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老人保健施設内の転倒事故

内科最終判決平成15年6月3日 福島地方裁判所 判決概要老人保健施設入所中の95歳女性、介護保険では要介護2と判定されていた。独歩可能で日中はトイレで用を足していたが、夜間はポータブルトイレを使用。事故当日、自室ポータブルトイレの排泄物をナースセンター裏のトイレに捨てにいこうとして、汚物処理場の仕切りに足を引っかけて転倒した。右大腿骨頸部骨折を受傷し、手術が行われたが、転倒したのは施設側の責任だということで裁判となった。詳細な経過患者情報明治38年生まれ、満95歳の女性。介護保険で要介護2の認定を受けていた経過平成12年10月27日老人保健施設に入所。入所動機は、主介護者の次女が入院することで介護者不在となったためであった。■入所時の評価総合的な援助の方針定期的な健康チェックを行い、転倒など事故に注意しながら在宅復帰へ向けてADLの維持・向上を図る。骨粗鬆症あり、下半身の強化に努め転倒にも注意が必要である。排泄に関するケア日中はトイレにいくが夜間はポータブルトイレ使用。介護マニュアルポータブルトイレ清掃は朝5:00と夕方4:00の1日2回行う。ポータブルトイレが清掃されていない場合には、患者はトイレに自分で排泄物を捨てにいったが、容器を洗う場所はなかったので排泄物の処理と容器の洗浄のために、ときおり処理場を利用していた。どうにか自分で捨てにいくことができたので、介護職員に頼むことは遠慮して、自分で捨てていた。1月8日05:00ポータブルトイレの処理状況「処理」17:00ポータブルトイレの処理状況「処理していない」夕食を済ませ自室に戻ったが、ポータブルトイレの排泄物が清掃されておらず、夜間もそのまま使用することを不快に感じ自分で処理場に運ぼうとした。18:00ポータブルトイレ排泄物容器を持ち、シルバーカー(老人カー)につかまりながら廊下を歩いてナースセンター裏のトイレにいき(約20m)、トイレに排泄物を捨てて容器を洗おうと隣の処理場に入ろうとした。ところが、その出入口に設置してあるコンクリート製凸状仕切り(高さ87mm、幅95mm:汚物が流れ出ないようにしたもの)に足を引っかけ転倒した。職員が駆け寄ると「今まで転んだことなんかなかったのに」と悔しそうにいった。そのまま救急車で整形外科に入院し、右大腿骨頸部骨折と診断された。平成13年1月12日観血的整復固定術施行。3月16日退院。事故の結果、創痕、右下肢筋力低下(軽度)の後遺症が残り、1人で歩くことが不自由となった。3月7日要介護3の認定。誠意の感じられない施設側に対し、患者側が損害賠償の提訴に踏み切る(なお事故直後の平成13年1月20日、仕切りの凸部分を取り除くための改造工事が施工された)。当事者の主張入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張施設側は介護ケアーサービスとして入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務があったのに怠り、患者自らが捨てにいくことを余儀なくされて事故が発生した。これは移動介助義務、および入所者の安全性を確保することに配慮すべき義務を果たさなかったためである。病院側(被告)の主張足下のおぼつかないような要介護者に対しては、ポータブルトイレの汚物処理は介護職員に任せ、自ら行わないように指導していた。仮にポータブルトイレの清掃が行われなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。ところが事故発生日に患者が介護職員にポータブルトイレの清掃を頼んだ事実はない。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と事故との間に因果関係は認められない。工作物の設置・保存の瑕疵患者側(原告)の主張老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人の入所施設であるという特質上、入所者の移動などに際して身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が求められている。処理場の出入口には仕切りが存在し、下肢機能が低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる形状の設備であり「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当する。病院側(被告)の主張処理場内の仕切りは、汚水などが処理場外に流出しないことを目的とするもので、構造上は問題はなく、入所者・要介護者が出入りすることは想定されていない。したがって、工作物の設置または保存の瑕疵に該当しない。入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張ポータブルトイレの清掃を他人に頼むのは、患者が遠慮しがちな事項であり、職員に頼まずに自分で清掃しようとしたからといって、入所者に不注意があったとはいえいない。病院側(被告)の主張高齢であるとはいえ判断力には問題なかったから、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。そのように指導されていたにもかかわらず、自ら処理しようとした行動には患者本人の過失がある。裁判所の判断記録によれば、ポータブルトイレの清掃状況は、外泊期間を除いた29日間(処理すべき回数53回)のうち、ポータブルトイレの尿を清掃した「処理」23回トイレの中をみた「確認」15回声をかけたが大丈夫といわれた「声かけ」が2回「処理なし」3回「不明」10回とあるように、必ずしも介護マニュアルに沿って実施されていたわけではない。しかも、実施したのかどうか記録すら残していないこともある。居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれをトイレまで運んで処理・清掃したいと考えるのは当然である。施設側は「ポータブルトイレの清掃がなされていなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである」と主張するが、上記のようにポータブルトイレの清掃に関する介護マニュアルが遵守されていなかった状況では、患者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、施設職員がただちにかつ快くその求めに応じて処理していたかどうかは疑問である。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃をマニュアルどおり定時に行うべき義務に違反したことによって発生した転倒事故といえる。また、老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人が入所するのだから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用などに際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造がとくに求められる。ところが、入所者が出入りすることがある処理場の出入口に仕切りが存在すると、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる可能性があり、「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当するので、施設側の賠償責任は免れない。原告側合計1,055万円の請求に対し、合計537万円の判決考察このような判決をみると、ますます欧米並みの「契約社会」を意識しなければ、医療従事者は不毛な医事紛争に巻き込まれる可能性が高いことを痛感させられます。今回は、95歳という高齢ではあったものの、独歩可能で痴呆はなく、判断力にも問題はなかった高齢者の転倒事故です。日中はトイレまで出かけて用を足していましたが、夜は心配なのでベッド脇に置いたポータブルトイレを使用していました。当初の介護プランでは、1日2回ポータブルトイレを介護職員が掃除することにしました。ところが律儀な患者さんであったのか、排泄物をどうにか自分でトイレに捨てにいくことができたので、施設職員に頼むことは遠慮して、時折自分で捨てていたということです。そのような光景をみれば誰しもが、「ポータブルトイレの汚物をトイレまで捨てにいくことができるのなら、リハビリにもなるし、様子を見ましょう」と考えるのではないでしょうか。そのため、最初に定めたマニュアル(1日2回ポータブルトイレの確認・処理)の遵守が若干おろそかになったと思われます。ところが、ひとたび施設内で傷害事故が発生すると、どのようなマニュアルをもとに患者管理を行っていたのか必ずチェックされることになります。本件では「ポータブルトイレ清掃は朝5:00夕方4:00の1日2回行う」という介護マニュアルが、実態とはかけ離れていたにもかかわらず、変更されることなく維持されたために、施設側が賠償責任を負う結果となりました。したがって、はじめに定めた看護計画や介護計画については、はたして実態に即しているのかどうか、定期的にチェックを入れることがきわめて重要だと思います。もし本件でも、本人や家族とポータブルトイレの汚物処理について話し合いがもたれ、時折自分で処理をすることも容認するといったような合意があれば、このような一方的な判断にはならずにすんだ可能性があります。次に重要なのが、一見転倒の心配などまったく見受けられない患者であっても、不慮の転倒事故はいつ発生してもおかしくないという認識を常に持つことです。ほかの裁判例でもそうですが、病院あるいは老人施設には、通常の施設とは異なる「高度の安全配慮義務」が課せられていると裁判所は考えます。そのため、自宅で高齢者が転倒したら「仕方がない事故」ですが、病院あるいは老人施設では「一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度な注意義務が課せられている」と判断されます。つまり、わずかな段差や滑りやすい床面などがあれば、転倒は「予見可能」であり、スタッフが気づかずに何も手を打たないと「結果回避義務をつくさなかった」ことで、病院・施設側の管理責任を必ず問われることになります。高齢になればなるほど、身体的な問題などから転倒・転落の危険性が高くなりますが、24時間付きっきりの監視を続けることは不可能ですから、あらかじめリスクの高いところへは、患者さんができる限り足を踏み入れないようにしなければなりません。たとえば、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。内科

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4年に1回は多すぎる、高齢者の骨密度測定/JAMA

 骨粗鬆症未治療の平均75歳高齢者の男女において、骨密度測定による将来的な骨折リスク(股関節または主要な骨粗鬆症性骨折)の予測能は、4年間隔での2回測定では意味ある改善は得られないことが判明した。米国・Hebrew SeniorLifeのSarah D. Berry氏らが、フラミンガム骨粗鬆症研究の被験者およそ800例について行ったコホート試験の結果、明らかにした。高齢者に対する、骨粗鬆症スクリーニングとして骨密度測定は推奨されているものの、反復測定の有効性については不明だった。JAMA誌2013年9月25日号掲載の報告より。骨密度を2回測定、約10年追跡 研究グループは、フラミンガム骨粗鬆症研究の被験者、男性310例、女性492例を対象にコホート試験を行った。被験者は、1987~1999年にかけて、大腿骨頸部骨密度を2回測定されていた(測定間隔の平均値:3.7年)。 追跡は2009年まで、または2回目骨密度測定から12年後まで行い、主要アウトカムは、股関節または主要な骨粗鬆症性の骨折だった。 被験者の平均年齢は74.8歳、骨密度の年平均変化量は-0.6%(標準偏差:1.8)。追跡期間の中央値は9.6年だった。骨密度2回目の測定値を入れても、予測モデルAUCはほとんど変わらず 追跡期間中に股関節骨折を発症したのは76例、主要な骨粗鬆症性骨折は113例だった。 年間骨密度の減少は骨折リスクの増大に関与しており、標準偏差分減少による股関節骨折のハザード比は、ベースライン時骨密度を補正後、1.43(95%信頼区間[CI]:1.16~1.78)で、主要な骨粗鬆症性骨折については同1.21(同:1.01~1.45)だった。 受信者動作特性曲線(ROC)分析では、ベースライン時の骨密度測定値に2回目の同測定値を追加しても、予測能について意味ある増大はみられなかった。ベースライン時の骨密度による予測モデルの曲線下面積(AUC)は、0.71(同:0.65~0.78)であり、骨密度のベースラインからのパーセント変化による予測モデルの同値も0.68(同:0.62~0.75)だった。 また、ベースライン時骨密度モデルに、2回目の測定値を元にした骨密度変化を追加したモデルでも、AUCは0.72(同:0.66~0.79)と、予測能はあまり変わらなかった。 ネット再分類指数を用いた場合、2回目の骨密度測定により股関節骨折者の分類割合は3.9%(95%CI:-2.2~9.9%)増大した一方で、低リスクと分類される人の割合は-2.2%(同:-4.5~0.1%)の減少だった。 結果を踏まえて著者は、「骨折リスクを改善しようと4年以内に骨密度を再測定し分類することは、この年齢の未治療骨粗鬆症患者には必要ないようだ」と結論している。

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シンポジウム「最小侵襲脊椎安定術MISt」第20回記念 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会より

2013年9月6~8日、名古屋市にて第20回記念 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会が行われた。学会中、今大会の会長である名古屋第二赤十字病院 整形外科・脊椎脊髄外科の佐藤公治氏が企画したシンポジウム「最小侵襲脊椎安定術MISt」が開催された(座長:慶応大学 石井賢氏、関西医科大学 齋藤貴徳氏)。シンポジウムでは世界のオピニオンリーダー10名による講演が行われ、 平日にも関わらず450名を超える参加者が日本およびアジアから集まり、 MIStについての熱い議論が交わされた。 ※最小侵襲脊椎安定術(MISt:Minimally Invasive Spine Stabilization)とは、低侵襲に脊椎固定するだけでなく制動や安定化も含めた手技の総称です。Limitation of MIS in Complex Deformity and Revision SurgeryJeffery S. Roh氏(Division of Proliance Surgeon, ProOrtho, Seattle Minimally Invasive Spine Center)The use of Minimally Stabilization(MISt) in Management of Advanced Metastatic Spinal DiseaseMun Keong Kwan氏(Department of Orthopaedic Surgery, Faculty of Medicine, University of Malaya)MIS-PLIFのアプローチによる低侵襲性向上の限界有薗 剛氏(公立学校共済組合九州中央病院 整形外科)腰椎変性側弯症に対する多椎間MIS-TLIF中野 恵介氏(高岡整志会病院 整形外科)転移性脊椎腫瘍に対する低侵襲脊椎安定術(MISt)の応用中西 一夫氏(川崎医科大学 脊椎・災害整形外科)骨粗鬆症椎体骨折に対する骨切りを併用したMIStによる治療経験富田 卓氏(青森市民病院 整形外科)PLIFに併用したCBTScrewの工夫~術後1年の短期成績より~大和田 哲雄氏(関西労災病院 整形外科)内視鏡支援下のXLIF手術稲葉 弘彦氏(岩井整形外科内科病院 整形外科)経皮的頚椎椎弓根スクリューを用いた低侵襲頚椎後方固定の工夫と限界染谷 幸男氏(国保小見川総合病院 整形外科・脊椎脊髄センター)化膿性脊椎炎に対する経皮的挿入椎弓根スクリューを用いた固定術の有用性男澤 朝行氏(帝京大学ちば総合医療センター 整形外科)総合討論※ 所属・施設等は、制作当時のものです。

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院内の転倒事故で工作物責任を問われたケース

リハビリテーション科最終判決判例時報 1736号113-118頁概要脳内出血後に生じた右不全片麻痺に対し入院リハビリテーションを行っていた71歳女性。病院内の廊下を歩行していたところ、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者と接触、その場に転倒し、右大腿骨頸部骨折を受傷した。患者側は、防火扉の設置保存に瑕疵があったために負傷したとして、病院に損害賠償を請求してきた。詳細な経過患者情報脳内出血による左不全片麻痺を発症し、急性期治療を他院で受けた71歳女性経過1996年11月5日リハビリテーション目的で某病院に入院となる。ADL(日常生活動作)については、T字杖を用いて200m程度歩行可能。手摺を使えば階段昇降も可能、ベッド上からの起き上がり、車椅子からベッドへの乗り移り、更衣、食事、排泄、入浴も一人で行うことができた。12月6日病院の廊下を歩行中、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者に接触、その場に転倒するという事故が発生した。X線写真で右大腿骨頸部骨折と診断され、人工骨頭置換手術が行われた。術後もリハビリテーションを続けたが、T字杖ではなく、もっぱら4点杖を使用して50m程度しか歩行できなくなり、転倒への恐怖心や病院への不信感などから、リハビリテーションに対しては消極的となった。それ以外のADLでは、入浴の際、膝から下を洗うことが困難となった以外には目立った変化はみられなかった。その他、右臀部痛がひどく、ベッドから起き上がる際には介助が必要となった。もともと患者は一人暮らしを希望していたが、介助が必要になったため娘との同居を余儀なくされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.防火扉の設置保存の瑕疵により発生した傷害事故であるため、病院側は工作物責任を負うべきである2.もともと労災等級で第3級に相当する状態であったところへ、人工骨頭置換術により下肢の三大関節の用廃第8級が追加されたため、両者を併合して第1級の後遺障害である病院側(被告)の主張1.子供が触れた防火扉を避けきれずに転倒したのは、脳内出血による右片麻痺が寄与していたし、転倒して骨折したことには重度の骨粗鬆症が寄与しているため、7割の過失相殺がある2.後遺障害の等級は事故前後ともに第3級相当である裁判所の判断1.病院内は高齢者や身体に疾患を有するものが多数往来しているため、今回のような事故を回避するために、一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている。したがって、本件は病院内工作物の設置保存の瑕疵により生じた事故である2.患者は現在一人で生活をおくることはきわめて困難であり、随時介護を要する状態にあるので、後遺障害は第2級に該当する3.患者の年齢、骨折の際の肉体的苦痛、リハビリテーションの負担などは原告にとって相当程度のものであったことを斟酌すると、後遺障害の等級を減じる要素や過失相殺の要因とはならない原告側2,590万円の請求に対し、2,010万円の支払命令考察このような事件は、患者さんにしてみればとても不幸なことですが、病院側に「全面的な責任あり」という判決が下っても、もなかなか容易には受け入れ難いように思います。そもそも、病院を建設する時には消防法にしたがって適切な場所に防火扉を設置する義務があるわけですし、その防火扉を病院職員が誤って閉じたのならまだしも、面会に来ていた子供がいたずらして閉じてしまったのですから、「そこまで責任を負わなければならないのか」、という感想をもちます。なかには、子供の保護者に責任をとってもらうべきだというようなご意見もあるでしょう。ただし、このような事件が実際にあるということは、われわれ医療従事者にとっては病院内の設備を見直すときのとてもよい教訓となりますので、今後同じような紛争が起きないように配慮を行うことが肝心だと思います。まず第一に、将来的には欧米並の訴訟社会に移行することを念頭において、病院内の設備にはリスクがないかどうか、細心の注意を払って見直す必要があります。少々極端な話にも聞こえますが、「病院内で滑って転んだのは掃除の時に水をこぼしたのが悪い」ですとか、「玄関の自動ドアに手を挟まれたのは病院の責任だ」、「職員が非常口のドアを反対側から突然開けたので転倒した」などなど、例を挙げればきりがないと思います。今回の事件では防火扉が予期せぬところで閉じてしまったために、たまたま居合わせた患者が負傷するという事故が発生しました。そのような場合には、「病院は一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている」と判断されますので、あらかじめリスクの高いところへは患者さんがいかないようにしなければなりません。すなわち、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。また、普段病院に常駐しているスタッフにとっては、いつもと違った角度で施設内のリスクを見直すにはどうしても限界があると思いますので、定期的に外部の人間にチェックしてもらうなどの方策を講じるのがよいと思います。なお今回と同様の事故として、高齢の入院患者が窓際に設置されたベッドから窓の外に転落し死亡したケースに対し、病院側の工作物責任を認めたもの(判例タイムズ 881号183頁)、見舞いに来た幼児が窓際に設置したベッドから窓の外に転落した事故(判例時報 693号72頁)などがあります。次に、不幸にして院内で転倒そのほかの事故が発生してしまい、結果的に患者さんへの不利益が生じた場合には、スタッフ全員ができる限り誠意のこもった対応をするよう心がける必要があります。今回の事件でも、病院側は「やむを得なかった」という弁解をくり返し、自らの責任を認めようとしなかったため、患者側は著しい不信感を抱き、かえって話がこじれてしまいました(もし当初からきちんと話し合いをしたうえで、できる限り力になりましょうという態度をとっていれば、訴外で解決できた可能性も十分にあると思います。もちろん、その場合にも損害保険会社の施設賠責保険が使用可能です)。では具体的にどのようにすればよいのか、という点に明快な回答を用意するのは難しいのですが、少なくとも病院内で発生した外傷事故、あるいは結果的に患者さんにとっての不利益が院内で生じた場合には、病院側にも責任の一端があるという態度で臨むべきではないかと思います。その際の責任範囲をどこまで設定するのかということについては、さまざまな考え方があるかと思いますので、必ず院内の安全管理委員会で検討するとともに、弁護士をはじめとする外部の顧問にアドバイスを求めるのがよいと思います。リハビリテーション科

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エキスパートQ&A

プライマリ・ケア医はどの範囲まで、がん患者さんを診るべきなのでしょうか?プライマリ・ケア医の定義がなかなか難しいところですが、地域の開業医の先生方であれ病院勤務の一般内科の先生方であれ、がん患者さんを診るべきだと思います。サブスペシャリティががんとは無関係の領域(循環器、神経、内分泌、腎臓、膠原病、感染症など)であったとしても同じことです。理由は単純です。患者さんは多いのに診る医者が少ないからです。がんは日本人の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるという非常にコモンな病気です。がん患者の診療において、専門医数(全国でがん薬物療法専門医<1000人、緩和医療専門医<100人)が少ないなどインフラの問題もありますが、一番大きい問題は患者さん側と医師側が日本のがん医療や一般診療に対してそれぞれが持つ固定観念だと思います。患者さん側は「大きな病院で専門医の先生にずっと診てもらわないと心配だ」、医師側は「がん診療は高度に専門化していて難しい。患者や家族の対応にもストレスを感じることが多い。治らずに亡くなっていく患者を診るのもつらいし、しんどい」といった気持ちがお互いにあるのではないでしょうか。これを少しずつでも変えていかないことには、がん対策基本法の理念である「すべてのがん患者さんに等しく適切な医療を提供する」を実現することは困難だと思います。がん診療はやりがいがあります。患者さんにとって一度は死を意識せざるを得ない疾患ですから、その患者さんや家族との対応の中で自分なりのさまざまな思索を巡らすことになります。また、自分や家族も将来罹患する可能性が高い疾患を目の前の患者さんを通じて経験し、人間の永遠のテーマである「生と死」について深く考えることができるのです。プライマリ・ケア医にできる身体的なケアにはどのようなものがあるでしょうか?がん患者さんの何を診るかについては議論のあるところですが、患者さんのQOL維持・向上のため少なくとも支持療法(緩和医療)についてはカバーすべきと考えています。支持療法の範囲は広く、緊急事態(オンコロジック・エマージェンシー)への対応、疼痛を含む症状コントロール、がん治療による有害事象対策、栄養療法、リハビリ、無再発患者の定期的フォロー(再発の有無、二次がんのチェック、骨粗鬆症、不妊、一般内科的マネジメント)などプライマリ・ケア医であればある程度対応可能な分野と考えています。抗がん薬治療はご自身のサブスペシャリティと、置かれている環境(開業医か病院勤務医か、地方か都市部か)で異なると思いますが、開業医の先生方が抗がん薬治療を扱うのは現状ではなかなか難しいかもしれません。基幹病院への紹介の仕方や、うまく機能しているシステムがあれば教えていただけますか?具体的に機能しているシステムはわかりませんが、病病連携や病診連携において大切なのはやはり「顔の見える関係」です。紙だけのやり取りでは関係が希薄になりがちですので、研究会等で基幹病院の先生と会って良い関係を築くことが重要ですし、いろいろな情報や知識も得られると思います。また紹介患者さんが基幹病院に入院したら、その病院に会いに行くことも重要だと思います。患者さんが喜ぶのはもちろん、基幹病院の医療スタッフも信頼を寄せますので、患者さんを逆紹介していただきやすくなると思います。可能であれば、基幹病院、地域の開業医、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどで症例を通じた多職種カンファレンスを開くのもよいと思います。日常診療でがんを早期発見するためには、どこに気を付ければよいですか?有症状か無症状かで考え方が異なります。有症状の場合、そのがんはすでに早期がんである確率は低いので、ご質問そのものに対する回答にはなっていませんが、個人的には以下のような症状があった場合には、がんを疑うことにしています。すなわち、体重減少、リンパ節腫脹、原因不明で夜間に増悪する腰痛・背部痛、不明熱、嚥下困難、下血・血便・タール便、黄疸、血痰、血尿などです。また過去のがんの既往があれば、より検査閾値を下げて精密検査を進めることになると思います。無症状のがんを診断するためには、基本的にはがん検診を定期的に受けていただくことだと思います。私はがん以外で診ている患者さんに「がんについては検診を受けてください。残念ながら、あなたががんになっていないかどうかについてまでは診られていないのです」と説明しています。高血圧や糖尿病で診ている患者さんでも、患者さん側からすればがんも含めて診てもらっていると思っている方がいらっしゃいます。しかし、がんでない患者さん全員にがんが無いかどうかを診ていくのは大変だと思います。ただ、がん検診については注意すべき点があります。がん検診は早期発見のみを目的にしているのではなく、早期発見を通じてがんによる死亡を減らすことを目標としていますし、その点についてある程度コンセンサスがあるがん種についてがん検診が行われているのです。したがって、がん検診の内容に満足できない患者さんには、賛否両論あるにせよ、人間ドックを受けていただく以外にないと考えています。また、がんをスクリーニングする方法としての腫瘍マーカー測定は勧められません。スクリーニングには高い感度が求められますが、腫瘍マーカーで感度の高い検査はないからです(PSAは前立腺がんのスクリーニングには適していますが、早期診断することで死亡割合を低下させるかどうかが専門家の間で見解が異なるため現時点でがん検診に用いられてはいません)。症状もないのに患者さんの希望のみで、安易に腫瘍マーカーを測定し少しでも異常があった場合には、患者側も医師側も必要以上にがんを心配することになってしまいます。健診受診を促していますが、嫌がる人が多いです。どうすべきでしょうか?どうして嫌がるのかその理由によると思います。がんが見つかるのが怖いのか、それともがんになっても構わないし、早期発見が重要と考えていないなど、いろいろ理由があると思います。まずは患者さんの考え方を十分に把握することから始めてみてはいかがでしょう。CKDにおける抗がん治療の注意点を教えてください。腎障害の程度や、抗がん薬が腎排泄か肝代謝・肝排泄かなどによって、投与量は変わってきますので一般化できません。また、透析患者さんの場合はまた別の因子(透析性、分布容積、蛋白結合率、投与するタイミングなど)を考慮する必要が出てきます。詳しくは各抗がん薬の添付文書をご覧ください。高齢患者さんの治療に関する注意点を教えてください。一般的に抗がん治療の治療目標は二つあります。すなわち、生存期間の延長とQOLの改善・維持です。高齢患者さんの場合、抗がん治療により得られるメリットは非高齢患者さんのそれに比して小さくなります。つまり、生存期間の延長も小さくなるでしょうし、QOLも低下する可能性が十分あります。大切なことは、何を治療目標にして個々の患者さんを治療しているのかについて主治医と患者さん・家族が十分話し合い、認識を共有しておくことだと思います。個々の抗がん治療(手術、抗がん薬、放射線)の注意点については紙面の関係でここでは割愛します。食欲不振に対する対処法を教えてください。食欲不振の原因によります。原疾患によるものか、抗がん薬治療によるものか、あるいはうつ病などの内因性精神疾患によるものか、など多岐にわたります。認知症患者におけるがん治療について教えてください。がん治療に関して、その患者さんに自己意思決定能力があるかどうかが最大の問題になります。認知症のために本人に意思決定ができない場合は、家族や友人などに代理意思決定をしていただく必要があります。その際に大切なのは、代理者の意向ではなく、患者さん本人の意思を代弁する(または推定する)ことです。あくまでも患者さんが主体です。また、認知症患者の抗がん治療自体も難しいものになります。認知症の患者さんは脳の脆弱性のため、せん妄を起こしやすく、脳以外の身体の脆弱性も伴っていることが多いことから、その他の合併症(肺炎など)も起こしやすいのです。前立腺がんにおける高濃度ビタミンCの有用性について教えてくださいマルチビタミン(ビタミンCを含む)とミネラル補充療法の前立腺がん発症や進行予防との関連についてはメタ解析により現時点では否定されています(Stratton J,et al. Family Practice. 2011; 28:243–252)。上部消化管検診においてペプシノゲンがBaや内視鏡に代行できるという考え方はもう一般的になっているのでしょうか?日本のガイドラインでは現時点においても胃透視を推奨しており、ペプシノゲンはピロリ抗体や胃内視鏡と共に胃透視に比べてエビデンスレベルは下位に位置づけられています(Hamashima C, et al. Jpn J Clin Oncol 2008;38(4)259–267)。したがって、一般的にペプシノゲン測定はほかの検査の代用にはならないと考えられます。ただ、ABC検診と言って、血液検査でH. pylori感染とペプシノゲン値を調べ、胃がんのリスク評価を行う検診があり、リスクに応じて胃内視鏡検査による胃がんのスクリーニングを推奨する動きもあります。

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クッシング病〔CD : Cushing's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クッシング症候群は、副腎からの慢性的高コルチゾール血症に伴い、特異的・非特異的な症候を示す病態である。高コルチゾール血症の原因に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が関与するか否かで、ACTH依存性と非依存性とに大別される。ACTH非依存性クッシング症候群では、ACTHとは無関係に副腎(腺腫、がん、過形成など)からコルチゾールが過剰産生される。ACTH依存性クッシング症候群のうち、異所(非下垂体)性ACTH産生腫瘍(肺小細胞がんやカルチノイドなど)からACTHが過剰分泌されるものを異所性ACTH症候群、ACTH産生下垂体腺腫からACTHが過剰分泌されるものをクッシング病(Cushing's disease:CD)と呼ぶ。■ 疫学わが国のクッシング症候群患者数は1,100~1,400人程度と推定されているが、その中で、CD患者は約40%程度を占めると考えられている。発症年齢は40~50代で、男女比は1:4程度である。■ 病因ACTH産生下垂体腺腫によるが、大部分(90%以上)は腫瘍径1 cm未満の微小腺腫である。ごくまれに、下垂体がんによる場合もある。■ 症状高コルチゾール血症に伴う特異的な症候としては、満月様顔貌、中心性肥満・水牛様脂肪沈着、皮膚線条、皮膚のひ薄化・皮下溢血や近位筋萎縮による筋力低下などがある。非特異的な徴候としては、高血圧、月経異常、ざ瘡(にきび)、多毛、浮腫、耐糖能異常や骨粗鬆症などが挙げられる(表)。一般検査では、好中球増多、リンパ球・好酸球減少、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高カルシウム尿症、高血糖、脂質異常症などを認める。■ 分類概念・定義の項を参照。■ 予後治療の項を参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高コルチゾール血症に伴う主症候が存在し、早朝安静(30分)空腹時採血時の血中コルチゾール(および尿中遊離コルチゾール)が正常~高値を示す際に、クッシング症候群が疑われる。さらに、同時採血時の血中ACTHが正常~高値(おおむね10 pg/mL以上)の場合は、ACTH依存性クッシング症候群が疑われる(表)。次にACTH依存性を証明するためのスクリーニング検査を行う。(1)一晩少量(0.5 mg)デキサメタゾン抑制試験にて翌朝の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示し、さらに、(2)血中コルチゾール日内変動の欠如(深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5μg/dL以上)、(3)DDAVP試験に対するACTH反応性(前値の1.5倍以上)の存在(例外:異所性ACTH症候群でも陽性例あり)、(4)深夜唾液中コルチゾール値(わが国ではあまり普及していない)高値(1)は必須で、さらに(2)~(4)のいずれかを満たす場合は、ACTH依存性クッシング症候群と考えられる。ここで、偽性クッシング症候群(うつ病・アルコール多飲)は除外される。次に、CDと異所性ACTH症候群との鑑別のための以下の確定診断検査を行う。(1)CRH試験に対するACTH反応性(前値の1.5倍以上)の存在(例外:下垂体がんや巨大腺腫の場合は反応性欠如例あり、一方、カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は反応例あり)(2)一晩大量(8mg)デキサメタゾン抑制試験にて、翌朝の血中コルチゾール値の前値との比較で半分以下の抑制(例外:巨大腺腫や著明な高コルチゾール血症の場合は非抑制例あり、一方、カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は抑制例あり)(3)MRI検査にて下垂体腫瘍の存在以上の3点が満たされれば、ほぼ確実であると診断される。しかしながら、CDは微小腺腫が多いことからMRIにて腫瘍が描出されない症例が少なからず存在する。その一方で、健常者でも約10%で下垂体偶発腫瘍が認められることから、CDの確実な診断のためにさらに次の検査も行う。(4)選択的静脈洞血サンプリング(海綿静脈洞または下錐体静脈洞)を施行する。血中ACTH値の中枢・末梢比が2以上(CRH刺激後は3以上)の場合は、CDと診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的療法CD治療の第一選択は、経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(trans-sphenoidal surgery:TSS)であるが、手術による寛解率は60~90%と報告されている。完全に腫瘍が摘出されれば術後の血中ACTH・コルチゾール値は測定感度以下となり、ヒドロコルチゾンの補充が6ヵ月~2年間必要となる。術後の血中ACTH・コルチゾール値が高値の場合は腫瘍の残存が疑われ、正常範囲内の場合でも再燃する場合が多いために注意が必要である。術後の非寛解例・再発例は、各々10%程度存在すると考えられている。手術不能例や術後の残存腫瘍に対しては、ガンマナイフやサイバーナイフを用いた定位放射線照射を行う。効果発現までには長期間かかるため、薬物療法との併用が必要である。また、従来の通常分割外照射ほどではないが、長期的には下垂体機能低下症のリスクが存在する。■ 薬物療法薬物療法は、下垂体に作用するものと副腎に作用するものに大別される。1)下垂体に作用する薬剤下垂体腺腫に作用してACTH分泌を抑制する薬剤としては、ドパミン受容体作動薬[ブロモクリプチン(商品名:パーロデル)やカベルゴリン(同:カバサール)]、セロトニン受容体拮抗薬[シプロヘプタジン(同:ペリアクチン)]、持続性ソマトスタチンアナログ[オクトレオチド(同:サンドスタチンほか)]やバルプロ酸ナトリウム(同:デパケンほか)などが使用されるが、有効例は20%未満と少ない。2)副腎に作用する薬剤副腎に作用する薬剤としてはメチラポン(同:メトピロン)やミトタン(同:オペプリム)が用いられる。とくに11β‐水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは、高コルチゾール血症を短時間で確実に低下させることから、術前例も含めて頻用される。以前、同薬剤は、診断薬としてのみ認可されていたが、2011年からは治療薬としても認可されている。ミトタンは80%以上の有効性が報告されているが、効果発現までの期間が長く、副腎皮質を不可逆的に破壊することから、使用には注意が必要である。初回のTSSで寛解した場合の予後は良好であるが、腫瘍残存例や再発例は、高コルチゾール血症に伴う感染症、高血圧、糖尿病、心血管イベントなどのため、長期予後は不良である。4 今後の展望CD患者の長期予後改善のためには、下垂体に作用する新規薬剤の開発・実用化が急務と考えられる。近年、5型ソマトスタチン受容体に親和性の高い新規ソマトスタチンアナログSOM230(pasireotide)が開発されたが、わが国では治験中であり、まだ使用開始となっていない。また、最近では、レチノイン酸の有効性も報告されており、今後の臨床応用が期待される。5 主たる診療科内分泌代謝内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター クッシング病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)

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『COPD研究』厳選Pick Up ~海外と日本の見解を比較~

厚生労働省の「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針{健康日本21(第2次)}」では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の認知度を2011(平成23)年の25%から2022(平成34)年度には80%まで向上させることを目標に掲げている。これにより、今後、国を挙げてCOPDの診断と治療を推し進める方針が示されたといえるであろう。COPD関連の大規模試験は欧米主体のものが多いのは事実であるが、国内でもCOPD関連の研究が集積されつつある。そこで今回、国内外におけるCOPD関連の興味深いテーマをいくつかピックアップし、紹介する。COPDには合併症や併存症が潜んでいるこれまで肺の疾患とされてきたCOPDだが、近年は、全身性の炎症性疾患と考えられており、さまざまな合併症や併存症との関係が報告されている(Fabbri L.M, et al. Eur Respir J. 2008; 31: 204-212.)。米国で行われたCOPDと臨床的に関連のある併存症の有病率の横断的大規模調査であるNHANES(米国全国健康・栄養調査) 1999-2008 (Schnell K, et al. BMC Pulm Med .2012; 12: 26.)においても、COPD患者は、COPDではない患者と比較し、循環器疾患や骨粗鬆症、がんなどを併存する割合が有意に高いことが示された。以下の論文は、そのなかでも、COPDと同様、労作時の息切れが主訴であるため、COPDが見逃される可能性のある“心不全”について取り上げている。【海外】2003年3月から2004年12月までの間に米国の259施設より登録された心不全患者のうち、左心収縮機能障害の患者は2万118例で、このうち25%にあたる5,057例がCOPDを併存していた。Mentz RJ, et al. Eur J Heart Fail. 2012; 14: 395-403.【日本】労作時の息切れの鑑別あるいは手術前検診にて、心エコー検査と呼吸機能検査を同時期に施行された患者1,699例において後ろ向きに検討を行ったところ、左室拡張機能障害を有する患者では26%で閉塞性換気障害を認めた。Onishi K, et al. Therapeutic Research. 2009; 30: 807-812.簡便にCOPD患者の健康状態を把握するには?COPD患者のマネジメントを行ううえで、健康状態を常に把握することは重要である。これまでも、COPD患者に対する質問表はあったが、手間や時間を必要とするものも多かった。このような背景の中、開発されたのがCOPD Assessment TestTM(CAT)である。CATは全8項目の短く簡便な質問票であり、より的確な治療や管理を受けられることを目的に開発された。すでに日本語版(http://adoair.jp/disease_info/cat/index.html)もリリースされている。従来の質問票と比べて、CATに妥当性はあるのか。その検証結果を紹介する。【海外】米国の安定期のCOPD患者において、CATとCOPDに特異的な健康関連QOLの評価指標の一つとして広く用いられてきたSGRQ-C(St George's Respiratory Questionnaire for COPD patients)との間に良好な相関関係が認められた(r=0.80, p<0.0001)。Jones PW, et al. Eur Respir J. 2009; 34: 648-654.【日本】相澤氏はJones氏にCATとSGRQ-Cの提供を依頼し、日本人の安定期のCOPD患者についてもCATとSGRQ-Cの関係を検討したところ、同様に相関性が認められた(r=0.82, p<0.001)。相澤久道ほか. 呼吸. 2010; 29: 835-838.気腫型のCOPDは非気腫型より1秒量(FEV1)の経年的低下が大きいCOPDにおいて、FEV1の経年的低下量はアウトカムを判定するうえで重要な指標となる。しかしながら、気腫型のCOPDか非気腫型のCOPDかで、FEV1の経年的低下量に違いがあるかについては、あまり検討されていなかった。【海外】COPD患者について3年間にわたり気管支拡張薬でマネジメントを行い、FEV1の変化を調べた。その結果、胸部CT検査により気腫型(低吸収領域が10%未満)とされた群では、非気腫型の群と比較して、FEV1が平均で327±21mL低く、経年的低下量も13±4mL低かった。Vestbo J, et al. N Engl J Med. 2011; 365: 1184-1192.【日本】北海道大学病院を中心とした多施設共同のCOPD前向きコホート研究では、COPDのFEV1の経年的変化は必ずしもすべての症例で一様に進行・悪化していなかった。さらに、肺気腫の重症度による病型(気腫型/非気腫型)は呼吸機能検査でみた重症度とは独立して、FEV1の経年的変化に影響を与えていた。Nishimura M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012; 185: 44-52.西村 正治ほか. 日内会誌. 2013; 102:463-470.3次元胸部CTでCOPDの診断や治療効果を判断できる可能性COPDを診断する場合や治療の経過をみる場合、呼吸機能の数値や臨床症状から判断することが多かった。しかし、3次元胸部CT で気管支壁厚を計測することも、COPDの診断や経過観察を行ううえで有用であることが報告されている。これまで気管支径の測定は各CTスライスに対して手動による抽出が行われてきた。3次元胸部CTは早期から、わが国で積極的に研究が行われてきた分野であり、早期の臨床応用が期待されている。【海外】気道のリモデリングは喘息やCOPDでは一般的な特徴である。しかし、両者を鑑別することが難しいケースが存在する。このような場合に、気道壁の変化やエアートラッピングの量を3次元胸部CTで測定することにより、潜在的な喘息やCOPDの複雑な病理を明らかにし、治療効果を評価するうえでの手助けとなるかもしれない。Dournes G, et al. Pulm Med. 2012;2012:670414.【日本】COPD患者の気流制限は吸入抗コリン薬により改善されることが知られているが、どの部分の気管支拡張が呼吸機能を改善させているのかについてはあまり知られていなかった。そこで吸入抗コリン薬を投与した後、気道内腔のどの部分で変化が起こり、呼吸機能が改善されるのかを3次元胸部CTにより検討した。その結果、抗コリン薬による気管支拡張はFEV1の改善と比例しており、近位の気道より、遠位の気道の拡張のほうが呼吸機能の改善への寄与が大きいことがわかった。Hasegawa M, et al. Thorax. 2009; 64: 332-338.(ケアネット 鎌滝真次)

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抗精神病薬による高プロラクチン血症に関するレビュー

 フランス・Etablissement Public De Sante Mentale(EPSM)のI. Besnard氏らは、抗精神病薬の有害事象である高プロラクチン血症に着目し、文献から得られた知見を基にレビューを行った。プロラクチンを増加させる抗精神病薬とプロラクチン増加を起こしにくい抗精神病薬があること、高プロラクチン血症は男性に比べ女性でより高頻度にみられ、性腺機能不全による症状がみられること、必要に応じて抗精神病薬の減量または変更を行う必要性などを報告した。Encephale誌オンライン版2013年8月5日号の掲載報告。 高プロラクチン血症は、抗精神病薬による治療を受けた患者にしばしば認められるが、なおざりにされている有害事象である。Besnard氏らは本レビューにおいて、抗精神病薬による高プロラクチン血症の病因メカニズム、男女の臨床的徴候、および管理方法について概説した。高プロラクチン血症の原因にいずれの抗精神病薬もなりうる 文献から得られた高プロラクチン血症の主な知見として、以下を報告している。・プロラクチンは、下垂体前葉のプロラクチン産生細胞から分泌されるホルモンで、その産生・分泌はペプチド、ステロイドおよび神経伝達物質により制御されている。・プロラクチン産生・分泌の阻害に関与する主な物質はドパミンで、プロラクチン産生細胞膜上のドパミンD2受容体に結合して作用を発揮する。・抗精神病薬はドパミンD2受容体をブロックし、ドパミンのプロラクチン分泌阻害活性を消失させる。すべての抗精神病薬がD2受容体をブロックするため、いずれの抗精神病薬も高プロラクチン血症を惹起しうる。ただし、D2受容体からの解離速度が速い抗精神病薬は、血漿中プロラクチンレベルの増加が少ない。・また、高プロラクチン血症が起こるもう一つの説明として、抗精神病薬は血液脳関門を通過できることも挙げられる。抗精神病薬の代謝物の役割もまた考慮されるべきである。・これらの理由により、プロラクチンを増加させる抗精神病薬(従来の神経遮断薬であるアミスルプリド、リスペリドン)とプロラクチン増加を起こしにくい抗精神病薬(クロザピン、アリピプラゾール、オランザピン)がある。・英国の研究では、重篤な精神疾患に対し抗精神病薬が投与された男性の18%および女性の47%でプロラクチンレベルが正常範囲を超えていることが示された。・高プロラクチン血症は男性に比べ女性でより高頻度にみられる。高プロラクチン血症は時に無症候性であるが、プロラクチンレベルが高いほど臨床的徴候がより多く認められる。いくつかの症状は、プロラクチンによる性腺機能不全に起因するもので、視床下部下垂体機能を障害する。その他は、標的組織に対する直接的な影響による。・結果として、患者は性機能障害、 不妊、無月経、女性化乳房、乳汁漏出などに悩まされる。・これら症状は一般的であるものの、患者が自発的に述べることはなく、臨床医はそれらの発現状況を把握できていないことがデータで示唆されている。・長期的に、性腺機能不全症は男女において早期からの骨量減少を引き起こす。・Klibanski 氏らは、この骨減少は無月経と関連する高プロラクチン血症を呈する女性においてのみ有意であることを示した。これは、プロラクチンがこうした臨床的特徴に直接的に寄与していないことを示唆している。それでもやはり、プロラクチンは乳がんの発症に関連しているようである。しかし、前立腺がんにおける役割は不明である。高プロラクチン血症の原因が抗精神病薬なら減量または変更 また、高プロラクチン血症について得られた知見を受け、次のように考察している。 本レビューから、抗精神病薬による治療開始前にはcheck-up(検査)が重要といえる。第一に、ベースラインのプロラクチンレベルを測定すべきである。また、抗精神病薬投与歴、高プロラクチン血症を示唆する有害事象も評価すべきである。そして問診により抗精神病薬に対する禁忌の有無を最終的に確認すべきである。 高プロラクチン血症の臨床ガイダンスの批評レビューを行った精神医学、内科学、毒性学、薬学の国際的な専門グループにより、抗精神病薬による治療中のモニタリングについて研究が行われた。専門家らは、性欲減退、月経不順、乳汁漏出などの性機能障害の有無を確認することが重要だとしている。用量が安定してから3ヵ月後、または高プロラクチン血症の何らかの徴候が現れた場合、プロラクチンレベルをコントロールすべきである。抗精神病薬を処方された患者においてプロラクチンレベルが正常範囲を超えていることが確認された場合、高プロラクチン血症を惹起しうるその他の原因を除外する必要がある。抗精神病薬がその真の原因である場合には、プロラクチンレベルおよび患者の状況に応じて、抗精神病薬の減量または変更などを行うべきである。妊娠を避ける、あるいは骨量減少および骨粗鬆症を防ぐため、経口避妊薬の追加も可能である。最終的に専門家らは、精神疾患を悪化させうるという理由から、きわめて例外的な状況における抗精神病薬による高プロラクチン血症に対し、ドパミンアゴニストの使用は控えることを勧告した。

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募集した質問にエキスパートが答える!骨粗鬆症診療 Q&A (Part.2)

今回、骨粗鬆診療に関連する3つの質問に回答します。「骨折ハイリスク例の見分け方」「薬剤の併用療法」。日頃の悩みがこれで解決。骨折のハイリスク例の見分け方について教えてください。既存椎体骨折、大腿骨近位部骨折の既往は骨折ハイリスク例となります。今年、改訂された「原発性骨粗鬆症診断基準(2012年度改訂版)」と「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン(2011年版)」ではこれらの骨折既往がある場合には骨密度検査をせずに骨粗鬆症と診断し薬物治療を開始することが推奨されています(図)。その他のハイリスク例として、ステロイド性骨粗鬆症があげられます。プレドニン換算で5mg/日を3ヵ月以上投与する患者には、ステロイド開始と同時にビスホスホネート製剤などの薬物治療を開始することが推奨されています。図画像を拡大する併用療法について教えてください。現在の薬剤は単剤治療の効果のエビデンスに基づいているので、原則的には単剤治療を行うべきでしょう。併用にはいろいろなパターンがありますが、複数薬を併用する場合には互いに薬剤効果が相殺されないこと、有害事象がおきないこと、単剤使用の場合よりも明らかに相乗効果が認められることが条件になります。近年、活性型ビタミンD3はビスホスホネート製剤と併用すると、重症患者ではビスホスホネート製剤単独で使用するより骨折予防効果が高いことが報告されています(A-TOP研究)。

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募集した質問にエキスパートが答える!骨粗鬆症診療 Q&A (Part.1)

今回、骨粗鬆診療に関連する3つの質問に回答します。「治療薬の使い分け」「薬剤投与は何歳まで?」「ビスホスの休薬期間」。日頃の悩みがこれで解決。治療薬の使い分け法について教えてください。骨粗鬆症治療薬は1)サプリメント的薬剤(活性型ビタミンD3、ビタミンK2など)、2)骨吸収抑制剤(ビスホスホネート製剤、SERM、抗RANKL抗体)、3)骨形成促進剤(テリパラチド)に分類されます。重症な骨粗鬆症にはテリパラチドが使用されますが、その使用期間は約2年という制限があります。骨吸収抑制剤の中でビスホスホネート製剤は大腿骨近位部骨折を抑制するエビデンスがあり、脆弱性骨折の既往があるなど比較的進行した骨粗鬆症患者に使用します。ただし、近年、長期投与患者に顎骨壊死や非定型骨折が発生した事例が報告されているので、長期投与する場合は慎重に使用しなければなりません。SERMは脆弱性骨折の既往のない比較的初期の骨粗鬆症に使いやすい薬剤です。活性型ビタミンD3、ビタミンK2も比較的初期の骨粗鬆症に使用する薬剤となります。また、ビスホスホネート製剤は食道通過遅延障害、SERMは静脈血栓症、ビタミンK2はワルファリン投与中の患者には投与が禁忌であることも忘れずに確認しましょう。薬剤の投与を続けるべき患者さんの年齢について、教えてください。また、80歳以上でも効果はあるのでしょうか?骨粗鬆症で最も重篤な骨折で70歳代後半から多くなる大腿骨近位部骨折患者にも薬物治療をすることで2次骨折(反対側の骨折)を予防できる、生命予後が改善されるという報告があります。骨粗鬆症は高齢になるほど重症化して骨折しやすくなる疾患です。患者さんがお薬を受け入れるならばぜひ、年齢制限なく薬剤の投与を続けていただきたいと思います。最近では、1ヵ月に一度の内服でよいお薬や1ヵ月に一度の点滴剤なども使用できるので、内服が困難な方にも対処できます。ビスホスホネート製剤の休薬期間について教えてください。近年、ビスホスホネート製剤の長期投与で顎骨壊死や非定型骨折が発生した事例が報告され、長期投与に対して否定的なコメントを目にすることがありますが、現時点で長期投与の是非を確定できるエビデンスがないのが現状です。現時点でアレンドロネートの10年継続投与データが最も長期のものですが、それによると5年間で休薬した場合、多くの症例で骨折危険率は上がらなかったが、重症な骨粗鬆症患者では骨折が増加したと報告されています。ビスホスホネート製剤を5年以上継続している患者さんの休薬を考える場合には、顎骨壊死や非定型骨折を危惧するばかりでなく、休薬により骨折が発生するかもしれないという危険性も考え、個々の患者さんの脆弱性骨折の発生状況や骨密度、骨代謝マーカーなどの情報をもとに慎重に判断すべきでしょう。

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腰部硬膜外ステロイド注射によって椎体骨折のリスクが増加

 腰部硬膜外ステロイド注射(LESI)は神経根障害や脊髄神経の圧迫から生じる神経性跛行の治療に用いられるが、副腎皮質ステロイドは骨形成を低下し骨吸収を促進することで骨強度に悪影響を及ぼすことが示唆されている。米国・ヘンリーフォード ウェストブルームフィールド病院のShlomo Mandel氏らは、後ろ向きコホート研究において、LESIが椎体骨折の増加と関連していることを明らかにした。LESIの使用はこれまで考えられていたより大きなリスクを伴う可能性があり、骨粗鬆症性骨折のリスクを有する患者には慎重に行わなければならないとまとめている。The Journal of Bone & Joint Surgery誌2013年6月5日の掲載報告。 本研究の目的は、LESIが、椎体骨折のリスクを増加するのかについて評価をすることであった。 ヘンリーフォード ウェストブルームフィールド病院のデータベースから、ICD-9診断コードを用いて、椎間板障害など脊椎に関連した疾患を有する患者計5万345例(うち1回以上のLESIを受けていた患者は3,415例)を特定した。 LESI施行例3,000例を無作為に抽出するとともに、傾向スコアマッチングによりLESI非施行例3,000例を選び出し、両群における椎体骨折の発生率を生存時間分析にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・LESI施行群と非施行群で、年齢、傾向スコア、性別、人種、甲状腺機能亢進症、ステロイド使用に差はなかった。・生存時間分析の結果、注射回数の増加は骨折リスクの増加と関連していた。・注射が1回増えるごとに、骨折リスク(共変量調整後)は1.21倍(95%信頼区間:1.08~1.30)増加した(p=0.003)。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?・腰椎圧迫骨折3ヵ月経過後も持続痛が拡大…オピオイド使用は本当に適切だったのか?  治療経過を解説

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小児がんサバイバー、成人後の転帰の実態が明らかに/JAMA

 小児がんを克服した成人は、慢性疾患の有病率が90%以上に上り、多くの未診断の問題を抱えており、その割合は高齢になるほど増加する傾向にあることが、米国・セントジュード小児研究病院のMelissa M. Hudson氏らの検討で明らかとなった。小児がんの既往歴のある成人は、がん治療関連の有害な転帰のリスクを抱えるとされる。これら小児がんサバイバーにおける成人後の全身的な慢性疾患の罹患状況に関して、包括的な調査はこれまで行われていなかったという。JAMA誌2013年6月12日号掲載の報告。成人後の転帰を臓器別に検討 研究グループは、小児がんを克服した成人コホートにおける有害な転帰に関する調査を行った。 解析には、St. Jude Lifetime Cohort Study(SJLIFE)に登録された小児がんを克服した成人コホート1,713人[男性48.6%、年齢中央値32歳(18~60歳)、診断時年齢中央値6歳(0~24歳)、診断後経過期間中央値25年(10~47年)]の2007年10月1日~2012年10月31日までのデータを使用した。 小児がんに対する全身療法別の医療評価を行い、成人後の転帰との関連について検討した。また、臓器別、年齢別の有害な転帰の累積有病率を推算した。慢性疾患有病率98.2%、健康状態の継続的な監視が重要 小児がんサバイバーは、肺(肺機能異常65.2%)、聴覚(難聴62.1%)、内分泌/生殖器(視床下部-下垂体系障害、雄生殖細胞機能不全などの内分泌疾患62.0%)、心臓(心臓弁障害などの心疾患56.4%)、神経認知機能(神経認知機能障害48.0%)の有病率が高かったが、肝臓関連異常(肝機能障害13.0%)、骨格系(骨粗鬆症9.6%)、腎臓(腎機能障害5.0%)、造血機能(血球数異常3.0%)の有病率は比較的低かった。 小児がんサバイバーが50歳までに発症する疾患の推定累積有病率は、心筋症21.6%、心臓弁障害83.5%、肺機能障害81.3%、下垂体機能障害76.8%、難聴86.5%、原発性卵巣機能不全31.9%、ライディッヒ細胞機能不全31.1%、乳がん40.9%であった。 全体の慢性疾患有病率は98.2%に達し、重篤または生命に関わる慢性疾患(CTC-AE ver. 4.0のGrade 3、4)の有病率は67.6%であった。45歳時の慢性疾患の推定累積有病率は95.5%、35歳時は93.5%であり、重篤または生命に関わる慢性疾患の推定累積有病率は45歳が80.5%、35歳は75.1%だった。 著者は、「小児がんサバイバーは成人後の慢性疾患の有病率が高く、多くの未診断の問題を抱えており、その割合は高齢になるほど増加する傾向にあることが示された」と結論づけ、「これらの知見は、小児がんサバイバーにおける健康状態の継続的な監視の重要性を浮き彫りにするもの」と指摘している。

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聖路加GENERAL 【Dr.石松の帰してはいけない患者症例】

3.「腰痛篇」4.「腹痛篇」 3.「腰痛篇」特に高齢の方に多い腰痛。骨の疾患に加えて、中には重篤な疾患も含まれるため要注意です。【症例1】1年前に「ぎっくり腰」の診断を受けたことがある76歳の女性。今回は歩けなくなるほどの腰痛ということで救急で受診されました。診察の結果、圧迫骨折であることがわかりました。圧迫骨折は、骨粗鬆症を原因とする場合が多く、これをきっかけに寝たきりになるケースも多いことから、ぜひとも予防したい疾患です。そのためにも、骨密度検査を積極的に行うことが重要なポイントになります。【症例2】3日前から腰痛と右大腿部痛を自覚された79歳の女性。慢性糸球体腎炎、好酸球性心筋炎の治療中です。この症例を腰痛のRed flag signに照らしあわせて診察を進めていくと、重大な疾患が見つかりました。腰痛の原因となる重大な疾患をどう見つけるかについて詳しく解説します。【症例3】37歳の若い男性。腰背部痛は17年前からと長期にわたり、数年前からは、仰臥位を取ることができず、ソファで座って眠っているとのことです。身体所見、検査ともに大きな異常は見つかりませんでしたが、カギとなった項目がESR上昇でした。腰痛の原因となる重篤な疾患では、ESRが上昇することが多いのです。さっそく、状況から膠原病科にコンサルトしたところ、診断することができました。【症例4】2ヵ月前から腰痛が増悪している60歳の男性。変形性脊椎症を疑われていましたが、ついに激痛で立てなくなり救急外来を受診しました。前回紹介した腰痛のRed flag signに照らし合わせてみると、安静で軽快しないなど、どうやら重大な疾患が隠れていそうです。4.「腹痛篇」ひとえに腹痛といっても、その部位、痛みの性質、強さによって症状も原因もさまざまです。なかには、重篤な疾患も含まれているため、注意が必要です。【症例1】比較的急激に発症した心窩部痛で救急外来に訪れた37歳の男性。痛みもスケール10/10と激しい痛みです。このような急性腹症は、消化管の穿孔や肝胆系の急性炎症、大血管系の障害も考えられます。本症例では、多量の飲酒歴から、急性膵炎を疑い検査を進めます。【症例2】急激に上腹部痛を発症した55歳の男性。やはり、飲酒歴があります。腹膜刺激症状が出ていることから、CTを撮影したところ、アルコール性の急性膵炎であることがわかりました。他に、消化管穿孔の症例もご紹介します。【症例3】大動脈瘤を指摘されている84歳の男性。がまんできない下腹部痛で来院しました。さっそく"OPQRST"で診断したところ、腸管穿孔や大動脈瘤破裂が疑われました。検査を進めたところ、CTで腹腔内遊離ガスから、十二指腸潰瘍穿孔であることがわかりました。【症例4】糖尿病と高血圧の既往のある55歳の男性。がまんできない左側腹部痛で来院しました。こちらも、"OPQRST"で診断したところ、重篤な疾患であることはまちがいなさそうです。身体所見では、血圧が収縮期で90mmHgと低下し、ショックバイタルを示していました。急いで腹部造影CTを撮ったところ、大動脈瘤破裂が見つかりました。緊急性の高い急性腹症の重篤な疾患の見分け方についても詳しく解説します。

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新規骨粗鬆症治療薬カテプシンK阻害剤odanacatibの日本人患者における骨密度増加効果は?-二重盲検ランダム化比較試験-

 odanacatibは、骨再吸収を低下させ骨密度(BMD)を増加させる選択的かつ可逆的なカテプシンK阻害剤であり、2014年に承認申請が予定されている。本試験は、骨粗鬆症日本人患者においてodanacatibの有効性と安全性を評価するために行われた多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。この結果、52週間にわたるodanacatib治療が、腰椎およびすべての股関節部位で用量依存的にBMDを増加し、骨粗鬆症日本人患者における忍容性が高いことが示された。国立国際医療研究センターの中村 利孝氏らによる報告(Osteoporosis International誌オンライン版2013年5月29日号掲載)。 主な結果は以下のとおり。・対象は286例(94%が女性、平均年齢68.2(SD:7.1)歳)。・主要評価項目である腰椎(L1~L4)BMDにおける52週時のベースラインからの変化率は、プラセボ群、odanacatib 10mg、25mgおよび50mgにおいてそれぞれ0.5、4.1、5.7、および5.9%であった。・副次的評価項目である股関節BMDにおける変化率はそれぞれ-0.4、1.3、1.8、および2.7%であり、大腿骨頸部および転子部BMDの変化も股関節と同様であった。・骨代謝マーカーは用量依存的に減少したが、骨形成マーカーに対する影響は骨吸収マーカーに対する影響と比較して少なかった。・忍容性と安全性プロファイルは、どの有害事象でも用量相関がなくすべての治療群間で類似していた。

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