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高齢NSCLCに、有効かつFNのない化学療法を 第20回【肺がんインタビュー】

第20回 高齢NSCLCに、有効かつFNのない化学療法を高齢者の非小細胞肺がん(NSCLC)では、化学療法による発熱性好中球減少症(FN)が大きな問題となる。そのような中、高齢者肺がん患者を対象にドセタキセル・ラムシルマブ併用レジメン(以下、ドセタキセル・ラムシルマブ)にPEG-G-CSFを併用した、西日本がん研究機構(WJOG)による第II相試験DRAGON study(WJOG9416L)1)が実施される。同試験の研究事務局である神戸低侵襲がん医療センターの秦 明登氏に、同研究の狙いを聞いた。試験を行った背景はどのようなものですか。わが国では、ドライバー遺伝子変異のない高齢者肺がんに対する1次治療のスタンダードは、ドセタキセル単剤です。このドセタキセル単独に対し、ドセタキセル・ラムシルマブは、2次治療以降で、奏効率、無増悪生存期間、そして全生存期間を有意に延ばしています2)。この試験は年齢を問わず行われましたが、高齢者においても有力な治療選択肢となる可能性があります。しかし、このレジメンの課題はFNの頻度が高いことで、日本人の第II相試験では、34%、つまりおよそ3例に1例がFNを発症するという報告があります3)。一方、わが国の後ろ向きの報告では、ドセタキセル・ラムシルマブにPEG-G-CSF製剤であるペグフィルグラスチムを併用することで、FN発症をゼロに抑えたという報告があります4)。そのほかにも、ペグフィルグラスチムの化学療法との併用によるFN発症抑制については、しっかりしたエビデンスが示されています。このようなことから、ドセタキセル・ラムシルマブにペグフィルグラスチムの1次予防を併用することで、FNを防ぎつつ、有効性を確保した治療を高齢NSCLC患者に提供できるのではないかという仮説を立て、この試験を実施しています。プライマリ・エンドポイントは全奏効率(ORR)ですが、FN発症抑制についても評価されるのですか。有効性を評価するために第II相試験の一般的な評価項目として、ORRをプライマリ・エンドポイントに設定しています。FNの発症率についても、副次評価項目の安全性で評価する予定です。FNの1次予防としてG-CSFを用いることについては?改訂されたG-CSF使用に関するASCOのガイドラインでは、FN発症リスク20%以上の患者ではG-CSFの1次予防が推奨されています5)。ドセタキセル・ラムシルマブのFN発症率はおよそ3分の1ですので、十分その対象となります。さらに、PEG製剤を用いることによる、実臨床でのメリットもあります。現在の化学療法はほとんど外来で実施します。従来のG-CSFは連日投与が必要ですが、PEG-G-CSFは半減期が長く、3週に1回の投与で効果を発揮し、また化学療法の翌日から予防的に投与できます。実際の治療として、3週間サイクルの1日目にドセタキセル・ラムシルマブを、翌日にペグフィルグラスチムを投与するだけで済みますので、患者さんの受診負担も減らすことが可能になるのです。今後の研究の方向性はどのようなものですか。高齢者NSCLCの化学療法の効果は十分とはいえませんし、進化もプラトーに達しているといえます。しかし、分子標的薬は高齢者にも有効性が期待できます。その中の1つが、ベバシズマブやラムシルマブなどのVEGF阻害薬です。ただ、わが国の高齢者肺がんにおけるラムシルマブの使用については十分なデータがあるとはいえません。その意味でも、前向きに65例を検証する、この試験は意義があると思います。この第II相試験で、FNの発症抑制など安全性を確保しつつ、有効性を示すことができたら、次は、ドセタキセル・ラムシルマブ+ペグフィルグラスチムと現在の標準治療ドセタキセル単剤とを比較する第III相試験に進む計画です。DRAGON(WJOG9416L)studyデザイン多施設前向きシングルアーム第II相試験対象:75歳以上のNSCLC患者(化学療法未治療、ドライバー遺伝子変異陽性例はTKI治療で進行した患者)介入:ドセタキセル60mg/m2、ラムシルマブ10mg/kg day1、ペグフィルグラスチム3.6mg day2、3週ごと主要評価項目:全奏効率(ORR)副次評価項目:無増悪生存期間、全生存期間、奏効期間、安全性ORR:閾値20%、期待値35%サンプルサイズ:65例※DRAGON Study:Docetaxel plus Ramucirumab with primary prophylactic pegylated granulocyte-colony stimulating factor support for elderly patients with advanced non-small-cell lung cancer: A multicenter prospective single arm phase II trial1)Hata A, et al. Clin Lung Cancer. 2018 Aug 7.[Epub ahead of print]2)Garon EB, et al. Lancet. 2014;384:665-673.3)Yoh K, et al. Lung Cancer. 2016;99:186-193.4)Hata A, et al. Oncotarget. 2018;12:27789-27796.5)Smith TJ, et al. J Clin Oncol. 2006;24:3187-3205.

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電話を使って一発解決!【Dr. 中島の 新・徒然草】(244)

二百四十四の段 電話を使って一発解決!つい先日のこと。10年以上前に手術した患者さん(50代、女性)から切羽詰まった様子のメールが来ました。なんでも1週間ほど前からふらついて困っているとのこと。最初に耳鼻科にいったら、「それは頸が原因かもしれないから整形外科だ」と言われ、整形外科にいったら「頭位性めまいかもしれない」と言われたそうです。また、現在抗がん剤治療を受けている外科の先生からは「今使っている薬が原因になっている可能性がないわけではない」と言われたそうで大混乱しているようでした。すでに地方の実家に引っ越しておられるので、大阪まで来てもらうと1泊2日になってしまいます。それでも実際に診ないことには分かりません。とりあえず「いつでも都合のつくときに来てください」というメールを返信しました。メールを送ってから、ふと「これは直接に話をした方が早いかもしれん」と思い、携帯電話にかけてみました。患者「ああ、先生!」中島「調子悪いですか」患者「ええ、頭を動かすとふらついてしまって」中島「ひょっとして頭を動かさなかったら大丈夫とか」患者「そうですね」おおっ! 案外、電話だけで決着がつくかも。良性発作性頭位めまい症、いわゆるBPPV(Benign Paroxysmal Positional Vertigo)ではないでしょうか。中島「頭を左右に動かしたらどうなりますか?」患者「ええっ? 左右…ですか」中島「ちょっとやってみましょう。左右確認みたいに」患者「はい」中島「まず、右を向いて」患者「向きました」中島「次に左を向いて」患者「はい」中島「どうですか、目が回りましたか」患者「何ともありません」1歩、手がかりに近づいた! 水平半規管型のBPPVではなさそう。中島「次はね、洗濯物を干すような姿勢をとってみてください」患者「やらなくても分かります。それをするとすごくふらつくんですよ」中島「おおーっ! では、次に椅子に座って、靴の紐を結ぶ動作をしてみましょう」患者「あっとっとっと。目が回ります。すごく回ります!」どうやら決まりですね。典型的な後半規管型のBPPVです。左右の患側を決めることができないのがいささかもどかしくはありますが。中島「夜中にトイレに行くときとかどうですか?」患者「ふらつきます」中島「顔を洗うときは?」患者「それもダメです。こけそうになります」顔を洗うときは必然的に目を閉じるので、視覚情報が遮断されてふらつきが強くなるわけです。暗い家の中でトイレに行くときも同じ理屈ですね。中島「おめでとうございます。治りますよ、それ」患者「ホントですか!」中島「いわゆる良性発作性頭位めまい症という奴で、耳の奥の三半規管に耳石が入り込むことによって起こるのです」患者「良、良性? 発作性?」中島「名前が長いので我々はBPPVと略して呼んでいますけどね。三半規管に入り込んだ耳石はそのうちどこかに出ていってしまうので、放っておいても勝手に治るんです」患者「そうなんですか! 薬とかあるんですか?」中島「ありません。今年中に治るので大阪にも来なくていいです」私は通常、初診のBPPVの患者さんに耳石置換はやっていません。放っておいても治るからです。だから、今回もわざわざ大阪まで来てもらう必要もありません。患者「先生、鍼灸とか行ってもいいですか?」中島「ダメダメダメ! 皮膚の下にね、脳とおなかをつなぐシャントが入っているんだから、そんなところを鍼で刺してしまったら手術のやり直しになってしまいますよ」患者「分かりました」何を言い出すやら。ちょっとビビリました。中島「ちなみに1番ふらつきが強かったときを100とすると、今日はどのくらいですか?」患者「ちょっとマシになって70か60くらいです」中島「それがだんだん良くなるはずですから、時々メールで症状を教えてください。『50になった』とか『30になった』って」患者「分かりました!」というわけで一件落着。翌日には「安心しました。感謝します」というお礼のメールが来ていました。「放っておいても大丈夫!」と力強く言ってあげるのも、ある意味、立派な医療ではないかと私は思います。とはいえ、本当に治ってくれるのかな? 今回の顛末については、あらためて報告させていただこうと思います。最後に1句電話聴き 自信を持って 放置する

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第5回 心電図、正しくとれてる?(前編)~鏡の中のマボロシ~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第5回:心電図、正しくとれてる?(前編)~鏡の中のマボロシ~私たちは心電図の波形を目で見て診断・解釈し、医療行動を施します。でも、もしも不適切な方法で心電図が記録されていたら…患者さんの治療にも影響しかねない一大事です。その見抜き方をDr.ヒロがレクチャーします。症例提示48歳。女性。昨晩からの心窩部痛にて救急受診。以前より血圧高値を指摘されるも受診せず。間欠的に“さしこむような”痛みがあり、発作時には冷汗を伴う。何度か嘔吐もした。労作時症状はなし。昼過ぎに市販の制酸剤を服用したが改善しないため、夕刻に受診、来院時に心電図検査を行った(図1)。喫煙:20-30本/日(18歳~:現在も喫煙中)家族歴:冠動脈バイパス術(父親)身長156cm、体重105kg。体温36.9℃、血圧154/95mmHg、脈拍62/分。(図1)来院時心電図画像を拡大する【問題】心電図所見として正しいものを2つ選べ。1)洞(性)不整脈2)左房調律3)電極の左右つけ間違い(上肢)4)電極の左右つけ間違い(下肢)5)右胸心解答はこちら1)、3)解説はこちら“お決まり”ですが、1問目は心電図の読み方を問います。“型”の通りに読めるようになっていますか?(第1回参照)1)○:R-R間隔どうですか?一見すると整のようですが、よーく見ると不整でしょ。“最短”と“最長”で3目盛り(0.12秒)*以上差がある洞調律を「洞(性)不整脈」と診断します。胸部誘導3~4拍と4~5拍ではR-R間隔の差が4目盛り以上ありそうなので該当しますね。(*:0.16秒以上とする本もあり、その場合は「4目盛り」となる)。2)×:イチニエフ法(第2回参照)を適用しようとすると…アレッ? I誘導から陰性(下向き)でII誘導もなんとも変なカタチ…ということは、「異所性心房調律」?そう思えたアナタは素晴らしい!たしかに、この「左房調律」も代表的な異所性心房調律でI誘導が陰性のことが多いです(正式にはV6誘導の陰性Pをもって定義されます)。ただ、QRS波形の変化は説明不能ですから、これは不適です。3)○:I誘導のP-QRS-Tが“すべて下向き(陰性)”を見たとき、最も頻度が高いのは「左右の上肢電極のつけ間違い」です。aVR誘導が陽性QRS波なのもオカシイですよね。次回、詳しく解説します。4)×:下肢電極(黒・緑)を左右逆にしても、実は心電図波形はほとんど変わりません。黒色はアース電極で、緑色が左右どちらの足でも電極間の引き算という観点では同じなのです。5)×:右手・左手の電極つけ違い(選択肢3)の心電図との鑑別時に問題となる右胸心。肢誘導だけでなく、胸部誘導のR波増高プロセスも異常となりますが、今回はほぼ正常なので、該当しません。“電極つけ間違いのカラクリを理解する”皆さんは自分で心電図を記録することがありますか?研修医の時以来してないな…なんて人もいるかもしれませんね。医師の多くはナースや検査技師さんなどのコメディカルがとってくれた心電図を見るわけですが、「もしかして正しくとれてない?」と、考えたことはありませんか?何の根拠もなく人を疑うべきではありませんが(チーム医療が崩壊してしまいますよね…)、現実には、心電図の記録ミスは頻繁に起きているんです。なかでも今回取り上げる上肢電極(右手・左手)のつけ間違いが代表的です。つまり、右手に黄電極、左手に赤電極をつけてしまうミスです。自分で正しく記録するのは当然ですが、他人の記録ミスにも気づける能力が、デキる医師には大切だと思います。解説でも述べましたが、右足(黒)、左足(緑)を逆につけても波形にはほとんど無影響です。頻度的には手も足も同じくらい間違われているはずですが、波形の解釈が問題となるのは上肢の方。これがなぜなのか説明していきましょう。今回の症例で、電極を正しく貼って記録した心電図を示します(図2)。何のことはない、イチニエフ法と検脈法(第3回参照)を用いて心拍数60/分の正常洞調律と診断、ST変化もありません。(図2)正しく記録した心電図画像を拡大する図1と比較してもわかるように、手足の電極をつけ間違えた場合、当然ながら影響が出るのは肢誘導のみで、胸部誘導は変わりません。ここで、実際の波形を表にし、4つの特徴をまとめました(図3)。(図3)上肢の左右電極つけ間違いと正常の比較画像を拡大する左右電極つけ間違い(右手⇔左手ミス)による心電図の特徴(1)Iが上下逆さま(P-QRS-Tすべてが陰性となるのが典型的)(2)aVRとaVLが入れ換わり(3)IIとIIIが入れ換わり(4)aVFは(ほぼ)不変もちろん、“なんでこうなの?”と、思う人がいるでしょう。右手と左手の電極を逆につけた場合、“肢誘導の世界”でも左右が逆転します。実は、これさえ理解できれば、わざわざ4つの特徴を覚える必要はありません。“肢誘導の世界”とは、I、II、IIIとaVR、aVL、aVFの計6個の電極が乗っている断面のことで、前額断(“おでこに平行”という意味)ないし冠状断と呼ばれます。図示すると、どこかで一度は目にしたことがあろう「円座標システム」となります(図4)。中心に心臓があるイメージです。(図4)肢誘導システム(前額断[冠状断])杉山 裕章. 心電図のみかた、考えかた[基礎編]. 中外医学社;2013.p.171.を改変画像を拡大する真ん中の±90゜の正中線をはさんで、IIとIII、そしてaVRとaVLとが左右対称の位置関係であることがわかりますか?IとaVF以外は、鏡に映したような心電図になってしまうのです。「aVFは不変」というのは、まさに正中線上なので、ひっくり返しようがない(笑)。残るI誘導は心臓から見て真左、角度では「0°」なんですが、左右反転したら「180°(-I誘導)」となるので、刺激興奮をまったく逆の右方向から眺めることになり、心電図波形としては極性、すなわち“上下”が逆となります。フムフム。手電極の左右を間違えると波形がどうなるかはわかったけど、実際にはどうやって見抜けばいいのでしょう?ハイどうぞ、と言わんばかりの試験問題なら簡単かもしれませんが、現実には正常波形を横に準備してくれているわけでないので、ピンッとくる感覚、そんなアンテナのような“気づき”が大事だと思います。“秘伝”というほどのシロモノではないですが、独自のアイディアも交えて皆さんと共有したいと思います。今回は最もスタンダードな点から。まず一つ目。ボクが左右電極のつけ間違いを疑う際に重要と考えるI誘導。I誘導では、正常ならP波もQRS波もT波もすべて上向き(陽性)です。「右軸偏位」ならQRS波は下を向きますが、P波までが陰性になることはありません。もちろん、異所性心房調律にはイチゴロク(I、V5、V6)が陰性Pを呈する「左房調律」もありますし、心房細動のようにP波が存在しないこともあります。ただ、この陰性P±陰性QRS・TがI誘導で一緒に見られる時、とにかくボクは「右手⇔左手ミス」を一番に考え、過去の心電図と比較するようにしています。選択肢にも入れた右胸心ほか、いくつかの鑑別は必要ですが、電極のつけ間違いだけは、こちらが疑わない限り絶対に診断できないのです。なお、後半に述べた“座標”だ“角度”だといった話は、QRS電気軸のところでも登場します。やけに“数学的”で難しくてとても覚えられないという人! 大丈夫。考え方さえ分かれば十分ですよ。今回はここまで。次回は同じ症例で残りのDr.ヒロ流“気づき”ポイントなどを紹介するので、お楽しみに!Take-home Message1)肢誘導電極(右手・左手)のつけ違いを見抜けるようになろう!2)つけ間違いに気づくには、まずI誘導に注目せよ【古都のこと~岩清水八幡宮~】7月の最終土曜、折しも夜半より大型台風が上陸するとされた日、なぜか夕方に愛車を飛ばして八幡市の男山へ。天王山に対峙する国家鎮護の社、国宝でもある岩清水八幡宮をお参りしました。竹の森林浴を楽しんでから、本殿に向かうと、強くなりつつある風が神紋を揺らしていました。門から御社が見えた時、境内には、なんと自分一人のみ。並々ならぬ御加護を頂戴し、帰路を急いだのでした。

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編(下巻)

第6回 感染性腸炎 第7回 肝胆道系感染症 第8回 細菌性髄膜炎 第9回 感染性心内膜炎 第10回 皮膚軟部組織感染症第11回 骨・関節の感染症 あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」がレクチャーになりました!“プラマニュ”の第3章、病態・臓器別アプローチから市中感染症をピックアップ。著者である岡秀昭氏が、臨床の現場で必要なポイントだけに絞った、シンプルかつ明快なレクチャーをお届けします。ここで得た知識、考え方は、明日からの感染症診療にそのまま生かすことができます。下巻は腸炎、肝胆道系、髄膜炎、心内膜炎、皮膚・骨軟部組織の感染症について。さあ、ぜひプラマニュを片手に本DVDをご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。第6回 感染性腸炎 今回は感染性腸炎を取り上げます。感染性腸炎には抗菌薬は不要?!感染性腸炎が疑われた患者に最初にやることは「本当に感染性腸炎か」を疑うこと!便培養は本当に意味あるのか?!ピットフォール満載の感染性腸炎の診断と治療。「胃腸炎」というゴミ箱診断をしないために、腸炎が疑われる患者に対して何をすべきかを明快にレクチャーします。第7回 肝胆道系感染症 胆道系の感染症は「胆道系感染症」として、ひとくくりに考えないことが重要です。なぜならば、胆嚢炎であるのか、胆管炎であるのかによって治療戦略は大きく異なるからです。それらをどのように鑑別するのか、それぞれの診断基準を基に、ピットフォールやポイントを解説します。第8回 細菌性髄膜炎 細菌性髄膜炎は経験することの少ない感染症ではありますが、疑ったときには内科エマージェンシー!時間勝負の感染症です。まず、何をやるべきか?そしてその次は?その順番を間違うと、命取りになることも!!また、治療についても、どこまで何を投与すべきか?迷ったときは過剰治療も許されます!細菌性髄膜炎疑いの患者が来たときに、何をどうすべきか、Dr.岡が明確にお教えします。シミュレーションをしっかりとして、患者が来たときにはギアをあげて対応できるようにしておきましょう。第9回 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎(IE)は最も見逃されやすい感染症の中の1つです。なぜ見逃してしまうのか、見逃さないためのポイントは?そして、IEと診断したときにやるべきこととは?実臨床に即した内容をシンプルに、かつわかりやすく解説します。第10回 皮膚軟部組織感染症皮膚軟部組織感染症診療の一番のポイントは、予後良好な丹毒や蜂窩織炎か、壊死性筋膜炎やガス壊疽のような重症外科感染症かの鑑別。壊死性筋膜炎に対して、アトラスなどで見るかなり酷い状態の皮膚所見のイメージを持っていませんか?実はそれが診断を誤らせる1つの原因なのです。このような状態になる前に診断をつけること。その鑑別のポイントと治療法について、しっかりとお教えします。第11回 骨・関節の感染症骨髄炎は、比較的‘ゆっくり’な感染症。原因微生物が判明してから標的治療を行うべきである。そう、経験的治療はできるだけ避けるのが原則。しかしながら、早く治療しろとせかされるなどのやむを得ない場合はどのように治療をすすめていけばいいのか?理論だけでなく、実臨床でのやり方をお教えします!

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編(上下巻2枚組)

第1回 感染症診療の8大原則 第2回 市中肺炎 初期診療アプローチ 第3回 市中肺炎 治療経過と合併症第4回 単純性尿路感染症 第5回 複雑性尿路感染症 第6回 感染性腸炎 第7回 肝胆道系感染症 第8回 細菌性髄膜炎 第9回 感染性心内膜炎 第10回 皮膚軟部組織感染症第11回 骨・関節の感染症 ※当DVDの内容は「Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編」の上巻と下巻を組み合わせたものです。あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」がレクチャーになりました!本DVDでは“プラマニュ”の第3章、病態・臓器別アプローチから市中感染症をピックアップ。著者である岡秀昭氏が、臨床の現場で必要なポイントだけに絞った、シンプルかつ明快なレクチャーをお届けします。ここで得た知識、考え方は、明日からの感染症診療にそのまま生かすことができます。さあ、ぜひプラマニュを片手に本DVDをご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。第1回 感染症診療の8大原則 臓器、微生物、抗菌薬そして、その中心に患者。これらすべてを満たすことが、感染症診療の第1歩です。まずは、感染症診療の8大原則を、明日からの診療に生かせるよう、現場の状況と照らし合わせながら、解説します。第2回 市中肺炎 初期診療アプローチ 第2回、第3回では市中肺炎を取り上げます。今回は、初期の診断と治療についてです。肺炎を疑ったら、最初にすべきことは?抗菌薬を開始?いいえそうではありません。まずは「本当に肺炎かどうか」を疑うことから始めましょう。肺炎と診断されれば、原因微生物の同定、重症度判定。それによって、治療も大きく変わってきます。第3回 市中肺炎 治療経過と合併症肺炎の治療効果を判断するために、胸部X線をルーティンで撮っていませんか?Dr.岡が指摘しているのは「撮る」ことではなく、「ルーティン」であること。そう、X線の反応は“最も遅れる”んです。CRPや胸部X線所見を正常化させるための治療は必要ありません。何を見て判断すべきか考えてみましょう。そのほか、合併症や治療効果が見られなかったときの対応、そして、誤嚥性肺炎について解説します。第4回 単純性尿路感染症 第4回、5回では尿路感染症を取り上げます。今回はその中でも、単純性尿路感染症について解説します。単純性尿路感染は、基本的には、妊娠していない閉経前の成人女性の尿路感染のことを指し、それ以外はすべて複雑性と考えます。(複雑性については第5回)また、上部(腎臓)、と下部(膀胱、尿道、前立腺、精巣上体)を区別して考えましょう。単純性尿路感染症の診断と治療について、詳しく解説します。第5回 複雑性尿路感染症 複雑性尿路感染症は、さまざまな点から見ても非常に「複雑」で、診断と治療が難しい疾患です。膿尿+発熱・炎症反応だけでは尿路感染症とは限らず、全身をもれなく診察し、ほかの感染源を除外して初めて診断できるのです。また、男性の場合は、「尿路感染症」という診断名だけでは不十分で、前立腺炎などとも区別していくことが重要です。微生物についても、単純性はそのほとんどが大腸菌であるのに対して、ほかの微生物の頻度も増え、それにより治療も異なってきます。第6回 感染性腸炎 今回は感染性腸炎を取り上げます。感染性腸炎には抗菌薬は不要?!感染性腸炎が疑われた患者に最初にやることは「本当に感染性腸炎か」を疑うこと!便培養は本当に意味あるのか?!ピットフォール満載の感染性腸炎の診断と治療。「胃腸炎」というゴミ箱診断をしないために、腸炎が疑われる患者に対して何をすべきかを明快にレクチャーします。第7回 肝胆道系感染症 胆道系の感染症は「胆道系感染症」として、ひとくくりに考えないことが重要です。なぜならば、胆嚢炎であるのか、胆管炎であるのかによって治療戦略は大きく異なるからです。それらをどのように鑑別するのか、それぞれの診断基準を基に、ピットフォールやポイントを解説します。第8回 細菌性髄膜炎 細菌性髄膜炎は経験することの少ない感染症ではありますが、疑ったときには内科エマージェンシー!時間勝負の感染症です。まず、何をやるべきか?そしてその次は?その順番を間違うと、命取りになることも!!また、治療についても、どこまで何を投与すべきか?迷ったときは過剰治療も許されます!細菌性髄膜炎疑いの患者が来たときに、何をどうすべきか、Dr.岡が明確にお教えします。シミュレーションをしっかりとして、患者が来たときにはギアをあげて対応できるようにしておきましょう。第9回 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎(IE)は最も見逃されやすい感染症の中の1つです。なぜ見逃してしまうのか、見逃さないためのポイントは?そして、IEと診断したときにやるべきこととは?実臨床に即した内容をシンプルに、かつわかりやすく解説します。第10回 皮膚軟部組織感染症皮膚軟部組織感染症診療の一番のポイントは、予後良好な丹毒や蜂窩織炎か、壊死性筋膜炎やガス壊疽のような重症外科感染症かの鑑別。壊死性筋膜炎に対して、アトラスなどで見るかなり酷い状態の皮膚所見のイメージを持っていませんか?実はそれが診断を誤らせる1つの原因なのです。このような状態になる前に診断をつけること。その鑑別のポイントと治療法について、しっかりとお教えします。第11回 骨・関節の感染症骨髄炎は、比較的‘ゆっくり’な感染症。原因微生物が判明してから標的治療を行うべきである。そう、経験的治療はできるだけ避けるのが原則。しかしながら、早く治療しろとせかされるなどのやむを得ない場合はどのように治療をすすめていけばいいのか?理論だけでなく、実臨床でのやり方をお教えします!

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第1回 痛みの概説【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第1回 痛みの概説痛みは、古来より病気の兆候の中でも最も多く、医療・医学の原点です。今日でも人類を苦しめている大きな病気因子でもあります。この痛みを意味する英語の“Pain”はラテン語のPoena、ギリシャ語のPoineより由来しております。元来はPenalty あるいはPunishmentを意味しておりました。処罰の1つの方法として、痛みを受けさせられることは、昔からごく自然になされていたことと推察されます。このように、痛みは人類の誕生とともに歩んできたにもかかわらず、現在においても感覚としての「痛み」をなかなか科学的な研究対象として取り上げにくいのが実態です。その原因の1つには、聴覚や視覚など他の感覚と異なって、複数の人が痛みを同時に同程度に共有することが不可能であることが挙げられております。そのために痛みを客観的に把握することがきわめて困難であります。米国では、2001~2010年までを「痛みの10年」として、痛みの研究や治療に膨大な国家予算を費やし、痛み患者への対策を検討しました。これは、ともすれば痛みを口実に「怠惰さの隠れ蓑にしているのではないか」との世間の目を気にしている痛みの患者への救いであるとともに、痛み患者の就労不能や意欲低下、また、その看護などによる年間の経済的損失が米国ではおよそ8兆円にのぼるとの試算に向け、この深刻な問題に対する政策でもありました。国際疼痛学会(IASP)は、痛みとは「実際の組織損傷、あるいは潜在的な組織損傷と関連した、または、このような組織損傷と関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験」と定義しています。しかしながら、この定義からしても痛みの実体を認識することは難しいのです。むしろ痛みを機序別による分類から考えるほうが、わかりやすいかもしれません。それでは、痛みの発生する原因機序別に従って分類してみましょう。侵害受容性疼痛針で刺したり、金鎚で叩いたりしたときに感じる痛みです。神経自由終末の侵害受容器に一定以上の痛み刺激が加わることによって、痛みインパルスが発生します。その痛みインパルスが脊髄を経由して上位中枢に伝達され、大脳皮質第2次体性感覚野に到達すると痛みとして認識されます。この痛みインパルスを伝導するのは、Aδ線維とC線維です。Aδ線維は表に示されているように、C線維より太いので伝達速度が速くなります。おそらくは向こう脛を机の角に打ち付けたときに、最初にドンと来る痛みを感じて、その後しばらくしてジーンとするいやな痛みを感じたことを経験されたことがあるでしょう。最初の痛みがAδ線維経由の痛み(1次痛)で、その後がC線維経由の痛み(2次痛)です。がんによる疼痛も侵害受容性疼痛と考えられ、がん細胞が神経末端を刺激することによって痛みが生じます。表 侵害受容性疼痛の種類・伝導速度・主な受容器画像を拡大する神経障害性疼痛帯状疱疹後神経痛(PHN)に代表される痛みです。帯状疱疹ウイルスによって、神経線維そのものが破壊される結果により、神経自由終末ではなく異所性に痛みインパルスが発生するために、痛みとして感じます。触覚などのインパルスを伝達する太い神経線維(Aβ)が減少して、代わりに痛み感覚を伝達する細い神経線維(C線維)に置き換わるために、触覚も痛みとして感じます。本来の痛み刺激ではない、筆などによる柔らかい刺激を痛みとして感じるアロディニアの症状が見られます。心因性疼痛(非器質性疼痛)痛みが長く持続すると、抑うつなどの心因的症状が進展して、それが痛みをさらに増悪することになります。また、いやなことが続くと身体のどこかに痛みを感じる「身体表現性疼痛」と言われる非器質的な疼痛が現れることがあります。このように、最初から心因性(非器質性)に痛みを感じることもあります。現代では、この「心因性疼痛」もかなりの頻度で見られるようです。このように、臨床的な痛みの分類として、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛(図)が存在しますが、痛みの開始時には、これらをある程度明確に分類できるでしょう。しかしながら、痛みが長期間持続してくると、これらが1つになってしまうために痛みの治療が著しく困難となります。この意味からも痛みには早期からの治療が必要でありますし、患者さんも我慢すべきではありません。図 臨床的な痛みの分類の概念*画面をクリックして動画を視聴ください1)Erlanger J,Gasser HS. Electrical signs of nervous activity.Philadelphia;University of Pennsylvania Press:1937.2)Burgess PR, Perl ER, Iggo A(ed). Somatosensory system. New York;Springer:1973.p.29-78.3)花岡一雄、ほか. 現代鍼灸学. 2005:5;59-68.4)河谷正仁 編集. 痛み研究のアプローチ. 新興交易医書出版部;2006.p.15-18.5)花岡一雄. 東京都医師会雑誌.2007:60;6-10.今後の掲載予定侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛、急性痛と慢性痛、痛みの悪循環などを総論的に解説後、各論として全身、頭頸部、胸部、腹部など部位別にさらに詳しくレクチャーしていきますのでご期待ください。次回は、「急性痛と慢性痛」について説明します。

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎と膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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第8回 内科クリニックからのクラリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?マイコプラズマ・・・7名百日咳菌・・・6名コロナウイルス、アデノウイルスなどのウイルス・・・3名結核菌・・・2名肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)・・・6名モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)・・・2名インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)・・・1名遷延性の咳嗽 清水直明さん(病院)3週間続く咳嗽であることから、遷延性の咳嗽だと思います。そうなると感染症から始まったとしても最初の原因菌は分からず、ウイルスもしくは非定型菌※による軽い感冒から始まったことも予想されるでしょう。他に、成人であっても百日咳の可能性も高いと思われます。その場合、抗菌薬はクラリスロマイシン(以下、CAM)でよいでしょう。初発がウイルスや非定型菌であったとしても、二次性に細菌感染を起こして急性気管支炎となっているかもしれません。その場合は、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Moraxella catarrhalisなどが原因菌として想定されます。このようなときにグラム染色を行うことができると、抗菌薬選択の参考になります。※非定型菌は一般の細菌とは異なり、βラクタム系抗菌薬が無効で、培養や染色は困難なことが多い。マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラなどがある。結核の可能性も 児玉暁人さん(病院)長引く咳とのことで、マイコプラズマや百日咳菌を疑います。患者背景が年齢しか分かりませんが、見逃すと怖いので念のため結核も考慮します。細菌感染症ではないのでは? 中西剛明さん(薬局)同居家族で最近かかった感染症があるかどうかを確認します。それで思い当たるところがなければ、まず、ウイルスかマイコプラズマを考えます。肺炎の所見もないので、肺炎球菌、インフルエンザやアデノウイルスなどは除外します。百日咳は成人の発症頻度が低いので、流行が確認されていなければ除外します。RSウイルスやコロナウイルス、エコーウイルスあたりはありうると考えます。ただ、咳の続く疾患が感染症とは限らず、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート®)が処方されているので、この段階では「細菌感染症ではないのでは?」が有力と考えます。Q2 患者さんに何を確認する?薬物相互作用 ふな3さん(薬局)CAMは、重大な相互作用が多い薬剤なので、併用薬を確認します。禁忌ではありませんが、タダラフィル(シアリス®)などは患者さんにとっても話しにくい薬なので、それとなく確認します。喫煙の有無と、アレルギー歴(特にハウスダストなどの通年性アレルギー)についても確認したいです。自覚していないことも考慮  児玉暁人さん(病院)やはり併用薬の確認ですね。スボレキサント錠(ベルソムラ®)やC型肝炎治療薬のアナスプレビルカプセル(スンベプラ®)は、この年齢でも服用している可能性があります。ピロリ菌の除菌など、パック製剤だと本人がCAM服用を自覚していないことも考えられるので、重複投与があるかどうかを確認します。シムビコート®は咳喘息も疑っての処方だと思います。感染性、非感染性のどちらもカバーし、β2刺激薬を配合したシムビコート®は吸入後に症状緩和を実感しやすく、患者さんのQOLに配慮されているのではないでしょうか。過去に喘息の既往はないか、シムビコート®は使い切りで終了なのか気になります。最近の抗菌薬服用歴 キャンプ人さん(病院)アレルギー歴、最近の抗菌薬服用歴、生活歴(ペットなども含める)を確認します。受診するまでの症状確認とACE阻害薬 柏木紀久さん(薬局)この3週間の間に先行して発熱などの感冒症状があったか、ACE阻害薬(副作用に咳嗽がある)の服用、喫煙、胸焼けなどの確認。Q3 抗菌薬の使用で思い浮かんだことは?咳喘息ならば・・・ 清水直明さん(病院)痰のからまない乾性咳嗽であれば、咳喘息の可能性が出てきます。そのために、シムビコート®が併用されていると思われ、それで改善されれば咳喘息の可能性が高くなります。咳喘息に対しては必ずしも抗菌薬が必要とは思いませんが、今の状態では感染症を完全には否定できないので、まずは今回の治療で反応を見たいと医師は考えていると思います。抗菌薬の低感受性に注意 JITHURYOUさん(病院)CAMは、抗菌作用以外の作用もあります。画像上、肺炎はないということですが、呼吸器細菌感染症としては肺炎球菌、インフルエンザ菌を想定しないといけないので、それらの菌に対する抗菌薬の低感受性に注意しなければなりません。さらに溶連菌、Moraxella catarrhalisなども考慮します。抗菌薬の漫然とした投与に注意 わらび餅さん(病院)痰培養は提出されていないようなので、原因菌を特定できるか分かりません。CAM耐性菌も以前より高頻度になっているので、漫然と投与されないように投与は必要最低限を維持することが大切だと思います。再診時の処方が非常に気になります。CAMの用量 柏木紀久さん(薬局)副鼻腔気管支症候群ならCAMは半量での処方もあると思いますが、1週間後の再診で、かつ感染性咳嗽の可能性を考えると400mg/日で構わないと思います。しっかりとした診断を 荒川隆之さん(病院)長引く咳の原因としては、咳喘息や後鼻漏、胃食道逆流、百日咳、結核、心不全、COPD、ACE阻害薬などの薬剤性の咳など多くありますが、抗菌薬が必要なケースは少ないです。もし百日咳であったとしても、感染性は3週間程度でなくなることが多く、1~2カ月程度続く慢性咳嗽に対してむやみに抗菌薬を使うべきではないと考えます。慢性咳嗽の原因の1つに結核があります。ニューキノロン系抗菌薬は結核にも効果があり、症状が少し改善することがありますが、結核は複数の抗菌薬を組み合わせて、長い期間治療が必要な疾患です。そのため、むやみにニューキノロン系抗菌薬を投与すると、少しだけ症状がよくなる、服用が終わると悪くなる、を繰り返し、結核の発見が遅れる可能性が出てくるのです。結核は空気感染しますので、発見が遅れるということは、それだけ他の人にうつしてしまう機会が増えてしまいます。また、結核診断前にニューキノロン系抗菌薬を投与した場合、患者自身の死亡リスクが高まるといった報告もあります(van der Heijden YF, et al. Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(9): 1162-1167.)。慢性咳嗽においてニューキノロン系抗菌薬を使用する場合は、結核を除外してから使用すべきだと考えます。まずはしっかりした診断が大事です。Q4 その他、気付いたことは?QOLのための鎮咳薬 JITHURYOUさん(病院)小児ではないので可能性は低いですが、百日咳だとするとカタル期※1でマクロライドを使用します。ただ、経過として3週間過ぎていることと、シムビコート®が処方されているので、カタル期ではない可能性が高いです。咳自体は自衛反射で、あまり抑えることに意味がないと言われていますが、本症例では咳が持続して夜間も眠れないことや季肋部※2の痛みなどの可能性もあるので、患者QOLを上げるために、対症療法的にデキストロメトルファンが処方されたと考えます。※1 咳や鼻水、咽頭痛などの諸症状が起きている期間※2 上腹部で左右の肋骨弓下の部分鎮咳薬の連用について 中堅薬剤師さん(薬局)原疾患を放置したまま、安易に鎮咳薬で症状を改善させることは推奨されていません1)。また、麦門冬湯は「乾性咳嗽の非特異的治療」のエビデンスが認められている2)ので、医師に提案したいです。なお、遷延性咳嗽の原因は、アレルギー、感染症、逆流性食道炎が主であり、まれに薬剤性(副作用)や心疾患などの要因があると考えています。話は変わりますが、開業医の適当な抗菌薬処方はずっと気になっています。特にキノロン系抗菌薬を安易に使いすぎです。高齢のワルファリン服用患者にモキシフロキサシンをフルドーズしようとした例もありました。医師の意図 中西剛明さん(薬局)自身の体験から、マイコプラズマの残存する咳についてはステロイドの吸入が効果的なことがあると実感しています。アレルギーがなかったとしても、マイコプラズマ学会のガイドラインにあるように、最終手段としてのステロイド投与(ガイドラインでは体重当たり1mg/kgのプレドニゾロンの点滴ですが)は一考の余地があります。また、マイコプラズマ学会のガイドラインにも記載がありますが、このケースがマイコプラズマであれば、マクロライド系抗菌薬の効果判定をするため、3日後に再受診の必要があるので3日分の処方で十分なはずです。ステロイド吸入が適切かどうか議論のあるところですが、シムビコート®を処方するくらいですから医師は気管支喘息ということで治療をしたのだと考えます。Q5 患者さんに何を説明する?抗菌薬の患者さんに対する説明例 清水直明さん(病院)「咳で悪さをしているばい菌を殺す薬です。ただし、必ずしもばい菌が悪さをしているとは限りません。この薬(CAM)には、抗菌作用の他にも気道の状態を調節する作用もあるので、7日分しっかり飲み切ってください。」CAMの副作用 キャンプ人さん(病院)処方された期間はきちんと内服すること、副作用の下痢などの消化器症状、味覚異常が出るかもしれないこと。抗菌薬を飲み切る 中堅薬剤師さん(薬局)治療の中心になるので、CAMだけは飲み切るよう指示します。また、副作用が出た際、継続の可否を主治医に確認するよう話します。別の医療機関にかかるときの注意 ふな3さん(薬局)CAMを飲み忘れた場合は、食後でなくてよいので継続するよう説明します。また、別の医師にかかる場合は、必ずCAMを服用していることを話すよう伝えます。後日談本症例の患者は、1週間後の再診時、血液検査の結果に異常は見られなかったが、ハウスダストのアレルギーがあることが分かり、アレルギー性咳嗽(咳喘息)と診断された。初診後3日ほどで、咳は改善したそうだ。医師からはシムビコート®の吸入を続けるよう指示があり、新たな処方はなされなかった。もし咳が再発したら受診するよう言われているという。1)井端英憲、他.処方Q&A100 呼吸器疾患.東京、南山堂、2013.2)日本呼吸器学会.咳嗽に関するガイドライン第2版.[PharmaTribune 2016年11月号掲載]

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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(前編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。後編はこちらから現在の心不全での標準的な治療を教えてください。心不全と一言で言っても治療はきわめて多様です。心不全に関しては今年(2018年)3月、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が第82回日本循環器学会学術集会で公表されました。これに沿ってお話ししますと、現在、心不全の進展ステージは、リスク因子をもつが器質的心疾患がなく、心不全症候のない患者さんを「ステージA」、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者さんを「ステージB」、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者さんを既往も含め「ステージC」、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、重度の心不全状態が遷延する治療抵抗性心不全患者さんを「ステージD」と定義しています。各ステージに応じてエビデンスのある治療がありますが、ステージA、Bはあくまで心不全ではなく、リスクがあるという状態ですので、一番重要なことは高血圧や糖尿病(耐糖能異常)、脂質異常症(高コレステロール血症)の適切な管理、適正体重の維持、運動習慣、禁煙などによるリスクコントロールです。これに加えアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、左室収縮機能低下が認められるならばβ遮断薬の服用となります。最も進行したステージDの心不全患者さんに対する究極的な治療は心臓移植となりますが、わが国においては、深刻なドナー不足もあり、移植までの長期(平均約3年)の待機期間が大きな問題になっています。また、重症心不全の患者さんにとって補助人工心臓(Ventricular Assist Device; VAD)は大変有用な治療です。しかしながら、退院も可能となる植込型のVADは、わが国においては心臓移植登録が行われた患者さんのみが適応となります。海外で行われているような植込み型のVADのみで心臓移植は行わないというDestination Therapyは本邦では承認がまだ得られていません。そのような状況ですので、ステージDで心臓移植の適応とならないような患者さんには緩和医療も重要になります。また、再生医療もこれからの段階ですが、実現すれば大きなブレーク・スルーになると思います。その意味では、心不全症状が出現したステージCの段階での積極的治療が重要になってきます。この場合、左室駆出率が低下してきた患者さんではACE阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースにβ遮断薬の併用、肺うっ血、浮腫などの体液貯留などがあるケースでは利尿薬、左室駆出率が35%未満の患者さんではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を加えることになります。一方、非薬物療法としてはQRS幅が広い場合は心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)、左室駆出率の著しい低下、心室頻拍・細動(VT/VF)の既往がある患者さんでは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使用します。そうした心不全の国内における現状を教えてください。現在の日本では高齢化の進展とともに心不全の患者さんが増え続け、年間26万人が入院を余儀なくされています。この背景には、心不全の患者さんは、冠動脈疾患(心筋梗塞)に伴う虚血性心筋症、拡張型心筋症だけでなく、弁膜症、不整脈など非常に多種多様な病因を有しているからだと言えます。また、先天性心疾患を有し成人した、いわゆる「成人先天性心疾患」の方は心不全のハイリスクですが、こうした患者さんもわが国に約40万人いらっしゃると言われています。高齢者や女性、高血圧の既往のある患者さんに多いと報告されているのが、左室収縮機能が保持されながら、拡張機能が低下している心不全、heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)と呼ばれる病態です。これに対しては有効性が証明された治療法はありません。また、病因や併存疾患が複数ある患者さんも多く、治療困難な場合が少なくありません。近年、注目される新たな治療について教えてください。1つはアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor/Neprilysin Inhibitor:ARNI)であるLCZ696です。これは心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進させる一方で、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害作用を抑制する薬剤です。2014年に欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)では、β遮断薬で治療中の心不全患者(NYHA[New York Heart Association]心機能分類II~IV、左室駆出率≦40%)8,442例を対象にLCZ696とACE阻害薬エナラプリルのいずれかを併用し、心血管死亡率と心不全入院発生率を比較する「PARADIGM HF」の結果が公表されました。これによると、LCZ696群では、ACE阻害薬群に比べ、心血管死や心不全による入院のリスクを2割低下させることが明らかになりました。この結果、欧米のガイドラインでは、LCZ696の推奨レベルが「有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している」という最も高いクラスIとなっています。現在日本では臨床試験中で、上市まではあと数年はかかるとみられています。もう1つ注目されているのが心拍数のみを低下させる選択的洞結節抑制薬のivabradineです。心拍数高値は従来から心不全での心血管イベントのリスク因子であると考えられてきました。ivabradineに関しては左室駆出率≦35%、心拍数≧70bpmの洞調律が保持された慢性心不全患者6,505例で、心拍数ごとに5群に分け、プラセボを対照とした無作為化試験「SHIFT」が実施されました。試験では心血管死および心不全入院の複合エンドポイントを用いましたが、ivabradineによる治療28日で心拍数が60bpm未満に低下した患者さんでは、70bpm以上の患者さんに比べ、有意に心血管イベントを抑制できました。ivabradineも欧米のガイドラインでは推奨レベルがクラスIとなっています。これらはいずれも左室機能が低下した慢性心不全患者さんが対象となっています。その意味では現在確立された治療法がないHFpEFではいかがでしょう?近年登場した糖尿病に対する経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が注目を集めています。SGLT2阻害薬は尿細管での糖の再吸収を抑制して糖を尿中に排泄させることで血糖値を低下させる薬剤です。SGLT2阻害薬に関しては市販後に心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者さんを対象に、心血管イベント発症とそれによる死亡を主要評価項目にしたプラセボ対照の大規模臨床試験の「EMPA-REG OUTCOME」「CANVAS」で相次いで心血管イベント発生、とくに心不全やそれによる死亡を有意に減少させたことが報告されました。これまで糖尿病治療薬では心不全リスク低下が報告された薬剤はほとんどありません。これからはSGLT2阻害薬が糖尿病治療薬としてだけではなく、心不全治療薬にもなりえる可能性があります。同時にHFpEFの患者さんでも有効かもしれないという期待もあり、そうした臨床試験も始まっています。後編はこちらから講師紹介

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心アミロイドーシス治療、タファミジスが有望/NEJM

 トランスサイレチン型心アミロイドーシスは、生命を脅かす希少疾患だが、米国・コロンビア大学アービング医療センターのMathew S. Maurer氏らATTR-ACT試験の研究グループは、トランスサイレチン型心アミロイドーシス治療において、タファミジスが全死因死亡と心血管関連の入院を低減し、6分間歩行テストによる機能やQOLの低下を抑制することを示した。本症は、ミスフォールディングを起こしたトランスサイレチン蛋白から成るアミロイド線維が、心筋に沈着することで引き起こされる。タファミジスは、トランスサイレチンを特異的に安定化させることで、アミロイド形成を抑制する薬剤で、日本ではトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの末梢神経障害の治療薬として承認されている。NEJM誌2018年9月13日号掲載の報告。対象は年齢18~90歳のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者 本研究は、タファミジスの有用性の評価を目的とし、13ヵ国48施設が参加した国際的な多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験。2013年12月~2015年8月の期間に患者登録が行われた(Pfizerの助成による)。 対象は、年齢18~90歳、生検検体の分析でアミロイド沈着が確定されたトランスサイレチン型心アミロイドーシス(トランスサイレチン遺伝子TTR変異陽性[ATTRm]および野生型トランスサイレチン蛋白[ATTRwt])の患者であった。 被験者は、タファミジス80mg、同20mg、プラセボを1日1回投与する群に、2対1対2の割合で無作為に割り付けられ、30ヵ月の治療を受けた。 主要エンドポイントとして、Finkelstein-Schoenfeld法を用いて、全死因死亡の評価を行い、引き続き心血管関連入院の頻度を評価した。副次エンドポイントは、ベースラインから30ヵ月時までの6分間歩行テストの変化およびKansas City Cardiomyopathy Questionnaire-Overall Summary(KCCQ-OS、点数が高いほど健康状態が良好)のスコアの変化とした。トランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の30ヵ月死亡が30%低下、心血管関連入院は32%低下 トランスサイレチン型心アミロイドーシス患者441例が登録され、タファミジス群(80mg、20mg)に264例、プラセボ群には177例が割り付けられた。全体の年齢中央値は75歳で、約9割が男性であり、106例(24%)がATTRmであった。 タファミジス群の173例、プラセボ群の85例のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者が試験を完遂した。所定の治療アドヒアランス率(計画用量の80%以上を達成した患者の割合)は高く、タファミジス群が97.2%、プラセボ群は97.0%だった。 Finkelstein-Schoenfeld法による30ヵ月時の全死因死亡および心血管関連入院は、タファミジス群がプラセボ群に比べ良好であった(p<0.001)。Cox回帰分析による全死因死亡率は、タファミジス群が29.5%(78/264例)と、プラセボ群の42.9%(76/177例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.51~0.96)。また、心血管関連入院率はそれぞれ0.48件/年、0.70件/年であり、タファミジス群で有意に低かった(相対リスク比:0.68、95%CI:0.56~0.81)。 6分間歩行テストの歩行距離は、両群のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者ともベースラインから30ヵ月時まで経時的に短縮したが、短縮距離はタファミジス群がプラセボ群よりも75.68m(標準誤差:±9.24、p<0.001)少なく、6ヵ月時には両群間に明確な差が認められた。 KCCQ-OSスコアも、両群のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者とも経時的に低下したが、30ヵ月時の低下分のスコアはタファミジス群がプラセボ群よりも13.65点(標準誤差:±2.13、p<0.001)少なく、6ヵ月時には両群間に明確な差がみられた。 安全性プロファイルは、両群のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者でほぼ同様であり、タファミジス群の2つの用量の安全性にも意味のある差は認めなかった。治療中に発現した有害事象は軽度~中等度であり、有害事象の結果としての恒久的治療中止の頻度はタファミジス群のほうが低かった。 著者は、「タファミジスは、NYHA心機能分類クラスIIIを除くすべてのサブグループで心血管関連入院率を低下させたが、クラスIIIの患者の入院率の高さには、病態の重症度がより高い時期における生存期間の延長が寄与したと推測され、この致死的で進行性の疾患では、早期の診断と治療が重要であると強く示唆される」としている。

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処方提案、残薬調整の法的な位置付けは?【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第5回

先日、身内が入院することになり、付き添いで大学病院に行ってきました。病院に着いて、まずは入院の事務手続きをし、部屋が決まり、その後、病棟に行き、荷物の整理をしていると、白衣を着た女性が部屋にやってきました。「○○さん。薬剤師の△△です。少しお話しさせてください」と。薬剤師の先生でした。私としては、薬剤師とこうして病棟で会ったことがなかったので新鮮でしたし、なにより、入院して一番初めに話す医療者が薬剤師であったことに、とても驚きました。身内と薬剤師のやり取りでは、他の病院から処方されている薬剤、市販薬なども含めて持参薬の確認、薬に関する質問などがありました。その後、薬剤師がどのような業務を行うのか詳細はわかりませんが、その情報を基に入院中の処方検討などをするのかと思います。病院によっては、医師による診察の前に行う薬剤師外来というものがありますが、それと同様に、処方提案や残薬調整なども行うのかもしれません。さて、このようなやり取りを見て、薬剤師が病棟で活躍する時代になったことを実感するとともに、対人業務が重視されるなか、処方提案や残薬調整についての業務は、薬剤師の重要な業務であることを再認識しました。そこで、このような業務の法的な位置付けについて考えてみました。現行法は薬剤師の職務の広がりに追いついていない?薬剤師の業務については薬剤師法に規定されており、具体的な内容は、その第4章(業務)で定められています。第19条 調剤の独占第20条 薬剤師の名称独占第21条 応需義務第22条 調剤の場所第23条 処方せんに基づく調剤第24条 疑義照会第25条 調剤した薬剤の表示第25条の2 調剤した際の情報提供および指導第26条 調剤済み処方せんへの署名など第27条 処方せんの保存第28条 調剤録の記入・保存第28条の2 薬剤師の氏名の公表第28条の3 事務の区分これを見るとわかるように、処方提案や残薬調整というのは、薬剤師法において、明確には規定されていません。調剤の定義をどのように捉えるのかによって変わる、あるいは情報提供や指導に含まれるのでは、という議論もあるかもしれません。しかし、調剤は処方せんに基づくのが前提であり、情報提供や指導も調剤した際の義務なので、調剤前の段階や自らが調剤していない薬剤の残薬調整となると、これらのなかに含めて考えるのは難しいような気もします。「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」にも調剤を行う場合の服薬状況および服用歴の確認などの規定がありますが、薬剤師法と同様に明確なものではありません。残薬調整に関係しそうな条文としては、在宅での残薬調整を前提にした以下の規定(薬剤師法施行規則13条の2第1項2号)がありますが、これも自身で調剤することを前提としています。薬剤師が、処方せんを交付した医師又は歯科医師の同意を得て、当該処方せんに記載された医薬品の数量を減らして調剤する業務(調剤された薬剤の全部若しくは一部が不潔になり、若しくは変質若しくは変敗するおそれ、調剤された薬剤に異物が混入し、若しくは付着するおそれ又は調剤された薬剤が病原微生物その他疾病の原因となるものに汚染されるおそれがない場合に限る)。以上のとおり、現在の対人業務で重要とされる処方提案などに、患者との関係では契約上の義務とされる場合があるとしても、法的に明確な規定はありません。薬剤師の任務についての規定は薬剤師法第1条にあり、もちろん調剤だけではありませんが、第4章の業務に規定されているのは、調剤に関わるものであり、薬剤師の職務の広がりを見ると、法が追い付いていないという側面があるかもしれません。(薬剤師の任務)第1条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。今後の医薬品医療機器等法改正で薬剤師の対人業務はさらに明記される?処方提案や残薬調整などは、法的に明確な位置付けはありませんが、薬剤師の専門性から期待されている業務といえるかと思います。そのため、調剤報酬などでは評価されているのでしょう。薬剤師が、処方提案や残薬調整などを積極的に行っていくことは好ましいはずです。現状の具体的な例を挙げますと、2014年に「必要な薬学的知見に基づく指導」(薬剤師法25条の2)が追加されました。このことは対人業務の充実への期待といえますので、ほかの業務でもよい結果を示すことが、今後の法改正につながるかもしれません。法に明記されるということは、国民からの期待といってもいいかと思いますし、薬剤師に対してそのような期待を持ってもらいたいところです。“対物”から“対人”という流れで、薬剤師の業務も今後、より変化していくでしょう。そういう意味で、来年予定されている医薬品医療機器等法の改正には注目をしたいところです。参考資料1)e-Gov 薬剤師法2)e-Cov 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則3)e-Gov 薬剤師法施行規則

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認知症診断を告知すべきタイミングに関する調査

 最近の認知症関連の分野において、早期診断の議論は、タイムリーな診断を行う方向へ向かっている。タイムリーな告知には、個々の希望や状況を考慮する必要がある。告知に関して患者、その家族、医療従事者の見解が異なる場合、告知がタイムリーであるかの判断は、とくに複雑となる可能性がある。オーストラリア・ニューカッスル大学のRochelle Watson氏らは、認知症診断がどのタイミングで告知されるべきかについて、告知される側の希望に関する検討を行った。BMC Health Services Research誌2018年8月6日号の報告。 オーストラリアの病院で、外来診療に通院中の英語を話す成人を対象に、横断調査を実施した。対象者は、病院の待合室で調査アシスタントより、ウェブに接続されたiPadによる調査への協力を求められた。調査には、社会人口統計および認知症の経験歴を審査する質問が含まれていた。2つのシナリオを用いて、告知のタイミングについて希望を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象者446例のうち92%は、認知症の診断はできるだけ早い告知が望ましいと考えていた。・告知の希望には、社会人口統計または認知症の経験歴との関連は認められなかった。・また、対象者の多く(88%)は、配偶者やパートナーが認知症と診断された場合においても、できるだけ早い告知を望んでいた。・告知の希望について、自分が診断された場合と配偶者が診断された場合との間に、強い相関が認められた(0.91)。 著者らは「本知見は、認知症診断の告知への希望について指針を提供しており、タイムリーな診断の潜在的な障壁を克服するため役立つであろう。認知症の罹患率が増加する今後、できるだけ早く診断してほしいとの希望を考慮することは、保健システムにとって重要な意味を持つ」としている。■関連記事どのくらい前から認知症発症は予測可能か高齢ドライバーの認知症診断と自動車運転事故リスク認知症にならず長生きするために

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東京医大入試減点問題、若いほど理解できる? 男女の医師1,000人に聞きました

東京医科大学の入学試験で、女性の受験者への一律減点が行われていたことが明らかになった。この問題を受け、文科省は全国に81ある医学部医学科を対象に、入試の公正性に関する緊急調査を開始している。現場で働く医師たちにとって、この問題はありえないことなのか、理解できることなのか。ケアネットはCareNet.com会員である男性医師504人、女性医師501人の計1,005人にその実情と意見を聞いた。結果概要男性で67.9%、女性で69.5%が女性の減点問題に一定の理解入試での女性減点問題に「理解できる」と答えた医師は、男性14.9%、女性13.8%と若干男性医師に多い傾向がみられたが、「不公平ではあるが、ある程度理解できる」という医師を含めると、男性67.9%、女性69.5%と女性のほうが多い傾向となり、減点される側の立場である女性医師も、この問題に一定の理解を示していることがうかがえる。その理由としては、「実際に常勤医で戦力として残っている女医は少ないから(麻酔科・40代女性)」、「男性に向いている科は確かに存在するし、力が必要な時もあるから。制限をつけないでとると、女性だらけになってしまう(小児科・20代女性)」、「女医が増えたら、眼科・皮膚科だらけになる。今でも医師の偏在が問題になっているのに、もっと困ることになる(内科・40代女性)」などの声が上がっている。また、「医局で働いている途中で、とくに若手で妊娠してしまうと、当直やオンコールはじめ周囲へのしわ寄せが大きくなってしまうので、罪悪感からとてもこのような状況では妊娠できないと感じていた(内科・30代女性)」、「子持ち女医ですが、夜も休日も働けず、迷惑をかけています。男性は子持ちでもそれがない。周りの多くの女医は、クリニックや健診など、楽で給料のよいところに行ってしまい、人の足りない総合病院には残らない。やはり男性が必要でしょう(産婦人科・40代女性)」など、出産・育児と医師として求められる仕事の両立に、難しさや周囲への罪悪感を感じていることがうかがえた。男性側も、「子供ができたのちキャリアダウンしようとする女医の数は少なくないので、仕方がない(循環器内科・30代男性)」、「現実問題として現在の医療現場の忙しさからいえば、女性医師が増えると回らなくなるのは正直なところ(皮膚科・20代男性)」などの声がある一方で、「父親も育児参加が求められる中で、女性医師ばかりが当直免除などの恩恵を受けるのは仕方ないと思う反面、腑に落ちない面も残る(精神科・30代男性)」、「男女平等は強調されるが、男女公平が議論されない。男性医師が育児休暇を公平にとれる体制や理解が、現状の医療体制で整うとは思えない(神経内科・30代男性)」など、出産・育児による休暇取得や当直免除などが、男性ではより実現しにくい現状も垣間見えた。画像を拡大する男女ともに年代が低いほど理解を示す傾向年代別に回答を見てみると、「理解できる」と答えた医師は、男女ともに年齢が上がるにつれ減少。「不公平ではあるが、ある程度理解できる」という医師を含めると、50代の男女で最も少なく、「理解できない」と答えた医師の割合が高かった(男性:39.9%、女性:42.2%)。画像を拡大する診療科別では、外科(42.9%)、泌尿器科(38.5%)、精神科(38.2%)、小児科(36.5%)、脳神経外科(36.2%)の順に「理解できない」という回答が多かった。画像を拡大する男性で38.5%、女性で28.3%が入試での女性比率の制限は「必要」と回答入試での女性比率の制限については、男性の38.5%が「必要」と答え、「不要」と答えた人(34.9%)を上回った。「必要」と答えた人の理由としては、「差別ではなく区別は必要。定員として男子・女子各何人と明確にすればよいと思う(皮膚科・40代男性)」、「こっそり減点は駄目だと思うが、制限するとあらかじめオープンにして試験をすればよい(眼科・50代男性)」などの声がきかれた。また、「年代別に男性、女性が医師として働いている割合、どのような形態(常勤/非常勤、終日/パート、当直の有無、回数、勤務場所など)で勤務しているか調べてみればよい(整形外科・60代男性)」、「データに基づいて比率を決定すべき(眼科・30代男性)」といった意見や、「男女平等を言うならすべて同じにしないといけない。女性医師は出産・育児で優遇される。その分のしわ寄せは男性医師にくる。最初から比率を決めて入試すればすむ(外科・40代男性)」といった意見もみられた。女性では、「不要」と答えた人(37.9%)が最も多く、「どちらともいえない」と答えた人(33.7%)も多かった。「不要」と答えた人の理由としては、「診療科による偏りの是正は必要だが、それを男女の制限に落とし込むことは論点が違い差別である(神経内科・20代女性)」、「入試時の性別ではなく、医師になってからの科ごとの人数・男女制限が必要だと思う(精神科・30代女性)」、「入試における操作で医師の男女比を調整するのではなく、医師の労働環境そのものを改善する必要がある(神経内科・30代女性)」など、性差のみで判断することへの懸念の声が上がっていた。画像を拡大する20~40代の男性医師が最も「比率制限が必要」と感じている?年代別では、39歳以下および40代の男性医師で、それぞれ4割以上が入試による女性比率の制限が「必要」と回答。60歳以上で唯一、「必要」と答えた割合が女性で上回ったが(男性:32.9%、女性36.7%)、その他の年代ではそれぞれ10%ほど、女性よりも男性で「必要」と答える人が多かった。画像を拡大する診療科別では、産婦人科(40.6%)、泌尿器科(38.5%)、循環器内科(38.5%)などで「必要」と答えた割合が高く、外科(14.3%)、精神科(25.0%)、糖尿病・代謝・内分泌内科(26.9%)などで低かった。画像を拡大する設問詳細Q1.医学部入試での女子減点問題、先生はどう思いますか?理解できる不公平ではあるが、ある程度理解できる理解できないQ2.入試における女性比率の制限は必要だと思いますか?必要不要どちらともいえないQ3.Q1、Q2について、その理由やご意見をお寄せください。アンケート概要内容緊急アンケート!東京医大女子減点問題、先生はどう思いますか?実施日2018年8月9~10日調査方法インターネット対象ケアネット会員医師1,005名アンケート調査にご協力いただき、ありがとうございました。コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承ください)実情について妊娠出産、育児があるとこの仕事は無理だと思う。子供を産むと10年くらい求められる仕事はこなせない。調整されても仕方がない(救急科・30代女性)出産や育児でいきなり穴をあける・時短になるなどで、常勤として働いていても周りにしわ寄せがいっている。また周りの女医をみてもバイトだけの生活をしている割合が多く、女性医師が増えすぎると上に立ったり指導できる人がいなくなる(内科・30代女性)産後、当直している女性医師は限りなく少ない。また年代が上がると、男性医師も当直回数が減り、若手男性医師が多くを担っていると思われる。実際当直している女性はどれほどいるか知りたい(皮膚科・30代女性)外科系医師、ERの医師、当直医など、女性でしっかり勤められている先生もいるが、少数(眼科・40代女性)女性医師は男性医師の7割程度のマンパワーと感じる(呼吸器内科・40代女性)男女平等といっても体格差があり、長時間手術や激務に耐えうるのは男性であるため。専門医制度も変わり、きつい科は避けられる傾向にある(呼吸器内科・40代女性)人口の半分は女性。女性は女医を希望する方が多い。小児科や婦人科はなおさら。確かに力がいる整形外科などもあるが、周りで協力すればよい。直腸診など女性患者には男性医師は女性の立会いが必要ですよ(内科・40代女性)外科系に進む研修医が激減し、将来的に外科系医師がいなくなってしまうから理解はできます。しかしそれ以上に女性医師が働きやすいように外科の環境を急ピッチで変えるべきですし、環境だけでなく外科の上級医のマインドも変えないといけないと思います(精神科・40代女性)女性医師の多くが結婚や出産でリタイアし、復帰後も効率の良いアルバイトをしている現実をみると国費の無駄遣いと感じます。男女問わず実戦で活躍する覚悟が必要だと思います。覚悟を持って入学するべきで、そこに男女の差はありません(眼科・50代女性)男性医師、独身女医の負担が大き過ぎ。家庭を抱え努力している女医はいるが、「家庭があることを利用して嫌な仕事は受けない、しかし美味しい業務には参加する」女医が一定数いるのは確か。穴埋めに感謝の意を示してくれればまだしも、当然の権利と主張する女医がいかに多いことか! むしろ逆性差別、逆ハラスメントです(小児科・50代女性)結婚、妊娠、子育て等に伴う職場整備を進めない限り、一部の女性医師が十分に働けない状態は続く(小児科・50代女性)健診や一般外来など、負担が少なく給料のよいバイトがある現状では、産後にフルタイムで復帰する女医さんは増えないと思う。女医さんを支えるだけの十分なフルタイムの医師がいない。僻地医療が崩壊する(内科・30代男性)緊急、呼び出しがある診療科では、現状の市中病院の勤務体系では育児を両立することは難しいと思います。女性を優遇することで男性勤務医への時間外待機、突然の女性医師欠勤時の勤務負担は確実に増えますが、当番の交代を女性医師に依頼することができるわけではなく、暗黙のうちに相殺され不公平感を感じると思います(内科・30代男性)女性は男性よりも早く医局をやめる。先輩からするとせっかく育ってきたときにやめるため、また一からやり直ししないといけない(皮膚科・40代男性)実際の現場では、家庭を両立させながら救急、当直などきつい仕事を行うことは困難であり、その分の負担が男性医師にきている(呼吸器内科・40代男性)女性は結婚や出産により現場を離れる可能性が高く、そのまま戻って来ないことも往々にしてある。その女性が診ていた患者は、結局残された人間で診ることになり負担が増える。とくに忙しい外科系には男性のみで十分であると思うことがある(泌尿器科・40代男性)夜勤や夜間・休日のオンコールに対応している医師の割合を詳細に調べれば、現在の問題がわかると思います。結婚・出産が女医さんのキャリアを中断させてしまうのは事実であり、しかもその時期が医師として一番活躍できる時期と一致してしまう。日本は女性が家庭を守るといった感覚がそこかしこに残っているので、女医さんが家庭の事情でそうなることは仕方がなく、まだまだ男女平等と呼べる社会には遠いように思います。さらに全体として、夜勤を必要としない科を希望する若い医師が多いのも事実であり、女医さんの問題だけを解決してもしょうがないのかもしれません(麻酔科・40代男性)当直は常勤の人間が安い当直料で疲弊しながら働き、女医は高いバイト代をもらって楽な日勤をやっている。昼の楽な日勤を週3回すれば常勤並みのお金をもらえるので、常勤に戻らずバイトで稼ぐ女医がかなり多い(産婦人科・50代男性)現状の医療現場では、これ以上の女医の増加は他の男性医師の限りない負担増加へつながる。男女同権を貫くなら、欧米並みに勤務交代制や育児保育施設の整備を充足しなければ、絵空事である(皮膚科・60代男性)入試による女性比率の制限に対する意見について制限するなら、募集要項にちゃんと記載するべきだと思います。東京医大のやり方はアンフェアでまったく賛成できません(循環器内科・30代女性)それよりも卒業生の子弟を加点するほうがもっと問題だと思う(眼科・30代女性)面接での加点は致し方ないとしても(印象点という意味で)減点はさすがにひどいと思う。あと、現場には産後も、もっと働きたいのに働けない先生もたくさんいるので、もっと働きやすい環境になってほしいと思う(麻酔科・30代女性)入試要項に女性制限が記載されていればよいと思う(耳鼻咽喉科・40代女性)国公立大学の場合は制限できないと思います(循環器内科・50代女性)入試で制限するより、女性がどうしたらやめないか、働きやすいかを考えるべき(小児科・30代男性)募集要項に明記すればいい(皮膚科・40代男性)入試制度だけで解決できる問題ではない。医師だけ女性制限を認めると、他の業種とのバランスがとれない(精神科・40代男性)性別や浪人回数で差別はいけない。努力して勉強しているのだから(内科・50代男性)入試に際して女性が上位を占めることは明らかである。女性が向かない体力を要する診療科があることを示したうえで、合格者に占める男女の人数を明示しておくのがよいと思う(腎臓内科・70代男性)解決策について女医でも働きやすい環境にすればよい。キツイ診療科は主治医複数制、産休育休当たり前にするとか、保育所増やすとか(麻酔科・30代女性)入試は公平に行い大学病院勤務の際に制限してはどうか。女性医師を受け入れると表明したほうが結果的には人手が増えると思うが…。国家試験である以上、入試での制限は認められないと思う(循環器内科・40代女性)女性医師のライフプランについては入学後に教育することも可能であるはず(麻酔科・40代女性)男性医師を増やしたい気持ちはよくわかるが、入試時点で差別するのは問題。医局入局もしくは病院就職の時点で選別すれば、普通の一般企業と同じだから問題ない(眼科・50代女性)現場の疲弊と性差別の問題は別で考えるべき。むしろ、女性が長く残れる環境作りがあらゆる問題の解決方法である、という共通認識を確立するいい機会(内科・50代女性)育児、介護問題を女性特有の問題と認識すること自体を改めるべきである。男性も含めて、個人的理由で短時間勤務をする必要が生じる可能性のあることを踏まえた人員配置が必要なのではないか(麻酔科・50代女性)医師全体の勤務状況を改善すればよい。男性勤務医でも当直後の連続勤務、時間外労働賃金がきちんと管理され支払われてないことが問題で、女性に限ったことではない(内科・60代女性)男性医師が現状を維持するのではなく、働き方について医療関係者、患者とその家族も意識を変えていく必要がある。女性が入れないような勤務体制自体を見直さなければ早晩医療崩壊するのは免れない。「仕方がない」「男性と同じように女性も働くべき」ではただの足の引っ張り合いでしかない(精神科・30代男性)一番しんどいのは夜間救急であり、それができるかできないかは医師という仕事を考えるうえで最も重要な議論であり、絶対に避けてはいけない(腎臓内科・30代男性)女子医大もあるので、医学部定員を男6~7、女3~4で分ける。もしくは男女関係なく卒後5~6年の内科、外科、救急など多忙な科の勤務義務化など(消化器内科・40代男性)女性医師がフルタイムで働かない比率が高いため、このようなことが起こる。出産育児早期は仕方ないがその後はしっかり働いてもらう制度、そのための保育所などの整備が必要(麻酔科・40代男性)女性が増えればアルバイト医のみが増え続け、3Kを担う医師は減り、実労働可能な医師不足が加速します。国民の医療に対する考えを根本的に変えないと、女性も働ける医療現場は増えません(内科・50代男性)そもそもフルタイムとはどのような働き方かを討論しないと結論は出ない(脳神経外科・50代男性)

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循環器内科 米国臨床留学記 第29回

最終回 臨床留学を通して感じた、日本人の仕事に対する倫理観研修医と専門医研修の両方を日米で行うというのは稀ですが、それを行った私の経験から、日本と米国の研修システムを比較してみたいと思います。主観的な意見もありますので、ご了承ください。以前は、米国の教育システムが日本の教育システムよりも体系的で、米国で臨床を経験することで、卒後教育がどういったものであるべきかを学ぶ、という点だけでもかなり意味があったのではないでしょうか。米国を参考に日本のレジデンシー、フェローシップ教育が作られているのは間違いないと思いますが、その点において米国帰りの先生たちによる日本の医学教育への寄与は大きかったと思われます。優れた研修プログラムは日本にも米国にもある日本で臨床研修が義務化された2004年頃から、日本の教育システムもかなり変わってきました。批判もありますが、統一された基準の下での研修という意味では、進歩があったと思います。インターネットが普及して、日米を問わず、Evidence Based Medicine(EBM)が当たり前となっています。指導医がUpToDateなどを使ってきた世代になりつつありますし、場所を問わず、EBMを実践することは可能です。日本でも、評価が高く、また臨床研修に力を入れているような病院では、米国と遜色ない臨床のトレーニングを受けられると思います。ここで“評価が高い”と限定したのには理由があります。日本では研修医の数よりも研修プログラムの募集定員数の方が多いため、指導医の数や指導内容が伴っていない研修プログラム(指導医が不十分、研修体制が不十分など)がかなりあるように感じます。数年前になりますが、とある日本の病院で短期間働いたときに、「こんな指導医がほとんどいないような病院でも、臨床研修の指定を受けられるのか」と衝撃を受けたこともあります。これは研修プログラムを支える環境や文化の違いもあると思います。米国ではプログラムディレクターやチーフレジデントはかなりの時間を研修プログラムのマネージメントに割いていますが、それに対する時間が確保されており、また、給料や社会的な評価も伴います。日本でプログラムディレクターをやっていても、それに時間を割いている分、臨床を免除されることもなく、ボランティアということがほとんどではないでしょうか。プログラムディレクターや指導医の待遇を改善しなければ、プログラムの質の改善も難しいと思います。こういった側面があるとは思いますが、評価の低いプログラムは淘汰されていく必要があると思います。全米のみならず各国からレジデントの希望者が殺到する米国では、末端のトレーニングプログラムですら、教育体制はそれなりに整っています。実際、私が研修したのは外国人ばかりのプログラムで、ランクとしては下の方のプログラムでした。しかしながら、指導者はやる気に満ち溢れ、各国代表ともいえる優秀なレジデントは学習意欲に溢れていました。実際、米国ではプログラムは常に評価されており、レジデントからの評判や専門医試験の合格率が低いと廃止となることもあります。米国における多様な患者層や疾患米国では患者も多人種にわたり、日本で経験できないような症例もたくさん経験できます。また、いろいろな国から来た、さまざまなバックグラウンドを持つレジデント、指導医、医療従事者と仕事をするということは、かけがえのない体験です。難民などから這い上がってきた同僚をみると、自分がいかに恵まれていたかを思い知らされます。日本と違う国で働くという経験は何事にも代えがたい貴重な経験だと思います。日本の“スーパーローテーション”問題日本の初期臨床研修の、いわゆるスーパーローテーションにも問題があると思います。内科医になりたいのに、精神科や産婦人科をお客さんとしてローテートしても、将来的に役に立たない可能性が高いと思われます。こういったことは学生の間に済ますべきだと感じている医師がほとんどではないでしょうか。結果として、内科、外科、産婦人科、精神科など異なる科を目指す研修医が一緒になって研修をして、共有された目的がないというような状況が生まれます。米国のinternal medicine(内科)のレジデントは、ほとんどが“Categorical”と呼ばれる将来内科医となる人たちです。彼らにはinternal medicineの専門医を取るという明確な目的があり、かなり早い段階から専門医試験の勉強をしており、知識のレベルも高いです。同じ目標を持つレジデントと切磋琢磨できる環境が、内科、外科を問わず理想的だと思います。日本でしか学べないこととは?一方で、日本の研修システムにも優れた点がたくさんあります。例えば、手技に関しては日本人の研修医のほうがはるかに優れています。米国のレジデントは急変時には手が動かないというか、手技が何もできないのです。挿管は麻酔科を待ち、点滴、採血も技師かナースを待つのがほとんどです。一刻を争う状況で、エコーなしに大腿静脈からラインを確保する、自ら挿管を行うというようなことは経験がないためできません。また、仕事に対する取り組み方も異なります。個人差はもちろんありますが、概して、日本人の方が責任感を持って仕事に取り組んでいる研修医が多い気がします。米国はいい意味でも悪い意味でもシフト制が浸透しているため、“自分の患者”という意識がレジデントには希薄です。また、専門医がたくさんいるため、さまざまな科にコンサルトを出すが、レジデントや指導医に主体性がないため、方針が何も決まらないといったこともよくあります。日本で私が研修医だった頃のように夜中になっても患者の急変で病院に戻ったり、土日も病院に来なければ行けないというのは時代にそぐわないですし、もはや受け入れられませんが、自分の患者という意識は大切だと思います。医師としての最初の仕事である研修医の間に学ぶ患者に対する態度、姿勢はその後の在り方を決めうると思います。その意味でも、日本の良質なプログラムの中で高い倫理観を持った指導医や先輩と仕事をすることは、一生の財産になると思います。医学生の皆さんには、優れた指導医や先輩がいて、臨床研修に力を入れている施設での研修を目指してほしいと思います。臨床留学は実現可能な目標臨床留学を目指していた頃は、臨床留学の意味など考えたことがありませんでした。ただ、気が付いたら米国で臨床がしたいと思っていました。そして、臨床留学を目指してからは、“目指した以上後に引けない”というのが大きなモチベーションでした。実際、私は帰国子女でもないですし、初めて海外に行ったのも大学2年生の時でした。臨床留学を知ったのも大学6年生でハワイ大学に研修に行ってからです。当時はテレビ番組の“ER”などを見ながら、臨床留学を夢見ていました。英語は今でも苦労していますし、“ちょっと何言っているか分からない“的なことを患者や指導医から何百回も言われてきました。英語は完璧にはなりえませんが、英語以外の部分で日本人は挽回できます。トレーニングを2つの国で繰り返すのは、時間の無駄かもしれませんが、誰にでもできるわけではない経験ができたと思い、後悔はありません。臨床留学はレジデントからだけでなく、フェローからでも可能です。興味があれば、ぜひ挑戦してみてください。個人的には、“日本の優れた研修病院“で初期研修を受けてからの留学をおすすめします。患者や仕事に対する責任感、これは日本でしか学べない部分だと私は思っています。日本にいた頃は当たり前だと思っていたが、米国では当たり前ではない素晴らしい部分が、日本人にはたくさんありました。そのたびに、日本人でよかったと感じてきました。過去3年間にわたり連載を続けてきた「循環器内科 米国臨床留学記」も、私のフェローシップ卒業とともにいったん終了となります。これまでたくさんの叱咤、激励、質問などをくださった方々、貴重な時間を割いてお付き合いくださった読者の方々、本当にありがとうございました。

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第10回 救急車を呼ぶ=蘇生に力を尽くしてください【はらこしなみの在宅訪問日誌】

こんにちは。在宅訪問専任の薬剤師・はらこしなみです。目の前で亡くなりそうな(亡くなっている)人を見たら...目の前で亡くなりそうな(亡くなっている)人を見たら...。とっさに警察や救急車の手配をしますよね。これが在宅療養患者さんだったら。主治医も看取ることはできず、お家の中は警察官だらけ。遺体収納袋に入れられて搬送されてしまいます。医師が死亡確認したり、家族が触ったりできないようです。事件性がなくても証拠保全のためだとか。発見者や家族は、聞き取り調査をされる(犯人探しのように...)、と。ご存じの方も多いかもしれません。でも、今は...現在は在宅医療の普及からか、ヘルパーさんなどが救急車を呼んでも、その後すぐに主治医が駆けつけて在宅で看取ったこともあります。死亡時の場合に救急隊員が運ばずにいてくれたり。「救急車を呼ぶ=助けて下さい、蘇生に力を尽くしてください」ということをしっかり理解するよう医師から言われています。患者さんやご家族には、在宅療養が開始になるときに、主治医が"在宅療養の心得"として、救急車を呼ぶ意味とその覚悟について口頭で伝えたり、書類を渡したりします。看護師や薬剤師の私も、その都度伝えたり、確認したりします。家族に見守られ・・・穏やかに・・・自然に。在宅療養で看取りを希望する際に、どのように医師が伝えているかと言うと...。「できる限り駆けつけますが、亡くなった後の訪問になることがほとんどです。急変してもあわてない。なるべく主治医に連絡してください。救急車では手の届かない病院に行ってしまう場合があります。救急車を呼ばない覚悟はありますか?呼ばずに家族で看取るのです。」最初は家族も迷います、揺れます。思いを重ねて、重ねて...結論を出していきます。「自宅で看取る。」そう決めていても、最後にはやっぱり入院させて下さい。という場合もあります。病状の変化があれば、いつでも話し合いが開かれます。話し合いの場で薬剤師は何ができるのか...。思い悩んでいます。

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ブル【どう頼む?どう分かってもらう?】

今回のキーワード裁判心理学分析力信頼感プレゼンテーション能力社会脳インフォームド・アセントみなさんは、なかなか相手にうまく頼めないと悩んだことはありますか? どうすれば頼み事に応じてもらえるでしょうか? どうすれば自分のことをより分かってもらえるでしょうか? 私たちは、日々、職場や家庭で、相手に頼んだり頼まれたり、一方で応じたり、そして拒んだりしています。できることなら、うまく頼んで応じてもらいたいですよね。今回は、「どう頼む?」をテーマに、アメリカの連続ドラマ「ブル」を取り上げます。ブルは、ちょっと風変わりな心理学者です。彼の心理学的な手法によって、裁判で陪審員の心を動かし、毎回、クライアントを有利に導きます。このドラマで一貫しているのは、ブル側の主張を分かってもらうために、自分たちの視点以上に、相手の陪審員たちの視点に目が向いていることです。この手法は、裁判に心理学を駆使しているという意味で、裁判心理学と呼ばれます。ここから、「どう頼む?」の要素を主に3つに分けて整理してみましょう。それは、「誰に頼む?」、「誰が頼む?」、そして「何を頼む?」ということです。誰に頼む? ―相手をよく知る分析力ブルは、情報収集のチームを組んで、裁判の陪審員候補たちの日々の生活、人間関係、ネット検索履歴などを徹底的に洗い出します。また、陪審員を選別する最初の段階では、例えば「なぜ風邪をひくのでしょう?」等の質問をします。これは、風邪という不確定なものへのコントロール感です。「体調管理を怠ったから」と答える人は、被害者意識が少ないとブルは分析します。その他に「歴史上で尊敬する人は?」「銃を突きつけられたらどうする?」などの質問を通して、陪審員の価値観が理想主義か現実的か、合理主義か感情に流されやすいかを見極めます。これらのプロファイリングをもとに、価値観が不利な陪審員を外し、ブル側になるべく有利な陪審員を残します。1つ目のポイントは、「誰に頼む?」、つまり相手のことをよく知る分析力です。ブルのように、私たちも、この分析力を発揮しましょう。今回は、相手のコミュニケーションのタイプを分析することによって、それぞれの頼み方を考えてみましょう。コミュニケーションのタイプは、大きく3つに分けることができます。(1)ピラミッド型1つ目は、ピラミッド型です。これは、ピラミッドのような力関係を重んじるコミュニケーションタイプです。このような相手には、上下関係を前面に出した頼み方が有効です。例えば、「これはあなたがやるべき仕事です」「これは組織としての命令です」などとシンプルにストレートに伝えることです。注意点としては、相手ができそうなことのみに限って頼むことです。逆に言えば、相手ができそうにないことは初めから頼まないことです。なぜなら、相手に断る余地があまりないので、無理な頼み事を引き受けさせて、相手を追い込んでしまうからです。そうならないために、普段から相手の能力を把握する分析力も必要です。(2)ファミリー型2つ目は、ファミリー型です。これは、ファミリー(家族)のような信頼関係を重んじるコミュニケーションタイプです。このような相手には、親密な人間関係を全面に出した頼み方が有効です。例えば、「やってくれるとうれしい」と気持ちを添えたり、「みんな順番でやってるの。やってないのはあなただけ(次はあなたの番)」と遠回しに伝えることです。人は大多数の人と同じことをしていたいという心理を利用しています(同調性)。また、最初に断られても、「やりたくないの?」「残念だわ」「あなたらしくないのね」「仕方ないわね」と逡巡しながら引き下がるそぶりを見せることです。すると、相手は「引き受けた方が良いかな?」と揺さぶられます。「押してだめなら引いてみる」という発想です。これは、あえて頼みを引き下げることで相手の断ることへの抵抗が出てくる心理を利用しています(心理的抵抗)。さらに、「この仕事とあの仕事、どっちが良い?」「この仕事、いつから始めるのが良い?」などと質問することです。これは、最初から二択に持ち込んだり(二択質問)、引き受けることを前提にしています(前提質問)。ちなみに、二択のうちの対抗選択肢は、「かませ犬」になりますので、引き受けにくそうなものが良いでしょう。注意点としては、「いつも私ばっかり」と思われないように、普段から他のメンバーとの分担のバランスを見極める分析力も必要です。(3)フラット型3つ目は、フラット型です。これは、フラット(対等)な協力関係を重んじるコミュニケーションタイプです。このような相手には、ビジョン(目標)を共有した仲間意識や役割意識を全面に出した頼み方が有効です。例えば、「クライアントの満足度を上げる目標のために、あなたの役割はこれ」「あなただからこそやってほしい」「あなたにしかできない」と情熱的に伝えることです。言い回しとしては、「この仕事をすることは可能?」と確認の形にすることで、相手の対等な関係に配慮していることを伝えられます。また、「クライアントさんの笑顔が目に浮かぶ」など、イメージが浮かびやすい例えを使うのも効果的です。さらに、「こういう仕事があるんだけど、この仕事のメリットって何だと思う?」と尋ねて、まず相手にメリットを聞き出して、その後に「じゃあやってみる?」と誘導することです。これは、良さをあえて考えさせて、良いと思い込ませることで、引き受けやすくなる心理を利用しています(自己説得法)。先ほどの二択質問との合わせ技としては、「この仕事とこの仕事はどっちが自分に合ってそう?」「そう思うのは何か理由がある?」という質問になります。注意点としては、普段から、相手のビジョンや好みをよく知り、ビジョンのすり合わせをしたり、役割意識を見いだす分析力も必要です。誰が頼む? ―相手が耳を傾けたくなる信頼感ブルは、一流のスタイリストをチームのメンバーにしています。そして、クライアントの身だしなみ、髪型、化粧の濃さまで、細かくチェックしています。陪審員の先入観がいかに判決に影響を及ぼすかをブルは熟知しています。また、弁護する代理人は、ある時はテレビで好感度の高い有名人、また別のある時は癒し系の女性が引き受けます。陪審員の好みやケースの内容によって、最も有利な代理人を選んでいます。2つ目のポイントは、「誰が頼む?」、つまり相手が耳を傾けたくなる信頼感です。ブルのように、私たちもこの信頼感を思う存分に発揮しましょう。信頼感は、大きく3つに分けることができます。(1)好意1つ目は、好意、好感度です。相手に「あの人の頼みなら」と思わせることです。相手によく思われている、少なくとも嫌われていないことです。そもそも嫌われているとこちらも分かっていたら、頼みにくいです。まず、自分が相手をよく思うことです。そのために、相手の良いところを探すことです。そして、相手をよく思っていることをアピールすることです。これは、好意を寄せられれば、お返しのように魅力を感じる心理を利用しています(魅力の返報性)。また、親近感を出すことです。そのために、共通点を探すことです。経歴、趣味、人間関係などで相手との共通点を見つけ出し、相手と「近い」ことをアピールすることです。これは、近かったり似ていれば、時間的にも肉体的にも経済的にも負担(コスト)が少なくて済むと感じる心理を利用しています(社会的交換理論)。さらに、相手の自尊心を高めることです。そのために、感謝を探すことです。「悩んでいるから聞いてほしい」とあえてこちらから相談を持ちかけ、「聞いてくれてありがとう」と相手に普段から感謝し、相手を頼りにしていることをアピールすることです。これは、不利な状況の人には助けたい、よくしてあげたいと感じる心理を利用しています(アンダードッグ効果)。(2)恩義2つ目は、恩義です。相手に「お返しをしなければ」「お返しをしたい」と思わせることです。普段から親切に接したり、丁寧に伝えることを通して相手を気に掛けたり心配することです。それが相手のお返しの気持ちにつながります。これは、頼み事をする時に、先に謝礼を出すと承諾が得られやすいことに似ています(事前謝礼法)。さらに、先ほどにも触れたように、こちらからあえて相談を持ちかけたり、小さな頼み事を普段からすることです。そうすることで、逆に相手からの相談や頼み事を引き受けやすくなり、お返しの気持ちを得やすくなります。これは、人は自分の経験や周りの状況を基準にして、行動を起こすかを決めるという心理を利用しています(参照点)。また、小さな頼み事については、相手から毎回承諾を得ることです。そうすることで、相手はそれまでの承諾に引きずられて、より大きな承諾をしやすくなります。これは、人は一貫した態度をとり続けたいという心理を利用しています(一貫性要求)。(3)権威3つ目は、権威です。相手に「上の人や他の人にも頼まれるからにはさすがに」「そこまでするなら」と思わせることです。つまり、「1人でだめなら、2人で押す」ということです。自分だけでなく、さらに上の上司や他の同僚にも協力をしてもらい、人数をかける、人数を増やしていくことです。「誰が頼む?」だけでなく、「誰と頼む?」ということも重要だということです。これは、頼む行為に対して労力(コスト)をかけている、その分大切にされているという心理を利用しています。また、人は大多数の意見に合わせたいという心理も利用しています(同調性)。何を頼む? ―納得できるプレゼンテーション能力ブルは、陪審員のプロフィールから、陪審員たちの知的レベルや知識レベルを分析します。ブル側の代理人には、そのレベルに合わせた言葉や表現をするよう指示します。また、例えば、ある陪審員が料理人なら、その人の前では話を料理に例えます。法廷で、ブルはいつも陪審員の表情やしぐさなどをちらちらと観察しています。例えば、陪審員が専門用語で上の空になっているなら、かみ砕いた言い回しや例えをするよう代理人に仕向けます。そして、オフィスには、本物の裁判の陪審員と同じプロフィールの模擬陪審員を集めて、徹底的にリハーサルとシミュレーションをしています。時には、8歳の子どもの模擬陪審員を集めて、模擬裁判を行い、弁論が子どもたちにも理解できるか確認しています。このように、陪審員の反応に合わせて、最も有利な弁論を展開しています。3つ目のポイントは、「何を頼む?」、つまり相手が納得できるプレゼンテーション能力です。ブルのように、私たちもこのプレゼンテーション能力を思う存分に発揮しましょう。今回は、相手から「この頼みなら」と思われるように、頼み事を限定するプレゼンテーションを考えてみましょう。そのポイントを3つあげてみましょう。(1)いつから1つ目は、いつからと開始日をなるべく遠い先に設定することです。これは、遠い先であればあるほど引き受けやすいからです。逆に、直前であればあるほど引き受けにくくなります。例えば、できるだけ前から頼み事の相談をして、あらかじめ承諾を得ておくことです。または、時間をかけて理解を得ることです。いわゆる根回しとも言えます。これは、遠い先であればあるほど負担(コスト)の見積もりが目減りする心理を利用してます(プロスペクト理論)。(2)いつまで2つ目は、いつまでと期間を限定することです。これは、短期間であればあるほど引き受けやすいからです。逆に、無期限で引き受けて納得が行かなかった場合、不快な思いがずっと続くリスクがあるため、引き受けにくくなります。例えば、「とりあえず1週間」とお試し期間を設けることです。納得が行かなくても、1週間限りであれば、引き受けやすいです。逆に、納得が行けば、その仕事に思い入れも沸いてきて、その後も続けてやりたいと思うでしょう。これは、ちょうどペットの仔犬を売りたい時、1週間だけお試し無料で客に引き渡し、1週間後に客が仔犬に愛着がわいてきたところで正式に購入してもらう販売テクニックに似ています(仔犬契約法)。(3)どれだけ3つ目は、どれだけと内容を限定することです。これは、頼む中身が限られていればいるほど引き受けやすいからです。逆に、曖昧で解釈によって無制限に頼み事が増える可能性があれば、引き受けにくくなります。貧乏くじを引くと思わせないことがポイントです。例えば、「これだけはやってもらう必要がある」と頼み事の内容をシンプルに限定することです(デッドライン・テクニック)。また、「どういう条件だったらできそう?」と逆提案を促し、相手に頼む中身を限定させることです。これは、NOと言い続ける人に対して効果的でしょう。頼むとは?進化心理学的に言えば、人間が、他の動物と決定的に違うことは、相手に頼まれたり頼んだりすることを通して、協力関係を築くこと、つまり社会脳を進化させたことです。そして、高度な社会を築き、文明を発展させました。そのためには、こちらが相手の気持ちを汲んで、信じてもらって、分かりやすく伝えることが重要になります。これが、まさに今回ご紹介した分析力、信頼感、プレゼンテーション能力です。医療の現場では、インフォームド・コンセント(説明と同意)の重要性はますます高まっています。これは、治療について医師が十分な説明をして患者から同意を得ることです。さらに、最近では、インフォームド・アセントも求められています。アセント(assent)とは、コンセント(consent)の同意よりも堅苦しい言い回しで、「合意」が近い訳になるでしょう。これは、同意の対象を、大人だけでなく、子どもにまで広げることです。例えば、小児がん、小児の注意欠如・多動症(ADHD)で、子どもにも分かりやすい説明をして、親だけでなく当事者の子どもからも同意を得ることです。患者の権利(リスボン宣言)だけでなく、子どもの権利(子どもの権利条約) への配慮もますます求められていると言えるでしょう。逆に言えば、医師が専門用語を並び立てて、患者に一方的に治療方針を説き伏せるのはもはや時代遅れであるということです。これは、かつてパターナリズム(父権主義)と呼ばれていました。また、学会、会議、講義の場で、原稿や教科書をロボットのようにただ読み上げることも時代遅れであると言えるでしょう。特に医師をはじめとする医療関係者は、今後ますます説明が求められます。ブルの手法は、裁判だけでなく、医療や教育のコミュニケーションにも、もっと広げて考えれば日常のコミュニケーションにも通じるものがあります。私たちが、誰かと協力して何かをしようとするとき、新しいことや大きなことであればあるほど、頼み事、頼まれ事が増えていくものです。そんな時、スムーズに思いが伝わり人を動かせていることこそ、まさにこのドラマのサブタイトルにある「心を操る」と言えるのではないでしょうか?1)法と心理「心理学は裁判員裁判に何ができるか」:日本評論社、20092)社会心理学:山岸俊男監修、新星出版社、20113)「人たらし」のブラック交渉術:内藤誼人、だいわ文庫、2009

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「偽造品問題で管理薬剤師に行政処分」は厳しすぎるか?【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第3回

2017年1月、C型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠(一般名:レジパスビル・ソホスブビル配合錠)」の偽造品が、薬局チェーンで発見された事件がありました。業界で大きな話題になったので、まだ記憶に新しいかと思います。この問題を受け、2018年6月、厚生労働省は、患者に偽造品を渡した薬局に勤務していた管理薬剤師に対し、薬剤師の業務停止3ヵ月の行政処分をしたと発表しました。この事件に関しては、別の店舗に勤務する管理薬剤師にも、昨年12月に3ヵ月間の業務停止処分が下されています。今回の処分について、処分理由の詳細な事実はわかりませんが、管理薬剤師が、外箱や添付文書などがない状態の該当薬の分譲を受け、勤務薬剤師に調剤させたことや、薬局開設者に必要な意見を述べなかったことなどが挙げられているようです。この事件については、薬局も以前に処分されていますが、その際の処分理由は以下のとおりでした。1.医薬品の仕入れ段階における検査が不十分であったため、偽造品を仕入れ、販売授与の目的で当該偽造品を貯蔵させた。(医薬品医療機器等法 第55条第2項違反)2.開設者は、薬局業務のうち医薬品の仕入業務や分譲業務について管理者に管理させていなかった。(医薬品医療機器等法 第7条第2項違反)3.仕入れ段階において箱や添付文書がない医薬品について疑義を持たないまま、適切な管理のために必要と認める医薬品の試験検査を管理者に行わせなかった。(医薬品医療機器等法 第9条第1項及び同施行規則 第12条違反)4.管理者は、上記業務があることは認識していたが、管理者として管理監督を行っていなかった。またそのことについて開設者への適切な意見具申を行わなかった。(医薬品医療機器等法 第8条第1項、第2項違反)この際も上記4番のとおり管理薬剤師の義務違反が問題となり、管理者変更命令の処分がされています。責任は管理薬剤師にある管理薬剤師には、以下の義務が医薬品医療機器等法で定められています。医薬品医療機器等法 第8条(管理者の義務)第八条 薬局の管理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その薬局に勤務する薬剤師その他の従業者を監督し、その薬局の構造設備及び医薬品その他の物品を管理し、その他その薬局の業務につき、必要な注意をしなければならない。2 薬局の管理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その薬局の業務につき、薬局開設者に対し必要な意見を述べなければならない。管理薬剤師は、薬局の業務全般を管理しなければならず、問題があれば薬局開設者に意見を述べる義務があります。つまり、薬局開設者からの指示であるからといって、管理薬剤師がその指示に従っていたとしても、法律上では、薬局の管理監督に対する責任は管理薬剤師にあるということです。そのため、薬局開設者には、管理薬剤師の意見を尊重しなければならないという義務があります。医薬品医療機器等法 第9条2項薬局開設者は、第七条第一項ただし書又は第二項の規定によりその薬局の管理者を指定したときは、第八条第二項の規定による薬局の管理者の意見を尊重しなければならない。今回の事件の詳細な実体は明らかにされていないので、判断は難しいかもしれませんが、薬局開設者の指示で仕入れた、または薬局開設者が仕入れてきた医薬品の調剤を監督した管理薬剤師が、このような処分を受けるのは重いと感じる方もいるのではないでしょうか。わが国では、これまで薬局が扱う医薬品において、偽造が問題になったことはほとんどないので、管理薬剤師は、偽造品だと想像すらできなかった可能性があり、そう考えるとなおさらかもしれません。しかし、国はそのように考えていないということです。法律も上記のとおりですから、管理薬剤師にかかる薬局の管理監督に対する責任は重いと言わざるをえないでしょう。そのような意味では、管理薬剤師の重要性と責任の重さが示された処分とも言えるかと思います。実際には、管理薬剤師の意見が尊重されない、意見が言いづらい現場もあるかもしれません。万一そのような薬局があれば、その体制の見直しを検討する必要があります。これを機会に、管理薬剤師の立場・責任の見直しと法令遵守ができる体制の整備が期待されます。参考イーガブ 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)

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『てんかん診療ガイドライン2018』発刊

 前回のガイドライン発刊から約8年。その間に、新規治療薬の登場や適応追加、改正道路交通法など、てんかんを取り巻く環境は大きく変化している。2018年7月2日、大塚製薬株式会社が主催したプレスセミナー「てんかん診療ガイドライン2018」にて、てんかん診療ガイドライン作成委員会委員長の宇川 義一氏(福島県立医科大学 神経再生医療学講座教授)が登壇し、日本神経学会が監修したガイドラインの主な改訂点について語った。てんかん診療ガイドライン2018はGRADEシステムを採用 本ガイドラインは、2部で構成されている。第1部は診療ガイドライン、第2部では3つのクリニカルクエスチョン(CQ)に対してシステマティック・レビュー(SR)を行っている。また、エビデンスの質の評価は、GRADE working groupが提唱する方法で行い、「高(high)」「中(moderate)」「低(low)」「非常に低(very low)」にグレーディングされている。“けいれん”と“てんかん” “けいれん”とは「全身または一部の骨格筋が、不随意な硬直性または間代性収縮を起こすこと」であり、患者は持続的あるいは断続的なぴくつきを訴える。眼瞼けいれんなど、てんかんと無関係な病態でもけいれんを起こす。一方、“てんかん”とは「大脳神経細胞群の突発的・同期性過剰放電に基づく現象」を示し、けいれんを起こす時も起こさない時もある。宇川氏によると、「“epilepsy”はてんかんという病名を意味し、発作そのものを意味しない。さらに“convulsion”と“spasms”はいずれもけいれんと訳されるが、前者は[てんかんによるけいれん]を指し、後者は[末梢神経由来・筋肉由来のものなど]を指す」と指摘。また、同氏は「てんかんという日本語は、病名として使う場合と症状として使う場合がある。これには英語の概念を日本語訳したことによる混乱が影響している」と日本語訳の解釈について言及した。てんかん診療ガイドラインに薬物開始時期が追加 薬物療法を開始するに当たり、開始時期とその予後についてしばしば議論される。本ガイドラインでは「初回てんかん発作で薬物療法を開始すべきか」というCQにおいて、「初回の非誘発性発作では、ある条件を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない。ただし、高齢者では初回発作後の再発率が高いため、初回発作後に治療を開始することが多い」と記されるようになった。ただし、「医学的根拠があれば初回発作から開始する場合もある」と同氏は述べている。第2世代薬も第1選択へ 2006年以降、日本において第2世代に分類される薬剤では、11剤が承認・販売された。これらは全般てんかん・部分てんかん、それぞれの新規発症患者だけでなく、高齢発症患者に対しても使用が推奨されるようになった。てんかんとの鑑別に注意が必要な疾患 成人において、てんかんと鑑別されるべき疾患は11項目に上る。なかでも、失神(神経調節性、心原性など)と心因性非てんかん発作(PNES)は突然発症の意識消失で救急外来を訪れる患者の40%を占めるため、これらの患者のてんかんを否定することが必要である。失神発作は発作後に意識変化や疲労、倦怠感を伴わない点が特徴であるため、鑑別には一般の検査(脳波、MRI、CT)だけでなく、心血管性の原因を精査することが重要とされる。それでも鑑別が難しい場合はビデオ脳波同時記録も行う。これらの診断を誤ると「間違って、てんかん患者として抗てんかん薬を服用し続ける原因につながる」と同氏は注意を促している。 そして、てんかんを誘発する原因として、1)脳卒中、2)睡眠不足、3)急性中毒(薬物、アルコール)・薬物離脱・アルコール離脱の3項目が該当する。これについて同氏は「まずは原疾患治療に抗てんかん薬をオンして治療を行っていくが、症状の改善に応じて抗てんかん薬をオフすることが可能」と説明した。てんかん診療ガイドラインの今後の課題 最後に同氏は「毎年は改訂できないが、年に1回の頻度で追補版を学会ホームページに公開している。これからも先生方の意見を基にガイドラインをブラッシュアップしていきたい」と締めくくった。

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デュルバルマブ、切除不能StageIII非小細胞肺がんに国内承認/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:ステファン・ヴォックスストラム)は2018年7月2日、「切除不能な局所進行の非小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後の維持療法」を効能・効果としたデュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)の国内における製造販売承認を取得したことを発表。 切除不能なStage IIIの非小細胞肺がんは、同時化学放射線療法(CRT)による根治を治療目的としながらも、患者の89%はCRT後に病勢が進行、転移しており、5年生存率は15%と報告されている。本承認は第III相PACIFIC試験の無増悪生存期間(PFS)データに基づいている。 また、米国AstraZeneca社のプレスリリースによれば、2018年5月に発表された全生存期間(OS)の中間解析では、プラセボ投与群との比較でデュルバルマブ投与群において、臨床的に意味のある延長を伴う統計学的に有意な結果が示されたとのこと。この結果は今後の学会で発表される予定である。 アストラゼネカはまた、「保険外併用療養費制度」のもと、本剤の無償提供を実施する。無償提供は、適正使用の観点より、本剤開発治験実施医療機関等の限定された医療機関において、承認された効能・効果、用法・用量に従ってのみ使用すること、無償提供期間中に弊社が実施する市販直後調査に準じた活動を含む適正使用推進等の各種安全対策にご協力することを条件に実施する。提供は製造販売承認取得日以降に開始し、薬価収載前日に終了する。■関連記事durvalumab、切除不能StageIII NSCLCのOSを有意に改善(PACIFIC)durvalumab維持療法、Stage III肺がんのPFSを有意に改善(PACIFIC)/ESMO2017

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自己免疫疾患とストレス:過剰ストレスは百害あって一利なし(解説:岡村毅氏)-881

 スウェーデンの大規模コホート研究で、ストレスに関連した精神疾患(PTSDなど)と診断された人は、後に自己免疫疾患と診断されるリスクが高いことが報告されている。貴重な報告である。 体の病気とストレスは関係していそうである。病院で患者さん方の話を聞いていると、あるいは街でおしゃべりをしていると、「Aさんは〇〇と診断されたが、思い返してみると、しばらくストレスの多い生活をしていたらしい。やはりストレスはよくないね」というプロットは定番である。しかし冷静に考えてみれば、ストレスがなければ発症しなかったのか、ということについてはわからないのだ。そうなると、本研究のような大規模な疫学研究の出番である。 以下は精神科医の雑談として読んでいただきたい。 ところで、なぜ自己免疫疾患なのだろうか。受け止めきれないくらいの大きなストレスにさらされたとき、自己と他者の境界は揺らぐが、精神医学的には解離性障害(その記憶をなくす、現実感を失う、などの防衛機制)が生じると考えたくなる。しかし、東大免疫学教室元教授の故多田富雄が『免疫の意味論』(青土社. 1993)の中で、身体的に「自己」を規定しているのは免疫系であって脳ではないと述べたように、自己と他者の境界が揺らぐことで自己免疫疾患が生じることもあるかもしれない(なお本論文にはそういうことは一切書いてなく、普通に視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)のことが書いてあるので、あくまで筆者の妄想ですが)。 また本論文の意義を広い視野で考えると、身体科と精神科のいっそうの協働必要性であろう。あくまで個人的経験だし、「ごーまん」と思われたら謝るしかないが、総合病院においては各診療科の精神医学的センスの格差が大きいことに驚く。どういうことかというと、本当に要注意のケースを的確に精神科受診させる科もあれば、ずれた依頼が多い科、あるいはほとんど依頼してこない科もある。その昔は、患者さんや家族とトラブルがあると「変な人の対応をしてよ」と依頼してくるようなケースもあった(いうまでもなく人間関係のこじれはお断りです)。このセンスの差を決めるのは何であろうか? 個人の力量? 診療科固有の思考形式? 単に、その病院のその診療科の人間関係や雰囲気? 興味は尽きない。 いずれにしても、過度のストレスにいいことは何もない。筋トレだって週に2回くらいが筋肥大にはちょうどいい。医療現場は究極の感情労働であるが、過度のストレスで致命的な転帰に向かうくらいなら、静かに逃げ出して再起を図ってほしい。

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