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カレには言えない私のケイカク【結婚をすっ飛ばして子どもが欲しい!?そのメリットとリスクは?(生殖戦略)】Part 3

選択的シングルマザーは日本でも増えていくの!?選択的シングルマザーがうまく行くための対策として、実父母からのサポート、ピアサポート、そしてソーシャルサポートがあることが分かりました。それでは、選択的シングルマザーは、海外の先進国と同じように日本でも増えていくでしょうか?その可能性は高いと思われます。それどころか、子育て支援などの大胆な政策によっては少子化対策へのウルトラCの解決策になる可能性も秘めています。そもそも少子化対策がうまくいっている先進国の多くは、子育て支援が手厚く、婚外子が多い国でもあります。これは、時代の流れ、もっと言えば、進化の流れとも言えそうです。それでは、ここから、その理由を、子育ての起源を踏まえて、進化心理学的に3つの段階に分けて、解き明かしてみましょう。(1)母親が子育てをする10数億年前に太古の原始生物が誕生してから、自分の遺伝子を残すように行動する種が進化の歴史の中で現在までに生き残りました。逆に言えば、遺伝子を残すように行動しない種は、その遺伝子が残らないわけなので、そもそも現在に存在しないです。この生殖は、食べることや安全を守るなどの生存と並ぶ動物の根源的な行動です。約2億年前に哺乳類が誕生してから、その母親は子どもに自分の乳を与えて育てるというメカニズム(哺乳)を進化させました。1つ目の段階は、母親が子育てをすることです。ちなみに、それを動機付けるのが、生殖心理です。この詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)子育てのために結婚する700万年前に人類が誕生し、二足歩行によって手の自由ができたことで、獲った食料を余分に持ち帰ることができるようになりました。そして、男性はその食料を女性にプレゼントして、そのお返しとして、女性がその男性とセックスして、生まれた子どもを育てるように進化しました(性別役割分業)。300万年前に人類が森から草原に出て行ってから、頭が徐々に大きくなっていったことに伴い、生まれるときに母親の産道を通るために、未熟児で生まれるように進化しました(生理的早産)。すると、生まれた赤ちゃんは草原で一定期間寝たきりになります。しかし、動物の生存競争のなかで、獲物として狙われるのは一番小さくて弱い個体、つまり赤ちゃんや子どもです。自然界の頂点にいるライオンでさえ、その子どもは母親が目を離したすきにハイエナなどのほかの動物にあっさり捕食されます。言うまでもなく、人類の赤ちゃんもです。それを防ぐために、父親が、母親と一緒に生活して、子どもを協力して守るようになりました。これが、結婚(一夫一妻型の生殖)の起源であり、家族の起源です。その後、血縁で集まって部族をつくり、より協力行動を進化させていきました。これが、社会(社会脳)の起源です。2つ目の段階は、子育てのために結婚することです。一方、人間に近い種であるチンパンジーやゴリラは違いました。チンパンジーの生態環境は、エサが密集した森の中です。オスとメスが出会いやすく、不特定のオスと不特定のメスが生殖を行う乱婚(多夫多妻型の生殖)になりました。ゴリラの生態環境は、エサが少なく散在した森の中です。オスとメスが出会いにくく、特定の1頭のオスと特定の複数のメスが集まるハーレム(一夫多妻型の生殖)をつくるようになりました。どちらにしても、その子どもたちは森の中で守られていたので、人類ほど夫婦として、そして集団として協力行動が進化しなかったと考えられます。(3)結婚しなくても子育てできる20世紀後半の情報革命から、男女平等(男女共同参画)が高まり、とくに先進国で経済的に自立する女性が増えていきました。そんな女性は、男性の経済的サポートを必要としなくなります。3つ目の段階は、結婚しなくても子育てができることです。もともと私たちには、結婚(協力の約束)をしたから子どもをつくるという考え方が文化的に根付いています。しかし、進化心理学的に考えると、逆です。子どもをつくったから結婚する(子どもを守るために協力する)のです。現代の社会では、結婚という形式に目が行き過ぎて、協力して子育てをするという中身に目が行かなくなっています。言い換えれば、結婚は、そもそも夫婦が協力して子育てをするための手段であり、目的そのものではありません。よって、必ずしも協力する必要がなくなった現代の社会構造では、もはや結婚の意味は薄れていくでしょう。ましてや、結婚していてもしてしなくても、ソーシャルサポートとして子育て支援が充分に得られれば、なおさらです。また、とくに実母(祖母)がその娘の子育てのサポート(孫育て)をするのは、もともと包括的な生殖適応度を上げるように進化した結果と考えられています(おばあさん仮説)。よって、選択的シングルマザーが実母、本人、子どもの3世代による女系家族をつくることは、持続可能な新しい家族の形になるでしょう。これは、カップル文化が強い欧米と比べて、親子文化の強い東アジアでは、とくにです。未来の生殖戦略は?人類の生殖の進化の歴史から、選択的シングルマザーが、これからの社会構造(生態環境)で適応的であることが分かりました。非婚(生涯未婚)が増えている日本では、とくにです。さらに長期的には、選択的シングルマザーは、未来の生殖として多数派になる可能性も秘めています。ただし、これは同時に、人類から父親がいなくなっていき、女系社会になっていくことを意味します。現在の価値観では受け入れにくいかもしれませんが、未来では当たり前になっているかもしれません。そもそも、自然界では、人類のような一夫一妻型の生殖のほうが珍しいので、その可能性は否定できません。ここから、精子バンクの登場を踏まえて、人類の生殖戦略の未来を、チンパンジーやゴリラと比べて、精子レベルで掘り下げてみましょう。(1)チンパンジー-精子間競争チンパンジーの生殖戦略は、乱婚(多夫多妻型)です。よって、生殖適応度が高いのは、より数が多くてより動きが速い精子をつくる妊孕性の高い個体になります。これは、精子間競争です。そのため、精子をよりつくり出すため、チンパンジーの睾丸はかなり大きいです。(2)ゴリラ-個体間競争ゴリラの生殖戦略は、ハーレム形成(一夫多妻型)です。よって、生殖適応度が高いのは、オス同士のケンカで勝つために、より気性が荒くてより大きい体格の個体になります。これは、個体間競争です。そのため、ゴリラのオスとメスの体格差はかなり大きいです。一方で、精子間競争がないので、睾丸はかなり小さいです。ちなみに、チンパンジーは、個体間競争がないため、オスとメスの体格差はほとんどありません。(3)人類-「社会間競争」人類の生殖戦略は、結婚(一夫一妻型)です。よって、生殖適応度が高いのは、男性と女性が協力行動を維持する個体になります。さらに言えば、時として不倫という裏切り行動もすることです。つまり、人類の生殖は、チンパンジーほど相手を特定していないわけではなく、ゴリラほど相手を特定しているわけでもないです。そのため、人間の男女の体格差にしても、睾丸の大きさにしても、ゴリラとチンパンジーの中間になっています。なお、不倫の心理の詳細については、関連記事3をご覧ください人類の生殖において、その結婚相手は、本人の意思以上に、親や親族などの部族集団(社会)の評価によって、ある程度決められてきました。これは、「社会間競争」と言えるでしょう。現代は、本人の意思が尊重されています。しかし、その判断基準はどうでしょうか? 結局、社会で望ましいとされるスペック(要素)が内面化されています。たとえば、男性なら、高身長、高収入です。女性なら、美しさと若さです。ひと言で言えば、「周りに見せて恥ずかしくない」「ちゃんとした」相手です。とくに、世間体を気にする集団主義の根強い日本では、なおさらです。これまで、これらの男性と女性の望みがお互いに叶わなければ、生殖は成り立ちませんでした。ところが、精子バンクの登場によって、女性にとっては、その望みをお金で解決できる時代が来ています。たとえば、金髪、青い目、高身長、高IQ、大学院卒、医師、スーパーモデルなど、精子ドナーのランキングで人気の「アイテム」を課金によって手に入れることができます。これからの人類の生殖戦略は、より望ましい精子ドナーが選ばれる点で、ゴリラ的でしょう。精子レベルのハーレムです。選ばれない精子(男性)は、ハーレムに君臨できなかった多数のオスゴリラです。一方、第一子と第二子の精子ドナーは必ずしも同じく選ばれない点で、その生殖戦略はチンパンジー的でもあるでしょう。精子レベルの乱婚です。さらに、精子ドナーのランキングを、国家が操作したらどうなるでしょうか? 一部の独裁国家などが、国家に従順で優秀な精子ドナーを選抜したり、逆に国家に反逆的な家族や親族がいる精子ドナーを排除することも可能になるわけです。これは、新たな優生思想が強まる可能性もあります。「私のケイカク」とは?この映画「カレには言えない私のケイカク」のもともとのタイトルは「バックアッププラン」です。さらに当初は「プランB」というタイトルで公開が予定されていました。つまり、ゾーイにとってのプランAは理想の男性と結婚して子どもをつくること、そしてプランBは精子バンクを利用して子どもをつくることでした。さらに、その先も想像できます。加齢により身体的不妊になった場合のプランCとして、自分の凍結卵子と精子バンクによる提供精子で体外受精をすることです。そして、凍結卵子のストックがなくなった場合のプランDとして、自分の男兄弟による提供精子と卵子バンクによる提供卵子を使って体外受精をすることです。男兄弟を精子ドナーとするのは、甥っ子(姪っ子)を産むという認識が得られ、血のつながりを意識できるからです。なお、厳密には、ゾーイには男兄弟がいないキャラクターとして設定されています。最後に、出産できなくなった場合のプランEとして、代理出産が考えられます。しかし、現在、代理出産は、人権問題から各国が次々と禁止しているため、現実的ではないでしょう。このように、壮大な生殖戦略が、ゾーイの「私のケイカク」として考えられるわけです。少なくとも、精子バンクの利用は、卵子バンクや体外受精と違って、その手軽さから、良いか悪いかは別にして、規制がしにくい現実があります。かつてある政治家が「女性は子どもを産む機械だ」と発言して厳しく批判されました。精子バンクの発展によって、未来では逆に「男性は種をつくる植物だ」と発想されてしまう危うさもあるでしょう。そんな偏った社会にならないためにも、私たちは、ゾーイとスタンのようにお互いを思いやれる、そして協力し合える社会を築いていくことがますます重要であると言えるのではないでしょうか? そして、そのためにも、私たちは、もっと生殖について話題にして、多くの議論をしていくことが必要なのではないでしょうか? この記事がその判断材料の1つになれば、幸いです。1)生殖医療はヒトを幸せにするのか:小林亜津子、光文社新書、20142)ルポ生殖ビジネス:日比野由利、朝日新聞出版、20153)「選択的シングルマザー」とは?未婚のまま出産を選ぶ女性の生き方:志水なほみ、All About 20th暮らし、2020<< 前のページへ■関連記事八日目の蝉【なぜ人を好きになれないの?毒親だったから!?どうすれば良いの?(好きの心理)】コウノドリ(その2)【なんで子どもがほしいの? 逆になんでほしくないの?(生殖心理)】昼顔【不倫はなぜ「ある」の?どうすれば?】Part 2

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第71回 コロナ感染対策はデルタ株でも一緒、では一般市民への具体的な伝え方とは?

「過去最高の××××人…」「〇曜日としては過去最高の…」のいずれかのフレーズを最近のニュースで聞くことが多くなっている。言わずもがな、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の発生動向に関するニュースについてだ。多くの医療関係者が現在流行の主流をなすデルタ株の登場で、「局面が変わった」と口にする。確かに基礎研究ではデルタ株の持つ免疫回避は液性免疫だけでなく細胞性免疫にもおよび、さらにウイルスの細胞への接着や膜融合力も強化されているとも報告されている。中国の研究グループが公表した査読前論文では、デルタ株感染者が体内で保持するウイルス量は、従来株感染者たちと比べ1,260倍も多いと報告されている。他人事のような言い方に聞こえてしまうかもしれないが、まさに「恐ろしいまでの最強(最凶)なウイルス」である。そして最近、一般向けメディアでこの件について書いて欲しいと言われて資料を読み返した。すでに内外で報じられているが、米国疾病予防管理センター(CDC)は、内部向け資料で「デルタ株の基本再生産数は5~9.5人で、従来株の1.5~3.5人より大幅に感染力が増し、水ぼうそうの8.5人と同等」と試算していたことを明らかにしている。まあ、端的に言うならば、この数字だけみればデルタ株の感染力は従来株の3倍程度となる。報道的には、空気感染もする水ぼうそうと同等の感染力という触れ込みは極めてキャッチ―なのだが、こういう時こそ一呼吸置くべきと個人的には思っている。そんなこんなでほかに類似データがないかをもう一度眺め渡してみた。そうした中で改めて目にしたのが厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、「8割おじさん」のあだ名でも知られる京都大学大学院医学研究科の環境衛生学分野教授の西浦 博氏が示していた試算だ。すでに流行株の約80%がデルタ株と見積もられている8月11日現在の東京都での新型コロナ感染の伝播力(感染力)を従来株の流行時と比較している。それによると現在の伝播力は従来株流行時の1.87倍。言い換えれば、デルタ株は従来のウイルスの1.87倍、ざっくり言えば約2倍の感染力となる。こうした2つのデータを同一記事内で引用する場合、当然のことながら3倍と2倍の差は何なんだと、読者の突っ込みが入る可能性がある。この違いは単純にCDCが基本再生産数、すなわち何も対策をせずに免疫を持たない集団で起こる二次感染の規模を示すのに対し、西浦氏の試算はある時点での感染力を示す実効再生産数を使っているからである。いわば西浦氏の数字は、市中でマスクをしている人が行き交い、店舗入口に消毒薬が設置され、多くの人が三密を避け、国民の4割以上がワクチンの1回接種を終えた今現在のデータを用いたものなので、CDCの試算よりも感染力が低く出るのは、このサイトの読者ならとくに不思議とは思わないはずだ。そこまで念頭に置いた瞬間ハッとした。そう、私たちの努力次第ではデルタ株の高い感染力も一定程度は相殺することが可能なのだと。そしてこの相殺の仕方は、すでに政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が6月時点で「変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」を発表している。改めて以下に列挙する。(1)マスクを鼻にフィットさせたしっかりとした着用を徹底すること。その際には、適切な方法で着用できることを第一とした上で、感染リスクの比較的高い場面では、できればフィルター性能の高い不織布マスクを着用すること。三密のいずれも避けること。特に人と人との距離には気を付けること。(2)マスクをしっかりと着用していても、室内でおしゃべりする時間は可能な限り短くして、大声は避けること。(3)今まで以上に換気には留意すること。(4)出来る限り、テレワークを行うこと。職場においても、(1)~(3)を徹底すること。(5)体調不良時には出勤・登校をせず、必要な場合には近医を受診すること。(6)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、マスクを着用すること。(7)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、大人数の飲み会は控えること。(8)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、帰省先での同窓会や大人数での会食は控えること。とくに目新しいものはない。そもそも感染力が増そうとも、感染経路は変化していないのだから当然である。むしろこれまでのことをより徹底すべしということなのだ。ところが「これまでとやることは変わらない」は多くの人が聞き飽きているフレーズなので、それを聞いただけでうんざりする人も少なくない。「今までと同じことなら、もう知っているからそれ以上わざわざ話を聞く必要はない」ということになる。ところが「もう知っている」という場合、大概自分に都合の良い覚え方をするものなので、これまで繰り返されてきた感染対策を完全に網羅して記憶しているケースは案外少なかったりするものだ。その意味では、デルタ株対策の呼びかけに関しては、やることは従来と同じでも伝え方に変化をつけなければならない時期に来ているようにも思える。デルタ株は従来株では感染が起きなかったシーンでも感染が起きていることは、もはや周知のこと。たとえば職場でちょっとマスク着用に疲れて顎マスクにした時に、隣の同僚と二言三言会話をする、喫煙所・休憩所にいてほっとしてマスクを外している時に他人と会話をするなどが、そうしたシーンに当たる。また、提言にもあるようなマスク着用時の鼻部分のワイヤー密着の甘さも死角だ。今は飲食店をなるべく利用しないほうが良いものの、利用時のオーダーでは大声で人を呼ばず軽く手を挙げるなどの対策も考えられるだろう。要は一般人の生活に根差して、うっかりしそうなシーン、今までやり続けてきたけど面倒になり手を抜き始めたシーンなどを、さりげなくだが具体的に提示して対策の徹底を求める。中身は同じでもこれまでの「三密回避」「マスク着用」「手洗い励行」のような紋切り型の教条的なものからやや目新しさを加えた情報提供で、感染収束の方向に若干でも活路が見いだせないかと考え始めている。

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ヘパリン介入のチャンスのある重症化前の新型コロナウイルス感染(解説:後藤信哉氏)

 一般に、疾病は早期介入が重要である。新型コロナウイルスの場合、ウイルス感染という比較的単純な原因が炎症、肺炎などを惹起する。血管内皮細胞へのウイルス浸潤から始まる血栓症も初期の原因は比較的単純である。ウイルス感染に対して生体が反応し、免疫系が寄与する病態は複雑になる。複雑な病態は単純な治療では脱却できない。重症例を確実に入院させるとともに、早期の症例に対する医療介入の意味を示したのが本論文である。重症化していない新型コロナウイルス感染の症例を予防量と治療量のヘパリン群にランダムに分けて予後を検証した。重症化する前に治療量のヘパリンを投与すると、生存退院の可能性が増えることが示された。この論文は重症化前から新型コロナウイルス感染症患者を入院させ、各種の補助治療とともに治療量のヘパリンを投与する価値を示している。2,219例のランダム化比較試験の結果である。重症例と重症化前の症例の差異のメカニズムは不明である。臨床家としてはこのランダム化比較試験の結果は即座に実臨床に取り込むと思う。

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「はい、はい」と返事だけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第40回

■外来NGワード「ちゃんとわかっているんですか!?」(わかっていないと決めつける)「返事だけはいいですね」(皮肉な言い方)「もう一度、最初から説明しますね」(同じことをしつこく説明する)■解説外来で糖尿病患者さんに検査値の説明をしていると、「はい、はい」と返事はいいのですが、ちゃんと理解できているか、不安になることがありませんか? 中には、ちゃんとわかっていないのにもかかわらず、「医師を不快にさせたくない」「頭が悪いと思われたくない」と考えて、わかっているふりをしている場合もあります。もちろん、「はい、はい」を連発することは、早く診察を終えたいというサインでもあります。そういった患者さんに、HbA1cなどの検査値の意味をちゃんとわかっているのか確認するためには、どうしたらいいのでしょうか? 患者さんに「今の説明でわかりましたか?」と尋ねてみても、ほとんどの場合「はい」と答えるので、本当にわかっているのかどうかは不明です。そんな場合には、「ティーチバック」を試してみましょう。ティーチバックとは、医師の説明したことを患者さん自身の言葉で説明してもらうことです。このティーチバックを糖尿病の療養指導に取り入れた研究では、糖尿病合併症リスクが約3割減り、冠動脈疾患で入院するリスクも半減し、医療費も削減できたと報告されています。とはいえ、突然「では、今話したことを私に説明してください」と医師から言われたら、患者さんは極度に緊張してしまうかもしれません。ティーチバックの説明にも、ひと工夫が必要ですね。■患者さんとの会話でロールプレイ医師今の説明でわかりましたか?患者はい、はい…。医師ハハハ。あまり、わかっていなさそうですね。患者アハハ、ばれましたか。医師それでは、ちょっとHbA1cについて説明してもらえますか?患者えっ、先生に説明するんですか? そんな、専門家に説明なんてできませんよ。(少し困った顔)医師いえいえ。専門用語は使わなくていいので、家族や友人に説明するつもりでお願いします。患者そうですか。えっと…、HbA1cというのは2ヵ月間ぐらいの平均血糖値のことで…。医師なるほど。それから?患者7%を超えると合併症になりやすい…30を足すと体温みたいでわかりやすい…ってところでしょうか。医師いいですね。その説明なら、知り合いの人もよく理解できそうですね。患者そうですか。私も、7%未満を目標に、もっと頑張らないといけませんね。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「家族や友人に○○(HbA1c)を教えるとしたら、どんなふうに説明しますか?」 1)Hong YR, et al. J Am Board Fam Med. 2020;33:903-912.2)Hong YR, et al. J Gen Intern Med. 2019;34:2176-2184.3)Leong A, Wheeler E. Curr Opin Genet Dev. 2018;50:79-85.

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第71回 「もはや災害時」なら、「現実解」は“野戦病院”、医師総動員、医療職の業務範囲拡大か

福井県は既に“野戦病院”整備こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末も大雨でどこにも行かず家に籠もっていました。甲子園の高校野球も延期に次ぐ延期だったので、NHK BSの「ワースポ× MLB」でMLBの現況をチェックしようと思い、何の気なしに観ていたら、興味深いニュースをやっていました。MLBが12日(日本時間13日)、名作映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年公開)の舞台となったアイオワ州ダイアーズビルで初の公式戦を開催し、ホワイトソックスとヤンキースが1919年頃の雰囲気たっぷりの中、当時の復刻ユニホームで戦った、というニュースです。「ワースポ× MLB」では、トウモロコシ畑から出てくるホワイトソックスとヤンキースの選手らの姿を映し出していましたが、まさにあの映画そのものでした。ケビン・コスナーが主演したこの映画のロケ地、私も約30年前に訪れたことがあります。米国出張の時、留学でアイオワ・シティに住んでいた友人宅に寄り、そこから車で約2時間かけてダイアーズビルまで見学に出かけたのです。映画公開から数年後で、観光客はまばらでした。映画で使われたセットの前の球場(今回の試合のためにMLBが500万ドルかけて新設した球場とは別)で、訪れた人がソフトボールに興じていたのが印象的でした。それにしても、今回の試合で8本も出たホームラン。ボールがフェンスを超え、トウモロシ畑に吸い込まれて行く画像はMLBの試合には見えず、笑えました。さて、今週は先週(第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性)書いた“野戦病院”について補足し、その必要性について改めて考えてみたいと思います。知人から、「“野戦病院”をもうつくった県があるよ」という連絡があったからです。それは、福井県です。福井市内の体育館に100床開設福井県は8月2日、新型コロナウイルス患者を受け入れる新たな病床として最大100床を確保、患者の増加状況に応じて福井市内の体育館1ヵ所に開設し、主に軽症者を受け入れると発表しました。体育館にはベッド、空調、仕切りなどの設備を整えるとのことです。福井県内の病床数はこれで404床となり、宿泊療養施設の146床と合わせると県内に計550床が確保されたことになります。中日新聞等の報道によれば、福井県では今後さらに感染が拡大することに備え、6月補正予算に関連費用を盛り込んでいた、とのことです。常時設置するわけではなく、必要に応じて必要な病床数を開設、近隣の医療機関の医師らが治療に当たるとしています。なお、稼働病床数が増えた場合は、県医師会や看護協会に協力を要請する予定だそうです。「自宅療養では容体が急変しても直ちに対応できない」と福井県担当者東京都や大阪府と人口や医療機関数では比べものになりませんが、少なくとも福井県が軽症者向けとはいえ、“野戦病院”的施設を準備したことは、先進的で評価できることでしょう。福井県ではこれまで、無症状者も含めて全陽性者を病院や宿泊施設で受け入れてきました。8月7日付の日刊ゲンダイDIGITALによれば、同県が「自宅療養させず」を貫いている理由について、県地域医療課の担当者は「自宅療養では容体が急変しても直ちに対応できない。感染判明後、すぐに医師の診療を受ける体制も必要なため、臨時施設を稼働させた。陽性者を速やかに隔離すれば、感染拡大の防止にもつながる」と語ったとのことです。前回も書いたように、中等症、軽症と診断され、自宅で療養するのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうべきです。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させ、中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る仕組みをつくるのです。日本医師会を激しく批判していた長島 一茂氏(「第58回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる?“家庭医構想”というパンドラの匣(前編)」参照)も、8月13日のテレビ朝日の「モーニングショー」で、「(東京都は)入院待機患者と自宅療養者合わせて3万人。東京ドームなど、大規模に患者を集めるところをつくらなくてはいけないのではないか」とコメントしていました。また、東京都医師会の尾崎 治夫会長も8月16日の同番組に出演、東京都の自宅療養患者の状況を説明したうえで、「早急に野戦病院をつくるべきだ」と強調していました。「酸素ステーション」も抗体カクテルもリップサービス止まりか?翻って、1日の新規感染者数2万人超えの状況でも、国の対応は相変わらずの後手後手、その場しのぎの感が拭えません。菅 義偉首相は8月13日の記者会見で、自宅療養者らが酸素吸入を必要とした場合に備える「酸素ステーション」を設置する方針を示し、加えて軽症・中等症向けの抗体カクテル療法を集中的に使用できる拠点の整備についても言及しました。抗体カクテル療法については、対象拡大(入院患者限定から宿泊療養施設入所者などにも)の通知が13日、各都道府県に出されています。ですが、国が打ち出すこうした新機軸は、当面の自分たちの無策をごまかすためのリップサービスにしか聞こえません。そもそも「酸素ステーション」をどれだけ配置しても、中等症、重症患者の根本治療にはなりません。さらに、そのステーションに誰が患者を連れていくのでしょうか。抗体カクテル療法(「第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念」参照)については、医師の24時間配置に加え、日本での供給量にも不安があります。一部の報道で年内20万回分調達(当面は7万回分)と言われていますので、今の新規患者数では単純計算で約10日分しかないことになります。また、 1回(2種類の抗体医薬)で約20万円(米国での医療費)とも言われるこの薬剤を、軽症者(あるいは未発症者)のどの範囲まで投与を認めるのか、という点も問題です。期待を抱かせて、結局は必要な患者すべてには行き渡らない可能性が大です。ちなみに、米国では先週、抗体カクテルが濃厚接触者等、コロナウイルスに曝露した一部の未発症の人にも使用できるようになりました。米国食品医薬品局(FDA)が8月10日、抗体カクテル(REGEN-COV)の緊急使用許可を改訂し、成人および小児におけるCOVID-19の曝露後予防(予防)としての緊急使用を承認したからです。入院や死亡など、重度に進行するリスクが高い人(12歳以上で体重40 kg以上)が対象とのことです。“野戦病院”的施設の開設、医師総動員、医療職の業務範囲拡大をセットで実行すれば新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は8月11日、首都圏などの医療提供体制について「もはや災害時に近い」との見解をまとめました。東京都の小池 百合子知事も8月13日の記者会見で、自宅療養者2万人超の状況など踏まえ、「今、最大級、災害級の危機を迎えている」と強い危機感を表明しています。テレビでは、首都圏の中等症以上の患者が在宅療養を余儀なくされ、入院先探しに難渋している姿が、連日のように報道されています。それらの報道では、在宅医療で対応することの非効率性も指摘されています。菅首相が先週強調した「パルスオキシメーター配布」もまったく進んでいないようです。そう考えると、“野戦病院”的施設の開設は一つの「現実解」でしょう。同時にこれまでコロナ対応に十分に関わってこなかった医師たちを半ば強制的に総動員、“野戦病院”で働いてもらえば、今以上の「安全・安心」を自宅療養者に提供できるでしょう。医学部教育、医師の養成には多額の税金も投入されているわけですから、この際、動員には我慢して応じてもらいましょう。「強制的に動員」する仕組みの構築がすぐには難しいとしたら、医師以外の医療職(看護師、薬剤師、救急救命士…)に医師の業務の一定部分を任せる、という手も考えられます。今回の医療法改正で、医師の働き方改革の観点から、多くの医療職で業務範囲拡大が行われましたが(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)、その拡大範囲以上に、緊急措置として医師の業務を他職種に任せてしまうのです。例えば、宿泊療養施設の医療責任者は看護師にするとか、“野戦病院”での一定部分の医療行為は医師の指示なしでも看護師が行えるようにするなどが考えられます。動員についても、老健施設の管理者は看護師で代行させ、そこの医師を“野戦病院”に振り向ける、といった方法も考えられるでしょう。例によって、日本医師会は自分たちの領分を侵害されることを嫌がるでしょう。しかし、そこは政府がきちんと説得しないと。なにせ今は「災害時」であり有事なのですから。映画「フィールド・オブ・ドリームス」では、ケビン・コスナー演じる主人公が、だだっ広いトウモロコシ畑を整地し、野球場を一からつくるのですが、“野戦病院”は何も空き地に一からつくる必要はありません。ただ、体育館や室内アリーナなどを活用し、医療人材を集めればいいだけのことです。要はこの国の政治家、行政、医療人に、想像力と胆力があるかどうかの問題だと思います。

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「患者さんに話が伝わらない」と思ったら、試してほしいこと【非専門医のための緩和ケアTips】第9回

第9回 「患者さんに話が伝わらない」と思ったら、試してほしいこと「時間をとって一生懸命患者さんの話を聞いているのに、どうも患者さんの求めに応えられていない気がする…」。そんなふうに感じる時はないでしょうか。この気付き、緩和ケアの視点から非常に重要なので、今回はそんなお話をしてみます。今日の質問忙しい外来でも、患者さんの話をしっかり聞いたうえで、きちんと指導することを心掛けています。ただ、それだけ指導したにもかかわらず、あまり行動を変えてくれません。それどころか、何か納得してないような雰囲気も感じます。緩和ケアのスキルを使って、何かできることがあるでしょうか?外来でよくある光景ですよね。私も以前、糖尿病のコントロールが不十分な患者さんに食事や運動の重要性を頑張って説明したものの、「はぁ…、そうですよね…」といった反応しか返ってこず、そうした状況に悩んだ時期もありました。「生活習慣病患者の行動変容」という、緩和ケアとはまったく異なる話題に対して、緩和ケア医がアドバイスできることはあるでしょうか? 解決策そのものを提案することは難しいのですが、緩和ケアの実践や教育の場面でよく議論される話題を紹介させてください。ちょっと難しい言葉を使うと「対人援助技法」となるのですが、今回はわかりやすく「自分と患者さんの状態」を意味する言葉である「“モード”に着目しよう!」というライトな表現にしてみます。さて、今回のような臨床現場でよく見る光景ですが、肝心の患者さんは問題解決をしたい「モード」になっているでしょうか?「自分の血糖値をなんとか下げたい!」「血管リスクを低減する具体的な取り組みをアドバイスしてほしい」という糖尿病患者さんには、残念ながらあまりお目にかかりません。一方、以前の私や今回の質問をされた医師はどんな「モード」でしょう? まさしく、問題解決を目指す「モード」ではないでしょうか?「なんとか患者さんの健康を守りたい!」「そのための課題は血糖値が高いことで、解決策は食事と運動療法だから、しっかり指導しよう!」…。こんな気持ちが前面に出ているように感じられます。誤解がないように言っておきますが、これはまったく悪いことではありません。医師が患者の問題解決を目指すことは、ある意味当然のことです。ただ、意識していただきたいのは、自分と患者さんの「モード」が完全にズレている、という点です。忙しい外来でせっかく時間をかけて指導しても、患者さんにとって意味のある行動変容につながらないのでは意味がありません。これは、お互いのモードのズレが大きく、同じ議論の基盤に立ってないからです。あっさりとしたそばを食べたい人にこってりした豚骨ラーメンのおいしさを説いたところで、「よし、それじゃあ豚骨ラーメンを食べに行こう!」とはなりませんよね。自分の「モード」をいったん脇に置いておき、相手の「モード」が今どんな状態なのか、想像してみることが歩み寄りの第一歩になります。緩和ケアはいろいろな職種と協働して取り組みます。そこで医師として働いていて感じるのは、「さまざまな職種の中で、とくに医師は問題解決に思考が向きやすい」ということです。それは医師の持つ強みですが、一方で自分と患者さんの「モード」のギャップが大きくなりがちという弱みも内包しています。「モードに目を向けて」というと、「チーム医療で、時間をたっぷり使える緩和ケアだからできるアプローチでしょう?」と思われるかもしれませんが、外来の限られた時間であっても、医師の意識は患者さんに確実に伝わるものです。「患者さんにわかってもらえない、伝わっていない」と感じたら、一息ついて自分と相手の「モード」に目を向けてみましょう。次回はこのスキルを高める方法もお伝えしたいと思います。今回のTips今回のTips自分と患者さんの「モード」に意識を向けてみよう!

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英語学習は○○が9割!【医療者のための英語学習法】

仕事で使う英語は日常会話よりも簡単!英語学習でよくある勘違いの1つに「ビジネス英語は日常会話よりも難しい」という考え方があります。実際、日常会話を勉強して、その後で仕事で使う英語を学ぼうと考える方が多いですが、この考え方はむしろ“逆”です。仕事で使う英語のほうが日常会話よりも英語学習の入り口としては適しているケースが多く、これは医療者の方にも当てはまります。現在仕事で英語の必要性がある方は、これを「チャンス」と捉え、ぜひ主体的に学習を始めてください。実は攻略しやすい医療英語「仕事の英語が日常会話より簡単」な理由は、医療者が必要とする英語は、ある程度範囲が決まっており、専門ごとに使う医療用語も限られるためです。英語を話す場面もある程度決まっていて、海外学会での発表や外国人の患者への診療などでしょう。診療で使う表現は何度も繰り返して使うため、定型(フレーズ)化しやすいといえます。そして繰り返すことによってそのやりとりが身に染み付いていくのです。また、第二言語習得には「Narrow Reading」の効果が高いといわれています。Narrow Readingとは、テーマの範囲を絞ってリーディング学習を進めることで、同じトピックについてさまざまな文章や記事を読むことを指します。この学習方法は語彙的にも負担が少ないので、理解度向上に寄与するのです。医療者の方も自身の専門分野の英語の論文を読むのであれば、一般的な英語のニュース記事を読むよりもラクに感じることでしょう。自分が関わる仕事の内容は十分な背景知識があるため、すべての単語の意味がわからなくても大体どういうことが書いてあるか予想がつくためです。一方で一般のニュース記事はトピックが広範囲にわたり、背景知識がないトピックは難易度が上がります。つまり、仕事上で英語が必要な医療者の方は、英語学習を始めるよいきっかけと、実践するよい機会をすでに持っているわけです。忙しさをチャンスに変える!しかし、必要性があっても、忙しさを理由に英語学習に十分な時間を費やすことができていない方が多いのではないでしょうか。時間ができたらやろう、と思ったまますでに数年…、という話もよく聞きます。英語学習には2つの選択肢があります。1.忙しいからやらない2.忙しいけどヤル誤解を恐れずに極論すると上記2つに集約されます。「時間ができたら学習する」という方は多いですが、「今後1年間は十分な時間を確保できます」という人はまずいません。また、今は時間がとれると思っていても、その後環境が変わって忙しくなることもあるでしょう。私はビジネスパーソン向けの英会話スクールを19年にわたって運営していますが、感覚的には「英語学習の時間が十分とれる」と思える方は全体の10~30%程度です。さらに言うと、こうした「時間がとれる」という方がきっちり学習するわけでもなく、時間がとれる方は「いつでもできる」と先延ばしにしがちで、結局やらないケースも多いのです(夏休みの宿題を7月中に終えられる人は別でしょうが)。ソニーの元副社長でウォークマンの開発者でもあった大曽根 幸三氏は、「急ぎの仕事は忙しいヤツに頼め!」という名言を残しています。大曽根氏いわく「暇なやつに仕事を頼んでも後回しにして一向に仕事が終わらない」のだそうです。逆に忙しいビジネスパーソンはスピーディに終わらせる傾向がある、とのこと。英語学習にも同じ傾向があって、忙しい人のほうが限られたスケジュールをやりくりして学習時間をねじ込んできます。「この時間を逃したら他に学習時間はまったくとれない」という危機感から確実に学習する人が多いのです。そもそも「暇だったので英語の勉強をして話せるようになりました~!」という話を、私自身聞いたことがありません。極端なケースを除けば、忙しさは英語学習ができない理由にはならないでしょう。私はこれまでに延べ1,000名以上のさまざまな立場にあるビジネスパーソンの英語学習を指導してきましたが、どう考えても時間のある新卒一年目の方が「忙しくて時間がとれない」と言う一方で、家事と2人の子育てをしながら大学の准教授としてフルタイムで働く女性が1日3時間の英語学習を何ヵ月もこなし続けるのを見て、時間のあるなしは言い訳にならない、と改めて思いました。英語学習はスケジューリングが9割とはいえ、医療者は自分でのスケジューリングに限界があることも多いでしょう。忙しさを前提とした英語学習はどうすればよいのでしょうか?私の考えでは英語学習は「スケジューリングが9割」です。いかに実践可能で現実的な英語学習を計画できるかがポイントです。故に「1日1時間の学習をする」という程度の甘い計画ではダメです。英語学習にはトリガー(きっかけ)が必要なのです。トリガーとは、たとえば下記のようなものです。○時になったら学習をする通勤電車に乗ったら必ず学習をするランチ休憩中に○○分学習をするこのように具体的な時間や条件をきっかけに英語学習を開始するようにすると実現性が高くなります。そして、とにかく学習時間を自分のスケジュールに確実に組み込みさえすれば、後はそのスケジュールをこなすだけです。時間の経過とともに英語力は着実に上がり、1、2年もすれば相当レベルが上がっているはずです。実現可能な学習スケジュールを立てることさえできれば9割は成功したようなものなのです。計画を立てる際はリアルなスケジュールを基に作成してください。希望的感覚に基づいたスケジューリングはすぐに瓦解します。自分の過去の学習経験から「どれくらい集中力が続くのか?」「自宅のリビングで家族がいる中で本当に学習できるのか?」「学習中にSNSは本当に見ないのか?」なども加味して、リアルに実践できる計画を立てましょう。とくに医療者の皆さんは当直や夜勤、急患や急変などの対応もありますので、そういったイレギュラーなスケジュールも想定しておきましょう。また、自分や家族が体調を崩す可能性を考慮したり、医療の勉強時間を確保したりすることも必要でしょう。イレギュラーな事態は、英語学習ができなかったときに非常に役に立つ言い訳になってしまいます。他人からも「それじゃ仕方ないね」と言ってもらえるかもしれません。しかし、それでは誰も幸せになりません。だからイレギュラーなハプニングが起こったときにどうするかの「プランB」までを計画に組み込む必要があります。医療者は一般の方よりも不規則なライフスタイルの方が多く、この問題を解決できずに、英語学習を頓挫した経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。「隙間時間」と「ながら学習」を多用する!まとまった時間がとりにくい、あるいはスケジュールが変動しやすい医療者の場合、「隙間時間」と「ながら学習」をすることで学習時間を補うようにしましょう。隙間時間の学習は意外と効率がよいのです。たとえば単語を暗記する場合、1時間集中してやるよりも、15分ずつ4回に分けて覚えたほうが定着率はよくなります。一説には、「単語は最低12回出合わないと覚えない」といわれていますので、単語を覚えるためには何度も覚えて忘れて、また出合って覚えて…、ということを繰り返します。だから隙間時間で単語と出合う数を増やすことが効果的なのです。これは一度にたくさん学ぶよりも、時間をかけて何度かに分けて学んだほうが、学習効率は上がることを提唱した「エビングハウスの忘却曲線」理論とも適合します。また、英語のリスニング学習は「ながら学習」に向いています。移動時間などを利用してリスニングをし、かつシャドウイングまですればスピーキング力の向上にも直結します。こういった学習計画・スケジュールをこなせたら1年後には飛躍的に英語力が向上します。そのための周到な学習計画をつくることで、英語学習成功の確率は一気に上がります。英語はしっかり取り組めば、日本にいながらでも働きながらでも必ず身に付きますので、ぜひ頑張ってください!※筆者がディレクターを務める、医療従事者向け英語学習プログラム「Medical English Hub(めどはぶ)」では現在2021年9月から始まる1期生を募集しています(8月末締め切り予定)。https://www.oneup.jp/medhub/learning-program/<執筆者>

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第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性

「重症患者や重症化リスクの特に高い方以外の方は自宅で」と菅首相こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は、諸々危ない東京を離れ、こっそりテントを担いで山に籠ろうと考えていたのですが、台風の接近で渋々断念。秋山に備え、山道具のメンテナンスで時間を潰しました。結構へたった道具も見つかり、それはそれで有意義な時間でした。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、7月30日には緊急事態宣言の対象府県が追加され、8月8日からはまん延防止等重点措置の適用地域に福島、茨城、栃木、群馬、静岡、愛知、滋賀、熊本の8県が追加されました。これによって、重点措置の適用地域は13道府県となりました。そんな中、8月2日に政府が打ち出した「新型コロナウイルスの感染者は重症患者などを除き自宅療養を基本とする」とした方針が、医療界だけでなく、政治の世界でも大混乱を引き起こしました。菅 義偉首相はこの日の記者会見で「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。(自宅療養者には)地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします」と語ったわけですが、国民の多くには“患者切り捨て”と聞こえてしまったのです。私自身もニュースで菅首相の発言を聞いていました。重大なことを国民に伝えようとしているのに目は死んだ鯉のようで、事態の深刻さは伝わってきません。どうやら、菅首相は自分が話している言葉の意味を理解していないことが多いようです。8月6日の広島の平和記念式典での挨拶でも、肝心の部分を読み飛ばし、意味不明のことを話していましたし…。「究極の棄民政策だ」と舛添氏それにしても、中等症(肺炎症状が相当深刻な人もいます)を入院させないなんて…。これはもはや真夏のホラー映画です。野党は「患者を放棄する無責任な対応だ」と猛反対、自民党の新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチーム内からも「事前に知らされていなかった」と不満が吹き出し、撤回を求める動きも起こりました。前東京都知事で厚生労働大臣も務めたことがある舛添 要一氏はツイッターで「究極の棄民政策だ」と強く批判しました。混乱が起こった理由の一つは、この方針が全国一律で行われるとみられたことです。2日の菅首相の記者会見を聞き直しても、「全国一律の方針」に聞こえました。その後、あまりの大反対の声に政府は方針を転換、4日の記者会見で菅首相は「東京や首都圏など爆発的な感染拡大が生じている地域であり、全国一律ではない」と強調するに至りました。「重症者以外自宅療養」のトーン弱まる「地域の診療所に往診やオンライン診療でなどで状況把握を行ってもらう」という方針に対しても、医療現場からは「急変した時に、確実に入院させられるか保証がない」「往診はそもそも手間と時間がかかり、対応人数にも限りがある」など、批判が相次ぎました。「重症者以外切り捨てようとしている」という批判に政府も流石に焦ったのか、菅首相は8月3日に行われた医療関係団体との意見交換で、病床確保や自宅・宿泊療養の強化への協力を要請した際、中等症患者については入院対応の方針を示しました。MEDIFAX等の報道によれば菅首相は、「酸素投与が必要な人、糖尿病などの疾患がある人は確実に入院していただき、それ以外の人で症状が悪くなった場合には、必ずすぐに入院できる体制を整備していく」と語ったとのことです。同日には厚生労働省から「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方について(要請)」と題する事務連絡が出され、 その中で「入院治療は、重症患者や、中等症以下の患者の中で特に重症化リスクの高い人に重点化することも可能である」との解釈が示されました。事務連絡も2日後に内容修正、「中等症は原則入院」にさらにこの事務連絡、2日後の8月5日、「中等症も原則入院対象とする」という内容に追加資料で修正するに至りました。上記の事務連絡の3枚目に1枚追加されているパワーポイントの資料がそれです。与党が問題視した対象地域について、当初は「患者が急増している地域」となっていましたが、「東京都をはじめ感染者が急増している地域」と地域名が追加され、全国一律の対応ではないことが強調されました。患者対応の方法についても、「感染者急増地域において可能とする新たな選択肢」という名称になり、「緊急的な対応として自治体の判断で対応を可能とする」となりました。そして肝心の入院については、当初「重症患者や特に重症化リスクの高い者に重点化」としていたものが、修正資料では「入院は重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、投与が必要でなくても重症化リスクがある者に重点化(最終的には医師の判断)」となり、「医師の判断」も明記されました。つまり、「中等症は原則入院」ということになったのです。ただし、「入院させる必要がある患者以外は自宅療養を基本」の方針は変わっていません。3日の事務連絡そのものは撤回せず、追加資料において事実上の軌道修正を行った格好ですが、政府と厚労省の混乱ぶりがうかがえます。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」与党である自民党、公明党にも知らされず、政府対策分科会の尾身 茂会長にも事前相談がなかったとされるこの方針決定。政府が2日の関係閣僚会議で打ち出した、とのことですが、どういった議論を経て決定し、公表に至ったのかは不透明なままです。報道等によれば、尾身会長に相談しなかったことに関して田村 憲久厚生労働大臣は、「病床のオペレーションの問題なので政府で決めた」と語ったとのことです。厚労省も入って検討したということですが、厚労省の幹部が本当に、中等症含む自宅療養者を往診とオンライン診療でカバーするというような、稚拙かつ現実味のない対応策を提案したのでしょうか。8月6日付の朝日新聞は、「厚労省幹部によると、入院制限は今週後半に公表する予定で東京都と調整していたが、都内の感染拡大を受けて前倒しで発表。資料を精査しきれず、根回しも十分行わない見切り発車だった」と報道しています。また、同日付の日本経済新聞は、政府と与党の連絡不足を指摘、「首相は官房長官を務めていた時期、自民党本部などにしばしば足を運んだ。菅政権ではこのような調整役不足が指摘される」と書いています。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」って、一体この政権、大丈夫なのでしょうか。入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは誰かそれにしても気になるのは厚労省の「精査不足」です。在宅医療は医師が患者宅に出向く必要があるため効率が悪く、X線やCTを用いての肺炎の診断もできません。患者数が多い場合は在宅には限界があることや、そもそも地域で在宅医療(や往診)を積極展開している医療機関の数は決して多くはないことを、厚労省の幹部も認識しているはずです。そう考えると、入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは、厚労官僚ではなく、菅首相取り巻きの内閣府の官僚ではないか、という推測も成り立ちます。厚労省幹部が在宅での対応の限界を菅首相に進言したにもかかわらず一蹴され、引き下がってしまったのだとしたら、それもまたホラーです。各地の体育館などに“野戦病院”的施設をつくったら?そんな混乱の中、8月5日の尾身会長の厚生労働委委員会での発言は、とても建設的で意味があると感じました。尾身氏は「入院か在宅か、という議論になりつつあるが、今の感染状況の中で国民のニーズに応えるためには一本足打法は駄目だ。一つ目は医療を病院だけでなく、地域全体でさらに強化する。二つ目は、宿泊療養施設の強化。最後に、自宅療養で軽症の人も重症化するリスクがあるから、すぐに医療に結びつけるようなシステム。この3点を総合的にやることが必要だ」と語ったとのことです。「尾身氏は感染症の専門家であり、医療提供体制の専門家ではない」という批判もあるようですが、関係閣僚会議で出された方針よりも、はるかに理にかなっています。中等症、軽症と診断され、自宅で療養するというのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうほうが、「安全・安心」ではないでしょうか。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的な療養施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させたらどうでしょう。今が有事とするならば、療養環境は後回しにして、より多くの中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る(在宅死を招かない)仕組みの構築は待ったなしだと思います。災害時の福祉避難所のイメージ尾身氏の発言を聞いてふと頭に浮かんだのは、東日本大震災の時に取材した、石巻市の福祉避難所「遊学館」です。「遊学館」は、元々はスポーツアリーナ・コンサートホール・室内プール多目的会議室等を有する複合施設だったのですが、震災直後は、介護度が高い高齢者や医療が必要な人が、広い体育館の中で寝かされ、必要な医療・介護サービスを受けていました。当然ながら他の避難所よりも医療・介護スタッフが多く、自宅で療養するよりも「安全・安心」の医療・介護が提供されていました。そもそも、今年1月以降、医療提供体制の不備が批判され始めた時に、最悪の状況に対応するための仕組みを各地で準備しておくべきだったのです。仮にデルタ株の感染拡大が収まったとしても、脅威となる新たな変異株が出現する可能性もあります。ぜひとも、国や医療関係団体は、体育館等を活用した“野戦病院”的療養施設の開設と地域の開業医動員についての検討を進めてほしいと思います。

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そして父になる(その3)【これからの親子の絆とは?(生殖の物語)】Part 2

私たちはどうすればいいの?血のつながりへのこだわりが強まるのは、子どもの数が少なくなった(少子化)、血のつながりがはっきりするようになった(DNA鑑定)、血のつながりのある子を生めなかった人が生めるようになった(生殖医療)という3つの現代の社会的な原因があることが分かりました。そんな現代の社会構造の中、私たちはどうすればいいのでしょうか? 3つのワンシーンを通して、生殖の物語として考えてみましょう。(1)いろんな生殖の物語を知る慶多と琉晴の取り違えが起こったのは、実は当時勤務していた看護師が、子連れの男性との再婚によって育ての母親になったストレスの腹いせによるものでした。その事実が、その看護師の告白によって明らかになります。その後に、良多はその看護師の家に押しかけますが、小学生くらいの彼女の育ての息子が出てきて、良多の前でにらみながら立ちはだかります。良多から「おまえは関係ないだろ」と言われても、ひるまず「関係ある。ぼくのお母さんだもん」と言い返します。そして、彼のその気迫を目の当たりにして、良多は打ちひしがれるのでした。1つ目、いろんな生殖の物語を知ることです。それまでの良多は、実績、学歴、血のつながりなどの形あるものしか信じておらず、小学校のお受験の面接の模範解答のような「普通の家族」「正しい家族」「ちゃんとした家族」にとらわれていました。そして、血のつながりがあるという理由でだけで、琉晴を無理やり懐かせようとしていました。しかし、血のつながらない親子の強い絆を見せ付けられ、彼の価値観の根本が揺らいだのでした。私たちも、良多のような頭でっかちの思考回路に陥ることがあるかもしれません。しかし、いろんな生殖の物語を知った時、親子の絆は、血のつながりだけで存在するものではなく、情によって育むものであることに気付かされます。(2)自分の生殖の物語を知る慶多と琉晴の交換から数週間が経ち、良多は、カメラのモニターでメモリーに残っている写真をたまたま見ていた時、良多の書類を読んでいる背中や寝顔をいくつもこっそりと慶多に撮られていたことに気づきます。そのカメラには、「慶多の記憶の中のパパ」が映っていたのでした。それを見て、良多は涙が溢れ、いても立ってもいられなくなるのでした。2つ目は、自分の生殖の物語を知ることです。愛着の心理でも触れましたが、子どもが親からしばらく離れていると「禁断症状」が出るのと同じように、実は親も長年一緒にいた子どもからしばらく離れていると、血がつながっていてもいなくても「禁断症状」が出るのです。親プリンティングと同じように、「子プリンティング」ができてしまうのでしょう。つまり、情も依存行動(嗜癖)であると言えます。この詳細については、関連記事3をご覧ください。私たちも、子どもの思いをきっかけに、自分の情に気付かされることがあるでしょう。愛着と情が相互作用していると考えれば、自分の生殖の物語は、自分だけでつくるものではなく、子どもと一緒になってつくりあげるものであることに気付かされます。(3)自分の生殖の物語を書き換える良多とみどりは、慶多を迎えに行くために、琉晴を連れて、前橋の斎木家を急に訪ねます。逃げ出す慶多から「パパなんか、パパじゃない」と怒って言われながらも、追いかける良多は「でもな、6年間はパパだったんだよ。出来損ないだけど、パパだったんだよ」「もうミッションなんか終わりだ」と言い、優しく抱きしめます。3つ目は、自分の生殖の物語を書き換えることです。良多にとって、新生児取り違え事件に巻き込まれたことは、不運な生殖の物語でした。しかし、良多は、その後に慶多と一時期離ればなれになることで、慶多への深い情を再確認します。そこには、血のつながりがないものの、深い情で結ばれた親子の絆が確かにあります。慶多との出会いに意味を見いだすという新たな生殖の物語が始まっています。また、慶多へのミッションは、良多自身へのミッションでもあったのです。それは、慶多を能力があるから愛するのではなく、ありのままに愛するようになる良多の自己成長です。逆に、この事件がなければ、良多は、彼の父親と同じように、毒親のままだったでしょう。また、愛着の臨界期の観点から、琉晴が良多やみどりに懐くことは簡単ではないと説明しました。その一方で、良多やみどりが琉晴に情を深めることはできるでしょう。実際に、みどりは琉晴と一緒に過ごすうちに「琉晴がかわいくなってきた」と良多に言います。つまり、親にとっての「子プリンティング」は、何歳までという臨界期ではなく、あくまでいつからでも可能なのです。だからこそ、養子縁組や里親制度により育ての親になれるのです。つまり、血のつながりのある琉晴との再会に意味を見いだすという新たな生殖の物語も始まっています。「そして父になる」とは?-これからの親子の絆ラストシーンで、慶多と琉晴を中心に、野々宮家と斎木家のみんなが、笑い合って、1つの家の中に入っていく様子は、感動的です。慶多と琉晴のために、生活スタイル(価値観)の違う2つの家族が1つになろうとする象徴的なシーンです。かつて、良多の父親が「早く交換して、二度と相手の家族とは会わないことだな」と言うセリフとは、真逆の展開です。私たちは、ラストシーンから良多のその後に思いを馳せるでしょう。これから、野々宮家と斎木家はもっと交流が増えるでしょう。お互いの子育てについて、もっと意見を言い合うでしょう。東京と前橋は離れているので、近いうちに、良多は前橋に引っ越すでしょう。前橋のみどりの広い実家に同居するなどの考えも頭を巡らせているでしょう。生殖の物語は、血のつながりにこだわりつつも、血のつながりだけで存在するものではなく、血がつながっていない子どもとも一緒に、そして周りの大人とも一緒に豊かにしていくものであり、書き換えていくものであることに気付かされます。そもそも、子連れ再婚などの家族では、血のつながりよりも一緒にいることに重きが置かれています。そんな新しくつくる家族は、ステップ(階段)を上がることになぞらえて、ステップファミリーと呼ばれています。良多と琉晴を中心とする家族は、より広い意味でステップファミリーと言えるでしょう。それは、同時に、原始の時代から近代まで広く行われていた、大家族で子育てをするという共同育児(アロペアレンティング)を彷彿とさせます。この映画は、限られた上映時間の中で、父親の視点に焦点を絞っています。逆に、母親の視点、子どもの視点での描写が少ないため、リアリティの点から、もの足りなさを感じることがあるかもしれません。ただ、この映画の良多の視点を通して、遺伝的なつながりを超えた、運命的なつながりを感じることが、私たちのそれぞれの生殖の物語を考えることであり、これからの親子の絆を考えることであると言えます。そして、それこそが、「そして父になる」物語であり、「そして母になる」物語でもあり、「そして家族になる」物語でもあると言えるのではないでしょうか?1)養子縁組の社会学、野辺陽子、新曜社、20182)進化と人間行動:長谷川寿一など、東京大学出版会、20003)ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年:奥野修司、文春文庫、20024)脳に刻まれたモラルの起源:金井良太、岩波書店、2013<< 前のページへ■関連記事昼顔【不倫はなぜ「ある」の?どうすれば?】コウノドリ(その1)【なんで不妊治療はやめられないの? その心理的なリスクは?(不妊の心理)】カインとアベル(後編)【なんで嫉妬は「ある」の?どうすれば?】

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認知症による幻覚妄想に何を処方するべきか(解説:岡村毅氏)

 認知症がある方のサイコーシス(幻覚・妄想)は、本人や介護者にとっては過酷な状況である。 本研究は、海外ではパーキンソン病認知症によるサイコーシスに使われているpimavanserinを、アルツハイマー型、前頭側頭型、血管性の認知症によるサイコーシスにも広げる試みだ。この第III相試験で良好な結果が得られたので、将来われわれが手にする可能性も高いと思われる。 認知症がある方のサイコーシスに対する医学的な対応はここ数十年で大きく変貌した。かつては抗精神病薬が安易に処方されることが多かった。これらは、強弱はあるがドパミン遮断薬でもあるのだから、パーキンソン症状のリスクが大きく、誤嚥や転倒につながる。さらにレビー小体病やパーキンソン病認知症といった新たなカテゴリーが出現し、このカテゴリーでは当然ながらドパミン遮断薬は禁忌である。 現在では、抗精神病薬はなるべく使わずに、環境調整(たとえば日中は明るい所で活動してもらう)、非薬物療法(介護スタッフへのケア方法の提案)、心理社会的な解釈の可能性の探求(その幻覚妄想には意味があるのではないか、こうすればよいのではないか)などをまずは行う。それでも改善しない場合は漢方薬を使い(ただし粉の形状が嫌われる場合もある)、最後の手段でリスクベネフィットを熟慮したうえで関係者の総意で少量の抗精神病薬を開始する、効果が得られたらすぐに撤退する、というのが一般的であろう。 とはいえ、処方者はなかなか厳しい立場にいることも自覚せねばならない。進歩的な人々からは「高齢者に抗精神病薬を使うなんて非人道的だ」と言われる。一方で、家族介護者や施設介護者からは、「私たちの生活は破綻しています」という悲鳴と共に使用の希望を頂くことが多い。「すぐに使ってくれ、でなければ入院させてくれ」と言われることもあるし、期待に沿えないとおそらく他の医療機関で処方してくれるところを探し続けるということもあろう。また減薬を提案すると反発されることが多い。臨床とはそういうものだが、柔軟さと大局観が必要だ。 このpimavanserinの強みは、パーキンソン症状がほぼないことであろう。本研究では誤嚥や転倒はみられておらず、これまでの困難を大きく解消するだろう。 以上はあくまで臨床家の経験に基づく語りである。そして以下はそれを受けた研究者としての考察である。 もちろん処方データベース等を用いた疫学研究も重要であるが(私も疫学研究者の端くれである)、現実世界の変化はとても大きく複雑なので、臨床家の生の声が意外に本質に迫っていることもある。 臨床現場は、患者の急激な高齢化(いまや100歳も普通)、一人暮らしの人の急増、地域包括支援センターの支援技術の向上(出来上がったころに比べると雲泥の差だ、そもそも昔は認知症の人は病院だといって拒否していたところもあった)、介護スタッフの技術の向上(たとえば好き嫌いはあるだろうがユマニチュードのおかげで支配的なスタッフはだいぶ減った印象だ)、家族の意識の変化(かつては親の死や弱さを受け入れない人も多かったが、いまでは自然なこととわかってくださる人が増えた)など変わり続ける。おそらく未知の変数もあるだろう。そして正解もまた変わり続ける。かつて私は、ガイドラインや疫学研究が臨床を導く光だと思っていた。いまでもそうした気持ちはあるが、おそらくガイドラインや疫学研究は、現実には臨床を追いかけているに過ぎないのだろうと思っている。 最後におとなしくまとめると、両方大事であって、どちらかだけでは視野狭窄だということだ。

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第68回 コロナ感染数の報道に「いたずらに不安を煽るな」発言した人へ、返したい一言

先週、たまたま日本を代表する「夜の街」である新宿・歌舞伎町に、まさに夜に繰り出す機会があった。このように書くと「けしからん!」と言われそうだが、別に飲食をするために行ったわけではない。この町で夜を中心に活動する医療従事者に私が関係する組織での講演を依頼するための挨拶に行ったのだ。挨拶は無事終了したが、私は目の前に広がる光景に驚きを隠せなかった。あちこちで居酒屋やいわゆる「接待を伴う飲食店」と非常に分かりにくい言い回しをされるキャバクラやホストクラブなどが盛大に営業をしていたのだ。実は別な用件で1月の緊急事態宣言中にも歌舞伎町を通り過ぎたことはあった。街中に客引きがいることを見れば、キャバクラやホストクラブの一部が営業しているのは確かだったが、居酒屋などの営業はかなり限定的。この時と比べれば、現在はほぼ通常営業といってもいいほどだ。そして東京都で7月28日の新型コロナウイルス感染症の感染者報告数が過去最高の3,000人超えの3,177人となった現状には溜息しか出てこない。ここでは何度も繰り返し言っているが、それでも敢えて言うと6月に新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言からまん延防止等重点措置に移行したことは、痛恨の政治判断ミスだったと改めて思う。中には「そのまま緊急事態宣言を続けていても、みな営業再開したのではないか?」との意見もあるかとは思うが、それでも一旦解除しながら再発出するよりは、状況ははるかにましだったのではないかと個人的には思っている。そんな最中、以下の報道で頭の中にクエスチョンマークがいくつも浮かんでしまった。東京都 福祉保健局長「いたずらに不安あおらないで」(NHK)まあ、端的に言えば、感染者は増加しているものの、高齢者のワクチン接種も進んで重症者はそれほど増加しておらず、過去の流行とは中身が違うということらしい。報道は数の多さに騒ぐなということだろう。この発言については、小池 百合子都知事もフォローアップしている。小池都知事、感染者最多に「数だけの問題ではない」(日本経済新聞)もちろん、ワクチン接種の進展のなか報告される感染者の中身が従来とは異なっていることは同意する。だが、報道に向けた「いたずらに不安を煽るな」というのは福祉保健局長自身のほかの発言と矛盾する。具体的には局長発言の「30代以下は重症化率が極めて低く、100人いたら、せいぜい十数人しか入院しない」という発言だ。それだけ入院者が発生してしまうならば十分すぎるほど問題である。7月28日の感染者報告数3,177人のうち20代は1,078人、 30代が680人。局長の発言に沿えば、この中から200人弱は入院することになる。もちろん若年者は入院後の回復も早いだろう。とはいえ、現在の東京都のコロナ対応病床は6,406床。今の感染状況が10日も続けば、30代以下だけで軽く1,000床以上の病床を占有することになる。そして中等症以上などで入院に至るのは別に30代以下だけではない。この状況は医療現場に十分負荷をかけていると思うのだが。従来から感染者数を報じることについては否定的な意見もあるのは承知している。しかし、現在進行形で何が起きているのかを最も端的に表し、一般市民も理解しやすいファクトなのは間違いなく感染者数であり、メディアにとってはこれを報じないという選択肢は存在しない。「初の3,000人台」という言葉で「うわ、怖い」と思う市民が出て、感染制御に必要な外出自粛に向かう人が増える可能性は十分にあるからだ。むしろ、これまでほぼ確実に感染者数の減少効果が認められたはずの「緊急事態宣言」が、経済を横目で眺めながら中途半端な強度でダラダラと行われ過ぎたために十分な効果を示さなくなった今、ワクチン接種以外に感染者減少効果が見込めそうなものは、現在進行形で感染者が急増しているという感染者数の報道である。その意味では東京都福祉保健局長の発言には「いたずらに事態を軽視しないで」と返したい。

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日本のウイルス肝炎診療に残された課題~今、全ての臨床医に求められること~

COVID-19の話題で持ち切りの昨今だが、その裏で静かに流行し続けている感染症がある。ウイルス肝炎だ。特に問題になるのは慢性化しやすいB型およびC型肝炎で、世界では3億人以上がB型、C型肝炎ウイルスに感染し、年間約140万人が死亡している。世界保健機関(WHO)は7月28日を「世界肝炎デー」と定め、ウイルス肝炎の撲滅を目的とした啓発活動を実施している。検査方法や治療薬が確立する中、ウイルス肝炎診療に残された課題は何か?今、臨床医に求められることは何か?日本肝臓学会理事長の竹原徹郎氏に聞いた。自覚症状に乏しく、潜在患者が多数―日本の肝がんおよびウイルス肝炎の発生状況を教えてください。日本では、年間約26,000人程度が肝がんで死亡しているという統計があります。その大半はウイルス肝炎によるもので、B型肝炎は約15%、C型肝炎は約50%を占めています。B型およびC型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎を発症しても、自覚症状はほとんど現れません。気付かぬうちに病状が進行し、肝がん発症に至るわけです。日本においてB型、C型肝炎ウイルスの感染に気付かずに生活している患者さんは数十万人程度存在すると考えられています。こうした患者さんを検査で拾い上げ、適切な医療に結び付けることが、肝がんから患者さんを救うことにつながります。検査後の受診・受療のステップに課題―臨床では、どのような場面で肝炎ウイルス検査が実施されるのでしょうか。臨床で肝炎ウイルス検査が実施される場面は様々ですが、(1)肝障害の原因を特定するために行う検査、(2)健康診断で行う検査、(3)手術時の感染予防のために行う術前検査などが挙げられます。(1)はそもそも肝障害の原因を特定するために行われているので問題ないのですが、(2)では、検査で異常が指摘されても放置される場合がありますし、(3)では、陽性が判明してもその後の医療に適切に活用されないことがあり、課題となっています。その要因は様々ですが、例えば他疾患の治療が優先され、検査結果が陽性であることが二の次になるケースや、長く診療している患者さんでは、変にその結果を伝えて不安にさせなくても良いのではないか、とされるケースもあるでしょう。また患者さんの中には、検査結果を見ない、結果が陽性であっても気にしない、陽性であることが気になっていても精密検査の受診を躊躇する、といった方も多いです。そのため医療者側にどのような事情があっても、陽性が判明した場合はその結果を患者さんに伝え、精密検査の受診を促すことが大事です。非専門の先生で、ご自身では精密検査の実施が難しいと思われる場合は、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。そのうえで、最終的に治療が必要かどうかまで結論付け、治療が必要な場合には専門医のもとでの受療を促すことが重要です。目覚ましい進歩を遂げる抗ウイルス治療―ウイルス肝炎の治療はどのように変化していますか。近年、ウイルス肝炎の治療は劇的に変化しています。特にC型肝炎治療の進歩は目覚ましいものがあります。従来のC型肝炎治療はインターフェロン注射によるものが中心で、インターフェロン・リバビリン併用でウイルスを排除できる患者さんの割合は50%程度でした1)。また、インフルエンザ様症状やその他の副作用が多くの患者さんで出現し、治療対象の患者さんも限られていました1),2)。しかしここ数年、経口薬である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)が複数登場し、その様相は変化しています。まず治療奏効率は格段に向上し、ほとんどの患者さんでウイルスが排除できるようになりました。そして従来ほど副作用が問題にならなくなり3)、患者さんにとって治療がしやすい環境になっています。治療対象が高齢の患者さんや肝疾患が進行した患者さんに広がったことも、大きな変化です。B型肝炎治療では、まだウイルスを完全に排除することはできないものの、抗ウイルス治療によってウイルスの増殖を抑え、肝疾患の進行のリスクを下げることができます。このように、現在は治療に進んだ後のステップにおける課題はクリアされてきています。そのため、日本のウイルス肝炎診療の課題は、やはり検査で陽性の患者さんを受診・受療に結び付けるまでのステップにあるといえるでしょう。術前検査などで陽性が判明した患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひ検査結果を患者さんに適切に伝え、受診・受療を促すと共に、近隣の肝臓専門医に紹介していただきたいと思います。日本肝臓学会のウイルス肝炎撲滅に向けた取り組み―日本肝臓学会では、ウイルス肝炎撲滅に向けてどのような取り組みを実施されていますか。日本肝臓学会では「肝がん撲滅運動」という活動を20年以上にわたって行ってきています。具体的には、肝炎や肝がん診療の最新情報を患者さんや一般市民の皆さまに知っていただくための公開講座を、毎年全国各地で開催しています。3年ほど前からは、肝炎医療コーディネーターを育成するための研修会も設けています。肝炎医療コーディネーターとは、看護師、保健師、行政職員など多くの職種で構成され、肝炎の理解浸透や受診・受療促進などの支援を担う人材です。また最近では、製薬企業のアッヴィ合同会社と共同で、「AbbVie Elimination Award」を設立しました。肝臓領域の臨床研究において優れた成果を上げた研究者を表彰する、研究助成事業です。「Elimination」は「排除」という意味で、一人でも多くの患者さんから肝炎ウイルスを排除したい、という意図が込められています。このように、日本肝臓学会ではウイルス肝炎撲滅に向けて、啓発活動や研究助成事業など、様々な活動に取り組んでいます。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標の達成を目指す―ウイルス肝炎の治療にあたる肝臓専門医の先生方に向けて、メッセージをお願いします。WHOはウイルス肝炎の撲滅に向けて「2030年までにウイルス肝炎の新規患者を90%減らし、ウイルス肝炎による死亡者を65%減らすこと」を目標に掲げています。COVID-19の流行によって、受診控えや入院の先送りなどの問題が発生し、この目標への到達は困難に感じられることもあるかもしれません。しかし、日本のウイルス肝炎診療には、国民の衛生観念がしっかりしている、肝臓専門医の数が潤沢である、行政的な施策が整備されている、など様々なアドバンテージがあります。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標を達成できるよう、今後も取り組んでいきましょう。肝炎ウイルス検査で陽性の患者さんは、肝臓専門医に紹介を―最後に、非専門の先生方に向けてメッセージをお願いします。従来のウイルス肝炎の治療は、副作用が問題になる、高齢の患者さんでは治療が難しい、といったイメージがあり、現在もそのように思われている先生がいらっしゃるかもしれません。患者さんも誤解している可能性があります。しかし、ウイルス肝炎の治療はここ数年で劇的に変化しています。肝炎ウイルス検査を実施して陽性が判明した場合は、患者さんにとって良い治療法があるかもしれない、と思っていただいて、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。日本肝臓学会のHPに、肝臓専門医とその所属施設の一覧を都道府県別に掲載していますので、紹介先に迷われた際は、参考にしていただければと思います。1)竹原徹郎. 日本内科学会雑誌. 2017;106:1954-1960.2)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P16.3)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P57,63.

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第68回 「骨太」で気になった2つのこと(前編) かかりつけ医制度化拒む日医は開業医の質に自信がない?

「骨太の方針」は国や財務省が考える医療リストラ策こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、ぼんやりとオリンピックの開会式を観ていたのですが、最終聖火ランナーの中に、何度か取材したことのある、多摩ファミリークリニック院長の大橋 博樹氏が「クルーズ船で対応にあたった」という紹介とともに突然登場したのには驚きました。それも、長嶋 茂雄氏、王 貞治氏、松井 秀喜氏から聖火を引き継ぐ形で。一緒に聖火をつないだのは、大規模クラスターが発生し、現場対応で大変な苦労をされた永寿総合病院の看護師の方とみられます。いわゆる“コロナ医療枠”というわけですが、どういう経緯でコロナに関わる数多くの医師の中から大橋氏(日本プライマリ・ケア連合学会の副理事長でもあります)が選ばれたのか、今度取材する機会があったらうかがってみたいと思います。さて、今回は約1ヵ月前の6月18日に、政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(「骨太の方針2021」)について、気になったことを書きたいと思います。「骨太の方針」とは、政府としての経済・財政運営の基本的な方針や重要政策をまとめたものです。内閣府の重要政策に関する会議の一つである経済財政諮問会議(議長は首相、経済財政担当相、財務相、民間議員らで構成)において、通常年明けから主要テーマを決めて検討します。最終的に、例年6月に経済財政諮問会議で決定された後、政府の正式な決定として閣議決定されます。「骨太」と言われる所以は、2001年1月、省庁再編により内閣府に設置された経済財政諮問会議が開催され、当時の宮沢 喜一財務相が「骨太」と命名したため、と言われています。基本策、つまり「骨や軸」を諮問会議で決めた後、中身の具体策を財務省などで決めていく流れです。宮沢財務相は、「太くてしっかりした骨組み」という意味合いを込めて「骨太」と表現したようです。ではなぜ、毎年「骨太の方針」の内容が医療関係者を悩ませるのか。それは、国の予算の4割近くを社会保障費が占めているからです(2021年度予算案の国の一般会計歳出106.6兆円のうち社会保障費は35.8兆円[33.6% ])。社会保険料等も含めた社会保障給付費全体は2020年度で126.8兆円、うち医療費は40.6兆円で32%を占めています。つまり、医療関係者から見る「骨太の方針」とは、国や財務省が考える、医療リストラ策の方針そのものなのです。「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」をフィーチャー「骨太の方針2021」では、感染症拡大の緊急時の対応を、より強力な体制と司令塔の下で推進する考えが示されました。中でも医療提供体制については、感染症に対応するため、医療定休体制の「平時」と「緊急時」の体制を迅速・柔軟に行うべきとしています。注目されるのは、上記の具体的方策として「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」がフィーチャーされた点です。かかりつけ医については、「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」の章で、「かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進」と明記されました。これは、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会が今年4月、医療や介護、年金など社会保障制度の改革についての考え方を示した中で提言した、「かかりつけ医機能」の制度化を、やや表現をマイルドにしてもってきたものと言えます。この提言については以前の本連載でも紹介しました(第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣)。4月の時点で財務省は、「かかりつけ医機能」の制度化について、紹介状なしで大病院外来を受診した患者から定額負担を徴収する仕組みと共に推進し、外来医療の機能分化と連携につなげることを求めていました。日医はかかりつけ医制度化に「反対」を再度表明「骨太」では「制度化」という言葉は使わず、「かかりつけ医機能の強化・普及等」になっています。とはいえ閣議決定された文書に明記されたのだから何らかのアクションあるはず、と思いますですが、なかなかそうは問屋が卸さないようです。日本医師会の中川 俊男会長は6月23日の定例記者会見で、「骨太の方針2021」に対する日医の見解を説明しています。その中で、「かかりつけ医機能の強化・普及」について、「かかりつけ医は患者が選ぶものであり、その際には、国民皆保険の柱であるフリーアクセスを担保する必要がある」と、定番の「フリーアクセス」を持ち出して制度化反対を表明しました。さらに、日医がこれまで「かかりつけ医機能研修制度」を創設し、地域住民から信頼される「かかりつけ医」の養成・普及に努めてきたことを説明し、その上で「今後は、医療費抑制のためにフリーアクセスを制限するような仕組みを制度化するのではなく、『骨太の方針』にも記載されているとおり、上手な医療のかかり方を啓発し、かかりつけ医を普及していくことが重要である」と話したとのことです。以前の回でも書いたように、相変わらずののらりくらり振りです。中川会長は、「俺たち医師側はちゃんとしている。患者側に上手な医療のかかり方を啓発しろ」と言っているわけですが、これでは議論放棄です。コロナワクチン接種を巡っては、「通ったことがある」とかかりつけ医の個別接種を希望した人が、受診回数や頻度が少ないので「あなたは、うちのかかりつけではない」と断られるケースが各地で頻発しました。これも「かかりつけ医」の定義が曖昧であることから起こっているのですが、そうした現場での混乱について中川氏は特段コメントしていません。中医協でも本格議論始まる「骨太の方針2021」を受ける形で、7月に入り中央社会保険医療協議会(中医協)でも、かかりつけ医の評価を2022年の診療報酬改定にどう反映させるかについての議論が始まっています。7月7日に開かれた総会では、診療・支払各側の委員が共にかかりつけ医推進の重要性を言及しています。もっとも、支払側の委員が「いわゆるゲートキーパー的な機能を患者は求めている。特定の領域に偏らず、幅広い疾患をまずは診療できるという医師と患者が1対1の関係でしっかりした関係を構築し、安心、安全で質の高い医療を提供できる場合に評価するような医療費の配分を次期改定でぜひ行っていくべき」と患者視点のかかりつけ医の必要性を述べたのに対し、診療側(日医常任理事)はかかりつけ医の制度化について「フリーアクセスということは担保されるべき。日本医師会としては明確に反対させていただく」と述べたとのことです。何度聞いても日医の言う「フリーアクセス」とは、患者のためのものではなく、質が悪い医師のところにも一定の患者が来るようにしておくための仕組みとしか思えないのですが、どうでしょう。なお、この場で支払側委員は「次期診療報酬改定において、かかりつけ医機能を評価する診療報酬項目の要件をゼロベースで見直し、再構築すべき」とも提案しています。医療の質を、会員全体で担保できないからでは?日医側の、かかりつけ医関係の診療報酬は上げて欲しいが、その診療報酬を得るための「かかりつけ医の制度化」は嫌だ…、というのは本当に虫のいい話です。なぜ、日医は制度化を嫌がるのでしょうか。それは、かかりつけ医(言い換えれば総合診療のプロ)としての医療の質を、会員全体で担保することができないからではないでしょうか。普通に考えれば、日医が自慢げに話す「かかりつけ医機能研修制度」を今回の制度化のベースにもってくればいい気がします。ただ、研修内容の中身や応用研修受講者延べ3万9,073名、修了者数6,009名(2020年3月現在)という規模では、報酬の恩恵を多くの会員が受けられず、診療報酬算定の要件として提案できそうにありません。「かかりつけ医の制度化で、医療の質の面には踏み込んで欲しくない。だって実力も自信もないから。でも報酬は上げてくれ」というのが彼らの本心なのかもしれません。ちなみに、冒頭で触れた大橋先生が所属する日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医の認定制度のカリキュラム内容は、当然ながら日医の研修制度よりも充実しています。患者の立場にたてば、かかりつけ医、家庭医を自称し報酬増も望むからには、これくらいの質の担保は欲しいところです。財務省は現時点ではやる気まんまんかかりつけ医については、医療法等改正で新たに始まる外来機能報告制度の中身を議論する「外来機能報告等に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織)でも議論される予定です。7月20日付のメディファクスには、医療・介護の予算を担当する財務省主計局の一松 旬主計官(厚生労働係第1担当)のインタビューの概要が掲載されています。同記事によれば、一松主計官は、2022年度診療報酬改定に向けて 「医療提供体制の改革なくして改定なし」の姿勢で臨む考えを示すとともに、かかりつけ医を普及・定着させるには、 要件を定めて認定することや、 患者による登録促進といった「制度化は必ず必要」と述べたとのことです。さらに、かかりつけ医の診療報酬上の評価は「包括払いがなじむ」とも語ったとのことです。患者が登録して包括払いとなると、財務省は以前の回でも紹介した英国のNHS(National Hearth Service)の家庭医制度に近い仕組みをイメージしているのかもしれません。仮にそうならば、日医の反対運動は相当なものになるでしょう。今秋から冬にかけ、かかりつけ医の制度化に向けての動きから、目が離せません。次回は、「骨太」の中でもう一つ気になった「地域医療連携推進法人」について考えてみたいと思います(この項続く)

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第67回 例外だらけのコロナ治療、薬剤費高騰と用法煩雑さの解消はいずこへ?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するワクチン接種の進行状況が注目を浴びている陰で、治療薬開発もゆっくりではあるが進展しつつある。中外製薬が新型コロナの治療薬として6月29日に厚生労働省に製造販売承認申請を行ったカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)が7月19日に特例承認された。この抗体は米国のリジェネロン・ファーマシューティカルズ社が創製したものを提携でスイス・ロシュ社が獲得、ロシュ社のグループ会社である中外製薬が日本国内での開発ライセンスを取得していた。両抗体は競合することなくウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に結合することで、新型コロナウイルスに対する中和活性を発揮する薬剤。日本での申請時には、昨年11月に米国食品医薬品局(FDA)で入院を要しない軽度から中等度の一部のハイリスク新型コロナ患者に対する緊急使用許可の取得時にも根拠になった、海外第III相試験『REGN-COV 2067』と国内第I相試験の結果が提出されている。「REGN-COV 2067」は入院には至っていないものの、肥満や50歳以上および高血圧を含む心血管疾患を有するなど、少なくとも1つの重症リスク因子を有している新型コロナ患者4,567例を対象に行われた。これまで明らかになっている結果によると、主要評価項目である「入院または死亡のリスク」は、プラセボ群と比較して1,200mg静脈内投与群で70%(p=0.0024)、2,400mg静脈内投与群で71%(p=0.0001)、有意に低下させた。また、症状持続期間の中央値は両静脈内投与群とも10日で、プラセボ群の14日から有意な短縮を認めた。安全性について、重篤な有害事象発現率は1,200mg静脈内投与群で1.1%、2,400mg静脈内投与群で1.3%、プラセボ群で4.0%。投与日から169日目までに入手可能な全患者データを用いた安全性評価の結果では、新たな安全性の懸念は示されなかったと発表されている。今回の承認により日本国内で新型コロナを適応とする治療薬は、抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイド薬のデキサメタゾン、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブに次ぐ4種類目となった。従来の3種類はすべて既存薬の適応拡大という苦肉のドラッグ・リポジショニングの結果として生み出されたものであったため、今回の薬剤は「正真正銘の新型コロナ治療薬」とも言える。「統計学的に有意に死亡リスクを低下させる」とのエビデンスが示されたのはデキサメタゾンについで2種類目であり、これまでに行われた臨床試験の結果からは、なんと家族内感染での発症予防効果も認められている。発症予防効果は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で実施した第III相試験『REGN-COV 2069』で明らかにされた。本試験は4日以内に新型コロナ陽性と判定された人と同居し、新型コロナウイルスに対する抗体が体内に存在しない、あるいは新型コロナの症状がない1,505例が対象。プラセボと1,200mg単回皮下注射で有効性を比較したところ、主要評価項目である「29日目までに症候性感染が生じた人の割合」は、プラセボ群に比べ、皮下注射群で81%減少したことが分かった。また、皮下注射群で発症した人の症状消失期間は平均1週間以内だったのに対し、プラセボ群の3週間と大幅な期間短縮が認められている。死亡率低下効果に予防効果もあり、なおかつ限定的とはいえ軽度や中等度の患者にも使用できるというのは、やや手垢のついた言い方だが「鬼に金棒」だ。もっとも冷静に考えると、そう単純に喜んでばかりもいられない気がしている。まず、そもそも今回の抗体カクテル療法も含め、新型コロナを適応として承認された治療薬は、いずれも従来の感染症関連治療薬とは毛並みが異なり、現実の運用では非専門医が気軽に処方できるようなものではない。今後承認が期待される薬剤も含めてざっと眺めると、もはや従来の感染症の薬物治療からかけ離れたものになりつつある。もちろん現行では非専門医がこうした薬剤を新型コロナ患者に処方する機会はほとんどないが、専門医でも慣れない薬剤であるため、それ相応に臨床現場で苦労をすることが予想される。その意味では治療選択肢の増加にもかかわらず、新型コロナの治療自体は言い方が雑かもしれないが、徐々にややこしいものになりつつある。一方、隠れた問題は治療費の高騰である。現在、新型コロナは指定感染症であるため、医療費はすべて公費負担である。そうした中でデキサメタゾンを除けば、薬剤費は極めて高額だ。レムデシビルは患者1人当たり約25万円、バリシチニブも用法・用量に従って現行の薬価から計算すると最大薬剤費は患者1人当たり約7万3,900円。今回の抗体カクテル療法は薬価未収載で契約に基づき国が全量を買い取り、その金額は現時点で非開示だが、抗体医薬品である以上、安く済むわけはない。しかも、これ以前の3種類がいずれも中等度以上であることと比べれば、対象患者は大幅に増加する。本来、疾患の治療は難治例の場合を除き、疾患の解明が進むほど、選択肢が増えて簡便さが増し、時間経過に伴う技術革新などで薬剤費や治療関連費は低下することが多い。ところが新型コロナでは世界的パンデミックの収束が優先されているため、今のところ治療が複雑化し、価格も高騰するというまったく逆を進んでいる。そうした現状を踏まえると、やはりワクチン接種のほうがコストパフォーマンスに優れているということになる。こうした時計の針がどこで逆に向くようになるのか? 個人的にはその点を注目している。

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コウノドリ(その3)【不妊治療がうまく行かなかったら、どうすればいいの? (生殖の物語)】Part 3

これからの社会としての生殖のあり方は?-少子化対策これからの生殖のあり方は、できることとできないことがあることを先に知っておく(限界設定)、今の生活をはじめとする人生そのものを楽しむ(アクセプタンス)、幸せになるためのプロセスをいくつも見いだす(コミットメント)ことであると分かりました。これらは、個人としての生殖のあり方でした。それでは、社会としての生殖のあり方はどうでしょうか?生殖は、個人的な問題だから社会が介入する必要はないという意見があります。一方で、その社会が少子化によって機能しなくなると、個人の生活も機能しなくなります。たとえば、介護の問題です。老後は、血縁者ではなく、福祉でみてもらうとしても、その福祉制度を支えるのは社会、つまり次世代の子どもたちです。次世代の子どもたちが少なければ、介護の制度自体が機能しなくなるでしょう。やはり、福祉をはじめとする持続可能な社会が成り立つには、次世代の子どもが減っていないことが大前提です。ちょうど、その2の記事でご紹介した鴻鳥の後輩女医の下屋のセリフが参考になります(シーズン1第6話)。それは、「女には、産みたくても産めない時があるんです。出産や子育てにはお金がかかりますし、社会に出てキャリアを積もうと思ったら、あっという間に30過ぎちゃいます」というセリフでした。さらに彼女は、「それに妊娠したら、マタハラ(マタニティハラスメント)が待ってるかもしれないんですよ」「女医は子どもを産むからあてにならないと言われるじゃないですか」と付け加えます。すると、そばにいた別の女医が「産休後に復帰できない女医もいる。要は、簡単に子どもを育てられる環境じゃないってこと」と付け加えます。そして、鴻鳥は「生みたいときに生めるのが女性のまっとうな権利なんだけどね」とまとめようとします。しかし、その別の女医は「でも、現実はそうじゃない、女にはタイムリミットがあるの」と指摘するのです。ここから、このワンシーンを踏まえて、これからの社会としての生殖への取り組み、つまり少子化対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)経済的なサポートその2の記事で、子どもを(多く)つくらない心理的な原因の1つに、子育てにお金がかかり過ぎる点を挙げました。1つ目の少子化対策は、子育てへの経済的なサポートです。確かに、すでに少子化対策の一環として、児童手当が支給されています。しかし、子育て支援としては、極めて限定的です。よって、妊娠・出産、保育、義務教育、医療など、成人までかかる費用をほぼ無償にすることです。そして、児童手当は、家計が潤うくらいのインセンティブをつけることです。そもそも、子どもは、社会にとって次世代の生産財です。社会がもっと抜本的に投資する必要があります。逆に、これまでの少子化対策がうまく行かなかった点として、子育て支援が限定的であったこと以外に、婚活支援に投資してしまったことが指摘されています。結婚すると自由もお金も制限されてしまうという受け身的な非婚の心理が広がってしまったため、婚活支援の効果はもはや期待できないでしょう。むしろ、効果的なのは、結婚していない人ではなく、すでに結婚をしている人への介入です。つまり、合計特殊出生率よりも、希望出生率に注目することです。これは、結婚して希望する子どもの数です。たとえば、次の4つのケースに場合分けします。1.結婚していない男女が結婚して1人目の子どもをつくる2.結婚していても子どもがいない夫婦が1人目の子どもをつくる3.結婚して子どもが1人いる夫婦が2人目をつくる4.結婚して子どもが2人いる夫婦が3人目をつくるそして、その中でどのケースが最も効率が良い国家投資になるかを考えることです(パリティ拡大率)。この点で、不妊治療の保険適用は現実的です。もちろん、希望出生率をあげることは、結果的に合計特殊出生率をあげることになります。(2)身体的なサポートその2の記事で、子どもを(多く)つくらない心理的な原因の1つに、子育てで自分のやりたいことができなくなる点を挙げました。2つ目の少子化対策は、子育てへの身体的なサポートです。確かに、保育園や学童保育所の待機児童の数は減ってきました。しかし、充分とは決して言えません。とくに母親のワンオペ育児の状況は大きく改善していません。その原因として、父親の育児協力が不十分であることが指摘されています。よって、まず0歳児からの保育園の拡充をすることです。そして、父親の育児協力を担保するため、育児休暇、育児時短勤務などを制度化することです。会社で仕事をしていない代わりに、家庭で育児という仕事をしているという発想を社会で共有することです。なぜなら、子どもは社会にとって次世代の生産財だからです。社会として、育児にもっと理解をする必要があるでしょう。(3)教育的なサポートその2の記事で、子どもを(多く)つくらない心理的な原因の1つに、子育てのイメージができない点を挙げました。3つ目の少子化対策は、子育てへの教育的なサポートです。確かに、ドラマの女医が「リミット」に触れているように、妊孕性(妊娠のしやすさ)は40歳が1つの目安であることは、かなり世の中に知れ渡りました。しかし、親性(子育てへの自信ややりがい)の個人差やその低下については、あまり世の中に知られていません。また、その親性を家庭内で育むことが難しくなっています。よって、親性を高めるのが、家庭で限界があるなら、教育制度の中で取り組むことです。たとえば、ボーイスカウト・ガールスカウトのような異学年グループを小学校の学校教育の中で取り入れることです。小学校高学年2人と小学校1年生1人の3人グループをつくって、勉強を教えるのです。週1回の生活科や道徳の教科の枠組みで可能でしょう。また、小学校の各学年から6人ずつのグループをつくって、学校のイベントを行うこともできるでしょう。さらに、中学校では、地域の幼保育園との交流を通して、乳幼児と定期的にかかわる何らかの取り組みも望まれます。子育ては、大人だけでなく、子どもも学ぶ必要があることを共通認識とする必要があります。そうすることで、未来の社会の人たちの親性が全体的に高まり、子育てへのイメージがよりできるようになります。そして、子育て自体が喜びと感じる心理は、結婚すると自由もお金も制限されてしまうという受け身的な非婚の心理を上回るでしょう。また、育児へのリアルな理解が得られることで、ドラマの下屋や別の女医が指摘する「マタハラ」はなくなるでしょう。「コウノドリ」とは?タイトルの「コウノドリ」は、「コウノトリ」に濁点が付けられています。不思議に思った人も多いでしょう。これは、実は、書籍の業界のヒットの法則として、マンガ原作者の意図により、あえてつけられたという経緯があります。ただ、同時に、生殖の当たり前から脱することが込められているようにも思えてきます。今回、生殖には、さまざまな意味合いがあることが分かりました。そのことをよく理解したとき、私たちは、単に自分の子どもをつくる「コウノトリ」としてではなく、いろんな生き方を受け入れて誰かの生殖にも思いを馳せることができる「コウノドリ」として、私たち自身の生殖の物語をより豊かに紡いでいくことができるのではないでしょうか?1)子育て支援と心理臨床18:子育て支援合同委員会、福村出版、20192)子どものいない人生の歩き方:くどうみやこ、主婦の友社、20183)不妊治療のやめどき:松本亜樹子、WAVE出版、20164)進化と人間行動:長谷川眞理子ほか、放送大学教材、20075)日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?:山田昌弘、光文社文庫、20206)一人っ子男性が「結婚」に縁遠い傾向にある理由:荒川和久、東洋経済オンライン、2020<< 前のページへ■関連記事テネット【なんで時間を考えるのが癒しになるの?(アクセプタンス&コミットメント・セラピー[ACT])】

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コロナワクチンのアナフィラキシー、患者さんに予防策を聞かれたら?

 7月に入り、新型コロナワクチン接種が65歳未満でも本格化している。厚生労働省の副反応報告1)によると、現時点では「ワクチンの接種体制に直ちに影響を与える程度の重大な懸念は認められない」との見解が示されており、アナフィラキシーやその他副反応のリスクよりも新型コロナの重症化予防/無症状感染対策というベネフィットが上回るため、12歳以上へのワクチン接種は推奨される。 しかし、接種対象者の年齢範囲が広がることで問題となるのが、SNS上での根拠のないワクチン批判である。その要因の1つが「アナフィラキシー」だが、患者自身で出来る予防策はあるのだろうかー。今回、日本アレルギー学会のCOVID-19ワクチンに関するアナウンスメントワーキンググループのひとりである中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)に話を聞いた。ワクチンだけを恐れる矛盾を指摘 まず、中村氏はワクチン不安に陥る前に、あらかじめ知っておくべきこととして2点を提示した。一つは「腕の痛みなどの注射部位反応や筋肉痛、頭痛、寒気、倦怠感、発熱などの反応は、ワクチンに対する身体の正常な免疫反応を反映している」ということで、それらは数日以内に消失する。もう一つは「わが国における新型コロナワクチン接種後に起こったアナフィラキシーの報告で信頼に足るものは100万回あたり7件と報告されており、医療機関で使用される造影剤(100万回あたり約400件)や肺炎などの感染症で使用される抗生物質(100万回あたり100~500件)に比べると極めて少ない」という事実である。今回の新型コロナワクチンに限らず一般にワクチンはほかの医薬品に比べてアナフィラキシーが少ないと言われているにもかかわらず、接種を怖がる人が多いのは、「一部マスコミの注意喚起が強調され過ぎたのかもしれない。ただし、ごく稀とはいえ誰にでも新型コロナワクチンによるアナフィラキシーがあり得るのは事実であり、個人的にできる予防策があればそれに越したことはない」とも話した。 アナフィラキシーを増強させる促進要因(飲酒、運動、月経前状態など)2)はいくつか明らかになっているものの、実際にアナフィラキシーが発症する際にはさまざまな要因が絡み合うため、「これという確かな予防策は存在しない」と同氏はコメント。しかし、予防策が断定できなくとも患者が心得ておくべきは、「ワクチン接種日の数日前から体調を整えておくこと」であり、医療者の役割は「自分の患者からワクチン接種の可否について相談された場合にリスク因子の有無を正確に見極めること」と話した。その際に参考になるのは、アナフィラキシーの主な原因が新型コロナワクチンの主成分ではなく添加物(ポリエチレングリコール[PEG]やポリソルベートなど)との報告である。実際にファイザー製やモデルナ製にはPEGが、アストラゼネカ製にはPEGに交差反応性のあるポリソルベート80が添加されている。 一方、これらの賦形剤は多くの医薬品(注射薬、錠剤、外用薬、など)や化粧品に(PEGはマクロゴールの名称で)広く含有されており、同氏は「私の所属する医療機関で扱っている医薬品4,000種類以上に含まれている。そして、多くの患者は普段から定期的にこれらを体内に取り込んでいることになる。もちろん、その接種経路により症状誘発の程度が異なることはあり得るが、自分が担当する患者さんにワクチン接種の可否を訊ねられた際には、定期処方薬にそれらが含有されていることを確認した上で、『あなたは一般に新型コロナワクチンの原因と言われている成分を毎日服用しているのに普段何ともないのですから、そんなに心配することはないですよ』とアドバイスをして安心していただくようにしている」と、添加物の実状と患者の不安を払拭させるような声掛け方法を例示した。 現在、PEGは日本薬局方には医薬品添加物として、分子量200、300、400、600、1000、1500、1540、4000、6000、20000が登録されており、添付文書ではマクロゴール◯◯や下記のようにPEG◯◯などと記載されていることが多い(◯◯は分子量)。<各ワクチンに含有される主な添加物>・コミナティ筋注(ファイザー):2-[(ポリエチレングリコール)-2000]- N,N-ジテトラデシルアセトアミド・COVID-19ワクチンモデルナ筋注(モデルナ):λ1, 2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メチルポ リオキシエチレン(PEG2000-DMG)、トロメタモール(アナフィラキシー報告あり)・バキスゼブリア筋注(アストラゼネカ):ポリソルベート80アナフィラキシーの“既往なし”でも注意したい患者 加えて、PEGやポリソルベートに対するアレルギーが考えにくい場合でも、ワクチン前に受診を薦めたい患者として「喘息患者のなかでもコントロール不良な人、そして、“かくれ喘息”の人」を挙げた。喘息はアナフィラキシーの重症化リスクの1つであるため、「喘息治療をしていないが、ゼーゼー、ヒューヒューと喘息様の症状を有する人、治療を続けていても発作が多かったりコントロールが不良だったりする人は、ワクチン前にしっかり診断と治療を受け、コントロールしておくことも重要」とし、接種後には「通常の2倍の時間、30分間は経過観察が必要」とも話した。 これらを踏まえ、アナフィラキシー発症リスクの高い例と注意すべき患者像を以下のように示す。<アナフィラキシーに注意すべき患者像>( )内は主な可能性・高齢者(薬剤に過敏歴がある場合、化粧品使用とその経験が長い)・女性(化粧品の使用率が高く、PEGへの経皮感作の可能性がある)・喘息の既往(コントロール不良、発作が多い)、かくれ喘息<アナフィラキシーの発生リスクを探る>(優先順)1)アナフィラキシーに最もリスクがある患者は“PEGやポリソルベートによるアナフィラキシー歴あるいは1回目のワクチン接種でアナフィラキシーがあった”人。その場合には接種を見送る/2回目接種を見送る必要がある。2)次に注意すべきは、“原因不明あるいは不特定多数の医薬品などによるアナフィラキシー歴(PEGやポリソルベートに対するアレルギーの可能性を有する)”がある人。この人は可能な限り主治医に事前相談し、集団接種会場ではなく医療機関での個別接種が望ましい。3)“アナフィラキシー歴はあるが、PEG・ポリソルベートなどの賦形剤以外の物質(食物、金属など)が原因として確定している”人は通常通りワクチン接種を行っても差し支えないと言える。 アレルギー反応にはアナフィラキシーや花粉症、食物アレルギーなどを引き起こすI型、II型(血小板減少症など)、III型(SLEや関節リウマチなど)、IV型(接触皮膚炎など)が存在するが、食物アレルギーはアナフィラキシーと同型に分類されるため、食物アレルギーを抱える患者は接種に不安を抱え、ためらうこともあるかもしれない。これについては、日本アレルギー学会が今年3月に公開したアナウンスメント3)にも「少なくとも現時点では花粉、食物などの特定の抗原に対する I 型アレルギーや、アナフィラキシー症状を伴わない喘息、アトピー性皮膚炎などのアトピー疾患であることが、新型コロナウイルスワクチンに対する過敏性を予測するものではないことを意味する」と示されている、と強調した。医療者としての声掛けー新型コロナワクチンに不安な被接種者へ 新型コロナに罹患した際の症状は死に至る場合もある。感染から回復しても長引く後遺症(疲労感・倦怠感や息切れ…)に悩まされることになり、それらの症状からいつ完全回復を遂げられるかはまだ明らかにされていない。ワクチン接種時の一時的な副反応症状(発熱、倦怠感など)と発症率が低く適切な治療により致命的になることがほとんどないアナフィラキシー、どちらのリスクが自分にとって危険であるのかを天秤にかけた場合、「ワクチンを接種せずに新型コロナに罹患することだけは避けるべきであるのは自明」と同氏は繰り返した。 最後に、ワクチン接種に関し医療者が患者にできることとして、「今後の変異株の拡大などにより若い人でも重症化することが懸念されている現状では、患者にワクチンを諦めさせるのではなく、推奨することが大切なのではないか」とワクチン接種が患者の命を救う最善の手立ての1つであることを強く訴えた。中村 陽一(なかむら よういち)氏横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長1955年香川県生まれ。81年徳島大卒。91年医学博士取得および米国ネブラスカ大学留学。2000年国立病院機構高知病院臨床研究部長を経て05年より現職および昭和大学医学部客員教授。日本アレルギー学会功労会員。同学会アナフィラキシー対策委員会委員長。

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基礎インスリンで治療中の2型糖尿病患者の血糖コントロールに対するCGMの効果(解説:小川大輔氏)

 糖尿病の診療において、血糖コントロール状況を把握する検査として血糖値とヘモグロビンA1cが通常用いられる。血糖値は採血時点の、ヘモグロビンA1cは過去1~2ヵ月間の血糖の状況を表す検査であり、外来診療ではこの2つの検査を同時に測定することが多い。さらにインスリンあるいはGLP-1受容体作動薬などの注射製剤を使用している患者は、日常生活において血糖を把握するために自己血糖測定を行うことが一般的である。 通常の自己血糖測定によるモニタリング(BGM)は測定のたびに指先を穿刺する必要があり、また連続した血糖の変動を捉えることができないという欠点がある。一方、近年使用されている持続血糖モニタリング(CGM)は一度装着すると血糖の変動を連続して把握することができるというメリットがある。CGMは毎食後や睡眠中の血糖コントロール状況がわかるため、糖尿病専門外来では糖尿病治療薬の変更や選択に活用されている。 2018年7月から2019年10月までに米国のプライマリケア施設で基礎インスリンを使用している2型糖尿病患者に対し、CGMの有効性の評価を目的とする無作為化臨床試験の結果がJAMA誌に報告された1)。対象は1日1回あるいは2回の基礎インスリンを用いて治療中の2型糖尿病患者であり、CGMまたはBGMでのモニタリングを行う群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。インスリン以外の糖尿病治療薬の有無は問わないが、食前のインスリンは使用していないことが条件である。主要評価項目は8ヵ月後の平均HbA1c値、副次評価項目は血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)の時間の割合、血糖値が250mg/dL以上の時間の割合、8ヵ月後の平均血糖値である。 30歳以上の2型糖尿病患者175例が登録され、CGM群に116例、BGM群に59例が割り付けられた。平均HbA1c値は、CGM群がベースラインの9.1%から8ヵ月後には8.0%へ、BGM群は9.0%から8.4%へと低下し、CGM群で有意な改善効果が認められた。またCGM群はBGM群に比べ、血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)の時間の割合(59% vs.43%)、血糖値>250mg/dLの時間の割合(11% vs.27%)、ベースライン値で補正された8ヵ月後の血糖値(179mg/dL vs.206mg/dL)が、いずれも有意に良好であった。有害事象としては重症低血糖がCGM群で1例(1%)、BGM群で1例(2%)報告された。 基礎インスリン療法を行っているが血糖コントロールが不良(HbA1c値7.8~11.5%)の2型糖尿病患者に対し、従来のBGMをCGMに替えると8ヵ月後のヘモグロビンA1cがより低下したという結果である。これまでに1型糖尿病を対象とした試験でCGMを用いることにより血糖コントロールが改善するということは複数報告されており、強化インスリン療法を行っている2型糖尿病を対象とした試験2)でも同様の結果が報告されている。今回初めて基礎インスリン療法を行っている2型糖尿病を対象とした試験でCGMの有効性が示された。ただ、1日1~3回血糖値を測定するBGM群に対し、血糖の情報量が圧倒的に多いCGM群でもっと差があるかと思ったが、予想外にその差は0.4%とわずかであった。またHbA1c値8.5%以上のとくに血糖コントロール不良の患者では両群で有意差がなかった。これは本試験が糖尿病専門医のいる医療機関ではなくプライマリケア施設で実施されており、専門医が直接インスリン投与量の管理を行っていないことが関係していると考えられる。せっかくCGMを用いても、得られた血糖日内変動のデータを解釈しインスリン投与量の調節に活かせなければ意味がない。ただCGMを装着すればよいというわけではない、というメッセージをこの研究は与えている。

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2種類のコロナワクチン、副反応疑いの報告状況/厚労省

 厚生労働省は、7月7日に今までに報告された新型コロナワクチンの副反応疑い報告など、ワクチン接種後の副反応(副作用)に関する情報をまとめたレポートを「新型コロナワクチンの副反応疑い報告について」として公開した。 レポートは、ワクチンの接種後に生じうる副反応を疑う事例について、医療機関などに報告を求め、収集したものを同省の審議会に報告し、専門家による評価を行ったもの。副反応疑いについて対象期間:令和3年2月17日~6月27日副反応の頻度:・ファイザー社ワクチン(商品名:コミナティ筋注)は0.04%(3,921万8,786回接種中1万5,991例)・武田/モデルナ社ワクチン(同:COVID−19ワクチンモデルナ筋注)は0.02%(95万9,165回接種中191例) いずれのワクチンも、これまで通り安全性において重大な懸念は認められないと評価された。なお、ワクチンにより接種対象者の年齢や接種会場などの属性が大きく異なるため、両ワクチンの単純な比較は困難であり、注意が必要。死亡例について対象期間:令和3年6月27日までの集計・ファイザー社ワクチンは453例・武田/モデルナ社ワクチンは1例 追加で7月2日までに両ワクチンを合わせて102例の報告 死亡例の報告に関しては、現時点において引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない。アナフィラキシーについて・ファイザー社ワクチンは1,632件(100万回接種あたり42件)が報告され、うち289件(100万回接種あたり7件)が専門家によりアナフィラキシー(ブライトン分類1~3)と評価された。・武田/モデルナ社ワクチンは医療機関から14件(100万回接種あたり14.6件)が報告され、うち1件(100万回接種あたり1.0件)が専門家によりアナフィラキシー(同)と評価された。 アナフィラキシーの報告に関しても、現時点において引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない。その他の懸念事項 接種後の心筋炎・心膜炎に関し、ワクチンの添付文書に本症について追記の改訂内容が報告された。心筋炎関連事象について検討が行われ、現時点においてワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められないとされた。ワクチンの不正確な情報に惑わされないための注意 同省では【ご注意ください】を掲示し、下記のようにワクチン接種におけるデマや流言への注意喚起も行っている(以下に一部抜粋)。・国内外で、注意深く調査が行われていますが、ワクチン接種が原因で、何らかの病気による死亡者が増えるという知見は得られていません。・海外の調査によれば、接種を受けた方に、流産は増えていません。・接種後の死亡と、接種を原因とする死亡はまったく意味が異なります。接種後の死亡にはワクチンとは無関係に発生するものを含むにもかかわらず、誤って、接種を原因とする死亡として、SNSやビラなどに記載されている例があります。

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第64回 オリンピック入国者のコロナ“ザル検疫”、関係者が語る意外な事実と驚愕の見通し

東京オリンピックが今月末から開催される。続々と各国選手団や関係者が入国する中、6月19日、事前合宿のために来日したアフリカのウガンダ選手団9人のうち1人が成田空港検疫で新型コロナのPCR検査で陽性となったことはすでに報じられているとおりだ。該当の選手は検疫による隔離が行われたが、驚くべきことに残り8人はそのままバスで事前合宿地の大阪府泉佐野市に移動。その中からさらに1人の陽性が判明し、泉佐野市職員までもが濃厚接触者に認定されるに至った。ちなみに最初に空港検疫で陽性が判明した選手は、国の療養解除基準を満たしたことから、7月1日未明、泉佐野市の宿舎に到着したと発表されている。濃厚接触の疑いがある選手に移動を許してしまう「ザル検疫」にはかなり驚きだが、実は濃厚接触の判断は自治体(ウガンダ選手団の場合はホストタウンの泉佐野市)が行うとの方針に基づくもの。ただ、残りの選手の移動を許し、移動地で新たな陽性者が発生したことには批判が多く、今後は空港段階で濃厚接触者の特定を行う方針を検討しているという。やや口汚い言い方かもしれないが、この検討そのものが何とも間の抜けたレベルにしか思えない。もっとも空港検疫に限界があることも事実だ。たとえば今回のウガンダ選手団の場合、全員がアストラゼネカ社製ワクチンの2回接種を済ませ、出国96時間以内に2回のPCR検査を受けて陰性だったとの証明書を持参していたという。ここではまず科学的な限界がある。ワクチンで十分な抗体価を獲得できるのは接種完了から1~2週間後で、その効果も100%ではないこと。また、感染から4日後までは感染者の半数以上がPCR検査で偽陰性になってしまう。さらに空港検疫でスクリーニングに使われている抗原検査は、PCR検査と比べれば感度は落ちる。今回のケースはたまたま抗原検査で結果が出なかった選手に念押しのPCR検査を行った結果、陽性になったという結果論から言えば「不幸中の幸い」のようなケースだ。一方、実務上も限界がある。来日する外国人が提示するワクチンの接種証明書やPCR検査の陰性証明書に実施医療機関が記載されていても、空港検疫の窓口ではその医療機関が実在するのか否かを確認している余裕はない。それ以上にそれらの証明書の真贋を判断しきれないのが現実だ。約1ヵ月前、偶然にも検疫業務関係者と話す機会があった。その時この関係者が語っていたのは「陰性証明書を有していても入国時の抗原検査で陽性になるケースは一定程度あり、とくに航空機の場合、この陽性率は到着便の離陸国によって明らかに違う」ということだった。端的に言えば、法制度の運用が先進国ほど厳格ではない国からの到着便の搭乗客が提示する陰性証明書には、偽造が疑われるものが紛れ込んでいる可能性が高いということだ。しかし、この関係者が最も懸念していたことはほかにもあった。たとえば空港検疫で陽性が判明した入国者は、検疫所が用意した宿泊施設で経過観察が行われる。こうした宿泊施設は各入国ポイント近くに存在する。成田空港ならばその周辺すなわち千葉県内である。そしてこの経過観察中に重症化すれば千葉県内の新型コロナ病床に収容される。この現実が意味することは次のようなことだ。10万人程度が来日すると言われる今回のオリンピックでは、主な入国ポイントは成田空港、羽田空港になると思われるが、この水際で感染者を捕捉できたとしても、そこから発生する重症者は東京都、千葉県の新型コロナ病床に入院し、結果的に地域の病床ひっ迫に影響しかねないのである。そして場合によっては地域住民から発生するであろう新型コロナ重症者と病床を取り合ってしまうことさえ想定できるというのだ。ここでやや荒っぽい試算をしてみる。オリンピック関係の想定入国者は10万人と言われる。このうち1%から陽性者が見つかったとしよう。その数は1,000人。感染者のおおむね2割が重症化するのでその数は200人。そしてこちらのデータからは、新型コロナの重症者対応病床は千葉県が101床、東京都が1,207床となっている。2019年出入国管理統計によれば、同年に日本に入国した外国人は3,118万7,179人、うち成田空港からが897万8,773人、羽田空港からが 428万8,078人である。1年間に日本に入国する外国人は成田空港からが29%、羽田空港からが14%を占める。つまり前述の重症者試算にこの割合を加味すると、成田空港からのオリンピック関係入国者からは58人、羽田空港から28人の重症者が出ることになる。試算した成田空港での発生重症者が千葉県の新型コロナ重症者対応病床に入院することになれば、なんとその50%以上を占有することになる。東京都は幸い2%強で済む。ちなみに2019年出入国管理統計での成田空港、羽田空港の入国者がわりに少ないと思った人も多いだろう。これ以外で入国者が多いのは関西国際空港の837万8,039人で、割合にして27%。前述の試算と同様の計算を行えば、このルートで発生する重症者は54人。大阪府の重症者対応病床数は841床で、その7%弱に当たる。もっとも今回のオリンピックはあくまで開催地が東京であることを考えれば、過去の出入国管理統計データで示されるよりも成田空港、羽田空港からの関係者入国割合は多くなるはずだ。しかも、いま首都圏では東京都を中心に感染の再拡大傾向が見え始めている。6月30日時点の新規感染者の前週比は東京都が1.20倍、千葉県が1.09倍。そしてこの傾向が続けば東京オリンピックの開会式の頃に緊急事態宣言発出となる可能性がある。ここにオリンピック関連入国者から見つかる陽性者、そこから引き続く重症者が前述のように発生したらどうなるだろうか?何とも嫌な時期にオリンピックを開催するのだと、正直溜息しか出てこない今日この頃である。

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まれだが致死的な血栓症への対応・事前説明はきわめて難しい(AZワクチン)(解説:後藤信哉氏)-1407

 新型コロナウイルス対策としてワクチンの普及は切り札になれると期待している。ワクチンに限らず、すべての医療介入にはメリットとデメリットがある。新型コロナウイルスワクチンの場合には、ワクチン接種によりウイルス感染の広がりを阻止できるとの社会的期待がある。しかし、個別症例にはデメリットもある。本研究は医療従事者における13万例の接種に合併した5例の血栓症の報告である。 対象となった医療従事者は32~54歳で特段の疾病の既往はなかった。いずれの症例も接種後7~10日にイベントが起こっている。アナフィラキシーは接種現場で起こる。対応の準備もできる。接種後7~10日に頭痛、背部痛、腹痛などにて救急搬送されている。いずれの症例も静脈血栓が確認されている。血栓の形成部位は脳静脈洞など普通遭遇しない部位である。本研究では臨床イベントのみでなく血液検査を詳細に施行している。いずれの症例もHIT抗体と呼ばれる血小板第4因子・ポリアニオンの高い抗体価を呈した。著者は、これらの症例をワクチンによる免疫性の血小板減少・血栓症としての自発的な(ヘパリンを使用していないとの意味)ヘパリン惹起血小板減少・血栓症(HITT:heparin-induced thrombocytopenia・thrombosis)としている。HITは時に致死的な病態である。ワクチンにまったくの健常者に、ワクチン接種の1~2週に発症する。 本邦では、ワクチン接種は本人の希望によるとされている。重篤な合併症が元気な人に突然起こるという情報は医療関係者のみならず広く一般に広報されるのがよいと筆者は考える。確率は低いが致死的な合併症への対応、事前説明はきわめて難しい。

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