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肥厚性皮膚骨膜症〔PDP:pachydermoperiostosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥厚性皮膚骨膜症(pachydermoperiostosis:PDP)は、ばち指、長管骨を主とする骨膜性骨肥厚、皮膚肥厚性変化(頭部脳回転状皮膚を含む)を3主徴とする単一遺伝性疾患である。特発性肥大性骨関節症(primary hypertrophic osteoarthropathy:PHO)と原因遺伝子が同一の疾患である。■ 疫学2011年の厚生労働省研究班による全国調査では、全国推定患者数42例であった。その後、遺伝子診断により確定診断できた症例のみを渉猟した44例の集計ではHPGD変異は1例のみ、女性例は1例のみであった。SLCO2A1遺伝子変異例43例中、変異の種類は17種類検出された。これら変異の頻度を日本人集団のゲノムデータベースより集計したところ、0.5%(1/200)だった。したがって、日本人SLCO2A1遺伝子変異によるPDP患者は、(1/200)×(1/200)×(1/4)=1/160,000と推定された。2023年発表の全国調査でのわが国の人口は1億2,200万人であることより、推計患者数は762.5人であった。患者のほとんどが男性であり、日本人男女比1:1から推計患者数は388人であった。■ 病因2つの原因遺伝子が知られている。HPGD(プロスタグランジンE2分解酵素)遺伝子、およびSLCO2A1(プロスタグランジンE2輸送蛋白)遺伝子による常染色体潜性(劣性)遺伝形式が報告されている。両者の確定診断時の臨床症状には大きな差はないが、いくつか経過、検査値、合併症に違いがある(表1)。また、両者ともばち指のみの症例が報告されている(isolated digital clubbing)。表1 肥厚性皮膚骨膜症における原因遺伝子による比較画像を拡大する■ 症状(図)1)皮膚症状手足の太鼓ばち指(ばち指)、皮膚肥厚性変化(皮膚肥厚;主に前額に生じるが進行すると顔全体にみられ、獅子様顔貌を呈する)、頭部脳回転状皮膚(cutis verticis gyrata[CVG];ばち指や皮膚肥厚に続いて生じる症例がある。CVGのみ生じる症例はPDPと鑑別する)は診断基準になっている。その他、(広義の皮膚症状として)掌蹠多汗症、眼瞼下垂、脱毛斑に加え、皮膚症状というより結合組織の症状として下腿肥大(膝から足関節までが肥大し、正座ができなくなる)、下腿潰瘍などがある。2)骨・関節症状主に長管骨を主体とした骨膜性骨肥厚および骨関節炎を生じる。前者はPDPの診断基準の1つであり、後者はPHOの診断基準となっている3)皮膚外症状低カリウム血症、貧血、骨髄線維症、胃・十二指腸巨大皺襞、SLCO2A1遺伝子関連腸症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene:CEAS)などがある。症状(図)画像を拡大する■ 分類(後掲表2:診断のカテゴリー)(1)完全型(complete form)後述の診断基準4症状をすべて発症した症例。(2)不全型(incomplete form)診断基準のうちCVGを欠く症例を指す。(3)初期型(fruste form)骨変化が欠如または軽度で(ばち指と)皮膚肥厚のみを有する■ 予後いまだ予後を確実に改善する治療法は確立されていない。20代をピークとし30代になると活動性が低下するといった報告もあるが40代以降の経過について記載はみられない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)表2に厚生労働省科学研究班で策定した診断基準を示す。確定診断は3主徴をみたすことにより可能である。2項目の場合は除外診断と皮膚生検、遺伝子診断を組み合わせることにより正確な診断に近付けることができる。同じく表2、3に鑑別すべき疾患を示した。鑑別の手順を以下に記す。1)完全型鑑別すべき疾患がない(特異度が高い)ので4つの症状を正確に診断していけば確定できる。今のところ厚生労働省科学研究班で渉猟した完全型症例の内HPGD、SLCO2A1遺伝子変異がみつからなかった症例は経験していない。2)不全型診断基準項目1~3のみが該当する症例には、2次性肥大性骨関節症が含まれてしまうため除外診断が必要である。ただし、女性例では閉経以降に不全型で発症する例があるので、遺伝子診断が有用である。3)診断基準2項目以下(probable, possible)これらの症例には前述の初期型を含んでいるが、鑑別診断に挙げた他の疾患である可能性が高いので丁寧に確認していく必要がある。初期型の場合には、次第に不全型または完全型に移行する。ただし、完全型は必ず不全型を経るとは限らない。除外診断が完了すれば遺伝子診断が有用である。表2 厚生労働省による肥厚性皮膚骨膜症の診断基準(2015)Definite、Probableを対象とする。■ 肥厚性皮膚骨膜症の診断基準A 症状1.太鼓ばち状指(ばち指)2.長管骨を主とする骨膜性骨肥厚3.皮膚肥厚性変化4.頭部脳回転状皮膚B 鑑別診断以下の疾患を鑑別する。(1)2次性肥大性骨関節症(secondary hypertrophic osteoarthropathy):疾患リストは別掲表3を参照(2)成長ホルモン過剰症および先端肥大症(3)骨系統疾患(3)-1高アルカリフォスファターゼ血症(3)-2骨幹異形成症(Camurati-Engelmann病)C 遺伝学的検査1.HPGD、SLCO2A1遺伝子の変異D 合併症(括弧内は2011年全国調査結果より)【皮膚症状】脂漏・油性光沢(69%)、ざ瘡(65.5%)、多汗症(34,5%)、脂漏性湿疹(16.7%)【関節症状】関節痛(51.7%)[運動時関節痛(30.3%)、安静時関節痛(9.1%)]、関節腫脹(42.4%)、関節水腫(24.2%)、関節の熱感(9.1%)、骨折歴(6.3%)【その他】貧血(18.2%)、発熱(15.6%)、胃・十二指腸潰瘍(9.4%)、低カリウム血症(9.1%)、自律神経症状(9.1%)、易疲労性(6.1%)、思考力減退(3%) <診断のカテゴリー>Definite完全型Aのうち4項目すべてを満たすもの不全型A1~3がみられ、B(1)に該当する基礎疾患を除外したものProbable初期型A1、3を満たしBの鑑別すべき疾患を除外し、Cを満たすものPossibleAのうち2項目以上を満たしBの鑑別すべき疾患を除外したもの診断に際しての諸注意「不全型」「初期型」は年余にわたり進行し、「完全型」に移行することがあるため遺伝子診断が有用であるが、症状がそろうまで「完全型」とは呼ばない。D合併症は診断の参考になるが確定診断に用いてはならない。表3 二次性肥大性骨関節症の原因疾患画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)発熱や関節痛などの急性期症状については非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)が奏効する。最近では、皮膚肥厚に選択的COX-2阻害薬が奏効したとの報告が複数ある。ただし、長期服用例の報告にはいたっていない。顔面皮膚皺襞、眼瞼下垂、CVGには形成外科的なアプローチが試みられている。4 今後の展望選択的COX-2阻害薬の長期使用例や家族歴のある患者での早期介入試験などが待たれる。5 主たる診療科ばち指の鑑別診断:内分泌内科、小児科骨膜性骨肥厚:整形外科、小児放射線診断医皮膚肥厚、頭部脳回転状皮膚:皮膚科(皮膚生検のため)消化器症状:消化器内科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥厚性皮膚骨膜症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 肥厚性皮膚骨膜症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)新関寛徳. 新薬と臨牀. 2018;67:1117-1123.2)三森経世. 日本内科会誌. 1994;83:1943-1947.3)Shakya P, et al. J Dermatol Sci. 2018;90:21-26.4)Yuan L, et al. J Orthop Translat. 2018;18:109-118.公開履歴初回2024年10月17日

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週末の寝溜め、認知機能障害リスクを上げる?下げる?

 高齢者を対象とした横断研究で、週末のキャッチアップ睡眠で認知機能障害リスクが70%以上低下する可能性が示唆された。台湾・National Taiwan Normal UniversityのChi Hsiao氏らがSleep Breath誌2024年10月号で報告した。 本研究は、2020年9月~2022年12月に台湾・台北市の医療センターにおいて65歳以上で自立歩行が可能な参加者を登録し、自己申告による睡眠日誌と加速度計を用いて連続7日間の睡眠関連データを記録・測定した。週末キャッチアップ睡眠は、週末の平均睡眠時間から平日の平均睡眠時間を引いた時間とし、認知機能障害リスクはミニメンタルステート検査(MMSE)で評価した。週末キャッチアップ睡眠とMMSEスコアとの関連について二項ロジスティック回帰モデルを用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・計215人(女性:53.0%、80.5±7.1歳、認知機能障害リスク:11.6%)を対象とした。・性別、教育レベル、中~高強度の身体活動、加速度計の総装着時間で調整したモデルにおいて、睡眠日誌(オッズ比[OR]:0.26、95%信頼区間[CI]:0.09~0.69、p=0.007)と加速度計データ(OR:0.27、95%CI:0.10~0.70、p=0.007)から、キャッチアップ睡眠が認知機能障害リスクを73~74%低下させる可能性が示された。 著者らは「この結果から、週末のキャッチアップ睡眠と認知機能障害のリスク低下が関連することが示唆された」としている。

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体重増加が抗精神病薬の継続に及ぼす影響〜メタ解析

 抗精神病薬のアドヒアランス不良や服薬中止は、統合失調症スペクトラム障害を含む精神疾患患者にとって、重要な臨床上の問題である。抗精神病薬誘発性体重増加は、アドヒアランス不良のリスク因子であると報告されているが、抗精神病薬誘発性体重増加とアドヒアランス不良や服薬中止との関連を調査したシステマティックレビューは、これまでなかった。カナダ・Centre for Addiction and Mental HealthのRiddhita De氏らは、これらの関連性を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2024年9月17日号の報告。 重度の精神疾患患者におけるアドヒアランス不良、治療中止、他剤への切り替え、抗精神病薬誘発性体重増加による治療中止について調査したすべての研究を、MEDLINE、EMBASE、PsychINFO、CINAHL、CENTRALデータベースなどよりシステマティックに検索した。該当研究のメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析のために、2つの研究カテゴリーを特定した。・カテゴリー1には、BMIクラス/自己申告による体重増加の程度ごとに、抗精神病薬のアドヒアランスまたは治療中止を比較した3件の研究を含めた。・過体重または肥満、抗精神病薬使用に関連した体重増加を報告した患者は、抗精神病薬治療中の標準体重の患者または抗精神病薬誘発性体重増加を報告しない患者と比較し、抗精神病薬のアドヒアランス不良のオッズ比(OR)上昇が認められた(OR:2.37、95%CI:1.51〜3.73、p=0.0002)。・カテゴリー2には、各抗精神病薬間で副作用として報告された体重増加に関連した治療中止を比較した14件の研究を含めた。・オランザピンは、体重増加リスクの低い他の抗精神病薬と比較し、アドヒアランス不良または治療中止の可能性が、3.32倍(95%CI:2.32〜4.74、p<0.00001)に増加した。・同様に、体重増加リスクが中程度の抗精神病薬(パリペリドン、リスペリドン、クエチアピン)は、体重増加リスクが低い抗精神病薬(ハロペリドール、アリピプラゾール)と比較し、アドヒアランス不良または治療中止の可能性が、2.25倍(95%CI:1.31〜3.87、p=0.003)に増加した。・定性的なサマリーにおいても、これらの知見が確認された。 著者らは「抗精神病薬誘発性体重増加は、服薬アドヒアランス不良や治療中止に影響を及ぼし、体重増加リスクの高い薬剤は、服薬アドヒアランス不良や治療中止と関連していることが示唆された。これらの結果を確認するためにも、追加試験が必要である」と結論付けている。

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乳児への肺炎球菌ワクチンの減量接種、免疫原性への影響/NEJM

 英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のKatherine E. Gallagher氏らは、生後6週以上8週未満児において、10価および13価肺炎球菌結合型ワクチン(それぞれPCV10[GSK製]、PCV13[ファイザー製])の減量接種による免疫原性について検討し、PCV13の40%用量の3回接種(初回免疫2回、追加免疫1回)は全量接種に対し全血清型で非劣性が認められたことを報告した。PCVワクチンは、定期予防接種の中でも高価なワクチンであることから、減量接種レジメンがワクチン接種プログラムの持続可能性を高める1つの選択肢となりうることが期待されていた。NEJM誌オンライン版2024年9月26日号掲載の報告。PCV10およびPCV13の各40%用量と20%用量を全量と比較 研究グループは、ケニアのキリフィおよびモンバサの9施設において、生後6週以上8週未満の健康な新生児を以下の7群へ無作為に均等に割り付け、生後18ヵ月まで追跡調査を行った。A群:PCV13全量接種B群:PCV13の40%用量接種C群:PCV13の20%用量接種D群:PCV10全量接種E群:PCV10の40%用量接種F群:PCV10の20%用量接種G群:既存スケジュールでPCV10全量接種 A~F群では、初回免疫2回(1回目:登録時、2回目:56日後)、追加免疫1回(生後約9ヵ月時)の計3回接種し、G群では初回免疫3回(登録時、28日後、56日後)を接種し、追加免疫はなしとした。A~F群は、児の保護者およびワクチン接種チーム以外の全試験スタッフが割り付けを盲検化されたが、G群のみは盲検化できなかった。 初回免疫完了後、4週間ごとに4回血液検体を採取するとともに、8週間ごとに2回鼻咽頭スワブを採取し(生後約9ヵ月および約18ヵ月時)、免疫原性を評価した。 非劣性の基準は、3回目接種の4週後に各減量群の全量群に対するIgG幾何平均抗体濃度(GMC)の比の95%信頼区間(CI)の下限が0.5超であり、初回免疫完了の4週後(参加者が生後約18週になった時)に血清型特異的IgG抗体濃度0.35μg/mL以上に達した参加者の割合の差の95%CIの下限が-10%超とした。また、ワクチンの用量は、PCV10群では血清型10種中8種以上、PCV13群では血清型13種中10種以上で非劣性基準を満たした場合に、非劣性が示されると事前に規定した。抗体保有率は生後約9ヵ月および約18ヵ月時に評価した。PCV13の40%用量の3回接種は、全量接種に対して非劣性 2019年3月~2021年11月(2020年3月~10月はCOVID-19パンデミックのため中断)に計2,100例の乳児が登録され、2,097例が無作為化された。生後18ヵ月時のper-protocol解析集団は計1,572例(75%)であり、抗体保有率の解析対象は生後9ヵ月時が1,439例(69%)、生後18ヵ月時が1,364例(65%)であった。 per-protocol解析の結果、PCV13の40%用量(B群)は、初回免疫2回接種後に13血清型中12血清型、追加免疫後に13血清型中13血清型について非劣性基準を満たした。PCV13の20%用量(C群)、PCV10の40%用量(E群)および20%用量(F群)については、全量接種に対する非劣性は示されなかった。 生後9ヵ月時および18ヵ月時におけるワクチン血清型の抗体保有率は、PCV13の各群間で同程度であった。

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ヘム鉄摂取が2型糖尿病のリスクを高める

 ヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連しているとする研究結果が、「Nature Metabolism」に8月13日掲載された。米ハーバード大学T. H.チャン公衆衛生大学院のFenglei Wang氏らの研究によるもの。未加工の赤肉を好む食事パターンが2型糖尿病のリスクを高めるとされているが、その関連性の多くは、ヘム鉄の過剰摂取で説明可能と考えられるという。 これまでにも、食事からのヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連していることが示唆されてきているが、血液バイオマーカーなどを絡めた検討は十分に行われていない。Wang氏らはこの点について、米国内で実施されている観察期間が最長36年間におよぶ3件の大規模コホート研究のデータを用いた検討を行った。 解析対象者数は計20万4,615人で女性が79%であり、この対象全員のデータから、鉄(ヘム鉄と非ヘム鉄)の摂取量と2型糖尿病リスクとの関連が調査された。また、この対象のうち3万7,544人(女性82%)のサブセットでは血漿代謝バイオマーカー、9,024人(同84%)のサブセットではメタボロームプロファイルの評価も施行した。 解析の結果、ヘム鉄の摂取量が多いことと2型糖尿病リスクとの間に有意な正の関連が認められた(摂取量の最高五分位群と最低五分位群を比較した多変量調整ハザード比が1.26〔95%信頼区間1.20~1.33〕、傾向性P<0.001)。その一方、非ヘム鉄の摂取量については、2型糖尿病リスクとの有意な関連が見られなかった。 この研究では、未加工の赤肉を多く摂取するといった特定の食事パターンに関連する2型糖尿病リスク増大のかなりの部分を、ヘム鉄の摂取量の多さで説明できる可能性も示された。また血漿代謝バイオマーカーなどとの関連の解析から、ヘム鉄摂取量が多いことと、高インスリン血症や炎症、脂質代謝異常などの2型糖尿病リスクに関連する好ましくない血漿プロファイルとの相関が認められた。ヘム鉄と2型糖尿病との関連を媒介する可能性がある代謝物としては、L-バリンや尿酸などが特定され、これらが2型糖尿病の病因に大きな影響を及ぼしている可能性が考えられた。 著者らは、「われわれの研究結果は、2型糖尿病予防のためのガイドライン策定に際して、ヘム鉄を多く含む食品、特に赤肉を毎日摂取するような食事パターンの制限を推奨すべきであることを意味しており、公衆衛生上の重要な意味を持っている」と述べている。また、「植物性食品由来の代替肉に、風味の調整などのためにヘム鉄を添加することに関しても懸念がある」と付け加えている。 なお、1人の著者が、Vinasoy社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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世界で年間約700万人が脳卒中により死亡、その数は増加傾向に

 気候変動と食生活の悪化によって、世界の脳卒中の発症率と死亡率が劇的に上昇していることが、オークランド工科大学(ニュージーランド)のValery Feigin氏らのグループによる研究で示された。2021年には世界で約1200万人が脳卒中を発症し、1990年から約70%増加していたことが明らかになったという。詳細は、「The Lancet Neurology」10月号に掲載された。 本研究によると、2021年には、脳卒中の既往歴がある人の数は9380万人、脳卒中の新規発症者数は1190万人、脳卒中による死者数は730万人であり、世界の死因としては、心筋梗塞、新型コロナウイルス感染症に次いで第3位であったという。 専門家は、脳卒中のほとんどは予防可能だとの見方を示す。論文の共著者の1人である米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)のCatherine Johnson氏は、「脳卒中の84%は23の修正可能なリスク因子に関連しており、次世代の脳卒中リスクの状況を変える大きなチャンスはある」と述べている。脳卒中のリスク因子は、大気汚染(気候変動によって悪化)、過体重、高血圧、喫煙、運動不足などであり、研究グループは、これらのリスク因子は全て、低減またはコントロール可能であると指摘している。 脳卒中に関連する死亡者数は何百万人にも上る一方で、脳卒中を起こした後に重度の障害が残る患者も少なくない。今回の研究からは、脳卒中によって失われた健康寿命の年数(障害調整生存年;DALY)は、1990年から2021年にかけて32.2%増加していたことも明らかになった。 では、なぜ脳卒中がここまで増加したのだろうか。研究グループの分析によると、多くの脳卒中のリスク因子に人々がさらされる頻度が上昇し続けていることが原因である可能性があるという。本研究では、1990年から2021年までの間に、高BMI、気温の上昇、加糖飲料の摂取、運動不足、収縮期血圧高値、ω-6多価不飽和脂肪酸が少ない食事に関連してDALYが大幅に増加したことが示された(増加の幅は同順で、88.2%、72.4%、23.4%、11.3%。6.7%、5.3%)。 Johnson氏らは、気温の上昇は、もう1つの脳卒中のリスク因子である大気汚染の悪化を意味していると説明する。同氏らは、「暑くてスモッグの多い日が脳卒中リスクに与える影響を最も強く受けるのは貧しい国である可能性が高く、その影響は気候変動によってさらに悪化し得る」と指摘する。実際、出血性脳卒中のリスクに関しては、現在、汚染された空気を吸い込むことは、喫煙と同程度のリスクをもたらすと考えられているという。脳卒中全体に占める出血性脳卒中の割合は約15%で、虚血性脳卒中(脳梗塞)と比べると大幅に低いにもかかわらず、世界のあらゆる脳卒中に関連した死亡や障害の5割が出血性脳卒中に起因するという。 「脳卒中に関連した健康被害は、アジアやサハラ以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)で特に大きい。こうした状況は、管理されていないリスク因子、特にコントロール不良の高血圧や、若年成人における肥満や2型糖尿病の増加といった負担の増大と、これらの地域における脳卒中の予防およびケアサービスの不足によって生まれている」とJohnson氏は指摘する。 しかし、こうした状況を変えることは可能であるとJohnson氏は主張する。例えば、大気汚染は気温上昇に密接に関連するため、「緊急の気候変動対策と大気汚染を減らす取り組みの重要性は極めて高い」と言う。さらに同氏は、「高血糖や加糖飲料の多い食事などのリスク因子にさらされる機会が増えているため、肥満やメタボリックシンドロームに照準を合わせた介入が急務である」と述べている。

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耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したら【とことん極める!腎盂腎炎】第8回

耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したらTeaching point(1)耐性菌が原因菌ではないことがあり、その原因について考える(2)多くが検体採取時のクリニカルエラーであるため採取条件の確認を行う(3)尿中の抗菌薬は高濃度のため耐性菌でも効いているように見えることがある(4)診断が正しいかどうか再確認を行うはじめに尿培養結果と臨床症状が合わない事例は、たまに遭遇することがある。“合わない”事例のうち、耐性菌が検出されていないのに臨床経過が悪い場合と、耐性菌が検出されているが臨床経過はよいものがある。今回は後者について解説していく。培養検査は原因菌のみ検出されるわけではなく、尿中に一定量の菌が存在する場合はすべて陽性となる。そのため、培養検査で検出されたすべての微生物が原因菌ではなく、複数菌が同時に検出された場合では、原因菌以外の菌が分離されていたことになる。それは耐性菌であっても同じであり、耐性菌が検出されているが臨床経過がよい場合、以下の2点が考えられる。1.検出された耐性菌が原因菌ではない場合膀胱内に貯留している尿は一般的に無菌であるが、尿路感染症を引き起こした場合、尿には菌が確認されるようになる。尿培養では尿中の菌量が重要になるが、採取条件が悪くなることで、周辺からの常在菌やデバイス留置による定着菌の混入を最小限におさえて検査を行うことで正しい検査結果が得られる。【採取条件が悪い場合(図)】尿は会陰や腟、尿道周囲の常在菌が混入しやすいため、採取条件が悪い場合は不正確な検査結果を招く恐れがある。画像を拡大する中間尿標準的な採取法で通常は無菌的に採取できるが汚染菌が混入するシチュエーションを把握しておく。女性は会陰や腟、尿道の常在菌が混入しやすいため、採取時は尿道周囲や会陰部を洗浄した後に採尿する。男性は外尿道口を水洗するだけで十分であるが、包茎であれば皮膚常在菌が混入しやすいので包皮を剥いてから採尿する。間欠導尿による採尿で汚染菌の混入を減らすことができる。尿道留置カテーテルからの採尿入れ替え直後のカテーテルを除き、通常カテーテルには細菌がバイオフィルムを形成しているため、検出された細菌が膀胱に停留しているものかどうかはわからない。もし、採尿する場合は、ポートを消毒後に注射器を使い採取をする。また、採尿バッグから採取を行うと室温で自然に増殖した細菌が検出されて不適切であるため行わないこと。尿バッグからの採尿乳児の場合は中間尿の採取は技術的に難しいため、粘着テープ付き採尿バッグを装着する。女児や包茎の男児では常在菌の混入が免れないため、不必要な治療や入院が行われる原因となる。回腸導管からの採尿回腸に常在菌は多く存在しないが、回腸導管やストーマ内は菌が定着しているため採取した尿は解釈が難しくなる。【保存条件が悪い場合】尿を採取後はできるだけ早く培養を開始しないといけないが、院外検査であったり、夜間休日で搬送がスムーズにできなかったりするなど、検査をすぐに開始できない場合が考えられる。尿の保存条件が悪い場合は、少量混入した汚染菌や定着菌が増え、原因菌と判別がしにくくなるほど尿培養で検出されてしまう。尿は採取後2時間以内に検査を開始するか、検査がすぐに開始できない場合は冷蔵庫(4℃)に保管をしなければならない。【複数菌が同時に検出されている場合】原因菌以外にも複数菌が同時に検出され、主たる原因菌が感受性菌で、汚染菌や定着菌、通過菌が耐性菌として検出された可能性がある。たとえば、尿道留置カテーテルが長期挿入されている患者や回腸導管でカテーテル挿入患者からの採尿で観察される。【常在菌の混入や定着菌の場合】Enterococcus属やStreptococcus agalactiae、Staphylococcus aureus、Corynebacterium属、Candida属については汚染菌や定着菌のことが多く、菌量が多くても原因菌ではないこともある(表1、2)1,2)。画像を拡大する画像を拡大する【検査のクリニカルエラーが原因となる場合】検体の取り違え(ヒューマンエラー)別患者の尿を誤って採取し提出した。別患者の検体ラベルを誤って添付した。別患者の検体で誤って培養検査を行った。培養時のコンタミネーション別患者の検体が混入してしまった。環境菌の汚染があった。感受性検査のエラー(テクニカルエラー)感受性検査を実施したところ、誤って偽耐性となった。感受性検査の試薬劣化。感受性検査に使用する試薬が少なかった。感受性試験に使用した菌液濃度が濃かった。2.検出された耐性菌が原因菌の場合【疾患の重症度が低い場合】入院適用がなく、併存疾患もなく、血液培養が陰性で、経口抗菌薬が問題なく服用ができる患者であれば外来で治療が可能な場合がある。その後の臨床経過もよいが、初期抗菌薬に耐性を認めた場合であってもそのまま治療が奏功する症例も経験する。しかし、耐性菌が検出されているため、抗菌薬の変更や治療終了期間の検討は慎重に行わなければならない。【抗菌薬の体内動態が原因となる場合】抗菌薬は尿中へ排泄されるため、尿中の抗菌薬は高濃度となる。尿中に排泄された抗菌薬濃度は血中濃度と平衡状態になく高濃度で貯留するため、たとえ耐性菌であっても感受性の結果どおりの反応をみせないことがある3)。抗菌薬のなかでも、濃度依存性のもの(ニューキノロンやアミノグリコシドなど)では効果が期待できると思うが、時間依存性のもの(β-ラクタム)でも菌が消失することを経験する。しかし、耐性菌であるため感受性菌に比べると細菌学的に効果が劣ることから、感受性の抗菌薬への変更も検討が必要になる。【診断は正しくされているのか】尿路感染症を診断する場合、鑑別疾患から尿路感染症が除外される条件が必要になる。たとえば、細菌が確認されない、膿尿が確認されない、尿路感染症に特徴的な所見が確認されないことが条件になる。尿は、汚染菌や定着菌が同時に検出されやすい検査材料になるため、検出菌の臨床的意義を再度検討し、診断が正しいのか確認することも求められる。おわりに感染症診療がnatural courseどおりにいかないことは、苦しいことであり、診療のうえで楽しみでもある。投与している抗菌薬に感受性の菌しか検出されていないのに、治りが悪いということはたまに遭遇するが、耐性菌が検出されているのにもかかわらず治療経過がよいというのは、どこかにピットフォールが隠れていないか疑心暗鬼になりがちである。治療経過がよいので、わざわざ抗菌薬を変更しないといけないのか、そもそも治療は必要なのか答えはみつからないことが多い。看護師に指示をして結果だけ待つのではなく、採取した尿を確認し、検査結果がどのように報告されているのか一度確認を行うことは、今後の感染症診療をステップアップする足がかりになるため、1つ1つ解決していきたいものである。1)Hooton TM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.2)Chan WW. Chapter 3 Aerobic Bacteriology. Urine Culture. Clinical Microbiology Procedures Handbook 4th Ed. ASM Press. 2016.3)Peco-Antic A, et al. Srp Arh Celok Lek. 2012;140:321-325.

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ADHDの薬物関連心血管疾患による世界的負担〜WHO薬物安全性データ分析

 注意欠如多動症(ADHD)の治療薬は、心血管系に対する交感神経刺激作用を有していることが知られているが、包括的な世界的データを用いた評価は、あまり行われていない。韓国・慶熙大学校のHanseul Cho氏らは、世界的な医薬品安全性監視データを用いて、ADHD治療薬と心血管疾患との関連を調査した。Asian Journal of Psychiatry誌オンライン版2024年8月30日号の報告。 分析には、1967〜2023年のWHO国際医薬品安全性監視データーベースからのレポート1億3,125万5,418件を用いた。各薬剤と特定の心血管疾患との関連を評価するため、報告オッズ比(ROR)およびinformation component(IC)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・ADHD治療薬に関連する報告14万6,489件のうち、心血管疾患は1万3,344件であった。・ADHD治療薬に関連する累積報告数は、2010年以降、とくに成人において増加が認められた。・ADHD治療薬は、全体的に心血管疾患リスクの上昇と関連がみられ(ROR:1.60、95%信頼区間:1.58〜1.63、IC:0.63、IC0.25:0.60)、この関連性は、男性よりも女性において強く関連していた。・特定の心血管疾患では、すべての薬剤において、トルサード・ド・ポアント/QT延長、心筋症、心筋梗塞のリスク上昇と関連が認められた。・心不全、脳卒中、心臓死/ショックとの関連が認められた薬剤は、アンフェタミンのみであった。・リスデキサンフェタミンは、アンフェタミンと比較し、心血管疾患との関連性が弱かった。・メチルフェニデートは、心血管疾患との関連性が最も低かった。・アトモキセチンは、トルサード・ド・ポアント/QT延長との関連性が2番目に高かった。 著者らは「心血管疾患とADHD治療薬との関連は、さまざまであり、アンフェタミンはリスクが高いものの、リスデキサンフェタミンおよびメチルフェニデートは、安全性が良好であることが示唆された」と結論付けている。

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乾癬の光線療法、自宅治療は外来治療に非劣性

 乾癬に対するナローバンドUVB療法について、自宅で行う同治療の有効性は外来治療との比較において非劣性であり、患者の負担は少ないことが示された。米国・ペンシルベニア大学のJoel M. Gelfand氏らが多施設共同無作為化非劣性試験「Light Treatment Effectiveness study:LITE試験」の結果を報告した。乾癬に対する外来治療でのナローバンドUVB療法は費用対効果が高いが、患者のアクセスに課題がある。一方、自宅治療は患者の負担は少ないが臨床データは限定的で、とくに肌の色が濃い患者のデータが不足していた。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年9月25日号掲載の報告。 研究グループは、乾癬に対するナローバンドUVB療法について、自宅治療の外来治療に対する非劣性を検討することを目的として、米国内の大学および民間の皮膚科診療所42施設において、医師主導の非盲検並行群間比較プラグマティック試験を実施した。試験登録期間は2019年3月1日~2023年12月4日であり、2024年6月までフォローアップが行われた。 12歳以上の尋常性乾癬または滴状乾癬の患者を対象とし、ガイドモード付き線量測定機能を備えた家庭用ナローバンドUVB照射機で治療を受ける群(自宅治療群)または診療所でナローバンドUVB療法を受ける群(外来治療群)に1対1の割合で割り付けた。治療期間は12週間、治療終了後の観察期間は12週間とした。 主要有効性アウトカムは2つで、介入終了時のPGA(Physician Global Assessment)スコア0/1(皮膚症状の消失/ほぼ消失)と、観察期間終了時のDLQI(Dermatology Life Quality Index)スコア5以下(QOLへの影響なし/軽微)であった。 主な結果は以下のとおり。・783例が登録された(平均[SD]年齢48.0[15.5]歳、女性376例[48.0%]、自宅治療群393例、外来治療群390例)。・被験者のスキンフォトタイプ(SPT)は、I/IIが350例(44.7%)、III/IVが350例(44.7%)、V/VIが83例(10.6%)であった。また、全身治療を受けていたのは93例(11.9%)であった。ベースライン時の平均(SD)PGAスコアは2.7(0.8)、DLQIスコアは12.2(7.2)であった。・12週時に、PGAスコア0/1を達成した患者の割合は、自宅治療群32.8%(129例)、外来治療群25.6%(100例)、DLQIスコア5以下を達成した患者の割合は、それぞれ52.4%(206例)、33.6%(131例)であった。・自宅治療は外来治療に対し、全患者集団およびすべてのSPTにわたって、PGAとDLQIに関して非劣性を示した。・自宅治療群は外来治療群と比較して、治療アドヒアランスが良好であり(51.4%[202例]vs.15.9%[62例]、p<0.001)、患者の間接費用の負担も少なかったが、持続性紅斑エピソードは多かった(5.9%[治療7,957回中466回]vs.1.2%[3,934回中46回]、p<0.001)。・いずれの群でも有害事象による治療中止はなく、忍容性は良好であった。

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非虚血性拡張型心筋症、後期ガドリニウム増強が死亡と関連/JAMA

 非虚血性拡張型心筋症(NIDCM)患者では、心臓磁気共鳴(CMR)画像におけるガドリニウム遅延造影(LGE)が全死因死亡、心血管死、不整脈イベント、心不全イベント、主要有害心イベント(MACE)の発生と有意な関連を示すが、左室駆出率(LVEF)は全死因死亡や不整脈イベントとは有意な関連がないことが、スイス・バーゼル大学病院のChristian Eichhorn氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年9月19日号で報告された。CMR画像と有害なアウトカムの関連をメタ解析で評価 研究グループは、NIDCM患者におけるCMR画像由来の測定値と臨床アウトカムとの関連の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った。 医学関連データベースを用いて、2005年1月~2023年4月に発表された論文を系統的に検索した。対象は、NIDCMにおけるCMR画像由来の測定値と有害な臨床アウトカムとの関連を報告した前向きおよび後ろ向きの非無作為化診断研究とした。 主要アウトカムは、全死因死亡、心血管死、不整脈イベント、心不全イベント、MACEであった。LVEFは、心不全イベント、MACEのリスク低下と関連 103の研究に参加したNIDCM患者2万9,687例(年齢中央値55.0歳[四分位範囲:51.6~58.5]、男性[71.1%])を解析の対象とした。 LGEの発現とその程度(1%の上昇ごと)は双方とも、全死因死亡(発現:ハザード比[HR]:1.81[95%信頼区間[CI]:1.60~2.04、p<0.001]、程度:HR:1.07[95%CI:1.02~1.12、p=0.02])、心血管死(2.43[2.13~2.78、p<0.001]、1.15[1.07~1.24、p=0.01])、不整脈イベント(2.69[2.20~3.30、p<0.001]、1.07[1.03~1.12、p=0.004])、心不全イベント(1.98[1.73~2.27、p<0.001]、1.06[1.01~1.10、p=0.02])、MACE(2.09[1.79~2.44、p<0.001]、1.03[1.02~1.04、p<0.001])と高度な関連を示した。 一方、LVEFの1%上昇ごとのリスクは、全死因死亡(HR:0.99、95%CI:0.97~1.02、p=0.47)、心血管死(0.97、0.94~1.00、p=0.05)、不整脈イベント(0.99、0.97~1.01、p=0.34)については関連がなく、心不全イベント(0.97、0.95~0.98、p=0.002)とMACE(0.98、0.96~0.99、p<0.001)はリスクが有意に低下した。native T1緩和時間、ECV、GLSはさらなる検討が必要 native T1緩和時間の10msの上昇ごとに、不整脈イベント(HR:1.07、95%CI:1.01~1.14、p=0.04)とMACE(1.06、1.01~1.11、p=0.03)のリスクが有意に増加した。また、global longitudinal strain(GLS)の1%の低下ごとのリスクは、心不全イベント(1.06、0.95~1.18、p=0.15)とMACE(1.03、0.94~1.14、p=0.43)については関連がなかった。 データが限られていたため、native T1緩和時間、GLS、心筋細胞外容積分画(ECV)については、死亡アウトカムに関する確定的な解析はできなかった。 著者は、「native T1緩和時間、ECV、GLSを用いたリスク層別化については、さらなる検討を要する」「小規模な試験の影響により、要約推定値に過大評価が生じた可能性がある」としたうえで、「LVEFは不整脈および死亡のエンドポイントと関連しておらず、NIDCM患者の予防的植込み型除細動器(ICD)装着のリスク層別化におけるLVEFの中心的な役割に疑問が生じる」とまとめている。

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母乳育児は乳児の喘息リスクを低下させる

 生後1年間を母乳で育てると、乳児の体内に健康に有益なさまざまな微生物が定着し、喘息リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究によると、生後3カ月を超えて母乳育児を続けることにより、乳児の腸内微生物叢の段階的な成熟が促されることが示唆されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のLiat Shenhav氏らによるこの研究結果は、「Cell」に9月19日掲載された。 母乳には、健康に寄与する腸内微生物の増殖を促進するさまざまな栄養素が含まれている。乳児期における母乳育児と微生物の定着は、乳児の発達にとって重要な時期に行われ、どちらも呼吸器疾患のリスクに影響を与えると考えられている。しかし、母乳育児の保護効果や微生物の定着を調節するメカニズムについては、まだ十分に理解されていない。 今回の研究では、CHILDコホート研究に参加した2,227人の乳児を対象に、生後3カ月時と1歳時の鼻腔および腸内の微生物叢、母乳育児の特徴(完全母乳/混合育児/粉ミルク)、および母乳成分の調査を行い、母乳育児が腸内微生物の定着に与える影響、さらにその定着の仕方が呼吸器疾患リスクに与える影響を検討した。 その結果、生後3カ月を超えて母乳育児を行うと、乳児の腸内および鼻腔の微生物叢が徐々に成熟することが示された。逆に、生後3カ月未満で母乳育児をやめると、微生物叢の発達ペースが乱れ、就学前の喘息リスクが上昇することが明らかになった。例えば、生後3カ月未満で母乳育児をやめた乳児の腸内には、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)と呼ばれる細菌種が非常に早期の段階から認められたという。R. gnavusは、喘息などの免疫系の問題に関連するアミノ酸であるトリプトファンの生成と分解に関与していることが知られている。 研究グループはさらに、微生物の動態と母乳の成分に関するデータを用いて、喘息リスクを予測する機械学習モデルを構築し、さらに因果関係を特定するための統計モデルを用いて、母乳育児が乳児の微生物叢の形成を通じて喘息リスクを低下させることを確認した。 研究グループによると、母乳には、ヒトミルクオリゴ糖(母乳に含まれるオリゴ糖の総称)と呼ばれる独自の成分が含まれている。ヒトミルクオリゴ糖は、特定の微生物の助けを借りなければ乳児の体では消化できないため、これらの糖を分解できる微生物は、腸内での生存競争において優位性を得ることになる。一方、生後3カ月未満で断乳して粉ミルクで育てた場合には、粉ミルクの成分を消化するのに役立つ別の微生物群が増加する。これらの微生物の多くは、最終的には全ての乳児の腸内や鼻腔に定着するようになるものの、早期に定着した場合には喘息リスクが増加するのだという。 Shenhav氏は、「ペースメーカーが心臓のリズムを調整するのと同じように、母乳育児は乳児の腸内と鼻腔に微生物が定着するペースと順序を、秩序正しく適切なタイミングで起こるように調節している」と説明する。同氏はさらに、「健康な微生物叢の発達には、適切な微生物が存在するだけでは不十分だ。適切なタイミングと順序で微生物が定着することも必要なのだ」と付け加えている。 Shenhav氏は、「本研究結果は、母乳育児が乳児の微生物叢に及ぼす重大な影響と、呼吸器の健康をサポートする上での母乳育児の重要な役割を浮き彫りにしている。われわれは、この研究で実証されたように、母乳の保護効果の背後にあるメカニズムを解明し、データに基づき母乳育児と断乳に関する国のガイドラインを策定することを目指している」と述べている。同氏はまた、「さらに研究を重ねることで、本研究結果は、母乳育児の期間が3カ月未満だった乳児の喘息を予防する戦略の開発にも貢献する可能性がある」との見方も示している。

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ESMO2024レポート 乳がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日まで5日間にわたり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)がハイブリッド形式で開催された。COVID-19の流行以降、多くの国際学会がハイブリッド形式を維持しており、日本にいながら最新情報を得られるようになったのは非常に喜ばしい。その一方で、参加費は年々上がる一方で、今回はバーチャル参加のみの会員価格で1,160ユーロ(なんと日本円では18万円超え)。日本から参加された多くの先生方がいらっしゃったが、渡航費含めると相当の金額がかかったと思われる…。それはさておき、今年のESMOは「ガイドラインが書き換わる発表です」と前置きされる発表など、臨床に大きなインパクトを与えるものが多かった。日本からもオーラル、そしてAnnals of Oncology(ESMO/JSMOの機関誌)に同時掲載の演題があるなど、非常に充実していた。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。KEYNOTE-522試験本試験は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を対象とした術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を見た二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。カルボプラチン+パクリタキセル4コースのち、ACまたはEC 4コースが行われ、ペムブロリズマブもしくはプラセボが併用された。病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存(EFS)でペムブロリズマブ群が有意に優れ、すでに標準治療となっている。今回は全生存(OS)の結果が発表された。アップデートされたEFSは、両群ともに中央値には到達せず、ハザード比(HR):0.75、95%信頼区間(CI):0.51~0.83、5年目のEFSがペムブロリズマブ群で81.2%、プラセボ群で72.2%であり、これまでの結果と変わりなかった。OSも中央値には到達せず、HR:0.66(95%CI:0.50~0.87、p=0.00150)、5年OSが86.6% vs.81.7%と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった(有意水準α=0.00503)。また、pCRの有無によるOSもこれまでに発表されたEFSと同様であり、non-pCRであってもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。この結果から、StageII以上のTNBCに対してはペムブロリズマブを併用した術前化学療法を行うことが強固たるものとなった。 DESTINY-Breast12試験本試験は脳転移を有する/有さないHER2陽性転移乳がん患者に対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の有効性を確認した第IIIb/IV相試験である。脳転移を有するアームと脳転移を有さないアームが独立して収集され、主に脳転移を有する症例におけるT-DXdの有効性の結果が発表された。脳転移アームには263例の患者が登録され、うち157例が安定した脳転移、106例が活動性の脳転移を有した。活動性の脳転移のうち治療歴のない患者が39例、治療歴があり増悪した患者が67例であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、その他の評価項目として脳転移のPFS(CNS PFS)などが含まれた。脳転移を有する症例のPFS中央値は17.3ヵ月(95%CI:13.7~22.1)、12ヵ月PFSは61.6%と非常に良好な成績であり、これまでの臨床試験と遜色なかった。活動性の脳転移を有するサブグループでも同等の成績であったが、治療歴のないグループでは12ヵ月PFSが47.0%とやや劣る可能性が示唆された。12ヵ月時点のCNS PFSは58.9%(95%CI:51.9~65.3)とこちらも良好な結果であった。安定した脳転移/活動性の脳転移の間で差は見られなかった。測定可能病変を有する症例における奏効率は64.1%(95%CI:57.5~70.8)、測定可能な脳転移を有する症例における奏効率は71.7%(95%CI:64.2~79.3)であった。OSは脳転移のある症例とない症例で差を認めなかった。この結果からT-DXdの脳転移に対する有効性は確立したものと言ってよいであろう。これまで(とくに活動性の)脳転移に対する治療は手術/放射線の局所治療が基本であったが、今後はT-DXdによる全身薬物療法が積極的な選択肢になりうる。 CAPItello-290試験カピバセルチブは、すでにPI3K-AKT経路の遺伝子変化を有するホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)転移乳がんに対して、フルベストラントとの併用において有効性が示され、実臨床下で使用されている。本試験は転移TNBCを対象として、1次治療としてパクリタキセルにカピバセルチブを併用することの有効性を検証した二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。818例の患者が登録され、主要評価項目は全体集団におけるOSならびにPIK3CA/AKT1/PTEN変異のある集団におけるOSであった。結果はそれぞれ17.7ヵ月(カピバセルチブ群)vs. 18.0ヵ月(プラセボ群)(HR:0.92、95%CI:0.78~1.08、p=0.3239)、20.4ヵ月vs. 20.4ヵ月(HR:1.05、95%CI:0.77~1.43、p=0.7602)であった。PFSはそれぞれ5.6ヵ月vs. 5.1ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.61~0.84)、7.5ヵ月vs. 5.6ヵ月(HR:0.70、95%CI:0.52~0.95)と、カピバセルチブ群で良好な傾向を認めた。奏効率もカピバセルチブ群で10%程度良好であった。しかしながら、主要評価項目を達成できなかったことで、IPATunity130試験(ipatasertibのTNBC1次治療における上乗せ効果を見た試験で、PFSを達成できなかった)と同様の結果となり、TNBCにおけるAKT阻害薬の開発は困難であることが再確認された。ICARUS-BREAST01試験本試験は抗HER3抗体であるpatritumabにderuxtecanを結合した抗体医薬複合体(ADC)であるpatritumab deruxtecan(HER3-ADC)の有効性をHR+/HER2-転移乳がんを対象に検討した第II相試験である。本試験はCDK4/6阻害薬、1ラインの化学療法歴があり、T-DXdによる治療歴のないHR+/HER2-転移乳がんを対象として行われた単アームの試験であり、主治医判定の奏効率が主要評価項目とされた。99例の患者が登録され、HER2ステータスは約40%で0であった。HER3の発現が測定され、約50%の症例で75%以上の染色が認められた。主要評価項目の奏効率は53.5%(95%CI:43.2~63.6)であり、内訳はCR:2%(0.2~7.1)、PR:51.5%(41.3~61.7)、SD:37.4%(27.8~47.7)、PD:7.1%(2.9~14.0)であった。SDを含めた臨床的有用率は62.6%(52.3~72.1)と、高い有効性を認めた。有害事象は倦怠感、悪心、下痢、好中球減少が10%以上でG3となり、それなりの毒性を認めた。探索的な項目でHER3の発現との相関が検討されたが、HER3の発現とHER3-DXdの有効性の間に相関は認められなかった。肺がん、乳がんでの開発が進められており、目の離せない薬剤の1つである。ERICA試験(WJOG14320B)最後に昭和大学先端がん治療研究所の酒井 瞳先生が発表した、T-DXdの悪心に対するオランザピンの有効性を証明した二重盲検化プラセボ対象第II相試験であるERICA試験を紹介する。T-DXdは悪心、嘔吐のコントロールに難渋することのある薬剤である(個人差が非常に大きいとは思うが…)。本試験では、5-HT3拮抗薬、デキサメタゾンをday1に投与し、オランザピン5mgまたはプラセボをday1から6まで投与するデザインとして、166例の患者が登録された。主要評価項目は遅発期(投与後24時間から120時間まで)におけるCR率(悪心・嘔吐ならびに制吐薬のレスキュー使用がない)とされた。両群で80%の症例が5-HT3拮抗薬としてパロノセトロンが使用され、残りはグラニセトロンが使用された。遅発期CR率はオランザピン70.0%、プラセボ56.1%で、その差は13.9%(95%CI:6.9~20.7、p=0.047)と、統計学的有意にオランザピン群で良好であった。有害事象として眠気、高血糖がオランザピン群で多かったが、G3以上は認めずコントロール可能と考えられる。制吐薬としてのオランザピンの使用はT-DXdの制吐療法における標準治療になったと言えるだろう。

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英語で「まだ安心できない」は?【1分★医療英語】第152回

第152回 英語で「まだ安心できない」は?《例文1》The jury is still out on whether the treatment is fully effective.(その治療が完全に効果的かどうかは、まだ結論が出ていません)《例文2》Don’t count your chickens before they hatch - we can’t assume success just yet.(まだ結果が出ていないので、確定する前に安心してはいけません)《解説》日本語で「まだ安心できない」という表現は、進行中の困難や不安を示すときに使います。英語にも同じようなニュアンスを伝える表現がいくつかあります。たとえば、冒頭の“We are not out of the woods yet.”という表現は、直訳すれば「まだ森を抜けていない」という意味ですが、「まだ困難を完全に乗り越えていない」というニュアンスで使われています。また、《例文1》の“The jury is still out.”という表現もあり、これは「まだ結論が出ていない」という意味で、状況によっては「まだ安心できない」という意味でも使われます。《例文2》も類似表現です。冒頭の医師の会話にある“keep our (your) guards up.”は「心のガードを下げない」という意味で、同じ文脈で併用されることが多い表現です。“catch someone off guard”(不意を突かれる)という表現も一緒に覚えておきましょう(第140回 参照)。講師紹介

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第236回 GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしい

GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしいマウスはよく走ります。回転車を与えると活動期である夜に10~12kmも毎日走ります1)。しかし糖尿病や肥満症の治療薬・オゼンピックやウゴービの成分であるセマグルチドをマウスに与えるとどうやら走る意欲が減るようで、プラセボ群の半分ほどしか走らなくなりました2)。セマグルチドのようなGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は今や信仰にも似たよすがとなっており、医療情報を提供するKFFが今年5月に結果を発表した調査では、米国の成人の実におよそ8人に1人(12%)がGLP-1薬を使ったことがあると回答しました3)。また、およそ17人に1人(6%)は使用中でした。セマグルチドはインスリン生成を促し、胃が空になるのを遅らせ、満腹感がより長続きするようにするGLP-1に似た働きを担います。過去20年ものあいだ調べられてきたGLP-1の代謝調節の仕組みはかなり詳しく判明しています。一方、最近になってGLP-1の代謝調節領域を超えたより広範な働きや脳への作用が明らかになりつつあります。そのような秘めたGLP-1の働きのいくつかが今月初めの米国・シカゴでの神経科学会(Society for Neuroscience)年次総会(Neuroscience 2024)で発表されました。セマグルチドがマウスの走る意欲をどうやら減退させることを示したイエール大学の上述の研究成果はその1つです。GLP-1の作用は食べ物、アルコール、コカイン、ニコチンと関連する快楽のほどを変えます。ネズミにGLP-1やその模倣薬を与えるとそれらの摂取意欲が下がることが示されています。セマグルチドを使う人の食べる楽しみが使い始める前ほどではなくなるのは、同剤が快楽や渇望に携わる脳領域の活性を抑えることに起因するようです。また、その働きのおかげでセマグルチドが薬物依存の治療の助けになりうることも示唆されています。イエール大学のRalph DiLeone氏らは運動などの気持ちよくなる行動にもセマグルチドの影響が及ぶかもしれないと考えました4)。そこで、根っからの運動好きで、それがどうやら楽しいらしいマウスを使ってセマグルチドの運動意欲への影響が調べられました。DiLeone氏らは14匹のマウスの半数7匹にセマグルチド、もう半数の7匹にはプラセボを1週間投与しました。それらマウスが回転車で毎日どれだけ走るかを調べたところ、セマグルチド投与群の走る距離は同剤投与前に比べて4割ほど(37.9%)減っていました2)。一方、プラセボ投与群ではそのようなことはなく、どうやらセマグルチドはマウスの走る意欲を減衰させたようです。続いて実際に走る意欲が低下しているのかが別のマウスを使って調べられました。その検討ではマウスが走っている最中に回転車がときどき強制停止(ロック)されます。マウスは鼻でレバーを押すこと(押下)でそのロックを解除することができます。ロックはその回数が多くなるほどレバーをより多く押下しないと解除できないようになっており、最終的にマウスはロックの解除を諦めます。諦めた時点でのレバー押下回数は回転車を走る意欲がどれだけ高いかを反映する指標となります。5日間のセマグルチド投与期間中のマウスのレバー最大押下回数はプラセボ投与群に比べて平均25%少なく、肥満マウスを使った検討でも同様の結果となりました4)。すなわちセマグルチドは食べ物や薬物への渇望を減らすのと同様に運動意欲も減らすようです。ヒトでの同様の作用は示されていません。オゼンピックやウゴービのヒトのデータのほとんどが運動を含む他の手当てを伴ったものであることがその理由かもしれません。とはいえ、セマグルチドのようなGLP-1薬が負の行動のみならず有益な振る舞いも妨げてしまう恐れがあることを今回の結果は示唆しています。Neuroscience 2024では他にもセマグルチドやGLP-1の類いの興味深い中枢神経系(CNS)作用の報告がありました。韓国のGachon Universityの研究者らはGLP-1受容体に結合するアンタゴニストexendin 9-39の断片の1つexendin 20-29の痛み緩和作用を示したマウス実験結果を報告しています5)。その研究ではexendin 20-29が痛み信号の伝達に携わる受容体TRPV1に結合し、GLP-1受容体機能には手出しすることなく痛みを緩和することが示されました。また、フランスの研究受託会社Neurofitのチームはセマグルチドのアルツハイマー病治療効果を示すマウスやラットの実験結果を報告しています6)。その効果の検討は臨床試験でも大詰め段階に入っており、Novo Nordisk社は初期アルツハイマー病患者へのセマグルチドの第III相試験2つ・EVOKE7)とEVOKE Plus8)を2021年に開始しています。結果は来年判明する見込みです9)。参考1)The Unexplored Effects of Weight-Loss Drugs on the Brain / TheScientist2)Semaglutide administration reduces free running as well as motivation for wheel access as measured by progressive ratio in mice / Neuroscience 20243)KFF Health Tracking Poll May 2024: The Public’s Use and Views of GLP-1 Drugs / KFF4)Weight-loss drugs lower impulse to eat - and perhaps to exercise too / NewScientist5)Glp-1 and its derived peptides mediate pain relief through direct trpv1 inhibition without affecting thermoregulation / Neuroscience 2024 6)Semaglutide's cognitive rescue: insights from rat and mouse models of alzheimer's disease / Neuroscience 20247)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE)8)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE Plus) 9)Atri A, et al. Alzheimers Dement. 2022;18:e06415.

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大手術前のRAS阻害薬は中止すべき?/JAMA

 非心臓大手術を受ける患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の投与を手術の48時間前に中止する方法と比較して、手術当日まで投与を継続する方法は、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムの発生率が同程度で、術中の低血圧の発現を増加させ、低血圧持続時間も長いことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏らStop-or-Not Trial Groupが実施した「Stop-or-Not試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年9月24日号に掲載された。フランスの医師主導型無作為化試験 Stop-or-Not試験は、非心臓大手術前のRASIの継続投与が48時間前の投与中止と比較し、術後のアウトカムを改善するかの検証を目的とする医師主導の非盲検無作為化試験であり、2018年1月~2023年4月にフランスの40施設で参加者を登録した(フランス保健省の助成を受けた)。 年齢18歳以上、待機的非心臓大手術が予定され、術前の少なくとも3ヵ月間、RASIの長期投与を受けている患者を対象とした。大手術は、切開から皮膚閉鎖まで2時間以上を要し、術後の入院期間が3日以上と見込まれる手術と定義した。 被験者を、手術当日までRASIの使用を継続する群、または手術の48時間前にRASIの使用を中止する(手術の3日前が最終投与日)群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、術後28日以内の全死因死亡と主要術後合併症の複合とした。主要術後合併症には、術後主要心血管イベント(急性心筋梗塞、血栓症、脳卒中、急性腎障害など)、敗血症または敗血症性ショック、呼吸器合併症、予期せぬ集中治療室(ICU)入室または再入室、急性腎障害、高カリウム血症、術後28日以内の外科的再介入を要する病態が含まれた。主要アウトカムは、RASI中止群22% vs.RASI継続群22% 2,222例を登録し、RASI継続群に1,107例、RASI中止群に1,115例を割り付けた。ベースラインの全体の平均年齢は67(SD 10)歳、65%が男性で、98%が高血圧の治療を受けており、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、6%が心不全であった。46%がACE阻害薬、54%がARBを使用していた。 術後28日の時点で、全死因死亡と主要術後合併症の複合の発生率は、RASI中止群が22%(245/1,115例)、RASI継続群も22%(247/1,107例)であった(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。 主な副次アウトカムである術中の低血圧エピソード(昇圧薬投与を要する病態)の発生率は、RASI中止群が41%(417例)、RASI継続群は54%(544例)と、継続群で高かった(リスク比:1.31、95%CI:1.19~1.44)。 また、術中低血圧(平均動脈圧<60mmHg)の持続時間中央値は、RASI中止群が6分(四分位範囲:4~12)、RASI継続群は9分(5~16)であり、継続群で長かった(平均群間差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。他のアウトカムにも差がない 主要アウトカムを構成する個々の項目や、術中低血圧以外の副次アウトカム(術後臓器不全、術後28日間の入院期間およびICU入室期間など)にも両群間に差を認めなかった。 著者は、「RASI継続群で術中低血圧の発生率が高かったことが、全死因死亡や主要術後合併症のリスクの増加に結び付かなかった理由は、術中に高血圧が迅速に改善したことと、低血圧の持続時間が全体として短かったためと考えられる」とし、「これらの結果は、今後のガイドラインに影響を与える可能性がある。術後のアウトカムに差がないことから、RASI継続と中止のどちらも容認でき、安全である」と述べている。

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長期的な運動は脂肪の健康的な蓄積に役立つ

 長い間、定期的に運動しているのに、いまだにぽっこりと出たお腹を見て苛立つことはないだろうか。そんな人にとって心強い研究結果が報告された。たとえ腹筋が割れた状態にならなくても、運動によって脂肪の蓄積としてはより健康的な皮下脂肪の蓄積が促進され、長期的には健康に良い影響を及ぼすことが明らかになった。研究論文の上席著者である、米ミシガン大学運動学部運動科学分野のJeffrey Horowitz氏は、「数カ月から数年にわたる定期的な運動は、カロリー消費の手段となるだけでなく、加齢に伴い体重が増加した場合でも、脂肪をより健康的に蓄えることができるように脂肪組織を変化させるようだ」と述べている。この研究の詳細は、「Nature Metabolism」に9月10日掲載された。 この研究では、肥満、または過体重の男女8人ずつで構成された2つのグループが対象とされた。1つのグループは、少なくとも2年間、週に4回以上運動していることを(運動群)、もう1つのグループは定期的な運動をした経験のないことを報告していた(座位群)。Horowitz氏らは、対象者から腹部皮下脂肪組織を採取し、構造や代謝機能を調べて比較した。なお、研究グループによると、腹部は、身体が脂肪を蓄える上で最も健康的な場所と考えられており、皮下脂肪は、臓器の周囲や内部に蓄積された内臓脂肪に比べて健康上の問題を引き起こす可能性が低いという。 その結果、運動群では座位群と比べて、構造的および生物学的な特徴があり、それが脂肪の蓄積能力を高めていることが明らかになった。具体的には、運動群では、毛細血管やミトコンドリアの数、代謝を助ける有益なタンパク質の量が多く、代謝を妨げる可能性のあるコラーゲンの一種(Col6a)の量が少なく、炎症に関与するマクロファージの数も少ないことが示された。 研究グループは、「この結果は、脂肪を最も健康的に蓄積できる場所が皮下脂肪組織であることを踏まえると、重要だ」と話す。なぜなら、運動により皮下での脂肪の蓄積能力が増すことで内臓脂肪を蓄積する必要性が低下し、それが健康リスクの低下につながるからだ。Horowitz氏はこの点について、「これは、たとえ体重が増加しても、余分な脂肪は臓器の周りや肝臓などの臓器自体に蓄積するのではなく、皮下のこの領域(皮下脂肪組織)に、より『健康的に』蓄えられることを意味する」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。 Horowitz氏はまた、「3カ月間のトレーニングが脂肪組織に与える影響を調べた以前の研究と比較すると、長期にわたって定期的に運動している人と運動をしていない人を対象にした今回の研究では、このような違いがより顕著であることが分かった」とも話している。 研究グループは今後の研究で、運動群と座位群から採取して培養した脂肪組織が、それぞれに異なる機能を持つかどうか、また、脂肪組織やそのサンプル提供者の健康に関連する他の違いがあるかどうかについても調べる予定だと話している。

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体内での金属の蓄積は心血管疾患の悪化をもたらす?

 カドミウムやウラン、コバルトなどの環境中に存在する金属が、人間の体内に蓄積して心血管疾患を悪化させる可能性のあることが、米コロンビア大学のKatlyn McGraw氏らの研究で示唆された。研究参加者から採取された尿検体に含まれるさまざまな金属の濃度上昇に伴い、心血管疾患の重要な要素である硬く石灰化した動脈の指標も上昇することが判明したという。研究結果は、「Journal of the American College of Cardiology」に9月18日掲載された。 McGraw氏は同大学のニュースリリースの中で、「本研究結果から、金属への曝露をアテローム性動脈硬化症と心血管疾患の重要なリスク因子として考慮することの重要性が明らかになった。これが、金属曝露をターゲットにした新たな予防戦略や治療戦略につながる可能性がある」と述べている。 アテローム性動脈硬化とは、動脈の内側に脂肪でできたプラークが蓄積して血管が徐々に硬くなる状態をいう。アテローム性動脈硬化から動脈に不健康なカルシウムの沈着物の蓄積につながることもある。 この研究でMcGraw氏らは、2000~2002年の研究登録時には心血管疾患がなかった米国の6,418人の中高年の大規模データベースを用いて、環境中の有毒な金属への曝露がアテローム性動脈硬化の誘因となっているのかを調べた。参加者から採取された尿検体を用いて、心血管疾患との関連がすでに指摘されている6種類の環境中の金属(カドミウム、コバルト、銅、タングステン、ウラン、亜鉛)の10年間の尿中濃度を測定し、それぞれの金属について、尿中濃度が最も低い群から最も高い群まで4群に分類した。カドミウムについては、一般的にタバコの煙を介しての曝露が多い。一方、他の5種類の金属は、農業用肥料やバッテリー、石油生産、溶接、鉱業、核エネルギー生成に関係している。 その結果、カドミウムの尿中濃度が最も高い群では最も低い群と比べて、冠動脈石灰化レベルが試験開始時点で51%、10年間の観察期間中では75%高いことが示された。同様に、金属の尿中濃度が最も低い群と比べた最も高い群での10年間の冠動脈石灰化レベルは、タングステンでは45%、ウランでは39%、コバルトでは47%高いことも示された。一方、銅と亜鉛に関しても、尿中濃度が最も高い群では、最も低い群と比べて冠動脈石灰化レベルが銅で33%高く、亜鉛で57%高かったが、試験開始時(それぞれ55%と85%の増加)と比べると、増加の幅は縮まっていた。 さらに、尿中の金属濃度が特に高い地域があることも判明した。例えば、ロサンゼルスに住む人では尿中のタングステンとウランの濃度が著しく高く、カドミウム、コバルト、銅の濃度もやや高いことが明らかになった。 McGraw氏は、「公害は心血管の健康にとって最大の環境リスクである。産業活動や農業活動を通じてこれらの金属が環境中に広く放出されていることを考慮すると、今回の研究は、曝露を抑制して心血管の健康を守るために、人々の意識を高め、規制措置を講じる必要性を示しているといえる」と述べている。

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腎臓結石の残存破片の排出には超音波が有効

 腎臓結石は外科的に除去しても半数の患者で小さな破片が腎臓に残ってしまう。こうした患者の約25%では、5年以内に、大きくなった破片を除去する再手術が必要になる。しかし、このような残存破片に対しては、超音波により結石を移動させて体内から排出できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。このような超音波を用いた処置を受けた患者での再発リスクは、受けなかった患者よりも70%低いことが示されたという。米ワシントン大学医学部の泌尿器科医であるJonathan Harper氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Urology」に8月14日掲載された。 この研究では、5mm以下の残存結石を持つ成人を、超音波の振動を利用して結石を移動させる治療(超音波推進〔ultrasonic propulsion〕)を受ける群(超音波推進群、40人)と対照群(42人)にランダムに割り付け、5年間での腎臓結石の再発率を比較した。腎臓結石の再発は、結石の成長、結石に関連した緊急診療または手術とした。超音波推進では、患者が覚醒している状態で、医師が超音波プローブを使って破片を尿管(腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管)に近付けた。研究グループによると、破片は尿管に近づくと自然に排出される可能性が高いのだという。 その結果、5年間での再発までの平均時間は、超音波推進群で1,530±92日、対照群で1,009±118日であり、前者の方が52%長いことが示された。また、再発したのは治療群では40人中8人、対照群では42人中21人で、超音波推進群での再発リスクは対照群に比べて70%低かった(ハザード比0.30、95%信頼区間0.13〜0.68)。 Harper氏は、「この研究の主なポイントは、結石の破片を体内から排出することで再発リスクが低下すること、そして、そのような破片の排出には、非侵襲的な携帯型超音波装置による治療が効果的であるということだ」と述べている。 Harper氏はワシントン大学のニュースリリースの中で、「超音波推進は、大きな可能性を秘めている。将来的には、歯のクリーニングと同じくらい、一般的な処置になる可能性がある。問題を引き起こす可能性のある小さな結石が体内にある場合には、クリニックを予約して30分程度の処置を受けるだけで済むからだ」と述べ、「これは腎臓結石の治療に革命をもたらす可能性がある」と期待を示している。

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第78回 4種類あるエラーバーについて【統計のそこが知りたい!】

第78回 4種類あるエラーバーについて医学論文や医薬品の添付文書の図に、薬剤の血漿中薬物濃度の平均の推移が時間軸に沿って示されているのをよく目にすると思います。図1のように、ある薬剤の血漿中薬物濃度は投与後に上昇し、徐々に低下していくことがよくわかります。ここで注目してほしいのは、平均の上下に示されているエラーバーです。これが誤差を表していることは分かりますが、その正確な意味は何でしょうか。図1は平均±標準偏差との注記がありますので、標準偏差を誤差として示していることがわかりますが、エラーバーは標準偏差だけではありません。図1 単回投与したときの血漿中濃度推移(平均値±標準偏差)■エラーバーの種類エラーバーは誤差の程度を表すためのもので、主に以下の4つが使い分けられます。±標準偏差(SD:standard deviation)±標準誤差(SE:standard error)95%信頼区間(CI:confidence interval)パーセンタイル(percentile)これらには、標準偏差、95%信頼区間、標準誤差の順にエラーバーの幅が狭くなるという性質があります。■標準偏差標準偏差はデータのばらつきを示す指標です。mean±SDは平均±標準偏差のことで、平均と標準偏差から集団の特徴を表したものです。データが正規分布に従うことがわかっている場合、mean±SDの範囲にデータの約68%が収まり、mean±2×SDの範囲に約95%、mean±3×SDの範囲にデータの約100%が収まります(図2)。図2 標準偏差のデータのばらつきを示すグラフ例エラーバーに標準偏差を適用するのは、標本データが、どのような特徴をもっているのかを記述したいときになります。■標準誤差標準誤差は、母集団から抽出されたサンプルの標本平均を求める場合、「標本平均の値が母平均に対してどの程度ばらついているか」を表すものです。次の計算式のように標本標準偏差÷サンプルサイズの平方根で算出され、サンプルサイズが大きくなるほど標準誤差は小さな値になります。エラーバーに標準誤差を適用するのは、母集団の推定量のバラツキ(=精度)を表したいケースです。■95%信頼区間95%信頼区間は、「平均±1.96×標準誤差」で算出されます。信頼度95%とは、標本調査を100回行ったら、標本平均が信頼区間の幅に収まることは95回、外れることは5回あるということです。信頼区間は信頼度95%で求めるのが通常ですが、信頼度99%で求めることもあります。信頼度95%の信頼区間を「95%CI」、信頼度99%の信頼区間を「99%CI」と言います。95%信頼区間が、臨床研究では最もよく用いられています。論文では、ハザード比やオッズ比、リスク比などの解析でよく目にするのではないでしょうか。図3は、ある抗がん剤併用群とプラセボ群を比較し、OS(Overall Survival:全生存期間)を表していますが、ハザード比の95%信頼区間が1.0を含んでいないので、併用群優位(有意差あり)と判断することができます。このように、臨床研究は1回しか行われていませんが、同様の研究を複数回実施したと仮定した場合、統計的に取り得る値を、95%信頼区間の幅をエラーバーで示しています。図3 OSの解析結果■パーセンタイル臨床検査値などの場合、中性脂肪や尿中アルブミンなどは、とびぬけて高い値(外れ値)をとる場合があります。このように外れ値があるデータは、正規分布の当てはまりが悪いので、平均±標準偏差ではなく、25パーセンタイル(第1四分位点)から75パーセンタイル(第3四分位点)までの範囲(四分位範囲)で示すことがあります。パーセンタイル値は、データを大きい方から順に並べて100個に区切り、小さい方からどの位置にあるかを示します。つまり、50パーセンタイルは、「小さいほうから50/100のところにあるデータ(中央値)」という位置を示す用語です。なお、「パーセンタイル」は百分率の「パーセント」とは異なります。パーセントは、率を表し、たとえば50%は「半数」という全体に占める割合を示します。データのばらつきを表すために、最大値、第3四分位点、中央値、第1四分位点、最小値を「箱」と「ひげ」で表した、箱ひげ図もよく用いられます(図4)。図4 データのばらつきを示す「箱ひげ図」エラーバーに四分位範囲を適用するのは、このように、データに外れ値がある場合には、外れ値の影響を受けにくいからです。以上のように、エラーバーには、±標準偏差、±標準誤差、95%信頼区間、パーセンタイルの4つが使い分けられているので、論文を読む際にはエラーバーが何で示されているかを確認することが大切になります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第1回 「標準偏差」と「標準誤差」の使い分けは第3回 エラーバーはいつも対称とは限らない第6回 パーセンタイルと四分位範囲

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掌蹠角化症〔PPK:palmoplantar keratoderma〕

1 疾患概要■ 概念・定義掌蹠角化症は、手掌と足底の高度な過角化を主な臨床症状とする疾患群である。主として遺伝的素因により生じるが、非遺伝性の病型もある。掌蹠角化症の中には、掌蹠角化症の皮膚症状に加えて、がんあるいは他臓器の異常を伴うまれな遺伝性疾患も存在し、このような疾患群は掌蹠角化症症候群と呼ばれる。これらの合併症が重篤になると生命予後が悪化する。臨床所見ならびに病理組織像の検討のみから病型を決定するのは困難な場合が多く、遺伝歴の詳細な聴取、最終的には遺伝子変異の同定が必要となる。■ 疫学長島型掌蹠角化症の頻度は、日本および中国ではそれぞれ1万人当たり1.2人ならびに3.1人と見積もられている。ボスニア型掌蹠角化症の頻度はスウェーデンの北部(ボスニア湾沿岸地域)で、一般人口当たり0.3~0.55%(1万人当たり30~55人)と報告されている。筆者らは、2015年に掌蹠角化症の患者数についての全国1次アンケート調査を行った。全国の500床以上の病院の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付して掌蹠角化症全国疫学調査を施行した。この調査では、過去5年間に期間を限定し、掌蹠角化症患者の家系の数、患者数を回答してもらうようにした。型が明らかな家系についてはそれぞれの型の家系の数、患者数の記載を依頼した。また、自由記載欄も設け、アンケート調査についての感想・要望などを記載も求めた。全国690施設の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付した。うち325施設より回答を得た。病型が明らかな家系は113家系、患者数は147例(人口100万人当たり1.2人)であった。約9割は大学病院にて診断されていた。人口100万人当たりの患者数でみると、青森県が最多で、100万人当たり30.6人であった。■ 病因掌蹠角化症を構成するそれぞれの疾患は、大部分が遺伝性疾患である。原因遺伝子に遺伝子変異が生じることにより個々の疾患が引き起こされる。現在、個々の疾患の遺伝子変異は(掌蹠角化症を構成する)大多数の疾患において同定されている。■ 症状手掌と足蹠の過角化が存在する。過角化の程度や罹患部位は、個々の病型により異なる。過角化の状態も病型によりさまざまである。過角化の臨床症状に加え、手掌と足蹠の潮紅を伴う病型(わが国では最も多い病型である長島型掌蹠角化症)もある。■ 分類日本皮膚科学会作成の「掌蹠角化症診療の手引き」では、(1)びまん性角化を示す掌蹠角化症、(2)限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症、(3)掌蹠角化症症候群の3群に分類している。びまん性角化を示す掌蹠角化症には8疾患、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症には9疾患、掌蹠角化症症候群には22疾患が含まれている。■ 予後びまん性角化を示す掌蹠角化症、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症は、生命予後は良い。掌蹠角化症症候群のうち、がん、拡張型心筋症を合併するものがあり、これらの疾患を合併すると予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)図の病型診断アルゴリズムにしたがって、おおよその病型の見当を付ける。これは外来において視診で行える。Transgrediensとは、掌蹠を超えて、指趾背側や手首、足首、アキレス腱部にまで皮疹が拡大していることである。日本皮膚科学会の掌蹠角化症診療の手引きを参考にすると、調べるべき原因遺伝子が判明する。上記の臨床的診断に引き続いて、患者より採血を行い、白血球よりDNAを抽出、病型の原因遺伝子の塩基配列を決定する。病因遺伝子変異を同定することが出来れば、病型が診断できる。可能であれば、家族の遺伝子変異同定も診療上非常に有益である。。家系図を描くことができれば、遺伝形式が判明し、確定診断に役立つとともに、患者ならびに家族に対して遺伝カウンセリングを行うことができる。図 (遺伝性・非症候性)掌蹠角化症の病型診断アルゴリズム画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)掌蹠角化症は症例数が少なく、大規模な治験が不可能である。そのためエビデンスレベルの高い治療法は確立されていない。現在、有効とされている治療法は、症例報告に基づくものである。1)外用療法サリチル酸ワセリンや尿素軟膏などの角質溶解剤の塗布やカルシポトリオール含有軟膏の塗布を行う。2)皮膚切削術コーンカッター、長柄カミソリ、生検用パンチ、眼科剪刀などを用いて肥厚した角質を除去する。3)内服療法レチノイド内服を行う。ただし、この薬剤には催奇形性があるので、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与してはならない。また、エトレチナートに対し、過敏症の既往歴のある患者、肝障害のある患者、腎障害のある患者、ビタミンA製剤投与中の患者、ビタミンA過剰症の患者には禁忌である。エトレチナートを処方するときには、処方のたびに所定の様式の文書での同意を得る。4)合併症に対する治療絞扼輪や皮膚がんなどの合併症に対しては早期発見に留意し、外科的に対処する。難聴、食道がん、歯周病、心筋症、真菌症、細菌感染症などの合併症に対しては専門医に治療を依頼すると同時に適切な抗真菌薬や抗生物質の投与などを行う。5)患者自身によるケア掌蹠に亀裂ができて疼痛をともなう場合、長柄カミソリなどを用いて、角質を削り、就寝時にワセリンを使用して密封療法(ODT)を行う。掌蹠の亀裂がなくなり、疼痛がやわらぐ。4 今後の展望核酸医薬低分子干渉RNA(siRNA)を用いる治療法も報告されている。KRT6A遺伝子に対するsiRNAを用いて、培養ヒト表皮角化細胞とマウスの皮膚におけるケラチン6aタンパク質の発現を抑制したという報告もある。この治療法は、先天性爪甲厚硬症患者にも使用されており、将来実行可能な方法であるがいまだ明らかになっていない部分もある。リードスルー薬を治療に用いたという報告もある。5例の長島型掌蹠角化症の患者に対してリードスルー薬としてゲンタマイシンを使用して有効であったという報告もあるが、報告例が少なく現時点ではその有効性についての結論は出ていない。ただ、ゲンタマイシンは安全かつ簡便に使用が可能で、本症以外の疾患でも効果が期待されているので、将来有望な治療薬であろう。5 主たる診療科皮膚科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 掌蹠角化症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)掌蹠角化症診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2024年10月14日

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