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大動脈弁狭窄症はやはり高コレステロール血症が原因か?(解説:佐田 政隆 氏)-290

 動脈硬化性大動脈弁狭窄症患者は、高齢化社会とともに年々増加しており、大きな社会問題になっている。進行すると突然死や難治性心不全の原因となるが、効果的な薬物療法はない。大動脈弁置換術が唯一有効な治療法であるが、人工心肺を用いた大手術であり、高齢者では危険性が高い。現在、より侵襲が少ない、経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI) が普及しつつあるが、高額であり、今後、その適応が問題になると思われる。疫学研究では、血管の動脈硬化症と同様に、高LDLコレステロール(LDL-C)血症との関連が示唆されている。脂質異常症に介入することで、大動脈弁狭窄症の発症、進行を抑えることができれば最善であるが、それを支持するエビデンスが存在しないのが現状である。 本研究では、Framingham Heart Study などの過去に行われた疫学研究で集められたサンプルの脂質、ならびに一塩基遺伝子多型(SNP)解析を基に、脂質関連の遺伝的リスク・スコア(GRS)と大動脈弁硬化との関連を調べた。LDL-C値ならびにLDL-CのGRSは、大動脈弁の石灰化や大動脈弁狭窄症と関連していた。一方、HDLコレステロール、中性脂肪値ならびにそれらのGRSとは関連がみられなかった。 過去に、中等度の大動脈弁狭窄症に対して、LDL-Cを低下させる介入試験がいくつも施行されたが、進行抑制に関してすべてネガティブであった。私見であるが、圧較差が25~64mmHg 程度に進行してしまったものは、すでに不可逆性の変化が大動脈弁に生じており、そこから慌てて脂質を低下させても、他の流体力学的要因によって弁の変性は一気に進行してしまうと思う。LDL-CのGRSを用いて、大動脈弁狭窄症の高リスク群を同定して、大動脈弁の圧較差が出現していない早期からLDLコレステロールを低下させることで、将来の大動脈弁狭窄症の発症を抑制できるかどうか、長期フォローする臨床研究が企画されることを期待する。

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低用量アスピリンで心血管イベント一次予防せず~高リスク日本人高齢者/JAMA

 アテローム性動脈硬化症のリスク因子を持つ日本人高齢者への、1日1回低用量アスピリン投与について、心血管イベントの一次予防効果は認められないことが示された。早稲田大学特命教授の池田康夫氏らが、約1万5,000例について行った非盲検無作為化比較試験「JPPP試験」の結果、明らかになった。試験は、追跡期間中央値約5年の時点で中止されている。JAMA誌2014年11月17日号掲載の報告。高血圧症、脂質異常症、糖尿病のある高齢者を対象に試験 研究グループは、アテローム性動脈硬化症のリスク因子を持つ日本人高齢者1万4,464例を対象に、低用量アスピリン1日1回投与と心血管イベントの一次予防効果について試験を行った。 被験者は、2005年3月~2007年6月にかけて国内1,007ヵ所の診療所において、動脈硬化性疾患歴はないが、高血圧症、脂質異常症、糖尿病のいずれかが認められた60~85歳の高齢者であった。追跡期間は最長6.5年。最終追跡調査は2012年5月だった。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方には常用の治療薬に加えアスピリン100mg/日を投与し、もう一方の群にはアスピリンを投与しなかった。心血管イベントリスクは低下せず、非致死心筋梗塞リスクは約半減 複合主要評価項目は、心血管死(心筋梗塞、脳卒中、その他の心血管疾患)、非致死的脳卒中(虚血性、出血性、その他脳血管イベントを含む)、非致死的心筋梗塞のいずれかであった。 試験は、追跡期間中央値5.02年(範囲:4.55~5.33年)の時点で、データモニタリング委員会の判断で早期中止となった。 アスピリン群、対照群ともに、試験期間中の致死的イベントの発生は56件だった。 5年累積主要評価イベント発生率は、アスピリン群が2.77%(95%信頼区間:2.40~3.20%)に対し、対照群は2.96%(同:2.58~3.40%)と、両群で同等だった(ハザード比:0.94、同:0.77~1.15、p=0.54)。 低用量アスピリンは、非致死心筋梗塞(HR:0.53、同:0.31~0.91、p=0.02)や一過性脳虚血発作(同:0.57、同:0.32~0.99、p=0.04)の発生リスクを有意に減少した。しかし一方で、輸血または入院を要する頭蓋外出血リスクを有意に増大した(HR:1.85、同:1.22~2.81、p=0.004)。

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Low Dose AspirinにNet Clinical Benefitはない! ~Negativeな結果、しかし、わが国にとってはPositiveな試験(解説:平山 篤志 氏)-282

 先日、シカゴで行われたAHAにて日本発の大規模臨床試験がLate Clinical Braking Trialで取り上げられた。高血圧、脂質異常症、あるいは糖尿病を持つ65~85歳の高齢者1万4464人を対象に、平均5年間のアスピリンの1次予防効果を検討した試験であった。オープンラベル試験ではあったが、データ解析がブラインドで行われ、1次エンドポイントである心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の発症には差がなかったという結果であった。 ただ、TIAや非致死性心筋梗塞の発症はアスピリンで有意に抑えられていたことが反映されなかったのは、平均5年間でのイベント発症率が両群それぞれ2.77%(アスピリン群)、2.96%(非投与群)ときわめて低いという背景があったことが考えられる。わが国では高齢のハイリスク群であっても低イベントであることから、効果よりアスピリンに伴う出血のリスクがより増加することによるデメリットが反映された結果だったと考えられる。非致死的ではないが頭蓋内出血やくも膜下出血がアスピリン群で増加しており、さらに胃潰瘍、消化管出血の副作用も有意にアスピリン群で多かった。このことから、わが国ではハイリスクであっても1次予防のLDAのNet Clinical Benefitはないとしたことは大きな意義がある。 ただ、この試験の持つ意味は結果より1万4000人という対象を5年間Follow Upしたこと、さらにイベントをブラインドで評価したこと、さらに現在のわが国での正確なイベント発生率を明らかにしたことが意義ある論文として、JAMA誌に掲載されたことである。 ただ、Lost to Follow-Upが各群で10%以上認めたことは低いイベント発症率からすると結果に影響が出る可能性もあり、今後わが国の臨床試験で精度を高めるためのシステムの構築が必要と考えられる。いずれにしろ、本研究を達成されたグループ(Japan Primary Prevention Project:JPPP)に敬意を表するとともに、今後さらなる解析が行われてアスピリンの有効な集団が明らかにされることを期待するものである。

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日本でもできる「医師主導型大規模仮説検証型臨床試験」!:JPPPの大成功(解説:後藤 信哉 氏)-281

 日本の臨床試験の信頼性に関する議論が盛んである。今回発表されたJPPPは、世界に誇れるqualityの「医師主導型」、「仮説検証型」、「大規模臨床試験」である。 本試験では、アスピリンによる心血管死亡/心筋梗塞/脳卒中の発症予防効果を「60歳以上で動脈硬化病変のない高血圧、脂質異常症、糖尿病などのリスク因子を有する日本人」において検証した。仮説検証試験であっても、企業がアスピリンの認可承認、適応拡大などを目指した「企業主導治験」ではない。日本全国から1万4,658例もの症例が登録された。当初、日本人症例における心血管死亡/心筋梗塞/脳卒中の発症率を年間1.5~2%と予測して症例数を設計した。 本試験は厚生労働省のグラントにより施行された。米国で言えばNIH grantによる試験に相応する。 心筋梗塞発症の二次予防におけるアスピリンの有効性と安全性は、蓄積されたエビデンスにより世界的に明確化されている。一次予防における有効性と安全性のバランスについては、各種論文により異なる意見が発表されている。米国の医師が一次予防に使用するのであれば有用性が安全性を上回ることは事実かもしれないが、一般的な一次予防症例において出血合併症を超えるメリットがあるか否かは不明である。日本国内の症例においても、一次予防におけるアスピリンの有用性を明確に示すエビデンスは十分ではなかった。本研究は、世界においても不足しているアスピリンの一次予防効果を検証した論文として、欧州、米国でも注目された。 本研究の追跡期間は5年間と長い。毎年2%程度の症例追跡不能例がある。薬剤の認可承認を目指した企業主導治験では、あり得ない高水準である。 しかし、試験終了後に「莫大な利益を得る可能性がある企業」ではない、筆者のメンターとしての普通の医師の池田康夫先生が主導した試験である。本文に記載があるように、常識的な範囲では追跡不能例を減らす努力をしている。幸い、追跡不能例は、アスピリン群とコントロール群に均質に分布しているので、登録症例数が多く、観察期間が長いことで追跡不能の問題は常識の範囲ではカバーされている。 試験の結果は日常診療の感覚を支持している。日本から登録された症例の心血管死亡率は低い。心筋梗塞の発症リスクは脳卒中リスクよりも低い。心血管以外の死亡率(がん死であろう)が多い。アスピリンが有効であるとすれば、非致死性心筋梗塞の発症予防とTIAの予防であるが、いずれも二次エンドポイントなので、現時点では「日本の高齢者の一次予防ではアスピリンは有効性を示さなかった」との本論文の結論は、きわめて妥当である。 本論文の主著者の池田康夫先生は、筆者のメンターである。1990年代に筆者が米国で基礎研究に集中している時から「次の時代は臨床の科学が重要である」と言っておられた。単に言葉で指導するのみでなく、本論文では「臨床の科学が重要であること」、「日本において質の高い臨床科学論文作成が可能であること」を自らやってみせた。次は、指導を受けた筆者が「臨床の科学」に貢献して池田先生に褒めてもらわないとならない。本論文のデータベースから多数のサブ解析が生まれるであろう。本論文を超える「臨床の科学」のアチーブメントはきわめて困難である。筆者は、現役を退かれても次世代の若手が参考とすべき臨床論文を作成した池田康夫先生を師匠にもったことを誇りに思う。

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NASHへのオベチコール酸、組織所見は改善するが…/Lancet

 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療において、オベチコール酸による組織所見の改善率はプラセボの約2倍に達するが、その効果はNASH診断例を減少させるには十分でないことが、米国セントルイス大学のBrent A Neuschwander-Tetri氏らNASH Clinical Research Networkが行ったFLINT試験で示された。ファルネソイドX受容体は肝臓の脂肪や線維化を抑制することが、脂肪性肝疾患の動物モデルで確認されている。胆汁酸誘導体で、ファルネソイドX受容体のリガンドである6-エチルケノデオキシコール酸(オベチコール酸)は、この受容体のアクチベータである可能性が示唆されている。Lancet誌オンライン版2014年11月7日号掲載の報告。72週投与の有効性を無作為化試験で評価 FLINT試験は、NASHに対するオベチコール酸の有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、肝硬変がなく、肝生検で組織学的にNASHが確認され、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の活動性の3項目(脂肪化:0~3点、肝細胞風船様腫大:0~2点、肝葉炎症:0~3点)のスコアがいずれも1点以上で総スコアが4点以上の患者であった。 被験者は、オベチコール酸25mg/日を経口投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、72週の治療が行われた。主要評価項目は、線維化の増悪のない、NAFLD活動性スコアのベースラインから治療終了時までの2点以上の減少(組織学的改善)とし、中央判定が行われた。 2011年3月16日~2012年12月3日までに、米国の8施設に283例が登録され、オベチコール酸群に141例、プラセボ群には142例が割り付けられた。ベースラインの平均年齢はオベチコール酸群が52歳、プラセボ群は51歳、男性がそれぞれ30%、37%で、BMI値は35、34であり、脂質異常症が62%、61%、高血圧が62%、60%、糖尿病が53%、52%、脂肪性肝炎が81%、79%に認められ、総NAFLD活動性スコアは5.3点、5.1点であった。組織学的改善率:45 vs. 21%、NASH消散率:22 vs. 13% 治療終了時の肝生検が不適と判定された64例を除く219例(オベチコール酸群:110例、プラセボ群109例)がITT解析の対象となった。この中には、生検の適応と判定されたが施行されなかった19例(8例、11例)が非改善例として含まれた。 肝の組織学的改善率は、オベチコール酸群が45%(50/110例)であり、プラセボ群の21%(23/109例)に比べ有意に高かった(相対リスク[RR]:1.9、95%信頼区間[CI]:1.3~2.8、p=0.0002)。 また、治療終了時に肝生検が行われた200例(102例、98例)では、線維化(35 vs. 19%、p=0.004)、肝細胞風船様腫大(46 vs. 31%、p=0.03)、脂肪化(61 vs. 38%、p=0.001)、肝葉炎症(53 vs. 35%、p=0.006)の改善率は、いずれもオベチコール酸群が有意に優れていた。 一方、NASH消散(治療終了時の肝生検で非NAFLDまたはNAFLDだが非NASH)と判定された患者の割合は、オベチコール酸群が22%(22/102例)、プラセボ群は13%(13/98例)であり、有意差はみられなかった(RR:1.5、95%CI:0.9~2.6、p=0.08)。 オベチコール酸群の検査所見(プラセボ群との比較)として、ALT(p<0.0001)、AST(p=0.0001)、γ-GTP(p<0.0001)、総ビリルビン(p=0.002)が有意に低下し、ALP(p<0.0001)が有意に上昇した。また、総コレステロール(p=0.0009)、LDLコレステロール(p<0.0001)が有意に上昇し、HDLコレステロール(p=0.01)が有意に低下した。さらに、インスリン(p=0.02)、HOMA-IR(p=0.01)が有意に上昇し、体重(p=0.008)が有意に減少した。 オベチコール酸群で、そう痒感の頻度が有意に高かった(23 vs. 6%、p<0.0001)が、他の有害事象の発現状況は両群で類似しており、全般に軽度~中等度であった。 著者は、「線維化などNASHの主要所見の改善がみられたものの、NASH診断例数を減らすには十分ではなかった」とし、「NASHに対するオベチコール酸のベネフィットを確証し、ファルネソイドX受容体リガンドによって誘導される血中脂質の変化の臨床的関連を確定するには、さらに長期の試験を要する」としている。

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女性は男性より有害な心血管代謝プロファイルを示す―日本の糖尿病患者

 日本人の糖尿病患者は、男性よりも女性のほうが有害な心血管代謝プロファイルを示すことが、兵庫医科大学の若林 一郎氏による研究で明らかになった。日本の糖尿病女性は、男性よりも腹部肥満、高脈圧、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、メタボリックシンドロームの有病率が高いという。Journal of women's health誌オンライン版2014年11月14日号の報告。 糖尿病患者の心血管疾患リスクの性差に関する研究は、主に欧米で行われており、日本人を含むアジア人を対象とした報告は限られている。 そのため、本研究では、日本の地域住民の健康診断データベースから糖尿病患者1,707例を抽出して横断研究を行い、心血管代謝リスク因子を男女で比較した。男性1,138例、女性569例で男女比を2:1とし、年齢を一致させて検討を行った(男女とも53.8±7.4歳)。 主な結果は以下のとおり。・女性のウエスト・身長比は男性と比較し、有意に高かった。・BMIは男女で有意な差を認めなかった。・女性の拡張期血圧は、男性と比較し、有意に低かった。・女性の脈圧は、男性と比較し、有意に高かった。・収縮期血圧は、男女で有意な差を認めなかった。・女性のLDLコレステロールは、男性と比較し、有意に高かった。・女性のトリグリセリド(対数変換)は、男性と比較し、有意に低かった。・女性の脂肪蓄積量(対数変換)は、男性と比較し、有意に高かった。・女性の腹部肥満のオッズ比は2.00 であった(vs 男性、95%CI: 1.48~2.69)。・女性の高脈圧のオッズ比は1.48であった(vs 男性、95%CI: 1.15~1.91)。・女性の高LDLコレステロール血症のオッズ比は、1.48であった(vs 男性、95%CI: 1.13~1.92)。・女性の低HDLコレステロール血症のオッズ比は、1.77であった(vs 男性、95% CI: 1.32~2.37)。・女性のメタボリックシンドローム(IDF基準)のオッズ比は、1.68であった(vs 男性、95%CI: 1.28~2.21)。

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LDL-C上昇と大動脈弁疾患の遺伝学的関連/JAMA

 LDLコレステロール(LDL-C)上昇の遺伝学的素因は、大動脈弁石灰化や大動脈弁狭窄症の発症と関連することが、スウェーデン・ルンド大学のJ Gustav Smith氏らCHARGEコンソーシアムの研究グループの検討で明らかとなった。この知見は、LDL-Cと大動脈弁疾患の因果関係を示すエビデンスだという。これまでに血漿LDL-C値と大動脈弁狭窄症の関連が観察研究で示されているが、弁疾患患者に対する脂質低下療法の無作為化試験では、疾患進行の抑制効果は確認されていない。JAMA誌2014年11月5日号(オンライン版2014年10月26日号)掲載の報告。4つのコホート試験で遺伝学的素因の関与を評価 CHARGEコンソーシアムは、欧米で進行中の長期的な大規模前向きコホート試験で、メンデル無作為化試験デザインが採用されている。今回の検討では、LDL-C、HDL-C、トリグリセライド(TG)と大動脈弁疾患の関連への遺伝学的素因の関与について解析が行われた。 対象は、CHARGEコンソーシアムに含まれる3つの地域住民ベースのコホート試験[フラミンガム心臓研究(FHS、米国、1971~2013年、1,295例)、Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis試験(MESA、米国、2000~2012年、2,527例)、Age Gene/Environment Study–Reykjavik試験(AGES-RS、アイスランド、2000~2012年、3,120例)]に参加した6,942例と、Malmo Diet and Cancer 試験(MDCS、スウェーデン、1991~2010年)の2万8,461例であった。 解析には、遺伝学的リスクスコア(GRS)が用いられた。GRSは血漿脂質値上昇の遺伝学的素因の指標で、ゲノムワイド関連解析で同定された一塩基多型(SNP)に基づく。CHARGEコホートのCT所見から大動脈弁石灰化を定量化し、MDCSコホートの追跡データから大動脈狭窄の評価を行った。HDL-C、TGのGRSとの関連はない ベースライン時の4つのコホートの平均年齢は58~76歳、女性が47~60%で、全員が白人であった。 3つのCHARGEコホートにおける大動脈弁石灰化の発症率は32%(2,245例)であった。また、MDCSコホート(フォローアップ期間中央値16.1年)の473例が大動脈狭窄症を発症し(発症率:17/1,000人)、205例に大動脈弁置換術が行われた(施行率:7/1,000例)。 血漿LDL-C値は大動脈弁狭窄症と有意に関連した(ハザード比[HR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.04~1.57、p=0.02)。四分位解析では、LDL-C値が最も低い群の大動脈弁狭窄症の発症率は1.3%、最も高い群は2.4%であった。HDL-CおよびTGには、大動脈弁狭窄症との間に関連はみられなかった。 LDL-CのGRSは、CHARGEコホートにおける大動脈弁石灰化の発症(GRSの増分のオッズ比[OR]:1.38、95%CI:1.09~1.74、p=0.007)およびMDCSコホートにおける大動脈狭窄症の発症(2.78、1.22~6.37、p=0.02)と有意な関連が認められた。HDL-CおよびTGのGRSには、石灰化、狭窄症との関連はなかった。 感度分析を行ったところ、LDL-CのGRSは大動脈弁石灰化(p=0.03)および大動脈弁狭窄症(p=0.009)との相関が維持されており、操作変数(instrumental variable)解析でもLDL-Cの上昇は大動脈弁狭窄症のリスクと有意な関連を示した(HR:1.51、95%CI:1.07~2.14、p=0.02)。 著者は、「約7,000例の症状発症前の大動脈弁石灰化のデータと、2万8,000例以上を15年以上追跡した大動脈弁狭窄症のデータにより、GRSに基づく遺伝学的なLDL-Cの上昇が石灰化および狭窄症と関連することが示された」とまとめ、「早期のLDL-C低下療法による介入の、大動脈弁疾患の予防効果を検討する試験の実施が望まれる」と指摘している。

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2型糖尿病患者におけるエンパワーメントと治療意思決定支援ツール(decision aids)(解説:住谷 哲 氏)-271

高血糖、高血圧、高コレステロール血症、喫煙のすべてに介入する多因子介入治療(multifactorial approach)が2型糖尿病治療において重要であることは論を俟たない1)。 しかし、この治療が成功するか否かは、患者自身が治療の意義を理解し、多くの治療介入に積極的に参加することに依存している。われわれ医療従事者が患者と向き合うのは診察室におけるごく短時間のみであり、その他の時間はすべて患者の自己管理下にある。この患者の自己管理能力を向上させることで治療を成功に導こうとする考えがエンパワーメント(適切な日本語訳がない)である。 ここでの自己管理能力とは、医療従事者の指示に従うだけではなく、医療従事者との対話を通じて、治療法そのものを自己決定する(shared decision making)ことをも含む広い概念である。本論文は治療意思決定支援ツール(decision aids)が、2型糖尿病患者のエンパワーメントに及ぼす影響を検討したものである。 方法はオランダ北部の18のプライマリケアクリニックに通院中の344例の2型糖尿病患者を通常診療群と治療意思決定支援ツール提供群に無作為に振り分け、1次エンドポイントとしては、治療ゴール達成への意思決定およびゴール達成に対する患者のエンパワーメントの程度をエンパワーメントスコアにより評価した。2次エンドポイントは経過を通じての高血糖、高血圧、高脂血症およびアルブミン尿に対する処方強化および禁煙とした。治療意思決定支援ツールは4つの領域(血糖、血圧、コレステロール、喫煙)から構成されており、それぞれHbA1c<7.0%、収縮期血圧<140mmHg、LDLコレステロール<2.5mmol/L(100mg/dL)、禁煙がゴールに設定されていた。さらに個々の患者のリスクをUKPDS risk engine2)を用いて計算し、たとえば「あなたと同じ年齢、性別の2型糖尿病患者さん100人の中で、16人が今後5年間に心筋梗塞になり、84人は心筋梗塞になりません。しかし、現時点ではあなたが、そのどちらに属しているかはわれわれにはわかりません。」のような説明が提供された。 さらに、4つの領域のいずれがゴール未達成であるか、それに対する治療を受けることによるbenefit およびharm、さらに治療の有効性に関する不確実性についても説明された。探索的検討として、情報提供がパソコンの画面上で提供される群と印刷された紙媒体で提供される群、および詳細情報がすべて提供される群と簡略化された情報が提供される群が2x2要因デザインを用いて比較された。 結果は1次エンドポイントには両群に差を認めなかった。2次エンドポイントについても、紙媒体を用いた治療意思決定支援ツール提供群において高脂血症薬の投与が強化されたのみであった。これらの結果は、2型糖尿病患者に、通常の診療に加えて治療意思決定支援ツールを追加してもエンパワーメントには結びつかないこと示している。しかし、治療意思決定支援ツールによる介入を実際に受けたのが同ツール提供群の46%に過ぎず、結果の解釈には慎重を要する。 世界中で最も多数の患者からの相談を受けている医療従事者はGoogleである、と皮肉まじりにいわれるように医療においてインターネットは必要不可欠になりつつある。もし今回の検討で用いられた治療意思決定支援ツールが有効であったならば、インターネットを通じてすべての2型糖尿病患者に情報が提供され、われわれの日常診療も大きな影響を受けたかもしれない。その点で、今回の結果はわれわれの日常診療の継続に少しの安心感を与えるといえよう。 さらに、論文の主旨とは離れるが、欧米におけるエンパワーメントとわが国のそれとの違いが浮き彫りにされている点も注目してよい。わが国でのエンパワーメントは、「いかにして患者のやる気を引き出すか?」のように情緒的な点に比重が置かれており、具体的な治療目標(HbA1c<7.0%のような数値目標)と、それを達成することによるアウトカム改善のエビデンスとを医療従事者と患者との間で共有したうえでのshared decision makingが行われているとはいい難い状況にある。エンパワーメントもEBMから無縁ではないことを再認識する必要があるだろう。

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日本人は米国人と同レベル

日本人のコレステロール値は、米国人と同レベルまで上昇しています日米の総コレステロール値の年次推移(mg/dL)230総コレステロール値女性(米国)220210男性(米国)200女性(日本)190男性(日本)18017019601970198019902000(年)米国:米国国民健康調査(NHES)/ 米国国民健康栄養調査(NHANES)より作成日本:冲中重雄 他: Jpn Circ J 29, 505-510, 1965 / 大島研三 他:動脈硬化 1:101-108, 1973厚生労働省:第3次/第4次/第5次循環器疾患基礎調査より作成Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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ヘテロ型家族性高Chol血症、PCSK9阻害薬追加で改善/Lancet

 ヘテロ型家族性高コレステロール血症(FH)の治療において、PCSK9阻害薬エボロクマブ(AMG 145)の追加により、LDLコレステロール(LDL-C)が迅速かつ大幅に低減することが、南アフリカ共和国・Witwatersrand大学のFrederick J Raal氏らが行ったRUTHERFORD-2試験で示された。本症はLDL-Cの代謝に関与する主要蛋白をコードする遺伝子の変異に起因し、細胞内へのLDL-C取り込み低下、血漿LDL-C濃度上昇、若年性心血管疾患の発症を特徴とする。強化スタチン治療、エゼチミブ併用の有無にかかわらず、多くの患者がLDL-Cの推奨目標値に到達しないという。エボロクマブを含むPCSK9阻害薬の第I/II相試験では、既存のコレステロール低下薬との併用でさらに55~60%の低下効果が確認されていた。Lancet誌オンライン版2014年10月2日号掲載の報告。2種類の用量を4群の無作為化試験で評価 RUTHERFORD-2試験は、ヘテロ型FH患者に対するエボロクマブ治療のLDL-C低下効果を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18~80歳、Simon Broome基準で本症と診断され、4週以上のスタチン継続投与を受け、空腹時LDL-Cが2.6mmol/L(100mg/dL)以上の患者であった。エゼチミブ、レジン、スタノール、ナイアシンの併用が許容された。 被験者は、エボロクマブ140mgを2週ごとに皮下投与する群、同420mgを1ヵ月ごとに皮下投与する群、プラセボを2週ごとおよび1ヵ月ごとに皮下投与する群に、2対2対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 投与頻度が同じ治療群内(2つの2週投与群、2つの1ヵ月投与群)では、患者、試験関係者、担当医、試験資金を拠出したアムジェン社の担当者には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、LDL-Cのベースラインから12週までの変化率および10週と12週における平均値の変化率の複合エンドポイントとした。 2013年2月7日~12月19日までに、オーストラリア、アジア、ヨーロッパ、ニュージーランド、北米、南アフリカの39施設から331例が登録され、エボロクマブ140mg/2週群に111例、プラセボ/2週群に55例、420mg/月群に110例、プラセボ/月群には55例が割り付けられた。治療開始前に脱落した2例(2週投与群の1例ずつ)を除く329例が解析の対象となった。1.8mmol/L(70mg/dL)未満を達成した患者が60%以上に ベースラインの全体の平均年齢は51歳、女性が42%、白人が89%で、冠動脈疾患患者が31%含まれ、LDL-Cの平均値は4.0mmol/L(154mg/dL)であった。全例がスタチン治療を受け、そのうち強化スタチン治療が87%で実施され、エゼチミブの併用は62%で行われていた。 エボロクマブの両用量群ともに、12週時のLDL-Cがプラセボ群に比べ有意に低下した(2週投与群が59.2%の低下、1ヵ月投与群は61.3%の低下、いずれもp<0.0001)。10週と12週時のLDL-Cの平均値にも、同様の有意な改善効果が認められた(それぞれ60.2%、65.6%の低下、いずれもp<0.0001)。 2つの用量のエボロクマブ群はいずれも忍容性が良好で、有害事象の発現率はプラセボ群と同等であった。プラセボ群よりもエボロクマブ群で頻度の高い有害事象のうち、最も高頻度にみられたのは鼻咽頭炎(9%[19例]vs. 5%[5例])であり、次いで筋肉関連有害事象(5%[10例]vs. 1%[1例])であった。 著者は、「エボロクマブの低用量2週投与、高用量1ヵ月投与は、ともに良好な忍容性を示し、いずれも3ヵ月でプラセボに比べLDLコレステロールの約60%の低下をもたらした。また、低用量群の68%、高用量群の63%が1.8mmol/L(70mg/dL)未満を達成した」とまとめ、「これは、治療によってLDLコレステロールが健常者と同程度にまで改善したことを意味する。エボロクマブの効果は、本症の遺伝子変異とは関連しないことが示唆される」と指摘している。

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ホモ型家族性高Chol血症、PCSK9阻害薬で改善/Lancet

 新規開発中のコレステロール低下薬エボロクマブ(AMG 145)について、ホモ接合型家族性高コレステロール血症でスタチン療法などの継続的な脂質低下療法を受けている患者に投与することで、LDLコレステロール(LDL-C)値が約3割低下することが示された。南アフリカ共和国・Witwatersrand大学のFrederick J Raal氏らが第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果、報告した。エボロクマブは、LDL-Cの能力を低下する前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する。Lancet誌オンライン版2014年10月2日号掲載の報告。エボロクマブを4週間ごと12週投与 試験は、北米、欧州、中東、南アフリカの10ヵ国17ヵ所の医療機関を通じて行われ、12歳以上のホモ接合型家族性高コレステロール血症の患者を対象とした。被験者は、スタチン療法(全患者が受けていた)などの脂質低下療法を4週間以上受けており、LDL吸着療法を受けていた患者は登録時に除外された。 被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、エボロクマブ 420mgまたはプラセボを、それぞれ4週間ごと12週にわたり皮下注で投与した。無作為化は、LDL-C値11mmol/L未満または以上で分類して行った。 主要エンドポイントは、12週時点におけるLDL-C値のベースラインからの変化だった。12週時点のLDL-C、エボロクマブ群でプラセボ群より30.9%減少 試験適格患者は50例、そのうち49例が試験を終了した(そのうちエボロクマブ群は33例)。 12週間時点のエボロクマブ群のLDL-C値は、プラセボ群に比べ30.9%減少した(95%信頼区間:-43.9~-18.0%、p<0.0001)。 治療下で発生した有害事象は、プラセボ群10例(63%)、エボロクマブ群12例(36%)だった。また、重大有害事象の発生や抗エボロクマブ抗体の発現は認められなかった。

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久山町研究における脂肪酸解析-医薬品としての高純度EPA製剤の重要性-

久山町研究とは、日本の全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布を示す福岡県糟屋郡久山町の住民を対象に1961年から実施されている脳卒中・心血管疾患などの発症を検討した疫学調査です。その一環として行われた脂肪酸解析で、EPA/AA比と心血管イベントリスクとの関連について、新たな知見が得られました。本コンテンツでは、主にその研究結果と、高純度EPA製剤を服用することの重要性について、動画で詳しく解説します。

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤の臨床応用 そのエビデンスと各種ガイドラインにおける位置づけ

田中 知明 氏千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 千葉大学医学部附属病院糖尿病・内分泌代謝内科はじめにグリーンランドや千葉県下でのエイコサペンタエン酸(EPA)の有効性を明らかにした疫学調査をきっかけに、わが国では魚油をエチルエステル化した高純度EPA製剤が開発され、1990年には「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善」、1994年には「高脂血症」に対する医療用医薬品として臨床の現場に登場した。さらに、欧州、米国などで「高トリグリセライド血症」の効能・効果を有する医薬品として承認されていた高濃度オメガ3製剤(主成分としてEPA・DHAを含有)も2013年に国内で承認され、日常臨床に広く普及しつつある。これらオメガ3製剤の臨床応用におけるエビデンスとしては、高純度EPA製剤の冠動脈疾患に対する発症予防効果を検証した日本人対象の大規模臨床試験JELIS1)に加えて、Circulation、Lancetに報告されたイタリアのGISSI-Prevenzione Trial、GISSI-HF Trialなど、多くのエビデンスが蓄積されている。そこで、本稿ではオメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤の臨床応用の骨格となる重要な大規模臨床試験とそのメタ解析におけるエビデンスを解説し、EPA製剤の各種ガイドラインにおける位置づけについて概説する。EPA製剤が推奨される各種ガイドライン本邦においてEPAに関してその臨床的有用性が明記されている各ガイドラインについて、表にまとめる。これまでの大規模臨床試験のエビデンス基づき、現在では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』、『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』、『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』、『脳卒中治療ガイドライン2009』の4種類のガイドラインに医療医薬品としての有用性が推奨グレードとともに記載されている。以下に具体的内容とエビデンスグレードを記す。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』の第7章「治療法 B 薬物療法におけるステートメント」として、「高リスクの高LDL-C(low density lipoprotein cholesterol)血症においては、スタチン投与に加えてEPAの投与を考慮する」とされている。推奨レベルIIa、エビデンスレベルAである。『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』の「Ⅲ. 各疾患における抗凝固・抗血小板療法 11 心血管疾患高リスク症例の一次予防」においては、「高リスクの脂質異常症におけるエイコサペント酸エチル投与の考慮」が記載され、クラス1のエビデンスレベルとして推奨されている。『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』における「II. 薬物療法 3 脂質異常症改善薬」の項目では、「2. 高LDLコレステロール血症にはスタチンに加え高純度EPA製剤も考慮する」と記載され、エビデンスグレードはBである。『脳卒中治療ガイドライン2009』における「Ⅱ. 脳梗塞・TIA 4-1. 脳梗塞再発予防 (3)脂質異常症」の項目の中で、「3. 低用量スタチン系薬剤で脂質異常症を治療中の患者において、EPA製剤の併用が脳卒中再発予防に有用である」と記載されている。エビデンスグレードはBである。高濃度オメガ3製剤(EPA+DHA)に関しては、欧州(ノルウェー)では1994年に、アメリカでは2004年に使用されるようになっていたが、日本では2013年から使われるようになった。したがって、国内では高純度EPA製剤が主流であった過去の経緯から、各ガイドラインにおける記載は高純度EPA製剤のみなのが現状である。海外ガイドラインにおけるオメガ3系脂肪酸の臨床的位置づけとして、欧州・米国ではEPA・DHA製剤が中心であり、脂質異常症の管理および心不全の治療ガイドラインにおいて推奨されている(推奨レベルIIb、エビデンスレベルB)。今後、本邦においてもエビデンスのさらなる蓄積とガイドラインにおける位置づけが新たに追加されることが期待される。表 各種ガイドラインにおける脂質異常症治療薬の記載画像を拡大するJELISの概要と1次予防・2次予防サブ解析JELISは、日本人を対象に実臨床に近い条件の下で実施された前向き大規模臨床試験であり、各ガイドライン記載の根拠となる重要なエビデンスである1)。JELISは、日本人の脂質異常症患者(総コレステロール250mg/dl以上)において40~75歳の男性と、閉経後~75歳の女性18,645人(冠動脈疾患の1次予防14,981例、2次予防3,664例)を対象としている。プラバスタチン10mg/日またはシンバスタチン5mg/日を基本として、1.8gの高純度EPA製剤の投与群と非投与群を無作為に割り付けて、5年間の追跡調査し、主要冠動脈イベント(致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、心臓突然死、心血管再建術、新規狭心症の発症、不安定狭心症)について検討を行った試験である。その結果、主要冠動脈イベントを19%低下させ、EPA投与群では対象群に比べ虚血性心疾患の発症リスク比(95% CI)が0.81(0.68-0.96)であり、非致死性では0.81(0.68-0.96)と有意であった(本誌p.23図を参照)。興味深いことに、血清脂質変化を検討すると、EPA群と対象群においてLDLコレステロールの変化率に有意差を認めなかった。このことから、高純度EPA製剤の心血管イベント抑制効果は、LDLコレステロール値以外による機序が大きいと考えられている。<JELIS 1次予防サブ解析>冠動脈疾患の既往がない1次予防サブ解析(14,981例)では、主要冠動脈イベントの発生はEPA投与群で18%減少するものの、有意差を認めなかった。肥満・高TG (triglyceride)血症・低HDL(high density lipoprotein)血症・糖尿病・高血圧を、冠動脈イベントリスク因子としてそれらの重積と冠動脈イベント発生を検討した結果、対照群/EPA群の両者において発症率の上昇を認め、EPA群で抑制している傾向が見られた2)。また、登録時のTG値とHDL値の組み合わせで4群に分けて、冠動脈イベント発症リスクを比較検討した結果、高TG/低HDL-C血症群ではTG/HDL-C正常群に比較して、冠動脈イベント発生リスクはEPA投与群で53%もの低下を示し、高リスク群での抗動脈硬化作用による心血管イベントの発症抑制が期待されている1, 2)。<JELIS 2次予防サブ解析>冠動脈疾患の既往がある患者(3,664例)の2次予防サブ解析では、EPA投与群で23%のイベント発症抑制効果を認めた3)。インターベンション施行症例や心筋梗塞既往症例においても、EPA投与群でそれぞれ35%、27%のイベント発症の抑制を認めた3)。これらの結果は、高純度EPA製剤の投与はインターベンション施行例や心筋梗塞既往例の2次予防薬としての有用性を示している。血漿EPAとアラキドン酸(AA)の比の変化を観察すると、試験開始時に両群共にEPA/AA比は0.6であったのに対して、EPA投与群では1年後に1.3まで上昇していた3)。試験終了時のEPA/AA比と冠動脈イベント再発の関連性を解析した結果、EPA/AA比が高いほど、イベント発生の相対リスクが低下していることが明らかとなった。<JELIS脳卒中サブ解析>JELIS試験においては、2次評価項目として脳卒中(脳血栓、脳塞栓、判別不能の脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血、くも膜下出血)の発症が検討された。患者背景として、脳卒中の既往はEPA群で485例(5%)であり、対照群で457例(5%)に認められ、その内訳は閉塞性脳血管障害がそれぞれ74%、75%で、両群間に有意差を認めなかった4)。脳卒中の1次予防に関しては、対照群およびEPA投与群ともに、脳卒中発症頻度が低かったため、両群間に明らかな差を認めなかった。実際、対照群における脳卒中累積発症率が5年間で1.3%ととても低値であったことが大きな要因と考えられている。また、JELIS以外に国内で施行された冠動脈疾患や脳卒中の既往のない高コレステロール患者を対象としたMEGA試験では、プラバスタチンの投与で有意に発症を抑制したことが報告されている。つまり、JELISにおけるスタチン投与の背景がすでに脳卒中発症をかなり予防していたことが推察され、EPAの有用性を否定するものではない結果といえよう。脳卒中既往歴のある2次予防については、EPA投与群において20%の有意な脳卒中発症抑制効果(発症リスク比0.80、95% CI:0.64-0.997)が認められた4)。この脳卒中発症抑制に関しては、number to treat(NNT=疫学の指標の1つで、エンドポイントに到達する患者を1人減らすために何人の患者の治療を必要とするかを表したもの)は27であった。興味深いことに、同時期に欧米で施行されたSPARCL試験5)では、アトルバスタチンの5年間の投与による脳卒中2次予防効果のNNTは46であり、高用量スタチンより優れた結果を示唆するものであった。単純比較はできないが、EPA製剤(スタチン併用)の脳卒中2次予防効果における臨床的有用性を示すと考えられている。登録時のHDL-C値と脳卒中発症の関係を解析した結果、対照群ではHDL-C値が低いことに相関して脳卒中再発率が有意に増加するが、EPA投与群ではHDL-C値と独立して脳卒中再発予防効果を認めた。また臨床的なポイントとして、JELISにおける脳卒中の疾患別検討では、EPA効果がより高い群として脳梗塞、特に脳血栓症の抑制が明らかであった。またEPA服薬良好群では、36%の顕著な再発低下(5年間のNNTは16)を示した6)。EPAの特徴の1つである血小板凝集抑制作用を介したアテローム血栓予防効果が大きな役割を果たしている可能性が高い。GISSI-Prevenzione Trial7)と海外のエビデンスイタリアで行われたGISSI-Prevenzione Trialは、急性心筋梗塞発症後3か月以内の高リスク患者11,324症例を対象とした2次予防試験であり、オメガ3系多価不飽和脂肪酸1g/日のカプセルと抗酸化作用を持つビタミンE 300mg/日を内服する群を、オメガ3系多価不飽和脂肪酸のみ内服する群、ビタミンEのみ内服する群、両方内服する群、両方内服しない群に分けて3.5年間介入し検討を行った試験である7)。その結果、オメガ3系多価不飽和脂肪酸を内服している群は対象群に比べ、全死亡の相対リスク(95% CI)が0.80(0.67-0.94)と低下を認め、特に突然死においては0.55(0.40-0.76)と大きく抑制され、突然死においては治療開始後早期の120日ですでに有意な相対リスクの低下(0.47(0.22-0.99)、p=0.048)が認められた(本誌p.24図を参照)7)。また、心不全患者を対象に行ったGISSI-HF Trialでも、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の投与は、有意に心血管イベントの発症を抑制した8)。コホート試験である13試験を用いて、魚摂取・魚食頻度と冠動脈疾患による死亡率との関連について検討した結果(222,364症例のメタ解析)、魚摂取は冠動脈疾患による死亡率を有意に低下させることが明らかとなった9)。さらに、脂質低下療法に関する97ランダム化大規模臨床試験のメタ解析の結果から、スタチンとオメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤は、心臓死および総死亡のイベントリスクを低下させることが示された10)。これらのエビデンスから、ハイリスクの脂質異常患者に対してスタチンにEPA製剤を加えることで、さらなる心血管イベント抑制効果が期待できると考えられる。おわりに高純度EPA製剤は、心血管イベントおよび脳血管イベントの1次予防・2次予防戦略を考えるうえで重要な薬剤であることはいうまでもない。大規模臨床試験のエビデンスをベースとした各ガイドラインを見てわかるように、脂質異常症のゴールデンスタンダードであるスタチンに加えて、EPA製剤の併用効果が証明され、臨床的意義づけが確立している。JELISによる日本人のエビデンスに裏づけされた内科的戦略の1つとして、心血管・脳血管イベントのハイリスク症例やスタチン投与による脂質管理下でもイベント発生を抑制できない症例に対して、積極的な使用が推奨される。またEPA・DHA製剤についても、ようやく国内で使用することができるようになった。日本人のエビデンスはまだ十分ではなく、ガイドラインにおける位置づけは現時点では明確ではないが、欧米におけるエビデンスと使用経験から本邦でも十分に期待できるものと思われる。EPA製剤との違いや臨床的使い分けなど、今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要であろう。文献1)Yokoyama M et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369: 1090-1098.2)Saito Y et al. Effect of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2008; 200: 135-140.3)Matsuzaki M et al. Incremental effect of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283-1290.4)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients : subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.5)Amarenco P et al. High-dose atrovastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 2006; 355: 549-559.6)田中耕太郎ほか. 高コレステロール血症患者の脳卒中発症に対するEPAの効果-JELISサブ解析結果. 脳卒中2007; 29: 762-766.7)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell'Infarto Miocardico (GISSI)-Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.8)Gissi HFI et al. Effect of n-3 polyunsaturated fatty acids in patients with chronic heart failure (the GISSI-HF trial): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2008; 372: 1223-1230.9)He K et al. Accumulated evidence on fish oil consumption and coronary heart disease mortality : a meta-analysis of cohort studies. Circulation 2004; 109: 2705-2711.10)Studer M et al. Effect of different antilipidemic agents and diets on mortality : a systematic review. Arch Intern Med 2005; 165: 725-730.

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食べる速さはメタボと関連~日本の横断的研究

 国立国際医療研究センターの長濱 さつ絵氏らは、日本人における食べる速度とメタボリックシンドロームとの関連性を横断的研究で調査した。その結果、食べる速度がメタボリックシンドロームと関連し、この関連は主に、食べる速度による体重の違いで説明されることが示唆された。著者らは「食べる速度を遅くすることで肥満やメタボリックシンドロームを予防できるかどうか、さらなる研究が必要」としている。BMJ Open誌2014年9月5日号に掲載。 著者らは、2011年に国内の健康管理センターの健康診断を受け、冠動脈心疾患や脳卒中の既往がない5万6,865人(男性4万1,820人、女性1万5,045人)について、食べる速度(自己申告による)とメタボリックシンドロームおよびその要素について調査した。なお、メタボリックシンドロームは、国際糖尿病連合および米国心臓協会/米国国立心肺血液研究所の共同暫定声明に基づいて定義した。 主な結果は以下のとおり。・多重ロジスティック回帰モデルでは、食べる速度はメタボリックシンドロームと有意な正相関を示した。・男性における多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は、食べる速度が「遅い」「普通」「速い」の順に、0.70(0.62~0.79)、1.00(基準)、1.61(1.53~1.70)であった(傾向のp<0.001)。女性では、0.74(0.60~0.91)、1.00(基準)、1.27(1.13~1.43)であった(傾向のp<0.001)。・メタボリックシンドロームの要素のうち、腹部肥満が食べる速度と最も強い関連を示した。・食べる速度とメタボリックシンドロームおよびその要素との関連性は、BMIによる調整後に大きく減衰した。しかし、「遅い」と高血圧(男女とも)および高血糖(男性)での低オッズ、「速い」と脂質異常(男性)での高オッズとの関連については、統計的に有意なままであった。

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高血圧治療は個々のリスク因子合併を考慮した“トータルバスキュラーマネージメント”が重要(解説:桑島 巌 氏)-237

日本動脈硬化学会によるガイドラインでは、高脂血症の薬物治療開始基準を一律に決定するのではなく、性、年齢、血圧、糖尿病の有無など血管系リスク層別化を考慮した治療目標を設定すべきことが示されている。これは、これまでのメタ解析で、血管合併症のリスクの高い症例ほど薬物治療による絶対的リスク減少が大きいことが明らかになっているからである。 同じような考えが高血圧治療においてもいえることを実証したのが、このメタ解析である。 BPLTTCは、高血圧・高脂血症治療に関して、世界で最も信頼性の高いメタ解析を発表しているグループである。メタ解析で採用された臨床試験は、いずれも試験開始前に一次エンドポイント、二次エンドポイント、試験方法、症例数、解析方法など詳細に登録を行ったもののみを対象としており、そのエビデンスレベルは非常に高いことで知られている。 今回の報告は、高血圧治療効果についても、心血管合併症予防効果を絶対的リスク減少でみた場合、リスク因子を多く有している症例ほど有効性が大きいことを示している。 治療による有用性は相対的リスク減少で表される場合があるが、これはしばしば効果を誇大に表現することになる。たとえば、リスクの少ない症例100を対象とした場合、治療群の発症は1例、プラセボ群では2例とすると相対的リスク減少は50%(なんと半減!)になるが、絶対的リスク減少は100人中1例に過ぎない。NNT100、つまり100人治療してやっと1例の発症を予防できることになる。治療効果は絶対的リスク減少、あるいはNNT(Number Needed to Treat)で表すのが本当である。 本研究は11の臨床研究に参加した約5万2千例の対象症例を、プラセボ群のデータから予測された数式を用いて、11%未満の低リスク群、11~15%の軽度リスク群、15~21%の中等度リスク群、21%以上の高リスク群の4群に層別した。高リスク群は当然、喫煙率、心血管疾患既往、糖尿病、収縮期血圧のいずれもが他の群より高い。 その結果、5年間の心血管合併症発症は、相対的リスク減少でみた場合には4群間で差はなく、治療の有効性はどの群でも同じようにみえる。しかし、絶対的リスク減少でみると、高リスク群が最も高血圧治療薬による効果が大きく、ついで中等度、軽度、低リスクの順になっている。 この結果は、高血圧治療の開始基準あるいは降圧目標値の設定においても、血圧以外のリスク因子にも配慮した“トータルバスキュラーマネージメント”の考え方が重要であることを示している。当然ながら、高齢者はさまざまなリスク因子を併せもつ症例が多いことから、高リスク症例が多い。したがって、高齢者ほど厳格な高血圧治療が必要であることを意味しているのである。

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降圧薬の投与は治療前の心血管リスクで判断すべきか/Lancet

 降圧薬治療による心血管リスクの相対的な抑制効果は、ベースラインの絶対リスクの高低にかかわらずほぼ一定だが、絶対リスクの低下の程度は、ベースラインの絶対リスクが高いほど大きくなることが、スウェーデン・ウプサラ大学のJohan Sundstrom氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)の検討で示された。この知見は、降圧薬治療は血圧の高い集団ではなく心血管リスクの高い集団をターゲットとすべきとの見解を支持するものだという。BPLTTCは本論文を、「リスクに基づくアプローチは、血圧に基づくアプローチよりも費用効果が優れるとともに、治療を要する患者数を減らし、薬剤費を抑制する一方で、脳卒中や心臓発作の回避数を増やす」と締めくくっている。Lancet誌2014年8月16日号掲載の報告。プラセボ群のデータでリスク予測式を開発 BPLTTCは、降圧薬治療で達成される相対的な心血管リスクの低下は、ベースラインの心血管リスクの程度が異なる集団間でほぼ同じであり、それゆえ絶対リスクの低下はベースラインの心血管リスクが高いサブグループのほうが大きいとの仮説を立て、これを検証する目的でメタ解析を行った。 解析には、降圧薬とプラセボ、あるいはより強力な降圧薬療法と弱い降圧薬療法の無作為化比較試験に参加した個々の患者データを用いた。主要評価項目は主要心血管イベント(脳卒中、心臓発作、心不全、心血管死)とした。 対象となった試験のプラセボ群のデータから開発されたリスク予測式を用いて、ベースラインの5年主要心血管リスクを、その程度によって4つのカテゴリーに分けた(<11%、11~15%、15~21%、>21%)。 11試験(26の治療群)に登録された6万7,475例が適格基準を満たした。このうち5万1,917例で、リスク予測式を用いてベースラインの心血管リスクの予測を行った。予測リスクが<11%の群が2万5,480例、11~15%の群が1万2,544例、15~21%の群が8,287例、>21%の群は5,606例で、全体の平均年齢は65.1歳、女性が44.5%を占めた。高リスク群ほど絶対リスク低下度が大きい、予測式は有用 ベースラインにおける全体の予測5年心血管イベントの絶対リスクの平均値は11.7%であり、各群の平均値は、<11%群が6.0%、11~15%群が12.1%、15~21%群が17.7%、>21%群は26.8%であった。プラセボ群の予測5年心血管リスクは11.5%であった。また、プラセボ群に比べ治療薬群は、平均血圧が5.4/3.1mmHg高かった。 フォローアップ期間中央値4.0年の時点で、4,167例(8%)が心血管イベントを発症した。5年間の降圧薬治療による心血管リスクの相対的な低下率は、ベースラインのリスクが低い群の順に18%、15%、13%、15%であり、群間に差はみられなかった(傾向性検定:p=0.30)。 これに対し、5年間の降圧薬治療による1,000例当たりの心血管イベント予防数は、それぞれ14件、20件、24件、38件であり、絶対リスクはベースラインのリスクが高い群ほど大きく低下した(傾向性検定:p=0.04)。 脳卒中、冠動脈心疾患、心不全、心血管死も、おおよそこれと同様のパターンを示したが、全死因死亡の絶対リスク低下はベースラインの高リスク群で大きいとはいえなかった。 著者は、「これらの結果は、すでに脂質異常症の治療で推奨されているように、降圧薬治療を決める際の情報として、ベースラインの心血管リスクの使用を支持するものであり、その手段として当リスク予測式は有用と考えられる」と指摘している。

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