的とした治療オプションとして、アリピプラゾール筋注に関する入手可能な臨床データを評価し、英国の急性期治療に携わる医師の経験に基づくコンセンサス・ステートメントを提供することを目的とした。 主な論旨は以下のとおり。・双極性障害や統合失調症のような重度の精神疾患について、理想とする治療目標は、急性エピソードの反復や再発を予防もしくは遅延させることである。同時に、患者が急性エピソードを呈した時には、行動症状を制御し、症状のコントロールを従前レベルへと引き戻すことが目標となる。・重度の精神疾患において、暴力的行動や異常行動をコントロールするために、他のあらゆる鎮静の方法が奏功しない時には、急性期の制御として急速鎮静法(RT)を必要とする可能性がある。・現在の臨床ガイドラインでは、急性期の異常行動への緊急介入として、睡眠時を除き、穏やかな鎮静により興奮を鎮めることで患者を落ち着かせることが支持されている。それは、患者との相互コミュニケーションを可能とし、正確な診断を確実にするためであり、治療について患者が能動的に関わることを可能とするためである。・RTでは薬物療法は必須である。利用可能な薬剤は、特色があるもので、患者の通常の治療コースとは別のものである可能性がある。なぜなら、RTに用いられる主な薬物は、長期的治療に適しておらず、有効性、安全性の面で好ましくない可能性があるからである。・その一方で薬物療法の選択は、効果的なRTを達成し、通常ケアへの移行および患者の日常生活をスムーズに取り戻すのに重要である。・アリピプラゾールは、筋注製剤を含めると双極1型障害と統合失調症の短期および長期治療のいずれにおいても良好な有効性と安全性プロファイルを有する薬物である。関連医療ニュース第一世代 vs 第二世代抗精神病薬、初回エピソード統合失調症患者に対するメタ解析統合失調症患者の再発を予測することは可能か?統合失調症に対するベンゾジアゼピン、最新レビュー知見

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神経障害性疼痛の実態をさぐる

神経障害性疼痛が見逃されているたとえば熱いものを触ったり、刃物で切れば痛みを感じる。そういう通常の痛みを「侵害受容性疼痛」といいます。末梢神経の終末にある侵害受容器が刺激されたときに感じる痛みです。侵害受容性疼痛の中には炎症に伴って起こる炎症性疼痛も含まれますが、これらを合わせて生体を守るための生理的な疼痛と呼んでいます。一方、「神経障害性疼痛」は、末梢神経から脊髄、さらに大脳に至るまでの神経系に何かの障害が起こったときに、エラーとして生じる痛みです。生体を守る意義はなく、病的な疼痛と考えられています。このように、神経障害性疼痛と炎症性疼痛は区別して考える事になっています。ただし、臨床的には炎症が遷延し持続的に痛みのシグナルが入力されるような状態では、神経系はエラーとしての過敏性を獲得するため、炎症性疼痛が続いた結果起こる痛みと神経障害性疼痛は明確に区別できないと考えられています。多くの神経障害性疼痛は痛みの重症度が高く、患者さんのQOLは著しく低下します。神経障害性疼痛は、まだまだ医療者に浸透していない痛みの概念です。神経障害性疼痛であることが疑われないで治療されているケースも多くみられ、神経障害性疼痛には特別なスクリーニングが必要だと考えます。神経障害性疼痛のスクリーニング痛みと一口にいっても、ナイフで刺された時の痛みと、炎や熱に手をかざした時の痛みは、おのずと性質が違ってきます。神経障害性疼痛の患者さんの多くは、「ヒリヒリと焼けるような痛み」「電気ショックのような痛み」「痺れたような痛み」「ピリピリする痛み」「針でチクチク刺されるような痛み」といった特徴的な性質の痛みを訴えます。一方、炎症性疼痛の患者さんでは、ズキズキする、ズキンズキンするといった、明らかに痛みの性質が異なった訴えをします。痛みの性質の違いは、痛みの発生メカニズムの違いを表していると考えられています。患者さんの自覚的な訴えから痛みの種類を鑑別するために、痛みの問診票が各国で開発されています。私たちはドイツでつくられた「PainDETECT」の日本語版を許可を得て開発し、その妥当性の検証試験を行っています。痛みの性質、重症度、場所、範囲、時間的変化を1つの質問用紙に記入する形のもので、臨床で使いやすい問診票になっています。侵害受容性疼痛なのか神経障害性疼痛なのか、あるいは両方が混合している疼痛なのかを分類することができます。画像を拡大する痛みの具体性を評価する痛みのスクリーニングにおいて、痛みの性質と共に痛みの具体性を評価することが重要です。たとえば捻挫をした患者さんにどこが痛いか聞くと、「足首のここが痛い、足首を伸ばすと痛い」と明確な答えが得られます。これは痛みの具体性が高いといえます。一方、器質的な異常を伴わない非特異的腰痛や、外傷後の頸部症候群(むち打ち症)では、「腰のあたりが全体的に痛い」とか、「何となく首の周りが痛い」といった部位を特定しにくい漠然とした痛みを訴えることがあります。そのような場合は痛みの具体性が低いと評価します。痛みの具体性が高いときには身体的な問題、器質的な異常があり、痛みの具体性が低い場合は器質的な異常がない(少ない)と判断し、心因性疼痛の要素の有無を考えます。器質的異常の有無は薬物療法の適応を考える際に重要なポイントになりますので、痛みの性質と共に具体性を聞くことは非常に有用です。神経障害性疼痛が合併しやすい疾患神経障害性疼痛が多く見られる疾患は、糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、脊柱管狭窄症です。たとえば帯状疱疹では、神経にウイルスが棲んでいて神経の炎症や障害が起きます。日本での大規模な調査研究で、これまで神経障害性疼痛ではないと考えられていた腰痛や膝関節症を含む多くの慢性疼痛患者さんの中にも、神経障害性疼痛が含まれていることがわかってきました。首から背中、腰の痛みを訴える患者さんの実に約8割が、神経障害性疼痛だろうと推察される報告もあります。手術後の痛みは意外に調べられていない領域です。傷が治れば痛くないと医療者が思っているので、患者さんが痛みを訴えにくい環境があるようです。開胸手術後は6~8割、乳腺の術後には5~6割、鼠径ヘルニアの術後では3~4割の患者さんが傷が治った後にも痛みを持っていることがわかっています。もちろん手術後に遷延する痛みの病態のすべてが神経障害性疼痛ではありません。術後遷延痛には、神経障害性疼痛とも炎症性疼痛ともいえない独特のメカニズムがありそうだ、ということが分子生物学的な病態研究によってわかってきています。薬物療法による神経障害性疼痛の治療神経障害性疼痛の治療は、侵害受容性疼痛とは治療戦略がまったく異なります。基本的に消炎鎮痛薬は効果がありません。神経障害性疼痛の第一選択薬はCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリン(商品名:リリカ)と三環系抗うつ薬です。第二選択薬としては、抗うつ薬セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のうちの一つであるデュロキセチン(商品名:サインバルタ)、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン(商品名:メキシチールほか)です。第三選択薬は、麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)です。まず初めにプレガバリンか三環系抗うつ薬を用います。効果が不十分であれば、いずれかに切り替えるか併用する。プレガバリンは添付文書では、朝と夕方に内服することになっていますが、私たちは就寝前の服用を勧めています。神経障害性疼痛の患者さんは痛みが強く不眠を訴える方が多いのですが、プレガバリンによる眠気の作用を逆に利用した服用方法です。プレガバリンの眠気は鎮静によって生じるものではなく、生理的な睡眠作用であることがわかっています。そのためか、患者さんもぐっすり眠れたという満足感を持つことが多いようです。そして第一選択薬で効果が不十分な場合は、第二選択薬への切り替え、あるいは第二選択薬との併用を行います。ただし三環系抗うつ薬とデュロキセチンの併用では、副作用として興奮・せん妄等のセロトニン症候群を起こす危険性があるので、三環系抗うつ薬とデュロキセチンは基本的に併用はしません。第二選択薬が無効な場合は、第三選択薬として麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)を使います。非がん性の慢性疼痛に対して使えるオピオイド鎮痛薬は、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(商品名:トラムセット)とフェンタニル貼付剤(商品名:デュロテップMTパッチ)が主なものです。ブプレノルフィン貼付剤(商品名:ノルスパンテープ)は変形性関節症、腰痛症のみが保険適応となっています。オピオイドは最も高い鎮痛効果を期待できますが、長期間使った場合に便秘や吐き気、日中の眠気などの副作用が問題になります。オピオイド鎮痛薬に対して精神依存を起こす患者さんもまれにですがいます。そのため、第一選択薬、第二選択薬が無効な場合にのみ使うことが推奨されています。オピオイド鎮痛薬使用における注意点非がん性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方は、がん性疼痛とは異なります。がん性疼痛の場合は、上限を設けずに患者さんごとに投与量を設定し、痛みが続いている間は使い続けます。痛みが発作的に強まったときには頓用薬も用います。一方、非がん性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、経口のモルヒネ製剤換算で120mgを上限に設定することが推奨されています。オピオイド鎮痛薬の使用期間は極力最少期間にとどめ、痛みが強くなったときの頓用は推奨されていません。これらのオピオイド鎮痛薬の使用に制限を設けている理由は、すべて精神依存の発症リスクを抑えるためです。がん性疼痛と非がん性疼痛では、オピオイド鎮痛薬の使い方の原則が違うことをご理解いただきたいと思います。オピオイド鎮痛薬の精神依存は、器質的な痛みの患者さんでは基本的に発症しないことがわかっています。器質的ではない疼痛、すなわち痛みの具体性の低い患者さんでは精神依存を起こす可能性が高まるので、オピオイド鎮痛薬を積極的に使用すべきではないと考えています。うつ病や不安障害といった精神障害を合併している患者さんも、オピオイド鎮痛薬による精神依存を発症しやすいことがわかっています。最も強い鎮痛効果を求めるときは、われわれはオピオイド鎮痛薬とプレガバリンを併用しています。プレガバリンには抗不安作用があり、それがオピオイド鎮痛薬による吐き気の発生に対する予期不安を抑制し、制吐効果が期待できます。オピオイド鎮痛薬と三環系抗うつ薬の併用も強い鎮痛効果が期待できますが、吐き気、眠気、抗コリン作用による口渇などを相乗的に増強してしまうため推奨していません。

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脳卒中に対するt-PA+血管内治療、t-PA単独療法を凌駕しない/NEJM

 脳卒中治療について、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)静注の単独療法と血管内治療を併用した場合とを比較した結果、有効性に有意な差はなく、安全性アウトカムも同程度であったことが、米国・シンシナティ大学のJoseph P. Broderick氏らによる無作為化試験の結果、報告された。中等度から重症の急性脳梗塞患者の治療では、t-PA静注療法後に血管内治療を併用するケースが増えているが、同アプローチが単独療法よりも有効であるのかどうかは明らかではなかった。NEJM誌オンライン版2013年2月7日号より。t-PA単独療法群または血管内治療併用群に2対1に無作為化し追跡 研究グループが行ったのは、国際第3相無作為化オープンラベル臨床試験Interventional Management of Stroke (IMS)IIIであり、発症後3時間以内にt-PA静注を受けた患者を適格とした。同患者を、さらに血管内治療を行う群またはt-PA静注単独療法とする群に、無作為に2対1の割合で割り付け追跡した。 主要評価項目は、90日時点の修正Rankinスケール(身体機能の自立度を示す、スコア0~6の範囲で、スコアが高いほど機能障害の程度が高い)のスコアが2以下であるとした。 IMS IIIは2006年に登録が開始され、2012年4月に656例(計画では900例であった)が無作為化された時点で、試験の無益性を理由に早期打ち切りとなった。本論文では、事前規定のプロトコルに基づく追跡90日間の主要有効性の結果とサブグループ解析、安全性が報告された。両治療アプローチ間に有意差はみられず 無作為化された656例の内訳は、血管内治療併用群434例、t-PA静注単独群222例であった。 90日時点の修正Rankinスコア2以下の患者の割合は、両治療群間で有意差はみられなかった。血管内治療併用群40.8%、t-PA静注単独群38.7%であった。補正後絶対差は1.5ポイント[95%信頼区間(CI):-6.1~9.1]であり、修正NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)スコアによる階層化別(スコア8~19の中等度群、≧20の重症群)で両治療群を比較しても修正Rankinスコアに有意な差はみられなかった。 事前定義のサブグループでもNIHSSスコア≧20の重症群(両群格差:6.8ポイント、95%CI:-4.4~18.1)でも、同スコア8~19の中等度群(同:-1.0ポイント、-10.8~8.8)でも有意な差はみられなかった。 また、両治療間の90日時点の死亡率(血管内治療併用群19.1%、t-PA静注単独群21.6%、p=0.52)、t-PA静注後30時間以内に症候性脳内出血を呈した患者の割合(それぞれ6.2%、5.9%、p=0.83)についても同程度だった。

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長距離ランナーは、疼痛知覚が低い

 疼痛への感受性の違いが疼痛性障害の発症リスクと関わりがあるかもしれないことから、ドイツ・ウルム大学病院のWolfgang Freund氏らは、興味深い研究対象として「疼痛に高い耐性を示す人」について研究を行った。対象としたのは長距離ランナーで、その疼痛耐性および性格特性を調べた結果、健常対照者および慢性疼痛患者と異なっていることが明らかになったという。Pain Practice誌オンライン版2月1日の掲載報告。 本研究では、毎日休むことなく64日間、計4,487kmを走ることができるウルトラマラソン選手について、疼痛耐性と性格特性を対照者と比較した。 対象は、トランスヨーロッパフットレース2009の参加者(TEFR09群)11名、ならびに過去5年以内のマラソン経験がなくTEFR09群と年齢・性別・人種をマッチさせた健常対照者11名であった。 寒冷昇圧(CP)試験、特性的自己効力感(GSE)試験および240項目版性格検査(TCI)を行った。 主な結果は以下のとおり。・CP試験において、TEFR09群は健常対照群より寒冷疼痛耐性が有意に高かった(p=0.0002)。・GSE試験の結果は、両群で差は認められなかった。・TCIでは、TEFR09群は協調性と報酬依存が低かったが自己超越性が高かった。・CP試験における180秒での疼痛スコアが高ければ高いほど、TCIの報酬依存、依存、協調性、共感および純粋な良心のスコアが高く、両者には有意な正の相関関係がみられた。・以上の結果を踏まえて著者は、「TEFR参加の長距離ランナーの疼痛耐性プロファイルは、健常対照群とは異なっていた。また以前の試験に参加した慢性疼痛患者とも異なっていると思われた」と結論し、「疼痛知覚が低いことが、長距離ランナーになるために求められる素質である可能性がある。しかし、低疼痛知覚が継続的なトレーニングに起因するものか、あるいはその結果なのかは不明である」とまとめている。【おすすめコンテンツ】~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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