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日本人アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾール治療

 香川大学の中村 祐氏らは、日本人アルツハイマー病患者におけるアジテーション(攻撃的行動および発言、非攻撃的行動の亢進、焦燥を伴う言動等)の治療に対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価した。Alzheimer's & Dementia誌オンライン版2024年10月6日号の報告。 本研究は、第II/III相多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験として実施された。アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する患者は、ブレクスピプラゾール1mg/日群または2mg/日群、プラセボ群に3:4:4でランダムに割り付けられ、10週間投与を行った。主要エンドポイントは、ベースラインから10週目までのCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)合計スコアの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・CMAI合計スコアの変化は、ブレクスピプラゾール1mg/日群および2mg/日群において、プラセボ群と比較し、統計学的に有意な改善が認められた。【ブレクスピプラゾール2mg/日群】最小二乗平均差:−7.2、95%信頼区間[CI]:−10.0〜−4.3、p<0.0001【ブレクスピプラゾール1mg/日群】最小二乗平均差:−3.7、95%CI:−6.8〜−0.7、p=0.0175・治療関連有害事象の発生率は、ブレクスピプラゾール1mg/日群で76.8%、2mg/日群で84.6%、プラセボ群で73.8%であり、ブレクスピプラゾールの忍容性は、おおむね良好であった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する日本人患者に対するブレクスピプラゾール1mg/日および2mg/日による10日間治療は、有効性および忍容性が良好であることが確認された」と結論付けている。

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再発・転移子宮頸がん、化学療法+cadonilimabがPFS・OS改善/Lancet

 持続性、再発または転移を有する子宮頸がんの1次治療において、標準治療の化学療法単独と比較して、化学療法にPD-1とCTLA-4のシグナル伝達経路を同時に遮断する二重特異性抗体cadonilimabを追加すると、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に改善し、安全性プロファイルは管理可能であることが、中国・復旦大学上海がんセンターのXiaohua Wu氏らが実施した「COMPASSION-16試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年10月26日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 COMPASSION-16試験は、標準治療の化学療法へのcadonilimab追加の有用性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2021年9月~2022年6月に中国の59施設で患者を登録した(Akeso Biopharmaの助成を受けた)。 年齢18~75歳、持続性、再発または転移(StageIVB)を有する子宮頸がんと診断され、根治的手術または同時化学放射線療法の適応がなく、病変に対する全身療法による前治療歴がなく、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が0または1の患者を対象とした。 被験者を、cadonilimab(10mg/kg)またはプラセボを静脈内投与する群に1対1の割合で無作為化に割り付けた。全例に、ベバシズマブ(15mg/kg)の投与または非投与下に、化学療法(シスプラチン[50mg/m2]またはカルボプラチン[AUC 4~5]+パクリタキセル[175mg/m2])を3週ごとに6サイクル施行し、引き続き3週ごとに最長2年間の維持療法を行った。 主要評価項目は2つで、最大の解析対象集団(FAS)におけるPFS(盲検下独立中央判定による)とOSとした。2年全生存率は、cadonilimab群62.2% vs.プラセボ群48.4% 445例の女性を登録し、222例をcadonilimab群に、223例をプラセボ群に割り付けた。ベースラインの全体の年齢中央値は56歳(四分位範囲:50~62)で、287例(64%)はECOG PSが1、370例(83%)は扁平上皮がん、215例(48%)は同時化学放射線療法による前治療歴あり、323例(73%)は転移性病変を有していた。ベバシズマブは、265例(60%)が使用していた。 追跡期間中央値17.9ヵ月の時点におけるPFS中央値は、プラセボ群が8.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.7~9.6)であったのに対し、cadonilimab群は12.7ヵ月(11.6~16.1)と有意に延長した(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.62、95%CI:0.49~0.80、p<0.0001)。 追跡期間中央値25.6ヵ月時のOS中央値は、プラセボ群の22.8ヵ月(95%CI:17.6~29.0)に比べ、cadonilimab群は未到達(27.0~評価不能)であり有意に優れた(死亡のHR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.0011)。24ヵ月全生存率は、cadonilimab群62.2%(95%CI:55.2~68.5)、プラセボ群48.4%(41.1~55.4)だった。10%でGrade3以上の免疫関連有害事象 盲検下独立中央判定による客観的奏効(完全奏効+部分奏効)の割合はcadonilimab群で高く(83% vs.69%)、完全奏効の割合もcadonilimab群で高率(36% vs.23%)だったが、病勢コントロール率は両群で同程度であった(94% vs.92%)。また、奏効期間中央値はcadonilimab群で長く(13.2ヵ月 vs.8.2ヵ月)、奏効までの期間中央値は両群で同じ(1.5ヵ月 vs.1.5ヵ月)だった。 Grade3以上の試験治療下での有害事象は、cadonilimab群で85%、プラセボ群で80%に発現し、両群とも好中球数の減少(cadonilimab群41%、プラセボ群46%)、白血球数の減少(28%、36%)、貧血(17%、26%)の頻度が高かった。試験薬の投与中止に至った有害事象は、cadonilimab群28%、プラセボ群11%に、死亡に至った有害事象はそれぞれ5%(12例)および3%(7例)に発現し、このうち治療関連死は4%(9例)および3%(6例)だった。 Grade3以上の治療関連有害事象は、cadonilimab群で82%、プラセボ群で79%に、Grade3以上の免疫関連有害事象はそれぞれ10%(22例)および<1%(2例)に発現した。 著者は、「これらの知見は、プラチナ製剤ベースの化学療法±ベバシズマブにcadonilimabを追加することで、PD-L1の陽性/陰性を問わず、またベバシズマブの投与が可能か否かにかかわらず、生存ベネフィットがもたらされる可能性を示唆する」「これまでの臨床試験は、参加者のほとんどが白人であるか、高所得地域で実施されたものであったが、本試験の結果はアジア人および中所得国におけるエビデンスを付加するものである」としている。

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長いスクリーンタイムは子どものメンタルヘルス症状と関連

 9歳と10歳の子ども約1万人を2年間追跡した研究で、テレビやその他のスクリーンの視聴時間(以下、スクリーンタイム)の長さは抑うつなどのメンタルヘルス症状のリスク上昇と関連することが明らかにされた。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のJason Nagata氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Public Health」に10月7日掲載された。Nagata氏は、「スクリーンタイムにより、身体活動、睡眠、対面での交流、抑うつや不安を軽減するその他の行動に費やされる時間が失われている可能性がある」と述べている。 Nagata氏らは、ティーンの間でメンタルヘルスに問題を抱える者が増えていると話す。同氏らによると、2000年代初期に比べると現代のティーンはうつ病になる可能性が50%高く、2000年から2018年にかけて自殺リスクは30%も上昇したという。一方、スクリーンタイムも増加傾向にあり、トゥイーン(8~12歳の子ども)の1日当たりのスクリーンタイムは平均5.5時間であるが、ティーンになるとそれが8.5時間に増えるという。 研究グループは、メンタルヘルスに問題を抱える若年者の増加とスクリーンタイムの増加が関係しているのではないかと考えた。それを調べるために、米国の大規模研究であるABCD(Adolescent Brain Cognitive Development)研究に2016年から2018年の間に参加した9歳と10歳の子ども9,538人(平均年齢9.9±0.6歳、男児51.2%、白人52.4%)の2年間のデータを用いて、ベースライン時のスクリーンタイムと、親が子どもの行動チェックリストを用いて評価した過去6カ月間のメンタルヘルス症状との関連を検討した。 その結果、長いスクリーンタイムはあらゆるメンタルヘルス症状と関連していることが明らかになった。特に関連が強かったのは抑うつで、そのほか、行動障害、身体的症状、注意欠如・多動症(ADHD)との関連も強かった。抑うつ症状とスクリーンタイムとの関連を、スクリーンタイムのタイプ別に検討すると、ビデオ通話、テキストメッセージのやりとり、YouTubeなどの動画視聴、ビデオゲームとの間に有意な関連が認められた。スクリーンタイムと抑うつ症状、ADHD、反抗挑発症(反抗挑戦性障害)の症状との関連は、黒人よりも白人において、また、スクリーンタイムと抑うつ症状との関連は、アジア系よりも白人において、より強かった。 Nagata氏は、「人種/民族的マイノリティに属する子どもにとって、スクリーンやソーシャルメディアは、同じような背景や経験を持つ仲間とつながるための重要なプラットフォームとして、白人の子どもとは異なる役割を果たしている可能性がある」と話す。そして、「テクノロジーは、対面での人間関係に取って代わるのではなく、子どもが身近な環境を超えてサポートネットワークを拡大するのに役立つかもしれない」との考えを示している。 一方でNagata氏は、「もちろん、親が子どもをスクリーンから遠ざけ、より健康的な活動に向かわせる方法もある」とし、「米国小児科学会(AAP)は、それぞれの子どものニーズを考慮した家族メディア利用計画を作成することを推奨している」と述べている。

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局所進行子宮頸がん、導入化学療法+CRTがPFS・OS改善/Lancet

 局所進行子宮頸がん患者において、短期間導入化学療法後に化学放射線療法(CRT)を行うことで、CRTのみの場合と比較して無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に延長したことが、ブラジル、インド、イタリア、メキシコおよび英国の32施設で実施された無作為化第III相試験「INTERLACE試験」で示された。英国・University College Hospital NHS TrustのMary McCormack氏らINTERLACE investigatorsが報告した。局所進行子宮頸がんの標準治療はCRTであるが、再発する患者が依然として多く、転移がんにより死に至る。結果を踏まえて著者は、「この短期間導入化学療法レジメンと7日以内のCRTを現在の標準治療と考えるべきである」とまとめている。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。6週間のカルボプラチン+パクリタキセル導入化学療法後のCRT、PFSとOSを評価 研究グループは、18歳以上で新たに診断された局所進行子宮頸がん(FIGO進行期分類[2008年]のリンパ節転移を伴うIB1期、またはIB2期、IIA期、IIB期、IIIB期、IVA期)患者を、導入化学療法+CRT群(導入化学療法併用群)またはCRT単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。層別因子は、施設、病期、リンパ節転移の有無、3次元原体照射(3DCRT)vs.強度変調放射線治療(IMRT)、年齢、腫瘍径、組織型(扁平上皮がんvs.非扁平上皮がん)であった。 両群とも、CRTは、シスプラチン40mg/m2を週1回5週間静脈内投与と、外部放射線療法(EBRT)(45.0~50.4Gyを20~28分割)および小線源療法で総線量2Gy相当の78~86Gyを達成することとした。導入化学療法併用群では、カルボプラチンAUC2とパクリタキセル80mg/m2を週1回6週間静脈内投与し、7週目からCRTを行った。 主要評価項目は、ITT集団における治験担当医評価によるPFSならびにOSとし、全体の第1種の過誤確率を5%に制御するため階層的検定(固定順序法:PFS→OS)を行った。PFS、OSともに導入化学療法+CRTで有意に延長 2012年11月8日~2022年11月17日に、適格基準を満たした500例が無作為化された(導入化学療法併用群250例、CRT単独群250例)。患者背景は年齢中央値46歳、354例(71%)がIIB期、56例(11%)がIIIB期で、骨盤リンパ節転移ありが215例(43%)であった。 導入化学療法併用群では、230例(92%)が5サイクルの導入化学療法を完了した。導入化学療法終了からCRT開始までの期間の中央値は7日であった。CRTでシスプラチンの5サイクル投与を完了した患者は、導入化学療法併用群では212例(85%)、CRT単独群で224例(90%)であった。EBRTが実施された患者で小線源療法も受けた患者は、導入化学療法併用群で242例中238例、CRT単独群で231例中224例、計462例(92%)であり、放射線治療期間の中央値は両群とも45日であった。 追跡期間中央値67ヵ月時点で、5年PFS率は導入化学療法併用群で72%、CRT単独群で64%、PFSのハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.46~0.91、p=0.013)であり、導入化学療法併用群でPFSの有意な延長が認められた。また、5年全生存率は、導入化学療法併用群80%、CRT単独群72%、ハザード比は0.60(95%CI:0.40~0.91、p=0.015)で、導入化学療法併用によりCRT単独と比較して死亡のリスクが40%減少することが示された。 Grade3以上の有害事象は、導入化学療法併用群で250例中147例(59%)、CRT単独群で250例中120例(48%)が報告された。

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インフルエンザウイルス曝露後抗ウイルス薬の有効性(解説:寺田教彦氏)

 インフルエンザウイルス曝露者に対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、2024年8月24日号のLancet誌に報告された。本研究では、MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、11,845本の論文と関連レビューから18件の研究を確認し、このうち33件の研究をシステマティックレビューに含めている。概要は「季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet」のとおりでザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やか(48時間以内)に投与することで症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆され、重症化リスクの低い人では、症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された。 過去には、2017年のインフルエンザウイルス曝露者に対する予防投与のシステマティックレビューで、オセルタミビルまたはザナミビルの曝露後予防投与により有症状のインフルエンザ発生を減少させる効果が報告されていたが(Doll MK, et al. J Antimicrob Chemother. 2017;72:2990-3007)、エビデンスの質や確実性は評価されていなかった。当時は、これらのエビデンスを参考に、WHOやIDSAのガイドライン(Uyeki TM, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:e1-e47.)では、インフルエンザウイルス曝露後に、合併症のリスクが非常に高い患者に対して、抗ウイルス薬の予防投与が推奨された。本邦の現場でも、インフルエンザウイルス曝露後の予防投与は保険適用外だが、病院や医療施設内で曝露者が発生したときなどに、重症化や合併症リスクを参考に、個々の患者ごとに適応を検討していた。 本研究の結果から、2024年9月17日にWHOのガイドラインが更新されており、抗インフルエンザ薬(バロキサビル、ラニナミビル、オセルタミビル、ザナミビル)の曝露後予防投与は、ワクチン接種の代わりにはならないが、きわめてリスクの高い患者(85歳以上の患者、または複数のリスク要因をもつ若年者)には曝露後48時間以内の投薬が推奨されている。 さて、われわれのプラクティスについて考えてみる。本研究では、曝露後予防投与で入院や死亡率の低下を確認することはできていないが、曝露後予防投与はインフルエンザ重症化リスクの高い患者群では発症抑制(確実性は中程度)の効果が期待でき、重症化リスクの低い人では、季節性インフルエンザに曝露後、速やかに投与しても症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された(確実性は中程度)。インフルエンザ重症化リスクの高い患者群では、インフルエンザに罹患することで重症化やADL低下につながることが予測され、適切な患者を選定して曝露後予防投与を行うことはメリットがあるだろう。 そのため、インフルエンザウイルス曝露後予防は、これまでどおりインフルエンザの重症化や合併症リスクを個々の症例で検討することが良いと考える。 曝露後予防投与時の抗ウイルス薬では、オセルタミビルやザナミビルに加えて、本研究では、ラニナミビルやバロキサビルも有効性を確認することができた。ラニナミビルやバロキサビルは、オセルタミビルやザナミビルに対して、単回投与が可能という強みをもつため、抗ウイルス薬の複数回投与が困難な環境ならば使用を考慮してもよいのかもしれない。しかし、オセルタミビルのように、過去の使用実績が豊富で安価な薬剤を選択できる場合は、これまでどおりこれらの薬剤を選択してよいと考える。

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心筋梗塞の血栓溶解療法の時代を思い出す(解説:後藤信哉氏)

 1988年のLancet誌に掲載されたSecond International Study of Infarct Survival (ISIS-2) trialは、心筋梗塞の診療に劇的インパクトをもたらした。抗血小板薬アスピリン、線溶薬ストレプトキナーゼはともに急性心筋梗塞の院内死亡率を25%程度減少させ、両者の併用により死亡率はほぼ半減した。アスピリンはそのまま世界の標準治療になった。ストレプトキナーゼは重篤な出血合併症を増加させたため、出血リスクの少ない薬剤開発が模索された。ストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。体内のフィブリンに結合し、プラスミン産生効果を発揮するt-PAに期待が集まった。フィブリン選択的、1回静注可能など多くの製剤が開発された。しかし、急性心筋梗塞では、薬剤と並行して進歩したカテーテル治療の普及により血栓溶解療法は廃れた。 脳梗塞領域は、1990年代の循環器内科の歴史をたどっている。t-PAフィブリン選択的に作用する線溶薬と期待されていたが、持続静注が必要であった。本研究では1回静注可能なtenecteplaseの非劣性が示された。脳梗塞急性期の再灌流療法により神経学的予後が改善されるインパクトは大きい。線溶薬としては早期に作用するフィブリン選択的薬剤なども開発されるかもしれない。しかし、心筋梗塞と同様に、カテーテル治療も普及するかもしれない。 脳梗塞治療が心筋梗塞治療を後追いしているように見え、今後の治療法の革新が期待される。

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migraine(片頭痛)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第14回

言葉の由来「片頭痛」の英名は“migraine”(マイグレイン)です。元々はギリシャ語の“hemikrania”(半頭痛)から派生した言葉だといいます。この言葉は、“hemi”(半分)と“kranion”(頭蓋)という言葉に由来しており、片側の頭部に強い痛みが集中することを意味します。これが後にフランス語に翻訳されて“migraine”と記述され、現代まで残っているとされます。片頭痛は、古代からさまざまな形で記録されてきましたが、その原因は長らく謎に包まれていました。古代ギリシャの時代には、頭痛は「ケレス」と呼ばれる悪霊によって引き起こされると信じられていたそうです。また、アリストテレスは、「頭が痛みにさらされるのは、胃から発生する悪しき液体が脳を乱すためだ」と述べていたといいます。現代でこそ、より科学的にそのメカニズムが解明されてきていますが、そのような時代から言葉が引き継がれていると思うと、感慨深いものがあります。併せて覚えよう! 周辺単語鎮痛薬analgesic閃輝暗点auraトリプタン療法triptan therapy光過敏photophobia音過敏phonophobiaこの病気、英語で説明できますか?Migraine is a neurological condition characterized by recurrent episodes of moderate to severe headaches often accompanied by nausea, sensitivity to light, and sound. The headache typically affects one side of the head and can last from hours to days.講師紹介

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CAR-T療法における血球減少の頻度とパターン/日本血液学会

 遷延性血球減少はCAR-T細胞療法の重篤な合併症の1つである。兵庫医科大学の吉原 享子氏は、実臨床における後方視的研究の結果を第86回日本血液学会学術集会で発表した。 CAR-T療法では、リンパ球除去療法の影響でCAR-T細胞投与後に血球減少がみられる。多くの場合改善するが、未回復のまま遷延する症例があり注意を要する。 血球減少にはQuick recoveryタイプ、Intermittent recoveryタイプ(一旦回復したのち再度低下する)、Aplasticタイプ(減少が遷延する)がある。遷延性血球現象の発生機序は、前治療による骨髄予備能の低下、造血幹細胞のCHIPの出現、CAR-TによるCRSやそのほかの免疫学的機序、原疾患の状態などさまざまな機序が関与していると考えられている。そのため疾患およびCAR-T製剤により血球減少の頻度やパターンが異なる可能性がある。 吉原氏らは、ide-celおよび他のCAR-T製剤(tisa-cel、liso-cel)における遷延性血球減少について後方視的に解析した。 主な結果は以下のとおり。・症例は2020年3月~2024年6月に兵庫医科大学でCAR-T療法を受けた116例。投与後5週間以上経過追跡できない例などを除き、解析対象はide-cel22例、それ以外のCAR-T68例(tisa-cel38例、liso-cel30例)となった。・CAR-T投与から血球減少回復までの期間中央値はide-cel群は29.5日、tisa/liso‐cel群は20日と、ide-cel群で長い傾向にあった(p=0.419)。・血球減少タイプについて、ide-cel群はtisa/liso‐cel群に比べ、Intermittent recoveryタイプが多く、6割以上を占めた。・CAR-T投与23日後の好中球数はide-cel群470/μL、tisa/liso‐cel群は1,350/μLと、ide-cel群で有意に少なかった(p=0.0202)。・血球減少の程度を予測するCAR-HEMATOTOXスコアはtisa/liso‐cel群に比べ、ide-cel群でlowリスクが多く、スコアも低い傾向であった。・tisa/liso‐cel群ではCAR-HEMATOTOXスコアとの相関は乏しかった。・ide-cel単独の血球減少はCAR-HEMATOTOXスコアと相関する傾向にあった。好中球回復までの期間は同スコアLowリスク群では28日、Highリスク群では46日であった。また、輸血の必要性はHighリスク群で有意に高かった(赤血球輸血p=0.019、血小板輸血p=0.02)。・ide-cel投与後の好中球回復日数中央値は、フェリチンのピーク中央値(732ng/dL)未満では14日、中央値以上では31日と、高ピーク値で有意に遅延した(p=0.02)。

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慢性疾患患者のインフルワクチン接種率、電子メールで改善/JAMA

 デンマークにおける全国規模登録ベースの無作為化臨床試験において、慢性疾患を有する青年~中年患者のインフルエンザワクチン接種率は、電子メールを用いたナッジにより有意に上昇することが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のNiklas Dyrby Johansen氏らが、「Nationwide Utilization of Danish Government Electronic Letter System for Increasing Influenza Vaccine Uptake Among Adults With Chronic Disease trial:NUDGE-FLU-CHRONIC試験」の結果を報告した。世界的にガイドラインで強く推奨されているにもかかわらず、慢性疾患を有する若年~中年患者のインフルエンザワクチン接種率は依然として十分とは言えない状況(suboptimal)で、接種率向上のための効果的で柔軟性のある戦略が求められている。本試験の結果を受けて著者は、「費用対効果の高い電子メール戦略は、簡便で柔軟性があり、公衆衛生に大きな影響を与える可能性があることが示された」と述べている。JAMA誌オンライン版10月11日号掲載の報告。デンマークの約30万例を対象に、電子メールの有無でインフルワクチン接種率を比較 研究グループは、2023年9月24日~2024年5月31日に、18~64歳のデンマーク国民で、デンマーク政府によるワクチン接種プログラムのインフルエンザワクチン無料接種対象者(インフルエンザに感染した場合の有害アウトカムのリスク上昇が知られている慢性疾患を有する)を登録し、通常ケア(対照)群または6つの異なる積極的介入群に、2.45対1対1対1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 積極的介入群には、ワクチン接種の決断を促すための情報(標準レター:無料であること、慢性疾患患者が接種する場合のリスクの簡単な説明、接種スケジュール、COVID-19ワクチンとの同時接種に関する説明を記述)を電子メールで送付することを基本とし、そのほかに標準レターの10日後の再送信、心血管疾患患者へのベネフィットを強調したレター(CV gain-framing letter)、呼吸器疾患gain-framing letter、積極的な選択/実行を促すレター、損失を強調したレターの送付という6つの異なる介入で構成された。対照群は電子メールなしとした。 すべてのデータは行政の保健登録から取得した。主要アウトカムは2024年1月1日以前のインフルエンザワクチン接種であった。 主要解析は、主要アウトカムについて事前に7種の比較(全介入統合群vs.対照群、および各介入群vs.対照群)を行うことが規定され、各比較について接種率の絶対差および粗相対リスクを算出し、検定は全体でα=0.05(各比較でα=0.0071)として評価が行われた。 計29万9,881例(女性53.2%[15万9,454例]、年齢中央値52.0[四分位範囲:39.8~59.0]歳)が、無作為化された。いずれかの電子メールを受け取った人のほうが接種率は高率 インフルエンザワクチン接種率は、対照群27.9%、全介入統合群(6つのうちいずれかの電子メールを受信した参加者)39.6%であり、全介入併合群で高率だった(群間差:11.7%ポイント、99.29%信頼区間[CI]:11.2~12.2ポイント、p<0.001)。 介入(各個人宛の電子メール)はインフルエンザワクチンの接種率を有意に上昇し、最も効果が大きかったのは、初回メール送信から10日後に標準レターメールを再送した群(41.8% vs.27.9%、群間差:13.9%ポイント[99.29%CI:13.1~14.7]、p<0.001)と、CV gain-framing letterをメールした群(39.8% vs.27.9%、11.9%ポイント[11.1~12.7]、p<0.001)であった。 サブグループ解析においても、6つすべての介入群のほうがワクチン接種率を向上することが示された。

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早期乳がんの遠隔転移再発率、1990年代からどのくらい低下した?/Lancet

 英国・Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)は同グループのデータベースを用いた統合解析を行い、エストロゲン受容体(ER)陽性およびER陰性乳がんの遠隔転移再発率が、1990年代に比べ2000年以降に診断された女性では約5分の1低下していることを報告した。この改善は、本研究に参加する低リスクの女性患者の割合が高くなったことと、補助療法の進歩により説明される。ER陽性乳がんの遠隔再発の長期リスクは、依然として存在するものの前回の報告よりも約10分の1低下した。ER陽性早期乳がん女性の遠隔転移再発率は診断後20年以上にわたって一定の割合で持続するが、ER陰性乳がんに関するデータはこれまでほとんどなかった。Lancet誌2024年10月12日号掲載の報告。65万例を超えるEBCTCGデータベースから対象患者を抽出し解析 研究グループは、早期乳がんの臨床試験に参加した65万例を超えるEBCTCGデータベースから、1990~2009年登録の新たにER陽性乳がんと診断され5年以上の内分泌療法が予定されていた患者またはER陰性と診断された患者で、診断時75歳未満、腫瘍径50mm以下、腋窩リンパ節転移10個未満、登録時遠隔転移のない女性患者を抽出し解析した。 術前補助療法の臨床試験への参加者、術後補助療法の割り付けが不明な患者、ER陰性かつプロゲステロン受容体陽性の乳がん患者、結果またはベースライン時のデータが欠落している患者は除外した。 主要評価項目は、各臨床試験で定義された最初の遠隔再発までの期間とし(局所再発または対側乳がんは除外)、患者および腫瘍の特性、試験、割り付けられた治療を補正したCox回帰を用いて、診断時期別の10年遠隔再発リスクを比較した。遠隔再発率、2000年以降は1990年代に比べ約5分の1低下 2023年1月17日時点のEBCTCGデータベースに登録されている早期乳がん女性患者65万2,258例のうち、151件の無作為化試験における15万5,746例(ER陽性かつ内分泌療法5年以上11万4,811例、ER陰性4万935例)が適格基準を満たした。 遠隔再発率は、ER陽性例とER陰性例とも同様に改善した。ER陽性例の改善の80.5%ならびにER陰性例の改善の89.8%は、患者および腫瘍の特性の変化と治療の改善により説明されたが、依然として有意なままであった(p<0.0001)。最近診断された患者は、リンパ節転移陰性の割合が高かった。 1990~99年と2000~09年の10年遠隔再発リスクを比較すると、リンパ節転移陰性の場合、ER陽性では10.1% vs.7.3%、ER陰性では18.3% vs.11.9%、リンパ節転移が1~3個の場合、それぞれ19.9% vs.14.7%、31.9% vs.22.1%、リンパ節転移が4~9個の場合、それぞれ39.6% vs.28.5%、47.8% vs.36.5%であった。 治療について補正後、2000年以降は1990年代と比較して、遠隔再発率はER陽性例で25%、ER陰性例で19%減少し、ER陽性では5年を超えても同様の改善が認められた。

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血管性認知症に対する薬物療法〜ネットワークメタ解析

 血管性認知症は、代表的な認知症の1つであり、負担やコストが大きい。臨床医にとって、薬物療法が第1選択治療となることが多いが、利用可能な複数の治療オプションを比較した情報は、十分ではない。中国・四川大学のChun Dang氏らは、血管性認知症に対する各種薬物療法の有用性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Pharmacology誌2024年8月22日号の報告。 血管性認知症成人患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)を、PubMed、Cochrane Library、EMBASE、Web of Science、OPENGREY、ClinicalTrials.gov、Wanfang Data、CNKIよりシステマティックに検索し、ネットワークメタ解析を実施した。主要アウトカムには、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア、ADLスコア、副作用発生率の変化を含めた。介入戦略の有効性および安全性は、すべてRソフトウェアで生成されたフォレストプロット、累積順位曲線下面積(SUCRA)、ファンネルプロットを使用して包括的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・21種類の抗血管性認知症治療薬とプラセボまたは未治療を比較した194件のRCTを分析に含めた。・MMSEスコアにおいて最も効果的な5つの薬剤は、butylphthalide、huperzine A、エダラボン、リバスチグミン、メマンチンであった。・ADLスコアにおいて有効であった上位5つの薬剤は、huperzine A、butylphthalide、tianzhi granule、ニセルゴリン、idebenoneであった。・薬物有害反応の発生率に関して、良好な安全性プロファイルを示した薬剤は、co-dergocrine mesylate、tongxinluo capsule、butylphthalide、ピラセタム、oxiracetamであった。 著者らは「本結果は、血管性認知症治療に関連する相対的なベネフィットとリスクに対する理解を深め、臨床上の意思決定において参考になるであろう」と結論付けている。

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多汗症は敏感肌と関連

 汗をかき過ぎる人は肌も敏感であることが多いようだ。原発性多汗症(以下、多汗症)と敏感肌は密接に関係していることが、新たな研究で確認された。米ジョージ・ワシントン大学のAdam Friedman氏と米バージニア工科大学のLiqing Zhang氏らによるこの研究結果は、「Journal of Drugs in Dermatology」に9月30日掲載された。研究グループは、「多汗症と敏感肌との関連を提示し、裏付けた初めての研究だ」と述べている。 多汗症は、高温下や運動中などの条件下に置かれていなくても、手、足、顔、脇の下などの特定の部位に、体を冷やすために必要な量の4倍の汗をかく疾患である。一方、敏感肌は、熱や汗、スキンケア製品、ストレスにさらされると、肌にかゆみや灼熱感、圧迫感などが生じることを特徴とする。 Friedman氏らは今回、637人の多汗症の人の調査データを用いて、ランダムフォレスト機械学習アルゴリズムによる敏感肌の予測モデルを構築し、多汗症と敏感肌との関連を検討した。対象者の89%が敏感肌であることを報告していた。 解析からは、多汗症と敏感肌の重症度スコアとの間に有意な関連が認められ、多汗症が重症であるほど、敏感肌の重症度も上昇することが示された。また、多汗症が生じる部位として最も多かったのは手のひらであったが、敏感肌は、多汗症が見られる部位と見られない部位の両方で認められた。 さらに、今回の研究では、皮膚科医のケアを求める多汗症の人は、これまで報告されていたよりも多いことも判明した。研究グループは、「この結果は、皮膚科医が多汗症と敏感肌との関連を認識することの重要性を浮き彫りにするものだ」との見方を示している。このほか、多汗症と敏感肌の両方の問題を抱えている人は、敏感肌向けの製品に対して頻繁に反応することを報告していたことも明らかになった。 Friedman氏は、「多汗症の人は、過度の発汗がない部位でも一般の人よりも皮膚が敏感になる可能性が高い」と話す。同氏らは、多汗症に関わる異常な神経信号が敏感肌に関与している可能性があるとの考えを示した上で、「多汗症と敏感肌との関係は、これまで認識されていたよりも複雑である」と述べている。 またFriedman氏らは、「本研究結果は、皮膚科医が患者とより良いパートナーシップを築き、過度の発汗に苦しむ患者の敏感肌を教育・特定・管理し、共通の疾患メカニズムを明らかにして新たな治療法を開発するのに役立つ可能性がある」と結論付けている。

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呼吸機能低下が認知機能低下に関連―SONIC研究

 スパイロメトリーという機器による簡便な呼吸機能検査の結果が、高齢者の認知機能と関連のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の橘由香氏、神出計氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月20日掲載された。著者らは、高齢者対象の保健指導に呼吸機能を鍛えるプログラムの追加を検討する必要性があるとしている。 認知機能低下の主要な原因は加齢だが、喫煙や大量飲酒、糖尿病や高血圧といった生活習慣病など、介入可能なリスク因子も存在する。また、潜在的なリスク因子の一つとして近年、呼吸機能の低下が該当する可能性が指摘されている。ただし、呼吸機能の簡便な検査法であるスパイロメトリーで評価できる範囲の指標が、高齢者の認知機能と関連しているのかという点は明らかになっていない。これを背景として橘氏らは、兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、73±1歳の419人(73歳群)と83±1歳の348人(83歳群)という二つの年齢層の集団。各群ともに約半数が女性であり(73歳群は50.1%、83歳群は51.4%)、認知症と診断されている人は除外されている。認知機能は、教育歴の影響が調整される尺度であるモントリオール認知機能尺度の日本語版(MoCA-J)を用いて評価。MoCA-Jは30点満点で、スコアが高いほど認知機能が良好であると判定する。 解析ではまず、スパイロメトリーによる最大呼気流量(PEF)の実測値と、年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する比(%PEF)から、気流制限の重症度を4段階に分類。ステージ1は%PEFが80%以上、ステージ2は50~80%未満、ステージ3は30~50%未満、ステージ4は30%未満としてMoCA-Jスコアを比較した。すると83歳群では、気流制限の程度が強いほどMoCA-Jスコアが低いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.002)。73歳群でもその傾向があったが有意ではなかった。 次に、MoCA-Jが25点以下で定義した「軽度認知障害(MCI)」を従属変数とし、性別、喫煙歴、飲酒習慣、握力低値(男性26kg未満、女性18kg未満)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、冠動脈心疾患、脳卒中、および気流制限(FEV1/FVCが70%未満)を独立変数としてロジスティック回帰分析を施行。なお、握力低値を独立変数に含めた理由は、呼吸には筋力が必要であり、握力が呼吸機能と独立して関連していることが報告されているためである。 解析の結果、83歳群では気流制限が、唯一の独立した正の関連因子として抽出された(オッズ比〔OR〕3.44〔95%信頼区間1.141~10.340〕)。反対に飲酒習慣は、MCIに対する唯一の保護的因子だった(OR0.37〔同0.189~0.734〕)。73歳群では性別(女性)が唯一の独立した正の関連因子であり(OR2.45〔同1.290~4.643〕)、保護的因子は特定されなかった。 続いて、年齢層と性別とで4群に分けた上で、それぞれの群におけるMCIに独立した関連因子を検討。その際、独立変数として気流制限以外は前記と同様に設定し、呼吸機能に関しては気流制限の有無に変えて、%VC、FEV1/FVC、%PEFという三つの指標を個別に加えて解析した。その結果、4群全てにおいて、%PEFが高いことがMCIのオッズ比低下と関連していた(男性は73歳群と83歳群の両群ともにOR0.98、女性は両群ともに0.99)。%PEF以外では、83歳群の女性において、%VC(年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する肺活量の比)のみ、有意な関連因子だった(OR0.98)。 著者らは、「われわれの研究結果は、%PEFの低下が地域在住高齢者の認知機能低下に関連していることを示唆している。また、喫煙歴はこの関連に影響を及ぼしていなかった。よって喫煙習慣の有無にかかわらず、高齢者の認知機能維持を目的とした保健指導プログラムに、呼吸機能訓練などを組み込むべきではないか」と総括。さらに、本研究ではスパイロメトリーを用いたが、「%PEFのみであれば患者自身が日常生活下で使用可能なピークフローメーターでも測定できる」とし、「%PEFの自己測定を、高齢者の呼吸機能の自己管理に加え、認知機能低下抑止のための行動変容にもつなげられるのではないか」とも付け加えている。

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100歳との約束【Dr. 中島の 新・徒然草】(552)

五百五十二の段 100歳との約束10月の空は日本晴れ。にもかかわらず、すっかり寒くなりました。読者の皆さま、お変わりなくお過ごしのことと思います。さて、先月のこと。脳外科外来にお見えになった患者さんの奥さんからこんな言葉が。奥さん「先生、100歳のお祝いに総理大臣から金杯をいただきました」患者さんご本人は大正13年生まれ。実に満99歳9ヵ月。今でもちゃんと公共交通機関を使って来院するくらい、しっかりしています。ネットで調べると、100歳の記念に内閣総理大臣から戴けるのは銀杯みたい。が、奥さんからは確かに「金杯」と聞こえました。金でも銀でもまあいいか、めでたいことには違いないですから。中島「再診は3ヵ月後ですから、12月ですね」患者「次に来るときは満100歳です」中島「じゃあ、次回は皆で一緒に写真を撮りましょう!」でもこの患者さんはすでに99歳。はたして3ヵ月後というのがあるのでしょうか。手遅れにならないよう、今回の診察の時に撮影しておけばよかったかもしれません。ちなみに99歳の日本人男性の3ヵ月間の生存率は、ChatGPTによれば約91%なのだそうです。ついでなので、ほかにもいろいろとChatGPTとともに計算してみました。ベトナム戦争に参加している米軍兵士の年間死亡率 2.7%高速道路を走行している二輪車のライダーの年間死亡率 0.62%65歳の日本人男性の年間死亡率 1.04%ベトナム戦争での戦死率はもっと多いような気がしますが、以下のような推測によるものです。ローテーション制をとっていた米軍兵士のベトナム戦争での平均戦地滞在期間は約1年間。米軍の総兵力約210万人のうち、5万8,152人が戦死した。したがって、個々の兵士の年間死亡率は約2.7%と考えられる。65歳という私の年齢だと、存在しているだけで戦地の米軍兵士よりは低いものの、二輪車ライダーよりも死亡率が高いわけですね。計算しなきゃよかった。では太平洋戦争中の日本軍兵士はどうだったのでしょうか。ChatGTPによると、太平洋戦争での日本軍兵士は約840万人。この期間中に戦死・行方不明となった兵士は約212万人。ベトナム戦争の米兵と違い、日本兵の場合は一度派遣されると死亡するか戦争が終わるかまで、そのまま前線に留まったそうです。とくに太平洋戦争末期の1年間が悲惨で、餓死や病死も合わせると、戦地での年間死亡率は約50%と推測されます。かなり大雑把な計算の結果ではありますが、それにしても恐ろしい数字ですね。私の外来でも10年ほど前までは、太平洋戦争で兵隊に行っていた患者さんが大勢いて、それぞれにご自分の経験を語っていました。軍艦に乗っていたとか、爆撃機に乗っていたとか。とくにシベリアに抑留されていた患者さんは、当時のソ連の悪口を言い出したら終わらなくなってしまうので、同伴していたご家族が一生懸命止めていたくらいです。今ではその患者さんたちのほとんどが亡くなってしまい、戦争経験を聴く機会がなくなってしまいました。ともあれ、このたび100歳を迎える患者さんの次の診察は再来月。また元気な姿にお会いし、長寿にあやかりたいものです。ということで最後に1句大正に 生まれて百年 秋の空

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大田原症候群〔OS:Ohtahara syndrome〕

1 疾患概要■ 定義大田原症候群は、1976年に大田原俊輔らが“特異な年齢依存性てんかん性脳症:The Early-Infantile Epileptic Encephalopathy with Suppression-Burst”として日本小児神経学研究会(現 日本小児神経学会)機関誌に報告し1)、2001年に国際抗てんかん連盟(ILAE)によって公式に“Ohtahara syndrome”と称された。乳児早期(多くは新生児期)に発症し、頻回の強直発作もしくはてんかん性スパズムとサプレッション・バーストとよばれる脳波所見を特徴とする。■ 疫学発生頻度は、ウエスト症候群の約1/40以下と推測され、国内の患者数は数百人と考えられる。■ 病因遺伝素因が最も多く、次いで脳形成異常が多い(表)。2007年に介在ニューロンの発生に関与するARX遺伝子の変異が2家系で同定され、その後、STXBP1、KCNQ2、SCN2A、GNAO1など多数の原因遺伝子が同定されている。脳形成異常では、片側巨脳症や限局性皮質異形成、孔脳症などが多い。ミオクロニー発作主体だが、サプレッション・バーストの脳波所見が共通する早期ミオクロニー脳症は、非ケトン性高グリシン血症、ミトコンドリア異常症、ビタミンB6依存性脳症などの代謝障害が多い(後述の分類の項を参照)。表 大田原症候群の病因画像を拡大する■ 症状新生児期にてんかん発作を来し、その後発達遅滞が現れる。てんかん発作は強直発作とてんかん性スパズムが特徴である。てんかん性スパズムは、群発(シリーズ形成)よりも単発が多い。発作は1日に数〜数十回、時に数百回と頻回で、睡眠・覚醒を問わず認められる。焦点性運動発作が1/3から約半数に認められる。ミオクロニー発作はまれであり、早期ミオクロニー脳症との鑑別点になっている。しかし、同一症例でも経過中にスパズム主体の時期とミオクローヌス主体の時期が前後することもあり、時期によって大田原症候群と早期ミオクロニー脳症の併発もあり得る。てんかん発作の他に、知的障害、運動障害を併発することが多い。また、基礎疾患による併発症状を示す。■ 分類2022年にILAEによるてんかん症候群の分類が大幅に改訂された。新生児期にサプレッション・バーストを示し、ミオクロニー発作を主体とする早期ミオクロニー脳症と強直発作を主体とする大田原症候群が統合され、「早期乳児発達性てんかん性脳症:early infantile developmental and epileptic encephalopathy(EIDEE)」と呼ばれる2)。■ 予後てんかん発作は難治であり、乳児期にはてんかん性スパズムの群発傾向が強くなり、脳波はヒプスアリスミアに変容し、約3/4の症例はウエスト症候群(現在の呼称は「乳児てんかん性スパズム症候群」)に移行する。てんかん発作が抑制された場合でも、知的障害を併発することが多く、その程度も一般に重度である。また、自閉症や多動など併発症も多い。重症例では運動障害を呈し、全介助が必要になる。少数ながら正常発達例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査で最も重要なのは、「サプレッション・バースト」と呼ばれる発作間欠期の脳波パターンである(図)。数秒間のサプレッション(平坦)相と数秒間の150~300μVの不規則な高振幅徐波に棘波が混入するバースト(群発)相が交互に出現する。通常は広汎性であるが、脳梁欠損を伴うアイカルディ症候群などでは左右で非同期性に認められる。ヒプスアリスミアへの移行過程では、平坦相にθ波やδ波が混入し、持続時間が短くなり、ヒプスアリスミアの脱同期desynchronizationと区別が難しくなる。原因検索として頭部MRIと代謝スクリーニングが必須である。代謝異常の鑑別として、ミトコンドリア異常に対する髄液の乳酸/ピルビン酸とグリシン脳症に対する髄液/血漿グリシン濃度比を確認する。MRIと代謝に異常がなければ、遺伝子検査(国内では厚労科研の研究班で実施)が望ましい。図 大田原症候群でみられる脳波のサプレッション・バーストパターン画像を拡大する双極誘導。9秒間の平坦なサプレッション相の前後に3秒間の棘波や徐波のてんかん様放電が群発するバースト相が認められる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では特定の治療薬はないが、症例によってビタミンB6、フェノバール大量療法、バルプロ酸Na、ケトン食が有効である。片側巨脳症や限局性皮質異形成は、早期に外科手術を考慮する。KCNQ2変異による大田原症候群では、大田原症候群の治療には一般に用いられないカルバマゼピンやフェニトインなどNaチャネルの阻害作用を有する薬剤がてんかん発作の抑制に有効である3)。4 今後の展望原因によって、分子標的治療薬や遺伝子治療、アンチセンスオリゴヌクレオチド治療の開発が行われている4)。5 主たる診療科小児科、神経小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 大田原症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病 大田原症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚労科研難治性疾患政策研究事業「稀少てんかんの診療指針と包括医療の研究」班 てんかんの難病ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)1)大田原俊輔ほか. 脳と発達. 1976;8:270-280.2)Zuberi SM, et al. Epilepsia. 2022;63:1349-1397.3)Kato M, et al. Epilepsia. 2013;54:1282-1287.4)Kato M, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2022;9:181-192.公開履歴初回2024年10月24日

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降圧薬を減らすと認知機能の低下が抑制される!?

 中年期の高血圧は認知機能低下のリスクであるという報告があるが1)、日常生活動作(ADL)が低下している高齢者では血圧が高いほうが認知機能の低下が小さいという報告もある2)。このように、高齢者における降圧薬と認知機能の関係は複雑である。そこで、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のBocheng Jing氏らの研究グループは、長期介護施設に入居する65歳以上を対象として、target trial emulationの手法を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、降圧薬の減薬により認知機能の低下が抑制されることが示唆された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年9月23日号で報告された。 研究グループは、2006~19年に長期介護施設へ入所した米国の退役軍人1万2,644例を対象に、target trial emulationの手法を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。本研究の適格基準は65歳以上、12週間以上の入所などとし、血圧160/90mmHg超、心不全の既往、入所時に降圧薬の服用なしのいずれかに該当する患者は除外した。対象を降圧薬の使用状況に基づき、減薬群(前週と比較して使用薬剤数の減少または30%以上の用量減少が認められ、その状態が2週以上持続)、継続群に分類して最長2年間追跡した。主要評価項目は、Cognitive Function Scale(CFS、スコア範囲:1[正常]~4[重度障害])に基づく認知機能とした。 主な結果は以下のとおり。・対象1万2,644例(減薬群:1,290例、継続群1万1,354例)の平均年齢は77.7歳、男性の割合は97.4%(1万2,053例)であった。・追跡終了時に認知機能が低下(ベースライン時と比較してCFSスコアが悪化)していた割合は、継続群が12.1%であったのに対し、減薬群は10.8%であり、減薬群で有意な認知機能の低下抑制がみられた(調整オッズ比[aOR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.78~0.99、p=0.04、per protocol解析)。・減薬群における認知機能の低下抑制は、認知症を有する集団でも認められた(aOR:0.84、95%CI:0.77~0.98、per protocol解析)。 本研究結果について、著者らは「長期介護施設に入所する高齢者における降圧薬の減薬は、認知機能の低下を抑制することが示唆された。高齢者の薬物療法を最適化することにより、認知機能を維持し、有害事象を最小限に抑えるためには、患者中心のアプローチが重要であることが強調された」とまとめた。

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統合失調症と2型糖尿病リスクとの関連〜最新メタ解析

 統合失調症患者におけるメタボリックシンドロームは、臨床医にとって常に重要な課題の1つとなっている。これまでの研究では、統合失調症患者は2型糖尿病発症リスクが非常に高いと報告されている。近年、新たな観察研究が次々と報告されており、臨床医が統合失調症と2型糖尿病との関係をより正確に理解する必要性が高まっている。中国・済寧医学院のKai Dong氏らは、新たな観察研究を統合し、統合失調症と2型糖尿病リスクとの潜在的な関連性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Frontiers in Endocrinology誌2024年9月11日号の報告。 MeSH(Medical Subject Headings)と関連キーワードを用いて、PubMed、Cochrane Library、Embase、Web of Scienceより包括的に検索した。コホート研究およびケースコントロール研究におけるバイアスリスクの評価にはニューカッスル・オタワ尺度(NOS)、横断研究にはAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality scale)を用い、スコアは元の研究の内容に基づいた。p>0.1かつI2が50%以下の場合、異質性が低いことを示す固定効果モデルを採用した。I2が50%超の場合、異質性が大きいことを示すランダム効果モデルを用いた。出版バイアスは、ファンネルプロットとEgger検定を用いて評価した。統計分析には、Stata統計ソフトウェアバージョン14.0を用いた。 主な結果は以下のとおり。・2004〜23年に公表された32件の観察研究(統合失調症患者:200万7,168例、非統合失調症患者:3,588万3,980例)をメタ解析に含めた。・統合分析では、統合失調症歴と2型糖尿病リスク増加との間に有意な関連が認められた(オッズ比[OR]:2.15、95%信頼区間[CI]:1.83〜2.52、I2=98.9%、p<0.001)。・女性の統合失調症患者(OR:2.12、95%CI:1.70〜2.64、I2=90.7%、p<0.001)は、男性患者(OR:1.68、95%CI:1.39〜2.04、I2=91.3%、p<0.001)と比較し、2型糖尿病リスクが有意に高かった。・WHO地域別では、EURO(欧州)は、WPRO(西太平洋)およびAMRO(米国)と比較し、2型糖尿病リスクが有意に高かった。【EURO】OR:2.73、95%CI:2.23〜3.35、I2=97.5%、p<0.001【WPRO】OR:1.72、95%CI:1.32〜2.23、I2=95.2%、p<0.001【AMRO】OR:1.82、95%CI:1.40〜2.37、I2=99.1%、p<0.001・フォローアップ期間では、20年超の群は、10〜20年の群および10年未満の群と比較し、2型糖尿病リスクが有意に高かった。【20年超】OR:3.17、95%CI:1.24〜8.11、I2=99.4%、p<0.001【10〜20年】OR:2.26、95%CI:1.76〜2.90、I2=98.6%、p<0.001【10年未満】OR:1.68、95%CI:1.30〜2.19、I2=95.4%、p<0.001 著者らは「統合失調症と糖尿病発症リスク増加との間に強い相関が示されており、統合失調症が2型糖尿病の独立したリスク因子である可能性が示唆された」と結論付けている。

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「見つけました!PubMedで自分の名前を!」初めての症例報告【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第77回

初めてPubMedに名前が載った!「見つけました! 自分の名前を見つけたんです!」循環器内科の専攻医が興奮した様子で報告に来ました。医師免許を取得して3年目の若手です。彼が経験した特徴的な経過を示した症例の報告を執筆し、英文ジャーナルに掲載されたのです。投稿から採択されるまでには多くの困難がありました。自分の名前が筆頭著者として記載された英語論文を、初めて手にしたときの喜びは理解できます。本当に嬉しそうです。こちらも嬉しくなります。若手医師の笑顔は自分にとって栄養剤です。専攻医は、自分の名前をPubMedで検索してみました。自らの名前がある論文が表示されます。何度も繰り返します。PubMedは、アメリカ国立医学図書館(NLM:National Library of Medicine)が提供する、無料の医学関連分野の文献検索サービスです。主たる情報源は、MEDLINEという医療データベースで、世界中の5,000誌以上の主要な医学雑誌に掲載された学術論文を調べることができます。タイトル、著者名、雑誌名、抄録などのデータを収録しています。PubMedで名前を検索すれば、自己の業績が表示されるという観点では、ノーベル生理学・医学賞の受賞者と同じ土俵に立ったといえます。端くれとはいえ立派な研究者です。苦労して英語の論文を執筆しても、自分の論文や名前がPubMedに表示されないことを嘆く若手の医師に出会うことがあります。PubMedに論文が登録されるには、その論文を出版したジャーナルがMEDLINEに収載されている必要があります。MEDLINEに収載されていないのであれば、出版論文はPubMedでは検索できません。投稿する前に確認しておく必要があります。若手の初成功の鍵は、上級医の粘り強い指導症例報告は、まれな疾患や治療法の発見、診断・治療の新たな知見を周知することで、医学の発展に寄与します。また、実臨床での経験をほかの医療者と共有する重要な役割を果たします。珍しい疾患だからという理由だけで症例報告するわけではありません。報告に値する症例は、明確な「学ぶ点」を呈示できることです。症例報告を記載するには、数多くのステップが必要です。適切な症例を選択することから始まり、文献の検索、正確な症例の記述、投稿、査読者への適切な返答が要求されます。一連の過程が若い医師に学びの経験をもたらし、彼らの研究者キャリアを始動させるのです。英語で執筆することが大切です。英語は科学界における共通言語となっており、世界中の医学者や研究者が英語を使うことで、効率的に情報を共有できます。日本語よりも英語であることで影響力が高まります。英語がネイティブでない日本人にとって、執筆のハードルは高く、時間を消費します。若い医師に「症例報告を書こう」と話しても形にならず、挫折する者も多くいます。まず初稿を書き上げられないのです。いきなり抄録やイントロダクションから執筆を開始すると頓挫しやすいです。症例報告では、その症例記述から執筆し始めることをお勧めします。何よりも必要なのは、相談でき、粘り強く指導してくれる上級医です。若手医師の熱意だけに頼るのは酷なことで、指導医により英文論文が具現化します。一度成功すれば、次からは自己努力だけで大丈夫な場合がほとんどです。ネコ語に「言語バイアス」はあるか?ある特定の言語がほかの言語よりも優先されたり、優遇されたりすることで、情報の受け取り方や発信の機会が不公平になる現象を「言語バイアス」といいます。優先されている言語は、もちろん英語です。こうして、症例報告の英語執筆から言語バイアスについて考えていると、わが家の愛猫のレオが膝に乗ってきました。なんとかわいいのでしょうか。猫同士のコミュニケーションで用いられる「ネコ語」には、言語バイアスという概念は存在するのかについて考察することにします。まず、ネコ語とは何かを考えます。猫は、鳴き声(「ニャー」など)、ボディランゲージ(尾の動きや耳の位置)、匂い(フェロモン放出)などを用いてコミュニケーションを取ります。これらの手段は、猫同士でのコミュニケーションにおいても、人間との対話においても重要な役割を果たします。これらの言語に優先されるものが存在するのでしょうか? ある猫種や地域の猫が、ほかの猫よりも「標準的」とされるネコ語を話すという形での言語バイアスは考えにくいです。人間と猫との間に言語バイアスが存在する可能性があります。ある鳴き声が「かわいい」とされ、ほかの鳴き声が「うるさい」と感じられることがあります。こうした評価の差異は、人間が猫の表現に対して持つ偏見の一種ともいえます。猫が本来持つコミュニケーション手段の多様性が、人間の目には標準と異質に分けられてしまうという形で、言語バイアスが存在している可能性があるのです。人間と一緒に暮らす猫は、鳴き声を通じて人間から反応を引き出すことを学びます。このプロセスで、特定の音調や鳴き声が人間の注意を引きやすい場合、猫はそれを優先的に使用するようになる可能性があります。猫における言語バイアスは、猫が人間に対して行うコミュニケーションの中に存在するのかもしれません。深夜にこんな瞑想に時間を費やす自分は変人です。

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TAV in TAV承認で見えてきた課題と新アプリの役割/日本心不全学会

 大動脈弁狭窄症(AS)の非侵襲的治療としてカテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が日本で使用されるようになり、今年で11年目を迎える。従来TAVIの適応は80歳以上の高齢者や、バイパス術などの開胸術の既往を有するなどの高リスク症例が対象であったが、低リスク症例への適応拡大や世界的に平均寿命が延伸する昨今、弁機能不全を呈して再治療を必要とする患者が増加傾向にある。2023年には再治療の選択肢として本邦でもSAPIEN3(以下、S3)によるTAV in TAV(現在はS3 in S3に限定)が承認されたことで、TAV in TAVの課題理解は急務とも言える。一方で、外科的大動脈弁置換術(SAVR)の時点でも、将来のTAV in SAVの可能性を踏まえた弁選択が問われるところである。 今回、Redo TAVアプリ1)の開発に携わった岡田 厚氏(国立循環器病研究センター心不全・移植部門/Minneapolis Heart Institute Foundation, Valve Science Center)が『ついに始まったTAV in TAV~見えてきた新たな課題とRedo-TAVアプリの役割~』と題し、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のシンポジウムで、現状の課題と解決策について解説した。TAV in TAVで見えてきた2つの課題 一見簡単そうに見えるTAV in TAVだが、実際の症例を目の当たりにした同氏には2つの課題(Feasibility[実現可能性]、planningの複雑性)が見えてきたという。1つ目の課題である “安全に施行できる可能性”について、S3 in S3あるいはEvolut in S3は57~70%、S3 in EvolutあるいはEvolut in Evolutでは18~77%と報告2-7)されており、「以前にTAVIを受けた患者さんのうち約20~30%にはTAV in TAVが行えない可能性」に直面していると同氏はコメントした。また、2つ目の課題については、「TAV in SAVと比べると、TAV in TAVでは弁のデザインがさまざまで、留置の深さが症例ごとに異なる、in vitroとin vivoでは形や広がり方が異なる、組み合わせごとにプランニングが変わる」などを指摘し、TAV in TAV時に冠動脈血流へのリスクを理解するためには「透視で見えないLeaflet/Skirtの挙動を十分考える必要があるなど、入念なプランニングを要する」と同氏は説明した。TAV in TAVが安全に施行可能か評価するための新たな用語や概念 また、TAV in TAVを安全に施行可能かFeasibilityの評価を行うためには、以下に示す新たな用語や概念を押さえておく必要もあり、その一部を以下に示す。◯Neoskirt/Neoskirt plane TAV in TAV後、1つ目の弁のLeafletが”pinned open”されることによって形成される、血流もカテも通らない筒状の構造物。Tube graftと表現されることもある。冠動脈血流との干渉を評価するために必須で、弁の組み合わせごとにNeoskirtの高さ(Neoskirt plane)は変わり、Feasibility評価の肝となる。◯Leaflet overhang 主にShort in Tallの組み合わせ(主にS3 in Evolut)で起きうる現象。Leafletがsecond TAVの上に乗り出した状態。ベンチテストでは弁機能への影響は少ないとされているが、実臨床でのデータはまだ十分ではない。◯Sinus sequestration Sequestrationという単語は隔離・没収を意味し、Neoskirt planeがsinotubular junction(STJ)より上になり、かつVTSTJ(後述で説明)が短い場合に、Valsalva洞全体の血流が途絶する現象。◯VTSTJ Neoskirt(もしくは弁)からSTJまでの距離。Sinus sequestrationのリスク評価の際には、冠動脈入口部との距離(VTC)ではなく、VTSTJが重要となる。 TAV in TAVが安全に施行可能か評価するためには、上記のような比較的新しい用語・概念の理解が必要であり、Redo TAVアプリ内には、用語の解説や実例などの教育的コンテンツもふんだんに含まれていると紹介した。TAV in TAVに関する情報をまとめた新アプリ登場 今年にTAV in TAVに関する情報をまとめたRedo TAVアプリが追加され、Vinayak N. Bapat氏らのチームにより作成された4作目のアプリとなった。その中でも本アプリの特徴として、「Procedure guideセクションには手技動画や注意点に加え、メーカーの垣根を超えて各TAVI弁の情報を集約している。CT Planningセクションではあらゆる弁の組み合わせに対応したシステマティックなリスク評価が可能で、最後のStepで解剖学的な位置関係とリスクが一目でSummarizeされるように仕上がっている」と、1つのアプリで情報収集から手技のシミュレーションまで一貫してできる点を説明した。 最後に、同氏は「今後は、初回のTAVI治療の前から、将来の再治療(TAV in TAV)の可能性まで視野に入れた大動脈弁疾患のLifetime managementが重要となる」と発表を締めくくった。■参考1)Minneapolis Heart Institute Foundation:Digital Apps for Physicians2)Okada A, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2024;17:e013903.3)Fukui M, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2023;16:e013497.4)Miyawaki N, et al. JACC Asia. 2024;4:25-39. 5)Kawamura A, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2024;168:76-85.6)Ochiai T, et al. JACC Interv. 2023;16:1192-1204.7)Ishizu K, et al. Am J Cardiol. 2022;165:72-80.

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発作性夜間ヘモグロビン尿症に経口治療薬が登場/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の単剤経口薬イプタコパン(商品名:ファビハルタ)の発売と適正使用の推進に向けて都内でメディアセミナーを開催した。 PNHは、後天性の遺伝子異常により赤血球が補体の攻撃を受けやすくなるまれな血液疾患。わが国には約1,000例程度の患者が推定されている。進行は緩徐であるが、溶血発作を繰り返すことで血栓症や造血不全になることもあり、脳卒中や臓器障害といった重篤な合併症を引き起こすリスクがある。 イプタコパンは、新たな作用機序により、現在使われている補体C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られないPNH患者のヘモグロビン(Hb)値とQOLを改善する単剤で使用できる唯一の経口治療薬。血管内外の溶血を抑制し、Hb値を改善することでPNHの課題に対処するとともに、患者を輸血などの侵襲的な処置を伴う治療から解放する有効な治療選択肢として期待されている。本セミナーでは、PNHの診療ならびに今後の治療への展望、患者の体験談などが講演された。PNHの治療と課題 はじめに「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療と課題」をテーマに西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 招聘教授)が講演を行った。 PNHは後天性のまれな造血器疾患であり、わが国に中等症以上の指定難病の受給者証所持者が約1,000例(軽症例も含めると約2,000例は推定される)おり、年々増加している。有病率はアジア圏で高く、診断時年齢はわが国では45歳であり、性差はない。 発症は、補体活性の制御不能により引き起こされ、補体第二経路が介在することが知られている。典型的な症状として、貧血・めまい、疲労、息切れ・呼吸困難、ヘモグロビン尿症、黄疸、腹痛、嚥下困難、男性機能不全などがみられる。そして、3大徴候として「溶血、血栓症、骨髄不全」がみられ、とくに骨髄不全の有無が、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群との鑑別でのメルクマールとなる。 PNHでは、慢性溶血によりNOが枯渇し、ヘモジデリンが腎臓尿細管に沈着するために腎機能が障害される。そのためにPNH患者の64%が慢性腎臓病(CKD)であり、21%がステージ3~5であるという報告もある1)。 また、血栓症についてPNHでは、血管内溶血などにより血栓症を合併する。その多くは静脈血栓症であるが、動脈血栓症も発症し、顆粒球のクローンサイズや溶血の程度が大きいほど血栓症リスクは増加する。 PNHの診断フローチャートによれば、溶血所見を確認後、PNHを疑う場合、フローサイトメトリー検査でPNHかそうでないかを診断する。 PNHの治療については、溶血が主体か(古典的PNH)、骨髄不全が主体か(骨髄不全型PNH)で分けて考えられている。骨髄不全が主体の場合、再生不良性貧血の診療が参照となる。一方、溶血が主体の場合、重症、中等症、軽症に分けて治療が行われる。 溶血の治療では、2010年に登場した補体C5阻害薬のエクリズマブから最新の補体B因子阻害薬のイプタコパンまで数種類の治療薬が現在使用できる(ただし抗補体療法は中等症[LDH値が正常の3倍以上、年に1~2回肉眼的ヘモグロビン尿症認知、腎障害、胸痛、腹痛などの症状あり]以上が適応)。 補体C5阻害薬の使用により、血管内溶血の抑制、貧血の改善、患者のQOLの改善、血栓症の予防、ステロイドの減量・中止、抗凝固薬の減量・中止、妊娠の管理ができるなどの効果が得られる。その一方で、持続性貧血の残存2)、輸血依存、疲労感などのQOL不良、治療薬に抵抗性のある患者への対応などの課題もある。 西村氏は「PNH患者のQOL向上のために、溶血に伴う持続性貧血だけでなく、疲労の改善も今後は考える必要がある」と語り、説明を終えた。イプタコパンは貧血に伴う疲労感の改善に期待される PNHに関して、患者の生命予後は良くなったが、患者のQOLの改善は課題とされている。そこで、イプタコパンがどういう効果を及ぼすか、また、今後の治療をどう考えるかについて「国際共同第III相試験の結果から考えるPNH治療の展望」をテーマに、植田 康敬氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科 学内講師)が、イプタコパンのAPPLY-PNH試験の概要を説明した。 イプタコパンの国際共同第III相試験のAPPLY-PNH試験では、主要評価項目として、無輸血で126~168日目にHb値がベースラインから2g/dL以上増加するか、無輸血で126~168日目にHb値12g/dL以上となるかの2項目が評価された。また、副次評価項目として輸血回避、FACIT-Fatigueスコア(日常生活および機能に疲労が及ぼす影響を評価する患者報告アウトカムの指標、がん患者で頻用されている)3)のベースラインからの変化量、網状赤血球数のベースラインからの変化量などが評価された。 試験デザインとして、補体C5阻害薬投与下で貧血を呈するPNH患者97例(日本人9例を含む)について、主要評価期(24週間)にはイプタコパン群62例(日本人6例を含む)と補体C5阻害薬群35例(日本人3例を含む)に分け実施、継続投与期(24週間)には全員がイプタコパンを投与された。 その結果、血液学的奏効ではHb値の改善はイプタコパン群が82.3%だったのに対し、補体C5阻害薬では2.0%だった。また、輸血回避(無輸血)はイプタコパン群が94.8%だったのに対し、補体C5阻害薬では25.9%だった。LDH値の対ベースライン比は、イプタコパン群と補体C5阻害薬はほぼ変わらなかった。これは、血管内溶血の抑制維持を示すものとされる。 副次評価項目であるFACIT-Fatigueスコアでは、イプタコパン群が8.59だったのに対し、補体C5阻害薬では0.31だった(点数が低いほど疲労が大きい)。また、臨床的ブレイクスルー溶血の発現はイプタコパン群が2例(3.2%)だったのに対し、補体C5阻害薬では6例(17.1%)だった。 安全性面について、主な副作用として両群ともに頭痛、悪心、関節痛が報告されているが、死亡などの重篤なものは報告されなかった。 48週後の効果についてもイプタコパン群は、血液学的奏効、輸血回避も効果が持続し、FACIT-Fatigueスコアも高いまま効果が保たれ、安全面でも24週時と同様の結果だった。 植田氏は、「PNH合併症の貧血からくる疲労感が、患者のQOLや予後不良4)、認知機能に大きな影響を与えている。PNHでは貧血だけでなく、この疲労感の改善も考える必要がある。今回発売されたイプタコパンが、今後、これらの患者の疲労感の改善を促し、経口薬という身体に負担の少ない治療によりQOLが改善することを期待する」と述べ、説明を終えた。 最後にPNH患者の体験談として、「当初は15分の徒歩通勤も大変だったこと、最初のころの点滴治療がつらかったこと、現在では経口薬の治療により活動的になったことなど」が語られた。 なお、イプタコパンは、2024年6月24日に製造販売承認を取得し、同年8月15日に薬価基準収載、発売されている。効能・効果は発作性夜間ヘモグロビン尿症。用法・用量は、通常、成人に1回200mgを1日2回経口投与。薬価は7万3,218.10円となっている。

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