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アナフィラキシーの認識と対応にはいまだ課題も

 アナフィラキシーは、ごく微量であっても、ピーナッツなどの食物アレルゲンに対して突然生じる重篤なアレルギー反応で、生命を脅かすこともある。このほど、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次総会(ACAAI 2024、10月24〜28日、米ボストン)で発表された2件の研究から、米国のアナフィラキシーへの対応プロトコルには州によりばらつきがあり、その多くは不完全で時代遅れであること、また、アレルギーを持つ人やその介護担当者の多くが、アナフィラキシーが生じた際に、どの時点で何をすべきかを正しく理解していないことが判明した。 1件目の研究は、米ベイラー医科大学の免疫学・アレルギー・レトロウイルス学部門のSasha Alvarado氏らが、アレルギークリニックの待合室で96人の患者を対象に実施した調査結果に基づくもの。この調査は、アナフィラキシーに対する知識やアナフィラキシーが起きた際に必要とされる行動計画の要素を評価するためのものだった。 その結果、95.8%の患者にエピネフリン(アドレナリンと同義、アナフィラキシーの症状悪化を抑える補助治療であるエピペンの有効成分)が処方されており、73%はアナフィラキシーの症状を認識することに「慣れている」と回答していた。しかし、エピネフリンが必要な症状について正しく把握できていたのはわずか14%に過ぎなかった。アレルゲンに曝露した可能性があり、発疹や喘鳴などの症状が現れている場合には、64.5%がエピネフリンを自己注射すると答えたが、10.8%は最初に救急治療室(ER)を受診すると回答した。エピネフリンの使用を躊躇する理由としては、どの症状を治療すべきか不明(40.6%)、ER受診への躊躇(24%)、911に電話することへの躊躇(17.7%)、エピネフリンの自己注射器の使用法が不明(11.5%)、注射針への恐怖心(5.2%)が挙げられた。 Alvarado氏は、「アナフィラキシーを早期に認識してエピネフリンで治療すれば、転帰改善につながることは分かっている。この調査結果は、アレルギー患者がアナフィラキシーを適切に認識して治療するために、より良い教育が必要であることを示している」と述べている。 米メモリアルヘルスケアシステムのCarly Gunderson氏らによる2件目の研究では、アナフィラキシー発生時に何をすべきか混乱するのは患者だけではないことが示された。この研究では、米国30州のアレルギー反応やアナフィラキシーへの対応プロトコルを調査し、アナフィラキシーの認識におけるギャップの有無や救急医療の改善点について評価した。 その結果、アナフィラキシーの定義さえも州によってさまざまであり、定義に胃腸症状を含めたプロトコルを採用していた州はわずか半数(50%)、発作の特定に役立つ神経症状を含めていた州はわずか40%であることが明らかになった。また、治療に関しても、州によって手順が異なっていることも判明した。97%の州が、アナフィラキシーの第一選択治療としてエピネフリンを推奨している一方で、エピネフリンの自己注射器の使用を認めている州は57%(17州)にとどまっていた。また、呼吸器症状がある場合の対応として、90%の州(27州)でアルブテロール、73%の州(22州)で点滴、60%の州(18州)でステロイドが推奨されていた。 研究グループは、「エピネフリン自己注射は便利で効果的であるにもかかわらず、多くのプロトコルでは許可されていない」と述べている。また、ステロイドの使用については「時代遅れの推奨だ」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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CAVI高値のCAD患者は発がんリスクが高い

 冠動脈疾患(CAD)の治療を受けた患者の中で、心臓足首血管指数(CAVI)が高く動脈硬化がより進行していると考えられる患者は、その後の発がんリスクが高いことを示すデータが報告された。福島県立医科大学循環器内科の清水竹史氏らによる研究の結果であり、詳細が「Circulation Reports」9月号に掲載された。 近年、がん患者は心血管疾患(CVD)リスクが高く、CVD患者はがんリスクが高いという相関の存在が明らかになり、両者に関与するメカニズムとして慢性炎症などを想定した研究も進められている。しかし、動脈硬化のマーカーと発がんリスクとの関連についてはまだ知見が少ない。清水氏らは、同大学附属病院の患者データを用いた前向き研究により、この点を検討した。 2010年1月~2022年3月に同院にてCADに対する経皮的冠動脈形成術を受け、CAVIが測定されていた入院患者から、未治療または病勢が制御されていないがん患者、維持透析患者などを除外した連続1,057人を解析対象とした。2023年2月まで追跡(平均2,223日)で、新たに141人ががんを診断されていた。ROC解析により、発がんの予測に最適なCAVIのカットオフ値は8.82と計算され(AUC0.633)、これを基準に2群に分けると、CAVI高値群(53.9%)は低値群(46.1%)に比べて高齢で、糖尿病、慢性腎臓病、貧血の有病率が高く、脳卒中既往者が多いという有意差が認められた。喫煙率やがん既往率には有意差がなかった。 カプランマイヤー法により、CAVI高値群は有意に発がんリスクが高いことが明らかになった(P=0.001)。多変量Cox比例ハザードモデルにて交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙歴、併存疾患、がんの既往など)の影響を調整後、CAVI高値は新規発がんの独立したリスク因子として特定された(ハザード比〔HR〕1.62〔95%信頼区間1.11~2.36〕)。CAVIを連続変数とする解析でも、CAVIが高いほど発がんリスクが高くなるという関連が示された(CAVIが1高いごとにHR1.16〔1.03~1.30〕)。 サブグループ解析の結果、年齢や性別、BMI、喫煙歴、併存疾患・既往症の有無では有意な交互作用は認められず、上記の関連は一貫していた。唯一、貧血の有無の交互作用が有意であり、貧血あり群ではCAVI高値による発がんリスクの上昇が見られなかった。 このほか、感度分析としてCAVIのカットオフ値を8または9とした解析も行ったが、結果は同様だった。なお、新たに診断されたがんの部位については、胃、前立腺、肺、大腸が多くを占め、日本の一般人口と同様であり、かつCAVIの高低で比較しても部位の分布に有意差はなかった。 著者らは、本研究が単一施設のデータに基づく解析結果であることなどを限界点として挙げた上で、「CAVIが高いことはその後の発がんリスクの高さと関連していた。CAD患者の中からCAVIによって、スクリーニングを強化すべき発がんハイリスク者を抽出可能なのではないか」と述べている。

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冠動脈にワイヤーを入れて行う心筋虚血評価は、もうちょっと簡単にならないのか?(解説:山地杏平氏)

 QFR(Quantitative Flow Ratio、定量的冠血流比)とFFR(Fractional Flow Reserve、冠血流予備量比)の有効性と安全性を比較したFAVOR III Europe試験が、2024年のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)で発表され、Lancet誌に掲載されました。 FFRは、圧測定ワイヤーを狭窄遠位まで進め、最大充血を得るために薬剤投与が必要な侵襲的な検査です。一方で、QFRは冠動脈造影の画像をもとに冠動脈の3次元モデルを再構築し、数値解析を行うことで心筋虚血の程度を推定します。FAVOR III China試験などで、QFRが一般的な冠動脈造影検査のみの評価よりも優れていることが示され、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおいてQFRはクラス1Bとして推奨されています。 本試験では、複合エンドポイントである死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の発生率はQFR群で6.7%、FFR群で4.2%と報告され、QFR群でのイベント発生率がFFR群より高く、ハザード比は1.63(95%信頼区間:1.11~2.41)でした。イベント発生率の差は、非劣性マージンである3.4%を超えており、FFRが利用可能な場合にはQFRは推奨されないことが示唆されました。 イベント内訳を見ると、死亡は1.4% vs.1.1%、心筋梗塞は3.7% vs.2.0%、緊急血行再建は3.3% vs.2.5%と、一貫してQFR群での発生率が高い傾向でした。また、本試験の症例の約3分の2が安定狭心症であり、残り3分の1が非ST上昇型急性冠症候群またはST上昇型心筋梗塞の残枝でしたが、サブグループ解析ではいずれの群でもQFR群でイベント発生率が高いという結果でした。 FAME試験やFAME 2試験では、中等度の動脈硬化病変に対してFFRを用いた心筋虚血の評価後にPCIを行うことが有効とされています。しかし、FLOWER-MI試験などで示されたように、心筋梗塞の非責任病変においてFFRによる虚血評価が困難であることが示唆されており、適応疾患によって今回の試験結果が変わる可能性もありましたが、そういうわけではないようです。 また、QFR群では54.5%に治療が行われ、FFR群では45.8%に治療が行われました。治療が施されたことで周術期心筋梗塞のリスクが高まる可能性が懸念されますが、治療の影響を除外した1ヵ月以降のランドマーク解析においても、QFR群でイベントが多い傾向が続いていました。 本研究では残念ながらQFRはFFRより劣性であることが示されましたが、実際のところQFRで治療が行われた症例でイベントが多かったのか、それとも逆にFFRで治療が行われなかった症例でイベントが少なかったのかは興味があるところであり、今後の報告が期待されます。 QFR評価は手動での調整が必要であり、トレーニングを受けた評価者でも観察者間および観察者内の測定誤差が問題となる可能性が指摘されています。まだまだ発展途上の技術と考えられ、ソフトウェアの改善により今後の精度向上が期待されます。さらにはFAST III試験やALL-RISE試験など、同様の試験の結果も待たれます。

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乳がんと肺がんの関連~双方向のメンデルランダム化解析

 乳がんサバイバーの生存期間の延長に伴い、2次がん発症リスクが上昇している。2次がんの部位は、米国・Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベース(2010~15年)によると、乳房(30.0%)に次いで肺・気管支(13.4%)が多かった。今回、乳がんと肺がんの双方向の因果関係について、中国・The First Affiliated Hospital of Xi'an Jiaotong UniversityのXiaoqian Li氏らがメンデルランダム化(MR)解析で調査したところ、乳がんサバイバーにおいて2次肺腺がんリスクが上昇することが示唆された。Scientific Reports誌2024年11月6日号に掲載。 本研究では、Breast Cancer Association Consortium(BCAC)における22万8,951例のゲノムワイド関連研究データと、Transdisciplinary Research in Cancer of the Lung(TRICL)における11万2,781例のゲノムワイド関連研究の要約統計を用いて、双方向2サンプルMR解析を実施した。MR解析は逆分散加重(IVW)法のほか、補完的に加重中央値法、MR-RAPS法、MR-Egger 法を用いた。乳がんはエストロゲン受容体発現の有無別、肺がんは肺腺がん、扁平上皮肺がん、小細胞肺がんに分け、関連を調べた。 主な結果は以下のとおり。・乳がん全体における肺腺がんとの因果関係がIVW法(オッズ比[OR]:1.060、95%信頼区間[CI]:1.008~1.116、p=0.024)およびMR-RAPS法(OR:1.059、95%CI:1.005~1.116、p=0.033)で認められ、乳がん患者において肺腺がんリスクが上昇することが示唆された。・肺腺がんの乳がんに対する有意な因果関係は認められなかった。 著者らは「乳がんサバイバーの死亡率を下げるために、2次肺がんのスクリーニングの強化、早期介入と治療が必要」としている。

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妊娠超初期の薬剤中絶、有効性と安全性を確認/NEJM

 子宮内妊娠が確認される前の超初期における薬剤中絶は、子宮内妊娠が確認されるまで中絶を延期するという標準的なアプローチと比較して、完全な中絶に関して非劣性であることが示された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のKarin Brandell氏らVEMA (Very Early Medication Abortion) Study Groupが、多施設共同無作為化非劣性対照試験の結果を報告した。ミフェプリストン・ミソプロストールによる薬剤中絶は、高い有効性と安全性が確認されている。しかしながら、妊娠が超音波検査で確認できる前の妊娠超初期での有効性および安全性のエビデンスは不十分であった。NEJM誌2024年11月7日号掲載の報告。9ヵ国26施設の無作為化試験、子宮内妊娠が確認されるまで待機する標準ケアと比較 試験は9ヵ国26施設(オーストリア1、オーストラリア1、デンマーク2、フィンランド1、ネパール7、ニュージーランド1、ノルウェー1、スコットランド2、スウェーデン10)で、2019年3月~2023年4月に行われた。対象は、薬剤中絶を希望する、推定妊娠期間が最長42日、超音波検査で子宮内妊娠が確認されていない(子宮内が空洞または卵黄嚢や胚子極[embryonic pole]のない嚢状の構造物として視認される)女性であった。18歳以上で英語または試験地の言語を話し、試験について書面および口頭で説明を受けた後に参加に同意した場合を適格とし、異常妊娠(出血、片側腹痛など)の症状または兆候、異所性妊娠のリスク因子(以前の異所性妊娠、子宮内避妊用具[IUD]の使用など)、薬剤中絶に禁忌がある場合は除外した。 被験者は、即時(試験組み入れ当日または翌日)に中絶を開始する群(早期開始群)または子宮内妊娠が確認(試験7日目[±2日]の再超音波検査で確認)されるまで治療を待機する群(標準ケア群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、完全な中絶。非劣性マージンは、群間差の絶対値3.0%ポイントとした。完全な中絶について非劣性を確認 適格基準を満たした合計1,504例の女性が、早期開始群(754例)または標準ケア群(750例)に無作為化された。ベースライン特性は両群で類似しており、平均年齢は早期開始群29.6±6.4歳、標準ケア群29.7±6.5歳、BMI値は24.9±4.8と24.9±4.9、妊娠回数は初回が22.5%と24.7%、3回以上が59.6%と59.3%だった。ただし、診断された異常妊娠についてのみ、21件(2.8%)と104件(14.4%)で差異を認め、その内訳を見ると早期流産は9件(1.2%)と96件(13.3%)であった。 ITT解析において、完全な中絶は早期開始群676/710例(95.2%)、標準ケア群656/688例(95.3%)で認められた。全体群間差は-0.1%ポイント(95%信頼区間:-2.4~2.1)で、早期開始群の標準ケア群に対する非劣性を確認した。 異所性妊娠が早期開始群10/741例(1.3%)、標準ケア群6/724例(0.8%)で報告され、早期開始群の1例では診断前に破裂した。 重篤な有害事象は、早期開始群12/737例(1.6%)、標準ケア群5/718例(0.7%)で報告された(p=0.10)。大部分は異所性妊娠または不完全な中絶の治療のための、合併症を伴わない入院であった。

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MRIで直腸がん手術の要否を判断可能か

 MRIによる直腸がん患者のがんステージの再評価により、手術を回避できる患者を特定できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。手術を回避できた患者は、生涯にわたってストーマ装具を装着せずに済む可能性も期待できる。米バージニア大学(UVA)医療システム身体画像部門のArun Krishnaraj氏らによるこの研究の詳細は、「Radiology」に9月3日掲載された。 米国がん協会(ACS)によると、米国で直腸がんは比較的一般的な疾患で、毎年約4万6,220人(男性2万7,330人、女性1万8,890人)が新たに直腸がんの診断を受けているという。直腸がんによる死亡者数は、毎年5万4,000人以上に上る大腸がん死亡者数の統計に含まれている。 直腸がんの治療にあたる医師が理想とするのは、放射線療法と化学療法のみでがんを治療して患者の腸の機能を温存することだ。しかし、患者によっては経肛門的全直腸間膜切除術と呼ばれる処置が必要になる場合がある。この手術を受けた患者では、残念なことに、生涯にわたるストーマ装具の装着が必要となり、性機能障害などの他の問題を抱えることも多い。そのため、手術なしでも良好な状態を保つ可能性のある患者を特定することは非常に重要である。 今回の研究では、ステージIIまたはIIIの直腸がん患者277人(年齢中央値58歳、男性179人)を対象にしたランダム化比較試験(Organ Preservation in Rectal Adenocarcinoma〔OPRA〕試験)のデータの二次解析を行い、MRIでの再評価により手術を行わずに経過観察が可能な患者を特定できるかが検討された。対象者は、放射線療法後に化学療法を行う群と、化学療法後に放射線療法を行う群にランダムに割り付けられ、いずれの患者も再評価のためのMRI検査を受けた。これらのMRI画像は、放射線科医により、臨床的完全奏効(clinical complete response;cCR)、完全奏効に近い奏効(near-complete clinical response;nCR)、または不完全奏効(incomplete clinical response;iCR)に分類された。追跡期間の中央値は4.1年だった。 その結果、cCR達成患者では、nCR達成患者に比べて手術を回避できた患者の割合が高いことが明らかになった(65.3%対41.6%、ログランク検定によるP<0.001)。5年無病生存率は、cCR達成患者で81.8%、nCR達成患者で67.6%、iCR達成患者で49.6%だった。また、これらの再評価による分類は、全生存、遠隔再発なしの生存、および局所再発の予測因子としても機能することが示された。2年以上の追跡調査を受けた266人の対象者のうち、129人(48.5%)に再発が認められた。解析の結果、MRI画像所見での拡散制限(restricted diffusion;組織内で水分子が動きにくくなる状態)の存在と、リンパ節の形態的異常が再発に独立して関連していることが判明した。 研究グループは、腸の内視鏡検査の結果を加えると、MRIに基づく予測の精度がさらに高まる可能性があるとの見方を示している。Krishnaraj氏は、「MRIや内視鏡検査などの他のツールの継続的な進歩により、患者の将来の転帰に関してより詳細な情報が得られるようになることを私は楽観視している」とUVAのニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「最終的には、治療後に患者に説明するがんの再発や転移のリスクについての予測精度を99%にまで上げたいと考えている。まだ道のりは遠いが、それがわれわれの目標だ」と語っている。

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腫瘍循環器学と不易流行【見落とさない!がんの心毒性】第30回(最終回)

連載終了にあたりある日、医療・医学情報サイトCareNet.comの編集者から腫瘍循環器学に関する連載をしませんかという企画をいただきました。そしてその内容はインターネット情報サイトを活用して、腫瘍循環器専門医のみならず一般の循環器医や腫瘍医の先生、メディカルスタッフの皆さんに腫瘍循環器学をわかりやすく理解していただくため、というものでした。この頃は、大阪府立成人病センター循環器内科において腫瘍循環器外来が開始して以来10年が経過した時点であり、日本腫瘍循環器学会が発足したばかりの時期でもありました。タイムリーな企画だなと考え、腫瘍循環器医として第一線で活躍されておられる大倉 裕二先生、草場 仁志先生、志賀 太郎先生をお誘いして本連載を開始することにいたしました。当初は2年間の予定でしたので、最初の1年は総論(第1回~第11回)、その後は症例中心に連載を行うことにいたしました(第12回~第28回)。途中CareNet.com読者の皆さまにアンケートを行う試みも行いました1,2)。症例報告については、当初の4名に加え多くのエキスパートの先生にご参加いただき、実際に先生方がご経験された症例などを元に原稿を作成していただきました。その結果、3年半、合計30回の連載企画になりました。今回は、最終回としてこれまでの3年間を振り返りながら腫瘍循環器学の現在と将来についてまとめさせていただきます。古くて新しいアントラサイクリン系抗がん剤まず取り上げたのは、最も古くから存在する抗がん剤の一つであるアントラサイクリン系抗がん剤でした。1970年代に報告されたアントラサイクリン心筋症こそが、腫瘍循環器領域で最初に報告された心血管合併症(心血管毒性)であり、大倉先生に第2回『見つかる時代から見つける時代へ』で執筆いただきました。それは「アントラサイクリン心不全は3回予防できる」と名言を残した素晴らしい内容でした。循環器医なら全員が知っているはずのアントラサイクリン心筋症ですが、その病態や管理については意外と知られておりません。第15回 化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?第17回 造血幹細胞移植後に心不全を発症した症例第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?さらにアントラサイクリン系抗がん剤と同様に、以前から投与されている殺細胞性抗がん剤について、以下の回で取り上げられました。第22回 フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第26回 増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法この古くて新しい抗がん剤については、第17回で取り上げましたように、がん治療が終了した後もがんサバイバーにおける晩期合併症としても大変注目されています。そして、乳がん領域で最も予後が不良であったトリプルネガティブ症例に対する最も新しい治療の一つとしてその有効性が明らかとなっています3)。腫瘍循環器学の始まりは分子標的薬から腫瘍循環器学は2000年になり登場した分子標的薬とそれに伴い出現する心血管毒性が報告されてから急激な発展を遂げています。第3回『HER2阻害薬の心毒性、そのリスク因子や管理は?』で取り上げたHER2阻害薬は、米国・MDアンダーソンがんセンターにおいて世界最初に開設されたOnco-Cardiology Unitのきっかけになったがん治療薬です。当時は副作用が少なく有効性の高い夢のような薬として登場いたしましたが、アントラサイクリンとの併用により高頻度で心毒性が出現(HERA試験)4)したことで、腫瘍循環器領域に注目が集まりました。HER2阻害薬は第3回で解説があるように、その可逆性には二面性があり腫瘍循環器的にも注意が必要な薬剤です。そして、現在最も多く投与されている分子標的薬である血管新生阻害薬について、以下の回で触れています。第4回 VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月第14回 深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法このほか、第12回、第19回 と本連載でも多く取り上げられています。血管新生阻害薬は高血圧、心不全、血栓症など多くの心血管毒性に注意が必要な薬剤であり、Onco-Hypertension領域におけるがん治療関連高血圧の原因薬剤としても注目されています5)。古くて新しいがん関連血栓症がんと血栓症は、1800年代にトルーソー(Trousseau)らにより「がんと血栓症」が報告されて以来、トルーソー症候群という概念で古くから存在しています。そして現在は血管新生阻害薬などのがん治療薬の進歩に伴い、がん治療に伴う血栓症の頻度が急速に増加してきたことで、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という新しい概念が生まれてきました(図1)6)。(図1)画像を拡大する本企画では第8回 がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?第20回 静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?第23回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(前編)第24回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法で、症例クイズとして数多く取り上げています。また、本疾患概念などについては、第9回『不安に感じる心毒性とは?ー読者アンケートの結果から』や第26回『増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー』でも触れられています。そのほかのがん治療古くて新しいがん治療には、放射線療法そしてホルモン療法が挙げられます。第7回『進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは』、そして第11回『免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?』に放射線関連心機能障害(RACD:Radiation Associated Cardiovascular diseases)が取り上げられました。さらに、ホルモン療法は第16回 がん患者に出現した呼吸困難、見落としがちな疾患は?第27回 アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例にて症例提示がなされています。一方、最も新しいがん治療である免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場はがん診療にパラダイムシフトを起こしています。ICIに関連した連載は、第5回 免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには?第11回 免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?第18回 免疫チェックポイント阻害薬の開始後6日目に出現した全身倦怠感第29回 irAE心筋炎の原因の一つに新たな知見が!!と計4回に登場します。また、第6回『新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~』には、副作用に関するコメントとして、心毒性と腫瘍循環器医が知っておかねばならない副作用情報の読み方がまとめられており、ぜひとも再読してみてください。今後の腫瘍循環器学ニッチな学際領域であった腫瘍循環器学はいまや世界的に多くの研究がなされるようになり、各学会でステートメントやガイドラインが作成されています。本邦では、本連載が始まった後Onco-Cardiologyガイドラインが作成され、現在もトランスレーショナルリサーチや臨床研究がなされており、多くのエビデンスが明らかとなってきています。このような背景の元で、2025年10月に大阪千里ライフサイエンスセンターにおいて第8回日本腫瘍循環器学会学術集会(大会長 向井 幹夫)が開催されます。テーマを「不易流行* がんと循環器:古くて新しい関係」としており、本連載をお読みになられた方にはぜひ学術集会にご参加いただき、一緒に討論いたしましょう。*精選版 日本国語大辞典 第二版より:蕉風俳諧の理念の一つ。新しみを求めてたえず変化する流行性にこそ永遠に変わることのない不易の本質があり、不易と流行とは根元において一つであるとし、それは風雅の誠に根ざすものだとする。芭蕉自身が説いた例は見られないが向井 去来、服部 土芳らの門人たちの俳論において展開された。今回、連載の編集にご協力いただきました3名の先生、そして連載をお願いした腫瘍循環器医の先生方に御礼申し上げます。そして、本連載を読んでいただきました読者の皆さまと共に更なるご発展を祈念いたします。最後にCareNet.com連載について最初から担当いただき、適切なアドバイスをいただきましたケアネット社ならびに担当された土井様に深謝いたします。監修向井 幹夫(大阪がん循環器病予防センター 副所長)編集大倉 裕二(新潟県立がんセンター腫瘍循環器科 部長)草場 仁志(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)志賀 太郎(がん研究会有明病院腫瘍循環器・循環器内科 部長)向井 幹夫著者大倉 裕二、加藤 浩、北原 康行、草場 仁志、塩山 渉、志賀 太郎、鈴木 崇仁、竹村 弘司、田尻 和子、田中 善宏、田辺 裕子、津端 由佳里、深田 光敬、藤野 晋、向井 幹夫、森山 祥平、吉野 真樹(50音順、敬称略)1)向井幹夫ほか. がん診療医が不安に感じる心毒性ーCareNet.comのアンケート調査よりー. 第5回日本腫瘍循環器学会学術集会.2)志賀太郎ほか. JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は〜インターネットを用いた「余命期間と侵襲的循環器治療」に対するアンケート調査結果〜. 第7回日本腫瘍循環器学会学術集会.3)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.4)Piccart-Gebhart MJ et al. N Engl J Med. 2005;353:1659-1672.5)Minegishi S et al. Hypertension 2023;80:e123-e124.6)Mukai M et al. J Cardiol. 2018;72:89-93.講師紹介

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日本の頭痛外来受診患者、頭痛の種類や特徴は?

 頭痛外来を受診した患者に関する単一施設研究の報告は行われているものの、日本で実施された多施設共同研究は、これまでほとんどなかった。静岡赤十字病院の今井 昇氏らは、日本において頭痛外来を受診した患者の臨床的特徴、頭痛の種類、重症度、精神疾患の併存について多施設分析を実施し、ギャップを埋めることを目指し、本研究を実施した。Clinical Neurology and Neurosurgery誌オンライン版2024年10月15日号の報告。 3ヵ所の頭痛外来を受診した頭痛患者2,378例を対象に、臨床的特徴をプロスペクティブに評価した。視覚的アナログスケール(VAS)などのベースライン時の人口統計学的特徴、7項目の一般化不安障害質問票(GAD-7)やこころとからだの質問票(PHQ-9)などの精神疾患の評価を行った。頭痛の種類は、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(TAC)、その他の一次性頭痛疾患、二次性頭痛に分類した。頭痛の種類間でのパラメータを比較するため、必要に応じてKruskal-Wallis検定または共分散分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・最も多かった頭痛の種類は、片頭痛(78.8%)であり、次いで緊張型頭痛(12.2%)、二次性頭痛(5.5%)、その他の一次性頭痛疾患(2.1%)、TAC(1.6%)であった。・片頭痛患者は、初診時の年齢が他の頭痛患者よりも有意に若年であった。【片頭痛】年齢中央値:32.0歳【緊張型頭痛】年齢中央値:47.0歳【二次性頭痛】年齢中央値:39.0歳【その他の一次性頭痛疾患】年齢中央値:49.5歳【TAC】年齢中央値:47.0歳・TAC患者は、重症度と精神症状が最も重度であり、VAS(p<0.001)、GAD-7(p=0.019)、PHQ-9(p<0.001)のスコア中央値が、他の頭痛患者よりも有意に高かった。【TAC】VAS:90.0、GAD-7:7.0、PHQ-9:7.5【片頭痛】VAS:70.0、GAD-7:5.0、PHQ-9:5.0【緊張型頭痛】VAS:50.0、GAD-7:4.0、PHQ-9:4.0【その他の一次性頭痛疾患】VAS:65.0、GAD-7:4.0、PHQ-9:3.5【二次性頭痛】VAS:60.0、GAD-7:3.0、PHQ-9:3.5 著者らは「頭痛外来を受診した患者の多くは、片頭痛患者であった。TAC患者は、他の頭痛患者よりも頭痛の重症度および精神症状が有意に高いことが確認された」とまとめている。

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酒さ〔Rosacea〕・鼻瘤〔Rhinophyma〕

1 疾患概要■ 定義酒さは20歳代以降に好発し、顔面中央部の前額・眉間部、鼻部、頬部(中央寄り)、頤部に、紅斑・潮紅や毛細血管拡張による赤ら顔を来す疾患である。■ 疫学白人(コーカソイド)では5~10%程度までとする報告が欧米の地域からなされている。アジア人(モンゴロイド)では数~20%程度までの報告がある。日本人の酒さの罹患率の正確なデータはないが、自覚していない軽症例を含めると0.5~1%程度の罹患率が見込まれる。■ 病因酒さに一元的な病因は存在しない。酒さの病理組織学的病変の主体は、脂腺性毛包周囲の真皮内にあり、脂腺性毛包を取り囲む炎症と毛細血管拡張を来す。コーカソイドを祖先に持つ集団でのゲノムワイド関連解析(GWAS)調査では酒さ発症に遺伝的背景の示唆がある1)。後天的要因として、環境因子からの自然免疫機構・抗菌ペプチドの過活性化2,3)や肥満細胞の関与する皮膚炎症の遷延化4)、末梢神経応答などの関与する知覚過敏や血管拡張反応などが病態形成に関与することが示されている。■ 症状・分類酒さの皮疹は眉間部、鼻部・鼻周囲、頬部、頤部の顔面中央部に主として分布する。まれに頸部や前胸部、上背部の脂腺性毛包の分布部に皮疹が拡大することもある。酒さは主たる症候・個疹性状に基づいて、紅斑血管拡張型酒さ、丘疹膿疱型酒さ、瘤腫型酒さ・鼻瘤、眼型酒さの4病型・サブタイプに分類される。1)紅斑血管拡張型酒さ脂腺性毛包周囲の紅斑と毛細血管の拡張を主症候とし、酒さの中で最も頻度が高い病型である。寒暖差などの気温変化、紫外線を含む日光曝露、運動や香辛料の効いた食餌などの顔面血流が変化する状況で、火照りや顔の熱感などの自覚症状が悪化する。2)丘疹膿疱型酒さ尋常性ざ瘡と類似の丘疹や膿疱が頬部、眉間部、頤部などに出現する。背景に紅斑血管拡張型酒さにみられる紅斑や毛細血管拡張を併存することも多い。尋常性ざ瘡と異なり、丘疹膿疱型酒さには面皰は存在しないが、酒さと尋常性ざ瘡が合併する患者もあり得る。尋常性ざ瘡との鑑別には面皰の有無に加えて、寒暖差による火照り感や熱感などの外界変化による自覚症状の変動を確認するとよい。3)瘤腫型酒さ・鼻瘤皮下の炎症に伴って肉芽腫形成や線維化を来す病型である。とくに、鼻部に病変を来すことが多く、「鼻瘤」という症候名・病名でも知られている。頬部の丘疹膿疱型酒さを合併することがまれではない。紅斑毛細血管拡張型酒さや丘疹膿疱型酒さは女性患者の受診者が多いが、瘤腫型酒さ・鼻瘤では男女比は1対1である5)。4)眼型酒さ眼瞼縁のマイボーム腺周囲炎症・機能不全を主たる病態とし、初期症状は、眼瞼縁睫毛部周囲の紅斑と毛細血管拡張、そして眼瞼結膜の充血や血管拡張である。自覚症状として眼球や眼瞼の刺激感や流涙を訴えることが多い。眼型酒さのほとんどは、他の酒さ病型に併存しており、酒さの眼合併症という捉え方もされる。■ 予後生命予後は良い。紅斑血管拡張型酒さの毛孔周囲炎症と毛細血管拡張の改善には数年を要する。丘疹膿疱型酒さの丘疹・膿疱症状は、3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。瘤腫型酒さ・鼻瘤は鼻形態の変形程度に併せて、抗炎症療法から手術療法までが選択されるが、症候の安定には数年を要する。眼型酒さの炎症症状(結膜炎や結膜充血)は3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)酒さの診断のための特定の検査方法はなく、皮疹性状や分布、臨床経過から総合的に酒さを診断する。酒さ患者にはアトピー素因やアレルギー素因を有する患者が20~40%ほど含まれており、特異的IgE検査(VIEW39など)を行い、増悪因子の回避に努める5)。アレルギー性接触皮膚炎の併存が疑われる場合にはパッチテスト(貼布試験)を考慮する。酒さ病変部では、毛包虫が増えていることがあり、毛包虫の確認には皮膚擦過試料の検鏡検査を行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)酒さの治療では、主たる症候を見極めて治療計画を立てる。一般的には、抗炎症作用を有する治療薬で酒さの脂腺性毛孔周囲の紅斑、丘疹、膿疱の治療を3~6ヵ月程度行う。炎症性皮疹のコントロールの後に、器質的変化による毛細血管拡張や、瘤腫や鼻瘤にみられる線維化と形態変形に対する治療を計画する。酒さ症候は、生活環境や併存症によっても症状の増悪が起こる5,6)。酒さの再燃や増悪の予防には、患者毎の増悪因子や環境要因に沿った生活指導と肌質に合わせたスキンケアが重要である。■ 丘疹膿疱型酒さに対する抗炎症外用薬・内服薬1)メトロニダゾール外用薬欧米では、メトロニダゾール外用薬(商品名:ロゼックスゲル)が酒さの抗炎症薬として1980年代から使用されている7,8)。わが国でも2022年に国際的酒さ標準治療薬の1つであるメトロニダゾール外用薬0.75%が酒さに対して保険適用が拡大された9)。メトロニダゾール外用薬は、その炎症反応抑制効果から丘疹膿疱型酒さにみられる炎症性皮疹の丘疹と膿疱の抑制効果、脂腺性毛包周囲の炎症による紅斑に対して改善効果が期待できる。2)イオウ・カンフルローションイオウ・カンフルローションは、わが国では1970年代から発売されざ瘡と酒さに対して保険適用がある。ただ、イオウ・カンフルローションの保険適用は、わが国での酒さ患者を対象とした臨床試験に基づいた承認経過の記録が見当たらず、現代のガイドライン評価基準に則した本邦での良質なエビデンスはない。イオウ・カンフルローションは、エタノールを含んでおり、皮脂と角層内水分の少ない乾燥肌の患者に用いると、乾燥感や肌荒れ感が強くなる場合がある。イオウ・カンフルローション懸濁液は、淡黄色で塗布により肌色調が黄色調となることがある。肌色調が気になる患者には、上澄み液だけを用いるなどの工夫をする。3)テトラサイクリン系抗菌薬ドキシサイクリンは、丘疹膿疱型酒さの炎症性皮疹(丘疹、膿疱)に有効である。酒さ専用内服薬としてドキシサイクリンの低用量徐放性内服薬が欧米では承認されている。ミノサイクリンは、ドキシサイクリン低用量徐放性内服薬と同等の効果が示されているが、間質性肺炎や皮膚色素沈着などの副作用から、長期服用時に留意が必要である10)。■ 紅斑毛細血管拡張型酒さに対する治療紅斑毛細血管拡張型酒さの主たる症候は、毛細血管の拡張に伴う紅斑や一過性潮紅である。治療には拡張した毛細血管を縮小させる治療を行う。パルス色素レーザー(pulsed dye laser:PDL)[595nm]、Nd:YAGレーザー[1,064nm]、Intense pulsed light (IPL)が、酒さの毛細血管拡張と紅斑を有意に減少させることが報告されている。これらのレーザー・光線治療は酒さに対しては保険適用外である。4 今後の展望2022年にメトロニダゾールが酒さに対して保険適用となり、わが国でも酒さ標準治療薬が入手できるようになった。酒さの診断名登録が増えており、医療関係者と患者ともに酒さ・赤ら顔に対する認知度の増加傾向が感じられる。しかしながら、潮紅や毛細血管拡張を主体とする紅斑毛細血管拡張型酒さに対する保険適用の治療方法は十分ではなく、今後の治験や臨床試験が期待される。5 主たる診療科皮膚科顔面の丘疹・膿疱を主たる皮疹形態とする疾患の多くは皮膚表面の表皮の疾患ではなく、真皮における炎症、肉芽腫性疾患、感染症、腫瘍性疾患である可能性が高い。皮膚炎症性疾患に頻用されるステロイド外用薬は、これらの疾患に効果がないばかりか、悪化させることがしばしば経験される。酒さは、ステロイドで悪化する代表的な皮膚疾患であり、安易なステロイド使用が患者と医療者の双方にとって望ましくない経過につながる。顔面に赤ら顔や丘疹や膿疱をみかける症例は、ステロイドなどの使用の前に鑑別疾患を十分に考慮する必要があるし、判断に迷う場合には外用薬を処方する前に速やかに皮膚科専門医にコンサルタントすることをお勧めする。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報酒さナビ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Rosacea Society(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)American Acne and Rosacea Society(医療従事者向けのまとまった情報、米国の本症の診療サイト)1)Aponte JL, et al. Hum Mol Genet. 2018;27:2762-2772.2)Yamasaki K, et al. Nat Med. 2007;13:975-980.3)Yamasaki K, et al. J Invest Dermatol. 2011;131:688-697.4)Muto Y, et al. J Invest Dermatol. 2014;134:2728-2736.5)Wada-Irimada M, et al. J Dermatol. 2022;49:519-524.6)Yamasaki K, et al. J Dermatol. 2022;49:1221-1227.7)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;109:63-66.8)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;108:327-332.9)Miyachi Y, et al. J Dermatol. 2022;49:330-340.10)van der Linden MMD, et al. Br J Dermatol. 2017;176:1465-1474.公開履歴初回2024年11月14日

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epilepsy(てんかん)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第15回

言葉の由来「てんかん」の英名は“epilepsy”(エピレプシー)といいます。この言葉は、ギリシャ語の“epilambanein”(取りつかれる)から派生したもので、古代ギリシャの魔術的な信仰を反映しています。当時、てんかんは悪霊に取りつかれて起こると考えられていたようです1)。そして、この言葉は、ラテン語を経て現代の英語にまで引き継がれています。言葉にも現れているとおり、古代から中世にかけて、てんかんの患者は不浄や悪と見なされており、てんかんに関連した差別も生み出されました。てんかんの発作も悪霊によるものと信じられていたため、治療として儀式やおはらいが行われました。18世紀に入って、てんかんが脳の異常な電気活動によるものであるという認識が広まり、現代の医学では、てんかんは脳の神経細胞の異常な放電が原因であることが明らかになっています。併せて覚えよう! 周辺単語けいれんseizure神経内科neurology異常な電気活動abnormal electrical activity抗てんかん薬antiepileptic drugs(AED)脳波electroencephalogram(EEG)この病気、英語で説明できますか?Epilepsy is a neurological disorder characterized by recurrent seizures caused by abnormal electrical activity in the brain. Seizures can vary in intensity and frequency and may include convulsions or loss of consciousness.参考1)Patel P, et al. Epilepsia Open. 2020;5:22-35.講師紹介

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第122回 人間はもうかなわない、AIの医師国家試験正答率98%超

o1-previewOpenAI社のChatGPTで私がよく使っているモデルの1つに、o1-preview1)というものがあります。複雑な推論を実行するために強化学習で訓練された新しいAIモデルで、選択する際も「高度な推論」とわざわざ明記されています。さて、推論といえば、臨床推論ですよね。この推論のプロであるo1-previewに医師国家試験を解かせたらどうなるか、という興味深い研究が行われました2)。人間の皆さん、悲報です。われわれはもうAIには勝てません。正答率98%超研究では主に2つの重要なベンチマークテストが使用されました。1つは医療分野の知識を評価する1,273問の多肢選択式問題セット「MedQA」です。このMedQAテストにおいて、モデルの進化による著しい性能向上が確認されました。医療特化型の初期モデルであるPubMedBERTは38.1%という低い正答率でしたが、GPT-3.5で60.2%まで向上し、GPT-4では86.1%に達しました。その後、Medpromptというプロンプト技術を使用したGPT-4は90.2%まで性能を引き上げることができ、さらにGoogleのMed-Geminiは91.1%を達成しました。そして最新のo1-previewは、プロンプトエンジニアリングを使用せずとも96.0%という驚異的な正答率を示しています。もう1つの重要なベンチマークは、日本の2024年2月実施の医師国家試験から作成された「JMLE-2024」です。これは275問から構成される新しいテストセットで、とくに重要なのは、この試験がモデルの知識カットオフ日以降に実施されたものという点です。このJMLE-2024において、o1-previewは98.2%というきわめて高い正答率を達成しました。この結果は、モデルが単に学習データを記憶しているだけでなく、真の推論能力を持っていることを示唆しています。さらに、日本語での出題にもかかわらずこのような高い正答率を達成したことは、言語の壁を越えた知識理解と推論能力の証拠となっています。やべえ!もう勝てねえ!ただ、今回の研究は、画像を含む問題や複数の正解がある問題を除外しています。私たちが悩むのは、単一問題よりも、複数回答がある問題ですよね。なので、まだきっとわれわれにも勝機はあるはず…、に違いない!参考文献・参考サイト1)Introducing OpenAI o1-preview. 2024 Sep 12.2)Nori H, et al. From Medprompt to o1: Exploration of Run-Time Strategies for Medical Challenge Problems and Beyond. arXiv:2411.03590v1 [cs.CL] 06 Nov 2024.

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「あざとさ」は悪か、医学生のOSCE試験から【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第78回

医学生のOSCE試験「血圧を測定します。肩のあたりまでシャツをまくっていただけますか」学生が模擬患者に声をかけます。「腕を枕の上に置いて肘を伸ばした状態で力を抜いていてください」学生は上腕動脈を触知した後に、マンシェットを巻きます。そして、聴診器を肘窩にあてがいます。「きつくなりますよ」マンシェットを加圧した後にゆっくり減圧していきます。コロトコフ音の聴こえ始めが収縮期、聴こえなくなるのが拡張期の血圧です。「聴診法で収縮期血圧は118mmHg、拡張期血圧は74mmHgです」自信に満ちた口調で評価者(試験官)に報告します。優秀な「できる」学生です。OSCE試験の一場面です。バイタルサインのステーションで、血圧計を用いて聴診法での血圧測定という課題に対応をしています。OSCEは、Objective Structured Clinical Examinationの略語で「オスキー」と発音され、直訳すれば「客観的臨床能力試験」です。OSCEについては、本コラムの第49回「知っていますか? 医師法改正、OSCE、共用試験、公的化…」でも紹介しています。医師となるための知識だけでなく、技能、態度などが十分であるかを評価する試験です。評価者の見ている前で、実際に模擬患者を診察します。学生は、いくつかのステーションを巡りながら試験の課題をこなしていきます。バイタルサインは、生命を維持している最小限の兆候で、体温・呼吸・脈拍・血圧のことを言います。これらは、全身状態の把握の最も基本となるものです。聴診法で血圧を正しく測定できることは、医師として必須の能力です。あまりに緊張して震える学生「血圧を測定します」次の学生が模擬患者に声を掛けます。緊張のあまり声が震えています。なんとか血圧計のマンシェットを巻いて加圧した後に減圧していきます。しばらくしても評価者への血圧値の報告はありません。再度マンシェットを加圧します。さらに、何度もマンシェットの加圧と減圧を繰り返します。学生の顔は真っ赤になり、額には玉のような汗が見られます。過度の緊張も加わり、聴診器でコロトコフ音が聴き取れないのです。焦って繰り返すほど聴こえないのでしょう。無残にも、この学生のバイタルサインステーションは終了となりました。血圧測定をできなかったのですから、このステーションの課題として不合格は免れません。おそらくは日を改めての再試験に挑むことになります。そこでの合格を願うばかりです。一概に「できる」学生、「できない」学生とは言えない自分もOSCE試験の評価者を務めることがあります。ここに記載したのは、評価者としての実体験です。試験ですから、私情をはさまずルールに従って粛々と役割を果たすことは当然です。しかし、試験終了後に個人的な想いを巡らせることがあります。OSCE試験に挑んだ2人の学生、前者は「できる」学生で、後者は「できない」学生でしょうか。前者は、友人と血圧測定の練習を繰り返し、試験当日に臨んだのでしょう。よどみなく一連の動作を行い、患者への声掛けや、測定値の報告も完璧です。優秀です。ただ、疑うわけでもないのですが、本当にコロトコフ音を確認したうえで、実際の測定値を述べたのかどうかの証拠もありません。儀式的にマンシェットの加圧・減圧を行い、その模擬患者として妥当と思われる血圧の値を述べている可能性も否定はできません。後者は、実直なまでに血圧を正しく測定しようとチャレンジし、コロトコフ音を上手く聴くことができなかったのです。コロトコフ音の大きさには個人差があるので、聴診法での血圧測定が難しい患者も存在します。血圧測定をできなかった事実を愚直に表現するこの学生を、自分には憎めない存在と感じます。試験の場面だからといって取り繕うことなく駆け引きをしない者を、評価したい気持ちです。医師にとって、正直で実直であることは患者さんとの信頼関係を築く上で欠かせない要素だからです。「あざとさ」も大切なスキル決して、優秀な前者の学生が実際にコロトコフ音を確認することなく、聴こえたかのように振る舞った「あざとい」人間だと言いたいわけではありません。しかし、技能や態度などを評価するという試験の性質上、そのような表面的な振る舞いが上手な者に有利に働く側面があることも事実です。何よりも、「あざとさ」も実際の医療の現場においては大切なスキルと考えられます。たとえば、複雑な病状を説明するときや、患者さんやその家族が心理的に不安定な場合、配慮をもって説明の仕方を調整することが必要です。このような場面では、ただ単に事実を述べるだけではなく、相手がどのように受け取るかを考慮し、コミュニケーションの仕方を柔軟に変えることが重要です。これは、医師の側が機転を利かせ、患者のニーズや感情に合わせた柔軟な対応が求められる瞬間です。また、「あざとさ」という言葉は時にマイナスの印象を持つこともありますが、相手に配慮した対応や、状況に応じて柔軟に対応する姿勢と捉えることができます。患者さんに安心感を与えるためにユーモアを交えたり、少しリラックスさせる会話を挟むなど、場を和ませるための機転は、医療現場では非常に有効です。こうした努力が明らかに見えている医師へ「あざとい人」というのは、むしろ褒め言葉かもしれません。「あざとくて何が悪いのかニャ」夜更けに原稿を書いていると、我が家の愛猫レオが、こう言いながら膝の上に乗ってきます。「ニャー…」という鳴き声ですが、自分には、レオがしゃべっているかのように聞こえるのです。「あざとさ」が、ネガティブなニュアンスを含んだ言葉とされるのはなぜでしょうか。「あざとい女」というように、自分を最大限に可愛く見せる方法を熟知している、計算された自己演出的な可愛さという意味で使われることが多いからでしょうか。言い換えれば、「男ウケを狙った私カワイイでしょ?」と言う雰囲気を指す表現が「あざとさ」かもしれません。当人がそれを狙ったかどうかは関係なく、もっぱら見る側の主観によって、結果として「あざとい」と判断される生き物がいます。それは猫です。レオは、おなかを天井に向けてバンザイして寝ていることがあります。舌をしまい忘れてアッカンベーしていることもあります。こういったポーズをとる猫は、カワイイ自分を意識していることは間違いありません。「猫好きを悩殺しよう!」という計略を巡らせる猫は、「あざとさ」のブラックホールです。とことん吸い込まれ脱出不能です。

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尿路上皮がん1次治療の更新は30年ぶり、ペムブロリズマブ+EV併用療法とは/MSD

 2024年9月24日、根治切除不能な尿路上皮がんに対する1次治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)とネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体(ADC)エンホルツマブ ベドチン(商品名:パドセブ、以下EV)の併用療法および、ペムブロリズマブ単独療法(プラチナ製剤を含む化学療法が選択できない場合のみ)が、本邦で適応追加に関する承認を取得した。尿路上皮がんの標準1次治療の更新としては30年ぶりとなる。10月31日、MSD主催のメディアセミナーが開催され、菊地 栄次氏(聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科学)が「転移性尿路上皮癌治療“ペムブロリズマブ+エンホルツマブ ベドチンへの期待”」と題した講演を行った。ペムブロリズマブ+EV併用は化学療法と比較しPFS・OSを約2倍に延長 併用療法の承認根拠となったKEYNOTE-A39/EV-302試験は、未治療・根治切除不能な局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者(886例、日本人40例)を対象に、ペムブロリズマブ(最大35サイクル)+EV(投与サイクル数上限なし)併用療法と化学療法(シスプラチンまたはカルボプラチン+ゲムシタビン、最大6サイクル)の有効性と安全性を評価した非盲検無作為化第III相試験。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)、副次評価項目は奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性などであった。 患者背景は年齢中央値が69.0歳、ECOG PSは0~1が96%以上を占めたがPS 2も2.5~3.4%含まれ、肝転移ありの患者は22.3~22.6%含まれた。追跡期間中央値17.2ヵ月におけるPFS中央値は化学療法群6.3ヵ月に対しペムブロリズマブ+EV群12.5ヵ月と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.38~0.54、p<0.00001)。またOS中央値に関しても、化学療法群16.1ヵ月に対して、ペムブロリズマブ+EV群31.5ヵ月と、有意に良好であった(HR:0.47、95%CI:0.38~0.58、p<0.00001)。菊地氏は、ペムブロリズマブ+EV群の完全奏効(CR)が29.1%(化学療法群:12.5%)、進行(PD)は8.7%(同:13.6%)であったことに触れ、「10人に3人で完全奏効が達成され、進行は10%未満というデータは非常に魅力的」と話した。アンメットニーズであるシスプラチン不適格症例でも高い有効性 本試験では、シスプラチンの適格性が層別因子の1つとされ、以下の不適格基準に基づき判断された(1つ以上を満たす場合、シスプラチン不適格とみなす):腎機能(30≦GFR<60mL/分※GFR≧50mL/分でそのほかのシスプラチン不適格基準に該当しない患者は、治験担当医師の臨床的判断に基づき、シスプラチン適格とみなしてもよい)全身状態(ECOG PSまたはWHO PSが2)NCI CTCAE(NCI CTCAE Grade2以上の聴力低下、末梢神経障害)心不全クラス分類(NYHAクラスIIIの心不全) 上記の不適格基準に合致したシスプラチン不適格症例は両群で約46%ずつ含まれた。不適格症例におけるPFS中央値は化学療法群6.1ヵ月に対しペムブロリズマブ+EV群10.6ヵ月(HR:0.43、95%CI:0.33~0.55)、OS中央値はそれぞれ12.7ヵ月、未到達となり(HR:0.43、95%CI:0.31~0.59)、ペムブロリズマブ+EV併用療法の有効性が確認されている。とくに注意すべき有害事象とその発現時期 ペムブロリズマブ+EV群の曝露期間中央値は9.43ヵ月であり、薬剤別にみるとペムブロリズマブが8.51ヵ月、EVが7.01ヵ月であった。いずれかの薬剤の投与中止および休薬に至った副作用としては末梢性感覚ニューロパチーが最も多く(それぞれ10.7%、17.7%)、菊地氏はこのコントロールが重要と指摘した。 ペムブロリズマブ投与による有害事象としては、甲状腺機能低下症が10.7%と最も多く認められた。同氏は甲状腺機能低下症についてはホルモン補充により管理可能とした一方、肺臓炎が9.5%で発生していることに注意が必要と話した。 EV投与による有害事象としては、発疹などの皮膚反応が最も多く(69.1%)、末梢性ニューロパチー(66.6%)、悪心・嘔吐および下痢などの消化器症状(64.8%)が多く認められている。また肺臓炎は10.2%で発生しており、同氏は「定期的な肺臓炎のモニターが必要となる」とした。肺臓炎の発現時期中央値は3.94(0.3~14.5)ヵ月、高血糖(0.72ヵ月)や皮膚反応(0.49ヵ月)は比較的早く発現し、末梢性ニューロパチーの発現時期中央値は3.29(0.1~17.7)ヵ月であった。 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインではペムブロリズマブ+EV併用療法がすでに1次治療の第一選択として位置付けられている。日本のガイドラインでの位置付けについて菊地氏は、ペムブロリズマブ+EV併用療法が使えない患者を定義していかなければならないとした。その際に参考になるのがKEYNOTE-A39/EV-302試験の除外基準で、重度の糖尿病、Grade2以上の末梢神経障害、抗PD-1/PD-L1抗体薬治療歴を有する患者であった。また、全身状態だけでなく社会・経済的状況も影響する可能性があるとし、まずは日本の実臨床での使用データを積み上げていく必要があると話した。

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乾癬への生物学的製剤、真菌感染症のリスクは?

 生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症リスクはどれくらいあるのか。南 圭人氏(東京医科大学皮膚科)らの研究グループは、臨床現場において十分に理解されていないその現状を調べることを目的として、単施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、インターロイキン(IL)-17阻害薬で治療を受けた乾癬患者は、他の生物学的製剤による治療を受けた患者よりも真菌感染症、とくにカンジダ症を引き起こす可能性が高いことが示された。さらに、生物学的製剤による治療を開始した年齢、糖尿病も真菌感染症の独立したリスク因子であることが示された。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2024年9月30日号掲載の報告。 研究グループは、生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症の罹患率とリスクを評価することを目的として、乾癬患者592例を後ろ向きに調査した。 主な結果は以下のとおり。・73/592例(12.3%)において真菌感染症が確認された。・IL-17阻害薬を使用した患者は、他の生物学的製剤を使用した患者よりも真菌感染症の発生率が高率であった。・真菌感染症のリスク因子は、生物学的製剤の種類(p=0.004)、生物学的製剤による治療開始時の年齢(オッズ比:1.04、95%信頼区間:1.02~1.06)、および糖尿病(同:2.40、1.20~4.79)であった。 著者らは、本研究には生物学的製剤による治療を受けなかった患者が対象に含まれていなかったこと、使用されていた生物学的製剤の種類が多くの患者で変更されていたことなどの限界を指摘している。

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市中肺炎の入院患者、経口抗菌薬単独での有効性

 市中肺炎の入院患者のほとんどで、静注抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが安全であることが無作為化比較試験で示されているが、最初から経口抗菌薬のみ投与した場合のデータは限られている。今回、入院中の市中肺炎患者を対象にβラクタム系薬の投与期間を検討したPneumonia Short Treatment(PST)試験の事後解析として、投与開始後3日間の抗菌薬投与経路を静脈内投与と経口投与に分けて有効性を比較したところ、有意差が認められなかったことをPST研究グループのAurelien Dinh氏らが報告した。Clinical Microbiology and Infection誌2024年8月号に掲載。 PST試験は、ICU以外の病棟に市中肺炎で入院した患者を対象に、投与開始から3日間はアモキシシリン・クラブラン酸または第3世代セファロスポリン(セフトリアキソン、セフォタキシム)を静脈内投与または経口投与し、その後プラセボ群とアモキシシリン・クラブラン酸群に無作為化して5日間経口投与した無作為化プラセボ対照試験である。本試験では、主要評価項目である抗菌薬の投与開始から15日目の治療失敗(「体温37.9℃超」「呼吸器症状の消失・改善なし」「原因を問わず抗菌薬を追加投与」の1つ以上)について、3日間投与が8日間投与に非劣性を示したことがすでに報告されている。 今回の事後解析では、投与経路別の有効性を調べるため、最初の3日間が静脈内投与、すべて経口投与の症例の治療失敗率を比較し、さらにサブグループ(アモキシシリン・クラブラン酸と第3世代セファロスポリン、アモキシシリン・クラブラン酸の静注と経口、多葉性肺炎、65歳以上、CURB-65スコア3~4)でも比較した。 主な結果は以下のとおり。・PST試験から200例が組み入れられ、最初の3日間静脈内投与の症例は93例(46.5%)、すべて経口投与の症例は107例(53.5%)であった。・15日目の治療失敗率は静脈内投与(26.9%)と経口投与(26.2%)で有意差はなかった(調整オッズ比:0.973、95%信頼区間:0.519~1.823、p=0.932)。・15日目の治療失敗率はサブグループ間で有意差はなかった。 著者らは「本研究は探索的事後解析で、少ない症例数とロジスティック回帰に基づいているため結論には限界がある」と述べ、またニューキノロン系薬が本試験から除外されていることから「入院を必要とする市中肺炎に対する投与経路による新たな無作為化比較試験が必要」としている。

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新PCIデバイスbioadaptor、アウトカム改善の可能性/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における、持続的なnon-plateauing(非平坦化)による有害事象の発生は依然として重要な課題とされている。スウェーデン・ルンド大学のDavid Erlinge氏らは「INFINITY-SWEDEHEART試験」において、急性冠症候群を含む冠動脈疾患患者では、non-plateauingのデバイス関連イベントを軽減するように設計された新たなPCIデバイス(DynamX bioadaptor、Elixir Medical製)は、最新の薬剤溶出ステント(DES)に対し有効性に関して非劣性であり、non-plateauingデバイス関連イベントを軽減し、アウトカムを改善する可能性を示した。研究の成果は、Lancet誌2024年11月2日号に掲載された。スウェーデンの無作為化非劣性試験 INFINITY-SWEDEHEART試験は、スウェーデンの20の病院で実施したレジストリベースの単盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年9月~2023年7月に患者の無作為化を行った(Elixir Medicalの助成を受けた)。 Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registryのデータから、18~85歳、慢性または急性冠症候群の虚血性心疾患患者で、PCIの適応があり、1つの病変につき1つのデバイスの留置に適した最大3つのde novo病変を有する患者2,399例を選出した。 これらの患者を、DynamX bioadaptorを留置する群(bioadaptor群、1,201例、1,419病変)、またはDES(Onyxゾタロリムス溶出性ステント)を留置する群(DES群、1,198例、1,431病変)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での標的病変不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的病変の再血行再建術の複合)とし、ITT解析を行った。両群の絶対リスク差の両側95%信頼区間(CI)の上限値が4.2%未満の場合に、非劣性と判定することとした。ランドマーク解析の結果は有意に良好 全体の年齢中央値は69.5歳(四分位範囲[IQR]:61.2~75.6)、575例(24.0%)が女性であった。急性冠症候群が1,838例(76.6%)含まれた。デバイス留置の成功率は、bioadaptor群が99.5%(1,411/1,417病変)、DES群は99.8%(1,429/1,431病変)であり、手技成功率はそれぞれ99.6%(1,193/1,199例)および99.9%(1,193/1,195例)だった。 12ヵ月時の標的病変不全の発生率は、bioadaptor群が2.4%(28/1,189例)、DES群は2.8%(33/1,192例)であり、両群のリスク差は-0.41%(95%CI:-1.94~1.11)と、DES群に対するbioadaptor群の非劣性の基準が満たされた(非劣性のp<0.0001)。 一方、事前に規定された6ヵ月の時点から12ヵ月時までのランドマーク解析では、Kaplan-Meier法による標的病変不全推定値は、DES群の1.7%(16/1,176例)に対し、bioadaptor群は0.3%(3/1,170例)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.19、95%CI:0.06~0.65、p=0.0079)。 また、同様の解析による標的血管不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的血管の再血行再建術の複合)(bioadaptor群0.8%[8/1,167例]vs.DES群2.5%[23/1,174例]、HR:0.35[95%CI:0.16~0.79]、p=0.011)、および急性冠症候群患者における標的病変不全(0.3%[2/906例]vs.1.8%[12/895例]、0.17[0.04~0.74]、p=0.018)も、bioadaptor群で有意に優れた。デバイス血栓症の発生率は低い 安全性のアウトカムであるdefiniteまたはprobableのデバイス血栓症の発生率は低く、両群間に差はなかった(bioadaptor群0.7%[8/1,201例]vs.DES群0.5%[6/1,198例]、イベント発生率の群間差:0.16%[95%CI:-0.50~0.83])。 著者は、「これまでに得られたエビデンスに基づくと、この新デバイスはステント関連イベントの発生を軽減可能であるとともに、de novo病変患者の治療選択肢として有望視されるものであり、今後、長期の追跡を行って確認する必要がある」としている。

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レカネマブかドナネマブか?【外来で役立つ!認知症Topics】第23回

アルツハイマー病治療における新たな選択肢わが国でアルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬として認可されたレカネマブとドナネマブのどっちがいい? 今日、これがAD治療の最前線の話題かもしれない。両者は、ADの原因物質とされてきたアミロイドを標的とする抗アミロイドβモノクローナル抗体である(図1)。図1 抗アミロイドβモノクローナル抗体が作用する仕組み画像を拡大する開発中のAD治療薬:ターゲットの新潮流ところが今日では、ADの新薬開発における主流は、このアミロイド、あるいはもう一つの老舗物質のタウから、ほかのターゲットへと移ってきている。たとえば炎症や免疫、またシナプスの可塑性と神経保護などへの薬である。とはいえ、「アルツハイマー病治療薬開発のPipeline:2024」1)が指摘するように、この種の薬剤が米国食品医薬品局に承認されるまでに、うまくいっても、基礎研究を入れると13年、臨床研究で8年弱かかる。だから当面はアミロイドとタウを標的とする薬剤の効果的な使い方が臨床現場の最大課題になるだろう。歴史的にみると、本疾患の名付け親のアロイス・アルツハイマー博士は、看取ったアウグステという女性の若年性AD患者の死後、脳を剖検した。その結果、この疾患の主要な病理所見は、アミロイドを主成分とする老人斑とタウが主成分の神経原線維変化(NFT)だとした。以来、治療薬開発においてアミロイドとタウが主流にあった。なおAD脳では、老人斑が出現した後に神経原線維変化が現れる。だから理論的には、病初期にアミロイドを消滅させればNFTも生じないはずである。ところが従来の研究的治療では、アミロイドを消してもADは進行した。どうもアミロイドはこの病気の火付け役であって、ほかにも悪役達がいると考えられるようになった。だから炎症や免疫、シナプスの可塑性や神経保護等に注目する創薬へシフトしたと言うこともできる。レカネマブとドナネマブの比較ポイントさて本題のレカネマブかドナネマブかを論じるうえでのポイントは、まずは効果、そして最大の副作用ARIA(脳血管周囲の浮腫と出血)の発生率だろう。またいずれも医療機関で点滴投与するだけに、投与頻度は大きな問題である。さらに作用機序の異同に注目する人も多い。効果の指標は、図2のように症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間に要約されるだろう。レカネマブでは軽減率27%、期間7.5ヵ月2)、またドナネマブでは28.9%、5.4ヵ月3)とされる。ほぼ互角といってよい。副作用ARIAは、レカネマブで脳の浮腫や滲出液貯留(ARIA-E)が12.6%、微小出血(ARIA-H)が17.3%認められた。ドナネマブではARIA-Eが24.0%、ARIA-Hは31.4%であった。これについてはレカネマブが優れているかもしれない。投与方法はいずれも点滴であり、前者は2週間に1度、後者は4週間に1度である。これについて多くの人はドナネマブを好むだろう。図2 効果の指標:症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間画像を拡大するアミロイドβターゲットの違いレカネマブとドナネマブのターゲットの違いは図3のとおりだ。アミロイド、とくにアミロイドβは、初めは小さなかたまり(凝集体)だが、だんだんと大きな老人斑へと成長する。かたまりの大きさに応じて、モノマーとかオリゴマーなど「プロトフィブリル」と総称される初期の段階を経て、最終的に老人斑として沈着する。レカネマブはプロトフィブリルと、より大きなアミロイド斑とに結合するとされる。一方ドナネマブは、脳に沈着後にある程度の時間が経ち「ピログルタミル化」という修飾がなされたアミロイド斑に選択的に結合する。図3 レカネマブとドナネマブのターゲット画像を拡大するさて、アミロイドが神経細胞に対して持つ毒性は、老人斑にあるのではない。その比較的初期の段階に最も毒性が強いとされる。それならレカネマブのほうがより効果は強いのではないかと思える。ところが実際には、効果はまあ互角である。これに関しては、臨床の場では、まだ知られていない作用や効果の関与があるのかもしれない。今後のAD治療の展望終わりに、AD治療薬の開発もその普及も容易ではない。たとえば、ドネペジルに先んじて1993年にAD治療薬の嚆矢となったコリンエステラーゼ阻害薬tacrineは肝毒性のためすぐに発売後すぐに市場から消えた。また世界初の疾患修飾薬aducanumabは、2024年1月31日、製造も治験も中止になってしまった。これからのAD治療において、疾患修飾薬への一辺倒にはならないだろうと思う。実際、両方の薬剤の治験では、ドネペジルなど既存の対症療法薬も併用されたケースが多かった。既存薬は残存神経細胞にいわば「喝!」を入れ、疾患修飾薬は病気の進行に「歯止め」をかけるものだろう。だから基本方針は、対症療法と病気進行阻止の両者を併用することだろう。心配される併用による副作用だが、両薬剤の治験において、そのような副作用は聞いていない。今後は、臨床の場では、併用による相乗効果をもたらすような投与法のさじ加減が注目されるだろう。参考1)Cummings J, et al. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimers Dement (N Y) . 2024;10:e12465.2)van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21.3)Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330:512-527.

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英語で「念のために」は?【1分★医療英語】第156回

第156回 英語で「念のために」は?《例文1》Let's give it another week, just to be on the safe side.(念のため、もう1週間様子を見ましょう)《例文2》I need to take an X-ray, just to be on the safe side and make sure there's no fracture.(念のため、骨折がないか確認するのにレントゲンを撮りたいと思います)《解説》“just to be on the safe side”は直訳すると「安全な側にいるようにするために」となり、「起こりうる問題を避けるために何かをする」というニュアンスを表現する言葉です。医療現場で、見逃すと致死的になる疾患などを除外するため検査を行いたいときなどによく使う表現です。「念のために」を表すほかの表現としては、“just in case”や“just to be sure”などといったフレーズがあります。安全策のために、本来行うべきことよりも過剰に検査や治療を行うことを表す表現としては、“to make sure we are not missing anything”(何か見落としがないか確認するために)や、“I’d rather be safe than sorry.”(後悔するくらいなら安全策を取るべきです)などがあります。講師紹介

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第240回 ウイルス学者が自身の乳がんを手ずから精製したウイルスで治療

50歳の女性科学者が研究室で手ずから作ったウイルスで自身の乳がんを治療し、成功しました。クロアチアのザグレブ大学のBeata Halassy氏は2016年に乳がんと診断され、その2年後の2018年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)を再発します。さらに2020年にはかつて乳房切除したところの最初は小さかった漿液腫が直径2cmの固形腫瘍へと進展して、2回目の再発に直面しました1)。MRI/PET-CT検査で転移やリンパ節への移行は認められなかったものの、腫瘍は胸筋や皮膚に達していました。Halassy氏はその再発も手に余るTNBCであろうと覚悟し、がん細胞を死なせ、抗腫瘍免疫を促す腫瘍溶解性ウイルスに似たウイルスを腫瘍へ投与する治療をする、と彼女を診る腫瘍科医に告げました。腫瘍溶解性ウイルス治療(OVT)の経過を観察することを腫瘍科医は了承し、有害事象や腫瘍進展の際にOVTを止めて定番療法が始められるようにしました。OVTの臨床試験は進行した転移を有するがんをもっぱら対象としてきましが、転移前のがんを対象とする開発も始まっています。たとえば、転移前の乳がんのOVT込み術前治療を検討した第I/II相試験で奏効率向上効果が示唆されています2)。Halassy氏はOVTの専門家ではありませんが、ウイルスの培養や精製の経験はOVT治療の実行の自信となりました。Halassy氏はかつて研究で扱ったことがある2つのウイルスを順番に自身のがんに投与しました。その1つは小児ワクチン接種で安全なことが知られる麻疹ウイルス(MV)のエドモンストンザグレブ株です。もう1つは副作用といえばせいぜい軽いインフルエンザ様症状を引き起こすぐらいで、ヒトにほとんど無害な水疱性口内炎ウイルス(VSV)のインディアナ株です。MVは乳がんで豊富に発現する分子2つを足がかりにして細胞に侵入し、VSVはマウスでの検討で乳がん阻止効果が認められています。Halassy氏の共同研究者はHalassy氏が準備したそれらウイルスをHalassy氏の腫瘍に2ヵ月にわたって直接注射しました。幸いOVTはうまくいき、もとは2.47cm3だった腫瘍は0.91cm3へと大幅に縮小しました。硬すぎて注射針を刺すのが極めて困難だった腫瘍は、治療後にやわ(softer)になって容易に注射できるようになりました1)。また、侵襲していた胸筋や皮膚から離脱し、手術で取り除きやすくなりました。全身の副作用といえば発熱と寒気ぐらいで、深刻な副作用は認められませんでした。取り出した腫瘍を調べたところ、免疫細胞のリンパ球が腫瘍塊の45%を占めるほどにがっつり侵入しており、リンパ球と線維組織が豊富で腫瘍細胞が見当たらない部分もありました。そのような豊富な線維化は昔ながらの術前化学療法での完全寛解後にしばしば認められます。どうやらOVTは目当ての効果を発揮して免疫系の攻撃を導いたようです。取り出した腫瘍にHER2が認められたことからHalassy氏は手術後に抗HER2抗体トラスツズマブを1年間使用しました。そして手術後に再発なしで45ヵ月を過ごすことができています。数多のジャーナルが掲載拒否Halassy氏の手ずからのウイルス治療の報告は十数ものジャーナルに却下された後、今夏8月にようやくVaccines誌に掲載されました。Halassy氏の自己治療(self-experimentation)の掲載を拒否したジャーナルの倫理上の懸念は意外なことではないとの法と医学の専門家Jacob Sherkow氏の見解がNattureのニュースで紹介されています3)。掲載したら患者が定番の治療を拒んでHalassy氏のような治療を試すことを促してしまうかもしれないということが問題なのだとSherkow氏は言っています。一方、自己治療の経験が埋没しないようにする手立ても必要だとSherkow氏は考えています。Halassy氏もSherkow氏が指摘するような心配は心得ており、がんの最初の治療手段として腫瘍溶解性ウイルスを自己投与してはいけないと言っています1)。そもそも、実行には多大な科学的素養と技術を要する自身の治療を真似ようとする人はいないだろうとHalassy氏は踏んでいます。Halassy氏が望むのは、自身の経験ががんの術前治療でのOVTの使用を検討する正式な臨床試験が進展することです。いまやHalassy氏の経験から新たな道が生まれようとしています。この9月にHalassy氏は家畜のがんを腫瘍溶解性ウイルスで治療する取り組みへの資金を手に入れました3)。目指すものが自身の自己治療の経験によってまったく違うものになったとHalassy氏は言っています。参考1)Forcic D, et al. Vaccines (Basel). 2024;12:958. 2)Soliman H, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:1012-1018.3)This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab / Nature

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冠動脈血行再建術のガイド、QFRは支持されず/Lancet

 中等度の冠動脈狭窄を有する患者の血行再建術を決定するガイドとして、1年後の臨床アウトカム(死亡、心筋梗塞、予定外の血行再建術)に関し、定量的流量比(QFR)は心筋血流予備量比(FFR)に対して非劣性の基準を満たさず、FFRが利用可能な場合はQFRの使用は支持されないことが、デンマーク・オーフス大学のBirgitte Krogsgaard Andersen氏らが実施した「FAVOR III Europe試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2024年10月30日号で報告された。欧州11ヵ国の無作為化非劣性試験 FAVOR III Europe試験は、侵襲的冠動脈造影中に冠動脈へのプレッシャーワイヤーの留置を要するFFRに対して、これを必要としないQFRの非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2018年11月~2023年7月に欧州11ヵ国34施設で患者を登録した(Medis Medical Imaging Systemsなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上、慢性冠症候群または安定化した急性冠症候群で、少なくとも1つの中等度の非責任病変(肉眼的評価で直径40~90%の狭窄)を有する患者を対象とした。 被験者を、QFRガイドを受ける群またはFFRガイドを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での死亡、心筋梗塞、予定外の血行再建術の複合とした。非劣性マージンは3.4%に設定し、主解析はITT集団で行った。死亡、心筋梗塞、予期せぬ血行再建術も多い傾向 2,000例を登録し、QFR群に1,008例、FFR群に992例を割り付けた。全体の年齢中央値は67.3歳(四分位範囲[IQR]:59.9~74.7)で、462例(23.1%)が女性であった。1,941例中1,300例(67.0%)が慢性冠症候群、641例(33.0%)が急性冠症候群であった。手技成功率はQFR群96.9%、FFR群96.4%で、全体の追跡期間中央値は365日(IQR:365~365)だった。 12ヵ月の時点で、主要エンドポイントのイベントはQFR群の67例(6.7%)、FFR群の41例(4.2%)で発生した(ハザード比[HR]:1.63、95%信頼区間[CI]:1.11~2.41)。イベント発生割合の差は2.5%(90%CI[両側]:0.9~4.2)であり、90%CIの上限値が事前に規定された非劣性マージン(3.4%)を上回っており、QFRのFFRに対する非劣性の基準は満たされなかった。 死亡は、QFR群14例(1.4%)、FFR群11例(1.1%)で発生した(HR:1.25、95%CI:0.57~2.76)。また、心筋梗塞はそれぞれ37例(3.7%)および20例(2.0%)で発生し(1.84、1.07~3.17)、予定外の冠動脈血行再建術は33例(3.3%)および24例(2.5%)で行われた(1.36、0.81~2.30)。手技関連有害事象は18例ずつに 手技関連の有害事象は各群18例(1.8%)で発現した。最も頻度の高い手技関連有害事象は手技関連心筋梗塞であり、QFR群で10例(1.0%)、FFR群で7例(0.7%)に認めた。QFR群の1例が手技関連の腎不全により死亡した。 著者は、「QFRは、最近、欧州心臓病学会(ESC)のクラス1Bの適応を得たが、本研究の知見では、FFRが使用可能な状況においては、QFRはFFRの合理的な代替法ではない可能性があり、QFRの診断能を改善するためにさらなる開発を進める必要がある」としている。

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