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BCMA標的CAR-TのICAHTに対する幹細胞ブースト療法の有用性/ASH2024

 免疫エフェクター細胞関連造血毒性(ICAHT)は、CAR-Tをはじめとする免疫療法による血球減少を引き起こし、感染症などのリスクとなる。KarMMa-1試験、CARTITUDE試験といった多発性骨髄腫の国際研究では、CAR-T投与早期(30日以内)に90%前後で好中球減少が発現し、それ以降も50%程度の割合で発現が続くと報告されている。 そのような中、CAR-T細胞療法を受けた再発・難治多発性骨髄腫(R/R MM)におけるICAHTの臨床経過と、ICAHTに対する自己幹細胞ブースト療法の効果を確認する後ろ向き試験が行われた。研究結果が米国・ウィスコンシン医科大学のKiritika Yadav氏により、第66回米国血液学会(ASH)で発表された。 対象はBCMA標的CAR-T細胞療法(ide celまたはcita cel)を受けたR/R MM患である。血球減少の定義は好中球≦1,000/mL、血小板≦50x109/L、ヘモグロビン≦9g/dL。ICAHTはCAR-T細胞投与後21日、3ヵ月、6ヵ月の時点で評価された。評価項目は、血球数回復、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)であった。 主な結果は以下のとおり。・全体で159例が登録された。・患者の年齢中央値は65歳、FISHまたはPET高リスクが77%、自家造血幹細胞移植(ASCT)実施が87%、前治療ライン数中央値は5、髄外病変あり28%、サイトカイン放出症候群(CRS)は85%、ICANSは12%に発現していた。・評価症例154例中89例でICAHTが発現した。・ICAHTの発現は21日後の58%(89例/154例)から3ヵ月後28%、6ヵ月後17%と時間とともに減少した。・ICAHTのリスク因子は、ASCT≧2回、前治療歴≧5ライン(対4ライン p=0.002)、ベースライン時の血小板数≦146×109/L(対194×109 p=0.005)、FISHまたはPET高リスク(p=0.012)、ICANS発現(p=0.006)、トシリズマブ使用(p=0.013)であった。・ICAHT発現82例(自家幹細胞保存症例)のうち、重度の血球減少のため自己幹細胞ブースト療法を受けた患者は22例(27%)であった。・自己幹細胞ブースト療法の投与期間中央値はCAR-T投与後52日間であった。・自己幹細胞ブーストを受けた患者の血球数は早期(CAR-T療法21日後)においては低値であったが、3ヵ月および6ヵ月後にはには受けない患者よりも大きく改善した。 Yadav氏は、重症ICAHT発現患者に対する自己幹細胞ブースト療法の恩恵を明らかにするためには、さらなる研究が必要だと述べた。

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第240回 消費者向け「遺伝子検査」を受けて思わず動揺!その分析結果とは

消費者向け(Direct-to-Consumer:DTC)遺伝子検査について目にしたことがある医療者も少なくないだろうと思う。私もこれまでネット上で目にはしていたが、眉唾モノとの印象が強く、完全無視を決め込んでいた。しかし、ある取材でこれを受けなければならなくなった。編集者が「早い・安い」で申し込んだ検査キットが届いたのは、今から約1ヵ月前。検査キットと言っても唾液採取のための容器とその補助装備、さらにID・パスワードが書かれた紙が入っていただけだ。まず、そのID・パスワードで検査会社のウェブサイトにアクセスし、個人情報や生活習慣、飲酒・喫煙歴、両親の出身地、自分と親の既往歴などについての簡単なアンケートに回答する。そのうえで同封されていた容器に自分の唾液を充填し、ポストに投函。翌日には検体が無事届いたとのメールが入り、それから1週間で自分のメールアドレスに検査結果終了の案内メールが届いた。体質分析の結果早速アクセスしてみた。200項目超の体質の項目を見る。大まかな項目は以下のとおり。基礎代謝量…高  肥満リスク…低  筋肉の発達能力…高短距離疾走能力…低  有酸素運動適合性…低  運動による減量効果…高アルコール代謝…普通  酒豪遺伝子(意味不明だが)…普通  二日酔い…低アルコール消費量…多  アルコール依存症リスク…中  ワインの好み…赤肌の光沢…低  肌のしわ…多  AGA発症リスク…低まあ、基礎代謝に関しては高いのかどうかわからないが、かつて幼少期の娘からは「お父さんと一緒に寝ていると、お布団の中がコタツを最強にした感じで、冬でも汗をかく」と言われたことがある。体質では「登山家遺伝子」なる項目もあり、そこは“高所登山家タイプ”となっていた。体質の食習慣に関する評価項目では、なぜか芽キャベツと甘いものは好まないとの評価だった(私は仕事場近くの焼き鳥・焼きとん屋に行き、野菜串焼きに芽キャベツがあると喜んで注文し、ムシャムシャ食べてしまうのだが…)。飲酒については、実生活と明確に異なるのは、私の好みのワインは「白」という点だ。肌については自覚がある。男性型脱毛症(AGA)の発症は確かに今のところその兆しはない。しかし、ここまで来ると、大きなお世話と言いたくもなる。いずれにせよ当たらずとも遠からずというか、当たっていると言えるものもあれば、明らかに違うと言えるものもある。ただ、自分の体のことはわかっているようで、わかっていない部分もあるので何とも言えない。性格分析の結果そして性格についても分析があり、同じ項目について事前アンケートの結果と検査結果が並列で記載がある。こちらもアンケート結果と検査結果がほぼ同一のものもあれば違うものもある。どちらかといえばほぼ同一のものがほとんどである。そして「総合性格タイプ」は、持ち前のタフな精神力で、自分の好奇心に従って未知の世界へどんどん飛び込んでいける“サバイバルYouTuber”タイプとの評価である。まあ、当たっていると言えなくもないが、同時にYouTuberと一緒にされるのもなんだかなという感じである。165疾患のリスク、その結果は…さてこの検査の本丸、というか受ける人の多くが気にするであろうと考えられるのが疾患リスクである。私の受けた検査では、「予防」なる大項目があり、さらに一般疾患と各種がんの合計165疾患についてリスクが表示されている。このリスク表示、疾患ごとにオッズ比のような数値と大、中、小の3段階の定性的表現で発症リスクが示してあった。がんの項目を見ていくと、ほとんど問題はなさそうである。が、後半にスクロールしている手が止まった。多発性骨髄腫の発症リスクが「大」とある。思わず「はあ?」と声が漏れてしまった。一瞬動揺してしまうと同時に、検査結果を見る当事者をそういう心理状況に置く結果通知をラーメン店の券売機にある「小」「並」「大」にも似たざっくりした表現で示された腹立たしさも入り混じった何とも言えない不快感である。さて当然のことながら多発性骨髄腫を知らぬわけはない。化学療法が奏功しやすい血液がんの中でも難治で知られるがんである。少なくとも数年前の5年相対生存率は50%未満だ。ちなみにこれ以外でも一般疾患では、痛風、狭心症、そしてなぜか慢性C型肝炎もリスク大と判定された(というか、C型肝炎に未感染であることはたまたま最近行ったある検査で判明している)。だが、やはり多発性骨髄腫のリスク大のインパクトが一番大きい。発症するとかなりの痛みを伴うことや激烈な化学療法が必要になること、そして治癒もコントロールも難しいことがわかっているからだ。もっともDTC遺伝子検査は、正確に言えば遺伝子そのものを調べているわけではなく、「一塩基多型(SNP、スニップ)」と疾患に関する相関を調べた研究を基にリスク判定しているため、各種固形がんや遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)のような発症や増悪に関与する遺伝子変異の検査に比べれば、当たるも八卦当たらぬも八卦の域であることは私自身も百も承知である。ただ、実はちょっとだけ安堵感もあった。血液内科専門医の皆さんならご存じのように、昨今、この疾患では新薬開発が活発で治療選択肢も増えているからだ。治療法によっては5年相対生存率も60%近くまで伸びている。そんなこんなで日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン2023」に記載された多発性骨髄腫のパートを改めて通読してみた。私にとってこれはこれで改めて知識の整理ができる利点もあった。ただ、ガイドラインで示されている治療の実際は、やはり文字で読んでいるだけでもきつそうである。とはいえ、今後本当に多発性骨髄腫を発症したとしても「あの時、ああいう結果が出てたしな」という感じで受け止められると考えれば、この検査が自分にとって無意味だったとまでは言えない。神社でおみくじを引いて、「凶」と出た直後にケガをしたら、「おみくじは凶だったし」と自分を納得させようとすることとどこか似ている。一部の専門家がDTC遺伝子検査の持つ不確実性を踏まえ、「占い」と評してしまうのはそうしたところにも起因しているのかもしれない。ただし、私のように割り切れる人はどれだけいるだろうか? 気弱な人、生真面目な人ならばそうは簡単に割り切れない危険性は十分にある。そのように考えると、まったく科学的根拠がないわけではないとはいえ、ただ唾液を投函してこのような結果が示されるという今の在り方は、もう少し改善することも必要なのではないかとも考え始めている。

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九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)【大学医局紹介~がん診療編】

加藤 光次 氏(准教授)山内 拓司 氏(助教)大村 洋文 氏(助教)近藤 萌 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちが目指す医療は、目の前の患者さんを助けること、そして将来の患者さんを救うことであり、深い洞察を伴う臨床と研究を通じて、この2つの役割を果たすことができる“Physician Scientist”の育成に、医局として力を入れています。九州大学医学部第一内科は、5つの診療研究グループ(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)で構成され、各医師が専門領域に精通しつつ、人・全身を総合的に診る力を重視しています。当科では、全体回診を継続するなど、グループや臓器別診療の垣根を越え、全人的に診療できる総合内科医の臨床力を自ずと身に付けることができる土壌が育まれています。さらに、当科の専門であるがんや免疫の領域では、奇跡的とも言える最近の基礎研究から臨床開発への応用を容易に目の当たりにすることができます。このことは、第一内科ならではの特徴で、基礎研究や臨床開発における成果を、専門性を越えて異なる視点やアプローチから学ぶことが可能です。すぐ近くに、自らの視野を広げてくれる環境が整っています。さまざまなグループの垣根を越えた組織の活力は「自由」から生まれ、第一内科開講以来100年以上もの間、それを大切にしてきました。第一内科に息づく「自分のやりたいことがやれる自由度の高さ、そしてそれを支える歴史と伝統」を引き継ぎ、臨床力・研究力・人間力のバランスが取れた“Physician Scientist”を目指す若い皆さまに是非教室にご参加いただき、それぞれがもつ夢を実現して欲しいと思います。全体回診を行い、グループの垣根を越えて診療力を入れている治療/研究テーマ九州大学病院血液内科では、移植推進拠点病院として年間約50件の造血幹細胞移植を実施しています。また、難治性悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に対する新規治療であるCAR-T細胞療法も、いち早く導入され、年間50件以上の実施件数を誇っています。研究面では、白血病や悪性リンパ腫を中心とした基礎研究に加え、臨床現場での疑問点を出発点とした研究や、基礎研究から臨床応用を目指すトランスレーショナルリサーチも推進しています。たとえば、白血病幹細胞に発現するTIM3を世界に先駆けて発見し、これをターゲットとした治療薬の開発を進めています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、細胞治療に関する豊富な臨床経験を積むことができるほか、臨床と研究の距離感が近い環境が整っています。血液がんは一般的に予後が不良な疾患ですが、その治療法は日進月歩で進展しており、新たな治療法の開発に取り組むことができるのが大きな魅力です。血液がんと診断された患者さんは、多大なショックや不安を抱えていますが、少しでも安心できる未来を目指し、共に治療を進めていきましょう。カンファレンスの様子同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たち腫瘍グループは、がん治療の最前線で、多職種や複数の診療科と連携し、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けることを目指しています。消化器がん、軟部肉腫、原発不明がんなど、幅広いがん種に対し、最新のエビデンスに基づく薬物療法を実践しています。時には合併症で悩むこともありますが、他のグループの先生方にいつでも気軽に相談できるので、心強いサポートを感じています。このように臓器の枠組みを越えた連携が、「全人的に診る」総合内科としての第一内科の強みであり魅力でもあります。患者さんに寄り添い、時に笑い合い、悩みながらも一緒に歩んでいく―それがやりがいであり、私が第一内科に入局した理由でもあります。さらに、研究設備も非常に充実しており、関連病院の先生方と協力しながら存分に研究を行うことも可能ですし、学位取得のチャンスも広がっています。また日本臨床腫瘍学会の認定研修施設として、「がん薬物療法専門医」の資格取得を目指すための高度な教育環境が整っています。臨床、研究、教育のいずれも充実したこの環境で、私たちと一緒に最先端のがん医療に取り組んでみませんか?これまでの経歴山口大学を卒業後、九州大学第一内科(心血管グループ)に入局し、内科専門医・循環器専門医を取得しました。現在は腫瘍循環器診療を行うとともに、がん治療と心血管疾患に関する基礎・臨床研究に力を入れています。同医局を選んだ理由当科は血液、腫瘍、循環器、膠原病、感染症など多様な診療グループがあり、各診療グループ間の垣根がないため、内科医としての知識を幅広く学べる環境が整っています。指導医の先生方は豊富な知識を持ち、患者さんに真摯に向き合っており、その姿勢に惹かれて入局を決意しました。所属する先生方のキャリアは多様で、各々のニーズに応じた働き方やスキル習得が可能です。私もがんと循環器領域の両方に興味を持ち、入局後にがん診療に従事した後、心血管グループに所属しています。現在学んでいること現在は大学院で、がん治療に関連する心血管障害の基礎研究を進めつつ、造血器腫瘍と心血管有害事象、腫瘍循環器リハビリテーションの臨床研究も行っています。がん治療は日々進歩し続けており、その中で患者さんに少しでも良い診療を提供できるよう研鑽を重ねています。九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)住所〒812-858 福岡県福岡市東区馬出3-1-1問い合わせ先ikyoku1intmed1@gmail.com医局ホームページ九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)専門医取得実績のある学会日本内科学会、日本血液学会、日本輸血・細胞治療学会、日本移植学会、日本臨床腫瘍学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本不整脈心電学会、日本アレルギー学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本臨床検査医学会、日本救急医学会、日本糖尿病学会 など研修プログラムの特徴(1)血液内科・腫瘍内科・心血管内科・膠原病内科・感染症内科と複数のグループが連携して診療にあたっており、充実したサポート体制のもとさまざまな分野の症例が経験できます。(2)治験や臨床試験をはじめ最先端の治療を実施しており、将来の治療開発に繋がる基礎研究にも精力的に取り組んでいます。希望があれば海外留学も支援します。(3)休日当番制を敷いて、ライフワークバランス実現に取り組んでいます。産休・育休から復帰した女性医師のキャリア支援にも力を入れています。詳細はこちら

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多発性骨髄腫の治療継続、医師と患者の認識にギャップ/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、 2024年11月15日、2024年6月に実施した多発性骨髄腫患者と多発性骨髄腫を診療する医師を対象とする調査の結果を発表した。 調査の結果、半数の患者が、「通院などの身体的負担、治療費による負担、治療が続くことへの精神的な負担などから、治療を途中で休みたいと思ったことがある」と回答した。しかし実際には、患者全体の8割は治療を継続していた。医師の調査でも症状が軽快しても、約7割の患者は治療を継続している実態が示された。 前向きに治療を継続する上で必要なこととして、患者も医師も「主治医から、治療や副作用、治療期間に関する説明が十分にあること」、「主治医に治療や副作用、治療期間に関する不安や疑問などを相談できること」、「患者本人が、病気や治療、医療費制度に関する情報を得ること」を上位3つにあげ、主治医・患者間での対話や患者本人の情報入手が必要であると考えていることが示された。  どのような状況があれば治療を継続しやすくなると思うかとの問いに対し、約5割の医師が「身近で世話をする人(家族など)に、患者が治療や治療期間、副作用などに関する不安や疑問を相談できること」、「身近で世話をする人が病気や治療、医療費制度について情報を入手すること」が必要と回答した。

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固形がんにMRD検査は有用か?学会がガイダンスを作成/日本癌治療学会

 日本癌治療学会は、固形がんを対象に、がん種横断的にMRD検査の最新エビデンスを集め、検査の適正利用・研究を目指すことを目的としたガイダンス「分子的残存病変(molecular residual disease:MRD)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」(日本癌治療学会:編、日本臨床腫瘍学会・日本外科学会:協力)を作成し、2024年10月に学会サイト上で公開した。※MRDの概念は複数あり、Pubmedでも以下の3つの名称が混在するが、今回のガイダンスにおけるMRDは2の概念に基づくもの。 1.Minimally Residual Disease…血液腫瘍における定義(現在のMRD関連論文の4分の3を占める) 2.Molecular Residual Disease…近年のctDNAに基づく、分子レベルの残存病変 3.Measurable Residual Disease…定量的に測定可能な残存病変 MRDは、抗がん剤の投与などにより一定の治療効果が確認された後も患者の体内に残る微小なレベルのがん病変を指す。もともとは造血器腫瘍における研究が先行しており、2024年4月には米国食品医薬品局(FDA)の委員会がMRDを多発性骨髄腫の臨床開発のエンドポイントとすることを認めるなど、研究・臨床への応用が進む。固形がんにおいても、血液を用いたリキッドバイオプシー検査の臨床導入を契機に、大腸がんなどを中心にMRD評価による再発リスク層別化を検証する臨床試験が多数行われ、臨床応用や保険承認を目指す流れができつつある。今回の見解書(ガイダンス)もこのような背景から作成されたものだ。 ガイダンスは以下の構成となっている。―――――――――――――――――――・総論:ctDNA、MRDについて、MRD検査に関する国内外のガイドライン記載・各論:各領域の臨床動向(消化管、肺、乳腺、泌尿器、肝胆膵、婦人科、頭頸部、皮膚)・クリニカル・クエスチョン(CQ1~9)・参考資料――――――――――――――――――― ガイダンス公開と同時期に行われた第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)では、「MRDがもたらす切除可能固形がん周術期治療の近未来―切除可能固形がんにおけるMRD利用ガイダンス発刊に寄せて」と題したシンポジウムが行われ、ガイダンスの作成ワーキンググループの委員が、ガイダンスに収載されたエビデンスや各領域における検査実施や応用の現状を報告した。 MRDに関するエビデンスが蓄積してきた造血器腫瘍領域と異なり、固形がん領域におけるMRD検査の臨床応用は道半ばだ。シンポジウムではMRD検査活用に対する「賛成派」「反対派」の立場に分かれ、ディスカッションを行った。賛成派がこれまで報告された研究結果を基に有用性を示す一方で、反対派は「がん種ごとに検出率が異なり、臓器横断的に利用できるのかは疑問」「複数のアッセイがあり、精度の検証や最適化がされていない」「膵がんのような予後の悪いがんでは、MRD陰性の中にも再発ハイリスク層が存在する。MRD陰性を理由とした治療中止に本当にベネフィットはあるか」「MRDの結果だけで患者を層別化するのは、個別化医療の流れに反するのでは」といった、現時点における疑問点や課題点を挙げた。 また、各領域の報告では、がん種ごとに重要なサブタイプと判定すべき時期・検査が異なるためMRD検査の実施判定が難しい、すでに確立されたバイオマーカーがありMRD検査の必要性が薄いなど、MRD検査に対するスタンスに違いも見られた。 最後にワーキンググループ委員長を務める小林 信氏(国立がん研究センター東病院)が、ガイダンスに掲載された9つのクリニカルクエスチョン(CQ)から5つを紹介した。CQ1:術後MRD検査には、どのようなアッセイが推奨されるか?推奨1-1:MRD検査として分析的妥当性及び臨床的妥当性が示された検査を強く推奨する。→「臨床的妥当性」がキーワードで、これはMRD検査の感度・特異度や的中率、陽性患者と陰性患者の予後の比較、MRD検出から再発までの期間などにより評価される。これらの指標が適切な臨床試験で示されているアッセイの利用を「強く推奨する」。CQ2:どのような症例を対象にMRD検査を行うことが推奨されるか?推奨2-1:術後再発リスク評価を目的として、根治的切除が行われている症例を対象にMRD検査を行うことを強く推奨する。→MRD検査は、がん患者を対象に低侵襲にctDNAを解析し、再発の証拠がある前に分子的再発を特定する検査である。従って、基本的に根治的切除が行われている症例が対象となる。具体的ながん種、Stageに関しては、適切な研究により臨床的妥当性を示すことが必要である。たとえば、大腸がんに関してはCIRCULATE-JapanによるGALAXY試験によってStageを問わず陽性例の再発リスクが高いことが示されているため、根治切除後の全症例が推奨の対象となる。一方、再発サーベイランスに関しては、がん種・Stageごとのリスクを考慮し、低リスク症例に高コストのMRD検査を続けることは望ましくないだろう。CQ4:MRD検査はいつ行うことが勧められるか?推奨4-2:術後再発リスクを目的とする場合、術後補助療法開始前且つ術後2~8週を目安としたMRD検査を推奨する。→MRD検査は術後再発リスクを評価し、術後の補助療法の適用を判断することが主な目的であり、検査実施は術後2~8週間が妥当とした。この根拠は、手術直後は侵襲の影響でctDNAが高値となり、術後2週以降に標準化することだ。あとはがん種ごとのガイドラインにおける術後補助療法の開始時期から逆算し、検査を実施することになるだろう。CQ6:術後MRD陽性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?術後MRD陽性の患者に対して、各がん種に応じた術後補助療法を行うことを推奨する。→MRDが消失すると予後が良い、MRD陽性例に術後補助療法を行うと予後が良い、というエビデンスが、がん種横断的に示されている。ただ、こうしたデータは再発高リスク例を対象とした後ろ向き研究が多いことには注意が必要だ。MRD陽性・再発低リスク例に対する補助療法の有用性を示したエビデンスはなく、この点はがん種ごとにガイドラインの推奨も異なり、委員間で意見の相違もあった。CQ8:術後MRD陰性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?術後MRD陰性の患者に対しても、各がん種に応じた術後補助療法を行うことを考慮する。ただし腫瘍因子・患者因子などを考慮して治療強度の低いレジメンの適用や術後補助療法を行わないことも選択肢となりうる。→大腸がんを対象としたDYNAMIC試験では、MRD陰性例であっても病理学的因子の不良例は有意に予後が悪いという結果が示されるなど、MRD陰性の結果だけで術後補助療法の省略・簡略化を決めることは難しい。ただ、がん種によってはMRD陰性例における術後観察群の経過が良好という報告もあり、このような推奨となった。現在進行中の大腸がんを対象にMRD陰性例の術後補助療法の有無を比較したVEGA試験の結果などを見て、再度検討することになるだろう。「MRD検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」/日本癌治療学会

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多発性骨髄腫におけるCAR-T細胞の製造不良の要因/京都大学

 CAR-T細胞療法は、再発難治多発性骨髄腫の管理を大幅に改善した。しかしCAR-T細胞には、製造過程で一部に発生する細胞増殖不良による「製造不良」という問題がある。製造不良は治療の大きな遅れや、その間の病勢進行につながるため、治療計画に重大な影響を与える。製造不良の実態把握とリスク因子の同定が急務とされていた。 そのようななか、骨髄腫患者におけるCAR-T細胞製造不良リスクを特定するため、日本でide-cel(商品名:アベクマ)治療を受けた患者の全国コホート研究が実施された。対象はide-cel投与のための白血球アフェレーシスを受けた患者である。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は154例で、そのうち13例(8.4%)で製造不良が発生した。・製造不良例では成功例に比べ、診断時の17p欠失率が高く(38.5% vs.14.9%)、アフェレーシス前6ヵ月以内のアルキル化剤治療が多く(53.8% vs.23.4%)、またアフェレーシス前の化学療法ライン数が多かった(中央値6 vs.5)。・製造不良例では成功例に比べ、ヘモグロビン値(8.6 vs.10.0g/dL)、血小板数(5.9 vs.13.8x104/μL)、CD4/CD8比(0.169 vs.0.474)が有意に低かった。・アフェレーシス前6ヵ月以内のアルキル化剤使用は、血小板数とCD4/CD8比低下に関連していた。

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次世代のCAR-T細胞療法―治療効果を上げるための新たなアプローチ/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が開催され、13日のJSH-ASH Joint Symposiumでは、『次世代のCAR-T細胞療法』と題して、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)療法の効果の毒性を最小限にとどめ、治療効果をより高めるための新たな標的の探索や、細胞工学を用いてキメラ抗原受容体(CAR)構造を強化した治療、およびoff the shelf therapyを目標としたiPS細胞由来次世代T細胞療法の試みなど、CAR-T細胞療法に関する国内外の最新の話題が紹介された。CAR-T細胞療法を最適化するための新しい標的の開発 CAR-T細胞療法はB細胞性悪性腫瘍や多発性骨髄腫(MM)などに対する効果が認められているが、毒性については解決すべき課題が残っている。ガイドラインでは主な合併症として、サイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が取り上げられているが、CAR-T細胞療法による新たな、または、まれな合併症とその管理についての情報は少なく、新たな標的の検討とともに明らかにしていく必要がある。米国血液学会(ASH)のCAR-T細胞療法のワークショップでは、CAR-T細胞の病態生理の理解、まれな毒性についてのデータの蓄積、on-target off-toxicityを回避するための的確な標的となる抗原などが検討されている。 Fabiana Perna氏(Moffitt Cancer Center)らは腫瘍関連抗原(TAA)および腫瘍特異的抗原(TSA)、さらに腫瘍特異的細胞表面プロテオームの解析を行っている。同氏らはこれまで、急性骨髄性白血病(AML)におけるCAR-T細胞療法の標的を同定するために、プロテオームと遺伝子発現の同時解析を行い、26個の標的を同定した。このうち15個は臨床試験で用いられ、その多くがAMLの正常細胞上に高発現する蛋白であった。 MMに対してはB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T(BCMA-CAR-T)細胞療法の成績は良好とはいえず、新たな標的抗原が必要である。Perna氏らはMM患者約900例のサンプル約4,700検体を用い細胞表面のプロテオームを解析し、RNAシーケンスを行い、腫瘍組織に高発現するBCAAを含む6個の標的を同定した。そのうちSEMA4Aは再発/難治性MM患者での高発現が認められた。BCMA-CAR-T細胞療法後の再発はBCMAの発現低下に関連し、CARの機能低下を惹起すると考えられ、的確な標的の探索が必要である。Perna氏らはSEMA4AがCAR-T細胞療法の標的となりうると考え、SEMA4A-CAR-T細胞療法を試みている。なお、MM患者の免疫療法に関しては第I相試験が予定されている。 また、Perna氏らはmRNAスプライシングに由来する白血病特異的抗原の解析パイプラインを開発中であり、AML患者サンプルからスプライスバリアントの異常発現を認めたことから、同氏は、疾患特異的スプライスバリアントを標的とした治療法につながることを期待していると述べた。CAR-T細胞療法抵抗性克服と新たな応用の探求 CAR-T細胞療法は、CD19およびBCMA抗原を標的として、B細胞性悪性腫瘍(リンパ腫、白血病)およびMMに対して行われている。BCMA-CAR-T細胞療法は初期治療の奏効率は高いが、長期寛解率は低くとどまっている。CAR-T細胞の機能不全は抗原逃避、T細胞欠損、腫瘍微小環境(TME)などにより惹起される。そこで、酒村 玲央奈氏(メイヨー・クリニック 血液内科)は、CAR-T細胞療法の治療抵抗性克服と新たなストラテジーを探求するうえで、重要な鍵となる免疫抑制細胞について検討した。 がん関連線維芽細胞(CAF)は、CAR-T細胞の機能不全を誘導するが、同時にMM患者の治療効果を高める可能性があると考えられている。これまでの酒村氏の検討でMM患者由来のCAFがTGF-βなど抑制性サイトカイン産生を増加させ、PD-1/PD-L1結合を介してCAR-T細胞を阻害し、FAS/FASリガンド経路を介してCAR-T細胞にアポトーシスを誘導、制御性T細胞(Treg)を動員することが示された。また、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的としたCAR-T細胞はマウスの体重を有意に減少させ、off target効果による重篤な毒性を惹起すると考えられ、CAF表面上に発現するCS1およびBCMAの2つを標的としたCAR-T細胞は腫瘍細胞およびCAFを溶解することが示された。さらに、BCMA-CAR-T細胞療法施行患者由来の骨髄サンプルを用いたシングルセルRNAシーケンスを行い、non-responder由来のCAFが高頻度にデスリガンド(抗腫瘍性リガンド)を発現すること、non-responder由来のT細胞は慢性的に刺激され疲弊したphenotypeであることが明らかとなった。また、non-responder由来の骨髄サンプルではTMEを支配する腫瘍関連マクロファージ(TAM)とCAFの有意なクロストークの存在が示された。 間葉系幹細胞(MSC)は多能性細胞であり、免疫抑制および組織再生治療における効果が研究されている。そこで酒村氏は、MSCの免疫抑制効果を向上させるために、細胞工学技術を用い健康な人から得た脂肪由来のMSCにCARを搭載し、移植片対宿主病(GVHD)に対する治療戦略をマウスモデルで検討した。研究には、とくにGVHDをターゲットとしたE-cadherin(Ecad)特異的なCAR-MSC(EcCAR-MSC)を用いた。EcCAR-MSCの開発では、Ecad特異的な単鎖可変フラグメント(scFV)クローンが生成され、CAR-CD28ζ構造を設計し安定発現させてMSCの免疫抑制機能を強化したことが示された。 GVHDモデルにおいてEcCAR-MSCはマウスの体重減少を軽減し、GVHD症状を緩和し生存率を向上させた。また、Ecad陽性大腸組織へ特異的に移行し、T細胞活性を抑制し免疫調節機能効果を向上させた。また、シングルセルRNAシーケンスにより、抗原特異的刺激を受けたEcCAR-MSCにおいてIL-6、IL-10、NF-κBなどの免疫抑制シグナル経路の活性化が認められた。EcCAR-MSCのCD28ζシグナルドメインを含むCAR構造体はより強い免疫抑制効果を示した。 酒村氏は、CARを用いたMSCの免疫抑制機能を強化する新たな細胞治療とGVHDおよび腫瘍抑制における可能性を提示した。また、MSCの開発は免疫環境の調節を可能とし、炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など自己免疫疾患の治療にも新たなアプローチを提供するものと考えると述べ、CAR-T細胞療法を進展させ、より多くの患者予後の改善を目指したいと結んだ。難治性腫瘍に対するiPS細胞由来次世代T細胞療法の開発 難治性NK細胞リンパ腫に対しては、L-アスパラギナーゼを含む抗がん剤治療や末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)による細胞治療が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。とくに末梢血由来T細胞は細胞治療後に疲弊し、長期的には腫瘍が増大することが知られている。そこで、安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科血液内科学)はNK細胞リンパ腫患者の末梢血よりエプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原特異的CTLを使用し、iPS細胞を作製後、再びT細胞に分化誘導し、iPS細胞由来若返りCTL(rejT)を作製し、NK細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、rejTはNK細胞リンパ腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示した。次いでNK細胞リンパ腫細胞株を腹腔内注射したマウスを用い、rejTおよび末梢血由来T細胞で治療し生体内での抗腫瘍効果を比較検討した結果、両群とも有意な腫瘍増大抑制効果が認められた。さらにrejTは末梢血由来T細胞に比べ有意な生存期間延長効果を示し、マウス体内でメモリーT細胞として長期間生存し、リンパ腫再増殖抑制効果が持続したことが示された。 次いで安藤氏は、末梢血EBV抗原LMP2特異的CTLからiPS細胞を作製し分化誘導後、iPS細胞由来若返りLMP2抗原特異的CTL(LMP2-rejT)がEBV関連リンパ腫に対し強い抗腫瘍効果を発揮することをマウスモデルで証明した。また、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期生存し、難治性リンパ腫の再発抑制を維持することを確認した。 安藤氏はこの手法を応用し、LMP2-rejTにCARを搭載することで、2つの受容体を有し、同時に2つの抗原(CD19、LMP2抗原)を標的にできるiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスを用いた検討ではDRrejTは受容体を1つのみ有する従来のT細胞に比べ、難治性の悪性リンパ腫に対し強力な抗腫瘍効果と、生存期間延長効果を示し、メモリーT細胞として長期生存が示された。 また、安藤氏はiPS細胞に小細胞肺がん(SCLC)に高発現するGD2抗原標的キメラ抗原受容体(GD2-CAR)を遺伝子導入後、分化誘導したiPS細胞由来GD2-CART細胞(GD2-CARrejT)を作製し、SCLCに対する強い抗腫瘍効果を示した。さらに、GD2-CARrejTは末梢血由来のGD2-CART細胞に比べ、疲弊マーカーであるTIGITの発現がきわめて低いことを明らかにした。また、マウスの検討でGD2-CARrejTは末梢血由来LMP2-CTLに比べNK/T細胞リンパ腫を抑制することが示された。 さらに、安藤氏はiPS細胞由来ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的CTL(HPV-rejT)を作製し、HPV-rejTは末梢血由来CTLと比較して子宮頸がんの増殖を強力に抑制することを確認した。子宮頸がん患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化には課題がある。一方、健康な人のCTLから作成した他家iPS細胞を用いた場合、これらの問題は解決するが、患者免疫細胞からの同種免疫反応により抗腫瘍効果が減弱する。そこでCRISPR/Cas9技術を用い、HLAクラスIをゲノム編集した健常人由来他家HPV-CTL(HLA-class I-edited HPV-rejT)を作製した。マウスを用いた検討で、HLA-class I-edited HPV-rejTは患者免疫細胞から拒絶されずに子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。また、末梢血由来HPV-CTLに比べ、細胞傷害活性に関するIFNG遺伝子や、組織レジデントメモリー細胞に関係するITGAE遺伝子などの発現レベルが有意に高く、組織レジデントメモリー細胞を豊富に含むことが示された。これらの機能解析により、HLA-class I-edited HPV-rejTはTGF-βシグナリングによりCD103発現レベルを上昇させ、その結果、抗原特異的細胞傷害活性が増強することが明らかとなった。現在、HLA-class I-edited HPV-rejTを用いた治療の安全性を評価する医師主導第I相試験が進行中である。 安藤氏はiPS細胞由来の抗原特異的、そしてHLA編集細胞が、off the shelfのT細胞療法に、持続可能で有望なアプローチを提供するものと期待されると締めくくった。

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造血器腫瘍も遺伝子パネル検査の時代へ/日本血液学会

 固形がんで遺伝子検査が普及しているなか、造血器腫瘍でも適切な診断・治療のために遺伝子情報は不可欠となりつつある。日本血液学会からは有用性の高い遺伝子異常と遺伝子検査の活用方針を示した「造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン」が発行された。第86回日本血液学会学術集会では、Special Symposiumとして遺伝子パネルの実臨床での活用状況が発表された。臨床現場で進む造血器腫瘍の遺伝子解析 造血器腫瘍では対象となる遺伝子異常が固形がんとは違う。また、遺伝子検査の目的も固形がんでは治療対象の探索だが、造血器腫瘍ではさらに診断、予後予測が加わる。そのため、造血器腫瘍専用の遺伝子プロファイル検査が必要とされている。 九州大学では398遺伝子を標的としたDISCAVar panelを開発、すでに1,500以上の症例に活用している。名古屋大学では急性骨髄性白血病(AML)に関連する58種類の遺伝子を対象とした次世代シークエンス(NGS)解析を行っている。AML250例を超える解析結果から、従来の染色体検査に遺伝子検査を加えることで、より精密な予後層別化が可能になることを明らかにした。承認された造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト」 造血器腫瘍専用の遺伝子パネル検査の必要性が望まれるなか、国立がん研究センター、九州大学、京都大学、名古屋医療センター、東京大学医科学研究所、慶應義塾大学および大塚製薬が共同で開発した造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト」が2024年9月に製造販売承認された。 ヘムサイトは一塩基置換や遺伝子の挿入・欠損、また融合遺伝子や構造異常を含む計452の遺伝子をDNAとRNAの解析によって同定する。 国立がん研究センター研究所ではプロトタイプ検査を用いた前向き試験を実施し、この検査の臨床的な有用性を評価した。176症例の188検体を解析し、296個の遺伝子に1,746個の異常を同定した。85%の症例でガイドラインで認められているエビデンスを有する異常が確認され、遺伝子パネル検査の臨床的有用性を示す結果となった。

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骨髄腫研究の最前線:新たな治療法開発への挑戦と期待/日本血液学会

 多発性骨髄腫(MM)は形質細胞の単クローン性増殖を特徴とする進行性かつ難治性の造血器腫瘍であるため、現時点では治癒困難とされる。しかし近年、新たな治療戦略によって長期生存が可能になりつつある。 2024年10月11~13日に開催された第86回日本血液学会学術集会では、『新たなアプローチが切り拓く骨髄腫の病態解析』と題したシンポジウムが行われた。座長の1人である黒田 純也氏(京都府立医科大学大学院医学研究科 血液内科学)は、「多発性骨髄腫の病因・病態のさらなる解明は、新規治療法の開発や個別化医療の推進につながると期待される。そこで、本シンポジウムでは4名の先生方に、最新研究に基づく知見や将来展望についてご講演いただきたい」とあいさつした。多発性骨髄腫の診断・治療における循環腫瘍細胞の役割と展望 MMの前がん病態であり、治療の対象とならないくすぶり型骨髄腫(SMM)患者を対象としたBruno Paiva氏(スペイン・ナバラ大学)らの検討から、治療対象となる症候性MMへの進展リスクを予測するうえで、末梢血中の循環腫瘍細胞(CTC)は骨髄形質細胞(BMPC)の代替となりうることが示唆されている。 また、SMM患者の無増悪期間にCTCの挙動が影響することも確認されたため、Paiva氏は「こうした低侵襲な検査による評価は頻回のリスク再評価を可能にし、予想能を向上させる可能性がある。さらに、わずかなCTCで評価可能な手法も開発されている状況を踏まえると、無症候段階にある患者での有用性が期待される」とした。 一方、新規診断(ND)MM患者におけるCTCの予後的価値に関しては、Paiva氏らの検討によりCTCの割合が高いほど無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に短縮し、これは標準リスク群、高リスク群に関係なく同様とされたことから、「CTCはNDMM患者における最も重要な予後因子の1つ」と報告している。 そして、「CTCは移植の適応やR-ISS(改訂国際病期分類)と共に、NDMM患者におけるPFSとOSの独立した予測因子であり、CTC不検出であれば完全寛解や骨髄中の微小残存病変(MRD)はPFSとOSに影響しないことを確認している」と付け加えた。 さらにPaiva氏らは、末梢血中の残存病変の予後的価値について検討する中で、CTCを検出する新たなフローサイトメトリー法“BloodFlow”と、免疫グロブリン・サブクラスを検出する質量分析法“QIP-MS”が予後予測能を補完的に向上させることを示し、「血液検査のみで骨髄検査と同等の情報が得られる」と述べた。 「MMの診断・治療には、骨髄検査と共に遺伝子検査やCTCなどを組み合わせたリスク層別化が必要である。また、治療過程では初期には骨髄検査が重要だが、維持期や観察期間中は画像検査も考慮しつつ、末梢血検査で代用できる可能性がある」と結論した。新たな解析技術による多発性骨髄腫の理解 MMの理解にはゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクスなどの観点から腫瘍細胞の特性を捉える必要がある。また、骨髄中の腫瘍細胞の局在と他の細胞との関係性や、どのようなタイミングで臨床的に懸念される病態に至るかを解明することが重要とされる。しかし、「MMは細胞遺伝学的・分子生物学的に多様で不均一なため、従来の解析技術では骨髄腫細胞の詳細を明確にすることは難しい」と、Michael Slade氏(米国・セントルイス・ワシントン大学)は指摘する。 こうした中、Slade氏らのグループはシングルセル解析による新たな腫瘍関連マーカーの特定を試みている。これによると、MM患者41例の骨髄穿刺液53検体を用いたシングルセルRNAシーケンスにより、既知のBCMAのほか、FCRL5やSLAMF7を含む複数の治療標的候補となるタンパク質が特定された。また、これらタンパク質をコードする遺伝子は高い相関もしくは相互に排他的であり、バルクプロテオミクス/RNAシーケンスによる検証で、これらの治療標的候補としての妥当性が確認された。 なお、無症候性から症候性MMへの進行は腫瘍のみならず、その周囲の微小環境の変化が関与するため、治療においてはその影響を考慮すべきであることが認識されつつある。そこでSlade氏らのグループは、腫瘍免疫微小環境の構成をさらに詳しく理解するため、NDMM患者の治療前および治療後に採取した100万個以上のCD138陰性骨髄穿刺液検体をシングルセル解析により評価し、微小環境がMMの進行に関与することや、高リスクの細胞遺伝学的異常を有する患者では治療前から細胞傷害性T細胞や炎症性CD14陽性単球が豊富に存在するといった特有の免疫環境を認めることを明らかにした。 また近年、細胞の空間情報を維持しつつタンパク質・遺伝子の発現およびシグナル伝達を網羅的に評価する“空間マルチオミクス”技術が登場し、多数のプラットフォームが開発されている。たとえば、ドイツの研究グループは、難治性MM患者11例の皮膚や筋肉などの髄外病変を空間トランスクリプトミクスで解析し、細胞遺伝学的異常が空間的に不均一でないことを明らかにした。Slade氏は、「髄外病変は検体として扱いやすいが、骨髄自体の分析にはいくつかの課題がある。われわれはその克服に向け取り組んでいる」とし、「シングルセル解析と空間マルチオミクスの組み合わせがMMの生物学的理解をより深め、新しい発見をもたらすだろう。まだ発展途上だが、これらによる知見がMMの予防や治療法の開発につながるため、今後の期待は大きい」と結んだ。多発性骨髄腫の病態に関与する新たなエピゲノム制御機構の特定 細胞の増殖、分化、アポトーシスの転写制御因子であるMYCはMMをはじめ、多くのがん種で重要な役割を果たしている。そのため、MYCの転写共役因子の特定ならびに詳細なメカニズムの解明は、新規治療法の開発に不可欠と考えられる。 こうした中、転写活性化に関わるH3K4のヒストン脱メチル化酵素KDM5ファミリーは、MYC依存的な細胞増殖メカニズムの重要な制御因子であることが示されている。そして、KDM5ファミリーの中でもとくにKDM5Aは、H3K4メチル化サイクルを制御することでMYC標的遺伝子の転写活性化をサポートするため、MMをはじめとするがん種に対する有望な治療標的と示唆されている。 一方、がん細胞はその発生過程において、前駆細胞に組み込まれた増殖と生存のメカニズムに深く依存している。この“Lineage dependency”と呼ばれる概念はさまざまながん種において認識されているため、正常発達過程に関与する系統関連がん遺伝子を標的とすることは合理的と考えられる。 なかでもIL-6は、MMの発症や進行に重要な因子であることから、これに焦点を当てた系統関連がん遺伝子の特定が行われている。これらの研究に加え、現在、大口 裕人氏(熊本大学 生命資源研究・支援センター)らはIL-6/JAK/STAT3経路におけるMM細胞の増殖と生存を促進するB細胞系転写調節因子の同定を進めている。 「われわれの試みは、MMの病態には異なる2つのメカニズムが関与し、その両者にエピゲノム制御異常が深く関わっていることを支持するものである。このような新たなメカニズムの解明が、本疾患に対する新規治療法の開発につながる」と、大口氏は述べた。多発性骨髄腫の新規治療戦略の開発に向けた骨髄腫モデルマウスの解析 ヒストン脱メチル化酵素のUTX(KDM6A)はエピゲノム制御に関わる遺伝子であり、その変異や欠損を伴うMM患者の予後は不良なため、UTXはMMにおける腫瘍抑制因子とされる。また、RAS/RAF/MEK/ERKカスケードはNDMM患者において最も影響を受ける経路とされ、BRAF遺伝子の中でも活性型BrafV600E変異はとくに重要と考えられている。 こうした背景に基づき、三村 尚也氏(千葉大学医学部附属病院 輸血・細胞療法部)らはUtx欠損かつ活性型BrafV600E変異を有する新たなコンパウンドマウスを作製し、MMの病態解明を試みている。 まず、エピジェネティックな側面の検討から、Utx欠損と活性型BrafV600E変異は疾患の進行を相乗的に加速させ、生存期間の短縮を招くとともに、形質細胞新生物やB細胞リンパ腫、リンパ増殖性疾患といった成熟B細胞腫瘍を誘発した。なお、UTXの腫瘍抑制機能は脱メチル化酵素活性でなく、cIDR(天然変性領域のコアドメイン)が主にその機能を担っていた。さらに、Mycや細胞周期、リボソーム関連遺伝子が腫瘍細胞に多く含まれていることや、クロマチン構造の変化は発症前から始まり、長い時間をかけて徐々に転写が変化してMM発症に至ることが示唆された。 一方、PD-1やTim-3などの共抑制性受容体は疲弊したT細胞に発現し、MM患者ではCD8陽性・PD-1陽性・Tim-3陽性の疲弊T細胞が増加している。 そこで三村氏らは、抗腫瘍免疫応答に関する検討を行い、PD-1陽性・Tim-3陽性の疲弊T細胞は細胞傷害活性が強いものの、アポトーシスを誘導するために寿命が短く、PD-1陽性・Tim-3陰性の疲弊T細胞は抗腫瘍反応の維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、T細胞を疲弊させる転写因子のToxおよびNr4a2発現がリンパ節や脾臓で上昇していることを確認し、「T細胞の過剰な疲弊を防ぐことが、抗腫瘍免疫の活性・維持につながる」とした。 そして、「本モデルマウスはエピゲノム制御異常と免疫応答の役割を理解する有用なツールである。現在、MMの新規治療戦略について、小胞体ストレス応答、シグナル伝達、エピゲノム修飾、免疫応答に着目した研究を進めており、これらの展開を通してMMの根治を目指す」と結んだ。

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CAR-T細胞療法により二次がんリスクは上昇しない

 自家キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法製品の添付文書には、CAR-T細胞療法後に二次性のT細胞性悪性腫瘍が発生するリスクがあるとの警告が記載されている。しかし、新たな研究で、CAR-T細胞療法後のそのような二次がんの発生頻度は、標準治療後の二次がん発生頻度と同程度であることが示された。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKC)成人骨髄移植サービス分野のKai Rejeski氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Cancer Research」に9月11日掲載された。 米国がん協会(ACS)の説明によると、CAR-T細胞療法は、患者の血液から採取したT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるための遺伝子を導入し、特定のがん細胞を攻撃できるようにした上で患者の体内に戻す治療法である。ACSは、「CAR-T細胞療法は、ある種のがんに対して、たとえ他の治療法が効かなくなった場合でも、非常に有効な可能性がある」と述べている。 しかし、米食品医薬品局(FDA)は2024年1月、FDAの有害事象報告システムのデータに基づき、CAR-T細胞療法製品の添付文書に、治療対象となったB細胞リンパ腫や多発性骨髄腫などとは無関係に新たなT細胞性悪性腫瘍(二次がん)が発生する可能性について警告を表示するよう要求した。これに対し、Rejeski氏らは、FDAのデータでは、二次がん発生に影響を及ぼす可能性のある他の因子、例えば年齢、他に受けた治療、追跡期間などが考慮されていない点を指摘する。同氏は、「患者は、この警告の追加についてのニュースを読んでおり、当然のことながら、医療提供者に安全性について質問している。われわれは、潜在的なリスクを理解するとともに、データを慎重に解釈して患者に説明する必要がある」と話す。 今回の研究でRejeski氏らは、リンパ腫または多発性骨髄腫の患者5,517人を対象とした18件の臨床試験と7件のリアルワールド研究のデータの分析を行った。対象者は、現在承認されている6種類のCAR-T細胞療法のうちのいずれかを受けていた。 中央値21.7カ月に及ぶ追跡期間中に5.8%の患者に326件の二次がんが発生していた。解析の結果、CAR-T細胞療法前に受けた別の治療の回数が3回以上だった患者では、3回以下だった患者に比べて二次がんリスクの高いことが示された。CAR-T細胞療法を受けた患者と標準治療を受けた患者の転帰を比較した4件の研究(対象者の総計1,253人)を対象にした解析では、二次がんが発生した患者の割合は、CAR-T細胞療法を受けた患者で5%、標準治療を受けた患者で4.9%であり、両群間に有意な差は認められなかった。また、二次がんリスクは、治療対象となるがんの種類や受けたCAR-T細胞療法の種類によって変わらないことも明らかになった。さらに、326件の二次がんのサブタイプを調べたところ、T細胞性悪性腫瘍はわずか5件(0.09%)を占めるに過ぎず、T細胞性悪性腫瘍と患者のCAR-T細胞療法で使用されたT細胞との遺伝的関連については、3件のうちの1件でのみ陽性と判定されていた。 こうした結果を受けてRejeski氏は、「これらの結果は、標準治療に比べてCAR-T細胞療法が二次がんリスクを上昇させることを示唆するものではない」と結論付けている。同氏はさらに、「CAR-T細胞療法により患者の生存期間は延びるが、それは同時に新たながんが発生する期間も延びることを意味する」と指摘し、「CAR-T細胞療法は、自身の成功の犠牲になっている可能性がある」と述べている。 Rejeski氏は、「過去20年以上を振り返ると、難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療法で、標準治療以上に患者の生存率を向上させたのはCAR-T細胞療法だけだ。CAR-T細胞療法での二次がんリスクは極めて低いため、この治療を決して控えるべきではない」とアドバイスしている。

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国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査ヘムサイトの承認取得/大塚

 大塚製薬は2024年9月20日、同社と国立がん研究センターが共同設計し、国立がん研究センター、九州大学、京都大学、名古屋医療センター、東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター、慶應義塾大学医学部との共同研究コンソーシアムにて開発した造血器腫瘍遺伝子パネル検査ヘムサイトについて、国内における製造販売承認を取得したと発表。今後、保険適用の手続きを行い、発売に向けた準備を進める。 がん遺伝子パネル検査は、固形腫瘍を対象としたものがすでに保険適用されているが、造血器腫瘍では製造販売承認されたものはなく、保険診療下でのがんゲノム医療が実施できていない。同製品は、厚生労働省から先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、国内で初めて製造販売承認された造血器腫瘍および類縁疾患を対象とした遺伝子パネル検査で、体外診断用医薬品「ヘムサイト診断薬」と医療機器プログラム「ヘムサイト解析プログラム」により構成されている。 近年、世界保健機関(WHO)などが提唱する造血器腫瘍の診断・治療指針では、ゲノム情報に基づいた診療が推奨され、ゲノム情報を用いずに適切な診断・治療を行うことが困難になりつつある。国内においても、日本血液学会から造血器腫瘍ゲノム検査ガイドラインが発行され、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など疾患・ステージごとに遺伝子パネル検査推奨度が提示されている。同製品は、ガイドラインにある造血器腫瘍の遺伝子異常が網羅的に検査できるように設計されており、遺伝子異常による診断、治療法選択、予後予測が可能になることが期待される。

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この20年間、18~26歳で急増しているがんは?

 過去20年間の生活習慣の変化により、若者ががんの危険因子にさらされる機会が増えている可能性があるが、データベースによる研究報告はない。今回、イタリア・Institute of Biochemistry and Cell Biology, National Council of ResearchのAlessandro Cavazzani氏らが、米国・国立がん研究所のがん登録データベース(SEER22)を用いて、部位別のがん罹患率の2000~20年の傾向を調べたところ、18~26歳の女性における膵がん罹患率の平均年変化率が最も高く、年に10%近く増加していた。BMC Medicine誌2024年9月4日号に掲載。 本研究では、SEER22から2000~20年のがん罹患データ(1,018万3,928例)を収集し、膵がん、胃がん、肺/気管支がん、脳/その他の神経系のがん、骨髄腫、大腸がん、悪性黒色腫、子宮頸がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、精巣がんの罹患率の平均年変化率を、性別・年代別(18~34歳、35~54歳、55歳以上)に算出した。さらに18~34歳を18~26歳および27~34歳に分けて算出した。 主な結果は以下のとおり。・すべてのがんの中で18~34歳の女性の膵がん罹患率の平均年変化率が6.22%(95%信頼区間[CI]:5.2~7.24、p<0.0001)と最も高かった。・胃がん、多発性骨髄腫、大腸がんにおいても、18~34歳の女性が最も高かった。・18~34歳の年代を18~26歳と27~34歳に分けて算出すると、18~26歳における膵がん罹患率の平均年変化率は、女性が9.37%(95%CI:7.36~11.41、p<0.0001)と、男性の4.43%(95%CI:2.36~6.53、p<0.0001)に比べて2倍以上だった。27~34歳の女性(4.46%、95%CI:3.62~5.31、p<0.0001)は男性と同様だった。 著者らは、「致死率の高いがんにおける新たなリスク集団を知ることは、早期発見と効果的な疾患管理のためにきわめて重要」としている。

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血液検査で多様な疾患の発症を予測可能か

 たった一滴の血液により何十もの疾患の発症を予測できるかもしれない。新たな研究で、血液中のタンパク質の「シグネチャー」を分析することで、血液がん、神経変性疾患、肺疾患、心不全を含む67種類の疾患を予測できる可能性が示された。英ロンドン大学クイーン・メアリー校、プレシジョンヘルスケア大学研究所のJulia Carrasco-Zanini氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に7月22日掲載された。 この研究は、UKバイオバンク製薬プロテオミクスプロジェクト(UK Biobank Pharma Proteomics Project;UKB-PPP)からランダムに選び出した4万1,931人の2,923種類に及ぶ血漿タンパク質のデータを用いたもの。Carrasco-Zanini氏らは、これらの血漿タンパク質のデータを対象者の電子カルテと関連付け、10年間での218種類の疾患の発症を予測する予測モデルを作成した。その上で、基本的な臨床情報のみを用いたモデル、あるいは基本的な臨床情報に37種類の臨床アッセイデータを組み合わせたモデルとこのモデルの疾患予測能を比較した。 その結果、5〜20種類のタンパク質のシグネチャーを含むスパースな予測モデルは、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、運動神経障害、肺線維症、拡張型心筋症など67種類の疾患の発症を、基本的な臨床情報のみを用いたモデルよりも高い精度で予測できることが明らかになった。また、このモデルは、基本的な臨床情報と37種類の臨床アッセイデータを組み合わせたモデルよりも、上述の疾患を含む52種類の疾患の予測能が優れていた。 Carrasco-Zanini氏は、「われわれのタンパク質シグネチャーのいくつかは、前立腺がんの前立腺特異抗原(PSA)のようなスクリーニング検査にすでに実用化されているタンパク質と同等か、それ以上の予測能を示した」と話す。同氏は、「それゆえ、われわれはこれらのタンパク質シグネチャーが多くの疾患の早期発見、ひいては予後の改善に役立つ可能性を大いに期待している」とロンドン大学クイーン・メアリー校のニュースリリースの中で述べている。 論文の責任著者の1人である、製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)の副社長兼ヒト遺伝学・ゲノム学部長であるRobert Scott氏は、「このような簡単な血液検査は、疾患の早期発見を改善するだけでなく、新薬の研究と開発に役立つ可能性もある。医薬品開発における重要な課題は、新薬の恩恵を最も受けそうな患者を特定することだ」と語る。また同氏は、血漿タンパク質をベースにした血液検査について、「さまざまな疾患においてリスクの高い患者を特定するのに利用でき、また、テクノロジーを利用してヒューマンバイオロジーと疾患に対する理解を深めようとするわれわれのアプローチに合致するものでもある」と述べている。 ただし研究グループは、今回の研究結果は、さまざまな民族や多様な疾患のさまざまなレベルの症状を持つ人など、異なる集団を対象に検証する必要があると述べている。

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ASCO2024 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2024の年次総会(5月31日~6月4日)は、今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年までと同様に現地参加はパスして(円安と米国のインフレ問題があり、現地参加は費用的に無理があります)、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年は14演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫関連4演題、多発性骨髄腫関連6演題、白血病/骨髄増殖性腫瘍(MPN)関連4演題を紹介します。悪性リンパ腫関連Upfront allo-HSCT after intensive chemotherapy for untreated aggressive ATL: JCOG0907, a single-arm, phase 3 trial. (Abstract #7001)本演題は日本のJCOGからの発表で、ATLに対するアップフロントの同種移植の前向き試験の成績をまとめたものである。研究開始当初は、55歳以下で骨髄破壊的前処置(MAST)を行う患者のみをエントリー基準としたが、2014年9月以降は56~65歳の患者に対し骨髄非破壊的前処置(RIST)も許容された。2010年9月~2020年6月に110例の患者(72例:急性型、27例:リンパ腫型、10例:予後不良慢性型、1例:その他)がエントリーされ、92例が移植を受けた。41例がプロトコルどおりの治療を受け、51例はプロトコル治療外での移植であった(アップフロント同種移植は76例となった)。主要評価項目の3年OS(110例)は44.0%(90%CI:36.0~51.6)であり、仮説にメットした。プロトコル治療を受けた41例のうち、治療関連死(TRD)は血縁ドナー16.7%、非血縁ドナー20.7%であった。また、死亡した70例の死亡原因は、ATL 34例、TRD 30例、その他6例であった。結論として、ATLに対するアップフロント同種移植はアグレッシブATLに対し1つの治療オプションとなりうるが、生存期間の延長に関しては不明とされた。以下の3題はマントル細胞リンパ腫(MCL)に関する演題です。MCLは、悪性リンパ腫の中では比較的まれな疾患で、中悪性度に分類されますが、インドレントな経過を示す症例もあります。また、従来の免疫化学療法だけでは治癒が難しく、最近では、分子標的薬のBTK阻害薬やBCL-2阻害薬の有用性が示されています。Benefit of rituximab maintenance after first-line bendamustine-rituximab in mantle cell lymphoma. (Abstract #7006)初発MCLに対し、BR(ベンダムスチン-リツキシマブ)療法の後のR維持療法(RM)の意義については、PFS・OSを延長しない(Rummel, et al. ASCO 2016)、PFS・OSを延長する(Martin, et al. JCO 2023)という異なるデータが示されてきた。本研究では、米国で大規模な観察研究が実施され、RMの意義が検証された。BR療法(自家移植なし)後3ヵ月時点でPRあるいはCRの患者がエントリーされ、RM実施の有無で、無イベント(再発、次治療開始、死亡)率(EFS)が比較された。さらに、次治療開始例の無イベント率(EFS2)も比較された。613例がエントリーされ、318例がRMを受け、295例がRMを受けなかった。RM群では年齢が若く(69歳vs.71歳)、男性の割合が高く(78% vs.69%)、進展期の割合が高かった(95.2% vs.89.0%)が、リスク因子(MIPI)、組織型、Ki-67、TP53変異、複雑型染色体異常、BR療法の実施年代、BR療法の効果には差を認めなかった。追跡期間中央値が61.3ヵ月の時点で、RM群で有意にEFS(47.1ヵ月vs.29.7ヵ月)、EFS2(89.1ヵ月vs.48.3ヵ月)、OS(136.1ヵ月vs.74.3ヵ月)の延長を認めた。BR療法によりCRが得られた患者においても、RMにより有意にEFS、EFS2、OSの延長が示された。以上より、初発MCLに対するBR療法後のRMの有用性が明らかとなった。Efficacy and safety of ibrutinib plus venetoclax in patients with mantle cell lymphoma (MCL) and TP53 mutations in the SYMPATICO study. (Abstract #7007)SYMPATICO試験はMCL患者に対するイブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)の効果を検証した試験であり、再発・難治(R/R)MCLに対しイブルチニブ+プラセボと比較した第III相試験では、有意にI-VのPFSがI単剤よりも延長することが報告されている(Wang M, et al. ASH 2023)。本発表では、R/R MCLに対するI-V療法の第I相試験、上記の第III相試験、また、初発MCLに対する第II相試験にエントリーされたTP53変異を有するMCL患者に対するI-V療法の効果が報告された。合計74例の患者(初発:29例、R/R:45例)が解析対象となり、年齢中央値67歳、HighリスクMIPI 43%、bulky 36%、骨髄浸潤64%、脾腫39%であった。治療期間中央値が40.1ヵ月時点で、PFS中央値20.9ヵ月、全奏効率84%、CR率57%、OS中央値47.1ヵ月であった。PFSは初発とR/Rにて差を認めなかった。I-V併用療法は、TP53変異陽性のHighリスクMCL患者にも有用であることが示された。Glofitamab monotherapy in patients with heavily pretreated relapsed/refractory (R/R) mantle cell lymphoma (MCL): Updated analysis from a phase I/II study. (Abstract #7008)CD20XCD3の二重特異性抗体であるglofitamab(Glof)単剤でのR/R MCLに対する臨床試験のフォローアップ(中央値:19.6ヵ月)のデータが報告された。Glofは固定期間(約8.5ヵ月間)の治療である。Glof治療を受けた60例のR/R MCL患者が解析された。前治療のライン数は2(1~5)、73.3%が最終治療に抵抗性、前治療にBTK阻害薬の投与を受けた31例中29例がBTK阻害薬に抵抗性であった。Glofは、中央値12サイクル投与され、全奏効率85.0%、CR率78.3%であり、CRが得られた患者の治療奏効期間(DOCR)の中央値は15.4ヵ月であった。とくに、BTK阻害薬の前治療歴のある患者の全奏効率は74.2%、CR率71.0%であり、DOCRは12.6ヵ月であった。R/R MCLの治療、とくにBTK阻害薬に抵抗性の患者に対し、Glofは有望な治療薬であることが示された。多発性骨髄腫関連今年の多発性骨髄腫(MM)の演題は、初発MMに対する4剤併用の試験の3演題とR/R MMに対するCAR-T細胞治療の3演題を紹介します。Phase 3 study results of isatuximab, bortezomib, lenalidomide, and dexamethasone (Isa-VRd) versus VRd for transplant-ineligible patients with newly diagnosed multiple myeloma (IMROZ). (Abstract #7500)移植非適応初発MM患者に対するVRd-Rd療法とIsaVRd-IsaRd療法を比較した第III相試験(IMROZ試験)の結果が報告された。80歳以上は除外され、VRd-Rd療法に181例、IsaVRd-IsaRd療法に265例が割り当てられた。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はCR率、MRD陰性率、VGPR以上率、OSであった。追跡期間中央値59.7ヵ月時点でのPFSは、54.3ヵ月vs.未達(HR:0.596)、CR率は64.1% vs.74.7%、MRD陰性CR率は40.9% vs.55.5%と、いずれもIsaVRd-IsaRd療法の有効性が優れた。Isa併用によりVRdのRDIの低下は認めず、安全性も問題とはならなかった。Phase 3 randomized study of isatuximab (Isa) plus lenalidomide and dexamethasone (Rd) with bortezomib versus IsaRd in patients with newly diagnosed transplant ineligible multiple myeloma (NDMM TI). (Abstract #7501)移植非適応初発MM患者に対するIsaRd(12サイクル)-IsaR療法とIsaVRd(12サイクル)-IsaVR(6サイクル)-IsaR療法を比較した第III相試験(BENEFIT/IFM2020-05試験)の結果が報告された。対象患者は65~79歳のnon-frail患者であった。両群135例ずつの患者が割り当てられた。主要評価項目は18ヵ月時点のMRD陰性率(NGS:10-5)であった。結果、MRD陰性率は26% vs.53%と、有意にボルテゾミブを追加した治療の効果が優れた。ただし、24ヵ月時点のPFS、OSは差を認めなかった。また、治療継続率には差を認めず安全性には問題がなかった。本研究では、主要評価項目でIsaVRd-IsaVR-IsaR療法が優れたため、対象の患者には本治療法が新たな標準療法となる可能性が示された。Daratumumab (DARA) + bortezomib/lenalidomide/dexamethasone (VRd) in transplant-eligible (TE) patients (pts) with newly diagnosed multiple myeloma (NDMM): Analysis of minimal residual disease (MRD) in the PERSEUS trial. (Abstract #7502)移植適応初発MM患者に対するDVRd療法とVRd療法、その後、DRとRによる維持療法を比較したPERSEUS試験の維持療法期のMRD陰性率についての結果が報告された。DVRd-DR群に355例、VRd-R群に354例が割り付けられた。治療開始後、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点のMRD陰性率(10-5)は、それぞれ65.1% vs.38.7%、72.1% vs.44.9%、74.6% vs.46.9%とDara併用群で有意に高い割合であり、また、経時的に陰性率の上昇を認めた。移植適応MM患者に対するDRによる維持療法の意義が示された。MRD陰性を持続できた患者のPFS、OSがどうなるか本試験の長期フォローアップの結果が注目される。Efficacy and safety of ciltacabtagene autoleucel±lenalidomide maintenance in newly diagnosed multiple myeloma with suboptimal response to frontline autologous stem cell transplant: CARTITUDE-2 cohort D. (Abstract #7505)自家移植治療(±地固め)を受けた後CRに到達しなかったMM患者を対象に、Cilta-Cel治療単独(最初の5例)とCilta-Cel治療21日以降から最長2年間レナリドミドを併用した12例の安全性、有効性が検証された。主要評価項目はMRD陰性率(10-5)であった。MRD評価が行えた15例中12例(80%)でMRD陰性が達成され、MRD陰性達成までの期間の中央値は1ヵ月であった。追跡期間の中央値が22ヵ月時点で、奏効期間の中央値は未到達、18ヵ月時点のPFSは94%(17例中16例)であった。CRSは14例でみられたが、すべてG1/2であった。ICANSは1例(G1)でみられた。また、レナリドミド併用による遷延する血球減少の有害事象の増加はみられていない。自家移植後にCRが得られない患者へのCilta-Celの投与は深い奏効が望める治療法である。Ciltacabtagene autoleucel vs standard of care in patients with functional high-risk multiple myeloma: CARTITUDE-4 subgroup analysis. (Abstract #7504)1~3ラインの前治療歴のあるR/R MM患者に対するCilta-Celと標準治療を比較したCARTITUDE-4試験に参加した患者(初期治療開始後18ヵ月以内に再発を認めたFunctional Highリスク患者を含む)の中で、セカンドラインでの治療効果を post hoc解析し、PFS、CR率、MRD陰性率を比較している。全体では、未到達vs.17ヵ月、71% vs.35%、63% vs.19%であり、Functional Highリスク患者では、未到達vs.12ヵ月、68% vs.39%、65% vs.10%であった。標準治療と比較し、Cilta-Celの有意な有効性が示された。R/R MM患者(とくにFunctional Highリスク患者)に対する早いラインでのCilta-Celの有用性が認められた。Impact of extramedullary multiple myeloma on outcomes with idecabtagene vicleucel. (Abstract #7508)髄外腫瘤(EMD)を有するMM患者に対するIde-Celの効果は不明である。Ide-Cel治療を受けた351例のR/R MM患者のうち、84例(24%)にEMDを認めた。EMD患者とEMDを有さない(Non-EMD)患者での患者背景で差を認めた因子は、年齢(62歳 vs.66歳)、PS 0-1(78% vs.89%)、ペンタドラッグ抵抗性(46% vs.32%)、リンパ球除去前の血清フェリチン値(591 vs.242)、CRP(2.1 vs.1.0)であった。治療効果は、全奏効率(@Day30)58% vs.69%(p=0.1)、全奏効率(@Day90)52% vs.82%(p<0.001)、PFS 5.3ヵ月vs.11.1ヵ月(p<0.0001)、OS 14.8ヵ月 vs.26.9ヵ月(p=0.0064)であった。また、EMD患者では、血球減少が多く認められた。EMDはIde-Cel治療の効果がNon-EMD患者と比較し、明らかに不良であることが示された。白血病/MPN関連Ponatinib (PON) in patients (pts) with chronic-phase chronic myeloid leukemia (CP-CML) and the T315I mutation (mut): 4-year results from OPTIC. (Abstract #6501)OPTIC試験の4年のフォローアップが報告された。OPTIC試験は、2剤以上のTKI治療抵抗性を有するか、T315I変異を有するCP-CML患者をポナチニブ45/30/15mgで開始し、IS-PCRが1%以下で45/30mg開始群は15mgに減量する治療法の有効性、安全性を検討した試験である。23.8%の患者がT315I変異を有していた。4年時点でのIS-PCRが1%以下率、PFS、OSを比較した。45mg→15mgの投与法で、T315I変異を有する患者で最も、IS-PCRの低下、PFSの延長がみられた。動脈閉塞の合併症率は同等であり、本試験の対象となった患者(とくにT315I変異を有する患者)に対しては、有効性、安全性の面から45mg→15mgのポナチニブの投与法が推奨される。A retrospective comparison of abbreviated course “7+7” vs standard hypomethylating agent plus venetoclax doublets in older/unfit patients with newly diagnosed acute myeloid leukemia. (Abstract #6507)メチル化阻害薬+ベネトクラクス(VEN)の併用治療は、通常の化学療法の実施が難しいfrail AML患者の標準療法となっている。VENの投与期間を28日/サイクルから短縮することで骨髄抑制は軽減されるが、有効性が失われないかどうかは不明である。VENの投与期間を7日間に短縮した7+7を実施したフランスの患者82例と通常の21~28日で投与したMDACC(USA)の患者166例をレトロスペクティブに比較した。CR+CRi率、CR率は両治療法で差を認めなかったが、CRに到達するためのサイクル数は7+7治療で、1サイクル多かった(2 vs.1サイクル)。OS中央値は11.2ヵ月 vs.10.3ヵ月、2年OSは28% vs.34%で差を認めなかった。8週時点での死亡率は6%と16%で有意に7+7で少なく、また、血小板輸血も少なかった。以上より、7+7の投与期間は、有効性、安全性の面でも十分に許容されると思われた。Updated safety and efficacy data from the phase 3 MANIFEST-2 study of pelabresib in combination with ruxolitinib for JAK inhibitor treatment-naive patients with myelofibrosis. (Abstract #6502)pelabresib(PELA)は新規のBET阻害薬であり、骨髄線維症(MF)の遺伝子発現を抑制する。MANIFEST-2試験はJAK阻害薬治療を受けたことがないMF患者に対するルキソリチニブ(Rux)+PELA(214例)とRux+プラセボ(216例)を比較した第III相比較試験である。DIPSSスコアがInt-1以上のMF患者が対象であり、主要評価項目は24週時点での脾臓体積の35%減少(SVR35)率であり、副次評価項目として症状スコア(TSS)の改善を検討している。結果、Rux+PELA群でSVR35率が65.9%(vs.35.2%)と、有意に多くの患者で脾腫の縮小が認められた。また、Rux+PELA群で、脾腫の縮小は早くみられ、その効果は長く維持された。TSSの改善も、Rux+PELA群で良い傾向が示された。また、貧血、骨髄線維化の改善がRux+PELA群で有意に多くみられた。有害事象としては、血小板減少と下痢がやや多かったが、総じてRux単独と変わりなかった。MFに対し、Rux単独と比較し、Rux+PELA併用が有効であることが示されている。ASC4FIRST, a pivotal phase 3 study of asciminib (ASC) vs investigator-selected tyrosine kinase inhibitors (IS TKIs) in newly diagnosed patients (pts) with chronic myeloid leukemia (CML): Primary results. (Abstract #LBA6500)初発CML患者に対し、既存のTKIとアシミニブ(ASC)を比較した第III相試験(ASC4FIRST試験)の最初の解析結果がLBAにて報告された。TKIの種類はランダム化前に主治医と患者の判断で選択された(IS-TKI)。また、ランダム化前に2週間以内であれば、TKIの服用が許容された。本試験の目的は、48週時点でのASC群のMMR達成率がIS-TKI群と比較して優れていることを示すことであった。ASC群に201例、IS-TKI群に204例(IM:102、第2世代[2G]:102[NI:48%、DA:41%、BO:11%])がエントリーされた。結果、48週時点のMMR達成率はASC群67.7%、IS-TKI群49.0%であり、有意にASC群で優れた。データカットオフ時点での治療薬の継続率は、ASC群86%、IM群62%、2G群75%であり、中止理由として、効果不十分が6%、21%、10%、有害事象が5%、11%、10%であった。以上の結果より、ASCは既存のTKIと比較し、初発CML患者に対する有効性、安全性に優れていることが示された。おわりに以上、ASCO2024で発表された血液腫瘍領域の演題の中から14演題を紹介しました。過去3年間のASCO2021、2022、2023では10演題ずつを紹介しましたが、今年発表された演題もこれまでと同様に、今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2025にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、さらに円安が続く今日この頃[笑])。

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再発難治性多発性骨髄腫、belantamab mafodotin上乗せの有用性/NEJM

 レナリドミド治療歴のある再発または難治性の多発性骨髄腫患者において、belantamab mafodotin+ポマリドミド+デキサメタゾン(BPd)併用療法はポマリドミド+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(PVd)併用療法と比較し、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善と、より深く持続的な奏効が得られることが示された。眼関連有害事象の発現率は高かったが、belantamab mafodotinの用量変更によって管理可能であった。ギリシャ・アテネ大学のMeletios Athanasios Dimopoulos氏らDREAMM-8 Investigatorsが、18ヵ国95施設で実施された無作為化非盲検第III相試験「DREAMM-8試験」の結果を報告した。プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体を組み合わせた3剤または4剤併用療法により、未治療多発性骨髄腫患者の生存期間は延長したが、初回治療におけるレナリドミドの使用により初回再発時にレナリドミド耐性患者が増加していた。NEJM誌オンライン版2024年6月2日号掲載の報告。主要評価項目はPFS 研究グループは、レナリドミドを含む少なくとも1種類以上の治療歴があり、直近の治療中または治療後に病勢進行が確認された再発または難治性の多発性骨髄腫患者を、BPd併用療法群およびPVd併用療法群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 BPd併用療法群では28日間を1サイクルとしてポマリドミドおよびデキサメタゾンとの併用で、belantamab mafodotinをサイクル1のDay1に2.5mg/kgを、サイクル2以降は各サイクルのDay1に1.9 mg/kgを静脈内投与した。PVd併用療法群では21日間を1サイクルとしてポマリドミドおよびデキサメタゾンとの併用で、ボルテゾミブ1.3mg/m2をサイクル1~8はDay1、Day4、Day8、Day11に、サイクル9以降はDay1およびDay8に皮下投与した。 主要評価項目はPFSで、無作為化した日からInternational Myeloma Working Group 2016に基づく独立評価委員会による評価で、最初に病勢の進行が確認された日または全死因死亡までの期間と定義した。重要な副次評価項目は全生存期間(OS)、微小残存病変(MRD)陰性率、奏効期間、その他の副次評価項目は患者報告の健康関連QOL、安全性などであった。12ヵ月PFS推定率BPd併用療法群71% vs.PVd併用療法群51% 2020年10月~2022年12月に302例が無作為に割り付けられた(BPd併用療法群155例、PVd併用療法群147例)。 追跡期間中央値21.8ヵ月(範囲:<0.1~39.2)において、BPd併用療法群はPVd併用療法群と比較しPFSの有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.37~0.73、両側p<0.001)。PFS中央値はBPd併用療法群では未到達、PVd併用療法群では12.7ヵ月(95%CI:9.1~18.5)であり、12ヵ月PFS率推定値はBPd併用療法群71%(95%CI:63~78)、PVd併用療法群51%(42~60)であった。 OSのデータは未成熟であった。全奏効率(部分奏効[PR]以上)はBPd併用療法群77%(95%CI:70~84)、PVd併用療法群72%(64~79)であり、完全奏効(CR)以上はそれぞれ40%(95%CI:32~48)、16%(11~23)で認められた。CR以上の患者におけるMRD陰性化率はBPd併用療法群24%(95%CI:17~31)に対し、PVd併用療法群は5%(95%CI:2~10)であった。 Grade3以上の有害事象はBPd併用療法群94%、PVd併用療法群76%に発現した。眼関連有害事象の発現率はそれぞれ89%(Grade3/4は43%)、30%(同2%)であった。BPd併用療法群の眼関連有害事象はbelantamab mafodotinの用量変更により管理可能であったが、9%の患者が眼関連有害事象により治療を中止した。

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再発難治多発性骨髄腫のBVd療法、DVd療法より有意にPFS延長/NEJM

 少なくとも1レジメン以上の治療歴のある再発または難治性の多発性骨髄腫(RRMM)の患者において、belantamab mafodotin+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(BVd)併用療法はダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(DVd)併用療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)に関して有意なベネフィットをもたらすことが示された。一方で、BVd併用療法群のほとんどの患者(95%)でGrade3以上の有害事象が認められた。ブラジル・Clinica Sao GermanoのVania Hungria氏らDREAMM-7 Investigatorsが「DREAMM-7試験」の結果を報告した。多様な抗腫瘍活性機序を有するB細胞成熟抗原(BCMA)標的抗体薬物複合体であるbelantamab mafodotinは、RRMM患者に対して単剤療法での有効性が示され、その知見に基づき標準治療と併用した場合のさらなる評価が検討された。NEJM誌オンライン版2024年6月1日号掲載の報告。主要評価項目はPFS、追跡期間中央値28.2ヵ月時点で36.6ヵ月vs.13.4ヵ月 DREAMM-7試験は、BVd併用療法の有効性と安全性をDVd併用療法との直接比較で評価した第III相国際非盲検無作為化試験。少なくとも1レジメン以上の治療後に病勢が進行した多発性骨髄腫患者を対象とした。 主要評価項目はPFSとし、重要な副次評価項目は全生存率(OS)、奏効期間、微小残存病変(MRD)陰性化であった。 2020年5月7日~2021年6月28日に、計494例がBVd併用療法群(243例)またはDVd併用療法群(251例)に無作為化された。 追跡期間中央値28.2ヵ月(範囲:0.1~40.0)において、PFS中央値はBVd併用療法群36.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:28.4~NR)、DVd併用療法群13.4ヵ月(11.1~17.5)であった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.31~0.53、p<0.001)。 18ヵ月時点のOSは、BVd併用療法群84%、DVd併用療法群73%。データカットオフ時点でOSに関する結果は有意基準を満たしておらず、フォローアップが続けられている。CR以上+MRD陰性化の達成患者、25% vs.10% 治療効果(部分奏効[PR]以上)が認められた患者は、BVd併用療法群83%(95%CI:77~87)、DVd併用療法群71%(65~77)であった。より深い奏効(完全奏効[CR]以上)が得られた患者はBVd併用療法群(35%)がDVd併用療法群(17%)より多かった。またCR以上+MRD陰性化が得られた患者は、BVd併用療法群25%、DVd併用療法群10%で確認された。 奏効期間の中央値はBVd併用療法群35.6ヵ月(95%CI:30.5~NR)、DVd併用療法群17.8ヵ月(13.8~23.6)。中間解析時点でBVd併用療法群の半数以上が継続中であり、奏効期間の中央値に関するデータは未成熟であった。境界内平均奏効期間の解析では、BVd併用療法がDVd併用療法よりも優れることが確認された(p<0.001)。 全患者に少なくとも1つ以上の有害事象が発現し、Grade3以上の有害事象の発現率はBVd併用療法群95%、DVd併用療法群で78%であった。また、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ50%、37%であった。 belantamab mafodotinには眼毒性作用があることが知られており、BVd併用療法群のほうがDVd併用療法群よりも眼イベントが多くみられた(全Gradeのイベント:79% vs.29%、Grade3/4のイベント34% vs.3%)。BVd併用療法群の主なGrade3/4の眼イベントは霧視、ドライアイ、白内障であった。これらの発現イベントは用量変更によって管理され、視力悪化のイベントは大部分が回復した。 これらの結果を踏まえて著者は、「BVd併用療法を受けた患者の50%で重篤な有害事象が認められたが、PFSに関する結果と照らし合わせるとBVd併用療法のより深く持続的な効果は、初回再発時または再発後の多発性骨髄腫の患者にとって治療選択肢となりうることを支持するものである」とまとめている。

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イサツキシマブ+VRd、移植非適応多発性骨髄腫の1次治療に有効/NEJM

 移植が非適応の多発性骨髄腫患者の1次治療において、標準治療であるボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメサゾン(VRd)と比較して抗CD38モノクローナル抗体イサツキシマブ+VRdは、60ヵ月の時点での無増悪生存(PFS)を有意に改善し、イサツキシマブを加えても新たな安全性シグナルの発現は観察されないことが、フランス・リール大学のThierry Facon氏らIMROZ Study Groupが実施した「IMROZ試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月3日号で報告された。標準治療への上乗せ効果を評価する無作為化第III相試験 IMROZ試験は、日本を含む21ヵ国93施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年3月に参加者を募集した(Sanofiなどの助成を受けた)。 年齢18~80歳、新規に診断された未治療の多発性骨髄腫で、移植の適応がない患者446例を登録し、イサツキシマブ+VRd群に265例(年齢中央値72歳[範囲:60~80]、女性46.0%)、VRd単独群に181例(72歳[55~80]、48.1%)を登録した。イサツキシマブは、1サイクル目に10mg/kg体重を週1回、その後は同量を2週ごとに静脈内投与した。 有効性の主要評価項目は、独立審査委員会の評価によるPFS(無作為化から病勢進行または死亡までのtime-to-event解析)とした。CR以上の割合、CR達成例のMRD陰性も良好 全患者の16.6%に高リスクの細胞遺伝学的特性を、37.0%に染色体異常として1q21+を認め、28.7%が推算糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分/1.73m2であった。 追跡期間中央値59.7ヵ月の時点における60ヵ月推定PFS率は、VRd単独群が45.2%であったのに対し、イサツキシマブ+VRd群は63.2%と有意に優れた(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.60、98.5%信頼区間[CI]:0.41~0.88、p<0.001)。 全奏効(部分奏効以上)の割合は両群とも高かったが(イサツキシマブ+VRd群91.3% vs.VRd単独群92.3%)、完全奏効(CR)以上(CRまたは厳密なCR[stringent CR])の割合はイサツキシマブ+VRd群で有意に良好であった(74.7% vs.64.1%、p=0.01)。 また、CR達成例における微小残存病変(MRD)陰性の割合は、イサツキシマブ+VRd群で有意に優れた(55.5% vs.40.9%、p=0.003)。全体のMRD陰性割合(58.1% vs.43.6%)および12ヵ月以上持続するMRD陰性割合(46.8% vs.24.3%)ともイサツキシマブ+VRd群で高かった。OSは追跡を継続中 60ヵ月時の推定全生存率(OS)は、イサツキシマブ+VRd群が72.3%、VRd単独群は66.3%であり(死亡のHR:0.78、99.97%CI:0.41~1.48)、CIの上限値が事前に規定された無益性の閾値(1.1)を超えており、現在も追跡を継続している。 一方、イサツキシマブ+VRd群では、新たな安全性シグナルの発現を認めなかった。投与期間中に発現した重篤な有害事象(70.7% vs.67.4%)、および試験薬の投与中止の原因となった有害事象(22.8% vs.26.0%)の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「この第III相試験では、移植非適応の多発性骨髄腫の1次治療において、標準的なVRd療法に比べ、イサツキシマブ+VRdはPFSについて優れた有益性を示すとともに深い奏効をもたらした」とまとめ、「本試験では、高リスクの細胞遺伝学的特性を有する患者におけるイサツキシマブ+VRdによるPFSの改善は確認できなかったが、他の複数の試験でこれらの患者に対する1次治療および再発病変の治療におけるイサツキシマブをベースとする併用療法の有益性が観察されたことを踏まえ、さらなる解析と長期の追跡が正当化される」としている。

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血液がん患者のICU退室後1年の生存率は21%

 集中治療室(ICU)に入室した血液がん(HM)患者の7日生存率は49%、12カ月生存率は21%であるという研究結果が、「Intensive Care Medicine」に3月11日掲載された。 トロント大学マウントサイナイ病院(カナダ)のLaveena Munshi氏らは、2018~2020年にICUに入室したHM患者を対象に、前向き観察研究を実施した。生存者は長期生存と機能的転帰について追跡された。 患者414人が登録され、そのうち急性白血病患者が51%、リンパ腫・多発性骨髄腫患者が38%、造血幹細胞移植(HCT)を受けた患者は40%であった。解析の結果、ICU入室の最も一般的な理由は、急性呼吸不全と敗血症であった(それぞれ50%、40%)。退室後7日時点に生存していた対象者(ICU生存者)は、49%であった。コホート全体の12カ月生存率は21%であった(ICU生存者では43%)。生存者のうち、中等度から重度のフレイルの有病率は、7日時点で42%、6カ月時点で14%、12カ月時点で8%であった。機能的自立指標の中央値は7日目で80であった。6カ月時点および12カ月時点の身体機能、疼痛、社会機能、メンタルヘルス、精神的ウェルビーイングは、年齢および性別でマッチさせた一般集団のスコアを下回っていた。12カ月生存率の低下は、フレイル、同種HCT、腎障害、ICU入室中の心臓合併症と関連していた。 著者らは、「重症疾患とがんの複雑な相互作用を鑑みると、重症疾患がHM/HCT患者の長期生存に影響を及ぼす可能性があることが示された」と述べている。

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国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査を申請/大塚

 大塚製薬、国立がん研究センター、九州大学、京都大学、名古屋医療センター、東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター、慶應義塾大学医学部は2024年3月29日、共同で設計・開発してきた造血器腫瘍遺伝子パネル検査について、国内での製造販売承認申請を行ったと発表した。 がん遺伝子パネル検査は数種類の製品が固形腫瘍に保険適用されているが、造血器腫瘍では同様の製品はない。そのため、造血器腫瘍では保険診療下のゲノム医療が行われていない。 上記の共同研究コンソーシアムは、造血器腫瘍の保険診療下でのゲノム医療を実現するため、造血器腫瘍ゲノム検査ガイドラインに基づいた網羅的な遺伝子パネル検査の開発に取り組んできた。造血器腫瘍に関連する遺伝子異常を検出することにより、骨髄系腫瘍からリンパ系腫瘍までほとんどの造血器腫瘍に対して、診断、治療法選択、予後予測が可能になると期待される。 承認されれば、同製品は国内初の造血器腫瘍を対象としたがん遺伝子パネル検査となる予定だ。

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抗BCMA/CD3二重特異性抗体エルラナタマブ、再発・難治多発性骨髄腫に承認/ファイザー

 ファイザーは2024年3月26日、抗BCMA/CD3二重特異性抗体エルラナタマブ(商品名:エルレフィオ)について、「再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」に対する治療薬として、国内における製造販売承認を取得した。今回の承認は、国際共同第II相試験(MagnetisMM-3試験)および国内第I相試験(MagnetisMM-2試験)の結果等に基づくもの。 再発・難治多発性骨髄腫に対する治療では、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬および抗CD38モノクローナル抗体の3クラスの薬剤がキードラッグとして用いられる。これらの薬剤に耐性を示す患者の多くはその後治療で十分な効果が期待できず、また標準薬物治療もなかった。 MagnetisMM-3試験は再発・難治多発性骨髄腫を対象に、同剤単剤投与の有効性および安全性を評価する第II相非盲検単群多施設共同試験である。同試験は免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬および抗CD38モノクローナル抗体それぞれ少なくとも1剤に抵抗性を示す多発性骨髄腫患者を対象とし、BCMAを標的とした治療歴のない患者をコホートA(123例)、BCMAを標的とした治療歴のある患者をコホートB(64例)として評価した。主要評価項目の奏効率について、コホートAおよびコホートBで臨床的に意義のある結果が認められた。主な有害事象はサイトカイン放出症候群、貧血、好中球減少症、下痢、血小板減少症、疲労、食欲減退、リンパ球減少症、注射部位反応、発熱、悪心および低カリウム血症であった。

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