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英語で「難しい天秤です」は?【1分★医療英語】第93回

第93回 英語で「難しい天秤です」は?I wonder if we should stop anticoagulation given recent GI bleeding.(最近あった消化管出血を考えると、抗凝固薬をやめるべきなのか悩んでいます) It is a difficult balancing act between risks and benefits.(それはリスクとベネフィットの難しい天秤ですよね)《例文1》The decision to proceed with the surgery requires a careful balancing act.(手術に進むかの決断には注意深いバランスが必要です)《例文2》We need to think about a delicate balancing act between pain control and sedation.(疼痛コントロールと鎮静の間で繊細な天秤を考える必要があります)《解説》医療現場では、相反する2つの事実を天秤に掛け、バランスを取らなければならないことはしばしばです。治療の益と害、手術をすべきかどうか。そんなときに、「対立する2つの間でバランスを取らなければならない=難しい天秤に掛けなければならない」という状況に置かれます。そういった際、患者さんへの説明、あるいは医療者同士の議論の場で有用な表現が、この“balancing act”です。“balancing act”は、本来は「曲芸における綱渡り」を意味する言葉だそうです。綱渡りは、絶妙なバランスを取りながら綱の上を渡る曲芸。医療者にも医療上の絶妙なバランスを求められることがありますが、そのようなバランスを取って決断していくことを“balancing act”という言葉で表現し、「両立させること」「バランスを取ること」という意味を持ちます。たとえば、冒頭の会話のシチュエーションはこのような感じです。心房細動の既往があり、血栓症のリスクが高い患者に消化管出血が起こった。血栓のリスクも、出血のリスクも高く、今後の抗凝固薬をどうすべきか…。この血栓リスク、出血リスクの両者は難しい天秤だと思いますが、それらを慎重に測りながら、どこかに線引きをして決断をしなければなりません。そんなシチュエーションを表現するのに、この“It is a balancing act”は最適な表現です。一般英会話の教科書で見ることは少ないかもしれませんが、医療現場ではよく登場する表現ですので、そのまま覚えてしまうとよいでしょう。講師紹介

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第172回 “治験後進国ニッポン”、医療のお宝情報にたどり着けない仕組みが原因か

先日、国産の新型コロナワクチン登場を取り上げたが、そもそも国産ワクチンが海外産ワクチンに比べて登場しにくいのは、臨床試験(以下、治験)実施の難しさがあるように思う。たとえばファイザー製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンのコミナティの治験は、わずか4ヵ月弱で4万人を超える被験者がエントリーしている。日本でこの期間と規模の被験者を集めることができるかを問われれば、多くの人が“否”と答えるだろう。その理由として挙げられるのが、まず医療制度の違いである。国民皆保険による安価な医療費と医療機関へのフリーアクセスという制度に慣れ切った日本人にとって、敢えて治験に参加するほどのメリットを感じない人がむしろ多数派ではないだろうか。にもかかわらず、場合によっては二重盲検試験で比較対照にプラセボ(偽薬)を使うという前提ならば、「なんで治療されるかどうかわからないものに参加しなければならないの?」となってしまう。さらにいえば治験そのものに対する情報が少なく、イメージも決して良いとは言えない。今でも嫌悪感を含んだ「人体実験」「ヒトをモルモットにしている」との表現は、医療にそれほど知識のない人の間では普通に使われている。この背景にあるのは、かつては製薬企業が治験の実施そのものを広い意味で企業秘密と取り扱っていた時代があり、被験者募集情報が広く公開されないまま水面下で実施されていた。こういった現実もある種、一般市民に対して“怪しいこと”というイメージを醸成してしまった可能性がある。実際、私が医療専門紙記者となった1990年代前半はやはり治験の被験者募集情報が具体的に公表されていることはなく、あくまで治験参加医師とそこに受診する患者との間のみでやり取りされていた。しかも、中には治験であることを患者に説明せずに行われていたケースもあったと聞く。実際、私自身そうした医師の告白を直接聞いたこともある。また、それとは別の医師から「やはり保険診療の中で『治療してもらって当たり前』という前提が患者にはあるため、治験参加を打診するにしてもどうしても口幅ったい物言いになってしまう。今振り返って、厳密な意味でのインフォームド・コンセントになっていたかと言われれば、そう言い切れない」と吐露されたことがある。もっとも当時と比べれば、この状況は大きく改善された。2000年前後からは製薬企業が新聞への全面広告で被験者募集を行うようになった。当時、新聞でとある治験の広告を初めて目にした私は、思わず「うわ!」と声が出たほどだった。そして今ではインターネット上で検索すれば、すべてではないものの治験情報へのアクセスが可能になり、診療ガイドライン上に定められたレジメンが尽きてしまった固形がんの薬物療法中の患者が治験に参加し、公のシンポジウムなどで「患者にとっては治験も治療手段の1つ」と語る時代になった。とはいえ、まだ十分とは言えない。そもそも治験情報自体が一部の患者団体や製薬企業、あるいは医療機関、各種団体などのホームページに分散して存在しているのが現状である。これらの中で一元的にまとまった情報源としては、臨床研究法と再生医療等安全性確保法に基づき試験実施者が厚生労働大臣に対して実施計画の提出などの届出手続を行うシステムで国立保健医療科学院が運営する「臨床研究等提出・公開システム(jRCT)」がある。もっとも前述のようなあくまで試験者の届け出システムで、一般人が検索することは“おまけ”程度の位置付けという側面もあるのか、やたらと使い勝手が悪い。検索ページを見ればそのことは一目瞭然である。たとえば検索時の選択項目の1つである「企業治験」「医師主導治験」「製造販売後試験」「使用成績調査」などについて、一般人で違いを簡潔に説明できる人は稀だろう。今回のコロナ禍の最中は各種治験情報の確認のため、高頻度でこのサイトを利用したが、一般人と比べて医療情報を多く持つ自分でも、検索画面ではしばしば迷う。私自身、「何とかならないものか」と思っていた一人である。そのようなこともあってか現在、jRCTはサイトの改修作業に入り始めている。そうした中でこの6月にややトピック的な動きがあった。厚生労働省で記者会見が開かれた「臨床試験にみんながアクセスしやすい社会を創る会」の設立である。同会は全国がん患者団体連合会(全がん連)や日本難病・疾病団体協議会、やはり希少疾患対策に取り組むNPOのASrid(アスリッド)といった患者組織と順天堂大学、国立がん研究センターなどから共同発起人が参加し、厚生労働省医政局研究開発政策課治験推進室、jRCTを運営する国立保健医療科学院、日本製薬工業協会(製薬協)もオブザーバーに参加。jRCTをユーザー(患者)フレンドリーなサイトに改修し、治験情報がワンストップで得られるようにすることを目標に政策提言などを進めるために設置されたという。会見で共同発起人の桜井 なおみ氏(全がん連理事)は「患者だけでなく、研究者でも隣の医療機関や時には自分の所属医療機関でどのような研究が現在実施されているか探せない問題もある。患者としては適切なタイミングで適切な臨床試験に参加するチャンスを失っている。ここを解決するためには患者会の力だけでは困難で、医療従事者、研究者、創薬関係機関の皆さんとともに多様な目線を取り入れて情報発信することが必要ではないかということで、今回の会設立に至った」と説明した。会としては2025年をデッドラインとして、現状の治験情報発信の課題とその解消法の議論に始まり、患者にわかりやすい具体的な情報公開の方法の提言などを行う。また、共同発起人の1人でASrid理事長の西村 由希子氏は希少疾患の特有の悩みとして「患者会がある疾患では、(製薬)企業も患者が治験情報へアクセスしやすくすることも可能だが、希少疾患は患者数が少ないために患者会そのものを作るのが難しい場合もある。一方で医師も大規模な治験実施が困難で、どうしても各医師の周囲の患者を対象とした治験になりがちで、結果として地域格差、機会格差にも繋がると考えている」と語った。がん、希少疾患の場合は治療選択肢が限られる分、治験情報入手は命綱でもある。その意味で今回の動きは自然なことと言えるし、行政や企業、医療機関なども含めてより大きな枠組みが動き出した意義は大きい。もっともこれまでのjRCTも含め、とかく公的機関の情報発信は良いものを出しても、読まれる、アクセスされるという点でリーチが足りないという側面があるのも現実だ。この点を質疑で尋ねた。桜井氏は「宝物のような情報があるのにたどり着けないということを私達も多く経験している。実はjRCT自体も子供向け啓発の資材などを作っていたが、私達もそれを知らなかった。それが現状なので、まだ病気になっていない人たちも含めた啓発のためのシンポジウム、教育のようなものにもしっかり取り組んでいきたい。一見無駄なように見えても発信し続けることが、とにかく必要だと思う」と回答した。最後の一言はまさに報道でも同じである。何かを報じたから明日から世の中がドラスティックに変わることは、ほとんどあり得ない。この医療専門紙記者の世界に生きてきて約四半世紀、何回も何回も似たようなことを書いて、ようやく1割程度の人に腹落ちしてもらえれば“もうけ”くらいが現実と私は思っている。いや、1割程度だったら大成功かもしれない。“治験後進国ニッポン”で、小さいかもしれないが起きた新たな動きが10年後、20年後に芽を吹いてもらえば、それこそが実は将来起こり得るかもしれない新たなパンデミックの際に他国に遅れを取らない国産ワクチン登場のためのシーズと言えるのではないだろうか。

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心不全患者と漢方薬の意外な親和性【心不全診療Up to Date】第11回

第11回 心不全患者と漢方薬の意外な親和性Key Points西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦い意外とある! 今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンスその1 西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦いわが国における心不全患者数は増加の一途を辿っており、とくに高齢心不全患者の増加が著しいことは言わずもがなであろう。そして、その多くが、高血圧や心房細動、貧血、鉄欠乏といった併存症を複数有することも明らかとなっている。つまり、高齢心不全診療はMultimorbidity(多疾患併存)時代に突入しており、単に心臓だけを診ていてもうまくいかないことが少なくない1)。日本心不全学会ガイドライン委員会による『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では、「生命予後延長を目的とした薬物治療より生活の質(QOL)の改善を優先するべき場合が少なくない」とされており、高齢心不全ではとくに「QOLをいかに改善できるか」も重要なテーマとなっている。では、その高齢心不全患者において、QOLを低下させている原因は何であろうか。もちろん心不全による息切れなどの症状もあるが、それ以外にも、筋力低下、食思不振、倦怠感、不安、便秘など実に多くの心不全周辺症状もQOLを低下させる大きな原因となっている。しかしながら、これらの症状に対して、いわゆる“西洋薬”のみでは対処に困ることも少なくない。そこで、覚えておいて損がないのが、漢方薬である。漢方薬と聞くと、『the職人技』というようなイメージをお持ちの方もおられると思うが、実は先人の知恵が集結した未来に残すべき気軽に処方できる漢方薬も意外と多く、ここではわかりやすく簡略化した概念を少しだけ説明する。漢方の概念は単純な三大法則から成り立っており、人間の身体活動を行うものを気、血、水(津液)、精とし、これらが体内のさまざまな部分にあり、そしてそれが体内を巡ることで、生理活動を行うと考えられている。それぞれが何を意味するかについては図1をご覧いただきたい。(図1)画像を拡大するでは、どのように病気が起こり、どのようにそれを治療すると先人が考えたか、それを単純にまとめたものが図2である。(図2)画像を拡大するこのように、気・血・水のバランスが崩れると病気になると考えられ、心不全患者に多いとされているのが、気虚、血虚、瘀血、水毒(水滞)であり、その定義を簡単な現代用語で図3にまとめた。(図3)画像を拡大するそう、この図を見ると、心不全患者には、浮腫を起こす水毒だけでなく、倦怠感を引き起こす気虚、便秘を引き起こす瘀血など、心不全周辺症状にいかに対処するかについて、漢方の世界では昔からおのずと考えられていたのではないかと個人的には思うわけである。では、具体的に今日から役立つ漢方処方には何があるか、説明していきたい。その2 意外とある!今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンス今日からの心不全診療に活かせる漢方薬、それをまとめたものが、図4である2)。(図4)画像を拡大するまずは即効性のある処方から説明していこう。漢方といえばすぐには効かないという印象があるかもしれないが、実は即効性のある処方も多くある。たとえば、高齢者の便秘に対してよく用いられる麻子仁丸がそれに当たる。また効果のある患者(レスポンダー)の割合も多く、高齢のATTR心アミロイドーシス患者の難治性便秘に対して有効で即効性があったという報告もある3)。なお、心不全患者でもよく経験するこむら返りに対して芍薬甘草湯が有名であるが、この処方には甘草が多く含まれており、定期内服には向かず、繰り返す場合は、効果の面からも疎経活血湯がお薦めである(眠前1~2包)4)。また、心不全患者のサルコペニア、身体的フレイルに対しては、牛車腎気丸、人参養栄湯が有効な場面があり、たとえば人参養栄湯については、高齢者に対する握力や骨格筋への良い影響があったという報告もある5)。心不全患者の食思不振、倦怠感に対しては、グレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌抑制阻害作用が報告されている六君子湯6)、補中益気湯、人参養栄湯が、そして不安、抑うつ、不眠などの精神的フレイルに対しては、帰脾湯、加味帰脾湯がまず選択されることが多い。これらの処方における基礎研究なども実は数多くあり、詳細は参考文献2を参照にされたい。そして、心不全患者で最も多い症状がうっ血であり、それに対しても漢方薬が意外と役立つことがある。うっ血改善のためにはループ利尿薬をまず用いるが、慢性的に使用することで、RAAS系や交感神経系の亢進を来し、腎機能障害、電解質異常、脱水などの副作用もよく経験する。そんな利尿薬のデメリットを補完するものとして漢方薬の可能性が最近注目されている。うっ血改善目的によく使用する漢方は図4の通りであるが、今回は研究面でもデータの多い五苓散を取り上げる。五苓散の歴史は古く、約1,800年前に成立した漢方の古典にも記載されている薬剤で、水の偏りを正す水分バランス調整薬として経験的に使用されてきた。五苓散のユニークな特徴としては、全身が浮腫傾向にあるときは尿量を増加させるが、脱水状態では尿量に影響を与えないとされているため7)、心不全入院だけでなく、高齢心不全患者でときどき経験する脱水による入院、腎機能障害などが軽減できる可能性が示唆され、その結果として医療費の軽減効果も期待される。五苓散は、脳外科領域で慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術による血腫除去後の血腫再発予防を目的として、経験的に使用されることも多い。そのDPCデータベースを用いた研究において入院医療費を比較した結果、五苓散投与群のほうが非投与群と比較して有意に低かったという報告がある8)。五苓散の心不全患者への実臨床での有用性についても、症例報告、ケースシリーズ、症例対照研究などによる報告がいくつかある2)。これらの結果から、心不全患者において五苓散が有用な症例が存在することは経験的にわかっているが、西洋薬のように大規模RCTで検証されたことはなく、そもそも漢方エキス製剤の有用性を検証した大規模RCTは過去に一度も実施されていない。そこへ一石を投じる試験、GOREISAN-HF trialが現在わが国で進行中であり、最後に紹介したい。この試験は、うっ血性心不全患者を対象とし、従来治療に五苓散を追加する新たなうっ血戦略の効果を検証する大規模RCTである9)。目標症例数は2,000例以上で、現在全国71施設にて進行中であり、この研究から多くの知見が得られるものと期待される。循環器領域は、あらゆる領域の中でとくにエビデンスが豊富で、根拠に基づいた診療を実践している領域である。今後は、最新の人工知能技術なども駆使しながら、さらに研究が進み、西洋医学、東洋医学のいいとこ取りをして、患者さんのQOLがより向上することを切に願う。1)Forman DE, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2149-2161.2)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.3)Imamura T, et al. J Cardiol Cases. 2022;25:34-36.4)土倉 潤一郎ほか. 再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日本東洋医学雑誌. 2017;68:40-46.5)Sakisaka N, et al. Front Nutr. 2018;5:73.6)Takeda H, et al. Gastroenterology. 2008;134:2004-2013.7)Ohnishi N, et al. Journal of Traditional Medicines. 2000;17:131-136.8)Yasunaga H, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:817616.9)Yaku H, et al. Am Heart J. 2023;260:18-25.参考1)Kracie:漢方セラピー2)TSUMURA MEDICAL SITE 「心不全と栄養~体に優しく、バランスを整える~」

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英語で「妊娠している可能性はありますか?」は?【1分★医療英語】第92回

第92回 英語で「妊娠している可能性はありますか?」は?Is there any possibility that you may be pregnant now?(現在、妊娠している可能性はありますか?)No, I’m not pregnant.(いいえ、妊娠していません)《例文1》Have you ever been pregnant before?(これまでに妊娠したことはありますか?)《例文2》She is expecting.(彼女は妊娠しています)《解説》女性の患者さんに画像検査や処方を行う際、妊娠の可能性について聞く必要がありますが、英語ではどのように聞けばよいでしょうか。こういったときは、“pregnant”(妊娠している)という形容詞を使うと便利です。最もシンプルな表現としては、“Are you pregnant now?”(現在、妊娠していますか?)と聞くことができます。とはいえ、本人に妊娠の自覚がない場合でも妊娠している可能性があるため、“Is there any possibility that you may be pregnant now?”(現在、妊娠している可能性はありますか?)といった丁寧な表現で聞くことが望ましいでしょう。また、妊娠を表す他の単語としては、“expect”(期待する、予期する)という動詞を使って“She is expecting.”という表現を使うこともあります。これは“She is expecting a baby.”を略したもので、「子供を期待している」、つまりは「妊娠している」「出産を控えている」という意味になるのです。講師紹介

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アルツハイマー型認知症の予防薬第二の扉(解説:岡村毅氏)

 前回のコラムでは扉がこじ開けられつつあると書いた。すなわち「認知症の初期の人」の症状進展を止める薬剤が出てきたと述べた。そうなると次は、第二の扉だ。アミロイドが溜まっているが、発症していない段階(プレクリニカル期)で止められないかが次の課題だと書いた。 イーライリリーは「第一の扉」で大変苦戦しており、期待されたsolanezumabは初期認知症に対するEXPEDITION試験が失敗した。そしてエーザイに先を越された。しかし次に控えていたdonanemabが、初期認知症に対するTRAILBLAZER-ALZ試験で挽回した。 この論文は、先行するsolanezumabのプレクリニカル期(第二の扉)に対する効果を見ている。アミロイド修飾薬としては世界初ではないかと思う。 残念ながら有意差はなかったようだ。とはいえ、次鋒として第一の扉をこじ開けたdonanemabに期待したいところである。 ここで筆者の立場を改めて開示しておくと、東京都健康長寿医療センター研究所で「認知症共生社会」の研究をしている。こう書くと、予防や薬剤開発とは対立するように思う人もいるが、それは誤解である。ヒトにとって最も重要な資産、つまり「時間」を延ばしてくれる良い薬が出てくることを切望している。創薬に関わっている仲間もたくさんいる。 将来、僕らはおそらく脳内の変化(たとえばアミロイドの増加)が中年期の健診でわかると、予防薬を飲むことになるだろう。そうすると、たとえば65歳で認知症になっていた人が68歳で認知症になる。さらに未来には75歳で認知症になる。死期も延びる。ヒトの時間資産が延びるわけだ。望ましいことである。 一方で、第一に「とはいえ」僕らは、いつかは認知症になるわけだから、認知症になったときにひどい扱いを受けたり、希望を失ったりしないような仕組みを作らねばならない。第二に認知症にならずに生きる期間が延びたけど、つまらない人生だし、冷たい社会だし、長生きが全然楽しくないというのでは意味がない。こうした課題に対して、すべての人が希望と尊厳をもって生きることができる社会を作るのが、東京都健康長寿医療センター研究所でのわれわれの仕事である。 というわけで、予防と共生は、仲は悪くないので誤解なきようにお願いします。

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英語で「ケースバイケース」は?【1分★医療英語】第91回

第91回 英語で「ケースバイケース」は?Do you think we should use this new mediation as our standard of care?(この新薬を私たちの標準治療として使うべきだと思いますか?)I think it depends. It seems to have some side effects too.(それはケースバイケースである[時と場合による]と思います。副作用もあるようですから)I agree. We should use it on a case-by-case basis.(同感です。それはケースバイケース[臨機応変に、個別対応]で使うほうがよいと思います)《例文》The side effects may vary from case to case.(副作用は症例ごとに異なります)《解説》日本語における「ケースバイケース」という表現には、多少意味が異なる2種類の使用方法があると思います。会話例の2番目の医師は、「質問に対する明確な単一の答えがないとき」の返答として「(物事の判断は)時と場合による」という意味で、「ケースバイケース」を動詞的に使っています。この意味を自然に英語にすると、“it depends (on something)”となります。一方で、3番目の医師は「ケースバイケース」を「臨機応変に[使う]」と副詞的に使っており、この場合は英語でもそのまま同じ表現で“on a case-by-case basis”となります。英語で“case-by-case”と表現する場合は、この慣用句としての副詞的な使い方が圧倒的に多いのです。類似表現として、《例文》のように“case to case”という言い方もできます。講師紹介

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第170回 キュウリ矯正ギプスが物語る、国内ジェネリック供給不足の原因

ついにそこまで“手を突っ込む”のかという印象がぬぐえない。厚生労働省(以下、厚労省)が7月31日に初会合を行う「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(以下、検討会)のことだ。これは昨年8月からスタートした厚生労働省医政局が設置した「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(座長:学習院大学経済学部教授・遠藤 久夫氏、以下、有識者検討会)の報告書で、後発医薬品、いわゆるジェネリック医薬品(以下、GE)業界の構造的な問題を話し合う場の設置が必要という内容が盛り込まれた結果である。すでに多くの医療関係者がご存じのように、2020年に福井県のGE企業・小林化工で製造した経口抗真菌薬の製造工程でベンゾジアゼピン系睡眠導入薬の成分が高用量で混入していることが確認され、死亡例を含む健康被害が発生した事件をきっかけに国内ではGEが供給不足という状態が2年以上も続いている。小林化工はGE企業としては中堅規模だったが、GE企業では大手でも自社以外に外部への委託製造があり、実は大手企業の製品でも“隠れ小林化工製品”のようなものがあり、この段階からGEの品薄が始まった。健康被害の原因は小林化工が製造手順に未記載の方法で医薬品を製造していたためで、その結果として業務停止命令に追い込まれた。しかし、事態はそれだけでは済まず、その後もGE企業ではこうした製造手順に基づかない製造や品質検査の不正が次々に明らかになり、国内最大手の日医工をはじめ複数社が業務停止命令を受け、さらなる供給不足状態に陥ったままだ。有識者検討会で問題として指摘されたのは、少量多品目製造と言われるGE企業自体が日本では190社もあることだった。要は「小規模多数社」で「少量多品目製造」を行っている、経済効率の低さだった。もともと薄利多売のGE企業の場合、企業活動を安定させるためには、大規模化が望ましいのは確かである。そこで有識者会議では新たにこのことを話し合う会議体の設置を提言した。実はこうした提言が官公庁から出されるのは初めてではないが、企業という民間ベースの話によりあからさまに踏み込む形での提言は、もともとは財務省主計局の十八番だった。主計局は旧大蔵省時代から、旧厚生省担当の主計官が講演などで国内の製薬業界や医薬品卸業界の企業再編を何度も唱え、それが業界紙に記事として掲載されると、読んだ企業関係者が「金目のことだけで勝手なことを言いやがって」と激怒する構図があった。かつて業界紙に身を置いた私も、先輩記者がそうした講演や主計官の個別インタビュー記事を執筆して自社媒体に掲載されると、その後1週間程度はあちこちの取材先で記事に対するボヤキを聞かされる“とばっちり”を食らった。ある時などはそうした記事が出た翌日に中堅製薬企業に取材に行ったところ、突如として取締役が目の前に現れ、「何なんだ、あの記事は!」と一方的に怒鳴り散らされ、「いやいや一つの意見ですから…」と言って無難に乗り切ろうとしたところ、今の時代ではありえないことではあるが、いきなり灰皿が飛んできたことがあった。一方、厚労省では時に同様のことが言及されることがあったが、最新の「医薬品産業ビジョン2021」などでは、GE企業の再編については、あえて言及を避けているかのような文言となっている。そんな厚労省がGE業界の構造について話し合う検討会の設置に踏み切るのだから、かなり危機感は強くなってきたのだろう。それもこれも厚労省自らがGE使用促進の旗振りをしていながら、供給不足になったことへの後ろめたさもあるのかもしれない。GE企業の在り方について議論をすること自体に私自身は反対ではない。むしろ大いに議論すべきだろうと思っている。ただ、それだけでは不十分とも考えている。置き去りになっている議論がいくつかあるからだ。この点で最も議論されているのが、スパイラル的に薬価が下がる現状の薬価制度の問題だが、今回はこの点の議論は棚上げにしておく。それはこれだけでおよそ本連載の2回分ぐらいの文字量になるからである。私個人として、今後、本格的議論が必要だと思っているのは、GEにどの程度の品質を求めるかである。一般的に日本のGEは高品質と言われる。この点を表すエピソードとして関係者の口から頻繁に飛び出すフレーズが「海外では製造工程で髪の毛程度が混入しても問題にならない」というもの。これはあくまで一番極端な例えである。先日、国外でヘルスケアビジネスに関わっている人が講演した内輪の勉強会に参加したが、その方はGEを例に挙げて「日本には高品質幻想がある」と語った。より具体的な例えとして「法的に求められている品質基準を90%とすると、海外のGE企業はこれをほんのちょっと超えるくらいを目指す。しかし、日本のGE企業は98%とか99%を目指しがち。確かに日本のGEの品質は高いが、日本を一歩出れば、求められているのは価格がすべて。これでは国際競争に勝てない」という趣旨の発言をしていた。これはまさにその通りである。こうした話は医薬品業界関係者からはよく聞く話だ。以前、ある外資系製薬企業の勤務経験者Aさんと話した時に、彼は本社のある国で、日本の文化を説明する時にきゅうり矯正ギプスを持参すると語っていた。これはきゅうりがまっすぐ実るようにするため、実が小さい時に被せる筒状のものである。Aさんは笑いながら、次のように語っていた。「多くの場合、このギブスを見せると、日本人以外は卑猥なことに使うんじゃないかと想像して薄笑いするんですよ。そこで種明かしをすると、『えええー、そんなことのために?』という反応を見せるんですよ。だって海外に行けば曲がったきゅうりを見ることはごく普通ですからね。日本人のこだわりはなかなか理解されないですよ」同じようなことは製薬だけでなく、医薬品卸でも耳にしたことがある。今から四半世紀前に自分が業界紙記者として医薬品卸担当をしていた頃のことだ。今でこそ医薬品卸では、ピッキングマシンなどを備えた大型物流センターが当たり前だが、当時はこれがなかなか進まなかった。その理由をある大手医薬品卸の物流担当者に尋ねたところ、その当時主流だったアメリカ製のピッキングマシンは日本では使えないとの答えが返ってきた。さらに突っ込むと、この担当者は「結局ね、アメリカ製のピッキングマシンは物流効率だけを考えているので、箱入りの医薬品だと箱の角が潰れることが結構あるんです。もちろん中身には影響はありませんし、アメリカでは医療機関もそんなことは気にしません。ですが、日本ではそうした中身には影響していないけど、箱の角が潰れているものを配送したら、『無礼者!』って怒鳴られちゃうんですよ」と話してくれた。別に国内外の考えの違いはどうでも良いと思う人もいるかもしれない。しかし、すでに国内のGE市場は飽和状態にあり、仮に大規模化を実現できても今度はそこで企業同士で過当競争となる。高品質を追求して高コストのまま、さらに過当競争をすれば、結果的に大規模化したGE企業同士が疲弊し、それが安定供給への不安へと転化しかねない。大規模化した分だけ、そのうちの1社に何かあった時の影響は甚大である。その意味では大規模化できたGE企業が国際競争力を有し、国内と同時に海外でも展開できることが理想である。だが、現状は日本の慣習・幻想がそれを難しくしている。そろそろそこからの脱却が必要ではないかと個人的にはかなり前から考えている。もっとも文化的背景を持つ慣習は短期間で変えることは容易ではない。こうしたものを変化させるために実は大きな効果を発揮するのが法規制の改正である。今回の検討会の議論がこうした慣習に基づく品質問題にどこまで踏み込めるのか? 正直、あまり期待はしていないのだが、そろそろその端緒くらいには立ってほしいものである。

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第169回 調剤業務の外部委託、医師は賛成?反対?

新型コロナウイルス感染症の5類移行をきっかけに各学会も、懇親会も含めたフル開催が復活してきた。私自身は今年度としては初めて7月16~17日に神戸で開催された第16回日本在宅薬学会学術大会に参加してきた。同学会の名称を初めて聞く人のために簡単に説明すると、今回の開催回数からもわかるように設立は2009年12月と比較的新しい。理事長は大阪大学医学部卒で、現在は医療法人嘉健会・思温病院理事長も務める医師の狭間 研至氏である。同学会のホームページでは設立目的を「薬剤師の職能拡大・薬局の機能拡張を通じて、多職種連携・情報共有を基盤とした超高齢社会における新しい地域医療システムを構築し、広く社会に貢献すること」と記述している。「なぜ医師が薬剤師の職能拡大の学会を?」と思う人もいるかもしれない。詳しくは薬局新聞社から出ている狭間氏の著書「『外科医、薬局に帰る』~超高齢社会における新しい医療環境を目指して~」(実は初版ではサブタイトルが「浪花のあきんどクターの“医薬協業”への挑戦」となっている)に譲りたいが、狭間氏の実家は同学会理事で薬剤師でもある母親の狭間 紀代氏が1975年に開局した漢方相談を主業務とする薬局だった。後の医薬分業の進展に伴い実家は店舗を増やして保険調剤業務がメインとなる。狭間氏自身は、こうした薬局の変化について、街角の医療相談とそれに基づく一般用医薬品(OTC)の販売が中心となってきた1990年代半ばまでの薬局形態を「薬局1.0」、1990年代半ば以降の急速な医薬分業の進展によりOTC販売よりも処方箋調剤に中心が置かれるようになった形態を「薬局2.0」と称している。念のため解説すると、こうした「×× 〇.0」的な表現は、アメリカのメディア企業オライリー・メディアの創設者ティム・オライリーが、Webを通じて誰もが情報発信できるようになった時代を「Web 2.0」、それ以前を「Web 1.0」と定義したのが始まりで、今では多方面で使われている。狭間氏が医学部を卒業し、医師として実地臨床に携わるようになった頃がまさに「薬局2.0」時代の到来初期。その際、実家の薬局に勤務する薬剤師の研修に携わるようになり、薬剤師が学んだ知識が現実の薬局現場では十分に発揮されていないと感じたことをきっかけに薬局経営に携わるようになった。現在、実家はファルメディコ株式会社と改組し、大阪府と兵庫県の9店舗の薬局で外来の保険調剤と在宅業務に取り組み、狭間氏は同社の代表取締役社長も務めている。狭間氏が薬局で薬剤師の職能が必ずしも十分に生かされていないと考える点とは、現実の薬局業務では処方箋に基づく調剤を行い、カウンター越しにそれを渡して「お大事に」で終わりがちであることを指している。薬剤師が薬学部で学んだ薬物動態などは服薬が始まってからのことであり、本当の勝負どころは服薬後であるにもかかわらず、そこには十分に手が届いていないということである。私が狭間氏の講演を初めて聞いたのは2014年。日本在宅薬学会とは別の学会である。率直に当時の感想を言ってしまうと、「何を言い出すのか、この先生は」というものだった。この時、狭間氏は自社の薬剤師が便秘薬を処方した在宅患者を訪問した際、「お通じどうですか?」と尋ね、「少し軟らかいかな」と答える映像を流しながら、この場合なら便秘薬を減量するなどの対処が必要と述べ、「薬剤師の本来業務とは患者に薬を渡した後のフォローアップ」と主張した。恥ずかしながら、私はこの時初めて日本在宅薬学会の存在を知り、狭間氏の講演の途中から耳だけは講演に向けながら、スマートフォンで同学会を検索し、薬剤師向けに血圧・呼吸・脈拍・体温・意識レベル・尿量といったバイタルサインチェックの講習会もやっていることを知った。ちなみに狭間氏は前述の「薬局2.0」の一つ先として、保険調剤薬局の数が飽和状態に達する中で、主張する“患者に薬を渡した後のフォローアップを主業務とする薬局の姿”を「薬局3.0」と定義付けていた。もちろんこの主張や取り組みには間違いはなく、むしろ極めて正しい。ただ、医療界の構図を考えた際に火種を生むことは、医療に少し詳しくなればすぐわかることである。薬剤師が処方後の患者への関与を強化することは、一部の医師、はっきり言えば、日本医師会が面白く思わないことは容易に想像がつく。その意味で私の第一印象は「こんなことをはっきりと公言して大丈夫なのだろうか」と言い換えてもいい。ただ、これを機に興味を持った私は同学会に通い始めることになる。そしてその後、あちこちに引っ張りだこの狭間氏とは同学会以外でも遭遇するようになったが、どこでもこのことを主張し続けていた。時には講演冒頭に「AKY(あえて空気を読まず)」と、やや自虐的にも受け取れる表現を付け加える「配慮」もしながらだ。そして最終的にこの主張は、2020年9月から施行された改正薬剤師法と改正薬機法で、薬剤師による薬剤交付後の服薬フォローアップを努力義務から義務化へと明文化したことで実現した。もう1つ狭間氏が先鞭的な旗振り役になって“実現した”と言うべきものがある。それは薬局で薬剤師以外が担ってもよい補助業務の明示化、2019年4月2日付の厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長名発出の通知「調剤業務のあり方について」(通称「0402通知」)。これも前述の薬剤師の主業務は服薬後のフォローアップという主張がベースにある。厚生労働省も2015年に公表した「患者のための薬局ビジョン」で「対物業務から対人業務へ」とのキーワードを掲げていたが、現実の薬剤師業務では調剤室内での医薬品のピッキング作業などに日常的に忙殺されることが少なくない。しかし、同学会では0402通知が発出される前年には薬剤師以外が担える業務を担う「薬局パートナー」の検定試験を開始している。こうした一連の動きを横目で眺めてきた自分としては、医師でありながら実家の薬局の経営に携わるという絶妙に「地位」も「現場感覚」も備えた狭間氏の立ち位置と、「AKY」に代表されるような、言葉は悪いが「ヌルヌルと各所に入り込む」、まさに著書の初版サブタイトル、商人とドクターを掛け合わせた「浪花のあきんどクター」としての戦略家の一面が、「一念岩をも通す」を可能にしたのではないかと思っている。もちろんこうした狭間氏の動きを不愉快に思っている勢力は、薬剤師の世界にですら存在することは、私自身百も承知しているし、狭間氏とすべての主張が一致するわけではない。しかし、私見で恐縮だが、医療従事者の中でも真面目でおとなし過ぎ、結果として行政からの「やらされ感」が多い薬剤師の世界では、必要な「デストロイヤー」だと思うのである。さてその狭間氏は肝となる主張を体現すべく、次の手に打って出ている。それは2年前から唱え始めた調剤業務の外部委託というやや奇想天外なものだ。要は一部の薬局で調剤業務(対物業務)を担い、その他の薬局が服薬後のフォローアップという対人業務に必要な時間をさらに捻出しようというもの。さらにその背景には、薬局業界では中小薬局が8割を占め、機械化による対物業務の効率化への投資が経済的に困難という現実を踏まえている。しかも、内閣府の国家戦略特別区域(特区)で行う規制改革アイデアとして、ファルメディコがこの外部業務委託を提案していたことが4月に明るみに出た。5月にはその実証を行うため、ファルメディコをはじめとする22社が参加した「薬局DX推進コンソーシアム」を設立。今回の日本在宅薬学会ではこれに関する緊急シンポジウムも開催された。もっともまだ現実には動き出していないこともあり、シンポジウムの内容はアウトラインだけで、個人的にはやや肩透かしの感もあった。この件に関して、薬剤師業界の総本山ともいえる日本薬剤師会は「責任の所在が曖昧になる」と猛烈な反対姿勢を示している。とはいえ、もしこの特区での実証事業が認められ、現実的にことが動き出せば、薬剤師会は置いてきぼりになりかねない。この特区事業は大阪市のみで行うことを前提に申請されており、日本薬剤師会の地元下部組織である大阪府薬剤師会にとっては横目では眺めていられない事態だ。今回の学会後の理事長会見で狭間氏は「(大阪府薬剤師会の)席は空けている」と語っていたが、大阪府薬剤師会はどう出るか? これまで私が眺めてきたデストロイヤー狭間氏の4の字固め(これがわかる人は相当古い世代だろうが)で最終“勝利”となるのか? すでに私自身はこの行方を大方予想しているが、当面目が離せないことは確かである。

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希望を持ち続けることの意義【非専門医のための緩和ケアTips】第56回

第56回 希望を持ち続けることの意義医療、とくに緩和ケアにおいては、患者さんとのやりとりを通じて、人生の意味や人としての在り方を深く考えさせられる場面に遭遇します。今回のご質問はそんな内容です。今日の質問私の外来に通っている進行がん患者さんで、すでに抗がん剤治療などができない状態の方がいます。化学療法を受けていた基幹病院の先生はもちろん、私からも治療が難しいことを説明しているのですが、それでも、たびたび「がんが治ることはないのでしょうか?」と尋ねられます。こうした患者さんにはどのように対応したらよいのでしょうか?医学的な状況とかけ離れた希望を持つ患者さんやご家族から、「なんとか治りませんか?」と尋ねられる……。医師なら誰しも経験する状況かと思います。背景として医療者の説明が不十分であったり、患者自身の理解力が及ばなかったりすることもあるでしょう。ただ、今回はそうした点ではなく、「現実的には可能性の低い希望を持ち続ける」という点に、着目してみたいと思います。「希望」って皆さんにとって大切ですか?「そんなの当たり前でしょう?」と思う方もいるかもしれません。どんな状況であったとしても、希望を持つこと自体は、誰かから制限されるようなものではないはずです。一方、今回ご質問いただいたような状況において、医療現場ではこんな言葉が飛び交うこともあるでしょう。「あの患者さん、また言っているよ。あれほど治らないって説明したのに、まだわからないのかな……」。私たち医療者も個人としては「希望が大切」と当たり前に思っているはずなのに、なぜ患者さんの抱く実現しない希望に対しては、時にマイナスの感情すら抱くのでしょうか?さまざまな観点から考察するのですが、私が共感するのは、「実現しない希望を持つ患者と向き合わねばならない、われわれ医療者自身のつらさがその要因ではないのか」という見方です。自分の患者さんが実現する可能性の低い希望を持って問い掛けてくるのは、なかなかつらいものです。でも一歩引いてみると、この「治らないのでしょうか?」というのは、本当に医療者に問い掛けているのでしょうか? 「前も言ったように治ることはありません。なぜなら、あなたの病状は……」という説明をしてほしいのでしょうか?おそらく何か説明や答えを求めているというよりも、「どういった状況でも希望を持っていたい」という、人間としての根源的な気持ちから発している問いなのでは、と思います。それに対し、「また説明を求めている」「理解が足りないのでは」と、医療者側が苦しさを感じるとしたら、少し立ち止まって考えてみてもいいかもしれません。私自身が今回の質問のような状況だったらどうするか?もちろん、きちんと状況を共有できているかの確認はしますが、そのうえでお話しをするとしたら、「おそらく、さまざまな気掛かりがあってのことだと感じたのですが、もう少しお気持ちを聞かせてもらえますか?」と返事をするのでは、と思います。そのうえで、気掛かりの本質的な要因を探り、希望が現実的に可能かどうかは置いておいて、「お気持ちを聞かせてくださり、ありがとうございます。少しでも可能性を信じ、治りたいという気持ちは当然のことですね」と、相手の気持ちを受け取ったことを伝えます。現実と懸け離れた希望によって本人や家族に好ましくない影響が生じている場合を除いて、希望を否定する言葉は掛けないことを基本としています。「私は治りますか?」……、に対する返答。答えのない問いですが、皆さんはどのように対応されていますか?今回のTips今回のTips希望を持つことは、誰にとっても、どんな病状であっても大切。

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留置場から来た青年【Dr. 中島の 新・徒然草】(486)

四百八十六の段 留置場から来た青年暑いですね。イタリアのシチリア島では48度、米国カリフォルニア州のデスバレーでは56度を記録したというニュースが報じられています。日本でも40度近い気温が愛知県豊田市で記録されました。空と気温はすっかり夏ですが、梅雨明け宣言は出されていません。梅雨前線がまだ日本列島の上空を行ったり来たりしているからだそうです。さて、大阪医療センターは大阪府警に近いせいか、留置場に収容されている人の診療を頼まれることがよくあります。その日、私がERに呼ばれて診察したのは警察に勾留されている青年。実は、青年はすでに深夜の当院ERを受診していたのです。留置場内での揉め事による頭部外傷でした。その時の頭部CTにはとくに異常所見なし。しかし、当直医が「再度CTを撮影するのでもう一度連れて来てください」と言ったのだとか。「そんなもん、有事再診でいいがな」と思いつつERに向かいました。有事再診とは、頭が痛くなるとか嘔吐するとか意識レベルが低下するとか、有事の時に再診してください、という意味です。ERに到着すると、どこにいるのかな、と探すまでもありませんでした。いかつい警官2名に付き添われた青年が、ストレッチャーに横たわっていたからです。中島「〇〇さんですね」警官「あっ先生、よろしくお願いします」こうしてわざわざ連れて来てくれたわけですから、彼らの律義さを踏みにじるわけにはいきません。中島「どれどれ」そう言って青年の頭をペンライトで観察してみました。左耳が赤くなって腫れています。中島「こっち側を殴られたんですか?」青年「ええ、ヘルメットでやられたんですよ」どうやら留置場の収容者同士でのトラブルのようでした。中島「なるほどねえ」青年「触られると痛いです」中島「2回目のCTでもとくに異常はないので大丈夫ですよ」青年「よかった!」中島「それにしてもヘルメットなんかで叩かれたら災難ですね」青年「こっちが先に手を出したんで、仕方ないんですけど」アカンがな、先に手を出したら。とはいえ、こういう時は労っておくのが無難です。中島「来てもらってよかったです。やはりキチンとしておいたほうがいいですからね」有事再診で十分だったのに、などとは口が裂けても言えません。中島「では、お大事にしてください」青年&警官「ありがとうございました!」青年と2人の警官は見事にハモっていました。この青年が何をやって留置場にいるのかは、よくは知りません。しばらく勾留されているくらいだから、余程のことをやらかしたんでしょうね。青年の口ぶりからすると、警察や喧嘩も彼にとっては日常風景みたいです。そういったアウトロー的な人に対しても、診察の時にキチンと向き合うに越したことはありません。思いがけず感謝されました。ということで最後に1句梅雨明けぬ 灼熱地獄で 殴り合い

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ASCO2023 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介ここ数年、ASCO annual conferenceにおいて高齢がん患者に関するpivotal trialが次々と発表され、老年腫瘍の領域を大いに盛り上げている。これに伴い、高齢者機能評価(Geriatric Assessment)という用語が市民権を得てきたように感じる。今年のASCOでは、高齢者機能評価を単に実施するのではなく、その結果をどのように使うべきかを問うような試験が多かったように思う。その中から、興味深い研究を抜粋して紹介する。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』の費用対効果分析(THE 5C STUDYの副次的解析: #120121))THE 5C STUDYは、ASCO 2021 annual conferenceで発表されたランダム化比較試験である2)。70歳以上の高齢がん患者を対象として、標準診療である「通常の診療(Standard of Care:SOC)」と比較して、試験診療である「高齢者機能評価を実施し、通常の腫瘍学的な治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるサポートを行う診療(Geriatric Assessment and Management:GAM)」が、健康関連の生活の質(EORTC QLQ-C30のGlobal health status)において、優越性を示すか否かを検証したランダム化比較試験である。残念ながら、QOLスコアの変化は両群で差がなくnegative trialであった。今回、事前に設定されていた費用対効果分析の結果が公表された。カナダの8つの病院から350例の参加者が登録され、SOC群に177例、GAM群に173例が割り付けられた。EQ-5D-5Lは、登録時、登録6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後に評価され、医療費(入院費、救急外来受診費、検査や手技の費用、化学療法や放射線治療の費用、在宅診療の費用、保険外医療費)は患者の医療費用ノートなるものから抽出された。Primary endpointは増分純金銭便益(incremental monetary benefit:INMB)とした(INMB=(λ*ΔQALY)−ΔCosts、閾値は5万ドル)。結果として、患者当たりの総医療費は、SOC群で4万5,342ドル、GAM群で4万8,396ドルであった。全適格患者におけるINMBはマイナス(-3,962ドル、95%CI:-7,117ドル~-794ドル)であり、SOCと比較してGAMの費用対効果は不良という結果であった。サブグループ解析では、根治目的の治療をする集団におけるINMBはプラス(+4,639ドル、95%CI:61ドル~8,607ドル)、緩和目的の治療をする集団におけるINMBはマイナス(−13,307ドル、95%CI:-18,063ドル~-8,264ドル)であった。以上から、根治目的の治療をする集団においては、SOCと比較してGAMの費用対効果は良好であったと結論付けている。「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の費用対効果分析を行った初めての試験である。個人的な意見だが、とても勇気のある研究だと思う。これまで、高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療の有用性を評価するランダム化比較試験の結果が複数公表されており、NCCNガイドラインなどの老年腫瘍ガイドラインでもこれが推奨されている。つまり、老年腫瘍の領域において、高齢者機能評価を実施すること、また高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療を浸透させることは、暗黙の了解であった。しかし、このタイミングでGAMの費用対効果分析を実施するあたり、THE 5C STUDYの研究代表者であるM. Putsは物事を客観的に見ることができる研究者であることがわかる(高齢者機能評価を浸透することに尽力している研究者でもある)。本研究では、根治目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が悪いこと、緩和目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が良いことが示された。もちろん費用対効果分析の研究にはlimitationが付き物であり、またサブグループ解析の結果をそのまま受け入れるべきではないが、この結果はある程度は臨床的にも理解可能である。すなわち、根治を目的とする治療ができるような高齢者は早期がんかつ元気であることが想定され、この集団はGAMに鋭敏に反応するかもしれない。たとえば、手術や根治的(化学)放射線治療などの根治を目的とする治療を実施する場合、早期のリハビリ(術前リハビリを含む)や栄養管理などはADLの自立に役立つだろうし、有害事象の予防・早期発見に役立つだろう。一方、緩和を目的とする治療を実施するような高齢者は進行がんかつフレイルな高齢者あることが想定され、この集団はGAMをしても反応が鈍いのかもしれない。GAMには人材や時間という医療資源もかかるため、GAMを導入する場合、優先順位は手術などを受ける患者から、という議論をする際の参考資料になりうる結果である。老年科医によるコーチングの有用性を評価した多施設ランダム化比較試験(G-oncoCOACH study: #120003))明鏡国語辞典によると、「コーチング」とは、「(1)教えること。指導・助言すること。(2)コーチが対話などのコミュニケーションによって対象者から目的達成のために必要となる能力を引き出す指導法。」とある。G-oncoCOACH studyは、「G(Geriatrician、老年科医)」が「oncoCOACH(腫瘍学も含めたコーチング)」することの有用性を検証したランダム化比較試験である。本試験はベルギーの2施設で実施された。主な適格規準は、70歳以上、固形腫瘍の診断を受け、がん薬物治療が予定されており(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、余命6ヵ月以上と予測されている集団であった。登録後は、高齢者機能評価によるベースライン評価ができた患者のみが、標準診療群(腫瘍科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)と試験診療群(老年科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)にランダム化された。具体的には、標準診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に簡素なケアプランが提示されるのみで、それを実践するか否かは腫瘍科医に委ねられていた。一方、試験診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に詳細なケアプランが提示され、また老年科医チームによる集中的な患者指導、綿密なフォローアップにより、ケアプランを診療に実装し、再評価および継続できるようなサポートが徹底された。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(GHS)。登録時から登録6ヵ月時点での臨床的に意味のある差を10ポイントと定義し、α5%(両側)、検出力80%とした場合の必要登録患者数は195例。ベースラインからの差として、3ヵ月、6ヵ月のデータを基に、6ヵ月時点の両群の最小二乗平均値を推定し、その群間差をベースラインの因子を含めて調整したうえでprimary endpointが解析された。結果として、背景因子で調整した登録時から登録6ヵ月後のGHSの変化は、標準診療群で-8.2ポイント、試験診療群で+4.5ポイントであり、その差は12.8ポイントであった(95%CI:6.7~18.8、p<0.0001)。この結果から、高齢がん患者の診療において、老年科医が患者指導(コーチング)をする診療を推奨すると結論付けている。いくら高齢者機能評価を実施して、それに対するケアプランを提示しても、それが実践されていなかったり継続的なサポートがなされていなかったりすれば意味がないだろう、という考えの下に行われた研究である。つまり、「腫瘍科医による患者指導(コーチング)」 vs.「老年科医による患者指導(コーチング)」を比較した試験ではあるが、その実、「ケアプランの実践と、その後のサポートを徹底するか否か」を評価している試験である。実際、本試験が実施されたベルギーでは、ケアプランを策定しても、それを日常診療に使用する腫瘍科医は46%程度と低いものだったようである。腫瘍科医に任せると完全にはケアプランが実践されないが、老年科医に任せればケアプランが実践され、継続性もサポートされるだろうということである(筆者が研究代表者から個人的に聞いた内容も含まれる)。結果、高齢者機能評価は単に実施するだけでは十分ではなく、その使い方に精通した医療者(本試験の場合は老年科医)がリーディングするのが良いというものであった。本邦には、がん治療に精通した老年科医が少ないため、現時点では「老年科医による患者指導(コーチング)」を取り入れるのは難しいだろう。しかし、腫瘍科医では想像できないような老年科医の「コツ」なるものがあるのは容易に想像できる。老年腫瘍を発展するために老年科医の存在は必須であり、老年科医らとの協働は引き続き進めてゆくべきであろう。日本発の高齢者機能評価+介入のクラスターランダム化比較試験(ENSURE-GA study: #4094))非小細胞肺がん患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の有用性を患者満足度で評価した日本発のクラスターランダム化比較試験*である。*地域や施設を1つのまとまり(クラスター)としてランダム化する研究デザイン主な適格規準は、75歳以上、非小細胞肺がんの診断を受けている、根治的治療ができない、PS 0〜3、初回化学療法未実施、登録時の高齢者機能評価で脆弱性を有するとされた患者であった。本試験は、病床数とがん診療連携拠点病院の指定の有無および施設の所在地域で層別化し、同層の中で「施設」のランダム化が行われた。標準診療群は「通常の診療(高齢者機能評価の結果は医療者に伝えない)」、試験診療群は「高齢者機能評価の結果に基づき脆弱な部分をサポートする診療」である。primary endpointは、治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標で評価:35点満点[点数が高いほど満足度が高い])。必要患者登録数は1,020例であった。結果、治療開始「前」の患者満足度は、標準診療群で29.1ポイント、試験診療群で29.9ポイントであった(p<0.003)。米国の老年腫瘍学の大家にS. Mohileがいる。本試験は、彼女が2020年にJAMA oncologyに公表した試験の日本版である(がん種のみ異なる)5)。Mohileらの試験と同じとはいえ、「患者」ではなく「施設」をランダム化(クラスターランダム化)したところが本試験の特徴である。通常のランダム化、すなわち「患者」をランダム化する場合、同じ施設、同じ主治医が、異なる群に割り付けられた患者を診療する可能性がある。薬物療法の試験であれば、またprimary endpointが全生存期間などの客観的な指標であれば、この設定でも問題ないだろう。しかし、本試験のように、高齢者機能評価を実施するか否かを評価するような試験、また、primary endpointが主観的な指標である場合は、この設定だと問題が生じる可能性がある。すなわち、通常の「患者」をランダム化するデザインにすると、ある登録患者で高齢者機能評価の有用性を実感した医療者がいた場合、次の登録患者が標準診療群だとしても臨床的に高齢者機能評価を実施してしまうことはありうる(その逆もありうる)。そうなると、両群で同じことをしていることになり、その群間差は薄まってしまうのである。これを解決するのが「施設」のランダム化、すなわちクラスターランダム化であるが、その方法が煩雑であること、サンプルサイズが増えてしまうことなどから、それほど日本では一般的ではない6)。しかし、本試験では、クラスターランダム化デザインを選択したことにより、その科学性が高まったといえる。一方、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標)としたことについては疑問が残る。Mohileらの試験でもprimary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの是非は問われたが、老年腫瘍の黎明期でもあり、高齢者機能評価のエビデンスを蓄積するためにやむを得ないと考えていた。しかし、時代は変わり、高齢者機能評価のエビデンスが蓄積されつつある現在で、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの意義は変わってくる。登録から治療開始前までに高齢者機能評価を実施し、それについてサポートを受けられるのであれば、患者の満足度が高いことは自明であろう。また、本試験では、HCCQの群間差は0.8ポイントであるが、この差が臨床的に意味のある差か否かは不明である。さらに、ポスターに掲載されているFigureを見る限り、登録3ヵ月後のHCCQは両群で差がないように見える。しかし、本邦から1,000例を超す老年腫瘍のクラスターランダム化比較試験が発表されたことは称賛に値する。参考1)Cost-utility of geriatric assessment in older adults with cancer: Results from the 5C trial2)Impact of Geriatric Assessment and Management on Quality of Life, Unplanned Hospitalizations, Toxicity, and Survival for Older Adults With Cancer: The Randomized 5C Trial3)A multicenter randomized controlled trial (RCT) for the effectiveness of Comprehensive Geriatric Assessment (CGA) with extensive patient coaching on quality of life (QoL) in older patients with solid tumors receiving systemic therapy: G-oncoCOACH study4)Satisfaction in older patients by geriatric assessment using a novel tablet-based questionnaire system: A cluster-randomized, phase III trial of patients with non-small-cell lung cancer (ENSURE-GA study; NEJ041/CS-Lung001)5)Communication With Older Patients With Cancer Using Geriatric Assessment: A Cluster-Randomized Clinical Trial From the National Cancer Institute Community Oncology Research Program6)小山田 隼佑. “クラスター RCT”. 医学界新聞. 2019-07-01. (参照2023-07-03)

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高まる「脳ドック」ニーズ、認知症を予測できるか?【外来で役立つ!認知症Topics】第7回

先日久しぶりに心が折れる診察をした。認知症疑いで初診した母と娘さんの診察の途中で、その母は「個人情報をなぜ言わねばならない」と立腹され、席を立たれたのだ。そこで娘さんに残ってもらい、認知症診断の道筋を説明したが、納得されなかった。「問診されるのはここだけでなくどこでもそうか? どうして血液やMRIなどの画像検査で診断できないのか?」と質問されてから帰られた。要は、「個人情報になることに触れられたくない人がいる。当方には不可欠な質問でも、虎の尾を踏みかねない」ということだ。われわれには当然過ぎるが、生活の自立困難、従来のレベルからの低下が認知症診断のコアである。だから個人情報レベルに立ち入らざるを得ない。しかしこれは自分たち医療者に限った常識と思わなくてはいけないか?と考えた。これまでの脳ドックの課題この画像診断だが、件の母娘の発言に出るように、世間では浸透し、高く信頼されているようだ。だから基本的にMRIとMRAを基本とした脳ドック施設が全国に1,000以上もあるのも頷ける。ただ従来は、その診断内容は比較的限られていた。脳出血や梗塞のような脳血管障害、脳萎縮には私も関心がある。しかし実際には、奇形や腫瘍などもときにあるが、数が一番多いのは副鼻腔炎だそうだ。またMRAでは未破裂動脈瘤がしばしば発見されるが、これはありがたい。ところで私の周囲に関する限りでは、脳ドックに行くことで認知症の危険性を知りたいという声が実は大きい。ところがこれは、従来アンメットニーズであったようだ。というのは、まず受診者の年齢が主に30~50代と比較的若い。それだけに海馬を始めとする側頭葉内側の萎縮などは時期尚早であろう。それ以上に、脳ドックの医師、多くは脳外科や脳神経内科さらに放射線科の医師にとって、認知症はこれまでは馴染みが薄かったと思われる。つまりアルツハイマー病、レビー小体型認知症、あるいは前頭側頭型認知症などは、ドックの診察において数も重要性もさほど大きなものではなかったかもしれない。それだけに従来はレポート作成において注目が少なかったかもしれない。30代から始まる脳萎縮さて先ごろ、ジョンズ・ホプキンス大学放射線科の森 進氏と『認知症を止める 「脳ドック」を活かした対策 異変(萎縮・血管)をつかんで事前に手を打つ』という書を出版した。この本では、森氏が日本人2万5,000人の脳健診データを基に作成した健康人の脳MRI/MRA画像データが基本になっている。ここには、中年期からの脳健康管理には、画像の数値化が不可欠とする森氏の考え方が基盤にある。アルツハイマー病など認知症の脳画像所見が検討されるときには、海馬を始めとする側頭葉内側、あるいは脳幹背側の萎縮などが問われがちだ。しかし森氏の考え方は、これらとは違う。脳全体としての萎縮は30代に前頭葉から始まり、また側頭葉や海馬は60代になって萎縮が目立ってくるという。そこで皮質(灰白質)だけではなく、白質を含めた脳全体の変化に注目したそうだ。そして脳構造の総和が反映され、撮影条件の差の影響を受けにくい脳室の容積が指標にされた。だから森進式の脳ドックのレポートには、脳質容積の測定結果を基にした結果が示される。ここが最大の特徴だろう。「認知症基本法」成立、予防のためのMRI/MRA活用へところで、この6月「認知症基本法」が成立した。これは今後認知症施策の根幹になっていくだろう。この特徴は、「予防」と「共生」にあるといわれてきた。ところが、さまざまにアイデアが出てきている「共生」に対して、「予防」は、その効果やエビデンスが弱いとされてきた。アルツハイマー病なら予防の本星は、脳脊髄液中のアミロイドβや、そのPET画像であろう。しかし患者さんの身体的負荷や経済的負担から、それらは容易ではない。だからそれらが少ないMRI/MRAは注目されるだろう。しかも「世界中で健常者のMRI/MRA所見が沢山あって正常が確立しているのは日本だけだろう」と森氏は言う。そうはいっても、まだ個人の数十年にわたる縦断的なMRI/MRA所見がそろっているわけではない。言うまでもなく望ましいのは、同一個人の縦断データ、つまり正常段階から認知症段階までの経時的な脳画像である。私は地域で、10年余り、MRI/MRA所見など認知症発症のリスクの縦断調査をしたことがある。その時の経験からして、ざっくり15年、1,000人以上の縦断データがあれば、認知症予測が多少とも正確にできるのではないかと思う。それが整えば、中年期以降のある一時点における脳画像所見があれば、将来の認知症発症をある程度の精度で予測することが可能になるかもしれないという意味である。おわりに、冒頭に紹介した母娘さんが期待するような、いわばオールマイティの診断能力を有するMRI/MRA所見の判読とその臨床応用は、そう簡単ではないだろう。けれども脳ドックにおいて自分のMRI/MRA所見を知り、中年期から生活習慣病等のリスクに備えていくなら、認知症予防とまで行かずとも、その発症の先延ばしは可能になると考える。

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英語で「避妊薬」は?【1分★医療英語】第89回

第89回 英語で「避妊薬」は?There are several methods of contraception.(いくつかの避妊方法があります)I prefer oral contraceptives.(経口避妊薬がいいです)《例文1》How effective are the contraceptive devices?(避妊具の成功率はどれくらいですか?)《例文2》Most contraceptive pills contain a combination of estrogen and progestin.(多くの避妊薬にはエストロゲンとプロゲスチンが含まれています)《解説》“contraception”(避妊)の語源は前置詞の“contra”(妨げる)と名詞の“conception”(妊娠・受胎)を合わせたものです。さらに“-ive”を付けると“contraceptives”(避妊具・避妊薬)を意味します。避妊薬は“birth control pill”とも表現します。例文にありますが、ホルモンの“estrogen”は日本語では「エストロゲン」ですが、英語の発音は「エストロジェン」(「エ」にアクセント)とかなり異なります。同様に“progestin”は「プロゲスチン」ではなく「プロジェスティン」(「ジェ」にアクセント)です。日本でもアフターピルの市販化について議論がされていますね。アフターピルは日本語と同じように“after pill”、“morning after pill”とも言いますが、“emergency contraceptive pill”(緊急避妊薬)、あるいは有名な商品名から“Plan B”(Plan B One-Stepという緊急避妊薬がある)と表現することもあります。米国の全州でアフターピルは薬局やオンラインで処方箋なしに「OTC(over-the-counter)薬」として購入できます。また、私のいるカリフォルニアでは2016年より薬剤師の権限が広がり、通常の避妊薬も薬局で薬剤師から購入できるようになりましたが、これは「BTC(behind-the-counter)薬」扱いとなっています。BTCとは言葉どおり「カウンターの後ろ」に置かれる薬剤であり、年齢や量を確認したうえでないと販売できない仕組みです。素早くアクセスできることが大事である“emergency contraception”や“immunization”(ワクチン接種)などは、日本でも薬局での販売や実施が早期に実現すればよいと思います。講師紹介

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第53回 マイナ保険証に「潰される」クリニック

マイナンバーカードとヒューマンエラーillust ACより使用マイナ保険証が他人と紐付けされてしまい、「個人情報漏洩が怖い」ということで、現在マイナンバーカードやマイナ保険証事業がうまく進まない雰囲気になっています。マイナンバーの問題が岸田政権に与える影響はかなり大きいと思います。ところで、あまり声を大きくすると怒られますが、個人的には「そんなに心配しなくても…」と思っています。現在問題になっているのは、マイナンバーカードが本人以外の保険資格とコネクトしていることでしょう。マイナンバーカード黎明期の紐付け作業は、スマホを使ってマイナポータル上で行うか、あるいは市役所の窓口で行ったと思います。市役所の窓口で行われた作業は人が手動で行っていますが、この中にはヒューマンエラーで紐付けが失敗された事例があるということです。これはマイナ保険証を使おうと使わまいと起こったことです。マイナンバーカードの申請数は8,000万枚で、そのうち数千件のエラーなので、このあたりは「そんなもんかなあ」と思う部分もあります。リアルの保険証の世界でもこういう事例はあったと思いますが、ただ表面化していなかっただけでしょう。マイナンバーの用途は、税金、社会保障、災害対策といった特定の場面に限定されています。よく、メルカリやPayPayでマイナンバーカードをかざしている、あれは何だと聞かれますが、あれは公的個人認証サービスを利用しており、実は12桁のマイナンバーはまったく使っていません。いずれにしても、マイナンバーカードというのは、悪用できる類のものではなく、「オンラインで本人確認が可能なICチップが入ったただの顔写真付き身分証明書」に過ぎないという点は理解しておきたいところです。マイナ保険証はマイナンバーを使っていないまた、マイナ保険証ではマイナンバーと紐付けされているとよく誤解されています。実は、マイナ保険証ではマイナンバーを使っていません。病院でマイナ保険証を使う場合も、そもそも患者のマイナンバーを使うことがない仕組みで運用されています。じゃあなぜマイナという名前が付いているかというと、そもそも2023年4月から病院で「オンライン資格確認」の導入が原則義務化されたためです。もちろん紙やカードベースの健康保険証も現在は使えますが、医療機関のスタッフは番号や記号を手打ちで入力しています。マイナンバーカードがあると、ICチップ内の電子証明書と、パスワード(あるいは顔認証)を使って、オンラインの情報にアクセスできるという仕組みです。マイナ保険証の手続きをしたときにマイナンバーと保険証が初めて紐付けされたわけではなくて、すでに全員この紐付けは終わっていて(上述したようにまれにヒューマンエラーあり)、マイナンバーカードをマイナ保険証として使用するかどうか選択できる、というのが現在の位置付けです。とはいえ、現行の健康保険証は2024年秋に廃止され、マイナ保険証一本化の予定です。「怖いから、とりあえずマイナンバーカードを返納しよう」という動きもありますが、これはまったく無意味です。マイナンバー自体はなくなりませんので、自分でさまざまなサービスにアクセスできるカードを放棄しているに過ぎません。マイナ保険証に潰されるクリニック懸念されるのが「マイナ保険証閉院」です。上述したように、「オンライン資格確認」が原則義務化された流れを受け、もう継続は無理だと悟った医療機関がすでに閉院を始めています。現在の保険証がなくなると、マイナ保険証を読み取ることができないので、機器を導入しなければ自動的にそのクリニックでは診療ができなくなります。紙レセプトで請求していた医療機関などは、自動的に閉院することになります。マイナ保険証やマイナンバーカードに対する批判はよくわかるのですが、DX化に順応しなければ生きていけない時代になってきたので、「政府の陰謀だ!」と腹を立てずに、そこは感情を排して淡々と対応するほうがスマートなのでしょうね。

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遺伝子パネル検査、4割強の医師がいまだ経験なし/会員医師アンケート

 2019年6月に遺伝子パネル検査が保険収載されてから丸4年が経過した。ケアネットでは、7月19日に配信するセミナー「米国における がんゲノム検査の実態」収録に先立って、がん診療に携わる専門医600人を対象に「遺伝子パネル検査の施設での実施状況や自身の経験」について聞くアンケートを実施した。全体集計のほか、専門であることが見込まれる「肺がん」「乳がん」「消化器がん」「泌尿器がん」別でも集計、比較した。 「Q.これまで、がん遺伝子パネル検査を担当患者さんに行ったこと、もしくは紹介したことがありますか?」との設問には、「ある」56%、「ない」44%という回答となった。回答者の8割近くが200床以上の医療機関に勤務しているが、がん遺伝子パネル検査が実施できるのはがんゲノム医療中核拠点病院(13ヵ所)・拠点病院(32ヵ所)・連携病院(203ヵ所、いずれも2023年6月1日現在)に限られ、国内2,500ヵ所弱ある200床以上の医療機関の1割ほどだ。専門別で見た「ある」の割合としては、分子標的薬の開発、臨床応用がいち早く進んだ肺がんが最多の66%となり、乳がん、消化器がんと続き、泌尿器がんは最小の39%だった。 「Q.『ある』という方は年間およそ何件、実施あるいは紹介していますか?」との設問では、「0件」の回答を除くと、「1~10件」が76%と大半を占め、「11~20件」が9%、「21~30件」が4%、「31~40件」が3%だった。一方で、「41件以上」も5%あった。「41件以上」の回答者の大半を肺がんが占めており、肺がん領域における遺伝子パネル検査の定着ぶりが裏付けられた。 「Q.がん遺伝子パネル検査に意義はあると思いますか?」との設問には、「非常にある」38%、「多少はある」45%と、8割以上の回答者がパネル検査の意義を感じている、との結果となった。4割以上の回答者が検査の実施経験がない状況でも、この検査に意味を感じていることが明らかになった。 意義を感じる・感じない理由については、「意義を感じる」の回答者では「治療に結び付いた患者がいるから」(呼吸器内科・兵庫県・60代・200床以上)、「効果の期待できる薬剤の選択、不要な薬剤の排除等に役立つ」(放射線科・兵庫県・40代・200床以上)といった「実際の治療に役立つ・選択肢が増える・薬剤が選択できる」という声が多数を占めた。ほかにも「今後の医療の発展につながるから」(呼吸器外科・大阪府・50代・200床以上)、「これから症例を増やし、検証されるべき検査」(消化器外科・福島県・50代・200床以上)」など、「現在のベネフィットは少なくても、データを蓄積することに意味がある、今後の開発につながる」といった声も目立った。 「意義を感じない」という回答者では、「治療薬が見つかる確率が低い」(呼吸器内科・静岡県・60代・200床以上)、「なかなか新規治療につながらないから。患者さんもガッカリする」(消化器外科・奈良県・40代・200床以上)という声が多かった。現在、遺伝子パネル検査を受けた患者のうち、何らかの治療や治験につながる割合は1割強とされ(国立がんセンター調べ)、この数字をどう見るか、自身の患者の奏効例を経験したかなどが、意見の違いにつながっているようだ。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中「遺伝子パネル検査」の実施状況アンケート調査<アンケート概要>・タイトル:「遺伝子パネル検査」の実施状況について・内  容:包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査について、自施設での実施状況や自身の経験について・対  象:ケアネット会員医師600人・実施期間:2023年5月19~21日・調査方法:インターネット―――――――――――――――――――7月19日(水)20時~「日本の5年後の姿?米国における がんゲノム検査の実態」聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座 主任教授・砂川 優氏、カリフォルニア大学サンディエゴ校 血液腫瘍科・加藤 秀明氏が、日米それぞれの遺伝子パネル検査の実態と今後のあるべき姿について、本アンケートの結果も交えながら、縦横無尽に語ります。視聴ページはこちら(予約不要)―――――――――――――――――――

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英語で「めまいがします」は?【1分★医療英語】第88回

第88回 英語で「めまいがします」は?Could you describe what you mean by feeling dizzy?(めまいがするというのはどのような感じか説明してもらえますか?)It’s like the room is spinning. (部屋が回っているような感じがします)《例文1》I feel dizzy when I move my head. (頭を動かすとめまいがします)《例文2》I have had a spinning sensation since this morning.(今朝からぐるぐる回るような感覚があります)《解説》「めまい」に関する訴えは英語でもさまざまな表現があります。代表的なものは「めまいがする」という意味の“to feel dizzy”ですが、「部屋が回っているような感じがする」という意味になる“I have a spinning sensation”、“ I feel like the room is spinning”などという訴えもよく聞かれます。また、単に「ぐるぐるする感覚がある」という意味で、“to feel giddy”などの表現も使われます。たとえば、“I felt a bit giddy when I got out of bed this morning.”(今朝ベッドから出た時に、少しぐるぐるする感覚がありました)となります。そのほか、同じような状況で使われる表現として、「気が遠くなる感じがする」や「気を失いそうになる感じがする」というのは、“I feel faint”、“ I have a lightheadedness”などと表現します。また、バランスを失いそうになる感覚がある時には“I feel woozy”という言い方があり、めまい感を表現する時にもよく使われます。講師紹介

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第167回 首都圏に漂う“コロナ第9波は沖縄県特有”という幻想

非常に嫌な雰囲気だと思う。全国での新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者が増加傾向にある件だ。感染症法上の5類移行により、現在の新型コロナ感染者報告は定点医療機関で行われているのは周知のこと。その数字を参照すると、全国の定点当たりの感染者報告数は、5類移行直後の5月8~14日の2.63人以降はじわじわと増加を続け、最新の6月19~25日では6.13人にまで達している。とりわけ増加傾向が顕著なのは沖縄県。同県の定点当たりの感染者数は、6月19~25日は39.48人で全国平均(6.13人)の6倍以上、すでに第8波のピークを越えたとの指摘もある。一部の民間検査センターでは、検査陽性率が5割に達するとも報じられており、この数字すら氷山の一角に過ぎないことがわかる。これまでのコロナ禍を振り返っても、沖縄県は日本国内でも最も新型コロナが流行しやすい地域の1つだが、その背景には活動性の高い若年人口比率が都道府県別で最も高く、これに対しワクチン接種率は都道府県別で最低などの事情があると思われる。以下は私個人の感覚に過ぎないのだが、コロナ禍の中で沖縄県での感染流行を話題にすると、友人・知人の多くはそれを「沖縄県特有のこと」と捉えがちと感じている。数日前にも友人との会話で今の感染状況が話題になったが、彼は「まあ、沖縄県とは距離があるし、即座に本州には波及しないでしょう」と言ってのけた。確かに前述のような人口構成比などに限らず、これまで抱えてきた歴史や風俗習慣の点でも沖縄県は独特である。これに加え、とくに首都圏在住者からすれば、物理的に離れていることも「沖縄県特有」との言葉で片付けられがちな大きな理由なのだろう。さらに友人は「そもそもたくさんの島が散らばっていて人口規模も小さいからさ」と言っていた。確かにこの友人が言うとおり、沖縄県の人口は約143万人で、都道府県別人口順位では真ん中より下の第25位。ただ、人口密度で見ると、全国第8位となる。ちなみに人口密度第10位までの都府県で、政令指定都市を含まないのは沖縄県だけである。その意味ではこの辺も沖縄県で新型コロナの感染が拡大しやすい要因の1つだろう。そして同じく友人が口にした「距離がある」のもそのとおりだが、今や一般人が「高嶺の花」と思わないコストで足を運べる時代だ。その証拠に沖縄県文化観光スポーツ部 観光政策課が公表している同県年間入域観光客数は、コロナ禍前の2019年度が1,016万3,900人。同県人口の約8倍で、うち7割以上が日本人である。コロナ禍でこの数字は大きく減ったとはいえ、2022年度は677万4,600人まで回復している。2022年度は外国人観光客数があまり回復していないため、このうちの97%が日本人、なおかつ半数弱が東京方面からである。この状況で、容易に時空を超える性質が最大の特徴である感染症が紛れ込めば、どうなるかは少し想像力を働かせればわかることだ。さらに付け加えれば、沖縄県外との行き来は多くが3密空間の代表格と言える航空機である。その意味で、沖縄県での感染流行を対岸の火事と思って眺めている間に、いきなり自分の背後から火の手が上がるというシナリオは、「とりあえず可能性がある」という程度の確率の低いものではないはず。少なくとも私自身、この状況を受けて行動制限まではしていないが、マスクを着用する局面(現在屋外では原則外している)は増やして対応している。

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多遺伝子リスクスコアと冠動脈石灰化スコアを比較することは適当なのか?(解説:野間重孝氏)

 pooled cohort equations(PCE)はACC/AHA心血管ガイドラインの一部門であるリスク評価作業部会によって開発されたもので、2013年のガイドラインにおいて、これを使用して一次治療においてアテローム性動脈硬化性心血管病のリスクが高いと判断された患者(7.5%以上)に対する高強度、中強度のスタチンレジメンが推奨され話題となった。現在PCEを計算するためのサイトが公開されているので、興味のある方は開いてみることをお勧めする(https://globalrph.com/medcalcs/pooled-cohort-2018-revised-10-year-risk/)。わが国であまり用いられないのは国情の相違によるものだろうが、米国ではPCE計算に用いられていない付加的指標を組み合わせることにより、精度の向上が議論されることが多く、現在その対象として注目されているのが冠動脈石灰化スコア(CACS)と多遺伝子リスクスコアだと考えて論文を読んでいただけると理解しやすいのではないかと思う。 「多遺伝子リスクスコア」とは一体何なのか、と疑問を持たれている方も多いのではないかと思う。少々極端なたとえになるが、臨床医ならばだれしも初診患者の診察をする際に家族歴を尋ねるのではないだろうか。また、少し年配の方で疫学に関係したことのある方なら、心筋症の家族歴の調査にかなりの時間を費やした経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思う。そこに2003年、ヒトゲノムが解読されるという大事件が起こったのである。その発症に遺伝が関係すると考えられる疾患の基礎研究で、研究方法がゲノム解析に向かって大きく舵を切られたことが容易に理解されるだろう。 一部のがんや難病では単一のドライバー遺伝子変異もしくは原因遺伝子によって説明できることがあるが、糖尿病・心筋梗塞・喘息・関節リウマチ・アルツハイマー認知症etc.など多くの問題疾患はいずれも多因子疾患であり、多数の遺伝的バリアントによって構成される多遺伝子モデル(ポリジェニック・モデル)に従うと考えられる。間接的、網羅的ゲノム解析であるSNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、この15年ほどの間に多くの多因子疾患の遺伝性を明らかにされた。さらに近年、数万人を超える大規模なGWASによって、非常に多数の遺伝因子を用いて多遺伝子モデルに従う予測スコア、すなわちいわゆる多遺伝子スコア(ポリジェニック・スコア)が構築され、医療への応用可能性を論じることが可能となってきた。しかしその一方で問題点や限界も明らかになってきており、直接的な臨床応用にはまだ限界があることを考えておかなければならない。また、GWASは主に欧州系の白人を対象に研究された経緯から、他の人種にどのように応用できるかには検討の余地がある。本研究で取り上げられた2つの大規模臨床モデルがいずれも欧州系白人を対象としているのは、このような理由によるものと考えられる。 一方冠動脈石灰化スコア(CACS)は造影剤を用いない心電図同期CTで計測可能な指標で、冠動脈全体の石灰化プラークの程度について石灰化の量にCT値で重み付けすることにより求められ、現在冠動脈全体の動脈硬化負荷の代替指標として確立しているといえる。しかし心筋梗塞や不安定狭心症は必ずしも高度狭窄から起こるわけではなく、プラークの不安定性を評価する指標も必要となる。CCTAでもプラークの不安定性を示す指標がいくつか知られているが、臨床応用にはまだ研究の余地があるといえる。とはいえ、FFR-CTまで含め、冠動脈CT検査は直接的な臨床応用が可能である点がゲノム解析にはない利点であることは確かだといえる。実際ゲノム解析には大変な手間・費用が掛かり、その将来性を否定するものではないが、現段階においてはその臨床応用範囲が、まだ限定的であることは否定できないだろう。 なお、多遺伝子リスクスコアがPCEに加えられることによって予想確度が上がるか否かについては2020年の段階で意見が分かれており、いずれもジャーナル四天王で取り上げられているのでご参考願いたい (「多遺伝子リスクスコアの追加、CADリスク予測をやや改善/JAMA」、「CHD予測モデルにおける多遺伝子リスクスコアの価値とは/JAMA」)。 今回の研究はさまざまな議論を踏まえ、多遺伝子リスクスコアを加えること、CACSを加えることのいずれがPCE予測値をより改善するかを検討したものである。結果は多遺伝子リスクスコア、CACSそれぞれ単独では冠動脈疾患発生を有意に予測したが、PCEに多遺伝子リスクスコアを加えても予測確度は上昇しなかった。一方CACSを加えることによりPCEの予測確度は有意に上昇した。 この研究の結論はそれ自体としては大変わかりやすいものなのだが、そもそも多遺伝子リスクスコアとCACSを同じ土俵で比較することが適当なのか、という疑問が残る。何故なら多遺伝子リスクスコアは原因・素因というべきであり、CACSはいわば結果であるからだ。素因と現にそこに起こっている現象とでは意味が違うのではないだろうか。こうした批判は関係する後天的な因子の果たす役割の大きい生活習慣病を考える場合、重要な視点なのではないかと思う。普段ゲノム研究を覗く機会の少ないものとしては大変勉強になる論文ではあったが、そんな素朴な疑問が残った。

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第166回 「有給休暇を取得、理由は必要か?」健康問題を抱える人に立ちはだかる壁

国が少子化対策の一環として打ち出した不妊治療の保険適用が2022年4月にスタートして1年以上が経過した。これまで全額自己負担だった人工授精、体外受精、顕微授精は一部条件付きで保険適用となり、従来は1回あたり人工授精で平均約3万円、体外受精では平均約50万円だった医療費が原則3割負担となった。少なくとも、これまで経済的負担の重さゆえに不妊治療をためらっていた人にとってはかなりの福音のはずだろう。実際、不妊治療を行う医療機関ではかなり通院者が増えたとの話も聞く。不妊・不育で悩む人をサポートするセルフサポートグループ「NPO法人 Fine」が2022年7~10月に不妊治療・不育治療を受けている人、あるいはこれから受ける人を対象に実施した「保険適用後の不妊治療に関するアンケート2022」(回答者1,988人)を読むと、その傾向の一端が見えてくる。アンケートでは保険適用になって『良くなった』と感じた回答者は65%、逆に『悪くなった』と感じた回答者が73%で、前者では経済的な負担軽減、後者では医療機関の混雑を回答の主な理由として挙げている。実際、回答者全体に尋ねた診療の待ち時間に関しては、「少し増えた」が36%、「すごく増えた」が27%、「変化はない」が35%とやはり全体としては受診者が増えていることをうかがわせる。また、同アンケートの結果では今受けたい治療を受けられているかとの設問に対しては、半数以上の56%が「はい」と回答しているのに対し、「わからない」が23%、「いいえ」が21%。ちなみに「はい」との回答は年齢が上昇するにつれて低下する。この理由は今回の保険適用で、体外受精と顕微授精での43歳という年齢制限がおそらく起因すると考えられる。賛否という二項対立では語り切れない結果だが、まだ揺らん期ともいえる時期なのでやむを得ない現状とも理解できる。しかし、少なくとも保険適用により経済的負担が軽減され、一部の人にとってはかなりハードルが下がったことや、これに関する報道で不妊治療に関する認知が広まったことなども考え併せれば、社会全体としては一歩前進したのではないかと個人的には考えている。私はこの問題に接すると常に思い出すエピソードがある。それは過去に一般誌で不妊治療特集の一部を担当した際に取材した男性の話だ。この男性は夫婦で不妊治療に取り組んで無事に子供を授かった人だったが、その際の通院の件について次のようなことを言っていた。今も残るメモにある彼の発言を一部不適切な表現を含むかもしれないが、そのまま以下に記す。「何が大変って、通院の理由を職場に説明する時ですよ。上司に『病院に行くので休みます』と言うと、『お前どうした? 何か具合でも悪いのか』と聞かれるんですよ。上司には悪気がなく、むしろ心配して聞いてくれているのはわかりますよ。でも『不妊治療のためです』とはなかなか言いにくいじゃないですか。ざっくり言えば下(シモ)の話ですしね。でもうちの妻のほうがもっと大変だったろうとは思います。妻にも『会社にどう説明した?』と聞きましたが、『うまい事何とかごまかした』と言ってましたよ」不妊治療の場合、排卵日というやや不確定な要素があるため、慢性疾患のような規則的な通院とはいかない。体外受精や顕微授精となると、女性の場合は数日間連続の通院となることもある。職場への説明に対する心理的ハードルは決して低くないはずであり、上司への説明はことさら厄介だろうと想像する。私自身、7年間という短い期間ながら会社員経験で仕えた直接の上司は3人いるが、それぞれの個性は異なり、今考えても話してもよいと思える話題の範囲はこの3人ではかなり異なる。前述のFineのアンケート結果を見ても、保険適用になって「良くなった」と感じている人のうち「仕事と両立しやすくなった」との回答はわずか4%にとどまることを考えれば、やはり対職場では気苦労はあるのだろう。そんな最中、ウィメンズヘルスを中核とする製薬企業オルガノン(本社:米国・ニュージャージー州)の日本法人が主催したワークショップを見学する機会を得た。これは6月が世界不妊啓発月間であることを受けて、2回に分けて行われたもので、1回目は20~30代の社会人が健康課題と向き合える会社制度・環境などについて、2回目は企業人事、組織運営の担当者が健康課題を持つ社員が働きやすい職場環境を実現するための企業対応を話し合ったものだ。私はこのうち2回目を聴講した。会場で話していたのはオルガノン、日本オラクル、東日本電信電話、ライフネット生命保険のいずれも人事・キャリア担当者だ。この4人の議論の中でも私が注目したのはライフネット生命保険の担当者から紹介された同社の特別休暇制度だった。同社には2016年に創設された特別休暇制度として、家族やパートナーの看病などに使える「ナイチンゲール休暇」(3日間)、不妊治療などの通院を目的とした「エフ休暇」(8日間)、さらに2019年度に創設された特定の疾患に罹患した際のナイチンゲールファンド休暇」(10日間)、がんなどの療養と業務の両立支援を目的とした「ダブルエール休暇」(12日間)など、労働基準法に定められた年次有給休暇以外にも多様な休暇制度があるとのこと。私も今回初めてこのことを知って驚いたが、それ以上に頷いたのがこれらの制度を使う際にはまず上司に相談するのではなく、人事担当者に相談するという点だった。このことはごく当たり前のことと思う人もいるだろう。しかし、働く者の多くはどうしても「休暇申請はまず上司に」との固定観念がある。そして過去の私に限らず多くの企業勤務者にとっては、「上司との相性」という壁も常に存在する。この点から考えれば、ライフネット生命保険のようにこれら特別休暇制度の利用時にまず人事が窓口になるならば、ワンクッションが置けてありがたいと思う人は少なくないはずだ。とりわけ法的に定められた年次有給休暇とは異なるこうした休暇制度はあっても取りにくいことはしばしばある。今回私が参加する前に開かれた第1回のワークショップのまとめを事前に目にしたが、その中には「上司が男性の場合、生理休暇が取りにくく、普通の有休として申請」との発言があり、さもありなんと思ったほどである。ただ、そうした状況もちょっとした人事制度の運用の仕方で様変わりすることもある。ただ、前近代的な慣習はまだまだ健在なのも事実だ。実際、このワークショップで日本オラクルの担当者が「私より上の世代にはまだまだ『理由がなければ有休を取得しちゃいけない』という考えがあって…」と発言した際には会場が爆笑の渦に包まれた。私もこれには内心で「休みたいと思ったから有休を取るんであって、『休みたい』こそが理由だろう」と突っ込んでしまった。余談だが、私は会社員1年目に年次有給休暇の10日間を一気に取得した。この時、上司は許可したものの、人事担当の責任者が上司のところに飛んできて「新人社員が有給休暇をすべて消化して、しかも一気に取るなんて前例がない」と言っていたのを耳にし、「は?」と思ったことがある。さて話を戻すが、この不妊治療に関連して厚生労働省が「仕事と不妊治療の両立支援のために」というパンフレットを発刊している。この中に「『仕事と不妊治療の両立支援について』企業アンケート調査結果」として、「貴社では、不妊治療を行っている従業員がいますか」で「はい」が13%、「貴社では、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度や取組を行っていますか」で「はい」が9%との数字が紹介されている。後者については現状がそうなのだろうと思うが、前者に関して、理由を告げずに治療に取り組んでいる人がいることは容易に想像でき、私は氷山の一角と解釈している。そしてこのことは今回の不妊治療に限らず、すべての健康問題にも言えることだろう。私自身の周囲ですら勤務先に告げずに慢性疾患、それもいわゆる難病の治療に取り組んでいる人を複数知っている。ワークショップでは一瞬、「休む理由が言いやすい会社が良いのか? それとも理由を言わずに休める会社が良いのか?」という言葉も出てきたが、これは健康問題を抱える人にとっては実は深刻な話だ。しかし、これは2項対立ではなく本来は2項両立のはずである。この点は純利益の追求が最大の目的である企業の経営者からすると悩ましい問題かもしれない。それでもなお私はやや厳しい言い方にはなるが、健康問題を抱える人が休暇を取得することに難色を示す経営者には「危機感に欠けている」と言わざるを得ない。よく言われる「少子高齢化」は、ともすると高齢化のほうばかりに目が行きがちだが、実は少子化もかなり深刻である。国立社会保障・人口問題研究所が公表した最新の日本の将来人口推計では、15~64歳のいわゆる現役人口は、2020年時点からの比較で、2025年には約200万人、2040年には約1,300万人も減少する。これまでなんとなく確保できていた社員を頭数上ですら確保できなくなる日がもう目の前に迫っているのだ。そもそも一見健康そうに見える若年世代にも健康上の問題を抱える人は少なくない。やや古いデータになるが、厚生労働省の2007年労働者健康状況調査によれば、男女とも20~30代では2割前後が何らかの持病を抱えている。その意味では企業が従業員の健康問題への支援策を整備することは、もはや喫緊の課題と言ってよいだろう。今回の不妊治療のワークショップでは、かなり先進的な企業事例を耳にしたが、その分だけ私個人は逆に日本全体に漂うライフワークバランスの欠如ぶりのほうに今改めて意識がいってしまっている。この構造のまま日本社会が突き進めば、その先に待っているのはどのような姿だろうか? どの道を行ってもあまり良い姿は想像できない。強いて浮かぶとするならば、水圧に負けて爆縮した潜水艇タイタン、あるいはタイタンが目指した先にあった深海に錆びついて鎮座する豪華客船タイタニック号のいずれかぐらいだ。

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英語で「難しい選択でした」は?【1分★医療英語】第86回

第86回 英語で「難しい選択でした」は?Though I said yes to surgery, I’m still quite anxious.(手術を受けますとは言ったものの、まだかなり不安です)I understand your concern. It was a tough call.(お気持ちお察しします。難しい選択でしたよね)《例文1》Making a medical decision can often be a tough call.(医療上の意思決定はしばしば難しくなり得るものです)《例文2》We needed to continue a blood thinner despite the stomach bleeding. That was a tough call.(胃からの出血がありながらも、血をサラサラにする薬を続ける必要がありました。難しい選択でした)《解説》“call”といえば、真っ先に「電話をかける」を思い浮かべる方が多いかもしれません。“I’ll make a quick phone call.”と言えば、「ちょっと短い電話をしてきます」という意味になります。この“call”という単語を名詞で使った場合、電話のほかに「選択肢」という意味で用いることができます。たとえば、“It’s your call.”と言えば、「それはあなたの選択です」という意味になりますし、“good”や“bad”と合わせて、“good call”(良い選択肢)、“bad call”(悪い選択肢)といった使い方もできます。医療の現場では、しばしば難しい選択を迫られるシーンに出合います。たとえば、「治療法Aと治療法Bのどちらを選択するか」、「相反する2つの病態をどう治療していくか、そもそも治療をするのかしないのか」…。こういった場面で、「難しい選択です」と伝えたいとき、“tough”という形容詞と合わせて、“It is a tough call.”と表現することもできます。講師紹介

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