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sepsis(敗血症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第20回

言葉の由来「敗血症」は英語で“sepsis”といいます。日本の臨床現場でもよく用いられるため、なじみのある人も多いかもしれません。この言葉は「腐敗、物質の分解」を意味する古代ギリシャ語の“sepsis(「e」はeにサーカムフレックス)”に由来するという説が一般的です。紀元前4世紀という大昔に、すでにヒポクラテスが“sepsis”を医学的な概念として用いていたことが記録に残っているといいます。ほかの医学用語と比べても、殊に歴史の深い言葉であることがわかります。それほどまでに歴史のある病名ですが、長年統一された定義があったわけではなく、地域や医師それぞれが思い思いの定義で使っている、という状況でした。ようやく1991年にロジャー・ボーンらがSCCM-ACCP(米国集中治療医学会-米国臨床薬学会)会議にて敗血症の統一的な定義をつくることを提唱し、「Sepsis」という国際的なガイドラインが策定されました。以降も改訂が繰り返されていますが、厳密な疾患の定義や診断基準が規定されています。併せて覚えよう! 周辺単語全身性炎症反応症候群systemic inflammatory response syndrome(SIRS)多臓器不全multiple organ failure抗菌薬antibiotics感染源管理source control敗血症性ショックseptic shockこの病気、英語で説明できますか?Sepsis is a life-threatening condition caused by the body's extreme immune response to an infection. It leads to systemic inflammation, organ dysfunction, and can progress to septic shock if not treated promptly.講師紹介

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重度精神疾患患者における第2世代抗精神病薬の心代謝プロファイルの安全性比較

 重度の精神疾患のマネジメントにおけるアリピプラゾールの心代謝への安全性および有効性の比較に関するエビデンスは限られており、その結果は一貫していない。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAlvin Richards-Belle氏らは、他の第2世代抗精神病薬と比較したアリピプラゾールの心代謝プロファイルおよび有効性を調査した。PLoS Medicine誌2025年1月23日号の報告。 英国・プライマリケアにおけるアリピプラゾールとオランザピン、クエチアピン、リスペリドンを直接比較した観察エミュレーションを実施した。データは、Clinical Practice Research Datalinkより抽出した。対象は、2005〜17年に新たに抗精神病薬を使用した重度の精神疾患(双極症、統合失調症、その他の非器質性精神病)成人患者。2019年までの2年間、フォローアップを行った。主要アウトカムは、1年後の総コレステロール値(心代謝安全性)とした。主な副次的アウトカムは、精神科入院(有効性)とした。その他のアウトカムには、体重、血圧、すべての原因による治療中止、死亡率などを含めた。分析では、人口統計、診断、併用薬、心血管代謝パラメータなどのベースライン交絡因子で調整を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は2万6,537例。その内訳は、アリピプラゾール群3,573例、オランザピン群8,554例、クエチアピン群8,289例、リスペリドン群6,121例。・年齢中央値は53歳(四分位範囲:42〜67)、女性の割合は55.4%、白人の割合は82.3%、統合失調症の割合は18.0%。・アリピプラゾール群における1年後の総コレステロール値は、オランザピン群(調整平均[aMD]:−0.03、95%信頼区間[CI]:−0.09〜0.02、p=0.261)、クエチアピン群(aMD:−0.03、95%CI:−0.09〜0.03、p=0.324)、リスペリドン群(aMD:−0.01、95%CI:−0.08〜0.05、p=0.707)と同等であった。・体重や血圧などの他の心代謝パラメータは、とくにオランザピン群と比較し、アリピプラゾール群のアウトカムが良好であることが示唆された。・入院歴で調整した後、アリピプラゾール群の精神科入院率は、オランザピン群(調整ハザード比[aHR]:0.91、95%CI:0.82〜1.01、p=0.078)、クエチアピン群(aHR:0.94、95%CI:0.85〜1.04、p=0.230)、リスペリドン群(aHR:1.01、95%CI:0.91〜1.12、p=0.854)と同等であった。 著者らは「重度の精神疾患患者に対するアリピプラゾール治療は、他の第2世代抗精神病薬と比較し、1年後の総コレステロール値は同等であったが、体重や血圧などの他の心代謝パラメータは良好であり、有効性の違いも認められなかった」とし「本結果は、新規の重度精神疾患患者に対する抗精神病薬の選択時において、臨床意思決定の根拠となるであろう」と結論付けている。

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未治療CLLへの固定期間のアカラブルチニブ併用療法、PFSを改善/NEJM

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、BTK阻害薬アカラブルチニブとBCL-2阻害薬ベネトクラクスの併用療法は、抗CD20抗体オビヌツズマブの追加有無にかかわらず、化学免疫療法と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のJennifer R. Brown氏らAMPLIFY investigatorsが27ヵ国133施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「AMPLIFY試験」で示された。未治療CLL患者において、アカラブルチニブ+ベネトクラクスの固定期間併用投与が、化学免疫療法と比べてPFSが優れるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2025年2月5日号掲載の報告。アカラブルチニブ+ベネトクラクス併用療法と医師選択化学免疫療法を比較 研究グループは、18歳以上、ECOG PS 0~2で、17p欠失またはTP53変異のない未治療CLL患者(>65歳はCumulative Illness Rating Scale for Geriatrics[CIRS-G]スコアが>6の場合は除外)を、アカラブルチニブ+ベネトクラクス(AV)群、アカラブルチニブ+ベネトクラクス+オビヌツズマブ(AVO)群、または化学免疫療法群に1対1対1の割合で、無作為に割り付けた。 AV群では、1サイクル28日として、アカラブルチニブ(100mgを1日2回)をサイクル1~14に、ベネトクラクス(20mgを1日1回から開始し5週間をかけて400mgを1日1回に増量)をサイクル3~14に投与した。 AVO群では、上記のAVに加えてオビヌツズマブ(1,000mg)をサイクル2~7の1日目に静脈内投与した。 化学免疫療法群では、医師選択によるフルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブまたはベンダムスチン+リツキシマブを標準投与プロトコールに従い、サイクル1~6に投与した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFSで、AV群と化学免疫療法群を比較した(ITT解析)。アカラブルチニブ+ベネトクラクスのPFSが有意に延長 2019年2月25日~2021年4月5日に、1,141例がスクリーニングを受け、867例が無作為化された(AV群291例、AVO群286例、化学免疫療法群290例[フルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ群143例、ベンダムスチン+リツキシマブ群147例])。患者背景は、年齢中央値61歳(範囲:26~86)、男性64.5%、IGHV(免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子)変異なし58.6%であった。 追跡期間中央値40.8ヵ月において、36ヵ月PFS率推定値はAV群76.5%(95%信頼区間[CI]:71.0~81.1)、AVO群83.1%(78.1~87.1)、化学免疫療法群66.5%(59.8~72.3)であり、化学免疫療法群に対するAV群の疾患進行または死亡のハザード比は0.65(95%CI:0.49~0.87、p=0.004)であった(AVO群と化学免疫療法群の比較のp<0.001)。 重要な副次評価項目である全生存期間(OS)については、36ヵ月OS率推定値がAV群94.1%、AVO群87.7%、化学免疫療法群85.9%であった。 主な臨床的に関心のある有害事象のうち、Grade3以上の好中球減少症はAV群、AVO群および化学免疫療法群でそれぞれ32.3%、46.1%、43.2%に報告された。また、新型コロナウイルス感染症による死亡はそれぞれ10例、25例、21例報告された。

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中血管閉塞脳卒中への血管内治療、アウトカムを改善せず/NEJM

 中血管閉塞を伴う急性期虚血性脳卒中患者に対する発症12時間以内の血管内血栓除去術(EVT)は、標準治療(現行ガイドラインに基づく静脈内血栓溶解療法)と比較して90日時点のアウトカム改善に結び付かなかったことが、カナダ・カルガリー大学のM. Goyal氏らESCAPE-MeVO Investigatorsが行った第III相多施設共同前向き無作為化非盲検評価者盲検試験の結果で示された。主幹動脈閉塞を伴う急性期虚血性脳卒中患者にはEVTが有効であるが、中血管閉塞を伴う急性期虚血性脳卒中患者にも当てはまるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2025年2月5日号掲載の報告。最終健常確認後12時間以内の中血管閉塞を伴う脳梗塞患者を対象、標準治療のみと比較 研究グループは、中血管閉塞を伴う急性期虚血性脳卒中で、救急部門への受診が最終健常確認後12時間以内であり、ベースラインの非侵襲的脳画像検査で治療可能と確認された患者を、EVT+標準治療を受ける群(EVT併用群)または標準治療のみを受ける群(標準治療のみ群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。中血管閉塞は、中大脳動脈のM2またはM3の閉塞、前大脳動脈のA2またはA3の閉塞、または後大脳動脈のP2またはP3の閉塞と定義し、A1およびP1はとくに含まれなかった。標準治療は、急性期脳卒中管理についてカナダ、米国、欧州の現行ガイドラインで推奨されている静脈内血栓溶解療法(tenecteplaseまたはアルテプラーゼによる)であった。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])が0または1であった患者の割合であった。90日時点のmRSスコア0/1達成患者割合、EVT併用群41.6% vs.標準治療のみ群43.1% 2022年4月~2024年6月に5ヵ国から計530例が登録され、255例がEVT+標準治療(EVT併用)を、275例が標準治療のみを受けた。84.7%の患者は、中大脳動脈の梗塞であった。 90日時点のmRSスコアが0または1であった患者の割合は、EVT併用群41.6%(106/255例)、標準治療のみ群43.1%(118/274例)であった(補正後率比:0.95、95%信頼区間[CI]:0.79~1.15、p=0.61)。 90日時点の死亡率は、EVT併用群13.3%(34/255例)、標準治療のみ群8.4%(23/274例)であった(補正後ハザード比:1.82、95%CI:1.06~3.12)。 As-Treated集団で評価した重篤な有害事象のうち、症候性頭蓋内出血の発現は、EVT併用群5.4%(14/257例)、標準治療のみ群2.2%(6/272例)であった。

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早期TN乳がんへの術後アテゾリズマブ、iDFSを改善せず(ALEXANDRA/IMpassion030)/JAMA

 StageII/IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、術後化学療法へのアテゾリズマブ上乗せは、ベネフィットが示されなかった。ベルギー・Institut Jules BordetのMichail Ignatiadis氏らが無作為化試験「ALEXANDRA/IMpassion030試験」の結果を報告した。TNBC患者は、転移のリスクが高く、若年女性や非ヒスパニック系の黒人女性に多いことで知られている。さらにStageII/IIIのTNBC患者は、最適な化学療法を受けても約3分の1が早期診断後2~3年に転移再発を経験し、平均余命は12~18ヵ月である。そのため、化学療法の革新にもかかわらずアンメットニーズが存在する。直近では、TNBC患者の早期治療戦略の1つは術後化学療法であったが、免疫療法を上乗せすることのベネフィットについては明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年1月30日号掲載の報告。31ヵ国330施設超で行われた第III相国際非盲検無作為化試験、iDFSを評価 ALEXANDRA/IMpassion030試験は、31ヵ国330施設超で行われた第III相の国際非盲検無作為化試験であり、初回治療として手術を受けた18歳以上のStageII/IIIのTNBC患者を対象とした。被験者登録は2018年8月2日~2022年11月11日、最終フォローアップは2023年8月18日であった。 被験者は1対1の割合で、標準化学療法(20週間)に加えアテゾリズマブの投与(最長1年間)を受ける群(アテゾリズマブ群、1,101例)または標準化学療法のみを受ける群(化学療法群、1,098例)に無作為化された。標準化学療法は、パクリタキセル80mg/m2を週1回12サイクルに続き、アントラサイクリン(エピルビシン90mg/m2またはドキソルビシン60mg/m2)+シクロホスファミド600mg/m2を2週間ごと4サイクル投与した。アテゾリズマブは、840mgを2週ごと10サイクル、その後1,200mgを3週間ごととし、最長で計1年間投与した。 主要評価項目は、無浸潤疾患生存期間(iDFS)で、無作為化から同側または対側乳房の浸潤乳がん発生、遠隔転移、またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義した。 予定被験者登録数は2,300例であったが、独立データモニタリング委員会の勧告に基づき2,199例で登録は中止となった。全患者が、計画された早期中間解析および無益性解析の後にアテゾリズマブの投与を中止された。試験は、前倒しされた最終解析まで継続した。iDFSイベント発生、アテゾリズマブ群12.8%、化学療法群11.4% 登録被験者の年齢中央値は53歳で、自己申告に基づく人種/民族は、ほとんどがアジア人または白人であり、ラテン系またはヒスパニックはわずかであった。 iDFSイベントが発生したのは、アテゾリズマブ群141例(12.8%)、化学療法群125例(11.4%)であり(追跡期間中央値32ヵ月)、最終的なiDFSの層別化ハザード比は1.11であった(95%信頼区間:0.87~1.42、p=0.38)。 化学療法群と比較して、アテゾリズマブ群ではGrade3または4の治療関連有害事象が多かったが(54% vs.44%)、死亡に至った有害事象(0.8% vs.0.6%)および試験中止に至った有害事象の発現は同程度であった。化学療法曝露は両群で同等であった。

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ADHDと診断された人の寿命は短い?

 注意欠如・多動症(ADHD)の成人は、同年代のADHDではない人と比べて平均寿命が男性で平均6.8年、女性で8.6年短いと推定されることが、新たな研究で示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)加齢・臨床心理学分野のJoshua Stott氏らによるこの研究結果は、「The British Journal of Psychiatry」に1月23日掲載された。Stott氏は、「これは大きな数字であり、憂慮すべき状況だ」とNew York Times紙に語っている。 世界でのADHDの有病率は2.8%と推定されている。Stott氏は、ADHDの人は、衝動的な行動を取りがちで、時間や健康をうまく管理できない傾向が強く、それがよりリスクの高い選択につながっている可能性があると説明する。New York Times紙は、このような困難が、ADHDの人での事故率や慢性疾患の罹患率の高さに関連していると報じている。 これらのことは、過去の研究でも裏付けられている。2022年のメタアナリシスでは、ADHDの人は、事故や自殺などの「不自然死」で死亡する可能性が一般人口よりも3倍近く高いことが示されている。また、2019年の研究では、ADHDの関連因子である喫煙、飲酒、睡眠不足、低収入が寿命の短縮と関連することが指摘されている。しかし、これまで、死亡データを基にADHDの人の寿命がADHDではない人と比べてどの程度短縮し得るのかを調査した研究は実施されていなかった。 Stott氏らは今回、2000年から2019年にかけて英国の792カ所の一般診療所から収集されたプライマリケアのデータを用いて、ADHDの人の寿命がどの程度短縮するのかを調べた。対象は、ADHDの診断を有する18歳以上の成人3万39人(ADHD群)と、年齢、性別、診療所を一致させた対照群30万390人であった。 その結果、ADHD群では、一般的な身体的および精神的な健康状態に関する診断が、対照群よりも多いことが明らかになった。また、ADHD群の寿命は、対照群と比べて男性で6.78年(95%信頼区間4.50~9.11)、女性で8.64年(同6.55~10.91)短いことも示された。ただし、本研究ではADHD群での具体的な死因は特定されていない。 研究グループは、ADHDの人が短命である原因には、喫煙や不十分な治療などの修正可能な要因が関係している可能性が高いと推測し、そのような治療や支援におけるアンメットニーズを法的措置によって改善する必要があるとしている。その具体例として、ADHDの人に多く見られる身体的および精神的健康問題への認識を高める取り組みの推進や、精神的な支援へのアクセスや禁煙支援サービスを適切なタイミングで利用できる環境整備の重要性を説いている。 Stott氏は、「ADHDの人には多くの強みがあり、適切な支援と治療を受けることで成長を期待できる。しかし、実情は支援を欠いていることが多く、生活の中でストレスになるようなことや社会的排除を経験することも多い。こうしたことが、彼らの健康や自尊心に悪影響を与えている可能性がある」と話している。

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無症状の重症大動脈弁狭窄症に対する早期介入は有効か?―EVOLVED 無作為化臨床試験(解説:佐田政隆氏)

 大動脈弁狭窄症(AS)患者は社会の高齢化と共に急速に増えている。ASの予後は非常に不良なことが知られており、自覚症状が出現してから突然死などで死亡するまでの期間は短い。狭心症や失神では3年、息切れでは2年、うっ血性心不全では1.5~2年で亡くなるといわれている。有効な薬物療法はなく、人工弁置換術が唯一の治療法である。従来、高齢者や合併症を持った患者では、人工心肺を用いた開胸による外科的大動脈弁置換術(SAVR)に耐えられない症例が多かった。近年では、比較的低侵襲で行われる経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の治療成績が飛躍的に向上し急速に普及している。100歳を超えた成功例も数多く報告されている。 しかし、無症状で偶発的に発見されたASに対して弁置換術を施行することの予後改善効果や医療経済的価値が問題視されている。ASの病態が進行性で予後不良であることで毎回引用される、J. Ross JrとE. Braunwaldによる1968年のCirculation誌の論文は、何と57年前のものであるうえ、当時のASの主な原因は溶連菌感染症によるリウマチ熱の後遺症であるリウマチ性弁膜症であった。現在問題になっている、高齢者石灰化大動脈弁狭窄症の自然経過に関する研究は倫理的な問題からなされていない。 同じように、冠動脈疾患に対する早期のカテーテルインターベンションについても、その意義が議論されてきた。2019年に報告されたISCHEMIA試験では、中等度以上の虚血が認められた患者において、早期の侵襲的治療戦略は、薬物療法で管理する保守的治療戦略と比較し、心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症/心不全による入院、心停止後の蘇生の複合イベントのリスク抑制は認められなかったことが、医療現場に大きなインパクトを与えた。 このような状況下に行われたのが、本EVOLVED試験である。英国とオーストラリアの24施設で、224例の心筋線維化(高感度トロポニンIの上昇か、心エコー図検査で左室肥大、心臓MRI検査での遅延造影のうち1つが陽性)を伴った無症候性重症AS患者が、人工弁による早期介入(SAVRまたはTAVI)、もしくは、ガイドラインに沿った保守的管理に振り分けられ、中央値で42ヵ月観察された。主要評価項目である、心血管死と大動脈弁狭窄症に起因する予期せぬ入院では有意差がみられなかった。 注意すべき点としては、保守的管理に振り分けられても、中央値として20.2(11.4~42.0)ヵ月後に人工弁置換術に移行している。人工弁置換の55%がSAVR、45%がTAVIであった。人工弁置換術に移行した理由の72%が症状の出現、15%が緊急の入院手術のためであった。30日死亡率は0%であった。 また、無症候性の患者がエントリーされたとはいえ、フォローアップ1年後、保守的管理群でNYHA II度、III度、IV度の割合が多く、早期介入によってQOLの改善が得られたことになる。 今回の研究は、対象患者数が比較的少なく、観察期間も必ずしも十分長いとはいえない。TAVIの手術成績が向上した現在、無症候性の重症AS患者を紹介されることが多いが、どのように治療手段を選択すべきか指針を作成するための、今後の各種臨床試験の結果が待たれる。

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尿路感染を起こしやすいリスクファクターへの介入【とことん極める!腎盂腎炎】第12回

尿路感染を起こしやすいリスクファクターへの介入Teaching point(1)急性期治療のみではなく前立腺肥大や神経因性膀胱などによる複雑性尿路感染症の原因にアプローチできるようになる(2)排尿障害を来す薬剤を把握し内服調整できるようになる《症例1》72歳、男性。発熱を主訴に救急外来を受診し、急性腎盂腎炎の診断で入院となった。抗菌薬加療で経過良好、尿培養で感受性良好な大腸菌が同定されたため経口スイッチし退院の日取りを計画していた。チームカンファレンスで再発予防のアセスメントについて指導医から質問された。《症例2》66歳、男性。下腹部痛、尿意切迫感を主訴に救急外来を受診した。腹部超音波検査で膀胱内尿貯留著明であり、導尿で800mL程度の排尿を認めた。前立腺肥大による尿閉を考えバルーン留置で帰宅、泌尿器科受診の方針としていた。今回急に尿閉に至った原因がないのか追加で問診するように指導医から提案された。はじめに腎盂腎炎を繰り返す場合や男性の尿路感染症では背景疾患の検索、治療が再発予防に重要である。本項では前立腺肥大や神経因性膀胱についての対応、排尿障害を来す薬剤についてまとめる。まず、排尿障害と治療を理解するために、前立腺と膀胱に関与する酵素と受容体、その作用について図に示す。排尿筋は副交感神経によるコリン刺激で収縮、尿道括約筋にはα1受容体が分布しており、α1刺激で収縮する。また、β3受容体も分布しておりβ3刺激で弛緩する。β3受容体は膀胱の平滑筋細胞にも広く分布しており、β3刺激で膀胱を弛緩させる。図 前立腺と膀胱に関与する酵素と受容体画像を拡大する1.前立腺肥大男性は解剖学的に尿路感染症を起こしにくいが、60歳以上から大幅に増加し女性と頻度が変わらなくなる。これは前立腺肥大の有病率の増加が大きく影響する1)。肥大していても症状を自覚していないこともあるので注意しよう。症状は国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコアを使用し聴取する2)。薬物療法として推奨グレードA2)であるα1遮断薬、5α還元酵素阻害薬とPDE5阻害薬を処方例とともに表1で解説する。生活指導(多飲・コーヒー・アルコールを含む水分を控える、膀胱訓練・促し排尿、刺激性食物の制限、排尿障害を来す薬情提供、排便コントロール、適度な運動、長時間の坐位や下半身の冷えを避ける)も症状改善に有効である2)。2.神経因性膀胱神経因性膀胱では、上流の原因検索と排尿機能廃絶のレッテルを早期に貼らないことが大事な2点であると筆者は考える。中枢神経障害(脳血管障害、脊髄疾患、神経変性疾患など)、末梢神経障害(骨盤内手術による直接的障害、帯状疱疹などの感染症や糖尿病性ニューロパチー)で分けて考える。機能からも、蓄尿機能と排尿機能のどちらに障害を来しているのか評価するが、両者を合併することも多い。薬物治療は蓄尿障害であれば抗コリン薬などが用いられ、排尿障害であればコリン作動薬やα1受容体遮断薬が用いられる(表1)。 表1 前立腺肥大症治療薬、神経因性膀胱治療薬の特徴と処方例画像を拡大する薬剤で奏功しない場合でも、尿道バルーンカテーテル留置はQOLの低下や感染リスクを伴うことから、間欠的自己導尿が対応可能か考慮しよう。臥位では腹圧をかけにくいため排尿姿勢の確認も大切である。急性期の状態を脱し、全身状態、ADLの改善とともに排泄機能も改善するため、看護師やリハビリを含めた多職種で協力して経時的に評価を行っていくことを忘れてはならない。看護記録の「自尿なし」という記載のみで排尿機能廃絶というレッテルを貼らないようにしよう。3.薬剤による排尿障害薬剤も排尿障害の原因となり、尿閉の原因の2~10%程度といわれている6,7)。抗コリン作用のある薬剤、α刺激のある薬剤、β遮断作用のある薬剤で尿閉が生じる。プロスタグランジンも排尿筋の収縮を促すため、合成を阻害するNSAIDsも原因となる8)。カルシウム拮抗薬も排尿筋弛緩により尿閉を来す。過活動性膀胱に対して使用されるβ3作動薬のミラベグロンで排尿障害となり尿路感染症の原因となる例もしばしば経験する。急性尿閉の原因がかぜ薬であったというケースは読者のみなさんも経験があるだろう。総合感冒薬には第1世代抗ヒスタミン薬やプソイドエフェドリンが含まれるものがあり、かぜに対して安易に処方された薬剤の結果で尿閉を来してしまうのである。排尿障害の原因検索という観点と自身の処方薬で排尿障害を起こさないためにも排尿障害を起こし得る薬剤(表2)9)を知っておこう。表2 排尿障害を来す薬剤リスト画像を拡大する《症例1(その後)》担当看護師に夜の様子を確認すると夜間頻尿があり排尿のために数回目覚めていた。IPSSを評価したところ16点、前立腺体積は42mLで中等症の前立腺肥大症が疑われた。退院後外来で泌尿器科を受診し前立腺肥大症と診断、タムスロシン処方開始となり夜間頻尿は改善し尿路感染症の再発も認めなかった。《症例2(その後)》追加問診で1週間前に感冒のため市販の総合感冒薬を内服していたことが判明した。抗ヒスタミン薬が含まれており抗コリン作用による薬剤性の急性尿閉と考えられた。感冒は改善しており薬剤の中止、バルーン留置し翌日の泌尿器科を受診した。前立腺肥大症が背景にあることが判明したが、内服中止後はバルーンを抜去しても自尿が得られたとのことであった。1)Sarma AV, Wei JT. N Engl J Med. 2012;367:248-257.2)日本泌尿器科学会 編. 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン リッチヒルメディカル;2017.3)Fisher E, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD006744.4)National Institute for health and care excellence. Lower urinary tract symptoms in men:management. 2010.5)Tsukamoto T, et al. Int J Urol. 2009;16:745-750.6)Tesfaye S, et al. N Engl J Med. 2005;352:341-350.7)Choong S, Emberton M. BJU Int. 2000;85:186-201.8)Verhamme KM, et al. Drug Saf. 2008;31:373-388.9)Barrisford GW, Steele GS. Acute urinary retention. UpToDate.(最終閲覧日:2021年)

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市中肺炎、ステロイドを検討すべき患者は?

 市中肺炎(CAP)は、過剰な炎症反応が死亡と関連することから、ステロイドの併用が有効である可能性が指摘されている。そこで、複数の無作為化比較試験(RCT)やシステマティックレビュー・メタ解析が実施されているが、ステロイドの併用による死亡率への影響については議論が続いている。そのような背景から、オランダ・エラスムス大学医療センターのJim M. Smit氏らの研究グループは、CAPによる入院患者を対象としたRCTの個別患者データ(IPD)を用いたメタ解析を実施し、ステロイドの併用の30日死亡率への影響を評価した。その結果、ステロイドの併用により30日死亡率が低下し、とくにCRP高値の患者集団で有用である可能性が示された。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年1月29日号に掲載された。 CAPにより入院した患者を対象に、ステロイド併用の有用性を検討した8つのRCTを抽出した。これらのRCTのIPDを用いてメタ解析を実施した。主要評価項目は30日死亡率とし、抗菌薬にステロイドを併用した群(ステロイド群)と抗菌薬にプラセボを併用した群(プラセボ群)を比較した。CRPや肺炎重症度(PSI)スコアなどによる治療効果の異質性も検討した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、8つのRCTの対象患者3,224例であった。・30日死亡率は、ステロイド群6.6%(106/1,618例)、プラセボ群8.7%(140/1,606例)であり、ステロイド群が有意に低かった(オッズ比[OR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.94)。・CRP 204mg/L以下の集団における30日死亡率は、ステロイド群13.0%(46/355例)、プラセボ群13.2%(49/370例)であり、両群間に差はみられなかった(OR:0.98、95%CI:0.63~1.50)。・CRP 204mg/L超の集団における30日死亡率は、ステロイド群6.1%(20/329例)、プラセボ群13.0%(39/301例)であり、ステロイド群が低かった(OR:0.43、95%CI:0.25~0.76)。・PSIスコア(クラスI~III vs.クラスIV/V)による治療効果の差はみられなかった。・ステロイド群では、高血糖の発現(OR:2.50、95%CI:1.63~3.83、p<0.0001)、再入院(OR:1.95、95%CI:1.24~3.07、p=0.0038)が多かった。 本研究結果について、著者らは「CAPによる入院患者において、CRP高値の場合はステロイドの併用を考慮すべきであることが示唆された」と考察した。

570.

混合性うつ病の精神運動興奮に対するトラゾドンIVの有効性

 精神運動興奮は、混合性うつ病の困難な症状であり、多くの場合、臨床アウトカムを悪化させ、治療を複雑化させる。イタリア・シエナ大学のPietro Carmellini氏らは、混合性うつ病患者を対象に、トラゾドン静脈内投与(IV)の有効性および忍容性を評価するため、レトロスペクティブ研究を実施した。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2025年1月13日号の報告。 対象は、混合性うつ病入院患者97例。症状重症度は、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、ヤング躁病評価尺度(YMRS)、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)、7項目一般化不安障害質問票(GAD-7)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)を用いて評価した。 主な内容は以下のとおり。・治療初期において、興奮、不安、易怒性の有意な低減が観察された。・相関分析では、トラゾドンIVの投与量とMADRS(r=−0.23、p<0.05)、GAD-7の項目5(r=−0.27、p<0.001)、CGI-S(r=−0.22、p<0.05)のスコア改善との間に有意な負の相関が認められた。・治療期間においても、GAD-7の項目5(r=−0.29、p<0.001)、CGI-S(r=−0.27、p<0.001)のスコア改善と負の相関が認められ、これは治療期間が長くなると効果が低減する可能性を示している。・回帰分析では、投与量ではなく治療期間がGAD-7の項目5およびCGI-Sのスコア改善に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・トラゾドンは、忍容性が良好であり、軽度の副作用が11.3%の患者でみられた。 著者らは「混合性うつ病の興奮および関連症状の低減に対するトラゾドンIV治療、とくに初期段階での治療が有効であることを示唆しており、併せて治療期間を最適化することの重要性が示された。今後の研究において、個別化された投与戦略や長期アウトカムを調査する必要がある」としている。

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移植不適格/移植延期の新規診断多発性骨髄腫、D-VRdがVRdより深い持続的なMRD反応(CEPHEUS)

 移植不適格の新規診断多発性骨髄腫(NDMM)患者または初期治療として移植予定のない(移植延期)患者を対象に、ダラツムマブ皮下投与+ボルテゾミブ+レナリドミド+ デキサメタゾン(D-VRd)をボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(VRd)と比較した無作為化第III相CEPHEUS試験において、D-VRdがより深い持続的な微小残存病変(MRD)反応をもたらすことが示された。米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのSaad Z. Usmani氏らがNature Medicine誌オンライン版2025年2月5日号に報告した。 本試験では、移植不適格または移植延期となったNDMM患者395例を、D-VRdを 8サイクル投与後D-Rdを進行するまで投与する群(D-VRd群)とVRdを8サイクル投与後Rdを進行するまで投与する群(VRd群)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、次世代シークエンシングによる全MRD陰性率(閾値10-5)、主な副次的評価項目は、完全奏効(CR)以上の割合、無増悪生存期間、MRD陰性持続率(閾値10-5)であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値58.7ヵ月で、MRD陰性率はD-VRd群が60.9%、VRd群が39.4%であった(オッズ比:2.37、95%信頼区間[CI]:1.58~3.55、p<0.0001)。・CR以上の割合(81.2% vs.61.6%、p<0.0001)およびMRD陰性持続率(12ヵ月以上、48.7% vs.26.3%、p<0.0001)は、D-VRd群がVRd群より有意に高かった。・進行または死亡のリスクは、D-VRd群がVRd群より43%低かった(ハザード比:0.57、95%CI:0.41~0.79、p=0.0005)。・有害事象はダラツムマブおよびVRdの既知の安全性プロファイルと同様であった。 著者らは「本研究は、移植不適格または移植延期NDMMに対する新たな標準治療として4剤併用D-VRd療法を支持するもの」としている。

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緊急開腹術時の感染予防、局所陰圧閉鎖療法vs.ドレッシング/JAMA

 緊急開腹術を受けた成人患者の手術部位感染(SSI)の予防において、閉鎖創への外科医が選択した被覆材(ドレッシング)の使用と比較して局所陰圧閉鎖療法(iNPWT)(PICO 7、Smith & Nephew製)は、効果を改善せず、術後の入院期間や創傷関連合併症による再入院などにも差はないことが、オーストラリア・ニューカッスル大学のKristy Atherton氏らSUNRRISE Trial Study Groupが実施した「SUNRRISE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月27日号に掲載された。2ヵ国の実践的な無作為化第III相試験 SUNRRISE試験は、皮膚の1次閉鎖を伴う緊急開腹術を受けた患者のSSI発生の予防におけるiNPWTの有効性の評価を目的とする、医師主導型の評価者をマスクした実践的な無作為化第III相試験であり、2018年12月~2021年5月に、英国の22の病院とオーストラリアの12病院で参加者を募集した(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成を受けた)。 英国は年齢16歳以上、オーストラリアは18歳以上で、受診した施設で5cm以上の切開を伴う緊急開腹術を受け、腹壁筋膜と皮膚の1次閉鎖を行った患者を対象とした。これらの患者を、iNPWTを受ける群、または外科医が選択した創傷被覆材を用いる群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは術後30日(手術日を0日目とした)までのSSIとし、無作為割り付けの情報をマスクされた評価者が、米国疾病予防管理センター(CDC)の基準を用いて評価した。per-protocol解析やサブグループ解析でも差はない 840例(英国536例、オーストラリア304例、平均年齢63.8歳[範囲:18.8~95.3]、女性52%)を登録した。無作為化後に同意の撤回などで52例が脱落し、残りの788例が主解析の対象となった(両群394例ずつ)。 術後30日までにSSIを発症した患者は、iNPWT群が394例中112例(28.4%)、外科医選択被覆材群は394例中108例(27.4%)であり、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク[RR]:1.03[95%信頼区間[CI]:0.83~1.28]、p=0.78)。 この所見は、per-protocol解析(RR:1.00[95%CI:0.80~1.25]、p=0.98)を含む事前に規定された種々の感度分析でも強固にみられ、汚染の程度、ストーマの有無、BMI、皮膚の前処置などのサブグループでも一致して認めた。 また、7つの副次アウトカムのうち、術後の入院期間、SF-12で評価した生活の質など6項目には両群間に有意な差はなかった。唯一、7日目の時点での手術部位の疼痛がiNPWT群で良好(p=0.01)だったが、差は小さく臨床的意義は不明だった。安全性の副次アウトカムである創傷関連合併症による再入院および術後30日以内の創傷合併症にも差はなかった。重篤または特異的な有害事象の頻度は同程度 496件の重篤な有害事象が報告され(iNPWT群237件、外科医選択被覆材群259件)、iNPWT群で411例中158例(38%)、外科医選択被覆材群で410例中165例(40%)に発生した(複数の重篤な有害事象の発症した患者を含む)。 腸管皮膚瘻(iNPWT群0/411例、外科医選択被覆材群1/410例)および皮膚有害反応(iNPWT群5/411例、外科医選択被覆材群2/410例)などの特異的な有害事象の頻度は両群間で同程度であった。術後30日以内の死亡率は3%で、iNPWT群で10例(2.4%)、外科医選択被覆材群では14例(3.4%)であった。 著者は、「本研究の知見は、緊急開腹術を受けた成人患者におけるSSIの抑制を目的としたiNPWTのルーチンの使用を支持しない」「この試験は、外科研修医(レジデント)が救急患者の特定、同意取得、無作為化を行うことで、従来は参加者の確保が困難であった緊急性の高い疾患の臨床試験への患者確保が可能であることを実証した」「これらの結果が、緊急開腹術を受ける集団全体に一般化できるか否かを検討することが重要だが、本試験は比較的健康状態が良好な患者を登録した可能性がある」としている。

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中等~重度の認知症、通常ケアvs.緩和ケア/JAMA

 中等度~重度の認知症患者には緩和ケアによる介入が必要とされる。米国・Regenstrief InstituteのGreg A. Sachs氏らは、IN-PEACE試験において、地域在住の中等度~重度の認知症患者とその介護者では、通常のケアと比較して緩和ケアを統合した認知症ケアの管理プログラムは、24ヵ月間を通して患者の神経精神症状を緩和せず、介護者の抑うつ状態や苦痛も改善しないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月29日号で報告された。インディアナ州中部地域の無作為化臨床試験 IN-PEACE試験は、中等度~重度の認知症患者とその介護者における、緩和ケアを統合した認知症ケアの管理プログラムの有用性を評価する無作為化臨床試験であり、2019年3月~2020年12月に米国インディアナ州中部の2つの施設で参加者を登録した(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。 電子健康記録(EHR)をスクリーニングして年齢65歳以上の中等度~重度の認知症患者を特定し、介護者が認知症の病期を含む適格性を確認した。介護者は年齢18歳以上で、患者の日常生活の支援を行う中心的な人物とした。患者と介護者を1組として、緩和ケア群または通常ケア群に無作為に割り付けた。 介入は、研修を受けた看護師またはソーシャルワーカーからの毎月の電話、および介護者による患者の神経精神症状、介護者自身の苦痛、緩和ケアの問題(たとえば、アドバンス・ケア・プランニング、症状、ホスピスなど)の管理を支援するエビデンスに基づくプロトコールで構成された。通常ケア群では、介護者は認知症に関するリソースとなる情報を受け取り、患者は臨床医による通常のケアを受けた。 主要アウトカムは、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI-Q)の重症度スコア(0~36点、高点数ほど患者の症状が悪化していることを示す)とした。副次アウトカムは、患者のSymptom Management in End-of-Life Dementia(SM-EOLD)スコア(0~45点、高点数ほど9つの症状のコントロールが良好であることを示す)、介護者の抑うつ(Patient Health Questionnaire-8:PHQ-8)スコア(0~24点、高点数ほど抑うつ症状が多いことを示す)、介護者の苦痛(NPI-Q distress)スコア(0~60点、高点数ほど苦痛が大きいことを示す)、および救急診療部受診と入院の複合イベントであった。NPI-Q重症度スコアの経時的な変化率に差はない 患者(平均年齢83.6歳、女性67.7%)と介護者(60.5歳、81.1%)の201組を登録した。緩和ケア群が99組、通常ケア群が102組であった。患者の96%がFunctional Assessment Staging Tool(FAST)のステージが6または7(中等度~重度の認知症)であり、患者と介護者の40%以上がアフリカ系アメリカ人だった。試験期間中に3組が脱落し、83例の患者が死亡した。 NPI-Q重症度スコアの平均値は、ベースラインにおいて緩和ケア群9.92点、通常ケア群9.41点、24ヵ月後はそれぞれ9.15点および9.39点であり(24ヵ月時の群間差:-0.24[95%信頼区間[CI]:-2.33~1.84])、ベースラインからの経時的な変化率に群間差を認めなかった(群と時間の交互作用のp=0.87)。救急診療部受診と入院の複合イベントは緩和ケア群で良好 24ヵ月時の患者のSM-EOLDスコア(群間差:1.74[95%CI:-1.03~4.50])、介護者のPHQ-8スコア(-0.05[-1.46~1.36])、介護者のNPI-Q distressスコア(-0.87[-3.83~2.10])については、いずれも両群間に有意な差はなかった。一方、救急診療部受診と入院の複合イベントは、緩和ケア群で少なかった(1例当たりの平均イベント数:緩和ケア群1.06 vs.通常ケア群2.37、群間差:-1.31[95%CI:-1.93~-0.69]、相対リスク:0.45[95%CI:0.31~0.65])。 著者は、「救急診療部受診や入院の減少は大幅な費用削減につながる可能性があるが、これは本試験の目的ではなく、今後、さらに評価を進める必要があるだろう」「患者および介護者の症状や苦痛に関するアウトカムがいずれも改善しなかったことは予期せぬ所見であったが、主な原因としてベースライン時の症状および苦痛の負荷が比較的低かったために、これらの結果が改善される範囲が限定された可能性がある」としている。

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自己免疫性皮膚疾患は心臓病のリスク増加につながる

 一部の皮膚疾患患者は心臓病の早期スクリーニングを受ける必要があるかもしれない。米テキサス大学サウスウェスタン医療センター皮膚科のHenry Chen氏らの最新の研究によると、免疫システムが自己を攻撃する自己免疫性皮膚疾患患者では動脈硬化を発症するリスクが対象群と比べて72%増加することが、明らかになった。同氏らによる研究結果は、「JAMA Dermatology」に12月4日掲載された。 全身性エリテマトーデス(SLE)は全身に炎症を引き起こし、皮膚、関節、臓器に損傷を与える疾患である。米疾病対策センター(CDC)の報告によれば、米国にはSLE患者が約20万4,000人存在し、そのうちの少なくとも80%が皮膚症状を発症している。一方、皮膚のみに症状が現れることもあり、この病態は皮膚エリテマトーデス(CLE)と診断される。これまでに、SLEや乾癬のような自己免疫疾患の患者では、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の発症リスクが高まることが報告されている。しかし、CLE患者では、メタボリックシンドロームやがんのリスクが高まることは報告されてはいるものの、ASCVDのリスクについてはこれまで検証されてこなかった。 この研究では、IBM MarketScan Commercial Claims and Encounters Databaseの2018年から2020年までの保険請求データが後ろ向きに解析された。具体的には、CLE患者群8,138人、SLE患者群2万4,675人、乾癬患者群19万2,577人を無病対照群8万1,380人と比較し、ASCVDの有病率および発症リスクを検証した。無病対照群はSLE、CLE、乾癬を発症していない人と定義し、年齢、性別、保険の種類などをCLE患者群とマッチングさせた。ASCVDは冠動脈疾患、心筋梗塞または脳血管障害の既往と定義。ASCVDの有病率と発症リスクの比較には、多変量ロジスティック回帰分析とCox比例ハザードモデルが用いられた。 多変量ロジスティック回帰分析によるASCVDの有病率は、無病対照群と比較してCLE患者群で72%(オッズ比1.72、95%信頼区間1.45~2.02)、SLE患者群で141%(同2.41、2.14~2.70)有意に高くなっていた(いずれもP<0.001)。 Cox比例ハザードモデルによるASCVDの発症リスクは、無病対照群と比較してSLE患者群(ハザード比2.23、95%信頼区間2.05~2.43)、CLE患者群(同1.32、1.13~1.55)で、有意な増加が認められた(いずれもP<0.001)。一方、乾癬患者群(同1.06、0.99~1.13)では統計学的有意性は認められなかった。 これらの結果を受けて研究グループは、「SLEやCLEはASCVDのリスク増加と関連しており、これらの患者の担当医には、適切なスクリーニング検査の実施と専門医への紹介が求められる可能性がある。また担当医は、心臓によい生活習慣(健康的な食事、適度な運動、喫煙の見直しなど)の重要性について患者にアドバイスを行う必要があるのではないか」と述べている。また、「これらの患者には、血圧とコレステロールの定期的なモニタリング、迅速な治療が必要になるかもしれない。喫煙を始めとしたASCVDのリスク因子についても今後の検証が必要である」と付言している。

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高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)のヒト感染(解説:寺田教彦氏)

 本報告では、2024年3月から10月に米国で確認された高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)のヒト感染例46症例の特徴が記されている。概要は「鳥インフルエンザA(H5N1)、ヒト感染例の特徴/NEJM」に記載のとおりである。 高病原性鳥インフルエンザ(Highly pathogenic avian influenza:HPAI)ウイルスA(H5N1)は、香港における生鳥市場を介したヒト感染例が1997年に報告されて以降、渡り鳥により世界中に広がり、世界24ヵ国で900例以上の報告がある。かつては、HPAIV(H5N1)はヒトや哺乳類には感染しにくく、ヒトヒト感染はまれだが、ヒトの感染例では重症化することがあり、死亡率も高い(約50%)と考えられていた。しかし、2003年ごろから哺乳類の感染事例が報告され、2024年3月下旬に米国の酪農場でヤギや乳牛で感染事例が報告されて以降は、米国内の複数州から乳牛の感染事例の報告が相次いでいた。 本ケースシリーズは、米国内において乳牛のHPAIV(H5N1)の報告がされた3月から10月にかけての感染リスクや臨床症状・経過や採取検体とその陽性率等のデータがまとめられている。 まず、今回のケースシリーズでは、ヒトヒト感染を確認した症例はなく、今のところHPAIV(H5N1)のヒトヒト感染のリスクは低そうである。 次に、検出された遺伝子型を確認する。遺伝子型の違いによるウイルス性状の違いは現時点で判明していないが、過去の報告では、野鳥や家禽に関連するHPAIV(H5N1)の遺伝子型はほとんどがD1.1で、牛に関連するHPAIV(H5N1)の遺伝子型はB3.13が多かった。今回の報告では、遺伝子型が調査されたうち、ほとんどがB3.13で家禽に曝露した4例のみがD1.1だった。 臨床像では93%が結膜炎を呈し、発熱は49%、気道症状(咳嗽、咽頭痛、息切れ)は36%でみられた。重症度は、入院を要した患者(曝露源不明)が1例のみで、死亡例はなく、過去の報告よりも軽症患者が多い印象だった。 検体は結膜から採取された症例が多く(45例中41例)、結膜スワブの陽性率は高かった(結膜炎報告例の90%が陽性)。 さて、本報告を読んで気になったことの1つに重症度がある。本ケースシリーズでは、HPAIV(H5N1)の入院例は1例のみで死亡者はおらず、HPAIV(H5N1)が軽症化しているかのように思われた。しかし、本報告と同日にNEJMで報告されたカナダにおける鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)は重症例であり(Jassem AN, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 31. [Epub ahead of print])、HPAIV(H5N1)が軽症化したと考えるのは早計かもしれない。 考えられることの1つとして、今回の報告では、HPAIV(H5N1)に罹患した動物に曝露したヒトを10日間モニタリングしており、軽微な症状の症例も診断することができたために重症度が低下したようにみえた可能性が考えられる。本報告で入院した患者とカナダの重症化した患者の共通点は、感染経路不明である。過去にHPAIV(H5N1)に罹患した患者でも、重症化しなかったためにHPAIV(H5N1)の検査までは行われずに過去の報告では見逃されていた患者が存在したのかもしれない。 あるいは、遺伝子型の違いも考えられるかもしれない。カナダから報告された症例の遺伝子型は、D1.1だったが、今回のケースシリーズの遺伝子型の多くはB3.13だった。他に考えられることとしては、本報告では、ほとんどが発症後早期に診断され、オセルタミビルの投与がされていたことがある。感染経路不明の場合には、診断の遅れなどにより、抗ウイルス薬投与開始までの時間がかかるため、速やかな抗ウイルス薬投与が予後改善に関与していた可能性は残る。 本報告から、2024年に米国で確認されたHPAIV(H5N1)の特徴を知ることはできたが、HPAIV(H5N1)の経過や重症度、感染リスクを十分把握したとはいえず、今後も動向を監視する必要があるだろう。 最後に本邦におけるHPAIV(H5N1)の状況を振り返る。 HPAIV(H5N1)は、感染症法に基づく医師の届出の2類感染症に指定されているが、幸いにも国内でのヒト発症例の報告はない(国立感染症研究所「高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応」)。ただし、国内でも鳥類でのHPAIV(H5N1)の検出事例は継続して報告されており、本邦でも引き続き動物を含めて発生動向を監視する必要があるだろう。 また、本邦におけるHPAIV(H5N1)の届出基準では検査材料に結膜拭い液は含まれていない。HPAIV(H5N1)と結膜炎の関係性は、米国の乳牛曝露例でも報告(Uyeki TM, et al. N Engl J Med. 2024;390:2028-2029.)されていたが、本ケースシリーズからも、結膜炎を呈する割合は高く、それらの患者で結膜スワブの陽性率は高かった。今後は、HPAIV(H5N1)疑いの患者で、結膜炎を呈する場合は、本邦でも角結膜拭い液の検査が検討されるようになるかもしれない。

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表皮剥離創【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第23回

今回は、皮膚脆弱性がある患者に生じやすい表皮剥離創についてです。高齢者や免疫抑制薬を使用している患者では、皮膚粗鬆症(dermatoporosis)と表現される皮膚の脆弱性が生じます1)。紫斑が出やすく、皮膚と皮下組織の接合が弱くて軽微な外傷でも皮膚だけ「ずるむけた」ような状態になります。この創に対する処置を知らないと縫合しようとしてしまいますが、縫合は不適です。そうならないためにも症例を提示して処置を紹介します。<症例>82歳、男性主訴左前腕の皮がめくれた既往歴高血圧、認知症、糖尿病施設入所中の患者。施設職員が朝、患者の右前腕に剥離創があることに気付き往診を依頼。図1 表皮剥離創(イメージ)慣れた看護師さんがいたら自力でテープ固定ができることもありますが、対応できない施設だと一般外来に連れてきて対応に困ることがあります。かくいう私も、若いころ初めてこのような傷を診たときに縫合しようとしてしまいました。上司より「剥離した皮膚が弱くて、縫合すると割けてしまう。こういう傷はテープで寄せるんだよ」と教わりました。順を追って確認しましょう。(1)傷の確認まず剥離創かどうかを判断します。傷口をめくってみると脂肪織が見えることもあり、その場合はステリテープでは皮下に死腔ができてしまうため、吸収糸で縫合したほうがよい可能性もあります。その後、キシロカインゼリーなどで鎮痛して洗浄しましょう。(2)剥離した皮膚の確認剥離した皮膚がすべて残っていれば、通常はきれいに創がふさがるはずです。しかしながら、欠損している可能性もあります。その場合は、可能な限り元に近い状態に伸ばし広げます。(3)皮膚が反転していないか確認剥離した皮膚が内側に入り込んだままステリテープで固定しようとする症例を見かけることがあります。このまま固定すると、皮膚が入り込んでいる部位は接着しにくくなります。必ず元の位置に戻しましょう。(4)テープ固定傷口に対して垂直になるようにテープを貼って固定します(図2)。図2 テープで固定(5)被覆このような傷は浸出液が出るため、頻回な被覆の交換が必要になります。私は、ワセリンとガーゼで処置しています。湿潤環境を保つとともに、テープがガーゼに引っ付かないようにするためです。ガーゼは可能であれば毎日交換し、最長でも3日に1回は交換するよう指導しています。(6)その後のフォロー自宅でガーゼの交換が可能であれば、基本的にフォローは必要ありません。テープは1週間程度で粘着力が落ちて取れます。私は10日経っても取れない場合は、患者自身で取ってもよいと指導しています。今回は、表皮剥離創の処置について紹介しました。表皮剥離創は、とくに高齢者や免疫抑制薬を使用している患者にみられる皮膚の脆弱性が原因で発生します。軽微な外傷でも皮膚が剥がれることがあり、剥離した皮膚を元の位置に戻してテープで固定することが推奨されています。適切な処置を行えば、比較的簡単に治癒しますので、ぜひ実施してください。1)Kaya G, et al. Dermatology. 2007;215:284-294.

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第253回 米国バイオテックの遺伝子編集ブタ腎臓の2例目移植が成功

多くのニュースで取り上げられた米国のマサチューセッツ総合病院での世界初のブタ腎臓のヒトへの移植成功からおよそ1年が過ぎ、同病院で2例目のその試みが主執刀医の河合 達郎氏らの手によって先月1月25日に無事完了しました1,2)。昨春2024年3月の最初の移植も河合氏らに手によるものでした3)。移植されたのは、河合氏が勤めるマサチューセッツ総合病院があるボストンの隣のケンブリッジを拠点とするバイオテクノロジー企業eGenesis社が開発している遺伝子編集ブタ腎臓です。EGEN-2784と呼ばれるそのブタ腎臓はよりヒトに順応するようにし、感染の害が及ばないようするための69のCRISPR-Cas9遺伝子編集を経ています。具体的には、主要な3つの糖鎖抗原が省かれており、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を盛んに発現し、ブタ内在性レトロウイルスが働けないように不活性化されています。EGEN-2784はヒトへの最初の移植例となった62歳の末期腎疾患患者Rick Slayman氏の体内ですぐに機能し始め、11.8mg/dLだった血漿クレアチニン濃度が移植後6日目までに2.2mg/dLに下がりました。Slayman氏は透析が不要になるほどに回復しました4)。しかし腎機能維持にもかかわらず、Slayman氏は移植から2ヵ月ほど(52日目)で呼吸困難に陥って急逝しました。持病の糖尿病や虚血性心筋症によって生じたとされる冠動脈疾患を伴う心肥大、左室線維化、後壁梗塞が剖検で見受けられました。移植腎臓の拒絶反応や血栓性微小血管症の所見は認められませんでした。移植したブタ腎臓のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)障害に起因しうる血液量(intravascular volume)の頻繁な変動がSlayman氏の不整脈リスクを高めた可能性はありますが、同氏はどうやら重度の虚血性心筋症と関連するリズム障害で突然心臓死(SCD)したようです。Slayman氏は生きるために移植を必要とする数千もの人々が希望を持てることを願ってEGEN-2784の移植を決めました5)。Slayman氏の遺志が引き継がれることを願う同氏の家族の期待を背に、河合氏らは66歳の男性Tim Andrews氏への2例目となるEGEN-2784移植手術を先月1月25日に無事終えました。2月7日のマサチューセッツ総合病院の発表によると、移植した腎臓は見込みどおり機能しており、Andrews氏は手術の1週間後の2月1日には早くも退院して透析いらずの生活を送っています1,2)。日本での開発も進むほかでもない日本のバイオテクノロジー企業のポル・メド・テックがeGenesis社と提携しており、昨年2月にはEGEN-2784の遺伝子編集技術を利用した移植医療用のブタを日本で生産できたことが発表されています6)。その9ヵ月ほど後の11月24日には、そうして作られた遺伝子改変ブタ腎臓のサルへの移植が実施されました7)。ことはさらに進み、先週5日にポル・メド・テックは実用化に向けた取り組みのための資金5億1千万円を調達したことを発表しています。ポル・メド・テックの遺伝子改変ブタ生産力は今のところ1年間あたり50頭です。2年後には1年間に数百頭生産できるようにし、移植実施医療機関への円滑な臓器の供給を目指します8)。参考1)Massachusetts General Hospital Performs Second Groundbreaking Xenotransplant of Genetically-Edited Pig Kidney into Living Recipient / Massachusetts General Hospital 2)eGenesis Announces Second Patient Successfully Transplanted with Genetically Engineered Porcine Kidney / BUSINESS WIRE3)World’s First Genetically-Edited Pig Kidney Transplant into Living Recipient Performed at Massachusetts General Hospital / Massachusetts General Hospital 4)Kawai T, et al. N Engl J Med.2025 Feb 7. [Epub ahead of print] 5)An Update on Mr. Rick Slayman, World’s First Recipient of a Genetically-Modified Pig Kidney / Massachusetts General Hospital6)eGenesis and PorMedTec Announce Successful Production of Genetically Engineered Porcine Donors in Japan / BUSINESS WIRE7)霊長類への遺伝子改変ブタ腎臓移植試験の実施について / PorMedTec8)第三者割当増資による資金調達実施のお知らせ / PorMedTec

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糖尿病治療薬のメトホルミンに皮膚がん予防効果

 糖尿病治療で処方される頻度の高い、メトホルミンという経口血糖降下薬に、皮膚がんの発症予防効果があることを示唆するデータが報告された。米ブラウン大学のTiffany Libby氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of Drugs in Dermatology」に11月26日掲載された。皮膚がんの中で最も一般的な、基底細胞がん(BCC)と扁平上皮がん(SCC)という非黒色腫(メラノーマ)皮膚がんの発症リスクが有意に低下する可能性があるという。Libby氏は、「われわれの研究結果はメトホルミンが、これら非メラノーマ皮膚がんに対する予防薬となり得ることを示すエビデンスと言える」と述べている。 メトホルミンが非メラノーマ皮膚がんの発症を抑制するのではないかとする研究結果は、本研究以前にも報告されていたが、それらの研究は、がんの種類別の解析がなされていない、人種/民族の差が考慮されていないなどの限界点があり、不明点が多く残されていた。Libby氏は、米国立衛生研究所(NIH)が疾患の個別化治療を確立するために行っている「All of Us研究」のデータベースを用いて、メトホルミンの非メラノーマ皮膚がんリスクに対する影響を検討した。 All of Us研究のデータベースには、BCC患者8,047人、SCC患者4,111人が含まれていた。この患者群と、年齢、性別、人種/民族がマッチする対照群を1対4の割合(BCCに対して3万2,188人、SCCに対して1万6,444人)で設定し、メトホルミン処方の有無を比較した。なお、BCCまたはSCCの診断の2年以上前にメトホルミンが1回以上処方されていたケースを「処方あり」と定義した。 メトホルミンの処方率は、BCC群は6.45%、SCC群が9.00%であったのに対して、BCCの対照群は13.08%、SCCの対照群は13.23%だった。単変量解析により、メトホルミンの処方はBCC(オッズ比〔OR〕0.46〔95%信頼区間0.42~0.50〕)、SCC(OR0.65〔同0.58~0.73〕)が少ないことと有意に関連しており、交絡因子を調整した多変量解析でもその関連が有意だった(BCCはOR0.33〔0.29~0.36〕、SCCはOR0.45〔0.40~0.51〕)。ただし、人種/民族別に解析すると、アフリカ系米国人はSCCに関する単変量解析の結果が非有意だった(OR0.61〔0.28~1.22〕)。 研究チームによると、メトホルミンはがん細胞へのエネルギーや栄養素の供給を抑えるように働き、がんの成長や増殖能力を阻害する可能性があるという。また、がん細胞に対する免疫反応を高めたり、炎症を軽減したり、皮膚がんに新たな血管が伸びるのを防ぐようにも働くと考えられるとのことだ。著者らは、「われわれの研究結果に基づけば、メトホルミンによるがん予防の可能性を検討するために、さらなる研究を行うべきではないか」と結論付けている。 米国がん協会(ACS)によると、米国内で毎年、約540万件のBCCまたはSCCが診断されており、そのうち約8割をBCCが占めるという。ただし、非メラノーマ皮膚がんに分類されるこれらの皮膚がんは、一般的に死亡リスクは高くない。ACSのデータでは、非メラノーマ皮膚がんによる死亡者数は年間2,000~8,000人の範囲にとどまっている。

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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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犬を強く愛している飼い主ほど健康になれる?

 犬と暮らす人の中でも、犬への愛着が強い人ほど身体活動量が高くなっていることが明らかになった。国立環境研究所の谷口優氏と東京都健康長寿医療センター研究所の池内朋子氏による論文が、「PLOS One」に11月27日掲載された。同氏らは、「犬と暮らすことで得られる健康効果を説明する要因として、犬への愛着の強さが鍵を握っているのではないか」と述べている。 近年、犬の飼い主は健康状態が良好な人が多いとする研究結果が複数報告されてきている。谷口氏らも既に、犬と暮らす高齢者は身体機能が高いことや、フレイル(虚弱)や死亡に至るリスクが低いことを報告している。また、犬と暮らす高齢者の中でも、散歩などの運動習慣がある人において認知症の発症リスクが低くなることも報告している。しかし、なぜ犬と暮らす人の中で、運動習慣に差が生じるのかについては不明であった。 今回の研究は、一般社団法人ペットフード協会が2023年に実施したインターネット調査のデータを用いて行われた。この調査には日本各地に居住している20~79歳の犬猫飼育者1,683人が回答。このうち犬を飼っている1,041人を解析対象とした。 対象者の主な特徴は、平均年齢が52.5歳、女性57.5%、既婚者71.1%、戸建ての持ち家居住者70.0%、独居者10.4%で、平均年収は500~600万円であった。また犬の散歩の頻度は、1日2回以上が25.1%、1日1回から2回が3.8%、週3回から7回が45.8%、週3回未満が25.3%だった。国際標準化身体活動質問票で評価した中高強度身体活動量の平均値は、41.4METs時/週であった。 飼い犬への愛情の強さの評価には、既存の質問票(the CENSHARE Pet Attachment Survey)を用いた。この質問票は、「ペットとの遊びや運動に時間を使うか?」、「ペットはあなたの気分の変化に気づくか?」、「ペットを家族だと思うか?」などの六つの質問から成り、最大スコア24点で回答を評価し、点数が高いほど愛着が強いと判定する。本研究の対象者の平均値は18.8点だった。 犬への愛着の強さと散歩の頻度および身体活動量との関連性について、重要な交絡因子(年齢、性別、婚姻状況、同居家族、収入、自宅の形態)の影響を統計学的に調整した結果、犬への愛着が強いほど散歩の頻度が高いことが明らかになった(B=0.04、P<0.01)。そして、犬への愛着が強いほど、中高強度身体活動量が高いことも認められた(B=1.43、P<0.01)。 著者らは本研究を、「犬に対する愛着の強さと身体活動量の関連を明らかにした初の研究」と位置づけている。研究の限界点として、横断研究であるため愛着と身体活動量の因果関係は不明であることなどを考察した上で、「犬への愛着の強さが、日々の世話を通じて飼い主の運動習慣につながり、その結果、飼い主に健康障害が発生するリスクが低下すると考える」と総括。他方、「単に犬と暮らすだけでは、健康上のメリットを得られない可能性があることも示された」と付け加えている。

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