サイト内検索|page:47

検索結果 合計:1124件 表示位置:921 - 940

921.

105)合併症が心配の患者さんを安心させる指導法【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者糖尿病と診断されてから合併症が心配で、心配で……。 医師確かに。急に思ってもみなかった糖尿病といわれると心配になりますよね(共感)。 患者そうなんです。 医師今、頭の中はどうなっていますか? 患者糖尿病のことで一杯です。 医師なるほど。本当は糖尿病以外にやらなければならないことも、たくさんあるんだけど、そこまで頭が回っていないということですね。 患者そうなんです。 医師この外来ではいい意味で手を抜く、つまり糖尿病と上手に付き合ってもらいたいと思っています。できれば、糖尿病と仲良くね。 患者そんな風に、いつかなれたらいいと思います。●ポイント糖尿病中心の生活ではなく、生活の一部に糖尿病があることを上手に伝えます

922.

病院での手指衛生を向上させる介入とは? ―システマティックレビューとネットワークメタアナリシスによる解析―(解説:吉田 敦 氏)-400

 医療関連感染を少なくする最も有効な手段は、スタッフの手指衛生を向上させることである。しかしながら、それが遵守されていない病院は多い。WHOは2005年に、病院での手指衛生の向上を目的とした一連のキャンペーン「Clean Care is Safer Care 清潔なケアがより安全なケア」(WHO-5)を開始した1)。これは以下の5点、(1)組織変革、(2)トレーニング/教育、(3)評価とフィードバック、(4)作業場でのリマインダー、(5)組織的な安全風土、を骨子とし、それらを組み合わせたものである。今回、WHO-5が実際の手指衛生行動を変容させたかについて、システマティックレビューとメタアナリシスによる解析が行われ、BMJ誌に発表された。スタディ抽出とレビュー 1980年から2009年の間に、Medline、Embaseなどの文献ソースに蓄積されたスタディの中から、病院医療従事者の手指衛生のコンプライアンス向上に関する介入が行われ、かつ、一定の質的評価がなされたものを解析した。この中にはランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、介入前後の比較試験、時系列解析が含まれる。さらに、介入と医療従事者に関して偏りなく均一であると考えられる報告の中で、手指衛生のコンプライアンスが直接観察できたものについてネットワークメタアナリシスを行った。さらなる介入により、行動変容が大きく 検索した3,639スタディのうち、41が解析対象としての基準を満足した(ランダム化比較試験6、時系列解析32、非ランダム化比較試験1、介入前後の比較試験2)。2つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスでは、WHO-5に「手指衛生に関するゴール設定」を加えると、コンプライアンスが向上することが判明した。同時に時系列解析を一対比較したところ、22個の比較解析のうち18解析で、介入後にコンプライアンスが向上したという結果を得た。 一方、ネットワークメタアナリシスでは、WHO-5の効果そのものには不確実な部分が存在するものの、「手指衛生に関するゴール設定」「報酬・インセンティブ」「アカウンタビリティ(個人・組織レベルでの責任)」を加えると、より向上が認められた。また19スタディでは臨床的な結果が得られていたが、手指衛生の向上後に感染率が減少したものの、それは微生物によって差があった(例:MRSAでは減少率が大きく、C. difficileはそれに比べ小さかった)。なお、介入にかかったコストは1,000ベッド・日当たり225ドルから4,669ドルであった。有効な介入とは?その評価は? 今回の解析では、WHO-5自体は手指衛生の向上に有効であったものの、実際上ゴール設定など、ほかの方策を組み合わせることが望ましい結果であった。この意味では、複合的かつ合目的な、そして個人の前向きな問題意識・責任感・行動変容を引き出すような戦略が求められているといえよう。一方で、介入の効果の評価にあたっては、必要なデータはまだまだ不足している。今後の蓄積と介入によって、新たな方向性が見えてくる可能性は十分ある。参考文献はこちら1)World Health Organization. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care. In WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee. 2009. 新潟県立六日町病院から邦訳刊行あり。「世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約 最初の世界的患者安全の挑戦 清潔なケアがより安全なケア」

923.

チクングニア熱に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ(まあ誰も呼んでないんですけどね)」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回は緊急特番として「MERSに気を付けろッ!」をお送りしましたが、今回は前々回の続きとして「チクングニア熱に気を付けろッ! その2」をお届けしたいと思います。デング熱との鑑別診断は大事なポイント前々回の「その1」では、チクングニア熱を野球界で例えると本塁打を60本打ったときのバレンティン選手(ヤクルトスワローズ)であり、手の付けようがないので敬遠するしかないというお話でした。そこで、今回はチクングニア熱の特徴とその敬遠の仕方についてお話ししたいと思います。チクングニア熱の臨床症状は、デング熱と非常に良く似ています。ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるところも同じですし、発熱、頭痛、関節痛といった非特異的な症状もそっくりです。おまけに皮疹までデング熱によく似ています。しかし、チクングニア熱がデング熱と異なる点もいくつかあります。チクングニア熱の潜伏期はおおむね2~4日とされており、デング熱(おおむね3~7日)よりやや短い期間で発症します1)。また、発熱は3~5日間くらい続くことが多く、これも5~7日間続くデング熱よりも短い傾向にあります。デング熱では少ない頻度ではありますが重症化し、出血症状が現れることがありますが、チクングニア熱では出血症状はまれです。また、チクングニア熱では関節痛だけでなく「関節炎」まで起こすことがあるのが特徴です。しかも、タチの悪いことに、この関節痛・関節炎は遷延化することがあり、長い人では3年経っても関節炎が残っていたという報告があります2)。図は熱が出た後から1ヵ月くらい両肩関節炎のため肩が上がらないという主訴で、国立国際医療研究センターを受診された患者さんです。チクングニア熱による慢性関節炎と診断しました。長期間QOLが低下してしまうという意味では、デング熱よりもやっかいな感染症です。また、左右対称性の慢性多関節炎ということで、関節リウマチが疑われてリウマチ膠原病科を受診する方もいらっしゃるようです。診断は、ウイルス血症を呈している急性期にPCR法でチクングニアウイルスを検出するか、亜急性期~慢性期にチクングニアに対するIgM抗体陽性、あるいはペア血清でのIgG抗体の陽転化または有意な上昇を確認することで診断されます(表1)。現在のところ、採算の面から気軽に行える検査ではありませんので、保健所に連絡をして地方衛生研究所または国立感染症研究所で検査をしてもらうことになるでしょう。チクングニア熱は感染症法で4類感染症に指定されていますので、確定診断後にただちに保健所に届け出る必要があります。忘れないようにしましょう!やっぱり蚊に刺されないことが1番の予防さて、肝心のチクングニア熱の治療ですが……ありませんッ! 残念ながら今のところ対症療法しかないのです。関節痛が強いので、ついNSAIDsを使いたくなるのですが、デング熱との鑑別ができていない時点では、NSAIDsの使用は避けたほうがいいでしょう。なぜなら、デング熱であった場合にNSAIDsが出血症状を助長してしまうからですッ! チクングニア熱と診断されれば、NSAIDsの使用は可能です。なお、チクングニア熱による慢性関節炎に対するステロイドの有効性は今のところ不明です。というわけで、チクングニア熱にかかってしまったら大変ですので、チクングニア熱は敬遠するのが一番です。チクングニア熱のワクチンはまだ実用化されておりませんので、現実的には「蚊に刺されないこと」が重要となってきます。具体的な防蚊対策として、(1)蚊が多い時間・時期・場所を避ける(2)肌の露出を最小限にするため長袖長ズボンを着用する(3)DEETを含む防虫剤を適正に使用する(4)蚊帳の使用などが挙げられますが、とくに重要なのはDEET(N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)を含む防虫剤を適正に使用することであり、表2の持続有効時間ごとに塗り直す必要があります。わが国で販売されている防虫剤は、最大でも12%までしかDEETが含まれていません。そのため、基本的には2時間ごとにこまめに塗り直すことが推奨されます。海外のデング熱やチクングニア熱の流行地にいく場合には、より濃い濃度のDEETを含む防虫剤が販売されていますので、20~30%のDEETを含む製品を購入し、4~6時間ごとに塗り直すのがお勧めです。これでチクングニア熱をバッチリ予防しましょう!前回お話ししたようにチクングニア熱は毎年輸入例が報告されていますし、いつ日本で流行してもおかしくない感染症です。感染を広げないためには早期に診断し、感染者が蚊に刺されないよう指導することが重要になります。チクングニア熱の正しい知識を身に付け、症状を診察したときに正しく診断できるようにしておきましょう!さて、次回はクリプトコッカス界の新興感染症、Cryptococcus gattiiのガチな(シャレですう)気を付け方について、お話したいと思います!1)Borgherini G, et al. Clin Infect Dis.2007;44:1401-1407.2)Schilte C, et al. PLoS Negl Trop Dis.2013;7:e2137.3)Fradin MS, Day JF. N Engl J Med.2002;347:13-18.

924.

タバコに空気清浄機は意味がない?

空気清浄機には意味がない?!なぜ、あなたは空気清浄機を使うのでしょうか?家族や友人を受動喫煙の害から守るには、タバコをやめるしかありません。タバコ煙の有害成分は、ほとんどが気体(ガス)です。一方、空気清浄機で除去できるのは、微細な粒子(固体)なのです。タバコの煙に含まれる有害物質は、ほとんどが空気清浄機を素通りしてしまいます。社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

925.

抗精神病薬とアディポネクチン低下の関連明らかに

 統合失調症患者における第2世代抗精神病薬(SGA)服用と代謝異常との関連が、イタリア、ミラノ・ビコッカ大学のFrancesco Bartoli氏らによるメタ解析の結果、明らかにされた。所見を踏まえて著者らは、「SGAがアディポネクチンに影響するメカニズムは不明のままだが、心血管疾患ではアディポネクチン低下が関与しており、今回の所見は臨床的に重要な意味を持つ」と述べ、SGAのアディポネクチンへの長期的な影響を評価する経時的検討を行うべきと指摘している。Psychoneuroendocrinology誌2015年6月号の掲載報告。 統合失調症患者は一般集団と比べて、代謝異常の悪影響を受けやすく、そのリスクはSGAによって増大すると考えられている。血中アディポネクチン値の低下は、代謝異常に結び付く可能性があるが、統合失調症患者におけるエビデンス、とくにSGAの影響については結論が出ていない。研究グループは、システマティックレビューとメタ解析にて、統合失調症患者と健康対照の血中アディポネクチン値を比較し、統合失調症とSGAのアディポネクチンへの相対的影響を推算した。主要電子データベースで、2014年6月13日までに公表された観察研究を検索し、指数および対照群とのプール標準化平均差(SMD)を算出。サブ解析および付加的サブグループ分析を行い評価した。 主な結果は以下のとおり。・2,735例のデータ(統合失調症患者群1,013例、非患者群1,722例)を解析に組み込んだ。・統合失調症と、アディポネクチン低値との関連は認められなかった(SMD:-0.28、95%信頼区間[CI]:-0.59~0.04、p=0.09)。・しかし、SGAを服用している統合失調症患者は、対照群と比べて血中アディポネクチン値が有意に低かった(p=0.002)。薬物未使用/未治療の患者とでは有意差はなかった(p=0.52)。・単剤の抗精神病薬でみると、クロザピン(p<0.001)とオランザピン(p=0.04)の服用者は、対照群と比べてアディポネクチン低値との関連が有意であった。しかしリスペリドン服用者においては、関連が有意ではなかった(p=0.88)。関連医療ニュース 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 オランザピンの代謝異常、アリピプラゾール切替で改善されるのか 日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証!:新潟大学  担当者へのご意見箱はこちら

926.

特別編 MERSに気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

2015年5月末からの韓国でのMERS流行を受けて、日本国内でも危機感が高まっています。今回、緊急特集として拙著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)でおなじみの忽那・上村コンビが「MERSの気を付け方」について語ります。韓国へ焼肉に行く前に 上村「くつな先生、ちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」 忽那「なんだ?」 上村「明日から韓国に焼肉を食べに行ってきますので、その間の当直をお願いしてもいいですか? 当直代は僕がもらいますんで」 忽那「ちょっと待て。いい訳ないだろう」 上村「大丈夫ですよ、先生にもキムチを買ってきますから」 忽那「そうじゃない。おまえ、今の状況がわかってないのか」 上村「わかってますよ。今は日韓関係が冷えきっているから渡航は控えたほうがいいんじゃないかってことでしょ? でもね、先生…逆にそんな今だからこそ思うんですよ、僕が焼肉を食べることで日本と韓国の距離が縮まれば最高じゃないかってね…」 忽那「何が『逆に』なのかわからんが、オレが言ってるのは、日韓関係のことじゃない。MERSだよ、MERS」 上村「またまた~。マーズレンS®のことをそんなオシャレな言い方しちゃって~、胃でも荒れてるんですか~?」 忽那「マーズレンS®は今関係ない! おまえ、ホントにテレビとか見てないんだな。MERSと言ったら『中東呼吸器症候群』のことだろ。韓国は今MERSで大変なことになってるんだよ!」 上村「いつから韓国は中東になったんですか!」 忽那「ああ、もう!おまえと話してると話が一向に進まないな! 中東ではやってた感染症が、韓国でも流行してるんだよ!」 上村「ふーん…中東呼吸器症候群って名前なのに中東だけじゃないんですか」 忽那「そうだ。サウジアラビアを中心に中東で流行しているMERSだが、これまでに25ヵ国で症例が報告されている(図1)1)。MERSは中東以外でも発生しているのだッ!」画像を拡大する 上村「でも発端となったのは中東からの輸入例ってことですよね?」 忽那「そのとおり! そして、その中でもイギリス、フランス、チュニジアでは輸入例を発端とした国内でのヒト-ヒト感染事例が報告されているのだッ!1)」 上村「オソロシス!!」 忽那「そう、恐ろしいね……そして2015年5月現在、韓国でも輸入例を発端としたMERSのヒト-ヒト感染がこれまでにない規模で起こっているんだ」 上村「なるほど…韓国でMERSってのはそういう意味だったんですね。じゃあ今は韓国でも10人くらいの患者が出てるんですか?」 忽那「10人なんてもんじゃない。とっくに100人を超えているレベルだ」 上村「ワンハンドレッド・パーソンズ! チャバイじゃないですか!それ、チャバイじゃないですか!」 忽那「2015年5月24日に、中東地域に渡航歴のある60代男性の確定例が報告されてからというもの、日に日に症例は増え、7月22日現在感染者は186人、死者は36人に達している。今や4次感染例まで報告されているんだ(図2)2)」画像を拡大する 上村「そうか…さっきの言葉は『韓国に旅行するのは危ない』って意味だったんですね」 忽那「まあ『韓国に旅行するとMERSに感染するぞ』って意味ではないけどね」 上村「えっ? 言ってることがわからないんですけど! 韓国ではMERS患者があふれてるんじゃないんですか?」 忽那「いや、今のところ韓国で報告されているMERS患者はすべて疫学的なリンクが追えている症例ばかりだし、しかもそのほとんどが病院内での曝露によって感染していると考えられている」 上村「じゃあ韓国に焼肉を食べにいっても、感染しないってことですか?」 忽那「まあ現時点では可能性はきわめて低いだろうね…でも、わざわざ今韓国にいくのはお勧めしないけど。帰ってきてから熱が出ようものなら面倒なことになるよ?」 上村「確かに…焼肉はMERSが落ち着いてからにしようかな…」 忽那「その前に、われわれはいつMERSが来てもいいように、十分な準備をしておくべきではないだろうか」 上村「ほほん。つまり『MERSの気を付け方』を知っておくということですね」 忽那「そういうことだ」MERSの実体は何だ? 上村「でも、そもそもMERSってそんなに怖い病気なんですか? マーズレンS®は効かないんですか?」 忽那「現時点でMERSに有効な抗ウイルス薬はない。それは胃薬であるマーズレンS®も例外ではないッ!」 上村「頼みの綱のマーズレンS®が…」 忽那「2012年4月から2015年6月10日までに全世界で1,288例のMERS症例が報告されているが、そのうち498例が亡くなっている。つまり致死率は38.7%ということになる」 上村「38.7%って…エボラ並みじゃないですか! MERS激ヤバでしょ! 終わりだ…もう世界は終わりだ~!」 忽那「落ち着けッ! MERSが恐ろしい感染症であることは間違いない…だが、実際のMERSの致死率はここまでは高くないだろう」 上村「実際のって…実際のMERSの致死率が38.7%って話でしょ~がよ!なに訳わかんないこと言ってるんですか!?」 忽那「感染症はしばしば軽症では、検査が行われずに見逃されやすい。逆に重症例はしっかりと診断されることが多い。つまり、見かけの致死率は高くなりやすい傾向にあるんだ。現に、積極的な検査が行われている韓国では、致死率は10%前後と低い状態にある」 上村「10%でも十分高いでしょ!」 忽那「そのとおり。いずれにしても怖い感染症には間違いないね」 上村「MERSの怖さはわかったんですが…どういう症例でMERSを疑ったらいいんでしょうか?」MERSへの対応 忽那「厚生労働省は、1.中東地域・韓国などの感染地域から帰国後14日以内に、38℃以上の発熱及び咳を伴う急性呼吸器症状を呈し、臨床的又は放射線学的に肺炎、ARDSなどの実質性肺病変が疑われる場合 2.発症前14日以内にそれらの国において、医療機関を受診もしくは訪問した者、MERSであることが確定した者との接触歴がある者、ヒトコブラクダとの濃厚接触歴がある者で発熱を伴う急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する場合 3.発症前14日以内にそれらの国によらず、MERSが疑われる患者を診察・看護もしくは介護していた者、MERSが疑われる患者と同居(当該患者が入院する病室又は病棟に滞在した場合を含む。)していた者、MERSが疑われる患者の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた者で発熱または急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する場合の3つのいずれかに該当し他の原因が明らかでない場合、MERS疑似症として対応するように、という通知を2015年6月4日に出している。これを念頭に置いておくことが重要だね」 上村「なんか言い回しが難しくてよくわからないんですけど!」 忽那「上村…『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』でさんざん教えただろう。輸入感染症で重要なのは『渡航地・潜伏期・曝露歴』の3つだと!」 上村「…ハッ! そうでした…友情ッ!努力ッ!勝利ッ!」 忽那「MERSの感染が持続的に見られているのは中東と韓国であること、MERSの潜伏期は2~14日であること3)、MERSの感染はラクダとの濃厚接触や病院内感染が多く、ヒト-ヒト感染では原則として飛沫感染であることを考えると、渡航地中東または韓国に渡航していたか潜伏期渡航から発症までが14日以内か曝露歴ラクダとの接触歴があるか、現地で病院を受診または入院しているか、MERS患者と接触があったかが重要ということになる。このポイントを覚えておくことが重要なんだ」 上村「なるほど…勉強になるっす!」 忽那「これらの疑似症に当てはまる症例は、ただちに保健所に連絡し、感染症指定医療機関(特定、第1種または第2種)に搬送され、地方衛生研究所で気道検体のPCR検査が行われることになる。ちなみに日本国内におけるMERS診断までの流れは厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150604_01.pdf)で確認することができるので、これも確認しておこう」MERSの診断と対策 上村「了解です!ちなみに中東呼吸器症候群っていうくらいだから、まず間違いなく呼吸器症状があるんですよね?」 忽那「呼吸器症状の頻度は高いと言われている…が、100%ではない。サウジアラビアで診断された47人のMERS症例の臨床症状がまとめられている4)が、それによると、発熱(>38℃) - 46人(98%)悪寒と戦慄を伴った発熱 - 41人(87%)咳 - 39人(83%)(乾性47%、湿性36%)息切れ - 34人(72%)血痰- 8人(17%)咽頭痛 - 10人(21%)筋肉痛 - 15人(32%)下痢 - 12人(26%)嘔吐 - 10人(21%) 腹痛 - 8人(17%)胸痛- 7人(15%)頭痛- 6人(13%) 鼻炎- 2人(4%)胸部X線所見の異常 - 患者47人(100%)となっており、咳や息切れも100%ではなく、また消化器症状や頭痛・筋肉痛といった全身症状もみられることがある。つまり、呼吸器症状がなければMERSの可能性は下がるが、完全に除外することはできないということになる」 上村「難しいなあ…なんか見逃しちゃうのが怖いんですけど」 忽那「少しでも疑わしい症例をみたら、ひとりで抱え込まずに保健所に相談するほうが安全だろうね」 上村「わかりました!悩んだらくつな先生を呼びます」 忽那「うん、悩んだら保健所に相談しようね」 上村「頼りないなあ…もし本当に疑わしい症例の対応をすることになったら感染対策はどうすればいいんですか?」 忽那「現時点ではまだ完全にはわかっていないこともあるけど、MERS-CoVは飛沫感染および接触感染で伝播すると考えられている。なので、WHOは飛沫感染予防策と接触感染予防策の徹底を推奨している5)」 上村「ふーん、N95マスクは要らないんですか?」 忽那「気管挿管や気管内吸引などのエアロゾルが発生するような場合には、N95マスクの着用を含む空気感染予防策を推奨している」 上村「ですよね~。なんとなくN95がないと不安なんですよ…」 忽那「確かにCDCはエアロゾル発生手技に限らず、空気感染予防策を推奨してるけどな6)。この違いは、まだMERSという感染症がよくわかっていないからということもあるだろうし、CDCは資源が豊富なアメリカのための機関であり、WHOは世界中の感染症対策のことを考えないといけない機関であり、途上国の状況も配慮した感染症対策を提示しなければならないという、それぞれの立場の違いも関係しているのかもしれないね」 上村「じゃあN95マスクを付けておいたほうが無難ってことですね!」 忽那「いや、現時点ではなんとも言えないなあ…でも大事なことは、中東からの輸入例が報告された国の大半ではMERSは広がっていないということだ。N95マスクにこだわらなくても、適切な接触感染予防策と飛沫感染予防策を行えばMERSの伝播は抑えられると思うよ」 上村「んな~る」Take Home MessageMERSを疑う手がかりは渡航地・潜伏期・曝露歴!MERS疑似症を満たす症例は、ただちに保健所に連絡を!MERSに対する感染対策は、接触感染予防策と飛沫感染予防策が重要!エアロゾル発生手技のときには空気感染予防策も!1)European Centre for Disease Prevention and Control. RAPID RISK ASSESSMENT. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) 17th update, 11 June 2015.2)World Health Organization. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) maps and epicurves. 3)Assiri A, et al. N Engl J Med. 2013;369:407-416.4)Assiri A, et al. Lancet Infect Dis. 2013;13:752-761.5)World Health Organization. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS‐CoV) summary and literature update - as of 9 May 2014. 6)Centers for Disease Control and Prevention. Interim infection prevention and control recommendations for hospitalized patients with Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV). ※ イラスト協力:中外医学社『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』より転載

927.

チクングニア熱に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回はBorrelia miyamotoi感染症という激マニアックな感染症の気を付け方について学ぶという、ある意味貴重な回でしたが、今回は比較的「マジで気を付けたほうがいい」感染症であるチクングニア熱について学びたいと思います。爆発的な拡大をする「チクングニア熱」まず最初に、皆さまは「チクングニア熱」という感染症を聞いたことがありますでしょうか? いかにも戦闘力の高そうな名前の感染症ですが、「チクングニア」とはタンザニアの言葉で「身をかがめる」「猫背」などを意味し、これは本疾患の強い関節痛・関節炎に由来します。チクングニア熱に非常に似た病気としてデング熱がありますが、デング熱と比較すると関節痛の頻度が高く、関節炎まで起こすことがあるというのが特徴です。さて、なぜこのチクングニア熱が「マジで気を付けたほうがいい」感染症なのかといいますと、それはチクングニア熱が凄まじい勢いで世界中に広がっているからであります。その勢いたるや、シーズン中60本塁打を打ったときのヤクルトスワローズのバレンティン選手を彷彿とさせるものがあります。そう、手のつけようがないのです。しかし、バレンティン選手は敬遠すればホームランは打たれずに済みますが、チクングニア熱は敬遠が通用しません! なぜなら野球選手ではないからです!(自分で言ってて意味がわかりません)このチクングニア熱は、デング熱と同じく蚊が媒介するウイルス感染症であり、わが国では4類感染症および検疫感染症に指定されています。チクングニアウイルスが最初に発見されたのは1950年代にアフリカのタンザニアでしたが、その後、アフリカ、東南アジアや南アジアで散発的なアウトブレイクが報告されていました。図1は2001~2007年の頃のチクングニア熱の流行地図です。図1 2001~2007年におけるチクングニア熱症例の世界的状況1)画像を拡大するこの時期は南アジアを中心に、アフリカ、東南アジアで流行がみられています。まだまだ遠い国の珍しい感染症といった感じですね。しかし、2015年現在の流行地図(図2)をみてくださいッ!図2 チクングニア熱が報告された国と地域の一覧(2015年3月10日時点)2)画像を拡大するアフリカ、アジアはおろか、中南米まで流行地域に……。かなり凄まじい勢いで流行地域が広がっていることが、おわかりいただけるかと思います。そして、気が付かれましたでしょうか。そうです、アメリカ合衆国にも色が塗られているんですッ! 2013年末から始まったチクングニア熱の中南米での大流行は、ついにアメリカにまで飛び火し、フロリダ州では渡航歴のないチクングニア熱患者が出てしまうという事態にまで発展してしまいました。2014年、日本はデング熱でてんやわんやだったわけですが、アメリカ大陸の人々は、チクングニア熱できりきり舞いだったわけであります。すでに中南米だけで100万人以上の感染者が出ているといわれています。次は日本が危ないわれわれ日本人も、対岸の火事を眺めている場合ではありません。このチクングニア熱の大流行に、いつ日本も巻き込まれるかわからないのです。チクングニア熱を媒介する蚊の1種であるヒトスジシマカは日本にも生息していますし、近年チクングニアウイルスの中には、ウイルス変異によってヒトスジシマカの体内で増殖しやすくなっているウイルスも報告されています3)。最近は「今年の夏もデング熱は流行るのか?」という報道がテレビでも流れていますが、むしろ本命はチクングニア熱かもしれないのですッ!さて、さんざん煽るだけ煽ってしまいましたが、次回はそんなチクングニア熱の気を付け方、そして、敬遠の仕方についてもご紹介したいと思います。1)World Health Organaization. Weekly epidemiological record (WER). 2007;82:409-416.(参照 2015.6.3).2)Centers for Disease Control and Prevention. Countries and territories where chikungunya cases have been reported (as of January 13, 2015). (参照 2015.6.3).3)Schuffenecker I, et al. PLoS Med. 2006;3:e263.

928.

CM「サントリー角」【対人魅力(女性編)】

今回のキーワード心の進化(進化心理学)気配り美人(ノルアドレナリン)甘え美人(ドパミン)癒し美人(セロトニン)共依存依存性パーソナリティ演技性パーソナリティ「なんで彼女はいつもモテるの?」皆さんは、友人や職場の人で「なんで彼女はいつもモテるの?」とうらやましく思ったことはありませんか? 世の中には、異性からも同性からもモテる魅力的な人がいます。魅力的である方が、デートのチャンスが増えますし、仕事もやりやすいです。特に精神科や心療内科では、患者がほど良く主治医に好感を持つことで、治療がうまくいくといわれています(陽性転移)。モテる人とモテない人の違いは何でしょうか? 今回は、女性の対人魅力をテーマに、心の進化(進化心理学)の視点からとらえ直します。恋人や妻としての女性の魅力だけでなく、職場の上司や部下としての女性の人間的な魅力にも迫っていきたいと思います。その魅力とは、もちろん顔やスタイルを挙げる方もいるでしょう。しかし、実は、それ以上に大事なことが3つあります。そのヒントが、あるCMにあります。それは、現在までにシリーズ化されている「サントリー角」のCMです。お酒のCMに登場する女性のイメージは、世の男性が求める女性の魅力が詰まっているともいえます。なぜなら、その魅力が直接売り上げにつながるのですから。今回は、このCMに登場する初代の小雪さん、2代目の菅野美穂さん、3代目の井川遥さんの振る舞いから、女性の3つの魅力についていっしょに考えていきましょう。気配り美人1つ目は、初代の小雪さんが登場するCMです。まずは、以下の動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。小雪さんは、お客さんたちに「とりあえずハイボールと」「アジフライ」「ポテトサラダ」「オムレツ」と言い、お客さんが注文しようとする前に、彼らの「いつもの注文」を言い当てています。別のCMでは、「とりあえずハイボールと、夏だからちょいと絞ります」と気を配っています。その振る舞いに、お客さんたちは感心してうっとりしています。1つ目の魅力は、気配り美人です。この魅力を発揮するために、女性の方は次のクイズに挑戦しましょう。Q1. あなたが彼に作る最初の料理は?A. 高級なフランス料理B. 得意なメキシコ料理C. 最近ハマっている創作料理D. 定番の和食ポイントは、その料理であなたが満足するかどうかではなく、彼が満足するかどうかという視点を持っていることです。男性と女性の脳の違いから分かっていることは、男性は女性よりもこだわり(システム化)が強いです。Aの高級なものよりも、Bの彼女が得意なものやCのハマっているものよりも、Dのいつも食べている定番のものを男性は好みます。それは、例えば、カレーライスやハンバーグです。つまり、答えはDです。Q2. 彼が「ガンダムのコレクションがある」と話した時、あなたは何と答える?A. 「私、分かんない」と無邪気に答える。B. 「ガンダム好きなんだね」とほほ笑む。C. 「どんなとこが好きなの?」と興味を示す。Aはそこで話が終わってしまいます。Bは受け止めてはいますが、やはりそこで話が終わってしまっています。AもBも、広がりがなく、退屈な会話になってしまいます。一方、Cは、男性のこだわりをいっしょに楽しもうとする姿勢がみられます。彼もきっと生き生きと語るでしょう。よって、答えはCです。気配り美人が考えることは、「自分が彼に何をしてあげたいか」ではなく、「彼が自分に何をしてもらいたいか」ということです。そのためには、彼(もっと言えば男性)は何が好きで何が嫌いかを徹底的に知っておく必要があります。なぜ気配り美人はモテるのか?そもそも男性は、気配り美人を本能的に選ぶ傾向があります。これを心の進化(進化心理学)の歴史からひも解いてみましょう。私たち人間の体は環境に適応するために進化してきました。同じように、私たち人間の心も進化してきました。その適応してきた環境とは、狩猟採集生活を営んでいた原始の時代です。その始まりは、チンパンジーと共通の祖先から私たちの祖先が二足歩行をして分かれていった700万年前です。農耕牧畜から始まる現代の文明社会は、たかだか1万数千年の歴史であり、進化が追い着くにはあまりにも短いといえます。つまり、進化心理学的に考えると、私たちの心の原型は、まさにこの原始の時代に形作られました。原始の時代、人間は、二足歩行が可能になったことで、手が自由になり、より食料を運ぶことができるようになりました。そこで、男性(父親)は日々食糧を確保し、女性(母親)は日々子育てをするというふうに、性別で役割を分担して、家族集団で共同生活を行いました。そして、この生活スタイルをとった種がより生き残りました。生き残った子孫が現在の私たちです。つまり、私たちは男性も女性も、いっしょに助け合って生きていこうとする協力的な異性を魅力的に感じる好み(嗜好性)が進化しているということです(性選択)。そして、男性から女性を見定める目安(形質)が気配りなのです。その気配りの能力が存分に発揮される現代の職業は何でしょうか? それは対人援助職、特に看護師です。看護師は、患者の「かゆい」ところに手が届き、いたわる気持ちもあります。男性にモテる女性の職業として、看護師が常に上位にあるのも納得がいきます。さらに、現代の情報化社会では、気を配って話を合わせるという女性的なコミュニケーション能力が男性にもますます求められています。気配り美人すぎると? ―表1それでは、気配り美人であればあるほど良いのでしょうか? そうともいえないです。気配りの心理(能力)は、世話焼き、面倒見が良い反面、度がすぎるとお節介で押し付けがましくなってしまいます。つまり、自分の気配りの能力を発揮するために、気配りできる相手を求める、もっと言えば、必要とされることを必要とする、依存されることに依存するようになってしまいます(共依存)。また、気配り美人だけであれば良いのでしょうか? そうともいえないです。気配り美人は、コミュニケーション能力の高さを表していますが、それだけでは良いビジネスパートナーにはなれても、良いライフパートナーにはなれない可能性が高まります。なぜなら、女性を魅力的にさせるために必要な要素が、あと2つあるからです。表1 気配り美人の二面性マイナス面プラス面お節介、押し付けがましい過干渉、ありがた迷惑甘やかし世話焼き、面倒見が良い尽くす、献身世話女房甘え美人2つ目は、2代目の菅野美穂さんが登場するCMです。まずは、以下の2つの動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。菅野美穂さんは、あるお客さんのおとぼけに、楽しいリアクションをします。また、一生懸命に料理を作る最中にちょっとドジをしますが、その振る舞いに、お客さんたちは優しく彼女をフォローします。2つ目の魅力は、甘え美人です。この魅力を発揮するために、女性の方は次のクイズに挑戦しましょう。Q3. 合コンで年齢を聞かれた時、どう答える?A. 「○歳(実年齢)です」と正直に答える。B. 「女性に年齢を聞くのは失礼」とはっきり言う。C. 「何歳でしょうねえ」とほほ笑む。D. 「逆に何歳だと思います?」と切り返す。E. 「二十歳です。(間を置いて)気持ちは」と極端に若い年齢をふざけて言う。AとBは、真面目な対応で、会話がはずみません。Cは、年齢を言いたくないことをほのめかしていることは伝わりますが、楽しくはありません。Dは、質問返しで、会話の広がりが期待できます。ただし、この切り返しは使い古されてきています。Eは、相手を楽しませようとするメッセージは伝わります。ウケないならそれはそれで良いという強いハートで臨むことが大切です。なぜなら笑いは伝わらなかったとしても、笑いを届けたいという思いは確実に伝わっています。相手も興味や好意があるからこそ年齢を聞いているわけで、きっと相手から暖かいツッコミやノリツッコミが返って来ることでしょう。大事なのはいかに会話を楽しめるかということです。Q4. 出会いの場で「彼氏いる?」と男性に聞かれた時、何と答える?A. 「いません」とだけ真面目に答える。B. 「いるけど、うまくいってないの」と悲しげに答える。C. 「いない。だけど今日ここで素敵な彼氏ができそう」と楽しげに答える。D. 「もしいないって言ったら、この後どうする?」と笑顔で答える。Aは、悪くはないですが、魅力もないです。Bは、一見良さそうにも思えますが、実はかなりリスキーです。なぜなら、こう言えるのは、顔やスタイルなどの他の要素ですでに魅力が十分に伝わっていることが前提だからです。あまり魅力が伝わっていない状況では、男性に面倒臭い女性だと思われてしまい、敬遠されがちです。Cについて、聞かれている時点である程度、男性に好意はあるので、「あなたと楽しく過ごしたい」というポジティブなメッセージをお返しすることができます。Dは難易度がかなり高いです。すでに十分に魅力が伝わっていると確信しているのでしたら、誘惑的なメッセージとして効果は絶大でしょう。これは、実際に、フリーアナウンサーの小林麻耶さんが使った言葉です。しかし、魅力が十分に伝わっていなければ、自意識の強い女性だと思われてしまい、またまた敬遠されてしまうでしょう。そこで、Dを使うなら、そのリスクを避けるため、保険をかけましょう。Dを使った後、男性が表情を曇らせたら、すかさず「って小林麻耶さんなら言いますね」と笑いに持っていきましょう。Q5. 合コンでどう振る舞う?A. 食事の盛り付けや話の相づちを完璧にこなす。B. 常にニコニコしてうなずくだけに徹する。C. 盛り付けをこぼして恥ずかしそうにしたり、酔って馴れ馴れしくする。Aは、全てをそつなくこなして良さそうです。気配り美人としては完璧です。ただ、残念なことに、男性に付け入るスキを与えません。仕事のデキる優秀な女性に多いタイプです。Bは、共感的で一見良さそうですが、話のキャッチボールができず、だんだんと退屈になってきます。Cは、男性に付け入るスキを与えています。男性を助けたくさせます。大事なのは、自分にスキがある(甘えている)といかに男性に思わせるかということです。結論としては、基本的にAのスタンスで、合間を見てCを入れると効果的です。しっかり者のように見えてちょっとだらしないのがちょうど良いようです。すると、完璧さとスキ(甘え)のギャップによってそれぞれが際立ちます(ギャップ戦略)。甘え美人が考えることは、「自分が彼に何をしてもらいたいか」ではなく、「彼が自分に何をしてあげたいか」ということです。そのためにはどんなスキをつくれば彼(もっと言えば男性)が喜ぶかを徹底的に知っておく必要があります。なぜ甘え美人はモテるのか?そもそも男性は、甘え美人を本能的に選ぶ傾向があります。これも先ほどの心の進化(進化心理学)から考えてみましょう。原始の時代、男性(父親)は女性(母親)とその子どもたちから頼られる存在でした。そこに自分の存在の意味(プライド)を感じる男性がより女性に受け入れられました。その子孫が現在の男性たちです。つまり、男性は、自分を頼りにする女性を魅力的に感じる好み(嗜好性) が進化しているということです(性選択)。そして、その目安(形質)がスキ(甘え)なのです。逆に言えば、一人でも生きていけるオーラを出す女性は、男性に「自分はいらない」と思わせてしまうのです。その甘えが存分に発揮されたキャラは何でしょうか? それは「ぶりっ子」「かまとと」です。ぶりっ子は、いい子ぶる、かわいい子ぶるなどそれらしい振りをすることです。かまととは、「かまぼこは魚(とと)から作るのか」と尋ねることから、知っているのに知らないふりをして世慣れていないように振る舞うことです。このようなキャラの女性が、同性の女性からはさて置き、男性からはとてもモテるのも納得がいきます。甘え美人すぎると? ―表2それでは、甘え美人であればあるほど良いのでしょうか? そうともいえないです。甘えの心理(能力)は、かわいげがあり、無邪気であり、懐への入りやすさがある反面、度がすぎると、だらしなく、飽きっぽく、怠け癖があり、常に受け身で主体性がなくなってしまいます(依存性パーソナリティ)。例えば、先ほどのクイズQ2のAの「私、分かんない」と無邪気に答えるのは、甘え美人ではありますが、その状況では正解ではないです。また、ノリが良く、ほめ上手で、演出がうまい反面、度がすぎると、表裏が激しく嘘つきになり媚びてばかりで薄っぺらく中身がなくなってしまいます(演技性パーソナリティ)。例えば、行き詰るとすぐに泣く女性です。また、甘え美人だけであれば良いのでしょうか? そうともいえないです。甘え美人は、男性への魅惑の強烈さを表していますが、それはあくまで最初のツカミに有効なだけです。無計画でバランスを欠いた甘えは、ワンナイトラブで終わってしまう可能性が高まります。また、ぶりっ子やかまととは、同性の女性に嫌われるリスクが高まります。なぜなら、進化心理学的には、女性にとっては自分の男性を寝取られる脅威を意識的にせよ無意識的にせよ感じてしまうからです。女性を魅力的にさせ続けるために必要な要素は、気配り美人と甘え美人の他にあと1つあります。表2 甘え美人の二面性マイナス面プラス面だらしない、飽きっぽい怠け癖、受け身かわいげ、無邪気懐に入りやすい嘘つき、媚びる薄っぺらい、中身がないノリが良い、ほめ上手演出がうまい癒し美人3つ目は、3代目の井川遥さんが登場するCMです。まずは、以下の動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。井川遥さんは、あるお客さんから「幸せですか?」と尋ねられて、その返答をしません。そして、間を置いて「あなたは?」と質問を質問で返しています。すると、その男性は「幸せになりたいです」と答え、安らいでいます。彼女は、自分のことは置いといて、相手の気持ちを引き出しています(受容)。3つ目の魅力は、癒し美人です。この魅力を発揮するために、女性の方は次のクイズに挑戦しましょう。Q6. 彼(夫)が仕事から遅く帰ってきた時、「おかえりなさい」のあとに何て言う?A. 「聞いてよ。今日、お隣さん(or 私の上司)がねえ・・・」B. 「ビール?それともお風呂?」C. 「お仕事どうだった?」ポイントは、仕事で帰宅が遅い状況から、彼が疲れている可能性を想定できるかということです。Aは、甘え美人なのですが、この時の彼はこれからあなたの話を聞くだけのエネルギーが足りない可能性があり、望ましくないです。Bは、よく耳にする言い回しで、気配り美人として良さそうです。ただ、注意したいのは、ビールとお風呂以外の選択肢がないことです。もしかしたらちょっと自分の部屋で休みたいかもしれません。「ビール?お風呂?それとも他にどうしたい?」と添えるのがより良いでしょう。Cは、彼の気持ちを聞き出せます。そして、どうしたいかも分かるでしょう。彼は、疲れており、癒しに飢えている可能性が考えられます。よって、答えはCです。Q7. 仕事がうまくいかなくて彼は落ち込んでいる。何て彼に声をかける?A. 「もう~暗いよ!元気出してよ」と励ます。B. 「今、何がしたい?何が食べたい?」と聞き出す。C. 「私が落ち込んだ時はね・・・」と自分の話を聞かせる。D. 「今つらいんだね」と共感する。Aは、甘え美人としてついつい言いそうになります。しかし、彼は彼なりにすでに元気を出そうとしてがんばっているかもしれません。そんな時に、さらに元気を出せと励ますのは、彼を追い込むだけになるリスクがあります。医療においては、うつ状態の人に叱咤激励は禁忌です。Bは、気配り美人として良さそうです。しかし、彼は落ち込んでいて何もしたくないかもしれません。何かしたいだろうという彼にエネルギーがあることを前提に話を進めるのはやはり望ましくないです。Cは、Q6のAと同じく、彼に話を聞く心の余裕はない可能性があります。Dは、共感することで彼の気持ちに寄り添っています。彼は、あなたが自分の味方であることを再確認します。大事なのは、彼があなたに心を預けたくなるかということです。Q8. 「今、独りになりたい」という彼に返す言葉は?A. 「私がいっしょじゃだめなの?」と甘える。B. 「いっしょにいた方が安心でしょ?」と気を回す。C. 「今は独りがいいんだね。いっしょにいたくなったら言ってね」とそっとしておく。Aは甘え美人で、Bは気配り美人ですが、両者とも過干渉となってしまい、彼の自由(自律性)が損なわれてしまうリスクや心の間合い(心理的距離)が取りにくくなるリスクがあるので、望ましくないです。Cは、本人の自由(自律性)を尊重しつつ、助け(癒し)が必要な時はいつでもそばにいるという心づもりが伝わっています。うつ状態の人への接し方の「温かい無関心」です。また、独りになりたいと言いつつも、実はいっしょにいてほしいという彼の裏のメッセージがある可能性があります。彼の甘えの心理を読み取ることも大事です。Q9. 落ち込んでいた彼は頭が回らず、誤解から言い合いになった。「そんなに責めないでよ」と言う彼に返す言葉は?A. 「責めてないわよ!」と言い返し、とことん話し合う。B. 「責めてるように聞こえたんだね」「どの言葉かしら?」とやんわりと尋ねる。Aは、彼に言い合うエネルギーが足りずに、彼を追い込む結果が見えるので、望ましくないです。Bは、責めているかどうかは置いといて、彼の気持ちを受け止めています。人の気持ちとして、弱っている時は責められていると感じやすくなることをまず理解することが大切です。癒し美人が考えることは、「彼が弱っている時に、自分は彼に何をして何をしないか」ということです。そのためには彼(もっと言えば男性)はどうすれば安らぐかを徹底的に知っておく必要があります。なぜ癒し美人はモテるのか?そもそも男性は、癒し美人を本能的に選ぶ傾向があります。これも先ほどの心の進化(進化心理学)から考えてみましょう。原始の時代、女性(母親)は子育てをする役割がありました。その役割を全うする女性、つまり良いお母さんになる女性を男性はより選びました。その子孫が現在の男性たちです。つまり、男性は、子ども=弱者=弱っている時(退行)の自分に優しくしてくれる女性を魅力的に感じる好み(嗜好性)が進化しているということです(性選択)。そして、その目安(形質)が癒しなのです。言い換えれば、男性は、弱った時には女性に癒されたいということです。その癒しが存分に発揮される職業は何でしょうか? それは保母さん(保育士)です。保母さんは、子育てのプロです。保母さんの幼児への眼差しは、慈愛に満ちています。男性にモテる女性の職業として、保育士も常に上位にあるのも納得がいきます。もっと言えば、「スナックのママ」や「ホステス」になぜ男性たちが通い詰めるのかも納得がいきます。彼女たちは、男性たちの愚痴や自慢話をよく聞きます。面倒臭いと思っても顔には出しません。彼女たちは、擬似的な「お母さん」なのでしょう。つまり、世の多くの男性たちは「お母さん」というどんな時でもどんな自分でも受け入れてくれる絶対的な味方(安全基地)を求めてしまうということです。癒し美人すぎると? ―表3それでは、癒し美人であればあるほど良いのでしょうか? 癒し美人だけであれば良いのでしょうか? そうともいえないです。癒しの心理(能力)は、安心感や安全感をもたらしてくれる反面、そればかりだと刺激がなく退屈になってしまいます。例えば、先ほどのクイズQ2のBの「ガンダム好きなんだね」とほほ笑む、Q3のCの「何歳でしょうねえ」とほほ笑む、Q5のBの常にニコニコしてうなずくだけに徹するなどは、癒し美人ではありますが、その状況では正解ではないです。表3 癒し美人の二面性マイナス面プラス面刺激がない退屈安心感安全感女性の対人魅力とは? ―バランスとギアチェンジこれまで、恋人や妻としての女性の魅力(対人魅力)の要素が、気配り美人、甘え美人、癒し美人であることを明らかにしてきました。それぞれの美人は、脳内の3つの代表的な神経伝達物質に重なります。気配りは強さであるノルアドレナリン、甘えは楽しさであるドパミン、そして癒しは優しさであるセロトニンです。これらの心理(神経伝達物質)がバランス良く、そしてタイミング良く発揮されていることが心の健康として、そして対人魅力として望ましいといえます。つまり、ここで大事なことが2つ分かります。1つは、どの美人を高めるかだけでなく、どの美人が足りないかを知ることです。つまり、どの美人でもあるバランスです。そしてもう1つは、自分がどの美人になりたいかではなく、その時の彼(相手)がどの美人になってほしいかを見極める賢さを持つことです。つまり、どの美人にもなるギアチェンジです。職場に生かす対人魅力とは? ―表4さらには、職場の上司や部下としての女性の人間的な魅力も、3つの美人のバランスとギアチェンジからヒントが得られます。例えば女性の上司の場合、勤務時間中はテキパキと仕事をこなし、部下たちに仕事を回す一方(気配り美人)、休み時間は部下と打ち解けてふざけたり、時には部下にあえて相談事を持ち掛けます(甘え美人)。特に男性の部下は頼られていると思うと仕事へのモチベーションが高まります。そして、部下が仕事で疲れ切っている時は必ずねぎらいます(癒し美人)。また、部下にダメ出しをする時は、自分のタイミングではなく、部下が受け入れられるタイミングを見計らいます。これは、さきほどのQ9の恋人関係にも通じるもので、人は疲れている時や弱っている時はひがみっぽくなり、指示や忠告を素直に受け入れにくい心理があるからです。つまり、弱っている時のダメ出しは、効果があまり期待できないどころか逆効果になる可能性を理解していることです。このように、女性の対人魅力をより良く知ることは、女性の人間的な魅力を発揮することにもつながります。さらには、女性だけでなく、男性もその心理を知ることで、お互いのより良いコミュニケーションにつながっていくのではないでしょうか?表4 職場に生かす3つの美人 例気配り美人勤務時間中はテキパキと仕事を回す甘え美人休み時間は部下と打ち解けてふざける時には部下にあえて相談事を持ち掛ける癒し美人部下が仕事の疲れ切っている時は必ずねぎらう部下にダメ出しをする時は、自分のタイミングではなく、部下が受け入れられるタイミングを見計らう1)ジャレド・ダイアモンド:人間の性はなぜ奇妙に進化したのか?、草思社、20132)井村裕夫:進化医学、羊土社、20133)山岸俊男監修:社会心理学、新星出版社、2011

929.

認知症治療、薬物療法にどの程度期待してよいのか

 認知症は治癒が望めない疾患であり、治癒または回復に向かわせる治療法は存在しない。現在の治療は、認知または機能的アウトカムの改善を目的としたものである。米国・ブラウン大学のJacob S. Buckley氏らは、認知症および軽度認知障害(MCI)の治療に関する研究をレビューし、治療のベネフィットとリスクを評価した。その結果、コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)によるベネフィットは小さく、経過とともに効果が減弱すること、用量依存的に有害事象が増加すること、またメマンチン単剤療法はベネフィット、リスクともに小さいことが明らかになったと報告した。Drugs & Aging誌オンライン版2015年5月5日号の掲載報告。 研究グループは、認知症に対する薬理学的治療の基礎をレビューし、認知症治療のベネフィットとリスクについてまとめた。2014年11月における、認知症およびMCIの治療に関する英語で記載された試験および観察研究について、MEDLINEを用いて系統的に文献検索を行った。その他の参考文献は関連する出版物のビブリオグラフィーの検索により特定した。可能な限り、メタ解析あるいはシステマティックレビューによる併合データを入手した。レビューの対象は、認知症またはMCIを対象とした無作為化試験または観察研究で、治療に伴う有効性アウトカムまたは有害アウトカムを評価している試験とした。FDAの承認を受けていない治療について評価している試験、認知症およびMCI以外の障害に対する治療を評価している試験は除外した。 主な結果は以下のとおり。・文献検索により540件の試験がレビュー対象の候補となり、そのうち257件がシステマティックレビューに組み込まれた。・試験の併合データにより、軽度から中等度のアルツハイマー病とレビー小体型認知症において、ChEIは認知、機能、および全般的ベネフィットをやや改善することが示された。ただし、これらの効果における臨床的意義は明らかでない。・血管性認知症に対する、有意なベネフィットは認められていないことが判明した。・ChEIは、治療開始1年後に有効性のベネフィットが最小となり、経過に伴い減弱すると思われた。・進行例あるいは85歳以上の患者にベネフィットを示したエビデンスはなかった。・有害事象は、ChEIの使用により用量依存的に有意に増加した。コリン作動性刺激に関連して消化器系、神経系および心血管系の副作用に対するリスクは2~5倍となり、重大な副作用として体重減少、衰弱、失神などが認められた。・85歳を超えた患者の有害事象リスクは若年患者の2倍であった。・メマンチン単剤療法は、中等度から重度のアルツハイマー病および血管性認知症の認知機能に何らかのベネフィットをもたらす可能性があった。しかし、そのベネフィットは小さく、数ヵ月の経過において減弱する可能性があった。・メマンチンは、軽度認知症あるいはレビー小体型認知症において、またChElへの追加治療として、有意なベネフィットは示されていなかった。・少なくとも管理下にある試験という状況において、メマンチンの副作用プロファイルは比較的良好であった。 結果を踏まえ、著者らは「ChEIは軽度から中等度の認知症に対し、短期的に、わずかな認知機能の改善をもたらすが、これは臨床的に意味のある効果とはいえない。重症例、長期治療患者、高齢者においては、わずかなベネフィットしか認められない。体重減少、衰弱、失神などのコリン作動性の副作用は臨床的に重要であり、とくに虚弱な高齢患者において弊害をもたらし、治療によるリスクがベネフィットを上回る結果となっている。メマンチン単剤療法の中等度~重度認知症に対するベネフィットは最低限であった。有害事象も同程度に小さいと考えられた」とまとめている。関連医療ニュース アルツハイマー病の早期ステージに対し、抗Aβ治療は支持されるか 抗認知症薬の神経新生促進メカニズムに迫る:大阪大学 抗認知症薬4剤のメタ解析結果:AChE阻害薬は、重症認知症に対し有用か  担当者へのご意見箱はこちら

930.

敏腕シェフと医師がコラボ “ホルモンバランス快膳”とは?

2015年4月23日、東京・ホテルニューオータニで開催された第88回日本内分泌学会学術総会にて、美味しいのに体にいい、“ホルモンバランス快膳”というお弁当が紹介された。体にいいお弁当とはどのようなものなのか、またホルモンバランス改善のためにどのような工夫がされているのか、紹介していく。“ホルモンバランス快膳” ──その内容とは今回発表された“ホルモンバランス快膳”は全4種類。これらは医学的観点からみた食事メニュー開発の第一人者、東京ミッドタウンメディカルセンター(東京都港区)の渡邉 美和子氏らによって開発された。「美味しいのに体に良い」をコンセプトに4人の敏腕シェフの協力によって実現した。人形町今半 横田昌之師範流 すきやき版 & しゃぶしゃぶ版懐石青山 田中敏和 料理長流ホテルニューオータニ西口章二 西洋料理料理長流ケアリングフード EPICURE 藤春幸治 オーナーシェフ流会場でお弁当を食した参加者からは、カロリーや塩分・糖分が制限されていると感じさせない味の良さと、食べごたえだったという声が相次いだ。この満足感はどのようにして実現されたのだろうか。「美味しく食べて健康になれる」ための工夫“ホルモンバランス快膳”は、次の3つの観点から開発された。1)「低糖質・良質脂質」例)砂糖の代わりにみりんや黒酢を使う。お米は雑穀米を取り入れる。油はω3脂肪酸を含む植物由来エゴマ油を使用。2)「腸内環境改善」例)食物繊維を多く含む野菜・きのこ・海藻を添える。3)「旨みで減塩」例)こだわりの“だし”や野菜の旨みをギュッと詰めたブイヨンを塩代わりに使用。この3つをポイントとして栄養バランスの良いメニューに仕上がっている。バランスの良い食事はホルモンバランスを整える基本である。また雑穀米を用いて噛む回数を増やす工夫もあり、何度も噛むことでホルモン分泌が活発になる。ホルモンの働きは、呼吸、循環、消化吸収、免疫、代謝など、体の機能がスムーズに働くための潤滑油となる。ホルモンのバランスを整える食事は、全身の健康にアプローチする食事といえるだろう。お弁当の盛りつけ方は、食べ始めてから急に血糖値が上がらないよう、一般的に多い右利きの人が手を付けやすい右下側から反時計回りに食べれば良い料理配置にするなど、お弁当ならではの工夫もあった。「症状なし期にちょっとした工夫」を意識することが大切「世の中にはどうしても予防できない悲しい病気がたくさんある。だからこそ予防できる病気は予防すべきだ」と渡邉氏は指摘する。患者さんの中には病にかかっていても、症状がないと病気を治療しようと思わず「そんなに長生きしたくない、太く短く、ぴんぴんコロリでいい」と考えてしまう患者もいる。しかし、多くの人がこの「ぴんぴんコロリ」を誤って解釈している。糖尿病は症状を感じない時期に何もせず悪化させると、重度の腎障害を発症し、透析が必要となる。また、糖尿病の方は認知症のリスクが高まるといわれている。高血圧も放置して悪化すると脳卒中を起こし、寝たきりになるリスクが高まる。このように、合併症で体が不自由になるまで何もせず放置しておくと、好きなものを食べたり飲んだりすることも、自由に外出することも制限され、苦しい治療だけが続くことになるだろう。つまり「ぴんぴんコロリ」どころか「ぴんボケダラリ」の生活が待っているのだ。一方、症状を感じない時期から健康に気を付けちょっとした工夫をすれば、元気老人となり、苦しい治療で毎日の生活が不自由になることもなく、楽しい老後の後、しかるべき時に亡くなる……、という本来の意味での「ぴんぴんコロリ」も可能となるだろう。たとえば運動をする、お酒・タバコを減らす……そして食生活も同様だ。今回の“ホルモンバランス快膳”で実践したような塩分・糖質・脂質を減らす調理法、食材の選び方など、健康のための簡単な方法を知るだけで将来の病気を予防することが可能になる。渡邉氏は「こうした健康につながるちょっとした工夫の知識を広めていきたい」と強く語った。今回の“ホルモンバランス快膳”は東京ミッドタウンメディカルセンターにおける「安心でおいしい食の医療プロジェクト」の一環で行われた。現在このプロジェクトでは、「食べたほうが体に良いお菓子」を和菓子やバームクーヘンで有名な菓子舗「たねや」と開発中である。渡邉氏による“行動変容を促す食生活習慣指導”の豊富なアイデアに、今後も注目だ。

931.

うつ病と双極性障害を見分けるポイントは

 大うつ病性障害(MDD)と双極性障害(BP)の鑑別は、患者の予後や治療において重要な意味を持っている。これまでの研究で、これら2つの疾患で異なる臨床的特徴が同定されているが、不均一性および再現性の欠如により限定的であった。米国・ジョンズホプキンス大学のA K Leonpacher氏らは、再現性を持つ大規模サンプルを用い、MDDとBPを鑑別するために、うつ関連の特徴の特定を試みた。Psychological medicine誌オンライン版2015年4月8日号の報告。 研究グループは、MDDおよびBPを有する患者データを適宜、収集・確認するために大規模なデータを用い、1,228例(BP-I:386例、BP-II:158例、MDD:684例)の被験者からなる初期開示データセットから、診断カテゴリー間で試験するためのうつ関連の臨床的特徴を34件選択した。ROC分析により、BPに関連付けられる有意な特徴を1,000例のBP-Iケースと1,000例のMDDケースの独立したサンプルを用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・MDDと比較して、BP-Iとの有意な相関が認められたのは以下の7つの特徴であった。 ■妄想 ■精神運動遅滞 ■無能力 ■混合症状の多さ ■エピソード数の多さ ■エピソード期間の短さ ■うつ病治療後の躁経験歴・これら7つの要因を含むモデルのROC解析では、独立したデータセットにおいて、BP-IとMDDを識別する有意なエビデンスが示された(曲線下面積:0.83)。・混合症状数と抗うつ薬投与後の躁気分の2つの特徴のみにおいて、MDDに対しBP-IIとの関連が認められた。・これらの要素は、新たな診断バイオマーカーの評価におけるベースラインの項目として組み込まれるべきである。関連医療ニュース うつ病から双極性障害へ転換するリスク因子は 双極性障害の症状把握へ、初の質問票が登場 双極性障害ラピッドサイクラーの特徴は  担当者へのご意見箱はこちら

932.

天馬PEGASUSは空を駆けるか?心筋梗塞後長期の抗血小板療法の意味と価値:PEGASUS-TIMI 54試験(解説:後藤 信哉 氏)-340

 1980年代に循環器内科に進んだわれわれ世代の循環器内科医にとって、「心筋梗塞は死に至る病」であった。実際、再灌流療法も、抗血栓療法も標準化していない当時の心筋梗塞は院内死亡率も10%を超えていた。日本以上に冠動脈疾患の有病率の高い欧米では、「心筋梗塞」が日本の「がん」並みに恐ろしい病気と理解されたことは容易に想像できる。1970~80年代には心筋梗塞の原因が「冠動脈血栓」であるとの知識も普及していなかった。筆者ら、血栓症の専門家がAHA、ACCなどの欧米のmajorな学会では1990年代になってもマイノリティーであった。 循環器内科医一般に血栓症と抗血栓療法の知識が乏しかったため、心筋梗塞、ステント血栓症などの冠動脈イベントが「血栓症」とわかった後は、メーカーの強烈な宣伝に抗うすべもなく、抗血栓薬は循環器内科領域の標準治療として急速に普及した。多くの循環器内科医は、アスピリン、クロピドグレルの薬効メカニズムは理解していないが、使用の経験は蓄積されている状態にある。実際、アスピリンは抗血小板薬と言い切れない部分もある各種細胞のシクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害薬であるが、薬効メカニズムの詳細は筆者にもよくわからない。 クロピドグレルも臨床試験の結果に基づいて1997年に米国で承認された。「心筋梗塞が怖い」欧米人は、「冠動脈血栓予防」のためにクロピドグレルも大量使用した。クロピドグレルの薬効標的P2Y12がクローニングされたのは2001年である。われわれは、抗血小板薬は薬効メカニズムもわからないままに使用していたのだ。これが1990年代の医療の実態であった。P2Y12クローニング後、この標的に対する選択的阻害薬が開発された(日本のプラスグレルはクロピドグレルの類似薬として開発された)。その成功例がチカグレロルである。P2Y12 ADP受容体はADPに特異的な受容体であるが、構造上ADPはATPに近い。チカグレロルの構造もATPに近い。低分子の非可逆的受容体阻害薬である。 薬効もわからないクロピドグレルの急性冠症候群の試験が成功したので、薬効を理解したチカグレロルはクロピドグレルに対する優越性を示すPLATO試験に挑戦した。試験の内部には不均一性があり、日本と東アジアにて施行されたPHILO試験もPLATO試験と同様の傾向ではないので、PLATO試験の全体としての成功は「運の良さ」の寄与が大きい。それでもPLATO試験では死亡率低減効果を示したので、欧州では急性冠症候群に対する標準治療になろうとしている。 さて、チカグレロルが天馬の如く世界を駆けるか否かを規定するのは、急性冠症候群以外の慢性期の疾病適応を取得できるか否かにかかっている。クロピドグレルは、「冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患」という広い適応をCAPRIE試験により取得した。国際共同試験に「脳血管疾患」を入れると、画像診断の普及していない諸国にて脳梗塞と脳出血の弁別ができず、脳出血の増加により試験が失敗するリスクがある。 PEGASUS試験を実施したTIMI groupは、クロピドグレルの類似薬プラスグレル、トロンビン受容体vorapaxarの開発試験のデータベースを保有しているので、「脳血管疾患」の危険性を十分に理解していた。クロピドグレルのように「冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患」という広い適応が取れなくても、「心筋梗塞後慢性期の血栓イベント抑制」の適応を取得できれば、冠動脈疾患は急性期から慢性期までチカグレロルを天馬として羽ばたかせることができる。その意味でPEGASUS試験はきわめて重要であり、医師、企業関係者、投資家などの注目を集めた。 Gene Braunwald氏率いるTIMI groupは、「臨床の科学」にも妥協のない科学者グループである。PLATO試験ではチカグレロル群において出血が多い傾向を認めたことから、発症後1~3年の心筋梗塞では出血リスクが血栓リスク低減効果を超えることを危惧した。急性期に用いた90mg1日2回に加えて、60mg1日2回のチカグレロルのアームを作った。低用量のアームがあったことで、安全性重視のわが国の参加もPLATO試験よりは容易になった。実際、PLATO試験には本邦は参加しなかったが、PEGASUS試験には参加した。 「臨床の科学」の質を上げるためには、ランダム化した症例の追跡の徹底化を図る必要がある。実際、追加リスクがあるとはいっても、心筋梗塞後1~3年後の症例の心血管イベントリスクは、アスピリン単剤でも年率3%程度にすぎない(9.04%/3年)。60mg、90mgのチカグレロル服用により、年率2.6%程度(7.77%/3年:60mg、7.85%/3年:90mg)に低下したとはいっても、これだけの軽微な差異を統計学的に検出するためには、数例の追跡不能すら許されないのだ。心血管領域では、標準治療の進歩により「現在の標準治療」下における心血管イベントリスクが低い。1980年代に「怖い病気」であった心筋梗塞の「怖さ」は21世紀になって激減した。わずかな差異を科学的に占めるためには大量の症例を登録し、徹底的に追跡する必要がある。有効性を示したことでチカグレロルは天馬になるかもしれないが、関係者が尽くした努力は計りしれない。 抗血小板薬なので、出血リスクが増えることは予測の範囲である。「科学的に質の高い」試験であるため、出血イベントも精緻に計測した。われわれは、2次予防におけるアスピリン服用時の重篤な出血イベント発症率を、年率0.2~0.5%程度と理解して、患者からインフォームド・コンセントを取得していた。PEGASUS試験はわれわれの想定が現在も大きく違っていないことを裏付けた。アスピリン群の重篤な出血イベント発症率は1.06%/3年(年間0.3%程度)であった。60mg1日2回、90mg1日2回のチカグレロルを追加すると、重篤な出血イベント発症率は2.30%/3年、2.60%/3年と2倍以上に増加した。プラセボとの比較において、アスピリン服用者の頭蓋内出血が約1.6倍に増加していた過去の事実に比較すると、頭蓋内出血、致死性出血が増えていないことに関係者は胸をなでおろしたであろう。 アスピリン使用時には「この薬を飲むと1,000人のうち、2~5人くらいが重篤な出血を起こすけど、将来の心筋梗塞を25%減らせる。どうしようか?」との患者さんとのICのプロセスが、「アスピリンにチカグレロルを追加すると、1,000人のうち、5人に重篤な出血が起こるけど心筋梗塞や心血管死亡、脳卒中は15%くらい減る。どうしようか?」となる。重篤な出血に頭蓋内出血、致死的出血が含まれないことは朗報であるが、このような説明によって、どの程度の患者さんが長期のチカグレロルの服用を希望するかを予測することは難しい。ATPに似たチカグレロルでは徐脈、呼吸困難感などの自覚的、他覚的副作用の増加も実臨床では問題になる。認可承認後に爆発的に売り上げを伸ばしたクロピドグレルは、CAPRIE試験ではほんのわずかにアスピリンに勝る優越性を示したのみであった。筆者ら血小板研究の専門家は、クロピドグレルの爆発的売り上げを予測できなかった。抗血小板薬に比較すれば、はるかに重篤な出血イベントリスクの多い新規経口抗トロンビン薬、抗Xa薬が予防介入において広く使用されているのも、ランダム化比較試験を主導した研究者としての筆者の予測を超えた。チカグレロルがクロピドグレル並みの天馬となれば、わずかの差異のランダム化比較試験の結果が世界の医療界に影響を与える「てこ」のメカニズムを理解したいものである。

933.

「エドキサバンは日本の薬なのに…」2~エドキサバン減量と出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)-337

 EBM(Evidence Based Medicine)を基本原理とする現在の医療において、臨床データベースの保有には圧倒的な意味がある。エドキサバンは日本企業が開発した薬剤である。日本企業には抗トロンビン薬があるがトロンビンの時代から、選択的凝固因子阻害薬の開発力は外資企業に先行していた。残念ながら、分子としての抗Xa薬を介入したときの個人の反応は予測不可能な程度にしか、現在の医学は成熟していない。結果として、エドキサバン介入時の臨床データベースを持っているものが強い。 第一三共の開発したエドキサバンであるが、非弁膜症性心房細動におけるワルファリンとの比較試験「ENGAGE AF-TIMI 48」は、ハーバード大学のTIMI groupをスポンサーとして施行された。膨大なデータベースからは、多くの科学的事実が公表される。本論文も重要なサブ解析の1つである。日本企業が開発した薬剤を用いた試験の重要なサブ解析であるが、残念ながら日本人は著者として参加していない。 ENGAGE AF-TIMI 48試験のプロトコルは単純ではなかった。ワルファリンと2用量のエドキサバンの有効性、安全性の検証を目指した部分のみでも、十分に複雑であった。さらに、本試験では来院時にクレアチニン・クリアランスが30~50mL/分の人、体重が60kg以下の人、または、P糖タンパク質の相互作用のある併用薬を服用したときには、エドキサバン投与量を半減した。試験の最初のみでなく、中途でも減量する基準を設けることにより、抗Xa効果の標準化を目指した。試験の規模が大きいので、プロトコルに規定された30、60mgの標準投与量から減量した5,356例と、減量しなかった1万5,749例の比較が可能であった。抗Xa活性のトラフ値を6,780例にて把握できたことも、科学的試験として、多くの情報をわれわれに与えることができる試験であったといえる。 ランダム化比較試験では、基本的に1つの臨床的仮説の検証のみが可能である。ENGAGE AF-TIMI 48試験では、二重盲検二重ダミー試験として、実臨床に近い0.5mg刻みのワルファリンのコントロールを行った。PT-INR 2.0~3.0を仮の「標準治療」とすることも徹底していた。TTRもきわめて高い。質の高いワルファリン治療下では、血栓イベントも出血イベントも起こりにくい。仮説検証試験としてはエドキサバンの優越性は示せなかった。 50年使用してきたワルファリンに「PT-INR 2.0~3.0」という枠をはめても、ワルファリンが優れた薬剤であることを示したのがENGAGE AF-TIMI 48試験であった。それでも、臨床的特徴に基づいて減量することにより、エドキサバン群の出血イベントリスクを示すことができたので、減量好きな日本の臨床家にはありがたい研究結果であったといえる。 筆者は本試験のDSMB(Data and Safety Monitoring Board)であったので、筆者には資格がないが、本試験に症例を登録した研究者であれば、ぜひ、本研究のような日本の臨床家に役立つサブ解析を主導したいと思った。主導するのがTIMI groupであることを受け入れるとしても、日本人研究者の1人として共著者になり、論文作成段階から寄与したかった魅力的研究である。

934.

Vol. 3 No. 3 大動脈弁狭窄症患者の特徴

有田 武史 氏九州大学病院ハートセンター内科はじめに大動脈弁狭窄症(AS)患者が増えている。大動脈弁狭窄はリウマチ性のものと加齢変性によるものの2つの原因によるものがほとんどである。リウマチ性弁膜症の新規発症症例は激減しており、大部分は加齢変性によるものである。加えて近年の診断技術の評価、ならびに診断基準の変化(進化)が新規ASの診断数を増やしている。本稿では近年の日本におけるAS患者の特徴につき概説を行う。AS患者の背景ASは加齢とともに増加し、平均年齢は明らかに他の弁膜症よりも高齢である。75歳以上の患者9,723人をメタ解析した報告によれば、75歳以上の3.4%に重症ASが認められた1)。また解析数は少ないが、日本からの報告では、重症ASの平均年齢は78.4歳であり、85 歳以上が10%に認められた2)。大動脈弁閉鎖不全や僧房弁閉鎖不全は弁尖の逸脱や弁尖変性などが原因のほとんどであるのに対して、加齢変性によるASは弁の基部から石灰化を中心とした弁変性が進行し弁全体の硬化につながるのが特徴的である。弁交連部が癒合しあたかも二尖弁のように見えることもあるが、基本的には先天性二尖弁のrapheと異なり交連癒合そのものはそれほど強くない。弁の硬化のメカニズムについては、従来より骨代謝の観点、動脈硬化の観点、炎症の観点などから研究されてきた。確かに大動脈弁の大動脈側は血管内皮に被覆されており、高齢者に多く認められる病態であることから、大動脈弁狭窄は動脈硬化または血行動態的に負荷を受け続けた“なれの果て”のようにいわれることもある。しかしながら近年の報告では、大動脈弁硬化症から狭窄症への進展には石灰化と骨化のメカニズムが深く関与しており、能動的な炎症のプロセスが関与していることがわかってきている3)。骨粗鬆症、大動脈弁狭窄、動脈硬化は、脂肪沈着をはじめ多くの共通のプロセスをもつ(本誌p.9図1を参照)4)。しかしながら、動脈硬化を進展抑制または退行させることが証明されているスタチン製剤やアンギオテンシン阻害薬は、大動脈弁狭窄の進行を抑制することはできなかったことがいくつかの研究より明らかになっている。同様に、骨粗鬆症の薬もASの進行を抑制するまでには至らなかった。近年、骨化のメカニズムに炎症が関与しているとの研究が多くなされ、抗炎症薬(例えば低用量メトトレキサート)のASの進行抑制に対する効果を検証する研究も行われている5)。透析患者においてASは高率に認められる。透析患者においては副甲状腺機能亢進症を続発的に認めることが多く、カルシウムおよびリンの代謝の変調が弁硬化/弁狭窄をもたらすことは容易に理解できる。しかしながら、続発性副甲状腺機能亢進症の治療薬で透析患者におけるASの進展を抑制したというエビデンスはない。このように硬化性ASの病態は炎症・動脈硬化・石灰化・骨化のメカニズムが複合的に関与している。単純に“動脈硬化のなれの果て”ではないことをよく理解し、診療にあたることが肝要である。心エコーによる診断ASの診断は、いまではもっぱらドプラーエコーを用いた連続の式により弁口面積ならびに弁前後の圧較差を求めることで診断する。面積では弁口面積1.0cm2以下または体表面積補正弁口面積0.6cm/m2以下を重症とし、圧較差では平均圧較差で40mmHg以上を重症とする。重症度という意味ではこの二変数のみで評価することは可能であるが、弁の形態・機能、左室の形態・機能という観点からはいくらかの多様性がある。1. 弁硬化のパターン通常、硬化性ASの大動脈弁の病変は交連部ではなく弁尖の基部または底部から始まる。NCCには冠動脈開口部がなく、そのためNCCにはよりずり応力がかかることから石灰化が進みやすいとされる4)。一般的にはリウマチ性ASでは交連部癒着が高度であり、硬化性ASでは交連部は変性がみられるのみで癒合に乏しい(本誌p.10図2を参照)6)。後天性二尖弁と俗に呼ばれる交連部が癒着した三尖大動脈弁狭窄も散見されるが、rapheの高さによって先天性二尖弁とは区別される(先天性は弁尖縁の高さよりもrapheが低い)7)。後天性二尖弁の原因は以前はリウマチ性が多いとされてきたが、硬化性ASにおいても可動性がほとんどないために癒合しているように見えるものもあり注意が必要である。2. 左室の形態・機能大動脈弁位で圧較差があるため、左室にとっての後負荷は甚大なものとなり、通常左室は求心性左室肥大を呈することが多い。しかしながらMRIを用いたDweckらの報告によれば、ASを有する左室では左室肥大を呈さないまま左室内腔の狭小化した、いわゆる求心性リモデリングした左室もしばしば認められる。Dweckらによれば、左室肥大の程度は大動脈弁弁口面積とは関係なく、求心性肥大のほかにも正常形態(12%)、求心性リモデリング(12%)、非代償化(11%)などが認められたという(本誌p.11図3を参照)8)。重症ASでなぜ左室肥大が起こらないのか、機序についてはまだ確立したものはないが、左室重量は大動脈弁狭窄の重症度とは関係がなく、むしろ性別や高血圧の程度、その他の弁機能異常などと関係が強く、また症状との関係が強いことが他の研究でも示唆されている。正常の重症ASに関しては、左室重量が治療法選択の面でも注意が必要である。low gradient ASはASなのか?Doppler法による弁口面積測定が一般的になるにつれ面積としては十分に狭いが圧較差がそれほどでもないという症例をしばしば経験するようになった。近年では重症AS(AVAi<0.6cm2/m2)をflowとpressure gradientの2変数によって4群に分けることで層別化を図ろうとする考えがある。Lance-llottiらは、無症候性重症ASを4群に分けてフォローし、low flow, low gradient ASが最も予後が悪く、次にいずれかのhigh gradient ASがつづき、normal flow, low gradient ASは比較的予後がよいという報告を行った(本誌p.12 図4を参照)9)。Flowはvelocity x areaであり、gradientとvelocityは二乗比例の関係にある。よってflowとgradientが乖離するような症例はareaが小さい、すなわち左室流出路が小さい症例ということになる。おそらくはそのような症例はS字状中隔の症例が多く、体格が小さく、弁輪部の石灰化も高度で測定の誤差もあるのかもしれないが、現象論としてnormal flow, low gradientのASは全例が予後不良ではないかもしれない、という認識をもつことが重要である。超高齢者のASの問題点:Frailtyの評価と老年医学的評価の重要性近年、TAVIを治療法の1つとして日常的に検討するようになり、超高齢者(85歳以上)を診察治療することが多くなってきた。上述のように弁口面積や左室機能形態を評価することはもちろん重要であるが高齢者はさまざまな身体的問題を抱えているのが普通である。認知機能障害、ふらつき、運動機能障害、栄養障害など、それらを総称して老年症候群と呼ぶが、老年症候群の1つとしてfrailty(虚弱、フレイル)が年齢とは独立した予後規定因子として近年広く認識されるようになった。Frailtyの特徴は(1)力が弱くなること、(2)倦怠感や日常動作がおっくうになること、(3)活動性が低下すること、(4)歩くのが遅くなること、(5)体重が減少すること、の5つに集約され、このうち3つ以上該当すればfrailtyありと考える10)。日本の介護保険制度との関連で考えると、frailtyありの状態(“フレイルの状態”)は要介護の前段階であり、この兆候を早期に診断し、介入することは極めて重要であると思われる。残念ながら、多くの病院勤務循環器内科医は専門医に過ぎず、治療適応外と判断された多くの高齢者に対して、人生の終わりまで寄り添うような診療はできていないのが実情であると思われる。または、外科手術の適応と判断したときから心臓外科にすべてを委ねてはいなかったか。今後TAVIが日常的な医療行為になるにつれ、循環器病棟は高齢者で溢れてくることが容易に予想される。平均寿命を優に超えてしまった患者に対して行う医療は、何を目的とすべきだろうか。予後の改善であろうか、QOLの改善であろうか。大動脈弁狭窄を解除することだけが治療の目的でないことは明白である。TAVIを施行するにあたっては、弁の状態、心血管機能の評価、他臓器の評価、老年医学的全身評価の4段階にわたる評価が重要である。そのうえで、TAVIの目的をどこに置くかということに関しては個々の症例により判断が異なるため、多職種から構成されるハートチームでの議論が必要不可欠である。文献1)Osnabrugge RL et al. Aortic stenosis in the elderly: disease prevalence and number of candidates for transcatheter aortic valve replacement: a meta-analysis and modeling study. J Am Coll Cardiol 2013; 62: 1002-1012.2)Ohno M et al. Current state of symptomatic aortic valve stenosis in the Japanese elderly. Circ J 2011; 75: 2474-2481.3)Lindman BR et al. Current management of calcific aortic stenosis. Circ Res 2013; 113: 223-237.4)Dweck MR et al. Calcific aortic stenosis: a disease of the valve and the myocardium. J Am Coll Cardiol 2012; 60: 1854-1863.5)Everett BM et al. Rationale and design of the Cardiovascular Inflammation Reduction Trial: a test of the inflammatory hypothesis of atherothrombosis. Am Heart J 2013; 166: 199-207 e15.6)Baumgartner H et al. Echocardiographic assessment of valve stenosis: EAE/ASE recommendations for clinical practice. J Am Soc Echocardiogr 2009; 22: 1-23; quiz 101-102.7)Cardella JF et al. Association of the acquired bicuspid aortic valve with rheumatic disease of atrioventricular valves. Am J Cardiol 1989; 63: 876-877.8)Dweck MR et al. Left ventricular remodeling and hypertrophy in patients with aortic stenosis: insights from cardiovascular magnetic resonance. J Cardiovasc Magn Reson 2012; 14: 50.9)Lancellotti P et al. Clinical outcome in asymptomatic severe aortic stenosis: insights from the new proposed aortic stenosis grading classification. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 235-243.10)Fried LP et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001; 56: M146-156.

935.

PROMISE試験:冠動脈疾患に対する解剖的評価と機能評価検査の予後比較(解説:近森 大志郎 氏)-328

 安定した胸部症状を主訴とする患者に対する診断アプローチとして、まず非侵襲的検査によって冠動脈疾患を鑑別することが重要である。従来は運動負荷心電図が日常診療で用いられてきたが、その後、負荷心筋シンチグラフィ(SPECT)検査、負荷心エコー図検査が臨床に応用され、近年では冠動脈CT(CTCA)も広く実施されるようになっている。しかしながら、これらの検査の中でいずれを用いればよいか、という検査アプローチを実証する大規模臨床試験は実施されてはいなかった。 今回、San Diegoで開催された米国心臓病学会(ACC.15)のLate-Breaking Clinical Trialsの先頭を切って、上記に関するPROMISE試験が報告され、同時にNew England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された。なお、ACCで発表される大規模臨床試験の質の高さには定評があり、NEJM誌に掲載される比率では同じ循環器分野のAHA、ESCを凌いでいる。 Duke大学のPamela Douglas氏らは、従来の生理機能を評価する運動負荷心電図・負荷心筋SPECT・負荷心エコー図に対して、冠動脈の解剖学的評価法であるCTCAの有効性を比較するために、有症状で冠動脈疾患が疑われる10,003例を無作為に2群(CTCA群対機能評価群)に割り付けた。試験のエンドポイントは従来のほとんどの研究で用いられた冠動脈疾患の診断精度ではなく、全死亡・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・検査による重大合併症からなる、複合エンドポイントとしての心血管事故が設定されている。対象症例の平均年齢は61歳で、女性が52~53%と多く、高血圧65%、糖尿病21%、脂質異常症67%という冠危険因子の頻度であった。なお、症状として胸痛を訴えてはいるが、狭心症としては非典型的胸痛が78%と高率であることは銘記すべきであろう。 実際に機能評価群で実施された非侵襲的検査については、負荷心筋SPECT検査67.5%、負荷心エコー図22.4%、運動負荷心電図10.2%、と核医学検査の比率が高かった。また、負荷心電図以外での負荷方法については、薬剤負荷が29.4%と低率であった。そして、これらの検査法に基づいて冠動脈疾患が陽性と診断されたのは、CTCA群で10.7%、生理機能評価群では11.7%であった。3ヵ月以内に侵襲的心臓カテーテル検査が実施されたのはCTCA群で12.2%、生理機能検査群では8.1%であった。この中で、有意狭窄病変を認めなかったのはCTCA群で27.9%、生理機能検査群で52.5%であったため、全体からの比率では3.4%対4.3%となりCTCA群で偽陽性率が低いといえる(p=0.02)。なお、3ヵ月以内に冠血行再建術が実施されたのはCTCA群で6.2%と、生理機能検査群の3.2%よりも有意に高率であった(p<0.001)。 1次エンドポイントである予後に影響する内科的治療ついては、β遮断薬が25%の症例で使用されており、RAS系阻害薬・スタチン・アスピリンについても各々約45%の症例で投与されていた。そして、中央値25ヵ月の経過観察中の心血管事故発生率についてはCTCA群で3.3%、生理機能評価群では3.0%と有意差を認めなかった。 本研究は循環器疾患の治療法ではなく、冠動脈疾患に対する検査アプローチが予後に及ぼす影響から検査法の妥当性を評価するという、従来の臨床試験ではあまり用いられていない斬新な研究デザインを用いている。そして、1万例に及ぶ大規模な臨床試験データを収集することによって、日常臨床に直結する重要な結果を示したという意味で特筆に値する。 しかしながら、基本的にはnegative dataである研究結果の受け止め方については、同じDuke大学の研究チームでも異なっていた。ACCの発表に際してDouglas氏は、PROMISE試験の結果に基づき、狭心症が疑われる患者に対して、CTCAはクラスIの適応となるようにガイドラインが修正されるエビデンスであることを主張していた。これに対して、PROMISE試験の経済的評価を発表したDaniel Mark氏は、イギリスの伝説である「アーサー王物語」を引き合いに出して、CTCAは長年探し求めていたHoly Grail(聖杯)ではなかった、と落胆を隠さなかった。 循環器の臨床において、対象とする患者の冠動脈病変の情報があれば、最適な医療が実施できるという考え方は根強い。しかし、PROMISE試験が準備された時期には、狭心症の生理機能として重要な心筋虚血が、予後改善の指標として重要であることを実証したFAME試験が報告されている。その後、FAME 2試験においても同様の結果が報告されている。さらに、重症心筋虚血患者に対する介入治療の有無により予後の改善が実証されるか否かについて、ISCHEMIA試験という大規模試験が進行中である。今後はこれらの大規模試験の結果を評価することによって、冠動脈疾患の治療目標は「解剖か、虚血か」という議論に決着がつくかもしれない。それまでは、日常臨床において狭心症が疑われる患者に対しては、まず本試験の対象群の特徴を十分に把握したうえで、CTCAあるいは生理機能検査を実施する必要があると思われる。

936.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第18回

第18回:高齢者における意図しない体重減少へのアプローチ方法監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 高齢者の体重減少は、外来でよく出会う愁訴の1つです。まず真っ先に思い浮かぶのは悪性腫瘍ですが、それ以外にも考えるべき鑑別診断がいくつかあります。外来ではまず、食事摂取がどの程度できているかを、その方の社会的背景を踏まえて評価するかと思います。また、疾患を見つけた場合に治療が可能かどうかを想像しながら、検査の適応を判断しなければいけませんが、非常に個別性が高く、毎回悩ましい問題だと感じています。 以下、American Family Physician 2014年5月1日号1)より意図しない体重減少は高齢者の15~20%に起こり、ADLの低下、病院内での疾病罹患率の上昇、女性の大腿骨頚部骨折、全死亡率の上昇の原因となる。有意な体重減少とは、6~12ヵ月以内に5%以上の体重減少があった場合、などと定義されるが、このような意図しない体重減少に関する適切な評価や管理のためのガイドラインは、現在、存在していない。しかし、もし存在したとしても、このような非特異的な病態に対する適切な検査を決定するのは難しいだろう。体重は通常60歳代をピークとして、70歳代以降は毎年0.1~0.2kgずつ減少する。それ以上の減少であれば、年齢相応の体重減少とは言えない。最もよくある理由としては、悪性腫瘍、非悪性の胃腸疾患、うつや認知症といった精神疾患であるが、全体の割合としては、非悪性の疾患が悪性腫瘍を上回っている。また、6~28%は原因不明である。(表1) 【表1:意図しない高齢者の体重減少】 悪性腫瘍(19~36%) 原因不明(6~28%) 精神疾患(9~24%) 非悪性の胃腸疾患(9~19%) 内分泌(4~11%) 心肺疾患(9~10%) アルコール関連(8%) 感染症(4~8%) 神経疾患(7%) リウマチ関連(7%) 腎疾患(4%) 全身性炎症疾患(4%) 鑑別の記憶法としては、MEALS‐ON‐WHEELS[「食事宅配サービス」の意味、(注1)]あるいは高齢者の9D's(注2)として覚える。薬剤の副作用もよくある原因だが、しばしば見逃される。多剤服薬は味覚に干渉するとみられ、食思不振を生じ、体重減少の原因となりうる。さらには貧困、アルコール問題、孤立、財政的制約などといった、社会的な要素とも体重減少は関連している。Nutritional Health Checklist(表2)は栄養状態を簡単に評価するツールである。各項目に当てはまれば、質問の後ろにある得点を加算し、合計得点を算出する。0~2点は良好、3~5点は中等度のリスク、6点以上はハイリスクである。 【表2:Nutritional Health Checklist】 食事量が変わるような病状がある 2点 食事の回数が1日2回より少ない 3点 果物、野菜、乳製品の摂取が少ない 2点 ほとんど毎日3杯以上のビール、蒸留酒、ワインを飲んでいる 2点 食べるのが困難になるほどの歯や口腔の問題がある 2点 いつも必要なだけの食料を購入するお金がない 4点 ひとりで食事をする事が多い 1点 1日3種類以上の処方か市販薬を服用している 1点 過去6ヵ月で4.5kg以上の予期しない体重減少がある 2点 いつも買い物や料理、自力での食事摂取を身体的に行えない 2点 推奨される一般的な検査としては、CBC、肝・腎機能、電解質、甲状腺機能、CRP、血沈、血糖、LDH、脂質、蛋白・アルブミン、尿酸、尿検査がある。また、胸部レントゲン、便潜血検査は行うべきであり、腹部超音波も考慮されても良いかもしれない。これらの結果が正常だとしても、3~6ヵ月間の注意深い経過観察が必要である。治療には食事、栄養補助、薬物療法などがあるが、研究結果がさまざまであったり、副作用の問題があったりして、体重減少がある高齢者の死亡率を改善するような明確なエビデンスのある治療法は存在しない。(注1:MEALS‐ON‐WHEELS)M:Medication effects(薬剤性)E:Emotional problems, especially depression(気分障害、とくにうつ)A:Anorexia nervosa; Alcoholism(神経性食思不振症、アルコール依存症)L:Late-life paranoia(遅発性パラノイア)S:Swallowing disorders(嚥下の問題)O:Oral factors, such as poorly fitting dentures and caries(口腔内の要因、たとえば合っていない義歯、う歯など)N:No money(金銭的問題)W:Wandering and other dementia-related behaviors(徘徊、その他認知症関連行動)H:Hyperthyroidism, Hypothyroidism, Hyperparathyroidism, andHypoadrenalism(甲状腺機能亢進および低下、副甲状腺機能亢進、副腎機能低下)E:Enteric problems; Eating problems, such as inability to feed oneself(腸管の問題;摂食の問題、たとえば手助けなしに一人では食べられないなど)L:Low-salt and Low-cholesterol diet(低塩分、低コレステロール食)S:Stones; Social problems, Such as isolation and inability to obtain preferred foods(結石;社会的問題、たとえば孤独、好きな食べ物を手に入れられないなど)(注2:高齢者の9D's)Dementia(認知機能障害)Dentition(歯科領域の問題)Depression(抑うつ)Diarrhea(下痢)Disease [acute and chronic](急性・慢性疾患)Drugs(薬剤)Dysfunction [functional disability](機能障害)Dysgeusia(味覚異常)Dysphagia(嚥下困難)※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2014; 89: 718-722.

937.

ひと・身体をみる認知症医療

第1回 「これまで」「いま」「これから」の認知症医療 第2回 誰のため・何のための認知症医療か 第3回 地域の医師と認知症医療 (1)診療とモニタリング 第4回 地域の医師と認知症医療 (2)認知症医療と地域力 第5回 認知症の身体への影響(1) 自律神経機能の低下 第6回 認知症の身体への影響(2) 錐体外路症状 第7回 認知症の人にみられる一般症状 第8回 つくられるBPSD 第9回 認知症の薬物治療 真の認知症医療とは何か。明日から診療が楽しくなる実践の秘密。☞教科書に載っていないことを知りたい☞認知症の人の頼りになる診療がしたい☞認知症が身体に影響するってホント?☞身体をどのように診たらいいのかそうした声に全力で応えます。脳神経の変化を読み解く。ひと・暮らしを支える実感。――そんな、認知症医療の第一線で活躍する6人の医師が、地域で認知症医療を実践するうえで備えておきたい考え方と手法を解説します。監修:木之下 徹(こだまクリニック)第1回 「これまで」「いま」「これから」の認知症医療 これからの認知症医療。その羅針盤はどこに向いているのか――。3人の医師が語る歴史と未来。【高橋幸男先生】「あんた、なんちゅう医療しとるのか」目を開かされた、認知症の人のつぶやきとは。【山崎英樹先生】「デスメーキング」「専門家支配」といった切り口で語られる認知症医療。今後備えるべき専門性と意識とは。【本間昭先生】過去と今。認知症の人と家族の姿。QOLは果たして変化したのか?真に変わるべきものとは。第2回 誰のため・何のための認知症医療か 本編より――当初、僕は、認知症の方を前にして「困ってることはありませんか」と聞くようにしてたんです。大体認知症の方から返ってくる言葉は、「困ってることはありません」。なんで困ってることを喋ってくれないんだろうと、その時僕は思ってたわけです。それは、今思うと――“認知症医療を認知症の人に届ける”それを阻むものに神戸医師が鋭く切り込む。一方、認知症医療の秘めたる可能性を提示する。第3回 地域の医師と認知症医療 (1)診療とモニタリング 認知症の症状と思い込みがちな所見。実は、一歩踏み込んで診ることによって、治療すべき疾患が隠れていることも多い。ふだんからその人に関わっている地域の医師だからこそ可能な医療とは?着目のポイントと、具体的な手段を八森淳先生が解説する。【事例】アルツハイマー型認知症 一週間前から幻視・37.2℃の微熱 食事の量が減っていた→幻視と微熱にどんな関係が? 他2つの事例を紹介。第4回 地域の医師と認知症医療 (2)認知症医療と地域力 一人暮らしをしながら、公共交通機関を使って通院する朗らかな72歳の女性。しかし、その暮らしには生命の危機が迫っていた。――診察室からは見えにくい暮らしのありようを知り、「認知症と生きる人」を支えるために必要なものとは?問題解決だけではなく、これからも続く暮らしに伴走する認知症医療を八森淳先生が提示する。第5回 認知症の身体への影響(1) 自律神経機能の低下 日常診療の中でよく見かける、認知症による「身体への影響」。暮らしに大きく関わり、時に重大な事故に繋がるもののひとつに、自律神経機能の低下があります。今回は、最低限押さえておきたい5項目、「血圧の変動」「排尿障害」「便秘」「発汗減少と発汗過多」そして「高炭酸喚起応答障害」に的を絞り、織茂智之先生がずばり診療のポイントをお伝えします。第6回 認知症の身体への影響(2) 錐体外路症状 認知症による「身体への影響」のひとつである錐体外路症状は、ひとの暮らしを大きく左右する「動くこと」「食べること」に深く関係しています。暮らしを支える視点を軸に、日常診療でよく見かける錐体外路症状の基本的知識と治療のポイント、さらに認知症の人や家族へのアドバイスを神戸泰紀先生がお伝えします。第7回 認知症の人にみられる一般症状 知っているようで、まだまだ知られていない認知症の症状。医学が積み上げてきた認知症症候学と、認知症と生きる人の体験を併せて山崎医師が解説します。「誰でも体験すること」「認知症の人の体験」が多く紹介される本編は、診察室での対話を深めるのに役立つだけでなく、家族やケアに関わる人たちに「認知症を伝える」ヒントとなるでしょう。第8回 つくられるBPSD 「BPSD」は、認知症医療の一大テーマです。しかし、高橋医師は言います。「BPSDは、我々がつくるべくして、つくっている、というのが大きい」と。BPSDをどう捉え、どうアプローチすればよいのか。臨床でよく出会うケースを豊富に紹介しながら、解説する。第9回 認知症の薬物治療「抗認知症薬が効いた」「効かない」としばしば話題になりますが、その本当の意味をご存知でしょうか?本間医師がズバリ答えます。さらに、本間医師は問います。――認知症医療の目標はなんだと思いますか?「ひと・身体をみる認知症医療」ここに完結!

938.

糖尿病黄斑浮腫、VEGF阻害薬3剤を比較/NEJM

 糖尿病黄斑浮腫に対する、眼科用VEGF阻害薬のアフリベルセプト(商品名:アイリーア)、ベバシズマブ(アバスチン、日本では眼科用は未承認)、ラニビズマブ(ルセンティス)の有効性、安全性を比較する多施設共同無作為化試験が米国で行われた。Jaeb Center for Health ResearchのAdam R. Glassman氏ら研究グループ(Diabetic Retinopathy Clinical Research Network)が米国内89ヵ所の協力を得て行った同試験の結果、3剤ともに視力の改善効果は認められるが、相対的効果は治療開始時の視力に依存し、開始時の視力障害が軽度であれば改善効果は3剤間で明らかな差はないが、障害が重度の場合はアフリベルセプトの改善効果が有意に高かったことを報告した。NEJM誌オンライン版2015年2月18日号掲載の報告より。アフリベルセプト、ベバシズマブ、ラニビズマブの有効性、安全性を比較検討 試験は米国立衛生研究所(NIH)資金提供の下で行われた。89の医療機関で、糖尿病黄斑浮腫を有する患者660例(平均年齢61±10歳)を、アフリベルセプト2.0mg(224例、メディケア加入者の単回投与コスト1,950ドル)またはベバシズマブ1.25mg(218例、同50ドル)もしくはラニビズマブ0.3mg(218例、同1,200ドル)のいずれかの眼内注射治療を受ける群に無作為に割り付けて追跡した。試験薬は、プロトコル指定アルゴリズムに従い、4週ごとに投与された。 主要アウトカムは、1年時点の視力の変化で、視力letterスコア(範囲:0~100、高スコアほど良好な視力を示す、スコア85以上は約20/20[=日本で一般的な小数視力表記で1.0])で評価した。治療開始時の視力障害の程度により改善効果に差、安全性は同等 結果、ベースラインから1年時点までのスコア変化の平均値でみた視力の改善は、アフリベルセプト群で13.3、ベバシズマブ群で9.7、ラニビズマブ群は11.2であった。スコアの改善はアフリベルセプト群がその他2群よりも有意に大きかったが(対ベバシズマブ群のp<0.001、対ラニビズマブ群のp=0.03)、同改善はベースラインの視力障害の程度によって異なることがみられ(相互作用のp<0.001)、結果については臨床的に意味がなかった。 試験開始時の視力障害スコアが78(20/32;小数視力0.63)~69(20/40;0.5)の場合(被験者の51%が該当していた)は、平均改善スコアはアフリベルセプト群8.0、ベバシズマブ群7.5、ラニビズマブ群8.3で、3群間で有意な差はなかった(p>0.50)。一方、開始時の視力障害スコアが69未満(20/50;0.4未満)の場合、平均改善スコアはアフリベルセプト群18.9に対し、ベバシズマブ群は11.8、ラニビズマブ群は14.2で、アフリベルセプト群の視力改善効果が有意に高かった(対ベバシズマブ群のp<0.001、対ラニビズマブ群のp=0.003、ラニビズマブ群vs. ベバシズマブ群のp=0.21)。 なお、重度有害事象(p=0.40)、入院(p=0.51)、死亡(p=0.72)または重大心血管イベント(p=0.56)はいずれも3群間で有意差はみられなかった。

939.

ワーファリン治療中の頭蓋内血腫増大抑制は、早期のINRコントロールに加えて血圧管理が重要(解説:浦 信行 氏)-316

 Joji B. Kuramatsu氏らの研究グループは、ドイツの3次救急施設での多施設共同後ろ向き研究で、ワーファリン使用例での頭蓋内血腫増大抑制には、搬入後4時間以内のINRの1.3未満と収縮期血圧160 mmHg未満での管理が有効であると報告した。 従来の報告では、抗血小板薬・ワーファリン服用者におけるわが国の前向き研究BATで、頭蓋内出血予防の血圧のカットオフ値が130/81 mmHgであることが報告されているが、血腫増大抑制に関しては報告をみない。したがって、管理数値目標が提示されたことは大きな意味がある。また、平均1ヵ月後からのワーファリンの再開は、脳出血のリスクを増大せずに虚血性脳卒中のリスクが3分の1に減じたとする結果も意義が大きい。ただ、平均年齢が74.1歳でINRが2.77(2.28~3.50)と、わが国の現状と違っている。 日本循環器学会では70歳未満の目標INRは2~3と同じだが、70歳以上では出血性のリスクが高まることを考慮して1.6~2.6の範囲に留めており、実際の医療現場ではほとんどこれに準拠した治療を行っている。脳出血の頻度も国家間で差があることもわかっている。やはり、数値目標に関して、血圧の関与の程度を含めたわが国における分析が必要である。 ところで、NOACが数種類発売され、使用可能となった。出血性合併症が少ないという利点はあるが、頭蓋内血腫増大抑制を計る際の手段と、INRなどの治療目安が確立していない。これは早期に確立すべきである。

940.

アリスミアのツボ Q22

Q22発作性心房細動はやがてどうなるの?原因が取り除かれない限り、やがて慢性心房細動になります。発作性心房細動の基本的課題これは発作性心房細動を診療するうえでの基本的課題ですね。将来を予測してこそ、初めて医療介入が成立するからです。私も2000年代前半にこの同じ疑問を抱いていました。その当時、それを教えてくれる論文はなかったので、心臓血管研究所でカルテ調査を行い、その結果を発表しています。さて、その回答は下図に示すとおりです。再発性の発作性心房細動、そのほとんど、いわゆる抗不整脈薬を処方されている症例が、時間経過とともに抗不整脈薬が効かなくなり慢性化していく様子を図示したものです1)。回答はいかに……画像を拡大するみてわかるとおり、長期に観察すればやがてすべての患者が慢性化していくのが実態でした。そのスピードは年間約5%で、10年経つと約半数の例で発作性心房細動は慢性化していました。もちろんこのスピードは患者の背景によって変化し、器質的心疾患を持つ例や高齢者ではより速くなります。これはあくまでも数字ですので、この数字をどのようにとらえて実際の診療に当たるかは医師・患者個別の問題になりますね。たとえば、50歳の患者と80歳の患者では、この図が持つ意味がずいぶん変わると思います。最後に但し書きですが、これは再発性発作性心房細動が対象ですので、初発の発作性心房細動や、原因が明らかな心房細動(術後の一過性心房細動、甲状腺機能亢進症に伴う心房細動など)には当てはまりません。

検索結果 合計:1124件 表示位置:921 - 940