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仰臥位での血圧高値がCVDリスクと独立して関連

 座位で測定した血圧にかかわらず、仰臥位で測定した血圧が高い場合は心血管疾患(CVD)リスクが上昇することを示すデータが報告された。米ハーバード大学医学部のDuc M. Giao氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)の高血圧科学セッション2023(9月7~10日、ボストン)で結果が発表された。 血液は重力によって体の下方に溜まりやすいため、立位、座位、仰臥位などの状態に応じて自律神経系が働き、血圧を適切に維持している。Giao氏は、「座位の血圧のみが測定されているとしたら、仰臥位で血圧が上昇している場合のリスク上昇が見逃されている可能性がある」と述べている。 その可能性を検証するため同氏らは、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARIC研究(Atherosclerosis Risk in Communities Study)」のデータを用いた解析を行った。解析対象者は1万1,369人で、1987~1989年の研究参加登録時の平均年齢が54歳、女性が56%を占めていた。CVDの発症は、2011~2013年の第5回調査まで、25~28年追跡し把握した。 ARIC研究では参加登録時に、座位と仰臥位の血圧値が診察室内で測定されている。130/80mmHg以上を高血圧と定義すると、座位測定で高血圧と判定された人の74%が、仰臥位測定でも高血圧に該当した。一方、座位では高血圧に該当しない人の16%が、仰臥位では高血圧に該当していた。 座位および仰臥位ともに130/80mmHg未満の群を基準として、座位と仰臥位双方の測定結果が高血圧だった群は、座位での血圧値の影響を調整後、冠状動脈性心疾患(CHD)発症ハザード比(HR)が1.60であり、CHDによる死亡はHR2.18、脳卒中はHR1.86、心不全はHR1.83、全死亡はHR1.43だった。また、座位では高血圧に該当せず、仰臥位では高血圧と判定された群のCVDリスクは、座位と仰臥位の双方が高血圧判定基準を満たす群と同様にハイリスクだった。なお、降圧薬が処方されている場合の薬剤のタイプの違いは、これらのリスク上昇に影響を与えていなかった。 Giao氏は、「われわれの研究結果は、心臓病や脳卒中の既知のリスク因子を有する場合、座位のみでなく仰臥位でも血圧を測定してリスクを評価することが、将来的なメリットにつながる可能性のあることを示唆している」と述べている。また、「日常生活で血圧をコントロールする努力は、仰臥位で睡眠中の血圧を下げるのに役立つのではないか。今後の研究で、診察室で測定した仰臥位での血圧値と、夜間睡眠中の血圧値の乖離の有無を検討する必要があるだろう」と付け加えている。 なお、本研究の限界点として、「解析対象が中年期成人のみであるため、高齢者など他の年齢層も含めた解釈の一般化はできない可能性がある」としている。また、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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生成AIと医療の未来【医療者のためのAI活用術】第10回

(1)ChatGPTに医師の仕事は奪われるのか?2023年上旬にChatGPTの流行が始まってから、「ChatGPTに医師の仕事が奪われるのでは?」という議論がしばしば出てくるようになりました。さらに、ChatGPTが米国や日本の医師国家試験に合格するレベルであることを示す論文が発表されてからは、ますますその議論が現実味を帯びてきました1,2)。さらに恐ろしい点は、「ChatGPTは医療に特化した学習をしているわけではない」ということです。日本のAI研究の第一人者である東京大学の松尾 豊教授は、「医学的な見地から正しいコメントをするようなChatGPTも作っていける」「ホワイトカラーの仕事のほぼすべてに非常に大きな影響があるのではないか。高賃金の職業、参入障壁の高い業界ほど影響が大きいと予想されている」と述べています3)。またChatGPTを開発したOpenAIの創業者であるサム・アルトマン氏はニュースメディアのインタビューで「数年のうちに、質の高い医療アドバイスができるAI医療アドバイザーが登場するだろう」と答えています4)。(2)AIに医療のアドバイスはできる?実は医療に特化したChatGPTのような生成AIはすでに生まれています。たとえば、「Glass AI」は医療分野に特化した大規模言語モデルを用いたツールで、米国の一部の医療機関では試用されています。簡潔に言うと、臨床情報を入力すると、それに基づいた鑑別診断や診断のための検査、治療法を提案してくれるというものです。具体例を見ていきましょう。「心筋梗塞の既往がある71歳男性が亜急性の労作性呼吸苦と両側下腿浮腫で来院した。聴診でIII音を聴取し、頸静脈怒張を認める。左室駆出率は30%である」と入力し、診断のための検査と治療法について聞いてみます。すると以下のような答えが返ってきます(回答は英語を日本語訳しています)。診断厳重なIn/Out管理、毎日の体重測定心電図モニター心電図BNPもしくはNT-proBNP、±トロポニン電解質、Mgを1日2回測定、K>4.0、Mg>2.0に補正心エコー脂質検査、HbA1c鉄、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン新規の心不全の精査として、ANA、リウマトイド因子、HIV、血清タンパク電気泳動/尿タンパク電気泳動、遊離軽鎖検査、TSH、遊離T4新規の心不全に関して虚血評価を検討(冠動脈CT、冠動脈造影、負荷検査)治療慢性心不全の既往があれば、普段内服している利尿薬の2.5倍の静注利尿薬。もしくは0.5~1mg/kgのフロセミド静注フロセミド300mg/日の相当量まで利尿薬の増量を検討し、合計で1.5~2L/日のマイナスバランスを目標にする利尿の目標を達成するために、metolazone 2.5~5.0mgもしくはchlorothiazide 500mg静注の追加を考慮する体液過剰が利尿薬の定期投与に抵抗性の場合は、フロセミド持続静注を検討する(フロセミド0~20mg/h)(続く)いかがでしょうか。日本語に和訳すると違和感があるかもしれませんが、米国では多くの循環器内科医がカルテに書きそうな内容、という印象です。このように、臨床情報をもとにAIが医療のアドバイスをするようなシステムはすでに登場しているのです。(3)医師よりもChatGPTの方が患者への共感力が高い?医師としての重要な能力の1つがコミュニケーションスキルです。とくに、共感的な態度で話を聞くことの重要性は明白で、患者さんの満足度に大きな影響を与えます。「医師の共感力がChatGPTに負けることなどあり得ない」と思うかもしれませんが、はたして本当にそうでしょうか?JAMA Internal Medicine誌で発表された研究では、ソーシャルメディアフォーラムに投稿された195件の医学的な質問に対して、医師とChatGPTがそれぞれ回答し、その内容を比較しています5)。回答は医療専門家チームによって評価され、「回答の質」や「回答の共感性」について判断しました。その結果、回答の質、回答の共感性いずれにおいてもChatGPTの回答のほうが医師の回答を上回ることが示されました。つまり、少なくとも文面上の回答ではChatGPTが患者さんの質問に答えたほうが、医学的な妥当性も患者さんの満足度も高い可能性があるということです。(4)未来の内科医の役割医学知識の面でも共感力の面でもAIのほうが医師を上回るとなると、それでは、将来の内科医の役割はどのようになるのでしょうか。上記の技術がすでに利用可能であることを考慮して、ここからは私の妄想ですが将来の内科診療の流れは以下のようになるのではと想像します。1)AIによる事前問診をもとに、AIが鑑別診断を提案する2)医師が追加の問診と身体診察を行う3)上記の情報や過去のデータからお勧めの検査プランをAIが提案する4)検査結果からAIがアセスメントとお勧めの治療プランを作成する5)医師は患者の好みや、社会的背景、全体像を考慮して治療プランを修正する6)患者への共感的な態度を示す説明文をAIが提案し、医師はそれをもとに患者に説明するこのように医師はAIが考えた内容の修正や調整、患者さんや家族への説明責任などが主な役割になるのではないかと思います。「医師vs.AI」ではどちらが優れているかケースバイケースだと思いますが、「医師vs.AIを活用する医師」ではAIを活用する医師のパフォーマンスが優れることは明白になりつつあります。これからは、生成AIを活用することが医師の重要なスキルの1つとなり、さらには患者さんへ提供する医療の質の向上に繋がるのではないかと考えています。1)Kung TH, et al. PLOS Digit Health. 2023;2:e0000198.2)Takagi S, et al. JMIR Med Educ. 2023;9:e48002.3)医事新報社.「NEWS「ChatGPT」などの進展がもたらす医療への効果強調─医学会総会で松尾豊東大院教授が講演」.(2023年9月20日参照)4)Newspicks. 「【サム・アルトマン】人間にできないことを、僕らは創りたい。」. (2023年9月20日参照)5)Ayers JW, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:589-596.

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英語で「そこからどうするか決めましょう」は?【1分★医療英語】第108回

第108回 英語で「そこからどうするか決めましょう」は?《例文1》Let’s have a meeting next week and we will take it from there.(来週ミーティングをして、そこからどうするか決めましょう)《例文2》Let’s cut down drinking and take it from there. One thing at a time, all right?(まずは飲酒量を減らして、そこからどうするか決めましょう。一度に1つずつやりましょう、いいですね?)《解説》現段階では十分に見通しが立たず、まだ具体的に物事を決められないときに使えるのが“We’ll take it from there.”という表現です。直訳すると「そこからそれを取りましょう」という意味ですが、現時点では判断材料が少ないため、「まず第一歩として何かを行って、そこからどうするか決めましょう」という文脈で使われます。医療現場では、まず侵襲性の低い検査や治療を行い、そこから得られた情報を基に追加の検査や治療を行うかどうか判断する場面が多いため、患者との会話や上司・同僚との会話で頻用される表現です。また、不安が強く、一度に多くのことを求める患者には“one thing at a time.”(一度に1つずつやりましょう)という表現も有効で、併せて覚えておくとよいと思います。講師紹介

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ドイツでの医学博士号取得に向けて【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第31回

実は、私はドイツのGreifswald大学の大学院に現在所属しております。ドイツで博士号を取りたいな~と思い、日本へ帰国する前に大学院へ入学手続きを済ませておいたからです。大学院の学生証の画像です。日本国内で何度か学割を申請しましたが、認可されたことはありませんでした…。ドイツでは医学に関してのみ、大学で研究せずとも論文を書くことのみで博士号を取得することができる、“Promotion”という制度があります。以前、「空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅」第30回で書かせていただいた“Habilitation”と基本的には同じシステムとなります。自分の書いた論文を教授陣の質問から“Verteidigung”(防御)することで博士号取得の流れになります。Habilitationは、相手も本気で潰すつもりで質問してくるそうですが、Promotionはもっとアットホームな空気で、指導してもらいながら進んでいくとのことです(友人談)。博士号取得の暁には役所でも手続きドイツでは博士号を取得すると、名前に“Dr.”として“Titel”が付くことになります。役所にいってちゃんと申請して、住民票からパスポートまで、すべての自分の名前にDr.を付けるくらい、公式なイベントとなります。この博士号をですね、ぜひ取得したいと思い、ベースとなる論文はドイツにいる間に完成させてあったのですが…。実はまだ、患者データを使用することに対する倫理委員会への申請すら済んでいません。倫理委員会に提出用の書類もだいぶ前に完成しているのですが、その添削が終わらないのです。大学院の指導教官も、実際にデータを使用した病院のデータ管理部門も、とにかく誰も親身になってくれません。メールの返事は下手したら20回くらいメールを送ってやっと返ってくる始末です。倫理委員会の申請の後、まず英語で書いてある論文を雑誌に投稿して、それから論文をドイツ語に翻訳して、いろいろと肉付けして100ページくらいの冊子に仕上げ、それからVerteidigungに移るのですが…。死ぬまでに達成できるかどうかわかりません。しかし、諦めずに今日も催促のメールを送り続けようと思っています。

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第192回 ヒト細胞の小さなロボットが神経損傷を修復

ヒト細胞の小さなロボットが神経損傷を修復小さなロボットのように動く有毛の細胞塊が神経損傷を治癒しました1)。ロボットのように動く細胞入りの構造物であるバイオボット(biobot)などの生きた機械を作る取り組みが近年盛んになっています。バイオボット作りの古くからの手段の1つは細胞とそれを支えるゲルや3Dプリンター印刷物などの不活性の物質を組み合わせることです。細菌、神経・筋肉・神経筋接合部などの哺乳類細胞、加工した細胞といった種々の細胞を慎重に手間ひまかけて細工する手順を経て生理機能を担う構造物が完成します。そういう手の込んだ手段のほかに、細胞がひとりでに集まるに任せて作られる多細胞構造のバイオボットの取り組みがあり、米国・タフツ大学のMichael Levin氏のチームは4年ほど前の2020年1月にそのような多細胞構造を実験動物としてよく知られるアフリカツメガエルの胚細胞から作ったことを報告しています2)。アフリカツメガエルの学名はXenopus laevis(ゼノパス レービス)で、同チームが作ったバイオボットはゼノボット(Xenobot)と呼ばれます。ゼノボットは船やカヌーのオールのような役割を担う繊毛で覆われており、そのおかげで這ったり泳いだりさえします。また多才で、通路を進んだり、物を集めたり、情報を記録したり、傷を自己治療したり、何回かの自己複製すらやってのけます3)。未経験の仕事を教えてできるようにすることも可能です4)。ゼノポットがヒトにもそのまま利用できればよいのですが、いかんせん両生類の細胞でできているのでヒトの免疫は受け入れずに拒絶してしまうでしょう。またゼノポットは削って目当ての形へ整える工程を要します。そこでLevin氏らのチームはヒトの細胞での取り組みを始めます。目をつけたのは繊毛を有する気道細胞です。その繊毛がゼノボットの繊毛と同様に機動力を担うことを研究チームは期待しました3)。まず気道細胞はヒトの気道に似せたゲルの環境で2週間を過ごして球状の小さな塊になります。続いてより粘性が低い環境に1週間置かれ5)、繊毛が外側を向いた球状の塊が完成します。人類(anthropos)起源で生物ロボット(biorobotics)として活用しうることからアンスロボット(anthrobot)とされたそれら球状の細胞塊は10~100個ほどの細胞で構成され、大きさも形もまちまちで、繊毛の配置も異なります。動きも異なり、まっすぐ進む、回転する、あるいはその両方の動きをするものもあれば、移動せず小刻みに動くものもありました。アンスロボットはそれら同士がひとりでに凝集して大型のスーパーボットを形成することができます。そのスーパーボットをあえて傷つけた神経細胞のシートに与えたところ、スーパーボットの下で神経が再び繋がって元どおりになりました。そのような治癒効果を得るにはアンスロボットにひと工夫必要だろうと考えられていましたが、驚いたことに手を加えていないアンスロボットがそれをやってのけました。研究チームはその意外な治癒効果がどういう仕組みによるのかを調べ始めています4)。アンスロボットの研究の資金の一部をLevin氏が設立者に名を連ねる企業Astonishing Labsが提供しています。同社はアンスロボット技術による神経疾患や脊髄損傷の治療を目指しています3)。また、同社の経営担当者の1人は熱傷治療への応用も想定しています。できそうなことはほかにも多くあり、人それぞれの組織から作ったアンスロボットでたとえば動脈の通りをよくしたり薬を届けたりすることが可能になるかもしれません5)。参考1)Gumuskaya G, et al. Adv Sci (Weinh). 2023 Nov 30. [Epub ahead of print] 2)Kriegman S, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020;117:1853-1859. 3)Tiny ‘anthrobots’ built from human cells could help heal the body / Science 4)Scientists build tiny biological robots from human cells / Eurekalert5)Tiny robots made from human cells heal damaged tissue / Nature

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肉・卵をナッツに換えると心代謝系が健康に!

 近年、動物性食品を植物性食品に置き換えることで健康に良い影響があるという報告が増加している。そこで、ドイツ・ハインリッヒ・ハイネ大学のManuela Neuenschwander氏らは、動物性食品の植物性食品への置き換えと心血管疾患(CVD)、糖尿病、全死亡との関連について、システマティックレビューおよび37研究のメタ解析を実施した。その結果、加工肉や赤肉、卵、乳製品、家禽肉、バターといった動物性食品を植物性食品に置き換えることでCVD、糖尿病、全死亡のリスクが低下することが示唆された。本研究結果は、BMC Medicine誌2023年11月16日号で報告された。 MEDLINE、Embase、Web of Scienceを用いて、2023年3月までに登録された動物性食品を植物性食品へ置き換えた場合のCVD、糖尿病、全死亡リスクの変化を検討した前向き研究を検索した。その結果、37件の研究(24コホート)が抽出された。これらの研究について、ランダム効果メタ解析を用いて要約ハザード比(SHR)および95%信頼区間(CI)を推定した。GRADEシステムを用いてエビデンスの質を評価し、moderate(中)以上の場合は、メタ解析で推定された効果が真の効果と近い可能性が高いと判断した。 エビデンスの質がmoderate(中)以上と判断された結果は以下のとおり(置き換え対象食品→置き換え後の食品:SHR、95%CI)。<CVDの発症またはCVD死亡>加工肉→全粒穀物:0.64、0.54~0.75加工肉→ナッツ:0.73、0.59~0.91加工肉→豆類:0.77、0.68~0.87卵→ナッツ:0.83、0.78~0.89バター→オリーブオイル:0.96、0.94~0.98<2型糖尿病の発症または糖尿病死亡>バター→オリーブオイル:0.94、0.91~0.98<2型糖尿病の発症>加工肉→ナッツ:0.78、0.69~0.88卵→全粒穀物:0.79、0.76~0.83卵→ナッツ:0.82、0.79~0.86家禽肉→全粒穀物:0.87、0.84~0.91赤肉→全粒穀物/シリアル:0.90、0.84~0.96赤肉→ナッツ:0.92、0.90~0.94<全死亡>加工肉→ナッツ:0.79、0.71~0.88卵→ナッツ:0.85、0.82~0.89卵→豆類:0.90、0.89~0.91加工肉→豆類:0.91、0.85~0.98赤肉→ナッツ:0.93、0.91~0.95非加工赤肉→ナッツ:0.93、0.92~0.94乳製品→ナッツ:0.94、0.91~0.97バター→オリーブオイル:0.94、0.92~0.97赤肉→全粒穀物:0.96、0.95~0.98乳製品→ナッツ/豆類:0.96、0.94~0.99 本研究結果について、著者らはさらなる研究が必要としつつ「動物性食品(とくに赤肉や加工肉の多量摂取)から植物性食品(ナッツ、豆類、全粒穀物など)への置き換えにより、CVDや糖尿病、全死亡のリスクが低下することが示唆された。植物性食品の摂取を増やすことは、心代謝系の健康に重要であると考えられる」とまとめた。

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妊婦の不眠症に対する認知行動療法の有用性~メタ解析

 妊婦の不眠症を改善するために、第一選択治療として認知行動療法(CBT-I)を用いることは、有用である可能性がある。しかし、フォローアップ時における妊婦に対するCBT-Iのコンポーネント、方法、回数、有効性については、明らかになっていない。中国・香港大学のXingchen Shang氏らは、妊婦に対するCBT-Iの有効性を評価し、効果的な介入のためのコンポーネント、方法、回数を特定するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦に対するCBT-Iは、短期的な不眠症改善に有効である可能性が示唆されたものの、長期的な有効性は依然として不明なままであり、今後の長期フォローアップを伴う研究が必要であることを報告した。Sleep Medicine誌2023年12月号の報告。 2023年1月10日までに6つの英語データベース(PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、PsycINFO、CINAHL)と4つの中国語データベース(CNKI、WanFang Data、SinoMed、CQVIP)より検索を行った。妊婦に対するCBT-Iについて、不眠症重症度指数(ISI)で測定した不眠症重症度またはピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)で測定した睡眠の質を、アウトカムとして評価したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。2人の独立した査読者による選定、データ抽出、品質評価を行った。プール分析には、固定効果モデルまたは変量効果モデルを用いた。サブグループ解析は、各提供タイプと介入期間に基づき実施した。エビデンスの確実性の評価には、GRADEアプローチを用いた。メタ解析が適切でない場合には、ナラティブ分析を行った。主要アウトカムは、不眠症重症度および睡眠の質のスコアの95%信頼区間(CI)との平均差(MD)とした(高スコアほど重症度が高い)。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした9件のRCT(978例)をメタ解析に含めた。・研究の内訳は、個人ベース介入6件、グループベース介入3件であり、対面介入5件、デジタル介入3件、電話および電子メール介入3件であった。・妊婦に特有の介入コンポーネントについて検証された研究は、6件であった。・介入直後(1ヵ月未満)および短期(1ヵ月以上6ヵ月未満)のフォローアップにおいて、妊婦に対するCBT-Iは、不眠症の重症度と睡眠の質に対する改善を示した。●介入直後【不眠症重症度】MD:-2.69、95%CI:-3.41~-1.96、p<0.001、エビデンスの質:高【睡眠の質】MD:-2.85、95%CI:-4.73~-0.97、p=0.003、エビデンスの質:中程度●短期フォローアップ【不眠症重症度】MD:-3.69、95%CI:-5.91~-1.47、p=0.001、エビデンスの質:高【睡眠の質】MD:-1.88、95%CI:-2.89~-0.88、p<0.001、エビデンスの質:中程度・2件のRCTでは、中期(6ヵ月以上12ヵ月未満)フォローアップにおいて、不眠症重症度に対する有効性が報告されなかった。・長期(12ヵ月以上)のフォローアップにおいて、不眠症の軽減が認められた報告は1件のみであった。・1件のRCTでは、中期フォローアップでの睡眠の質の改善に対する有効性が報告されておらず、長期フォローアップでも有用性は報告されていなかった。

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ヴィーガン食の健康への影響を双子で比較すると…?

 ヴィーガン(完全菜食主義)食は環境負荷が低いだけでなく、健康にも良い影響を及ぼすことが報告されている。しかし、その多くは疫学研究に基づくものである。そこで、米国・スタンフォード大学のMatthew J. Landry氏らは、交絡を抑制するために一卵性双生児を対象とした臨床研究を実施し、ヴィーガン食の心代謝系への影響を検討した。その結果、ヴィーガン食は通常食と比べてLDLコレステロール(LDL-C)値、空腹時インスリン値、体重を有意に低下させた。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年11月30日号で報告された。 一卵性双生児22組44人(男性10人、女性34人)を対象とした単施設無作為化比較試験を実施した。双生児のうち片方をヴィーガン食を摂取する群(ヴィーガン食群)、もう一方を通常食を摂取する群(通常食群)に無作為に割り付け、8週間追跡した。1~4週時は提供した食品を摂取させ、5~8週時はそれぞれの群に適した食品を被験者に自ら用意させて摂取させた。主要評価項目は8週時におけるLDL-C値であった。副次評価項目は8週時における空腹時インスリン値、体重などであった。 主な結果は以下のとおり。・被験者の平均年齢(標準偏差[SD])は39.6(12.7)歳、平均BMI(SD)は25.9(4.7)であった。・主要評価項目の8週時におけるLDL-C値は、通常食群116.1mg/dLであったのに対し、ヴィーガン食群95.5mg/dLであり、ヴィーガン食群で有意に低下した(群間差:-13.9mg/dL、95%信頼区間[CI]:-25.3~-2.4、p=0.02)。・空腹時インスリン値と体重についても、ヴィーガン食群で有意な低下が認められた。詳細は以下のとおり。 -空腹時インスリン値:通常食群13.7μIU/mL、ヴィーガン食群10.5μIU/mL(群間差:-2.9μIU/mL、95%CI:-5.3~-0.4、p=0.03) -体重:それぞれ71.7kg、69.5kg(同:-1.9kg、-3.3~-0.6、p=0.01)

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冠動脈疾患へのPCI、血管内イメージングガイドvs.冠動脈造影ガイド/BMJ

 冠動脈疾患を有する成人患者において、冠動脈造影ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と比較して血管内イメージングガイド下PCIは、心臓死のほか心筋梗塞、ステント血栓症など心血管アウトカムのリスクを有意に減少させ、この有益性は疾患の複雑性やイメージングのモダリティを問わずに一貫してみられることが、米国・Houston Methodist DeBakey Heart and Vascular CenterのSafi U. Khan氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年11月16日号で報告された。ベースラインのリスクを考慮したメタ解析 研究グループは、冠動脈疾患患者に対するPCIのガイドとしての血管内イメージングと冠動脈造影の治療効果を、ベースラインのリスクを考慮して比較する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2023年8月31日の時点で、医学関連データベース(PubMed/Medline、Embase、Cochrane Library)に登録された文献を検索した。対象は、冠動脈疾患の成人患者において、血管内イメージング(血管内超音波[IVUS]、光干渉断層法[OCT])ガイド下PCIと冠動脈造影ガイド下PCIを比較した無作為化対照比較試験であった。 変量効果メタ解析でデータを統合し、GRADE(grading of recommendations, assessment, development, and evaluation)を用いて各試験のエビデンスの確実性を評価した。 主要エンドポイントは心臓死で、追加エンドポイントとして心筋梗塞、ステント血栓症、標的血管血行再建術、標的病変血行再建術、全死因死亡を取り上げ、率比(RR)と1,000人当たりの絶対リスク差(ARD)の評価を行った。ARDの推定には、5年後のベースラインリスクのSYNTAXリスクカテゴリーを用いた。20の無作為化試験、1万1,698例の解析 20件の無作為化対照比較試験に参加した1万1,698例を解析に含めた。全体の年齢中央値は64歳(四分位範囲[IQR]:61~66)、追跡期間中央値は1年(IQR:1~2)だった。 冠動脈造影ガイド下PCIに比べ血管内イメージングガイド下PCIでは、心臓死(RR:0.53、95%信頼区間[CI]:0.39~0.72)、心筋梗塞(0.81、0.68~0.97)、ステント血栓症(0.44、0.27~0.72)、標的血管血行再建術(0.74、0.61~0.89)、標的病変血行再建術(0.71、0.59~0.86)のリスクが有意に減少した。一方、全死因死亡(0.81、0.64~1.02)のリスクも血管内イメージングガイド下PCIで減少したが有意差はなかった。 また、SYNTAXリスクカテゴリーを用いると、GRADEによる確実性が「高」のエビデンスとして、血管内イメージングガイド下PCIのARDが、心臓死では1,000人当たり低リスク群で23減少し、高リスク群では64減少することが示された。 同様に、心筋梗塞のARDは低リスク群で15、高リスク群で19減少し、ステント血栓症はそれぞれ9および13の減少、標的血管血行再建術は28および38の減少、標的病変血行再建術は35および48の減少を示した。また、全死因死亡のARDは低リスク群で17、高リスク群で36減少し、GRADEのエビデンスの確実性はいずれも「中」だった。 著者は、「血管内イメージングガイド下PCIの有益性は、疾患の複雑性やイメージングのモダリティ(IVUS、OCT)を問わず一貫して観察された。最も大きな絶対的有益性が認められたのは、冠動脈疾患の重症度と複雑性によって示されるベースラインのリスクが最も高い患者であった」としている。

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生物学的年齢は脳卒中や認知症のリスクに影響を及ぼす

 年齢には、出生からの経過年数で表す暦年齢のほかに、科学者が生物学的年齢と呼ぶものがある。これは、老化や健康状態の個人差を加味した年齢で、テロメアの長さ、エピジェネティック・クロックや多様な生物学的バイオマーカー値を基に算出される。スウェーデンの新たな研究で、この生物学的年齢が暦年齢を上回っている人では、認知症や脳梗塞(虚血性脳卒中)の発症リスクが高まることが明らかになった。カロリンスカ研究所(スウェーデン)医学疫学・生物統計学部門のSara Hagg氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に11月5日掲載された。 一般的に、心血管疾患や神経変性疾患などの慢性疾患のリスクは加齢とともに増加すると考えられているが、これまでは暦年齢を使って研究を行うことが一般的だった。しかしHagg氏は、「老化速度は人により異なるので、暦年齢は正確性に欠ける尺度ではないだろうか」と疑問を呈する。 今回の研究では、UKバイオバンク参加者のうち、試験登録時に神経変性疾患の診断歴がなかった32万5,870人(平均年齢56.4歳、女性54.2%)のデータを用いて、生物学的年齢と神経変性疾患との関連が検討された。Hagg氏らは、対象者の血中脂肪、血糖、血圧、肺機能、BMIなど18種類の臨床バイオマーカーの測定値に基づき、3種類の生物学的年齢を算出した。すなわち、生理学的な年齢を表すKDMAge、死亡リスクに関する情報を考慮したPhenoAge、それぞれの生理学的な状態を健康な基準サンプルからの偏差として計算したHDAgeの3種類である。 中央値9.0年間の追跡期間中に1,397人(0.4%)が認知症、2,515人(0.8%)が脳梗塞、679人(0.2%)がパーキンソン病、203人(0.1%)が運動ニューロン疾患と診断された。解析の結果、生物学的年齢が1標準偏差上昇するごとに、あらゆる原因による認知症リスクの有意な上昇が示され、その調整ハザード比は、KDMAgeで1.28(95%信頼区間1.21〜1.35)、PhenoAgeで1.28(同1.22〜1.35)、HDAgeで1.20(同1.13〜1.27)だった。認知症の種類別に検討すると、全ての生物学的年齢が血管性認知症と強い関連を示したが、アルツハイマー病との関連は弱かった。 また、生物学的年齢は脳梗塞リスクとも有意な関連を示した(KDMAge:調整ハザード比1.39、95%信頼区間1.34〜1.46、PhenoAge:同1.38、1.32〜1.43、HDAge:同1.28、1.22〜1.34)。運動ニューロン疾患についても弱い正の相関が見られたが、統計的に有意な関連を示したのはHDAgeだけだった(同1.22、1.06〜1.42)。生物学的年齢とパーキンソン病リスクとの間に関連は認められなかった。 研究グループは、この研究結果は因果関係を明らかにするようデザインされたものではない点を強調しながらも、「健康的になることで、脳への過剰なリスクが減少する可能性は多分にある」との見方を示している。またHagg氏は、「いくつかのバイオマーカーの数値は、生活習慣や薬の影響を受ける可能性がある」と付け加えている。

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コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。 大学生の抑うつ状態にある割合は、一般人口に比べて高いことが知られている。例えば一般人口におけるうつ病の有病率は13%という報告があるのに対して、大学生では32%という報告が見られる。COVID-19パンデミックが人々に強いストレスを与えたことが多くの研究から明らかになっており、大学生のうつレベルもより高まっていた可能性が考えられる。白石氏らは、緊急事態宣言発出時に講義がリモートで行われるなど特異な環境にあったタイミングで、大学生の抑うつレベルが特に上昇していたのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。学年度が切り替わる新年度のタイミングの抑うつレベルへの影響も、併せて検討した。 この研究は、大学生のメンタルヘルス上の問題を、モバイルアプリを用いた認知行動療法(CBT)で予防し得るかを検証するために、パンデミック前からスタートしていた無作為化比較試験「ヘルシーキャンパストライアル(HCT)」のデータを二次的に解析するという手法で行われた。HCTでは、国内5大学の学生が参加し、2018年度後期(秋)に最初のコホートが設定され、その後、2019年度前期(春)/後期(秋)、2020年度前期/後期、2021年度後期という計6件のコホートが組まれた。各コホートの最初の8週間はアプリを用いたCBTによる介入が行われ、その後52週目まで(スタートから1年間)は追跡期間とされた。 HCT参加者は、介入期間は毎週、追跡期間は4週ごとにPHQ-9という指標(27点満点でスコアが高いほど抑うつ症状が強いと判定される)により、抑うつレベルの経時的な変化が評価された。なお、研究参加の適格基準は、年齢が18~39歳の大学生または大学院生でスマートフォンを所有していること。PHQ-9スコアが15点以上または10~14点で希死念慮がある学生、およびメンタルヘルス上の問題のため受療中の学生は除外されている。6件のコホート全体の参加者数は1,626人であり、平均年齢は21.5歳で男子学生がやや少なかった(性比0.74)。 研究ではまず、パンデミック下の緊急事態宣言に着目した検討が行われた。4回の緊急事態宣言発出後に顕著なPHQ-9スコアの上昇が認められたのは、2020年度後期コホートにおける28~32週時点(3回目の緊急事態宣言発出後)のみであり、24週目が5.3点であるのに対して28週目は5.8点、32週目は6.0点と推移していた。ただ、各年度の後期にスタートしたコホートの28~32週は、翌年の4月ごろに該当する。よってこのタイミングでのPHQ-9スコアの上昇は、緊急事態宣言発出の影響のみでなく、新年度がスタートした直後であることの影響も考えられた。 次に、前期スタートのコホート3件(1,104人)、後期スタートの3件(522人)をそれぞれ統合して全体を2群に分け、PHQ-9スコアの推移を解析。その結果、前期スタート群のPHQ-9スコアは、全期間を通して4週ごとに0.02点(95%信頼区間―0.03~―0.01)ずつ有意に低下していた(P=0.008)。それに対して後期スタート群では、中断時系列分析により、新年度スタート時期の28週目までは4週ごとに0.07点(同0.02~0.11)ずつ上昇する傾向が見られた(P=0.12)。ところが、その傾向は急に中断され、28週目時点で0.60点(0.42~0.78)抑うつレベルが悪化したことが推定された(P<0.001)。28週を超えると4週ごとに0.16(―0.21~―0.10)ずつ低下していた(P=0.003)。 以上の結果から著者らは、「当初の仮説に反して、緊急事態宣言発出による大学生のうつレベル上昇は確認されなかった。一方で学年度が切り替わるタイミングで、大学生のメンタルに大きなストレスが加わることが示唆された」と総括している。 なお、COVID-19パンデミックが大学生のメンタルヘルスを悪化させたとする国内発の先行研究が複数存在する。緊急事態宣言発出の影響に焦点を当てた今回の研究が、それらとは異なる解釈が可能な結果となった理由について、以下のような考察が述べられている。先行研究では同一対象への継続的な調査でなく、パンデミック後の調査にはメンタルへの影響を強く感じた学生がより積極的に回答していた可能性があり、また、調査を行うタイミングが年度替わりを考慮せずに設定されていたことの影響もあるのではないかとのことだ。一方、本研究にも、交絡因子の調整が十分でないことや、新年度のスタートは花粉症の時期であるため、その症状がメンタルに影響を及ぼしていた可能性も否定できないといった限界点があるとしている。

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欧州で行われた臨床研究の結果は、日本の臨床に当てはめることはできない?(解説:山地杏平氏)

 BIOSTEMI試験の5年生存追跡結果が、TCT 2023で発表され、Lancet誌に掲載されました。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)症例において、生分解性ポリマーを用いた超薄型シロリムス溶出性ステントであるOrsiroとエベロリムス溶出性ステントのXienceを比較した試験の追跡期間を5年に延長した試験になります。 第2世代の薬剤溶出性ステントであるXienceは、第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusと比較し有意に優れていることが多くの試験で示されてきました。その一方で、Xience以降に新たに発売された薬剤溶出性ステントは、Xienceに対して非劣性は示されてきたものの、優越性が示されたものはありませんでした。2014年にLancet誌で発表されたBIOSCIENCE試験でも、これまでの試験と同様に、OrsiroはXienceと比較して非劣性であることが示されましたが、そのサブグループであるSTEMI症例において、有意にOrsiroが優れていることが示唆されました。 この結果を受けて始められたのが、BIOSTEMI試験で、BIOSCIENCE試験と同じく、ベルン大学が中心となって行われた多施設共同の無作為化比較試験です。STEMI症例においては、BIOSCIENCE試験のサブグループ解析と同様に、Orsiroが心筋虚血に伴う再血行再建が有意に少なかったことが2019年にLancet誌で報告されています。そしてさらに今回報告されたのが、追跡期間を5年まで延長したものであり、その結果はきわめて穏当で、初期の差が維持され、とくに“late catch-up phenomenon”が見られず、遠隔期のイベントにおいても変化がないと報告されています。 スイスでは、IVUSやOCTといった冠動脈イメージングデバイスは、臨床研究以外ではほとんど用いられておらず、日本で行われている手技と比べ、やや控えめなサイズのデバイスが選択されることが多いように思います。そのような環境においては、STEMI症例を治療するのであれば、より薄い金属でできているOrsiroのほうが、Xienceと比較して優れていることは間違いなさそうです。一方で、冠動脈イメージングデバイスを用いて、積極的に後拡張を行う日本の手技では、OrsiroがXienceと比較して有意に優れているかはわからないように思いますし、BIOSTEMI試験の結果を受けて使用するステントが大きく変わることはないようにも思います。ただし、少なくともOrsiroはその他の第2世代の薬剤溶出性ステントと比較して、劣ってはいないことは間違いない事実であることは認識しておいてよいのではないでしょうか。 BIOSTEMI試験および、BIOSCIENCE試験はいずれも私が留学していたベルン大学が中心となって行われており、TCTでは本試験のprincipal investigatorであるThomas Pilgrim先生や、その上司であるStephan Windecker先生に久しぶりにお会いできました。Stephan Windecker先生を一躍有名にしたのが、2005年にNew England Journal of Medicine誌に報告された第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusを直接比較したSIRTAX試験です。以後も長期にわたってエビデンスを出し続けているベルン大学ですが、現在も日本からの留学生を受け入れてもらっています。われこそはと思われる方がおられましたら、ぜひベルン大学留学を考えてみてください!

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患者×外科医の性別パターン、術後死亡率との関連は?/BMJ

 患者と外科医の4タイプの性別の組み合わせ(男性患者・男性外科医、女性患者・女性外科医、男性患者・女性外科医、女性患者・男性外科医)で、術後30日以内の死亡率に大きな差はなく、患者と外科医の性別の一致による臨床的に意義のある差を認めないことが、カナダ・トロント大学のChristopher J.D. Wallis氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年11月22日号で報告された。米国の手術を受けた65歳以上の後ろ向き観察研究 研究グループは、米国における患者と外科医の性別一致と術後死亡率との関連を評価する目的で、後ろ向き観察研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]/国立マイノリティ健康格差研究所[NIMHD]などの助成を受けた)。 解析には、2016~19年に米国の急性期病院で14の主要な待機的または非待機的(緊急または準緊急)手術のうち1つを受けた65~99歳の出来高払いメディケア受給者のデータを使用した。外科医の自己申告による性別のデータは、Medicare Data on Provider Practice and Specialty(MD-PPAS)のデータベースを用いて収集した。主要アウトカムは、術後30日以内の死亡率とした。 手術を受けた290万2,756例のうち、128万7,845例(44.4%)で性別が同じ外科医による手術が行われ、120万1,712例(41.4%)が男性患者・男性外科医の組み合わせ、8万6,133例(3.0%)が女性患者・女性外科医の組み合わせであった。 また、161万4,911例(55.6%)で性別が異なる外科医による手術が行われ、5万2,944例(1.8%)が男性患者・女性外科医の組み合わせ、156万1,967例(53.8%)が女性患者・男性外科医の組み合わせだった。待機的手術の術後死亡率は、女性外科医で低い 補正後の術後30日死亡率は、男性患者・男性外科医群が2.0%、男性患者・女性外科医群が1.7%、女性患者・男性外科医群が1.5%、女性患者・女性外科医群は1.3%であった。 待機的手術における患者と外科医の性別一致に関しては、男性外科医による手術を受けた女性患者と比較して、女性外科医による手術を受けた女性患者でわずかに死亡率が低かった(補正後リスク差:-0.2%ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.3~-0.1、p<0.001)が、女性外科医による手術を受けた男性患者に比べ、男性外科医による手術を受けた男性患者では死亡率が高かった(0.3%ポイント、0.2~0.5、p<0.001)。しかし、これらの群間の差は小さく、臨床的な意義を認めなかった。 一方、非待機的手術では、患者と外科医の性別の一致による術後死亡率の違いを示唆するエビデンスは得られなかった。 待機的手術では、女性外科医は男性外科医に比べ、補正後の術後死亡率が低かった(0.5% vs.0.8%、補正後リスク差:-0.3%ポイント、95%CI:-0.3~-0.2、p<0.001)が、非待機的手術では、このような差はなかった(5.2% vs.5.4%、-0.1%ポイント、-0.4~0.1、p=0.25)。また、手術の種類で層別化すると、待機的結腸切除術では外科医の性別が患者の死亡率と関連し、女性外科医で死亡率が低かった(1.9% vs.2.3%、-0.4%ポイント、-0.7~-0.2、p<0.001)が、ほかの手術では関連性は有意でなかった。 著者は、「これらの知見の根本的なメカニズムを理解することで、すべての患者のケアのプロセスとパターンを改善する機会が得られる。現在進行中の定性的かつ定量的な研究により、外科医と患者の性別と共に、人種やその他の共有アイデンティティ(shared identity)の側面が、ケアの質や術後のアウトカムにどのような影響を及ぼすかを、より詳細に説明できるようになると考えられる」としている。

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喫煙はがんの抑制に関わる遺伝子の変異と関連

 喫煙ががんの主因であることは周知の事実だが、喫煙によりがんが発生する機序の一端を解き明かす研究結果が、カナダの研究グループにより発表された。この研究によると、喫煙は、DNAのストップゲイン変異と呼ばれる危険な変異と関連しており、この変異が特に、がん抑制遺伝子で多く認められることが明らかになったという。オンタリオがん研究所(OICR、カナダ)のJuri Reimand氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」に11月3日掲載された。 ストップゲイン変異では、DNA塩基の変異によりアミノ酸をコードする部分がタンパク質合成を終結させる終止コドンと呼ばれるコードに置き換わってしまう。その結果、正常なタンパク質が作られず、そのタンパク質が本来持つはずの機能を発揮できなくなる可能性がある。Reimand氏は、「われわれの研究により、喫煙が、がん抑制遺伝子の変異と関連することが明らかになった。がん抑制因子が作られなければ、細胞の防御機能が働かずに異常な細胞が増殖し続け、がんが発生しやすくなる」とOICRのニュースリリースで説明している。 Reimand氏らは、18の主要な組織に由来する1万2,341件のがんゲノムを解析し、一塩基置換(single-base substitution;SBS)がタンパク質のコーディング領域に及ぼす影響を調べた。その結果、SBSはがん発生において重要な経路や、TP53、FAT1、APCなどのがん抑制遺伝子に頻繁に影響を与えていることが明らかになった。特に肺がんでは、喫煙に起因するストップゲイン変異と喫煙量が強い相関を示し、それが最終的にはがんをより複雑で治療困難なものにする可能性のあることが示された。 Reimand氏は、「喫煙はDNAに大きなダメージを与え、細胞の機能に深刻な影響を与える。われわれの研究は、喫煙が、細胞の基本的な構成要素である重要なタンパク質の働きを阻害し、それが長期的な健康に影響を与え得る可能性を示したものだ」と述べている。 さらに、APOBECと呼ばれる酵素群(DNAやRNAのシトシンをウラシルに置換する機能を持つ)もストップゲイン変異の発生に関わる要素として特定され、特に、乳がん、頭頸部がん、子宮体がん、肺がん、食道がんと強く関連することが示された。このほか、不健康な食生活、飲酒なども同様にDNAにダメージを与える可能性があるが、Reimand氏は、「これらが具体的にどのようにDNAに作用するのかを完全に理解するためには、さらなる情報が必要だ」と述べている。 論文の筆頭著者である、トロント大学(カナダ)のNina Adler氏は、喫煙は世界的に見てもがんの主因の一つであり、本研究結果は、その関連を理解するための重要な手がかりとなり得るとの見方を示す。同氏は、「喫煙ががんの原因となり得ることは広く知られているが、ライフスタイル要因ががんリスクに及ぼす影響を理解するためには、その影響を分子レベルで説明することが重要な一歩となる」と説明している。

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薬物相互作用を調べるのにChatGPT、Bard、Bing AI、どれがいい?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第246回

薬物相互作用を調べるのにChatGPT、Bard、Bing AI、どれがいい?Unsplashより使用ChatGPT、Bard、Bing AIはそれぞれOpenAI社、Google(Alphabet社)、Mircosoft社が運営するAIチャットボットであり、それぞれ強み・弱みがあります。最近画像生成AIであるDALL・E 3がChatGPT、Bing AIに実装されたことから、私の子供もよく画像生成をして遊んでいます。こんなことができる時代になったんだなあと感動する一方、ある程度自然淘汰が進んでいくのではないか、とも感じています。さて、医療においてAIが活用できる領域はいろいろありますが、「薬物相互作用の確認」はその1つかもしれません。Al-Ashwal FY, et al.Evaluating the Sensitivity, Specificity, and Accuracy ofChatGPT-3.5, ChatGPT-4, Bing AI, and Bard Against Conventional Drug-Drug Interactions Clinical Tools.Drug Healthc Patient Saf. 2023 Sep 20:15:137-147.薬物相互作用の検索は、インターネット上でも可能ですが、AIに標準機能として付くようになると、処方時にアラートが出たり、AUCの変化が表示できたり、いろいろと夢が広がります。サブスクでそういうアプリケーションは出ていますが、ではそういうサービスと比べてAIチャットボットはどうだろうかという研究が行われました。合計255組の薬剤について、薬物相互作用予測における感度、特異度、精度を比較評価しました。薬物相互作用については有料サブスクMicromedexをリファレンスにして検証しています。最も特異度が低かったのはChatGPT-3.5でした(37.2%)。これは当然と言えば当然で、現在使用されている大規模言語モデルはGPT-4.0なので致し方ないところかもしれません。Bing AIは高い特異度を示しました(76.9%)。画像を拡大する表. 各AIの薬物相互作用を検出する能力(下段は欠損データを除去したもの)(文献より引用)この論文では「Bing AI推し」という結果になりました。上記すべてを使っていますが、中でもChatGPT-4.0の精度はかなり高くなってきている印象です。現在のデータをブラウジングできたり、画像データをアップロードして解析できたり、できることがどんどん増えています。反面、Bing AIはよくケンカになります(図)。聞き方が悪いのかな…。なので、ちょっと私の中では、「苦手な友達」になりつつあります。画像を拡大する図. Bing AIと喧嘩になる理由最近は、ChatGPTの対抗馬としてClaudeを使う頻度が増えており、個人的にはこちらもオススメです。

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若~中年での高血圧、大腸がん死亡リスクが増加~NIPPON DATA80

 高血圧とがんリスクとの関連についての報告は一貫していない。今回、岡山大学の久松 隆史氏らが、日本人の前向きコホートNIPPON DATA80において、高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査したところ、30~49歳における高血圧は、後年における大腸がん死亡リスクと独立して関連していることがわかった。Hypertension Research誌オンライン版2023年11月22日号に掲載。高血圧は大腸がん死亡リスクと正の関連 研究グループは、NIPPON DATA80(厚生労働省の循環器疾患基礎調査)において、ベースライン時に心血管系疾患や降圧薬服用のなかった8,088人(平均年齢48.2歳、女性56.0%)を2009年まで追跡。喫煙、飲酒、肥満、糖尿病などの交絡因子で調整したFine-Gray競合リスク回帰を用いて、血圧が10mmHg上昇した場合のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。逆の因果関係を考慮し、追跡開始後5年以内の死亡を除外して解析した。 高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査した主な結果は以下のとおり。・29年の追跡期間中に、胃がんで159人(2.0%)、肺がんで159人(2.0%)、大腸がんで89人(1.1%)、肝臓がんで86人(1.1%)、膵臓がんで68人(0.8%)が死亡した。・高血圧は大腸がん死亡リスクと正の関連を認めたが、他のがんによる死亡リスクとは関連を認めなかった。・収縮期および拡張期血圧と大腸がん死亡率の関連は30~49歳で明らかだった(収縮期血圧におけるHR:1.43、95%CI:1.22~1.67、拡張期血圧におけるHR:1.86、95%CI:1.32~2.62)が、50~59歳および60歳以上では認められなかった(収縮期および拡張期血圧における年齢交互作用のp<0.01)。・これらの関連は、喫煙、飲酒、肥満、糖尿病の有無で層別化した解析でも同様にみられた。

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非定型抗精神病薬の胃腸穿孔・腸閉塞リスク~MID-NETデータに基づく医薬品安全性評価

 胃腸穿孔・腸閉塞は、抗精神病薬によって引き起こされる有害事象の1つであるが、添付文章上の警告情報については、各抗精神病薬により異なっている。医薬品医療機器総合機構の長谷川 知章氏らは、非定型抗精神病薬を処方された患者における胃腸穿孔・腸閉塞リスクを評価するため、日本の医療情報データベースMID-NETのリアルワールドデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。Therapeutic Innovation & Regulatory Science誌オンライン版2023年10月29日号の報告。 調査期間は、2009~18年。非定型抗精神病薬を処方された患者における胃腸穿孔・腸閉塞リスクを、定型抗精神病薬を処方された患者と比較し、評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・非定型抗精神病薬を処方された患者は、定型抗精神病薬を処方された患者と比較し、胃腸穿孔・腸閉塞リスクが有意に低かった(調整後オッズ比:0.48、95%信頼区間:0.29~0.80)。・本知見は、感度分析において、抗精神病薬処方の長期化により裏付けられた。・リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬の種類による胃腸穿孔・腸閉塞リスクの大きな違いは認められなかった。 著者らは「非定型抗精神病薬を処方された患者における胃腸穿孔・腸閉塞リスクの低さに関連する安全性プロファイルは、臨床現場で抗精神病薬を選択する際に、薬剤の適切な使用を行う観点から考慮すべきポイントとなりうる」としている。

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完全磁気浮上LVAD装着の重症心不全、アスピリンは不要?/JAMA

 完全磁気浮上の左心補助人工心臓(LVAD)を装着した重症心不全患者において、ビタミンK拮抗薬(VKA)による抗血栓療法は、VKA+アスピリンと比較して血栓塞栓症のリスクが増加することはなく、出血イベントを減少させる。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らが、北米、欧州、オーストラリアなど9ヵ国の51施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「Antiplatelet Removal and Hemocompatibility Events With the HeartMate 3 Pump trial:ARIES-HM3試験」の結果を報告した。LVADは重症心不全患者の生活の質と生命予後を向上させるが、非外科的出血イベントは最も一般的な合併症である。連続流LVADでは、抗血小板薬としてのアスピリンをVKAとともに使用することが義務付けられているが、有効性と安全性に関して決定的なエビデンスはないままであった。JAMA誌オンライン版2023年11月11日号掲載の報告。VKA+プラセボvs. VKA+アスピリンで無イベント生存と出血を比較 研究グループは、完全磁気浮上のLVADであるHeartMate 3(HM3)を装着し、その後はHM3以外の機械的循環補助を必要としない重症心不全患者を、装着後2~7日目にプラセボ群とアスピリン(100mg/日)群に1対1の割合で無作為に割り付け、VKA療法(目標国際標準比[INR]:2.0~3.0)とともに投与した 主要エンドポイントは、HM3装着後14日以内に投与中止を要する外科的合併症またはイベントが発生した患者を除いた主要解析対象集団における、12ヵ月時の非外科的血液適合性関連主要有害イベント(脳卒中、ポンプ血栓症、非外科的大出血、または末梢動脈血栓塞栓症など)のない生存(無イベント生存)の複合で、プラセボ群のアスピリン群に対する非劣性マージンは片側97.5%信頼限界の下限-10%とした。また、重要な副次エンドポイントを、主要解析対象集団における非外科的出血イベントの発生頻度とした。VKA+プラセボで1年無イベント生存率は6%高く、出血イベントは減少 2020年7月~2022年9月の期間に、628例が無作為化された(プラセボ群314例、アスピリン群314例)。このうち、主要解析対象集団は589例(プラセボ群296例、アスピリン群293例)で、患者背景は77%が男性、61%が白人で、追跡期間中央値は14ヵ月であった。 12ヵ月時点の無イベント生存率は、プラセボ群74.2%、アスピリン群68.1%であり、プラセボ群が高く、プラセボ群のアスピリン群に対する非劣性が示された(群間差:6.0%、片側97.5%信頼限界の下限:-1.6%、p<0.001)。 非外科的出血イベントの発生頻度はプラセボ群25.9/100患者年、アスピリン群39.5/100患者年で、アスピリンの回避は非外科的出血イベントの減少と関連していた(相対リスク:0.66、95%信頼区間:0.51~0.85、p=0.002)。 プラセボ群で脳卒中またはその他の血栓塞栓性イベントの増加は認められず、この結果は患者のサブグループ間で一致していた。

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妊娠高血圧、自己モニタリング+遠隔指導で産後の長期血圧が改善/JAMA

 出産後に降圧薬を要する妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧の女性において、血圧の自己モニタリングと医師による降圧薬漸増の遠隔指導は、通常の産後外来管理と比較して、産後9ヵ月時の血圧が低下したことが示された。英国・オックスフォード大学のJamie Kitt氏らが、同国の単施設で実施した、評価者盲検の無作為化並行群間非盲検比較試験(PROBE試験)「Physician Optimized Postpartum Hypertension Treatment Trial:POP-HT試験」の結果を報告した。妊娠高血圧は有害な心臓リモデリングを引き起こし、その後の高血圧および心血管疾患の発症率を高めることが知られているが、血圧の自己モニタリングと医師の遠隔モニタリングによる指導が血圧管理を改善することが示唆されていた。JAMA誌2023年11月28日号掲載の報告。血圧の自己モニタリングと医師による降圧薬漸増の遠隔指導を、従来の産後ケアと比較 研究グループは、妊娠後に妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧を合併し、出産後の退院時においても降圧薬の投与が必要な18歳以上の女性を登録し、介入群または対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。介入群では、Bluetooth対応のワイヤレスモニターOMRON Evolv血圧計(Omron Healthcare Europe製)を配布し、患者がスマートフォンアプリを用いて血圧の自己モニタリングを行うとともに、医師が最適化した降圧薬の漸増を遠隔指導した。対照群では通常の産後ケアを行った。 主要アウトカムは産後9ヵ月時の24時間平均拡張期血圧(DBP、ベースラインの産後血圧で調整)で、無作為化後少なくとも1回評価された集団を解析対象として線形混合モデルを用い、群間比較を行った。介入は産後の長期血圧管理に有用 2020年2月21日~2021年3月21日に、220例が介入群(112例)または対照群(108例)に無作為に割り付けられた。平均(±SD)年齢は32.6±5.0歳で、40%が妊娠高血圧、60%が妊娠高血圧腎症であった。最終追跡調査日は2021年11月2日、追跡期間は約9ヵ月であった。 主要アウトカムの解析対象200例(91%)において、産後(平均249±16日目)に測定した調整後24時間平均DBP(±SD)は、介入群71.2±5.6mmHg、対照群76.6±5.7mmHg、群間差は-5.80mmHg(95%信頼区間[CI]:-7.40~-4.20、p<0.001)であり、介入群で低かった。 同様に、24時間平均収縮期血圧は、介入群114.0±7.7mmHg、対照群120.3±9.1mmHg、群間差-6.51mmHg(95%CI:-8.80~-4.22、p<0.001)であり、介入群で低かった。 有害事象は、退院後14日間の再入院が41例に認められ、そのうち37例が血圧の上昇に関連していたが、介入群で少なかった(介入群8例[7%]vs.対照群29例[27%]、p<0.001)。

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AHAでJ-PCI registry解析結果を発表、セマグルチドも話題に【臨床留学通信 from NY】第54回

第54回:AHAでJ-PCI registry解析結果を発表、セマグルチドも話題に秋の学会シーズンということで、前回はTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)についてでしたが、今回はフィラデルフィアで11月11~13日に開催されたAHA(American Heart Association)です。AHAは米国心臓病協会の学会で、ACC(American College of Cardiology)と2大循環器学会となります。TCTからわずか3週間後の開催です。カテーテル治療系の目玉となるトライアルは、多くがTCTで発表される傾向があります。一方、AHAはカテーテル治療も取り上げられるものの、どちらかというと予防医学などに重点を置いている傾向があります。今回のAHAでは、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の「J-PCI registry」というNational registryにおいて、透析患者に対する橈骨動脈アプローチに関して研究計画書を提出して採用されたことから、統計解析の結果をポスターセッションで発表しました1)。そしてほぼ同時に、European Heart Journal誌の姉妹誌であるEHJ Open誌に掲載されました2)。一般的にカテーテル治療は橈骨動脈から施行したほうが、大腿動脈より施行するよりリスクが低いとされます。しかし、シャントを有する透析患者は、出血リスクが高いにもかかわらず、橈骨動脈閉塞の危険性があることから、大腿動脈から施行することが通例です。それに関して、私が日本にいたときから、透析患者であっても橈骨からできないかというパイロット研究をしていました3)。症例は100人に満たない人数ですが、一般病院で倫理委員会を通し、腎臓内科の先生とも共同し、橈骨動脈が閉塞しているかどうかもきちんと調べて論文化したテーマです。これをNational registryを使って研究させていただいたのは貴重な経験でした。次のステップとして、米国のNational registryである「NCDR CathPCI registry」というデータベースが公募しているので、今回のEHJ Open誌のデータを示して挑戦したいと思います。ニューヨークからフィラデルフィアまでは近いこともあり、前もって購入すれば往復40ドルの電車賃だけで世界的な学会に参加できます。今回は週末のみの滞在で、日本人の方々とお話をしていたら学会が終わってしまったという印象です。ただその中でも、セマグルチドの肥満症に対する心血管イベント抑制効果を検討した「SELECT 試験」が最も話題になりました。日本でも11月22日に薬価収載され、はたして日本で適応となる人はどれくらいでしょうか。ここ肥満大国アメリカで本薬が適応となるのは人口の約5%に相当するとされ、製薬会社の争奪戦となっているようです。しかし、保険の縛りが強く、なかなか患者さんの手に入らないとも言われており、医療格差が広がる一方ではないかという危惧もあります。参考1)Kuno T, et al. Abstract 13387: Transradial Intervention in Dialysis Patients Undergoing Percutaneous Coronary Intervention: A Japanese Nationwide Registry Study. Circulation. 2023;148:A13387.2)Kuno T, et al. Transradial Intervention in Dialysis Patients Undergoing Percutaneous Coronary Intervention: A Japanese Nationwide Registry Study. Eur Heart J Open. 2023 Nov 14.3)Kuno T, et al. A Transradial Approach of Cardiac Catheterization for Patients on Dialysis. J Invasive Cardiol. 2018;30:212-217.Column私が指導している初期研修医、後期研修医相当(米国1年目)の先生方が、TCT やAHAで海外学会デビューされ、頼もしい限りです。私は学会発表が卒後6年目以降、海外学会は7年目以降、そして12年目にようやく渡米したこともあり、キャリアの早い段階で臨床留学を達成、またそれに挑戦している若手の刺激を受けて、まだまだ頑張らなければと思う日々です。【後輩の先生方の研究】Kiyohara Y, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;82:B135–B136.Kiyohara Y, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;82:B74.Watanabe A, et al. Circulation. 2023;148:A13383.Watanabe A, et al. J Med Virol. 2023;95:e28961.Shimoda T, et al. Circulation. 2023;148:A14832.

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