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尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第10回

尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?Teaching point(1)尿からグラム陽性球菌が検出されたときにどのような起因菌を想定するかを学ぶ(2)腸球菌(Enterococcus属)に対して、なぜグラム染色をすることが重要なのかを学ぶ(3)尿から黄色ブドウ球菌(S. aureus)が検出された場合は必ず菌血症からの二次的な細菌尿を考慮する(4)一歩進んだ診療をしたい人はAerococcus属についても勉強しよう《症例1》82歳女性。施設入所中で、神経因性膀胱に対し、尿道カテーテルが挿入されている方が発熱・悪寒戦慄にて救急受診となった。研修医のA先生は本連載の第1~4回(腎盂腎炎の診断)をよく勉強していたので、病歴・身体所見・血液検査・尿検査などから尿路感染症と診断した。グラム染色では白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。そこから先はよく勉強していなかったA先生は、尿路感染症によく使われる(とA先生が思っている)セフトリアキソン(CTRX)を起因菌も考えず「とりあえず生ビール」のように投与した。A先生は翌朝、自信満々にプレゼンテーションしたが、なぜか指導医からこっぴどく叱られた。《症例2》65歳女性、閉経はしているがほかの基礎疾患はない。1ヵ月前に抜歯を伴う歯科治療歴あり。5日前からの発熱があり内科外来を受診。後期研修医のB先生は病歴・身体所見・血液検査・尿検査を行った。清潔操作にて導尿し採取した尿検体でグラム染色を行ったところ、グラム陽性球菌のcluster像(GPC-cluster)が確認できた。「尿路感染症の起因菌でブドウ球菌はまれって書いてあったので、これはコンタミネーションでしょう! 尿路感染症を疑う所見もないしね!」と考えたA先生は患者を帰宅させた。夕方、A先生のカルテをチェックした指導医が真っ青になって患者を呼び戻した。「え? なんかまずいことした…?」とA先生も冷や汗びっしょりになった…。はじめに尿路感染症を疑い、グラム染色を行った際に「グラム陽性球菌(GPC)」が検出された場合、もしくは細菌検査室から「GPC+」と結果が返ってきた場合、自信をもって対応できるだろうか? また危険な疾患を見逃しなく診療できるだろうか? 今回は、なかなか整理しにくい「尿からグラム陽性球菌が検出されたときの考え方」について解説する。1.尿路感染症の起因菌におけるグラム陽性球菌検出の割合は?そもそも尿路感染症におけるグラム陽性球菌にはどのような種類がいるのか、その頻度はどれくらいなのかを把握する必要がある。表11)は腎盂腎炎の起因菌を男性・女性・入院の有無で分けた表である。なお、このデータは1997〜2001年とやや古く、かつ米国の研究である。表22)にわが国における2010年のデータ(女性の膀胱炎患者)を示すが、表1のデータとほぼ同様であると考えられる。画像を拡大する画像を拡大するほかの文献も合わせて考えると、おおよそ5~20%の割合でグラム陽性球菌が検出され、Staphylococcus saprophyticus、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Streptococcus agalactiaeなどが主な起因菌であるといえる3)。閉経後や尿道カテーテル留置中の患者の場合はどうだろうか? 閉経後に尿路感染症のリスクが上昇することはよく知られているが、その起因菌にも変化がみられる。たとえば若年女性では高齢女性と比較してS. saprophyticusの検出割合が有意に多かったと報告されている2)。また尿道カテーテル留置中の患者の尿路感染症、いわゆるCAUTI(カテーテル関連尿路感染症)においてはEnterococcus属が約15%程度と前述の報告と比較して高いことが知られている4)。グラム陽性球菌が検出されたときにまず考えるべきこと尿からグラム陽性球菌が検出された際にまず考えるべきことはコンタミネーションの存在である。これは女性の中間尿による検体の場合、とくに考慮する必要がある。過去の文献によると、女性の膀胱炎において、S. saprophyticusはコンタミネーションの可能性が低いとされる一方で、Enterococcus属やS. agalactiaeはコンタミネーションの可能性が高いとされている5)。中間尿を用いた検査結果の判断に悩む場合はカテーテル尿による再検を躊躇しない姿勢が重要である。また採取後常温で長時間放置した検体など、取り扱いが不適切な場合もコンタミネーションの原因となるため注意したい。グラム染色でこれらをどう判断する?コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、次に可能な範囲でグラム染色による菌種のあたりをつけておくことも重要である。以下に各菌種の臨床的特徴およびグラム染色における特徴について簡単に述べる。●Enterococcus属Enterococcus属による尿路感染症は一般的に男性の尿路感染症やCAUTIでしばしばみられる一方で、若年女性の単純性尿路感染症では前述のとおり、コンタミネーションである可能性が高いことに注意する必要がある。Enterococcus属は基本的にセフェム系抗菌薬に耐性を示す。言い換えると「グラム染色なしに『尿路感染症なのでとりあえずセフトリアキソン』と投与すると治療を失敗する可能性が高い」ということである。つまり、グラム染色が抗菌薬選択に大きく寄与する菌種ともいえる。Enterococcus属は一般的に2〜10個前後の短連鎖の形状を示すことが特徴である。また、Enterococcus属は一般的にペニシリン系抗菌薬に感受性のあるE. faecalisとペニシリン系抗菌薬への耐性が高いE. faeciumの2種類が多くを占め、治療方針を大きく左右する。一般的にE. faecalisはやや楕円形、E. faeciumでは球形であることが多く、両者を区別する一助になる(図1)。画像を拡大するまた血液培養においては落花生サイン(2つ並んだ菌体に切痕が存在し、あたかも落花生のように見える所見)が鑑別に有用という報告もあるが6)、条件のよい血液培養と異なり、尿検体ではその特徴がハッキリ現れない場合も多い(図2)。画像を拡大する●Staphylococcus属Staphylococcus属は前述のとおり、S. saprophyticusとS. aureusが主な菌種である。S. saprophyticusは若年女性のUTIの原因として代表的であるが、時に施設入所中の高齢男性・尿道カテーテル留置中の高齢男性にもみられる。一方で、S. aureusが尿路感染症の起因菌となる可能性は低く、前述の表1などからも全体の約1〜2%程度であることがわかる。またその多くは妊娠中の女性や尿道カテーテル留置中の患者である。ただし、S. aureus菌血症患者で、尿路感染症ではないにもかかわらず尿からS. aureusが検出されることがある7)。したがって、尿からS. aureusが検出された場合は感染性心内膜炎を含む尿路以外でのS. aureus感染症・菌血症の検索が必要になることもある。Staphylococcus属はグラム染色でcluster状のグラム陽性球菌が確認できるが、S. saprophyticusの同定にはノボビオシン感受性テストを用いることが多く、グラム染色だけでS. saprophyticusとS. aureusを区別することは困難である。●Streptococcus属Streptococcus属ではS. agalactiae(GBS)が尿路感染症における主要な菌である。一般的に頻度は低いが、妊婦・施設入所中の高齢者・免疫抑制患者・泌尿器系の異常を有する患者などでみられることがあり、またこれらの患者では感染症が重篤化しやすいため注意が必要である。グラム染色ではEnterococcus属と比較して長い連鎖を呈することが多い。●Aerococcus属前述の頻度の高い起因菌としては提示されていなかったが、Aerococcus属による尿路感染症は解釈や治療に注意が必要であるため、ここで述べておく。Aerococcus属は通常の検査のみではしばしばGranulicatella属(いわゆるViridans streptococci)と誤認され、常在菌として処理されてしまうことがある。主に高齢者の尿路感染症の起因菌となるが、スルホンアミド系抗菌薬に対して耐性をもつことが多く、Aerococcus属と認識できずST合剤などで治療を行った場合、重篤化してしまう可能性が指摘されている8)。グラム染色では球菌が4つくっついて四角形(四量体)を形成するのが特徴的だが、Staphylococcus属のようにクラスター状に集族することもある。《症例1》のその後また別の日。過去に尿路感染症の既往があり、施設入所中・尿道カテーテル挿入中の80歳女性が発熱で救急搬送された。A先生は病歴・身体所見・検査所見から尿路感染症の可能性が高いと判断した。また、尿のグラム染色からは白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。1つ1つの球菌は楕円形に見えた。過去の尿培養からもE. faecalisが検出されており、今回もE. faecalisによる尿路感染症が疑われた。全身状態は安定していたため、治療失敗時のescalationを念頭に置きながら、E. faecalisの可能性を考慮しアンピシリンで治療を開始した。その後、患者の状態は速やかに改善した。《症例2》のその後指導医から電話を受けた患者が再来院した。追加検査を行うと、経胸壁エコーでもわかる疣贅が存在した。幸いなことに現時点で弁破壊はほとんどなく、心不全徴候も存在しなかった。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎が疑われ、速やかに血液培養・抗菌薬投与を実施のうえ、入院となった。冷や汗びっしょりだったA先生も、患者に大きな不利益がなかったことに少し安堵した。おわりに尿グラム染色、あるいは培養検査でグラム陽性球菌が検出された場合の対応について再度まとめておく。尿路感染症におけるグラム陽性球菌ではS. saprophyticus、E. faecalis、S. aureus、S. agalactiaeなどが代表的である。グラム陽性球菌が検出された場合、S. saprophyticus属以外はまずコンタミネーションの可能性を考慮する。コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、Enterococcus属やStreptococcus属のような連鎖状の球菌なのか、Staphylococcus属のようなクラスター状の球菌なのかを判断する。また四量体の球菌をみつけた場合はAerococcus属の可能性を考慮する。また、S. aureusの場合、菌血症由来の可能性があり、感染性心内膜炎をはじめとしたほかの感染源の検索を行うこともある。<謝辞>グラム染色画像は大阪市立総合医療センター笠松 悠先生・麻岡 大裕先生よりご提供いただきました。また、笠松先生には本項執筆に際して数々のご助言をいただきました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。1)Czaja CA, et al. Clin Infect Dis. 2007;45:273-280.2)Hayami H, et al. J Infect Chemother. 2013;19:393-403.3)Japanese Association for Infectious Disease/Japanese Society of Chemotherapy, et al. J Infect Chemother. 2017;23:733-751.4)Shuman EK, Chenoweth CE. Crit Care Med. 2010;38:S373-S379.5)Hooton TM et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.6)林 俊誠 ほか. 感染症誌. 2019;93:306-311.7)Asgeirsson H, et al. J Infect. 2012;64:41-46.8)Zhang Q, et al. J Clin Microbiol. 2000;38:1703-1705.

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便失禁を起こしやすい患者とは?便失禁診療ガイドライン改訂

 日本大腸肛門病学会が編集を手掛けた『便失禁診療ガイドライン2024年版改訂第2版』が2024年10月31日に発刊された。2017年に発刊された初版から7年ぶりの改訂となる。今回、便失禁の定義や病態、診断・評価法、初期治療から専門的治療に至るまでの基本的知識がアップデートされ、新たに失禁関連皮膚炎や出産後患者に関する記載が拡充された。また、治療法選択や専門施設との連携のタイミングなど、判断に迷うテーマについてはClinical Question(CQ)で推奨を示し、すべての医療職にとっての指針となるように作成されている。 便失禁の定義とは「無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状」である。このほかに「無意識または自分の意思に反して肛門からガスが漏れる症状」をガス失禁、便失禁とガス失禁を合わせて肛門失禁と定義される。国内での有病率について、65歳以上での便失禁は男性8.7%、女性6.6%である。一方、ガス失禁を含む肛門失禁は34.4%であるが、男性15.5%に対して女性42.7%と性差が見られる。主な便失禁の発症リスク因子として、年齢・性別などの身体的条件や産科的条件に加え、BMIが30を超える肥満、全身状態不良、身体制約などが報告されている。また、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、糖尿病、過活動膀胱、骨盤臓器脱、認知症や脊髄損傷といった疾患もリスク因子となる。直腸がんも便失禁の原因になりうるが、とくに直腸がんに対する肛門温存手術後の排便障害である低位前方切除後症候群の発生率は高率で、主訴の直腸がんが根治した後に排便障害を抱えて生活している患者は増加傾向であるという。 このような病態背景があるなか、本診療ガイドラインは「便失禁診療・ケアを普及することで、便失禁症状を改善し、便失禁を有する患者の生活の質の改善」を目的として、便失禁の診断・治療とともに便失禁の程度とその状態の評価、便失禁に伴う皮膚症状や生活の質への評価と対応、寝たきりとなっている患者への介護などの側面からも捉え、8つの重要臨床課題と5つのClinical Question(CQ)が設定されている。<重要臨床課題>(1)便失禁の臨床評価(2)特殊病態の臨床評価(3)治療方針決定に必要な検査(4)食事・生活・排便習慣指導の有用性(5)薬物療法の適応と有用性(6)骨盤底筋訓練・バイオフィードバック療法の適応と有用性(7)洗腸療法の適応と有用性(8)手術療法の適応と有用性<Clinical Question>CQ1:便失禁の薬物療法において、ポリカルボフィルカルシウムとロペラミド塩酸塩はどのように使い分けるか?CQ2:出産後に便失禁が発症した場合、専門施設への最適な紹介時期はいつか?CQ3:分娩時肛門括約筋損傷の既往を有する妊婦の出産方法として、経腟分娩と帝王切開のどちらが推奨されるか?CQ4:肛門括約筋断裂による便失禁に対して、肛門括約筋形成術と仙骨神経刺激療法のどちらを先行すべきか?CQ5:脊髄障害を原因とする便失禁の治療法として、仙骨神経刺激療法は有用か? なお、日本大腸肛門病学会は本ガイドラインの使用について、便失禁を診療する医師だけではなくケアを行う介護者や一般市民も想定しており、便失禁診療の一助となることを願っているという。

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味覚異常の2割は口腔疾患が主因で半数強に亜鉛以外の治療が必要―歯科外来調査

 歯科における味覚障害患者の特徴を詳細に検討した結果が報告された。患者の約2割は口腔疾患が主因であり、半数強は亜鉛製剤処方以外の治療が必要だったという。北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座の坂田健一郎氏、板垣竜樹氏らの研究によるもので、「Biomedicines」に論文が9月23日掲載された。 近年、味覚異常の患者数が増加傾向にあり、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックで顕著に増加した。味覚異常の原因として古くから亜鉛欠乏が知られており、治療として通常まず亜鉛製剤の投与が行われる。しかし、亜鉛製剤が無効な症例も少なくない。また味覚障害の原因に関する研究は、耳鼻咽喉科で行われたものや既に何らかの基礎疾患を有する患者群での報告が多くを占めている。これらを背景として坂田氏らは、北海道大学病院口腔科の患者データを用いた後ろ向き研究を行った。 2007~2018年に同科を受診し味覚障害と診断された患者は322人であり、平均年齢66.3±13.1歳、女性73.3%、平均罹病期間15.2±20.0カ月だった。味覚障害の診断および原因の探索は、口腔外科専門医による問診、舌・口腔・鼻腔の観察、味覚検査、血液検査(亜鉛、銅、鉄、ビタミンB12)、唾液分泌検査、口腔カンジダ培養検査、うつレベルの評価(自己評価に基づくスクリーニングツール〔self-rating depression scale;SDS〕を使用)などにより行われた。 味覚検査は、舌の4領域に4種類の味質を使用して味を感じる閾値を特定し、年齢を考慮して判定するろ紙ディスク法、または、口の中全体で味を感じ取れるか否かで診断する全口腔法という2種類の検査法を施行し、量的味覚障害または質的味覚障害と診断された。これら両者による診断で、年齢、性別の分布に有意差はなかった。また血清亜鉛濃度も、量的味覚障害の患者群が73.1±16.3μg/dL、質的味覚障害の患者群が73.4±15.8μg/dLであり、有意差がなかった(血清亜鉛濃度の基準範囲は一般的に80μg/dLが下限)。ただし、味覚障害の主因については、心因性と判定された患者の割合が、量的味覚障害群に比べて質的味覚障害群では約1.5倍多いという違いが見られた。 全体解析による味覚障害の主因は、心因性が35.1%、口腔疾患(口腔カンジダ症、口腔乾燥症など)が19.9%、亜鉛欠乏が10.2%、急性感染症が5.0%、全身性疾患が5.0%、医原性(薬剤性以外)が2.5%、薬剤性が1.9%、特発性(原因が不明または特定不能)が20.5%だった。 この結果から、歯科で味覚障害と診断された患者では、亜鉛欠乏が主因のケースはそれほど多くなく、むしろ心因性や口腔疾患による味覚障害が多いことが明らかになった。また、実際に行われていた治療を見ると、半数以上の患者が亜鉛製剤処方以外の処置を要していた。これらを基に著者らは、「味覚異常を訴え歯科を受診した患者の場合、血清亜鉛値から得られる情報は参考程度にとどまる。臨床においては、低亜鉛血症を認めた場合は亜鉛製剤を処方しながら味覚障害の原因探索を進めるという対応がベストプラクティスと言えるのではないか」と述べている。また、心因性の味覚障害が多数を占めることから、「診断のサポートとしてSDSなどによるうつレベルの評価が有用と考えられる」と付け加えている。

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便秘【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第21回

便秘は古今東西いろいろな場面で遭遇します。しかし、「便秘でしょ」と軽く考えていると痛い目を見ることがあります。今回は救急外来での症例を通じて、便秘診療の注意点を確認してみましょう。<症例>80歳、女性主訴便秘病歴3日くらい前から排便がなく、1時間前から腹痛を訴えている。本人が「便秘かも」と言っており、浣腸を希望して受診した。思わず「浣腸しておいて」と言いたくなるかと思いますがそこはぐっと我慢して、ステップを追って診察していきましょう。ステップ1 本当に便秘?と疑う腹痛の鑑別は多岐にわたります。鑑別を記載すると膨大になるため割愛しますが、患者さんが「便秘のようだ」というときに、「本当に便秘?」と常に疑う必要があります。まれに尿閉を便秘と訴える患者さんもいます。「便秘で浣腸」という行為は、医療者以外でも一般的に行っている対処方法ですが、浣腸でも重篤な合併症を生じる可能性があります。浣腸は下行結腸・S状結腸あたりから直腸膨大部までの腸管内容物を排除することを目的としています。腸管壁の脆弱性を生じる疾患(憩室炎など)があった場合、圧をかけることにより消化管穿孔のリスクになるという報告があるため1)、安易に便秘と診断して浣腸することは控えるべきです。この患者さんの腹部の所見は、左下腹部に圧痛を認めるものの腹膜刺激症状はなく、直腸診では便塊を触れるのみで腫瘤の触知は認めませんでした。本人曰く、排尿は来院前に済ましているとのことで尿閉は否定的でした。他に腹痛を生じる疾患は認めなかったため、便秘と診断しました。ステップ2 治療便秘は16%の人が経験し、60歳以上となると33.5%の人が罹患するという報告があります。便秘の種類としては器質性と機能性に分けられます。器質性は腫瘍や炎症などによる腸管の狭窄、蠕動低下を来した状態であり、適切に治療しないと重篤化するため早期の発見が必要です2,3)。機能性は器質性以外の便秘で、腸管蠕動の低下や脱水により便が固くなり、排便が困難となり発症します。この患者さんは直腸診で硬便を触れるため機能性の便秘の可能性が高いと判断したところで、看護師より「摘便しましょうか?」と提案がありました。便秘の治療はさまざまです。この患者さんのように、すでに便が直腸下部にある場合、坐剤、浣腸、摘便がよい適応になります4)。私は肛門近くに便塊がある場合(糞便塞栓)、可能な限り摘便した後に浣腸をしています。固い便が肛門をふさいでいると浣腸や坐剤がうまく使用できないと考えるからです。患者さんに摘便、浣腸を行ったところ大量の排便があり、患者の腹痛はきれいに消失しました。なお、80歳という年齢を考えると、器質性の便秘の可能性も最後まで否定できないため、必ず大腸内視鏡検査を進めましょう。ステップ3 便秘を繰り返さないための指導便秘になるたびに浣腸をする人がいますが、浣腸は頻度が高くはないとはいえ消化管穿孔などの重大な合併症や習慣性を招くという報告があります5)。機能性の便秘を生じる原因は多岐にわたり、原因を1つに絞るのは難しいと言われています2)が、最も頻度が高い原因は生活習慣(食物繊維の不足、脱水、運動不足など)とされ、適度な飲水、運動が便秘の頻度を下げるという報告があり重要です6)。そして忘れてはいけないのが薬剤性です。便秘を生じる薬剤は、Ca拮抗薬、抗うつ薬、利尿薬など多岐にわたります。必要な薬は内服しなければいけませんが、昨今では高齢者のポリファーマシーが問題になっており、処方薬の調整のきっかけにしてもらいたいと考えます7)。この患者さんの内服薬は降圧薬くらいで、運動不足が便秘の原因と言われたことがあるため可能な限り体を動かしているとのことでした。生活習慣でこれ以上改善するのは難しいと判断し、薬剤投与を行うこととしました。わが国の慢性便秘症診療ガイドラインでは、「浸透圧下剤(酸化マグネシウム)」、「上皮機能変容薬(ルビプロストンなど)」が最も強く推奨されています4)。私は中でも安価で調節がしやすい酸化マグネシウムを好んで処方しています。投与後の反応は患者によって異なるため、330mgを毎食後で開始して、処方箋に「自己調節可」と記載し、患者さんに説明したうえで調節してもらっています。酸化マグネシウムを増量しても効果が乏しい場合は刺激性下剤を追加しています。酸化マグネシウムを投与する際に注意してほしい合併症が高マグネシウム血症です。投与量(≧1,650mg/日)や投与期間(36日以上)、腎機能障害(糸球体濾過量<55.4mL/min)、血中尿素窒素の上昇(≧22.4mg/dL)によってリスクが増加すると報告があり、長期投与を行う場合は漫然と処方するのではなく、定期的な血中マグネシウム濃度の測定が必要です8)。腎機能障害があるなどリスクが高い場合は、上皮機能変容薬を選択しています。この患者さんには酸化マグネシウムを処方し、近医に通院して加療を継続してもらうこととなりました。便秘という疾患は多くの人が経験する疾患であり、便秘が主訴の患者さんに対して「便秘だろう」という先入観で診察を怠ると痛い目にあうことがあります。積極的に介入していきましょう。1)大城 望史ほか. 日本大腸肛門病学会雑誌. 2008;61:127-131.2)Forootan M, et al. Medicine(Baltimore). 2018;97:e10631.3)Black CJ, et al. Med J Aust. 2018;209:86-91.4)日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会. 慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂;2017.5)Niv G, et al. Int J Gen Med. 2013;6:323-328.6)Leung L, et al. J Am Board Fam Med. 2011;24:436-451.7)大井 一弥. YAKUGAKU ZASSHI. 2019;139:571-574.8)Wakai E, et al. J Pharm Health Care Sci. 2019;5:4.

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制か

 高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)患者で高頻度にみられる。高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法については、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎機能を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることが条件付きで推奨されている1)。また、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、保存期CKD患者に対する尿酸低下療法について、「腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい」とされている2)。しかし、CKD患者における血清尿酸値の管理目標に関する無作為化比較試験は存在しない。中国・中南大学のYilun Wan氏らの研究グループは、英国のデータベース(IQVIA Medical Research Data[IMRD])を用いて、痛風を有するCKDステージ3の患者への尿酸低下療法について、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成の有無別に腎機能への影響を検討した。その結果、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成群は、非達成群と比較して腎機能障害の進展が増加せず、むしろ抑制される可能性が示された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年11月25日号で報告された。 本研究の対象は、IMRDに登録された40~89歳の痛風を有するCKDステージ3(eGFR 30~60mL/min/1.73m2が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ3の診断記録を有する)で、尿酸降下薬による治療を受けた患者1万4,792例であった。対象患者を尿酸降下薬開始から1年以内の血清尿酸値6.0mg/dL未満の達成の有無で分類し(達成群/非達成群)、腎機能への影響を検討した。両群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。target trial emulationの手法として、cloning-censoring-weighting法を用いて、達成群と非達成群を比較した。評価項目は腎機能高度低下または末期腎不全(eGFR 30mL/min/1.73m2未満が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ4/5、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかの診断記録を有する)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(平均値±標準偏差[SD])は73.1±9.5歳で、男性は62.3%(9,215例)であった。ベースライン時の血清尿酸値、eGFR(いずれも平均値±SD)は、それぞれ8.9±1.6mg/dL、49.9±12.3mL/min/1.73m2であった。・尿酸降下薬の内訳は、アロプリノールが98.8%(1万4,615例)、フェブキソスタットが1.2%(177例)であった。・尿酸降下薬開始から1年以内に血清尿酸値6.0mg/dL未満を達成した割合は31.8%(4,706例)であった。・追跡開始から5年間の腎機能高度低下または末期腎不全の発生率は、達成群が10.32%、非達成群が12.73%であり、調整リスク差は-2.41%(95%信頼区間[CI]:-4.61~-0.21)、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.80~0.98)であった。・末期腎不全の発生率は、達成群が0.6%、非達成群が1.2%であり、調整リスク差は-0.63%(95%CI:-0.94~-0.32)、HRは0.67(95%CI:0.46~0.97)であった。 本研究結果について、著者らは「痛風を有するCKD患者において、血清尿酸値6.0mg/dL未満を目標とする尿酸低下療法は、忍容性が良好であり、CKDの進展を抑制する可能性も示された」と考察し、「痛風を有するCKD患者の治療において、血清尿酸値の目標値を達成するために、尿酸降下薬による治療を最適化することを支持するものである」とまとめた。

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日本人双極症と関連する遺伝子をゲノム解析で同定

 双極症は、躁/軽躁状態と抑うつ状態の間での気分変動を特徴とする精神疾患である。双極症には、シナプス遺伝子のエクソン領域と重複するまれな病原性遺伝子コピー数変異(CNV)と関連している。しかし、双極症に関連するシナプス遺伝子のCNVを包括的に調査した研究は、これまでになかった。名古屋大学の中杤 昌弘氏らは、エクソン領域に限定せず、日本人集団におけるシナプス遺伝子と重複するまれなCNVと双極症との関連を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年10月15日号の報告。 双極症患者1,839例、対照群2,760例を対象に、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)を用いて、CNVを検出した。シナプス遺伝子と重複するまれなCNVを特定するため、シナプス遺伝子オントロジー(SynGO)データベースを用いた。遺伝子ベース解析を用いて、双極症患者と対照群における頻度を比較した。双極症に関連するシナプス遺伝子セット解析を行った。有意水準は、偽陽性率(false discovery rate:FRD)を10%に設定した。 主な結果は以下のとおり。・RNF216遺伝子と双極症との有意な関連が認められた(オッズ比:4.51、95%信頼区間:1.66〜14.89、FRD<10%)。・RNF216遺伝子に対応する双極症関連CNVは、7p22.1微小重複症候群において原因と考えられている領域(minimal critical region)と一部重複していた。・さらに、遺伝子セット解析を行い、シナプス後膜の不可欠な構成要素にかかわる遺伝子群が双極症と関連することも発見した。・GRM5遺伝子のイントロン領域と重複するCNVは、双極症患者と対照群との間で有意な関連が認められた(p<0.05)。 著者らは「本検討により、RNF216遺伝子およびシナプス後膜関連遺伝子のCNVと双極症リスクとの関連が示唆された」とし「ゲノム解析の結果を活用することで、双極症の病態解明や個別化医療の実現に寄与することが期待される。将来、早期のリスク評価と予防的介入により、患者のQOL向上につながる可能性がある」と結論付けている。

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HER2+乳がん術前補助療法のde-escalation、トラスツズマブ+ペルツズマブ+nab-パクリタキセルが有望(HELEN-006)/Lancet Oncol

 HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブ+ペルツズマブにドセタキセル+カルボプラチンを併用した標準レジメンより、トラスツズマブ+ペルツズマブにnab-パクリタキセルを併用したde-escalation治療のほうが有用な可能性が示唆された。中国・The Affiliated Cancer Hospital of Zhengzhou University and Henan Cancer HospitalのXiu-Chun Chen氏らが、多施設共同無作為化第III相HELEN-006試験において主要評価項目である病理学的完全奏効(pCR)の最終解析結果を報告した。The Lancet Oncology誌オンライン版2024年11月26日号に掲載。・対象: 18~70歳、StageII/IIIの未治療浸潤性HER2+乳がん患者・試験群:nab-パクリタキセル(125mg/m2、1、8、15日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・対照群:ドセタキセル(75mg/m2、1日目)+カルボプラチン(AUC6、1日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・主要評価項目:pCR(ypT0/is ypN0)(modified ITT) 主な結果は以下のとおり。・2020年9月20日~2023年3月1日に689例を無作為に割り付けた(nab-パクリタキセル群343例、ドセタキセル+カルボプラチン群346例)。689例全例がアジア人女性で、 669例(nab-パクリタキセル群332例、ドセタキセル+カルボプラチン群337例)が1回以上の試験治療を受けた。年齢中央値は50歳(四分位範囲:43~55)、追跡期間中央値は26ヵ月(同:19~32)だった。・pCR例は、nab-パクリタキセル群が220例(66.3%、95%信頼区間[CI]:61.2~71.4)、ドセタキセル+カルボプラチン群が194例(57.6%、95%CI:52.3~62.9)だった(複合オッズ比:1.54、95%CI:1.10~2.14)。 ・Grade3/4の有害事象は、nab-パクリタキセル群で100例(30%)、ドセタキセル+カルボプラチン群で128例(38%)に認められ、多かったGrade3/4の有害事象は悪心(nab-パクリタキセル群、ドセタキセル+カルボプラチン群の順に22例、76例)、下痢(25例、55例)、神経障害(43例、8例)であった。 ・重篤な薬剤関連有害事象は、nab-パクリタキセル群で3例、ドセタキセル+カルボプラチン群で5例に報告され、両群とも治療関連死亡は報告されなかった。  著者らは、「この結果は、HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブおよびペルツズマブとnab-パクリタキセルの併用が標準レジメンより利点がある可能性を示唆するものであり、この新しい併用療法がこの患者集団における術前補助療法の新たな標準療法を確立する可能性を示唆する」としている。

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心不全のない心筋梗塞後の患者にβ遮断薬の処方は不要?

 β遮断薬は、心筋梗塞を経験した多くの人にとって頼りになる薬である。しかし、スウェーデンの新たな研究により、心筋梗塞から回復し、心機能が正常に保たれている患者には、この薬による治療は必要ない可能性のあることが明らかになった。この研究では、心筋梗塞後に左室駆出率が保たれている患者に対するβ遮断薬による治療は、患者の抑うつ症状の軽度な増加と関連することが示された。詳細は、「European Heart Journal」に10月3日掲載された。論文の筆頭著者であるウプサラ大学(スウェーデン)心臓心理学分野のPhilip Leissner氏は、「それだけでなく、この患者群にβ遮断薬を投与しても、生命維持には役立たない」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 心臓専門医は数十年にわたり、心臓病の治療薬としてβ遮断薬に頼ってきた。この薬は、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンが心臓のβ受容体に結合するのを防ぐことで、血圧や心拍数などを抑える作用を持つ。しかし、近年、医療の進歩により心筋梗塞から回復した患者に対する医薬品の選択肢が増えたことを受け、β遮断薬の使用は疑問視されるようになっている。Leissner氏らは、これは特に、心筋梗塞から回復後に左室駆出率が保たれている患者に当てはまると話す。同氏らは、2024年4月に発表した論文において、この種の患者に対するβ遮断薬による治療は不要であると結論付けている。 今回の研究では、これらの患者に対するβ遮断薬による治療は害となる可能性さえあることが判明した。Leissner氏らは、心筋梗塞後にβ遮断薬(メトプロロール、ビソプロロール)か、それ以外の薬を処方された心不全のない患者806人のデータを用いて、β遮断薬の投与が患者が報告する抑うつおよび不安の症状に及ぼす影響を調査した。患者は、入院時と2回の追跡調査時(心筋梗塞から6〜10週間後と12〜14週間後)に、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いて抑うつと不安に関する評価を受けていた。 解析の結果、β遮断薬による治療は、1回目の追跡調査時(β=0.48、95%信頼区間0.09〜0.86、P=0.015)、および2回目の追跡調査時(β=0.41、95%信頼区間0.01〜0.81、P=0.047)の両方で、抑うつ症状に負の影響を与えることが示された。一方、不安に対する影響は認められなかった。さらに、研究開始前にすでにβ遮断薬を使用していた患者では、抑うつリスクがさらに高まることも示された。この結果は、β遮断薬の使用と抑うつ症状との間に用量反応関係があることを示唆している。 研究グループは、「β遮断薬による治療を受けた心不全のない心筋梗塞生存者では、抑うつ症状の重症度にわずかな増加が認められた」と結論。「これまでの研究で、β遮断薬の使用により、抑うつ、不眠症、さらには悪夢を見るリスクが高まることが分かっているので、この結果に驚きはなかった」と述べている。 Leissner氏は、「かつてはほとんどの医師が、心不全のない患者にもβ遮断薬を処方していた。しかし、その根拠はもはやそれほど明確なものではなく、再検討が必要だ」と指摘する。さらに同氏は、「心筋梗塞を経験した患者の中には、抑うつリスクが高いと考えられる人もいる。β遮断薬が心臓に良い効果をもたらさないのであれば、そのような患者に対する同薬の処方は不必要である」と述べている。

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英語で「呼吸音は正常です」は?【1分★医療英語】第159回

第159回 英語で「呼吸音は正常です」は?《例文1》Despite the patient's prolonged cough, the lungs were clear to auscultation bilaterally.(患者の長引く咳にもかかわらず、呼吸音は両側正常でした)《例文2》The physical exam showed that the lungs are clear to auscultation, ruling out any respiratory distress.(身体検査では 肺は聴診で異常がなく[呼吸音は正常であり]、呼吸困難が除外されました)《解説》今回は、身体診察の所見についての英語表現を解説します。英語でカルテに記載したり、医療者にプレゼンしたりする際には、日本語と同様に「肺の聴診音は清」というような表現法が使われます。そのため「清」を表す“clear”、そして聴診の“auscultation”を用いて“clear to auscultation”というように記載されます。ちなみに、米国の医療現場では略語が使われることも多く、カルテでは多くの所見が略語で記載されています。最近の流れでは「意味がわかりにくい略語はやめよう」という動きもありますが、いまだに多くの略語が使用されているのが現状です。今回の“clear to auscultation”も例外ではなく、カルテなどでは“CTA”もしくは“CTAB”と記載されることが多いです。“CTAB”の「B」は“bilaterally”「両側」という意味ですので、“Lungs CTAB”とあれば「肺聴診音は両側清」という意味になりますね。ちなみにラ音は“rale”と記載されます。いびき音は“rhonchi”、喘鳴音は“wheeze”です。せっかくの機会なので英語の呼吸音をまとめて覚えてしまいましょう。講師紹介

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新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」【最新!DI情報】第28回

新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」今回は、筋萎縮性側索硬化症用剤「メコバラミン(商品名:ロゼバラミン筋注用25mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、治療薬が限られている筋萎縮性側索硬化症の新たな選択肢として、運動機能の低下抑制が期待されています。<効能・効果>筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得し、11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、メコバラミンとして50mgを1日1回、週2回、筋肉内に注射します。本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師または医師の直接の監督の下で行います。在宅自己注射は、医師がその妥当性を慎重に検討し、患者またはその家族が適切に使用可能と判断した場合にのみ適用されます。<安全性>重大な副作用には、アナフィラキシー(頻度不明)があります。本剤の臨床試験ではアナフィラキシーの副作用報告はありませんでしたが、低用量メコバラミン製剤でアナフィラキシーが報告されています。その他の副作用は、白血球数増加、注射部位反応(いずれも1%以上)、発疹、頭痛(いずれも1%未満)、発熱感、発汗(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.筋委縮性側索硬化症(ALS)の進行によって生じる運動機能の低下を抑制する薬です。2.1日1回、週2回、筋肉内に注射します。3.注射は、医療関係者や医師の指導を受けた上で、患者本人またはご家族が行うことができます。4.在宅自己注射のために処方された薬剤の入ったバイアルは、処方された際に入っていた外箱や遮光した箱に入れた状態で保管してください。5.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。<ここがポイント!>筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが変性する進行性の難治性神経変性疾患です。症状は一般的に四肢の筋力低下から始まり、構音障害(発音困難)や嚥下障害が生じます。発症から2〜4年で呼吸筋麻痺による呼吸不全に進行し、人工呼吸器の装着で延命が可能ですが最終的には死に至ります。治療薬としては、ALSの機能障害の進行を抑制するリルゾールやエダラボンが使用されていますが、現在のところ確立された根治療法はありません。メコバラミンは、活性型ビタミンB12の一種であり、末梢神経障害やビタミンB12欠乏症による巨赤芽球性貧血の治療薬として使用されてきました。一方、以前より高用量のメコバラミンがALS患者に対し有効である可能性が示唆されていました。このため、エーザイはALS患者を対象に治験を実施し、2015年5月に新薬承認申請を行いましたが、追加試験が必要と判断されて2016年3月に申請を取り下げました。その後、医師主導治験として実施された高用量メコバラミンのALS患者に対する第III相試験において、高用量メコバラミンの有効性、安全性および忍容性が確認されたことから、再度承認申請が行われました。ALSに対するメコバラミンの作用機序の詳細は解明されていませんが、ホモシステイン誘発細胞死の抑制によるものと考えられています。孤発性または家族性ALS患者を対象とした医師主導の国内第III相試験(国内763試験)において、主要評価項目であるベースラインから治療期16週目までの日本語版改訂ALS Functional Rating Scale(ALSFRS-R)の合計点数の変化量は、プラセボ群が-4.6、本剤50mg群が-2.7でした。群間差(本剤50mg群-プラセボ群)は2.0(95%信頼区間:0.4~3.5、p=0.012)であり、本剤50mg群のプラセボに対する優越性が検証されました。

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第243回 ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連

ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連勃起不全(ED)薬としてよく知られるタダラフィルやシルデナフィル使用と死亡、心血管疾患、認知症の減少との関連がテキサス大学医学部(UTMB)のチームの研究で示されました1,2)。タダラフィルとシルデナフィルはどちらもPDE5阻害薬であり、血流改善・血圧低下・内皮機能向上・抗炎症作用により心血管の調子をよくすると考えられています。それら成分は肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療にも使われ、タダラフィルは前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の治療薬としても発売されています。UTMBのDietrich Jehle氏らの今回の研究は世界中の2億7,500万例超の臨床情報を集めるTriNetXに収載の米国男性5千万例の記録を出発点としています。それら5千万例から、ED診断後のタダラフィルかシルデナフィル処方、または下部尿路症状診断後のタダラフィル処方があった40歳以上の男性が同定されました。3年間の経過を比較したところ、タダラフィルかシルデナフィルが処方されたED患者は、非処方患者に比べて死亡、心血管疾患、認知症の発生率が低いことが示されました。具体的には50万例強の解析で以下のような結果が得られており、血中でより長く活性を保つタダラフィルがシルデナフィルに比べて一枚上手でした。全死亡率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは24%低下心臓発作発生率タダラフィルは27%低下、シルデナフィルは17%低下脳卒中発生率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは22%低下静脈血栓塞栓症(VTE)発生率タダラフィルは21%低下、シルデナフィルは20%低下認知症発生率タダラフィルは32%低下、シルデナフィルは25%低下下部尿路症状患者のタダラフィル使用は一層有益でした。40歳以上の下部尿路症状患者100万例超のうち、タダラフィル使用群の死亡、心臓発作、脳卒中、VTE、認知症の発生率はそれぞれ56%、37%、35%、32%、55%低くて済んでいました。やはり米国のED男性を調べた別の観察試験3,4)でもPDE5阻害薬やタダラフィルと死亡や心血管疾患の減少の関連が示されています。今春2月にClinical Cardiology誌に結果が掲載されたその1つ3)ではEDと診断されてタダラフィルが処方された男性8千例強(8,156例)とPDE5阻害薬非処方の2万例強(2万1,012例)が比較され、タダラフィル使用群の心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、冠動脈血行再建、不安定狭心症、心不全、脳卒中)の発生率がPDE5阻害薬非使用群に比べて19%低いことが示されました。また、タダラフィル使用患者の死亡率は44%低くて済んでいました。タダラフィルと心血管転帰の発生率低下の関連は用量依存的らしく、同剤の使用量が上位4分の1の患者は心血管転帰の発生率が最小でした。有望ですがあくまでもレトロスペクティブ試験の結果であり、次の課題として男性と女性の両方でのプラセボ対照無作為化試験が必要だと著者は言っています3)。参考1)Jehle DVK, et al. Am J Med. 2024 Nov 10. [Epub ahead of print]2)Study finds erectile dysfunction medications associated with significant reductions in deaths, cardiovascular disease, dementia / The University of Texas Medical Branch 3)Kloner RA, et al. Clin Cardiol. 2024;47:e24234.4)Kloner RA, et al. J Sex Med. 2023;1:38-48.

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妊娠中のビタミンD摂取は子どもの骨を強くする

 妊娠中のビタミンDの摂取は、子どもの骨と筋肉の発達に良い影響をもたらすようだ。英サウサンプトン大学MRC Lifecourse Epidemiology CentreのRebecca Moon氏らによる研究で、妊娠中にビタミンDのサプリメントを摂取した女性の子どもは、摂取していなかった女性の子どもに比べて、6〜7歳時の骨密度(BMD)と除脂肪体重が高い傾向にあることが明らかにされた。この研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」11月号に掲載された。Moon氏は、「小児期に得られたこのような骨の健康への良い影響は、一生続く可能性がある」と話している。 ビタミンDは、人間の皮膚が日光(紫外線)を浴びると生成されるため「太陽のビタミン」とも呼ばれ、骨の発達と健康に重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、ビタミンDは、丈夫な骨、歯、筋肉の健康に必要なミネラルであるカルシウムとリン酸のレベルを調節する働きを持つ。 今回の研究では、妊娠14週未満で単胎妊娠中の英国の妊婦(体内でのビタミンDの過不足の指標である血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が25~100nmol/L)を対象に、妊娠中のビタミンD摂取と子どもの骨の健康との関連がランダム化比較試験により検討された。対象とされた妊婦は、妊娠14~17週目から出産までの期間、1日1,000IUのコレカルシフェロール(ビタミンDの一種であるビタミンD3)を摂取する群(介入群)とプラセボを摂取する群(対照群)にランダムに割り付けられた。これらの妊婦から生まれた子どもは、4歳および6~7歳のときに追跡調査を受けた。 6〜7歳時の追跡調査を受けた454人のうち447人は、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)により頭部を除く全身、および腰椎の骨の検査を受け、骨面積、骨塩量(BMC)、BMD、および骨塩見かけ密度(BMAD)が評価された。解析の結果、介入群の子どもではプラセボ群の子どもと比較して、6〜7歳時の頭部を除く全身のBMCが0.15標準偏差(SD)(95%信頼区間0.04~0.26)、BMDが0.18SD(同0.06~0.31)、BMADが0.18SD(同0.04~0.32)、除脂肪体重が0.09SD(同0.00~0.17)高いことが明らかになった。 こうした結果を受けてMoon氏は、「妊婦に対するビタミンD摂取による早期介入は、子どもの骨を強化し、将来の骨粗鬆症や骨折のリスク低下につながることから、重要な公衆衛生戦略となる」と述べている。 では、妊娠中のビタミンD摂取が、どのようにして子どもの骨の健康に良い影響を与えるのだろうか。Moon氏らはサウサンプトン大学のニュースリリースで、2018年に同氏らが行った研究では、子宮内の余分なビタミンDが、「ビタミンD代謝経路に関わる胎児の遺伝子の活動を変化させる」ことが示唆されたと述べている。さらに、2022年に同氏らが発表した研究では、妊娠中のビタミンD摂取により帝王切開と子どものアトピー性皮膚炎のリスクが低下する可能性が示されるなど、妊娠中のビタミンD摂取にはその他のベネフィットがあることも示唆されているという。

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日本人の主な死因(2023年)

日本人の主な死因その他食道 2.8%21.0%前立腺 3.5%肺および気管・気管支19.8%大腸(結腸・直腸)13.9%悪性リンパ腫3.8%アルツハイマー病1.6%その他悪性新生物(腫瘍)25.0%24.3%乳房 4.1%膵胃胆のう・胆道 4.5%10.5%10.1%肝・肝内胆管 6.0%n=38万2,504人腎不全 1.9%心疾患新型コロナウイルス感染症 2.4%不慮の事故2.8%誤嚥性肺炎3.8%(高血圧性を除く)心疾患14.7%老衰脳血管疾患 12.1%6.6%肺炎慢性リウマチ性4.8%心筋症 1.5%0.8%慢性非リウマチ性心内膜疾患5.2%くも膜下出血n=157万6,016人10.7%31.3%n=10万4,533人20.6%心不全42.9%急性心筋梗塞13.4% 不整脈および伝導障害15.6%その他 2.9%脳内出血その他n=23万1,148人脳梗塞55.1%厚生労働省「人口動態統計」2023年(確定数)保管統計表 都道府県編 死亡・死因「第4表-00(全国)死亡数,都道府県・保健所・死因(死因簡単分類)・性別」より集計注:死因順位に用いる分類項目(死因簡単分類表から主要な死因を選択したもの)による順位Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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人工股関節置換術前の検査【日常診療アップグレード】第18回

人工股関節置換術前の検査問題73歳女性。変形性股関節症の治療のため入院中である。3日後に左の人工股関節置換術が予定されている。出血量は300~500mLと予想される。既往歴として高血圧と甲状腺機能低下症がある。エナラプリル(ACE阻害薬)、アムロジピン(Ca拮抗薬)、レボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)、アセトアミノフェン(鎮痛薬)を内服している。バイタルサインは異常なし。疼痛のため、左股関節の可動域に制限がある。2ヵ月前にTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定していて異常はない。術前検査として、全血球計算(CBC)と腎機能に加えTSHとFT4をオーダーした。

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酒で赤くなる人は睡眠満足度が低い?

 飲酒後に顔や首が赤くなる症状はアジアンフラッシュとして知られ、東アジア人の約36%がアジアンフラッシュの特徴を持っている。アジアンフラッシュに関連する遺伝的因子は睡眠時間と逆相関することが報告されているが、アジアンフラッシュと睡眠満足度との関連を報告した研究はない。今回、大阪健康安全基盤研究所の清水 悠路氏らがインターネット調査による横断研究で検討したところ、アルコール曝露に対する身体的反応の遺伝的特徴が睡眠の質にも影響を及ぼす可能性が示唆された。Medical Science誌2024年11月8日号に掲載。 本研究は、インターネット調査会社に登録している大阪府在住の一般モニターのうち20~64歳の日本人3,823人(男性1,907人、女性1,916人)を対象とし、2023年11月27~30日にインターネット調査を実施した。睡眠の満足度については、「満足」「少し不満」「かなり不満」「非常に不満またはまったく眠れなかった」のうち「満足」と回答した参加者を満足のいく睡眠をとっているとみなした。アジアンフラッシュについては、「飲酒し始めた年齢で、少量のアルコール摂取(ビールコップ1杯程度)ですぐに顔が赤くなりましたか?」という質問に「はい」と回答した参加者をアジアンフラッシュを経験していると分類した。飲酒したことのない参加者と過去に飲酒していた参加者を非飲酒者と定義した。 主な結果は以下のとおり。・アジアンフラッシュと睡眠満足度の間に有意な逆相関が認められた。潜在的交絡因子を補正した睡眠満足度のオッズ比(OR)は0.81(95%信頼区間[CI]:0.69~0.96)であった。・飲酒者と非飲酒者で基本的に同様の関連が認められた。補正後のORは、非飲酒者で0.81(95%CI:0.65~0.997)、飲酒者で0.80(同:0.61~1.05)であった。 著者らは、この結果が与える新たな臨床的意味合いとして「日常診療や毎年の健康診断に簡単に導入できる質問票が、睡眠不足の危険因子を特定するために役立つ可能性がある。また、飲酒しない人でもアジアンフラッシュは睡眠時間だけでなく睡眠満足度に関しても睡眠障害のリスクであることが明らかになった」としている。

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HBV母子感染予防、出生時HBIG非投与でもテノホビル早期開始が有効か/JAMA

 B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染は新規感染の主要な経路であり、標準治療として母親への妊娠28週目からのテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)投与開始と、新生児への出生時のHBVワクチン接種およびHBV免疫グロブリン(HBIG)投与が行われるが、医療資源が限られた地域ではHBIGの入手が困難だという。中国・広州医科大学のCalvin Q. Pan氏らは、妊娠16週からのTDF投与とHBVワクチン接種(HBIG非投与)は標準治療に対し、母子感染に関して非劣性であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年11月14日号で報告された。中国の無作為化非劣性試験 研究グループは、妊婦へのTDF早期投与開始と新生児への出生時HBIG投与省略がHBVの母子感染に及ぼす影響の評価を目的とする非盲検無作為化非劣性試験を行い、2018年6月~2021年2月に中国の7施設で参加者を募集した(John C. Martin Foundationの助成を受けた)。 年齢20~35歳、HBe抗原陽性の慢性B型肝炎でHBV DNA値>20万IU/mLの妊婦280例(平均年齢28[SD 3.1]歳、平均妊娠週数16週、HBV DNA値中央値8.23[7.98~8.23]log10 IU/mL)を登録した。 これらの妊婦を、妊娠16週目から出産までTDF(VIREAD[Gilead Sciences製]、300mg/日)を投与する群(実験群)に140例、妊娠28週目から出産までTDFを投与する群(標準治療群)に140例を無作為に割り付けた。すべての新生児は生後12時間以内にHBVワクチンの接種を受け、1ヵ月および6ヵ月後に追加接種を受けた。加えて、標準治療群の新生児のみ、出生時にHBIG(100 IU)を投与された。 主要アウトカムは母子感染とし、生後28週時の乳児における20 IU/mL以上の検出可能なHBV DNA値またはHBs抗原陽性の場合と定義した。母子感染率が、標準治療群と比較して実験群で3%以上増加しなかった場合に非劣性と判定することとし、90%信頼区間(CI)の上限値で評価した。ITT集団、PP集団とも非劣性基準を満たす 全生産児273例(ITT集団)における母子感染率は、実験群が0.76%(1/131例)、標準治療群は0%(0/142例)であった。また、per-protocol(PP)集団の生産児(プロトコールの非順守がなく28週時点のデータが入手できた)265例の母子感染率は、それぞれ0%(0/124例)および0%(0/141例)だった。 母子感染率の群間差は、ITT集団で0.76%(両側90%CIの上限値1.74%)、PP集団で0%(1.43%)と、いずれも非劣性の基準を満たした。 また、母親における分娩時のHBV DNA値<20万IU/mLの達成率は、実験群で有意に高かった(99.2%[130/131例]vs.94.2%[130/138例]、群間差:5%、両側95%CI:0.1~10.0、p=0.02)。 先天異常/奇形は、実験群で2.3%(3/131例)、標準治療群で6.3%(9/142例)に発生した(群間差:4%、両側95%CI:-8.8~0.7)。忍容性は全般的に良好 母親へのTDF治療は全般的に忍容性が高く、投与中止は吐き気による1例(0.36%)のみであった。コホート全体で最も頻度の高かった有害事象として、母親のALT値上昇が25%(実験群23.6% vs.標準治療群26.4%)、上気道感染症が14.6%(11.4% vs.17.8%)、嘔吐が12.9%(16.4% vs.9.3%)で発生した。 実験群では、妊娠中絶1件(ファロー四徴症)、胎児死亡4件(流産1件、死産3件)を認めた。新生児におけるグレード3/4の有害事象の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの結果は、とくにHBIGを使用できない地域では、HBV母子感染の予防において、妊娠16週目から妊婦へのTDFを開始し、新生児へのHBVワクチン接種を併用する方法を支持するものである」「新生児へのHBIG使用を最小限に抑えるための母親へのTDF療法の最適な期間はいまだ不明である」としている。

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禁煙後に体重が3kg以上増えると高血圧リスクが上昇

 禁煙後に体重が3kg以上増加すると、高血圧の発症リスクが有意に高くなることを示唆する研究結果が報告された。ただし、喫煙を継続していた場合は体重増加が3kg未満であっても、高血圧発症リスクが有意に高くなるという。日本医科大学衛生学公衆衛生学分野の大塚俊昭氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Medicine」に9月14日掲載された。 タバコは言うまでもなく体に悪く、高血圧発症リスク因子でもあり、全ての喫煙者に禁煙が推奨される。しかし、禁煙によってニコチンの持つ空腹感抑制作用がなくなることや、味覚・嗅覚および胃粘膜の血流改善によって、食欲が高まることがあり、体重増加を介して禁煙による健康へのプラス作用を弱めてしまう可能性がある。その悪影響の一つとして、血圧の上昇が挙げられる。ただ、禁煙後の体重変化と高血圧リスクとの関連については、不明点が少なくない。大塚氏らは、日本人労働者の健診データを用いた縦断的解析により、この点を検討した。 解析対象は、国内精密機器開発メーカーの従業員のうち、健診データと高血圧発症を判定可能な情報がそろっている男性1万354人(平均年齢38.4±8.8歳)。ベースライン時点(2008~2009年)における高血圧既往者、過去喫煙者(喫煙歴があるが既に禁煙していた人)、追跡期間中の新規喫煙者、およびサンプル数不足のため女性は除外されている。 全体の68.0%は喫煙歴がない「非喫煙群」であり、2.2%は2008~2009年の間に禁煙に成功した「新規禁煙群」で、残りの29.8%は喫煙を続けていた「喫煙継続群」だった。 平均2.9±0.4年の追跡期間中に、1,032人(10.0%)が高血圧を発症した。発症率を喫煙状態別に見ると、非喫煙群は8.3%、新規禁煙群は12.4%、喫煙継続群は13.6%だった。交絡因子(年齢、BMI、飲酒・運動習慣、高血糖、脂質異常症、高尿酸血症、血圧カテゴリー、高血圧家族歴)を調整後、非喫煙群を基準とする高血圧発症オッズ比は、喫煙継続群は有意に高いものの(調整オッズ比〔aOR〕1.39〔95%信頼区間1.18~1.63〕)、新規禁煙群は非有意だった(aOR1.21〔同0.76~1.91〕)。 次に、禁煙後の体重変化の影響を検討するため、追跡期間中の体重変化幅が+3kg以上/未満で分け、全体を6群に群分けした上で、非喫煙かつ体重変化が3kg未満の群(5,642人〔全体の54.5%〕)を基準とする解析を行った。前記同様の交絡因子を調整後、非喫煙群では体重が3kg以上増加した場合に高血圧発症率の上昇傾向を示したがわずかに非有意であり、新規禁煙群では体重が3kg以上増加していた場合のみ有意に上昇、喫煙継続群では体重の変化にかかわらず有意に上昇という結果が示された。 各群の高血圧発症の調整オッズ比は以下の通り。非喫煙群で3kg以上体重が増えた人(1,405人〔全体の13.6%〕)はaOR1.27(0.99~1.62)、新規禁煙群で体重変化が3kg未満の人(169人〔同1.6%〕)はaOR0.90(0.52~1.58)、新規禁煙群で3kg以上体重が増えた人(56人〔0.5%〕)はaOR2.95(1.37~6.35)、喫煙継続群で体重変化が3kg未満の人(2,431人〔23.5%〕)はaOR1.35(1.13~1.61)、喫煙継続群で3kg以上体重が増えた人(651人〔6.3%〕)はaOR1.90(1.43~2.52)。 著者らは、血圧に影響を及ぼし得る禁煙補助薬の処方状況が考慮されていないことなどを本研究の限界点として挙げた上で、「喫煙を継続した場合、および禁煙後に体重が3kg以上増加した場合に高血圧発症リスクが上昇すると考えられ、高血圧予防のため、現喫煙者に対する禁煙と禁煙後の体重管理が強く推奨される」と結論付けている。

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第239回 「遺伝子治療」を正しく説明できる?~コロナワクチンを遺伝子組み換えと呼ぶなかれ

SNS上では相も変わらず新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、まあどこをどう突けばそんな話が出てくるのかと思うような言説が飛び交っている。その中で結構目立つのがmRNAワクチンを“遺伝子組み換えワクチン”と呼ぶことである。遺伝子組み換えとは、厳密に言えば「ある種の生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせること」ことを指すため、まったく的外れな呼称である。多くの人がご存じのように、遺伝子組み換え技術はすでに食品などで使用されている。これまで農作物などでは人にとって好ましい新品種を交配で作り出してきたが、遺伝子組み換え技術により、新品種を作り出す期間が短縮されたのである。しかし、今でもこうした食品は危険だと主張する人は一部にいる。そして最近公開されたある調査を見て、どうやら人は「遺伝子」という言葉にやや過敏に反応するのではないかと思いつつある。調査とはファイザー社が2024年9月に国内の20代以上の男女(スクリーニング調査1万人、本調査829人)に行った遺伝子治療に関する一般向け意識調査である。結果を要約すると、▽「遺伝子治療」という言葉を聞いたことのない人は30% (n=10,000)▽ 遺伝子治療への「誤解や理解不足がある人」は98.4% (n=829)▽遺伝子治療に対し、「怖い、危険、不安」というネガティブな印象を持つ人は46%(n=829)、というものだ。ちなみ2番目の「誤解や理解不足がある人」とは、アンケートで用意された遺伝子治療に関する質問6つを1つでも正答できなかった、あるいはわからなかった人を指し、これは一般向けにはなかなか厳しいと感じる。むしろ「怖い、危険、不安」が5割弱という結果がやや驚きだった。釈迦に説法は承知で、ここで遺伝子治療について簡単に整理しておきたい。遺伝子治療とは「治療用遺伝子をベクターに乗せて標的細胞内に導入する治療法」だが、概論的な作用機序は(1)治療遺伝子を病的細胞内で働かせて細胞を改変(2)治療用遺伝子が宿主細胞内に取り込まれタンパク質を発現し、それらが分泌・全身を循環して遺伝子の欠損や異常を補完、に大別される。また、この標的細胞の遺伝子導入法は、標的細胞を体外に取り出してベクターで遺伝子を導入し、品質チェックをしながら培養して患者の体内に戻す体外法(ex vivo法)、治療遺伝子を乗せたベクターを直接体内に投与して遺伝子導入を起こさせる体内法(in vivo法)の2つがある。私自身は遺伝子治療に拒否感はないが、記者2年目の1995年にアデノシンアミナーゼ(ADA)欠損症に対して北海道大学が行った日本初の遺伝子治療以降は、昨今のCAR-T細胞療法(商品名:キムリア、イエスカルタ、ブレヤンジ)や脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するオナセムノゲンアベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ)まで知識も記憶も抜け落ちている。ということで、日本遺伝子細胞治療学会理事の山形 崇倫氏(栃木県立リハビリテーションセンター 理事長/自治医科大学小児科学講座 客員教授)に遺伝子治療の現在地について聞いてみた。医師でも「遺伝子治療が怖い」と思う理由山形氏は前任の自治医科大学小児科教授時代の2015年、小児神経難病の1種である芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症を対象にAADCを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療を国内で初めて行った経験を有する。前述のファイザーによる一般向けアンケートの結果に講評も寄せている山形氏だが、正直結果はやや意外だったようで、「十分に情報が伝わっていない現実は否定しがたいと思う。結局は『知らないから怖い』という心理ですね。実際に遺伝子治療が対象になる可能性がある患者やその家族が遺伝子治療の効果を知ると、『ぜひやってほしい』と積極的な姿勢に変わることが多い」と語る。これを裏付けるかのように、遺伝子治療について「怖い、危険、不安」と回答した人(381人)でも、「もしあなたが遺伝子が原因の疾患に罹患して、治療法の選択肢の1つとして遺伝子治療があった場合、遺伝子治療を受けてみたいと思いますか」との問いに、「ぜひ受けてみたい」「やや受けてみたい/受けてみてもよい」の回答合計は3分の1の33.6%に上る。要は背に腹は代えられぬということなのだろう。もっとも山形氏は、1990年代に遺伝子治療が行われた患者では、後に副作用として白血病の発症に至った例があることなどから、医師の中でもその時代の認識で止まっていることも少なくないと考える。「現時点で最先端の遺伝子治療の対象は小児の難病・希少疾患が多く、これらは医師でも診療経験がある人は少ない。結果的に遺伝子治療に関して教科書的な知識はあるものの、それ以上はあまり知らないことも多い。先日、医師向けに遺伝子治療の講演をしたが、反応の大半は『難しそうだね』と。私が示したAADC欠損症患者の治療後の動画を見せたら『すごいな』とは思ったようですが」と同氏はコメントした。昨今の医学部教育ではカリキュラムに組み込まれるようになっているものの、山形氏は「すべての大学がきちんとした講義を行っているかはわからない。基礎医学や病態生理学の一部で触れられる程度のところもある」との認識を示す。さて国立医薬品食品衛生研究所遺伝子治療部がまとめた日本国内での遺伝子治療薬の開発状況1)を見ると、後期開発品はin vivo法ではほぼ単一遺伝子疾患、ex vivo法では血液がんで占められている。これは標的が絞り込みやすいからだと思われる。もっとも、標的が決定しても遺伝子導入方法が今も大きな課題として残る。同氏が取り組んだAADC欠損症の場合は局所投与という形で行ったが、「ほとんどの遺伝性疾患の場合は、全身的な細胞への遺伝子導入が必要になるのが実際」と語った。現時点で明らかになっているウイルスベクターの安全性ここで問題になるのがベクターの効率性と安全性である。ベクターに関しては、使われるウイルスベクターが初期のガンマレトロウイルスからレンチウイルス、さらに現在ではAAVへと変化してきた。そもそもガンマレトロウイルスの場合、マウスで白血病を起こすウイルスということ自体が問題だったが、AAVはヒトでの病原性はないため、かなり安全性は改善されたと言える。ただ、静注での全身投与が必要な場合は要注意だという。同氏は「静注による大量投与では、細胞に取り込まれずに循環するベクターが肝細胞表面や血管内皮に結合し、そこで起きる免疫反応で肝障害・血管内皮障害などの副作用を起こすことがわかり、絶妙な投与量の調節が求められることがわかった」と指摘する。この問題を解決するため、現在では(1)遺伝子治療薬の投与時に免疫抑制薬の併用、(2)肝細胞に結合親和性の低いベクターを開発、(3)免疫発達途上の乳幼児期に発症する疾患ではできるだけ早期に治療開始、が考えられるという。とりわけ(3)は副作用だけではなく、治療効果の面からも重要なファクターだ。たとえば、前述のSMAでのオナセムノゲンアベパルボベクによる治療は、治療開始時期が早いほど健常者との運動機能発達レベルの差が少ないことがわかっている。そこでカギとなるのが、まず現時点で先天代謝異常20疾患が対象となっている新生児マススクリーニングの徹底とその拡大である。現状では新生児の親が支払う費用負担が地域によって異なることが影響してか、受診率に地域格差が存在する。また、新たに治療法が登場したSMAや造血幹細胞移植により治癒の可能性がある重症複合免疫不全症に関しては、2023年からこども家庭庁の旗振りにより国と都道府県・指定都市の折半による全額無料検査の実証事業が決定した。2024年10月時点で27都府県・10政令指定都市が事業に参加したが、「財政基盤の弱い県などは参加を控えている」(山形氏)と、ここでも地域格差が生まれている。同氏は「いっそ新生児に一律でスクリーニングの遺伝子検査をすればいいという意見もあるが、実はそれのみでは発見しにくい疾患もある。その意味ではマススクリーニングの受診率向上、対象疾患の拡大とともに、学会などの協力の下、乳幼児の健診などを担う一般内科医の知識向上に尽力して総出で臨床的な異常を早期に発見していくというアナログな対応も現状では必要」とも語る。一方で遺伝子治療に関しては、日本では必ずしも研究開発が活発ではないとの指摘もある。実際、「The Journal of Gene Medicine」の調べ2)による2023年3月時点での世界各国の遺伝子治療の臨床試験数で日本は世界第6位の55件。1位であるアメリカの2,054件、2位の中国の651件と比較して大きく水をあけられている。山形氏は自身が遺伝子治療に取り組んだ際、「高い基準を満たしたベクター製造が必要かつその費用が非常に高額で、研究費を得るために厚生労働省に何度も足を運んだ」と振り返る。この経験を踏まえ、日本での遺伝子治療の進展のためには、国が旗振り役となり、資金調達を中核としたエコシステムの構築が必要だと主張する。また、「新型コロナワクチンでは変異株対応でmRNA部分以外はプラットフォームとみなして審査を簡略化する措置が常態化しているが、これと同じように遺伝子治療では、対象疾患や導入遺伝子の違いがあってもベクターが同一の場合は、ベクター部分の審査を簡略化する仕組みは導入できるはず」と提言する。新型コロナの治療薬・ワクチンで世界に遅れをとった日本。岸田前政権の末期には日本発の創薬エコシステム確立を声高に掲げ、どうやら石破政権でもこの方針を引き継ぐと言われている。そこを基軸に遺伝子治療分野で勝ち目を見いだせるのだろうか?参考1)国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部ホームページ:国内企業あるいは日本で臨床開発中の主な遺伝子治療製品(2024年11月20日更新)2)Ginn SL, et al. J Gene Med. 2024;26:e3721.

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退院時の説明が不十分だと責任発生?【医療訴訟の争点】第6回

症例入院患者は退院した後、直ちに入院前と同様の生活を送ってよいわけではなく、食事や運動制限を段階的に緩和していくなど、生活していく中で留意すべき事項がある。また、退院後に、急変が生じた場合はもちろん、それに至る前の異常が生じた場合には速やかに受診をしてもらう必要がある。このようなことから、療養方法の指導の適否が問題となる。今回は、退院時の説明義務の違反の有無等が争われた東京地裁令和5年3月23日判決を紹介する。<登場人物>患者69歳・男性十二指腸乳頭部腫大と診断され、内視鏡的乳頭部切除術および胆管・膵管ステント留置術後。切除組織の病理検査結果が深部断端陽性であったため、追加切除のため受診。原告患者の妻子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成27年7月28日他院の上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭部腫大を疑われ、生検にてGroup3と診断された。11月10日上記施設にて、内視鏡的乳頭部切除術および胆管・膵管ステント留置術を受けた。術後切除組織による病理検査の結果報告にて深部断端陽性(断面にがんが露出した状態)と診断され、追加切除を検討すべき旨の説明を受けた。患者は被告病院での手術を希望した。12月16日上記施設にて、留置していた膵管ステントおよび胆管ステントを抜去した。平成28年1月15日患者は妻子とともに被告病院消化器外科を受診。A医師から、治療方法には経過観察と膵頭十二指腸切除術の2つがある旨の説明がなされた。患者は、膵頭十二指腸切除術を受けることを決めた。1月25日被告病院に入院。患者はA医師から亜全胃温存膵頭十二指腸切除術の説明を受け、同意書に署名した。1月26日A医師の執刀で本件手術が実施された。1月30日胆管空腸ドレーンを抜去2月2日膵管空腸ドレーンを抜去2月5日ドレーン抜去部から膿状の排液が認められた。2月6日腹部の造影CT検査にて膵頭部摘除部に膵液瘻、仮性嚢胞形成過程の疑いと診断された。このため、ドレーン抜去部から再度ドレーンの留置を試みるが、皮下への挿入となり、膵空腸吻合部の腔(cavity)に到達せず、抗生物質の投与による保存的治療を実施した。2月8日瘻孔造影検査にて瘻孔からcavityが造影されたため、ドレーン抜去部から再度ドレーンの留置を試みたが、ドレーンが入らず、翌日に超音波ガイド下の穿刺ドレナージを予定した。2月9日再度瘻孔造影検査を行い、cavity内にドレーン(ファイコン14Fr)を留置し、以後、生理食塩水による洗浄ドレナージを実施した。2月15日再度瘻孔造影検査を行い、cavityに留置するドレーンをファイコン 14Frからピッグテールカテーテル(ソフトタイプ)に交換した。2月25日再度、瘻孔造影検査を行い、造影の結果、膵腸吻合部に小腔が確認されたため、ソフトピッグテールカテーテルを留置。2月29日ソフトピッグテールカテーテルを抜去3月1日患者に退院後の療養指導・説明3月2日退院(再診日は3月11日予定)3月9日午後4時頃自宅療養中の患者は、妻に対し、お腹が痛いから2階で休むと述べ、寝室がある2階に上がった。午後5時30分頃2階から音が聞こえたため、妻が2階に上がると、患者が倒れていたため、救急要請。午後5時49分救急隊が到着したが、本件患者は既に心停止の状態であった。午後6時21分頃病院に到着する直前に無脈性電気活動の状態。病院において、心肺蘇生措置、気管挿管、アドレナリンの投与等を受けたが、自己心拍は再開せず。午後7時43分死亡実際の裁判結果本件の争点は、ドレーン抜去のタイミングの適否をはじめとして多岐にわたるが、本稿では、退院時の説明義務違反について取り上げる。退院時の説明義務について、原告(患者家族)は、患者および退院後のキーマンとなる家族に対し、説明用の資料を作成して、退院に至る総合的な判断の具体的な内容、退院時の病状、退院後のリスク、退院後の生活における留意事項等について具体的に説明すべきであったと主張した。これに対し、裁判所は、A医師が2月29日にドレーンを抜去し、患者に対し、明日(3月1日)一日様子を見て大丈夫であれば明後日に退院となる旨を伝えたことを指摘し、「本件病院の医師は、本件患者に対し、退院に至る判断の具体的な内容および退院時の病状について、ドレーンを抜去しても問題がなく、病状が軽快したから退院となる旨、大まかに説明したものと認められる。よって、被告病院の医師に、退院に至る判断の具体的な内容および退院時の病状について、説明義務違反があったと認めることはできない」とした。また、裁判所は、被告病院の看護師が退院前日に、退院後の注意点として、食事については手術後の食事指導のパンフレットを参考にすること入浴および飲酒は次の外来(3月11日)まで控えること激しい運動は避けること重い荷物を持つことは避けること38度を超える発熱がある場合、吐気・嘔吐がある場合、食事・水分がまったく取れない場合、傷口が痛い・腫れる・血が出る場合、腹痛がある場合で心配なときは、被告病院に電話連絡し、受診したほうがいいかなどについて医師または看護師に相談することを説明したことや薬剤部の職員(原文ママ)が、患者に対し退院時の処方について用法用量の説明をしたこと栄養士が、患者および妻に対し食事指導を行ったこと等を指摘し、「被告病院の看護師は、本件患者に対し、本件説明書を用いて、退院後の生活における留意事項および受診の目安を説明し、また、被告病院の栄養士および薬剤部の職員も、本件患者に対し、食事上の留意事項や服薬に関する事項を説明したから、被告病院の医療従事者は、患者に対し退院後の生活における留意事項等を説明したと認められる」とした。なお、「本件説明書」とは「退院に向けての確認事項」と題する書面とのことであり、判決文からは記載内容の詳細は定かでないが、上記の看護師の説明内容として認定されている事項に沿う記載がなされている書面と推察される。注意ポイント解説本件訴訟では、退院時の説明について、被告病院は「被告病院の医師は、退院前日の3月1日、本件患者に対し、食事は消化の良い物を食べ、脂質の多い食事は避けること、運動は軽めの散歩等とし、激しい運動は避けること等を指示するとともに、腹痛や発熱等の症状が出た場合には直ちに来院するよう指示し、…本件患者の理解も良好であった」と主張した。しかし、判決文では、上記のとおり、「ドレーンを抜去しても問題がなく、病状が軽快したから退院となる旨、大まかに説明した」との判断にとどまっている。これは、被告病院の主張したような説明をしたことにつき、説明に用いた書面もなく、カルテに説明内容の記載もなかったためと推察される。そうであるとすれば、退院時の療養指導に関して必要な説明がされたと認定できず、説明義務違反があると判断される可能性もあり得たと思われる。このような状況であったにもかかわらず、裁判所が「説明義務違反がない」と判断したのは、被告病院の看護師が「退院に向けての確認事項」と題する書面を用いて、退院後の生活における留意事項および受診の目安を説明していたことや、被告病院の栄養士や薬剤部の職員が、食事上の留意事項や服薬に関する事項の説明をしていることの記録・記載があったことに加え、退院時に説明が求められる内容は、医師による説明でなければならないとは言えないものであったこと(コメディカルによる説明が許容されるものであったこと)によると考えられる。本来は、退院時の説明についても医師が説明を行い、その記録が残っていることが望まれるところであるが、看護師や薬剤部職員、栄養士らほかの医療職の説明により、退院時に説明すべき事項が補完された例と言える。また、医師自身が説明した内容について、カルテにきちんと記載しておくことが望まれることや、ある程度の定型的な留意事項についてはあらかじめ説明書を用意しておく(その上で、当該症例に即した個別の留意事項について追記等を行いつつ説明する)ことの有益性が改めて確認された例とも言える。医療者の視点多忙な勤務医にとって、患者への説明時間の確保は難解なテーマです。昨今では、単に病状説明をするだけではなく、誰に、どのような内容を、どれだけ詳しく説明し、さらにその説明を聞いた患者さん側がどの程度理解されたかなど、事細かにカルテに記載しなければなりません。働き方改革の影響もあり、一人ひとりの患者さんに多くの時間を割けない状況になっているため、(1)定型の説明文書を記載しておく、(2)チーム内の医師同士やコメディカルと説明業務を分担する、などの工夫が重要となります。ただし、当然のことながら、患者さんごとに病状/病態、背景、併存症などが異なるため、各患者さんに個別の注意喚起をする必要もあります。必要十分な説明を患者さんに届けるには、業務の効率化やチーム医療の推進が肝要です。Take home message退院にあたっての一般的な留意事項は定型の説明書を用いることも含め、医師の説明内容を記録化する(定型の説明書を用いる場合、当該症例に即した個別の留意事項について追記等を行いつつ説明し、コピーを残す)ことが重要である。医師に限らず、看護師らコメディカルが、それぞれの立場から留意事項を説明することもまた有益である。キーワード療養方法の指導としての説明義務退院時や診療の結果、入院させないで帰宅させて自宅で経過観察をする際に、生活上の留意事項やどのような症状が生じたときに病院を受診すべきか等につき指示・説明をする義務。患者に対する診療行為の一環として行われるものであり、患者の生命・身体の安全そのものを保護する見地から導かれる説明義務であり、治療法の選択に関する説明義務が患者の自己決定権の尊重を根拠に置くのとは根拠を異にする。

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