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酔っ払い? ン? 元酔っ払い?【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第2回

酔っ払い? ン? 元酔っ払い?Point外傷の病歴や、疑う所見を入念に確認すべし。時間経過で症状の改善が確認できるか?普段の飲酒後とは異なる腹部症状や、意識変容がないか?症例45歳男性。夜中の1時に歓楽街の路地裏で嘔吐を繰り返し、体動困難となっていたところを通行人に発見され救急搬送された。来院時は吐物まみれで臭いも酷かったが、本人は本日の飲酒は大した量でないという。頭部CTで頭部内病変がないことのみ確認し、外来の診察室で寝かせておくことにした。数時間後に様子を伺いに行くと嘔気・嘔吐が改善していないどころか頻呼吸、頻脈も認め、強い腹痛を訴えていた。慌てて施行した血液検査でアニオンギャップ開大のアシドーシスを認め、速やかにビタミンB1と糖の補充、補液を開始した。半年前に妻に捨てられてから自暴自棄となりアルコール漬けの日々を送っていたが、来院3日前から食欲不振があり、景気付けにと繁華街に繰り出したとのことだった。入院時のスクリーニングでCAGE 3点とアルコール依存症が疑われため、ベンゾジアゼピンの予防内服も開始し、本人に治療希望あったため精神科受診の手配もすすめられた。おさえておきたい基本のアプローチ酔っ払い患者だから、と門前払いしたり先入観をもったりするのは避け、むしろ普段より検査も多めにして、慎重に診察にあたり表1に挙げた疾患の可能性を評価しよう。表1 急性アルコール中毒を疑った際の鑑別疾患実際の診療現場では、患者は指示に応じないどころか悪態をつくなど、とても診察どころではない状況も多々あるが、モニター装着のうえ人目につく場所でこまめに様子を観察しよう。意識レベルの経時的な改善がなければ、ほかの原因を考慮すべきだ1)。図1にERでの対応の流れの一例を提示する。図1 ERでの対応の流れの一例画像を拡大する救急の原則はABCの確保にあり、泥酔患者に対してもまずは気道、呼吸、循環が安定していることを確認するようにしたい。外傷診療で生理学的異常、その後解剖学的異常を評価する流れに似ている。アルコール自体で呼吸抑制を来すには血中アルコール濃度(blood alcohol level:BAL)が400mg/dL以上とされ、めったに出くわさないが、吐物などによる窒息の危険は高く、気道確保の必要性について常に考慮しておく。友達が酔っぱらっていたら仰臥位に寝かさずに、昏睡体位をとろう。意識障害の対応の基本である血糖checkも忘れないようにする。糖尿病や肝硬変が背景になければアルコール自体による低血糖の発症は多くないのだが、小児ではその危険性が増すため2)、誤って口にしてしまった場合などではとくに注意したい。血糖補正の際は、ウェルニッケ脳症予防のために、ビタミンB1の同時投与も忘れずに。酔っ払いにルーチンに頭部CTをとっても1.9%しかひっかからない3)。したがって表2のように、外傷の病歴や、頭部外傷、頭蓋底骨折を疑う所見を認める際に頭部CTを施行するようにする。中毒患者では頸椎骨折の際に頸部痛や神経所見があてにならないケースがあるので、頸部もあわせてCTで評価してしまおう。表2 頭部CTを早期に施行すべき場合頭蓋底骨折を示唆する所見がある(raccoon's eye、バトル徴候、髄液漏、鼓膜出血)頭蓋骨骨折が触知できる大きな外力(転倒などではない)による外傷歴があり、意識変容を認めるBALで予測されるよりも意識状態が悪い意識レベルが著明に低下(GCS※≦13)しており、頭部外傷の病歴や懸念があるGCSが低下していく神経局在症状がある※GCS(Glasgow Coma Scale)落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsBALはルーチンで測定しないアルコール中毒自体の診断にBALを測定する意義は限定的で、そもそも筆者の施設では測定ができない。GCSの低下をきたすのはBAL≧200mg/dLであったという前向き研究の結果があり4)、前述のように意識障害の鑑別としてアルコール以外の要因を考慮するきっかけにはなる。PointBAL測定は意識障害にほかの鑑別を要するときに直接の測定が困難な場合、浸透圧ギャップ(血清浸透圧-計算上の浸透圧:通常では体内に存在していない物質分の浸透圧が上昇しているため、ギャップが開大する)から算出が可能であり、とくにエタノール以外のアルコール属中毒の際に参考となる。くれぐれも飲酒運転を警察に密告するために用いてはならない。直接治療に関連のない行為を行い、その結果を本人の同意なく第三者に伝えることは守秘義務違反に抵触する。酔い覚ましに…だけの補液は推奨されない二日酔いの朝イチは3号液+ビタミン剤の点滴に限る…なんて先輩からアドバイスを受けたことがある者は少なからずいるだろうが、アルコールの代謝を担うアルコール脱水素酵素は少量のアルコールで飽和状態になってしまうため、摂取した量にかかわらず、体内では20〜30mg/dL/時程度の一定の速度でしかアルコールを代謝できない。Point補液は泥酔患者のER滞在時間を短縮しないアシドーシスや膵炎合併、脱水症など、それ以外に補液を施行すべき病態があれば別だが、泥酔患者でアルコールの代謝を早める目的のみで補液を施行することに効果はなく、ER滞在時間を短縮する結果とはならないことが報告されている5)。アルコール常習犯への対応は慎重に急性アルコール中毒にルーチンで血液検査を行う必要はないが、とくにアルコール依存患者や肝不全合併患者では、血液検査で肝機能や電解質(低マグネシウム血症や低カリウム血症)を確認する。合併症の1つであるアルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis:AKA)は、アニオンギャップ開大のアシドーシス所見が決め手ではあるが、嘔吐による代謝性アルカローシス、頻呼吸による呼吸性アルカローシスを合併し、解釈が単純ではない場合がある。ここ数日経口摂取できていない、嘔気・嘔吐、腹痛があるなどの臨床症状から積極的に疑うようにしたい。AKAの治療は脱水の補正と糖分の補充であり、それ自体では致死的な病態とならない。経過でアシドーシスが改善してこないようなら表3の鑑別疾患も念頭に置きたい。なお、ケトン体の存在の確認に試験紙法による尿検査を使用しても、血中で増加しているβヒドロキシ酪酸は反応を示さないので注意されたい。表3 アルコール性ケトアシドーシス(AKA)の鑑別疾患糖尿病性ケトアシドーシス重症膵炎メタノール、エチレングリコール中毒特発性細菌性腹膜炎ワンポイントレッスンアルコール離脱症候群アルコール常用者で、飲酒から6時間以上間隔が空いた際に出現する交感神経賦活症状(発汗、頻脈など)、不眠、幻視、嘔気・嘔吐、手指振戦、強直間代性発作で鑑別に挙げる。診断基準はDSM-5で定められているので参照いただきたい。慢性的なアルコール飲酒は脳内のGABAA受容体の感受性低下とNMDA受容体の増加を起こしており、アルコール摂取の急激な中止により興奮系であるNMDA受容体が活性化して症状が出現する。図26)のような時間経過で振戦せん妄へと移行していくが、早期に治療介入することで予防できる。図2 アルコール離脱症候群の重症度と時間経過画像を拡大する軽症症状は見逃がされやすく、またけいれんは飲酒中断後早期から生じ得るため注意が必要だ。治療の基本はベンゾジアゼピン系で、アルコールと同様にGABAA受容体に作用させ興奮を抑制させる。けいれん発作中ならジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)5〜10mgの静注を行うが、ルート確保困難な際はこだわらず、ミダゾラム(同:ドルミカム)10mgの筋注・口腔内・鼻腔内投与を行う。内服投与の際には、より作用時間の長いジアゼパム(代謝産物まで抑制効果を有する)やクロルジアゼポキシドを選択すればよい。アルコールの嗜好歴がある患者が入院する際には、アルコール依存のスクリーニングに有用7)なCAGE質問スクリーニング(表4)8)を用いて離脱予防の適応を判断しよう。表4 CAGE質問スクリーニング画像を拡大するウェルニッケ・コルサコフ症候群、脚気心慢性のアルコール摂取状態ではアルコール代謝においてビタミンB1が消費されるようになり、まともな食事を摂らなくなることも合わさりビタミンB1欠乏症を生じる。このうち神経系異常を引き起こしたものがウェルニッケ・コルサコフ症候群(dry beriberi)、心血管系異常を引き起こしたものを脚気心(wet beriberi)で、両者のオーバーラップも起こり得る。ウェルニッケ脳症は急性で可逆的とされる脳症のため積極的に疑い治療介入をしたいところだが、古典的3徴とされる眼球運動障害(眼球麻痺・眼振)、意識変容、失調のすべてを満たすものは16%だったとの報告もあり9)、これにこだわると見逃しやすい。Caineらが報告した診断基準(表5)は感度85%、特異度100%と報告されており10)、ぜひとも押さえておきたい。ビタミンB1は水溶性で必要以上の量は腎排泄されるので、疑えば治療doseである高用量チアミンで治療開始してしまおう。表5 ウェルニッケ脳症診断基準勉強するための推奨文献Sturmann K, et al. Alcohol-Related Emergencies: A New Look At An Old Problem. Emergency Medicine Practice. 2001;3:1-23.Muncie HL, et al. Am Fam Physician. 2013;88:589-595.参考1)Nore AK, et al. Tidsskr Nor Laegeforen. 2001;121:1055-1058.2)Lamminpaa A. Eur J Pediatr. 1994;153:868-872.3)Godbout BJ, et al. Emerg Radiol. 2011;18:381-384.4)Galbraith S, et al. Br J Surg. 1976;63:128-130.5)Homma Y, et al. Am J Emerg Med. 2018;36:673-676.6)Kattimani S, Bharadwaj B. Ind Psychiatry J. 2013;22:100-108.7)Fiellin DA, et al. Arch Intern Med. 2000;160:1977-1989.8)Ewing JA. JAMA. 1984;252:1905-1907.9)Harper CG, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1986;49:341-345.10)Caine D, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997;62:51-60.執筆

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第250回 エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いている

エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いているエムポックスに適応を有する抗ウイルス薬tecovirimatをこの年末に日本が承認したことに専門家が驚いています1)。というのも、昨年に結果が判明した無作為化試験2つ・PALM007試験とSTOMP試験のどちらでもエムポックス治療効果が認められなかったからです。東京の日本バイオテクノファーマが先月12月27日に日本でのtecovirimatの承認を手にしました2,3)。日本での商品名はテポックスで、適応にはエムポックスに加えて、痘そう、牛痘、痘そうワクチン合併症の治療を含みます。コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)での無作為化試験であるPALM007試験の結果は昨夏2024年8月に発表され、クレードIのエムポックスの小児や成人の病変消失の比較で残念ながらtecovirimatはプラセボに勝てませんでした4)。PALM007試験で対象としたクレードIはコンゴ民主共和国やコンゴ共和国(Republic of the Congo)などの中央アフリカのいくつかの国で多く5)、感染の病状はより重く、西アフリカで広まるクレードIIに比べて死亡率が高いことが知られます(クレードIIの死亡率は約4%、クレードIは約11%6))。先月12月に結果が速報されたもう1つの無作為化試験であるSTOMP試験はクレードIIのエムポックス患者を対象とし、病変消失までの期間がtecovirimat群とプラセボ群でやはり差がありませんでした7)。ヒトへ安全に投与しうるが効果のほどはわかっていなかった2022年に、欧州連合(EU)と英国は男性と性交する男性(MSM)におけるエムポックス蔓延を受けてtecovirimatを承認しています。その承認時にEUは新たな試験結果が判明したらその扱いを見直すとしており、実際PALM007試験とSTOMP試験の結果を俎上に載せると欧州医薬品庁(EMA)の部門長Marco Cavaleri氏は言っています1)。また、ブラジル、スイス、アルゼンチンで進行中の試験結果も検討されます。そういう状況で日本がtecovirimatを承認したことはなんとも不可解だとCavaleri氏は話しています。エムポックスの疫学、ワクチン、治療、政策に関する論文8)を昨年11月に発表したメリーランド大学の薬理学者John Rizk氏は、承認の経緯が不可解なことが多いのは承知しているが、それでも日本のtecovirimat承認には驚愕した(shocker to me)と言っています。EUと同様に2022年にtecovirimatを承認した英国はというと、異例な事態の下で承認された薬すべてを毎年見直すことにしているとScienceに伝えています1)。米国FDAはエムポックスへのtecovirimat使用を承認していません。しかし、生物兵器として悪用される恐れがある痘そう(smallpox)への使用を日本と同様に承認しています。tecovirimatのエムポックスと痘そうに対する効果の仕組みは同じであり、痘そうへの同剤の承認も再考が必要かもしれません。生物兵器の襲来に備えた治療は必要だと思うが、tecovirimatに頼るのは気乗りしないとSTOMP試験リーダーTimothy Wilkin氏は言っています1)。参考1)In a ‘shocker’ decision, Japan approves mpox drug that failed in two efficacy trials / Science 2)新医薬品として承認された医薬品について / 厚生労働省3)テポックスカプセル 200mg(Tecovirimat)製造販売承認を取得 / 日本バイオテクノファーマ株式会社4)NIH Study Finds Tecovirimat Was Safe but Did Not Improve Mpox Resolution or Pain / NIH 5)Epidemiology of Human Mpox ‐ Worldwide, 2018-2021 / CDC 6)Bunge EM, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2022;16:e0010141.7)The antiviral tecovirimat is safe but did not improve clade I mpox resolution in Democratic Republic of the Congo / NIH8)Rizk Y, et al. Drugs. 2025;85:1-9.

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16歳超55歳未満の男性は入院中にAKIリスクが上昇

 16歳超55歳未満の男児および男性は、入院中に急性腎障害(AKI)を発症するリスクが高いという研究結果が、「American Journal of Kidney Disease(AJKD)」に10月22日掲載された。 米イェール大学医学部のLadan Golestaneh氏らは、女性ホルモンが腎臓病の予防に効果があると示唆されていることに注目し、ライフサイクル上のホルモン的に異なる年齢層別に、性別とAKI発症率の関連の強さを検討する前向きコホート研究を実施した。2015年10月15日から2019年1月1日の間にモンテフィオーレ医療システム傘下の病院に入院した全患者から、腎不全または産科の診断を受けた患者を除外したデータが含まれた。 全体では、13万2,667人が23万5,629回の入院を経験した(総入院回数のうち女性が55%)。解析の結果、入院患者のうち黒人は30.5%、ヒスパニック系は10.3%であった。全体では、入院の22.9%でAKIが発生した。調整モデルでは、年齢と性別との間に有意な相互作用が見られた。全年齢層において、男児と男性のAKIリスクは高く、その関連性は16歳超55歳未満の年齢層でより顕著であり、この年齢の男性のオッズ比は1.7であった。事前に設定された入院の種類にかかわらず、年齢に基づくパターンは一貫していた。感度分析の結果、エストロゲンを処方された55歳以上の女性は、処方されていない女性よりもAKIのオッズが低いことが分かった。 Golestaneh氏は、「私たちの研究では、女性ホルモンによる保護効果が最も高いのは月経中の女性であり、思春期前の女性には見られず、閉経期の開始とともに低下することが示されている」と述べている。 なお複数人の著者が、Axon Therapies社、Horizon Therapeutics社、アストラゼネカ社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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人工甘味料の摂取は非健康的な食生活と関連

 人工甘味料の摂取量が多い人ほど、食生活が非健康的であるという関連性を示すデータが報告された。米ジョージ・ワシントン大学のAllison Sylvetsky氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」に11月25日掲載された。 砂糖などの添加糖の代わりに人工甘味料が使われることがあるが、それが人々の食生活の質を高めているのか、または反対に食生活の質の低下と関連しているのかという点は、よく分かっていない。これを背景としてSylvetsky氏らは横断的研究により、人工甘味料の摂取と食生活の質との関連を検討した。 研究には、米国がん協会(ACS)が行っているがん予防に関するコホート研究の参加者のデータを用いた。精度検証済みの食品摂取頻度質問票を用いて、人工甘味料入り飲料・食品・ヨーグルトの摂取量を推測。その結果に基づき参加者全体を、人工甘味料非摂取群、1日1サービング未満群、1日1〜2サービング未満群、1日2サービング以上群という4群に分類した。食事の質は、ACS食事スコアと健康的な食事指数(HEI-2015)を用いて評価した。解析対象者は16万3,679人で、年齢中央値53歳(四分位範囲45~60)、女性78.9%であり、1日当たりの人工甘味料摂取頻度は1.0±1.5回、HEI-2015は75.4±10.2だった。 ACS食事スコアは、人工甘味料非摂取群が6.8±0.03であったのに対し、1日1サービング未満の群は6.5±0.03、1〜2サービング未満の群6.3±0.03、2サービング以上の群6.1±0.03と、摂取量が多いほどスコアが低いという有意な関連が認められた。また、HEI-2015についても同順に、76.3±0.1、76.7±0.1、75.6±0.2、72.7±0.2と、同様の関連が認められた(いずれも傾向性P<0.0001)。 次に、食事の質が低いと判定されるオッズを多変量ロジスティック回帰分析で検討した結果、人工甘味料の摂取量が多いほどそのオッズが増加する傾向が認められた。具体的には、人工甘味料を摂取していない群に比較して、摂取量が1日1サービング未満の群では3%、1〜2サービング未満の群では17%、2サービング以上の群では43%のオッズ上昇が認められた。 これらの結果について論文の筆頭著者であるSylvetsky氏は、「人工甘味料は添加糖の代替として摂取されているが、われわれの研究では人工甘味料を多く摂取している人は、飽和脂肪、食塩、添加糖など、健康上の懸念のある成分の含有量が多い食品や飲料を大量に摂取していることが分かった。米国成人の大規模コホートにおいて、人工甘味料摂取者の食事の質は概して低いと言える」と総括している。

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RA合併肺がんに対するICI治療を考える【肺がんインタビュー】第107回

第107回 RA合併肺がんに対するICI治療を考える自己免疫疾患を合併するがん患者の治療においては、がん治療と自己免疫疾患の管理が複雑に絡み合う。とくに、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などのがん免疫療法では、不明点が多い。そのような中、大阪南医療センターの工藤 慶太氏らがリウマチ(RA)合併肺がんのICI治療に関するリアルワールド試験を行った。自己免疫疾患合併がん、治療のジレンマ自己免疫疾患合併がんはがん治療医を悩ませる。がん治療による自己免疫疾患悪化、自己免疫抑制治療によるICIの有効性低下、自己免疫疾患の免疫亢進による免疫関連有害事象(irAE)発現といったClinical Questionに答えはない。画像を拡大する自己免疫疾患のなかでも頻度の高いRA患者は、一般集団に比べて発がんリスクが高い。とくに悪性リンパ腫、肺がんで多いと報告されており1)、肺がん患者のRA合併率は5.9%との報告もある2)。「自己免疫疾患イコールICI適用外」ではないICIは固形がんの生存予後に大きく関わり、今や治療に欠かせない。そのため、がん治療医はICIを使いたいと考える。しかし、自己免疫疾患合併がんにおけるICI治療に関しては前向きなデータがない。米国リウマチ学会(ACR)、日本リウマチ学会いずれのガイドラインにもICIの記載はない。がん免疫療法の使用を妨げるべきではなく、ベースラインの免疫抑制レジメンは可能な限り低用量にして維持する必要があるとする欧州リウマチ学会(eular)ステートメント、Annals of Oncology誌で発表された自己免疫疾患合併がんにおけるICI使用指針(レビュー)が数少ない指標だ。そういう状態の中、工藤氏は、さまざまなレトロ研究を分析し、自己免疫疾患イコールICI適用外というわけではない、という判断に至る。画像を拡大する工藤氏が所属する国立病院機構 大阪南医療センターは、年間約2,500名のRA診療が行われており、腫瘍内科医として以前からRA合併がん患者を診療する機会が多かったという。そのような中、あるIV期のリウマチ合併肺がん患者に関し、リウマチ主治医から「RAはコントロールするから、がんを何とかして欲しい」と依頼される。南大阪の5病院で後ろ向き試験を行う工藤氏は、まったくデータがない中、自施設でデータをまとめ出した。それが、南大阪の5病院でRA合併進行肺がんに対するICIの安全性と有効性を検証する後ろ向き試験に繋がった。この試験はリアルワールド研究なので、リウマチの治療内容も、ICIの治療内容も多種多様である。この試験の最も大きな特徴は、RAの疾患活動性が把握できている点である。実際に解析対象に含まれた疾患活用性のあるRAは81%にのぼる。「既報では疾患活動性のあるRAの割合は20〜30%、活動性RA合併例をこれだけ反映しているデータは貴重」と工藤氏は言う。画像を拡大する研究の結果、リウマチが急性に増悪(フレア)しても、きちんとコントロールすれば、ICI治療が継続できるICI投与後にRAのフレアを認めた症例は22例中9例(41%)。フレアはICI投与後早期に起こっている。ただ、フレアした9例中7例はICIを継続できている(ICI中止1例、一時中止1例)。工藤氏は「フレアしても、RAをきちんとコントロールすれば、ICI治療は継続できた」と結論する。画像を拡大するICIの治療効果については、少数例のレトロスペクティブ研究であるが、一般的なICIの効果と比較して劣るというようなデータではないという。治療継続期間は1年を超えており、「多くの症例で治療継続できていると示されたことには大きな意味がある」と工藤氏は指摘する。irAEについては、22例中9例(41%)に発現した。irAE発現4割程度という数値は、海外データと同等であり、免疫活動性のある日本の患者であってもirAEは必ずしも高くならないという結果だ。つまり、ICI投与によってリウマチの増悪やirAEが増えても、管理できれば、ICIの治療効果は非自己疾患非合併例と変わらないことになる。画像を拡大するがん治療医は必ずしもリウマチ治療の経験が深いとは言えない。また、リウマチ専門医も多くの方はがん治療についての知識・理解が十分とは言えない。たとえば、リウマチの場合、安定していれば3ヵ月に1回程度の外来で済むが、ICIを使う場合は短期フォローが必要である。「免疫の専門医とがん治療の専門医で治療方針についてすり合わせていくことが重要」と工藤氏は言う。 RA合併がんにおけるRA治療の方針工藤氏らは自施設の治療の方針も提案している。この方針はがん治療開前と開始後について、IC I+化学療法とICI単独に分けて作成されている。(詳細は下図)原則として、がん治療開始前・開始後ともはリウマチのステロイドはできるだけ低用量にして継続し、DMARDsを中止する。がん治療開始後にRA症状が悪化したら、ICI治療に拮抗するとされるアバタセプトと、がん発生リスクのあるJAK阻害薬を除いたDMARDsを再開。さらにコントロール不良の場合は、がん免疫に悪影響をおよぼさないとされるIL-6阻害薬を第一選択として用いる。画像を拡大する画像を拡大する自己免疫疾患合併がん患者にもICIの恩恵を十分に与えるICIは固形がんの生存予後に大きく関わり、今や治療に欠かせない薬剤である。RA合併肺がんの治療に十分なエビデンスがあるとは言えないが、「エビデンスだけを考えてしまうと、本来治療できる患者も治療を受けられない危惧がある」と工藤氏は言う。自己免疫疾患治療医と連携して、自己免疫疾患合併がん患者にもICIの恩恵を十分受けられるよう努めるべきであろう。参考1)LK Mercer, et al.Rheumatology (Oxford).2012;52:91-98.2)Khan SA, et al. JAMA Oncol.2016;2:1507-1508.

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PTSDの新たな治療選択肢となるか、ブレクスピプラゾールとセルトラリン併用療法〜第III相臨床試験

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)では、新たな薬物治療の選択肢が求められている。米国・アラバマ大学バーミンガム校のLori L. Davis氏らは、PTSDに対するブレクスピプラゾール+セルトラリン併用療法の有効性、安全性、忍容性を検討するため、第III相二重盲検ランダム化比較試験を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2024年12月18日号の報告。 2019年10月〜2023年8月に米国の臨床試験施設86施設で実施された。PTSD成人外来患者を対象に、ブレクスピプラゾール(可変用量:2〜3mg/日)+セルトラリン(150mg/日)併用療法とセルトラリン(150mg/日)+プラセボ治療との比較を行った。1週間のプラセボ導入期間後に11週間の二重盲検ランダム化実薬対照並行群間期間(21日間のフォローアップ調査)を設けた。主要アウトカムは、ランダム化後(1週目)から10週目までのClinician-Administered PTSD Scale for DSM-5(CAPS-5)合計スコア(20のPTSD症状の重症度を測定)の変化とした。安全性評価には、有害事象を含めた。 主な結果は以下のとおり。・1,327例の適格性を評価し、878例がスクリーニングに失敗したため、416例(平均年齢:37.4±11.9歳、女性:310例[74.5%])をランダム化した。・試験完了率は、ブレクスピプラゾール+セルトラリン群で64.0%(214例中137例)、セルトラリン+プラセボ群で55.9%(202例中113例)であった。・10週目のCAPS-5合計スコアは、ブレクスピプラゾール+セルトラリン群でセルトラリン+プラセボ群よりも統計学的に有意な改善が認められた(最小二乗平均[LSM]平均差:−5.59、95%CI:−8.79〜−2.38、p<0.001)。【ブレクスピプラゾール+セルトラリン群:148例】ランダム化時の平均:38.4±7.2、LSM変化:−19.2±1.2【セルトラリン+プラセボ群:134例】ランダム化時の平均:38.7±7.8、LSM変化:−13.6±1.2・すべての主な副次的エンドポイントおよびその他の有効性エンドポイントの達成も確認された。・ブレクスピプラゾール+セルトラリン群(205例)において治療中に5%以上で発生した有害事象は、悪心12.2%(25例)、疲労6.8%(14例)、体重増加5.9%(12例)、傾眠5.4%(11例)であった。・上記有害事象のセルトラリン+プラセボ群(196例)の発生率は、悪心11.7%(23例)、疲労4.1%(8例)、体重増加1.5%(3例)、傾眠2.6%(5例)であった。・有害事象による治療中止率は、ブレクスピプラゾール+セルトラリン群で3.9%(8例)、セルトラリン+プラセボ群で10.2%(20例)であった。 著者らは「ブレクスピプラゾール+セルトラリン併用療法は、セルトラリン+プラセボと比較し、PTSD症状の有意な改善が認められ、PTSDの新たな治療法になりうる可能性が示唆された。ブレクスピプラゾール+セルトラリン併用療法の忍容性は良好であり、安全性プロファイルはブレクスピプラゾールの既存の適応症におけるものと同様であった」と結論付けている。

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小児の喘息のエンドタイプを特定できる新たな検査法を開発

 新しい迅速かつ簡便な鼻腔スワブ検査により、小児の喘息の背後にある特定の免疫システムや病態に関する要因(エンドタイプ)を特定できる可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、この非侵襲的アプローチは、臨床医がより正確に薬を処方するのに役立つだけでなく、これまで正確に診断することが困難で、研究の進んでいないタイプの喘息に対するより良い治療法の開発につながる可能性があると見ている。米ピッツバーグ医療センター(UPMC)小児病院呼吸器科部長で上級研究員のJuan Celedon氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月2日掲載された。 Celedon氏は、「喘息は、エンドタイプによって関与している免疫細胞や治療方法が異なる多様な疾患である。そのため、エンドタイプの正確な診断がより良い治療法への第1歩となる」と述べている。 喘息は小児期に最も頻発する慢性疾患であり、米国立衛生研究所の統計によると、米国では10人に1人の小児が喘息に罹患している。喘息は通常、気道に炎症を引き起こす免疫細胞に基づきいくつかのエンドタイプに分類される。主なエンドタイプは、Tヘルパー2(T2)細胞が関与する免疫反応が亢進し、T2サイトカイン(インターロイキン〔IL〕-4、IL-5、IL-13)の産生と免疫グロブリンE(IgE)の分泌、および気道中の好酸球増加を特徴とする「T2-high」、好中球による気道の炎症とIL-17およびIL-22の血清レベル上昇を特徴とする「T17-high」、および好酸球性または好中球性の気道炎症を欠き、病態の解明が進んでいない「T2-low/T17-low」などである。 研究グループによると、喘息のエンドタイプを正確に診断するには、小児に麻酔を施して肺組織のサンプルを採取し、その遺伝子解析を行う必要があるという。しかし、この処置は極めて侵襲的であるため、軽症の喘息の小児には適応されない。そのため医師は血液、肺機能、その他のアレルギーの検査の結果に基づいて喘息のエンドタイプを推測しているのが現状だとCeledon氏は説明する。同氏は、「これらの検査により、小児の喘息のエンドタイプがT2-highであるか否かを推測することはできるが、100%正確とは言えない。また、T17-highかT2-low/T17-lowかについては、臨床マーカーがないため分からない。この格差が、喘息エンドタイプ診断の精度を向上させるためのより良いアプローチを開発する動機となった」と話す。 今回の研究では、小児459人の鼻上皮細胞のサンプルを用いて、トランスクリプトーム解析により、T2経路に関連する3つの遺伝子とT17経路に関連する5つの遺伝子の転写プロファイルを調査した。研究グループによると、これらのサンプルは、喘息の罹患率が高く、喘息で死亡リスクも高いプエルトリコ人とアフリカ系米国人の小児に焦点を当てた米国の3件の研究から採取されたものであったという。 その結果、この鼻腔スワブを用いた解析により、小児の喘息の特定のエンドタイプを正確に特定できることが明らかになった。全体で、参加者の23~29%がT2-high、35~47%がT17-high、30~38%がT2-low/T17-lowの喘息であった。 Celedon氏らによると、重度のT2-highの喘息の治療には、強力な新クラスの生物学的製剤を利用できるが、それ以外のエンドタイプの喘息に対して有効な治療薬はないという。Celedon氏は、「T2-highの喘息に対する治療法が改善されたのは、より優れたマーカーがこのエンドタイプの研究を推進したおかげでもある。今後は、この簡便な検査により他のエンドタイプの喘息を検出できるようになるため、T17-high、およびT2-low/T17-lowの喘息に対する生物学的製剤の開発にも着手できるだろう」と話している。

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MCI温故知新:「知情意」のほころび【外来で役立つ!認知症Topics】第25回

MCIとは「軽度の認知症」か?認知症の臨床現場における「あるある誤解」の一つに「MCIとは軽度の認知症か?」があるもしれない。確かにMCI(Mild Cognitive Impairment)とは「軽度認知障害」と訳されているから、その字面からしてそう思われても仕方がない。またMCIになるとMRI画像に海馬萎縮が現れてアルツハイマー病の診断がなされると思っている人も少なくない。実際には、この時期の海馬は多くの場合は萎縮しておらず、局所脳血流(rCBF)はむしろ増加していることもあるのだが。早期診断への壁:受診の遅れと心理的バイアス近年MCIが注目される最大の理由は、抗アミロイドβ抗体薬を皮切りに、今後の承認が期待される疾患修飾薬(Disease Modifying Drugs)のターゲットがこれだからだろう。ところがこうした治療適齢期に医療機関を受診する人が少ないのである。これに関して、最初の認知症の気付きから医療機関受診までに平均で4年を要するというLancet誌のレビューがある1)。経験的には、本人、家族共に、診断されるのが怖いのはわかる。心理学用語で「確証バイアス」と言われるように、人は自分に都合の良い情報を集める性癖がある。たとえば、「年を取ればこんなもの」「家系に認知症はいない」「かかりつけ医が『あなたはうつだから、大丈夫』と言った」などである。逆にネガティビティバイアスといって悪いイメージが強く残っていると恐怖が強すぎて、他のプラスの情報をすっかり忘れ去ることもある。悪いイメージとは、たとえば、頭部外傷や大腿骨頸部骨折、また重症肺炎などの合併症が重なり急速に死に至ったアルツハイマー病の患者さんといった、特別に不運なケースを身近に経験したような場合である。つまりアルツハイマー病と診断された時、そうした極端な例が心を占めて、一般的なアルツハイマー病の経過を説明しても耳を貸さない人もいる。さて新薬の恩恵にあずかるには、MCIの時期に的確にそれに気付かなくてはならない。以下に述べるように、MCIと診断される頃には、実は行動や感情面でも変化が表れているのだが、MCIとは記憶の障害であり、それはMMSEや長谷川式の記憶項目などの失点として現れると思い込んでいる人が多い。MCIの概念の歴史的変遷MCIというとRonald C. Petersen氏らの定義2)有名だが、実はこの用語は彼のオリジナルではない。というのは、このMCIという術語を用いて複数の学者がそれぞれに異なる定義をしているのである。歴史的にみて、このMCIの始まりは、1991年にBarry Reisberg氏らがアルツハイマー病のステージ判定のために彼らが開発したFAST尺度でStage3を意味する表現としてMCIを用いたことにある3)。次に、Michael Zaudig氏らが現在も抗アルツハイマー病薬の効果判定でもよく使われるClinical Dementia Rating(CDR):0.5に相当するとされる別のMCIを提唱した4)。この2つは行動などを含めて生活機能全般に注目して認知症の前駆期を捉えようとしている。一方で、現在最も注目されているMCIは1996年にPetersen氏らによって定義されたものだが、これは記憶障害に重点の置かれた診断基準であった。行動・感情面の評価が重要にこのようなMCIの概念の歴史からもわかるように、認知症の前駆・初期症状は記憶などの認知機能障害ばかりではない。たとえば近年では、道具的ADL(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)の失敗が始まる時期はMCI期に重なるという指摘がある。具体的には料理、掃除、移動、洗濯、金銭管理などであり、日常生活動作(ADL)よりも複雑で神経心理学的能力が求められるものである。それだけに認知機能の衰退が始まるとIADLの障害は露呈しやすいのも納得できる。そこで「IADL障害は認知症発症に先立つのでMCIの診断でこれを考慮すべき」とまとめられている5)。また、客観的に観察される日常的な行動面での変化も病初期から認められやすい。認知症の前駆期やMCI期にみられる特有の行動症状として、近年ではMild Behavioral Impairment(MBI)の概念やその定義が提唱され、多くの質問項目も作成されている6)。その内容は、意欲低下、情緒不安定、衝動の制御困難、社会的に不適切な言動、知覚・思考の異常という5つのカテゴリーになっている。自身の臨床の場を思い出してみると、何でも面倒臭くなって長年の習慣が廃れる高齢者は枚挙にいとまない。また些細なことで怒り炸裂の「怒りん坊」になる人はとくに男性で多い。そうした方々に見られる言動を仔細に思い出してみると、確かにこの5つのカテゴリーのすべてに該当する何らかの問題がありそうだとも思えてくる。ところで、人の精神活動を「知情意」とまとめる言葉がある。MCI に関して言えば、この3つの中で「知」ばかりが重んじられていたのだが、最初期のMCIの概念やMBIの考え方に代表されるように、実は「情意」の異常も初期から見られるということだ。さて、これからの認知症の治療におけるキーワードであるMCI。多くの人々にこれに気付いてもらうためには、認知機能のみならずIADL、客観的な行動、そして情意という点にも心を向けていただけるような医療的な指導が必要になると思う。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.2)Petersen RC, et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Arch Neurol. 1999;56:303-308.3)Reisberg B, et al. Clinical Stages of Alzheimer’s disease. In:de Leon MJ, editor. The Encyclopedia of Visual Medicine Series, An atlas of Alzheimer’s disease. Pearl River (NY):Parthenon;1999.p.11-20.4)Zaudig M. A new systematic method of measurement and diagnosis of "mild cognitive impairment" and dementia according to ICD-10 and DSM-III-R criteria. Int Psychogeriatr. 1992;4 Suppl 2:203-219.5)Nygard L. Instrumental activities of daily living: a stepping-stone towards Alzheimer's disease diagnosis in subjects with mild cognitive impairment? Acta Neurol Scand Suppl. 2003;179:42-46.6)Ismail Z, et al. The Mild Behavioral Impairment Checklist (MBI-C): A Rating Scale for Neuropsychiatric Symptoms in Pre-Dementia Populations. J Alzheimers Dis. 2017;56:929-938.

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甲状腺疾患と円形脱毛症の間に遺伝的関連がある可能性

 甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎(橋本病)、亜急性甲状腺炎と円形脱毛症(AA)の間には有意な関連性があることを示す研究結果が、「Skin Research & Technology」に9月27日掲載された。 Heping Hospital Affiliated to Changzhi Medical College(中国)のYue Zhao氏らは、2標本のメンデルランダム化解析を用いた研究で、AAと甲状腺疾患の潜在的な因果関係を検証した。甲状腺機能低下症、橋本病、甲状腺機能亢進症、亜急性甲状腺炎、バセドウ病が曝露因子として選択され、AAが結果変数とされた。データはゲノムワイド関連解析(GWAS)から取得された。 解析の結果、甲状腺機能低下症(逆分散加重オッズ比1.40)、橋本病(同1.39)、亜急性甲状腺炎(同0.73)について、AAが統計的に有意な遺伝的予測を示すことが示された。多面性のエビデンスは見られなかった。関連の安定性と頑健性は、leave-one-outテストを使用して実証された。 著者らは、「私たちの研究結果は、甲状腺機能低下症、橋本病、亜急性甲状腺炎が、AAとの間に有意な関連性があることを示しており、内分泌の健康状態と皮膚病理の複雑な相互作用に関する新たな視点を示唆している。これらの発見は、甲状腺疾患とAAの発症機序との関係を示す新たなエビデンスを提供するだけでなく、特にAAの潜在的な治療法を探る上で、将来の研究に新たな方向性を示している」と述べている。

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自分時間、回復効果が高い過ごし方は?

 「Me Time(ミータイム;自分のための時間)」の過ごし方として、森の奥深くを1人でハイキングするのと喫茶店でカフェラテを飲みながら読書するのとでは、どちらの方がより回復効果が高いだろうか? その答えは意外なことに、周囲に人がいる環境でコーヒーと良書を片手に自分自身と向き合うのがベストであることを示唆する研究結果が明らかになった。完全に1人きりになって過ごす張り詰めた体験は、社会的つながりをある程度維持した状態で過ごすMe Timeほど、その人のウェルビーイングに良い影響をもたらすわけではないことが示されたという。米オレゴン州立大学コミュニケーション学分野のMorgan Quinn Ross氏と米オハイオ州立大学コミュニケーション学分野のScott Campbell氏によるこの研究の詳細は、「PLOS One」に12月5日掲載された。 Ross氏はオレゴン州立大学のニュースリリースの中で、「完全に1人きりにはならない方が、エネルギーを回復し、他者とのつながりを維持しやすいことが分かった」と述べ、「ほぼいつでもクリック一つで社会とつながることができる今の世の中では、社会的相互作用とさまざまなタイプの孤独とのバランスの取り方を知っておく必要がある」と付け加えている。 Ross氏らはこの研究で、888人(平均年齢61.9歳、男性359人)を対象にメンタルヘルスや、1人きりになるときと他者と関わるときの嗜好について調査を行った。具体的には、その人のMe Timeが人やテクノロジーによって妨げられ、1人の時間がより社会的性質を帯びる条件を調べた。その結果、携帯電話でゲームをしたり、1人で映画を見に行ったりするような、完全に1人きりにはならない過ごし方は、砂漠での孤独なドライブや人里離れた山小屋での執筆活動よりも利点のあることが明らかになった。 Ross氏らは、「Communicate Bond Belongと呼ばれる一般的な理論では、Me Timeは一種のトレードオフであると考えられてきた」と述べている。すなわち、この理論によると、他者との関係性は社会的相互作用によって築かれるが、それには社会的エネルギー、つまりその人が社会的相互作用に使う能力が消耗される。反対に、1人きりで過ごすと社会的エネルギーは回復するが、その代償として関係性が失われる。 しかし、今回の研究ではそれほど単純ではないことが示された。Ross氏は、「われわれの研究では、1人きりでいることが、実は社会的相互作用と表裏の関係にあるわけではないことが示唆された」と話す。同氏は、「強い社会的相互作用は他者とのつながりをもたらすが、エネルギーを消耗する。一方、強い孤独はエネルギーと他者とのつながりの両方を失わせる。1人きりでいることは、社会的相互作用で使われるエネルギーを回復させる単純な方法として機能するわけではないようだ」との見方を示している。 興味深いことに、こうした結果は外交的な人と内向的な人の両方に当てはまることが分かったという。ただし、完全に1人きりになることがエネルギーの回復やつながりの維持に役立つと考える人にとっては、社会とのつながりにどれだけエネルギーを注いでいるかにかかわらず、完全な孤独が有益となる場合もある。 Ross氏は、「もしあなたが、孤独に対して肯定的な考えを持っている、つまり、孤独になることはエネルギー回復の手段であり、人々とはその後でもつながることができると分かっているのであれば、孤独を選択することは、おそらくあなたの心の状態を良くするだろう。しかし、人と話したくないという理由から社会的相互作用に対して否定的な考えを持ち、孤独になることを選ぶと、おそらく心の状態が悪化するだろう」と結論付けている。

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「2024年のOncology注目トピックス」(肺がん編)【肺がんインタビュー】第106回

第106回 「2024年のOncology注目トピックス」(肺がん編)近年の肺がん薬物治療は、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に加え、抗体薬物複合体や二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE抗体)をはじめとした二重特異性抗体などの新規薬剤の開発、さらにこれらを駆使した薬物治療の進歩は目覚ましく、より多くの肺がん患者が治癒/長期生存を目指せる時代となってきた。2024年は多くのpractice changingな臨床試験が学会/論文発表され、本邦における「肺癌診療ガイドライン2024年版」でも数多くの新規治療が推奨されている。本稿では、これらの中でも現在/将来の実臨床に直結し得る報告について整理し概説する。[目次]1.TNM分類の改訂2.早期NSCLC(EGFR/ALK陰性の場合)2-1.II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のペムブロリズマブ(KEYNOTE-671試験)2-2.II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のニボルマブ療法(CheckMate 77T試験)2-3.2025年以降の切除可能NSCLC(EGFR/ALK陰性例)に対する周術期治療の展望2-4.IB~IIIA期完全切除後ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する術後アレクチニブ単剤療法(ALINA試験)3.切除不能III期NSCLC3-1.切除不能III期EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するCRT後のオシメルチニブ(LAURA試験)4.進行期EGFR遺伝子変異陽性NSCLC4-1.未治療進行期EGFR遺伝子変異NSCLCに対するアミバンタマブ+lazertinib併用療法(MARIPOSA試験)4-2.オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+化学療法±lazertinib(MARIPOSA-2試験)5.進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLC5-1.未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するロルラチニブ単剤療法(CROWN試験)6.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLC6-1.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するレポトレクチニブ単剤療法(TRIDENT-1試験)6-2.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するtaletrectinib単剤療法(TRUST-I試験)7.小細胞肺がん(SCLC)7-1.限局期SCLC(LS-SCLC)に対する同時CRT後のデュルバルマブ(ADRIATIC試験)1.TNM分類の改訂肺がんのTNM分類は、国際対がん連合(UICC)/米国がん合同委員会(AJCC)によって7年おきに改訂されており、第8版は2017年から施行されていた。2023年の世界肺癌学会(WCLC)で第9版のTNM分類が発表され、2024年にJournal of Thoracic Oncology誌に報告されている(Rami-Porta R, et al. J Thorac Oncol. 2024;19:1007-1027. )。本邦においても2024年12月末に「肺癌取扱い規約 第9版」が発刊となっており、2025年1月より発効されている。T/N/M各因子の主な変更点は以下のとおり。T因子変更なしN因子N2(同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移)がN2aとN2bに細分化N2a:単一のリンパ節stationへの転移、N2b:複数のリンパ節stationへの転移M因子M1c(胸腔外の1臓器または多臓器への多発遠隔転移)がM1c1とM1c2に細分化M1c1:胸腔外の1臓器への多発転移、M1c2:胸腔外の多臓器への多発転移これらの分類変更に伴い、病期分類も改訂(図1)がなされている。これにより、第8版と第9版でステージングが異なる可能性がある(図2)ため、注意されたい。図1 肺がんTNM分類の第9版のステージングの概要画像を拡大する(筆者作成)図2 肺がんTNM分類の第8版と第9版の相違点画像を拡大する(筆者作成)周術期治療のさまざまな治療開発が進む中で、第9版では、より切除可能性を意識した分類であると言える。ただし、欧州がん研究治療機構肺がんグループ(EORTC-LCG)によるIII期非小細胞肺がん(NSCLC)の切除可能性に関するサーベイ(図3)では、回答者によって切除可能性の考えが異なるサブセットもあり(例:multi-station N2(N2b)のIII期症例)、個々の症例ごとに多職種チーム(Multidisciplinary team)で協議することが求められる。図3 III期NSCLCにおけるTNMサブセットと切除可能性評価に関するサーベイ概要画像を拡大する(Houda I, et al. Lung Cancer. 2024;199:108061. より筆者作成)2.早期NSCLC(EGFR/ALK陰性の場合)2-1. II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のペムブロリズマブ(KEYNOTE-671試験)II~IIIB期(第8版)の切除可能なNSCLC患者に対して、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブの術前化学療法への上乗せと術後の単独追加投与(最大1年間)による有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるKEYNOTE-671試験の中間解析(追跡期間中央値25.2ヵ月)において、無イベント生存期間(EFS)の有意な延長(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.46~0.72、p<0.001、中央値:未到達vs.17.0ヵ月)が認められたことが2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され、New England Journal of Medicine誌に同時報告された(Wakelee H, et al. N Engl J Med. 2023;389:491-503. )。この試験の主要評価項目はEFSと全生存期間(OS)のco-primaryとなっており、片側α=0.025をEFS、OS、病理学的著効(mPR)、病理学的完全奏効(pCR)に分割し、厳密に制御されたデザインである(EFS:α=0.01、OS:α=0.0148、mPR:α=0.0001、pCR:α=0.0001)。2024年にはLancet誌にフォローアップ期間を延長(追跡期間中央値36.6ヵ月)したアップデート報告がなされ(Spicer JD, et al. Lancet. 2024;404:1240-1252. )、ペムブロリズマブ群におけるOSの有意な延長が示された(HR:0.72、95%CI:0.56~0.93、中央値:未到達vs.52.4ヵ月、p=0.00517)。なお、サブグループ解析では、PD-L1発現が高い患者やステージがより進行した患者でEFSのリスク軽減が認められている。また、治療関連有害事象は両群間で差は認められなかった(重篤な有害事象の頻度:17.7% vs.14.3%)。また、2024年12月のESMO Immuno-Oncology Congress(ESMO-IO)で報告された4年フォローアップデータ(追跡期間中央値:41.1ヵ月)においても、OS延長の傾向は維持されている(HR:0.73、95%CI:0.58~0.92)。KEYNOTE-671試験の結果から、2023年10月に米国食品医薬品局(FDA)の承認が得られ、本邦では2024年8月に国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得している。「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、臨床病期II~IIIB期(第9版、N3を除く)に対して、術前にプラチナ製剤併用療法とペムブロリズマブを併用し、術後にペムブロリズマブの追加を行う治療が弱く推奨されている(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)。2-2. II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のニボルマブ療法(CheckMate 77T試験)II~IIIB期(第8版)の切除可能なNSCLC患者に対して、抗PD-1抗体であるニボルマブの術前化学療法への上乗せと術後の単独追加投与(最大1年間)による有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるCheckMate 77T試験の中間解析(追跡期間中央値25.4ヵ月)において、EFSの有意な延長(HR:0.58、97.36%CI:0.42~0.81、p<0.001、中央値:未到達vs.18.4ヵ月)が認められたことが2023年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表され、New England Journal of Medicine誌に2024年に報告された(Cascone T, et al. N Engl J Med. 2024;390:1756-1769. )。副次評価項目であるpCR/mPR割合もニボルマブ群で向上が認められた(ニボルマブ群 vs.化学療法群:pCR 25.3% vs.4.7%[オッズ比:6.64、95%CI:3.40~12.97]、mPR 35.4% vs.12.1%[オッズ比:4.01、95%CI:2.48~6.49])。前述のKEYNOTE-671試験と同様に、PD-L1発現が高い患者やステージがより進行した患者でEFSのリスク軽減が認められた。これらの試験結果から、2024年10月にFDAの承認が得られている(本邦では2025年1月時点で未承認)。2024年のESMOでは、追跡期間中央値33.3ヵ月のアップデート報告が発表(ESMO2024、LBA50)され、引き続きEFSのベネフィットが示されている(HR:0.59、95%CI:0.45~0.79、中央値:40.1ヵ月 vs.17.0ヵ月)。また、2024年のWCLCでは、ニボルマブの術後投与の必要性を検討するために術前投与(CheckMate 816試験)と、術前・術後投与(CheckMate 77T試験)を両試験の患者背景を傾向スコアによる重み付け解析で調整することにより比較した研究が報告された(WCLC 2024、PL02.08)。CheckMate 77T群の患者では1回以上の術後ニボルマブを投与された患者のみが対象となっており、術後ニボルマブ投与が何らかの理由で困難であった患者は潜在的に除外されている点(CheckMate 77T群で有利な患者選択になっている可能性)には注意が必要であるが、周術期ニボルマブは術前のみのニボルマブに対して手術時点からのEFSを改善し(重み付けありのHR:0.61、95%CI:0.39~0.97)、とくにPD-L1陰性例や、non-pCR例で術後ニボルマブ投与の意義がある可能性が示唆されている。2-3. 2025年以降の切除可能NSCLC(EGFR/ALK陰性例)に対する周術期治療の展望2025年1月現在、NSCLCに対するICIを用いた周術期治療として、本邦ではCheckMate 816レジメン(術前ニボルマブ)、KEYNOTE-671レジメン(周術期ペムブロリズマブ)、IMpower010レジメン(術後アテゾリズマブ)が選択可能である(図4)。術前治療を行うレジメンにおいても、CheckMate 816レジメンとKEYNOTE-671レジメンでは術後治療の有無のみだけでなく、プラチナ製剤の種類や術前治療のサイクル数など細かな違いがあり(表1)、国内の各施設において、内科・外科双方で周術期の治療戦略方針を議論しておく必要があるだろう。また、EGFR遺伝子変異陽性例やALK融合遺伝子陽性例でもICIを用いた周術期治療が有効かどうか、PD-L1発現や術後のpCR/mPRステータス別の治療戦略など争点は未だ多く残っており、さらなるエビデンスの蓄積が求められる。さらに、IIIA-N2期のNSCLCを切除可能として周術期治療を行うか、切除不能として化学放射線療法(CRT)を行うかの判断は非常に難しい。2013~14年の国内のIIIA-N2期のNSCLCに対する治療実態調査(Horinouchi H, et al. Lung Cancer. 2024;199:108027. )では、周術期化学療法が行われたのは約25%であり、約59%はCRTが選択された。CRTが選択された患者で切除不能とされた主要な理由は、転移リンパ節数が多いことであり(71%)、周術期ICI戦略の登場によってこの勢力図が今後どのように変化していくか注視したい。図4 主要な周術期治療戦略の概略図画像を拡大する(筆者作成)表1 主要な術前ICIの臨床試験の患者背景の違い画像を拡大する(筆者作成)2-4. IB~IIIA期完全切除後ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する術後アレクチニブ単剤療法(ALINA試験)完全切除後のALK融合遺伝子を有するIB~IIIA期(第7版)NSCLCに対して、術後補助療法としてアレクチニブ(1,200mg/日を2年間内服)とプラチナ併用療法を比較したALINA試験の結果が2023年のESMOで発表され、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Wu YL, et al. N Engl J Med. 2024;390:1265-1276. )。試験の注意点として、アレクチニブの用量が国内の進行期の承認用量(600mg/日)よりも多いことが挙げられる。主要評価項目である無病生存期間(DFS)は、II~IIIA期、IB~IIIA期の順に階層的に検証され、それぞれ有意な延長が示された(II~IIIA期のHR:0.24、95%CI:0.13~0.45、p<0.0001、IB~IIIA期のHR:0.24、95%CI:0.13~0.43、p<0.0001)。また、脳転移再発を含む中枢神経系イベントのDFSの延長も示されている(HR:0.22、95%CI:0.08~0.58)。ALINA試験の結果から、2024年4月にFDA承認が得られ、本邦では2024年8月に国内適応追加承認を取得している。また、「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、ALK融合遺伝子陽性の術後病理病期II~IIIB期(第9版)完全切除例に対して、従来の術後補助療法(プラチナ併用療法)の代わりとしてアレクチニブによる治療を行うよう弱く推奨されている(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)。今後は術後の時点でALK(およびEGFR)のステータスを確認することが求められる。3.切除不能III期NSCLC3-1. 切除不能III期EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するCRT後のオシメルチニブ(LAURA試験)切除不能なEGFR遺伝子変異陽性III期NSCLCでCRT終了後に病勢進行のない患者に対するオシメルチニブ地固め療法の有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるLAURA試験の主解析およびOSに関する第1回中間解析の結果が2024年のASCOで発表され、同年New England Journal of Medicine誌に報告された(Lu S, et al. N Engl J Med. 2024;391:585-597. )。試験デザインでは、オシメルチニブを永続内服する必要があった点に留意が必要である。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)はオシメルチニブ群で有意に延長し(HR:0.16、95%CI:0.10~0.24、p<0.001、中央値:39.1ヵ月vs.5.6ヵ月)、オシメルチニブ群で脳転移や肺転移などの遠隔転移再発が少ないことが示された(脳転移:8% vs.29%、肺転移:6% vs.29%)。OSは未成熟(成熟度20%)であり、プラセボ群では約8割が再発後にオシメルチニブの投与を受けており、今後のOSでも有意な延長が確認されるかどうかは長期フォローアップデータが待たれる。有害事象面では、放射線肺臓炎はオシメルチニブ群で数値的に多い(48% vs.38%)ものの、ほとんどがGrade2以下であった。なお、本試験には日本人が30例登録されており、日本人サブセットデータが2024年の日本肺癌学会で報告され、日本人サブセットにおいてもLAURA試験の全体集団の結果と一致したことが報告されている。また、日本人では肺障害が懸念されるものの、Grade3以上の放射線肺臓炎の頻度はわずか(4%、30例中1例のみ)であった。LAURA試験の結果から、2024年9月にFDA承認されており、本邦では2025年1月時点で未承認であるが、2024年7月に国内承認申請済みであり、そう遠くない未来には本邦でも使用可能な戦略になることが期待される。4.進行期EGFR遺伝子変異陽性NSCLC4-1. 未治療進行期EGFR遺伝子変異NSCLCに対するアミバンタマブ+lazertinib併用療法(MARIPOSA試験)未治療のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異あるいはL858R変異)陽性NSCLCに対する、アミバンタマブ(EGFRとMETの二重特異性抗体)とlazertinibの併用療法の有効性・安全性をオシメルチニブ単剤(およびlazertinib単剤)と比較した国際無作為化第III相試験であるMARIPOSA試験の第1回中間解析結果が2023年のESMOで発表され、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Cho BC, et al. N Engl J Med. 2024;391:1486-1498. )。アミバンタマブ+lazertinib群でオシメルチニブ群と比較して有意なPFSの延長が示された(HR:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001、中央値:23.7ヵ月vs.16.6ヵ月)。2024年のASCOでは高リスクの患者背景(肝転移、脳転移、TP53変異陽性など)を持つサブグループでもアミバンタマブ+lazertinibのPFSベネフィットがあることが示され、論文化されている(Felip E, et al. Ann Oncol. 2024;35:805-816. )。OSについては未だ未成熟ではあるものの、同年のWCLCでアップデート報告(追跡期間中央値:31.1ヵ月)(WCLC 2024、OA02.03)が発表され、アミバンタマブ+lazertinib群のOS中央値は未到達、HRは0.77(95%CI:0.61~0.96、p=0.019)とアミバンタマブ+lazertinib群でこれまで絶対的な標準治療であったオシメルチニブ単剤療法を上回る可能性が示唆されている。2025年1月には、OSが統計学的有意かつ臨床的に意義のある延長を示したとのプレスリリースが出ており、2025年内の報告が期待される。もっとも、アミバンタマブを用いることで皮膚毒性や浮腫、インフュージョンリアクションや静脈血栓症など配慮すべき有害事象は増えるため、リスクベネフィットを踏まえた治療選択や、適切な毒性管理が求められる。この試験結果から、2024年8月にFDA承認が得られており、本邦では2024年4月に承認申請中である。4-2. オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+化学療法±lazertinib(MARIPOSA-2試験)アミバンタマブを用いた治療戦略は既治療例でも検討されており、オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異あるいはL858R変異)陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+プラチナ併用療法±lazertinibの有効性・安全性を化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)と比較した無作為化オープンラベル第III相試験であるMARIPOSA-2試験の第1回中間解析結果が2023年のESMOで発表され、2024年にAnnals of Oncology誌に報告されている(Passaro A, et al. Ann Oncol. 2024;35:77-90. )。主要評価項目であるPFSは、アミバンタマブ+化学療法およびアミバンタマブ+化学療法+lazertinibにより、化学療法のみと比較して有意に延長したことが示された(HRはそれぞれ0.48、0.44、共にp<0.001、中央値はそれぞれ6.3、8.3、4.2ヵ月)。2024年のESMOでは第2回中間解析結果が発表され、追跡期間中央値18.1ヵ月時点におけるOS中央値は、統計学的な有意差は認めなかったものの、アミバンタマブ+化学療法群で化学療法群よりも延長する傾向にあった(HR:0.73、95%CI:0.54~0.99、p=0.039、中央値:17.7ヵ月vs.15.3ヵ月)。この試験結果から、2024年9月にFDAの承認(アミバンタマブ+化学療法のみ)が得られており、本邦では2024年5月に承認申請中である。5.進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLC5-1. 未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するロルラチニブ単剤療法(CROWN試験)PS0~1の未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCを対象として、ロルラチニブ単剤療法とクリゾチニブ単剤療法を比較した国際共同非盲検ランダム化第III相試験であるCROWN試験において、ロルラチニブによって主要評価項目であるPFSの有意な延長が2020年に示されていた(HR:0.28、95%CI:0.19~0.41、p<0.001、中央値:未到達vs.9.3ヵ月)(Shaw AT, et al. N Engl J Med. 2020;383:2018-2029. )。2024年に報告された同試験の長期フォローアップ報告(観察期間中央値60.2ヵ月)でも、PFS中央値は未到達であった(Solomon BJ, et al. J Clin Oncol. 2024;42:3400-3409. )。5年時点での中枢神経イベントフリー割合はロルラチニブでクリゾチニブよりも著明に高く(92% vs.21%)、高い頭蓋内制御効果が確認された。一方、ロルラチニブによる認知機能障害や気分障害などの中枢神経関連有害事象(全Gradeで約40%)に対しては慎重なマネジメントが求められる。この試験結果から、「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、2023年から推奨度が変更となり、PS0~1のALK融合遺伝子陽性、進行NSCLCの1次治療として、ロルラチニブ単剤療法を行うよう強く推奨されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:B)。(※アレクチニブは推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A、ブリグチニブは推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)6.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLC6-1. 進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するレポトレクチニブ単剤療法(TRIDENT-1試験)ROS1融合遺伝子陽性のNSCLCを含む進行固形がん患者を対象に、ROS1-TKIであるレポトレクチニブの有効性と安全性を評価した第I/II相試験であるTRIDENT-1試験の結果は、2023年のWCLCで初回報告され(WCLC 2023、OA03.06)、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Drilon A, et al. N Engl J Med. 2024;390:118-131. )。ROS1-TKI未治療例が71例、既治療例が56例登録され、レポトレクチニブ単剤治療(1日1回160mgを14日間内服後、1回160mgを1日2回内服)により、主要評価項目であるORRは未治療例で79%、既治療例で38%、PFS中央値は未治療例で35.7ヵ月、既治療例で9.0ヵ月であったと報告された。また、この薬剤は分子量が小さいことから、ATP結合部位へ正確かつ強力に結合することができ、クリゾチニブなど従来のROS1-TKIの耐性変異として問題となるG2032R変異を有する患者においても59%に奏効が認められた。ただし、主な治療関連有害事象として、めまい(58%)など中枢神経系の有害事象には注意が必要である(治療関連有害事象による中止は3%)。この試験の結果から、2024年6月にFDA承認が得られ、本邦では2024年9月に国内製造販売承認を取得している。また、「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、ROS1融合遺伝子陽性、進行NSCLCの1次治療として、レポトレクチニブを含むROS1-TKI単剤療法を行うよう強く推奨されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)(※ROS1-TKIの薬剤の推奨度は同列)。6-2. 進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するtaletrectinib単剤療法(TRUST-I試験)2024年のASCOでは、新規ROS1チロシンキナーゼ阻害薬であるtaletrectinib単剤療法の有効性、安全性を検証した単群第II相のTRUST-I試験の結果が報告(ASCO 2024、#8520)され、Journal of Clinical Oncology誌に同時掲載されている(Li W, et al. J Clin Oncol. 2024;42:2660-2670. )。ROS1-TKI未治療症例において奏効割合91%、頭蓋内奏効割合88%、PFS中央値23.5ヵ月と良好な成績を示した。クリゾチニブ既治療症例においても、奏効割合52%、頭蓋内奏効割合73%と良好な結果であった。主な有害事象はAST上昇(76%)や下痢(70%)であり、高い中枢神経移行性を持つ一方で、前述のレポトレクチニブと異なり中枢神経系の有害事象が比較的少ないことが特徴である。taletrectinibが神経栄養因子受容体(TRK)よりもROS1に対して酵素的選択性を示すことが起因していると考えられる。なお、TRUST-I試験は中国国内の単群試験であったが、国際共同単群第II相試験であるTRUST-II試験でも同様の結果が再現されたことが2024年のWCLCで報告されている(WCLC 2024、MA06.03)。これらの試験結果から、taletrectinibはFDAの優先審査対象となり現在審査中である。表2 主なROS1-TKIの治療成績、有害事象のまとめ画像を拡大する(筆者作成)7.小細胞肺がん(SCLC)7-1. 限局期SCLC(LS-SCLC)に対する同時CRT後のデュルバルマブ(ADRIATIC試験)I~III期の切除不能LS-SCLCに対する同時CRT後に病勢進行のない患者に対するデュルバルマブ地固め療法(最大2年間)の有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるADRIATIC試験の第1回中間解析の結果が2024年のASCOで発表され、同年New England Journal of Medicine誌に報告された(Cheng Y, et al. N Engl J Med. 2024;391:1313-1327. )(デュルバルマブ群の他、デュルバルマブ+トレメリムマブ群も存在するが、現時点で盲検化されている)。デュルバルマブ群はプラセボ群より有意にOS、PFS(co-primary endpoints)を延長した(OSのHR:0.73、98.321%CI:0.54~0.98、p=0.01、中央値:55.9ヵ月vs.33.4ヵ月、PFSのHR:0.76、97.195%CI:0.59~0.98、p=0.02、中央値:16.6ヵ月vs.9.2ヵ月)。肺臓炎/放射線肺臓炎はデュルバルマブ群で38.2%、プラセボ群で30.2%(Grade3/4はそれぞれ3.1%、2.6%)に発現し、免疫関連有害事象は全Gradeでそれぞれ32.1%と10.2%であった(Grade3/4はそれぞれ5.3%、1.4%)。本試験では同時CRT時の放射線照射の回数は1日1回と1日2回のいずれも許容されていた。本試験では1日1回照射を受けた患者の方が多く(約7割)、国によっては放射線照射を外来で行うことが主流であることが一因と考えられる。2024年のESMOで照射回数によるサブグループ解析結果が報告されており(ESMO 2024、LBA81)、いずれの照射回数においてもデュルバルマブ群でOS、PFSを改善することが確認されているが、1日2回照射の方がデュルバルマブ群、プラセボ群双方においてOS、PFSの絶対値が長いことも示されている。また、本試験には日本人が50例登録されており、日本人サブセットデータが2024年の日本肺癌学会で報告され、同時CRT後のデュルバルマブ地固め療法は日本人集団においても臨床的に意義のあるOSの改善が示されている。ADRIATIC試験の結果から、2024年12月にFDAで承認された。本邦では2025年1月時点で未承認であるが、LAURA試験レジメンと同時に国内承認申請済みであり、今後の承認が期待される。おわりに2024年に学会/論文発表された臨床試験のうち、国内ガイドラインで推奨された治療、および今後推奨が予想される治療を中心に解説した。2024年は切除可能な早期から進行期までさまざまな病期の肺がんにおける新知見が報告された印象的な1年であったと言える。本稿では詳しく取り上げなかったが、その他にも2024年に国内で新規承認されたレジメンは多く、表3にまとめた。2025年以降も肺がんの治療の進歩がさらに加速していくことを期待したい。表3 2024年に国内承認された、あるいは2025年内に承認が予想されるレジメン画像を拡大する(筆者作成)【2024年の学会レポート・速報】

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024)レポート

レポーター紹介San Antonio Breast Cancer Symposium 2024が12月10〜13日の間、ハイブリッド開催されました。100ヵ国を超える国々から計1万1,000人以上の参加者があり、乳がん治療の最適化、予防・早期発見、薬剤開発、トランスレーショナルリサーチ、バイオロジー等多岐にわたる視点から多くの発表が行われました。今年は、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。全身治療EMBER3試験(ER+/HER2-進行乳がん):NEJM掲載1)アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者において、経口SERDであるimlunestrant単剤治療およびアベマシクリブとの併用治療の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。対象患者874例が、imlunestrant群、標準内分泌療法群(エキセメスタンまたはフルベストラント)、imlunestrant+アベマシクリブ群に、1対1対1の割合で無作為化されました。前治療として1/3が術後治療のみの治療歴、2/3が進行乳がんに対して1ライン治療後、55.5%に内臓転移があり、59.8%がCDK4/6阻害薬による治療歴を有していました。ESR1変異陽性患者は32~42%、PI3K経路変異は約40%にみられました。主要評価項目は、治験医師評価による無増悪生存期間(PFS)で、ESR1変異陽性患者および全集団においてimlunestrant群と標準内分泌療法群を比較し、また全集団においてimlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の比較が行われました。本試験の結果、ESR1変異陽性患者256例において、PFS中央値はimlunestrant群5.5ヵ月vs. 標準内分泌療法群3.8ヵ月、ハザード比(HR):0.62(95%信頼区間[CI]:0.46~0.82、p<0.001)とimlunestrant群で38%のPFS改善がみられました。全集団(Imlunestrant群と標準内分泌療法群の計661例)では、PFS中央値はimlunestrant群5.6ヵ月vs.標準内分泌療法群5.5ヵ月、HR:0.87(95%CI:0.72~1.04、p=0.12)と統計学的有意差を認めませんでした。imlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の計426例におけるPFS中央値は、それぞれ9.4ヵ月vs.5.5ヵ月、HR:0.57(95%CI:0.44~0.73、p<0.001)とimlunestrant+アベマシクリブ群で43%のPFS改善を認めました。PFSのサブグループ解析の結果は、ESR1変異有無、PI3K経路変異有無、CDK4/6阻害薬による治療歴の有無にかかわらずimlunestrant+アベマシクリブ群で良好でした。同じSERDでもフルベストラント(筋注)とimlunestrant(経口)でなぜ効果が違うのでしょうか? ESR1変異細胞株を用いたin vitroの実験ではフルベストラントとimlunestrantの効果は変わらないことが知られています2)。この違いは投与経路によるbioavailabilityの差によるものと考えられており、臨床上効果の差はEMERALD試験、SERENA-2試験、aceIERA試験、ELAINE 1試験でも同様の傾向がみられます。本試験では2次治療でのimlunestrant±アベマシクリブの有効性を示したものですが、全生存期間(OS)の結果がimmatureであること、imlunestrant+アベマシクリブ群の40%がCDK4/6阻害薬の初回投与であること等を考慮すると慎重な解釈が必要です。経口SERDへのスイッチのタイミング、CDK4/6阻害薬・PI3K経路阻害薬のシークエンス、ESR1/PIK3CA dual mutation carrierの治療戦略構築は今後の課題といえるでしょう。PATINA試験(HR+/HER2+転移乳がん)抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサンによる導入療法後に病勢進行がみられないHR+/HER2+転移乳がん患者における維持療法として抗HER2療法+内分泌療法へのパルボシクリブ追加の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。本試験は、サイクリンD1-CDK4の活性化が抗HER2療法の耐性に関与しており、CDK4/6阻害薬と抗HER2療法の相乗効果が前臨床モデルで認められた3)という背景をもとにデザインされています。6~8サイクルの抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサン導入療法後に病勢進行がなかった対象患者518例が、トラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法+パルボシクリブ(パルボシクリブ追加群)とトラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法(抗HER2療法+内分泌療法群)に1対1に無作為化されました。患者特性として97%がペルツズマブを投与され、71%が周術期治療で抗HER2療法の治療歴を有し、導入療法の全奏効率(ORR)は69%でした。主要評価項目は治験医師評価によるPFSでした。本試験の結果、PFS中央値は、パルボシクリブ追加群44.3ヵ月vs.抗HER2療法+内分泌療法群29.1ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.58~0.94、p=0.0074)で、パルボシクリブ追加群における有意なPFS改善がみられました。PFSのサブグループ解析では、ペルツズマブ投与や周術期治療としての抗HER2療法歴の有無、導入療法への反応や内分泌療法の種類によらず、パルボシクリブ追加群で良好でした。本試験に日本は参加していませんが、導入療法後のPFSが15.2ヵ月延長した点において、世界的にはpractice changingである結果です。本試験で注目されたのは、まずコントロール群である抗HER2療法+内分泌療法群のPFS中央値が29.1ヵ月とCLEOPATRA試験に比べ、非常に良好である点です(CLEOPATRA試験のPFS中央値18.7ヵ月)。本試験のデザインの特徴として導入療法後に病勢進行がない患者を組み入れ対象としており、この時点で早期PD症例(CLEOPATRA試験では20~25%が早期PD)が除外され、比較的予後良好症例に絞られています。また維持療法中の内分泌療法がCLEOPATRA試験では許容されておらず、本試験は対象をHR+/HER2+に絞り、内分泌療法が全例に行われた点も良好なPFSに寄与していると考えられます。またパルボシクリブ追加群ではPFS中央値が44.3ヵ月と大きく延長し、HR+/HER2+転移乳がんにおけるCDK4/6阻害薬追加の有用性が示されましたが、副次評価項目のOSはimmatureですので最終解析が待たれます。今後はHR+/HER2+転移乳がんで導入療法の化学療法を省略できるのか、導入療法がADC製剤となった場合の維持療法、その他の標的治療(PI3K阻害薬、SERDs、PARP阻害薬等)の併用等が議論の焦点となるでしょう。また、どのサブタイプにもいえることですが、治療レスポンスガイド、分子バイオマーカーによる症例選択により、治療の最適化を図るのは非常に重要なポイントとなります。ZEST試験(早期乳がん)トリプルネガティブ乳がん(TNBC)または腫瘍組織のBRCA病的バリアント(tBRCAm)を有するHR+/HER2-乳がん患者(StageI~III)を対象に標準治療終了後、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)検査を2~3ヵ月ごとに行い、ctDNA陽性かつ画像的再発が検出されていない患者に対するPARP阻害薬ニラパリブの有効性を検討するランダム化比較第III相試験です。初めての血中の微小転移(MRD)を標的とした大規模第III相試験ということで注目を集めましたが、本試験は残念ながら無作為化に必要な十分な症例数が得られず早期終了しました。早期終了に至った経緯ですが、標準治療終了後、ctDNAサーベイランスに登録された症例1,901例のうち、147例(8%)がctDNA陽性となり、73例(ctDNA陽性症例の50%)が画像的再発を認め組み入れ対象外となりました。最終的にニラパリブ群およびプラセボ群への無作為化に進んだ症例は40例(2%)とごくわずかとなったためです。少数での解析にはなりますが、ctDNA陽性症例の中でTNBCが92%、tBRCAmを有するHR+/HER2-乳がんが8%、Stage IIIが54%でした。TNBCでctDNA陽性となった症例の約60%が標準治療終了後から6ヵ月以内にctDNA陽性となっており、かなり早い段階からMRDが検出されると同時に約半数に画像的再発を認めました。解釈には注意を要しますが、無再発生存期間(RFS)中央値は、ニラパリブ群11.4ヵ月vs.プラセボ群5.4ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.32~1.36)でした。本試験からはMRDに基づいた治療介入の有用性は示されませんでしたが、今後の試験デザインを組むうえで多くのヒントを残した試験といえます。今後は、よりハイリスク症例を組み入れる等の対象の選定、TNBCにおいてはより早期(術前化学療法直後)からのMRD評価、より感度の高いMRD検出法の確立等の課題が挙げられ、MRDを標的とした術後のより個別化された治療戦略構築が望まれます。局所治療INSEMA試験:NEJM掲載4)乳房温存療法を受ける予定の浸潤性乳がん患者で、腫瘍径≦5cmのcT1/2、かつ臨床的リンパ節転移陰性(cN0)の患者に対する、腋窩手術省略とセンチネルリンパ節生検の前向きランダム化比較試験(非劣性試験)です。対象患者5,154例が無作為化を受け、4,858例がper-protocol解析集団となりました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群に1対4で割り付けられました(腋窩手術省略群962例、センチネルリンパ節生検群3,896例)。主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)で腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性マージンは、5年iDFS率が85%以上で、浸潤性疾患または死亡のHRの95%CIの上限が1.271未満と規定されました。患者特性は50歳未満の患者は10.8%と少なく、cT≦2cmの症例が90%、96%がGrade1/2、95%がHR+/HER2-乳がんでした。また、センチネルリンパ節生検群では3.4%に微小転移、11.3%に1~3個の転移、0.2%に4個以上の転移を認めました。本試験の結果、観察期間中央値73.6ヵ月、per-protocol集団における5年iDFS率は腋窩手術省略群91.9% vs.センチネルリンパ節生検群91.7%、HR:0.91(95%CI:0.73~1.14)であり、腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性が証明されました。主要評価項目のイベント(浸潤性疾患の発症または再発、あるいは死亡)は525例(10.8%)に発生しました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群の間で、遠隔転移再発率に差はなく(2.7% vs.2.7%)、腋窩再発発生率は腋窩手術省略群で若干高いという結果でした(1.0% vs.0.3%)。副次評価項目の5年OS率は腋窩手術省略群98.2% vs.センチネルリンパ節生検群96.9%、HR:0.69(95%CI:0.46~1.02)と良好な結果でした。安全性については、腋窩手術省略群はセンチネルリンパ節生検群と比較して、リンパ浮腫の発現率が低く、上肢可動域が大きく、上肢や肩の動きに伴う痛みが少ないという結果でした。表:SOUND試験とINSEMA試験の比較画像を拡大する乳房温存療法におけるcN0症例の腋窩手術省略の可能性を検討したSOUND試験、INSEMA試験の結果から、閉経後(50歳以上)、cT≦2cm、HR+/HER2-、Grade1~2といった限られた対象で腋窩手術省略は検討可能であることが示唆されました。一方、閉経前、TNBC、HER2陽性乳がん、小葉がん、cT2 以上、Grade3については試験に組み入れられた症例数が少なくデータが不十分であること、腋窩のstagingが術後治療選択に関わることを踏まえるとセンチネルリンパ節生検を行うことが妥当であると考えられます。SUPREMO試験乳房全切除術を行った「中間リスク」浸潤性乳がん(pT1/2N1M0、pT3N0M0、pT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲あり)の乳房全切除後放射線照射(PMRT、胸壁照射のみ)の有用性を検討する前向きランダム化比較試験です。EBCTCGのメタアナリシス(1964~1986)では腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRTにより領域リンパ節再発率、乳がん死亡率を減少させることが報告されています6)。この解析はアロマターゼ阻害薬、抗HER2療法やタキサンが普及する前の解析であり、現在の周術期薬物療法の各再発率低減への寄与が高まる中、放射線療法の相対的な意義が低下している可能性があります。一方でPMRTを安全に省略できる条件については一定の見解はなく、今回のSUPREMO試験(2006~2013)は現代の周術期薬物療法が行われた浸潤性乳がんにおけるPMRTの有用性を改めて検証した試験となります。対象患者1,679例が胸壁照射なし群と胸壁照射あり群に、1対1の割合で無作為化されました。患者特性としてpN0が25%、腋窩リンパ節転移1個陽性が40%、腋窩リンパ節転移陽性症例には腋窩郭清(8個以上腋窩リンパ節を摘出)が行われました。本試験の結果、10年OS、無病生存期間(DFS)、MDFSに関してはPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は認めませんでした。胸壁再発に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.30、95%CI:0.11~0.82、p=0.01)。局所再発率に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.51、95%CI:0.27~0.96、p=0.03)。本試験の結果からpT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲ありの症例に対するPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は10年の観察期間内では証明されませんでした。pT3N0M0症例は11例しか含まれておらずPMRT(胸壁照射のみ)の有用性については不明です。さらに腋窩リンパ節転移1~3個陽性症例でのPMRT(胸壁照射のみ)による絶対的リスク低減効果はわずかであり、多遺伝子解析を含めた腫瘍の生物学的リスク、リンパ節転移個数等を加味し、症例選択のうえPMRTの省略を検討できる可能性があります。また近年、腋窩リンパ節に対する縮小手術のデータが蓄積されてきているため、腋窩手術と放射線治療間でのバランスも検討が必要であり、過不足のない周術期治療戦略を練る必要があります。最後に本学会に参加して、多くの演者が“One size does not fits all.”とコメントしていたのが印象的です。早期乳がんに関しては局所療法のde-escalationが進む中、腫瘍のバイオロジー・リスクに応じた全身治療の最適化(de-escalation/escalation)が検討されており、治療選択肢も増えて混沌としてきています。転移・再発乳がんに関しては治療のラインに伴い経時的に変化しうる腫瘍の性質をいかに捉え、病勢をコントロールするかさまざまな薬剤の組み合わせ、シークエンスを含めたエビデンスの構築が必要です。安全に周術期治療、転移・再発治療の最適化を行うためにも、乳がんのバイオロジーの理解、多職種連携により包括的に患者の病態を捉え、治療を行っていく必要性があると考えられます。参考1)Jhaveri KL, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 11. [Epub ahead of print]2)Bhagwat SV, et al. Cancer Res. 2024 Dec 9. [Epub ahead of print]3)Goel S, et al. Cancer Cell. 2016;29:255-269.4)Reimer T, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 12. [Epub ahead of print]5)Gentilini OD, et al. JAMA Oncol. 2023 Nov 01;9:1557-1564.6)EBCTCG (Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group) . Lancet. 2014;383:2127-2135.

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統合失調症に対するルラシドン投与量は80mg/日へ増量すべきか

 慶應義塾大学の竹内 啓善氏らは、統合失調症患者に対するルラシドンの投与量を40mg/日から80mg/日に増量した場合の有効性および安全性を評価するため、本検討を行った。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2025年1、2月号の報告。 対象は、6週間のルラシドン二重盲検プラセボ対照試験を完了し、その後12週間の非盲検延長試験に移行した統合失調症患者。二重盲検期間中に、ルラシドン群(40mg/日)またはプラセボ群に割り当てられた患者には、延長試験期間中にルラシドン40mg/日投与を行った。臨床医による判断に基づきルラシドン80mg/日への増量を可能とした。有効性アウトカムには、ルラシドン80mg/日の治療開始から終了までの陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)合計スコアの変化を含めた。安全性アウトカムは、新たに発生した有害事象の発現率とした。 主な結果は以下のとおり。・ITT集団287例のうち、ルラシドンの投与量を40mg/日から80mg/日へ増量した患者は153例であった。・両群において、PANSS合計スコアの有意な減少が認められた(すべてp≦0.001)。・PANSS合計スコアが20%以上減少した患者の割合は、ルラシドン群で35.9%、プラセボ群で40.0%であった。・ルラシドン80mg/日での治療期間中における新たな有害事象の発現率は、ルラシドン群で47.4%、プラセボ群で48.0%であった。 著者らは「対照群がなく、盲検化されていないため、結果は慎重に解釈する必要がある」としながらも「統合失調症患者に対するルラシドン40mg/日から80mg/日への増量は、効果的かつ忍容性も良好であることが示唆された」と結論付けている。

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切除不能HCC、TACEにデュルバルマブ+ベバシズマブ併用でPFS改善(EMERALD-1)/Lancet

 肝動脈化学塞栓療法(TACE)対象の切除不能な肝細胞がん(HCC)患者において、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブの併用療法が新たな標準治療となりうることが、スペイン・Clinica Universidad de Navarra and CIBEREHDのBruno Sangro氏らEMERALD-1 Investigatorsによる国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「EMERALD-1試験」の結果で示された。TACEは20年以上前に標準治療として確立されたが、TACEに関するガイドラインの記載は世界各地域で異なり、病期や腫瘍の大きさ、肝機能、合併症などが異なる多様な患者がTACEを受けている。無増悪生存期間(PFS)中央値は依然として約7ヵ月であり、研究グループは、ベバシズマブ併用の有無を問わずデュルバルマブの併用によりPFSを改善可能か評価した。著者は「最終的な全生存期間(OS)の解析および患者報告のアウトカムなども含むさらなる解析は、塞栓術が可能なHCCにおける、デュルバルマブ+ベバシズマブ+TACEの潜在的な臨床ベネフィットを、さらに特徴付けるのに役立つだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年1月8日号掲載の報告。日本を含む18ヵ国157施設で試験、TACE単独療法と比較評価 EMERALD-1試験は、18歳以上のTACE対象の切除不能なHCCで、登録時ECOG PSが0または1、modified RECISTに基づく測定可能な肝内病変を少なくとも1つ有する患者を、日本を含む18ヵ国157施設(研究センター、総合および専門病院を含む)で登録して行われた。 適格患者を、TACEの手法、登録地域、門脈浸潤で層別化し、対話型音声応答またはweb応答システムを用いて、(1)TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群(4週ごとにデュルバルマブ1,500mg静脈内投与、その後3週ごとにデュルバルマブ1,120mg+ベバシズマブ15mg/kgの静脈内投与)、(2)TACE+デュルバルマブ併用療法群(ベバシズマブに代えてプラセボを投与)、(3)TACE単独療法群(デュルバルマブとベバシズマブに代えてそれぞれプラセボを投与)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。被験者、治験担当医師、アウトカム評価者はデータ解析まで治療割り付けを盲検化された。 主要評価項目は、ITT集団(治療に割り付けられた全被験者)におけるTACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群とTACE単独療法群を比較評価したPFS(RECIST ver1.1に基づく盲検下独立中央判定[BICR]による)であった。副次評価項目は、TACE+デュルバルマブ併用療法群とTACE単独療法群を比較評価したPFS(RECIST ver1.1に基づくBICRによる)およびOS、患者報告アウトカムの悪化などであった。 なお、被験者は、OSに関して引き続きフォローアップを受けており、OSと患者報告アウトカムについては後日公表される予定となっている。また安全性の評価は、治療に割り付けられ、試験治療(すなわちデュルバルマブ、ベバシズマブ、あるいはプラセボのいずれか)を受けた被験者を対象に解析された。TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群のPFSが改善 2018年11月30日~2021年7月19日に、887例がスクリーニングを受け、616例(ITT集団)がTACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群(204例)、TACE+デュルバルマブ併用療法群(207例)、TACE単独療法群(205例)に無作為に割り付けられた。年齢中央値は65.0歳(四分位範囲:59.0~72.0)、135/616例(22%)が女性、481/616例(78%)が男性。アジア人375例(61%)、白人176例(29%)、アメリカインディアン/アラスカ先住民22例(4%)、黒人/アフリカ系米国人9例(1%)、ハワイ先住民/他の太平洋諸島住民1例(<1%)、その他の人種33例(5%)であった。 データカットオフ時点(2023年9月11日、PFSに関する追跡期間中央値27.9ヵ月[95%信頼区間[CI]:27.4~30.4])のPFSは、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群15.0ヵ月(95%CI:11.1~18.9)、TACE+デュルバルマブ併用療法群10.0ヵ月(9.0~12.7)、TACE単独療法群8.2ヵ月(6.9~11.1)であった。 TACE単独療法群と比較したPFSのハザード比は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群0.77(95%CI:0.61~0.98、両側のp=0.032)、TACE+デュルバルマブ併用療法群0.94(0.75~1.19、両側のp=0.64)であった。 最も多くみられた最大Grade3~4の有害事象は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群では高血圧(9/154例[6%])、TACE+デュルバルマブ併用療法群では貧血(10/232例[4%])、TACE単独療法群は塞栓後症候群(8/200例[4%])であった。死亡に至った治療関連有害事象は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群では報告されなかったが、TACE+デュルバルマブ併用療法群では3/232例(1%)(動脈出血、肝損傷、多臓器不全症候群の各1例)、TACE単独療法群では3/200例(2%)(食道静脈瘤出血、上部消化管出血、皮膚筋炎の各1例)の報告があった。

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慢性疾患の増加は腎機能を低下させる

 高齢者における多疾患併存は腎機能低下と強く関連しており、慢性疾患の数が増えるほど腎機能の低下度も大きくなることが、新たな研究で明らかになった。研究論文の筆頭著者であるカロリンスカ研究所(スウェーデン)のGiorgi Beridze氏は、「われわれの研究結果は、高齢者の腎機能低下のリスクを評価する際に、慢性疾患の全体的な負担だけでなく、疾患間の複雑な相互作用も考慮した包括的な評価の重要性を強調するものだ」と述べている。この研究の詳細は、「Journal of the American Geriatrics Society(JAGS)」に12月17日掲載された。 この研究でBeridze氏らは、老化研究(Swedish National study on Aging and Care in Kungsholmen;SNAC-K)の一環として、スウェーデンの高齢者3,094人(平均年齢73.9歳)の健康状態を15年間にわたって追跡調査した。多疾患併存として慢性疾患の数を調査してそのパターンを特定し、経時的な推算糸球体濾過量(eGFR)の絶対的変化および相対的変化(ベースラインからの25%以上の低下)との関連を検討した。対象者の87%が多疾患併存に該当した。 解析の結果、慢性疾患の数とeGFRの絶対的な低下および相対的な低下との間には独立した容量依存関係が認められることが明らかになった。具体的には、慢性疾患が1つ増えるごとに、eGFRは年平均0.05mL/分/1.73m2低下し、ベースラインからeGFRが25%以上低下するリスクは23%増加すると推定された。 多疾患併存には、「非特異的な低負荷パターン」「非特異的な高負荷パターン」「認知機能障害や感覚障害を特徴とするパターン」「精神疾患や呼吸器疾患を特徴とするパターン」「心代謝性疾患を特徴とするパターン」の5つが特定された。「非特異的な低負荷パターン」を基準として、それぞれのパターンとeGFRとの関連を解析した結果、「非特異的な高負荷パターン」および「心代謝性疾患を特徴とするパターン」は、eGFRの絶対的および相対的な低下と有意に関連することが示された。具体的には、「非特異的な高負荷パターン」では、慢性疾患が1つ増えるごとにeGFRは年平均0.15mL/分/1.73m2低下し、ベースラインからeGFRが25%以上低下するリスクが45%増加すると推定された。また、「心代謝性疾患を特徴とするパターン」では、eGFRは年平均0.77mL/分/1.73m2低下し、25%以上低下するリスクは245%増加すると推定された。さらに、「認知機能障害や感覚障害を特徴とするパターン」では、eGFRが25%以上低下するリスクが53%増加することも推定された。 研究グループは、「高血圧や心疾患などの慢性疾患は糖尿病と関連しているため、あるいは臓器にダメージを与える炎症を引き起こすため、腎臓にダメージを与える可能性がある」との見方を示している。そして、「加齢に伴うこのような疾患パターンを追跡し、慢性疾患を管理することが、腎臓の健康を維持するのに役立つ可能性がある」と結論付けている。 Beridze氏は、「高齢者で、高リスクの多疾患併存パターンに該当する患者には、腎機能のモニタリングを強化し、健康的なライフスタイルを推進し、タイムリーな薬理学的介入を行うことで患者にベネフィットがもたらされる可能性がある」と話している。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Intensive Blood-Pressure Control in Patients with Type 2 DiabetesBi Y, et al. N Engl J Med. 2024 Nov 16. [Epub ahead of print]<BPROAD試験>:2型糖尿病において、目標収縮期血圧を120mmHg未満にすることで心血管イベントリスクが低減2型糖尿病における至適な血圧目標値は、一般に130/80mmHg未満とされています。心血管疾患高リスクの2型糖尿病を有する中国人を対象とした本研究(RCT)では、収縮期血圧120mmHg未満を目標にすることにより、心血管イベントが統計学的に有意に低下することが示されました。Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)Miyauchi K, et al. Circulation. 2024;150:425-434.<RESPECT-EPA>:EPAをスタチンに上乗せ投与しても心血管イベントリスクは低減しないEPA(eicosapentaenoic acid)は動脈硬化を抑制することが想定されています。しかしながら、ハイリスクの日本人冠動脈疾患患者にEPAをスタチンに上乗せ投与しても心血管イベントリスクは有意には低減しませんでした。一方、心房細動リスクが有意に上昇しました。Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin TreatmentWysham C, et al. N Engl J Med. 2024;391:2201-2211.<QWINT-2>:肥満2型糖尿病において、efsitoraの効果はデグルデクに非劣性大きな期待がかけられているweeklyタイプのインスリン・efsitora。肥満2型糖尿病患者において、efsitoraの効果と安全性はインスリン・デグルデクと比較し非劣性であることが示されました。低血糖や体重増加は両剤とも同等でした。Once-weekly insulin efsitora alfa versus once-daily insulin degludec in adults with type 1 diabetes (QWINT-5): a phase 3 randomised non-inferiority trialBergenstal RM, et al. Lancet. 2024;404:1132-1142.<QWINT-5>:1型糖尿病において、efsitoraの効果はデグルデクに非劣性1型糖尿病患者を対象としたRCTで、インスリン・デグルデクに対するインスリン・efsitoraによる血糖降下作用の非劣性が示されたものの、中等度~重度の低血糖リスクが有意に上昇しました。1型糖尿病におけるインスリン・イコデク(weekly製剤)投与に伴う低血糖リスクも同様であったことが報告されています(Russell-Jones D, et al. Lancet. 2023;402:1636-1647.)The Effect of Denosumab on Risk for Emergently Treated Hypocalcemia by Stage of Chronic Kidney Disease : A Target Trial EmulationBird ST, et al. Ann Intern Med. 2024 Nov 19. [Epub ahead of print]<デノスマブによる低カルシウム血症>:重症低カルシウム血症リスクはCKD病期と関連CKD進展に伴い、ビスフォスフォネートと比較しデノスマブで重症低カルシウム血症のリスクが高まることが示唆されました。デノスマブを投与する際には、デノタス®(カルシウム/天然型ビタミンD3/マグネシウム配合剤)の投与と血清カルシウム値のモニタリングが重要です。

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第246回 美容外科医献体写真をSNS投稿、“脳外科医竹田くん”のモデルが書類送検、年末の2つの出来事から考える医師のプロフェッショナル・オートノミー

示談が成立していてもトラブルが公になり、様々な社会的、経済的制裁を受ける時代こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年末から年始にかけて世の中を騒がせている事件に、タレント、中居 正広氏による女性との間に起こった高額“解決金”トラブルがあります。週刊文春などの報道によれば、中居氏は2023年6月、テレビ局幹部(フジテレビのプロデューサーと報道されていますが、同局は否定しています)がセッティングした会食に参加するも、結果的に中居氏と女性(フジテレビのアナウンサーと報道されています)の2人きりで食事をする流れとなり、そこで女性は中居氏から「意に沿わない性的行為」を受けたとのことです、中居氏の代理人も「双方の間でトラブルがあったことは事実」だと認め、解決金として9,000万円ほどを支払ったとのことです。中居氏は1月9日に自身のウェブサイトで、「トラブルがあったことは事実です。そして、双方の代理人を通じて示談が成立し、解決していることも事実です。(中略)なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました。また、このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません」とトラブルがあったことを認めるコメントを公表しました。「芸能活動についても支障なく続けられる」と本人側から言ってみたり、「当事者以外の者の関与はない」と付け加えたりと、多分に意味深なコメントと言えますが、昨年の松本 人志氏と同様、現場復帰は難航しそうです。それにしても、21世紀のテレビ局において、宴席で女子アナが“生贄”のように供されていたらしいという報道には「いつの時代の話だ」と呆れてしまいました。さらには、示談が成立しているにもかかわらずトラブルが公になり、さまざまな社会的、経済的制裁を受けることになったことにも驚きます。いろいろな意味で厳しい世の中になったものです。ということで、今回は年始年末に報道された医師に関する2つの社会部ネタの事件について取り上げたいと思います。「頭部がたくさん並んでいるよ」とする文言とともに献体の写真を投稿1つめは、東京美容外科を運営する医療法人社団東美会(東京都中央区)所属の女性医師(45歳)が、グアムで実施された解剖研修で撮影したという献体とみられる写真を投稿し大炎上、NHKをはじめ大手マスコミも報道する至った事件です。各紙報道等によれば、この医師は11月末にグアム大学で実施された解剖研修の様子をSNSとブログに投稿しました。「いざ Fresh cadaver(新鮮なご遺体)解剖しに行きます!」「頭部がたくさん並んでいるよ」とする文言とともに献体が並んでいる写真や、献体の前で集合しピースサインをする写真なども投稿されたとのことです。また、献体の写真の一部にはモザイクがかかっていなかったそうです。解剖研修は米・インディアナ大学が主催、グアム大学で実施する美容形成外科医解剖学研修コースでした。解剖実習に使われる献体は、ホルマリンなどで防腐処理した遺体が使われる日本と異なり、死後、時間があまり経過していない遺体が使われるため、研修費用は高額(一部報道によれば3,000ドル前後)にもかかわらず、日本からの参加者も多いとのことです。この投稿についてSNSでは「倫理観が欠如している」「不謹慎過ぎる」などと批判が相次ぎ大炎上、医師は12月23日までに投稿を削除しましたが、クリスマス直前に大ニュースとなってしまいました。一般社団法人・日本美容外科学会は12月28日までに公式サイトを更新、この件に関して「この度、一部の美容外科医師がご遺体の解剖に関して不適切な行動を取ったとの報道がなされました。このような行為は、医療従事者としての倫理観を著しく欠いたものであり、断じて容認できるものではありません。当該医師は日本美容外科学会(JSAPS)の会員ではありませんが、美容外科医としてその肩書を用いる以上、社会的責任を伴う行動が求められることを強調したいと思います」との声明を発表しています。なお東美会は12月27日、この医師を12月30日付で解任することを決定したと発表しました。この事件、「医師としてあるまじき行為」などと、アンプロフェッショナルな行動が非難されるのは当然と言えますが、私が思い起こしたのは、昨年11月の兵庫県知事選で斎藤 元彦知事を当選させる原動力となったSNS戦略をnoteなどで公開したPR会社の女性社長(33歳)です。言わなくてもいいことまでnoteで自慢気に公開してしまうところは、献体写真をSNSなどでアップしてしまった女性医師とも共通する、SNSにある意味毒された現代の若者の特性のようにも感じました。誤って神経を一部切断して患者に重い後遺障害を負わせたとして、執刀した医師を業務上過失傷害罪で在宅起訴もう一つは、いわゆる、漫画「脳外科医 竹田くん」のモデルとされる医師の書類送検です。地元紙、赤穂民報などの報道によりますと、兵庫県赤穂市の赤穂市民病院で行われた脳神経外科手術で2020年1月、業務上の注意義務を怠り、誤って神経を一部切断して患者に重い後遺障害を負わせたとして、神戸地検姫路支部は12月27日、執刀した医師、松井 宏樹被告(46)を業務上過失傷害罪で在宅起訴しました。手術で助手を務め、松井被告とともに今年7月に書類送検された上司の科長(60)は不起訴となりました。松井被告の認否は明らかになっていません。起訴状などによると、松井被告は2020年1月22日、脊柱管狭窄症と診断された女性患者(当時74歳)の手術を執刀しました。ドリルで腰椎を切削する際、止血を十分に行わず、術野の目視が困難な状態で漫然とドリルを作動して硬膜を損傷、さらにドリルに神経の一部を巻き込んで脊髄神経も切断し患者に全治不能の傷害を負わせた、などとしています。なお、この女性患者の実際の手術映像は、2024年11月19日に放送されたNHKのクローズアップ現代「“リピーター医師”の衝撃 病院で一体何が?」の回で放送され、医療関係者にも大きな衝撃を与えました。松井被告については、関わった手術のうち少なくとも8件で患者が死亡または後遺障害が残る医療事故が発生しており大きな問題となっていました。別の70代女性患者に対する手術で起こした医療事故でも業務上過失傷害容疑で書類送検されましたが、神戸地検姫路支部は2024年9月に不起訴としています。その手術に関しては、虚偽の医療事故報告書を作成したとして松井被告と科長、同僚医師が有印公文書偽造・同行使容疑で書類送検されましたが、12月27日に不起訴となっています。12月27日付の赤穂民報は、「時効(業務上過失傷害罪は5年)まで残り1ヵ月を切ったタイミングでの起訴に、検察幹部は『複数の専門医の意見を聴くなど慎重に捜査を進めた。結果の重大性などを鑑みて起訴の判断に至った』と語った」と書いています。また、女性患者の長女は自身のブログに、「二度と母のような医療被害者を生むことがないよう、執刀した医師を厳罰に処し、医療過誤を起こした医師が繰り返し手術したり不適切な診療を続けることのないよう、医道審議会には厳しい行政処分を下していただけますよう強く望みます」と綴っています。医師を法の裁きの場に出すには相当な覚悟と努力、そして時間がこの件については、本サイトのコラム「現場から木曜日」担当の倉原 優氏も取り上げ、「医療行為が刑事事件として問われるのは、明らかな注意義務違反や重大な過失がある場合に限られるのが一般的です。しかし、今回は地検側が手術映像を専門家に見てもらい検証した結果、刑事責任を問えると判断しました。このような形での起訴は珍しいケースですね」と書いています1)。私も本連載の「第173回 兵庫で起こった2つの“事件”を考察する(前編) 神戸徳洲会病院カテーテル事故と『脳外科医 竹田くん』」などで、“竹田くん”(結局“竹”は“松”だったわけですね、なるほど)について取り上げてきました。今回の書類送検のニュースを聞いて思ったのは、告発や報道がこれだけ以前から行われてきたにもかかわらず、よく警察や検察が動かなかったな、という点です。医師を法の裁きの場に出すには相当な覚悟と努力、そして時間がかかるようです。しかし一方で、前述した美容整形外科医による献体写真のSNSへの投稿は、法律に抵触しているわけでもないのに、“大炎上”しただけで所属していたクリニックを解雇され、瞬時に社会的制裁を受けることになりました。事件の重大さは大きく異なりますが、この違いは一体何なのでしょうか。身内を守ろうとする医師たちにプロフェッショナル・オートノミーは期待できないそれはおそらく、医師が医療行為で起こした瑕疵に対して、身内の医師たちは甘く、事を起こした医師をまず守ろうとする特性が影響していると考えられます。対して、献体写真の投稿は医療行為ではなく、医師個人の生活習慣に関することであり、自分に火の粉が降りかかることもないため、守ろうという意識は働きません。まったく同様のことを、「第199回 脳神経外科の度重なる医療過誤を黙殺してきた京都第一赤十字病院、背後にまたまたあの医大の影(前編)」、「第200回 同(後編)」で取り上げた、京都第一赤十字病院の脳神経外科の事故についても感じました。京都第一赤十字病院では、杜撰な手術に加え、過誤のもみ消しとも取れる行為を病院幹部が行っていたことに対し京都市保健所が立ち入り調査を行い、改善を求める行政指導を行っています。行政指導が行われたということは、病院内だけで(あるいは医師だけで)事故に正しく対応できず、過誤への対応法も改善できなかったことを意味します。今から4年前、三重大の臨床麻酔部の教授が逮捕されたときに、「第40回 三重大元教授逮捕で感じた医師の『プロフェッショナル・オートノミー』の脆弱さ」というタイトルで、医師のプロフェッショナル・オートノミー(専門職としての自律)がいかに頼りなく、脆弱なものかについて書きましたが、今となっては医師の世界でプロフェッショナル・オートノミーはほぼ機能しておらず、期待もできないということなのでしょう。医師の働き方改革が進めば、医師の技術の習得には今まで以上に時間がかかることになるでしょう。また、人口減、患者減で、そもそも医師が手術などの腕を磨く機会も激減していくでしょう。そうなれば、医療事故、医療過誤も頻発することになりそうです。プロフェッショナル・オートノミーが機能しない中での事故頻発は、新たな医療崩壊へとつながっていきそうです。日本の医療は今、そんなモダンホラーの世界のとば口に立っているような気がしてなりません。参考1)現場から木曜日 第129回 「脳外科医竹田くん」在宅起訴

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高腫瘍量濾胞性リンパ腫1次治療に対するモスネツズマブ皮下注の評価(MITHIC-FL1)/ASH2024

 高腫瘍量濾胞性リンパ腫(HTB-FL)の1次治療に対する、CD20/CD3二重特異性抗体モスネツズマブ皮下注射の多施設第II相試験の結果が第66回米国血液学会(ASH2024)で発表された。 初発進行期のHTB-FLでは、抗CD20抗体併用化学療法が行われる。一方、近年の研究で、FLは深い免疫抑制状態を特徴とし、腫瘍内のT細胞の機能不全が臨床経過に影響するとの報告もある1)。そのような中、CD3陽性T細胞に、CD20陽性FL細胞を認識させ排除させるCD20/CD3二重特異性抗体が、FL治療の鍵を握る選択肢2)として期待される。・試験デザイン:第II相多施設試験・対象:未治療のCD20陽性Stege II~IVのHTB-FL(Grade1~3A)GELF規準により治療が必要とされる患者・介入:mosunetuzumab 21日サイクル(1サイクル目:day1に5mg、day8、15に45mg、2~8サイクル:45mg)→完全奏効(CR)症例:経過観察、部分奏効症例:45mgを17サイクルまで継続投与、PR未満症例:試験中止・評価項目【主要評価項目】CR割合(Lugano分類による効果判定)【副次評価項目】奏効割合(ORR)、安全性、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)など 主な結果は以下のとおり。・2022年6月~2024年7月に78例が登録された。・カットオフ(2024年11月1日)時点の追跡期間中央値は13.3ヵ月。・有効性評価対象76例のORRは96%で、CR割合は80%であった。86%(65例)の患者が最小でも80%の腫瘍量減少を示した。・12ヵ月推定PFS割合は91%であった。・12ヵ月CR割合は90%であった。・12ヵ月推定OS割合は99%であった。・頻度の多い(≧20%)治療中発現有害事象(TEAE)は、注射部位反応(70%)、感染症(56%)、サイトカイン放出症候群(CRS)(54%)、発疹、皮膚乾燥などであった。・CRSを発現した症例は42例、そのうち40例はGrade1、残りの2例はGrade2だった。CRSの48%が1サイクルのday1に発現していた。・免疫細胞関連神経毒性症候群(ICANS)、腫瘍崩壊症候群は認められなかった。

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日本初、認知症診療支援のための神経心理検査用プログラム発売

 大塚製薬とアイ・ブレインサイエンスは、認知症の診療支援のための神経心理検査用プログラム(商品名:ミレボ)について、2025年1月1日付で認知症領域のSaMD(Software as a Medical Device、プログラム医療機器)として初めて保険適用を取得し、1月14日より販売を開始した。 ミレボは、アイトラッキング(視線計測)技術を用いて行う神経心理検査用プログラムである。タブレット端末にインストールしたアプリ「ミレボ」を用いることにより、約3分で簡便に検査を行い、客観的な検査結果を得ることができる。また、画面に表示される質問に沿って被検者が正解の箇所を見つめることにより、データが自動的にスコア化され、定量的かつ検査者の知識や経験に依存せず客観的に評価することが可能になる。 なお、従来の認知機能検査は、患者の心理的負担(緊張、焦り、落胆、怒りなど自尊心を傷付け心理的ストレスを招きやすい)、医療者負担(時間的制約、専門スタッフの在籍)、検査者間変動(採点のバラツキ)などが課題になっているが、本プログラムはこれらを解決し、認知症の早期発見の一助になるものとして期待される。

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qSOFAによる敗血症アラートで院内死亡率が低下/JAMA

 病棟入院患者では、敗血症スクリーニングを行わない場合と比較して、quick Sequential Organ Failure Assessment(qSOFA)スコアを用いた電子的敗血症スクリーニングは、90日院内死亡率を有意に低下させ、昇圧薬治療や多剤耐性菌の発現を減少させることが、サウジアラビア・Ministry of National Guard-Health Affairs(MNG-HA)のYaseen M. Arabi氏らが実施した「SCREEN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年12月10日号に掲載された。サウジアラビアのStepped Wedgeクラスター無作為化試験 SCREEN試験は、病棟入院患者における電子的敗血症スクリーニングによる死亡率の抑制効果の評価を目的とするStepped Wedgeクラスター無作為化試験であり、2019年10月~2021年7月にサウジアラビアの5つのMNG-HA病院で行われた(MNG-HAのKing Abdullah International Medical Research Centerによる助成を受けた)。 45の病棟(クラスター)を5病棟ずつ9つのシークエンスに無作為に割り付け、各シークエンスで介入を2ヵ月ずつずらして開始した。介入として、qSOFAの3つの構成要素(収縮期血圧≦100mmHg、呼吸数≧22回/分、グラスゴー昏睡尺度スコア<15点)のうち2つ以上を満たした場合に、電子医療記録(EMR)にアラートを発生させた。ベースラインの2ヵ月は、全病棟で医師と看護師へのアラートを非公開モードとし、その後各シークエンスで2ヵ月ごとに順次、アラートを公開モードとした。 主要アウトカムは、90日時の院内死亡率とした。副次アウトカムには、緊急事態(コードブルー)の発動、昇圧薬治療、腎代替療法の導入、多剤耐性菌の発現、Clostridioides difficileの発生など11の項目が含まれた。スクリーニング群は乳酸値検査、静脈内輸液が多い 6万55例を登録した。2万9,442例がスクリーニング群、3万613例が非スクリーニング群であった。全体の年齢中央値は59歳(四分位範囲:39~68)、3万596例(51.0%)が男性だった。 アラートは、スクリーニング群で4,299例(14.6%)、非スクリーニング群で5,394例(17.6%)に発生した。非スクリーニング群に比べスクリーニング群は、アラートから12時間以内に血清乳酸値の検査(補正後相対リスク[aRR]:1.30、95%信頼区間[CI]:1.16~1.45)および静脈内輸液の指示(2.17、1.92~2.46)を受ける可能性が高かった。 90日院内死亡率は、スクリーニング群が3.2%、非スクリーニング群は3.1%であり、両群間に差はなかった(群間差:0.0%、95%CI:-0.2~0.3)が、介入時期、病棟のクラスター化、病院、COVID-19の感染状況で補正すると、90日院内死亡率はスクリーニング群で有意に低かった(aRR:0.85、95%CI:0.77~0.93、p<0.001)。コードブルー、腎代替療法、C. difficile発生は増加 スクリーニング群では、昇圧薬治療(aRR:0.86、95%CI:0.78~0.94、p=0.002)および新規の多剤耐性菌の発現(0.88、0.78~0.99、p=0.03)が有意に低下したが、コードブルーの発動(1.24、1.02~1.50、p=0.03)、腎代替療法の導入(1.20、1.11~1.31、p<0.001)、C. difficileの新規発生(1.30、1.03~1.65、p=0.03)が有意に増加した。 著者は、「アラートによって死亡リスクの高い患者が同定された」「死亡率の低下は感染の有無にかかわらず一貫して観察されたことから、スクリーニングの効果は敗血症患者に限定されないことが示唆された」「この試験のプロトコールでは、アラート後の看護師と医療チームとのコミュニケーションが義務付けられており、これによっておそらく治療の調整と早期発見が改善されたものと考えられる」としている。

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