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そろそろ旅行に!本当にお得な航空券の予約法教えます【医師のためのお金の話】第52回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。私の最近のマイブームは旅行です。コロナ禍に何を不謹慎な!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、旅行業界は感染予防のために不断の努力を続けています。厚労省の指導も入っているので、感染症予防対策も格段に進歩しました。医療者は昨年から大変な思いをして働いてきた方も多く、かつほぼ全員がワクチン接種済みですから、たまに息抜きしても罰は当たらないでしょう。中~遠距離の旅行でお世話になるのは航空機です。医師の皆さんはANAかJALの国内大手キャリアのマイレージサービス会員が多いと思います。学会出張などで国内路線を多用するヘビーユーザーはそちらがお得ですが、旅行ぐらいしか利用しない私のような層には、格安航空会社(LCC)が選択肢に入ります。LCC料金に最も影響を与えるオプションとは!?私はコロナ禍前には毎年2~3回ほど国内外に家族旅行に行っていました。大人数で利用するため、航空料金はシビアに見ます。最近では国内大手キャリアもかなり安くなりましたが、それでもまだLCCのほうが安いケースが多いようです。LCCの基本料金は劇的に安く設定されていますが、そこからどこまで「オプション」を付けるのかが悩みの種です。LCCは席の指定や規定以上の荷物持ち込みなど、さまざまなものが「オプション」となって追加料金がかかることが多いのですが、料金に最も大きな影響を与えるのは「日程変更可能プラン」のオプションです。ホテルや新幹線では当たり前のこの「無料の日程変更」、航空会社では不可のことが多いです。数ヵ月先の予約をすることも多いので、日程変更ができないのは大きなストレス要因です。私たち医師は、受け持ち患者さんの急変等で予定どおりに出発できない可能性が一般の方よりも高く、そのリスクを考えると、できれば日程変更が可能なプランにしておきたいところです。長年オプション料金を払い続けていたのに…私も例に漏れず、安心感を求めて日程変更が可能なオプションを付けることが多かったです。幸いにも緊急事態が発生することはなかったのですが、今年になって日程変更をせざるを得ない事件が発生しました。むむっ。でも、この日のためにこれまでオプション料金を払い続けてきたようなものです。自分の先見の明を誇らしく思いながら日程を変更しようとすると、トンデモナイ事実が発覚しました。そのオプションの内容をよく見ると、確かに日程変更の手数料は無料なのですが、その際には「“現在の料金”と“購入時の料金”の差額が必要」だったのです。予定日直前の変更なので現在の料金はハンパなく高騰していました。結果、購入時の料金とほぼ同額の追加料金を請求されたのです…。今回のケースでは、変更手数料無料のオプション料金は2,800円で、オプションなしの基本プランの変更手数料は3,000円でした。オプションを追加すると何度でも無料で変更可能でお得だと思っていたのですが、まさか差額が必要だとは…。日程変更は、料金が高騰する出発直前であることが多いでしょう。3,000円の日程変更手数料より追加料金のほうが圧倒的に高くなります。日程変更無料のオプションはほとんど意味がなかったのです…。1回1名当たりのオプション料金は3,000円ですが、往復×家族の人数分の合計金額となるとばかになりません。しかも実質的には使えないオプションを毎回付けており、かなりの金額をドブに捨てていたことになります。これはいただけないですね。潔く最安の基本プランでいこう!LCCはかなり安い金額で移動できるのでとても便利です。しかし、航空料金に大きな影響を与える日程変更オプションは、実質的にはほとんど使えないので追加する必要はないでしょう。これまで何十回も格安航空会社を利用してきたにもかかわらず、このことを知らなかったのは非常にもったいなかったと反省しました。皆さんもLCCを検討する際には、潔くオプションを付けない最安の基本プランにすることをお薦めします!

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「3高」から「4低」、そして「3生」へ【Dr. 中島の 新・徒然草】(408)

四百八の段 「3高」から「4低」、そして「3生」へついに新型コロナの第6波がやってきました。大阪医療センターの職員の中にも、PCR陽性者や濃厚接触者が出始めていて、現場から人が足りなくなりつつあります。ちょっと前の沖縄を追いかけている感じと言いましょうか。コロナ患者の数自体は多くないのに、医療者の数が不足して通常医療ができなくなる、そういったタイプの医療崩壊なのかもしれません。ワクチンを打ち、細心の注意を払っている人にまで感染してしまうオミクロン、恐るべし!さて、タイトルの「3高」や「4低」について述べましょう。「3高」というのは、私くらいの年代の人間がバブルの頃によく使っていた言葉です。女性が男性に求める要素のことで、「高学歴、高身長、高収入」のことを指しました。さすがにイケイケドンドンの時代だったので、ポジティブな言葉が並んでいます。最近知ったのは、「4低」という言葉。これまた不景気な現代を反映しているのか、ネガティブな響きが否めません。中身は「低姿勢、低燃費、低依存、低リスク」というものだそうです。「低姿勢」というのは、他人に対して威張らない人というもの。たとえば、買い物などでやたら店員さんに偉そうにしゃべる男性は減点されてしまいます。逆に、誰に対しても低姿勢な人は好感度大! 次に「低燃費」というのは、飲み会などにあまり参加せず、酒やタバコにもお金を使わない人。確かに、昭和の頃は「家1軒分飲んでしまった」みたいな話は珍しくありませんでしたが、令和の時代には流行りません。「低依存」というのは、妻に依存しない人のこと。これまた昭和の時には「家の事はなにもしない」という男性ばかりでしたが、今は掃除洗濯炊事などの家事をどんどんやる男性が好まれます。当然といえば当然ですね。そして「低リスク」。公務員とか大きな会社勤めなど、不況でも失業する可能性の低い職業が好まれるということです。強気な「3高」に比べると、「4低」のほうはいかにも弱気な印象ではありますが、時代が進んでより現実的になった気もします。というのは、いくら高収入だったとしても、それを全部アルコールやギャンブルに費やしていたら何も残らないわけですから。あと、本人の努力でどうにかなるものの割合が「3高」と「4低」との間で違っているというのもポイントかもしれません。3高だと、高学歴こそ本人の努力次第ですが、高身長はいくら努力してもどうにもなりません。一方、「4低」のうち、低姿勢、低燃費、低依存は、3つともちょっとした心掛けで実現可能です。低リスクについても、「公務員だったら何でもいい!」というなら何とかなりそうですね。ところが「4低」という言葉も少し古くなり、今は「3生」が求められる時代なのだとか。これは生存力、生活力、生産力の3つを合わせたものだそうです。生存力とは「家庭内でトラブルが起こったときに対処できる力」、生活力とは「妻に依存したり親に頼ったりせずにやっていける力」、そして生産力は「何もないところから新しいものを生み出す力。人脈があり人望が厚い」と説明にはありました。生存力をもう少しわかりやすく説明すると、「人間関係のトラブルや経済問題、健康問題など、家庭で起こった事に対処する力」だと思います。一方、生産力というのはピンと来ません。説明文からイメージすると「勤めていた会社が倒産して無職になってしまっても、その状況から人脈や人望を生かして食べていけるだけの収入を得る力」ということでしょうか。そういう力があれば重宝するのは確かです。でも、私なら生産力の代わりに生命力を持ってくるかな。「心身共にタフで、ちょっとやそっとの事でめげないタフさ」といった意味を込めて。調べてみると、ほかにも「3平」「3温」「3強」「3優」など、今までにもいろいろな言葉が提唱されてきたようです。これらも知っておくと、何かの雑談に使えるかもしれませんね。ということで最後に1句「3生」を 学んで1つ 年が明け

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CPと表記される医療用語が15種類…「誤解を招く医療略語」の解決に役立つポケットブレインとは?

 電子カルテの普及により多職種間で患者情報を共有しやすくなり、紙カルテ時代とは比にならないくらい業務効率は改善したー。はずだったのだが、今度は医療略語の利用頻度の増加による『カルテの読みにくさ』という新たな課題が浮上している。 医療略語は忙しい臨床現場で入力者の負担軽減に寄与する一方で、略語の多用や種類の増加が、職種間での情報共有における新たな弊害になっている可能性がある。また、診療科や職種により医療略語の意味が異なるため、“医療事故”のリスク因子にもなりかねない。増加の一途をたどる医療略語に、医療現場はどう対処していけばよいのだろうか。 そんな医療略語の課題解消に乗り出したのが、病院向け経営支援システムを扱うメディカル・データ・ビジョン株式会社だ。同社は医療IT企業の強みを生かし、医療略語辞書アプリ『ポケットブレイン』を昨年12月7日にリリースした。本アプリは電子カルテに書かれた英字略語を検索できる臨床現場支援ツールで、これを使えばカルテや各種検査レポートで分からない医療略語に遭遇した際、スマートフォンでサクサク検索できる。その開発者で医師の加藤 開一郎氏が昨年12月17日に記者会見を開き、医療略語の現状やアプリの開発経緯とその意義を語った。CPと略語表記されうる医療用語は15種類 医療略語は“さまざまな意味に解釈し得る”がゆえに誤解を招くものが存在する。加藤氏はその理由を「識別性の低さ」と話し、その一例として英字2文字で15種類もの意味を持つ『CP』を挙げた。≪CPと略語表記されうる医療用語≫・カプセル・ケアプラン・CP療法・大腸ポリープ・クロラムフェニコール・セルロプラスミン遺伝子・口蓋裂・脳性麻痺・毛細管圧・皮膚型ポルフィリン症・収縮性心外膜炎・半規管麻痺・臨床心理士・Child-Pugh分類・慢性動脈周囲炎 一方で、同氏は“略語の不統一”という問題も指摘している。これは、事実上は同じ物を指しているにもかかわらず、複数の医療略語が存在することだ。「上部消化管内視鏡検査」をその最たる例として挙げ、「学会でも略語表記の統一をアナウンスはされているが、現場ではさまざまな略語が使用されている」とコメントした。≪上部消化管内視鏡検査を意味して記載された略語≫*1)EGD:esophagogastroduodenoscopy2)GS:gastroscopy3)GIF:gastrointestinal fiber4)GF:gastric fiber5)GFS:gastlic fiber scopy6)ES:endscopy*:出典:ポケットブレイン説明資料医療略語の出現速度に書籍が追いついていない また、同氏は医師の働き方改革についても言及し、「医師の働き方改革と言われる一方で、内科、外科、救急医の減少傾向に歯止めがかからない。心ある医療者がかろうじて現場に踏みとどまっているのが現状だ。とにかく、医師・看護師の業務負担を減らすため、事務的な業務は積極的に事務職への代行を推進する必要がある。しかし、カルテを読む難しさがそれを阻んでおり、その大きな原因が英字略語や英語表記にあると考える。本アプリを開発した目的の1つは医師の業務代行にある」と強調した。 現在、医療略語に関する書籍は多数出版されているが、書籍でページをめくり医療略語を探すのは物理的に時間を要する。さらに、医療略語の出現速度に書籍の改訂ペースが追いついていない。片や、ネット検索は英字略語のみでは適切な情報に辿り着かず、適切な日本語との組み合わせ検索というもうひと手間が必要である。「それらの問題を解決したのが本アプリ『ポケットブレイン』」と同氏はコメント。 ポケットブレインは毎日情報が更新される成長型アプリで、未収載略語の追加・修正依頼、古い略語の削除等の依頼等、ユーザとの双方向性を重要視している。また、重要な機能の1つに“略語の属性情報”と“補足情報”がある。属性情報が分かることにより、目の前のカルテに書かれている英字略語に対し、その和訳を当てはめて良いかどうかの判断が可能となる。これにより医師以外の職種にも汎用性が高い仕様になっている。医療用語は医療を行うための共通言語 現在、日本医療機能評価機構の病院機能評価の機能種別版評価項目<3rdG:Ver2.0>において“略語の標準化”もポイントになっている。そのため、各病院独自のデータベースを構築する施設もあれば、略語の使用を登録制にしている病院もあるという。これを踏まえ、「同社は病院の業務スマホ向け版ポケットブレインの準備を進め、各病院の略語集にも対応していく予定」だという。 医療略語に限らず、医療用語は医療を行うための共通言語であり、インフラと言っても過言ではない。職種を超えた情報共有が求められる今日、カルテを早く正確に読める対策が求められる。 なお、本アプリに関連する連載をCareNet.comにて公開している。「知って得する!?医療略語」

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英語で「痛みに強い」は?【1分★医療英語】第10回

第10回 英語で「痛みに強い」は?I see you are in pain.(痛みがありそうですね)Yes, it’s really bad. I have a high pain threshold.(はい、とてもひどい痛みです。痛みに強いほうなのですが)《例文1》He has a really high pain threshold.(彼は非常に痛みに強いです)《例文2》She said her pain was 20 out of 10. She may have a low pain threshold.(痛みは10点満点中20点だそうです。彼女は痛みに弱いのかもしれません)《解説》“threshold”は「閾値」を意味する単語で、“pain threshold”は「痛みの閾値」という意味になります。“high pain threshold”は「痛みの閾値が高い」、つまり「痛みに強い」という意味です。似た表現に“tolerance”というものもあり、同じく「閾値」を意味します。厳密には“threshold”は「痛みを感じ始める境界」を指し、“tolerance”は「何とか我慢できる痛みの境界」を指しますが、いずれも同じような文脈で使われます。「痛みの閾値」は人それぞれですが、米国では患者の人種的・文化的な背景がさまざまで、日本よりもさらに個人差が大きい印象です。日本では麻酔なしで行われる手技が全身麻酔で行われたり、オピオイドの処方のハードルが低かったりと、臨床現場では痛みに対するアプローチの違いが見受けられます。講師紹介

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第90回 第6波のまん防・緊急事態宣言を否定する人に、聞いてみたいよ、その根拠

もはや第6波到来なのか。1月5日、全国では2,638人もの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)検査陽性者が報告された。2021年の年末最終週あたりから徐々に増え始めていた陽性者はわずか1週間で6倍以上に膨れ上がった。この増加は正月休み明けの検査件数の急増などによる形式的増加も影響していると思われる。しかし、昨年12月中はPCR検査数に大きな変動があるわけではないのに下旬以降徐々に陽性者が増加していることを考えると、デルタ株より感染力が3~4倍といわれるオミクロン株の登場で局面は変わりつつあることがうかがえる。しかし、テレビやネットを見ていると、オミクロン株での重症化率が低いことをフックとした、とんちんかんな解説や意見があまりにも多いことに呆れてしまう。あるテレビ番組では厚生労働省の元医系技官が「増えたから感染を抑えるなんて2年前と同じ馬鹿げた事は、絶対にやってはいけない」と声高に言っていた姿にはもはや失笑を禁じ得なかった。確かに南アフリカ国立感染症研究所からの査読前論文を見ると、対デルタ株比でのオミクロン株の重症化リスクは0.3倍。同様の報告はほかにもある。だが、単純な算数の問題として、感染者がデルタ株による第5波の3倍に増えてしまったならば、この医療側にとって好都合なオミクロン株の特性はチャラになってしまう。また、裾野として広がった軽症、無症状感染者をほぼ全員自宅療養とするにしても社会全体が抱える負荷は莫大なものだ。一部には、ならば新型コロナの感染症法上の取り扱いを指定感染症としての2類相当を5類にすれば良いではないかという意見もあるが、そもそも致死率がいまだインフルエンザなどと比べれば高く、対抗手段も揃いつつあるとはいえまだまだ「帯に短し襷に長し」という現状を考えれば、こうした意見の具体化はまだ時期早尚だろう。ワクチンは有力な手段ではあるものの、それのみで感染・発症を完全には防げず、かつ現時点で国内のワクチン接種率が約8割に達しようとする中、結局、感染者増加という蛇口の元栓を締めるには個人レベルでは手洗い、マスク、三密回避という基本的感染対策の徹底化、公的施策としてはブースター接種の迅速化と感染拡大阻止に向けた行動抑制対策という限られた選択肢しかない。その意味で沖縄県、広島県、山口県の3県で新型インフルエンザ等特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」の適用がほぼ確実になったことはやむを得ない措置と言えるだろう。しかし、ネット上では首都・東京都などで同様の対策、あるいは一歩進んで緊急事態宣言まで進むことへの警戒感や倦えん感からなのか、先ほどの厚労省の元医系技官以外でも、いわゆる識者と呼ばれる人から「オミクロン株は重症化率が低いのだから」とか「今現在の重症者は少ないのだから」などの論理で強い措置をすべきではないという意見が散見される。重症者数は感染者発生から1週間後に見えてくる後発指標。少なくともオミクロン株での重症化率の低さや国内のワクチン接種率の高さゆえに理論上はかなり低値に抑えられるのではと思われるものの、あと1週間後の「答え合わせ」で万が一予想を超えてしまった場合は取り返しのつかないことになるのは、医療従事者の中では百も承知のことだろう。また、重症者数が後発指標であることは報道でも繰り返し伝えられてきた。こうした現実を目の当たりにすると、パンデミックから丸2年が経過した今、改めて当たり前になっていると思い込んでいた情報を再整理して繰り返し伝える必要性を認識している。とはいえ正直個人的にもそうした作業に倦えん感がないとは言えない。何とも気が重い年明けになってしまったようだ。

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緩和ケアはがん患者だけのものではない!ニーズに基づいた提供をするには【非専門医のための緩和ケアTips】第18回

第18回 緩和ケアはがん患者だけのものではない!ニーズに基づいた提供をするには緩和ケアといえば「がん」患者さんのためのもの、というイメージを持つ方は医療者にも多いのですが、近年、緩和ケアの概念はどんどん広がっています。まさに、パラダイムシフトを迎えている緩和ケアについて、少し紹介しましょう。今日の質問最近、末期心不全患者も緩和ケアの対象となり、診療報酬に収載されたと聞きました。以前から、がん患者にばかり緩和ケアが手厚く提供されるのは違和感があったのですが、今後の動きはどうなっていくのでしょうか?ここでいう診療報酬とは、入院時に緩和ケアチームが緩和ケアを提供した際に算定される「緩和ケア診療加算」のことです。長らく、がんとHIV感染症に限って算定可能だったものが、2018年の診療報酬改定で対象疾患が末期心不全にも拡大された、という背景があります。以前から、特定の疾患に限って緩和ケアを提供する制度設計には批判も多く、わが国の緩和ケア提供の課題の一つでした。なので、対象拡大は大きな一歩といえるでしょう。われわれのように現場で緩和ケアを実践する立場からすれば、重篤な疾患を抱えた患者さんやご家族に、疾患の種類を問わず、幅広くケアを提供したいのは当然の思いです。さらに最近のトピックスは、透析患者の透析中止や慢性呼吸器疾患に対する緩和ケアに対する議論が広まっています。日本呼吸器学会は「非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021」を公開、COPDなど非がん患者の終末期ケアの原則や考え方を提示しました。外来で呼吸器疾患の患者さんを見ているプライマリ・ケア医にとって、待望の指針でしょう。今後もこのような緩和ケアの対象疾患の拡大傾向は続くと思います。このように緩和ケアの概念が広がっていくことは、緩和ケアニーズがある方に広く緩和ケアを届ける、という意味で好ましいことです。そしてそれを実現するためには、外来診療などのプライマリ・ケアの場で緩和ケアを実践する人が増える必要があります。学会や勉強会などでこうした話をすると、「外来診療だけなので、緩和ケアは要らないんですよ」というコメントをいただくことがあります。でも、本当にそうでしょうか? 確かに外来に来られるくらいの患者さんであれば「すぐに対応が必要な症状」や「今日どうしても話し合わなければならない病状」はないかもしれません。しかし、そんな患者さんも、人生の最終段階についての気掛かりがあり、支援を必要としていながら、それを医療者に伝えられていないだけかもしれません。2017年に厚生労働省が行った「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、「人生の最終段階における医療について話し合ったことがない」人の割合が55.1%と半数以上でした。一方で、その理由を尋ねたところ「話し合いたくない」という回答は5.8%にすぎず、「話し合うきっかけがなかった」との回答が最多の56%でした。病状が安定している方が多く、時間も取りにくい外来診療ですが、数年単位で患者さんとのお付き合いができることが強みです。ぜひ、疾患にとらわれない緩和ケアのニーズに目を向けてみてください。今回のTips今回のTips緩和ケアはがん患者だけのものではない。外来にも多くのニーズがあります。

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第89回 がんが大変だ!線虫がん検査に疑念報道、垣間見えた“がんリスク検査”の闇(後編)

大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暮も押し迫ってまいりました。週末は大掃除の合間を縫って、東京・新宿の紀伊国屋ホールに演劇を観に行ってきました。演出家、横内 謙介氏が主催する劇団扉座の創立40周年記念公演、「ホテルカリフォルニア」です。最近、テレビでもよく見るようになった六角 精児氏が所属する劇団で、演目はカリフォルニアとはほぼ無関係、横内氏や六角氏らが卒業した神奈川県立厚木高校を舞台とした、1970年代後半の高校生を描いた青春群像劇です。60歳前後となった劇団員が真面目に高校生を演じるのがバカバカしく、笑えました。個人的には、劇中劇として一瞬演じられた、つかこうへい氏の代表作「熱海殺人事件」の場面がオリジナルかと見紛うほどの完コピぶりに感心しました。横内氏のつか氏への深いリスペクトが伝わってきました。さて、先週に続き今週もがんの検査について書いてみたいと思います。前回書いたように、日本のがん検診は今、深刻な状況に置かれています。そんな中、週刊文春12月16日号が、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE (エヌノーズ)」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道、医療界のみならず、大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃を与えています(同社のCMに出ている、ニュースキャスター・東山 紀之氏も驚いたことでしょう)。線虫ががん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用「N-NOSE」は九州大学助教だった広津 崇亮氏が設立したHIROTSUバイオサイエンスが2020年1月に実用化したがんのリスク判定の検査です。がんの「診断」ではなく「リスク判定」と言っている点が、この検査の一つの肝とも言えます。「N-NOSE」は、すぐれた嗅覚を有する線虫(Caenorhabditis elegans)が、がん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用、わずかな量の尿で15種類のがんのリスクを判定する、というものです。これまでに約10万人が検査を受けているとのことです。健康保険適用外で、料金は検体の回収拠点を利用した場合で1万2,500円(税込)です。事業スタート当初は同社と契約した医療機関で検査受付を行っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に、利用者に直接検査キットを送り、検体を運送業者に回収してもらうか拠点に持ち込むシステムが中心となっています。最近の報道では、今年10月、九州各地にこの持ち込み拠点を増設したそうです。また、同社は11月に記者会見を開き、膵がんの疑いがあるかどうかを調べる手法を開発したと発表しています。カウンターを使って手作業で線虫の数をカウント週刊文春の報道では、線虫がん検査で「がんではない」と判定された女性で乳がんが見つかったケースなど、同検査で陰性でもがんと診断される患者が何人もいた事実を紹介、その上で検査方法や、同社が公表している感度(がんのある者を陽性と正しく判定する割合)、特異度(がんのない者を陰性と正しく判定する割合)の信憑性に疑問を投げかけています。検査方法について同誌は、「寒天を敷いたシャーレの左側に薄めた尿を置き、真ん中に線虫を50匹程度置く。するとがん患者の尿には線虫がよってくとされる。(中略)検査員がカウンターを使って手作業で線虫の数をカウント。左右に分かれた線虫の数を比べ、がんか否かの判定をする」と書いています。私も知らなかったのですが、「手作業」とは驚きです(最近、オートメーション化が始まったそうです)。同社のホームページや同社を紹介するさまざまなメディア報道では、線虫の集団ががん患者の尿に集まっている写真がよく使われていますが、週刊文春は「『こんなにはっきりと分かれるのをみたことがない』、こう断言するのは、H社(同社)の社員だ」と書いています。「20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分しかがん患者と特定できず」さらに同誌は、ある医療機関から提供された尿検体の実験で「線虫が50匹の場合、左右に分かれた線虫の差は、300回以上行われた検査の中で、1回を除き10匹以下」であった事実や、ブラインド(がんかどうか結果がわからない状態)で検査した場合、「感度は90%だったが、(中略)特異度はわずか10%だ」とも指摘、「ある検査員が健常者の尿をブラインドで検査した場合は陽性と出たが、非ブラインドで同じ尿を検査すると健康であるという判定もされている」という元社員の声も紹介しています。極めつけは、「陽性率もコントロールしている。今年1月に作成された『判定ルール』を見てみると、<陽性率15%以内>との記載がある」として、倉敷市の病院が20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分、15%しかがん患者と特定できなかったと伝えている点です。17人のがんが見過ごされていたことになります。それが事実とするなら、がんの診断ではなくリスク判定とは言え、医療に使う以前の問題と言えそうです。線虫がん検査に3つの疑問ということで、「N-NOSE」という線虫がん検査について、医学的な側面から疑問点を少し整理してみました。1)検査と言えるレベルのものなのか?臨床検査には、「分析学的妥当性」「臨床的妥当性」「臨床的有用性」という3つの評価基準があります。分析学的妥当性とは、検査法が確立しており、再現性の高い結果が得られることを言います。「N-NOSE」の場合、週刊文春報道を読む限り、分析学的妥当性があるとは思えません。そもそも、線虫が尿の中の何の成分に反応してがんを嗅ぎ分けているのか、HIROTSUバイオサイエンスは公表していません。ひょっとしたら、彼らもわかっていないのかもしれません。これでは第三者が再現することができず、分析学的妥当性を評価できません。臨床的妥当性とは、検査結果の意味付けがしっかりとなされているかどうかです。「N-NOSE」で言えば、「線虫が何匹集まった場合に、がんである可能性は何%〜何%である」という評価法が確立していて、その検査をやる意義があるということです。しかし、そもそも分析的妥当性も曖昧なのに、臨床的妥当性を求めるのは酷と言えるかもしれません。2)臨床的に役に立つものなのか?最後の臨床的有用性は、その検査の結果によって「今後の疾患の見通しについて情報が得られる」「適切な予防法や治療法に結び付けることができる」など、臨床上のメリットがあることを指します。「N-NOSE」について言えば、特異度が非常に低い値を示すことは、がんの検査として偽陽性を多く出し過ぎる危険性があります。週刊文春の報道では「見落とし」の数も相当あるようです。また、被験者としては、15種類のがんのうち「何かのがんがありそうだ」と言われても、そこから通常のがん検診に行けばいいのか、内視鏡検査やCT検査を受ければいいのか戸惑うばかりではないでしょうか。現状では臨床的有用性についても大きな疑問符が付きます。そもそも、分析学的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性を証明するデータを、きちんとしたプロトコールによって行った臨床試験等で出し、それが評価されれば、保険診療において使用が認められますし、海外でも用いられるかもしれません。しかし、こうした「がん(病気)のリスクを判定する」と喧伝する検査の多く(類似のものに「アミノインデックス」や「テロメアテスト」などがあります)は、お金と時間が膨大にかかる臨床試験を敢えて避け、日本だけの一般向け検査でお茶を濁しているようで、気になります。3)がんリスク判定は「判定」できているのか?臨床的有用性の話と関連しますが、「がんのリスク判定」とは一体何なのでしょう。検査会社は、医師が行う「診断」を業として行うことはできないので、リスク判定という曖昧な表現になっていると思われますが、これも無責任です。同社のホームページには、「N-NOSEは、これまでの臨床研究をもとに検査時のがんのリスクを評価するもので、がんを診断する検査ではありません。そのため、検査で『がんのリスクが検出されなかった方』でもがんに罹患していないとは言い切れませんし、 検査で『がんのリスクが高いと判定された方』でも、必ずしもがんに罹患していることを示すものではありません」と長々とエクスキューズが書かれています。また、ある人の実際の「N-NOSE」の結果を見せてもらったことがあるのですが、留意事項として、「体調がすぐれないとき」「疲労が激しいとき」「長期の睡眠不足や徹夜明けのとき」「アルコール摂取時やアルコールの影響が残っているとき」など、8つの項目の時に「正確な評価を行うことができない可能性がある」と書かれていました。これでは、いったいいつ検査をすれば、正確な評価をしてもらえるのかわかりません。とくに私を含め中高年はだいたい体調がすぐれず、疲れているのでほぼ判定は不可能ではないかと思ってしまいます。このようにエクスキューズの連発となってしまうのは、先に述べた分析学的妥当性が曖昧で、検査の再現性が低いからだと考えられます。もう一つ気になったのは、人の体調で検査結果がこれだけ変動するというのだから、線虫の“体調”によっても変動するのではないか、という点です。線虫の1匹1匹の診断能力の質の担保は、しっかりと行われているのでしょうか。ちなみに同社が根拠とする臨床研究ですが、ホームページにはそれらしき関連論文が海外文献も含めて列挙されています。しかし、ダブルブラインドにより、がんの有無を明確に見分けた、というような決定的とも言える成果を発表した論文はないようです。線虫が尿の中の何の成分に反応し、がんを判別するかについての論文もありません。健常者をまどわせ、がん患者のがんを見落とす危険性代表取締役の広津氏は週刊文春の取材に対し、「この検査を作ったのは五大がん検査を受ける人を増やしたかったからです」と話しています。五大がん検査とは、国が推奨する5つのがん検診のことです。しかし、がん検診を受けるきっかけを与えるにしては、無用の心配を被験者にさせたり、見落としによって手遅れになったりと、リスクが多過ぎます。また、検査を受けた人がアコギな医療機関に食いものにされる危険性もあります。提携医療機関の中には、「N-NOSE」陽性の人に対し、自費でのPET-CT検査を勧めるところもあると聞きます。「N-NOSE」はあくまでリスク判定であるため、そこで陽性の判定が出ても、すぐに保険診療とはなりません。一度、自費検査を挟み、病気が見つかってはじめて保険診療となるわけです。「N-NOSE」は手軽なように見えて、医療機関において保険診療を受けるまで、2度手間、3度手間となってしまいます。そう考えると、健常者を惑わせるだけの検査では、と思えてきます。「N-NOSE」は、医療機器でもなく診断薬でもありません。医師が診断のために使う検査でもなく、保険診療にも使われていません。つまり、薬機法や医師法、健康保険法など、厚生労働省所管の法律外にある検査法なのです。宗教団体などが売る、“ありがたい壺”のように、何か大きな問題が起こるまで行政が口を挟むことはないかもしれません。自費でわざわざがんのリスク検査を受けて、「リスクが低い」という結果からがんを見落とす人が出ないことを願います。そして何よりも、がん検診の受診者が増えるよう、国や自治体はもっと知恵を絞ってほしいですし、日本医師会の言うところの“かかりつけ医”は自分の患者にがん検診を勧めるアクションを起こしてほしいと思います。

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『はたらく細胞』コラボ漫画で疾患啓発を全国に【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・後編】

『はたらく細胞』コラボ漫画で疾患啓発を全国に【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・後編】<お話を伺った先生方>仲間 達也氏(左)東京ベイ・浦安市川医療センター 循環器内科 副部長鈴木 健之氏(中)東京都済生会中央病院 循環器内科/TECC2021大会長宇都宮 誠氏(右)TOWN訪問診療所城南院院長/東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科――漫画『はたらく細胞』とタイアップした経緯について教えてください。これまで、TECCで若手育成などさまざまなことを試みてきた中で、ここからさらに自分たちの使命として何ができるかと考えたとき、末梢動脈疾患(PAD)の啓発を社会貢献活動の一環として取り組むのはどうかという話になりました。その中で『はたらく細胞』とタイアップすることになったわけです。この漫画は、ヒトの体内で起こっていること、たとえば傷口から侵入した細菌を白血球が攻撃するなどの生体防御を、擬人化された細胞たちによってわかりやすく伝えています。認知度の高い作品とタイアップすることで、「われわれが専門とするPADやEVTをわかりやすく伝えることができるのではないか」という思いから、講談社へ企画を持ちかけました。医療のプロであるわれわれと、漫画企画・編集のプロである講談社が何度も打ち合わせを重ねた結果として、とても素晴らしい作品が出来上がったと思います。――完成した漫画作品はどんな内容ですか?漫画の内容は、原作の世界観を大事にしながら、PADという疾患の重要性や病態を自然と理解できるストーリーになっています。個人的に一番の見どころは、チーム医療が垣間見えるラストシーンですね。あと、かわいらしい「血小板ちゃん」が、文句を言う赤血球集団に激ギレしているシーンも好きです(笑)。生活習慣の重要性がよく伝わると思います。私はよく、患者さんに「治療が成功しても50%の成功だよ」と言っています。「残りはあなたが今後の生活習慣を改善することで100%になります」とね。ここだけの話、今回の漫画はハッピーエンドなので、前回話したような足や指をなくすなどのシビアな事実は表現しきれていません。漫画だけではPADの深刻さや悲惨な一面を伝えにくい部分もあるので、医療者からは、「皆が漫画のようにうまく治療できるわけではない」と、漫画を読んだ患者さんにやんわり伝えていただいてもいいかなと思います。漫画と現実のギャップを埋めるというか。そうですね。実際は、糖尿病や透析の患者さんで足を膝上・膝下で切断しなきゃいけなくなる人や、足が痛くて歩けないまま原因不明で寝たきりになってしまう人も少なくありませんから。正しい情報が広く伝わって、適切な治療につながってくれたら、PADによるいろんな不幸を防げるのではないかと思います。全国の医療機関に配られる予定の漫画は、患者さんが手に取るだけではなくて、まずは医療者一人ひとりに読んでもらいたいという思いがあります。漫画はあくまでもきっかけとして、自分たちに何ができるのか、足の血管の詰まりを放置したらどうなるのか、ぜひ興味を持って学んでいただきたいですね。われわれがこのような形で地域の先生方にメッセージを発すると同時に、循環器や血管系の専門医の皆さんにも、TECCの活動を通して、PADに対して真剣に取り組んでいただくように訴えていく必要があると考えています。また、紹介が来たら常にオープンに受けて、使命感をもって取り組むべき疾患であることも啓発していきたいです。医療者側へ、そして患者さんへ、双方向での活動が実って初めて、世の中に大きいムーブメントを生み出すことができると思います。現在、この漫画を全国の医療機関に紙媒体で配りたいと考え、クラウドファンディングを実施中です。医療者や患者さんにぜひ直接読んでいただきたいと考えています。現実的には、PADの罹患リスクが高い人は主に高齢者なので、患者さんに同行するご家族などに漫画を読んでもらうことになるかもしれないですね。子供や孫に読んでもらえれば、「うちのお父さん(おじいちゃん)、もしかして…?」と、循環器科の受診につながるかもしれません。また、PADの患者さんは、どちらかというと自分の健康に興味がない、もしくは糖尿病などで視力が悪く、自分の体の状況がよく見えない人などが多いので、なかなか危機感を持ってもらえず、情報が届きにくい層なんですよね。漫画が全国にじわじわと浸透した結果、「『はたらく細胞』を読んだ」と循環器科外来を受診する患者さんが増えるかもしれないし、かかりつけのクリニックに漫画が置いてあって、患者さんから「私の足は大丈夫なの?」と医師に尋ねてくれるかもしれない。あるいは、看護師さんが読んで、「自分たちでもチェックしよう」などと働きかけてくれるかもしれない…。もしかしたら、自分たちの想像とはまったく違う形で、全国の皆さまに影響をもたらしてくれるかもしれない。医療系の学会や研究会が、これまで行ったことがないようなチャレンジなので、結果は未知数ですが、それが楽しみでもあります。私としては、この漫画を通じて1人でも足を失う患者さんが減ったら良いなと思います。――最後に、今後の展望と活動にかける先生方の思いを聞かせてください。今回、一般向けの情報発信を試みる中で最も難しいと感じたのが、循環器内科を受診すればどこでも足の血管を診てくれるわけではないという点です。循環器内科医にもそれぞれで専門領域があります。PADの診察や足の血管治療が得意な人もいれば、あまり詳しくない人もいます。だからこそ、TECCとしてまずは専門医向けに情報発信を始めたという経緯があります。なので、引き続きTECCの活動も頑張りつつ、かかりつけ医にも広く伝えていくことが大事だと考えています。この漫画をきっかけに、今まではあまりPADに注目していなかった循環器や血管系の先生方にも、「漫画とコラボした病気だ」と興味を持ってもらえるのではないかと期待しています。将来的に、若手の医師が「自分もPADの診療やEVTをやってみようかな」と考えてくれるようになったらとてもうれしいです。循環器のメインストリームは心臓ですので、われわれのようにPADに注力している医師は「少し変わっている」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、われわれがアクティブにいろいろな活動に取り組み、とくに社会貢献活動に参入したということは、一般市民へのPADの啓発だけでなく、循環器領域においてPAD診療の価値を高めることにつながると思っています。これから循環器領域の診療を志す若い医師たちに、PADという専門領域がもっともっと、魅力的に映ってほしいですね。そのような意味でも、大きな意義があることだと思います。今回、医療者・一般人問わず、なるべく多くの人に活動を知ってもらいたいと考えて、プロジェクトの準備を進めてきました。地域医療が1つのチームとなれるかというミッションもあると感じています。もし、われわれの活動に興味を持っていただけたら、ぜひTECCのホームページを見に来てください。今後、PADを正しく治療できる医療機関を探せるシステムなども作ろうと取り組んでいるところです。患者さんにとって一番身近なかかりつけ医の皆さんにも役立つ取り組みをこれからも考えていきたいです。ぜひ、クラウドファンディングへのご賛同・ご支援もよろしくお願いいたします。

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「僕がいるべき場所は医療現場より国会だった」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(前編)

 新型コロナウイルス感染症が社会を覆い尽くしたこの2年。世の中の常識や既定路線にも大小の揺らぎが生じ、来し方行く末を考えた人は少なくないだろう。今秋の衆議院選挙で、千葉県の小選挙区において初出馬ながら当選を果たした松本 尚氏(59歳)は、救急医療(外傷外科)専門医であり、国内のフライトドクターの第一人者としてその名前を知る人も多いはずだ。34年の医師のキャリアを置き、新人代議士として再出発を切った松本氏に、キャリア転換に至ったいきさつや、医療界と政界それぞれに対する思いや提言について伺った。*******松本 尚氏「ここにいることはとても不思議。半年前まで僕は1人の医師だったのだから」 ――医師としてコロナ対応にも追われたと思うが、そんな中で代議士へのキャリア転換を果たした。このタイミングは偶然、それとも必然? ……(しばし考え)やはり、コロナ禍がなかったら(衆院選への出馬は)していなかったかもしれない。振り返ってみてそう思う。僕の活動を支援してくれた旧知の医師が、今回の選挙後に言ってくれたことが印象的だった。「20年前、松本先生が日本医科大学北総病院に赴任したこと、その後、北総にドクターヘリが導入されたこと、地域の救急医療に従事してきた活動のすべては、ここが到達点だったのではないか」という内容だった。自分はあくまでその場その場で、与えられた仕事を一生懸命やってきただけなのだけれど、第三者から見た僕の20年間というのは、そのような総括もできるのかと思った。確かに、選挙区の中にもドクターヘリで治療された経験があるという人も結構いて、選挙活動の時に、家族や友人、場合によってはご自身が運ばれたと言う人もいた。直接伝えてくださった方だけでも本当にたくさん。あるいはドクターヘリ普及の過程では、消防の方とも協力してやってきた。そういった方々の応援も心強かった。もちろん、普段から北総病院に通院している人が、そこの医師だからという理由で応援してくれる人も少なくなかった。そうした20年間の積み重ねの上に、今回のコロナ禍があり、その中で心を決めたという側面は確かにあるなと自身でも思えた。したがって、(転身の)タイミングとしては偶然とも言え、必然とも言える。 決断を後押しした1つとして、新型コロナ感染症の対応時、千葉県庁にいたことが大きい。ある意味、それもまた偶然だったかもしれないが、行政側に身を置いてコロナ対策を俯瞰的立場で見た時に、あまりに課題が多いことを痛感したからだ。もっとも、選挙区のポストが空いたことも僕にとっては大きな偶然の1つ。 しかし、考えてみれば今ここにいることはとても不思議だ。半年前まで、僕は1人の医師だったのだから。――さかのぼるが、そもそも政治家を志すことになった具体的な転機は? 7~8年くらい前だろうか。もともと僕は保守的な思想信条を持っていたが、民主党が政権交代した時(2009~2012年)に、政治に対する関心を強く持たざるを得なかった。あの当時、日本全体がそうだったように、僕自身もある種の政治が変わる高揚感、何か大きく世の中が変わるんじゃないかという期待感があった。新政権とうまくつながることで、世の中の変革をより体感できるのではないかという思いで、ツテをたどって当時の文科副大臣に会いに行ったこともあった。しかし、現実は何も変わらなかった。その時点で、改めて自分の主義主張というものを見つめ直した。さらには、国をもっと良くするためにどうすべきなのかを考える時に差し掛かっていることも実感した。そろそろ僕らがそれを考える世代だと。 この時期、僕自身はテレビの医療監修など、臨床以外に活動の幅を広げ始めたころだったように記憶している。代議士になった自分が言うのもなんだが、議員の中には、与野党問わず資質を疑いたくなるような人物も確かにいる。発言内容が稚拙だったり、当選回数が多いというだけで閣僚になったりするような議員も少なくないことがよくわかる。当時の僕は、そういった議員の姿をさまざまなメディアで見るにつけ、自分のほうがよほど真剣に国のことを考え、実行できるのではないかと思った。しかも自分と同じ世代だとしたら、なおさらだ。さらに、医学の領域で地道にやってきたことが評価されるようになってくると、それを政策に生かすとしたらどうすべきかという視点でも考えるようになった。自分が積み上げてきた経験を活かせば、ここ(国政)だったらもっと良い仕事ができるのではと心密かに思うようになった。したがって、二度の政権交代が政治への関心を持つ大きなきっかけの1つだったかもしれない。 そのころ、千葉の自民党県連で公募があった。これだと思い立ち、大学の卒業証明書や戸籍謄本を取り寄せ、準備を進めた。公募に必要な書類の中に、「政治について」というテーマで2,000文字の論文があった。もちろん書き上げていざ挑戦、と思ったのだが……これが1文字も書けなかった。ネットや新聞の文言を継ぎ接ぎすれば、何がしかの文章を作ることはできる。しかしそれは、当然ながら中身のない薄っぺらなものでしかない。だからと言って、自分の言葉はなかなか出て来ない。それが、7~8年前の苦い経験。松本 尚氏「政策立案側と立法側の乖離。そこに、医師であり議員である僕がいれば」 ――歳月を経て、再びの挑戦となった今回は違った。 奇しくも、レポートのテーマは前回と同じだったが、今度はスムーズに書き上げることができた。この数年間、もちろんたくさんの勉強をした。多くの本を読み、歴史を学び、一般メディアにも寄稿した。医学論文にとどまらず、さまざまな文章を意識して執筆するよう心掛けてきた。それらも自身の訓練になっていたのだろう(ホームページ「論説」を参照)。公募論文を書き終えたところで、これは行けるという確信が持てた。それくらい、ある意味で世の中のタイミングと自分の機が熟すタイミングがうまく重なったのだろうと思う。――転身を決める大きな理由となった行政側でのコロナ対応の経験についても伺いたい。 今回、コロナを巡るさまざまな地方行政の問題、あるいは国の政策としてのコロナ対策の問題があることが、千葉県庁で対策に携わった目線から考えるところが多かった。あえて厳しいことを言うが、政府には大局に立った絵も描けていなかったし、そもそも、初っ端からリスクコミュニケーションでつまずいていると感じていた。その場しのぎの対策に追われるものだから、国民は一体誰の言うことを聞いたらいいのかわからないという状況に陥った。もう少しきちんとした危機管理ができていないとダメではないかと、早い段階から旧知の議員にも個人的には伝えていた。一体この国はどうなっているのかと思った時、少なくとも県庁にいてもダメだった。ならば医療現場にいる場合かというと、それも違った。現場は、とにかく懸命にコロナ診療をこなしていくことで精いっぱい。その中に入って一緒にやることもできるが、それが僕の役目なのかというと、そうじゃない。当時、千葉県庁の対策室で災害医療コーディネーターとしての役割を与えられた僕は、全体を見ながらコントロールすることだと自覚していたが、実質は機能不全状態だった。その経験から、もっと上に行くしかないとその時に痛感した。 あれは第1波のころだっただろうか。のちの第5波などに比べたら、“さざ波”程度だったと今なら思えるが、コロナ患者が一気に増えて病床が足りず、第5波の時と同じくらい切実な状況だった。感染者数がピーク時は、患者のトリアージをせざるを得なかった。トリアージの判断基準になるスコアを決め、その点数に沿って厳密に対応していた。保健所からは、「状況は理解できるが、それでも何とか(入院できるように)してほしい」という訴えがあったが、「こちらもルールに則ってやっている」と断るしかない。はじめは県庁職員が対応をしていたが、医療者でもないのに矢面に立たせているのは申し訳ないと思い、「対策室でやっていることの最終的なすべての責任は僕が取るので、断る際も怖がらずに対応に当たってほしい」と伝えた。 当時は状況が状況だけに気も張っていて、その対応が精いっぱいだったので腹を括ってやっていた。しかし、後になって冷静になって考えると、本当はそうじゃなかったのではないかと思うようになった。災害時のトリアージそれ自体は間違っていない。そう理屈ではわかっているものの、本当は医療を受けたい人が受けられないというのは、やはり間違っているという思いが強くなった。誰もが初めて直面した新型コロナウイルス感染症だったが、緊急事態宣言の出し方ひとつとっても、もっと違うやり方があったのではないか、もっと上手にルールが作れなかったのかという思いに至った。ならば何をすべきか。それは、次のパンデミックに備えたルールづくりだろう。 コロナ対応で頑張っていたのは当然、医療者も同様だ。県庁でコロナ対策の専門部会メンバーとの会議で、医療者側からの意見はとても重要で、コーディネーター役の僕としても首肯する場面が多かったが、それを政策まで落とし込む術がない。なぜなら、その落とし込みをする側に医師がいないから。医師と政策側には、どうしても埋めがたい乖離がある。「現場はこうだ」と言っても「ルールはこうですから」の平行線。やはり、そこをうまく橋渡しする役目の人が不可欠だと痛感した。千葉県庁では、医師である僕にその役目を任せてほしかったが、残念ながらそうはならなかった。そして恐らく、国でも同じ問題に直面しているのではないかというのは、容易に想像できた。 政策立案側と立法側の間の乖離。そこに、医師であり議員である僕がいれば、両者の事情を理解しながら仕事ができるのではないかと考えた。ここがもしかしたら、僕が方向転換を決めた大きなきっかけだったではないかと、今振り返ってみてそう思う。<後編に続く>

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新型コロナを5類相当にすべき?すべきでない?医師が考えるその理由

 日本国内での新型コロナの感染状況は小康状態が続く中、ワクチン接種は進み、経口薬の承認も期待される。一方で、オミクロン株についてはいまだ不明な点が多く、国内での感染者数も少しずつ増加している。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を5類相当に格下げすべき」。これまで何度か話題に上ったこの意見について、医師たちはどのように考えているのか? CareNet.comの会員医師1,000人を対象にアンケートを行った(2021年12月3日実施)。新型コロナウイルス感染症は5類でも2類でもない特例的な枠組み 新型コロナウイルス感染症は現在、感染症法上「新型インフルエンザ等感染症」という特例的な枠組みに位置付けられ1)、入院勧告や外出自粛要請などが可能で、医療費が公費負担となる1~2類感染症に近い対応がとられている2)。その法的位置付けについて、今年初めまでは「指定感染症」に位置付けられていたこと、一部報道などでは“2類相当”との言葉が先行するケースもみられたことなどから、混乱が生じている側面がある。 「COVID-19の現行の感染症法上の位置付けについて、どの程度認識しているか」という問いに対しては、最も多い63%の医師が「何となく理解している」と回答し、「よく理解している」との回答は28%に留まった。新型コロナの位置付け変更「今すぐではないが今後状況をみて」が45% COVID-19を5類感染症相当の位置付けに変更すべきか? という問いに対しては、「今後状況の変化に応じて5類相当の位置付けに変更すべき」と回答した医師が45%と最も多く、「1~5類の分類に当てはめず、特例的な位置付けの中で状況に応じて変更すべき(25%)」、「現状の位置付けのまま、変更すべきではない(16%)」と続き、「今すぐに5類相当の位置付けに変更すべき」と答えた医師は13%だった。 COVID-19患者あるいは発熱患者の診療有無別にみると、「いずれも診療していない」と回答した医師で、新型コロナウイルス感染症を「今すぐに5類相当の位置付けに変更すべき」との回答が若干少なく、「現状の位置付けのまま、変更すべきではない」との回答が若干多かったが、全体的な回答の傾向に大きな違いはみられなかった。 また、どのような状況になれば新型コロナウイルス感染症を5類相当に変更すべきかという問いに対しては、「経口薬が承認されたら」という回答が最も多く、「第6波がきても重症者が増加せず、医療ひっ迫が起こらなかったら」という回答が続いた。新型コロナの5類相当への変更は行政の関与がほとんどなくなることを意味 新型コロナウイルス感染症を「今すぐに5類相当に」と回答した理由としては、「保健所を通さず診療所で診察できるようにして重症者を手厚く治療できるようにした方がいい」等、病院や医師判断での入院・治療ができるようにした方がよいのではないかという意見が目立った。 「今後状況の変化に応じて5類相当に」と回答した理由としては、「変異株が新たに報告されるたびに警戒を強めなければならない状況では、今5類にするのは危険。疫学的に理解が広まり、治療法(経口薬)が確立されれば検討の余地あり」等、経口薬の広まりや変異株の出現状況等に応じていつかは変更すべきとする意見が多かった。 「1~5類の分類に当てはめず、特例的な位置付けの中で状況に応じて変更すべき」と回答した理由としては、「5類への引き下げは行政の関与がほとんどなくなることを意味するため、その選択肢はありえない」といった意見や、フレキシブルに対応するため既存の枠組みに当てはめないほうがよいのではないかといった意見がみられた。 「現状の位置付けのまま、変更すべきではない」と回答した理由としては、「公費で診療にしないと診察にこない患者がいる」「自費となると治療薬が高額で治療を受けられなくなる人がでてくる」等、自費負担となることの弊害を挙げる意見や、万が一の場合に行動制限等の強い措置がとれるようにしておく必要を指摘する意見があがった。 アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。新型コロナウイルス感染症、感染症法上の現在の扱いは妥当?…会員1,000人アンケート

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臨床留学を志すなら知ってほしい、日・米「レジデント」の違いとは【臨床留学通信 from NY】第29回

第29回:臨床留学を志すなら知ってほしい、日・米「レジデント」の違いとは内科レジデントの総まとめになります。最初の1年はインターンと呼ばれ、次から次へと雑用の嵐でした。日本に比べて圧倒的な人数のレジデントと、ドクターで物事が動いているのは、大都市ニューヨーク特有かもしれません(ほかの都市をよく知らないので断定はできませんが)。そして、何といっても物事がアナログ!総合内科からの他科へのコンサルテーションの際、当初ポケベルだったのには面食らいました。そのためレスポンスも悪く、物事が進みにくい側面もありました。コンサルテーション1つをとっても時間が掛かり、医療リテラシーのばらつきからか、患者さんが薬を持たずにいざ緊急入院となると、普段のんでいる自分の薬がわからないというケースも往々にしてあり、確認のためにインターンが薬局へ電話、ということも多々ありました。本当に効率が悪く、人的資源の無駄かと事あるごとに思いましたし、やり取りは電話のみで、英語もなかなかきつく、不確実な仕組みだと思いました。退院時の手配や、保険によってカバーされる退院時処方がアピキサバンなのか、リバーロキサバンなのかを確認するという雑用もありました。また、リハビリ病院への転院が必要であっても、保険のレベルによって転院先の見つかりやすさも大きく異なります。雑用が多いのは、アナログ的な医療システム、複雑な社会背景や保険医療によるものと思われます。ただ、私も卒後10年を超えており、そういった雑用をかつて大学病院で経験していたため、まぁそんなものか、と思えたのはよかった(!?)のかもしれませんが、市中病院しか経験がない人にはきついかもしれません。日中の病棟業務の人は日中のみ、というのはある意味日本より良いのかもしれませんが、逆に豊富なレジデントを多数動員して夜勤は夜勤のみで行うナイトフロートという仕組みを採用しています。これにもずいぶん戸惑いました。14日中12日間は、夜8時から朝8時まで働くというシフトで、20代の同僚と共に働くアラフォーには堪えました。またICU/CCUは日中・夜勤がコロコロ変わるため、体内リズム的にきついシフトとなり、日本的な日中、夜勤、日中という連続30~36時間という勤務こそはなかったものの、私には体力的に大変なローテーションでした。そんなこんなで、米国の医療は豊富な人的資源で回っており、レジデントになると1年のうち3ヵ月ほどのエレクティブと呼ばれる選択科目があり、その際は日中の9時~5時、もしくはそれ以下のような勤務時間で好きなことを学べますし、臨床研究も選択できました。私自身、マウントサイナイのDr. Roxana Merhanの研究室に入れたのはエキサイティングで、かなり大きな経験でした。豊富な人的資源からそういった時間がとれること、またコロナ前ですが、ACC/AHAなどの学会もいくつも行くことができ (うまくそのために休めました) 、旅費まで支給してもらえるのはありがたかったです。1年に2週間×2回の休暇があるのも、日本にいた時には考えられない大きな魅力です。勤務上はきついところもありますが(私の場合、その大きな原因は英語でしたが)、Teaching roundを含め、指導医がレジデントとラウンドする際に必ずディスカッションがあり、日本の市中病院などと比べると、はるかに教育仕組みがしっかりしていますし、毎日Noon Conferenceと呼ばれるレクチャーがたくさんあるのも米国のメリットでしょう。医学部卒後のレジデントでも、しっかり3年間やれば成長できる仕組みが担保されているのは米国特有と思います(逆に指導医はレジデントから評価されているのもあります)。また、8週間中2週間は必ず外来のローテーションがあるのも日本の研修医にはない仕組みで、外来のやり方を系統立てて教わるというのも新鮮な経験ではありました。Column画像を拡大する日本のような「薬手帳」があればいいと思い、米国内科系雑誌のJ Gen Intern MedのEditorにコメントをしました1)。薬手帳についてどう説明したらよいのか、そこを伝えることが難しかったです。電子カルテ上に薬局の情報が飛ぶことはあるのですが、やはりどれを本当に飲んでいるのか、というのは確認が難しいです。米国での普及はなかなか難しいでしょうが、医療従事者への確認のみならず、薬手帳は本人が自分への健康に関心を持つには必要なものであり、改めて良いシステムであることが再認識できました。1)https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-020-06372-2

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第88回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(前編)

コロナ禍、受診者が激減したがん検診こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週は約2年ぶりに人間ドックを受診しました。諸般の事情から、近所の民間病院のドックを受けたのですが、なかなか興味深い体験をしました。そこのドックを選んだ理由の一つは、胃の検査がX線ではなく内視鏡検査であること(未だにバリウムを飲むX線検査だけの医療機関が多い)でした。ただ、実際に行ってみると、人間ドック専用のスペースや検査機器があるわけではなく、受診者は通常の診療を受ける患者の間に入って、さまざまな検査を進めていくシステム(眼底検査は眼科外来に、というように)でした。ドック専門の医療機関ではない病院が、自費の人間ドック受診者を受け入れる際に用いられる手法です。しかし、このコロナ禍の中、健常な一般人(=私)を、患者が診療を待つ各診療科を回らせるのはリスクが高過ぎるのではないでしょうか(そもそも、その病院はまだ面会禁止中でした)。所見があると内視鏡検査に進んで二度手間になるX線検査ではなく内視鏡検査を受けられたのはよかったのですが、コロナ感染の不安を感じた1日でした。ということで、今回はコロナ禍の中、受診者が激減し、大きな問題になっているがん検診について書いてみたいと思います。折も折、週刊文春の12月16日号では、「15種類のがんを判定できる」と鳴り物入りで全国展開中のHIROTSバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道され、話題となっています。がん検診や、がんの簡易検査でいったい何が起きてきるのでしょう。がん診断件数、胃がん13.4%減、大腸がん10.2%減1ヵ月ほど前の11月4日、日本対がん協会は、2020年に新たに診断されたがんの件数が前年に比べて約1割減った、とする調査結果を発表しました。調査は、同協会とがん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)が共同で、全がん協会加盟施設、がん診療連携拠点病院、がん診療病院、大学病院など486施設に対し、今年7月〜8月に行ったものです。回答を得た105施設では、2020年のがん診断件数は8万660件で、2019年の8万8,814件より8,154件(9.2%)少なく、治療数(外科的・鏡視下的)も減ったことがわかりました。最も減少幅が大きかったのは胃がんで13.4%減。続いて大腸がん10.2%減、乳がん8.2%減、肺がん6.4%減、子宮頸がん4.8%減という結果でした。日本対がん協会はこの結果について、「がん診断の減少は早期が顕著なため、進行期の発見の増加が心配されます。さらに治療や予後の悪化、将来的にはがん死亡率の増加するおそれもあります」とコメントしました。調査結果を報道した11月4日付の朝日新聞は、全国から患者が集まる公益財団法人がん研究会有明病院(東京都江東区)の結果も伝えています。それによれば、「紹介されて来る患者が減り、去年の手術数は前年から15%減った。胃がん全体の手術数は32%減だった。進行度を表すステージ別でみると、ほかのステージでは大きな差がないのに、最も早期の『ステージIA』では50%も減っていた」とのことです。院内がん登録全国集計では全登録数が6万409件減少さらに11月25日には、国立がん研究センターが2020年の院内がん登録全国集計報告書を公表しました。この報告書でも日本対がん協会の調査と同様の傾向が見て取れます。同報告書によると、2019年と比較して、院内がん登録病院の約7割に当たる594施設で全登録数が6万409件(施設平均4.6%)減少した、とのことです。全国集計では、20年の1年間にがんの診断や治療を受けた患者の院内情報について、院内がん登録を実施した863施設から集めた104万379例のデータを分析。がん診療連携拠点病院等450施設での5大がんの全登録数の推移を見ると、肝臓がんは男女ともにほぼ横ばいでしたが、男性では胃・大腸がん、女性では乳房・胃がんの減少が大きかった、とのことです。とくに胃がんでは、前年の登録数に比べて男性で11.3%、女性で12.5%も減少していました。また、2016~2020年の院内がん登録全国集計のすべてに参加した735施設を対象に、診断月、発見経緯、病期等の要因別の登録数について、2016~2019年の4年平均と2020年を比較したところ、2020年の全登録数は4年平均と比べて98.6%減少。診断月別では、緊急事態宣言が出ていた5月に登録数の減少が見られ、がん検診発見例、検診以外の発見例ともに減少を認めたそうです。11月25日に開いた記者会見で同センターの担当者は、「自覚症状など検診以外の発見例でも登録数が減少している。新型コロナウイルスの感染拡大により、一定の受診控えが生じていた可能性がある」と説明したとのことです。がん検診受診者数の減少と医療機関の受診・通院控えが影響こうした診断件数の減少の原因の一つが、がん検診受診者数の減少であることは間違いありません。2020年4~5月の緊急事態宣言の際には、自治体などで実施されるがん検診が相次いで中止されました。日本対がん協会の調査では、20年のがん検診の受診者数は前年に比べて約3割減だったそうです。この他、医療機関への受診・通院控えの影響も指摘されています。コロナ禍、医療機関を受診すること自体が感染リスクを高めるため、少々体の具合が悪くても受診を先延ばしにしてしまう人が増えたわけです。この受診控えは、生活習慣病など、慢性疾患の患者にも起きたため、他の病気での通院をきっかけにがんが見つかるケースも減ったとみられています。そもそも低いがん検診の受診率にコロナが追い打ちそもそも日本は、欧米の先進諸国に比べ、がん検診の受診率が極めて低い状況にあります。コロナ禍前の2019年の受診率は、男性の肺がん検診受診率53.4%を最高に、その他の胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんは3〜4割台です。この数字は、OECD加盟諸国と比べて極めて低水準で、例えば乳がん検診、子宮頸がん検診の受診率は、米国では80%以上、英国では70%以上です。そんな状況で新型コロナウイルスの感染拡大が起こったわけで、数年後に進行がんの患者が医療機関に殺到する可能性も考えられます。今後、がん検診の受診率をどう上げていくかは、日本のがん医療にとって喫緊の課題と言えそうです。がん検診避け自費の線虫検査に走る人の意識とは日本のがんの早期発見がそのような深刻な状況に置かれた中、週刊文春の12月16日号では、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道し、医療界に衝撃を与えています。そもそも、死亡率減少のエビデンスが確立している5大がんの検診の受診は控えながら、エビデンス不透明かつ15のがんも発見できると喧伝する保険外の検査に走る人々の意識も謎です。苦しい検査よりラクで手軽な検査に手が伸びてしまうのは、「がんは切らずに治せる」という言葉にすがる人々との意識と、ある意味共通しているのかもしれません。では、線虫がヒトの尿を“嗅ぎ分けて”がんを判定するという「N-NOSE」のいったい何が問題視されているのでしょうか?(この項続く)。

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英語で「また連絡します」は?【1分★医療英語】第6回

第6回 英語で「また連絡します」は?Thank you for seeing our patient.(私たちの患者を診てくれてありがとうございます)Anytime. I’ll touch base with you later.(もちろんです。あとでまた連絡しますね)《例文1》I believe ischemia is unlikely, but I will dig into this case and touch base with you later.(虚血の可能性は低いと思いますが、もう少し症例の詳細を見てからまた連絡します)《例文2》Let’s touch base on our project today.(私たちのプロジェクトについて今日話し合いましょう)《解説》“I’ll touch base with you later.”英語圏で働いたことのない方には、あまりなじみのない表現かもしれません。意味は“I’ll contact you.”と同じで、「また連絡するよ」といった意味です。しかし、“contact”では味気がないので、ちょっとスパイスの効いたこの表現が頻繁に用いられるのでしょう。“base”は野球の「ベース」がその由来となっているようです。野球の世界でベースに触れていればセーフ(=安心)、という意味から派生して、さまざまな意味で「アウト」にならないように「連絡を取り合う」という意味の慣用句となったようです。この“touch base”を用いる場合、単なる「連絡する」ではなく、「何か共通の課題やプロジェクトがある際に連絡を取る」というニュアンスで用いられます。米国の病院で研修医として働いていると、たとえば指導医から「あの症例についてあとでまた話そう、いろいろ調べてまた伝えるよ」といった状況で、よくこの“I’ll touch base with you.”と声を掛けられます。臨床現場に限らず、とても使いやすい表現なので、ぜひ身に付けてください。英語表現で1つ先の“塁”を狙えるかもしれません。講師紹介

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第87回 生物兵器の道理で考えるとぞっとする!?オミクロン株軽症者を軽視するリスク

先週触れた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株の感染者は、NHKのまとめたデータによると、8日18:30時点で世界53ヵ国・地域で検出され、日本国内でもすでに4例目が確認されている。先週の段階では南アフリカ(以下、南ア)で感染の主流がデルタ株からオミクロン株に移行しつつあったことから、感染力はデルタ株より強いことが示唆されるのではないかと触れたが、その可能性は先週よりも高まっていると言えそうだ。「8割おじさん」こと西浦 博氏(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻教授)が12月8日に開催された厚生労働省の第62回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードに提出した資料によれば、南アのハウテン州での報告をベースにしたオミクロン株の実効再生産数はデルタ株の4.2倍だという。もっともこれはウイルスの素の感染力である基本再生産数ではなく、報告バイアスの可能性はすべて拭い切れていないことや、ワクチン接種歴や年齢などを加味できていないデータであること、南アのワクチン接種率は30%未満でワクチンより抗体価が低い自然感染での免疫獲得者が多い状態だったことなどが研究の限界として存在したことを西浦氏自身が指摘している。とはいえ、これまでデルタ株主流だった世界各国でオミクロン株の市中感染報告が増加している現状を考えれば、やはりデルタ株を超える感染力の強さという可能性はかなり濃厚と言える。その一方で、あくまで現時点の感染者の多くが無症候、軽症で、野生株や既存の変異株と比べて重症化リスクが上昇している可能性が見えていないことはやや好材料である。もっともこれも現時点での推測に過ぎない。ただ、そのためか「全世界からの外国人入国をストップさせている『鎖国政策』はやり過ぎではないか?」との意見がちらほら出ている。しかし、現時点では私はやむを得ないと思っている。この件は前回も簡単には触れたが、そもそも感染者が無症候、軽症だから気にしなくていいというのはやや極論に過ぎる。重症化リスクが高まっていないとしても、従来株ですら20%は重症化するのだから、感染力が強い可能性があるオミクロン株が流入すれば、日本国内でも大量の市中感染を産み出し、その結果、一定数の重症者が発生してしまう。しかも、現在の日本国内は、高齢者や基礎疾患保有者という重症化リスクの高い人の抗体価が低下し、3回目接種のスタンバイ状態となっている時期である。つまり、今が最もブレークスルー感染リスクが高まっている時期とも言える。加えて新型コロナをインフルエンザと同等に扱えるだけの対処手段はまだ乏しく、それは今申請中の新型コロナの経口治療薬であるモルヌピラビルが承認を受けても劇的に変化するとは断言し切れない。結果としてオミクロン株の流入とそれに伴う感染者の増加は、まだ仮縫いの新型コロナ医療体制を再び逼迫させる恐れがある。百歩譲ってオミクロン株感染者がほとんど重症化しないとしても、流入して感染が広がれば問題は多くなると感じている。そう思うのは、私が過去に共著ながら生物兵器テロに関する新書を執筆した際にお会いした、ある生物兵器の専門家が言っていた一言をふと思い出したからでもある。私はこの専門家にお会いした時、次のような質問を投げかけた。「ベネズエラウマ脳炎ウイルスなんて生物兵器として使えるんですか?」ベネズエラウマ脳炎ウイルスは、トガウイルス科アルファウイルス属に属するウイルスで人獣共通感染症を引き起こす。感染力が強く、10~100個のウイルスでも感染が成立し、ヒトでは2~5日間の潜伏期間を経て発熱・頭痛・筋肉痛などのインフルエンザ様症状が起こる。感染者の約1~3%が脳炎を発症し、そうした人の10~20%が死亡する。生物兵器の候補としてよく書籍や文献に登場するのだが、最終的な感染者の致死率は計算上0.1~0.6%と必ずしも高くない。私としては「その程度の致死率の低いウイルスが生物兵器として効果があるのか?」 という意味で、この専門家に質問したのだった。それに対するこの方の答えは次のようなものだった。「そりゃ致死率が高いもののほうが生物兵器としての効果が高いようにも思えますよね? でも必ずしもそうとは言えない。おおむね致死率が高い病原体は、感染力は低い。また、そうした病原体を生物兵器にすると、開発・使用する側もその過程で感染リスクを負う。これに対し、ベネズエラウマ脳炎ウイルスは開発・使用する側のリスクは低い。敵国に使う際の効果は、確かに殺傷能力という意味では低いが、感染力が強いため、一旦放出されれば次から次に敵側の戦闘員が感染してダラダラと発熱の症状が続いて戦闘能力が大幅に奪われる。感染が民間人に及べば、軍事力を底から支える敵国の経済が低迷し、敵国の継戦能力は軍事力と経済力の双方から削がれる。こう考えると実は最も生物兵器としては利用価値があるとも言える」さすがにこの回答には「なるほど」と唸ってしまった。ここで話をオミクロン株に戻そう。まさに感染力が強く重症化しにくい可能性があるオミクロン株は、ベネズエラウマ脳炎ウイルスと通じるものがある。そしてこのコロナ禍を契機に日本社会全体にようやく「風邪も含め、感染症が疑われる時は無理せず休もう」というごく当たり前の概念が定着しつつある。「風邪でも休めないあなたに…」といったCMコピーはもはや非常識と言い切ってもいい社会環境だ。とすると、オミクロン株による感染者がほぼ軽症か無症候だったとしても、感染者が激増すれば社会全体が経済活動の大幅な縮小を強いられることになる。そうなればようやく感染状況が落ち着いて再開されつつある経済への打撃はいかばかりだろうか? 「感染しても軽症だから」という思考は、社会全体が長らく続くコロナ禍で疲弊しすぎた故の副作用なのかもしれないが、SNSを中心にこの手の発言が比較的著名な言論人から出てくることには危惧の念しかないのである。

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記憶に残る医療略語―多尿に関連したPOD【知って得する!?医療略語】第1回

第1回 記憶に残る医療略語―多尿に関連したPOD「POD」は医学界では“Post-Operative Day”(術後○○日目)を意味することが多いですが、PODが別の意味を持つことはありますか?コム太君、そうなんです。1つの略語でも複数の意味を持つことがありますね。カルテで見かける「POD」は圧倒的に“術後〇〇日目”を意味する「POD」が多いですね。でも、あまり知られていないけれど、“Post obstructive diuresis”(尿閉解除後利尿)という“疾患・病態”を意味する「POD」もあるんですよ。カルテでみかけたら、意味を間違えないようにしましょうね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】POD【日本語】尿閉解除後利尿【英字】Post obstructive diuresis【分野】腎・泌尿器【診療科】救急/集中治療・泌尿器・腎臓【関連】尿路閉塞・利尿過多・電解質異常【略語】POD【日本語】術後○○日目【英字】Post-Operative Day【分類】カルテ表現【分野】―【診療科】外科一般【関連】術後日数実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。本シリーズでは皆様のお役に立つかもしれない医療略語をご紹介していきます。今回は「POD」です。外科系の先生は、この「POD」から“Post-Operative Day”(術後◯日目)を連想されるのではないでしょうか。しかし、「POD」が「尿閉解除後利尿」を表していることがあります。そこで今回は尿閉解除後利尿に関する話題を取り上げたいと思います。PODは1951年にWilsonらにより尿閉解除後のナトリウムと水の過剰排泄により生命の危機を来たした3例として報告されたのが最初とされます。国内の論文報告を調べると、「POD」は「尿管閉塞解除後利尿」「閉塞後利尿」「尿閉解除後利尿」「尿閉解放後」と訳されており、統一した和訳はありませんが、いずれも尿路閉塞解除後に生じる利尿過多の病態を指しています。本邦でも、1984年には既にPODと略されています。1987年に比嘉氏らが尿管閉塞61例における尿閉解除後の尿量を報告1)しており、55例中16例では24時間蓄尿で5L以上の尿量が記録されています。日常診療で尿閉患者さんは時々遭遇し、バルーンカテーテルで尿閉を解除する機会は多いと思います。一方、日々の臨床でたまに、原因不明の多尿患者さんに遭遇することがあります。PODの概念を知っておくことは、多尿患者さんの鑑別に役立つかもしれません。PODのメカニズムと管理については、以下に詳述されていますのでぜひご参照ください。A guide for the assessment and management of post-obstructive diuresisurology news MARCH/APRIIL 2015 VOlL19 No31)Higa I, et al. Kinyokika Kiyo. 1987;33:1005-1010.

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「今後のコロナ医療に必要なことは?」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(後編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。 前編「五輪の裏で医療現場は疲弊し、ギリギリまで追い詰められていた」はこちら。*******――当面続くと見られるコロナ診療。これまでの経緯を踏まえると、重症者に特化した病院とプライマリとの分担および連携が肝要では? そこが最も重要なポイントだと思う。結局、物事を回転させていくには、ヒト・モノ・カネのバランスが必要で、それらがすべて噛み合うことで回転し、物事が前に進んでいく。しかし、報道や国や政治が声高に強調するのは、モノとカネの支援。だから、「ベッドの占有率が〇%だ」とか、「日本は病床数が世界最大規模なのに、現場がなぜ回らないのか」というズレた議論、医療者はけしからんという論調になる。今、圧倒的に足りないのはモノでもカネでもなく、「ヒト」なのだということをきちんと理解してほしい。例えるなら、航空機のボーイングが何台もあって、飛ばせと言っても、小型機のパイロットしかいなければ飛ばせないのと同じ理屈だ。われわれ医療者に引き寄せて考えてみてほしい。医師免許を持っている人が全員、人工呼吸器を使えて、特殊な感染症が診られるのか。つまり、「ヒト」の考え方がまったく欠落している。今回、コロナで盛んにECMOが取り上げられたが、所有していたところで、それを扱える医療従事者がほとんどいないという現実がまったく知られていない。見当外れの世論を助長させた一端には、モノ・カネ偏重の政策とメディアの報じ方があったのではないかと考える。 コロナ医療を「ヒト」の視点で考える際、軽症と重症に分ける必要がある。軽症は、感染対策が可能な病院や医師ならば誰でも診られると言っていい。問題は、風評被害への懸念、未知の感染症への恐れなど、どちらかというと精神的側面が大きい。そもそも現時点で重症リスクがない患者には有効な薬剤がないので、軽症であれば、周りにうつらないように自然軽快を観察していくことになる。一方、重症者治療となると対応が大きく変わる。厳重な感染対策のもとで細やかな循環呼吸管理をしていかなければいけない。しばしば人工呼吸器やECMOの操作も必要となり、これは集中治療の領域だ。 日本の医療界は、歴史的に集中治療医と感染症医のような臓器横断的に診る医師が圧倒的に少ない。病床数が多かろうと、医師免許を持った人がそれなりにいたとしても、病床の大部分が療養型だったり、精神科病床だったりする。そのような中、カネを出してハード面を整えたとしても、十分に扱える人員がいないのが現状。重症者を診る医師が絶対的に足りないのは、そうした背景がある。 今後、第6波以降に重症者が増えたとしたら、再び医療逼迫が起きるのは必至。現在、感染者数は抑制できているが、今後は患者数が増えてきた場合に、重症者をどれだけ抑えられるかにかかっていると思う。軽症~中等症Iであれば、付け焼刃でも医師免許を持っている人たちへの促成教育は有効だと考える。実際、私は埼玉県に提案し、県のトレーナー制度でコロナ治療に協力してくれる医療機関、医師に対する指導をすでに始めている。しかし、重症を診る人材の育成は即席では難しく、短期的な視点では限界があり、重症者を診る人員が足りないという現実はそう簡単に変わらない。 今回のコロナ・パンデミックに関して新たな人材育成の猶予はないので、やはりポイントは「重症者を増やさない」ことに尽きる。国の対策としては、悪いほうにシナリオを考え、本当に機能する重症者病床は、これ以上増やせないことを理解してほしい。増やすことを仮定した対策ではなく、現状のベッド数で医療が回る対策が必要だ。 私の聞くところであるが、重症者を診るのが大学病院や一部の大病院に限られている上に、呼吸器内科、救急科、集中治療、感染症、総合内科のような一部の診療科の医師がほぼ診ている状態。自院に関しては、感染症と救急の医師に、少数の派遣医師で回しているのが実情。もともと人数の少ない診療科の医師だけで回さざるを得ず、皆が疲弊し切っている。 なぜ、救急や集中治療、感染症、総合診療の医師が育ってこなかったか。理由の1つは、専門としていまだに認められていないということ。麻酔科の経緯に照らして考えるとわかるだろう。外科医が1人で手術をする際、現在ならば麻酔科医が麻酔をかける。しかし、術後感染症が起きたとしたら、外科医が診ることになる。術後、抗がん剤治療を開始する場合、米国ではオンコロジストが担当するが、日本では外科医が抗がん剤治療も行う。さらには、緩和治療をも外科医が一手に引き受けなければならないのが実状。こんな多忙な外科医に、感染管理ができるのだからコロナを一緒にやってくれとはとてもじゃないが言えない。それどころか、本来やるべき手術などがいっさい回らなくなるだろう。それでもやるなら、通常医療を捨てざるを得ないという本末転倒に陥ることになる。その先には病院の収益の問題につながる。 将来的な対策として長期的視点で必要なことは、集中治療医、感染症科医を育て、それなりの病院では現在の麻酔科医のように必須にすること。これは外科医の負担軽減だけでなく、患者にとってもメリットが大きい。集中治療しかり、感染管理しかり、麻酔しかり、専門医が担当することは、医療の質の担保にもつながる。もはや、日本の根性論、精神的頑張りに負うような医療体制は通用しない。今回のコロナを巡る医療逼迫の背景にも、こうした日本独特の医療体制に一端がある。つまり、臓器別の縦割り診療科は認められているので志す人は多く、臓器に関係ない感染症科や麻酔科や集中治療といった横割りの診療科には人が来ない。今後のパンデミックに備えるには、こうした診療科の医師が足りていないということをまずは認め、本腰を入れて養成に入るべき。 感染症科医を例にすると、コロナのような何十年に1度という事態に直面した時には必要性が感じられるが、平時には割に合わないのではないか、というのが一般的な考え方で、経営にもそういう考え方の人が多いのは確かだ。しかしそれは間違っている。感染症指定医療機関でなくても、結核、HIVはもちろん、輸入感染症の患者が来る可能性は十分にあるし、多くの結核患者は咳や微熱で一般病院を受診し、診断を受ける。今回のコロナ禍で、「空気感染を予防できる設備がないのでコロナは診られない」という病院がいくつもあったが、それはおかしいとはっきり言いたい。 病院というのは、そもそもコロナにかかわらずインフルエンザでも結核でも水疱瘡でも日常的に診ている。感染症が未知の種類だから診られないというのはおかしい話で、どんな新興感染症が突然現れたとしても、周りの人が守られるような安全対策が取られているのが「病院」であるべき。何十年に1度のパンデミックに備えて設備投資するのは見合わないなどと言うのは本末転倒で、海外往来が当たり前のこの現代、もうすでにどこの病院にもそのような患者は来ていることを自覚し、備えるのが正しい在り方だろう。さらに、急性期病院は、例えば200床につき1人以上の感染症医を置き、診療報酬上でも加算化する。集中治療医に関しても、そういう形で、必要不可欠にしていくことで専門性が認められていくべきだと思う。他科から診察依頼やコンサルテーション があった場合にも、対価として診療報酬が支払われるべきだろう。そうでなければ、こうした専門医が定着するのは難しい。 私の懸念は、今回のコロナ禍の経験で、厚労省がますます病床数を増やそうという方向に加速していくことだ。必要なのは、増やすことではなく有効に回せるベッドをいかに残すか。診る医師も設備もないのに、病床数をやみくもに増やしても、「日本は世界に誇るベッド数を準備しているのになぜ回らない」と批判的な世論を生むだけだ。――メディアでは“幽霊病床問題”として大きくクローズアップされた。 その通り。まるで病院や医療従事者が対応していないかのような論調だが、そもそも人員が足らないのだから患者を受け入れられないのは当たり前。でも一般市民にはそれはわからない。厚労省は、ベッドの多さ、患者の多さを基準に病院を評価しがちだが、たくさん受け入れたことが偉いという評価基準それ自体が間違っている。その先、医療の実態はどうなのかというところまできちんと確認するべきだ。 当院は40床のコロナ病床を準備したが、人員に照らしたキャパシティを考慮すると38床の受け入れが限界だった。なぜなら、受け入れた患者さんはもちろん、働くスタッフの医療安全上の問題なども考えなければいけなかったからだ。例えば、50床あるのに患者2人しか受け入れないというのは明らかに悪質だが、7~8割の病床を埋めて頑張っているところを責めるのはおかしい。 ECMOの稼働率がメディアに取り上げられたこともあったが、それを扱える人的リソースの問題で「使わない」という選択をすること批判が集まった。しかしわれわれは、人工呼吸器よりも圧倒的に人的負担がかかるECMOにリソースを割くことよりも、その分、人工呼吸器の患者をより多く受け入れて、より多くの患者を救命しようという方針だった。 コロナはある意味、災害医療とも言える。そこにはトリアージの考え方があった。ECMOへのこだわりを持っていると、本来は受け入れられる人を受け入れられなくなり、助けられた人を助けられないということが起こり得た。――最後に、コロナ第6波あるいはもっと長い闘いを想定するとき、医療者はどう備えるべき? これからの戦略を立てる以前に、まずはこれまでの総括・検証が必要だ。少なくとも、五輪開催時期を巡っては、少しでも後ろ倒しにしてワクチン接種率を上げてからにすべきという医療者側の切実な訴えは、政府に聞いてもらえなかった。メディアでは、五輪までにコロナが収束するなどという“有識者”の発言もあったが、とんだデタラメだった。したがって、政策の検証だけでなく、どの専門家の発言が信頼に足るのかというメディアの発信の仕方についても検証が必要だろう。 次に、次のピークに向けた戦略として私が言えるのは、重症者病床がこれ以上増えないという仮定のもとで動くべきだということ。大事なのは「増やす」ではなく「増えない」前提のプランを準備し、明確にしておくこと。実際、第6波において重症者が増えるのか否かは不明だ。しかし、デルタ株に対して重症化を防ぐワクチンの効果は確実なので、ワクチン接種は引き続き進めていくべき。そして、抗体カクテルや今後登場するであろう治療薬をワクチン代わりにはしないこと。ただし、プライマリで重症化リスクのある患者に対し、抗体カクテルや治療薬が確実に使える体制を整えることはとても重要。これは、プライマリの先生方に望むことにもつながるが、軽症や中等症の治療を第5波まではわれわれがやってきた。今後は、プライマリの先生方と協力し、役割分担しつつ、重症者病床は現状から増えないという想定で、ワクチンや抗体カクテル、薬で治療を進めていくべきと考える。 もう1つ、医療にひずみが出ている問題がある。コロナ医療を巡っては、医療と報酬が見合っていない。中には、コロナ重症者を診るスタッフの給与よりも、ワクチン接種のアルバイト報酬のほうが高いといったケースも見られた。これは明らかにおかしい。病院に寝泊まりして、重症コロナ患者を懸命に診て疲弊しきっているスタッフの月給が、ワクチン接種に従事する人の日給と同程度なんてあんまりだと思う。 医療には、その負担や技術・能力に見合った適正価格がある。このような状況では、将来的にも感染症や集中治療を目指す医師はいないだろうと危惧する。将来的なことだけではなく、目下の第6波に備えるためのモチベーションにもつながる。医療の水準に対する正当な評価。これをなくしてコロナ医療は前に進まない。

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英語で「検査をしてほしい」は?【1分★医療英語】第5回

第5回 英語で「検査をしてほしい」は?I might have been exposed to COVID.Can I get tested for it?(コロナウイルスに曝露してしまったかもしれません。検査を受けることはできますか?)Okay,do you have any symptoms?(わかりました、何か症状はありますか?)《例文1》He needs to get tested for Hepatitis B before the surgery.(彼は手術前にB型肝炎検査を受ける必要があります)《例文2》You haven’t got tested for STI for the past three years. Would you like?(ここ3年間性病検査を受けていないようですね。検査されますか?)《解説》“get tested for A”で、「Aの検査を受ける」という表現になります。医療現場でも“want to get tested for COVID”という表現で、患者から検査を要求されることが頻繁にあります。この言い回しは使い勝手が良く、たとえば医師が患者に説明する際にも、“You need to get tested for A(Aの検査を受ける必要があります)”などと説明することができます。ちなみに、日本ではメディアが「新型コロナウイルス」という表現を使って報道しているのに対して、医療現場を除いた日常会話では「コロナ」という略称を使うことが多いかと思います。一方、米国のメディアは“COVID-19”や“Coronavirus”という表現で報道することが多いです。そして、日常ではほとんどの人が“COVID(コービッ)”と言います。“Coronavirus”や“Corona”を聞くことはまずありません。「COVID-19の検査を受けたい」という表現では、“I want a COVID test”という非常にシンプルな伝え方もあります。こちらの表現も日常的によく使われます。“I want to get tested for COVID”と同じ意味ですが、ネイティブからすると、“I want a COVID test”のほうがやや楽観的な印象を受けるようです。講師紹介

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第86回 “外交官”のオミクロン株感染から学ぶ、入国禁止以外にできる水際対策とは

一体、私たちはギリシャ文字のアルファベットをいくつ覚えなければならないのだろう。そしてこれまでの各方面の努力が水泡に帰するのだろうか? 南アフリカ(以下、南ア)が起源と考えられている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新たな変異株・オミクロン株の登場に世界が震撼している。ちょうど先週末から今週初めまである地方都市に滞在していたので、夜の飲食店の暖簾をくぐったが、カウンターだけの店内ではオジサンだらけ(もちろん自分も含めてである)。そこでもほかの客が時々「オミクロン」と口にしていて、ややうんざりしてしまった。もっとも私自身は何もオミクロン株を軽視しているわけではない。むしろこれまでよりも厄介なのではないかとすら思っている。すでに広く知られているように、オミクロン株は新型コロナウイルスの野生株と比べ、スパイクタンパク質部分に30ヵ所以上の変異を有し、この数はこれまでの変異株の中で最多。このうち約半分が受容体結合部位(RBD)に関する変異で、常識的に考えれば、この数の多さだけで感染やワクチン接種によりできた抗体の抗原認識能力は低下すると考えられる。しかも細胞へのウイルスの侵入を容易にし、感染性の増強に関わる変異も有するので極めて厄介と言わざるを得ない。起源と言われる南アでは昨年5月下旬から9月初旬にかけての第1波、昨年11月下旬から今年2月上旬にかけての第2波、そして今年5月中旬から9月下旬まで続いた第3波を経験し、11月中旬から第4波とみられる感染流行を見せている。この第4波では各国で猛威を振るい日本の第5波を引き起こしたデルタ株からオミクロン株への置き換わりが進み、感染流行の主流株になりつつあるという。その意味でオミクロン株はデルタ株より感染力は増している可能性があり、実際一部の事例の報告からその可能性がうかがい知れる。たとえば、香港では入国後に検疫用隔離ホテルに滞在していた南ア渡航歴がある人でオミクロン株感染が判明し、同じホテルでこの感染者の真向いの部屋に滞在していたカナダからの帰国者でも感染が発覚。その後の調査から同じフロアの廊下などの環境中からもオミクロン株が検出されている。このような経緯もあり、日本政府は11月27日から水際対策の強化を目的に南アとそれに隣接するナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)、レソトの計6ヵ国からの入国者に国指定の宿泊施設で10 日間の待機を義務付け、翌28日にはこの対象国にザンビア、マラウイ、モザンビークを加えた。もっともアフリカの事情を考えた場合、この対策は不十分だと思い、私個人はそのことをTwitterでツイートもしていた。何かというと、アフリカ大陸は1880年代から第一次世界大戦期までの「アフリカ分割」と称されるヨーロッパ列強による植民地支配により、各国とも人流において、当時の支配者だったいわゆる旧宗主国とのつながりが深い。たとえば当初の水際対策強化の対象だった6ヵ国の場合はそうした事情でイギリスが旧宗主国であり、追加された3ヵ国のうちモザンビークはポルトガル、残り2ヵ国もやはりイギリスがそれである。つまりこれらの対象国からの流入阻止を考えた場合、ヨーロッパからの入国にも一定の制限を設けなければ理屈に合わない。また、前述の9ヵ国から日本への直行便はないため、これらの国からの来日はアフリカ大陸でも世界各地への旅客機の本数が多いエジプト、エチオピア、ケニア、あるいは中東のアラブ首長国連邦やカタール、アジア圏内の韓国、中国、タイ、シンガポール各国を経由する。つまりこのルートも厳重警戒を払わねばならない。結局のところ水際対策を強化するならば、ほぼ全世界からの入国に対して対策強化をしなければならないのだ。その意味で11月30日午前0時から全世界からの外国人の入国を1ヵ月停止し、オミクロン株が確認されている各国からの日本人帰国者を厳重な隔離施設で待機させるとした首相官邸の決定は、かなりの英断だったと個人的には評価している。ただ、最終的に撤回はされたものの、国土交通省を通じて日本に到着する国際線を運航する各航空会社に新規予約を止めるよう要請していた件は、不安に駆られ帰国を急ぎたい日本人をさらに不安に陥れるという意味で愚策だったことは確かだ。また、日本の在留資格を有する外国人が、日本入国直前14日以内に前述の9ヵ国にアンゴラを加えた10ヵ国に滞在歴がある場合、特段の事情がない限り再入国を原則拒否する決定もやり過ぎの感がある。在留資格を持つということは日本に一定の生活基盤があることを意味し、そうした人たちを追い返すのは人道上問題だからだ。さて、それだけの対策を取っていても、日本では11月28日に入国したナミビア滞在歴のある30代男性、29日にペルーから入国した20代男性の合計2人のオミクロン株感染者が確認された。ナミビアからの入国者に関しては外交官で、モデルナ製ワクチンを2回接種済みだったと報じられている。正直、ブレークスルー感染という事実以上に、私は日本で確認された1例目が外交官だったことに衝撃を受けている。表現が適切と言い難いかもしれないが、外交官と言えば、どこの国であっても社会の上流層だ。ナミビアの人口当たりのワクチン接種完了率は、「Our World in Data」によると12月1日時点で11.39%で、この外交官はまさに国民の10人に1人の恩恵にあずかった人である。そのナミビアは国連が算出した所得分布の不平等さ、つまり経済格差を表す「ジニ係数」は世界2位。ワクチンを接種できる外交官が感染する社会・衛生状況ならば、下流層はどうなっているのだろうか? いわんや、ジニ係数で世界1位、アフリカ大陸内での国別人口ランキング5位、人口密度はナミビアの16倍でオミクロン株の起源国と言われる南アの実際の状況はいかばかりかと想像してしまう。さらに12月2日午前段階で日本も含め世界の27ヵ国・地域でオミクロン株の感染者が確認されているが、そのうちの1つ、ベルギーで確認されている事例はアフリカ大陸内で国別人口第2位(約1億39万人)のエジプトへの渡航歴を有する人であり、お隣の韓国で確認された事例はアフリカで最大の人口(約2億96万人)を有するナイジェリアに渡航した韓国人だったと報じられている。これらも渡航目的が業務であれ観光であれ、この時期と社会環境で渡航できる以上、衛生面にも配慮が可能なある程度の裕福な層の人だろう。そうした人たちがこの巨大な人口を有する国で感染してしまうのである。これらを総合すると、アフリカでのオミクロン株の蔓延は数字で判明している以上のものなのではないかと考えられる。もっとも現状でのせめてもの救いは、各国で判明しているオミクロン株の感染者の多くが無症候か軽症であるということ。ただ、いまだに新型コロナに対抗する手段が十分とは言えない状況では、軽症であれ感染者が増加するのは看過できない事態である。水際対策では完全に流入を防ぎきれるものではないことは確かだが、メリハリをつけながらも当面は厳重な体制を敷くほうが合理的ではないだろうか。一方、懸念されるワクチンの効果減弱だが、理論上はワクチンの効果が低下すると予想されているが、そうした中でイスラエルからファイザー製ワクチンのブースター接種完了者で検討したオミクロン株に対する有効率が、感染予防で90%、重症化予防で93%と報道されている。数字だけを見れば安心してしまうが、そもそも国内で4例しかオミクロン株の感染者がいないイスラエルで、南アのデータなども参考にして算出したともいわれているが、根拠が不明確で額面通りに受け取るのは難しい。とくに日本の場合はブースター接種が医療従事者で始まったばかりで、参考にするには状況が違いすぎる。また、ここで浮かび上がってきた課題がある。それはワクチン接種率の低い発展途上国で新たな変異株が登場したという現実だ。今回警戒されているアフリカ南部10ヵ国のワクチン接種完了率は、Our World in Dataによると、最高でレソトの26.51%、最低はマラウイの3.06%である。こうした接種率の低い国が存在すれば、そこで感染が激増し、変異株を生むことになる。そうなればワクチン接種と変異株登場のイタチごっこが続くだけだ。日本や先進国は自国の接種率向上やブースター接種推進を急ぐだけでなく、こうした国々へのワクチン供与などで協調支援に動くべき段階に来ているとも言えるだろう。

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英語で「体調が悪い」は?【1分★医療英語】第4回

第4回 英語で「体調が悪い」は?How are you feeling today?(今日の体調はいかがですか?)I’m feeling under the weather today.(今日は体調が悪いです)《例文1》He seems a bit under the weather today.(彼は今日、少し体調が悪そうだ)《例文2》I’ve been feeling under the weather for a couple of weeks.(ここ数週間、体調が優れないです)《解説》“under the weather”は「体調が優れない」という意味のイディオムです。睡眠不足、二日酔い、おなかを壊している、などちょっとした体調不良のときに使用する表現で、重い病気に対して使うことは少なく、大きな問題にならないほどの具合の悪さを表します。患者から聞くこともありますが、医師同士や友人との会話でもしばしば登場する表現です。由来は諸説ありますが、一説では、「天気の悪い日には船乗りが船酔いするため、悪天候を避けるためにデッキの下に行って休んだことから来ている」といわれています。ほかの表現としては、“sick/ill”などがあります。日本人には聞き慣れない表現としては“I’m in bad shape”という表現も使います。shapeは「形」以外にも「健康状態や調子」を意味し、“in bad shape”は「体調不良」という意味になります。講師紹介

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第85回 今度は野党の代表選、各氏の新型コロナ対策はやはり痛し痒しだった!?

先の衆議院選中に各政党の政策比較をしたが、選挙の結果は周知のように与党である自民党と公明党がやや議席を減らしながらも安定多数を確保し、野党は日本維新の会が躍進するものの、野党第1党である立憲民主党が議席減となり、枝野 幸男代表が辞任を表明。現在同党は代表選挙の真っ最中だ。代表選に出馬したのは4人。以前、自民党総裁選に出馬した4人の政策を俯瞰したが、ここでも一応、「平等性」を鑑み、例のごとく、各人の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関する政策(経済支援は除く)を「独断と偏見」で俯瞰してみようと思う。ちなみに私個人はそもそもこの間に立憲民主党が提案していた新型コロナに関する政策にはやや否定的。最大の理由は、同党が6月に提出した「新型インフルエンザ等治療用特定医薬品の指定及び使用に関する特別措置法案」(通称:日本版EUA整備法案)」に対しての評価が低いからだ。この法案は今回の新型コロナ対応として、一部で有効性があると指摘される適応外医薬品を厚生労働大臣が指定し、その生産・安定供給確保と医師が処方した際に万が一起きた副作用被害について公的救済制度を適用するという内容だ。一見すると非常時に機動的な法案のようにも思えるが、そもそも根幹にある日本国内での医療用医薬品の承認審査制度を揺るがしかねない問題であり、そう単純な話ではない。また、コロナ禍に入ってから、駆虫薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)やインフルエンザ治療薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のように新型コロナに対するエビデンスが薄弱なものを臨床で使用すべきという声が市中の一部で加熱し、臨床現場にも混乱を与えている状況がある。そうした中で、同法案提出の中心的な存在でもある外科医で同党衆議院議員である中島 克仁氏が、強力なイベルメクチン信奉者であることにもかなり疑問を感じている。さて前置きが長くなったが、そうしたことから代表選に出馬している各氏が今後新型コロナに関してどのような政策を訴えているかは、今後の同党の行方を占う上で一定の評価軸になると考えている。もっとも今回の代表選が自民党総裁選と違う点は、各人の代表選用ページがあまりにも貧弱なこと。これは与党議員と野党議員の資金力とマンパワーの違いも影響しているのだろうか? また、立憲民主党自体は各地で積極的に4候補の演説会や会見、討論会を割とシステマティックに実施しているのだが、逆にシステマティック過ぎて各候補者の持ち時間が少なく、十分な話が聞けないという点もある。それを前提に各候補者のホームページと新型コロナ対策がメインテーマの1つだった札幌市での公開討論会から各氏の意気込みを拾い上げてみたい。なお取り上げる順番は五十音順に従う。政策はスローガン止まりか? 泉氏まず、衆議院議員の泉 健太氏(47)。北海道生まれで同党の福山 哲郎幹事長の秘書を経て、2003年衆議院選に旧民主党から出馬し初当選(京都3区)。民主党政権時代は内閣府大臣政務官を務め、希望の党、国民民主党を経て立憲民主党に合流し、現在8期目である。泉氏は自身のホームページでは以下のような新型コロナ対策を掲げている。国の責任で、宿泊療養も含めた医療体制を強化。いつでもどこでも誰でも安く検査を受けられる体制の確立を前提に、ワクチン接種済者・検査陰性者の行動の自由を拡大。3回目ワクチン接種の確実な実施、国産ワクチン・治療薬開発へ強力な支援。ちなみに札幌市での討論会では次のように語っている。「とにかく自宅療養は事実上の医療放棄だと言われてしまった。本当に不安の中でパルスオキシメーターはあるかもしれないけれど、電話をすればいいかもしれないけど、やはり自宅療養というのはあってはならないことだと思っております。その意味でしっかりとサポート体制を作っていく、これをまず訴えています。ワクチン接種済み者、検査陰性者の行動の自由を確保することに当たっては、いつでもどこでも誰でも安く検査を受けられる体制が重要。四国に選挙の応援で行った時、ある女性の方からやはりどうしてもアレルギーで(ワクチンを)打てないと、そういう中で女性から『あなた打ちましたか?』という(周囲からの)問いかけこそが心理的負担になるんだというお話を伺った。そんなことが変に問われる社会をつくるのではなく、皆さんが過ごしやすい社会を作っていくということだと思います」この医療体制の確保は今般与野党問わず政治家がほぼ口にすることだが、残念ながら泉議員の政策や肉声からは、そのためにどのようなことに取り組もうとしているのかはまったく聞こえてこない。もはやこの点はスローガンのみで良いステージは過ぎており、その点では具体策に欠くと言わざるを得ない。一方、ワクチン接種と行動制限緩和に関する件では、確かに医学的に受けられない人はいるため、その点に対する何らかの救済が必要な点と、個人の選択が尊重されるべきことは同意する。念のため言っておくと、私はなるべくワクチンは接種すべきと考えているし、自己選択で接種しない人に対して一定の懸念も有している。しかし、現行の法制度で強制ではない以上、その点は尊重されなければならないというものだ。もっとも現時点の医学的エビデンスを考えれば、個人にとっても社会全体にとってもワクチンの有用性は明らかであり、自己選択によるワクチン非接種者の陰性確認のための検査に公費を投入することには、やや疑問も感じている。ただ、泉議員が「無償」と主張していない点は一定程度評価してもいる。国産ワクチン・治療薬について、私は以前から与野党の議員とも軽々しく口にし過ぎであると感じる。やや乱暴な言い方をすれば、「国内でワクチン開発が可能な3~4社の製薬企業に1社当たりワクチン関連研究開発支援金を年2,000億円、20年間提供し、20年後のパンデミック時にいずれかの企業によって世界3番手のワクチン製造ができたら大成功」と言っていいくらい困難なものと考えている。唯一の医療系出身者、逢坂氏次が衆議院議員の逢坂 誠二氏(62)。今回の候補者では最年長である。北海道大学薬学部を卒業し、地元のニセコ町役場に就職。後に同町の町長選に出馬し、史上最年少の35歳で町長に就任した。2005年に旧民主党から衆議院選に出馬し初当選(比例北海道ブロック)。旧民主党政権では内閣総理大臣補佐官、総務大臣政務官を歴任。希望の党騒動時は無所属となり、その後立憲民主党に合流。現在5期目だ。経歴を見ればわかる通り、逢坂氏は医療畑出身で、これは今回の4候補者でただ1人であるが、自身のホームページには残念ながら今回の代表選用の特設ページや政策集はない。一応、新型コロナ対策について、それ以前に掲げた政策があるので以下に箇条書きするとワクチンの円滑な接種に全力を尽くす。コロナ禍によって明らかになった日本の医療や福祉の弱点を強化するため、医療福祉従事者の処遇の改善、地域ごとに偏った医療や福祉資源の改善に取り組む。ともにスローガンのみで具体策はない。そして札幌での討論会では次のように語っている。「政府の対策の一番の問題は、感染症は科学的な根拠をもって対策をしなければならないのに、科学的な根拠を優先せずに専門家の意見を聞く前に政府のほうで方針を決めたり、政府がいろんなことを押し付けたりしていた。だから科学的な根拠を持ってコロナ対策をしっかりやれるようにしていく。われわれが政権をとっていたら、私は総理ならばその方向でやっていたと思います」さてここで逢坂氏がこれまでの政府の新型コロナ対策が科学的ではないという総論は同意する。私は以前に何度も指摘しているが、とくに第4波の際の政府の緊急事態宣言解除時期の判断は明らかに科学的な根拠を欠き、それが多数の自宅療養者が発生した第5波につながっていると考えている。もっとも逢坂氏がどの点を科学的根拠に欠くと考えているのかは分からない。そこでネットを検索すると、次のような記事がヒットした。「科学的裏付けも国民の信頼もなかった安倍・菅政権のコロナ対策<立憲民主党衆議院議員 逢坂誠二>」(日刊SPA!/月刊日本)ここで言われているのはPCR検査体制の不十分さ、感染経路追跡のためのゲノム解析の拡大、「市中感染を徹底的に封じ込める」「感染経路が追跡可能な範囲まで感染を抑制する」という意味での『ゼロコロナ政策』である。少なくとも昨春のパンデミック発生当初、国内のPCR検査体制が不十分だったことは事実だが、この記事が公開された10月の段階でもなおその体制が不十分だという認識はいささか疑問を感じる。となると、逢坂氏は保険適応のPCR検査の対象をどこまで拡大すべきと考えているのだろうか? この点が不明で何とも判断がつきかねる。一方、逢坂氏は前述の日本版EUA整備法案の提案者の一人になっていることはやや懸念を感じる。念のため検索すると、逢坂氏自身はイベルメクチンやファビピラビルについて賛同の言及をしている痕跡はネットサーフィンをしている範囲では見つからない。特定の薬剤を極度に信奉しているわけではなく、同法案に総論的な賛成の立場なのかもしれない。しかし、概して言っても逢坂氏が主張する「科学的根拠に基づくコロナ対策」に私個人は納得感が得られていない。内容薄め?小川氏3番手は衆議院議員の小川 淳也氏(50)。旧自治省の出身で2005年の衆議院選で初当選(香川1区、比例復活)。旧民主党政権時代は総務大臣政務官を務め、希望の党、無所属を経て立憲民主党に合流している。現在は6期目。小川氏のホームページには代表選の政策としてコロナ対策に言及がある。それは以下のようなものだ。ワクチン接種の推進医療提供体制の充実治療薬や国産ワクチンの開発普及推進経済活動との両立についてはワクチン接種証明等を活用して経済刺激策を検討する一方で、体質や心情等に十分配慮し、無償の検査並びに無償の陰性証明をセットで提供そして札幌での討論会では次のように語っている。「幸かな、今比較的落ち着いた状況にありますが、しかし、第6波がないとはいえません。この完全収束に向けて政治は全力を挙げるべきです。その際ワクチンのさらなる接種と治療薬の承認普及、それともちろん医療提供体制と同時に経済も少しずつ動かしていかねばなりません。政府はGo Toキャンペーンなどと言っていますが、ワクチンの接種完了証明と併せての経済活動、さらにその時にやっぱりワクチン受けたくない、体質の問題と心情的に非常に抵抗感あるという方、結構いらっしゃる。やっぱり無償の検査と無償の陰性証明、これはぜひセットにすべきではないか」上記政策のうち上から3つは、言っては悪いが美辞麗句を並べただけにしか映らない。そしていわゆる「ワクチン・検査パッケージ」では検査無料を訴えている。この点について私の見方は泉氏のところで触れたとおりだ。独断と偏見で恐縮だが、全候補者の中で最も中身が薄い。厚労副大臣の経験がものを言う?西村氏そして最後が女性唯一の候補者である衆議院議員の西村 智奈美氏(54)。大学院で法学修士号を取得し、複数の大学で講師を務める傍ら、国際協力のNPO法人を創設し事務局長を務め、1999年に旧民主党から新潟県議会議員選挙に立候補し当選。2003年に衆議院選初当選(新潟1区)。旧民主党政権では外務大臣政務官、厚生労働副大臣を歴任。希望の党騒動時から立憲民主党に参加した。現在6期目。自身の代表選特設ホームページでは、新型コロナ対策として「新型ウイルス対策の司令塔の強化」を掲げているものの、現在の司令塔のどこに問題があり、本人はどのように強化しようとしているかはまったく言及がない。そのほかには以下のようなことも訴えている。新型ウイルス禍などで医療崩壊の事態を二度と繰り返さない病床数削減などの公立公的病院の縮小・再編を見直す保健所やケアワーカー、介護保育福祉の現場などで働くエッセンシャルワーカーの待遇改善札幌での討論会の発言は以下のようなものだ。「この間自民党政権は小さな政府を追い求め続けてしまったと思います。保健所の体制が大きく弱ってしまいました。感染症は終わったということで、およそ30年前から生活習慣病へと保健所の仕事がシフトしてきてしまった。感染症のお医者さんも足りません、感染症のベッドは今回のウイルスの感染が起きるまでは1,800床ぐらいしか全国にありませんでした。このことを契機にしっかりと見直していく。一には検査そして隔離・治療、こんなウイルスで治療を受けることができずに亡くなる方を今後は一人たりとも生まないように医療の体制もしっかり立て直していきたい」少なくとも厚労副大臣を務めたこともあってか、この発言の前段のように一定の見識は持っているようだ。もっとも保健所機能も含め日本全体の医療体制が生活習慣病へとシフトしたのは、もはや避けられない少子高齢化が進行しているためであり、日本全体の針路を考えると、この方向性そのものは大きく変えられない。そうした中で、感染症専門医も感染症対応病床も掛け声だけで増えるわけもない以上、災害のような感染症対策のために日本の医療にどの程度エクストラな余裕を持たせるかについては、もう少し具体策への言及が必要だろう。政治に期待しても無駄と言われてしまうかもしれないが、今回のコロナ禍ではやはり政治の重要性と日本国内でのその迷走ぶりが際立っただけに、やはり無視はできない。とはいえ、ここまでざっと触れてきた野党第1党の各候補とも「帯に短し襷に長し」というか…。

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