サイト内検索|page:10

検索結果 合計:870件 表示位置:181 - 200

182.

アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例【見落とさない!がんの心毒性】第27回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴ECG異常、NT-proBNP高値既往歴高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴(+)、飲酒歴(-)家族歴父親:大腸がん、母親:狭心症現病歴X-9年の人間ドック受診時にPSA上昇を指摘されたため精査目的で泌尿器科を受診、前立腺生検を施行した。初回ならびに2回目(X-7年)の生検では陰性であったが、X-5年のドック検査でPSAがさらに上昇したことからMRI検査ならびに3回目の生検を施行し、前立腺がんと診断された。がん治療はアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)と放射線の併用療法が選択された。X-5年3月から同年12月まで第一世代抗アンドロゲン薬が投与され、X-5年4月からX-4年6月までGnRHアゴニストが併用された。さらに、放射線療法(78Gy)をX-5年10~12月まで施行された。その結果、PSAは正常化した。がん治療終了後に心臓CT検査を施行したが、冠動脈に有意な狭窄は認めなかった。その後、泌尿器科の定期的な受診とかかりつけ医で生活習慣病の治療を受けており、引き続き年1回の人間ドックは当院を受診していた。X年に受診した人間ドックで運動負荷試験陽性(図1)、NT-pro BNP高値を指摘された。胸痛などの自覚症状は認めなかったが糖尿病などのリスク因子を有しており、虚血性心疾患の合併を疑い、精査加療目的で循環器内科を紹介し受診された。(図1)X年の人間ドックでの運動負荷心電図試験(マスターダブル負荷)画像を拡大するX年に受診した人間ドック時運動負荷心電図ではV4-V6でST低下を認め、NT-proBNP 152pg/mLの上昇を認めた。本例は、前立腺がん治療終了後に心臓CT検査が施行されるも、冠動脈に有意狭窄は認められず、前年までの運動負荷心電図所見の異常はなかった。心電図変化は比較的軽く、自覚症状も認めなかったが、高齢かつ複数の動脈硬化危険因子を有していたこと、ADTを施行されていたことから心血管疾患の合併を疑い精査を行った。循環器専門病院で施行した冠動脈造影検査では左冠動脈#7に75~90%狭窄を認めたため、同部位に冠動脈形成術(ステント留置術)を施行した。【問題】本症例の治療に際して注意する点として、適切な答えを選択せよ。a.前立腺がん症例の多くは、治療前より高齢、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの心血管リスクを複数有している事が多く、がん治療を施行する際には心血管毒性に対する注意が必要である。b.ADTの施行後は肥満症、糖尿病、脂質異常症を来すことがあり、その後の動脈硬化症や冠動脈疾患の発症に注意が必要である。c.症候性冠動脈疾患の既往を有する症例に対し、ADTを施行する際には、心血管リスクの有無を考慮したがん治療薬の選択が重要である。d.ADTにおける筋肉系合併症としてはサルコペニア・運動耐容能の低下、骨関連合併症としては骨粗鬆症・骨折などを認めることがあるので注意を要する。e.すべて正しい1)Studer UE, et al. J Clin Oncol. 2006;24:1868–1876.2)Calais da Silva FE, et al. Eur Urol. 2009;55:1269–1277.3)Weiner AB, et al. Cancer. 2021;127:2895-2904.4)Klimis H, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2023;5:70-81.5)Narayan V, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2021;3:737-741.6)Chen DY, et al. Prostate. 2021;81:902-912.7)Okwuosa TM, et al. Circulation. 2021;14:e000082.8)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;432:4229-4361.講師紹介

183.

小児期の不十分なケアや過保護が成人後の糖尿病に関連

 子どもの頃に両親から十分なケアを受けていなかったり、過保護な環境で育てられたりすることと、成人期の糖尿病リスクとの関連を示唆する研究結果が報告された。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の柴田舞欧氏らが、久山町研究参加者のデータを横断的に解析した結果であり、詳細は「BMC Endocrine Disorders」に10月12日掲載された。 十分でないケアまたは過保護といった「不適切な養育」が、成人後の肥満などと関連のあることが既に報告されている。ただし、不適切な養育と糖尿病の関連の有無はよく分かっていない。柴田氏らはこの点について、日本を代表する地域住民対象疫学研究である「久山町研究」のデータを用いて検討した。 2011年に健診を受けた40歳以上の住民2,250人のうち研究参加に同意した793人から、データ欠落者を除外した710人(男性38.0%、糖尿病有病率14.9%)を解析対象とした。小児期の子育てスタイルは、自記式アンケート(Parental Bonding Instrument;PBI)を用いて、生後16年間の状況について回答してもらった。PBIは25項目から成り、父親と母親から受けた「不十分なケア」や「過保護」の程度をスコア化して評価する。本研究では各スコアの中央値をカットオフ値として群分けし比較した。 まず、父親の養育スタイルについて、ケアが適切であった場合を基準として、不十分だった場合の糖尿病有病率を、交絡因子〔年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・脂質異常症、糖尿病家族歴、婚姻状況、教育歴、主観的経済状況、ストレスホルモン(コルチゾール)レベル〕を調整して比較すると、オッズ比(OR)1.27(95%信頼区間0.79~2.05)であり、有意な関連は見られなかった。しかし、過保護だったか否かの比較では、OR1.71(同1.06~2.77)となり、父親から過保護に育てられた人の糖尿病有病率が有意に高かった。 一方、母親の養育スタイルとの関連について同様の交絡因子で調整して比較すると、ケアが不十分だった場合はOR1.61(1.00~2.60)、過保護であった場合はOR1.73(1.08~2.80)であって、いずれも有意な関連が認められた。 母親の養育スタイルが、適切なケアで過保護でない群〔以下、「最適な養育」〕を基準とすると、ケアが不十分で過保護な群〔以下、「不適切な養育」〕はOR1.94(1.12~3.35)と、成人後に糖尿病を有するオッズ比が2倍近くとなった。なお、ケアが不十分のみ、または過保護のみの場合は、いずれも有意なオッズ比上昇は見られなかった。また、父親の養育スタイルとの関連については、最適な養育と不適切な養育との比較で、有意なオッズ比上昇は見られなかった。 次に、父親と母親双方の養育スタイルが最適であった群を基準とする比較を実施。すると、父親と母親の養育スタイルがともに不適切であった群は交絡因子調整後、OR2.12(1.14~3.95)と2倍を超えるオッズ比が示された。なお、父親または母親いずれか一方のみが不適切な養育であった群はOR1.23(0.58~2.61)で、有意なオッズ比上昇は見られなかった。同様に、父親および母親の養育が不適切でも最適でもない群(ケアが不十分または過保護のいずれかのみに該当)はOR1.03(0.52~2.04)であり、有意なオッズ比上昇は見られなかった。 著者らは本研究が横断研究であり因果関係の解釈は制限されることや、健診受診者の3分の2が本研究への参加に同意せず悉皆性が高いとは言えないこと、残余交絡が存在する可能性のあることなどの限界点があるとしている。その上で、「幼少期の不十分なケアや過保護が成人後に糖尿病を有することと関連しており、特に両親から不適切な養育を受けた場合にはその関連性がより顕著になる」と結論付け、「最適な子育てのための保護者に対する社会的サポートが、糖尿病予防のための公衆衛生対策の手段となり得るのではないか」と付け加えている。 なお、両親の養育スタイルが糖尿病リスクに関連するメカニズムとしては、慢性的なストレスにより甘い物を口にしやすくなることや、自尊心および社会的スキルの低下などが媒介因子として働くのではないかとの考察が述べられている。

184.

18歳未満の家族性高コレステロール血症への診断アプローチは?/Lancet

 世界では毎年約45万例の子供が家族性高コレステロール血症を患って誕生しているが、家族性高コレステロール血症の成人患者のうち、現行の診断アプローチ(成人で観察される臨床的特徴に基づく)により18歳未満で診断されるのは2.1%にすぎないという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKanika Inamdar Dharmayat氏らの研究グループ「European Atherosclerosis Society Familial Hypercholesterolaemia Studies Collaboration」らは、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体(HeFH)の小児・思春期患者の臨床的特性を明らかにする検討を行い、成人で観察される臨床的特徴が小児・思春期患者ではまれで、検出には低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値測定と遺伝子検査に依存せざるを得ないことを明らかにした。しかし、世界の医療水準は画一ではないことを踏まえて、「遺伝子検査が利用できない場合は、生後数年間のLDL-C値測定の機会とその数値の使用率を高められれば、現在の有病率と検出率のギャップを縮めることができ、脂質低下薬の併用使用を増やして推奨されるLDL-C目標値を早期に達成できるようになるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年12月12日号掲載の報告。48ヵ国の55レジストリを基に、小児・思春期患者の特性を明らかに 研究グループは2015年10月1日~2021年1月31日に、Familial Hypercholesterolaemia Studies Collaboration(FHSC)レジストリに登録された、HeFHの臨床的または遺伝学的診断を受けた18歳未満の小児・思春期患者を対象に試験を行った。 データは、48ヵ国の55レジストリから収集され、自己申告による家族性高コレステロール血症歴、二次性高コレステロール血症疑いの診断症例は、レジストリから除外した。LDL-C値が13.0mmol/L以上で未治療の症例も除外した。 データは総合的に、またWHO地域、世界銀行による国の所得水準別分類、年齢、診断基準、インデックス・ケース(家族の中で最初に診断された患者)で層別化して評価した。 主要アウトカムは、家族性高コレステロール血症の小児・思春期患者について、現行の患者特性や管理の状況を評価することだった。高所得国と非高所得国で診断格差、脂質低下薬の非服用は72% FHSCレジストリの登録患者数6万3,093例で、そのうち18歳未満のHeFH患者1万1,848例(18.8%)を対象に試験を行った。 性別データが不明だった372例を除く1万1,476例中、女子が5,756例(50.2%)、男子が5,720例(49.8%)だった。登録時の年齢中央値は9.6歳(四分位範囲[IQR]:5.8~13.2)だった。また、遺伝子診断データまたは臨床診断データが得られなかった613例を除く1万1,235例中1万99例(89.9%)が家族性高コレステロール血症と最終的に遺伝子診断で確定診断を受けており、臨床診断による患者は1,136例(10.1%)だった。 遺伝子診断は、高所得国の小児・思春期患者が1万202例中9,427例(92.4%)と、非高所得国の415例中199例(48.0%)に比べ大幅に高率だった。インデックス・ケースは、1万804例のうち3,414例(31.6%)だった。 家族性高コレステロール血症関連の身体的徴候や心血管リスク因子、心血管疾患は全体としてはまれであり、非高所得国でより多く認められた。1万428例の患者のうち7,557例(72.4%)が脂質低下薬を服用しておらず、LDL-C中央値は5.00mmol/L(IQR:4.05~6.08)だった。 遺伝子診断に比べ、家族性高コレステロール血症の臨床基準に基づく診断は、成人向けに設定された基準を用いた場合には、より極端な表現型に依存するため、家族性高コレステロール血症の小児・思春期患者の50~75%が診断されない可能性があった。

185.

塩分過多は糖尿病のリスクも高める可能性

 糖分の取り過ぎは2型糖尿病リスクを高めることはよく知られている。一方、高血圧リスクとの関連で注意が呼び掛けられることの多い塩分の取り過ぎも、2型糖尿病リスクを高める可能性のあることが報告された。米チューレーン大学公衆衛生熱帯医学大学院のLu Qi氏らの研究によるもので、詳細は「Mayo Clinic Proceedings」11月号に掲載された。 この研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて行われた。ベースライン時に糖尿病、慢性腎臓病、がん、心血管疾患の既往がなく、料理に塩を加える頻度を問う質問への回答が記録されていた40万2,982人を解析対象とした。中央値11.9年の追跡で1万3,120人の2型糖尿病発症が記録されていた。 料理に塩を「全く、またはほとんど加えない」と回答していた群(55.5%)を基準として、交絡因子調整後の2型糖尿病発症ハザード比は、「時々加える」群(28.1%)が1.11(95%信頼区間1.06~1.15)で、「だいたい加える」群(11.6%)は1.18(同1.12~1.24)、「常に加える」群(4.8%)は1.28(1.20~1.37)であり、塩を加える頻度が高いほど2型糖尿病リスクが高いことが明らかになった(傾向性P<0.001)。 サブグループ解析から、年齢や性別、人種、BMI、C反応性タンパク、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・脂質異常症の有無、食習慣(高血圧予防のためのDASH食に近い食習慣か否か)、教育歴、所得、タウンゼント剥奪指数(貧困など社会的不平等の程度を表す指標)などの違いでは、有意な交互作用は観察されなかった。一方、媒介分析からは、塩の添加と2型糖尿病リスクとの有意な関連は、BMIが33.8%、ウエスト/ヒップ比が39.9%、C反応性タンパクが8.6%媒介していることが示された。また、BMIの媒介効果を除脂肪量(主に筋肉や骨の重量)と体脂肪量とに分けて解析すると、前者は2.0%のみであり、体脂肪量の媒介効果が大きいことが明らかになった。 これらの結果からQi氏は、「塩分制限が高血圧や心血管疾患のリスクを抑制することは既に知られているが、われわれの研究は食卓塩をテーブルに置かないことが、2型糖尿病の予防にも役立つことを初めて示した」と語っている。また、塩の添加と2型糖尿病リスクとの関連のメカニズムについては、「明確には分からないが、塩を加えることで過食につながり、肥満やそれに伴う炎症が亢進するためではないか」と考察している。 研究グループは、このトピックに関する次のステップとして、塩分添加量を研究参加者自身が管理することによって、2型糖尿病のリスクが抑制されることを実証するための臨床試験が必要だとしている。ただしQi氏は、そのような前向き研究のエビデンスのない現時点におけるアドバイスとして、「なるべく減塩を心掛けた食生活を、早めにスタートするに越したことはない」と述べている。

188.

糖尿病の合併症があると大腸がんの予後がより不良に

 糖尿病患者が大腸がんを発症した場合、糖尿病のない人に比べて予後が良くない傾向があり、糖尿病の合併症が起きている場合はその傾向がより強いことを示唆するデータが報告された。国立台湾大学のKuo-Liong Chien氏らの研究によるもので、詳細は「Cancer」に10月23日掲載された。 糖尿病は大腸がん予後不良因子の一つだが、糖尿病の合併症の有無で予後への影響が異なるか否かは明らかになっていない。Chien氏らはこの点について、台湾のがん登録データベースを用いた後方視的コホート研究により検討。2007~2015年にデータ登録されていた症例のうち、ステージ(TNM分類)1~3で根治的切除術を受けた患者5万9,202人を、糖尿病の有無、糖尿病の合併症の有無で分類し、Cox回帰分析にて、全生存期間(OS)、無病生存期間(DFS)、がん特異的生存率(CSS)、再発リスクなどを比較した。なお、全死亡(あらゆる原因による死亡)は2万1,031人、治療後の再発は9,448人だった。 交絡因子(年齢、性別、TNM分類、組織学的悪性度、化学放射線療法の施行、高血圧・脂質異常症の併存など)の影響を調整後、糖尿病で合併症のない群(15.0%)は、OS〔ハザード比(HR)1.05(95%信頼区間1.01~1.09)〕やDFS〔HR1.08(同1.04~1.12)〕が、わずかに非糖尿病群(75.9%)に及ばないことが確認された。CSS〔HR0.98(0.93~1.03)〕は非糖尿病群と有意差がなかった。 一方、糖尿病で合併症のある群(9.1%)では、OS〔HR1.85(1.78~1.92)〕やDFS〔HR1.75(1.69~1.82)〕への影響がより大きく、かつCSS〔HR1.41(1.33~1.49)〕にも有意な影響が認められた。再発リスクに関しては、糖尿病で合併症のない群がHR1.11(1.05~1.17)、糖尿病で合併症のある群はHR1.10(1.02~1.19)であり、いずれも同程度のリスク上昇が観察された。 OSに関連する因子のサブグループ解析の結果、男性では糖尿病で合併症のある群でのみハザード比の有意な上昇が認められたのに対して、女性では合併症のない群でもハザード比が有意に高いという違いが認められた(交互作用P<0.0001)。また、TNM分類で層別化すると、より早期のステージの場合に、合併症の有無によるOSへの影響に大きな差が生じていることが示された(交互作用P<0.0001)。年齢(50歳未満/以上)やがんの部位(結腸/直腸)、組織学的悪性度の層別解析からは、有意な交互作用は示されなかった。 Chien氏はジャーナル発のリリースの中で、糖尿病が大腸がんの予後を悪化させる理由について、「高インスリン血症や高血糖によって引き起こされるさまざまなメカニズムが関与している可能性があり、その中には2型糖尿病の特徴の一つである炎症状態の亢進も含まれるのではないか」との考察を述べている。また、「糖尿病合併症の予防には、多職種の専門家が関与した連携に基づく医療が重要であり、われわれの研究結果は特に女性や早期がん患者において、そのような介入が長期的な腫瘍学的転帰を改善する可能性のあることを示唆している」と付け加えている。

190.

lepodisiran、リポ蛋白(a)値を著明に低下/JAMA

 リポ蛋白(a)値の上昇は、主要有害心血管イベントや石灰化大動脈弁狭窄症の発症と関連する。循環血中のリポ蛋白(a)濃度は、ほとんどが遺伝的に決定され、生活習慣の改善やスタチン投与など従来の心血管リスク軽減のアプローチの影響を受けない。米国・Cleveland Clinic Center for Clinical ResearchのSteven E. Nissen氏らは、肝臓でのアポリポ蛋白(a)の合成を抑制することでリポ蛋白(a)の血中濃度を減少させるRNA干渉治療薬lepodisiran(N-アセチルガラクトサミン結合型短鎖干渉RNA)の安全性と有効性について検討を行った。その結果、本薬は忍容性が高く、用量依存性に長期間にわたり血清リポ蛋白(a)濃度を大幅に低下させることが示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年11月12日号に掲載された。米国とシンガポールの無作為化用量増量第I相試験 本研究は、lepodisiran単回投与の安全性と忍容性、薬物動態、および血中リポ蛋白(a)濃度に及ぼす効果の評価を目的とする無作為化用量増量第I相試験であり、2020年11月~2021年12月に米国とシンガポールの5施設で実施された(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18(シンガポールは21)~65歳、心血管疾患がなく(脂質異常症とコントロール良好な高血圧は可)、BMI値18.5~40で、血清リポ蛋白(a)濃度が高い(≧75nmol/Lまたは≧30mg/dL)患者を、プラセボまたは6つの用量(4、12、32、96、304、608mg)のlepodisiranを皮下投与する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、lepodisiran単回投与の用量増量の安全性(試験期間中の有害事象、重篤な有害事象)および忍容性とした。副次アウトカムは、投与後168日のlepodisiranの血漿中濃度および最長336日(48週)の追跡期間における空腹時血清リポ蛋白(a)濃度の変化量などであった。 48例(平均年齢46.8[SD 11.6]歳、女性35%、アジア人48%)を登録し、プラセボ群に12例、lepodisiranの各用量群に6例ずつを割り付けた。ベースラインの全体のリポ蛋白(a)濃度中央値は113nmol/L(四分位範囲[IQR]:82~151)、平均BMI値は28.0(SD 5.6)であった。608mg群で、337日目に94%の低下 重篤な有害事象として、4mg群の1例で投与後141日目に自転車からの転倒による顔面損傷が発生したが、薬剤関連の重篤な有害事象は認められなかった。有害事象はまれで、プラセボ群とlepodisiranの各用量群で全般に同程度の頻度であった。全身性の過敏反応やサイトカイン放出症候群のエピソードは発現しなかった。また、lepodisiranの血漿中濃度は10.5時間以内にピーク値に達し、48時間までには検出不能となった。 ベースラインの各群のリポ蛋白(a)濃度中央値は、次のとおりであった。プラセボ群111nmol/L(IQR:78~134)、lepodisiran 4mg群78nmol/L(50~152)、同12mg群97nmol/L(86~107)、同32mg群120nmol/L(110~188)、同96mg群167nmol/L(124~189)、同304mg群96nmol/L(72~132)、同608mg群130nmol/L(87~151)。 ベースラインから337日目までのリポ蛋白(a)濃度の最大の変化量の割合中央値は、次のとおりであり、lepodisiran群では用量依存性に低下した。プラセボ群-5%(IQR:-16~11)、lepodisiran 4mg群-41%(-47~-20)、同12mg群-59%(-66~-53)、同32mg群-76%(-76~-75)、同96mg群-90%(-94~-85)、同304mg群-96%(-98~-95)、同608mg群-97%(-98~-96)。 リポ蛋白(a)値の変化量の割合が大きい状態は、lepodisiranの高用量群でより長期に持続した。304mg群では、29~225日目までリポ蛋白(a)値が90%以上低下した状態が持続し、608mg群では、29~281日目まで定量化の下限値を下回り、22~337日目まで90%以上低下した状態が持続した。337日目の時点でのlepodisiran 608mg群におけるリポ蛋白(a)濃度の変化量中央値は-94%(-94~-85)だった。 著者は、「これらの知見は、lepodisiranの研究の継続を支持するものである」とし、「本試験では、最大の用量でも48時間後にはlepodisiranが血漿中に存在しなくなったが、リポ蛋白(a)濃度に対する効果ははるかに長く持続しており、年に1~2回の投与で高度なリポ蛋白(a)低下効果を達成する可能性がある」と指摘している。

191.

「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」発表/日本肥満学会

 肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)が、2023年11月22日に薬価収載された。すでに発売されている同一成分の2型糖尿病治療薬(商品名:オゼンピック皮下注)は、自費診療などによる適応外の使用が行われ、さまざまな問題を引き起こしている。こうした事態に鑑み、日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学大学院医学研究院内分泌代謝・血液・老年内科学教授])は「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」を11月27日に同学会のホームページで公開した(策定は11月25日)。 ステートメントでは、「肥満と肥満症は異なる概念であり、肥満は疾患ではないため、この存在のみでは本剤の適応とはならない」と適応外での使用に対し注意を喚起しており、適応としての「肥満症」、使用時に確認すべき注意点について以下のように整理している。【適応症について】1)肥満症について 肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した結果BMI25kg/m2以上を示す状態である。肥満と肥満症は異なる概念であり、肥満は疾患ではないため、この存在のみでは本剤の適応とはならない。 本剤の適応症である肥満症は「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」と定義されている(肥満症診療ガイドライン2022)。具体的には、肥満(BMI25kg/m2以上)に加え、減量によりその予防や病態改善が期待できる「肥満症の診断基準に必須の11の健康障害*(脂質異常症、高血圧など)」のいずれかを伴うものを肥満症と診断し、治療の対象とする。*11の健康障害(1)耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、(2)脂質異常症、(3)高血圧、(4)高尿酸血症・痛風、(5)冠動脈疾患、(6)脳梗塞・一過性脳虚血発作、(7)非アルコール性脂肪性肝疾患、(8)月経異常・女性不妊、(9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、(10)運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)、(11)肥満関連腎臓病2)本剤の適応となる肥満症について 本剤は肥満症と診断され、かつ、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、以下のいずれかに該当する場合に限り適応となる。 BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する場合か、BMIが35kg/m2以上の場合である。すなわち、肥満症の中でもBMIが35kg/m2以上である場合は高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有する場合、27kg/m2以上35kg/m2未満である場合は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかに加えて、耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、脂質異常症、高血圧など11の健康障害のうちのいずれか1つを含め、計2つ以上の健康障害を有する場合、保険適用となる。3)使用時に確認すべき注意点(1)本剤の使用に際しては、患者が肥満症と診断され、かつ2)の適応基準を満たすことを確認した上で適応を考慮すること。(2)肥満症治療の基本である食事療法(肥満症治療食の強化を含む)、運動療法、行動療法をあらかじめ行っても、十分な効果が得られない場合で、薬物治療の対象として適切と判断された場合にのみ考慮すること。(3)内分泌性肥満、遺伝性肥満、視床下部性肥満、薬剤性肥満などの症候性(二次性)肥満の疑いがある患者においては、原因精査と原疾患の治療を優先させること。 このほか、糖尿病治療中の患者における使用の注意点や、メンタルヘルスの変化を含む注意を払うべき副作用などが記載されている。

193.

インクリシランナトリウム投与でハイリスク患者のLDL-C目標達成に期待/ノバルティス

 2023年9月25日に製造販売承認を取得した国内初の持続型LDLコレステロール(LDL-C)低下siRNA製剤インクリシランナトリウム(商品名:レクビオ皮下注)が11月22日に薬価収載および発売された。それに先立ち開催されたメディアセミナーにおいて、山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が薬剤メカニズムや処方対象者について解説した(主催:ノバルティスファーマ)。インクリシランナトリウムはPCSK9阻害薬と異なる作用機序 PCSK9は、LDLの肝臓への取り込みを促進するLDL受容体を分解して血中LDLの代謝を抑制する効果があり、PCSK9阻害薬として国内ではモノクローナル抗体のエボロクマブ(商品名:レパーサ皮下注)が2016年に上市している※。一方、インクリシランナトリウムはPCSK9蛋白をコードするmRNAを標的としたsiRNA(低分子干渉RNA)製剤で、「GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)という構造体を有することで標的組織である肝臓に選択的に取り込まれ、肝細胞内で肝臓のRNAi機構によりPCSK9蛋白の産生を抑制するというまったく異なる作用機序を持つ」と、山下氏はインクリシランナトリウムと既存のPCSK9阻害薬の主な違いについて説明した。※現在、アリロクマブは特許の関係で国内販売が中止されている。インクリシランナトリウムが低い目標達成率に切り込む インクリシランナトリウムの適応の主な対象患者は、2次予防・高リスク患者(1:急性冠症候群、2:家族性高コレステロール血症、3:糖尿病、4:冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併、のいずれかを有する)。しかし現状では、これらの患者に対するLDL-Cの管理目標値(70mg/dL未満)の達成率はわずか25%に留まっていることが直近の山下氏らによる研究1)から明らかになった。他方で、動脈硬化性疾患または糖尿病がある心血管疾患のリスクが高い患者の33%でスタチン/エゼチミブによる治療が処方後100日未満しか継続されていないことも日本医療データセンターのデータベースで判明した。 そして、LDL-C値の管理におけるもう1つの問題が、家族性高コレステロール血症に対する既存薬による治療効果の低さである。PCSK9阻害薬が上市される前に実施されたFAME Study2)からは、FH患者では1次予防の達成率は12%(528例中65例)、2次予防の達成率はわずか2%(165例中3例)という現状が浮き彫りになったが、これに対し同氏は「インクリシランナトリウムを投与することで、目標値を達成できる。安全性(心血管死、心停止からの蘇生、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の発現割合を含む)においてもプラセボ群と同等だった。なお、心血管イベント抑制効果を検証する臨床試験は現在実施中である」とコメントした。 このほか、インクリシランナトリウムは医療機関で投与する皮下注射薬で、年2回投与(投与間隔:初回、初回から3ヵ月後、以降6ヵ月に1回)であることから治療アドヒアランスの向上が期待できる点、スタチン不耐患者にも有用である点にも触れ、「2次予防において極めて高リスク患者が本薬剤の主な対象者であり、1次予防高リスク患者においては発症予防目的の使用が考えられる。自己注射を敬遠している患者にはインクリシランナトリウムを使うなど、患者のライフスタイルに応じてPCSK9阻害薬と本剤を使い分けられるのではないか」と締めくくった。<製品概要>商品名:レクビオ皮下注300mgシリンジ一般名:インクリシランナトリウム効能・効果又は性能:家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。・心血管イベントの発現リスクが高い・HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない用法・用量:通常、成人にはインクリシランナトリウムとして1回300mgを初回、3ヵ月後に皮下投与し、以降6ヵ月に1回の間隔で皮下投与する。製造販売承認取得日:2023年9月25日薬価基準収載日:2023年11月22日発売日:2023年11月22日薬価:44万3,548円(300mg 1.5mL/筒)――― なお、日本動脈硬化学会は2018年にPCSK9阻害薬の適正使用に関する声明文3)を出し、それに続いて、2021年には継続使用に関する指針4)も出している。

194.

生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。 冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。その危険因子としては4大危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられるが、腎透析が独立した危険因子であることは付け加えておく必要があるだろう。 そのLEADの中でとくに下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染など肢切断リスクを持ち、早急な治療介入が必要な下肢動脈硬疾患がとくに「chronic limb-threatening ischemia :CLTI」と呼称され、「包括的高度慢性下肢虚血」と訳される。ガイドラインにもあるように速やかに血行再建術が施行される場合がほとんどであるため、その自然歴の報告は大変少ないものの、血行再建術が非適応ないし不成功だったCLTI患者の6ヵ月死亡率は、20%に上ることが報告されている。 今回の他施設共同研究では主要エンドポイントがスキャフォールド群で173例中135例、血管形成群で88例中48例となっているが、これは研究の対象患者が膝窩動脈疾患とはいってもCLTI例ばかりではなく、有症状ながらもそれほどの重症例ではないものも組み入れられていたためと考えられる。この結果は生体吸収型のステントにかなり有利なものになっているが、一方で批判的な見方も忘れてはならないと思う。 血管内治療に携わったことのある医師ならば、以前生体吸収型の冠動脈ステントがやはり今回のスポンサーであるアボットから発売されて一時話題になったが、血栓症のリスクが高いことが問題となり、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態になっていることをご存じだと思う。 一方足の血管において、とくに膝窩動脈の治療においてはステントが血管内に残留していることによる足の可動制限が大きな問題となる。膝窩動脈の治療は、下肢動脈の他の部位の治療とは違った見方がされる必要があるのである。さらに足の血管は冠動脈に比して血流が遅く、血管内の炎症が進行しやすいため、血栓症のリスクが高まると考えられている。その点生体吸収型ステントは、一定期間で分解・吸収されるため、血管内に留まる時間が短く血栓症のリスクを下げるばかりでなく、可動制限が一定期間で解消されるのではないかと期待が持たれている。 しかしその一方、生体吸収性ステントは、金属製ステントよりも血栓の発症そのものは起こりやすく、また金属ステントに比して厚みのある構造になっていることから、留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じ、これがさらに血栓症の危険を高めるのではないかとも危惧されている。 評者は今回の試みを評価するものではあるが、もうしばらくフォローアップ期間を置いて判断する必要があるのではないかと思う。また、重症例に絞った結果も知りたいところである。そして何といっても、外科的な治療との比較が行われることが重要なのではないかと考えるものである。評者は内科医であるから外科領域について軽々に言及することは控えなければならないが、あえていえば、最近末梢血管治療を手掛ける外科医(下肢の血管は血管外科医だけでなく形成外科でも一部手掛けられている)が、どんどん減少していること、それもあってか新しい術式の開発が積極的になされていないことが気になるところである。 なお、今回の研究は動脈硬化性狭窄を対象としているが、はっきり動脈瘤を形成している場合は、現在でも外科手術が第一選択であることは付け加えておかなければならないだろう。

195.

セマグルチド製剤の最適使用推進ガイドラインを公表/厚労省

 社会的に痩身目的での糖尿病治療薬の使用が散見され、本来必要な患者に治療薬が届かないといった事態が起こっている。そのような中でセマグルチド製剤のウゴービ皮下注が肥満症治療薬として承認され、2023年11月22日に薬価収載された。これらの事態を懸念し、厚生労働省は医療機関および薬局に対する周知を目的として、本剤に関する「最適使用推進ガイドライン」を11月21日に公表した。 本ガイドラインには、ウゴービ皮下注を肥満症に対して使用する際の留意事項が記載されており、その使用に際し、ガイドライン内容に留意するよう促している。その中で投与対象となる患者については以下のように記載されている。【患者選択について】投与の要否の判断にあたっては、以下のすべてを満たす肥満症患者であることを確認する。 1)最新の診療ガイドラインの診断基準に基づき、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれか1つ以上の診断がなされ、かつ以下を満たす患者であること。 ・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する ・BMIが35kg/m2以上2)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病ならびに肥満症に関する最新の診療ガイドラインを参考に、適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく治療を6ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、この間に2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。なお、食事療法・運動療法に関しては、患者自身による記録を確認する等により必要な対応が実施できていることを確認し、必要な内容を管理記録等に記録すること。3)本剤を投与する施設において合併している高血圧、脂質異常症または2型糖尿病に対して薬物療法を含む適切な治療が行われている患者であること。本剤で治療を始める前に高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれか1つ以上に対して適切に薬物療法が行われている患者であること。 このほか、使用する施設や医師の要件、投与に際して留意すべき事項などが記載されている。

196.

温泉地での集中的健康管理で身体の諸指標と睡眠の質が改善

 最近、温泉は、リゾートとしてヨーロッパなどでは健康増進の目的で利用されている。そこで、中国・重慶医科大学公衆衛生学のYu Chen氏らの研究グループは、温泉地での慢性疾患ハイリスク者の身体検査指標と睡眠の質に対する集中的健康管理の効果を検証し、その結果を報告した。International Journal of Biometeorology誌2023年12月号に掲載。健康介入は不眠にも効果ありか 本研究では、慢性疾患のリスクが高いボランティア114例を介入群57例、対照群57例に分けて検証。介入群には4週間(28日間)、重慶の統景温泉で定期的な日課、バランスの取れた食事、適切な運動、的確な健康教育など、包括的な健康管理介入を行った。主なアウトカムは、身体検査指標(身長、体重、ウエスト周囲径、血圧、血中脂質、血糖値)と睡眠の質。両群とも、ベースライン時、2週後、4週後に質問票と身体検査を実施。 主な結果は以下のとおり。・曝露基準で分類したグループ内比較で、介入群では2週後、4週後ともにBMI、ウエスト周囲径、トリグリセライド、総コレステロール、血糖値が低下した(すべてp<0.05)。対照群では4週後にトリグリセライドのみが低下した(p<0.05)。・グループ間比較では、BMIとウエスト周囲径は4週時点で介入群が対照群より有意に低下した(すべてp<0.05)。・不眠症重症度指数(ISI)スコアのグループ内比較では、介入群では2週後と4週後の両方で有意な減少がみられ(すべてp<0.001)、対照群では有意な変化はみられなかった(p>0.05)。・グループ間比較のISIスコアは、ベースラインでは対照群より介入群で有意に高かったが(p=0.006)、は2週後と4週後では対照群より有意に低くなった(すべてp<0.001)。 以上の結果から、慢性疾患ハイリスク者で集中的健康管理を行った介入群においてBMI、ウエスト周囲径、トリグリセライド、睡眠の質を有意に改善した。

197.

わが国初の脂質異常症siRNA製剤「レクビオ皮下注300mgシリンジ」【最新!DI情報】第4回

わが国初の脂質異常症siRNA製剤「レクビオ皮下注300mgシリンジ」今回は、持続型LDLコレステロール(LDL-C)低下siRNA製剤「インクリシランナトリウム注射剤(商品名:レクビオ皮下注300mgシリンジ、製造販売元:ノバルティス ファーマ)」を紹介します。本剤の投与間隔は初回、3ヵ後、以降6ヵ月に1回であるため、治療アドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、家族性高コレステロール血症および高コレステロール血症の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得しました。本剤の使用は、心血管イベントの発現リスクが高い場合、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分/不適の場合のいずれも満たす場合に限られます。<用法・用量>通常、成人にはインクリシランナトリウムとして1回300mgを初回、3ヵ月後、以降6ヵ月に1回の間隔で皮下投与します。なお、HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用します。<安全性>海外第III相ORION-9、10、11試験における18ヵ月間の治療期間中の副作用の発現割合はそれぞれ24.1%(58/241例)、13.4%(105/781例)、15.2%(123/811例)でした。主な副作用は下記のとおりでした。ORION-9試験:注射部位紅斑3.7%(9/241例)、注射部位疼痛2.5%(6/241例)、注射部位そう痒感2.5%(6/241例)ORION-10試験:注射部位疼痛2.9%(23/781例)、糖尿病2.3%(18/781例)、注射部位反応1.7%(13/781例)ORION-11試験:注射部位反応2.2%(18/811例)、注射部位紅斑1.6%(13/811例)、糖尿病0.5%(4/804例)、注射部位疼痛1.0%(8/811例)<患者さんへの指導例>1.この薬は、これまでの治療で十分な血中LDL-Cの低下効果が得られなかった患者さんに使われます。2.初回、3ヵ月後、その後6ヵ月ごとに医療機関で皮下に投与し、LDL-Cの管理目標値を目指します。3.この薬による治療で医療費が高額になったときは、公的な支援を利用できる場合があります。<ここがポイント!>動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を予防するためにはLDL-Cを適切に管理することが重要です。LDL-Cを低下させるには、第1選択薬であるスタチンをはじめ、複数の脂質低下療法で治療しますが、管理目標値まで低下させることが困難な患者が一定数存在します。本剤は、PCSK9 mRNAを標的とするsiRNA製剤です。PCSK9はLDL受容体に直接結合し、LDL受容体の分解を促進する働きがあります。本剤は肝臓内でPCSK9の機能を阻害することでLDL受容体の分解を抑制し、LDL-Cを効率よく細胞内に取り込んで血中濃度を低下させます。投与間隔が初回、3ヵ月後、以降6ヵ月に1回の注射薬であるため、治療アドヒアランスの向上が期待されます。日本人患者312例を対象とした国内第II相用量設定試験(ORION-15)において、主要評価項目である投与180日目のLDL-Cのベースラインからの変化率(最小二乗平均)はプラセボ群で9.0%、本剤300mg群で-56.3%であり、変化率の群間差は-65.3%(95%CI:-72.0~-58.6)で、プラセボ群と比較して有意にLDL-Cが低下しました(p<0.0001)。また、海外第III相試験(ORION-9、10、11試験)では、投与510日目のLDL-Cのベースラインからの変化率は、プラセボ群ではそれぞれ8.22%、0.96%、4.04%であった一方、本剤群では-39.67%、-51.28%、-45.82%であり、群間差は-47.89%、-52.24%、-49.85%で、プラセボ群と比較して有意にLDL-Cが低下しました。脂質異常症の治療には、食事療法とともに運動療法、禁煙、ほかの虚血性心疾患のリスクファクター(糖尿病、高血圧症など)の軽減も重要です。患者さんが積極的に取り組めているかどうかを適宜確認しましょう。

198.

第171回 医師会長、病院団体とともに診療報酬の大幅引き上げを岸田総理に強く要求/医師会

<先週の動き>1.医師会長、病院団体とともに診療報酬の大幅引き上げを岸田総理に強く要求/医師会2.肥満症治療薬セマグルチドが薬価収載、供給不足の懸念も/中医協3.不妊治療の保険適用で医療費895億円、患者の経済負担は?/中医協4.2025年発足のかかりつけ医機能報告制度、分科会で議論開始/厚労省5.日本で緊急避妊薬の試験販売開始、医師の処方箋不要に/厚労省6.解禁前に大麻類似成分含むグミ問題が浮上、販売停止へ/厚労省1.医師会長、病院団体とともに診療報酬の大幅引き上げを岸田総理に強く要求/医師会日本医師会の松本 吉郎会長は、病院団体の代表らとともに11月15日に官邸を訪れ、岸田 文雄首相と面会し、医療現場で働く職員の賃上げを「非常に重要な事項」として診療報酬の改定での増額を求めた。この面会に先立ち、松本会長は日本病院会などからなる四病院団体協議会の幹部と記者会見を開き、2024年度の診療報酬改定に向けて大幅な引き上げを強く求める合同声明を発表した。医療業界は物価高騰や賃金上昇による経営環境の厳しさに直面しており、とくに入院基本料の引き上げを要望している。入院基本料は15年間据え置かれており、病院経営の持続可能性に影響を与えている。財務省側の診療報酬マイナス改定の求めに対して、日本病院会の島副会長は、「赤字病院が8割を超えており、診療報酬の引き下げが入院医療の質の低下につながる」と懸念を表明したほか、全日本病院協会の猪口会長は、賃上げの余裕がない現状を指摘し、財政支援の必要性を訴えた。来年の診療報酬の改定の幅は年末までに決定される見込みで、今後は厚生労働省、財務省とさらに折衝が行われる。参考1)類を見ない物価高騰「大幅な診療報酬引き上げを」日本医師会と四病協が合同で声明(CB News)2)日医・四病協が合同声明 24年度診療報酬改定「大幅引上げ強く求める」 日病「入院基本料引上げは悲願」(ミクスオンライン)3)首相「医療職賃上げ重要」 日医会長らと面会(東京新聞)4)令和6年度診療報酬改定に向けた日本医師会・四病院団体協議会合同声明(日医)2.肥満症治療薬セマグルチドが薬価収載、供給不足の懸念も/中医協厚生労働省は、11月15日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、肥満症治療の新薬セマグルチド(商品名:ウゴービ)の薬価収載について了承した。肥満症の治療薬として約30年ぶりに公的医療保険の対象として承認された。セマグルチドはGLP-1受容体作動薬であり、肥満症の治療に用いる場合は、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法や運動療法で十分な効果が得られない、特定のBMI基準を満たす患者に限定されている。ウゴービと同一成分のオゼンピック注は、すでに糖尿病治療薬として使用されており、ウゴービの薬価償還により美容・ダイエット目的での不適切な使用が増え、供給不足のため必要な患者への薬剤供給が困難となる可能性が懸念されている。厚労省や医療関係者は、GLP-1受容体作動薬の適切な使用を強く呼びかけ、不適切な使用による健康被害や供給不足の問題を防ぐための対策を求めている。また、セマグルチドの供給に関しては、製薬会社が安定供給を確保できると報告しているが、実際の供給状況や使用実態については、引き続き注視が必要。参考1)オゼンピック皮下注2mg供給(限定出荷)に関するお知らせ(ノボ ノルディスクファーマ)2)中医協総会 肥満症治療薬・ウゴービ収載で厚労省に対応求める ダイエット目的の使用で供給不安を懸念(ミクスオンライン)3)肥満症薬ウゴービ22日収載、ピーク時328億円 中医協・総会が了承(CB News)4)肥満症に30年ぶり新薬、ウゴービを保険適用へ…ダイエット目的の使用に懸念も(読売新聞)5)糖尿病治療薬は「やせ薬」? ネットで広まり品薄状態に(産経新聞)3.不妊治療の保険適用で医療費895億円、患者の経済負担は?/中医協厚生労働省は、11月17日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、不妊治療を取り上げた。2022年度の診療報酬改定に合わせて、不妊治療が保険適用され、患者側や医療機関側の反応と金額について議論を行った。保険適用後の不妊治療の実施状況は、医療費895億円、レセプト件数125万件、実患者数37万人。一般不妊治療管理料は31万回、生殖補助医療管理料は合計61万回以上算定されていた。しかし、保険適用にあたって設けられた範囲や年齢・回数制限に関して、見直しを求める意見が出されたほか、凍結保存胚の維持管理期間の延長が検討された。また、不妊治療の全体像を正確に把握するために、今後も日本産婦人科学会のデータ検証が必要とされた。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(第565回) 議事次第2)不妊治療の保険適用、昨年度の医療費895億円 対象拡大後 厚労省(朝日新聞)3)「不妊治療の保険適用」は効果をあげているが「年齢・回数制限の見直し」求める声も、凍結胚の維持管理期間を延長してはどうか-中医協総会(Gem Med)4.2025年発足のかかりつけ医機能報告制度、分科会で議論開始/厚労省2025年4月に施行される「かかりつけ医機能報告」制度に向けて、厚生労働省は「第1回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を11月15日に開き、議論を開始した。かかりつけ医機能報告制度は、慢性疾患患者や高齢者など継続的な医療が必要な人々に対して、地域での「かかりつけ医機能」を確保・強化することを目的としている。分科会では、医療機関が都道府県に報告する「かかりつけ医機能」の内容や、報告制度の対象となる医療機関の範囲などを具体化することが議題となっている。分科会では、患者が適切な受診先を選択できるように「かかりつけ医機能」をカバーする医療機関の基準設定の必要性が指摘された。このほか、地域医療機関の連携強化や患者が「かかりつけ医機能を持つ医療機関」を容易に検索できる仕組みの構築が重要であるとの意見も出された。医療提供側からは、幅広い医療機関が参加できるような仕組みへの期待を寄せる声が上がったほか、患者側と医療側で「かかりつけ医機能」に関する意識のズレも明らかとなった。今後は議論を重ね、実効性のある「かかりつけ医機能」の具体化に進め、来年の夏までに取りまとめを行い、法律改正を経て、令和7(2025)年度の発足を目指す見込み。参考1)第1回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会 資料(厚労省)2)「かかりつけ医機能」具体化へ分科会が初会合 プレゼン・ヒアリングでまず実態把握(CB News)3)かかりつけ報告、来年夏に取りまとめへ 厚労省分科会が初会合(MEDIFAX)5.日本で緊急避妊薬の試験販売開始、医師の処方箋不要に/厚労省厚生労働省は、緊急避妊薬(アフターピル)の試験販売が11月28日から開始されることを明らかにした。全国約145~150の薬局で、医師の処方箋なしで販売される予定。価格は7,000~9,000円で、16歳以上の女性を対象としているが、18歳未満では保護者の同伴が必要となる。緊急避妊薬は、性交後72時間以内に服用することで妊娠を高確率で回避でき、現在は、医師の処方箋が必要であり、避妊失敗や性暴力による望まない妊娠を防ぐために市販化を求める声が上がっていた。試験販売は来年3月29日までの予定で、厚労省が求める要件を満たす薬局で実施される。要件としては夜間や休日の対応、近隣の産婦人科との連携、プライバシーが確保できる個室の有無などが含まれ、購入者は研究への参加に同意する必要がある。参考1)緊急避妊に係る診療の提供体制整備に関する取組について(厚労省)2)緊急避妊薬、薬局で試験販売 28日から、全国145店舗 厚労省(時事通信)3)緊急避妊薬28日試験販売 全国145薬局、16歳以上(日経新聞)4)医師の処方箋なしで緊急避妊薬、28日から全国150薬局で試験販売…薬剤師の面前で薬を服用(読売新聞)6.解禁前に大麻類似成分含むグミ問題が浮上、販売停止へ/厚労省厚生労働省麻薬取締部は、大麻の類似成分を含むとされるグミによって体調不良を訴える人が相次いでいることを受け、東京と大阪の販売店に対して販売停止命令を出した。これらのグミは「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」という未規制の成分を含んでいるとされ、武見 敬三厚生労働大臣は使用・流通の禁止を検討している。今回の事件は、東京都内や大阪市での祭りや公共の場での配布により、体調不良を訴え、病院に搬送される患者から発覚した。厚労省は、これらのグミが健康被害を引き起こす可能性があるとして、成分分析を行っている。また、CBD(カンナビジオール)を含む合法的な「CBDグミ」との混同を避けるための情報提供も行っている。販売する「ワンインチ」社の社長は、同社のCBDグミは安全であり、大麻グミとは異なると主張している。また、厚労省は、CBD製品は、大麻取締法に該当しないことを明らかにしている。大麻草から抽出した成分を用いて製造した医薬品の国内での使用解禁を含む、大麻取締法の改正案が11月14日に衆議院本会議で可決されたばかりで、武見厚労働大臣は、17日の閣議後の会見で、成分が特定されれば、「速やかに指定薬物として指定し、使用・流通を禁止する」方針を明らかにしている。参考1)大麻グミ騒動 「CBDグミ」販売元が訴え「味覚糖製造、安全」「HHCHとは大きく異なる…大変迷惑」(スポニチ)2)「グミ」店に販売停止命令 麻薬取締部、大麻類似成分(東京新聞)3)「大麻グミ」規制へ 搬送相次ぎ、厚労相「使用・流通禁止を検討」(朝日新聞)4)大麻法改正案、衆院通過 成分含む薬、使用可能に(産経新聞)

199.

増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー【見落とさない!がんの心毒性】第26回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・女性(BMI:26.2)既往歴高血圧症、2型糖尿病(HbA1c:8.0%)、脂質異常症服用歴アジルサルタン、メトホルミン塩酸塩、ロスバスタチンカルシウム臨床経過進行食道がん(cT3r,N2,M0:StageIIIA)にて術前補助化学療法を1コース受けた。化学療法のレジメンはドセタキセル・シスプラチン・5-fluorouracil(DCF)である。なお、初診時のDダイマーは2.6μg/mLで、下肢静脈エコー検査と胸腹部骨盤部の造影CTでは静脈血栓症は認めていない。CTにて(誤嚥性)肺炎や食道がんの穿孔による縦隔炎の所見はなかった。2コース目のDCF療法の開始予定日の朝に37.8℃の微熱を認めた。以下が上部消化管内視鏡画像である。胸部進行食道がんを認める。画像を拡大する以下が当日朝の採血結果である(表)。(表)画像を拡大する【問題】この患者への抗がん剤投与の是非に関し、専攻医がオーダーしていたために病態を把握できた項目が存在した。それは何か?a.プロカルシトニンb.SARS-CoV-2のPCR検査c.Dダイマーd.βD-グルカンe.NT-proBNP筆者コメント本邦のガイドラインには1)、「がん薬物療法は、静脈血栓塞栓症の発症再発リスクを高めると考えられ、Wellsスコアなどの検査前臨床的確率の評価システムを起点とするVTE診断のアルゴリズムに除外診断としてDダイマーが組み込まれているものの、がん薬物療法に伴う凝固線溶系に関連するバイオマーカーに特化したものではない。がん薬物療法に伴う静脈血栓症の診療において、凝固線溶系バイオマーカーの有用性に関してはいくつかの報告があるものの、十分なエビデンスの集積はなく今後の検討課題である」と記されている。一方で、「がん患者は、初診時と入院もしくは化学療法開始・変更のたびにリスク因子、バイオマーカー(Dダイマーなど)などでVTEの評価を推奨する」というASCO Clinical Practice Giudeline Updateの推奨も存在する2)。静脈血栓症の症状として「発熱」は報告されており3)、欧米のデータでは、実際に肺塞栓症(PE)発症患者の14~68%で発熱を認め、発熱を伴う深部静脈血栓症(DVT)患者の30日死亡率は、発熱を伴わない患者の2倍になることも報告されている4)。このほか、可溶性フィブリンモノマー複合体定量検査値は、食道がん周術期においても中央値は正常値内を推移することが報告されており、その異常高値はmassiveな血栓症の指標になる可能性もある5)。がん関連血栓症の成因として、(1)患者関連因子、(2)がん関連因子、(3)治療関連因子が2022年のESC Guidelines on cardio-oncologyに記載された6)。今後一層のがん患者の生存率向上とともに、本症例のようなケースが増加すると思われる。1)日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会編. Onco-cardiologyガイドライン. 南江堂;2023. p.56-58.2)Key NS, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3063-30713)Endo M, et al. Int J Surg Case Rep. 2022;92:106836. 4)Barba R, et al. J Thromb Thrombolysis. 2011;32:288–292.5)Tanaka Y, et al. Anticancer Res. 2019;39:2615-2625.6)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;43:4229-4361.講師紹介

200.

ステロイド処方医は知っておきたい、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症のガイドライン改訂

 『グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023』が8月に発刊。本書は、ステロイド薬処方医が服用患者の骨折前/骨密度低下前の管理を担う際に役立ててもらう目的で作成された。また、ステロイド性骨粗鬆症の表現にはエストロゲン由来の病態も含まれ、海外ではステロイド性骨粗鬆症と表現しなくなったこともあり、“合成グルココルチコイド(GC)服用による骨粗鬆症”を明確にするため、本改訂からグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)と表記が変更されたのも重要なポイントだ。9年の時を経て治療薬に関する膨大なエビデンスが蓄積された今回、ガイドライン作成委員会の委員長を務めた田中 良哉氏(産業医科大学第一内科学講座 教授)に、GIOPにおける治療薬の処方タイミングや薬剤選択の方法などについて話を聞いた。ステロイド薬処方時にグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の予防策 自己免疫疾患や移植拒絶反応をはじめ、多くの疾患治療に用いられるステロイド薬。この薬効成分は合成GCであるため、ホメオスタシスを維持する内在性ホルモンと共通の核内受容体に結合し、糖、脂質、骨などの代謝に異常を来すことは有名な話である。他方で、ステロイド薬の処方医は、GCを処方することで代謝異常を必然的に引き起こしていることも忘れてはいけない話である。 つまり、ステロイド薬を処方する際には、必ずこれらの代謝異常が出現することを念頭に置き、必要に応じた予防対策を講じることが求められる。その1つが“骨粗鬆症治療薬を処方すること”なのだが、実際には「骨粗鬆症の予防的処方に対する理解は進んでいない」と田中氏は話した。この理由について、「GIOPには明確な診断基準がなく、本ガイドラインに記載されていることも、あくまで“治療介入のための基準”である。診断基準がないということは診断されている患者数もわからない。骨粗鬆症患者1,600万人のうち、GCが3ヵ月継続処方されている患者をDPCから推算すると約100~150万人が該当すると言われているが、あくまで推定値に過ぎない。そのような背景から、GIOPに対する管理・治療が世界中で問題になっている」と同氏は警鐘を鳴らした。グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症のガイドラインで治療や予防のための基準このような問題が生じてしまうには、5つの誤解もあると同氏は以下のように示し、それらの解決の糸口になるよう、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023ではGIOPの予防的管理や治療に該当する患者を見極めるための基準を設けている(p.xiii 図2:診療アルゴリズムを参照)。1)GC骨粗鬆症の管理にはDXA法などの骨密度検査が必要?→スコアリングシステムで計算すれば、薬物療法の必要性が判断できる。2)ステロイド5mg/dayなら安全と考えがち→人体から2.0~2.5mg/dayが分泌されており、GC投与は1mgでも過剰。安全域がないことも周知されていない。3)骨を臓器の一種とみなしていない→「骨粗鬆症は骨代謝異常症であり代謝疾患の一種」という認識が乏しい。4)命に直結しない!?→「骨が脆弱になっても死なない」と思われる傾向にある。実際には、大腿骨や腰椎などの骨折が原因で姿勢が悪くなり、その結果、内臓・血管を圧迫して循環障害を起こし、死亡リスク上昇につながった報告もある1)。5)GIOP治療が難しいと思われている→スコアリングに基づき薬物介入すれば問題ない。GCを3ヵ月以上使用中あるいは使用予定患者で、危険因子(既存骨折あり/なし、年齢[50歳未満、50~65歳未満、65歳以上]、GC投与量[PLS換算 mg/日:5未満、5~7.5未満、7.5以上]、骨密度[%YAM:80以上、70~80未満、70未満])をスコアリングし、3点以上であれば薬物療法が推奨される。ステロイド性骨粗鬆症のガイドラインから第一選択薬の明記をなくす スコアリングシステムは、ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療 ガイドライン2014年改訂版からの変更はないものの、治療薬の選択肢が増えたことからシステマティックレビューなどを行った結果、5つの薬剤(ビスホスホネート[内服、注射剤]、抗RANKL抗体、テリパラチド、エルデカルシトール、またはSERM)が推奨され、抗スクレロスチン抗体はFuture Questionになった。なお、前回まではアレンドロネートとビスホスホネートを第一選択薬として明記していたが、本改訂では第一選択薬の明記がなくなった。これについて同氏は「厳密に各薬剤を直接比較している試験がなかった」と補足した 。 また、新たな薬剤の推奨の位置付けやエビデンスについても「抗RANKL抗体は大腿骨頸部や橈骨の構成要素である皮質骨、椎体の構成要素の半分を占める海綿骨、いずれの骨密度にも好影響を及ぼすが、海外では悪性腫瘍の適応と同一薬価で販売されていることも推奨度に影響した。一方、抗スクレロスチン抗体は現状ではエビデンス不足のため本書での推奨が付かなかった。推奨するにはエビデンスに加えて、医療経済やアドヒアランスの観点も踏まえて決定した」と説明した。グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症のガイドライン準拠は10%未満 最後に同氏は、「GIOPは腰椎と同時に“胸椎”にも高頻度に影響しやすいため、原疾患の治療にてレントゲン撮影をする際にはGIOPの治療効果・経過観察のためにも、ぜひ骨にも目を向けてほしい。そして、本ガイドラインを準拠している内科医は10%にも満たないと言われているので、すべての医師がこれを理解してくれることを期待する。骨代謝異常症に対するビスホスホネートの作用点は、脂質代謝異常薬の作用点であるメバロン酸経由の下流であることからも、骨と脂質異常症の相同性が示唆される。ハートアタックならぬボーンアタックを予防するためにも、3ヵ月以上にわたってステロイドを処方する場合には骨粗鬆症予防の介入を考慮し、GIOPの予防・管理につなげてもらえるように学会としても啓発していきたい」と語った。

検索結果 合計:870件 表示位置:181 - 200