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ATTR心アミロイドーシス患者においてCRISPR-Cas9を用いた生体内遺伝子編集治療であるnex-zは単回投与にて血清TTR値を持続的に減少させた(解説:原田和昌氏)

 ATTRアミロイドーシスは、トランスサイレチン(TTR)がアミロイド線維として各種組織に沈着することで引き起こされる疾患であり、非遺伝性で加齢に伴うATTRwtアミロイドーシスと遺伝子異常に由来するATTRvアミロイドーシスに分けられる。ATTR心アミロイドーシス(ATTR-CM)は心筋症や心不全が進行し、診断後は中央値2~6年で死に至る。治療薬としてTTR安定化薬のタファミジスが承認されており、siRNA静脈注射剤のパチシラン(3週に1回)は患者のQOLを維持し、皮下注射製剤のブトリシラン(3ヵ月に1回)は全死亡を低下させたことから、適応追加承認を申請中である。しかし、これらの治療でも長期間かけて疾患は徐々に進行する。 より完全なTTRのノックダウンを期待して、CRISPR-Cas9による生体内遺伝子編集治療が考案された。これは、肝臓に集積するようデザインされた脂質ナノ粒子、TTRに対するシングルガイドRNA(crRNA-tracrRNAキメラ)、化膿性レンサ球菌のCas9 mRNAからなる。動物実験でnex-z(NTLA-2001)は1回の静脈内投与にて血清TTR値を95%以上低下させ、効果は持続的であった。 英国のFontana氏らはATTR-CM患者に固定用量のnex-zを1回静脈注射し、安全性と薬力学、血清TTR値を評価する第I相オープンラベル試験を行った。副次エンドポイントはNT-proBNP値、高感度心筋トロポニンT値、6分間歩行距離、NYHA心機能分類の変化であった。心不全既往または併存のATTR-CM患者36例を対象とし、追跡期間は18ヵ月であった。NYHA III群が50%、ATTRv心アミロイドーシスが31%であった。血清TTR値は急速に低下し28日で89%、12ヵ月で90%減少した。有害事象は34件で、注入反応5例、AST上昇が2例、重篤な有害事象14例(39%)はすべてATTR-CMの症状であった。副次エンドポイントのNT-proBNP値、高感度心筋トロポニンT値に変化なく、6分間歩行距離は12ヵ月で5m延長したが有意ではなかった。92%の患者のNYHA心機能分類が改善ないしは変化なしであった。 CRISPR-Cas9システムを用いることで、容易にノックアウトやノックインといったゲノム編集を行うことができるようになった。本試験のnex-zはATTR-CMに対する生体内遺伝子編集治療であるが、すでにβサラセミア、鎌状赤血球症に対する遺伝子編集治療も試みられている。ATTR-CMのトランスサイレチンはほとんど肝臓で作られているためあまり問題にならないが、類似した他の配列を切断してしまうオフターゲット効果などへの懸念や、応用範囲が広いだけに倫理的な問題も想定されるため、今後の動向に注視する必要がある。

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英語で「膝蓋骨」、医療者or患者向けの2つの表現を解説【患者と医療者で!使い分け★英単語】第4回

画像を拡大する医学用語紹介:膝蓋骨 patella「膝蓋骨(しつがいこつ)」はpatellaといいますが、膝蓋骨について説明する際、患者さんにpatellaと言って通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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免疫チェックポイント阻害薬関連の1型糖尿病、生存率との関連~日本人2万例を解析

 免疫チェックポイント阻害薬に関連した1型糖尿病(ICI-T1DM)の発現割合、危険因子、生存率への影響について、奈良県立医科大学の紙谷 史夏氏らが後ろ向き大規模コホートで調査した結果、ICI-T1DMは0.48%に発現し、他の免疫関連有害事象(irAE)と同様、ICI-T1DM発現が高い生存率に関連していることが示唆された。Journal of Diabetes Investigation誌2025年2月号に掲載。 本研究は、わが国の診療報酬請求データベースの1つであるDeSCデータベースを用いた後ろ向き大規模コホート研究で、2014~22年にICIを投与された2万1,121例が登録された。ICI-T1DM発現の危険因子とその特徴をロジスティック回帰分析で評価し、ICI初回投与の翌日以降の新たなirAEの発現をアウトカムとした。  主な結果は以下のとおり。・ICI投与開始後、2万1,121例中102例(0.48%)にICI-T1DMが認められた。・PD-(L)1阻害薬とCTLA-4阻害薬の併用は、PD-1阻害薬単独と比較してICI-T1DMのリスクが高かった(オッズ比[OR]:2.36、95%信頼区間[CI]:1.21~4.58、p=0.01)。・過去に糖尿病(OR:1.59、95%CI:1.03~2.46、p=0.04)または甲状腺機能低下症(OR:2.48、95%CI:1.39~4.43、p<0.01)と診断された患者はICI-T1DMリスクが高かった。・Kaplan-Meier解析では、ICI-T1DM患者はそうでない患者よりも生存率が高かった(log-lank検定p<0.01)。・多変量Cox回帰分析では、ICI-T1DM発現は低い死亡率と関連していた(ハザード比:0.60、95%CI:0.37~0.99、p=0.04)。

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CKDを伴う関節リウマチにおけるJAK阻害薬の安全性・有効性

 虎の門病院腎センター内科・リウマチ膠原病科の吉村 祐輔氏らが慢性腎臓病(CKD)を伴う関節リウマチ(RA)患者におけるJAK阻害薬の有効性・安全性を評価し、腎機能が低下した患者における薬剤継続率を明らかにした。また、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の患者については、帯状疱疹や深部静脈血栓症(DVT)の可能性を考慮する必要があることも示唆した。Rheumatology誌2025年1月25日号掲載の報告。 研究者らは、2013~22年にJAK阻害薬を新規処方されたRA患者216例について、多施設共同観察研究を実施。腎機能に応じたJAK阻害薬の減量ならびに禁忌については添付文書に従い、患者を腎機能とJAK阻害薬の各薬剤で分類した。主要評価項目は24ヵ月間の薬剤継続率で、副次評価項目は関節リウマチの疾患活動性評価の指標の1つであるDAS28-CRPの変化、プレドニゾロン投与量、およびJAK阻害薬の中止理由だった。 主な結果は以下のとおり。・eGFR(mL/分/1.73m2)を60以上、30~60、30未満に分類した。・eGFR分類ごとの24ヵ月薬剤継続率は、全JAK阻害薬では46.0%、44.1%、47.1%で、トファシチニブは55.9%、53.3%、66.7%だった。また、バリシチニブ*は64.2%、42.0%で、ペフィシチニブは36.4%、44.1%、40.0%であった。・腎機能が低下したグループでも、薬剤継続率は維持された(調整ハザード比:1.14、95%信頼区間:0.81~1.62、p=0.45)。・JAK阻害薬開始後6ヵ月で、患者のDAS28-CRPは低下し、プレドニゾロンの投与量も減少した。・帯状疱疹とDVTの発生率はeGFR30未満のグループで高かったものの、統計学的に有意ではなかった。・eGFR30未満は、JAK阻害薬の無効または感染による中止の危険因子ではなかった。*バリシチニブはeGFR30未満への投与は禁忌 同グループは2024年に生物学的製剤についてもCKD合併RA患者に対する安全性・有効性を報告している1)。今回のJAK阻害薬の報告とあわせて、メトトレキサートや非ステロイド性抗炎症薬の使用が制限されるCKD合併RA患者に対して、生物学的製剤、JAK阻害薬いずれもの安全性・有効性を示したことになる。

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MSI-H/dMMR進行大腸がん、ニボルマブ+イピリムマブvs.ニボルマブ単剤の中間解析/Lancet

 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の転移を有する大腸がん患者において、ニボルマブ単剤療法と比較してニボルマブ+イピリムマブ併用療法は、治療ラインを問わず無増悪生存期間が有意に優れ、安全性プロファイルは管理可能で新たな安全性シグナルの発現はないことが、フランス・ソルボンヌ大学のThierry Andre氏らが実施した「CheckMate 8HW試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年2月1日号で報告された。23ヵ国の無作為化第III相試験 CheckMate 8HW試験は、(1)1次治療におけるニボルマブ+イピリムマブ併用療法と化学療法との比較、および(2)すべての治療ラインにおけるニボルマブ+イピリムマブ併用療法とニボルマブ単剤療法との比較を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2019年8月~2023年4月に日本を含む23ヵ国128病院で患者を登録した(Bristol Myers SquibbとOno Pharmaceuticalの助成を受けた)。(1)の結果はすでに発表済みで、本論では(2)の中間解析の結果が報告されている。 年齢18歳以上、切除不能または転移を有する大腸がんと診断され、各施設の検査でMSI-HまたはdMMR(あるいはこれら両方)の患者を対象とした。これらの患者を、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法、ニボルマブ単剤療法、化学療法(±標的治療)を受ける群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けた。 (2)の主要評価項目は、中央判定でもMSI-H/dMMRであった患者におけるすべての治療ラインの無増悪生存とし、盲検下独立中央判定によって評価した。奏効率も良好 (2)の2つの治療群に707例を登録し、ニボルマブ+イピリムマブ群に354例(年齢中央値62歳[四分位範囲[IQR]:52~70]、女性192例[54%]、未治療例202例[57%])、ニボルマブ群に353例(63歳[51~70]、163例[46%]、201例[57%])を割り付けた。それぞれ296例(84%)および286例(81%)が、中央判定でもMSI-H/dMMRであり、主要評価項目の評価の対象となった。データカットオフ日(2024年8月28日)の時点における追跡期間中央値は47.0ヵ月(IQR:38.4~53.2)だった。 中央判定でMSI-H/dMMRであった集団では、ニボルマブ群と比較してニボルマブ+イピリムマブ群は、無増悪生存期間が有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比:0.62、95%信頼区間[CI]:0.48~0.81、p=0.0003)。無増悪生存期間中央値は、ニボルマブ+イピリムマブ群が未到達(95%CI:53.8~推定不能)、ニボルマブ群は39.3ヵ月(22.1~推定不能)であった。また、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時の推定無増悪生存率は、ニボルマブ+イピリムマブ群がそれぞれ76%、71%、68%、ニボルマブ群は63%、56%、51%だった。 盲検下独立中央判定による奏効率(完全奏効+部分奏効)は、ニボルマブ群が58%であったのに対しニボルマブ+イピリムマブ群は71%と有意に優れた(p=0.0011)。奏効期間中央値は両群とも未到達で、奏効までの期間中央値は両群とも2.8ヵ月だった。Grade3/4の治療関連有害事象は22%で 併用療法の安全性プロファイルは管理可能で、新たな安全性シグナルの発現は認めなかった。全Gradeの治療関連有害事象は、ニボルマブ+イピリムマブ群で352例中285例(81%)、ニボルマブ群で351例中249例(71%)に、Grade3または4の治療関連有害事象はそれぞれ78例(22%)および50例(14%)に発現した。最も頻度の高い治療関連有害事象はそう痒(ニボルマブ+イピリムマブ群26%、ニボルマブ群18%)で、投与中止に至った治療関連有害事象の頻度(14%、6%)も併用群で高かった。 最も頻度の高いGrade3または4の免疫介在性有害事象は、下痢または大腸炎(ニボルマブ+イピリムマブ群3%、ニボルマブ群2%)、下垂体炎(3%、1%)、副腎機能不全(3%、<1%)であった。治療関連死は3例に認め、ニボルマブ+イピリムマブ群で2例(それぞれ心筋炎および肺臓炎による死亡)、ニボルマブ群で1例(肺臓炎)であった。 著者は、「これらの結果は、1次治療において化学療法と比較してニボルマブ+イピリムマブ併用療法で優れた無増悪生存期間を示した結果と併せて、この免疫療法薬の2剤併用療法が転移を有するMSI-H/dMMR大腸がん患者に対する新たな標準治療となる可能性を示唆する」としている。

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ハッチンソン・ギルフォード早老症候群〔HGPS:Hutchinson-Gilford progeria syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ハッチンソン・ギルフォード早老症候群(Hutchinson-Gilford progeria syndrome:HGPS)は、1886年にJonathan Hutchinsonと1897年にHasting Gilfordが報告したことから命名された疾患である。遺伝性早老症の中でも、とくに症状が重篤な疾患であり、出生後半年頃より著しい成長障害、皮膚の強皮症様変化、禿頭、脱毛、小顎、老化顔貌、皮下脂肪の減少、四肢関節の拘縮を呈する。精神運動機能や知能は正常である。脂質代謝異常、動脈硬化性疾患、心血管系合併症により平均寿命は14.6歳と報告されている。■ 疫学全世界で350~400例の典型HGPS患者が報告されており、米国NPO法人のProgeria Research Foundationには、2024年12月末の時点で151例の典型HGPS患者が登録されている。また、2024年9月30日時点でアメリカのHGPS有病率は約2,000万人に1人と報告されている。中国からの論文では調査した17省の有病率(中央値)は5,300万人に1人で、最も頻度の高い海南省は約2,300万に1人と報告されている。筆者らが2023年に全国調査した結果ではわが国のHGPS有病率は約1,667万人に1人であった。■ 病因ラミンAは核膜を物理的に支える枠組みを構成する。ラミン分子が核構造を物理的に安定化させることでクロマチン構造を維持し、また、安定的な転写因子との共役が機能的にも重要である。変異ラミンAタンパクであるプロジェリン(またはファルネシル化プレラミンA)が蓄積すると核膜構造に異常を来し、物理的影響による損傷を受けやすくなる。また、ヘテロクロマチンの分布や量に変化が生じ、異常なテロメアが形成されることで染色体の機能が変化する。このエピジェネティックな変化はすべての遺伝子発現に大きな影響を与える。ラミンAは発生過程のさまざまな転写調節因子に結合し、種々の遺伝子発現に関与するため、プロジェリンは組織構築の過程に重要なNotchシグナル伝達経路の下流で機能する複数の因子の発現量を変化させ、胎児期から成人期まで細胞と臓器の機能分化に大きな影響を与える。また、HGPS患者において臨床的に最も重篤な合併症は小児期早期からの脳心血管障害である。これはプロジェリンの発現が血管平滑筋細胞に小胞体ストレスや炎症を引き起こし、その結果、アテローム性動脈硬化が進行すると報告されている。■ 病態:プロジェリン産生のメカニズムLMNA遺伝子の典型的変異c.1824C>Tは潜在的なスプライス部位ドナーを活性化することにより異常スプライシングを引き起こし、ラミンAタンパク質の中間部分に50アミノ酸が欠失した変異型プレラミンAが産生される。この変異はC末端CAAXモチーフに影響を与えないため、ZMPSTE24によりカルボキシル末端の3アミノ酸は切断され、末端のシステインはカルボキシメチル化される。ZMPSTE24が認識し切断する配列(RSYLLG)は、異常スプライシングにより欠失した50アミノ酸内に含まれるためエンドペプチダーゼZMPSTE24で切断されない。その結果、恒久的にファルネシル化とカルボキシメチル化された変異型プレラミンA、すなわちプロジェリンが産生される。同様にZMPSTE24が認識するプレラミンA内の配列(RSYLLG)内のミスセンスバリアントによりZMPSTE24で切断を受けない分子病態が報告されている。また、ZMPSTE24遺伝子異常により正常なZMPSTE24が産生されないため、プレラミンAの内部切断が起こらずプロジェリンが産生され、その結果、下顎末端異形成症を発症する。■ 症状正常新生児として出生するが、乳児期から著明な成長障害と皮膚の萎縮・硬化を呈する。乳幼児期から脱毛、前額突出、小顎などの早老様顔貌、皮膚の萎縮・硬化、関節拘縮が観察される。動脈硬化性疾患による重篤な脳血管障害や心血管疾患は加齢とともに顕在化し、生命予後を左右する重要な合併症である。悪性腫瘍は10歳以上の長期生存例に認められる重要な合併症である。■ 分類1)プロジェリンを産生する典型遺伝型を保有するHGPS(典型HGPS)LMNA遺伝子のエクソン11内の点突然変異c.1824C>T(p.Gly608Gly)が原因である。特徴的な臨床表現型のHGPS患者の約9割がこの病的バリアントを保有する。この変異によりスプライシング異常が生じ、変異ラミンAタンパク(プロジェリン)が合成される。2)プロジェリンを産生する非典型遺伝型を保有するHGPS(非典型HGPS)非典型HGPSの臨床的な特徴は典型HGPに類似する。LMNA遺伝子の典型病的バリアント(c.1824C>T)以外でプロジェリンを産生するエクソン11またはイントロン11の病的バリアントが原因である。c.1821G>A(p.Val607Val)、c.1822G>A(p.Gly608Ser)、c.1968+5G>C、c.1968+1G>A、c.1968+2T>A、c.1968+1G>Aなどが報告されている。3)プロセシング不全性のプロジェライド・ラミノパチー(PDPL)LMNA遺伝子内の特定の位置の病的ミスセンスバリアントによりZMPSTE24の認識部位を喪失するため、プレラミンAが内部切断されない。c.1940T>G(p.L647R)が報告されている。また、ZMPSTE24遺伝子のホモ接合性または複合ヘテロ接合性機能喪失型病的バリアント(ZMPSTE24欠損)によりプレラミンAが内部切断されない。いずれもプロジェリンが産生される。■ 予後典型HGPSは10歳代でほぼ全例が死亡し、生命予後は極めて不良である。一方で、非典型HGPSでは40歳以上の長期生存例も報告されているが、動脈硬化性疾患に加え、がんの発生(とくに多重がん)に留意する必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)特徴的な臨床症状とLMNA遺伝子検査による。c.1824C>T(p.Gly608Gly)がヘテロ接合性に確認されれば、典型HGPSと診断される。過去にプロジェリン産生が証明されている病的バリアントがヘテロ接合性に確認されれば、非典型HGPSと診断される。ホモ接合性または複合ヘテロ接合性ZMPSTE24の機能喪失型バリアントによりZMPSTE24遺伝子異常と診断する。わが国の指定難病「ハッチンソン・ギルフォード症候群(告示番号333)」では、臨床症状と遺伝学的検査の組み合わせにより「Definite」と「Probable」を分けて診断する(令和7年に改訂が予定されている)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)プロジェリンが原因であるHGPSに対して、ファルネシル転移酵素阻害薬ロナファルニブ(商品名:ゾキンヴィ)の臨床的効果が証明され、米国食品医薬品局(FDA)は2020年11月に世界で初めてロナファルニブを医薬品として承認した。以降、欧州やオーストラリア、中国でも承認され、わが国においても2024年1月に厚生労働省に薬事承認され同年5月より販売が開始されている。なお、本剤は、典型HGPS、非典型HGPSに加え、プロセシング不全性のプロジェロイド・ラミノパチーも適応症となる。Gordonらは、本剤の内服治療により有意な死亡率の低下を認めたと報告している。4 今後の展望■ 診断法プロジェリンに対する特異的モノクロナル抗体を用いた血漿中プロジェリンの免疫測定法がGordon らの研究グループから報告されている。国内でもLC-MS/MSを用いたラミンAタンパク質バリアントの測定系の確立とその実用化に向けた準備が進められている。■ 治験プロジェリンとラミンAの結合阻害作用を有する低分子化合物Progerininの国際共同治験(Phase I)が2020年より進められている。ほかの国際治験の進捗については、Progeria Research Foundationのホームページで随時公開されている。5 主たる診療科小児科、皮膚科、整形外科、循環器内科、遺伝科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報令和6年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「早老症のエビデンス集積を通じて診療の質と患者QOLを向上する全国研究」研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NPO法人 Progeria Research Foundation(英語のホームページで詳細な情報・資料を公開/一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Progeria Clinical Care Handbook(プロジェリアの子どもたちの家族と医療従事者のためのガイド第2版)(日本語版のガイドが無料ダウンロードできる/医療従事者向けのまとまった情報)1)Hutchinson J. Med Chir Trans. 1886;69:473-477.2)Gilford H. Med Chir Trans. 1897;80:17-46:25.3)Gordon LB, et al. GeneReviews [Internet]; 1993-2024.4)Wang J, et al. Pediatr Res. 2024;95:1356-1362.5)Gordon LB, et al. Circulation. 2023;147:1734-1744.公開履歴初回2025年2月7日

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体重減少には週何分くらいの有酸素運動が必要か

 ダイエットではどのくらいの時間、有酸素運動をすれば痩せることができるだろうか。この疑問について、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンの公衆衛生学部疫学・生物統計学科のAhmad Jayedi氏らの研究グループは有酸素運動と脂肪率の指標との用量反応関係を明らかにするために文献の系統的レビューと用量反応のメタ解析を行った。その結果、週30分の有酸素運動は、成人の体重または肥満者の体重、ウエスト周囲径および体脂肪値の緩やかな減少と関連していることが明らかになった。この結果はJAMA Network Open誌2024年12月26日号に掲載された。痩せるには週30分の有酸素運動でも効果あり 研究グループは、2024年4月30日までのPubMed、Scopus、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどの文献から介入期間が8週間以上の無作為化臨床試験で、成人の過体重または肥満者に対する観察の下での有酸素運動の効果を評価したものについて検討し、PRISMAのガイドラインに従った。データ抽出は2人のレビュアーからなる2つのチームが、それぞれ独立して重複して実施。ランダム効果メタ解析を行い、週30分の有酸素運動ごとの平均差と95%信頼区間(CI)を推定し、曲線的な関連性の形状を明らかにした。 主要アウトカムは体重、ウエスト周囲径、体脂肪などであり、エビデンスの確実性は、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)ツールを用いて、非常に低いものから高い確実性までの範囲で評価した。 主な結果は以下のとおり。・成人の過体重または肥満者の合計6,880例(女性4,199例[61%]、平均年齢±SD:46±13歳)について、116の無作為化臨床試験を検討。・有酸素運動を週30分行うごとに、体重は0.52kg(95%CI:-0.61~-0.44、109試験、GRADE中)、ウエスト周囲径は0.56cm減少(95%CI:-0.67~-0.45、62試験、GRADE高)、体脂肪率は0.37%減少(95%CI:-0.43~-0.31、65試験、GRADE中)していたほか、内臓脂肪組織(平均差:-1.60cm2、95%CI:-2.12~-1.07、26試験、GRADE高)と皮下脂肪組織(平均差:-1.37cm2、95%CI:-1.82~-0.92、27試験、GRADE中)も同様の結果だった。・有酸素運動は、生活の質(QOL)の身体的側面(標準化平均差[SMD]:1.69SD、95%CI:1.18~2.20)および精神的側面(SMD:0.74SD、95%CI:0.29~1.19)の緩やかな増加と関連した(参加者80例の試験1件、GRADE低)。・軽度~中等度の有害事象のほとんどは筋骨格系の症状で、わずかながら事象の増加と関連していた(リスク差は参加者100例当たり2件増加、95%CI:1~2、GRADE低)。・用量反応メタ解析により、体重、ウエスト周囲径および体脂肪の測定値は、有酸素運動の継続時間が週300分まで増加することで、直線的または単調に減少することが示された。・中等度~強度の有酸素運動を週150分継続することで、ウエスト周囲径および体脂肪について臨床的に著明な減少がもたらされた。 これらの結果から研究グループは、「週30分の有酸素運動への取り組みは、成人の過体重または肥満者における体重、ウエスト周囲径および体脂肪測定の緩やかな減少と関連していた。その一方で、臨床的に著明な減少を達成するためには、中等度以上の強度で週150分を超える有酸素運動が必要かもしれない」と結論付けている。

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アルツハイマー病患者に対する有酸素運動のベネフィット/BMJ Open

 アルツハイマー病患者の認知機能や実行機能に対する身体活動の影響は、数多くの研究で調査されているものの、その結果は完全に一致しているとはいえない。また、特定のトレーニングや使用する評価ツールに関する研究も、不十分である。中国・湖南渉外経済学院のLinlin Yang氏らは、有酸素運動がアルツハイマー病患者のQOL、認知機能、抑うつ症状に及ぼす影響を調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BMJ Open誌2025年1月11日号の報告。 対象研究には、アルツハイマー病患者に対する介入として有酸素運動を用いたすべてのランダム化比較試験(RCT)を含めた。2024年3月12日までに公表された研究を、PubMed、Web of Science、Cochrane Library、EMBASE、Scopus、CINAHL、CNKIより、システマティックに検索した。2人の独立した著者により、定義された手法を用いてデータ選択、検索を行った。バイアスリスク、システマティックレビューおよびメタ解析、エビデンスの確実性の評価には、それぞれCochrane risk of bias tool、ランダム効果モデル、GRADE(Grading of Recommendations Assessment Development and Evaluation)ツールを用いた。研究間の異質性を評価するため、Stata MP V.18.0およびV.14.0を用いてメタ回帰を実施した。標準化平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)を算出した。データは、Cochrane CollaborationのReview Manager V.5.4を用いてレビューした。結果の安定性および信頼性を確認するため感度分析を実施し、出版バイアスを確認するためファンネルプロットおよびEgger's testを用いた。出版バイアスの修正および評価には、Duval and Tweedie clipping methodを用いた。 主な結果は以下のとおり。・有酸素運度は、アルツハイマー病患者の認知機能を向上させることが示唆された。・ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア、アルツハイマー病評価尺度の認知サブスケール(ADAS-cog)スコア、QOLの有意な改善が認められた。一方、抑うつ症状については、有意な差が認められなかった。【MMSEスコア】SMD:0.95、95%CI:0.58〜1.32、z=5.06、p<0.00001【ADAS-cogスコア】SMD:−0.67、95%CI:−1.15〜−0.20、z=2.77、p=0.006【QOL】SMD:0.36、95%CI:0.08〜0.64、z=2.51、p=0.01【抑うつ症状】SMD:−0.25、95%CI:−0.63〜0.13、z=1.27、p=0.21・サブグループ解析では、介入期間が16週超、介入1回当たり50分未満の場合、MMSEスコアの改善が認められた。・介入期間が16週超、介入1回当たり30分超の場合、ADAS-cogスコアの改善が認められた。・有酸素運動を週3回以上、介入1回当たり30〜50分以上を16週間継続した場合、QOLの向上が認められた。 著者らは「アルツハイマー病に対する有酸素運動は、認知機能およびQOLの改善に寄与するが、抑うつ症状には有意な影響を及ぼさないことが明らかとなった。ただし、含まれた研究の異質性の高さや質のばらつきを考慮すると、より科学的かつ客観的なRCTにより本結果を検証する必要がある」と結論付けている。

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日本人乾癬患者へのデュークラバシチニブ、年齢やBMIごとの有効性

 TYK2阻害薬デュークラバシチニブの乾癬に対する有効性は確認され、本邦においても2022年に承認・発売されているが、年齢およびBMIによる層別解析を含む長期的な実臨床での有効性の検討は十分ではない。日本医科大学千葉北総病院の萩野 哲平氏らは、日本人乾癬患者におけるデュークラバシチニブの実臨床における52週時での有効性を、年齢およびBMIにより層別化して評価する前向き研究を実施。結果をThe Journal of Dermatology誌オンライン版1月28日号に報告した。 本研究は、2022年12月~2024年8月に実施された。中等症~重症の乾癬を有する15歳以上の日本人患者107例を対象とし、デュークラバシチニブ6mgを1日1回、52週間投与した。治療効果は、Psoriasis Area and Severity Index(PASI)75、PASI 90、PASI 100の達成率およびその他の主要な臨床指標により評価。データは年齢(<65歳 vs.≧65歳)およびBMI(<25 vs.≧25)により層別化された。 主な結果は以下のとおり。・PASIスコアの平均値は、年齢およびBMIにより層別化されたいずれのグループにおいても、52週までに同様の減少がみられた。・52週時点でのPASI 75、PASI 90、PASI 100の達成率は、65歳未満の患者ではそれぞれ86.36%、65.22%、39.13%であった。65歳以上の患者ではそれぞれ86.36%、59.09%、13.64%であり、65歳以上の患者ではPASI 100の達成率がやや低い傾向がみられた。・52週時点でのPASI 75、PASI 90、PASI 100の達成率は、BMI<25の患者ではそれぞれ88.24%、82.86%、29.41%であった。BMI≧25の患者では81.82%、73.33%、18.18%であり、4週、16週、24週、40週時点においてもこれらの達成率がやや低い傾向がみられた。 著者らは、デュークラバシチニブが年齢およびBMIにより層別化された全患者群において、52週時の乾癬の臨床指標を改善したとまとめている。そのうえで本研究結果は、デュークラバシチニブが高齢の乾癬患者に対しても若年〜中高年患者と同様に有効である可能性を示唆した一方で、BMI≧25の患者では、BMI<25の患者と比較して効果がやや低い可能性を示唆したと考察している。

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安定胸痛への冠動脈CTA管理、10年後アウトカムを改善/Lancet

 安定胸痛患者に対する冠動脈CT血管造影(CCTA)による管理は、10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の持続的な減少と関連していた。英国・エディンバラ大学のMichelle C. Williams氏らSCOT-HEART Investigatorsが、スコットランドの循環器胸痛クリニック12施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験「Scottish Computed Tomography of the Heart trial:SCOT-HEART試験」の10年追跡の結果を報告した。SCOT-HEART試験についてはこれまでに、CCTA管理により5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞のリスクが約4割低下することが示されていた。著者は、「CCTAによる冠動脈アテローム性動脈硬化症の同定は、安定胸痛患者の長期的な心血管疾患予防を改善する」とまとめている。Lancet誌2025年1月25日号掲載の報告。SCOT-HEART試験10年間の解析 研究グループは、冠動脈心疾患による症候性の安定狭心症の疑いのある18~75歳の患者を、標準治療+CCTA併用群または標準治療単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 今回の10年間の解析は事前に規定されたもので、eDRIS(electronic Data Research and Innovation Service)を介してスコットランド公衆衛生局(Public Health Scotland)より臨床アウトカムに関する情報を入手し、必要に応じて医療記録を確認するとともに、薬剤の使用に関する情報はPrescribing Information Systemから得た。 主要アウトカムは、冠動脈心疾患死または非致死的心筋梗塞の発生、副次アウトカムは全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中などで、ITT解析を行った。10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞が減少 2010年11月18日~2014年9月24日に、4,146例が登録され(平均年齢57[SD 10]歳、男性2,325例[56.1%]、女性1,821例[43.9%])、2,073例が標準治療+CCTA併用群に、2,073例が標準治療単独群に割り付けられた。 追跡期間中央値10.0年(四分位範囲:9.3~11.0)において、冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生は、CCTA併用群137例(6.6%)、標準治療単独群171例(8.2%)であり、CCTA併用群における減少が維持されていた(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~0.99、p=0.044)。 全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死および非致死的脳卒中の発生は両群間で差はなかったが(すべてp>0.05)、非致死的心筋梗塞(90例[4.3%]vs.124例[6.0%]、HR:0.72[95%CI:0.55~0.94]、p=0.017)および主要有害心血管イベント(172例[8.3%]vs.214例[10.3%]、0.80[0.65~0.97]、p=0.026)はCCTA併用群のほうが少なかった。 また、冠動脈血行再建術の施行は同程度であったが(315例[15.2%]vs.318例[15.3%]、HR:1.00[95%CI:0.86~1.17]、p=0.99)、予防的治療薬の処方はCCTA群のほうが多かった(有効なデータのある患者1,486例中831例[55.9%]vs.1485例中728例[49.0%]、オッズ比:1.17[95%CI:1.01~1.36]、p=0.034)。

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がんが肺に転移しやすいのはなぜ?

 肺はがん細胞にとって魅力的な場所なのか、進行がん患者の半数以上で肺転移が認められる。その理由の一つとなり得る研究結果が報告された。この研究では、がんが転移した肺の中ではアミノ酸の一種であるアスパラギン酸の濃度が上昇しており、がん細胞が増殖しやすい環境が形成されている可能性のあることが示唆されたという。フランダースバイオテクノロジー研究機関(VIB、ベルギー)がん生物学センターのGinevra Doglioni氏らによるこの研究結果は、「Nature」に1月1日掲載された。 Doglioni氏は、「乳がんに罹患したマウスや患者の肺では、がんに罹患していないマウスや患者の肺に比べてアスパラギン酸のレベルが高いことが分かった。これは、アスパラギン酸が肺転移に重要な役割を果たしている可能性があることを示唆している」とVIBのニュースリリースで述べている。 この研究でDoglioni氏らはまず、肺に転移したがん細胞の遺伝子発現について調べ、通常とは異なる「翻訳プログラム」が存在することを示すエビデンスを見つけた。翻訳とは、細胞内で遺伝情報を設計図にしてタンパク質を生成するプロセスのことをいう。翻訳プログラムが変化すると生成されるタンパク質の種類も変わり、その結果、がん細胞が肺という環境で成長しやすくなっている可能性がある。 では、このような進行性のがん転移では、何が翻訳プログラムの変化を引き起こす要因となっているのだろうか。Doglioni氏らが転移性乳がんマウスのがん細胞を調べた結果、肺転移におけるがん細胞の攻撃性や増殖性の促進は、タンパク質であり翻訳開始・伸長因子でもあるeIF5Aのハイプシン化という翻訳後修飾の増加により引き起こされる可能性が示唆された。 さらに、腫瘍分泌因子(tumour-secreted factor;TSF)で前処理したマウスと対照マウスの肺間質液中の栄養素濃度を比較したところ、前者ではアスパラギン酸の濃度が顕著に増加していることが確認された。そこで、アスパラギン酸がeIF5Aのハイプシン化に及ぼす影響を検討したところ、アスパラギン酸は、がん細胞に取り込まれるのではなく、がん細胞表面にあるNMDA受容体というタンパク質を活性化させることが判明した。これによりシグナル伝達カスケードが引き起こされ、最終的にeIF5Aのハイプシン化が促進される。がん細胞は、このプロセスを通じて翻訳プログラムを変化させ、肺の環境を自らの増殖に適したものに変えていることが示唆された。 転移性乳がん患者の肺腫瘍サンプルを調査したところ、マウスで観察されたものと同様の翻訳プログラムの存在が確認された。また、肺転移では他の臓器への転移と比較して、アスパラギン酸に結合するNMDA受容体のサブユニットの発現量が増加していることも明らかになった。 論文の上席著者であるVIBのSarah-Maria Fendt氏は、「この相関関係は、臨床的な文脈において本研究結果が重要であることを強調しており、アスパラギン酸によるシグナル伝達が肺で増殖するがん細胞に共通する特徴である可能性を示唆している。さらに、今回特定されたメカニズムを標的とする薬剤はすでに存在しており、さらなる研究によって臨床に応用されるようになる可能性がある」と述べている。

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ワクチン接種後の免疫抑制療法患者のリスクを抗体の有無で評価(解説:栗原宏氏)

本研究のまとめ・免疫抑制療法患者において、抗SARS-CoV-2スパイク抗体(抗S Ab)陽性者は感染・入院リスクが低い・感染リスク要因:年齢が若い(18~64歳)、子供との同居、感染対策の実施・入院リスク要因:併存疾患の存在強み(Strong Points)・3つの異なる免疫抑制患者群におけるCOVID-19リスクを大規模データで解析・抗S Abの有無と感染・重症化リスクの関連を明確化・実臨床データとリンクし、健康アウトカムに関する実証的な証拠を提供限界(Limitations)・因果関係ではなく相関関係の分析に留まる・治療介入(抗ウイルス薬、モノクローナル抗体)の影響が不明確・ワクチンの種類や接種時期の詳細な分析が不足・行動要因(マスク着用、社会的距離)の影響が考慮されていない可能性 本研究は、免疫抑制患者におけるSARS-CoV-2スパイク抗体の有無が、感染および入院率にどのような影響を与えるかを評価する約2万人規模のコホート研究である。 免疫抑制療法では、ワクチン接種後の免疫応答が低下する可能性があり、COVID-19感染リスクが高いと考えられる。 英国の全国疾病登録データを用い、以下の3つの免疫抑制患者群において抗体の影響を評価した。1)固形臓器移植(SOT)2)まれな自己免疫性リウマチ疾患(RAIRD)3)リンパ系悪性腫瘍(lymphoid malignancies)主な結果と臨床的意義 いずれの群でも、抗体陽性者のCOVID-19感染率・入院率は、年齢・人種・既存疾患などを調整しても有意に低かった。より具体的には、抗体陰性者の感染リスクは1.5〜1.8倍、入院リスクは2.5〜3.5倍高かった。 これらの結果から、免疫抑制患者に対し抗体検査を活用することで、高リスク群を特定し、追加ワクチン接種や早期治療などの対応を提供できる可能性が示唆された。 しかし、本研究は相関関係の分析に留まるため、・「抗体ができやすい人=健康状態が良く感染リスクが低い」・「抗体ができにくい人=強力な免疫抑制療法を受けており感染・重症化リスクが高い」といった因果関係の逆転の可能性も考慮する必要がある。 また、本研究では、ワクチンの種類・接種回数の影響、抗体価の高低、行動習慣(通勤・外出頻度)の影響は評価されていない。感染リスク要因の考察 感染リスク要因として、年齢が若いこと、子供との同居、感染対策の実施が挙げられた。「感染対策をしている人の感染リスクが高い」という結果は直感的に意外だが、これは 「感染リスクが高い人ほど対策をしているが、免疫が弱いため、それでも感染しやすい」という背景を反映しているという可能性がある。 本研究は、免疫抑制患者における抗S Abの有無とCOVID-19感染・入院リスクの相関を示し、免疫抑制患者のCOVID-19管理戦略を考えるうえで重要な知見を提供していると考えられる。

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脳外科外来の便秘相談 【Dr. 中島の 新・徒然草】(566)

五百六十六の段 脳外科外来の便秘相談日本中が寒波だ大雪だと大変なことになっています。帯広では観測史上最大の積雪を記録したのだとか。ありがたいことに、今のところ大阪は晴れ。しかし、天気予報では金曜日の降雪確率は45%になっています。油断大敵ですね。さて、外来をやっていてよく聞く訴えが便秘です。ひょっとすると「眠れない」の次に多い訴えかもしれません。なぜ脳外科外来で便秘の相談をされるのか、それは謎です。そもそも高齢の患者さんは、診療科に関係なく、その時に一番困っていることを訴える傾向にあります。とはいえ「ここは脳外科です。便秘のことは消化器内科で相談してください」と言うのもあまりいい考えとは思えません。私のイメージする消化器内科医というのは消化器がんなどと戦っている人たちであり、ただの便秘でコンサルするのも気が引けるからです。結局、脳外科外来では何か有難そうな話をしておいて、後はかかりつけ医にお任せするのが一番ですね。なら、どういうアドバイスをするのがいいのか。それをいつものChatGPTに尋ねてみました。もちろん、私が何か投薬するというのは無し。便秘の患者さんには、すでに何らかの処方がされていることが多く、その上に私が薬を重ねると話が無限にややこしくなるからです。薬以外の対策、その1は食事。便通をよくするためには食物繊維の多いものを食べるべし、というのが定説です。食物繊維には不溶性と水溶性の2種類あるのだとか。お恥ずかしながら私は知りませんでした。不溶性食物繊維は便を膨らませて腸の蠕動運動を促進する作用があるそうです。が、狙いどおりにいかない時はお腹が膨らんでガスがたまり、かえって患者さんに辛い思いをさせるかもしれません。だから、こちらを勧めるのはやめておきましょう。一方、水溶性食物繊維は便を柔らかくして便通を良くすることになっています。こっちのほうは、とくに害もなさそう。リンゴ、バナナ、オートミール、大麦、海藻類(わかめ、昆布)、こんにゃくなどに多く含まれるとのこと。この中では大麦というのがよくわかりませんでした。調べてみると、大麦入りを前面に掲げているパン、パンケーキ、麺、クラッカー、スープ、サラダ、シリアルなどがあるようです。まずは自分で買って試してみるのもいいかも。患者さんにお勧めするときに無難なのは、リンゴ、バナナ、わかめ、昆布あたりでしょうか。2番目に、ツボのマッサージ。経験的には母指球やふくらはぎをマッサージすると腸が動き、便が出やすくなる気がします。あらためてツボ(経穴)を調べてみると、いろいろあることがわかりました。まずは母指球をマッサージすると腸が動くというもの。実は母指球を押すときに、その真裏にあるツボの合谷(ごうこく)も押しているのかもしれません。合谷を押すと腸が動くということになっていますから。次に、ふくらはぎをマッサージすると腸が動くというもの。ふくらはぎのある下腿には、便通に関係したツボが2ヵ所あるそうです。1つは足三里(あしさんり)で、これは膝蓋骨の外側下端から下に4横指のすこしくぼんだところ。ここを押すと消化管全般に効くのだとか。もう1つが三陰交(さんいんこう)で、内果から上に向かって4横指の部分。ここも消化管全般に効くとのこと。2ヵ所のツボとも、自分で押してみると気のせいか体調が良くなったような気が……あとは天枢(てんすう)とか太衝(たいしょう)とかいうツボも便秘に効くことになっています。こういったツボは、患者さんが自分でマッサージすることができる分、使い勝手が良さそうですね。最後に生活習慣です。まずは、よく喋るというのが良いそうです。喋ることによって、無意識のうちに消化管に空気を吸い込むのでしょうか。それとも口の動きに腸が連動しているのかもしれません。私の経験でも、喋ると便通が良くなるという現象はあるように思います。独り暮らしの患者さんなど、喋る相手がいなかったら、本の音読とか読経とかで代用できますね。般若心経なら4分くらいですむので、健康と精神修養を兼ねて自分自身でやってみようかな。次に歩くということ。ちょっと考えても、歩くのが腸運動に好影響を与えるということはありそう。また、毎日同じ時間にトイレに座る習慣をつけるのもいいそうです。ということで、これらの有難い話を毎回1つ、患者さんに伝授することにしましょう。私の場合、3ヵ月毎の通院というのが一番多いパターンなので、1つの話で3ヵ月間は持ちます。求められるたびに1つずつ順番に有難い話をしておけば、3年くらいは続くはず。3年経ったら患者さんのほうも話の中身を忘れてしまっているはずなので、また最初からスタートです。どうやら便秘対応にも自信が出てきました。もう「どこからでもかかってきなさい!」という気分です。最後に1句脳外科で 便秘に悩む 雪の日々

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医師介入が死亡率に影響?がん患者診療のための栄養治療ガイドライン発刊

 日本人がん患者の栄養管理は、2022年より周術期栄養管理加算や外来栄養食事指導料が算定できるようになったことで、その管理体制は改善傾向にある。しかし、栄養治療が必要な患者に十分届いているとは言い難く、適切な栄養管理によってより良い予後をもたらすことが日本栄養治療学会(JSPEN)としての喫緊の課題になっている。そんな最中、2024年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編』が発刊されたため、作成ワーキンググループのガイドライン委員会前委員長である小谷 穣治氏(神戸大学大学院医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野 教授)にがん患者の栄養管理の実際やガイドラインで押さえておくべき内容について話を聞いた。がん患者への栄養管理の意味 がん患者の場合、がんの病状変化や治療により経口摂取に支障が生じ、体重減少を伴う低栄養に陥りやすくなるため、「食事摂取量を改善させる」「代謝障害を抑制する」「筋肉量と身体活動を増加させる」ことを目的として栄養治療が行われる。 国内におけるがん治療に対する栄養治療は、食道癌診療ガイドラインや膵癌診療ガイドラインなど臓器別のガイドラインではすでに示されているが、海外にならって臓器横断的な視点と多職種連携を重要視したガイドラインを作成するべく、今回、JSPENがその役割を担った。本書では、重要臨床課題として「周術期のがん患者には、どのような栄養治療が適切か?」「放射線療法を受けるがん患者には、どのような栄養治療が適切か?」といった事柄をピックアップし、Minds*方式で作成された4つのClinical Question(CQ)を設定している。本書の大部分を占める背景知識では現況のエビデンス解説が行われ、患者団体から集まった疑問に答えるコラムが加わったことも特徴である。*厚生労働省委託業務EBM普及推進事業、Medical Information Distribution Service なお、がん患者に対する栄養治療が「がん」を増殖させるという解釈は、臨床的に明らかな知見ではないため、“栄養治療を適切に行うべき”と本書に記されている。医師に求められる栄養治療 医師が栄養治療に介入するタイミングについて、p.39~40に記された医師の役割の項目を踏まえ、小谷氏は「(1)診断時、(2)治療開始前、(3)治療中、(4)治療終了後[入院期間中、退院後]と分けることができるが、どの段階でも介入が不足しているのではないか。とくに治療開始前の介入は、予後が改善されるエビデンスが多数あるにもかかわらず(p.34~35参照)、介入しきれていない印象を持っている。ただし、入院治療が始まる前から食欲低下による痩せが認められる場合には、微量元素やビタミン類を含めた血液検査がなされるなどの介入ができていると見受けられる」とコメントした。 介入するうえでの臨床疑問はCQで示されており、CQ1-1(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療を行うことは推奨されるか?[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:弱い])については、日本外科感染症学会が編集する『消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン』のCQ3-4(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療[経口・経腸栄養、静脈栄養]を行うことは推奨されるか?)と同様に術前介入について言及している。これに対し同氏は「両者に目を通す際、日本外科感染症学会で評価されたアウトカムはSSI※であり、本ガイドラインでの評価アウトカム(術後合併症数、術後死亡率、術後在院日数など)とは異なることに注意が必要」と述べた。※Surgical Site Infectionの略、手術部位感染 また、CQ1-2(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期に免疫栄養療法を行うことは推奨されるか?[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性:中程度])で触れられている免疫栄養療法については、「アルギニン、n3系脂肪酸、グルタミンが用いられるが、成分ごとに比較した評価はなく、どの成分が術後合併症の発生率低下や費用対効果として推奨されるのかは不明」と説明しながら、「今回の益と害のバランス評価において、免疫栄養療法を実施することによって術後合併症が22%減少、術後在院日数が1.52日短縮することが示された。また、術後の免疫栄養療法では術後の非感染性合併症も減少する可能性が示された(p.135)」と説明した。<目次>―――――――――――――――――――第1章:本ガイドラインの基本理念・概要第2章:背景知識 1. がん資料における代謝・栄養学 2. 栄養評価と治療の実際 3. 特定の患者カテゴリーへの介入第3章:臨床疑問 CQ1-1:頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療(経口・経腸栄養、静脈栄養)を行うことは推奨されるか? CQ1-2:頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期に免疫栄養療法を行うことは推奨されるか? CQ2:成人の根治目的の癌治療を終了したがん罹患経験者(再発を経験した者を除く)に対して、栄養治療を行うことは推奨されるか? CQ3:根治不能な進行性・再発性がんに罹患し、抗がん薬治療に不応・不耐となった成人患者に対して、管理栄養士などによる栄養カウンセリングを行うことは推奨されるか?第4章:コラム――――――――――――――――――― 最後に同氏は、「現代は2人に1人はがんになると言われているが、もともとがん患者は栄養不良のことが多い。また、その栄養不良ががんを悪化させ、栄養不良そのもので亡くなるケースもある。周術期や治療前にすでに栄養状態が悪くなっている場合もあることから、栄養管理の重要性を理解するためにも、がんに関わる医療者全員に本書を読んでいただきたい」と締めくくった。

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コロナとインフル、臨床的特徴の違い~100論文のメタ解析

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの鑑別診断の指針とすべく、中国・China-Japan Union Hospital of Jilin UniversityのYingying Han氏らがそれぞれの臨床的特徴をメタ解析で検討した。その結果、患者背景、症状、検査所見、併存疾患にいくつかの相違がみられた。さらにCOVID-19患者ではより多くの医療資源を必要とし、臨床転帰も悪い患者が多いことが示された。NPJ Primary Care Respiratory Medicine誌2025年1月28日号に掲載。 著者らは、PubMed、Embase、Web of Scienceで論文検索し、Stata 14.0でランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。COVID-19患者22万6,913例とインフルエンザ患者20万1,617例を含む100の論文が対象となった。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19はインフルエンザと比較して、男性に多く(オッズ比[OR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.23~1.74)、肥満度が高い人に多かった(平均差[MD]:1.43、95%CI:1.09~1.77)。・COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、現在喫煙者の割合が低かった(OR:0.25、95%CI:0.18~0.33)。・COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、入院期間(MD:3.20、95%CI:2.58~3.82)およびICU入院(MD:3.10、95%CI:1.44~4.76)が長く、人工呼吸を必要とする頻度が高く(OR:2.30、95%CI:1.77~3.00)、死亡率が高かった(OR:2.22、95%CI:1.93~2.55)。・インフルエンザ患者はCOVID-19患者より、上気道症状がより顕著で、併存疾患の割合が高かった。

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認知症ケア、積極的介入でアウトカムに差はなし/JAMA

 認知症ケア専門家による医療システムを基盤とするケアとソーシャルワーカーや看護師による地域ケアのいずれにおいても、認知症患者の行動症状および介護者の負担に関して、積極的介入と通常ケア(介入なし)による有意な違いは認められなかった。米国・David Geffen School of Medicine at UCLAのDavid B. Reuben氏らが、米国の4施設で実施した無作為化試験の結果を報告した。認知症に対するさまざまなケアの有効性は明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年1月29日号掲載の報告。医療システム型ケア、地域密着型ケア、積極的介入なしの3群に無作為化 研究グループは、地域居住の認知症患者とその介護者を、医療システムを基盤とするケア(医療システム型ケア)群、地域密着型ケア群、および積極的介入なし(通常ケア)群のいずれかに、7対7対1の割合で無作為に割り付けた。 医療システム型ケア群では、医療システム内の認知症ケア専門家がUCLAアルツハイマー病・認知症ケアプログラムに基づく包括的な認知症ケアを行った。地域密着型ケア群では、Benjamin Rose Institute on Aging(BRI)のケア相談モデルを用いてBRIケアコンサルタントとして認定されたソーシャルワーカー、看護師または認可セラピストが電話で包括的な認知症ケアを行った。通常ケア群では、追加の介入は行わなかった。 主要アウトカムは、介護者による認知症患者の神経精神目録-質問票(Neuropsychiatric Inventory Questionnaire:NPI-Q)の重症度スコア(範囲:0~36、高スコアほど行動症状の重症度が高い、臨床的に意義のある最小差[MCID]:2.8~3.2)、ならびに修正介護者負担指標(Caregiver Strain Index:CSI、範囲:0~26、高スコアほど負担が大きい、MCID:1.5~2.3)であった。また、副次アウトカムとして、介護者の自己効力感(範囲:4~20、高スコアほど自己効力感が高い)など3項目を評価した。 2019年6月28日~2022年1月31日に計2,176組(認知症患者とその介護者)が登録され、医療システム型ケア群1,016組、地域密着型ケア群1,016組、通常ケア群144組に無作為に割り付けられた。最終追跡調査日は2023年8月21日であった。積極的介入と介入なしでアウトカムに差はなし 認知症患者2,176例は平均年齢80.6歳、女性58.4%、黒人またはヒスパニック系20.6%、介護者2,176例は平均年齢65.2歳、女性75.8%、黒人またはヒスパニック系20.8%であった。主要アウトカムは参加者の99%以上で評価され、1,343例(登録者の62%、91%が生存しており、かつ試験を中止していなかった)が18ヵ月間の試験を完了した。 主要アウトカムに関して、医療システム型ケア群、地域密着型ケア群と通常ケア群との間に有意差は認められなかった。 NPI-Qスコアの最小二乗平均値(LSM)は、医療システム型ケア群9.8、地域密着型ケア群9.5、通常ケア群10.1であり、医療システム型ケア群の地域密着型ケア群との差は0.30(97.5%信頼区間[CI]:-0.18~0.78)、同通常ケア群との差は-0.33(-1.32~0.67)、地域密着型ケア群の通常ケア群との差は-0.62(-1.61~0.37)であった。 修正CSIのLSMは、医療システム型ケア群10.7、地域密着型ケア群10.5、通常ケア群10.6であり、医療システム型ケア群の地域密着型ケア群との差は0.25(97.5%CI:-0.16~0.66)、同通常ケア群との差は0.14(-0.70~0.99)、地域密着型ケア群の通常ケア群との差は-0.10(-0.94~0.74)であった。 副次アウトカムでは介護者の自己効力感のみが、両ケア群と通常ケア群を比較した場合に有意な改善が認められたが、ケア群間では有意差は認められなかった。介護者の自己効力感のLSMは、医療システム型ケア群15.1、地域密着型ケア群15.2、通常ケア群14.4であり、医療システム型ケア群の地域密着型ケア群との差は-0.16(95%CI:-0.37~0.06)、同通常ケア群との差は0.70(0.26~1.14)、地域密着型ケア群の通常ケア群との差は0.85(0.42~1.29)であった。

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ニンジンが糖尿病治療の助けになる?

 2型糖尿病の患者がニンジンを食べると、健康に良い効果を期待できるかもしれない。その可能性を示唆する、南デンマーク大学のLars Porskjaer Christensen氏らの研究結果が、「Clinical and Translational Science」に12月3日掲載された。同氏は大学発のリリースの中で、「われわれは、ニンジンが将来的には2型糖尿病の食事療法の一部として利用されるという、潜在的な可能性を秘めていると考えている」と記している。 この研究でChristensen氏らは、デンプン質の野菜に含まれる栄養素が生体に引き起こす代謝効果に着目し、マウスモデルを用いた実験を行った。特に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)に対する作用を持つことが報告されている、ニンジンの可能性に焦点を当てた。なお、PPARγは、チアゾリジン薬という経口血糖降下薬の主要な作用標的でもある。 2型糖尿病を誘発させたマウスを3群に分けて、1群は低脂肪の餌を与えて飼育。他の2群は、非健康的な人の食習慣を模して、高脂肪の餌を与えた。さらに、高脂肪食群の一方の餌には、フリーズドライのニンジン粉末を10%の割合で混ぜて与えた。このような条件で16週間飼育して、その前後で糖負荷試験を行ったほか、腸内細菌叢の組成を比較検討した。 ベースラインの糖負荷後の血糖値の推移には有意な群間差はなかったが、16週後には、低脂肪食群の血糖変動が最も少なく、高脂肪食の2群では負荷後の血糖上昇が大きいという差が生じていた。しかし、高脂肪食の2群で比較した場合、ニンジン粉末を混ぜて飼育した群のほうが、糖負荷直後の血糖上昇幅が少なかった。腸内細菌叢の分析からは、ニンジン粉末を混ぜて飼育したマウスは細菌叢の多様性が高いことが明らかになった。 では、ニンジンはヒトの健康維持にも役立つのだろうか? 著者らは、本研究の結果を直ちにヒトに適用することには慎重な姿勢を示しながらも、ニンジンがヒトの健康にも影響を及ぼし得るかを検証するため、新たな研究資金の確保を目指しているとのことだ。もし、ニンジンに含まれている化合物が、ヒトに対してもマウスと同様の作用を発揮するとしたら、米国に住む膨大な数の2型糖尿病患者に恩恵をもたらす可能性がある。また、本研究で得られた知見から、糖尿病治療薬の効果をより高める手段が見つかるかもしれない。 なお、著者らは、ニンジンの健康効果を期待して摂取する場合には、調理の手をあまり加えずに食べることを勧めている。調理の工程で、健康へのプラス作用が期待される化合物が全く失われることはないものの、量が減ってしまう可能性があるとのことだ。

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医師のスキルはお見合いでも生かせる!【アラサー女医の婚活カルテ】第7回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所での活動期間を通じた筆者のお見合い回数や、オンラインお見合いと対面お見合いの比較について書きました。今回も引き続き、お見合いでの経験を皆さんにシェアしたいと思います。お見合いにも生かせる!「傾聴と共感」のスキル前回触れたように、私は活動期間を通じて「31回」のお見合いを経験しました。自慢ではありませんが(笑)、これは同年代の婚活女性に比べてかなり多い回数です。その中で、お見合い後にはほとんどのお相手から「交際希望」のお返事をいただき、「お断り」だったお相手はわずか2、3人だったと記憶しています。女性医師は、婚活市場で意外と(?)人気のようですよ!今回は、そんな私なりの、お見合いに臨むうえでの心掛けについて、少し触れておきたいと思います。お見合いをするうえで役立ったのが、意外にも医師としての仕事のスキルでした。われわれ医師は、学生時代に「傾聴と共感」の心構えを叩き込まれます。言わずもがな「患者さんの話をよく聴いて、その気持ちに寄り添う態度を見せることが、医師-患者間の円滑なコミュニケーションを実現するためには大切だ」ということですが…、お見合いも、突き詰めれば「人と人とのコミュニケーション」ですから、この「傾聴と共感」の姿勢が大いに役に立ちました。たとえば、お相手の職業がシステムエンジニア(SE)なら、こんな具合です。こん野「SEさんって、どんなお仕事ですか?」お相手「クライアントから依頼を受けてシステムをつくっています」こん野「システム……、、、畑違いなのでよくわからないのですが、システムって、具体的にはどんなものですか?」お相手「たとえば、工場にある材料の在庫を社内で共有できるようなソフトウエアを開発したり、メンテナンスしたりします」こん野「なるほど! それは重要なお仕事ですね。じゃあ、今まで一番つくるのが大変だったシステムって、何でしたか?」お相手「銀行のATMのシステムを担当していたときは、送金トラブルなどで夜中の呼び出しも多くて、激務でしたよ」こん野「わぁ、それは大変そう(共感)。医師にとっての、当直みたいなものですかね」こんなふうに、患者さんから症状や病歴を一つひとつ聞き出すような調子で会話をすれば、お相手はノリノリで話をしてくれます。仮に交際に至らないお相手でも、お見合いの1時間はお互いに気分良く過ごしたいものですし、畑違いの職業のことを知れば、良い社会勉強にもなります(後々、ほかのお見合い相手との雑談に生かせるかも!?)。お見合い相手の「カルテ」を作成お見合いが好感触で、私から「交際希望」を出す場合には、その人と話した内容を忘れないように、スマホのメモ帳アプリにお相手一人ひとりの「カルテ」をつくって、いつでも見返せるようにしました。外来での診察中、年配の患者さんに「そういえば、前にお話しされていた東京のお孫さん、お元気ですか?」などと雑談をすると、患者さんにとても喜んでもらえるものです。それと同じような感覚で、交際中のデート前には「カルテ」を確認し、「前にお好きだと仰っていた○○、私も食べてみましたよ!」などと、さりげなく話題を出すようにしました。また、何人もの方とお見合いや仮交際をする中で、話した内容がごちゃ混ぜになってしまっては相手に失礼です。実際、私も婚活中にお相手から、明らかに別の交際女性と混同しているであろう話題を振られたことがあって、表情にこそ出さなかったものの、スーッと気持ちが冷めてしまったことがありました。この時、私のほうからはこのような失礼なことをしないように気を付けよう、と心に決めました。このような事態を避けるためにも「カルテ」づくりは重要だと思います。「おごり・おごられ」問題、婚活中はどう対処?よく、男女の「おごり・おごられ論争」がSNS上で白熱しているのを見かけます。この連載では「男が○○、女が○○」というような“主語の大きな”一般論を持ち出すつもりはありませんが、私自身は、あくまで“個人の好み”として、男性からご飯をごちそうになればうれしいですし、大切に扱ってもらっているなぁと感じます。ただ、婚活中はお互いの条件を擦り合わせる期間でもありますから、おごってもらってばかりでは、お相手が将来の結婚生活のことを考えて、不安になってしまうかもしれません。そこで、ご飯をごちそうになった際には、次のカフェでは私がごちそうしたり、お礼にデパ地下の小さな菓子折を渡したり…、といった心遣いを、形にして表すように心掛けていました。いかがでしたか?今回は、私が婚活中に心掛けていたことをシェアさせていただきました。ご参考になれば幸いです。次回は、私がお見合いで遭遇した、(良くも悪くも)印象に残ったお相手を何人かご紹介したいと思います。お楽しみに。

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非機器的早期運動療法はDVT発生率を低減【論文から学ぶ看護の新常識】第1回

非機器的早期運動療法はDVT発生率を低減非機器的早期運動療法は、入院患者における深部静脈血栓症(DVT)の発生率を低減する効果があることが示された。Julia Raya-Benitez氏らによる研究で、International Journal of Nursing Studies誌の2025年1月号に掲載された。入院患者における深部静脈血栓症発生率低減のための非機器的早期運動療法の有効性:システマティックレビューとメタアナリシス研究グループは、非機器的早期運動療法のDVT発生率低減効果を、システマティックレビューとメタアナリシスで評価した。7つのランダム化比較試験(RCT)が含まれ、対象者は1,774例。主要な評価指標をDVTの発生率とし、全身的、局所的、遠隔的な非機器的早期運動療法の有効性を比較した。研究の結果、非機器的早期運動療法は、通常ケアと比較してDVT発生率を有意に低下させた(リスク比[RR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.41~0.73、p<0.0001)。とくに、全身的運動療法(RR:0.54、95%CI:0.38~0.78、p=0.001)および遠隔運動療法(RR:0.25、95%CI:0.07~0.86、p=0.03)が効果的であることが確認された。一方で、局所運動療法は、通常ケアとの比較で統計的に有意な効果は示されなかった(RR:0.68、95%CI:0.42~1.12、p=0.13)。運動は1日2~3回、各セッション10~30分程度で行われ、実施期間は6日から6週間だった。この方法は患者のDVT予防だけでなく、入院期間の短縮や合併症のリスク低減にも効果があることが期待されている。看護では最高峰の雑誌への投稿です。非機器的早期運動療法とは、特別な機器を使わずに行う運動療法を指し、本研究では患者が入院してから24時間以内に開始されるものと定義されています。これはまさに急性期における看護師の介入時期と方法に合致しているといえます。この療法には3つの種類があります。まず1つ目は、足首の屈伸などリスク部位周辺を動かす局所運動療法です。静脈ポンプ作用を活性化して血流を直接促進する効果が見込まれます。次に、歩行訓練など全身を動かす全身的運動療法があります。これは血液循環を改善し、心拍出量を増やして血流の停滞を防ぐ効果が期待できます。最後に、上肢や体幹のストレッチのようにリスク部位以外を動かす遠隔運動療法があります。こちらは間接的に全身の血流を増加させる可能性があります。本研究では、こうした運動の効果がデータによって裏づけられ、とくに全身的運動療法や遠隔運動療法がDVTの予防に有効であることが示されました。つまり、足首などのリスクの高い部位を十分に動かせない場合でも、全身的あるいは遠隔の運動を取り入れることで同様の効果が得られるため、ベッドサイドでも実用性の高い介入法といえます。一方で、今回解析対象の文献には、疼痛管理など複合的介入を行っているものも含まれており、今後さらに質の高い研究が求められます。ただし少なくとも本研究の結果をみる限り、看護師が日常的に実施している関節可動域訓練などの非機器的早期運動療法の重要性を再確認するものといえます。論文はこちらRaya-Benitez J, et al. Int J Nurs Stud. 2025;161:104917.

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血中セロトニン低下は認知症や神経精神症状にどう影響しているか

 脳内のセロトニン調節不全は、認知症や神経精神症状と関連しているといわれている。しかし、機能低下、認知機能障害、軽度の行動障害、脳萎縮などの認知症前駆症状を検出するうえで、血中セロトニン濃度の有用性は、依然としてよくわかっていない。シンガポール国立大学のMing Ann Sim氏らは、高齢者における血中セロトニン濃度と認知症や神経精神症状との関連を評価するため、5年間のプロスペクティブ研究を実施した。Brain Communications誌2025年1月9日号の報告。 対象は、ベースライン時に認知機能障害のないまたは認知機能障害はあるものの認知症でない高齢者。対象患者の神経心理学的評価を毎年行った。認知機能の評価には、モントリオール認知評価、Global Cognition Z-scores、臨床的認知症尺度(CDR)を用いた(機能低下:ベースラインから0.5以上の増加)。軽度の行動障害は、ベースラインおよび毎年のNeuropsychiatric Inventory assessment(NPI)、脳萎縮はベースラインMRIから皮質および内側側頭葉の萎縮スコアを用いて評価した。その後、ベースライン時の血中セロトニン濃度と神経心理学的および神経画像的測定とを関連付け、横断的および縦断的に評価した。さらに、血中セロトニン濃度と横断的脳萎縮スコアとの関連性も評価した。 主な内容は以下のとおり。・対象は191人の高齢者(認知機能障害なし:63人[33.0%]、認知機能障害はあるが認知症でない:128人[67.0%])。・ベースライン時に軽度の行動障害が認められた高齢者は14人(9.0%)。・セロトニンレベルの最低三分位の高齢者は、最高三分位と比較し、皮質萎縮スコアが高かった(調整オッズ比[aOR]:2.54、95%信頼区間[CI]:1.22〜5.30、p=0.013)。・セロトニンレベルは、横断的神経心理学的スコアまたは軽度行動障害スコアとの有意な関連が認められなかった(各々、p>0.05)。・フォローアップ期間中央値60.0ヵ月にわたる長期調査を完了した181人のうち、56人(30.9%)で機能低下が認められた。軽度の行動障害は、119人中26人(21.8%)でみられた。・最高三分位と比較し、セロトニンレベルの低さは機能低下リスクが高く(最低三分位の調整ハザード比[aHR]:2.15、95%CI:1.04〜4.44、p=0.039)、軽度の行動障害の発生リスクが高かった(最低三分位のaHR:3.82、95%CI:1.13〜12.87、p=0.031、中間三分位のaHR:3.56、95%CI:1.05〜12.15、p=0.042)。・セロトニンレベルの最低三分位と機能低下との関連は、軽度の行動障害の発生を媒介していた(aOR:3.96、95%CI:1.15〜13.61、p=0.029)。 著者らは「血中セロトニンレベルの低下は、ベースラインでの皮質萎縮と関連している可能性があり、認知症でない高齢者における機能低下や軽度の行動障害の早期マーカーである可能性が示唆された」と結論付けている。

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