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記憶に残る医療略語―多尿に関連したPOD【知って得する!?医療略語】第1回

第1回 記憶に残る医療略語―多尿に関連したPOD「POD」は医学界では“Post-Operative Day”(術後○○日目)を意味することが多いですが、PODが別の意味を持つことはありますか?コム太君、そうなんです。1つの略語でも複数の意味を持つことがありますね。カルテで見かける「POD」は圧倒的に“術後〇〇日目”を意味する「POD」が多いですね。でも、あまり知られていないけれど、“Post obstructive diuresis”(尿閉解除後利尿)という“疾患・病態”を意味する「POD」もあるんですよ。カルテでみかけたら、意味を間違えないようにしましょうね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】POD【日本語】尿閉解除後利尿【英字】Post obstructive diuresis【分野】腎・泌尿器【診療科】救急/集中治療・泌尿器・腎臓【関連】尿路閉塞・利尿過多・電解質異常【略語】POD【日本語】術後○○日目【英字】Post-Operative Day【分類】カルテ表現【分野】―【診療科】外科一般【関連】術後日数実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。本シリーズでは皆様のお役に立つかもしれない医療略語をご紹介していきます。今回は「POD」です。外科系の先生は、この「POD」から“Post-Operative Day”(術後◯日目)を連想されるのではないでしょうか。しかし、「POD」が「尿閉解除後利尿」を表していることがあります。そこで今回は尿閉解除後利尿に関する話題を取り上げたいと思います。PODは1951年にWilsonらにより尿閉解除後のナトリウムと水の過剰排泄により生命の危機を来たした3例として報告されたのが最初とされます。国内の論文報告を調べると、「POD」は「尿管閉塞解除後利尿」「閉塞後利尿」「尿閉解除後利尿」「尿閉解放後」と訳されており、統一した和訳はありませんが、いずれも尿路閉塞解除後に生じる利尿過多の病態を指しています。本邦でも、1984年には既にPODと略されています。1987年に比嘉氏らが尿管閉塞61例における尿閉解除後の尿量を報告1)しており、55例中16例では24時間蓄尿で5L以上の尿量が記録されています。日常診療で尿閉患者さんは時々遭遇し、バルーンカテーテルで尿閉を解除する機会は多いと思います。一方、日々の臨床でたまに、原因不明の多尿患者さんに遭遇することがあります。PODの概念を知っておくことは、多尿患者さんの鑑別に役立つかもしれません。PODのメカニズムと管理については、以下に詳述されていますのでぜひご参照ください。A guide for the assessment and management of post-obstructive diuresisurology news MARCH/APRIIL 2015 VOlL19 No31)Higa I, et al. Kinyokika Kiyo. 1987;33:1005-1010.

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「今後のコロナ医療に必要なことは?」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(後編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。 前編「五輪の裏で医療現場は疲弊し、ギリギリまで追い詰められていた」はこちら。*******――当面続くと見られるコロナ診療。これまでの経緯を踏まえると、重症者に特化した病院とプライマリとの分担および連携が肝要では? そこが最も重要なポイントだと思う。結局、物事を回転させていくには、ヒト・モノ・カネのバランスが必要で、それらがすべて噛み合うことで回転し、物事が前に進んでいく。しかし、報道や国や政治が声高に強調するのは、モノとカネの支援。だから、「ベッドの占有率が〇%だ」とか、「日本は病床数が世界最大規模なのに、現場がなぜ回らないのか」というズレた議論、医療者はけしからんという論調になる。今、圧倒的に足りないのはモノでもカネでもなく、「ヒト」なのだということをきちんと理解してほしい。例えるなら、航空機のボーイングが何台もあって、飛ばせと言っても、小型機のパイロットしかいなければ飛ばせないのと同じ理屈だ。われわれ医療者に引き寄せて考えてみてほしい。医師免許を持っている人が全員、人工呼吸器を使えて、特殊な感染症が診られるのか。つまり、「ヒト」の考え方がまったく欠落している。今回、コロナで盛んにECMOが取り上げられたが、所有していたところで、それを扱える医療従事者がほとんどいないという現実がまったく知られていない。見当外れの世論を助長させた一端には、モノ・カネ偏重の政策とメディアの報じ方があったのではないかと考える。 コロナ医療を「ヒト」の視点で考える際、軽症と重症に分ける必要がある。軽症は、感染対策が可能な病院や医師ならば誰でも診られると言っていい。問題は、風評被害への懸念、未知の感染症への恐れなど、どちらかというと精神的側面が大きい。そもそも現時点で重症リスクがない患者には有効な薬剤がないので、軽症であれば、周りにうつらないように自然軽快を観察していくことになる。一方、重症者治療となると対応が大きく変わる。厳重な感染対策のもとで細やかな循環呼吸管理をしていかなければいけない。しばしば人工呼吸器やECMOの操作も必要となり、これは集中治療の領域だ。 日本の医療界は、歴史的に集中治療医と感染症医のような臓器横断的に診る医師が圧倒的に少ない。病床数が多かろうと、医師免許を持った人がそれなりにいたとしても、病床の大部分が療養型だったり、精神科病床だったりする。そのような中、カネを出してハード面を整えたとしても、十分に扱える人員がいないのが現状。重症者を診る医師が絶対的に足りないのは、そうした背景がある。 今後、第6波以降に重症者が増えたとしたら、再び医療逼迫が起きるのは必至。現在、感染者数は抑制できているが、今後は患者数が増えてきた場合に、重症者をどれだけ抑えられるかにかかっていると思う。軽症~中等症Iであれば、付け焼刃でも医師免許を持っている人たちへの促成教育は有効だと考える。実際、私は埼玉県に提案し、県のトレーナー制度でコロナ治療に協力してくれる医療機関、医師に対する指導をすでに始めている。しかし、重症を診る人材の育成は即席では難しく、短期的な視点では限界があり、重症者を診る人員が足りないという現実はそう簡単に変わらない。 今回のコロナ・パンデミックに関して新たな人材育成の猶予はないので、やはりポイントは「重症者を増やさない」ことに尽きる。国の対策としては、悪いほうにシナリオを考え、本当に機能する重症者病床は、これ以上増やせないことを理解してほしい。増やすことを仮定した対策ではなく、現状のベッド数で医療が回る対策が必要だ。 私の聞くところであるが、重症者を診るのが大学病院や一部の大病院に限られている上に、呼吸器内科、救急科、集中治療、感染症、総合内科のような一部の診療科の医師がほぼ診ている状態。自院に関しては、感染症と救急の医師に、少数の派遣医師で回しているのが実情。もともと人数の少ない診療科の医師だけで回さざるを得ず、皆が疲弊し切っている。 なぜ、救急や集中治療、感染症、総合診療の医師が育ってこなかったか。理由の1つは、専門としていまだに認められていないということ。麻酔科の経緯に照らして考えるとわかるだろう。外科医が1人で手術をする際、現在ならば麻酔科医が麻酔をかける。しかし、術後感染症が起きたとしたら、外科医が診ることになる。術後、抗がん剤治療を開始する場合、米国ではオンコロジストが担当するが、日本では外科医が抗がん剤治療も行う。さらには、緩和治療をも外科医が一手に引き受けなければならないのが実状。こんな多忙な外科医に、感染管理ができるのだからコロナを一緒にやってくれとはとてもじゃないが言えない。それどころか、本来やるべき手術などがいっさい回らなくなるだろう。それでもやるなら、通常医療を捨てざるを得ないという本末転倒に陥ることになる。その先には病院の収益の問題につながる。 将来的な対策として長期的視点で必要なことは、集中治療医、感染症科医を育て、それなりの病院では現在の麻酔科医のように必須にすること。これは外科医の負担軽減だけでなく、患者にとってもメリットが大きい。集中治療しかり、感染管理しかり、麻酔しかり、専門医が担当することは、医療の質の担保にもつながる。もはや、日本の根性論、精神的頑張りに負うような医療体制は通用しない。今回のコロナを巡る医療逼迫の背景にも、こうした日本独特の医療体制に一端がある。つまり、臓器別の縦割り診療科は認められているので志す人は多く、臓器に関係ない感染症科や麻酔科や集中治療といった横割りの診療科には人が来ない。今後のパンデミックに備えるには、こうした診療科の医師が足りていないということをまずは認め、本腰を入れて養成に入るべき。 感染症科医を例にすると、コロナのような何十年に1度という事態に直面した時には必要性が感じられるが、平時には割に合わないのではないか、というのが一般的な考え方で、経営にもそういう考え方の人が多いのは確かだ。しかしそれは間違っている。感染症指定医療機関でなくても、結核、HIVはもちろん、輸入感染症の患者が来る可能性は十分にあるし、多くの結核患者は咳や微熱で一般病院を受診し、診断を受ける。今回のコロナ禍で、「空気感染を予防できる設備がないのでコロナは診られない」という病院がいくつもあったが、それはおかしいとはっきり言いたい。 病院というのは、そもそもコロナにかかわらずインフルエンザでも結核でも水疱瘡でも日常的に診ている。感染症が未知の種類だから診られないというのはおかしい話で、どんな新興感染症が突然現れたとしても、周りの人が守られるような安全対策が取られているのが「病院」であるべき。何十年に1度のパンデミックに備えて設備投資するのは見合わないなどと言うのは本末転倒で、海外往来が当たり前のこの現代、もうすでにどこの病院にもそのような患者は来ていることを自覚し、備えるのが正しい在り方だろう。さらに、急性期病院は、例えば200床につき1人以上の感染症医を置き、診療報酬上でも加算化する。集中治療医に関しても、そういう形で、必要不可欠にしていくことで専門性が認められていくべきだと思う。他科から診察依頼やコンサルテーション があった場合にも、対価として診療報酬が支払われるべきだろう。そうでなければ、こうした専門医が定着するのは難しい。 私の懸念は、今回のコロナ禍の経験で、厚労省がますます病床数を増やそうという方向に加速していくことだ。必要なのは、増やすことではなく有効に回せるベッドをいかに残すか。診る医師も設備もないのに、病床数をやみくもに増やしても、「日本は世界に誇るベッド数を準備しているのになぜ回らない」と批判的な世論を生むだけだ。――メディアでは“幽霊病床問題”として大きくクローズアップされた。 その通り。まるで病院や医療従事者が対応していないかのような論調だが、そもそも人員が足らないのだから患者を受け入れられないのは当たり前。でも一般市民にはそれはわからない。厚労省は、ベッドの多さ、患者の多さを基準に病院を評価しがちだが、たくさん受け入れたことが偉いという評価基準それ自体が間違っている。その先、医療の実態はどうなのかというところまできちんと確認するべきだ。 当院は40床のコロナ病床を準備したが、人員に照らしたキャパシティを考慮すると38床の受け入れが限界だった。なぜなら、受け入れた患者さんはもちろん、働くスタッフの医療安全上の問題なども考えなければいけなかったからだ。例えば、50床あるのに患者2人しか受け入れないというのは明らかに悪質だが、7~8割の病床を埋めて頑張っているところを責めるのはおかしい。 ECMOの稼働率がメディアに取り上げられたこともあったが、それを扱える人的リソースの問題で「使わない」という選択をすること批判が集まった。しかしわれわれは、人工呼吸器よりも圧倒的に人的負担がかかるECMOにリソースを割くことよりも、その分、人工呼吸器の患者をより多く受け入れて、より多くの患者を救命しようという方針だった。 コロナはある意味、災害医療とも言える。そこにはトリアージの考え方があった。ECMOへのこだわりを持っていると、本来は受け入れられる人を受け入れられなくなり、助けられた人を助けられないということが起こり得た。――最後に、コロナ第6波あるいはもっと長い闘いを想定するとき、医療者はどう備えるべき? これからの戦略を立てる以前に、まずはこれまでの総括・検証が必要だ。少なくとも、五輪開催時期を巡っては、少しでも後ろ倒しにしてワクチン接種率を上げてからにすべきという医療者側の切実な訴えは、政府に聞いてもらえなかった。メディアでは、五輪までにコロナが収束するなどという“有識者”の発言もあったが、とんだデタラメだった。したがって、政策の検証だけでなく、どの専門家の発言が信頼に足るのかというメディアの発信の仕方についても検証が必要だろう。 次に、次のピークに向けた戦略として私が言えるのは、重症者病床がこれ以上増えないという仮定のもとで動くべきだということ。大事なのは「増やす」ではなく「増えない」前提のプランを準備し、明確にしておくこと。実際、第6波において重症者が増えるのか否かは不明だ。しかし、デルタ株に対して重症化を防ぐワクチンの効果は確実なので、ワクチン接種は引き続き進めていくべき。そして、抗体カクテルや今後登場するであろう治療薬をワクチン代わりにはしないこと。ただし、プライマリで重症化リスクのある患者に対し、抗体カクテルや治療薬が確実に使える体制を整えることはとても重要。これは、プライマリの先生方に望むことにもつながるが、軽症や中等症の治療を第5波まではわれわれがやってきた。今後は、プライマリの先生方と協力し、役割分担しつつ、重症者病床は現状から増えないという想定で、ワクチンや抗体カクテル、薬で治療を進めていくべきと考える。 もう1つ、医療にひずみが出ている問題がある。コロナ医療を巡っては、医療と報酬が見合っていない。中には、コロナ重症者を診るスタッフの給与よりも、ワクチン接種のアルバイト報酬のほうが高いといったケースも見られた。これは明らかにおかしい。病院に寝泊まりして、重症コロナ患者を懸命に診て疲弊しきっているスタッフの月給が、ワクチン接種に従事する人の日給と同程度なんてあんまりだと思う。 医療には、その負担や技術・能力に見合った適正価格がある。このような状況では、将来的にも感染症や集中治療を目指す医師はいないだろうと危惧する。将来的なことだけではなく、目下の第6波に備えるためのモチベーションにもつながる。医療の水準に対する正当な評価。これをなくしてコロナ医療は前に進まない。

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英語で「検査をしてほしい」は?【1分★医療英語】第5回

第5回 英語で「検査をしてほしい」は?I might have been exposed to COVID.Can I get tested for it?(コロナウイルスに曝露してしまったかもしれません。検査を受けることはできますか?)Okay,do you have any symptoms?(わかりました、何か症状はありますか?)《例文1》He needs to get tested for Hepatitis B before the surgery.(彼は手術前にB型肝炎検査を受ける必要があります)《例文2》You haven’t got tested for STI for the past three years. Would you like?(ここ3年間性病検査を受けていないようですね。検査されますか?)《解説》“get tested for A”で、「Aの検査を受ける」という表現になります。医療現場でも“want to get tested for COVID”という表現で、患者から検査を要求されることが頻繁にあります。この言い回しは使い勝手が良く、たとえば医師が患者に説明する際にも、“You need to get tested for A(Aの検査を受ける必要があります)”などと説明することができます。ちなみに、日本ではメディアが「新型コロナウイルス」という表現を使って報道しているのに対して、医療現場を除いた日常会話では「コロナ」という略称を使うことが多いかと思います。一方、米国のメディアは“COVID-19”や“Coronavirus”という表現で報道することが多いです。そして、日常ではほとんどの人が“COVID(コービッ)”と言います。“Coronavirus”や“Corona”を聞くことはまずありません。「COVID-19の検査を受けたい」という表現では、“I want a COVID test”という非常にシンプルな伝え方もあります。こちらの表現も日常的によく使われます。“I want to get tested for COVID”と同じ意味ですが、ネイティブからすると、“I want a COVID test”のほうがやや楽観的な印象を受けるようです。講師紹介

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第86回 “外交官”のオミクロン株感染から学ぶ、入国禁止以外にできる水際対策とは

一体、私たちはギリシャ文字のアルファベットをいくつ覚えなければならないのだろう。そしてこれまでの各方面の努力が水泡に帰するのだろうか? 南アフリカ(以下、南ア)が起源と考えられている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新たな変異株・オミクロン株の登場に世界が震撼している。ちょうど先週末から今週初めまである地方都市に滞在していたので、夜の飲食店の暖簾をくぐったが、カウンターだけの店内ではオジサンだらけ(もちろん自分も含めてである)。そこでもほかの客が時々「オミクロン」と口にしていて、ややうんざりしてしまった。もっとも私自身は何もオミクロン株を軽視しているわけではない。むしろこれまでよりも厄介なのではないかとすら思っている。すでに広く知られているように、オミクロン株は新型コロナウイルスの野生株と比べ、スパイクタンパク質部分に30ヵ所以上の変異を有し、この数はこれまでの変異株の中で最多。このうち約半分が受容体結合部位(RBD)に関する変異で、常識的に考えれば、この数の多さだけで感染やワクチン接種によりできた抗体の抗原認識能力は低下すると考えられる。しかも細胞へのウイルスの侵入を容易にし、感染性の増強に関わる変異も有するので極めて厄介と言わざるを得ない。起源と言われる南アでは昨年5月下旬から9月初旬にかけての第1波、昨年11月下旬から今年2月上旬にかけての第2波、そして今年5月中旬から9月下旬まで続いた第3波を経験し、11月中旬から第4波とみられる感染流行を見せている。この第4波では各国で猛威を振るい日本の第5波を引き起こしたデルタ株からオミクロン株への置き換わりが進み、感染流行の主流株になりつつあるという。その意味でオミクロン株はデルタ株より感染力は増している可能性があり、実際一部の事例の報告からその可能性がうかがい知れる。たとえば、香港では入国後に検疫用隔離ホテルに滞在していた南ア渡航歴がある人でオミクロン株感染が判明し、同じホテルでこの感染者の真向いの部屋に滞在していたカナダからの帰国者でも感染が発覚。その後の調査から同じフロアの廊下などの環境中からもオミクロン株が検出されている。このような経緯もあり、日本政府は11月27日から水際対策の強化を目的に南アとそれに隣接するナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)、レソトの計6ヵ国からの入国者に国指定の宿泊施設で10 日間の待機を義務付け、翌28日にはこの対象国にザンビア、マラウイ、モザンビークを加えた。もっともアフリカの事情を考えた場合、この対策は不十分だと思い、私個人はそのことをTwitterでツイートもしていた。何かというと、アフリカ大陸は1880年代から第一次世界大戦期までの「アフリカ分割」と称されるヨーロッパ列強による植民地支配により、各国とも人流において、当時の支配者だったいわゆる旧宗主国とのつながりが深い。たとえば当初の水際対策強化の対象だった6ヵ国の場合はそうした事情でイギリスが旧宗主国であり、追加された3ヵ国のうちモザンビークはポルトガル、残り2ヵ国もやはりイギリスがそれである。つまりこれらの対象国からの流入阻止を考えた場合、ヨーロッパからの入国にも一定の制限を設けなければ理屈に合わない。また、前述の9ヵ国から日本への直行便はないため、これらの国からの来日はアフリカ大陸でも世界各地への旅客機の本数が多いエジプト、エチオピア、ケニア、あるいは中東のアラブ首長国連邦やカタール、アジア圏内の韓国、中国、タイ、シンガポール各国を経由する。つまりこのルートも厳重警戒を払わねばならない。結局のところ水際対策を強化するならば、ほぼ全世界からの入国に対して対策強化をしなければならないのだ。その意味で11月30日午前0時から全世界からの外国人の入国を1ヵ月停止し、オミクロン株が確認されている各国からの日本人帰国者を厳重な隔離施設で待機させるとした首相官邸の決定は、かなりの英断だったと個人的には評価している。ただ、最終的に撤回はされたものの、国土交通省を通じて日本に到着する国際線を運航する各航空会社に新規予約を止めるよう要請していた件は、不安に駆られ帰国を急ぎたい日本人をさらに不安に陥れるという意味で愚策だったことは確かだ。また、日本の在留資格を有する外国人が、日本入国直前14日以内に前述の9ヵ国にアンゴラを加えた10ヵ国に滞在歴がある場合、特段の事情がない限り再入国を原則拒否する決定もやり過ぎの感がある。在留資格を持つということは日本に一定の生活基盤があることを意味し、そうした人たちを追い返すのは人道上問題だからだ。さて、それだけの対策を取っていても、日本では11月28日に入国したナミビア滞在歴のある30代男性、29日にペルーから入国した20代男性の合計2人のオミクロン株感染者が確認された。ナミビアからの入国者に関しては外交官で、モデルナ製ワクチンを2回接種済みだったと報じられている。正直、ブレークスルー感染という事実以上に、私は日本で確認された1例目が外交官だったことに衝撃を受けている。表現が適切と言い難いかもしれないが、外交官と言えば、どこの国であっても社会の上流層だ。ナミビアの人口当たりのワクチン接種完了率は、「Our World in Data」によると12月1日時点で11.39%で、この外交官はまさに国民の10人に1人の恩恵にあずかった人である。そのナミビアは国連が算出した所得分布の不平等さ、つまり経済格差を表す「ジニ係数」は世界2位。ワクチンを接種できる外交官が感染する社会・衛生状況ならば、下流層はどうなっているのだろうか? いわんや、ジニ係数で世界1位、アフリカ大陸内での国別人口ランキング5位、人口密度はナミビアの16倍でオミクロン株の起源国と言われる南アの実際の状況はいかばかりかと想像してしまう。さらに12月2日午前段階で日本も含め世界の27ヵ国・地域でオミクロン株の感染者が確認されているが、そのうちの1つ、ベルギーで確認されている事例はアフリカ大陸内で国別人口第2位(約1億39万人)のエジプトへの渡航歴を有する人であり、お隣の韓国で確認された事例はアフリカで最大の人口(約2億96万人)を有するナイジェリアに渡航した韓国人だったと報じられている。これらも渡航目的が業務であれ観光であれ、この時期と社会環境で渡航できる以上、衛生面にも配慮が可能なある程度の裕福な層の人だろう。そうした人たちがこの巨大な人口を有する国で感染してしまうのである。これらを総合すると、アフリカでのオミクロン株の蔓延は数字で判明している以上のものなのではないかと考えられる。もっとも現状でのせめてもの救いは、各国で判明しているオミクロン株の感染者の多くが無症候か軽症であるということ。ただ、いまだに新型コロナに対抗する手段が十分とは言えない状況では、軽症であれ感染者が増加するのは看過できない事態である。水際対策では完全に流入を防ぎきれるものではないことは確かだが、メリハリをつけながらも当面は厳重な体制を敷くほうが合理的ではないだろうか。一方、懸念されるワクチンの効果減弱だが、理論上はワクチンの効果が低下すると予想されているが、そうした中でイスラエルからファイザー製ワクチンのブースター接種完了者で検討したオミクロン株に対する有効率が、感染予防で90%、重症化予防で93%と報道されている。数字だけを見れば安心してしまうが、そもそも国内で4例しかオミクロン株の感染者がいないイスラエルで、南アのデータなども参考にして算出したともいわれているが、根拠が不明確で額面通りに受け取るのは難しい。とくに日本の場合はブースター接種が医療従事者で始まったばかりで、参考にするには状況が違いすぎる。また、ここで浮かび上がってきた課題がある。それはワクチン接種率の低い発展途上国で新たな変異株が登場したという現実だ。今回警戒されているアフリカ南部10ヵ国のワクチン接種完了率は、Our World in Dataによると、最高でレソトの26.51%、最低はマラウイの3.06%である。こうした接種率の低い国が存在すれば、そこで感染が激増し、変異株を生むことになる。そうなればワクチン接種と変異株登場のイタチごっこが続くだけだ。日本や先進国は自国の接種率向上やブースター接種推進を急ぐだけでなく、こうした国々へのワクチン供与などで協調支援に動くべき段階に来ているとも言えるだろう。

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英語で「体調が悪い」は?【1分★医療英語】第4回

第4回 英語で「体調が悪い」は?How are you feeling today?(今日の体調はいかがですか?)I’m feeling under the weather today.(今日は体調が悪いです)《例文1》He seems a bit under the weather today.(彼は今日、少し体調が悪そうだ)《例文2》I’ve been feeling under the weather for a couple of weeks.(ここ数週間、体調が優れないです)《解説》“under the weather”は「体調が優れない」という意味のイディオムです。睡眠不足、二日酔い、おなかを壊している、などちょっとした体調不良のときに使用する表現で、重い病気に対して使うことは少なく、大きな問題にならないほどの具合の悪さを表します。患者から聞くこともありますが、医師同士や友人との会話でもしばしば登場する表現です。由来は諸説ありますが、一説では、「天気の悪い日には船乗りが船酔いするため、悪天候を避けるためにデッキの下に行って休んだことから来ている」といわれています。ほかの表現としては、“sick/ill”などがあります。日本人には聞き慣れない表現としては“I’m in bad shape”という表現も使います。shapeは「形」以外にも「健康状態や調子」を意味し、“in bad shape”は「体調不良」という意味になります。講師紹介

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第85回 今度は野党の代表選、各氏の新型コロナ対策はやはり痛し痒しだった!?

先の衆議院選中に各政党の政策比較をしたが、選挙の結果は周知のように与党である自民党と公明党がやや議席を減らしながらも安定多数を確保し、野党は日本維新の会が躍進するものの、野党第1党である立憲民主党が議席減となり、枝野 幸男代表が辞任を表明。現在同党は代表選挙の真っ最中だ。代表選に出馬したのは4人。以前、自民党総裁選に出馬した4人の政策を俯瞰したが、ここでも一応、「平等性」を鑑み、例のごとく、各人の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関する政策(経済支援は除く)を「独断と偏見」で俯瞰してみようと思う。ちなみに私個人はそもそもこの間に立憲民主党が提案していた新型コロナに関する政策にはやや否定的。最大の理由は、同党が6月に提出した「新型インフルエンザ等治療用特定医薬品の指定及び使用に関する特別措置法案」(通称:日本版EUA整備法案)」に対しての評価が低いからだ。この法案は今回の新型コロナ対応として、一部で有効性があると指摘される適応外医薬品を厚生労働大臣が指定し、その生産・安定供給確保と医師が処方した際に万が一起きた副作用被害について公的救済制度を適用するという内容だ。一見すると非常時に機動的な法案のようにも思えるが、そもそも根幹にある日本国内での医療用医薬品の承認審査制度を揺るがしかねない問題であり、そう単純な話ではない。また、コロナ禍に入ってから、駆虫薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)やインフルエンザ治療薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のように新型コロナに対するエビデンスが薄弱なものを臨床で使用すべきという声が市中の一部で加熱し、臨床現場にも混乱を与えている状況がある。そうした中で、同法案提出の中心的な存在でもある外科医で同党衆議院議員である中島 克仁氏が、強力なイベルメクチン信奉者であることにもかなり疑問を感じている。さて前置きが長くなったが、そうしたことから代表選に出馬している各氏が今後新型コロナに関してどのような政策を訴えているかは、今後の同党の行方を占う上で一定の評価軸になると考えている。もっとも今回の代表選が自民党総裁選と違う点は、各人の代表選用ページがあまりにも貧弱なこと。これは与党議員と野党議員の資金力とマンパワーの違いも影響しているのだろうか? また、立憲民主党自体は各地で積極的に4候補の演説会や会見、討論会を割とシステマティックに実施しているのだが、逆にシステマティック過ぎて各候補者の持ち時間が少なく、十分な話が聞けないという点もある。それを前提に各候補者のホームページと新型コロナ対策がメインテーマの1つだった札幌市での公開討論会から各氏の意気込みを拾い上げてみたい。なお取り上げる順番は五十音順に従う。政策はスローガン止まりか? 泉氏まず、衆議院議員の泉 健太氏(47)。北海道生まれで同党の福山 哲郎幹事長の秘書を経て、2003年衆議院選に旧民主党から出馬し初当選(京都3区)。民主党政権時代は内閣府大臣政務官を務め、希望の党、国民民主党を経て立憲民主党に合流し、現在8期目である。泉氏は自身のホームページでは以下のような新型コロナ対策を掲げている。国の責任で、宿泊療養も含めた医療体制を強化。いつでもどこでも誰でも安く検査を受けられる体制の確立を前提に、ワクチン接種済者・検査陰性者の行動の自由を拡大。3回目ワクチン接種の確実な実施、国産ワクチン・治療薬開発へ強力な支援。ちなみに札幌市での討論会では次のように語っている。「とにかく自宅療養は事実上の医療放棄だと言われてしまった。本当に不安の中でパルスオキシメーターはあるかもしれないけれど、電話をすればいいかもしれないけど、やはり自宅療養というのはあってはならないことだと思っております。その意味でしっかりとサポート体制を作っていく、これをまず訴えています。ワクチン接種済み者、検査陰性者の行動の自由を確保することに当たっては、いつでもどこでも誰でも安く検査を受けられる体制が重要。四国に選挙の応援で行った時、ある女性の方からやはりどうしてもアレルギーで(ワクチンを)打てないと、そういう中で女性から『あなた打ちましたか?』という(周囲からの)問いかけこそが心理的負担になるんだというお話を伺った。そんなことが変に問われる社会をつくるのではなく、皆さんが過ごしやすい社会を作っていくということだと思います」この医療体制の確保は今般与野党問わず政治家がほぼ口にすることだが、残念ながら泉議員の政策や肉声からは、そのためにどのようなことに取り組もうとしているのかはまったく聞こえてこない。もはやこの点はスローガンのみで良いステージは過ぎており、その点では具体策に欠くと言わざるを得ない。一方、ワクチン接種と行動制限緩和に関する件では、確かに医学的に受けられない人はいるため、その点に対する何らかの救済が必要な点と、個人の選択が尊重されるべきことは同意する。念のため言っておくと、私はなるべくワクチンは接種すべきと考えているし、自己選択で接種しない人に対して一定の懸念も有している。しかし、現行の法制度で強制ではない以上、その点は尊重されなければならないというものだ。もっとも現時点の医学的エビデンスを考えれば、個人にとっても社会全体にとってもワクチンの有用性は明らかであり、自己選択によるワクチン非接種者の陰性確認のための検査に公費を投入することには、やや疑問も感じている。ただ、泉議員が「無償」と主張していない点は一定程度評価してもいる。国産ワクチン・治療薬について、私は以前から与野党の議員とも軽々しく口にし過ぎであると感じる。やや乱暴な言い方をすれば、「国内でワクチン開発が可能な3~4社の製薬企業に1社当たりワクチン関連研究開発支援金を年2,000億円、20年間提供し、20年後のパンデミック時にいずれかの企業によって世界3番手のワクチン製造ができたら大成功」と言っていいくらい困難なものと考えている。唯一の医療系出身者、逢坂氏次が衆議院議員の逢坂 誠二氏(62)。今回の候補者では最年長である。北海道大学薬学部を卒業し、地元のニセコ町役場に就職。後に同町の町長選に出馬し、史上最年少の35歳で町長に就任した。2005年に旧民主党から衆議院選に出馬し初当選(比例北海道ブロック)。旧民主党政権では内閣総理大臣補佐官、総務大臣政務官を歴任。希望の党騒動時は無所属となり、その後立憲民主党に合流。現在5期目だ。経歴を見ればわかる通り、逢坂氏は医療畑出身で、これは今回の4候補者でただ1人であるが、自身のホームページには残念ながら今回の代表選用の特設ページや政策集はない。一応、新型コロナ対策について、それ以前に掲げた政策があるので以下に箇条書きするとワクチンの円滑な接種に全力を尽くす。コロナ禍によって明らかになった日本の医療や福祉の弱点を強化するため、医療福祉従事者の処遇の改善、地域ごとに偏った医療や福祉資源の改善に取り組む。ともにスローガンのみで具体策はない。そして札幌での討論会では次のように語っている。「政府の対策の一番の問題は、感染症は科学的な根拠をもって対策をしなければならないのに、科学的な根拠を優先せずに専門家の意見を聞く前に政府のほうで方針を決めたり、政府がいろんなことを押し付けたりしていた。だから科学的な根拠を持ってコロナ対策をしっかりやれるようにしていく。われわれが政権をとっていたら、私は総理ならばその方向でやっていたと思います」さてここで逢坂氏がこれまでの政府の新型コロナ対策が科学的ではないという総論は同意する。私は以前に何度も指摘しているが、とくに第4波の際の政府の緊急事態宣言解除時期の判断は明らかに科学的な根拠を欠き、それが多数の自宅療養者が発生した第5波につながっていると考えている。もっとも逢坂氏がどの点を科学的根拠に欠くと考えているのかは分からない。そこでネットを検索すると、次のような記事がヒットした。「科学的裏付けも国民の信頼もなかった安倍・菅政権のコロナ対策<立憲民主党衆議院議員 逢坂誠二>」(日刊SPA!/月刊日本)ここで言われているのはPCR検査体制の不十分さ、感染経路追跡のためのゲノム解析の拡大、「市中感染を徹底的に封じ込める」「感染経路が追跡可能な範囲まで感染を抑制する」という意味での『ゼロコロナ政策』である。少なくとも昨春のパンデミック発生当初、国内のPCR検査体制が不十分だったことは事実だが、この記事が公開された10月の段階でもなおその体制が不十分だという認識はいささか疑問を感じる。となると、逢坂氏は保険適応のPCR検査の対象をどこまで拡大すべきと考えているのだろうか? この点が不明で何とも判断がつきかねる。一方、逢坂氏は前述の日本版EUA整備法案の提案者の一人になっていることはやや懸念を感じる。念のため検索すると、逢坂氏自身はイベルメクチンやファビピラビルについて賛同の言及をしている痕跡はネットサーフィンをしている範囲では見つからない。特定の薬剤を極度に信奉しているわけではなく、同法案に総論的な賛成の立場なのかもしれない。しかし、概して言っても逢坂氏が主張する「科学的根拠に基づくコロナ対策」に私個人は納得感が得られていない。内容薄め?小川氏3番手は衆議院議員の小川 淳也氏(50)。旧自治省の出身で2005年の衆議院選で初当選(香川1区、比例復活)。旧民主党政権時代は総務大臣政務官を務め、希望の党、無所属を経て立憲民主党に合流している。現在は6期目。小川氏のホームページには代表選の政策としてコロナ対策に言及がある。それは以下のようなものだ。ワクチン接種の推進医療提供体制の充実治療薬や国産ワクチンの開発普及推進経済活動との両立についてはワクチン接種証明等を活用して経済刺激策を検討する一方で、体質や心情等に十分配慮し、無償の検査並びに無償の陰性証明をセットで提供そして札幌での討論会では次のように語っている。「幸かな、今比較的落ち着いた状況にありますが、しかし、第6波がないとはいえません。この完全収束に向けて政治は全力を挙げるべきです。その際ワクチンのさらなる接種と治療薬の承認普及、それともちろん医療提供体制と同時に経済も少しずつ動かしていかねばなりません。政府はGo Toキャンペーンなどと言っていますが、ワクチンの接種完了証明と併せての経済活動、さらにその時にやっぱりワクチン受けたくない、体質の問題と心情的に非常に抵抗感あるという方、結構いらっしゃる。やっぱり無償の検査と無償の陰性証明、これはぜひセットにすべきではないか」上記政策のうち上から3つは、言っては悪いが美辞麗句を並べただけにしか映らない。そしていわゆる「ワクチン・検査パッケージ」では検査無料を訴えている。この点について私の見方は泉氏のところで触れたとおりだ。独断と偏見で恐縮だが、全候補者の中で最も中身が薄い。厚労副大臣の経験がものを言う?西村氏そして最後が女性唯一の候補者である衆議院議員の西村 智奈美氏(54)。大学院で法学修士号を取得し、複数の大学で講師を務める傍ら、国際協力のNPO法人を創設し事務局長を務め、1999年に旧民主党から新潟県議会議員選挙に立候補し当選。2003年に衆議院選初当選(新潟1区)。旧民主党政権では外務大臣政務官、厚生労働副大臣を歴任。希望の党騒動時から立憲民主党に参加した。現在6期目。自身の代表選特設ホームページでは、新型コロナ対策として「新型ウイルス対策の司令塔の強化」を掲げているものの、現在の司令塔のどこに問題があり、本人はどのように強化しようとしているかはまったく言及がない。そのほかには以下のようなことも訴えている。新型ウイルス禍などで医療崩壊の事態を二度と繰り返さない病床数削減などの公立公的病院の縮小・再編を見直す保健所やケアワーカー、介護保育福祉の現場などで働くエッセンシャルワーカーの待遇改善札幌での討論会の発言は以下のようなものだ。「この間自民党政権は小さな政府を追い求め続けてしまったと思います。保健所の体制が大きく弱ってしまいました。感染症は終わったということで、およそ30年前から生活習慣病へと保健所の仕事がシフトしてきてしまった。感染症のお医者さんも足りません、感染症のベッドは今回のウイルスの感染が起きるまでは1,800床ぐらいしか全国にありませんでした。このことを契機にしっかりと見直していく。一には検査そして隔離・治療、こんなウイルスで治療を受けることができずに亡くなる方を今後は一人たりとも生まないように医療の体制もしっかり立て直していきたい」少なくとも厚労副大臣を務めたこともあってか、この発言の前段のように一定の見識は持っているようだ。もっとも保健所機能も含め日本全体の医療体制が生活習慣病へとシフトしたのは、もはや避けられない少子高齢化が進行しているためであり、日本全体の針路を考えると、この方向性そのものは大きく変えられない。そうした中で、感染症専門医も感染症対応病床も掛け声だけで増えるわけもない以上、災害のような感染症対策のために日本の医療にどの程度エクストラな余裕を持たせるかについては、もう少し具体策への言及が必要だろう。政治に期待しても無駄と言われてしまうかもしれないが、今回のコロナ禍ではやはり政治の重要性と日本国内でのその迷走ぶりが際立っただけに、やはり無視はできない。とはいえ、ここまでざっと触れてきた野党第1党の各候補とも「帯に短し襷に長し」というか…。

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第85回 診療報酬改定シリーズ本格化、「躊躇なくマイナス改定すべき」と財務省、「躊躇なくプラス改定だ」と日医・中川会長(後編)

財務省が放った「もう一つのジャブ」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、八ヶ岳山麓の大学の先輩の別荘を訪ね、晩秋の山を楽しむ予定でした。しかし、とある事故で左手小指の第二関節を脱臼、結果として剥離骨折もしてしまったため泣く泣く八ヶ岳を諦め、『Sports Graphic Number』の最新号(MLBアメリカンリーグのMVPに選ばれた大谷 翔平選手の特集号です)を読みながら、静かに日本シリーズを観戦していました。左手小指は、第二関節から外側にぐにゃりとほぼ直角に曲がったのをとりあえず自分で元に戻し、昨年四十肩を患った時に通っていた近所の整形外科の医院を訪ねました。ある意味、私のかかりつけ医なのですが、相変わらず説明はわずかで、X線を確認した後、「とりあえず固定して様子をみます。完治まで8週間!」の一言で終わり。もう少し丁寧な説明はないのかと、包帯ぐるぐる巻の左手を見ながら思いました。さて、前回は、財務省主計局が11月8日の財政制度等審議会・財政制度分科会で医療関係者に向けて放った「躊躇なく『マイナス改定』をすべき」という、強烈なジャブについて書きました。実はこの日、財務省主計局は、財政制度分科会でもう一つのジャブを放っていました。日本医師会が最も嫌がる「かかりつけ医の制度化の必要性」について再度言及したのです。コロナ禍、「フリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった」財務省はかかりつけ医に関して、2014年度診療報酬改定での地域包括診療料・地域包括診療加算の創設以降、診療報酬上の評価が先行して実体が伴っておらず、「算定要件が相次いで緩和され、かかりつけ医機能の強化という政策目的と診療報酬上の評価がますますかけ離れることになった」と現行の問題点を指摘しました。さらにコロナ禍の中、「外来医療・在宅医療へのアクセスの機会は限られていたことが指摘されており、世界有数の外来受診回数の多さをもって我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった可能性が高い」と強く批判、「受診回数や医療行為の数で評価されがちであった『量重視』のフリーアクセスを、『必要な時に必要な医療に アクセスできる』という『質重視』のものに切り替えていく必要がある」と断言しました。診療報酬は「制度化されたかかりつけ医」に対して支払うべきさらに、かかりつけ医については「制度的対応が不可欠であり、これを欠いたままの診療報酬上の評価は実効性を伴わない」とした上で、具体的な方策として、「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化したうえで、これらの機能を担う医療機関を『かかりつけ医』として認定するなどの制度を設けること、こうした『かかりつけ医』に対して利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを段階を踏んで検討していくべきである」と提言しています。また、現在検討中の外来機能報告の制度がかかりつけ医の「機能を担う医療機関を明確化する制度となるよう制度の拡充を図ること」としました。かかりつけ医への診療報酬上の評価については、「制度化されたかかりつけ医」に対して行うべきとし、「受診回数や医療行為の回数による出来高払いより包括払いがなじむ」と提案、現状の同診療料・診療加算の機能評価加算について 「ゼロベースでの見直しは必須。 その他の診療報酬上の評価も、 算定要件等の安易な緩和は厳に慎むべき」と釘を刺しました。報道等によれば、分科会の委員からは 「かかりつけ医を制度化すべき」「評価できる要件を定め包括払いへ転換をすることが重要」などの意見が出たとのことです。「フリーアクセスを担保するためにも制度化は認められない」と日医「現行のかかりつけ医の仕組みではダメだ」「コロナでも機能しなかった」とここまで批判されているにも関わらず、日本医師会は相変わらず「かかりつけ医」制度化に反対の姿勢を崩していません。なぜ、そこまで頑なに反対を続けるのか。その歴史的背景については、「第58回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる?“家庭医構想”というパンドラの匣(前編)」でも書いた1980年代の家庭医構想にあります。この時は、英国のNHSの家庭医(GP)制度がモデルとして紹介されました。GPは患者登録制で報酬体系も人頭払い主体であったため、「フリーアクセス」「自由開業」「出来高払い」を金科玉条のごとく堅持することで存在意義を保ってきた日本医師会の逆鱗に触れ、家庭医構想は消滅しました。日本医師会の制度化への警戒感は相当なものです。日本医師会会長の中川 俊男氏は11月17日の記者会見で、財政制度等審議会・財政制度分科会における財務省主計局の主張について、「医療の現場感覚と大きくずれている点もあり、容認できない指摘が多々ある。所管である財政の問題を越えて、細かく医療分野の各論に踏み込んでくるのは省としての守備範囲を超えており、 また現場の感覚と大きくずれている点もある」と語ったとのことです。その上で、とくに「医療法人の事業報告書の電子開示」「かかりつけ医機能」「リフィル処方、多剤・重複投薬、医薬品の保険給付などの調剤関連」「薬価改定における調整幅」の4項目を挙げ、「全て反論していたら朝までかかっても反論しきれない」と厳しく批判したとのことです。この中の「かかりつけ機能」については、担当の松本 吉郎常任理事が「かかりつけ医は、患者が自ら選ぶのが基本。原則としてフリーアクセスを担保する、あるいはそれを制限しないことは、患者目線からも非常に大事」と、改めてかかりつけ医の制度化に対し反対を主張したそうです。この問題、相変わらず財務省とは議論がまったく噛み合っておらず、平行線のままです。本体プラスの改定率にして、かかりつけ医制度化を一部飲ませる手も次期診療報酬に向けた議論は厚生労働省の中央社会保険医療協議会で進んでおり、「外来機能の分化・強化、連携を進めるためには、かかりつけ医の明確化が必要だ」との意見が、とくに支払側委員からは出ています。「明確化」が「制度化」にまで踏み込んで議論されるかどうかは不明ですが、かかりつけ医をどう再定義するかは、今回の改定の大きなポイントの一つであることは確かです。一方、財源を決める改定率については、政治マターとして、医療機関の経営状況や世の中の情勢等をにらみつつ、政府がその数字を決定することになります。日本医師会などの医療関係団体は、先の衆院総選挙で与党が安定多数の議席確保に寄与しており、その結果も踏まえ、前回書いたように本体プラス改定を強く要求しているわけです。岸田 文雄首相が、診療報酬(本体)の改定率をどの水準で収めるかは、年末に向けての医療関係者の最大の関心事と言えるでしょう。「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」でも書いたように、岸田首相は「医療政策を財務省主導で進めたい」と考えている節があります。そうした思いと、衆院選での医療関係団体の功績をどう天秤にかけるか。首相はなかなか難しい判断を迫られそうです。日本医師会会長の最大の仕事は「プラス改定を勝ち取ること」に他なりません。そのため、医療の質を1%上げることより、医師の収入を1%上げることが優先されることもあります。もし、首相がかかりつけ医の制度化含め、医療提供体制の改革を真剣に行おうとするならば、ある程度プラスの改定率にして中川会長の面目を保ちつつ、かかりつけ医の制度化を一部飲ませる、というシナリオが一つの落とし所として考えられます。果たして議論はどう進んでいくのでしょうか。こちらも日本シリーズ同様、熱い戦いとなることは間違いありません。

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第84回 コロナワクチン3回目、エビデンスによる“2回目から6ヵ月以上”が選ばれない理由

非常事態の行政対応はかくも難しいものか。ニュースを眺めていて、ふとそう思った。そのニュースとは新型コロナウイルス感染症の3回目のワクチン接種を巡る問題である。この件についてはNHKの以下の報道が良くまとまっている。「3回目ワクチン接種『2回目からの間隔 原則8ヵ月以上で』厚労省」(NHK)今回とりわけ問題になったのは、3回目の追加接種を2回目から「8ヵ月以上」か「6ヵ月以上」かという点だ。これについてSNS上では「『8ヵ月以上』とはどんなエビデンスなんだ」との声も聞かれるが、上記記事にもある通り厳格なエビデンスに基づいたものではなく、行政的判断である。具体的には9月17日に開催された第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で事務局を担当する厚生労働省健康局健康課予防接種室が、先行して3回目接種を開始あるいは決定した各国はおおむね2回接種の7~8ヵ月後から開始しているとの資料(リンク先P42)を提示して8ヵ月以上を提案し、参加した各委員がこれを了承したものである。しかし、この後、ファイザーやモデルナといった各社が第3四半期決算発表時にそれまで解析した自社調査によるデータを公表。2回接種完了から半年後に思ったよりも抗体価が低下していることが明らかになり、それとともに国内外で「6ヵ月以上が適切かも」という声が増えてきたという次第だ。どちらかと言えばこちらのほうが医学的なエビデンスと言えるが、ワクチン販売企業のデータゆえ、利益相反(COI)を考慮しなければならないだろう。結局、前述の記事や各種報道にあるように「2回目接種完了から8ヵ月以上」を原則とし、当初は地域の感染状況に応じて自治体の判断で「2回目接種完了から6ヵ月以上」でも対応可能としたものの、最終段階で後者の選択を取る場合は「国への事前相談」が必要となった。個人的には今回の決定はある意味妥当な着地点を見いだせたのではないかと感じる。NHKの記事を読むと、自治体側は「6ヵ月以上」となると想定していた準備の前倒しにより混乱が起きるため「8ヵ月以上」を歓迎しているようだ。一方、私個人が「妥当」と考えたのはワクチンの供給量の観点からだ。今回、主軸となるファイザー製ワクチンは年内に約1億9,000万回分が供給見込みで、すでに約1億7,584万回分が接種済み。年内の残りは1,400万回分だが、現時点で1回目接種完了者の2回目接種分約360万回分が必要なため、年内に3回目接種に回せる可能性があるのは最大でも1,000万回分強である。そして3回目接種は、当初の優先接種者で、すでに接種完了から8ヵ月以上が経過しているエッセンシャルワーカー最上位の医療従事者から始まるのは確実。すでに公表されているデータから医療従事者の追加接種分を算出すると約490万回が必要となる。もっとも現時点でもまだ1回目接種に辿り着いていない若年者はいるため、前述の1,000万回分すべてが3回目の接種に回せるわけではないのは周知のこと。このように考えると、地方自治体が担当する3回目接種の最初の対象者となる高齢者に回せる可能性があるワクチンは多くとも全国で300万回分程度である。接種完了済みの高齢者で概算すると、もし年内に高齢者に追加接種をするとなると、10人に1人しかできない計算になる。このため自治体判断で「6ヵ月以上」を援用できるようにすると、それこそ自治体間で醜いワクチン獲得競争が生じてしまう恐れもある。ただし、一定の柔軟性は必要とも考えている。というのも、どのように配分したとしても自治体によってはワクチン在庫に余剰が生じる可能性があり、「8ヵ月以上」あるいは「感染状況悪化時の6ヵ月以上」という基準を金科玉条にすると、期限切れで無駄に廃棄するワクチンが生じてしまう恐れがあるからだ。この辺は厚生労働省と自治体の柔軟な対応に期待したいところだ。一方で、「そこを柔軟にする?」と思った点もある。それは今回、同一医療機関でファイザー製とモデルナ製を取り扱えるとした点である。ご存じのように両ワクチンは原理がほぼ同じだが、保管管理や接種前の準備が異なる。これでは悪気がなくとも誤った接種が行われる確率は従来よりも高くなると考えられる。その意味で今回の3回目接種のさまざまな基準は、細かいようだが柔軟性が必要なところにそれが欠け、逆により厳格化すべきところが柔軟になるという「要る時に要らない。要らない時に要る」風呂の蓋のようなちぐはぐさも感じてしまうのである。

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英語で「予防接種を受けましたか」は?【1分★医療英語】第3回

第3回 英語で「予防接種を受けましたか」は?Did you receive a measles shot as a child?(子供のころに麻疹の予防接種を受けましたか?)Yes, I did. And I think all my vaccines are fully up-to-date.(はい、受けました。必要なワクチンはすべて受けていると思います)《例文1》I’ll get vaccinated against the flu tomorrow.(明日、インフルエンザのワクチンを受けます)《例文2》The patient has just received the second COVID shot/jab.(その患者は2回目のコロナワクチンを接種したばかりだ)《解説》予防接種を受ける行為やプログラムのことを“vaccination”と表現します。日本でもよく聞く“vaccine”のほうは、予防接種時に投与する薬剤そのものを指します。また、簡易的な表現として米国では“shot”、英国では“jab”という表現もよく使われます。注射全般を指す“injection”も文脈次第でワクチンを意味することがあり、「予防」という意味の“protection”もワクチンを指すことがあります。また、抗体検査をしてワクチンの効果を確認したり、必要なワクチン接種を追加接種したりすることを“To update one’s vaccine status”ということがあります。“Which of my vaccines need to be updated?”(受け直したほうがいい予防接種はありますか?)などのように使います。講師紹介

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英語で「随時報告します」は?【1分★医療英語】第2回

第2回 英語で「随時報告します」は?I want to know when my surgery will be...(手術がいつか知りたいのですが…)Not decided yet, but I will keep you posted.(まだ決められませんが、随時報告します)《例文1》患者So, did you find anything on my CT scan?(CTで何がわかりましたか?)医師Well, the official report is still pending, but I will keep you posted.(まだ正式な報告書を待っているところですが、随時報告しますね)《例文2》患者Do I need surgery now? (手術が今必要ですか?)医師I understand your concern. We are still discussing your best treatment plan, but I promise we will keep you updated.(心配なのはわかります。最善の治療法をまだ検討中ですが、随時報告いたします)《解説》“I will keep you posted/updated.”は、米国の臨床現場では非常によく使われる表現です。患者やご家族からの質問は絶え間なくありますが、その場ですべてに回答できるわけではありません。正式な検査結果がまだ出ていなかったり、他科の医師と治療方針の協議中だったり、あるいは外来スケジュールの調整が必要だったりします。そのような場合に使える表現として、この“I will keep you posted/updated.”があります。絶え間なく変化する状況の中で物事を決定する医療現場にあって、「新たなことがわかり次第、お知らせします」というこの表現は有用性が高いのです。“post”には「手紙を投函する」や、最近では「SNSに動画や写真を投稿する」といった意味がありますが、「情報を知らせる」という意味もあります。“update”は日本語ではカタカナで使われているとおり「アップデートする」という意味です。したがって、“keep someone posted/updated”で「~に随時情報を知らせる」という意味になります。この表現は非常に便利で、同僚や上司から「随時連絡ください」という意味合いで“Please keep me posted/updated!”と言われることもあります。似たようなニュアンスを持つ言い回しとしては、“I will let you know when I know more.”もありますが、やはりより簡潔な今回紹介した表現のほうが頻繁に使われます。ぜひ使ってみてください。講師紹介

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第83回 街中の会話にヒントが!?若者や副反応経験者に3回目ワクチンを促す策とは

つい先日、昼食のために入ったラーメン屋で私の右側のカウンターに座っていた男性3人組の会話が耳に入ってきた。この3人を私から近い順にA君、B君、C君としよう。ちょうど私のすぐ隣にいたA君が「どうだった?」とB君とC君に尋ねていた。B君うん、めっちゃ熱出て、体もだるくてきつかったA君3回目の接種もあるって話じゃんB君いや、もう3回目はいいやC君俺も3回目はなしだな職業病のせいか、ついつい周囲の会話に聞き耳を立ててしまう癖はなかなか抜けない。この時もそうだったのだが、会話の内容も内容だったから余計のこと真剣に聞き耳を立ててしまった。多くの人にとって察しはついただろうが、新型コロナワクチン接種に関してである。このラーメン屋の近傍には複数の大学がある。その後も彼らの会話に聞き耳を立てていたが、どうやら彼らは付近のある私大の学生で、大学でモデルナ製ワクチンによる職域接種が行われ、B君とC君は接種、A君は様子見で今も接種するかどうかを迷っているらしい。私はファイザー製ワクチンの接種者だが、周知のようにモデルナ製ワクチンは投与量が多いため、効果もやや高い分、副反応も強めと言われ、モデルナ接種者での副反応に関する愚痴はよく耳にする。新型コロナに限らず、ワクチンでは接種者が効果を実感できることは稀で、むしろ自覚できる副反応があれば、そちらのほうの印象が強くなるのは必然のこと。いわゆる反ワクチン派の存在も多分にそうした現実に由来している。その意味で副反応の最小化はワクチン接種の浸透では必須事項となるが、そもそも個々のワクチンの特性により一定の頻度の副反応は避けがたい。たとえば今回の新型コロナのmRNAワクチンでは、極めて高頻度な発熱や倦怠感は減らそうと思って減らせるものではない。あとは症状が発現した際の適切な軽減策の周知であり、今回はすでに解熱鎮痛薬の使用推奨はかなり行われている。だが、それでも前述の学生の反応は非常に気になった。ワクチン接種完了者が国民のほぼ4分の3に達し、新規感染者数報告も小康状態とは言え、今後の新型コロナの動向はまだ完全に読み切れていない。そのうえで3回目接種も現実となった今、「3回目はもういいや」という人が一定数出ることは感染拡大の火種になる。そんなこんなを抱えながらネットサーフィンをしたら思いもかけないレポートに遭遇した。モデルナ製ワクチンの職域接種を行った岡山大学のアンケート調査結果である。ざっくりまとめると、学生を中心とした接種後のアンケート調査で副反応は局所性、全身性とも98%以上が1週間以内に消失し、90%弱が接種に満足、80%強が身近な人への接種を勧め、かつ3回目の接種を希望するというもの。非常に喜ばしい結果だ。また、副反応の発熱で解熱薬を服薬した人は66.0%で、これと別に予防内服を行った人が4.8%。私が一番驚いたのは、予防内服をした人が思ったよりも少なかったことだ。報道やSNSを通じて新型コロナワクチンでの発熱の副反応が周知され、それゆえに逆に接種前にやや怖くなっていた人も少なくなかったはず。一方で副反応回避策としての予防的解熱薬服用は推奨されていない。その中で予防内服が少なかった現実は若年層もかなりしっかりとした情報入手をしていた傍証でもある。では不安材料はないかと言えば、そうとは言えない。たとえば「インフルエンザワクチンと比べて副反応が重かった」との回答者が84.9%だった一方で、「打つ前の想像と比べて(副反応が)重かった」との回答者が43.3%だったことから、「副反応の重さがある程度周知されていたと思われる」との分析を示しているが、本当にそうだと言えるだろうか?前述の身近な人に勧めるか、あるいは3回目接種を希望するかとの問いに、否定的な回答は5%に満たないが、「どちらとも言えない」という動揺層が10数%いる現実は副反応の結果と推定される。また、3回目接種を希望するかについて「ワクチンの種類は検討するが希望する」が 22.0%もいたことも見逃せない。これはご存じのようにモデルナ製ワクチンで報告されている若年層での心筋炎の副反応を恐れてのことだろう。また、本レポートではワクチン接種との因果関係は不明ながらも、極めてごくわずかな人たちが接種1ヵ月後にも不調を訴えており、そのケアの必要性を強調している。こうした不安に単純に「みんな経験する副反応だから」あるいは「それは科学的に見て副反応ではない」と対処することは科学的には正しくとも、後々のワクチン不信を増幅させる可能性がある。こう訴える人たちに医療従事者だけでなく、行政、メディアもどのように対処すべきかはまだ課題は少なくないだろう。俗な言い方になるが、恐怖心を抱く人への寄り添いは最低限必要と感じる。また、そんなこんなを考えていた矢先、以下のような新たな情報も飛び出してきた。【独自】大規模会場2930人の急性期副反応、9割が不安に伴うストレス原因…若者が3割強(読売新聞)要は防衛省が運営していた大規模接種会場で、接種への不安などが原因の迷走神経反射などの急性副反応がインフルエンザワクチンなどより高頻度で発生しており、その中心は若年者だったという現実である。こうした急性反応は一定程度医学的にも対処可能なものである。すでに年代別の接種率を見ると50代以降は接種完了率が85%以上に達する中、1回以上接種が70%台の10~30代はまだまだ接種率向上の余地は高い。こうした層の底上げと全国民の確実な3回目接種の実現のため、医学的にも社会的にもまだまだやれることは残されていると言えそうだ。

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第83回 医師臨床研修マッチング結果公表、東大マッチ者数105人、フルマッチでも自大学出身者15.2%の意味

病院のチーム編成の基礎、医師臨床研修マッチングこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、MLBのワールドシリーズはアトランタ・ブレーブスの26年振りの優勝で幕を閉じました。ブレーブスの優勝を牽引したのは、エディ・ロザリオ外野手、ホルヘ・ソレア外野手、ジョク・ピダーソン外野手ら、トレード期限である今年7月30日に新規加入した野手たちであったのはなかなか興味深いところです。7月初めの前半終了時点で負け越し(44勝45敗)だったチームが、ワールドシリーズで優勝したのは史上2チーム目だそうです。米国メディアでは、チーム構成の権限を持ちこれらの選手の獲得を行ったアレックス・アンソポロス GM(ゼネラル・マネージャー)の仕事ぶりを称える記事が数多く上がりました。一方、日本では、北海道日本ハムファイターズの新庄 剛志監督の就任会見インタビューが大きな話題となりました。見た目の派手さとは裏腹に、采配などに関する手堅い発言は、ひょっとしたら、と期待を抱かせるものでした。稲葉 篤紀GMとどのような新チームをつくるのか、楽しみです。ということで今回は、病院のチーム編成の基礎(プロ野球ならドラフトでしょうか)とも言える、医師臨床研修マッチングについて書いてみたいと思います。研修先内定8958人、内定率91.7%厚生労働省は10月28日、2021年度の医師臨床研修マッチングの結果を公表しました。医学生などの2022年度の臨床研修先を決める今回のマッチングで、研修先が内定した人数は8,958人(20年度比89人増)でした。マッチングの募集定員は1万904人(同103人減)、希望順位登録者数は9,768人(同142人増)でした。希望順位を登録した研修希望者のうち、臨床研修を受ける病院が内定した人の割合(内定率)は91.7%(20年度92.1%)でした。医師臨床研修マッチングは、2004年度に医師の臨床研修が義務化されたことにあわせて導入されました。臨床研修を受けようとする者と臨床研修を行う病院の研修プログラムを、お互いの希望を踏まえて、一定のアルゴリズムに従って、コンピュータにより組み合わせを決定するシステムです。 臨床研修を行う病院等の団体で構成される医師臨床研修マッチング協議会により行われています。臨床研修病院にマッチした医学生は63.3%で大学病院の倍厚労省のサイト、同協議会のサイトに「2021年マッチ結果発表資料」が掲載されています。それらのデータを基に独自集計した分析記事が、いくつかの医療専門媒体に掲載されました。「日経メディカル」は、大学病院希望者数と臨床研修病院(市中病院)希望者数の割合を出しています。それによれば、臨床研修病院にマッチした医学生は63.3%、大学病院の36.7%の倍となりました。大学病院と臨床研修病院の内定者数の差は2009年から拡大しているとのことです。多様で魅力的な研修内容や、待遇改善を打ち出す市中の臨床研修病院の人気は、今後も衰えないと見られます。大学病院本院81校中、定員充足率100%は14校発表資料には、「大学病院(施設別)における自大学出身者の比率」のデータがあり、大学病院別の定員充足率や、マッチ者に対する自大学出身者数の割合を見ることができます。大学病院本院81校中、定員充足率100%(フルマッチ)となったのは、東京大学(マッチ者数105人)、東京医科歯科大学(94人)、京都大学(76人)、京都府立医科大学(63人)、大阪医科薬科大学(55人)、奈良県立医科大学(54人)、関西医科大学(46人)、東海大学(46人)、聖マリアンナ医科大学(45人)、川崎医科大学(39人)、昭和大学(36人)、東京慈恵医科大学(35人)、藤田医科大学(32人)、産業医科大学(11人)の計14校でした。関西医大は7年連続、昭和大は5年連続でフルマッチを達成しています。なお、今回フルマッチを達成した中で、奈良県立医大、聖マリアンナ医大は昨年は30位以下(32位、36位)で、大躍進と言えます。逆に、定員充足率の低い大学病院本院を見ていくと、下位から弘前大学(マッチ者数4人、8.9%)、熊本大学(6人、14.0%)、岩手医科大学(7人、17.5%)、信州大学(12人、26.7%)、福島県立医科大学(12人、27.3%)となっています。地方の国立大学医学部が多いです。マッチ者の自大学出身割合が高い地方国立大医学部大学病院本院では、東京大学のマッチ者数105人、東京医科歯科大学94人、京都大学76人が際立っていますが、これを自大学出身者数の割合で比較すると、また違った風景が見えてきます。マッチ者の9割以上を自大学の出身者が占めた大学は17校あり、中でも高知大学(21人)、鳥取大学(15人)、島根大学(7人)、弘前大学(4人)はマッチ者の全員が同大の卒業生でした。こちらも地方の国立大学医学部にこの傾向が強いようです。ちなみに昨年、マッチ者全員が自大学出身者だったのは、旭川医大、山梨大学、金沢医科大学、香川大学、岩手医科大学でした。金沢医大、岩手医大以外はやはり地方国立大医学部です。地方の大学医学部は、うかうかしていると初期研修医を十分に集められない、というのが現状のようです。自大学出身者に残ってもらうため、研修内容の充実やアピールに毎年腐心している姿が浮かび上がってきます。”ブランド”大学医学部の自大学出身者率は低い傾向一方、自大学出身者 30%未満だったのは、東京慈恵会医科大学(14.3%)、東京大学(15.2%)、横浜市立大学(17.8%)、慶應義塾大学(22.0%)、順天堂大学(24.4%)、名古屋市立大学(25.0%)、神戸大学(25.9%)、北海道大学(29.4%)の8大学でした。自大学出身者の割合が低いのは、関東の”ブランド”大学医学部によく見られる傾向です。これらの大学では、初期研修では出身大学には進まず、市中の有名病院で腕を磨き、後期研修で出身大学の医局に戻ってくるケースが多いようです。慶應大学の場合は8割近くが戻ってくる、という話を聞いたこともあります。東大のようにいわゆる「ジッツ」(関連病院)が圧倒的に多い大学は、OBが多いジッツの有名病院で研修を受けるのがトレンドのようです。数年前に東大医学部を卒業した友人の息子も、研修先には東京の国立国際医療研究センター(今年の定員は32人で充足率100%)を選んでいました。自大学出身者が少なくても、定員充足率が100%近くにできるのは、”ブランド”大学医学部の強みと言えます。大都会という立地に加え、東大や慶應というブランドで、研修医を呼び込んでいるわけです。研修医としても、「研修先は東大でした」と後々周囲に言えるわけです。特に医師ではない一般人への効果は結構大きいと言えます(「東大王」というクイズ番組もあるほどですから)。「学歴ロンダリグ」とまでは言えませんが、自分の経歴に相応の箔を付けておきたい研修医は少なからずいることでしょう。一方、大学側としても、自大学出身者に加え、他大学からやってきた初期研修医も自分たちの”手駒”として将来使える可能性も出てくるわけで、双方にメリットがあることだと言えます。もちろん、医師臨床研修マッチングは、大学医学部だけではなく、市中病院にとっても貴重な若手戦力を確保する重要な機会です。各病院で、初期・後期の臨床研修を担当する責任者は、病院の将来のチーム編成の要の機能を果たしているわけで、そうした意味では、プロ野球チームのGMに近い存在と言えるかもしれません。

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ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 前論評(山口, 田中. ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下―3回目Booster接種必要性の基礎的エビデンス)で論じたように、ワクチン接種後の液性免疫は、野生株、従来株、Delta株を中心とする変異株の別なく、月単位で有意に低下する。この液性免疫の経時的低下によって、Delta株を中心とする新型コロナウイルスの感染拡大(第6波)が今年の12月以降の冬場に発生する可能性を論評者らは危惧している。 第6波の発生を避けるためには、ワクチン接種後の時間経過と共に低下した液性免疫を再上昇させるためのワクチン3回目接種(Booster接種)、あるいは、Delta株を中心とするコロナ変異株抑制能力が高く効果持続期間がワクチンと同等、あるいは、それ以上に長いIgG monoclonal抗体をワクチン代替薬として考慮する必要がある(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.、山口, 田中. CareNet論評-1440)。ただし、現時点では、免疫不全を有さない一般成人に対してIgG monoclonal抗体を“pre-exposure and post-exposure prophylaxis”、すなわち、ワクチン代替薬として用いる方法は英国以外では承認されていない(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。さらに、IgG monoclonal抗体の1回分の費用は20万円以上でワクチン2回接種の約100倍の高額治療であり、不特定多数の人に適用することは難しい。それ故、本論評では国民全体を対象としても医療経済面から施行可能な3回目のワクチンBooster接種に焦点を合わせ考えていくものとする。第6波の発生とその臨床的特徴 ワクチン3回目接種を考える前に、今冬季に発生が予想されるDelta株による第6波の臨床的特徴について考察する。 Chemaitellyらは、背景ウイルスがBeta株からDelta株に置換されつつあったカタ-ルにおける検討で、BNT162b2の2回接種後5~7ヵ月が経過するとワクチンの感染予防効果がピーク時の77.5%から20%前後まで低下するが、入院/死亡に対する重症化予防効果はワクチン接種後の時間経過とは無関係に90%前後に維持されることを示した(Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print])。Tartofらは米国における検討で、BNT162b2の2回接種後のDelta株に対する感染予防効果が、ピーク時の75%から4ヵ月後には53%まで低下すると報告した(Tartof SY, et al. Lancet. 2021;398:1407-1416.)。Goldbergらはイスラエルにおける検討で、Delta株の感染率は年齢とは無関係にBNT162b2ワクチン2回接種後の時間経過に依存して上昇、重症感染者比率も60歳以上の高齢者にあってはワクチン2回接種後の時間経過が長いほど高いことを報告した(Goldberg Y, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 27. [Epub ahead of print])。しかしながら、高齢層で認められた重症感染に関する傾向は、59歳以下の若年/中年層では確認できなかった(若年/中年層における重症感染者数が少ないため統計処理が困難)。Grangeらはスコットランドにおける解析で、ワクチンの2回接種(BNT162b2、ChAdOx1)によって全体の死亡者数を軽減できるが、死亡者数は75歳以上の高齢者、男性、複数の併存症を有する人で有意に高いことを示した(Grange Z, et al. Lancet. 2021 Oct 28.)。この傾向は、非ワクチン接種者、不完全ワクチン接種者におけるDelta株感染に起因する死亡者の場合と質的に同じである。 今年の12月以降には、本邦においてもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たち(医療従事者を含む)の数が増加し、何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。この場合、Deltaは総称であり、原型(起源)のB.1.617.2に加え、それから派生したAY.1~AY.3、AY.4~AY.11(英国)ならびにAY.12(イスラエル)を含む(WHO. COVID-19 Weekly epidemiological update. 2021 Oct 19.)。これらのDelta株による第6波を阻止するための有効な医学的/社会的施策を講じる時間は2ヵ月ほどしか残されていない現実を、医療関係者ならびに為政者はもっと真摯に受け止める必要がある。 ただ、Delta株に起因する第6波は、国民の約70%以上がPfizer社あるいはModerna社のワクチンの2回接種を終了した状況下で発生するので、ワクチン未接種状態で発生するDelta株感染とは質的に異なる様相を呈するはずである。多くの国民がワクチンの2回接種を終了している時点で発生する第6波においては、感染者数はある程度の数に達するが、夏場の第5波よりも規模が小さいものと予想できる。第6波における感染者の重症度はワクチン未接種状況下で発生するDelta株感染に比べ、軽症者が多いという特徴を有するはずである。ワクチン接種者に発生する“液性免疫低下関連感染(DHIRI:Decreased humoral immune response-related infection)”では、ワクチンの抗ウイルス作用は完全に無効というわけではなく不完全ながらウイルスの病原性を抑制する。それ故、ワクチン接種後のDelta株感染にあっては、感染症状が弱く、症状持続期間が短く、重症化の頻度が低い比較的軽症患者が多くなるものと予想される。しかしながら、高齢層における死亡を含む重症患者数は、若年/中年層に比べ有意に多くなることも念頭に置く必要がある。ワクチン3回目Booster接種の効果 一般成人にPfizer社のBNT162b2を3回接種(2回接種後7.9~8.8ヵ月)した時のDelta株に対する中和抗体価は、2回接種後に比べ55歳以下の若年/中年者で5.5倍、65歳以上の高齢者で12.0倍高値になることが示された(Falsey AR, et al. N Engl J Med. 2021;385:1627-1629. )。Moderna社のmRNA-1273の3回接種(半量の50μg筋注、2回接種後5.9~7.5ヵ月)後の変異株(Beta株、Gamma株)に対する中和抗体価に関する検討でも、質的に同様の結果が報告されている(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)。 本論評で取り上げたイスラエルの検討では、60歳以上の高齢者に対する3回目接種は2回目接種後と比較して新規感染リスクを11.3倍、重症化リスクを19.5倍低下させることが示された(Bar-On YM, et al. N Engl J Med. 2021;385:1393-1400.)。この結果を受け、イスラエルでは2021年7月30日以降、2回目接種後少なくとも5ヵ月以上経過した60歳以上の高齢者ならびに50歳以上の医療従事者を対象としてBNT162b2の3回目接種が開始されている(現在は、12歳以上を対象とすることに変更)。同様に、アラブ首長国連邦、ドイツ、フランスなどでも3回目接種が始まっている。 2021年9月17日、米国FDAは一般成人に対する3回目Booster接種に対してPfizer社のBNT162b2を使用することを緊急承認した。対象は、65歳以上の高齢者と16歳以上でコロナ感染による重症化因子を有する人とされた。後者には医療従事者、学校の教員など、コロナ患者との濃厚接触の確率が高い職業に従事する人たちも含まれる。Moderna社のmRNA-1273においても通常量の半量(50μg)を3回目接種に用いる緊急使用が10月14日に、Johnson & Johnson社のAdeno-vectored vaccineであるAd26.COV2.SのBooster接種(このワクチンの場合、2回目がBooster接種となる)が10月15日に承認された。さらに、米国FDAは、液性免疫原性が低いAd26.COV2.Sの代わりに、液性免疫原性が高いBNT162b2あるいはmRNA-1273をBooster接種時に使用してもよいと決定した(ハイブリッド・ワクチン)。 本邦においても、2021年9月17日、厚生労働省は3回目接種を認めることを決定し、実施の詳細について議論が開始されている。10月28日に開催された厚労省の分科会では12歳以上の国民全員を3回目接種(公費負担)の対象とすることが了承され、2回目接種後8ヵ月経過した人から順に3回目接種を施行する方向でまとまりつつある。3回目接種においてハイブリッド・ワクチンを認めるかどうかを含め、正式決定は11月中旬になされるとのことである(朝日新聞デジタル 2021年10月29日付)。 本論評では“3回目のワクチン接種”と記載したが、これはワクチン接種を3回施行すればすべての問題が解決することを意味しているわけではなく、必要に応じて4回目、5回目の接種をさらに追加する可能性を含んだ言葉だと解釈していただきたい。事実、フランス保健省は、2021年6月から臓器移植患者で3回目ワクチン接種に反応しない患者に対して4回目のワクチン接種を開始している(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。 ワクチンの3回目接種による液性免疫の底上げは、免疫不全患者において絶対的に必要な手段であるが、紙面の都合上本論評では割愛する。この問題に関しては論評者らの総説を参照していただきたい(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.)。

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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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第81回 週刊誌にトンデモ記事を載せないためコロナ第6波予測で重要視するのは…

医療をテーマにしたフリージャーナリストという立場になると、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)関連では週刊誌からはよくコメントを求められることがある。大概は医師が捉まらない時の代役のようなものである。もっとも1ヵ月前くらいから新規感染者報告数が激減したことにより落ち着いてきたが、ここに来てまたぽつぽつと連絡が入るようになった。しかもそのすべてが判で押したように同じことを聞く。 「第6波はいつ来るんですかね?」こういう未来予測的なものが一番答えにくい。というか、こうしたことはたいてい予測通りにはならない。そもそも今回の新型コロナに関しては感染症専門医ですら悪い意味で何度も予測を外しているはずだ。具体例を挙げるなら、中国でのパンデミック勃発当初、全世界にこれほど広がるとは思っていなかっただろうし、発症前の無症状期に感染力があったというのも意外だったろう。そして比較的容易に飛沫感染するため、これまでの感染症対策としてのマスクの位置付けを大きく変えてしまった。また、ウイルスの生存原理としては変異株で感染力が増せば、ウイルスは弱毒化すると考えられているが、新型コロナの変異株では感染力も毒性も高くなっていると報告されている。唯一良い意味で予測が外れたのは、わずか1年弱でワクチンが登場したことぐらいではないか。そんなこんなもあって前述のような問いには「来る可能性はあるかもしれないが、まったく来ない可能性もあるかも」とぼやかしているが、そう答えると「では、来るとしたらいつですか?」と突っ込まれてしまう。「冬じゃないですか?」と答えると、「冬のいつですか?年内ですか、年明け以降ですか?」と続くので、結局何らかの予測を答えざるを得ない状況に追い込まれる。答えないという手もあるのだが、そうすると時に記者が完全なトンデモ系の人に流れて“トンデモ記事の一丁あがり”になることもある。自分は一応、かなり抑制的に答えているつもりなので、それを防ぐ意味でも答えざるを得なくなる。今私が答えている内容はこんな感じだ。まず、冬期は低湿度・水分摂取量の減少で気道の絨毛の働きが弱くなるため、一般論として多くの人で呼吸器感染症にかかるリスクが高まる。たとえば東京都内で見ると、平均相対湿度が50%台と最も低水準になるのは12月~3月にかけてである。一方、第6波の到来に影響を与えるのが、当然ながらワクチン接種率である。10月27日時点で全人口に占めるワクチン接種完了率は70.6%とついに7割超となった。しかし、デルタ株の基本再生産数5.0~9.5人から算出できる、今時点で必要な接種率は80~89%(集団免疫獲得に必要な全人口に占めるワクチン接種完了者率)とかなり高めで、この達成はかなり難しい。ただ、希望者全員への接種完了は11月中と予想されており、そう考えるとある意味まだフレッシュな抗体を獲得した人がいる年内に第6波は考えにくい。一方、国内で優先接種対象になった医療従事者や高齢者では徐々に抗体価が低下してくる。先日Lancet誌に公表された論文でのファイザーのコミナティ筋注の感染予防効果はワクチン接種5ヵ月後で47%である。その意味でワクチンによる感染予防効果の低下を考えると、優先接種対象者はすでにややリスクが高い状態である。もっとも医療従事者は一般人よりも厳格な感染予防対策を行っており、高齢者はそのほかの年齢層以上に冬期の外出を控えがちになるので、これらの人たちで感染が再燃して拡大する可能性は低いのではないだろうか? また、3回目のブースター接種が年内にスタートすれば、医療従事者や高齢者での感染者増加の可能性はかなり低くなると考えられる。となると高齢者や基礎疾患保有者以外の一般接種が本格化した7月から5~6ヵ月後ということになり、この点からも第6波が到来するとしたら年明けの1月以降と予測される。もっともこの予測に大きく影響を与えるファクターが2つある。1つはこれまた「ワクチン接種率」で、運よく集団免疫達成の80%ラインを超えた場合、第6波はかなり後ろにずれ込むか、来ても小規模なものになる、あるいはベストのシナリオとして「来ない」ということもありうる。もう1つのファクターが「人流の増加」で、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全国で解除され、今後極端に人流が増加した場合に第6波到来は年内に前倒しになるかもしれない。だが、いずれにせよワクチン接種率が7割超なのでブレイクスルー感染を考慮しても第5波に比べてかなり規模が小さくなるのではないか。これが正解であるかはわからない。むしろこの予測が良い意味では外れて「第6波到来せず」のシナリオであってほしいと本気で考えている。

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管理薬剤師「実務経験5年以上」の実態は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第78回

2021年は調剤報酬の改定こそなかったものの、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)の改正や関連するガイドラインの発出など、さまざまなことがありました。これに関連して、日本保険薬局協会(NPhA)が会員企業を対象に法令遵守に関する調査を行い、その結果を公表しましたので紹介します。日本保険薬局協会は14日の定例会見で「薬局における法令遵守に関する調査」結果を公表した。医薬品医療機器法改正に伴って規定された管理薬剤師の選任要件に関して、社内基準を規定している会員企業の割合は84.7%、厚生労働省がガイドラインで示した「実務経験5年以上」を要件として課している会社は45.5%にとどまった。(RISFAX 2021年10月15日付)これってなんだっけ?と思っている方がいないことを願いますが、2021年8月の薬機法改正による法令遵守規定の施行に先立ち、2021年6月に「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」と「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」が出されました。上記記事は、NPhAがこのガイドラインに沿って薬局運営が行われているかを会員薬局に対して調査したものです。今回の薬機法改正に関しては、項目ごとに施行期日が異なっていて、「認定薬局」と「法令遵守体制の整備」は8月1日施行だったため、薬局ではかなり急ぎで手順書の改訂などの対応をされたのではないでしょうか。今回のアンケートは、まだ実施できていない薬局に注意喚起を行うとともに、業界団体としてどういったサポートができるかを探るという意味もあったのかもしれません。この記事にある「管理薬剤師の実務経験5年以上」という選任基準は、今回のガイドラインで推奨している内容の1つであり、実は薬機法そのものでは5年以上とは規定されていません。薬機法の管理薬剤師の責務を担ううえで、実務経験が5年以上あることを「推奨」しているだけです。業界の信頼を損ねないためにもある程度足並みをそろえる必要はあると思いますが、この調査結果を、「遵守は5割未満」というタイトルで報じている記事もあり、ちょっと悪意あるかも…?と思ったりもします。少し擁護しますと、管理薬剤師の選任基準として「実務経験5年以上」を要件として定めている薬局は45.5%であったものの、実際に管理薬剤師の実務経験が5年以上である薬局は89.3%でした。はっきりと選任基準に入れていなくても、実際はガイドラインに沿った人事であることがよくわかります。管理薬剤師の業務や責任を考えると、薬局経営者としても経験豊富な薬剤師に任せたいはずです。しかし、管理薬剤師が突然退職してしまった…などのいざというときのために基準には入れづらいのだと思います。NPhAの首藤 正一会長は「会員に遵守徹底を促す」とのことですので、同様の調査は今後も実施される可能性があります。安定した組織運営や患者さんからの信頼確保のため、ガイドラインを遵守しつつも臨機応変に動ける体制がつくれたらいいなと思います。

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第81回 国立病院機構とJCHOに法律に基づく病床確保要求、民間への「要求」法制化の“前哨戦”か?

営業時間短縮の要請解除こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。各都道府県に出されていた緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除されて3週間余り、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県では、飲食店の21時までの営業時間短縮要請が10月24日で解除され、25日からは通常営業が可能となりました。ということで先週末は、通常営業再開の事前お祝いのために、大学時代の山仲間と丹沢の塔ノ岳(お昼の頂上は200人近くの登山者で大賑わいでした)に登った後、「第75回 行動制限緩和の前に、あのナンセンスな制限だけは先行して撤廃を」でも書いた、横浜・関内にある友人が経営する焼肉屋に行ってきました。「お客さんに、ウーロン茶やノンアルコール飲料で焼肉を食べてもらわなければならないのがつらかった。時短要請解除はありがたい」と話す友人は本当にほっとした表情でした。思わず皆で高いワインを数本空けてしまいました。一方で、第6波を想定しての国の準備も進んではいるようです。今回は後藤 茂之厚生労働大臣が10月19日に行った、独立行政法人国立病院機構と独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)の病院に対する新型コロナウイルス感染症の患者向け病床の確保要求について書いてみたいと思います。今夏の感染拡大のピーク時より2割以上増やせ後藤厚労相が国立病院機構、JCHOに対して行った今回の要求は、以下のようなものです1)。1)新型コロナウイルス感染症患者等の最大入院受入数及び確保病床数(人材供給を行った医療機関や臨時の医療施設等の病床数を含む)について、それぞれ今夏の感染拡大のピーク時と比べ2割以上増加させること。2)1の検討は、貴法人の有する施設・設備、人材をできる限り活用するとともに、一般医療の制限等を視野に入れ、行うこと。その際、重症用病床の確保に特段の配慮をすること。また、病床確保を第一としつつ、特段の事情によりこれが難しい場合には、臨時の医療施設等に対する人材供給を行うこと。3)現在、都道府県において策定中の保健・医療提供体制確保計画の策定に最大限協力すること。また、都道府県から即応病床化の要請があった場合にはできる限り速やかに対応するとともに、新型コロナウイルス感染症患者等の入院受入要請があった場合は、できる限り対応し、正当な理由なく断らないこと。端的に言えば、「重症病床中心に、今夏の感染拡大のピーク時と比べて2割以上増加させよ。都道府県からの即応病床化の要請や入院受け入れ要請には、できる限り対応せよ」ということです。国立病院機構とJCHOに対しては、10月29日までに対応方針を、11月22日までに対応の具体的内容を回答するよう求めています。厚労省によると、両機構の病院でのコロナ病床はこれまで計3,000床程度を確保しており、今回の要求によって600床以上の増床につながるとしています。法律に基づくコロナ病床の「要求」は初めてこれまでのコロナ病床の確保は“お願い”ベースの「要請」でした。しかし、今回はより強制力がある「要求」。法律に基づくコロナ病床の要求は、今回が初めてです。ここでいう法律とは、両機構の業務内容などを定めた、独立行政法人国立病院機構法(第21条第1項)と独立行政法人地域医療機能推進機構法(第21条第1項)です。これらの法律は、公衆衛生上重大な危害が生じる緊急事態に対処するため、厚労相が必要な業務の実施を求めることができると規定しており、その条項をコロナ病床の確保に適用したかたちです。ただし、これらの法律に罰則規定は設けられていません。日本赤十字社、済生会、労災病に対しては文書要請今回の要求は政府が10月15日に示した、第6波を想定した今後の新型コロナ対策の骨格に基づいて行われました。この骨格では、ウイルスの感染力が今夏の第5波の2倍になっても対処できる医療提供体制の整備を基本とし、(1)感染拡大時の確保病床の確実な稼働(利用率8割以上)、(2)公的病院の専用病床化・現行法下での権限の発動、(3)臨時医療施設・入院待機施設の確保、(4)医療人材の確保、(5)ITを活用した稼働状況の徹底的な見える化──などの施策を盛り込んでいます。この中の「公的病院の専用病床化・現行法下での権限の発動」を、国立病院機構とJCHOを対象に行ったというわけです。なお、厚労省は省の関連3法人(日本赤十字社、済生会、労災病院)やその他の公的病院に対しても、それぞれの管理部局から文書要請を行う予定です。こちらは法に基づかない要請として、入院患者の受け入れ数は「今夏のピーク時から2割以上」、確保病床数は「1割以上」の増加を求めるとしています。2機構への要求は「遅きに失した」感も岸田政権、そして後藤厚労省のコロナ関連の初仕事としては、とても意味のあることだとは思います。ただ、第5波が収まってからの病床確保の要求は、遅きに失した感が否めません。どちらの病院も、厚労省管轄で法律による要求が可能なのはわかっていたはずです。どうして菅政権下で行わなかったのか謎です。これまで、法律での要請はほとんど効果を上げていません。第5波ピーク時の9月初旬、東京都と厚生労働省が2月に改正した感染症法に基づいて出した病床確保の協力要請(「第72回 今さら「手紙」で協力求める日医・中川会長、“野戦病院”提言も動かない会員たちにお手上げ?」参照)では、すぐ使える病床の上積みはわずか150床に留まり、失敗に終わっています。幸いなことに第5波は収束に向かい、緊急の病床確保の必要度は下がりました。しかし、感染症法に基づく協力要請が無力に終わったことは、国や厚労省にとっては相当ショックだったはずです。ゆえに、来たるべき第6波に向けた病床確保には、強制力を発揮できる厚労省管轄の病院への「要求」が優先事項として上がったのかもしれません。中等症2や重症用ベッドにどこまで対応できるかは未知数今回、国立病院機構140病院、JCHO57病院への病床確保要求が行われたわけですが、単に病床を確保するだけでは不十分であることを、第5波などの経験から現場は十分認識していることでしょう。たとえば、第5波では、軽症、中等症、中等症2、重症といった各種コロナ病床の需給のバランスが大きく崩れました。中等症2以上の入院が優先された結果、中等症、重症者用ベッドが満床になる一方で、軽症用のベッドはガラガラという地域もあったと報告されています。今回、病床確保の要求がなされた国立病院、JCHO病院は、すべてが急性期の先進病院というわけではありません。中小の民間病院と同程度の医療内容、陣容だったり、慢性期主体だったり、医師や看護師不足にあえいでいたりする病院も少なくありません。厚労相の要求は「重症用病床の確保に特段の配慮」となっていますが、どれだけの数の病院が中等症2や重症用病床の確保に対応できるかは未知数です。厚労省は来年の通常国会を見据え、医療従事者や病床の確保などで強制力のある措置を可能にする感染症法改正を検討していると伝えられています。今回の「要求」で重症病床の確保が実現すれば、民間病院等にも「要求」できる法改正へとコマが進められると考えられます。その意味では、国立病院機構、JCHOへの「要求」は、民間にも対象を広げるための”前哨戦”と言えるかもしれません。その成否が気になります。参考1)独立行政法人国立病院機構及び独立行政法人地域医療機能推進機構への要求等について

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忙しい医師向け、スキマ時間に学べる英語学習アプリ5選【医療者のための英語学習法】

「将来は研究や臨床で留学をしたい」「国際学会で発表したい」「外国人の患者を英語で診察できるようになりたい」といった理由で、英語を勉強したいと感じている医療者の方は多いのではないでしょうか。私は現在、ニューヨークにある病院で内科レジデントとして働いています。日本で生まれ育ち、英語はまったく話せなかったものの、20歳ごろから本格的に英語学習を始めました。その後、USMLE(米国医師国家試験)の受験と就職活動を経て29歳で渡米し、臨床医として働いています。当然ながら、職場では患者さんやその家族、同僚や上司とのコミュニケーションはすべて英語で、高い語学力を求められる日々です。卒後5年間、私は海外で働くことを目指して、日本で働きながらコツコツ英語力を向上させてきました。その際に、とくに便利だと感じたのがスマホアプリです。数多くの英語学習の教材がある中で「なぜアプリ?」と思われるかもしれません。私が英語学習にアプリが向いていると考える理由は3点あります。1)常に持ち歩いているのでスキマ時間に利用しやすい皆さんも体感されていると思いますが、臨床業務には、忙しいながらふとしたスキマ時間が存在します。たとえば、外来で患者さんが来るのを待つ間、MRIの付き添いに行って検査が終わるのを待っている間、当直中に患者を診ていない時間など…。重い書籍をいつも持ち歩くのは難しいですが、スマホは常に持ち歩いているため、ちょっとしたスキマ時間を無駄にせず、勉強に充てるツールとして最適なのです。2)テキストと音声の両方からインプットできる学習教材が書籍の場合は、インプットはテキストのみです。一方、アプリはテキストと音声の両方があるものが多く、テキストと音声をセットで覚えることが可能です。このことは、日本人がとくに苦手とすることの多いスピーキングやリスニングの向上に役立ちます。3)フィードバックやリマインド機能があるアプリは、テスト形式になっているもの、テストで間違えた問題だけを繰り返し復習できる機能が付いたものが多くあり、書籍で勉強するよりも効率的です。ついついサボりがちになる勉強も、スマホのリマインド機能、通知機能をオンにしておけば毎日忘れることなく続けられます。また、学習の進捗状況が可視化されるのも良い点です。今回は、私のように「忙しくてまとまった時間を確保できない」という方に向けて、スキマ時間や移動時間を活用して英語力を向上させることができるアプリを5つご紹介したいと思います。1)英単語学習「mikan」iPhoneAndroidスキマ時間に英単語を覚えられる、単語帳アプリです。アプリ自体は無料で利用でき、アプリ内で単語帳を購入して単語学習に活用します。単語の音声読み上げ機能があり、発音とセットで覚えられるのが良いところ。間違えた問題だけをもう一度やり直すことも可能です。研究留学や臨床留学を目指す場合にTOEICやTOEFLなどの資格試験を求められる場合がありますが、そういった試験対策にもぴったりです。2)実践的な英会話が学習できる「Real英会話」iPhoneAndroidネイティブが実際に日常会話で使うフレーズが3,000以上載っています。どのフレーズも短文形式で紹介されているため、実際に使う場面を想像しやすいのが特徴。フレーズの自動再生機能は移動中のインプットに最適です。980円と有料のアプリですが値段以上の価値があると感じます。英語学習では、英語のフレーズを聞いた後に自分で話す「シャドーイング」が効果的だとされています。このアプリのフレーズはシャドーイングにちょうどいい長さなので、私も活用していました。医療英語に特化しているわけではありませんが、短期留学を行う予定の方や、オンライン英会話で講師とスムーズな会話をしたい方などにお薦めです。3)ネットで聞けるラジオアプリ「Podcast」iPhoneAndroidネットで配信されている音声が聞ける、いわば「ネットラジオ」として有名なPodcast。実は医療英語の学習に役立つものが数多くあります。臨床留学や海外での臨床実習を目指す方にお薦めなのが、「The Clinical Problem Solvers」というチャンネルです。研修医や医学生が症例プレゼンを行い、他の研修医や医学生がディスカッションに参加する、という形式のPodcastです。実際に米国の回診で行っているプレゼンやディスカッションに形式が近く、洗練された指導医が司会をしていることもあって臨床推論の勉強にもなります。また「NEJM this week」「JAMA Editors' Summary」などのチャンネルでは、その週に出版された有名医学雑誌のサマリーを聞くことができるため、英語学習のみならず医学情報のアップデートにも最適です。米国や欧州の各専門科学会が中心となってPodcastチャンネルを運営していることも多いので、ぜひご自身の専門科のPodcastを見つけてみてください。英語学習と医療情報のアップデートを同時に行うことができて一石二鳥です。4)発音矯正アプリ「ELSA Speak」iPhoneAndroidこちらは英語の発音に自信がない方にお薦めしたい、発音矯正アプリです。これまで英語の発音を矯正するためには、英会話スクールに通ったりネイティブと話したりする必要がありました。このアプリでは、AIが発音を聞き分け、どこが合っていてどこが間違っているかを一音ずつ指摘してくれます。そのフィードバックを受けて自己学習を積み重ねていく、という画期的な仕組みとなっています。英語は世界中の人が使うコミュニケーションの手段であり、英語になまりやアクセントがあるのは当然のこととして認識されています。そのため、日本人特有のなまりやアクセントがあっても大きな問題にはならないことが多いでしょう。しかし、「rとl」、「bとv」などを含む一部の単語では、発音が違うとまったく異なる意味になる場合が多々あります。私も、発音が理由でコミュニケーションが成り立たず、面食らう場面を幾度となく経験してきました。こうしたアプリを利用して自己学習で発音矯正ができれば、英語を話す時に自信が持てるようになります。5)習慣化アプリ「みんチャレ」iPhoneAndroid最後に紹介するのは、英語学習アプリではありません。同じ目標を持った人が集まり、勉強やダイエット、禁煙などにチャレンジする「三日坊主防止アプリ」です。英語学習のグループも多数あるので、「英語を勉強しようと思ってもついつい三日坊主になってしまう」という方にお薦めです。「オンライン英会話を毎日やる」「ELSA Speakを毎日やる」などの目標を決めたら、同じ目標を持つ仲間のいるグループに加入します(匿名で参加できます)。やった内容の写真やスクリーンショットをタイムラインに投稿し、他の人からのリアクションをもらえる、というシステムです。「1人でチャレンジすると挫折しやすいが、チームでお互いに励まし合うと長続きする」という科学的根拠に基づいて作られたアプリとのこと。一度試してみると面白いですよ。以上、英語学習で使えるアプリを5つご紹介しました。最初は無料で利用できるものがほとんどなので、まずは自分に合うかどうかを試してみるのもよいでしょう。また、最後に紹介した「みんチャレ」のコンセプトに共通する部分もありますが、私たちが運営をしている「めどはぶ(Medical English Hub)」は、励まし合うチームをつくることでモチベーションを維持し、英語学習の習慣を身に付けることを目標にしています。興味のある方はぜひ、めどはぶの詳細もチェックしてみてください。<執筆者>

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進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは【見落とさない!がんの心毒性】第7回

今回のお話ひと昔前までの放射線治療(RT)では、がん病変に関連した広範囲を対象に照射していたため、ホジキンリンパ腫、乳がん、食道がん、肺がんなど胸部RTが必要ながん腫では心臓縦隔が広範囲に照射されてしまい、急性期および遠隔慢性期に放射線関連心血管合併症(RACD :Radiation Associated Cardiovascular diseases:)を発症していました。しかし、最近は心臓回避技術の向上、いわゆるRTのオーダーメイド治療が進化しRACDの発症頻度は減少しています。ゆえに一昔前と同様の考察でRACDに対峙していては時代遅れです。一方、放射線による組織障害、その結果として生じた心血管障害への対応には案外これまで通りのRACDへの理解が不可欠であり、RACDリスク管理として一般的心血管リスク因子の適正化が重要です。つまるところ、従来から循環器医が注力している診療要素がここでも大事なのは明らかで、結局は、臨床におけるRACDに対する急な理論武装は不要な様に思っています。もちろん、現代のRTに精通し、それによる新規RACDへの探究は極めて重要と考えますが、まずは基本に忠実な診療を施す事、そしてこれは放射線治療医の先生方へのお願いとなりますがRACDスクリーニングへも目を向ける重要性をお届けしたいと思います。そのほかにも、最新RTが不整脈治療に有効となる可能性!? なんていう話題についてもご紹介してみたいと思います。なお、RACDという表記について、別のRIHD(Radiation Induced Heart Disease)の表記も見かけます。この領域において、まだ統一表記になっていないと理解しています。今回は筆者が従来から使用し、また今回2021年第4回日本腫瘍循環器学会でも表記で利用されたRACDを本稿では使用します。RACDの基本の基:平均心臓照射量とのリニアな関係まずは2013年NEJM誌からの報告です。乳がん患者においてRT治療後5年目から冠動脈イベント頻度は高まりはじめ、少なくとも20年間はリスクが続き、平均心臓照射量が多ければ多いほど冠動脈イベントの増加に関連する事が示されました1)(図1)。(図1)心臓への平均照射量に応じた冠動脈イベントの割合1)画像を拡大する「線量依存性」かつ「慢性期発症」というのがRACDの基本の基です。多くはないものの急性発症もある事は申し添えておきます。RACDの発症は近年の技術革新により減少しています。しかし、がん患者、がんサバイバーが更に増加する昨今、そして、高齢化により心疾患を抱えたRT患者の増加も想像にたやすく、今後も臨床においてRACDを診療する機会はなくならないでしょう。別途、胸部以外の部位へのRTでも炎症やほかの機序により心血管障害を起こす可能性もあるのですが2)、混乱を来すのでここでは扱いません。RTの技術革新、New RACDは従来型とは違うのか次にホジキンリンパ腫に対するRTを例に技術革新を紹介します3)。(図2)ホジキンリンパ腫に対するRTの時代ごとの変遷画像を拡大する(A)時代ごとで分かるRT技術革新。拡大放射線療法であるマントル照射(B)以前の治療法(D)(B)に比較しIMRTを用いたinvolved-site RTでは(C)心臓を回避したより限局的治療を可能とし、DIBH(deep inspiration breath-hold、深吸気呼吸停止)法も適用し心臓部位への照射量は軒並み抑えられています3)(図2)を見ると心臓への照射量は劇的に減少しています。強度変調放射線治療(IMRT:intensity-modulated RT)、定位放射線治療(SRT:Stereotactic RT)のほか、粒子線治療といった高精度放射線療法の導入により、オーダーメイド放射線治療ができるようになった近年、一昔前のRTと現在のものとでは、もう同等比較はできません。心臓照射はより回避され、がん病変へのより限局的治療へと進化し、冠動脈、心筋、弁膜など心臓内の各重要部位が回避できるRTに進化を遂げています。この新時代RTいわゆるNew RACDは従来のものとは異なり、より限局的な心血管障害になるでしょうし、患者毎、がん病変毎で個々に異なるRACDの病態を呈する前提で行われていくでしょう。そういう意味で、New RACDとRACDは確実に異なります。問題点は…当の小生もですが、New RACDについて深く語れるほど循環器医がRTの進化に追いついておらず、New RACDの詳細を大して認識できていないという事です。ただし、New RACDの発症形態、特有の予後などまだ不明な点が多いものの、結果として生じた心血管系組織障害に対する臨床的対応はそれほど変わらないとも言えます。 結局、主治医がとるべき臨床的対応は、従来のRACDに対するものとさほど変わらないのではないかと思っています。よく知られているRACD前述した通り、New RACDはより限局的な心血管障害となり、発症形態は従来のRACDとは異なると推察されます。、その臨床的病型について、注意点はこれまでとさほど変わらないとし、まずはRACDの代表的な所をお示しします。RACDとしておさえておきたい病態を(図3)に示しました4),5)。RTにより心室では拘束性障害や収縮性障害をきたします。そのほか、冠動脈硬化、弁膜硬化、刺激伝導障害、自律神経機能障害、心膜疾患、心嚢水貯留、上行大動脈の全周性高度石灰化 (porcelain aorta)などが生じます。(図3)RACDとして挙げられる心臓関連病態4),5)画像を拡大するRACDの多くは遠隔慢性期に発症―RT後にも症例に応じたRACDスクリーニング計画、心血管リスク因子の適正化が重要RACDの特徴は急性期障害もあるものの、問題の多くが治療後遠隔期の慢性期障害となる事です。ゆえに、がん治療病院の管理から離れた後に発症する懸念から、いかにあらかじめの患者教育が大事かということになります。そして、RACDリスクが高い患者にはRT後の定期的なRACDスクリーニングの計画が推奨されます。(表1)にRACDのリスク因子を示しました。中には「心血管疾患リスク因子の保有」とあります。この心血管疾患リスク因子管理がRACDの進行回避において非常に重要なのです。そして、項目にある「コバルト線源」については近年における臨床現場ではあまり一般的治療ではないと聞いています。ただし、過去に治療歴がある患者の場合には注意すべきであり知っておくことは望ましいですよね。(表1)RACDのリスク因子4),7)RACDによる冠動脈病変は周囲組織を含め硬化が強くPCIでもバイパス手術でも成績が不良と言われます6)。これらを改善させるためにもスクリーニングによる早期検出で少しでも安全な治療が可能になる事に期待がもたれます。(図4)にはスクリーニングを含めたRACD管理アルゴリズムを示しました。(図4)RACD管理アルゴリズム5),8)画像を拡大する逆の発想!?心室性不整脈に対するRTの可能性RACDを起こす放射線障害ですが、その組織傷害性を利用したRTによる不整脈源性障害心筋への治療利用が考えられています。phase I/II ENCORE-VT(Electrophysiology-Guided Noninvasive Cardiac Radioablation for Ventricular Tachycardia) trialが行われ、難治性心室性頻拍に対してその有効性と安全性が報告されました9)。今後、そういう治療が主流になって行くのでしょうか、興味津々です。おわりに進化したRTによるRACD、いわゆるNew RACDについて、発症形態や予後など不明な点が多く、われわれはそれを明らかにすべく更なる探求が必要であると思います。しかし、その臨床的対応については、まずは従来のRACD対する対応と大きく変える必要は無いのではないでしょうか。重要なのは、治療後遠隔慢性期の発症形態をとるRACDの発見が遅れないよう、あらかじめ患者教育を施し、RACDリスク因子となる高血圧、糖尿病、脂質異常などのリスク管理、そしてRACDに対するスクリーニングの計画が検討される事、つまりRT後の患者が放置されない医療的アプローチが肝要であるのだと思います。循環器医も腫瘍科医も現段階ではRT新時代に取り残されているのかもしれませんが、これまでの知識や経験をもってNew RACDへ対応して行くことが先決でしょう。また、そんな状況だからこそ、腫瘍科医や放射線科医、そして循環器医が互いの強みを発揮しながらの協働が必要になってくるわけです。そして、当然、新世代RT特有のNew RACDの側面も今後明らかになってくることにも期待が高まります。最新の情報をアップデートしていきましょう。1)Darby SC, et al. N Engl J Med. 2013;368:987-998.2)Haugnes HS, et al. J Clin Oncol. 2010;28:4649-4657.3)Bergom C, et al. JACC CardioOnc. 2021;3:343-359.4)Desai MY, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:905-927.5)志賀太郎編. 医学書院. 2021. 循環器ジャーナル.(II章, がん放射線療法に関連した心血管合併症[RACD])6)Reed GW, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2016;9:e003483.7)Jaworski C, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:2319-2328.8)Ganatra S, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2020;2:655-660.9)Robinson C, et al. Circulation. 2019;139:313-321.講師紹介

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医療クラウドファンディング、コロナ対応スタッフの苦境を救え

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、クラウドファンディングを利用して医療材料などの資金調達を行う医療施設や大学が増加している。先月3日にREADYFOR主催の記者会見を行った医療法人社団 悠翔会もその1つだが、なぜこのような支援方法を選択したのだろうか。同施設は首都圏や沖縄に拠点を設け在宅診療にあたっている。新型コロナ患者対応においては、かかりつけ医を持たず、なおかつ自宅療養を余儀なくされる患者を保健所紹介のもとで積極的に対応しているが、その責任者である佐々木 淳氏(悠翔会理事長・診療部長)が語る、在宅におけるコロナ対応の現状や自施設スタッフのリスク管理とはー。新型コロナ×在宅医療、突きつけられる現実 在宅専門である同施設が在宅コロナ患者への往診を始めたのは東京都医師会と連携した2021年8月11日のこと。当初は通常の在宅チームのみで各地域の保健所からの依頼により対応していたが、徐々にその業務は逼迫、より多くの対応要請に迅速かつ確実に対応したいと考え8月24日より『コロナ専門往診チーム』が結成され、東京23区におけるコロナ患者の最終セーフティネットの役割を担い稼働した。 同施設の場合、通常診療は医師・看護師・ドライバーが3人1組で約10~13件/日(施設診療の場合は半日で30人ほどの診察が可能)の訪問診療を行っているが、コロナ診療の場合は、「同じ体制でも1日に多くて6件程度と、通常診療の半分しか対応することができない。この診療を支えるためのフォローアップチーム(毎日70~100人の患者に対し、1~3回/日の電話にて状況確認などを行う)や酸素濃縮器の集配チームなどを含め、約20名ものコメディカルを要する非常に負担の大きな仕事」と述べ、「にも関わらず、実際の診療報酬で評価されるのは“往診する医師の業務だけ”なので、施設経営は逼迫する一方だ」と話した。スタッフのリスク管理 また、コロナ診療と通常業務において大きく異なる点はやはり感染対策だが、悠翔会では以下の対策をスタッフのリスク管理として設けている。1)毎日の体調確認を確実に行う2)特定のスタッフを連続勤務させない3)余裕をもって診療ができるよう、十分な診療スタッフ数を確保する4)診療スタッフがコロナ診療に専念できるよう、診療外業務をバックアップチームが担う体制を作る5)感染防御具を毎度、きちんと使い捨てができるよう、潤沢に確保する6)感染防御が確実にできるスタッフだけでチームを組成する これは、往診を目的ではなく手段と捉えて患者に確かな安全・安心を提供し、助けを求めるすべての人に確実に医療が届けられるようにという『患者のニーズが最優先』の観点があっての対策なのだろう。通常業務にコロナ対応、賞与に報償を反映 上記のような対策が必要であればおのずと人員確保による人件費もかさむ。病院施設においては、コロナ禍による受診控えが影響しスタッフへの報酬を減額せざるを得ないところもあったが、本施設での影響を尋ねると、「日常診療における感染防御、クラスターへの対応(大規模PCR検査の実施など)、ワクチン接種、新型コロナ患者への往診対応など、通常の診療業務に多数の業務がアドオンされており、年末の賞与にてそれらへの報償を反映させる予定」と佐々木氏はコメント。このようなスタッフへの感謝の気持ちを添える対応をするためにも、クラウドファンディングの活用が欠かせなかったと言える。クラウドファンディング、地域限定から全国への呼びかけに 本施設のクラウドファンディングは開始1週間で早くも目標金額の1,200万円を達成。この支援費用は在宅中等症患者の命を繋ぐために必要な人件費として充てられるという。達成後も次の目標に向けて募集を行い、10月13日現在、支援者2,296人から約3,360万円の支援が集まっている。これに対し、佐々木氏は「目下のコロナ専門往診チーム体制、フォローアップ体制の更なる強化に加え、新たに計画されている新型コロナ療養施設での活動資金等に充当する」とコメントしている。 この取材時点では在宅診療での使用が認められていなかった抗体カクテル療法についても、9月17日に大阪府で解禁になったのを筆頭に東京都でも9月24日から始まった。もし、今後、第6波が到来して中等症II以上の自宅療養者が増えた場合、在宅診療の業務逼迫も今以上のものになることは想像に難くない。クラウドファンディング活用という先手の行動がきっと雨過天晴になるだろう。 クラウドファンディング(crowdfunding)とは、『群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して自分の活動や夢を発信することで、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募るしくみ』1)のこと。今回のように寄付金を募るタイプのものは寄付型クラウドファンディングとも呼ばれている。そのほか、物を購入して作り手を応援する購入型、ふるさと納税を寄付金に充てるタイプなどがある。 これまでも地域住民、患者やその家族がお世話になっている病院に「寄付」するという行為は存在していたが、それが地域住民版だとしたら、クラウドファンディングは共感を得た全国各地の人から募るという意味で寄付の全国版とも言える。 本プロジェクト「緊急:新型コロナが“災害医療”となった今、第五波を乗り切るご支援を」は10月29日(金)午後11:00まで、支援を募集している。<医療法人社団 悠翔会>・2006年創設・首都圏:17拠点、沖縄:1拠点・医師数:96名(常勤:40名)・在宅患者数:6,400名

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