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世界の糖尿病罹患率、日本の女性が低下し世界最低群に/Lancet

 英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのBin Zhou氏らNCD Risk Factor Collaboration(NCD-RisC)は、200の国と地域における1990~2022年の糖尿病の罹患率と治療動向を調べ、ほとんどの国、とくに低所得国と中所得国では、罹患率の上昇に比べて糖尿病治療率(糖尿病治療薬を使用している患者の割合)はまったく増えていないか、十分には増えていないことを示した。糖尿病はプライマリケアレベルでの検出が可能で、また効果的な治療により合併症リスクを低減できるが、糖尿病治療の実態と、それがどのように変化しているのかについて十分なデータはなかった。Lancet誌2024年11月23日号掲載の報告。18歳以上1億4,100万例が参加した試験1,108件のデータを解析 対象は、18歳以上の空腹時血糖値(FPG)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、糖尿病治療に関する情報が収集された1億4,100万例であった。国・地域を代表する集団を対象に含む研究(population-representative study)1,108件のデータを用いて行われた。 「糖尿病」の定義は、FPGが7.0mmol/L以上、HbA1cが6.5%以上、または糖尿病治療薬を服用していることとし、「糖尿病治療」の定義は、糖尿病の治療薬を使用している糖尿病患者の割合とした。 ベイジアン階層メタ回帰モデルによりデータを解析し、糖尿病の罹患率と治療率を推算。結果報告では、それらの変化の事後確率が0.80超であった国の数を示した。罹患率は低所得国と中所得国で15~22%ポイント上昇 2022年において、推定8億2,800万例(95%信用区間[CrI]:7億5,700万~9億800万)の成人(18歳以上)が糖尿病を有しており、1990年から6億3,000万例(5億5,400万~7億1,300万)増加した。年齢標準化糖尿病罹患率は、女性13.9%(95%CrI:12.3~15.8)、男性14.3%(12.5~16.4)であった。 1990~2022年に年齢標準化糖尿病罹患率が上昇(事後確率0.80超)したのは、女性については131ヵ国、男性については155ヵ国であった。うち、最も上昇幅が大きかった(15~22%ポイント)のは東南アジア諸国(マレーシアなど)、南アジア諸国(パキスタンなど)、中東および北アフリカ諸国(エジプトなど)、中南米・カリブ海諸国(ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、コスタリカなど)の低所得国および中所得国であった。 年齢標準化糖尿病罹患率が上昇または低下のいずれもみられなかったのは、女性では66ヵ国、男性では44ヵ国であった。そのほとんどは中央・西ヨーロッパ諸国(デンマーク、オランダなど)、サハラ以南のアフリカ諸国(エチオピア、マラウイなど)、東アジア・太平洋諸国(シンガポールなど)、カナダ、および1990年にすでに罹患率が高かったポリネシア諸国やミクロネシア諸国の多数の島しょ国であった。日本の罹患率は女性のみ低下がみられ、2022年は世界の最低群に位置 低下(事後確率0.80超)がみられたのは、日本(女性のみ)、スペイン、フランスで、1~2%ポイントの低下であった。また、ナウル(男性)は1990年に30.7%ポイントと高かったが、7%ポイント低下していた。 2022年の糖尿病罹患率が世界で最も低かったのは、西ヨーロッパ諸国と東アフリカ諸国の男女、日本およびカナダの女性であった。一方、最も高かった国は、ポリネシア諸国、ミクロネシア諸国、カリブ海諸国(トリニダード・トバゴ、ジャマイカなど)、中東および北アフリカ諸国(エジプトなど)、パキスタン、マレーシアであった。治療率は世界の30歳以上糖尿病患者の59%が未治療 2022年において、糖尿病成人患者(30歳以上)の59%に当たる4億4,500万例(95%CrI:4億100万~4億9,600万)が治療を受けていなかった。未治療者数は1990年の3.5倍に当たる。 1990~2022年に、糖尿病治療率が上昇(事後確率0.80超)したのは、女性については118ヵ国、男性については98ヵ国であった。うち、最も治療率が改善したのは、中央・西ヨーロッパ諸国、中南米諸国(メキシコ、コロンビア、チリ、コスタリカ)、カナダ、韓国、ロシア、セーシェル、ヨルダンであった。一方、サハラ以南のアフリカ諸国、カリブ海諸国、太平洋諸島国、南・南東・中央アジア諸国のほとんどの国では、治療率の上昇はみられなかった。 2022年において、年齢標準化治療率はサハラ以南のアフリカ諸国と南アジア諸国で最も低く、一部のアフリカ諸国の治療率は10%未満であった。一方、韓国、多くの高所得の西側諸国と中央・東ヨーロッパ諸国の一部(ポーランド、チェコ、ロシアなど)、中南米諸国(コスタリカ、チリ、メキシコなど)、中東・北アフリカ諸国(ヨルダン、カタール、クウェートなど)の治療率は55%以上であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「糖尿病および未治療の糖尿病による負荷は、低所得国と中所得国でますます重くなっている。糖尿病の早期発見と効果的な治療を強化するための医療サービスを再編・供給する糖尿病プログラムと共に、健康保険制度およびプライマリヘルスケアの拡充を図るべきである」と述べている。

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慢性硬膜下血腫、補助的中硬膜動脈塞栓術は有益か/NEJM

 症候性の慢性硬膜下血腫患者において、補助的中硬膜動脈塞栓術と標準治療の併用は標準治療単独と比べて治療失敗リスクを低下させ、短期的には後遺症を伴う脳卒中や死亡の発生の増加には至らなかった。米国・Stony Brook MedicineのDavid Fiorella氏らSTEM Investigatorsが、国際多施設共同非盲検無作為化比較試験「STEM試験」の結果を報告した。慢性硬膜下血腫の治療を受けている患者は治療失敗のリスクが高い。同患者集団における補助的中硬膜動脈塞栓術の、治療失敗のリスクへの影響は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。標準治療+中硬膜動脈塞栓術vs.標準治療単独を評価 STEM試験では、画像診断で10mm超の症候性慢性の硬膜下血腫を認める患者を試験対象の適格とし、標準治療の補助として中硬膜動脈塞栓術を受ける群(塞栓術群)または標準治療単独を受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化の前に、各患者に対して外科的または非外科的な標準治療のいずれかを受けることが選択されていた。 有効性に関する主要エンドポイントは、(1)180日時点の慢性硬膜下血腫の再発または残存(>10mm)、(2)180日以内の再手術または手術による救命処置、(3)180日以内の重大な障害を伴う脳卒中、心筋梗塞またはあらゆる神経学的要因による死亡の複合とした。 安全性に関する主要エンドポイントは、30日以内の重大な障害を伴う脳卒中または全死因死亡の複合であった。主要アウトカムのイベント発生のオッズ比0.36 2020年11月~2023年5月に32の試験参加施設で310例の患者が登録され、塞栓術群に149例、対照群に161例が無作為に割り付けられた。外科的標準治療を受けたのは189例、非外科的標準治療を受けたのは121例であった。患者の平均年齢は73歳、70%が男性であった。 主要有効性解析において、主要アウトカムのイベントは塞栓術群で19/120例(16%)、対照群で47/129例(36%)に発生した(オッズ比:0.36、95%信頼区間:0.20~0.66、p=0.001)。 主要安全性解析において、30日以内の重大な障害を伴う脳卒中または全死因死亡の発生は、塞栓術群4/144例(3%)、対照群5/166例(3%)であった。180日間における全死因死亡は、塞栓術群12例(8%)、対照群9例(5%)であり、神経学的要因による死亡は塞栓術群1例(1%)、対照群3例(2%)であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、硬膜下血腫の治療における中硬膜動脈塞栓術の安全性を評価すべきであろう」と述べている。

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味覚異常の2割は口腔疾患が主因で半数強に亜鉛以外の治療が必要―歯科外来調査

 歯科における味覚障害患者の特徴を詳細に検討した結果が報告された。患者の約2割は口腔疾患が主因であり、半数強は亜鉛製剤処方以外の治療が必要だったという。北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座の坂田健一郎氏、板垣竜樹氏らの研究によるもので、「Biomedicines」に論文が9月23日掲載された。 近年、味覚異常の患者数が増加傾向にあり、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックで顕著に増加した。味覚異常の原因として古くから亜鉛欠乏が知られており、治療として通常まず亜鉛製剤の投与が行われる。しかし、亜鉛製剤が無効な症例も少なくない。また味覚障害の原因に関する研究は、耳鼻咽喉科で行われたものや既に何らかの基礎疾患を有する患者群での報告が多くを占めている。これらを背景として坂田氏らは、北海道大学病院口腔科の患者データを用いた後ろ向き研究を行った。 2007~2018年に同科を受診し味覚障害と診断された患者は322人であり、平均年齢66.3±13.1歳、女性73.3%、平均罹病期間15.2±20.0カ月だった。味覚障害の診断および原因の探索は、口腔外科専門医による問診、舌・口腔・鼻腔の観察、味覚検査、血液検査(亜鉛、銅、鉄、ビタミンB12)、唾液分泌検査、口腔カンジダ培養検査、うつレベルの評価(自己評価に基づくスクリーニングツール〔self-rating depression scale;SDS〕を使用)などにより行われた。 味覚検査は、舌の4領域に4種類の味質を使用して味を感じる閾値を特定し、年齢を考慮して判定するろ紙ディスク法、または、口の中全体で味を感じ取れるか否かで診断する全口腔法という2種類の検査法を施行し、量的味覚障害または質的味覚障害と診断された。これら両者による診断で、年齢、性別の分布に有意差はなかった。また血清亜鉛濃度も、量的味覚障害の患者群が73.1±16.3μg/dL、質的味覚障害の患者群が73.4±15.8μg/dLであり、有意差がなかった(血清亜鉛濃度の基準範囲は一般的に80μg/dLが下限)。ただし、味覚障害の主因については、心因性と判定された患者の割合が、量的味覚障害群に比べて質的味覚障害群では約1.5倍多いという違いが見られた。 全体解析による味覚障害の主因は、心因性が35.1%、口腔疾患(口腔カンジダ症、口腔乾燥症など)が19.9%、亜鉛欠乏が10.2%、急性感染症が5.0%、全身性疾患が5.0%、医原性(薬剤性以外)が2.5%、薬剤性が1.9%、特発性(原因が不明または特定不能)が20.5%だった。 この結果から、歯科で味覚障害と診断された患者では、亜鉛欠乏が主因のケースはそれほど多くなく、むしろ心因性や口腔疾患による味覚障害が多いことが明らかになった。また、実際に行われていた治療を見ると、半数以上の患者が亜鉛製剤処方以外の処置を要していた。これらを基に著者らは、「味覚異常を訴え歯科を受診した患者の場合、血清亜鉛値から得られる情報は参考程度にとどまる。臨床においては、低亜鉛血症を認めた場合は亜鉛製剤を処方しながら味覚障害の原因探索を進めるという対応がベストプラクティスと言えるのではないか」と述べている。また、心因性の味覚障害が多数を占めることから、「診断のサポートとしてSDSなどによるうつレベルの評価が有用と考えられる」と付け加えている。

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70歳未満の長生きの向上―過去と未来(解説:名郷 直樹氏)

 高齢者でなく70歳未満を対象にして、世界の10の地域、人口の多い30ヵ国を対象に、10年間の早期死亡確率とそのばらつき、今後50年の予想を検討した論文である。 長寿化による避けられない死より、それ以前の若年での死亡を検討するという視点は、「人生100年時代」と超高齢者まで生きることばかりを喧伝し、若年者の健康に対しての提言がはっきりしない日本の現状に対しても大きな意味を持つ研究である。 早期の死亡確率は“probability of premature death(PPD)”として定義されており、ある年齢Xからn年経過した時点の死亡確率IxとIx+nの差をIxで割ったものを年齢X時点の早期死亡確率と定義している。たとえば、0歳時の死亡確率を0.08%、70歳時点での死亡確率を1.5%とするとPPDは{(1.5-0.08)/100}/(0.08/100)=17.75になる。 この論文では、70歳以前の死亡を早期死亡と定義し、PPDを各集団で比較している。全体の解析ではPPDが31%、2010-19年の変化率で1.3%と報告している。また国別の2019年時点のPPDは、30ヵ国中、日本、韓国、イタリアが12%と最も低い値を示している。さらに2010-19年の変化率では韓国が3.1%とトップで、日本は1.9%で9位である。ここで注目すべきことの1つとして、米国だけが+0.1%と死亡率の増加を示している点である。格差社会の拡大が関係しているのかもしれない。上流階級での改善が、黒人や移民などの死亡率の悪化でかき消されているというのは1つの仮説にすぎないが、今後日本でも起こりうることかもしれない。 日本は平均余命で世界のトップクラスにあるのと同様に、70歳以前の死亡も世界で最も少ない部類に入ることが示され、その変化率が小さいことからすれば、世界で最も早い時点で70歳以前の死亡確率の低下を達成したと思われる。しかしながら、これがこのまま続くかどうかの保証はない。むしろ、医療費削減、介護費の削減、国民皆保険の自己負担の増加、あるいは皆保険の見直しなど、現状維持さえも困難になるような状況かもしれない。 少子化対策が強調される中、高齢者にかけるコストの削減がその背景で進んでいる。103万円の壁の議論はまさにその1つだろう。こうしたデータはそれを後押しするように使われるかもしれない。しかし、さらに50年が経過すれば、今の少子化世代が高齢に差し掛かり、まったく別の世界観が必要になるだろう。先進国での高齢者の減少と少子化対策による人口増加、発展途上国における人口の急激な増大となれば、以前問題となったように、少子化よりも人口増加が問題になり、人口の減少をどう達成するかが最も重要なこととして取り上げられる時代になるかもしれない。そうした将来に対して、この論文をどう読むか、読者であるわれわれに課された大きな問題である。

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制か

 高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)患者で高頻度にみられる。高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法については、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎機能を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることが条件付きで推奨されている1)。また、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、保存期CKD患者に対する尿酸低下療法について、「腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい」とされている2)。しかし、CKD患者における血清尿酸値の管理目標に関する無作為化比較試験は存在しない。中国・中南大学のYilun Wan氏らの研究グループは、英国のデータベース(IQVIA Medical Research Data[IMRD])を用いて、痛風を有するCKDステージ3の患者への尿酸低下療法について、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成の有無別に腎機能への影響を検討した。その結果、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成群は、非達成群と比較して腎機能障害の進展が増加せず、むしろ抑制される可能性が示された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年11月25日号で報告された。 本研究の対象は、IMRDに登録された40~89歳の痛風を有するCKDステージ3(eGFR 30~60mL/min/1.73m2が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ3の診断記録を有する)で、尿酸降下薬による治療を受けた患者1万4,792例であった。対象患者を尿酸降下薬開始から1年以内の血清尿酸値6.0mg/dL未満の達成の有無で分類し(達成群/非達成群)、腎機能への影響を検討した。両群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。target trial emulationの手法として、cloning-censoring-weighting法を用いて、達成群と非達成群を比較した。評価項目は腎機能高度低下または末期腎不全(eGFR 30mL/min/1.73m2未満が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ4/5、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかの診断記録を有する)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(平均値±標準偏差[SD])は73.1±9.5歳で、男性は62.3%(9,215例)であった。ベースライン時の血清尿酸値、eGFR(いずれも平均値±SD)は、それぞれ8.9±1.6mg/dL、49.9±12.3mL/min/1.73m2であった。・尿酸降下薬の内訳は、アロプリノールが98.8%(1万4,615例)、フェブキソスタットが1.2%(177例)であった。・尿酸降下薬開始から1年以内に血清尿酸値6.0mg/dL未満を達成した割合は31.8%(4,706例)であった。・追跡開始から5年間の腎機能高度低下または末期腎不全の発生率は、達成群が10.32%、非達成群が12.73%であり、調整リスク差は-2.41%(95%信頼区間[CI]:-4.61~-0.21)、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.80~0.98)であった。・末期腎不全の発生率は、達成群が0.6%、非達成群が1.2%であり、調整リスク差は-0.63%(95%CI:-0.94~-0.32)、HRは0.67(95%CI:0.46~0.97)であった。 本研究結果について、著者らは「痛風を有するCKD患者において、血清尿酸値6.0mg/dL未満を目標とする尿酸低下療法は、忍容性が良好であり、CKDの進展を抑制する可能性も示された」と考察し、「痛風を有するCKD患者の治療において、血清尿酸値の目標値を達成するために、尿酸降下薬による治療を最適化することを支持するものである」とまとめた。

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日本人双極症と関連する遺伝子をゲノム解析で同定

 双極症は、躁/軽躁状態と抑うつ状態の間での気分変動を特徴とする精神疾患である。双極症には、シナプス遺伝子のエクソン領域と重複するまれな病原性遺伝子コピー数変異(CNV)と関連している。しかし、双極症に関連するシナプス遺伝子のCNVを包括的に調査した研究は、これまでになかった。名古屋大学の中杤 昌弘氏らは、エクソン領域に限定せず、日本人集団におけるシナプス遺伝子と重複するまれなCNVと双極症との関連を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年10月15日号の報告。 双極症患者1,839例、対照群2,760例を対象に、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)を用いて、CNVを検出した。シナプス遺伝子と重複するまれなCNVを特定するため、シナプス遺伝子オントロジー(SynGO)データベースを用いた。遺伝子ベース解析を用いて、双極症患者と対照群における頻度を比較した。双極症に関連するシナプス遺伝子セット解析を行った。有意水準は、偽陽性率(false discovery rate:FRD)を10%に設定した。 主な結果は以下のとおり。・RNF216遺伝子と双極症との有意な関連が認められた(オッズ比:4.51、95%信頼区間:1.66〜14.89、FRD<10%)。・RNF216遺伝子に対応する双極症関連CNVは、7p22.1微小重複症候群において原因と考えられている領域(minimal critical region)と一部重複していた。・さらに、遺伝子セット解析を行い、シナプス後膜の不可欠な構成要素にかかわる遺伝子群が双極症と関連することも発見した。・GRM5遺伝子のイントロン領域と重複するCNVは、双極症患者と対照群との間で有意な関連が認められた(p<0.05)。 著者らは「本検討により、RNF216遺伝子およびシナプス後膜関連遺伝子のCNVと双極症リスクとの関連が示唆された」とし「ゲノム解析の結果を活用することで、双極症の病態解明や個別化医療の実現に寄与することが期待される。将来、早期のリスク評価と予防的介入により、患者のQOL向上につながる可能性がある」と結論付けている。

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2050年までの早期死亡改善に必要なことは?/Lancet

 2050年までに世界の年間の早期死亡(70歳未満の死亡)の割合を半減させ、全年齢層で生活の質(QOL)を向上させることは可能と考えられるが、高パフォーマンス国と中パフォーマンス国が早期死亡の改善率を維持または加速度的に上昇させるためには、子供と成人の健康に対する多額の投資を要することが、ノルウェー・ベルゲン大学のOle F. Norheim氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年11月20日号に掲載された。10地域と人口の多い30ヵ国のクロスカントリー分析 研究グループは、2050年までの早期死亡率の半減は可能かの検証を目的に、70歳に至る前の死亡率の大きなばらつきと、過去50年間(1970~2019年)のその傾向を、世界の10の地域と最も人口の多い30ヵ国で比較するクロスカントリー分析を行った(ノルウェー開発協力局[NORAD]などの助成を受けた)。 早期死亡の割合(probability of premature death:PPD)に関するすべての分析には、国際連合(UN)世界人口推計(World Population Prospects)2024年版の生命表を用いた。これらの生命表から、1年ごとの年齢別死亡率を用いて性別、国別、年別の死亡の割合を算出した。70歳未満の死亡率は半世紀で56%から31%に減少 世界全体のPPDは、1970年の56%から2019年には31%に減少したが、紛争や社会的不安定、HIV/AIDSにより逆に増加した国もあった。また、成人と比較して子供の死亡率は、より迅速に低下していた。 1970~2019年の半世紀に、31年以内にPPDの半減を達成したのは、世界のすべての国のうちでは34ヵ国で、人口の多い上位30ヵ国のうちでは7ヵ国(バングラデシュ[半減に要した期間:1991~2022年]、イラン[1983~2006年]、中国[1970~2001年]、ベトナム[1972~1995年]、韓国[1992~2011年]、イタリア[1983~2012年]、日本[1970~2001年])であった。人口が多く、最近の改善率が良好な国は7ヵ国 人口の多い上位30ヵ国のうち、2010~2019年の期間に年平均値(2.2%)を超える改善率を達成したのは7ヵ国(韓国[3.9%]、バングラデシュ[2.8%]、ロシア[2.7%]、エチオピア[2.4%]、イラン[2.4%]、南アフリカ共和国[2.4%]、トルコ[2.3%])であった。この状況が持続すれば、2050年までにPPDが半減する可能性があると考えられた。 著者は、「早期死亡を減少させることで、より多くの人々が健康で長生きできるようになると考えられるが、寿命の延長に伴って慢性疾患の罹患期間が長期化する人々が増えるため、慢性疾患の罹患率を抑制するための投資も必要となるだろう」としている。

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HER2+乳がん術前補助療法のde-escalation、トラスツズマブ+ペルツズマブ+nab-パクリタキセルが有望(HELEN-006)/Lancet Oncol

 HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブ+ペルツズマブにドセタキセル+カルボプラチンを併用した標準レジメンより、トラスツズマブ+ペルツズマブにnab-パクリタキセルを併用したde-escalation治療のほうが有用な可能性が示唆された。中国・The Affiliated Cancer Hospital of Zhengzhou University and Henan Cancer HospitalのXiu-Chun Chen氏らが、多施設共同無作為化第III相HELEN-006試験において主要評価項目である病理学的完全奏効(pCR)の最終解析結果を報告した。The Lancet Oncology誌オンライン版2024年11月26日号に掲載。・対象: 18~70歳、StageII/IIIの未治療浸潤性HER2+乳がん患者・試験群:nab-パクリタキセル(125mg/m2、1、8、15日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・対照群:ドセタキセル(75mg/m2、1日目)+カルボプラチン(AUC6、1日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・主要評価項目:pCR(ypT0/is ypN0)(modified ITT) 主な結果は以下のとおり。・2020年9月20日~2023年3月1日に689例を無作為に割り付けた(nab-パクリタキセル群343例、ドセタキセル+カルボプラチン群346例)。689例全例がアジア人女性で、 669例(nab-パクリタキセル群332例、ドセタキセル+カルボプラチン群337例)が1回以上の試験治療を受けた。年齢中央値は50歳(四分位範囲:43~55)、追跡期間中央値は26ヵ月(同:19~32)だった。・pCR例は、nab-パクリタキセル群が220例(66.3%、95%信頼区間[CI]:61.2~71.4)、ドセタキセル+カルボプラチン群が194例(57.6%、95%CI:52.3~62.9)だった(複合オッズ比:1.54、95%CI:1.10~2.14)。 ・Grade3/4の有害事象は、nab-パクリタキセル群で100例(30%)、ドセタキセル+カルボプラチン群で128例(38%)に認められ、多かったGrade3/4の有害事象は悪心(nab-パクリタキセル群、ドセタキセル+カルボプラチン群の順に22例、76例)、下痢(25例、55例)、神経障害(43例、8例)であった。 ・重篤な薬剤関連有害事象は、nab-パクリタキセル群で3例、ドセタキセル+カルボプラチン群で5例に報告され、両群とも治療関連死亡は報告されなかった。  著者らは、「この結果は、HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブおよびペルツズマブとnab-パクリタキセルの併用が標準レジメンより利点がある可能性を示唆するものであり、この新しい併用療法がこの患者集団における術前補助療法の新たな標準療法を確立する可能性を示唆する」としている。

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英語で「呼吸音は正常です」は?【1分★医療英語】第159回

第159回 英語で「呼吸音は正常です」は?《例文1》Despite the patient's prolonged cough, the lungs were clear to auscultation bilaterally.(患者の長引く咳にもかかわらず、呼吸音は両側正常でした)《例文2》The physical exam showed that the lungs are clear to auscultation, ruling out any respiratory distress.(身体検査では 肺は聴診で異常がなく[呼吸音は正常であり]、呼吸困難が除外されました)《解説》今回は、身体診察の所見についての英語表現を解説します。英語でカルテに記載したり、医療者にプレゼンしたりする際には、日本語と同様に「肺の聴診音は清」というような表現法が使われます。そのため「清」を表す“clear”、そして聴診の“auscultation”を用いて“clear to auscultation”というように記載されます。ちなみに、米国の医療現場では略語が使われることも多く、カルテでは多くの所見が略語で記載されています。最近の流れでは「意味がわかりにくい略語はやめよう」という動きもありますが、いまだに多くの略語が使用されているのが現状です。今回の“clear to auscultation”も例外ではなく、カルテなどでは“CTA”もしくは“CTAB”と記載されることが多いです。“CTAB”の「B」は“bilaterally”「両側」という意味ですので、“Lungs CTAB”とあれば「肺聴診音は両側清」という意味になりますね。ちなみにラ音は“rale”と記載されます。いびき音は“rhonchi”、喘鳴音は“wheeze”です。せっかくの機会なので英語の呼吸音をまとめて覚えてしまいましょう。講師紹介

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新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」【最新!DI情報】第28回

新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」今回は、筋萎縮性側索硬化症用剤「メコバラミン(商品名:ロゼバラミン筋注用25mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、治療薬が限られている筋萎縮性側索硬化症の新たな選択肢として、運動機能の低下抑制が期待されています。<効能・効果>筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得し、11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、メコバラミンとして50mgを1日1回、週2回、筋肉内に注射します。本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師または医師の直接の監督の下で行います。在宅自己注射は、医師がその妥当性を慎重に検討し、患者またはその家族が適切に使用可能と判断した場合にのみ適用されます。<安全性>重大な副作用には、アナフィラキシー(頻度不明)があります。本剤の臨床試験ではアナフィラキシーの副作用報告はありませんでしたが、低用量メコバラミン製剤でアナフィラキシーが報告されています。その他の副作用は、白血球数増加、注射部位反応(いずれも1%以上)、発疹、頭痛(いずれも1%未満)、発熱感、発汗(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.筋委縮性側索硬化症(ALS)の進行によって生じる運動機能の低下を抑制する薬です。2.1日1回、週2回、筋肉内に注射します。3.注射は、医療関係者や医師の指導を受けた上で、患者本人またはご家族が行うことができます。4.在宅自己注射のために処方された薬剤の入ったバイアルは、処方された際に入っていた外箱や遮光した箱に入れた状態で保管してください。5.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。<ここがポイント!>筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが変性する進行性の難治性神経変性疾患です。症状は一般的に四肢の筋力低下から始まり、構音障害(発音困難)や嚥下障害が生じます。発症から2〜4年で呼吸筋麻痺による呼吸不全に進行し、人工呼吸器の装着で延命が可能ですが最終的には死に至ります。治療薬としては、ALSの機能障害の進行を抑制するリルゾールやエダラボンが使用されていますが、現在のところ確立された根治療法はありません。メコバラミンは、活性型ビタミンB12の一種であり、末梢神経障害やビタミンB12欠乏症による巨赤芽球性貧血の治療薬として使用されてきました。一方、以前より高用量のメコバラミンがALS患者に対し有効である可能性が示唆されていました。このため、エーザイはALS患者を対象に治験を実施し、2015年5月に新薬承認申請を行いましたが、追加試験が必要と判断されて2016年3月に申請を取り下げました。その後、医師主導治験として実施された高用量メコバラミンのALS患者に対する第III相試験において、高用量メコバラミンの有効性、安全性および忍容性が確認されたことから、再度承認申請が行われました。ALSに対するメコバラミンの作用機序の詳細は解明されていませんが、ホモシステイン誘発細胞死の抑制によるものと考えられています。孤発性または家族性ALS患者を対象とした医師主導の国内第III相試験(国内763試験)において、主要評価項目であるベースラインから治療期16週目までの日本語版改訂ALS Functional Rating Scale(ALSFRS-R)の合計点数の変化量は、プラセボ群が-4.6、本剤50mg群が-2.7でした。群間差(本剤50mg群-プラセボ群)は2.0(95%信頼区間:0.4~3.5、p=0.012)であり、本剤50mg群のプラセボに対する優越性が検証されました。

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第243回 ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連

ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連勃起不全(ED)薬としてよく知られるタダラフィルやシルデナフィル使用と死亡、心血管疾患、認知症の減少との関連がテキサス大学医学部(UTMB)のチームの研究で示されました1,2)。タダラフィルとシルデナフィルはどちらもPDE5阻害薬であり、血流改善・血圧低下・内皮機能向上・抗炎症作用により心血管の調子をよくすると考えられています。それら成分は肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療にも使われ、タダラフィルは前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の治療薬としても発売されています。UTMBのDietrich Jehle氏らの今回の研究は世界中の2億7,500万例超の臨床情報を集めるTriNetXに収載の米国男性5千万例の記録を出発点としています。それら5千万例から、ED診断後のタダラフィルかシルデナフィル処方、または下部尿路症状診断後のタダラフィル処方があった40歳以上の男性が同定されました。3年間の経過を比較したところ、タダラフィルかシルデナフィルが処方されたED患者は、非処方患者に比べて死亡、心血管疾患、認知症の発生率が低いことが示されました。具体的には50万例強の解析で以下のような結果が得られており、血中でより長く活性を保つタダラフィルがシルデナフィルに比べて一枚上手でした。全死亡率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは24%低下心臓発作発生率タダラフィルは27%低下、シルデナフィルは17%低下脳卒中発生率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは22%低下静脈血栓塞栓症(VTE)発生率タダラフィルは21%低下、シルデナフィルは20%低下認知症発生率タダラフィルは32%低下、シルデナフィルは25%低下下部尿路症状患者のタダラフィル使用は一層有益でした。40歳以上の下部尿路症状患者100万例超のうち、タダラフィル使用群の死亡、心臓発作、脳卒中、VTE、認知症の発生率はそれぞれ56%、37%、35%、32%、55%低くて済んでいました。やはり米国のED男性を調べた別の観察試験3,4)でもPDE5阻害薬やタダラフィルと死亡や心血管疾患の減少の関連が示されています。今春2月にClinical Cardiology誌に結果が掲載されたその1つ3)ではEDと診断されてタダラフィルが処方された男性8千例強(8,156例)とPDE5阻害薬非処方の2万例強(2万1,012例)が比較され、タダラフィル使用群の心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、冠動脈血行再建、不安定狭心症、心不全、脳卒中)の発生率がPDE5阻害薬非使用群に比べて19%低いことが示されました。また、タダラフィル使用患者の死亡率は44%低くて済んでいました。タダラフィルと心血管転帰の発生率低下の関連は用量依存的らしく、同剤の使用量が上位4分の1の患者は心血管転帰の発生率が最小でした。有望ですがあくまでもレトロスペクティブ試験の結果であり、次の課題として男性と女性の両方でのプラセボ対照無作為化試験が必要だと著者は言っています3)。参考1)Jehle DVK, et al. Am J Med. 2024 Nov 10. [Epub ahead of print]2)Study finds erectile dysfunction medications associated with significant reductions in deaths, cardiovascular disease, dementia / The University of Texas Medical Branch 3)Kloner RA, et al. Clin Cardiol. 2024;47:e24234.4)Kloner RA, et al. J Sex Med. 2023;1:38-48.

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ワクチン同時接種、RSV+インフルエンザ/新型コロナの有効性は?

 高齢者における呼吸器疾患、とくにRSウイルス(RSV)、インフルエンザ、新型コロナ感染症は重症化リスクが高く、予防の重要性が増している。mRNA技術を用いたRSVワクチンとインフルエンザワクチン(4価)または新型コロナワクチンの同時接種の安全性と免疫原性を評価した研究結果が、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年11月25日号に掲載された。 本研究は、50歳以上の健康な成人を対象とし、2部構成でそれぞれ下記の3群に分けて接種した。主要評価項目は同時接種群の単独接種群に対するRSVの免疫反応(Geometric Mean Ratio:GMRの95%信頼区間[CI]>0.667、血清反応率の差の95%CI>-10%)と安全性の非劣性だった。【パートA】2022年4月1日~6月9日:1,623例1)RSVワクチン(mRNA-1345:モデルナ)+インフルエンザワクチン(4価):685例(42%)2)RSVワクチン+プラセボ:249例(15%)3)インフルエンザワクチン+プラセボ:689例(42%)【パートB】2022年7月27日~9月28日:1,681例1)RSVワクチン+新型コロナワクチン(mRNA-1273.214:モデルナ):564例(34%)2)RSVワクチン+プラセボ:558例(33%)3)新型コロナワクチン+プラセボ:559例(33%) 主な結果は以下のとおり。・【パートA】RSV-Aに対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.81(95%CI:0.67~0.97)、血清反応率の差は-11.2%(95%CI:-17.9~-4.1)であった。・【パートB】RSV-A に対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.80(95%CI:0.70~0.90)、血清反応率の差は-4.4%(95%CI:-9.9~1.0)であった。・同時接種の安全性プロファイルは、単独接種の場合とおおむね一致した。・接種後7日以内の局所反応(注射部位の痛みなど)や全身反応(倦怠感、頭痛など)は軽度から中等度が大半だった。深刻な副反応や接種に関連した死亡例は報告されなかった。 研究者らは「RSVワクチン+インフルエンザワクチン、またはRSVワクチン+新型コロナワクチンの同時接種は、50歳以上の成人において、各ワクチンの単独接種と比較して許容できる安全性プロファイルを示し、ほとんどの場合で免疫反応は非劣性だった。ただし、RSVワクチン+インフルエンザワクチンにおける血清反応率の差は、非劣性の基準を満たさなかった。全体として、これらのデータは、この集団における同時接種を支持するものであり、本研究の継続でより長期の評価がされる」とした。

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飽和脂肪酸摂取量がアルツハイマー病リスクと関連

 食事中の脂肪摂取とアルツハイマー病との関連は、観察研究において議論の余地のある関係が示されており、その因果関係も不明である。中国・北京大学のYunqing Zhu氏らは、総脂肪、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取がアルツハイマー病リスクに及ぼす影響を評価し、その因果関係を調査した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2024年10月11日号の報告。 UKバイオバンクとFinnGenコンソーシアムから得られたゲノムワイド関連研究(GWAS)の要約統計を用いて、2サンプルメンデルランダム化分析を実施した。UKバイオバンクの各種脂肪摂取の研究には、5万1,413例が含まれた。FinnGenコンソーシアムの遅発性アルツハイマー病(4,282例、対照群:30万7,112例)、すべてのアルツハイマー病(6,281例、対照群:30万9,154例)のデータを分析に含めた。さらに、炭水化物とタンパク質の摂取量とは無関係の影響を推定するため、多変量メンデルランダム化(MVMR)分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・総脂肪、飽和脂肪酸の摂取量の標準偏差当たりの遺伝的に予測される増加率は、遅発性アルツハイマー病で、それぞれ44%(オッズ比[OR]:1.44[95%信頼区間[CI]:1.03〜2.02])、38%(OR:1.38[95%CI:1.002〜1.90])高いこととの関連が認められた(p=0.049)。・MVMR分析でも、この関連性は有意なままであった(総脂肪のOR:3.31[95%CI:1.74〜6.29]、飽和脂肪酸のOR:2.04[95%CI:1.16〜3.59])。・MVMR分析では、総脂肪および飽和脂肪酸の摂取は、すべてのアルツハイマー病リスク上昇との関連が認められた(総脂肪のOR:2.09[95%CI:1.22〜3.57]、飽和脂肪酸のOR:1.60[95%CI:1.01〜2.52])。・多価不飽和脂肪酸の摂取量は、遅発性アルツハイマー病およびすべてのアルツハイマー病との関連が認められなかった。 著者らは「食事中の総脂肪摂取、とくに飽和脂肪酸の摂取は、アルツハイマー病リスクに寄与し、その影響は他の栄養素とは無関係であることが示唆された。食事中の飽和脂肪酸摂取量を減らすことは、アルツハイマー病の予防戦略およびマネジメントに役立つであろう」と結論付けている。

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HBV母子感染予防、出生時HBIG非投与でもテノホビル早期開始が有効か/JAMA

 B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染は新規感染の主要な経路であり、標準治療として母親への妊娠28週目からのテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)投与開始と、新生児への出生時のHBVワクチン接種およびHBV免疫グロブリン(HBIG)投与が行われるが、医療資源が限られた地域ではHBIGの入手が困難だという。中国・広州医科大学のCalvin Q. Pan氏らは、妊娠16週からのTDF投与とHBVワクチン接種(HBIG非投与)は標準治療に対し、母子感染に関して非劣性であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年11月14日号で報告された。中国の無作為化非劣性試験 研究グループは、妊婦へのTDF早期投与開始と新生児への出生時HBIG投与省略がHBVの母子感染に及ぼす影響の評価を目的とする非盲検無作為化非劣性試験を行い、2018年6月~2021年2月に中国の7施設で参加者を募集した(John C. Martin Foundationの助成を受けた)。 年齢20~35歳、HBe抗原陽性の慢性B型肝炎でHBV DNA値>20万IU/mLの妊婦280例(平均年齢28[SD 3.1]歳、平均妊娠週数16週、HBV DNA値中央値8.23[7.98~8.23]log10 IU/mL)を登録した。 これらの妊婦を、妊娠16週目から出産までTDF(VIREAD[Gilead Sciences製]、300mg/日)を投与する群(実験群)に140例、妊娠28週目から出産までTDFを投与する群(標準治療群)に140例を無作為に割り付けた。すべての新生児は生後12時間以内にHBVワクチンの接種を受け、1ヵ月および6ヵ月後に追加接種を受けた。加えて、標準治療群の新生児のみ、出生時にHBIG(100 IU)を投与された。 主要アウトカムは母子感染とし、生後28週時の乳児における20 IU/mL以上の検出可能なHBV DNA値またはHBs抗原陽性の場合と定義した。母子感染率が、標準治療群と比較して実験群で3%以上増加しなかった場合に非劣性と判定することとし、90%信頼区間(CI)の上限値で評価した。ITT集団、PP集団とも非劣性基準を満たす 全生産児273例(ITT集団)における母子感染率は、実験群が0.76%(1/131例)、標準治療群は0%(0/142例)であった。また、per-protocol(PP)集団の生産児(プロトコールの非順守がなく28週時点のデータが入手できた)265例の母子感染率は、それぞれ0%(0/124例)および0%(0/141例)だった。 母子感染率の群間差は、ITT集団で0.76%(両側90%CIの上限値1.74%)、PP集団で0%(1.43%)と、いずれも非劣性の基準を満たした。 また、母親における分娩時のHBV DNA値<20万IU/mLの達成率は、実験群で有意に高かった(99.2%[130/131例]vs.94.2%[130/138例]、群間差:5%、両側95%CI:0.1~10.0、p=0.02)。 先天異常/奇形は、実験群で2.3%(3/131例)、標準治療群で6.3%(9/142例)に発生した(群間差:4%、両側95%CI:-8.8~0.7)。忍容性は全般的に良好 母親へのTDF治療は全般的に忍容性が高く、投与中止は吐き気による1例(0.36%)のみであった。コホート全体で最も頻度の高かった有害事象として、母親のALT値上昇が25%(実験群23.6% vs.標準治療群26.4%)、上気道感染症が14.6%(11.4% vs.17.8%)、嘔吐が12.9%(16.4% vs.9.3%)で発生した。 実験群では、妊娠中絶1件(ファロー四徴症)、胎児死亡4件(流産1件、死産3件)を認めた。新生児におけるグレード3/4の有害事象の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの結果は、とくにHBIGを使用できない地域では、HBV母子感染の予防において、妊娠16週目から妊婦へのTDFを開始し、新生児へのHBVワクチン接種を併用する方法を支持するものである」「新生児へのHBIG使用を最小限に抑えるための母親へのTDF療法の最適な期間はいまだ不明である」としている。

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手術ロボットが動画で手術手順を学習

 ロボットが初めて、経験豊富な外科医による手術動画を見て学習し、その手術手技を人間の医師と同じくらい巧みに実行できたとする研究結果が、米ジョンズ・ホプキンス大学のAxel Krieger氏らにより報告された。研究グループは、「このような模倣学習を利用して手術ロボットをトレーニングすることにより、手術中に必要な手技を逐一プログラムする必要がなくなり、ロボットが人間の手助けなしで複雑な手術を行えるようになることが期待される」と述べている。この研究結果は、ロボット学習学会(CoRL 2024、11月6〜9日、ドイツ・ミュンヘン)で発表された。 研究グループの説明によると、この手術ロボット(ダヴィンチ・サージカルシステム、以下、ダヴィンチシステム)は、ChatGPTの基盤と同じ人工知能(AI)を搭載しているが、言葉やテキストの処理を中心に行うChatGPTとは異なり、動きを数学的に表現する言語であるキネマティクス(運動学)に重点を置いている。ダヴィンチシステムはすでに医療現場で広く使用されているが、研究グループによると、その精度は低いという。研究グループは、その欠点を克服する上で重要なのが、モデルに絶対的な動きではなく、相対的な動きを実行させるようにトレーニングすることだと述べている。 今回、研究グループは、この手術ロボットに何百本もの手術動画を見せ、手術に必要とされる3つの重要な手技(針の操作、体組織の持ち上げ、縫合)を実行できるようにトレーニングした。その結果、手術ロボットは、それらの手技を人間の医師と同じくらいの精度で行えるようになったことが確認された。 研究グループのメンバーであるジョンズ・ホプキンス大学のJi Woong Kim氏は、「われわれが画像入力するだけで、AIモデルが適切な動作を見つけ出す。数百回のデモンストレーションだけで、モデルは手技を学習し、未経験の新しい環境にも適応できることが分かった」と述べている。Krieger氏はこの点について、「このモデルは、われわれが教えていないこともとても上手に学習する。例えば、針を落としても自分で拾って動作を続ける。これは、私が教えたことではない」と説明している。 研究グループは現在、この手術ロボットに縫合のような外科手術の部分的なタスクではなく、手術全体を行えるように教えている最中だという。Krieger氏は、「これ以前の手術ロボットでは、手術の単純な部分を行わせるのに必要な全ての作業を手動でコーディングする必要があった。そのため、ロボットに1種類の手術のための縫合を教えるのに10年かかることもあり得た」と話す。さらに同氏は、「今回の手術ロボットでは、模倣学習のために、さまざまな手術手技の記録を集めるだけで、ロボットにその手順を数日で学習させられる点が新しい。これにより、医療ミスを減らし、より正確な手術を実現しながら、自律性の目標に向かって加速することができる」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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成人ADHD患者における自殺リスク評価、発生率や関連因子は

 注意欠如多動症(ADHD)と自殺傾向との関連性は、近年ますます研究対象としての関心が高まっている。自殺傾向の評価は、一般的にカテゴリ別に評価されており、検証済みの方法が使用されていないため、不均一あるいは矛盾する結果につながっている。自殺念慮や自殺企図の発生率は大きく異なり、関連するリスク因子も明らかになっていない。イタリア・トリノ大学のGabriele Di Salvo氏らは、次元アプローチおよび国際的に認められた検証済みの方法を用いて、ADHDにおける自殺傾向を調査した。Annals of General Psychiatry誌2024年11月1日号の報告。 成人ADHD患者74例における自殺念慮、重度の自殺念慮、自殺行動、非自殺的自傷行動の発生率を評価するため、本研究を実施した。また、自殺傾向リスクの増加と関連する社会人口統計学的および臨床的特徴の検討も行った。自殺傾向の評価には、コロンビア自殺重症度評価尺度(C-SSRS)を用いた。自殺念慮、重度の自殺念慮、自殺行動、非自殺的自傷行動の予測因子を調査するため、ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・自殺念慮、重度の自殺念慮の生涯発生率は、それぞれ59.5%、16.2%であった。・生涯にわたる自殺行動は9.5%、非自殺的自傷行動は10.8%で認められた。・生涯にわたる自殺念慮は、成人期の不注意症状の重症度、自尊心低下、社会的機能障害と関連していた。・生涯にわたる重度の自殺念慮は、小児期の不注意症状の重症度、注意衝動性、入院回数と関連し、身体活動は保護的に作用していることが示唆された。・生涯にわたる自殺行動および非自殺的自傷行動の発生率は、社会人口統計学的または臨床的特徴との有意な関連が認められなかった。 著者らは「成人ADHD患者は、自殺リスクを有していると考えるべきであり、予防的介入を行うためにも、高リスク患者を特定することが重要である。ADHDと自殺念慮との関連性は、精神疾患の併存ではなく、ADHDの中核症状である不注意症状が影響を及ぼしている可能性が示唆された」と結論付けている。

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高齢者が健康長寿でいられるBMIは22.5~23.5/早大ほか

 高齢者が健康で長生きできる理想的な体型はあるのだろうか。このテーマに対して渡邉 大輝氏(早稲田大学スポーツ科学学術院)らの研究グループは、わが国の高齢者約1万人を対象に調査研究を行った。その結果、フレイルでもフレイルでもない高齢者のどちらでも、体格の指標であるBMIが22.5~23.5で最も介護認定を受けるリスクが低いことが示された。また、BMIが18.5未満の痩せている人は介護認定を受ける前に死亡する可能性が高く、その一方でBMIが27.5以上の肥満の人は障害を伴う生存期間が長いことが示された。International Journal of Obesity誌オンライン版2024年11月15日からの報告。BMIの高低、フレイルの有無で障害生存期間に差 研究グループは、フレイルのある高齢者とフレイルのない高齢者で、BMIと全生存年齢、障害および無障害生存率との関連について調査を行った。本研究では、2011~16年に実施された京都亀岡スタディで有害事象の追跡調査を受けた65歳以上の成人1万232人を登録。BMIは、自己申告による身長と体重に基づいて算出され、18.5未満、18.5~21.4、21.5~24.9、25.0~27.4、27.5以上の5つのカテゴリーに分類した。フレイルは、基本チェックリストを用いて評価し、BMIと障害および死亡率との関係は、多変量Cox比例ハザードモデルとラプラス回帰を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値5.3年(4万5,472人年)の間に、2,348例(22.9%)が新たに介護認定を受けた。・病歴や生活習慣などの交絡因子を調整した結果、BMIが最も低いカテゴリーと最も高いカテゴリーでは、BMIが21.5~24.9の人と比較し、障害のハザード比(HR)が高かった(18.5未満のHR:1.31[95%信頼区間[CI]:1.16~1.49]、27.5以上のHR:1.27[95%CI:1.08~1.49]、非直線性p<0.001)。・全生存期間および無障害生存期間の年齢における50パーセンタイル差では、BMIが18.5未満の人は、障害発生前に死亡する可能性が高かった(障害を伴う生存期間[全生存期間-無障害生存期間]:-10.2ヵ月)。・BMIが27.5以上の人は、障害を伴う生存期間が長かった(12.5ヵ月)。・これらの関係はフレイル層別化モデルでより顕著であり、BMIが27.5以上群では、フレイルのある人はフレイルのない人よりも障害を伴う生存期間が長かった(27.2ヵ月vs.6.2ヵ月)。 以上の結果から研究グループは、「BMI高値の高齢者でフレイルの人は、障害を伴う生存期間の長期化と関連していた。また、BMIの値にかかわらずフレイルのある人は、フレイルのない人に比べて生存期間が短いため、フレイルを回復させることを優先するべき」と結論付けている。

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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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鼻腔ぬぐい液検査でCOVID-19の重症度を予測できる?

 鼻腔ぬぐい液を用いた検査が、新型コロナウイルスに感染した人のその後の重症度を医師が予測する助けとなる可能性のあることが、新たな研究で示された。この研究結果を報告した、米エモリー大学ヒト免疫センター(Lowance Center for Human Immunology)およびエモリー・ワクチンセンターのEliver Ghosn氏らによると、軽度または中等度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患者の70%以上で特定の抗体が作られており、これらの抗体が、症状の軽減や優れた免疫応答、回復の速さに関連していることが明らかになったという。この研究の詳細は、「Science Translational Medicine」11月6日号に掲載された。 これらの抗体は身体を攻撃する自己抗体で、一般に関節リウマチや炎症性腸疾患(IBD)、乾癬などの自己免疫疾患に関連しているという。論文の上席著者であるGhosn氏は、「自己抗体は一般に病的状態や予後不良と関連しており、より重篤な疾患であることを示す炎症の悪化原因となる」と説明している。COVID-19患者を対象とした先行研究では、血液中の自己抗体は、生命を脅かす状態の兆候であることが示されている。しかし、こうした研究は、実際の感染部位である鼻ではなく血液を調べたものであったとGhosn氏らは言う。 Ghosn氏らは、鼻腔内で局所的に生成される抗体をより正確に測定するために、FlowBEATと呼ばれる新しいバイオテクノロジーツールを開発した。FlowBEATは、標準的な鼻腔ぬぐい液を用いて数十種類のウイルス抗原や宿主抗原に対する全てのヒト抗体を高感度かつ効率的に同時測定できる。このツールを用いれば、鼻腔内の自己抗体も検出できるため、COVID-19の重症度を予測することも可能なのだという。 研究グループは、このツールを用いて、129人から収集した気道および血液サンプルを解析した。その結果、軽度から中等度のCOVID-19患者の70%以上で、感染後に鼻腔内のIFN-αに対するIgA1型自己抗体が誘導され、この抗体が新型コロナウイルスに対する免疫応答の強化、症状の軽減、回復の促進と関連していることが明らかになった。また、これらの自己抗体は、宿主のIFN-α産生のピーク後に生成され、回復とともに減少することが示され、IFN-αと抗IFN-α応答の間でバランスが調整されていることも示された。一方、血液中のIFN-αに対するIgG1型自己抗体は、症状悪化と強い全身炎症を伴う一部の患者で遅れて現れることが確認された。 これは、新型コロナウイルスに対する鼻腔内での免疫応答は、血液中の免疫応答とは異なっていることを示唆している。鼻腔内の自己抗体はウイルスに対して防御的に働くのに対して、血液中の自己抗体はCOVID-19を重症化させるのだ。Ghosn氏は、「われわれの研究結果の興味深い点は、鼻腔内の自己抗体の作用が、COVID-19では、通常とは逆だったことだ。鼻腔内の自己抗体は感染後すぐに現れ、患者の細胞によって産生される重要な炎症分子を標的としていた。また、おそらく過剰な炎症を防ぐために、これらの自己抗体は炎症分子を捉え、患者が回復すると消失した。このことは、身体がバランスを保つために、これらの自己抗体を利用していることを示唆している」とエモリー大学のニュースリリースの中で説明している。 論文の筆頭著者であるエモリー大学のBenjamin Babcock氏は、「現時点では、われわれは、感染が起こる前の感染リスクを調べるか、回復後に感染経過を分析するかのどちらかしかできない。もし、クリニックでリアルタイムに免疫応答をとらえることができたらどうなるかを想像してみてほしい。ジャスト・イン・タイムの検査によって、医師や患者は、より迅速でスマートな治療の決定に必要な情報をリアルタイムで得られるようになるかもしれない」と期待を示している。

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