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英語で「体重が増えました」は?【1分★医療英語】第15回

第15回 英語で「体重が増えました」は?How’ve you been since the last time I saw you?(その後いかがですか?)I’ve put on loads of weight in the last few months.(この数ヵ月でだいぶ体重が増えました)《例文1》I gained some weight during lockdown.(ロックダウン中に太りました)《例文2》Changing your eating habits is the best way to lose weight.(食習慣を変えるのが、一番良い体重の減らし方です)《解説》「体重が増えた」という表現は、“put on weight”や“gain weight”、“grow heavier/fatter”などと表現されます。一方で「体重が減った」場合には、“lose weight”や“slim down”、“become thinner”などの表現があります。米国、英国では、体重や身長を“pound”、“feet”、“inch”を使って表現します。1ポンド=約0.45kg、1フィート=30.48cm、1インチ=2.54cmです。また、とくに体重を表すときに、“stone”という単位もよく使われます。“stone”は14ポンド(約6.36kg)のことで、“To lose a stone”で「6.36kg減る」という意味になります。“I’ve put on 2 stones in the last year.”(ここ1年で約13キロ増えました)という感じで使います。講師紹介

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第89回 経口コロナ薬パキロビッドパックが特例承認、その注意点は?

<先週の動き>1.経口コロナ薬パキロビッドパックが特例承認、その注意点は?2.診療報酬改定、湿布制限や紹介状なし受診の徴収額など詳細が明らかに3.4月からのオンライン診療は初診料251点、再診料・外来診療料73点4.視覚障害者の就労保護のため指圧師養成施設の設置制限は合憲/最高裁5.コロナワクチン接種、小児への義務は課さず、妊婦は努力義務へ1.経口コロナ薬パキロビッドパックが特例承認、その注意点は?厚生労働省は10日、米・ファイザーが開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)を特例承認した。日本国内では軽症者向けの経口薬としてモルヌピラビルに次ぐ2剤目となるが、作用機序は異なり、本剤は12歳以上で使用可能。臨床試験において、重症化リスクのある患者に投与した場合、非投与群に比べて入院・死亡リスクが88%減少したと報告されている。発症後5日以内の使用が推奨され、オミクロン株への効果も期待される。パキロビッドパックには5シートのPTP包装が含まれ、1シートに朝・夕服用分としてニルマトレルビル錠150mgが4錠(1回2錠)およびリトナビル錠100mgが2錠(1回1錠)で構成されている。2剤のうち、ニルマトレルビルはSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ阻害薬であり、HIV治療薬としても使用されるリトナビルはSARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を示さないが、ニルマトレルビルのCYP3Aによる代謝を阻害し、血漿中濃度を維持させる。リトナビルは各薬物代謝酵素やトランスポーターの強力な阻害作用を有するため、パキロビッドパックでは降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬など38成分と食品1つ(セイヨウオトギリソウ)が併用禁忌とされる。しかし、注意すべき薬剤はこれにとどまらず、国立国際医療研究センター病院が国内外の資料を基に作成した「パキロビッドパックとの併用に慎重になるべき薬剤リスト」を公開しており、当面の参考になるだろう。なお、今月27日までは全国約2,000医療機関での院内処方を原則として提供され、その間で適正使用の推進に向けた情報収集が行われる見込み。配分を希望する対象の医療機関は、ファイザーが開設する「パキロビッドパック登録センター」に登録し、同センターを通じて配分依頼を行う必要がある。(参考)新型コロナウイルス治療薬の特例承認について(厚労省)厚労省 ファイザーの経口新型コロナ治療薬パキロビッドを特例承認 段階的に医療現場に提供(ミクスonline)ファイザー新型コロナウイルス『治療薬』医療従事者専用サイト パキロビッドパック2.診療報酬改定、湿布制限や紹介状なし受診の徴収額など詳細が明らかに今年度の診療報酬改定について、処方箋を3回まで繰り返し利用できる「リフィル処方箋」の導入が決定した。高血圧や糖尿病などの慢性疾患において、症状が安定した患者が継続服用している場合に対応して、医師の診療なしで薬の受け取りが可能となる。一方で、投与量に限度がある湿布薬や向精神薬などは対象外となる。なお、今回の改定では湿布の処方上限が70枚から63枚に引き下げられた。また、紹介状を持たずに大学病院などを受診した患者に対する特別負担徴収の拡大についても、初診の場合は現在の5,000円から7,000円に、再診の場合は2,500円から3,000円にそれぞれ引き上げる方針となった。実施は10月1日から。対象となる医療機関は、これまでと同様に大学病院などの特定機能病院に加えて、地域医療支援病院のうち200床以上の病院も徴収の対象となる。わが国は国際的に見ても外来受診回数が多いとされるが、高度医療を担う外来にかかりつけ医を持たない患者が受診するのを抑制するとともに、来年度から開始される外来機能報告制度を用いて基幹病院を明確化し、機能分化を促進するのが狙いと考えられる。(参考)リフィルは1回29日以内で処方箋料の減算なし(日経ドラッグインフォメーション)大病院、紹介状なしなら初診7000円 診療報酬改定(日経新聞)外来機能報告制度 高度な外来を担う基幹病院を明確化し機能分化を促進(Beyond Health)3.4月からのオンライン診療は初診料251点、再診料・外来診療料73点9日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会で2022年度診療報酬改定の答申が行われ、焦点の1つだったオンライン診療の初診料は251点と、特例的対応の214点から対面診療の水準との中間程度まで引き上げられた。同様に、電話など情報通信機器を用いた再診料・外来診療料はいずれも73点とされた。これに伴い、現行のオンライン診療料(月1回71点)は廃止となる。通常診療の初再診料は据え置きとなった。これに対して、日本医師会の中川会長は「対面診療を提供できる体制を有すること」「患者の状況によってオンライン診療では対応が困難な場合には、他医療機関と連携して対応できる体制を有すること」が堅持されたことに言及。オンライン診療が対面診療と適切に組み合わせた上で実施されるよう注視していくとするとともに、患者の安心・安全が損なわれたり、地域医療の秩序を混乱させるような事象が生じた場合には、期中であっても、すみやかに診療報酬要件の見直しを要請する考えを示した。(参考)オンライン初診料、4月から値上げへ 厚労省「診療報酬」見直し案(朝日新聞)オンライン診療に係る診療報酬について(日本医師会)中医協・22年度診療報酬改定を答申 オンライン診療で患者の受診機会増に期待 営利追及への懸念も(ミクスonline)4.視覚障害者の就労保護のため指圧師養成施設の設置制限は合憲/最高裁視覚障害者の就労先を保護するために、健常者向けの「あん摩マッサージ指圧師」の養成施設の新設を認めないとする厚労省の規制について、違憲性を争った訴訟の上告審の判決で、最高裁第2小法廷は7日に、視覚障害者の「自立と社会経済活動への参加を促す積極的な意義がある」として合憲であるとした。視覚障害者の団体は判決後、記者会見において「あん摩マッサージ指圧師の職は自立した社会参加の命綱。それを残すような判断が示されたことに大きな意味がある」と話した。厚労省の統計では、2020年末のあん摩マッサージ指圧師は約11万8,000人、うち視覚障害者は約2万6,000人となっている。(参考)指圧師養成、新設規制は「合憲」 最高裁初判断(日経新聞)指圧師 養成施設の設置規制 最高裁「憲法違反とはいえない」(NHK)5.コロナワクチン接種、小児への義務は課さず、妊婦は努力義務へ厚労省は10日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会を開催し、5~11歳の小児に対する新型コロナワクチン接種について議論を行い、ファイザー製ワクチンは一定の有効性が期待できるとしながらも、最終的に「努力義務」を課さない方針を正式に決めた。小児に対するファイザー製ワクチンの接種について、米国、カナダ、フランス、イスラエル、EUではすべての小児に対して接種を推奨している。わが国では予防接種法上の「臨時接種」に位置付けられ、小児用ワクチンは21日から各自治体に配布される。一方で、以前から努力義務の適応外とされていた妊婦への接種については、有効性や安全性のデータが確認され、妊娠後期に感染すると早産率が高くなったり、重症化リスクが高いとする報告もあることから、新たに努力義務の適用となった。(参考)新型コロナワクチンの接種について(厚労省)小児は努力義務適用外 コロナワクチン、妊婦は対象に―厚労省(時事通信)5~11歳の接種「努力義務の対象外」了承 厚労省分科会(毎日新聞)

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第95回 国会議員も特例承認薬より未承認の国産薬に期待大!?その理由とは…

オミクロン株による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は留まるところを知らない。2月5日には国内での検査陽性者数は初めて10万人を超えた。もっとも暗いニュースばかりではない。本連載でも取り上げたモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)が昨年末に承認されたのに続き、この記事の公開日である2月11日にはファイザー製の3CLプロテアーゼ阻害薬のニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パクスロビド)も特例承認されている見込みだ。3CLプロテアーゼ阻害薬に関しては、国内でも塩野義製薬が1日1回5日間投与の経口薬S-217622を開発中。2月7日には第II/III相臨床試験のPhase IIa partの結果が公表された。主要評価項目ではS-217622投与群はプラセボ群と比較し、投与開始4日目までにウイルス力価とウイルスRNA量を有意に減少させ、4日目のウイルス力価の陽性患者割合はプラセボ群と比較して約60~80%減少させたという。また、服用期間中の安全性については、臨床検査値の異常などは認められたものの、いずれも軽微なものだったと報告されている。今後、新型コロナの治療選択肢が増えるならば非常に喜ばしいニュースだが、この3日前、Twitter上でこの件に関するツイート(つぶやき)が炎上していたのをご存じの方も多いと思う。そのツイートは以下のようなものだ。塩野義製薬が開発中のワクチンと治療薬の治験報告に来ました。日本人対象の治験で副作用は既存薬より極めて少なく効能は他を圧しています。アメリカ政府からも問合せがある様です。ワクチンは5月めど治療薬は2月中にも供給は出来ます。外国承認をアリバイに石橋を叩いても渡らない厚労省を督促中です。ツイートの主は労働相、経産相の経験もある自民党前幹事長の甘利 明衆議院議員。甘利氏と言えば、2016年に道路建設をめぐり都市再生機構(UR都市機構)に対する口利きを依頼された千葉県の建設会社から現金などを受け取っていた疑惑で、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)を辞任に追い込まれている。そうした「前科」とツイートの最後の一文の政治家による「圧力」とも受け取られかねない文言が相まって物議をかもした。いろいろな見方はあると思うが、さすがに看過できないと思い、私自身も引用リツイートという形でかなり批判的に反応した。ちなみに引用リツイートでどのようなことを書いたかというと、以下のようなものだ。「元経産相が上場企業のこの種の情報が株価に影響することをお考えにならないのですか?薬の効能は臨床試験結果の論文化か審査当局の承認がない限り、政治家が軽々しく口にすべきではありません。安倍元首相がアビガンでフライングな言及をした後に臨床試験結果が無残なものだったことに学んでください」厳密に言えば甘利氏のツイート内容はインサイダー情報にはならない。少なくとも塩野義製薬の3CLプロテアーゼ阻害薬に関する成績は、具体的なデータは示されなかったものの1月31日付の同社第3四半期決算の時に概要が公表されており、7日の発表では1月31日発表のベースになったデータが示されている。いわばこの間に甘利氏ら国会議員のところに塩野義製薬がこの内容を説明に行った際のことがツイートされたのだと考えられる。つまりほぼ公知の情報である。それでもなお、私が上記のように引用リツイートしたのはいくつか理由がある。まず、ツイートの140字で上記のようなざっくりとした情報を発信すると、ツイートを見た人の中には「政治家だから何か公になっていないこの薬のポジティブな情報を得られたのかもしれない」と妙な期待感を持つ人が出てくる可能性がある。また、ツイートの中にある「アメリカ政府からも問合せがある様です」は公知の情報では確認されていない。結局のところ、このツイートはインサイダー情報ではなくとも目にしたものの期待などを結果として煽り、株価の不適正な上昇を引き起こしかねない危ういものだ。実際、この直後に塩野義製薬の株価は3%弱上昇している。さらに、甘利氏がツイートで言及している「(塩野義製薬の候補化合物が)他を圧している」ことを示すデータは今のところ存在しない。この辺はたぶん説明に行った塩野義製薬側がややオーバーな説明をしたか、甘利氏が勝手に思い込んだのかのどちらかだろう。だが、いずれだとしても軽率だ。私が引用リツイートで言及したように、ドラッグ・リポジショニングで新型コロナへの適応拡大を試みた新型インフルエンザ治療薬のファビピラビル(商品名:アビガン)はご存じの通り、後の臨床試験で十分な効果を示せず承認は保留状態。現在新たな臨床試験を進めている。ところが、まだファビピラビルについてin vitroや少数例の観察研究ぐらいしか明らかにされていなかった2020年5月、当時の安倍 晋三首相が「今月中の承認を目指したい」と発言。この結果、後に新型コロナへのファビピラビルの有効性が怪しくなった段階でも、新型コロナ患者が主治医に「アビガンを処方してほしい」と哀願し、現場は困惑するという出来事が少なからず存在したと言われている。いずれにせよ、政治家はその一挙手一投足が周囲の注目を集める。法令に抵触するか否かにかかわらず、物言いは慎重にしなければならないのは言うまでもないことなのだ。そして今回の甘利氏のツイートで改めて認識したのが「治療薬の国粋主義思想」がいかに巷にはびこっているかである。前回取り上げた駆虫薬のイベルメクチンもなぜこんなに「盛り上がる」のかといえば、発見者が日本人でなおかつこの件でノーベル賞を受賞しているからである。また、昨秋の衆議院選挙での各政党の政策集では、右も左も「国産治療薬の実現」を唱えていたことは記憶に新しい。だが、今一度考えるべきことがある。医薬品が低分子化合物の枠を超え、生物学的製剤、核酸医薬、再生医療製品など先端技術を駆使した多様な形態に及んでいる今、日本国内に有する技術のみで新規の治療薬やワクチンの開発が可能だろうか? 答えは否だ。たとえば、今使用されている新型コロナのmRNAワクチンで考えてみよう。俗にファイザーのワクチンと言われる「コミナティ筋注」は独・ビオンテック社がオリジンである。ビオンテック社の創業者はトルコ人であり、今回のワクチン開発に重大な貢献をしたとされる同社上級副社長のカタリン・カリコ氏はハンガリー人である。要は世界を揺るがす医薬品開発では、とっくの昔に国境という概念が消えているのだ。そんな最中、国内の製薬企業の治療薬が臨床試験でやや良い成績を出したくらいで浮かれる勢力が、それなりに目立ってしまう日本の精神的な立ち遅れは相当なものと言わざるを得ない。そもそもこの「治療薬の国粋主義思想」の中身は「日本は優秀な国だから」の裏返しでもある。もちろん極めてざっくりした言い方をすれば、日本の科学技術は世界的には上位のほうに位置するだろう。しかし、万能とは言えず、歴史的な背景や種々の環境の結果としての得意不得意もある。不得意分野を自国で強化するのは結構なことではあるが、それではスピード的遅れを取ってしまうことも少なくない。不得意なものは少なくとも当座は得意な相手から助力を得ればいいこと。ただ、その助力を得るためには自分たちも得意なものを提供し、互いを理解するコミュニケーションに心を砕かねばならないということである。正直、このコロナ禍を通じた治療薬、ワクチンの「一に国産、二に国産」という考え方は、山奥に引きこもって天に向かって空威張りする意味不明なカルトのようにしか見えない、というのは言い過ぎだろうか?

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第95回 昨年の医学部入試で男女別合格率が逆転!医師が「An Unsuitable Job for a Woman」でなくなる日は本当に来るか(後編)

岸田首相、「1日あたり100万回のワクチン接種」を指示こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。オミクロン株の感染拡大の勢いが弱まりません。昨年末の時点で、オミクロン株急拡大の予測はできていたのに、3回目接種を前倒しで本格化させなかったツケが回ってきた印象です。岸田 文雄総理大臣は2月7日、後藤 茂之厚生労働大臣ら関係閣僚に対し、2月中のできるだけ早い時期に1日あたり100万回のワクチン接種を達成できるよう取り組みの強化の指示を出しました。やっと、という感じです。ただ、私が住む自治体では、「2回目から8ヵ月以上空けろ」という政府の昨年の指示の“後遺症”のためか、65歳以下のほとんどの人には接種券がまだ届いていないようです。私にも未着です。ということで今週末も外出を極力控え、前回の原稿を書きながらふと思い出した、女探偵映画の名作をDVDで2本ほど観て時間を潰しました。その映画とは、キャスリーン・ターナー主演の『私がウォシャウスキー』(監督:ジェフ・カニュー)と、ジーナ・ローランズ主演の『グロリア』(監督:ジョン・カサヴェテス)。『グロリア』は厳密には探偵映画とは言えませんが、どちらも女性のタフさを描いたハードボイルド映画で、女性に限らず、男性にもお薦めです。「医師の働き方改革」遅々として進まずさて、前回の続きです。前回、2021年度の医学部入試では、全体の男性の合格率(合格者数/受験者数)が13.51%、女性の合格率が13.60%と、医学部の男女別合格率が公表されている2013年度以降、初めて女性の合格率が男性を上回った、と書きました。この数字が示すように、今後、女性医師が今まで以上に数多く誕生する流れとなっていくでしょう。しかし一方で、女性の働き方やキャリアパスの改革を後押しすると期待されている「医師の働き方改革」が遅々として進んでいない状況も明らかとなっています。厚生労働省は1月24日、医師の働き方改革の推進に関する検討会の作業部会に、勤務医に対して行ったアンケートの結果を報告しました。報告では、業務内容に応じた各上限水準の内容や宿日直許可基準の内容については、「全く知らない」という回答が約半数を占めていました。このアンケートは、作業部会の構成員が所属する医療機関の協力を得て、「勤務医自身の働き方に関する考えを把握する」「働き方改革に関する勤務医の現時点の知識・認識度を把握する」「勤務医に向けての効果的な情報発信に関するヒントを得る」ことを目的に実施されたものです。2次救急医療機関以上の10医療機関の勤務医が対象で、調査期間は2021年12月24日~2022年1月13日。有効回答数は1,175、男性72%・女性27%でした。アンケートの概況によれば、医師の働き方改革の制度認知について、2024年度から制度が開始することや労働時間の上限の意味、自己研鑽の考え方については、回答者の半数以上が「よく知っている」「ある程度知っている」と回答した一方で、各上限水準や宿日直許可基準の内容については、「全く知らない」という回答が約半数を占めていました。また、若年層ほど認知度が低い結果でした。2022年度からはB水準、連携B水準、C水準について第三者評価始まる「医師の働き方改革」について、簡単におさらいしておきます。制度の基本的な骨格は、2019年3月に厚生労働省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」が取りまとめた最終報告書に基づいています。それによれば、2024年4月からの「医師の時間外労働規制」の概要は次のようなものです。A水準…時間外労働が年960時間以下B水準(地域医療確保暫定特例水準)…年間時間外労働が960~1,860時間(兼業等により960時間を超える場合は連携B水準、2035年度末には解消予定)C水準(集中的技能向上水準)…研修医等はC-1、高度技能の習得を目指す医師はC-2水準この「医師の時間外労働規制」に則った病院運営ができるよう、各医療機関は労務管理の一層の適正化や、タスクシフト・タスクシェア推進、育児支援などさまざまな改革に着手する、ということになっています。2022年度からはいよいよ、B水準、連携B水準、C水準については第三者評価の取り組みが始まります。具体的には、2022年4月より「医療機関勤務環境評価センター」による第三者評価を受け、労働時間実績や時間短縮取り組み状況が評価された後、地域医療への影響等を踏まえ各都道府県の判断により指定を受けることになります。C-1水準では研修プログラムにおける時間外労働時間の明示が求められ、C-2水準においては高度技能に関する教育研修環境を審査組織にて討議されることになります。しかし、先のアンケート結果のように、勤務医への周知すら十分に進んでおらず、コロナ禍もあって現場の取り組みも想定よりも遅れているのが現状です。「女にこそ向いた職業」に向けてそんな中、2月2日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」では、新専門医資格の取得を目指す専攻医や臨床研修医を対象とするC-1水準については、専攻医等が勤務先病院を選択しやすくするために「病院や研修プログラムが、想定される時間外労働はどの程度か、過去の時間外労働の実際はどの程度であったのか」を明示する、という方針が固まりました。さらに、「専攻医が育児休業等を取得しやすくする環境整備」に向けた議論も開始するとのことです。制度開始までわずか2年となって、やっと詳細な運用にまで目が届き出した感はあります。しかし、一方で日本医師会は2024年度から予定されている医師の時間外労働の上限規制適用に伴う罰則について、「数年程度猶予する」よう求める方針を打ち出しています。2月2日の記者会見で日本医師会の松本 吉郎常任理事は、上限規制適用で宿日直を担う医師の応援が途絶えれば、周産期医療の崩壊につながるとし、調査を基に宿日直許可基準の運用緩和策をまとめ、「上限規制の罰則を数年程度、猶予することを考えていただきたい」と述べたとのことです。「宿日直許可基準の取得」は、医師の「労働時間」と「労働時間以外」を切り分ける重要な機能です。この基準を取得することで、医師の労働時間のカウントを減らすことができるからです。しかし、労働基準監督署によって、許可基準の解釈や運用にバラツキがあることが問題視されており、現在、多くの病院がその対応に苦慮しているようです。許可基準の解釈や運用のバラツキは確かに大きな問題です。しかし、この期に及んで罰則の猶予などの例外ルールをどんどん作っていったら、それこそ本来の形の「医師の働き方改革」がいつになったら本格スタートできるかわかりません。医師が行っている業務のタスクシフトやタスクシェア、あるいはITを活用した業務効率化など、現場でできる工夫はまだまだ多くありそうです。医師を「女には向かない職業」から、「女にこそ向いた職業」にするためにも、「医師の働き方改革」の円滑な推進を期待したいところです。ニック・カサヴェテス監督の2本の医療映画最後に、映画の話を補足しておきます。ジョン・カサヴェテス監督の『グロリア』をご覧になってもし気にいったら、同監督とジーナ・ローランズ(『グロリア』の主演女優)の息子であるニック・カサヴェテスが監督した2本の医療映画、『ジョンQ-最後の決断-』と『私の中のあなた』もぜひ観てみて下さい。『ジョンQ-最後の決断-』は主演のデンゼル・ワシントンが息子の心臓移植のためにERに立て籠もるというストーリーで、米国の医療保険制度を強烈に皮肉った快作です。米国では、加入する医療保険によって治療費をカバーする範囲が全く異なります。昨年9月26日のCNNのニュースは、米国で新型コロナウイルスに感染し、入院した場合の平均的な費用は約7万5,000ドル(当時のレートで約833万円)であり、入院に至らない感染事例で医療保険に入っていない患者が負担する費用は平均2,500ドル、保険に加入していても保険会社や患者自身が支払う総額は平均約1,000ドルである、と報じていました。米国人がコロナに感染しても、気安く医療機関にかからない理由がこの映画を見ると理解できます。一方、『私の中のあなた』は、姉専用ドナーとして生み出された妹が、姉への臓器提供を拒んで両親を訴えるという話で、2人の母親役をキャメロン・ディアスが演じています。こちらは、終末期医療のあり方について深く考えさせられる作品です。ニック・カサヴェテス自身も心臓病の娘を育ててきた経験があるとのことで、それが医療映画を得意とする一因かもしれません。

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英語で「受診してください」は?【1分★医療英語】第14回

第14回 英語で「受診してください」は?Do I have to come see you before surgery?(手術前に再度受診しますか?)No, you are all set. See you on the day of surgery.(いいえ、大丈夫です。手術日にお会いしましょう)《例文1》医師Unfortunately, we don’t have the result yet.Could you please come see me again?(残念ながらまだ検査結果が出ていないです。再度受診していただけますか?)患者Well, I guess I can.(はい、大丈夫です)《例文2》Please come see me when you don’t feel well.(具合が悪いときは受診してください)《解説》日本語の「受診する」の直訳に当たる言葉は英語にはありませんが、代わりに“see”が使われます。今回の表現である“come see me”は、厳密に言えば“come to see me”もしくは“come and see me”が文法的には正しいです。ただし、口語表現では今回のように2つの動詞を直接つなげて使うことがよくあります。“go get your coffee”や“come talk to me”など、表現のバラエティは豊富です。ちなみに“come to the hospital”といった、直訳した「病院に来てもらう」という表現は、相手に意味は理解してもらえますが一般的ではありません。この表現はどちらかというと、「予定して受診する」というよりは「想定外の病気・けがのために受診する」というニュアンスになります。今回のような動詞2連続の表現はとても口語的なので、機会があればぜひ使ってみてください。あまり文法にとらわれず、英語を楽しむことも大切ですね。講師紹介

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がん患者さんと家族のはてなにこたえるQ&A100…OKワード・NGワードを知ってコミュ力UP!

がん患者さん、家族の質問へのベストアンサーを指南治療法や副作用、生活や食のことまで、がん患者さん、家族から実際に受けた100個の質問に、優しく寄り添ってこたえるアンサーブックです。臨床現場のがん看護ナースは、日々患者さんや家族から多くの質問を受けています。「がんのステージってどういう意味?」「抗がん剤の副作用をなくす方法はないの?」などのがんの基礎知識や治療についてに限らず、「治療期間中、職場にどうやってがんのことを伝えたらいい?」「子どもにどうやってがんのことを伝えたらいい?」など、生活やメンタル面にいたるまで、そのジャンルは多岐にわたります。そんな質問に対して答えや根拠の説明にとどまらず、患者さんや家族への伝え方、対応の仕方を具体的に入れ、がん看護ナースのコミュ力アップを支援します。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    がん患者さんと家族のはてなにこたえるQ&A100…OKワード・NGワードを知ってコミュ力UP!定価4,400円(税込)判型B5判頁数272頁発行2022年2月編集中村 将人(社会医療法人財団 慈愛会 相澤病院 がん集学治療センター化学療法科 統括医長)

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第94回 コロナ禍3年目、人類の敵はコロナじゃなかった…

実はこの1週間で2度も「ええーーー!!!!」と思う経験をした。私の場合、昼食は自分の個人事務所の近傍にある飲食店を利用している。「この時期に?」と思われるかもしれないが、常にほぼ年中無休の一人仕事であるため、そのくらいしか気分転換はない。もっとも完全な黙食で、オーダーした料理が届くまではマスクをし、食べ終わったらマスクを装着してさっさと事務所に戻っている。本音を言うと、4人掛けテーブル席のような隣席との距離が保てるところに座りたいのだが、一人客だとカウンター席に案内されることが多い。最近では飲食店のカウンター席も隣のスペースとはアクリル板で仕切られていることがほとんどだが、言い訳程度の仕切りも少なくないので本音ではやや不安だ。先日の日曜日、近所のカフェに入った時は運よくテーブル席に座ることができた。もっともカウンター席からほど近いテーブル席。カウンター内にいる従業員とカウンター席に座る客との会話は丸聞こえだ。まあ、通常はそんなのも聞き流しているのだが、女性従業員が客に語っていたある一言が耳に入り、フリーズしてしまった。「まあ、私はさ、しっかり予防しているから。毎週イベルメクチン飲んで」医療従事者の多くがご存じのとおり、今回の新型コロナが流行した当初、治療薬がほとんどなかった際にドラッグ・リポジショニングとして注目された物の一つが駆虫薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)だ。これは北里大学特別栄誉教授の大村 智氏が発見した放線菌が生産する物質の化学誘導体で、大村氏はこの研究で2015年のノーベル医学生理学賞を受賞している。新型コロナに関しては北里大学による医師主導の臨床試験と国内製薬企業の興和による臨床試験が実施され、前者はすでに試験を終了してデータの解析中である。イベルメクチンに関しては発展途上国を中心に新型コロナに関する研究報告は数多い。しかし、その中身はかなり小規模の観察研究がほとんど。しかも、投与方法や併用薬も統一したものではなく、有効と断言できるエビデンスは、はっきり言って乏しい。しかし、SNS上では、一部の人がこの薬を「新型コロナの特効薬」と持ち上げ、同時に既存の新型コロナワクチンや治療薬に関する重箱の隅を突いたかのようなネガティブ情報の発信を行っている。表現は悪いがもはや「イベルメクチン真理教」である。手に負えないのは、こうした「信者」の考えに一部の研究者や政治家までも賛同を示していることだ。彼らのイベルメクチン支持には、「日本発の薬」だからというある意味ナショナリズム的な思考も見え隠れする。昨年、私はイベルメクチンについてSNS上でネガティブな言及をした際には、ほぼ丸2日も「信者」たちに絡まれるプチ炎上を経験したほどだ。一部の「信者」がわざわざ個人輸入までしてイベルメクチンの予防内服をしているとの投稿もSNS上では時々目にしていたが、私は人口1億人超の日本でのノイジー・マイノリティぐらいにしか思っていなかった。そのためリアルで当事者に遭遇してやや驚いたのだ。それでもノイジー・マイノリティにたまたま遭遇したのだろうと思って納得していた。この翌日、別の飲食店のカウンター席で昼食を取っていた最中、一つ離れた席に座っていた男性客と従業員の会話を聞いて再び驚いた。従業員「しかし、本当に感染の勢い止まらないですよね」男性客「自分は外回りで人に会うからさ、やれる対策は何でもやろうと思ってね。先月中旬から2週間に1回、イベルメクチンという薬を飲み始めたんですよ」私がたまたまノイジー・マイノリティに連日遭遇しただけという可能性は十分にある。とはいえ、気になったのは最初に遭遇した飲食店の女性従業員も、客との会話で今年に入ってから服用し始めたと話していたことだ。つまり私が遭遇した2人とも、オミクロン株による感染拡大に自身で対処しようと思い、ネットサーフィンで得た情報からイベルメクチンの服用に至ったということなのだろう。そうでもない限り、素人が新型コロナに対してイベルメクチン服用を思い立つことはほぼあり得ない。ちなみに『信者』らはイベルメクチンに関して“安全性の高さ”をやたらと強調するが、医療従事者の多くが知っているように、既存のイベルメクチンの安全性データの多くが、腸管糞線虫症への2回服用、あるいは疥癬への単回服用のデータであって、慢性的に服用する際の安全性は明らかではない。玉石混交の情報から「自分が見たい」あるいは「自分にとって耳触りの良い」情報のみを抽出できるネットの罪の部分が顕在化している一例といえばそれまでだ。しかし、前述のようにイベルメクチン問題では、この薬に好意的な一部の研究者、政治家がさらに「権威付け」してしまっているという最悪の構図も存在する。人の上に立つ、あるいは人前に出がちな人の科学リテラシーの程度次第で社会に計り知れない影響を与える可能性を街角で思い知らされた週となった。これがコロナ禍3年目の市中の様子の一端である。改めて肝に銘じておこうと思う。

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第94回 昨年の医学部入試で男女別合格率が逆転!医師が「An Unsuitable Job for a Woman」でなくなる日は本当に来るか(前編)

男性の合格率13.51%、女性合格率13.60%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球がキャンプインする今頃、2月初旬のスポーツ観戦の楽しみの一つに、米国のプロアメリカンフットボールリーグ・NFL(National Football League)の「スーパーボウル」があります。今年は1月30日(現地時間)にAFCとNFC、両リーグのチャンピオンシップ・ゲームが行われ、2月13日のスーパーボウルの出場チームが、シンシナティ・ベンガルズとロサンゼルス・ラムズに決まりました。しかし、日本では今シーズンからNHK BSがNFLの放送を取り止めており、スーパーボウル(を含めたすべてのNFLの試合)は、DAZNなどの有料放送でお金を払って視聴するしかありません。私は勝手に、大谷 翔平選手の試合(MLB)を放送し過ぎてNHKの海外スポーツの放送予算がなくなってしまったからでは、と思っています。NHK BSは1980年代末から長年NFLの試合を放送し、日本のファン拡大・定着の重要な役割を担ってきただけに少々残念です。さて、今回も前回に引き続き、大学入試をめぐる話題を取り上げたいと思います。全国保険医団体連合会(保団連)は1月26日、「医学入試で男女別合格率が逆転」と題した資料を、報道各社に送付しました。同資料は、2013年~2021年の医学部入試の男女別合格率を、文部科学省の公表データをもとに保団連がまとめたもの。それによると、2021年度の医学部入試では、全体の男性の合格率(合格者数/受験者数)が13.51%、女性の合格率が13.60%と、医学部の男女別合格率が公表されている2013年度以降、初めて女性の合格率が男性を上回りました1)。さらに2021年度は、男性の合格率が女性よりも高い大学が、2020年度までの約7割(2020年度:55/81大学)から半数以下(2021年度:36/81大学、44.4%)に突如激減しました。保団連は「2021年度の医学部入試の動向は明らかに2020年度までとは異なっており、2020年年末に文科省が男女別合格率の毎年公表を決めたことで、女性差別のない公正な入試が後押しされた可能性がある」とコメントしています。東京医大不正入試事件をきっかけに、男女別合格率毎年公表へ2020年年末、文科省が男女別合格率の毎年公表を決めたのは、2018年7月に発覚した東京医科大学の不正入試事件がきっかけでした。東京医大の2018年度の一般入試において、同大が文科省の前局長の子息に不正に点数を加点したことが発覚しました。当初は一般的な贈収賄事件として扱われていましたが、その後の調査で、東京医大が行っていた点数操作が前局長の子息だけでなく、女子や複数年浪人した学生にも一律に不利になるように行われていたことが判明すると、事件は一気に社会問題化しました。文科省は医学部医学科がある全国81大学の入学者選抜の過去6年間の実態を緊急調査し、2018年9月に2013年〜2018年度の男女別の合格率を公表しました。これらの調査結果と各大学へのヒアリングを基に、東京医大以外の複数の大学の医学部医学科においても「不適切である可能性が高い」選抜や「疑惑を招きかねない」選抜が行われていた事実が明らかになったのです。その後、男女別の合格率については、与野党議員から公表を継続すべきだという意見が相次ぎ、2020年12月に2019年度と2020年度入試分が公表され、次年度以降も毎年公表することが決定しました。もっとも、この公表は特段記者会見が行われることはなく、言うならばひっそり資料が公開されているのが実情のようです。2021年度の結果を文科省がホームページにアップしたのは、保団連調べでは2021年9月30日だったとのことです。贈収賄事件は公判中、元文科省局長に検察は懲役2年6カ月を求刑東京医大の不正入試事件については、2021年7月には事件の影響で不当に不合格になったとして受験料の返還などを求めた訴訟で、同大が約560人の受験生に計約6,760万円を支払う和解が成立しています。一方で、不正入試を巡る贈収賄事件の公判はまだ続いています。2021年12月27日、東京地方裁判所で開かれた裁判で検察は「恣意的に点数を加算する行為は、公正な入学試験を害し、不公平感も与える。多額の現金を受け取る収賄事件よりも悪質だ」として、文科省元局長に懲役2年6ヵ月、東京医大の前理事長に懲役1年6ヵ月などと、関係者に実刑が求刑されています。無罪を主張している元局長らの最終弁論は、今年2月に行われる予定です。男性中心社会だった医師の世界話を戻しましょう。2021年度医学部合格率の異変は、東京医大不正入試事件をきっかけに行われた文科省の調査と男女別合格率の公表継続、さらには各大学に対して行われたであろう“指導”などが奏功した結果だと言えるでしょう。医学部入試の世界で男女平等、というか勉強ができる女子を正当に評価する仕組みがやっと定着してきたことは、将来の医療の現場をどう変えていくでしょうか。もともと、医師の世界は男性中心社会でした。特に外科系は技術修得が大変で、一人前になるまでに相当な時間がかかったため、専門科目を選ぶ際、女性医師は眼科や皮膚科といった比較的“ラク”とされるマイナー科を選びがちだったとも言われています。私は10年ほど前、女性の外科系医師のキャリアパスがテーマの座談会の司会をしたのですが、ある女性の消化器外科医が「手術が大好きだったが、出産や育児で時間を取られるうちに男の同僚に置いていかれ、出世競争などの第一線から退くことを余儀なくされた」と話していたのが印象的でした。医師は探偵と同様、長い間「女には向かない職業」とみられてきた英国の女流ミステリ作家、P.D.ジェイムズの1970年代の代表作に『女には向かない職業』(ハヤカワミステリ文庫、原題:An Unsuitable Job for a Woman)という魅力的なタイトルの作品があります。22歳の新米探偵コーデリアが「探偵稼業は女には向かない」と言われながら、ある青年の自殺事件の真相解明に挑む、というストーリーです。若くて頑張り屋の探偵コーデリアの活躍は人気を呼び、P.D.ジェイムズは『皮膚の下の頭蓋骨』という作品にも彼女を登場させています。女性医師の問題について考える時、私はいつもこのミステリを思い出します。この原題通り、日本では長い間、医師は探偵同様に「女には向かない職業」と見られてきたからです。ただ、その状況は変わりつつあるようです。医学部に入学する女性が増えてきたことで、外科系の医局であっても女性医師を積極的に入局させ、一人前に育てるカリキュラムやキャリアパス、子育て支援の仕組みなどを用意する必要が出てきました。そもそも、そうしないと大学病院自体が回らなくなってきています。そうした改革の必要性は大学病院だけでなく、市中の病院でも高まっています。女性が働きやすい病院、医局でないと研修医も集まらないからです。「医師の働き方改革」の認知進まずもっとも、そのような動きはまだまだ先進的な病院だけに留まっており、全国の病院どこでも、というわけではないようです。そんな中、女性医師の活躍の場を広げる上で大きな後押しになると期待されているのが「医師の働き方改革」です。2024年4月から、勤務医の残業時間の上限を原則年960時間、地域医療を担う医療機関などで、長時間労働を避けられない場合は年1,860時間とする「医師の働き方改革」は、医師の労働時間管理適正化の一手段として、女性医師の働き方への支援や、子育て環境の整備などに医療機関が積極的に取り組むよう求めています。本格施行まであと2年と近づいた「医師の働き方改革」ですが、現場の医師への周知は遅々として進んでいません。厚生労働省は1月24日、医師の働き方改革の推進に関する検討会の作業部会に、勤務医に対するアンケートの結果を報告しました。調査では、医師の働き方改革の制度認知について、業務内容に応じた各上限水準の内容や宿日直許可基準の内容について「全く知らない」という回答が約半数を占めていました。医学部入試で男女別合格率が逆転する一方で、現場での認知が一向に進んでいない「医師の働き方改革」。このギャップはある意味とても深刻だと言えるでしょう。女性医師が今まで以上に多く誕生する一方で、女性の働き方やキャリアパスが旧態依然のままでは、医師が「女には向かない職業」でなくなる日が日本ではいつまでたってもやって来ないからです(この項続く)。参考1)令和3年度医学部(医学科)の入学者選抜における男女別合格率について

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英語で「坐剤」は?【1分★医療英語】第13回

第13回 英語で「坐剤」は?Have you ever used suppositories in the past?(これまでに、坐剤を使ったことがありますか?)Never. So, I don’t know how to use it.(一度もないです。なので、使い方がわからないです)《例文1》I prefer not to use suppositories.(できれば、坐剤は使いたくないです)《例文2》Gently insert the suppository pointed end first into your rectum about 1 inch.(坐剤をゆっくり、尖ったほうを先に肛門から約1インチ挿入してください)《解説》坐剤は“suppository”、発音は「サパーズィトリー」です。「サポ」よりは「サパ」と聞こえ、「パ」にアクセントが付きます。坐剤を使うときの説明では、動詞に“insert”を用います。「尖った先端から挿入する」という意味で、“pointed tip first”や“tapered end first”などの言い方があります。1インチは約2.5センチです。米国では他にもポンド(1 lb=約0.45kg)やフィート(1 ft=約30cm)と日本とは異なる単位を使うので、体重から薬の用量や腎機能を計算する際は、注意が必要です。患者さんに“Have you ever …?”(これまで~したことはありますか?)と聞く場面は多いですが、こうした“Yes”か“No”で答える質問(=close-ended question)をするときは、聞き間違いや勘違いがないように、“Is this the first time?”(今回が初めてですか?)など確認のための追加質問をして、コミュニケーションエラーが起こらないようにする工夫が大切です。坐剤を処方した場合、エラー防止のために、“Do not take a rectal suppository by mouth!”(坐剤を口から飲まないでくださいね!)と付け加えることも大事ですね。講師紹介

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ブースター接種こそ感染対策の要 -コロナワクチンブースター接種がコロナ死亡を90%減らす-(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 現在、日本でも世界でもオミクロン株の猛威により急激な新型コロナウイルス感染症の感染者が増加しているような状況である。米国や欧州の一部では感染拡大のピークを越え、収束傾向になっている地域もあるようだが、2022年1月中旬現在においてWHO(世界保健機関)でも各国の警戒を呼び掛けているような緊迫した状況が続いている。 本邦のコロナワクチン接種は2022年1月20日の時点で2回目接種終了者が全国民の約79%にあたる9,963万人を超えている状況である。ただし2021年末から始まったコロナワクチンの3回目接種、いわゆるブースター接種は194万人(日本全国民の約1.5%)にとどまっており、2回目接種終了後から時間が経過した高齢者や基礎疾患を持つ者、新型コロナウイルスやCOVID-19症例と接触する機会の多い医療従事者はブースター接種を待ち望んでいるところである。 コロナワクチンの3回目の接種、いわゆるブースター接種が日本でも粛々と進められているところである。一般的にワクチンの有効性、コロナの発症予防効果はデルタ株に比べてオミクロン株は低いとされている。さらにワクチン2回接種後の期間が長くなるとさらに効果が低下することがいわれており、接種直後はオミクロン株に対して約60%程度の発症予防効果を認めていたところ、5~6ヵ月が経過すると約10%に低下してしまうことが示されている(United Kingdom Health Security Agency, UKHSA 2021.12.31)。イスラエルの医療従事者に対するBNT162b2によるブースター接種の効果を検討した報告では、約1ヵ月の短い追跡期間ではあるものの、ブースター接種群はブースター非接種群に比べ90%以上もコロナ感染リスクを低下させる結果が示された(Spitzer A, et ai. JAMA. 2022 Jan 10. [Epub ahead of print])。この報告では症例の観察期間が2021年8~9月で行われており、オミクロン株が感染拡大する前の状況であることは注意が必要である。また先に示した英国からの報告では、ファイザー製コロナワクチンBNT162b2やモデルナ製コロナワクチンmRNA-1273のブースター接種後のオミクロン株に対する効果についても検討されており、BNT162b2では約70%、mRNA-1273では約80%まで発症予防効果が回復するとされた(United Kingdom Health Security Agency, UKHSA 2021.12.31)。 米国からの中和抗体価を測定した研究ではコロナワクチン2回接種後3ヵ月以内では高い中和抗体価を示したが、6~12ヵ月経過すると大幅に低下してしまうことが示されている。またオミクロン株に対しては2回接種後3ヵ月以内でも50%以上の方で中和抗体が消失するような結果であり、野生株に対する中和抗体価と比較するとBNT162b2接種群で122倍低く、mRNA-1273接種群では43倍低い結果となった。この報告ではブースター接種での中和抗体価の上昇も検討されており、野生株やデルタ株のブースター接種による中和抗体価の上昇は1~9倍にとどまっていたのに対し、オミクロン株はBNT162b2接種群で27倍、mRNA-1273接種群で19倍中和抗体価が上昇することが示され(Garcia-Beltran WF, et al. Cell. 2022 Jan 6. [Epub ahead of print])、オミクロン株に対抗するためにブースター接種が極めて重要であることが示唆された。 本論評で取り上げたイスラエルのRonen Arbelらの論文(Arbel R, et al. N Engl J Med. 2021;385:2413-2420.)は、BNT162b2を2回接種した約84万人を対象にブースター接種の効果を検証した報告である。この研究の調査対象者は2021年8月調査開始時に年齢が50歳以上で、5ヵ月以上前に2回目接種を完了した方で、約2ヵ月間に3回目接種を受けたブースター接種群75万8,118例と非ブースター接種群8万5,090例で比較検討された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡が主要評価項目とされ、ブースター接種群で65例(10万人あたり0.16人/日)、非ブースター接種群で137例(10万人あたり2.98人/日)という結果が示された。背景因子や併存症による調整を行った後の両群のCOVID-19による死亡ハザード比は0.10であり、ブースター接種群では死亡率が90%低かった。65歳で区切った年齢や男女別でもブースター接種群がCOVID-19による死亡率が低かった。また副次評価項目として規定された新型コロナ感染者もブースター接種群で2,888例、非ブースター接種群で1万1,108例であり、ブースター接種群で83%低かった。 過去にはブースター接種の有効性として発症予防効果や感染予防効果、そして中和抗体価を評価した報告が主であったが、本研究からはブースター接種が死亡率の低下を示すという心強い結果と捉えることができる。 ただし本研究は50歳以上に限定した報告であり、50歳未満の若年者に当てはめることはできないことは注意が必要である。また解析期間は2021年8~9月の約2ヵ月間という短い時間での検討であることや、その時期には現在世界でも日本でも猛威を振るっているオミクロン株ではなく、B.1.617.2系統、いわゆるデルタ株がメインであったことは差し引いて解釈する必要がある。そして多くの方が懸念しているコロナワクチンの有害事象についての検討はなされておらず、今後のデータの集積に期待したいというのは筆者のRonen Arbelらも懸念されているところである。 この研究に含まれる対象者は約84万例が全例ワクチン2回接種者ということになる。ワクチン接種完了者における新規感染を、ワクチン接種を突破して発生した感染であることから「ブレークスルー感染」と一般的に呼称しているが、本研究でのコロナ感染者は全例ブレークスルー感染の範疇であるものと考える。ブレークスルー感染を惹起したウイルスの種類は、その国や地域のその時点で流行している背景ウイルスに規定される(山口,田中. ケアネット論評1422)が、もはや3回目のブースター接種を行っているか否かで死亡率が大きく異なっている現状では、ブレークスルーかどうかは少し意味合いが薄れていると考えざるを得ない。本邦でも全国民の約8割が2回目を接種完了している状況においては、今後の新型コロナウイルスとの戦いに打ち勝つためには変異ウイルスの違いはあれど、ブースター接種をいかに早く推し進めるかどうかにかかっているのではないか。オミクロン株の感染拡大で多くの医療機関で厳しい状況を目の当たりにしていると思われるが、そのような大変な状況下でもできる限りワクチン接種体制を整備していくことが望まれる。

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痙攣を伴わないてんかん重積―NCSE【知って得する!?医療略語】第4回

第4回 痙攣を伴わないてんかん重積―NCSEてんかん重積状態を表す表現の1つに、「NCSE」があると聞きました。どういう病態ですか、教えて下さい!NCSEは「nonconvulsive status epilepticus」から生まれた略語で「非痙攣性てんかん重積状態」を意味します。てんかん重積というと、全身痙攣が持続するイメージが強いですが、意識障害のみのてんかん重積がNCSEです。原因不明の意識障害では、NCSEの可能性をしっかり鑑別しましょうね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】NCSE【日本語】非痙攣性てんかん重積状態【英字】nonconvulsive status epilepticus【分野】脳神経【診療科】脳神経外科【関連】痙攣性てんかん重積状態 (CSE:convulsive status epilepticus)、全身痙攣重積状態(GCSE:generalized convulsive status epilepticus)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。意識障害の鑑別にAIUEOTIPSが有名となり、意識障害の鑑別に「E:epilepsy(てんかん)を想定することは浸透していると思います。しかし、あえて、いま一度、NCSEを取り上げるのは、NCSEが高齢者に発症しやすいため、神経内科や救急に携わる医師だけではなく、高齢者診療に関わる医療者の皆さまと、「“意識障害のみ”のてんかん重積発作」が存在することを改めて共有したかったからです。てんかん重積状態と言えば、痙攣発作を伴う意識障害のイメージが先行しがちです。しかし、全身性の痙攣を伴なわず、意識障害しか症状を呈さない非痙攣性てんかん重積状態(NCSE:nonconvulsive epilepticus)が存在します。このため「てんかん=痙攣する」という疾患イメージに縛られてしまうと、NCSEを見落とし、診断と治療が遅れてしまう可能性があります。2008年に吉村 元氏らは94例のてんかん重積患者(15歳以上)の検討を行いました。その報告によれば、てんかん重積の25.5%がNCSEでした。さらに、入院後に痙攣性てんかん重積状態(CSE:convulsive status epileptics)からNCSEに移行した8例を加えると34%がNCSEでした。この知見を踏まえると、痙攣性てんかん重積の治療において留意したいのは「痙攣の停止=てんかん発作の終了」ではないことです。痙攣は止まっても脳の中ではてんかん波が持続し、NCSEに移行している可能性があります。上述の報告によれば、原因不明の意識障害の患者さんには、繰り返し脳波検査を施行しており、積極的かつ繰り返しの脳波検査の必要性がうかがえます。さらに、同報告では予後に関する調査もされており、多変量解析の結果、NCSEが独立した予後不良因子であることも指摘されています。2016年には貴島 晴彦氏らがNCSEの病態と治療について総説をまとめており、その中でNCSEの症状の多彩性と原因疾患の幅広さが述べられています。また、同論文ではNCSE診断におけるビデオ脳波持続モニタリングの有効性に触れています。成人発症てんかん重積は60歳以上に多く、高齢者人口の増加に伴い、その発症頻度の増加が予測されています。高齢者の原因不明の意識障害では、NCSEをしっかり鑑別に想起し、早期診断・治療の観点から、積極的な脳波検査と原因疾患の検索が必要と考えます。1)吉村 元ほか.臨床神経. 2008;48:242-248.2)貴島 晴彦ほか. 脳神経外科ジャーナル. 2016;25:229-235.3)松島 一士ほか. 日本神経救急学会雑誌. 2015;27:53-55.

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第93回 医学部進学実績トップ校の生徒が起こした事件で考えた教育現場の時代錯誤

潮目が変わり始めた政府のコロナ対策こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルスの国内感染者は1月23日、5万30人が確認され、2日連続で5万人を超えました。ということで、さすがにこの週末は山にも行かず、劇場にも行かず、飲み屋にも行かず、溜まった新聞や週刊誌を読んで時間を潰しました。当然ながら感染者激増に関する報道が多いのですが、先週あたりから、コロナ対策の潮目が変わり始めたな、と感じるニュースが目立ってきました。一つは、「基本的対処方針分科会」の尾身 茂会長が、1月19日、会合のあと報道陣の取材に対して語った以下の言葉です。「今までやってきた対策を踏襲するのではなく、オミクロン株の特徴にあったメリハリのついた効果的な対策が重要だ。これまでの『人流抑制』ではなく『人数制限』というのがキーワードになると考えている」。また、尾身会長も含む、コロナ対策を政府に助言する専門家の有志は21日、感染が急拡大した場合、若年層で重症化リスクが低い人は「必ずしも医療機関を受診せず、自宅療養を可能とすることもあり得る」とする提言を公表しました。オミクロン株で医療が破綻する前に議論しておくべきこと、という視点からの提言とのことですが、随分踏み込んだ内容の提言です。その一方で、政府側は効果が今ひとつ不明と言われるまん延防止等重点措置の適用や、ワクチンの3回目接種の施策を進めています。全体としては、国が“ちゃんとやってる感”を出す一方で、専門家等に敢えて方向転換の発言をしてもらうことで、新型コロナウイルスに対するイメージを徐々に「ほとんどの人が自宅療養だけで治る病気」へと変えていこう、という意図が見え隠れします。こうした動きを、「コロナ対策、専門家迷走 蔓延防止で知事間温度差」(1月23日付・産経新聞)と皮肉る記事もありますが、私自身は政府も含め確信犯的に“迷走”を演じているような気がします。実際、1月24日、後藤 茂之厚生労働大臣は医療の逼迫する地域では、重症化リスクの低い若者らは自らの検査だけで医師の診断なく新型コロナウイルス感染者と判断し、自宅療養に移るのを認める、と表明。同日には厚生労働省から事務連絡が発出されています。これは21日に専門家有志が提言したこと、そのままです。過度に恐れるのではなく、国民の多くの認識が季節性インフルエンザに対するのと同程度に変わっていけば、いわゆる「ウィズ・コロナ」の世界も現実味を帯びて来るでしょう。果たして国の目論見、世論形成はうまくいくのか…。今後の動きに注目したいと思います。さて今回は、大学入学共通テスト会場の東京大学前で受験生ら3人が刺された事件について書いてみたいと思います。医学部志望の高校2年生による犯行事件は1月15日の午前8時半ころ、大学入学共通テスト1日目の試験開始直前に起きました。各紙の報道によると、東京大学農学部正門の前で、受験のために会場を訪れていた千葉県内の高校生2人を含む3人が刃物で刺され、名古屋市内の高校に通う少年(17)が殺人未遂容疑で現行犯逮捕されました。刺された3人のうち東京都豊島区の男性(72)は重傷で、1月22日現在も病院のICUに入院中、とのことです。逮捕された少年は、事件前夜に名古屋市から高速バスで東京に向かい、当日朝、東京駅近くの丸ノ内線大手町駅から後楽園駅に向かい、南北線に乗り換えて東大前駅に向かいました。この途中、車内に可燃性の液体を染み込ませたリュックを置き去りにし、東大前駅の構内では着火剤に火をつけてボヤも起こしていました。少年は逮捕直後、「医師になるために東大を目指して勉強していたが、1年前から成績が落ち自信をなくしていた」「事件を起こして自分も死のうと思った」などと供述、その後、黙秘に転じたそうです。ちなみに、東京駅から東大へは、丸ノ内線に乗り本郷三丁目駅で降りればすぐです。少年が目指していた医学部もこの駅が最寄りです。わざわざ南北線に乗り換え、農学部近くの東大前駅に向かったのは、東大についての「勉強」が少々足りなかったのかもしれません。医学部受験の超名門、名古屋・東海高校2年生この事件、教育関係者などに大きな波紋を投げかけています。コロナ禍による教育現場の環境変化が生徒の孤立を深めた、との指摘もあります。また、医学部受験を目指す受験生や、その親の間では、別の衝撃を持って受け止められました。少年が通っていた高校が医学部受験で全国に名を轟かせる名古屋市の名門私立、東海高校だったからです。地元紙、中日新聞の1月20日付の報道では、「少年は高校の中でも成績上位の理系のクラスに所属。部活に所属していた時期もあったが数ヵ月で辞め、周囲に東大の医学部に進級できる『理科三類』への進学を目指すと公言」、「昨年9月、クラス担任との面談で『成績が思うように上がらない。文系に転向した方がいいかもしれない』などと悩みを打ち明けていた」とのことです。担任は具体的な目標を示して励ましたものの、「2ヵ月後の昨年11月のテストでは、少年の成績は振るわず、苦手科目の点数も上がっていなかった」そうです。ただ、3年に進級する今春以降も文系には変更せず、理系クラスの予定だったとのことです。「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」東海高校は1月16日、報道各社に向けて「本校在籍生徒が事件に関わり、受験生の皆さん、保護者・学校関係者の皆さんにご心配をおかけしたことについて、学校としてお詫びします」との内容と、今後の再発防止策について以下のようなコメントを出しています。本校は、もとより勉学だけが高校生活のすべてではないというメッセージを、授業の場のみならず、さまざまな自主活動を通じて、発信してきました。また本校の長い歴史のなかで、そのような校風を培ってきました。ところが、昨今のコロナ禍のなかで、学校行事の大部分が中止となったこともあり、学校からメッセージが届かず、正反対の受け止めをしている生徒がいることがわかりました。これは私たち教職員にとっても反省すべき点です。「密」をつくるなという社会風潮のなかで、個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。今回の事件も、事件に関わった本校生徒の身勝手な行動は、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされたものと思われます。今後の私たちの課題は、そのような生徒にどのように手を差し伸べていくかということであり、それが根本的な再発防止策であると考えます。医師になりたいのではなくただ理三に行きたかった?少年は「真面目でおとなしい」「勉強熱心で努力家」と周囲から見られていた一方で、東大理科三類に合格することに執着し過ぎていた、との報道もあります。週刊文春1月27日号は、この事件をトップ記事で取り上げています。それによると、「中学時代は常にトップクラスの成績だったA(少年)は20年4月、東海高に進学。同校は1学年約440人のうち、約400人が東海中の内部進学生で“内来生”と呼ばれる」とのことです。そして、少年が中学校からではなく、高校から東海高校に入学、内来生との激しい競争に勝って、2年時には成績優秀者が属する「A群理系」クラスに入ったと報じています。しかし、その後成績が低迷、9月には「東大理三は無理」との判断が下されたとのことです。同誌は記事の最後に「彼は医師になりたかったわけではなく、東大理三という“勲章”が欲しかったのでしょう」という同級生の母親の言葉を紹介、「A(少年)が目指していたのは。果たして命を救う医師という職業だったのか」と疑問を呈しています。昨年度は93人が国公立大学医学部に合格少年が通う東海高校は、東海地方では最難関の私立高校です。同校は1888年(明治21年)創立という長い歴史のある中高一貫の男子校で、テレビタレントで予備校講師の林 修氏、先ごろ亡くなった海部 俊樹元首相の出身校でもあります。同校が東海地区だけではなく、全国的にも脚光を浴びるようになったのは、ここ10数年のことです。なんと、2008年から昨年まで、国公立大学医学部への進学実績が全国トップなのです。ちなみに昨年度は93人が合格しています。なお、東大理三の合格者は昨年度1人、過去5年間で6人でした。かつての進学校は、医学部だけにこだわらず、東大や京大、旧帝大、早慶の進学者数を競うのがトレンドでした。そんな中、東海高校は、日本経済の低迷や受験生(中高生)とその父兄の安定志向を背景とした医学部人気を先取り、医学部進学、中でも「偏差値は高いが学費は安い」国公立大医学部への進学に注力し、実績を積み重ねて来ました。ただ、こうした進学校における医学部偏重とも見える進路指導には、一部には批判があるのも事実です。優秀な人材を、偏差値が高いからといって医学部ばかりに行かせていては、他の学問分野や、他産業の進歩や発展を阻害してしまうのではないか、というわけです。四半世紀後、医師の仕事内容は大きく変わっている私も個人的には、「日本全国で人口減少が続くのに、これ以上医師を増やしてどうするのか」、という思いがあります。1月12日、厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」と、下部組織の「医師需給分科会」の合同会合が開催され、「第5次中間とりまとめ」が概ね了承されました。そこでは、「人口減少に伴い将来的には医師需要が減少局面になるため、今後の医師の増加のペースについては見直しが必要である」と指摘されています。今の高校生が医学部に行って、一人前の医師になる四半世紀後は、医師の仕事内容は大きく変わっている可能性があります。脳神経外科や心臓外科といった専門医の数は極力絞られ、総合診療医や家庭医といったジェネラリストが医師の主な職務となっているかもしれません。今回の事件で気になったのは、進学高校の教育現場における時代錯誤です。何十年も前の私の高校時代にあった医学部偏重、東大至上主義の構図が、今の高校教育にも厳然として残っていることはある意味驚きです。私立の進学校としては、「親のニーズ」に応えることは経営上重要だとは思いますが、少子高齢化が今以上に進んだ時の日本の状況を勘案した進路指導や、コロナ禍で「孤立感にさいなまれる」生徒の心のケアについても、ぜひ本腰を入れてもらいたいと思います。

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第23回 痛み診療のコツ・治療編(2)リハビリテーション療法(1)【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第23回 痛み診療のコツ・治療編(2)リハビリテーション療法(1)前回は理学療法の中でもとくに高齢患者さんに好まれている光線療法ついてお話しました。今回は、社会復帰に向けた痛みのリハビリテーション療法についてお話ししたいと思います。痛みを訴える患者さんにおいては、病態は類似していても、痛みの性質や程度は実に多種多様です。そのため、疼痛緩和療法も神経ブロック療法、薬物療法、各種理学療法、インターベンショナル治療、光線療法など、患者さんに沿った有効な治療法を選択する必要があります。それに加えて、痛みのリハビリテーション療法としての理学療法、とりわけ運動療法や物理療法が必要とされています。一般的には急性痛においては急性炎症が強く、痛みの程度が高い時には、患部を休ませることが基本となりますが、慢性痛においては、多少の慢性炎症が存在して痛く感じていても、患部を含めて運動が重要になります。痛みがあるからといって患部を動かさないでいると、拘縮などによりさらに痛みが増すことになります。リハビリテーションの目的は、大別すると以下に挙げたさまざまな療法を用いて、痛みの緩和、運動機能の維持・改善を図ることにあります。その結果、日常生活の動作や生活の質の向上が得られます。(1)理学療法(physical therapy)(ア)運動療法(therapeutic exercise)治療体操(exercise)マッサージ(massage)(イ)物理療法(physical therapy)温熱療法(heat therapy):ホットパック療法、渦流浴療法光線療法(actinotherapy):赤外線療法、スーパーライザー電気刺激療法(electrotherapy):低周波療法、経皮的電気神経刺激療法水治療法(hydrotherapy):コールドパック療法、寒冷療法、アイスマッサージ療法牽引療法(traction treatment):頸椎牽引療法、腰椎牽引法(2)装具療法(orthosis)装具(brace)自助具(self help device)車椅子(wheelchair)(3)作業療法(Occupational therapy)(4)心理療法(Psychothrapy)(5)言語療法(Speech therapy)(6)社会自立支援療法(Support for independence of social life)運動療法は、筋力の増強と保持、関節可動域の拡大、筋作用の協調性改善、持久力の増強を目的としています。物理療法は、局所の血流改善などにより筋過緊張軽減や疼痛緩和効果が期待できます。また、リハビリテーションには、リハビリテーション医、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語療法士(ST)、臨床心理士(CP)、社会福祉士(MSW)など、多くのスタッフが携わっており、患者さんを中心とした各々の連携維持が最も大切です。そうした意味を含め、チーム医療の重要性が認識できるかと思います。リハビリテーションによって、機能障害の改善、復職や社会的任務への復帰、日常生活における健康と健康感の増進などによってQOL、ADLの向上が得られれば、結果的に痛みのとらえ方が良い方向に向かい、痛みの軽減という好循環に入ることが期待されます。次回の「痛みの治療編・総まとめ」をもって、本連載は最終回となります。どうぞ最後までお付き合いください。1)花岡一雄編. 痛みとリハビリテーション 麻酔. 2015 ; 64 : 690‐7512)花岡一雄他監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014 ;143 : S173-S1743)花岡一雄編. 痛みとリハビリテーション ペインクリニック. 2014;35 : S1-S286

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英語で「鼻詰まり」は?【1分★医療英語】第12回

第12回 英語で「鼻詰まり」は?Hi, how can I help you today?(こんにちは、どうされましたか?)I have a stuffy nose and my eyes are really itchy.(鼻が詰まっていて目がとても痒いです)《例文1》患者Can you prescribe something to unblock my stuffy nose?(鼻詰まりを解消できる薬を処方してくれませんか?)医師Okay, so you are saying you have a runny nose, stuffy nose, and frequent sneezing, correct?(なるほど、鼻水、鼻詰まり、頻繁にくしゃみが出る、ということで合っていますか?)《解説》医療者であれば、「鼻詰まり」を訴える患者を一度は診察したことがあるでしょう。とくに春や秋の季節の変わり目、または小児科外来においては年中かもしれませんね。しかし日常で頻繁に使われる割には、日本であまり習わない英語表現ではないでしょうか。“stuffy”は空気の通りが悪い、詰まった、といった意味の形容詞になり、“I have a stuffy nose.”というフレーズで「鼻詰まりがある」という意味でよく使われます。“stuffy nose”はカジュアルな表現で、患者や一般の方が日常的に使用します。医療者同士で鼻詰まりの症状を伝える際は、もう少し専門的な“nasal congestion”という表現を用います。“He complains of nasal congestion.”は、訳すと「彼は鼻閉を訴えています」といった感じでしょうか。ちなみに、“unblock a nose”“unstuff a nose”“clear a nose”といったさまざまな動詞によって「鼻詰まりを解消する」という表現になります。「鼻詰まり」の1つをとっても、さまざまな表現や単語があることがわかります。講師紹介

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第92回 0号カプセルを飲んだ経験ありますか?模擬モルヌピラビル服用実験

前回取り上げた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の軽症者向けとして世界初の経口薬のモルヌピラビル(商品名・ラゲブリオ)。実はこの添付文書を眺めていた時から私は非常に気になっていたことがあった。それはカプセル剤であるこの薬のサイズがあまりにも大きいことである。大きさは長径が21.7mm、短径7.64mm。つまり0号カプセルと言われるものである。1日2回、1回当たりの服用量は4カプセル服用なので1日の服用合計は8カプセル。ちなみに医薬品医療機器総合機構のデータベースで検索してみると日本国内のカプセル剤は約850品目あり、0号カプセルを使っているのはうち16品目。多くが抗がん剤である。裏を返せば服用しなければ命にかかわるようなもので、つまるところ市販化に当たって極端な言い方をすれば99%薬効に重点が置かれて開発されたものだろうと推察できる。モルヌピラビルの場合、治療薬が少ない新型コロナという社会的ニーズに合わせた速度戦の結果、こうなったのだろう。私自身はこれまでこの0号カプセルを服用したことはおろか目にしたことすらない。こうなると試さないと気が済まない性分だ。幸い知人の薬剤師からAmazonで入手可と聞いて早速注文。翌日届いたそれで模擬モルヌピラビル服用実験をしてみることにした。箱には「セルロースホワイトカプセル」となっていて、取り出した見た目はやや下衆な表現だが「大きな蛆虫」のよう。私の小指の第一関節分くらいはある。箱には「ノンカロリーカプセル」と半ばどうでも良い情報もご丁寧に印字されている。水を用意して1カプセル目を口にする。普段、錠剤を飲む感覚で口に水を含み飲み込む。飲み込む際にカプセルが喉の入口に軽く触れて「うっ」となる。たぶん水の量が少なかったのだろうと思い、2カプセル目は水を口一杯パンパンになるまで注ぎ込んで飲み込む。水を口に注いでいる間に口蓋のあちこちにカプセルがぶつかるのが気持ち悪い。いざ飲み込むと、喉にぶつからずに飲む込むことができた。3カプセル目は2カプセル目と同様。4カプセル目は2~3カプセル目と同様に服用したつもりだったが、飲み込む際に一瞬、また喉の入口に触れてドキッとする。その直後、大量の水が喉に突撃してくるような感じになり飲み込むことができた。しかし、飲み終わると大きなゲップが出てしまい、その後1~2分間は喉元がピクピクとけいれんする。喉には相当の負担だったようだ。そんなこんなをSNSに投稿すると、薬剤師の皆さんから「顔を下に向けて飲むと良いですよ」とアドバイスされる。ということで、夜に一気に4カプセルを口に放り込み、水を口に含んでやや俯いて飲み込んだ。確かに何の苦もなく飲める。ふと考え込んでから、下を向くとカプセルが浮力で口の中の喉に近い部分に浮き上がってくるから飲みやすいのだろうと理解できた。翌日は朝の段階で4カプセルを口に入れ、下を向かずに飲み込んでみる。飲み込むことはできたが、やはり口の中に水を含んでいる最中、4個のカプセルが互いにピンボールゲームのようにあちらこちらにぶつかって何とも気分が悪い。で、それで懲りずに今度は具合のかなり悪い人が飲む想定で、ベッドに横になったまま口に4カプセルを含み、350mlの小さなペットボトルのお茶で流し込もうとしたが、喉にカプセルが直撃して思いっきりむせてしまった。布団はビシャビシャで結局すべてのカプセルを吐き出してしまった。悔しいのでそれを一つ一つもう一度口に入れ、寝たまま服用にもう一度トライ。なんとか飲み込めたもののまるでカプセルが喉に張り付いたかのような違和感があり、その後もお茶をゴクゴク飲んだ。気を取り直して、今度はよくありがちな上半身をベッドから起こした姿勢で4カプセルを下を向かずに飲む。これは普通に椅子に座って4カプセル一気飲みした時と同様の飲み難さ。ということで同じ姿勢のまま再び顔を下向きにして飲み込む。やっぱりこれが一番楽である。結局、2日目の朝だけで16カプセルも飲んでしまい、合わせて大量のお茶も飲んだせいかかなりお腹いっぱいで昼食はパスした。まあ、この点では「ノンカロリー」という商品のキャッチも意味を持ち始めたかもしれない。名付けて「ノンカロリー0号カプセルダイエット」とでも言おうか。ちなみに私だけでは何なので、共通テストを終え、都内の民営自習室に籠って勉強をしている娘を自習室近傍のお店での昼食に誘い、0号カプセルを渡して飲ませてみた。私がカプセルをテーブル上に置いて「実験のつもりで飲んでみな」と言うと、「えっ、何このデカいの。中に毒仕込んだりしてないよね?」との反応。親を何だと思ってるんだ。「今話題のある薬と同じ大きさなんだよね」とだけ教えておく。しばらく怪訝そうに手に持ったカプセルを眺めていた娘が、「それもしかしてさ、あの不気味な赤いカプセルの薬? あのコロナの」とのたまう。おお、勘所が良い。ということで、その辺の種明かしやこれまで父親の私がすでに実験していたことを伝えると、「おお、やってみる」とのこと。ややトンデモなところだけは私に似たようだ。娘が口にカプセルを1個放り込み水を口内に注ぐ。頬を膨らましたまま目を白黒させ、次第に眉間にしわを寄せ始めた。飲み込んだと思いきや、「うー、ダメ。口の中に残っている」と言う。もう一度口に水を含んでトライするもこの時は終始、眉間にしわを寄せたまま、結局飲み込めず。3度目の正直でやっと飲み込めた。もっとも本人によると「もう半分溶け始まっていたのか、口の中でカプセルの変形が始まっていた」とのこと。飲み終わった感想は「この大変さを考えると、やっぱりコロナにかからないにこしたことないね」と。そして「薬の飲みやすさって一番最後に考えられることなんだね」と言う。親バカ半分かもしれないが、子供の感じ方は面白い。余談にはなるが、娘が小学校5年生の時、医薬品に関連したテレビCMで「超品質」(分かる人にはわかってしまうが)というキャッチフレーズが使われ、「これどういう意味?」と聞かれ、説明したことがある。聞いた本人の反応は「人は後ろめたいことほどカッコよく言うんだね」というものだった。さてモルヌピラビルの件に話を戻そう。この0号カプセルを飲み込むのは嚥下機能が低下した高齢者では相当つらいだろうと思う。そして発熱で弱っている人や咳がある人は普通に飲めるだろうか?別にメルクを批判しているわけではない。今は緊急時なのである程度有効性があるものを世に出すのは大きな意味があるし、メルクは賞賛に値する。まあ、その意味では開発側も飲み難さ承知の苦渋の思いで、世に出したのではないだろうか?それでもなお現場で情報提供するMSDの皆さんには、この飲みにくさをどうするべきか、具体的に言えば顔を下向きにするとカプセル剤は飲みやすいというごく単純な情報であっても、よくある吸入薬の動画解説と同じように積極的な情報提供をしてほしいと思う。同じことは実際に患者に接する医療従事者の皆さんにも訴えたい。私がこう言いたいのはこの件で過去のある出来事を思い出したからでもある。今から四半世紀前に私はあるHIV感染者と知り合った。いわゆる非加熱血液製剤により不幸にもHIVに感染させられてしまった被害者だ。その人が私の前に500円玉のような、トローチみたいな粒を差し出し、「かじって飲んでみて下さい」と言った。訳も分からず、とりあえず口に含んでバリバリ歯で噛み砕いた。一言で言えば「不味い」、本来なら大量に口にすることはない化学調味料を一気に口の中一杯に突っ込まれたような感覚だった。私のまずそうな表情を見て取ったのだろうが、その人は顔色一つ変えずこう言った。「それHIVの薬ですよ。私たちは『エイズ野郎』と周囲に蔑まれ、いつもビクビクしながら生きている。少しでも前向きになるために治療をするわけですが、そのためということでこんなもの飲まされているんです。これを飲むたびにヒトとしての存在を否定されているかのようです。わかります?」この時、私が口にしたのはジダノジン(ddI、商品名・ヴァイデックス)だった。新型コロナに対する差別問題は以前ほど耳にしなくなった。とはいえ、テレビに出演する一般人の元感染者のほとんどがモザイクで顔を隠している状況は、減ったとはいえ差別が現存することをうかがわせる。そんな状況下で感染者がこの薬を服用した時どんな思いに至るだろうと考えずにはいられない。飲みやすくするための方法について積極的な情報提供を訴えるのは、ただでさえ感染という現実で苦しんでいる彼らにこれ以上の苦痛を味あわせないためである。同時に今回の1件で改めて考えたのが、新型コロナの法的取扱いに関する議論である。巷では感染症法上の位置付けを5類相当にすべきという声もある。奇しくもケアネットでも医師1,000人へのアンケートを公表している。いずれは5類になるだろうことは多くの医師が認識しているだろうし、このアンケートで最も多かった「今後状況の変化に応じて5類相当に」という回答も直近でと言うよりは「将来的に」という比較的ロングスパンの認識だろうと思う。また、「どのような状況になれば、5類相当に変更すべきと考えますか?」という質問では「経口薬が承認されたら」という回答が最も多いが、それについても今のモルヌピラビルのことを意味しているわけではないだろうとも思う。そもそも今でも新型コロナの治療は従来の感染症とはかけ離れ過ぎた現実がある。モルヌピラビル登場までに適応を取得した5種類の薬剤のうち2種類は抗体医薬品であり、デキサメタゾンを除けば、どれもかなりの高薬価。とりあえず現状は有効性が認められたものは総動員する過渡期で、まだまだ「牛刀で鶏を割く」がごとし。というか田んぼのあぜ道に無理やりレーシングカーを走らせているようなアンバランスさがあると言ってもいいかもしれない…。「葦の髄から天井を覗くな!」とお叱りを受けるかもしれないが、少なくとも私自身はこの0号カプセルで提供するしかなかったモルヌピラビルの現実が、まだまだ新型コロナの5類は無理と暗示しているように思うのだ。

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新鮮なネタとしての魚:うつを予防するのは本当か(解説:岡村毅氏)

 魚を食べるとうつにならないというのは本当かという研究である。正確には魚などに多く含まれるオメガ3脂肪酸を多くとるとうつにならないかという研究である。1)魚は健康に良いとされている。2)魚を食べている人は健康そうである。知り合いのAさんもBさんも、ジャンクフードは食べずに日本食を好み、運動をし、そして魚をよく食べている。3)そこで手近な100人くらいの人を調査した。魚を食べているかと、健康状態を聞いた。そしたら魚を食べている人は確かに健康だった。うつも少ない。4)魚はうつを予防する。 …典型的な間違いである。 頑張って魚を食べている人は、健康に気を使っているだろうし、所得も高そうだし、余裕もありそうだ。こうした要因が介在しているから見かけの関係が見えてしまったにすぎない(交絡といいます)。 本当に効果があるのか調べるには、ある地点から前向きにオメガ3脂肪酸を摂取する群、しない群に分けて、その後のうつの発症を調べればよい。その結果は、何とオメガ3脂肪酸群の方がややうつが多かった。 本研究はVITALスタディ(Vitamin D and Omega-3 Trial)という大規模研究の一環である。わかったことは、ビタミンDもオメガ3脂肪酸も、心の健康には何ら効果がなさそうだということであった。 こう書くと、魚なんて食べても意味ないのだ、明日からはカップラーメンと酒だ、と早とちりする人がいるので、強く止めておきたい。要するに自分を大切にしている人は、食生活に気を付けているので健康だということにすぎない。一方で食生活に気を付けても、病気になるときはなることも忘れてはならない。機械じゃないんだ、人間だもの、と言うしかない。 運動とか、魚とか、野菜は健康に良いことは事実だが、それ自体がうつや認知症を予防することはない。同時に、自分のことを大切にして、自堕落な生活はやめた方がよくて(もちろん、したければしてもよい)、魚や野菜をきちんと食べて運動をしましょう、という当たり前の事実があるのだ。 ここで終わっては面白くないのでもう一歩話を進めよう。 人々は「〇〇を食べると病気にならない」という話が大好きである。私の専門分野でいうと、特定の油が認知症予防に効くという一時流行った説を吹き込まれて、高カロリーの油をたくさん摂取している人がたまにいた。「太りますよ、むしろ血管病変を介して認知症になりかねないです」と外来ではやんわりお伝えしている。そもそも〇〇を食べれば病気にならないなどというものは存在しない。していればみんなもう食べているだろう。人間は集団的には合理的な動きをするのだから。 一方で、そういうばかげた話を、怒りをもって眺めている専門家も多いが、それはそれで大人げないとも思う。みんなネタとして捉えて、おしゃべりをしているだけなのである。個人的な見解だが、テレビを真面目に信じている人は10%もいないのではないか? ハイデガーという哲学者は、人々は本質を忘れ(死を忘れ)おしゃべりをして過ごすものだと言ったが、典型的などうでもいいおしゃべりは「食べ物健康談義」であろう。だって誰も傷つけないし、ほどほど盛り上がるし、「某ワクチンが危険だ」みたいな陰謀論のようにどぎつくないから友達をなくすこともないだろう。 問題は本当に信じているごく一部の人だけだ。テレビや週刊誌のビジネスの邪魔はしたくはないが、まともな情報は公共的な組織に提供してほしいものだ。たとえば、厚生労働省は『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』という事業できちんとした情報を提供している。 とても参考になるので一読を勧める。

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NNKよりPPK、理解不能の方はGGRKSでEOM【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第44回

第44回 NNKよりPPK、理解不能の方はGGRKSでEOM「人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻の如くなり」歴史ドラマなどで、織田信長が能を舞いながら謡う有名な一節を耳にしたことがあると思います。人の寿命は延び続け、50歳でも若造呼ばわりされる可能性があるのが日本です。今では人生100年に手が届こうとしています。一方で、健康寿命が平均寿命より男性は約9年、女性は約12年も短いことが分かっています。健康寿命は、日常生活に制限なく自立して過ごせる期間です。寿命が延びても、寝たきりではつまらない、元気で長生きしたいと望むことは当然です。診察室で出会う多くの高齢の方々は、亡くなる直前まで元気で過ごし、コロッと逝きたいと話します。これが「ピンピンコロリ:PPK」です。現実には、残念ながら寝たきりとなり終焉を迎える方もいます。これが「ネンネンコロリ:NNK」です。100歳近くの年齢で、ピンピンして健康な長寿の人はそんなに多くはありません。介護が必要となる主な原因としては、認知症・脳血管障害・高齢による衰弱・骨折・転倒などが挙げられます。その背景にあるのが、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病です。平素からの生活習慣の改善や、必要な治療をしっかり受けることは大切です。どんなに気を付けても加齢現象を回避できないことは事実です。PPKを具現化できることは非常に稀であり、宝くじに当選するようなことなのです。自分は、高齢者が自ら支援を忌避せざるを得ない雰囲気を日本の社会が醸成していることに問題があると考えます。認知症や障害を持っても、安心して生き、そして旅立つことができる社会の確立が必要なのでしょう。閑話休題お年寄りの聖地、おばあちゃんの原宿と呼ばれる巣鴨の地蔵通り商店街を歩く方々の、全員がPPKやNNKの意味を知っていると思います。それだけ人口に膾炙する略語です。略語は、長い語を簡潔に呼ぶためにつくるもので、「高等学校」を「高校」、「ストライキ」を「スト」などとする場合や、また、ローマ字の頭文字だけを並べたものもあります。「日本放送協会」を「NHK」などです。仲間内だけのことばとして、隠語として用いることもあります。医学・医療の世界で生きていく場面でも、略語はもはや必須です。とくにチャットやメールでは、長いスペルを短縮すべく、英語でも略語が盛んに利用されます。略語はカジュアルな場面だけでなく、英語のビジネスメールや、論文投稿や学会参加の文書にも頻繁に登場します。紹介してみましょう。TBA=to be announced=後日発表TBD=to be determined=未定TBS=to be scheduled=調整中FYI=for your information=参考までASAP=as soon as possible=できるだけ早くこれらは頻用される有名なものです。EOMはend of messageの略で、「メッセージの終わり」を意味します。メールの件名の最後に付けると、メールの本文はないことが伝わります。メールの件名に「本日の会議16時30分大会議室、EOM」とすれば件名だけで本文は空っぽで大丈夫です。自分は、少しヒョウキンな笑いを誘う略語を使ってしまいます。オヤジギャグ好きの悪い癖です。TGIFは、Thank God, It's Friday! の意味で、金曜日の夕方のメールの最後に相応しいです。花の金曜日を楽しみましょう! を意味します。土曜日にも仕事がある方には使用しないようにしましょう。GGRKSは、「ググれカス」の略で、少し調べればわかることを質問する人に対して、「それぐらいグーグルで検索しろ(ググれ)、カス」という意味で使われる下品な略語です。GGRKSは、数年前に「現代用語の基礎知識」に収録もされ流行しましたが、今では目にする機会は激減しています。では最後にクイズです。GN8, TNTわかりますか? GN8=good n eight=good night=おやすみなさい。TNT=till next time=また会いましょう。

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第92回 改定率で面目保つも「リフィル処方」導入で財務省に“負け”た日医・中川会長

2022年診療報酬改定の作業が大詰めへこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、まん延防止等重点措置が適用される前に足慣らしをと、高尾山の裏側の山域、裏高尾に行って来ました。先々週、首都圏に降った雪が少しは残っているだろうと足回りは冬山装備で向かったのですが、雪は残念ながらほぼゼロ。首都圏が大雪のときは低気圧が関東南岸を通過するケースがほとんどですが、今回は通過が南過ぎたため高尾山や奥多摩まで十分な雪を降らせなかったようです。雪山が楽しめず落胆、下山は日和ってリフトを使ってしまいました。さて、診療報酬改定の作業が大詰めを迎えています。1月14日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、2022年度改定に向けた「議論の整理」が固められました。今後、パブリックコメントと公聴会を経て、具体的な改定内容である「個別改定項目」に基づく論議が行われ、2月上旬には新点数・新施設基準が決定し、答申となる予定です。ということで、今回は少々遅ればせながら、改定率決定の舞台裏と、注目の新設項目「リフィル処方」について考えてみたいと思います。政界とのパイプが細く、苦戦した日医・中川会長2021年末、2022年度の診療報酬改訂の改定率は、医師らの人件費などにあたる「本体」部分を0.43%引き上げるプラス改定とすることで決着しました。この0.43%という数字を巡っては、各紙がさまざまな分析記事を書いています。12月21日付の読売新聞は「日医vs財務省、診療報酬『痛み分け』」と題する記事で、日本医師会は「厚労族の加藤 勝信・元厚生労働相らとともに『プラス0.5%』を防衛ラインに設定していた」が、「0.3%台前半」という厳しい改定率を突きつけていた財務省に「切り込まれてしまった」と報じています。同紙はさらに、日医の中川 俊男会長が、前会長の横倉 義武氏と比べて政界とのパイプが細く、コロナ禍では政権批判とも取れる発言もあったとして、自民党の安倍 晋三元首相と麻生 太郎自民党副総裁は、「中川氏に配慮する必要はない」と横倉会長時代に行われた4回の改定率の平均である「0.42%を下回る水準にするべきだと主張した」とも書いています。「横倉平均」を0.1%上回る0.43%で決着こうした安倍、麻生両氏の意向や、本連載「第80回『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」でも書いた政権内で増した財務省の存在感に日医と厚労族議員は相当焦っていた、と見られています。読売新聞によれば、日医は最終的に、引退した重鎮の伊吹 文明・元衆院議長や尾辻 秀久元厚労相らの重鎮に協力を求め、岸田 文雄首相に直談判する機会を設けてもらい、「横倉平均」をわずかに0.1%上回る0.43%が実現した、とのことです。なお、読売新聞は、横倉氏自身も「0.42%を基準にしないでほしい」と政府側に水面下で求めた、とも書いています。「横倉氏としても会長時代の『横倉平均』を基に医療費の抑制が行われる事態は避けたいとの思惑があったとみられる」とのことです。日医に大きく歩み寄ったかたちの岸田首相ですが、今夏に予定される参院選での日医の集票力を期待しての決断であるのは確かでしょう。参院選で勝てば、衆院を解散しない限り最長3年間は選挙のない時期を迎え、それは岸田政権の盤石化につながります。リフィル処方を差し出した見返りとしての改定率いずれにせよ、日医・中川会長は岸田首相に改定率で大きな借りをつくったことは間違いありません。「第85回 診療報酬改定シリーズ本格化、『躊躇なくマイナス改定すべき』と財務省、『躊躇なくプラス改定だ』と日医・中川会長」でも書いたように、日医会長の最大の仕事はプラス改定を勝ち取ることです。今回はプラス改定に加え、横倉前会長の改定率も上回ることができたわけで、中川会長は面目をどうにか保てたと言えそうです。ただし、その面目と引き換えに日医が受け入れたのが、これまで反対の立場を崩してこなかった「リフィル処方」です。12月21日付の日本経済新聞は、「本体部分について財務省幹部は『数字を見れば大敗だが、流れは変えられた』と語る。改定率を0.1%下げる要素として処方箋を反復利用できる『リフィル処方』の22年度からの導入にメドを付けた(中略)。日医は長年反対していたリフィル処方を差し出した見返りとして、プラス改定率を引き出したとの見方もある」と書いています。一つの処方箋を使い回し利用リフィル処方とは、一定期間内に一つの処方箋を繰り返し利用できる仕組みで、英語の「refil」(補給、詰め替え)が語源です。リフィル処方においては、例えば患者に90日分の投薬を指示する場合であれば、計3回利用(使い回し)ができる30日分の処方箋を発行します。医療機関への通院回数が減るため、医師に支払われる診療報酬(再診料など)も減ります。リフィル処方は米国、英国、フランスなど、諸外国ではすでに導入されている制度です。一方、日本では2016年度診療報酬改定で類似した「分割調剤」が導入されたものの、「手続きが煩雑」などの理由で算定回数は伸びていません。分割調剤とは、同じ処方箋を使い回すのではなく、「定められた処方期間を分割する」というもの。90日分の投薬なら、例えば30日分の処方箋を3枚発行します。1)長期保存が難しい薬剤、2)後発医薬品を初めて処方する場合、3)医師による指示がある場合などに用途が限られ、分割回数の上限も3回までとなっています。日本薬剤師会、薬剤師の役割拡大に期待リフィル処方については、細かな制度設計(対象患者、対象薬剤、回数など)や関連する診療報酬、調剤報酬は未定ですが、日本薬剤師会は大きな期待を抱いているようです。1月13日付のMEDIFAXは、日本薬剤師会の山本 信夫会長のリフィル処方導入に対するコメントを報じています。リフィル処方では2回目の調剤以降、 医師の診療が前提ではなくなることについて山本会長は、 「(調剤を)続けるには患者のさまざまな情報がなかったら(判断)できない」と薬剤師の責任が極めて重くなると指摘、「覚悟を持ってやらないといけない」と話したとのことです。もっとも、知人のある薬剤師は「一部の医師は積極的にリフィルを活用するかもしれないが、処方日数は処方医の判断で何とでもなるので、当面は医師にとっての影響はほとんどないのではないか。薬剤師の責任が今まで以上に重くなることは確かだが、服用後の患者の状況を検査もなしにどう把握しろというのか」と話していました。ボディブローのようなダメージを医療機関に与えるリフィル処方については、医療費適正化の観点から、随分前からその導入が求められてきました。5年前の「経済財政運営と改革の基本方針 (骨太方針) 2017」では「医師の指示に基づくリフィル処方の推進を検討する」と明記されましたが、日本医師会の反対等もあり制度化は先送りにされてきました。今回の診療報酬改定でのリフィル処方導入に向けても、財務省は財政制度審議会において言及を重ね、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2021」にも盛り込んでいます。今回やっと導入に至った背景には、「第80回『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」でも書いた、政権内で増した財務省の存在感があったことは間違いないでしょう。リフィル処方導入は、最終的に昨年12月22日の鈴木 俊一財務相と後藤 茂之厚労相との大臣折衝で決着したとのことですが、1月14日のミクスOnlineは、鈴木財務相が同紙の取材に対し、「リフィル処方箋は譲れなかった」と話したと報じています。私自身は、このリフィル処方、将来的にはボディブローのようにじわりじわりとダメージを医療機関に与えるのではないかと考えています。最初の制度や点数の設定はおそらくマイルドかつ医療機関にもメリットがあるように組み立てられると思われます。ひょっとしたら、薬局や薬剤師のメリットは見えにくいかもしれません。しかし、それが診療報酬の面白いところです。かつて取材した中医協委員も務めたある医師は「新設される項目については点数の多寡は大きな問題ではない。その項目ができたこと自体が重要だ。そこを足がかりに、将来どうにでも仕組みを変えていけるのだから」と話していました。今回の診療報酬改定でのリフィル処方の影響は、改定率にして-0.1%と言われていますが、もし国民がその割安感と利便性に気づいたら、それ以上の影響が出てくるかもしれません。また、検査もできず、患者の状態を適切に判断できない薬剤師に患者が不安を感じるのだとしたら、その薬剤師に何らかの“判断”機能を持たせる動きが出てくる可能性もあります。そういった意味でも、今回の“診療報酬改定シリーズ”、数字にこだわるあまり、リフィル処方を飲んだ日医・中川会長は、財務省に“負け”たと言えるのではないでしょうか。

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英語で「安心してください」は?【1分★医療英語】第11回

第11回 英語で「安心してください」は?I’m worried about the surgery tomorrow.(明日の手術のことが心配です)It must be scary, but you are in good hands.(怖いですよね、でも安心して任せてください)《例文1》Dr. Jones is an experienced surgeon. You are in good hands.(ジョーンズ先生は経験が豊富なんですよ。安心してください)《例文2》I trust Dr. Smith. My dad is in good hands.(私はスミス先生を信頼している。彼になら父を任せられるわ)《解説》“hand”を使ったイディオムとして、“at hand(availableと同義)”“on the other hand(他方で)”など、いくつかよく用いられる表現がありますが、医療現場での患者とのコミュニケーションで最もよく用いられるのは、この“in good hands”かもしれません。直訳すると、「あなたは良い手の中にある」となりますが、その「手」は、経験豊富な外科医の手を想像するといいかもしれません。経験豊富で腕の確かな外科医の手にかかれば、手術を安心して任せられますよね。このように、“in good hands”という慣用句は「スキルのある人、経験のある人のケアを受けている」「良いケアを受けている」という意味合いで用いられます。また、上の会話で出てくるように、患者が不安を訴えているときなどに、「私たちがついていますよ、安心して任せてください」と伝える際にも使える表現です。医療現場に限らず、あらゆる分野で高度な技術を持つ人について話す際に使える表現ですので、ぜひ覚えてください。講師紹介

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第91回 モルヌピラビル承認報道、新聞各紙が伝え損ねた重要ポイント

年末からここ最近にかけてどうにも報道での扱いが気になって仕方がないものがある。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の軽症患者でも使える世界初の経口薬・モルヌピラビル(商品名・ラゲブリオ)のことである。これまで軽症者で使える経口薬がなかったせいもあり、メディアではまさにフィーバー状態だ。一方、SNS上では虚実入り混じった情報が飛び交う。正直溜息が出て仕方がない。まず、各社の第一報を見てみよう。「『モルヌピラビル』新型コロナの飲み薬として正式に承認」(NHK)「メルク製のコロナ飲み薬を厚労省が特例承認 軽症者向け、国内初」(朝日新聞)「国内初、コロナ飲み薬を承認 米メルク製」(産経新聞)「厚労省、コロナ飲み薬初承認 軽症、中等症向けモルヌピラビル」(毎日新聞)「コロナ軽症飲み薬、国内初承認 週明けにも使用開始」(日本経済新聞)「国内初のコロナ飲み薬『モルヌピラビル』を特例承認…厚労省、年内分として20万回分配送へ」(読売新聞)ご存じのようにモルヌピラビルは(1)軽症・中等症I、(2)重症化リスク因子が1つでもある、(3)発症から5日以内の投与に限定、(4)催奇形性があるため妊婦には使えない、という縛りがある。私個人がもし第一報を書くとしても、この4点は最低限であり、かつ読者に具体的にイメージを沸かせるためには、重症化リスクは最低でも1つは例示し、催奇形性についても噛み砕いて触れることをポイントに挙げる。これらを踏まえたうえで、4項目に各1点、合計4点満点で各社の第一報を採点すると、満点はなく3点がNHK、2点が朝日新聞、読売新聞、1点が産経新聞、毎日新聞、日本経済新聞。NHKは重症化の具体例にまったく言及がなく、朝日新聞は発症から5日以内の点と催奇形性の表現への甘さ、読売新聞は重症化リスクの具体例の言及がなく、催奇形性に具体的には言及していないところが減点。残りの3社には言及するのも疲れる。多くの人が知っているように、読者は記事を読み流すので一度に全部書いたとて覚えてはくれない。たとえば、繰り返し“重症化リスクがある人のみ”と書いても、重症化リスクがない新型コロナの軽症感染者が「先生、あの新聞に書いてあった飲み薬出してください」というのは目に見えている。それだからこそ重要な点については繰り返し触れる必要があり、第一報はそれなりに情報を盛り込んでおかねばならないはずだ。また、読者に与える印象からも表現は問われる。たとえば、発症から5日以内の部分も読売新聞の「発症5日目までに飲み始める必要がある」と、朝日新聞の「発症から5日以内で効果が期待できる」では読者の受ける印象は相当違う。ちなみに私は今回の件で『重症化リスクの具体例提示』と『発症5日以内の服用開始必須』を一般読者に伝えることはかなり重要だと思っている。というのも重症化リスクのある人が、新型コロナを疑われる症状を自覚しながら放置や我慢で受診を先延ばしすると、せっかくの服用機会を逃し、ワクチン未接種者では致命的になる恐れさえもあるからだ。だからこそ報道は読者自身が「重症化リスクのある人間に該当するかどうか」をイメージできる具体例が必要であり、5日以内という切迫感も伝えねばならない。また、流通が律速段階になることも忘れてはならない。新型コロナ患者が発生する可能性がある医療機関や薬局は国から供給委託を受けたMSD社が開設した「ラゲブリオ登録センター」に事前登録し、必要になったらセンターに供給を依頼して、1~2日で医薬品卸を通じて薬が届けられるという「タイムラグ」がある。これを考慮すると余計のこと、発症から5日目までの服用という情報は大きな意味を持つ。さて、一方SNS上では、「まあよくもそんなモノを…」と思いたくなる重箱の隅突きのような情報も飛び交っている。こうした情報は「アンチ・モルヌピラビル派=ファビピラビル・イベルメクチン礼賛派」による「外資系薬叩き」が主なものだ。その第一の槍玉にあげられているのが「催奇形性」である。実際、モルヌピラビルの添付文書では、妊娠したラットでの実験から、器官形成期のラットで、ヒトでのモルヌピラビル代謝成分(NHC:N-ヒドロキシシチジン)の臨床曝露量の8倍で催奇形性や胚・胎児の死、3倍以上で胎児の発育の遅れ、器官形成期の妊娠ウサギでは18倍以上で胎児体重が低値になることがわかっている。一般的に催奇形性実験では、ヒトで臨床曝露量の10倍以内で催奇形性が示される場合は要注意であることは確かだ。その意味ではモルヌピラビルでは注意が必要で、実際妊婦や妊娠している可能性がある女性での投与は禁止されている。また、同じ理由で妊娠可能な女性が服用する際は投与中と投与終了後一定期間(臨床試験段階では最低4日間)の避妊が求められている。もっともこうしたモルヌピラビルを批判する人たちの一部が擁護するファビピラビルでも催奇形性が指摘されているのは周知のことで、しかもこちらの場合はヒトの臨床曝露量以下でマウス、ラット、ウサギに加え、ヒトに近い霊長類のサルでも催奇形性が認められているのだからはるかに危険である。また、やはりSNS上で騒がれているのが、モルヌピラビルの変異原性試験の結果である。ご存じのように遺伝子に突然変異を起こす可能性、いわば発がん性を評価する試験だが、添付文書では細菌を使って行うと陽性反応が認められ、げっ歯類を用いた2種の変異原性試験で変異原性は認められず、in vitroとラットで染色体異常を起こすかどうか調べた小核試験は陰性だったことが記載されている。もともと細胞の世代交代の早い細菌ではごくごく小さな突然変異は起こりやすい。しかし、細胞の世代交代が遅い齧歯類で実験した結果では異常は認められないため、この試験結果があってもヒトではとくに問題がないと考えるのが妥当な解釈である。さらに言えば、モルヌピラビルの服用期間が最大5日間ということを考えても、突然変異が継続して発がんに至る可能性は極めて低いということになる。いやはや皆さん、こんな揚げ足取りをするのだと感心してしまったが、逆に言えば報道がより正確な情報を伝えるためには、場合によってこうした非臨床試験の結果にも目を配り、その解釈も伝える必要があるという点では冷ややかに横目で眺めているわけにもいかないと、気を引き締め始めている。

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