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第255回 低酸素の高地で過ごしているようにする薬がミトコンドリア病を治療

低酸素の高地で過ごしているようにする薬がミトコンドリア病を治療酸素とヘモグロビンの親和性を高め、標高4,500mの高地で過ごしているかのようにする低分子薬HypoxyStatがマウスのミトコンドリア病を治療しました1,2)。酸素はヒトが生きていくのに不可欠で、200を超える生化学反応に携わります。しかし過剰な酸素は有害であり、ミトコンドリアの不調で生じるミトコンドリア病は酸素のそういった負の側面と関連します。ミトコンドリア病は全身の酸素消費を損なわせ、電子伝達系の複合体Iサブユニットを欠くNdufs4欠損マウスが示すように組織内の酸素を過剰にします。Ndufs4欠損マウスは小児ミトコンドリア病の中で最も一般的なリー症候群の病状を呈します。組織の酸素摂取が不得手で静脈酸素濃度の上昇を示すミトコンドリア病患者もNdufs4欠損マウスと同様の酸素過剰を示します。注目すべきことに、富士山より高い標高4,500mにいるときと同等の低酸素吸入を続けることでNdufs4欠損マウスの組織酸素過剰が減って寿命が延長し、病気が進行した時点での神経病変さえ回復させうることが示されています3)。また、ミトコンドリアのタンパク質フラタキシン欠損で生じるフリードライヒ運動失調症を模すマウスの運動障害が低酸素で緩和しています4)。酸素が少ない高地で人類が何世紀にもわたって住み続けていることから火を見るよりも明らかですが、ヒトが低酸素環境に容易に順応しうることが最近完了した第I相試験で確認されています5)。試験には健康な5人が参加し、動脈血酸素飽和度(SaO2)がおよそ85%になるまで徐々に低酸素環境に馴染んでもらうことが無理なく受け入れられました。リー症候群やフリードライヒ運動失調症のようなミトコンドリア病患者が高地に住まずとも、絶えず低酸素環境で過ごすことはやろうと思えばできなくもありません。たとえばアスリートが高地環境でのトレーニングを模すための低酸素構築システムが販売されています。しかし閉鎖空間で過ごさなければならず、生きづらさといったら半端ないでしょう。鼻カニューレやマスクを介して低酸素ガスを届ける携帯装置ならより自由に動けますが、動作不良で著しい低酸素になる恐れがあり、下手したら死んでしまうかもしれません。どうやら、ミトコンドリア病患者が常に低酸素の状態に居続けられるようにすることは今のところ大変な手間です。そこで米国・サンフランシスコのグラッドストーン研究所のチームは、体内組織を低酸素状態にするより安全で現実的な手段に取り組み、経口投与のHypoxyStatを生み出しました。HypoxyStatはヘモグロビンの酸素結合親和性を高め、S字型の酸素ヘモグロビン解離曲線(ODC)を左にずらして組織で酸素が解離し難くなるようにします。Ndufs4欠損マウスに明確な発病前からHypoxyStatを投与したところ、生存期間が3倍超も延び、体重が増え、体温も上がり、振る舞いや神経病変が改善しました。また、病気がだいぶ進行して広範囲に及ぶ神経病変、体温低下、行動異常が明確となる時点からの投与でも生存が有意に延長し、それら病変が緩和しました。HypoxyStatはミトコンドリア病のみならず低酸素環境が有益な脳や心血管の疾患の治療にも役立ちそうです。HypoxyStatを作ったチームの先立つ研究では、低酸素治療が有益かもしれない75を超える単一遺伝子起源疾患が見つかっています。低酸素順応は血糖値を下げるなどの全身代謝への効果があり、原因が生まれつき以外の代謝疾患にも有益かもしれません。高地に住むヒトに心血管疾患、肥満、糖尿病が少ないことは低酸素治療の有益さを物語っており、どうやら低酸素はまれな遺伝疾患から一般的な慢性疾患までを含む多種多様な疾患の治療法となりうるようです。さらには、ODCを左ではなく右にずらして組織に酸素がより届くようにするHypoxyStatとは真反対の作用の薬が今回の成果を手がかりにして生み出せるかもしれません2)。参考1)Blume SY, et al. Cell. 2025 Feb 12. [Epub ahead of print]2)Daily drug captures health benefits of high-altitude, low-oxygen living / Eurekalert 3)Ferrari M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2017;114:E4241-E4250. 4)Ast T, et al. Cell. 2019;177:1507-1521.5)Berra L, et al. Respir Care. 2024;69:1400-1408.

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コロナ関連の小児急性脳症、他のウイルス関連脳症よりも重篤に/東京女子医大

 インフルエンザなどウイルス感染症に伴う小児の急性脳症は、欧米と比べて日本で多いことが知られている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症においても、小児に重篤な急性脳症を引き起こすことがわかってきた。東京女子医科大学附属八千代医療センターの高梨 潤一氏、東京都医学総合研究所の葛西 真梨子氏らの研究チームは、BA.1/BA.2系統流行期およびBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症とそれ以外のウイルス関連脳症の臨床的違いを明らかにするために全国調査を行った。その結果、新型コロナ関連脳症は、他のウイルス関連脳症よりもきわめて重篤な脳症の頻度が高く、27%の患者が重篤な神経学的後遺症または死亡という転帰であったことが判明した。Journal of the Neurological Sciences誌2025年2月15日号に掲載。 本研究では、日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートを用い、2022年1~5月のBA.1/BA.2系統流行期と2022年6~11月のBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症を発症した18歳未満の103例の患者を対象に臨床症状について調査した。 主な結果は以下のとおり。・全103例のうち、BA.1/BA.2系統流行期の患者は32例(0~14歳、中央値5歳)、BA.5系統流行期の患者は68例(0~15歳、中央値3歳)だった。103例中95例(92.2%)が新型コロナウイルスワクチンを接種していなかった。・オミクロン株BA.1/BA.2系統流行期とBA.5系統流行期で新型コロナ関連脳症の臨床症状に有意差は認められないものの、BA.5系統流行期は新型コロナ関連脳症の発症時にけいれん発作を起こす患者が多く、68例中50例において、発症時にけいれん発作が認められた。・急性脳症症候群のタイプとして、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多く、103例中27例(26.2%)を占めた。・103例中6例が劇症脳浮腫型脳症(AFCE)、8例が出血性ショック脳症症候群(HSES)という最重度の急性脳症症候群であり、他のウイルス関連脳症と比べて高頻度だった。AFCEおよびHSESの患者はすべて新型コロナワクチンを接種していなかった。・新型コロナ関連脳症の転帰は、完全回復が45例、軽度から中等度の神経学的後遺症は28例、重度の神経学的後遺症は17例、死亡は11例であった。新型コロナ関連脳症は他のウイルス関連脳症と比べて予後不良の転帰となる患者が多かった。 著者らは本結果について、「AFCEやHSESは脳浮腫が急速に進行し致死率が高い疾患である一方、発症がきわめてまれであるため診断法や治療法が十分に解明されていない。今後は、新型コロナ関連脳症の中でもこれら2つに注目し、詳細な臨床経過を把握し、迅速診断のためのバイオマーカーや有効な治療開発に向けてエビデンスを構築していきたい。小児に対する新型コロナワクチンの接種が急性脳症の予防につながるかどうかも確かめる必要がある」としている。

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日本人PD-L1低発現の切除不能NSCLC、治験不適格患者へのICI+化学療法の有用性は?

 PD-L1低発現の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法の有用性は臨床試験ですでに検証されている。しかし、実臨床では臨床試験への登録が不適格となる患者も多く存在する。そこで、研究グループはPD-L1低発現の切除不能NSCLC患者を臨床試験への登録の適否で分類し、ICI+化学療法の有用性を検討した。その結果、臨床試験への登録が不適格の集団は、適格の集団よりも全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が短かったものの、ICI+化学療法が化学療法単独よりも有用であることが示唆された。ただし、PS2以上、扁平上皮がんではICI+化学療法によるOSの改善はみられなかった。本研究結果は、畑 妙氏(京都府立医科大学大学院 呼吸器内科学)らにより、Lung Cancer誌2025年2月号で報告された。 本研究は、多施設共同後ろ向きコホート研究として、日本の19施設において実施された。対象患者は、PD-L1低発現(TPS 1~49%)のStageIIIB、IIIC、IV(TNM分類第8版)のNSCLC患者のうち、ICI+化学療法または化学療法単独による治療を行った728例とした。対象患者を第III相試験への登録基準への適否で分類し(適格集団/不適格集団)、OSやPFSなどを検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者728例のうち、適格集団は333例、不適格集団は395例であった。・対象患者の年齢中央値は70歳(範囲:36~89)、男性が79%、現/元喫煙者が89%、組織型は腺がんが58%、扁平上皮がんが32%であった。・OSは適格集団、不適格集団のいずれにおいてもICI+化学療法群が化学療法群と比べて有意に長かった。しかし、不適格集団のPS2以上、扁平上皮がんに限定した解析では、有意差はみられなかった。OS中央値は以下のとおり。<適格集団> ICI+化学療法群25.1ヵ月、化学療法群18.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.54~0.97、p=0.03)<不適格集団> ICI+化学療法群18.2ヵ月、化学療法群14.9ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.018)<PS2以上の不適格集団> ICI+化学療法群12.2ヵ月、化学療法群9.2ヵ月(p=0.21)<扁平上皮がんの不適格集団> ICI+化学療法群12.9ヵ月、化学療法群13.1ヵ月(p=0.27)・PFSは適格集団、不適格集団のいずれにおいてもICI+化学療法群が化学療法群と比べて有意に長かった。不適格集団のうち扁平上皮がんに限定した解析では、ICI+化学療法群が有意に長かったが、PS2以上に限定した解析では有意差はみられなかった。PFS中央値は以下のとおり。<適格集団> ICI+化学療法群9.3ヵ月、化学療法群6.1ヵ月(p<0.0001)<不適格集団> ICI+化学療法群7.0ヵ月、化学療法群5.1ヵ月(p<0.0001)<PS2以上の不適格集団> ICI+化学療法群5.7ヵ月、化学療法群4.0ヵ月(p=0.17)<扁平上皮がんの不適格集団> ICI+化学療法群6.1ヵ月、化学療法群5.0ヵ月(p=0.008) 本研究結果について、著者らは「PS2以上、扁平上皮がんを除き、臨床試験への登録が不適格の集団においてもICI+化学療法の有用性が示唆された」とまとめた。

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HER2+早期乳がん、TILが20%以上ならde-escalation可能か

 第III相ShortHER試験の長期追跡データを用いて、HER2+の早期乳がん患者における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と予後との関連性を評価した結果、TILが高値であるほど遠隔無病生存期間(DDFS)および全生存期間(OS)が良好で、TIL量が20%以上の場合はde-escalationの術後補助療法であっても過剰なリスクは認められなかったことを、イタリア・パドヴァ大学のMaria Vittoria Dieci氏らが明らかにした。JAMA Oncology誌オンライン版2025年2月13日号掲載の報告。 ShortHER試験は、2007年12月~2013年10月にHER2+の早期乳がん患者1,253例を登録し、術後化学療法と併用したトラスツズマブの9週間投与と1年間投与を比較したイタリアの多施設共同ランダム化非劣性試験。1年投与群に対する9週投与群の非劣性は認められなかったが、N0およびN1~3の集団では10年OS率が非常に類似していた。研究グループは、TILの予後因子としての可能性を探るため、追跡期間中央値9年のデータを2023年2月~2024年8月に解析し、TIL量(5%刻み)が予後に与える影響を評価した。評価項目はDDFSおよびOSで、Cox回帰モデルを使用してハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・全参加者1,253例のうち、評価可能なTILデータを有したのは866例(69%)であった。年齢中央値は56歳で、TIL量の中央値は5%(四分位範囲:1~15)であった。・TILデータがある集団における9週群vs.1年群のDDFSのHRは1.44(95%CI:0.98~2.10)、OSのHRは1.11(95%CI:0.71~1.76)であった。・TIL量が5%増加するごとにDDFSイベントリスクは13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.80~0.95、p=0.001)、OSリスクは11%減少した(HR:0.89、95%CI:0.81~0.98、p=0.01)。・TILが低値の集団よりも高値の集団のほうが10年DDFS率および10年OS率は良好で、TIL量が20%以上の集団では89.8%および91.3%、30%以上の集団では91.7%および93.3%、50%以上の集団では96.9%および98.1%であった。・10年DDFS率および10年OS率は、TIL量が20%未満の集団では1年群のほうが9週群よりも良好であったが、TIL量が20%以上の集団では9週群のほうが良好であった。

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CAR-T細胞療法後、T細胞リンパ腫に対するモニタリング必要/NEJM

 オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのSimon J. Harrison氏らは、1~3レジメンの前治療歴のあるレナリドミド抵抗性多発性骨髄腫患者を対象に、B細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T細胞療法ciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)と標準治療を比較した第III相無作為化試験「CARTITUDE-4試験」において、cilta-cel投与後に末梢性T細胞リンパ腫(CAR導入遺伝子発現と組み込みを伴う悪性単クローン性T細胞リンパ増殖症)を発症した2例について報告した。著者は、この病態を「CAR導入遺伝子T細胞リンパ増殖性腫瘍(CTTLN)」と呼んでいるが、「T細胞リンパ腫の発症に対する挿入突然変異の関与は、直接的な証拠がないため現在のところ不明である」と述べている。NEJM誌2025年2月13日号掲載の報告。2例ともCAR導入遺伝子発現と組み込みを認める 症例1は、細胞遺伝学的高リスク(del[17p]およびgain[1q])の50代男性で、cilta-cel単回投与により完全奏効が得られ微小残存病変(MRD)陰性(閾値10-6)が確認された。本症例では、投与5ヵ月後に急速に増大する紅斑性鼻顔面斑が出現し、皮膚生検で異型T細胞浸潤が認められ、FDG-PETで確認された頸部リンパ節腫脹の組織でも顔面病変と同じT細胞浸潤が認められた。病変組織にはレンチウイルスDNA(0.8コピー/cell)が含まれており、その90~100%がCAR+であることが明らかになった。皮膚およびリンパ節生検組織からはTET-2変異(H1416R)が検出された。 症例2は、IgG-κ型多発性骨髄腫と診断された細胞遺伝学的高リスク(t[4;14]およびgain[1q])の50代の女性で、治療後1年で完全奏効が得られMRD陰性となった。本症例では、投与16ヵ月後に顔面や体幹、乳房などに皮膚腫瘤が出現し、自然退縮したが再発した。FDG-PETで皮膚、リンパ節、乳房、肺、骨に病変が確認され、病変細胞は主にCAR+であることが明らかになった。遺伝子解析で、CARのARID1A遺伝子への組み込みが確認され、TET2変異(Y1902H)も検出された。 両患者とも、治療によりT細胞リンパ腫は完全奏効が得られた。直接的な証拠はなし 両患者の単クローン性T細胞は、検出可能なCAR導入遺伝子発現と組み込みが認められた。これらのCTTLNの臨床遺伝学的特徴から、その発症には既存のTET2変異T細胞への遺伝子組み込みに続き、さらなるがん原性ゲノム変異の獲得など、複数の内在性または外在性の因子が寄与している可能性が示唆された。また、生殖細胞系列のゲノム変異、ウイルス感染、多発性骨髄腫の治療歴などの寄与も考えられた。しかし、T細胞性リンパ腫の発症に挿入突然変異が関与している直接的な証拠は現在のところない。 これらの結果を踏まえて著者は「多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法のベネフィットは依然としてリスクよりまさっているが、T細胞リンパ腫に対する警戒、モニタリングを行う必要がある」とまとめている。

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第231回 高額療養費制度の行方、医療現場はどう変わる?

今年2月になって突然、飛び込んできた「高額療養制度の見直し」について多くの方はなぜそんなに急に? と疑念を抱かれたと思います。わが国はバブル景気の後の「失われた30年」の間、経済が停滞していた間も少子化と高齢人口の増加が続いてきました。リーマンショック後の安倍政権をきっかけに、日本経済も回復したとはいえ、2040年まで高齢化が続く中、増大する医療費や介護費のため、社会保障制度の持続可能性について検討が続いています。社会保障改革の経過の振り返り令和元(2019)年から開かれていた全世代型社会保障検討会議の最終報告からまとめられた「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年)でも、少子化対策の子育て支援とともに、医療提供体制の改革や後期高齢者の自己負担割合の在り方について検討をすることが盛り込まれていました。これらについて政策の実際の発動は、新型コロナウイルス感染症の拡大で延期され、令和4年1月から開催された「全世代型社会保障構築会議」で、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討しました。この会議の中で「給付と負担のバランス・現役世代の負担上昇の抑制」について、「高額療養費制度の見直しも併せてしっかり取り組んでいただきたい。厚生労働省からはそれを検討するという報告があったわけで、これはぜひ1つでも2つでもできるものをどんどん実現してほしい」という発言がなされていました(【第20回全世代型社会保障構築会議議事録】)。このような発言を反映してか、令和6年1月26日の社会保障審議会で「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中で、経済情勢に対応した患者負担などの見直し(高額療養費自己負担限度額の見直し/入院時の食費の基準の見直し)が入っていました。2月に入り厚労省の社会保障審議会医療保険部会の「令和7年8月~令和9年8月にかけて段階的に実施高額療養費制度の見直し」を行うという資料【高額療養費制度の見直しについて】をもとに国会の予算審議で大きく取り上げられたのをきっかけに大きな話題となりました。画像を拡大する当然ながら、高額療養費の対象となるがんや難病の患者さんの団体から反対の声が上がり、2月7日に厚労省で鹿沼 均保険局長と患者団体が面会を行い、いったん凍結を求められました。厚労省側から改革案を部分修正する意向を示されたものの、患者団体はこれを反対するなどしばらく予算審議を進めていく中、予定通り令和7年8月からの引き上げは難しくなっています。Financial toxicityがクローズアップされている高額療養費制度はわが国の保険診療のセーフティネットとして必要なもので、これが十分に機能しているため患者さんは安心して高額な抗がん剤や先進的な治療を受けることができますが、一方で、諸外国ではこのようなシステムがないため、すでに2000年代になって画期的な新薬の承認とともに問題となっていました。高額療養費制度の見直しが必要になったのは高額な新薬の登場です。近年登場する抗がん剤は非常に高額なため、公的な保険で十分にカバーできない問題が諸外国で話題になっていました。筆者も以前、製薬企業で勤務していたときに有害事象として報告された用語に“financial toxicity”という言葉を目にしたことがあります。Financial Toxicity(ファイナンシャル・トキシシティ:経済毒性)とは、国際医薬用語集にも掲載されている用語で、医療費による経済的負担が患者さんや家族に与える悪影響を指します。高額な新薬によって医療費が増大するのを抑制するため、欧米諸国では保険制度で新薬については、適応とする患者さんの症状によっては処方制限するなどしてアクセス制限をしています。新薬が使えない場合は、患者団体がメーカー側に働きかけて医薬品価格を引き下げさせたり、欧州では医療経済学者を中心に費用対効果を審査して、薬価と効果の面で医薬品を経済評価するようになっており、新薬として承認されても保険償還について別個で審査してアクセス制限をしています。実際にイギリスでは2009年から、新規の抗がん剤への患者アクセスを改善するためにNICE(国立保健医療研究所)によって「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用をCDF(Cancer Drugs Fund:英国抗がん剤基金)から拠出してきましたが、財政負担の著しい増加に対して、2016年からは新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始され、新薬として承認を取得するすべての新規抗がん剤は、NICEにより評価され、「推奨」とされた場合には、英国国民保健サービス(NHS)から償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による1件ごとの審議となり、使用は大きく制限されています。わが国でも2014年に承認されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)をきっかけに、主に高額な薬価をめぐって国内で大きく取り上げられました。ニボルマブの承認時の償還薬価は100mg1瓶72万8,029円と高額でしたが、その後、適応症の拡大と処方患者の増加で急速に売り上げが伸びたため、厚労省が新たに設けた特例拡大再算定などの薬価引き下げ策で、新薬承認からわずか4年で75%も安くなり【「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価収載時から76%安く】、その後も薬価は低下し、現在は当初の価格から13万1,811円(2024年4月以降)と18.1%の価格になっています。過剰な薬価抑制策にはネガティブな側面もわが国では承認された新薬の保険償還の価格を引き下げることはよくありますが、国際的にみて、新薬の価格は特許がある間は開発費を回収して、さらに画期的な新薬開発への投資を行う原資を得るために保証されているのが通常で、わが国のように日本発の新薬ですら大きく価格を抑制することは、新薬を開発する製薬会社からみて市場としては魅力的には映りません。さらに日本では薬価制度で対応しつつ、同時に新薬の承認・審査するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は「新規作用機序を有する革新的な医薬品については、最新の科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から、承認に係る審査と並行して最適使用推進ガイドラインを作成し、当該医薬品の使用に係る患者及び医療機関等の要件、考え方及び留意事項を示すこととしています」とあり、また、「症例ごとに適切な処方を求めるようになっています」として、処方する専門医に対して、学会や製薬企業から情報提供がなされるようになっています。現実問題として、わが国では以前、ドラッグラグ(承認の遅れ)が目立っていましたが、薬事審査に当たってのさまざまな障壁(日本人データの要求など)が業界側や患者側からの働きかけで短縮していました。一方、最近問題となっているのはドラッグロスと言って、そもそも日本市場に参入がないことです。これについては企業側の努力不足もあるとは思いますが、大手製薬企業としては日本の薬価制度がハードルになっている以外にも、近年ベンチャー創薬によって開発されているオーファンドラッグ(希少薬品)のようにニーズはあるが売り上げが大きくない医薬品の場合、企業側の体力がないため日本での薬事承認申請まで辿り着けないなどの問題も発生しています。わが国もこのままでは新規医薬品の開発力が低下してしまうのを避けるため、日本人データを必ずしも必須としないなど条件緩和を進めていますが、医療分野でのイノベーションに見合うだけの収益が得られないため、日本の製薬企業でも海外での開発や販売を優先するケースが近年目立っています。国民の生活にかかわる政策決定には透明化も必要わが国の製薬市場が欧州やアメリカより小さいながらも、中小の製薬企業がそれぞれ得意分野で活躍して開発競争を行ってきましたが、21世紀に入った今、低分子薬を中心とした生活習慣病の開発競争から、抗がん剤など中分子~高分子の医薬品に競争分野が変化し、より高い薬価の医薬品を開発する必要があります。薬価引き下げで多くの製薬企業は特許切れの長期収載品による安定した収益を失い、より新薬開発競争を国際的に進めねばならず厳しい状態が続いています。今回の見直しのように薬価は高いけれど、効果の高い新薬を使用して治療を受けたいという国民の声に政府は応える必要があり、薬価引き下げではなく、患者自己負担を増やすことで一定のバランスを得ようとしたことはある意味正しいと考えます。しかし、高薬価の新薬の開発は続いており、続々と新薬が承認されています。ニボルマブのような強制的な薬価引き下げを続けることは、国際的にみても日本の製薬市場の縮小、ひいてはわが国の制約産業の衰退を招く可能性もあり、薬価引き下げだけでは持続可能性は乏しいと考えます。医療費用の増加は高齢化もあり、やむを得ない事情があり、経済成長に見合った形であれば社会保障費の経済的な負担増大にはつながらないのですが、今回のように患者数の増加や治療費の増加をどう抑えるかは国の中でも結論がでておらず、2024年の国政選挙でもこの話題はまったく討論されず、話の持って行き方にかなり問題があったと感じています。高額療養費の引き上げについて、厚労省の審議会では「既定路線」であったものの、患者さんやその家族にとって貧困を理由に治療が中断することは、国民のコンセンサスを得ていたとは考えにくいです。今後も増え続けるキャンサーサバイバーの患者さんのニーズに応えるためには、財源を用意する必要があります。政府の中できちんと討論した上で、患者自己負担をなるべく広く薄くなるのか、それとも患者自己負担を一定の割合で求めるか、すでに問題となっている多重受診の患者さんの自己負担や軽症疾患のビタミン剤や湿布をOTC化の促進で医療費を抑制した分を回すか、あるいは別のタバコ税や酒税のような形で財源を調達するか、何らかの形で国民に問う必要があったと考えています。すでに津川 友介氏のような一部のオピニオンリーダーからは解決策を提示する意見【「国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な『5つの医療改革』」】も出ていますが、他にもさまざまな方策を考えるには絶好のタイミングだと思います。今回のように国民に知らされないまま、審議会という密室で大事な政策が決められるようなやり方を日本人は好みません。わが国は民主主義国家ですから、今年の夏から患者さんの高額療養費を引き上げるのであれば、参議院議員選挙で各政党から意見を出してもらい、どういう形をとるかを決めるべき時期かと考えています。参考1)高額療養費制度の見直しについて(厚労省)2)全世代型社会保障改革の方針[令和2年](同)3)社会保障審議会(同)4)「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、「こども未来戦略」について(同)5)Financial Toxicityおよびがん治療[PDQ](がん情報サイト)6)「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価 収載時から76%安く(Answers News)7)最適使用推進ガイドライン(PMDA)8)レカネマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインについて(日本精神神経学会)

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アスピリンはPI3K経路に変異のある大腸がんの再発リスクを低下させる/ASCO-GI

 低用量アスピリンの毎日の服用は、大腸がん患者のがん再発を抑制する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)シグナル伝達経路(以下、PI3K経路)の遺伝子に変異のある大腸がん患者に1日160mgのアスピリンを毎日、3年間投与したところ、がんの再発リスクが半減することが示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のAnna Martling氏らによるこの研究は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025、1月23~25日、米サンフランシスコ)で発表された。 PI3K/AKT(プロテインキナーゼB)/mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)シグナル伝達経路は、細胞の成長や増殖など細胞の生存に関わるさまざまな機能に関与する重要な経路である。この経路の異常は、がんや糖尿病、自己免疫疾患などの発症に関連することが知られている。過去の後ろ向き研究では、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路において重要な役割を果たす遺伝子であるPIK3CAの変異の有無により、アスピリンによる治療に対する反応を予測できる可能性のあることが報告されている。しかし、これらの研究はランダム化比較試験ではなく、因果関係を証明するには不十分だった。 今回の研究では、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの33カ所の病院において、PI3K経路に変異を有する大腸がん(ステージI~IIIの直腸がん、ステージII~IIIの結腸がん)患者を対象に、アスピリンの毎日の服用ががんの再発リスクに与える影響をプラセボとの比較で検討した。まず、対象者をPI3K経路関連遺伝子の変異パターンに基づき、PIK3CA遺伝子のエクソン9と20のいずれかまたは両方に変異を持つ「グループA」と、および、それ以外のPI3K遺伝子(PIK3CA遺伝子のエクソン9または20以外の部位、PIK3R1、PTEN)に変異を持つ「グループB」の2つに分けた。その上で、それぞれのグループの中で対象者を、手術後3カ月以内に毎日160mgのアスピリンを3年にわたって投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。主要評価項目は再発までの期間(TTR)、副次評価項目は無病生存期間(DFS)であった。 遺伝子解析で明確な結果を得た2,980人のうち、1,103人(37%)にPI3K経路関連遺伝子に変異が認められた(グループA:515人、グループB:588人)。最終的に、626人がアスピリンまたはプラセボのいずれかを投与される群にランダムに割り付けられた。 その結果、アスピリンの投与は、プラセボの投与と比べて、がんの進行を抑制する可能性のあることが示された。治療開始から3年後に再発が認められた対象者の割合は、グループAではアスピリン群7.7%、プラセボ群14.1%、グループBではそれぞれ7.7%と16.8%であった。プラセボ群と比べたアスピリン群でのTTRのハザード比(HR)は、グループAで0.49(P=0.044)、グループBで0.42(P=0.013)であった。また、DFSのHRは、グループAで0.61(P=0.091)、グループBで0.51(P=0.017)であった。アスピリン服用に関連する副作用の発生は少なく、重度の胃腸出血が1件、血腫が1件、アレルギー反応が1件報告された。 研究グループは、「この研究結果は、大腸がん患者の治療法をただちに変える可能性がある」と述べている。Martling氏は、「アスピリンは、PI3K経路に変異を有する大腸がん患者の3分の1以上において、再発率を効果的に低下させ、DFSを改善することが示された」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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冷水浸漬はある程度の効果をもたらす可能性あり

 激しい運動後の回復方法として冷水シャワーやアイスバスが流行しているが、実際に効果はあるのだろうか? 新たなエビデンスレビューで、その流行を裏付ける科学的根拠のあることが示された。南オーストラリア大学でヘルス・アンド・ヒューマンパフォーマンスを研究するTara Cain氏らによるレビューから、冷水浸漬(cold-water immersion)により、ストレスが軽減し、睡眠の質が改善し、QOLが向上する可能性のあることが示された。ただし、その効果は長続きしないことが多かったという。この研究の詳細は、「PLOS One」に1月29日掲載された。 冷水浸漬とは、10〜15℃の水に身体の一部または全体を浸すことである。Cain氏らは今回のレビューで、「冷水シャワーやアイスバスなどにより15℃以下の水に30秒以上、最低でも胸部まで浸す」という条件を満たした冷水浸漬に関する11件のランダム化比較試験のデータを統合して解析し、冷水浸漬が心理的・身体的・認知的側面に与える影響を評価した。これらの研究には、18歳以上の成人が合計3,177人参加していた。冷水浸漬の効果については、心理的側面として精神的ウェルビーイング、抑うつ、不安、気分、認知的側面として集中力、覚醒度、フォーカスする力、身体的側面として睡眠の質、ストレス、疲労感、活力、皮膚の健康、免疫機能、炎症を評価した。 メタアナリシスを行うのに十分なデータがそろっていたのは、炎症、ストレス、免疫機能についてのみであった。解析の結果、冷水浸漬は、直後および1時間後に炎症を有意に亢進させることが確認された。この現象について、論文の上席著者で南オーストラリア大学のBen Singh氏は、「冷水浸漬直後の炎症の亢進は、ストレス要因としての冷たさに対する身体反応だ。これは身体の適応や回復を助けるものであり、運動が筋肉を強化する前に筋肉にダメージを与えるのと似ている。そのため、短期的な効果しかなくてもアスリートが冷水浸漬を利用する理由となっている」と説明する。 ただし、このような炎症反応があることを考慮すると、心臓病や高血圧、糖尿病などの健康問題を抱えている人は、冷水浸漬を行う前に医師に相談した方が良い可能性がある。「基礎疾患を持つ人が冷水浸漬を行う場合、炎症が健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要だ」とSingh氏は言う。 一方、ストレスについては、冷水浸漬の12時間後に有意なストレス軽減が確認されたが、直後、1時間後、24時間後、48時間後では有意な変化は認められなかった。免疫機能については、冷水浸漬の直後でも1時間後でも、有意な変化は認められなかった。 アウトカムに関する報告が単一の研究に限られていたり、評価時点が研究間で大きく異なっていたりするなど、メタアナリシスには適さないアウトカムについては、ナラティブシンセシス(記述的統合)の手法を用いて検討した。その結果、ある研究において、1カ月間にわたり30秒、60秒、90秒のいずれかの時間で冷水シャワーを浴びた参加者ではQOLのスコアの中央値がわずかに高かったことが示された。しかし、Cain氏によると、「この効果も、3カ月後には消失していた」という。この研究では、冷水シャワーを習慣的に浴びた参加者で、対照群よりも病欠の頻度が29%低いことも示された。また、別の研究では、運動後の冷水浸漬で睡眠の質が改善する可能性が示唆されていた。ただ、「それらのデータは男性に限定されたものであったため、より範囲を広げて適用するには限界があった」とCain氏は付け加えている。 Cain氏は、「本研究では、冷水浸漬の効果が時間とともに変化することを確認した。例えば、冷水浸漬によってストレスレベルは低下し得るが、それが持続するのは冷水浸漬後12時間程度に過ぎない」と述べる。同氏は、「現時点で、冷水浸漬によって最大の効果を得られるのはどのような人なのか、あるいはその理想的なアプローチはどのようなものなのかを正確に示した質の高い研究が十分にあるとは言えない」と指摘し、「その効果の持続性と実際の適用について解明を進めるためには、より多様な集団を対象に長期的な研究を行う必要がある」と述べている。

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重度の感染症による入院歴は心不全リスクを高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの感染症による入院は、心臓病リスクを高める可能性があるようだ。重度の感染症で入院した経験のある人が後年に心不全(HF)を発症するリスクは、入院歴がない人と比べて2倍以上高いことが新たな研究で示された。米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて米メイヨー・クリニックのRyan Demmer氏らが実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association」に1月30日掲載された。 この研究では、1987年から2018年まで最大31年間にわたる追跡調査を受けたARIC研究参加者のデータを分析して、感染症関連の入院(infection-related hospitalization;IRH)とHFとの関係を評価した。ARIC研究は、アテローム性動脈硬化リスクに関する集団ベースの前向き研究で、1987〜1989年に45〜64歳の成人を登録して開始された。本研究では、研究開始時にHFを有していた人などを除外した1万4,468人(試験開始時の平均年齢54歳、女性55%)が対象とされた。対象者は、2012年までは毎年、それ以降は2年に1回のペースで追跡調査を受けていた。左室駆出率(LVEF)が得られた患者については、LVEFが正常範囲(50%以上)に保たれたHF(HFpEF)患者と、LVEFが低下(50%未満)したHF(HFrEF)患者に2分して検討した。 追跡期間中(中央値27年)に、6,673人が1回以上のIRHを経験し、3,565人が新たにHFを発症していた。IRH歴を持たない人と比べて、IRH歴を持つ人のHF発症のハザード比(HR)は2.35(95%信頼区間2.19〜2.52)であった。この関係は、呼吸器感染症や泌尿器感染症、血流感染症など、感染症の種類に関わりなく認められた。さらに、HFのタイプが判明した7,669人を対象にした解析でも、IRHはHFrEFおよびHFpEFと有意な関連を示した(HFrEF:HR 1.77〔95%信頼区間1.35〜2.32〕、HFpEF:同2.97〔同2.36〜3.75〕)。 研究グループは、「本研究の対象者の半数近くがIRHを経験していた。このことは、感染症が米国人の心臓の健康に極めて大きな影響を与えていることを示唆している」と述べている。 Demmer氏は、「本研究は、重度の感染症とHFの因果関係を証明したわけではないが、人々は変わらず、重度の感染症を予防するための常識的な対策を取るべきことを示唆している」との見方を示す。同氏は、「特に、心臓病リスクが高く、重度の感染症を患っている人は、かかりつけ医に相談し、心臓の健康を守るための対策を講じるべきだ」と付け加えている。 一方、米国立心肺血液研究所(NHLBI)のSean Coady氏は、「これは、注目に値する知見だ。感染症罹患歴と心筋梗塞との関連についてのエビデンスは豊富にあるが、本研究は、心筋梗塞ではなくHFに焦点を当てている点が異なる。米国でのHF患者数は推定600万人に上るが、HFについての研究はあまり進んでいない」と話している。

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日本人の食事関連温室効果ガス排出量と死亡リスクにU字型の関連

 食習慣に伴う温室効果ガス排出量と死亡リスクとの関連が明らかになった。温室効果ガス排出量が多い食習慣の人だけでなく、排出量が少ない食習慣の人も死亡リスクが高い可能性があるという。早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝氏、筑波大学医学医療系社会健康医学の村木功氏(研究時点の所属は大阪大学)らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health Perspectives」に11月7日掲載された。 人類が生み出す温室効果ガスの21~37%は食事関連(食糧生産・流通・調理など)が占めるとされており、人々が地球の健康も考えた食事スタイルを選択することが重要となっている。これまでに欧米諸国からは、個人の食習慣に伴う温室効果ガス排出量(diet-related greenhouse gas emissions;dGHGE)が死亡リスクとJ字型またはU字型の関連があると報告されているが、アジア人でのデータはない。渡邉氏らは、1980年代後半にスタートした国内一般住民対象の多施設共同大規模コホート研究(JACC研究)のデータを用いて、日本人のdGHGEと死亡リスクとの関連を検討した。 JACC研究参加者のうち、食事調査のデータがあり、摂取エネルギー量が極端(500kcal/日未満または3,500kcal/日以上)でなく、研究参加時に心筋梗塞、脳卒中、がんの既往のなかった40~79歳の日本人5万8,031人を解析対象とした。この対象の主な特徴は、平均年齢が56.1±9.9歳、女性60.4%で、BMIは22.8±3.3であり、食事調査データから算出したdGHGE(CO2換算値)は、食品1kg、1日当たり1,522±133g-CO2eq/kg/日だった。dGHGEの19.4%は穀類、11.6%は魚類、10.5%は肉類で占めていた。 中央値19.3年(四分位範囲11.4~20.8)の追跡で、1万1,508人(19.8%)の死亡が記録されていた。dGHGEの五分位数で5群に分類し、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、摂取エネルギー量、居住地域、教育歴、婚姻・就業状況、高血圧・糖尿病の既往、テレビ視聴時間、睡眠時間)を調整後に、第4五分位群を基準として死亡リスクを比較した。 その結果、全死亡(あらゆる原因による死亡)については、dGHGEが最も少ない第1五分位群(ハザード比〔HR〕1.11〔95%信頼区間1.05~1.18〕)、dGHGEが最も多い第5五分位群(HR1.09〔同1.03~1.17〕)において、有意なリスク上昇が認められた。また心血管死亡については、第1五分位群(HR1.23〔1.10~1.38〕)、第2五分位群(HR1.12〔1.00~1.25〕)、第5五分位群(HR1.22〔1.08~1.37〕)で、有意なリスク上昇が認められた。がん死亡や呼吸器疾患による死亡については、dGHGEとの関連が見られなかった。 次に、タンパク質源として1食分の赤肉を他のタンパク質食品に置き換えた場合のdGHGEと死亡リスクに与える影響を検討すると、dGHGEについては、卵(-367g-CO2eq/kg/日)や豆類(-347g-CO2eq/kg/日)をはじめ、魚類や鶏肉などに置き換えた場合にも有意に減少すると予測された。一方、死亡リスクについては、豆類に置き換えた場合にのみ、有意に低下すると考えられた(HR0.96〔0.93~0.99〕)。 これらの結果に基づき著者らは、「日本人のdGHGEと死亡リスクの間には、U字型の関連が認められる。この知見は、人々の健康と環境の改善を意図した持続可能な食糧政策の策定に役立つのではないか」と結論付けている。なお、論文の考察において、「dGHGEが高い場合の死亡リスク上昇には動物性食品の摂取量が多いこと、dGHGEが低い場合の死亡リスク上昇にはタンパク質の不足や栄養不良が関与していると考えられる」と述べられている。

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日本における第2世代抗精神病薬誘発性ジストニア〜JADER分析

 名古屋大学のTakumi Ebina氏らは、さまざまな第2世代抗精神病薬(SGA)のジストニアリスクを比較し、性別による影響および発生までの期間、その結果との関連を調査した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2025年1月21日号の報告。 2004年4月〜2023年11月の日本における医薬品副作用データベース(JADER)のデータを分析した。クロザピンを除く経口SGAに関連する症例を抽出した。オッズ比を用いてSGAと性別との関連を評価した。ジストニア発生までの期間中央値および四分位範囲(IQR)を分析した。ジストニア発生までの期間とアウトカム(回復、改善、未回復/残存)との関連性の評価には、ROC曲線分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・経口SGAに関連するジストニアの報告は9,837件抽出された。・ルラシドンは、他のSGA(リスペリドン、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン)よりもジストニアの報告割合が有意に高かった。・アリピプラゾールに関連するジストニアの報告割合は、パリペリドンおよびリスペリドンよりも低かったが、クエチアピンおよびオランザピンよりも高かった。・女性は、男性よりもジストニアの報告割合が有意に高かった。・経口SGA誘発性ジストニア症例148例における、発生までの期間中央値は125日(IQR:19.75〜453.25)。・アウトカム別の分析では、アウトカムが良好であった患者は、不良であった患者と比較し、ジストニア発生までの期間がより短かった。・ROC曲線分析では、アウトカムを鑑別するための閾値は91.5日、感度は71.7%、特異度は69.9%であることが示唆された。 著者らは「SGAによるジストニアのリスクは、SGA間および性別で異なる可能性があり、SGA誘発性ジストニアは、遅発的に発生するケースが多い」と結論付けている。

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第22回日本臨床腫瘍学会の注目演題/JSMO2025

 日本臨床腫瘍学会は2025年2月13日にプレスセミナーを開催し、3月6~8日に神戸で開催される第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)の注目演題などを紹介した。今回の会長は徳島大学の高山 哲治氏が務め、「Precision Oncology Toward Practical Value for Patients」というテーマが設定された。 2019年にがん遺伝子パネル検査が保険収載となり今年で5年を迎える。検査数は毎年順調に増加しているものの、「検査を受けられるのは標準治療終了後、または終了見込み時に限られる」「保険適用となる薬剤が限られ、かつ承認外薬を使うのは煩雑」などの要因から、検査後に推奨された治療に到達する患者は10%程度に限られる現状がある。日本臨床腫瘍学会をはじめとしたがん関連学会は長くこの状況を問題とし、改善を図る活動を行ってきた。今回のテーマにもそうしたメッセージが込められている。 今年の演題数は計1,267題、うち509題は海外からのものだ。また12月中旬まで臨床試験の結果を待って最新の内容を盛り込む「Late Breaking Abstract」をはじめて採用し、約20題が採択された。以下、主な演題を紹介する。プレジデンシャルセッション・全16演題Presidential Session 1 呼吸器 血液3月6日(木)8:30~11:101)PS1-1 TTF-1陰性の進行非扁平上皮非小細胞肺癌に対するカルボプラチン+nab-パクリタキセル+アテゾリズマブ併用療法の第II相試験:F1NE TUNE(LOGIK2102)2)PS1-2 完全切除後のALK遺伝子転座陽性非小細胞肺癌に対する術後Alectinibの第III相試験(ALINA試験):日本人薬物動態、安全性解析3)PS1-3 Phase I/II study of tifcemalimab combined with toripalimab in patients with previously treated advanced lung cancer4)PS1-4 In-depth Responder Analysis of PhALLCON, a Phase 3 Trial of Ponatinib Versus Imatinib in Newly Diagnosed Ph+ ALLPresidential Session 2 泌尿器 頭頸部 TR・臨床薬理3月7日(金)15:00~17:405)PS2-1 未治療切除不能尿路上皮癌に対してエンホルツマブベドチン+ペムブロリズマブ併用療法と化学療法を比較したEV-302試験:アジア人サブグループ解析6)PS2-2 Safety profile of belzutifan monotherapy in patients with renal cell carcinoma: A pooled analysis of 4 clinical trials7)PS2-3 LIBRETTO-531:RET遺伝子変異陽性甲状腺髄様癌に対する一次治療としてのSelpercatinibの有効性・安全性・生存のアップデート8)PS2-4 血中遊離DNAによりHER2遺伝子増幅が認められた固形がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの多施設共同臨床第II相試験(HERALD/EPOC1806試験) データ アップデートPresidential Session 3 消化管3月7日(金)8:20~11:009)PS3-1 RAS野生型大腸癌におけるmodified-FOLFOXIRI+セツキシマブ療法の効果予測臨床因子:DEEPER試験(JACCRO CC-13)10)PS3-2 血中循環腫瘍DNA陽性の治癒切除後結腸・直腸がん患者を対象としたFTD/TPI療法とプラセボとを比較する無作為化二重盲検第III相試験(CIRCULATE-Japan ALTAIR/EPOC1905)11)PS3-3 再発高リスクStage II結腸癌に対するオキサリプラチン併用術後補助化学療法の至適投与期間に関する第III相試験:ACHIEVE-2試験12)PS3-4 進行食道がんに対するNivolumab+Ipilimumab or 化学療法:CheckMate648における日本人サブグループの45ヶ月フォローアップPresidential Session 4 肝胆膵 希少がん 乳腺3月8日(土)8:30~11:1013)PS4-1 CRAFITYスコア2点の肝細胞癌に対する一次薬物療法:レンバチニブと免疫療法の治療効果の比較14)PS4-2 Final Results of TCOG T5217 Trial:SLOG vs Modified FOLFIRINOX as First-Line Treatment in Advanced Pancreatic Cancer15)PS4-3 消化管・膵原発の切除不能進行・再発神経内分泌腫瘍に対するエベロリムス単剤療法とエベロリムス+ランレオチド併用療法のランダム化第III相試験:JCOG190116)PS4-4 脳転移を伴う又は伴わない治療歴のあるHER2陽性の進行/転移性乳癌患者を対象とするトラスツズマブ デルクステカンの試験結果(DESTINY-Breast12)会長企画・特別セッション特別講演がんの近赤外光線免疫療法(光免疫療法)The Era of Liquid Biopsy Biomarkers and Precision Medicine in Gastrointestinal Cancers特別企画腫瘍循環器学の重要性と実態:小室班研究を踏まえて会長企画シンポジウム全ゲノムシークエンスの臨床実装ゲノム医療で推奨された保険適応外薬をどのように使うか?激論!『条件付き承認制度』の活用はドラッグ・ロス対策に有用か!?ctDNAに基づくがん治療希少がんの遺伝性腫瘍がん遺伝子パネル検査は1次治療開始前に実施するべきか?大腸がんに対する新たな分子標的治療薬注目のシンポジウム 今回の学会テーマと深く関連するがん遺伝子パネル検査の課題と今後の方向性については上記シンポジウムで2つのテーマが設定されている。京都大学の武藤 学氏が関連する2つのセッションの概要を説明した。会長企画シンポジウム2:ゲノム医療で推奨された保険適用外薬をどのように使うか?3月6日(木)14:00~15:30 遺伝子変異に基づいて推奨された治療薬は日本の医療制度では保険適用外で使用困難な現状があり、治験や先進医療の活用が求められるものの、制度上の制約が多い。欧米では患者支援プログラム(PAP)やコンパッショネート・ユースの仕組みがある。東京科学大学の池田 貞勝氏が基調講演を行い、医師、患者代表、経済学者がそれぞれの立場から発表を行う。会長企画シンポジウム6:がん遺伝子パネル検査は1次治療開始前に実施するべきか?3月8日(土)14:00~15:30 日本において保険収載の遺伝子パネル検査は標準治療終了後に行うこととされているが、患者の状態が悪化し、推奨された治療を受けられないケースも多い。海外では1次治療前の検査が推奨されており、日本でも早期検査の意義が議論されている。早期のパネル検査の有効性を検討する臨床試験の結果を共有し、がん種別の検討や厚労省の見解を発表する。 さらに、昨年の学会で初めて行われたSNSを使った学会広報に関する活動に関する報告も引き続き行われる。これまでJSMOのSNSワーキンググループ(SNS-WG)は、昨年の学会において対象プログラムのスライド撮影およびSNS投稿解禁を実現し、今年の学会ではSNS投稿時の公式ハッシュタグを「#JSMO25」に統一することとした。これまで国内では「#JSMO2024」、海外では「#JSMO24」が多く使われ、SNS上で分断が起こっていたことに対処したものだ。委員会企画 禁煙推進セッション/SNSワーキンググループシンポジウム オンコロジー領域におけるSNS利用3月6日(木)8:30~10:00 インターネット上の医療情報のファクトチェックをテーマとした論文を執筆した豊川市民病院の呉山 菜梨氏、SNSを使った医療コミュニケーション経験が豊富な帝京大学ちば総合医療センターの萩野 昇氏が講演を行い、SNS-WGメンバーの東海大学・扇屋 大輔氏が昨夏の「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」においてWGが行った情報発信と成果について報告する。―――――――――――――――――――第22回日本臨床腫瘍学会 開催概要会期:2025年3月6日(木)〜8日(土)会場:神戸コンベンションセンター開催形式:現地(現地主体、一部ライブ配信+オンデマンド配信)SNSハッシュタグ:#JSMO25学会サイト:https://site2.convention.co.jp/jsmo2025/―――――――――――――――――――

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HER2陽性早期乳がん術前化学療法後non-pCRに対するT-DM1のアップデート(解説:下村昭彦氏)

 術前化学療法(分子標的薬併用を含む)は早期乳がんに対する標準治療として確立している。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、術前化学療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られた場合は再発のリスクが下がることが知られているが、得られなかった場合(non-pCR)の再発リスクが高いことがunmet medical needsとして認識されてきた。そのため、non-pCRに対する術後治療に対するエビデンスがここ10年で蓄積し、また現在も開発されている。 トラスツズマブ併用術前化学療法を受けたHER2陽性早期乳がんで、手術病理でnon-pCRであった症例を対象としてT-DM1の有効性を示した試験がKATHERINE試験である。2019年にNEJM誌に報告され(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2019;380:617-628.)、日本国内でも2020年に適応拡大されている。KATHERINE試験は、タキサンならびにトラスツズマブを含む術前化学療法を受け、乳房または腋窩リンパ節に浸潤がんが遺残していたHER2陽性乳がんに対し、術後治療として当時の標準療法であるトラスツズマブ単剤とT-DM1を比較した試験である。ホルモン受容体陽性の場合はホルモン療法が併用された。 今回、KATHERINE試験の長期フォローアップの結果がNEJM誌に発表された(Geyer CE Jr, et al. N Engl J Med. 2025;392:249-257.)。追跡期間中央値8.4年で、主要評価項目である無浸潤疾患生存(iDFS)はハザード比(HR)0.54(95%CI:0.44~0.66)とT-DM1群で有意に良好であった。イベントはT-DM1群で19.7%、トラスツズマブ群で32.2%に発生し、7年iDFS率はT-DM1群80.8%、トラスツズマブ群67.1%であった。副次評価項目の全生存(OS)のHRは0.66(95%CI:0.51~0.87、p=0.003)とT-DM1群で統計学的有意に良好であった。 Non-pCRに対する術後T-DM1はすでに実臨床で用いられている確立した標準治療である。実臨床の根拠を強くする結果であるといえよう。KATHERINE試験の解釈で注意が必要なのは、本試験ではペルツズマブが使用されていないことである。HER2陽性早期乳がんにおけるペルツズマブは、pCRの改善を目的とした術前化学療法では標準的に併用され、また術後治療における標準治療ともなっている(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2017;377:122-131.)。術後抗HER2療法を実施する場合は、トラスツズマブ単剤が選択されるケースは多くはない。転移乳がんにおけるT-DM1療法の効果は、ペルツズマブ治療歴があると弱まることが知られている(Dzimitrowicz H, et al. J Clin Oncol. 2016;34:3511-3517.、Noda-Narita S, et al. Breast Cancer. 2019;26:492-498.)。このことが術後治療におけるT-DM1の価値に直接影響するわけではないが、エビデンスの解釈の際には意識する必要がある。

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フレイルのチェックリスト

心身の状態をチェックするさまざまな方法基本チェックリスト(厚生労働省) 8項目以上該当でフレイル 4~7該当でプレフレイルツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会 秋下 雅弘先生講演資料より心身の状態をチェックするさまざまな方法フレイルの評価方法(J-CHS基準*一部改訂)3項目以上に該当: フレイル、 1~2項目に該当: プレフレイル、 該当なし: ロバスト(健常)(Satake S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020; 20(10): 992-993. )ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会 秋下 雅弘先生講演資料よりより簡単にセルフチェックできる方法1つでも該当するとフレイルの可能性あり世界的にCHS基準(The Cardiovascular Health Study)が使われています。日本の医療機関ではこの基準を改変した「日本版CHS基準(J-CHS基準)」を用いてチェックが行われます。本サイトでは、J-CHS基準をもとに、より身近な事例へ一部表現を変更しております。(監修医師:秋下雅弘先生)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会 秋下 雅弘先生講演資料よりペットボトルチェックフレイルの兆候が無いか、簡単にチェックできる方法の1つフレイルの1症状である筋力低下の目安として握力を ペットボトルのふたを開けるという動作 で確認できるチェック方法筋力低下をはかる一つの目安が握力といわれており、男性は28kg以下、女性は18kg以下(J-CHS基準よりだとフレイルの可能性があるといわれています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/pttochigicon/26/0/26_051/_pdf/-char/ja)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会秋下 雅弘先生講演資料より

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成人CAR-T療法の実際【Oncologyインタビュー】第46回

出演:京都大学医学部付属病院 血液内科 北脇 年雄氏CAR-T療法は今や造血器腫瘍治療に欠かせないものとなった。その一方、複雑な治療工程や有害事象の管理など照会元施設にとって押さえておくべき情報は多い。成人のCAR-T療法の基本について、京都大学附属病院の北脇年雄氏に解説いただいた。参考CAR-T細胞療法のトリセツ(中外医学社)血液内科治療のトリセツ(中外医学社)

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多発性骨髄腫の新規治療開発を加速するMRDに基づくエンドポイント/JCO

 多発性骨髄腫(MM)の新たな治療の早期承認を実現するためには、臨床試験を迅速化するための早期エンドポイントが必要である。今回、米国・メイヨークリニックのQian Shiらは、新規診断の移植適格患者・移植不適格患者、再発/難治性(RR)の多発性骨髄腫患者において、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)の中間エンドポイントとして微小残存病変(MRD)陰性完全奏効(CR)の可能性を検討した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年2月12日号に掲載。 本解析では、20の多施設無作為化試験から個々の患者データを収集した。十分なデータを有する11試験(4,773 例)を解析し、9 ヵ月または 12 ヵ月における10-5を閾値としたMRD陰性CRがPFSとOSに関する臨床的有用性を予測できるかどうかを評価した。全体的なオッズ比(OR)は二変量Plackett Copulaモデルを用いて推定した。さらに、MRD陰性CRとPFS/OSにおける治療効果の相関を、線形回帰(R2加重最小二乗)モデルおよびCopula(R2Copula)モデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析の結果、新規診断の移植適格患者、新規診断の移植不適格患者、再発/難治性MM患者において、9 ヵ月および 12 ヵ月におけるMRD陰性CRが、患者レベルでPFSと強い相関を示した。 ・全体的なORは3.06~16.24の範囲であり、95%CIはすべて1.0を含まなかった。・3つの集団の統合により、有望な試験レベルの相関(R2:0.61~0.70)がみられ、新規診断集団ではより強い相関(R2:0.67~0.78)がみられた。・OSについても同様の結果がみられた。 著者らは、「今回の結果は、新規診断の移植適格患者および移植不適格患者、再発/難治性MM患者を対象とした今後の臨床試験において、早期承認のための中間エンドポイントとして、治療開始後9ヵ月または12ヵ月に10-5を閾値としたMRD陰性CRを使用することを支持するもの」とした。

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認知症リスク因子のニューフェイス【外来で役立つ!認知症Topics】第26回

Lancetが報告した修正可能な14のリスク因子世界的な医学雑誌Lancetは、2017年から認知症のリスク因子について最先端のデータを発表してきた。第2報告は2020年、そして最新報告は2024年に発表された1)。これら3回の報告の内容は少しずつ変化してきた。なお、示された結果は、この作業部会が継続的に最新の報告などを吟味してその結果をまとめたものである。それだけに古典的なリスク因子、たとえば運動不足、教育不足、飲酒や喫煙といったもの以外に、いわばニューフェイスが現れてきた。そのようなものとして最も有名なのは2017年の発表2)でデビューした「中年期からの難聴」だろう。また、大気汚染、最新の報告では視力低下と低密度リポタンパク質(LDL;Low Density Lipoprotein)コレステロールの高値が加わった。そして2024年の報告にある14のリスク因子のすべてに対応できたら、認知症発症は45%抑制できるとされる。画像を拡大する本稿では、こうしたリスク因子がなぜ悪いのかに注目してみる。古典リスク因子として、まず若年期の教育不足。これは基本的な神経回路の成長が十分なされないということだろう。中年期のリスク因子については、頭部外傷と難聴以外は、脳血管に悪影響を及ぼすとまとめられるだろう。頭部外傷に関しては、ボクサー脳などさまざまなスポーツ外傷や交通事故による後年の害が知られてきた。外傷から10年以上も後に、認知症が発症してくるとされる。また老年期のうつ、社会的交流の乏しさについては、社会的な存在である人間がそれらしい活動を失うということかもしれない。運動不足については、神経細胞や脳血管の新生につながらないことが大きいのだろう。さらに糖尿病では、インスリンとアミロイドβの両方を分解するインスリン分解酵素が注目されてきた。大気汚染比較的新しいリスク因子の大気汚染については、PM2.5(PM;Particulate Matter)が注目されている。これは大気中を浮遊する径2.5ミクロン以下の微粒子であり、従来は呼吸器系や循環器系への悪影響が注目された。これは脳にも悪影響を及ぼすとされる。また近年では大気汚染は、地球の温暖化や緑地の減少などと相乗的な悪循環を形成するといわれる。中年期からの難聴さて2017年にいわば衝撃のデビューをした「中年期からの難聴」だが、この発表中の全リスク因子のうちで最も影響が大きいと報告された。2024年の報告でも影響力7%とやはり最強である。このような難聴がなぜリスク因子になるかについての考え方は、以下のようにまとめられている3)。(1)蝸牛とその上行経路(難聴)および海馬など側頭葉内側(認知症)のいずれもアルツハイマー病病理で侵される。(2)難聴による音刺激の欠乏が1次聴覚野と海馬の形態変化をもたらし認知予備能を減らすことで準備状態を作る。(3)本来記憶などの認知機能に費やすべき知的エネルギーを、難聴者は聴覚理解に回す必要がある。(4)聴覚的理解用のエネルギー増加がシナプスに悪影響する。より単純ながら、聴覚刺激が入らないことは、たとえば社会交流をしても脳に対する重要な刺激が届かないことになるという考えもある。高LDLコレステロール2024年には新たなリスク因子についても報告された1)。まず生化学的な知見として、中年期からの「悪玉コレステロール」といわれるLDLコレステロールの高値である。これは以前から脳動脈硬化の促進因子として有名であった。つまり動脈を詰まらせ、柔軟性を低下させる堆積物であるプラークの構築に寄与するため悪玉と呼ばれる。このLDLコレステロールが100以上、また「善玉コレステロール」といわれるHDL(High Density Lipoprotein)コレステロールのレベルが40以下の場合、アルツハイマー病(AD)発症の可能性が増加するとされる。AD発症のリスクを高めるだけでなく、「悪玉コレステロール」は脳の一般的な認知機能を損なうこともわかっている。またLDLコレステロール値が高いと、そうでない人に比べて記憶に障害がありがちで、脳動脈がアテローム性動脈硬化症を発症して脳卒中のリスクを高める。さらにLDLコレステロール値が高くなることで、脳内の血流が減少し、白質の密度が低下する状態につながる可能性もある。視力低下次に老年期の視力低下である。その原因では、白内障と糖尿病性網膜症が重視され、緑内障と加齢性黄斑変性症は関連しないとされる。英国では200万人が視力低下していると推定される。加齢とともに視力障害は多くなるだけに、視力障害を持つ人々のほぼ80%は65歳以上である。視力低下の程度と認知症のリスクは相関する。もっともこれは未矯正・未治療の視力喪失者には当てはまり、矯正・治療すればリスクは高まらない。たとえば、白内障の手術をした人は、しない人に比べて認知症になる可能性が30%低いとした報告もある。ところで、ヒトの情報の80%は目から入る、それに対して耳からは20%以下だといわれる。だから筆者には、視力喪失がリスク因子とされたのが遅いとも思われるのだが、聴覚と視覚が認知症という大脳の変化にもたらす影響は、それぞれが持つ情報量とは別なのかもしれない。参考1)Livingstone G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.2)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017;390:2673-2734.3)Ray M, et al. Dementia and hearing loss: A narrative review. Maturitas. 2019;128:64-69.

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ICI関連心筋炎の診断・治療、医師の経験値や連携不足が影響

 2023年にがんと心血管疾患のそれぞれに対する疾病対策計画が公表され、その基本計画の一環として、循環器内科医とがん治療医の連携が推奨された。しかし、当時の連携状態については明らかにされていなかったため、新潟県内の状況を把握するため、新潟県立がんセンター新潟病院の大倉 裕二氏らは「免疫チェックポイント阻害薬関連心筋炎(ICIAM)についての全県アンケート調査」を実施。その結果、ICIAMではアントラサイクリン関連心筋症(ARCM)と比較し、循環器内科医とがん治療医の双方の経験や組織的な対策が少なく、部門間連携の脆弱性が高いことが明らかとなった。Circulation Report誌オンライン版2025年2月4日号掲載の報告。 本研究は新潟大学循環器内科と新潟腫瘍循環器協議会(OCAN2020)が、ICIAMとARCMに関する質問票を県内すべての循環器内科医とその病院の指導的ながん治療医に配布し行われた。 主な結果は以下のとおり。・アンケートには、病院29施設の循環器内科医124人と指導的立場にあるがん治療医41人が回答した。・ICIAMの臨床経験があると報告した循環器内科医は31.8%、指導的立場にあるがん治療医は24.4%で、ARCMの経験(循環器内科医の80.0%[p<0.001]、指導的立場にあるがん治療医の58.5%[p=0.009])よりも有意に低かった。・21年以上の勤務歴のあるベテランの循環器内科医は20年以下の循環器内科医と比較してICIAMの経験が少なかった(18.6%vs.38.5%、p=0.018)。・免疫療法を実施している20施設のうち、12施設(60%)では循環器内科医と指導的立場にあるがん治療医の間で「相談なし」と回答し、5施設(25%)では「ICIAM 発症後に相談した」と回答の一致を認めた。一方、ARCM発症前または発症後の部門間相談について、「相談なし」と回答したのは回答したのは4施設(20%)のみで、12施設(60%)で「ARCM発症後に相談した」と回答の一致を認めた。 本結果を踏まえ、大倉氏らはICIAM診療における5つのギャップを次のように示しており、(1)循環器内科医とがん治療医の経験のギャップ(2)循環器内科医とがん治療医の知識のギャップ(3)循環器内科医の若手とベテランの世代間ギャップ(4)循環器内科とがん診療科の部門間ギャップ(5)連携体制の病院間のギャップ 「病院では循環器内科医とがん治療医の連携を促進させる必要がある」としている。

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統合失調症の疾患経過に発症年齢が及ぼす影響

 中国・天津大学のQingling Hao氏らは、慢性期統合失調症患者の初回入院年齢に影響を及ぼす因子、とくに臨床的特徴および血清パラメータに焦点を当て、検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年1月21日号の報告。 対象は、中国の精神科病院17施設より募集した慢性期統合失調症患者1,271例。初回入院年齢を含む人口統計学的データおよび臨床データを収集した。精神症状、未治療期間、各血清パラメータの評価を行った。これらの因子と初回入院年齢との関連を調査するため、統計分析を行った。 主な内容は以下のとおり。・初回入院年齢の平均は、28.07±9.993歳。・独身および精神疾患の家族歴を有する患者では、入院時の年齢がより若年であった。・自殺念慮および自殺行動のある患者では、そうでない患者と比較し、入院年齢がより若年であった。・回帰分析では、早期入院年齢の重要なリスク因子として婚姻状況(独身)、精神疾患の家族歴、自殺念慮または自殺行動が特定された。・一方、未治療期間、総タンパク質、LDL値は初回入院年齢と正の相関が認められ、抗精神病薬の投与量およびアルブミン値は負の相関が認められた。 著者らは「本調査により、慢性期統合失調症患者の初回入院と関連する重要な因子が特定された」とし「統合失調症患者の治療アウトカムを改善するためにも、高リスク患者に対する早期介入および適切なサポートの重要性が示唆された」としている。

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有給休暇取得率の高い診療科は?/医師1,000人アンケート

 有給休暇は一定の条件を満たしたすべての労働者に付与されるもので、医師も例外ではない。しかし、緊急性の高い患者のケアや医師不足などにより、医師の労働環境は有給休暇が取得しやすい状況ではないケースも多いと考えられる。今回CareNet.comでは会員医師約1,000人を対象に、有給休暇の取得状況や2024年4月の働き方改革の影響などについてアンケートを実施した(2025年1月23~24日実施)。2024年度の平均有給休暇取得日数は7.6日 2024年度の有給休暇の取得日数(予定含む)は、平均で7.6日、最も多かったのは5~9日(40.7%)との回答で、7.5%の医師は0日と回答した。厚生労働省による「令和6年就労条件総合調査」1)では、調査対象の全産業における平均取得日数は11.0日と報告されており、医師の取得日数は全体平均と比較して少ないことがうかがえる。 平均取得日数を年代別にみると、20代(7.0日)と30代(6.9日)でやや少ない傾向がみられたものの、40~60代では8.0~8.2日で、年代による大きな差はみられなかった。診療科別にみると、10日以上と回答した医師がリハビリテーション科、精神科で50%以上を占めた一方、呼吸器外科、血液内科では20%以下に留まった。平均有給休暇取得率が最も高かったのは皮膚科で71.8% 全体の平均有給休暇取得率(取得日数/付与日数)は59.3%で、上述の厚生労働省調査では65.3%であり、医師の取得率は6%低い結果となった。年代別にみると40代が最も高く(61.3%)、60代が最も低かった(56.6%)。診療科別にみると、皮膚科(71.8%)、リハビリテーション科、精神科(ともに67.2%)などで高かった一方、総合診療科、救急科、呼吸器外科、血液内科では50%を下回った。 有給休暇の最長連続取得日数について聞いた結果、2~4日との回答が39.9%と最も多く、連続取得なしとの回答も36.0%を占めた。自由記述欄では、「土日に絡めて取得したがる者が増え、争奪戦になっている」「内科管理があるため、なかなか長期間とりにくい」「いまだに長期休暇を取得できない体制だし、雰囲気もある」などの声が寄せられた。医師の働き方改革による影響、半数が「変化なし」3割は「取得しやすくなった」 2024年4月の医師の働き方改革施行以降、有給休暇取得状況に変化はあったかどうかを聞いた結果(複数回答)、54.9%が「変化なし」と回答した一方、29.1%は「有給休暇が取得しやすくなった」と回答した。また、「勤務間インターバル確保や代償休息のための有給休暇消化が発生するようになった」(8.9%)、「有給休暇取得者が増加し希望日に取れない/取りにくくなった」(4.6%)、「実働のある有給休暇消化が発生するようになった」(3.9%)などの回答もみられた。 自由記述欄では、「気兼ねなく取得できる環境になってきた」など状況の改善を示唆するコメントがあった一方、「宿日直許可制度が始まってから、休めない当直なのに休んでいる扱いとなり、有給も取りづらい」「働き方改革の影響で給料が減るため、それを補うため有給休暇を利用して他院にパートに行かなければならなくなった」といった声も聞かれている。 このほか、地方別にみた平均有給休暇取得率、有給休暇の主な過ごし方などのアンケート結果の詳細を以下のページにて公開している。『医師の有給休暇取得事情』

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