サイト内検索|page:19

検索結果 合計:471件 表示位置:361 - 380

361.

パーキンソン病患者の骨の状態は?―系統的レビューとメタ解析結果より―

 パーキンソン病患者は健常者と比較して、骨粗鬆症および骨量減少ともにリスクが高く、とくに男性よりも女性でリスクが高いことが、英・West Middlesex病院のKelli M Torsney氏らによって明らかとなった。著者らはまた、パーキンソン病の患者では骨密度(BMD)も低く、骨折リスクが高まっていると示している。Journal of neurology, neurosurgery, and psychiatry誌オンライン版2014年3月11日号掲載の報告。 パーキンソン病と骨粗鬆症は、共に加齢に伴う慢性疾患である。両疾患の関連を示したある研究結果では、骨折リスクが増加していた。この系統的レビューとメタ解析の目的は、パーキンソン病と骨粗鬆症、BMDおよび骨折リスクの関連を評価することである。 文献検索は、複数のインデックス作成データベースおよび関連する検索用語を使用して2012年9月4日に行われた。文献の妥当性をスクリーニングし、選択基準を満たし十分な水準であった研究からデータを抽出した。データは、標準的なメタ解析法を用いて統合した。 主な結果は以下のとおり:・23報の研究を対象に最終分析を行った。パーキンソン病患者は健常者に比べ、骨粗鬆症のリスクが高かった(オッズ比[OR]:2.61、95%信頼区間[CI]:1.69~4.03)。・男性患者は女性患者よりも骨粗鬆症や骨減少症のリスクが低かった(OR:0.45、95%CI:0.29~0.68)。 ・パーキンソン病患者は健常対照と比較して、股関節、腰椎および大腿骨頸部のBMDレベルが低かった。大腿骨頸部 差の平均値:-0.08、95%CI:-0.13~-0.02腰椎    差の平均値:-0.09、95%CI:-0.15~-0.03股関節   差の平均値:-0.05、95%CI:-0.07~-0.03・パーキンソン病患者は、骨折のリスクも高かった(OR:2.28、95%CI:1.83~2.83)。

362.

リンパ脈管筋腫症〔LAM : lymphangioleiomyomatosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis: LAM)は、ほぼ女性に限って発症する性差の著しい疾患である。主として妊娠可能年齢の女性に発症するまれな疾患で、腫瘍抑制遺伝子(TSC遺伝子)の異常により腫瘍化した平滑筋様細胞(LAM細胞)が肺や体軸中心リンパ系(骨盤腔、後腹膜腔および縦隔にわたる)で増殖し、慢性に進行する腫瘍性疾患である。肺では、多発性の嚢胞形成を認める。自然気胸を反復することが多く、女性自然気胸の重要な基礎疾患である。肺病変が進行すると拡散障害と閉塞性換気障害が出現し、労作性の息切れ、血痰、咳嗽などを認める。肺病変の進行の速さは症例ごとに多様であり、比較的急速に進行して呼吸不全に至る症例もあれば、年余にわたり肺機能が保たれる症例もある。肺外では、体軸リンパ流路に沿ってリンパ脈管筋腫(lymphangioleiomyoma)を認めることがある。リンパ脈管筋腫はCT画像では、嚢腫様あるいはリンパ節腫大様に描出され、LAM細胞の増殖により拡張したリンパ管あるいはリンパ節と考えられている。腎臓には、血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)を合併する場合もある。常染色体優性遺伝性疾患である結節性硬化症(TSC)を背景として発症する例(TSC-LAM)、TSCとは関連なく発症する例(孤発性LAM)の2つのタイプがある。■ 病名や疾患概念の変遷本疾患は1940年前後から記載され始め、Frack ら(1968年)により初めてpulmonary lymphangiomyomatosis という言葉が用いられ、Corrin ら(1975年)により 28 例の臨床病理学的特徴がまとめられた。Pulmonary lymphangioleiomyomatosis という言葉は、Carrington ら(1977年)が、本疾患の生理学的、病理学的、画像の各所見の関連性を詳細に検討した際に使用された。現在では、主にlymphangioleiomyomatosisが用いられている。日本においては、山中、斎木(1970年)が 2 例の剖検例と 1 例の開胸肺生検例を検討し、びまん性過誤腫性肺脈管筋腫症として報告したのが最初である。一方、症例の集積に伴い、LAMは肺のみに限局した疾患ではなく全身性疾患として認識されるようになり、「肺」を病名から除いて「リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis)」という病名で呼ばれるようになった。すなわち、肺外病変としての後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫が主体で、肺病変が軽微である症例の存在も認識されるようになったためである。■ 疫学まれな疾患であるため、有病率や罹患率などの正確な疫学データは得られていない。疫学調査の結果から、日本でのLAMの有病率は100万人当たり約1.9~4.5人と推測されている。米国などからの報告でも人口100万人当たり2~5人と推測されている。■ 病因腫瘍抑制遺伝子である TSC 遺伝子の変異が LAM 細胞に検出される。LAMは、Knudson の 2-hit 説が当てはまる腫瘍抑制遺伝子症候群のひとつである。TSC 遺伝子には TSC1 遺伝子と TSC2 遺伝子の2種類があり、TSCはどちらか一方の遺伝子の胚細胞遺伝子変異による遺伝性疾患である。TSC-LAM 症例はTSC1あるいはTSC2遺伝子のどちらの異常でも発生しうるが、sporadic LAM 症例ではTSC2遺伝子異常により発生する。TSC 遺伝子異常により形質転換した LAM 細胞は、病理形態学的にはがんといえる程の悪性度は示さないが、転移してリンパ節や肺にびまん性、不連続性の病変を形成する。 LAM病変に認められる豊富なリンパ管や乳び液中に検出されるLAM細胞クラスターは、LAMの病態進展におけるリンパ行性転移の重要性を示唆する所見である。片肺移植後のドナー肺に LAM が再発した症例では、レシピエントに残存する体内病変からドナー肺に LAM 細胞が転移して、再発したことを示唆する遺伝学的解析結果が報告されている。最近の研究では、必ずしもすべてのLAM細胞がTSC遺伝子変異を有するわけではなく、変異遺伝子のallelic frequencyは約20%前後と報告されている。TSC1、TSC2遺伝子は、それぞれハマルチン(約130kDa)、ツベリン(約180kDa)というタンパク質をコードし、両者は細胞質内で複合体を形成して機能する。ハマルチン/ツベリン複合体は、細胞内シグナル伝達に関与するさまざまなタンパク質からリン酸化を受けることにより、mTORの活性化を制御している。LAMでは、ハマルチン/ツベリン複合体が機能を失い、恒常的にmTORが活性化された状態となるため、LAM細胞の増殖を来す。そのため、mTOR阻害薬のシロリムス(国内未承認)は、LAM細胞増殖を抑制し病状の進行抑制に寄与すると考えられる。■ 症状以下のカッコ内の数値は、呼吸不全に関する調査研究班による平成18年度の全国調査集計において報告された、LAM診断時の頻度である。1)胸郭内病変に由来する症状労作性の息切れ(48%)や自然気胸(51%)で発症する例が最も多い。そのほかに、血痰(8%)、咳嗽(27%)、喀痰(15%)などがある。肺内でのLAM細胞の増殖により生じる肺実質破壊(嚢胞性変化)、気道炎症、などによると考えられる。労作性の息切れは、病態の進行とともに頻度が高くなる。進行例では、血痰、咳嗽・喀痰などの頻度も増加する。気胸は、診断後の経過中を含め患者の約7割に合併するとされる。LAMは、女性気胸の重要な原因疾患である。2)胸郭外病変に由来する症状腹痛・腹部違和感、腹部膨満感、背部痛、血尿など胸郭外病変に由来する症状(16%)がある。腎AML(41%)、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫(26%)、腹水、などによると考えられる。3)リンパ系機能障害による症状乳び胸水(8%)、乳び腹水(8%)、乳び喀痰、乳び尿、膣や腸管からの乳び漏などがある。約3%の症例では、診断時あるいは経過中に下肢のリンパ浮腫を認める。4)無症状人間ドックなどの健診を契機に、偶然発見される場合もある。自覚症状はないが、腹部超音波検査や婦人科健診において腎腫瘍、後腹膜腫瘤、腹水などを指摘され、これを契機としてLAMと診断される例がある。■ 経過と予後LAMは、慢性にゆっくりと進行する腫瘍性疾患であるが、進行の早さには個人差が大きく、その予後は多様である(図1)。わが国での全国調査によると、初発症状や所見の出現時からの予測生存率は、5年後が91%、10年後が76%、15年後が68%であった。予後は診断の契機となった初発症状・所見によって異なり、息切れを契機に診断された症例は、気胸を契機に診断された症例より診断時の呼吸機能が有意に悪く、また、予後が不良であった。画像を拡大する図1では、Aは重症例、Bは中等症例、Cは軽症例、Dは最軽症例と呼ぶ。Aは息切れ発症のLAMを想起すればよい。AにGnRH療法を行っても、A’では肺機能や生存期間の改善に寄与していない。A’’では、肺機能の低下スピードはやや軽減し、そのため生存期間は伸びている。C、Dは気胸発症例、あるいは偶然の機会に胸部CTで多発性肺嚢胞を指摘されたような症例を想起すればよい。これらの症例では、特別な治療を考える必要はないであろう。Bは中間の症例である。B’は、GnRH療法により肺機能の低下速度が緩徐となり、生命予後は延長することが明らかである。この図から読み取れる点は、治療的介入が肺機能の低下速度を緩徐にできるならば、ゆっくりと進行する慢性疾患では比較的長期間の生命予後の延長をもたらすことができる点である。後述するように、シロリムスによる分子標的療法は、肺機能の低下速度を軽減するのではなく、安定化ないしは治療前よりやや改善することが示されており、LAMの自然史を大きく変える治療として期待されるゆえんである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断にあたっては、特徴的な臨床像と胸部CT所見からLAMを疑い、図2のような手順に沿って診断する。画像を拡大する■ 画像診断診断には高分解能CT(HRCT)が推奨され、境界明瞭な数 mm~1 cm大の薄壁を有する嚢胞が、両肺野にびまん性に、比較的均等に散在しているのが特徴である(図3A)。通常の撮影条件では、肺気腫と鑑別が難しい場合がある(図3B)。診断にあたっては、HRCTで特徴的な所見を確認し、かつ慢性閉塞性肺疾患(COPD)やBirt-Hogg-Dubè(BHD)症候群など他の嚢胞性肺疾患を除外することが重要である。また、腎血管筋脂肪腫、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ節腫脹、TSCに合致する骨硬化病変、腹水などの有無について、腹部~骨盤部のCT検査やMRI検査で確認することも診断にあたって有用である(図3C、3D)。可能であれば、経気管支肺生検あるいは胸腔鏡下肺生検により病理診断を得ることが推奨される。画像を拡大する■ 病理診断LAMの病理組織学的特徴は、LAM細胞の増殖とリンパ管新生である(図4)。画像を拡大するLAM細胞はやや未熟で肥大した紡錘形の平滑筋細胞様の形態を示し、免疫染色ではα-smooth muscle actinやHMB45陽性である。女性ホルモンレセプター(エストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプター)を発現する。LAM細胞は、集簇して結節性に増殖し、肺では嚢胞壁、胸膜、細気管支・血管周囲、体軸リンパ流路などで不連続性に増殖している。ヘモジデリンを貪食したマクロファージが高頻度に認められ、LAMの肺実質では不顕性に肺胞出血を繰り返していると想像される。乳び胸水や腹水合併例では胸腹水中のLAM細胞クラスター(図5)を証明することで診断可能である。画像を拡大する■ 肺機能検査肺機能検査では、拡散能障害と閉塞性換気障害を認め、経年的に低下する。換気障害よりも拡散障害を早期から認める点が特徴である。MILES試験の偽薬群では、FEV1は-144 ± 24 mL/年の低下率であった。一方、閉経前と閉経後の症例では、平均-204 vs.-36 mL/年(p<0.003)と有意に閉経後症例の低下率が低かった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)LAMに対する根治的治療法、すなわちLAM細胞を完全に排除し、破壊された肺を元に戻す治療法はない。MILES試験によりLAMの分子標的薬として確立されたmTOR阻害薬のシロリムスは、肺機能を安定化、乳び胸水・腹水・リンパ浮腫などのLAMに合併するリンパ系機能障害の病態の改善、合併する腎血管筋脂肪腫の縮小などの効果が報告されている。そして、その作用はLAM細胞に対して、殺細胞的ではなく静細胞的であると考えられている。すなわち、シロリムス内服を中止すると効果は消失し、元の病態が再来する。したがって、長期に内服することが必要であるが、免疫抑制薬でもあるシロリムスをLAM患者が長期内服した際の安全性についてのエビデンスはない。このような背景から、現時点では、LAMという疾患の自然史(図1)に照らして目の前の患者の状態を評価し、治療介入の利益と損益を熟考して治療方針を立てるべきである。以下に、LAMとその合併病態に対する治療を概説する。■ LAMに対する薬物療法1)シロリムス(国内未承認)肺機能が進行性に低下する場合(目安としてはFEV1<70 %pred)や内科的に管理困難な乳び胸水や腹水の合併例では、シロリムスの投与を考慮する。治験では血中トラフ値5 ~ 15 ng/mLを維持するように投与量が調節され、おおよそ2ないし3 mg/日(分1、朝食後)が必要となった。しかし、シロリムス1 mg/日の低用量(血中トラフ値<5 ng/mL)でも、十分な治療効果が得られたとの報告がある。シロリムスはCYP3A4で代謝されるため、肝障害やCYP3A4活性に影響を与える薬剤との相互作用に注意する。2)GnRH療法(偽閉経療法)女性ホルモンはLAM細胞の増殖に関与するため、gonadotropin-releasing hormone(GnRH)誘導体を投与して偽閉経状態にすることが、従来は経験的に行われてきた。リュープロレリン(商品名: リュープリン)1.88 mg 皮下注/4週ごと(保険適用外)、ゴセレリン(同: ゾラデックス)1.8 mg 皮下注/4週ごと(保険適用外)、ブセレリン(同: スプレキュア)1.8 mg皮下注/4週ごと(保険適用外)などの皮下注薬剤は月1回の投与で利便性が高く、かつ、女性ホルモンを確実に低下させ偽閉経状態をもたらすことができ、点鼻製剤より有用である。シロリムスが何らかの理由により投与できない場合、あるいは乳び漏の管理に難渋するなどの場合にはGnRH療法を考慮する。投与に際しては、更年期症状や骨粗鬆症が生じうるため、これらの治療関連病態を念頭におく必要がある。■ LAMの病態あるいは併存疾患の治療1)気管支拡張療法閉塞性換気障害があり労作性に息切れを認める症例では、COPDと同様に、抗コリン薬チオトロピウム(同: スピリーバ レスピマット)あるいはβ2刺激薬インダカテロール(同: オンブレス)などの長時間作用性気管支拡張薬の吸入を処方する(保険適用外)。2)気胸気胸を繰り返すことが多いため、気胸病態に対する治療とともに再発防止策を積極的に検討する。酸化セルロースメッシュ(同: サージセル)とフィブリン糊による胸腔鏡下全肺胸膜被覆術(カバリング術)は癒着を起こさず、再発防止が可能である。技術的に実施困難な施設では、気胸手術時の胸膜焼灼・剥離術、内科的癒着術[自己血、OK432(同: ピシバニール)ほか]などが行われる。3)乳び漏(乳び胸水や腹水など)に代表されるリンパ系機能障害乳び胸水、乳び腹水、乳び心嚢液、乳び喀痰、乳び尿、膣や腸管からの乳び漏、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫、下肢のリンパ浮腫、肺内のリンパ浮腫像などはLAMにみられる特徴的なリンパ系の機能障害である。LAM細胞の増殖に伴うリンパ管の閉塞・破綻が原因と考えられているが、LAM細胞増殖に伴うリンパ管新生がその背景要因である。脂肪制限食は、腸管からの脂肪吸収に伴うリンパ液の産生を減少させ、結果として乳び漏出を減少させる。下半身の活動量が増加するとリンパ流も増加するため、活動量を制限して安静にすることはリンパ漏を減少させる。リンパ浮腫は後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫を合併する症例にみられ、複合的理学療法(弾性ストッキング、リンパマッサージなど)が治療として有用である。これらの食事指導、生活指導、理学療法では乳び漏やリンパ浮腫の管理が困難な場合には、シロリムス投与を考慮する。何らかの理由でシロリムスを投与できない場合には、GnRH療法、胸膜癒着術(乳び胸水例に対して)、Denver® shunt(乳び腹水例に対して)などを適宜、考慮する。乳び漏を穿刺・排液し続けることは、栄養障害、リンパ球喪失に伴う二次性免疫不全状態を招来するので慎むべきである。4)腎血管筋脂肪腫AMLからの出血リスクを予測する因子は、腫瘤径よりもAMLに合併する動脈瘤の大きさのほうが感度・特異度ともに優れている。動脈瘤径≧5 mmでは出血のリスクが高まるため動脈瘤に対する塞栓術を考慮する。腫瘍径≧4 cmもひとつの目安であるが、4 cm以上であっても動脈瘤の目立たない例もあり、このような症例では腫瘍径≧4 cmであっても経過観察可能である。一般に、巨大なAMLを有していても腎機能は良好に保たれるため、安易な腎臓摘出術は慎むべきである。5)慢性呼吸不全在宅酸素療法、COPDに準じた呼吸リハビリテーションを行う。常時酸素吸入が必要な呼吸不全例、あるいはFEV1<30 %predでは肺移植を検討する。6)妊娠・出産妊娠・出産に伴う生理的負荷に耐えうる心肺機能を有することが前提となるが、妊娠・出産は必ずしも禁忌ではない。しかし、妊娠中の症状の増悪や病態の進行、気胸や乳び胸水を合併する可能性などのリスクを説明し、患者ごとの対応が必要である。妊娠・出産に際しては、気流制限が重症であるほどリスクが高い。4 今後の展望シロリムスは、二重盲検比較試験によりLAMに対して有効性が確認された薬剤であり、今後のLAMの自然史を大きく変える治療法として期待される。一方、長期投与による安全性は未確認であり、治療中は効果と有害事象のバランスを慎重に観察する必要がある。シロリムスは、LAM細胞に対して殺細胞的ではないため、シロリムスに他の薬剤を併用し、治療効果を高める基礎研究や臨床研究が考案されている。5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。また、連携すべき診療科は次のとおりである。産婦人科(妊娠・出産、合併あるいは併存する女性生殖器疾患)放射線科あるいは泌尿器科(腎血管筋脂肪腫の塞栓術)脳神経内科・皮膚科(結節性硬化症に関連したLAM)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター LAM(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)呼吸不全に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)気胸・肺のう胞スタディグループ(医療従事者向けのまとまった情報)The LAM foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった英文情報)患者会情報J-LAMの会(リンパ脈管筋腫症患者と支援者の会)※おもに若年女性に発症するため、仕事、結婚、妊娠・出産、育児などの諸問題に対して、患者のみならず家族を含めた心のケアやきめ細かな対応が望まれる。LAM患者と支援者によるJ-LAMの会は、医療者との連携、疾患についての情報提供や患者同士の交流促進の場として利用されている。1)Hayashida M, et al. Respirology. 2007; 12: 523-530.2)林田美江ほか. 日呼吸会誌. 2008; 46: 428-431.3)Johnson SR, et al. Eur Respir J. 2010; 35: 14-26.4)林田美江ほか. 日呼吸会誌. 2011; 49: 67-74.5)McCormack FX, et al. N Engl J Med. 2011; 364: 1595-1606.

364.

Stop at one! 骨折連鎖を止める骨粗鬆症治療の最前線

 2月6日(木)、「骨で人生は変わる!忍び寄る“骨粗鬆症”の恐怖とその治療最前線」と題し、日本イーライリリー株式会社主催のプレスセミナーが開催された。 はじめに、同社の臨床開発医師 シニアメディカルアドバイザーの宗和 秀明氏が、骨粗鬆症治療薬テリパラチド(商品名:フォルテオ)の製造販売後調査の中間報告について説明した。 レポートの概要は、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者1,671例(うち女性1,552例)について、1~24ヵ月時における安全性、有効性を評価したものである。対象患者の平均年齢は75.3歳、骨折歴が1,046例(62.6%)にあり、テリパラチド処方前の治療(上位3つ)はアレンドロネート(27.6%)、アルファカルシドール(17.2%)、リセドロネート(14.5%)というものであった。主な副作用(上位3つ)は悪心(0.78%)、めまい(0.48%)、頭痛(0.48%)の順で、12ヵ月後の治療継続率は71.9%であった。 効果として、すべての骨代謝マーカーがベースラインより有意に上昇したものの、骨吸収マーカーは骨形成マーカーほどの上昇はなく、骨密度の変化では、腰椎に有意な増加が認められる結果となった。また、投与12ヵ月後の椎体骨折の発生率は1.21%、非椎体骨折発生率は3.18%であり、背部痛では減少傾向を認めたと報告した。 続いて「骨で人生は変わる!忍び寄る“骨粗鬆症”の恐怖とその治療最前線」と題して、梅原 慶太氏(浜松南病院整形外科・リハビリテーション科 副部長)による、骨粗鬆症の概要(疫学、病態、症状)と治療薬についてのレクチャーが行われた。 骨粗鬆症は、周知のように患者のQOLを著しく阻害する疾患であり、とくに高齢女性の脊椎の圧迫骨折は、自覚症状なく突然起こり、これが連鎖骨折を引き起こすことで、予後を悪化させる怖い病気である。 わが国では、骨粗鬆症患者は1,300万人と推定され、うち治療を受けている患者は200万人程度といわれる。多くの患者が治療を受けず、骨折してはじめて骨粗鬆症に気づき治療を開始するのが現状である。そのため日本骨粗鬆症学会は「骨折連鎖を断つ!」、国際骨粗鬆症財団は「Stop at One!」を合言葉に、骨粗鬆症の啓発に努めている。 骨粗鬆症は、患者の身長が3~4cm低下した、問診で「戸棚の上が遠くなった」などの患者の気づきなどからおおよその診断がつく。また、60代に起こる手首の骨折は、骨粗鬆症のサインであり、このような患者にはとくに注意が必要であることが述べられた。 現在、骨粗鬆症の治療薬は、大きく骨吸収抑制薬と骨形成促進薬とに分けられる。前者は、破骨細胞を抑えることで骨強度・骨質の低下を防ぐもので、ビスホスホネート薬に代表され、内服・注射と種類も多彩である。後者は、骨芽細胞により骨形成を促進させることで骨強度・骨質の増加を促すもので、現在は注射薬のみである。 そして、今回は、骨形成促進薬のテリパラチドの使用と効果について詳しく報告が行われた。テリパラチドは、毎日自己注射を行うものと、週1回医療機関で注射を行うものがあるが、ここでは自己注射製剤フォルテオ®の効果が紹介され、骨密度の増加、微細構造の改善、骨石灰化分布の適正化などの効果や、腰椎骨密度で13.4%の増加、椎体骨折リスクで84%の低下が報告された。また、実際に24ヵ月使用した患者らの感想も動画で披露され、骨折連鎖が止まった症例などが報告された。 最後に梅原氏は、骨粗鬆症は「患者さんの骨を折るだけでなく、精神的にも疲弊させ心を折る疾患であること」、「高齢者であれば骨折による介護の負担も発生すること」を述べたうえで、「そうならないために、早期に骨粗鬆症予防と治療を行うことで健康寿命を延ばすことが、健康長寿社会の今、大事なことである」と結び、レクチャーを終えた。

365.

うつ病や不安症の患者は慢性疾患リスクが高い

 これまでの先行研究において、抑うつや不安が慢性疾患発症と関連することが報告されていた。米国・ウェストバージニア大学のRituparna Bhattacharya氏らは、うつ病や不安症が、関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心疾患、高血圧および骨粗鬆症などの慢性疾患に及ぼす影響を検討した。その結果、うつ病、不安症患者は、これらの症状がない人に比べて、慢性疾患のリスクが高いことが明らかになった。今回の結果を踏まえて、著者は「うつ病や不安症の存在は、人口動態および生活習慣リスク調整後も慢性疾患の独立したリスクであることが判明した」と述べている。BMC Psychiatry誌オンライン版2014年1月16日号の掲載報告。 研究グループは、うつ病や不安症に関連する慢性疾患の過剰リスクについて後ろ向き横断研究を行った。2007~2009年のMedical Expenditure Panel Surveyに登録された22~64歳の成人患者を対象とした。被験者を、うつ病または不安症に関する自己報告に基づき、1)うつ病単独、2)不安症単独、3)うつ病と不安症を併発、4)うつ病も不安症もなし、の4群に分類し、関節炎、喘息、COPD、糖尿病、心疾患、高血圧および骨粗鬆症の有無を従属変数として、うつ病や不安症に関連する慢性疾患の過剰リスクを算出した。検討に際してComplementary log-log 回帰モデルを用い、人口動態(性別、年齢、人種/民族)および生活習慣(肥満、身体活動欠如、喫煙)リスク因子で補正した多変量フレームワークを用いた。多重比較にはBonferroniの補正を行い、p≦0.007を統計学的有意差ありとした。 主な結果は以下のとおり。・全症例のうち、うつ病単独は7%、不安症単独は5.2%、うつ病と不安症の併発は2.5%であった。・うつ病も不安症もない人と比べて、うつ病と不安症を併発している患者、うつ病単独の患者、不安症単独の患者のいずれにおいても、すべての慢性疾患のリスクが高いことが多変量解析により示された。・うつ病と不安症を併発している患者の調整済みリスク比(ARR)は、骨粗鬆症に対する2.47(95%CI:1.47~4.15、p=0.0007)から、糖尿病に対する1.64(同:1.33~2.04、p<0.0001)にわたった。・また、うつ病単独の患者も、骨粗鬆症を除くすべての慢性疾患と有意な相関を示した。・不安症単独の患者では、関節炎、COPD、心疾患および高血圧のリスクが高かった。関連医療ニュース 食生活の改善は本当にうつ病予防につながるか 少し歩くだけでもうつ病は予防できる ヨガはうつ病補助治療の選択肢になりうるか

366.

低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症〔MHH : male hypogonadotropic hypogonadism〕

1 疾患概要■ 概念・定義低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症(male hypogonadotropic hypogonadism:MHH)は、視床下部ないしは下垂体の障害によりFSH(Follicle Stimulating Hormone:卵胞刺激ホルモン)およびLH(Lutenizing Hormone:黄体化ホルモン)の分泌低下を来す、まれな疾患である。■ 疫学発症頻度は、10万人に1人と報告されている。■ 病因間脳-下垂体-精巣系は、図1に示すように血中テストステロン濃度によるネガティブフィードバックによって調節されているが、最近は国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部の緒方 勤氏(現 浜松医科大学 小児科 教授)を中心とした研究から、間脳(median basal hypothalamus:視床下部の正中隆起)と下垂体の間の調節機構に関わる因子が、動物実験とMHHの家系調査や遺伝子検索によって次第に明らかになってきている(図2)。画像を拡大する画像を拡大する下垂体からのLH分泌が低下した病態として、KISS-1 neuronからのKisspeptine分泌障害、KisspeptineとそのリガンドであるGPR54の結合障害、Gn-RH neuronから軸索を通ってのGnRH分泌の分泌障害(TAC3/TACR3遺伝子が関与)、下垂体でのGnRHR(GnRH受容体)の異常によるものなどの存在が明らかにされ、ジェネティック・エピジェネティック解析の進展につれて、病因別(遺伝子異常別)に病態の整理が進むものと期待されている(図3)。画像を拡大する■ 症状MHH患者では、精巣機能低下により、第二次性徴発来の欠如や骨粗鬆症や男子不妊症を呈する。また、MHHの亜型と考えられているadult-onset MHHでは、脱毛や勃起障害やうつ症状などのLate-Onset Hypogonadism syndrome(LOH症候群: 加齢男性性腺機能低下症候群)の症状を呈することもある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)小児期に汎下垂体機能低下症として発症した場合には、すでに下垂体ホルモンの補充療法がなされており思春期初来・第二次性徴の誘導から精子形成の誘導を行うことになる。また、事故による下垂体外傷や下垂体腫瘍治療としての下垂体摘除後(外科治療・放射線治療)であれば、治療歴から診断は容易である。LHならびにFSHのみが低下したMHHは、精巣機能低下に起因するものが全面に出てくる。臨床症状としては、第二次性徴の遅れが最も頻度が高い。adult-onset MHHの場合は、性欲低下、勃起障害、意欲の低下、健康感の喪失、うつ症状などのLOH症候群と似た症状や、体毛の脱落を訴える場合もある。身体所見は、血中テストステロンの低下の程度によって影響され、以下のような所見を呈することが多い。(1)外性器発育不全:マイクロペニス、陰嚢発育不全、精巣容積の低下(2)体毛や体脂肪分布:まばらな脇毛や女性形の陰毛分布、体脂肪分布の女性化、小児体型(3)骨粗鬆症:頻回の骨折、骨塩量減少(4)汎下垂体低下症に合併した小児例では、低身長臨床検査所見では、(1)血中テストステロン(T)値の低下、LH単独ないしはFSHと共に低下、貧血。(2)24時間血中LH値測定でLHの律動分泌の低下(adult-onset MHHの診断に有効)(3)hCG負荷試験で正常反応、Gn-RH負荷試験で正常~過剰反応3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療法はテストステロン補充療法とゴナドトロピン療法に大別される。前者は第二次性徴の発現・性欲亢進・骨粗鬆症予防には有用であるが、外因性テストステロンにより精子形成が抑制されるため、挙児希望のあるMHH患者は適応がない。挙児希望のMHH患者においては、精子形成を誘発するためにゴナドトロピン療法が行われる。視床下部性MHHの場合はGnRH投与が有効であるが、GnRH分泌のパルスパターンを再現するために携帯注入ポンプを使用しなければならないため、患者にとって治療のコンプライアンスが悪く実用的でない。このため、わが国におけるMHH患者治療の第一選択は、LHの代用としてhCGと遺伝子組換え型ヒトFSH製剤(r-hFSH製剤:ホリトロピン アルファ)が用いられている。MHHは特定疾患に分類され、申請すれば治療費は全額公費負担となる。さらに、治療コンプライアンスの向上のために在宅自己注射が認められている。適応薬は次の2薬に限られていることに注意が必要である。(1)hCG製剤(商品名:ゴナトロピン5000)(2)r-hFSH製剤(同:ゴナールエフ皮下注ペン)さらに、保険上注意が必要なのは、ゴナトロピン®に関してはHMMの在宅自己注射にのみ皮下注射が認められている点である(MHH以外は、医療機関での筋注のみの適用)。これまでは、経験的に以下のような治療法が行われてきた。まず、ゴナトロピン®3,000~5,000単位を2~3回/週先行投与して血中T値が正常化するのを確認する。同時に精液検査を行い、精子形成誘導の成否を判定する。血中T値が正常化しても精液検査所見が正常化しない場合には、ゴナールエフ®皮下注ペン75~150単位を2~3回/週追加使用するプロトコールが行われてきた。しかし、現在MHH研究会を中心に治療の全国集計が行われており、hCG製剤とr-hFSH製剤の同時投与開始のほうが精子形成誘導に至る時間が短いことが明らかにされつつある。詳細な調査結果の公表後に、標準治療法が変更になる可能性がある。挙児希望の場合には、精子形成が誘導され児を得た後は、テストステロン補充療法に移る。テストステロンエナント(同:エナルモンデポー)125~250mgを2~4週ごとに筋注する。この療法はhCG + r-hFSH療法に比べて治療回数が少なくて済むため、患者の利便性は高い。しかし、テストステロン補充療法は筋注であり、在宅自己注射は認められていない。このため、患者は医療機関を定期的に受診する必要がある。精子形成は急速に抑制され、6ヵ月で無精子となる。エナルモンデポー®を筋注した場合、血中T値は急速に上昇するため、全身のほてりや、にきびの発生、骨痛などの症状が現れることがある。また、血中T値の低下につれて、筋力低下、抑うつ気分などの症状が現れる。これらの症状に応じて、テストステロン補充の間隔を調節する必要がある。すぐに挙児を希望しない場合でも、hCG + r-hFSH療法により精子形成が確認されれば、これを将来のバックアップとして凍結保存することを推奨している。この後に前述のようにテストステロン補充を行い、挙児を希望したときにhCG + r-hFSH療法に変更している。筆者らの経験では、以前にhCG + r-hFSH療法で精子形成の誘導が確認されたMHH症例では、テストステロン補充療法でいったん無精子症になっても、全例で精子形成の再誘導が確認されている。汎下垂体機能低下症の小児例に対しては、成長(身長の伸び)と第二次性徴の誘導のバランスが必要であり、これまでのところ、定まった治療方法は存在しないのが現状である。これに関しても、現在MHH研究会が全国集計を行い、治療法の標準化を図ろうとしている。最終報告まで、数年かかる見込みである。4 今後の展望分子遺伝学の進歩に伴って、MHHの病因の解明が進んでいる(図3)。しかしながら治療法に関しては、原因に根ざしたものは不可能であり、前述の方法しかない。5 主たる診療科汎下垂体機能低下症によるMHHは、小児科で治療が開始され、成人になってからは内分泌内科および泌尿器科(主に精子誘導)が連携して治療を行うことになる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報hCG製剤の添付文書(あすか製薬のホームページ)(医療従事者向けの情報)MHHに関する情報ページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)

367.

シリコンによる補強が椎体圧迫骨折の二次骨折リスクを軽減

 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)というアクリル樹脂を用いた椎骨補強による治療が広く行われているが、合併症として処置部に隣接する椎骨の二次骨折が知られている。この二次骨折は、椎骨と比較してPMMAの剛性が高いことによると考えられることから、骨に近い生体力学的特性を有しているシリコンがPMMAの代替として期待されている。ドイツ・ミュンスター大学病院のTobias L. Schulte氏らは、初めてシリコンとPMMAを用いた椎体補強時の剛性を比較し、シリコンにより二次骨折のリスクが軽減される可能性があることを示唆した。シリコンによる椎骨補強は骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する治療の選択肢となりうるとまとめている。European Spine Journal誌2013年12月号(オンライン版2013年7月24日号)の掲載報告。 研究グループは、本検討でPMMAあるいはシリコンで補強した椎骨の生体力学的な違い、とくに剛性を調べることを目的とした。 検討には、骨粗鬆症であるが圧迫骨折がないことを確認した40体のヒトの脊椎(T10-L5)を用い、標準的な方法で楔状骨折を作成し、4群に分けてPMMAまたはシリコンを各々2つの充填率(16%および35%)で椎体に注入した。 次いで、無処置椎体、充填椎体および周期的負荷を与えた充填椎体について、低負荷時(100~500 N)の剛性を測定した。また、充填椎体に破断強度の20~65パーセントの高負荷(5,000サイクル=0.5Hz)を与えた場合の剛性を測定した。 主な結果は以下のとおり。・低負荷時剛性は、無処置椎体に比べ周期的負荷処置後にPMMA充填椎体で増加(充填率35%群で115%、16%群で110%)、シリコン充填椎体で低下した(それぞれ87%および82%)。・高負荷時剛性は、無処置椎体に比べPMMA充填率35%群で361%、16%群で304%、シリコン充填率35%群で243%、16%群で222%であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

368.

新規抗スクレロスチン抗体、閉経後の骨密度を増大/NEJM

 閉経後に骨密度(BMD)が低下した女性に対する抗スクレロスチン抗体romosozumab投与は、腰椎BMDを12ヵ月で5~11%改善することが示された。米国・オレゴン骨粗鬆症センターのMichael R. McClung氏らが、romosozumabの有効性について検討した第2相臨床試験の結果、報告した。NEJM誌オンライン版2014年1月1日号で発表した。主要エンドポイントは腰椎BMDの変化 McClung氏らは、閉経後の55~85歳女性でBMDの低下が認められる419例を対象に、 12ヵ月間にわたるromosozumabの有効性と安全性を評価する第2相多施設共同国際無作為化プラセボ対照並行群(8群)試験を行った。被験者は、腰椎、全股関節あるいは大腿骨頚部のTスコアが-2.0以下、あるいは3部位いずれも-3.5以上だった。 研究グループは被験者を無作為に8群に分けて、70mg、140mg、210mgのromosozumab皮下投与を毎月、140mg、210mgを3ヵ月ごと、プラセボ、アレンドロン酸経口投与(70mg/週)、テリパラチド皮下投与(20μg/日)をそれぞれ投与した。 主要エンドポイントは、12ヵ月後の腰椎BMDのベースライン時からの変化だった。副次エンドポイントは、その他の部位である全股関節、大腿骨頚部のBMDの変化、骨代謝マーカーの値などだった。romosozumab投与群すべてで腰椎BMDが有意に改善 結果、romosozumab投与群では、すべての投与量群で腰椎BMDの有意な改善が認められた。210mg毎月投与群のベースライン時からの変化率は11.3%、140mg毎月投与群では9.1%、70mg毎月投与群では5.4%であり、3ヵ月ごとの210mg投与群は5.5%、同140mg投与群では5.4%だった。 一方、アレンドロン酸群の同BMDの変化は4.1%、テリパラチド群7.1%、プラセボ群-0.1%だった。 また、romosozumab投与は、全股関節と大腿骨頚部の骨密度を大幅に増加し、骨形成マーカーの一時的増加と、骨吸収マーカーの持続的減少に関与していた。 romosozumab投与群で軽度の注射部位反応が認められたほかは、各群の有害イベントは同等だった。 著者は、「romosozumabは骨密度が低下した閉経後女性において、骨密度と骨形成の増大、および骨吸収減少と関連することが認められた」と結論している。

369.

ビタミンDの補充はターゲットを絞って行うべきか(コメンテーター:細井 孝之 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(150)より-

ビタミンDは「骨の健康」においてなくてはならないビタミンであるが、近年、筋肉・筋力や認知機能との関連も示唆されており、超高齢社会における注目度は上がっている。一方、ビタミンDの充足率は高くなく、日本人の少なくとも半数以上はビタミンD不足であることが推測されている。 ビタミンDの充足状況は血清中の25水酸化ビタミンD濃度を指標にして評価されるが、この測定は保険適用を受けていない。また、ビタミンD補充の効果も血清25水酸化ビタミンD濃度をもって評価することが可能であるが、さらに臨床的な効果を評価するためには骨密度、骨折発生率、筋肉量、転倒回数、生命予後などが指標になる。 本論文はこのうちの骨密度に関する効果をメタ解析の手法で検討したものである。その結果、一般住民におけるビタミンD補充の骨密度に対する効果は大腿骨近位部についてのみ認められた。とくにこの効果は、ベースラインの血清25水酸化ビタミンD濃度が低い場合に明らかであったことが示された。これらのことから、ビタミンDの補充は一般住民にあまねく補充することには疑問が呈された。 見方を変えれば、ビタミンDの補充が必要な集団を特定したうえで補充することの意義をあらためて確認すべきであると提言した、重要な論文である。

371.

骨粗鬆症でない一般住民へのビタミンD補充/Lancet

 骨粗鬆症でない一般住民へのビタミンD補充はベネフィットが少ないことが、ニュージーランド・オークランド大学のIan R Reid氏らのシステマティックレビューとメタ解析の結果、示された。著者は「ビタミンD欠乏症に対する特異的なリスク因子のない一般住民は、骨粗鬆症予防目的でビタミンDを常用する必要がないことが示された」と結論している。Lancet誌オンライン版2013年10月10日号掲載の報告より。一般住民に対するビタミンD補充が骨密度に及ぼす影響をメタ解析 レビューは、Web of Science、Embase、Cochrane Databaseをソースに、2012年7月8日までに公表された、ビタミンD(D3またはD2、ビタミンD代謝物は除く)の骨密度への影響について評価した無作為化試験を対象とした。試験は、異なるビタミンD含有量を比較している試験、被験者が骨粗鬆症などの代謝性骨疾患を有していない成人(平均年齢20歳超)を含む試験のみを対象とした。 主要エンドポイントは、ベースライン時からの骨密度の変化(%)。ベネフィットが示されたのは大腿骨頸部のみ 3,930試験が検索でヒットし、そのうち23試験(平均試験期間23.5ヵ月、被験者4,082例、女性92%、平均年齢59歳)が適格基準を満たし解析に組み込まれた。19試験は、主に白人集団を対象とした試験だった。 8試験・1,791例の被験者の、ベースライン時の平均血清25-ヒドロキシビタミンD値は50nmol/L未満だった。また、10試験・2,294例の被験者は、ビタミンDの1日投与量が800 IU未満だった。 各試験の骨密度の測定は、5部位(腰椎、大腿骨頸部、股関節、転子、全身、前腕)のいずれか1部位で行われていた。統計的有意差の検証試験は70種類にわたっていた。 結果、骨密度に有意なベネフィットがあることが示されていたのは6試験(うち複数部位でのベネフィットが示されていたのは1試験のみ)で、有意な有害性(全身、p≦0.05)が2試験で示され、残りの試験は有意性が示されていなかった。 部位別の解析では、大腿骨頸部でわずかなベネフィットが示された(13試験、加重平均差:0.8%、95%信頼区間[CI]:0.2~1.4、試験間の異質性:I2=67%、p<0.00027)。ただし著者は、本結果にはプラスのバイアスがかかっているとしている。同様のバイアスは股関節部位の解析においてもみられたが、同部位を含め、その他の部位ではベネフィットがあることは示されなかった。 また、良好なアウトカムを示していた5試験のうち3試験は、被験者のベースライン時の25-ヒドロキシビタミンD値が低値だった(26、29、36nmol/L)。

372.

わが国のHIVの現状 ~抗HIV療法関連の骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患が問題に~

約30年前は死に至る病と言われていたHIV感染症。現在は、定期的な受診と適切な服薬継続により長期にわたり日常生活を続けることが可能になり、慢性疾患と考えられるようになりつつある。しかしながら、日本では感染者が増加傾向にあり、新たに抗HIV療法に関連した代謝性疾患などが問題となっている。このたび、途上国のエイズ対策を支援する『世界エイズ・結核・マラリア対策基金』の支持を決定する技術審査委員の1人である、しらかば診療所 院長の井戸田 一朗氏が、ヤンセンファーマHIV/AIDSメディアセミナー(2013年10月29日開催)でHIVの現状や課題を紹介した。性感染症にかかるとHIVにかかりやすい井戸田氏のクリニックは、セクシャル・マイノリティ(同性愛者、バイセクシャル、トランスジェンダーなど)を主な対象として2007年に東京都新宿区に開院した。現在、同クリニックには約400人のHIV陽性者が定期的に通院しているという。井戸田氏が性感染症にかかった男性にHIV検査を勧めて検査した結果(自分で希望した人は除外)、淋菌感染症患者では20%、梅毒患者では13%、尖圭コンジローマ患者では26%がHIV陽性であった。井戸田氏は、「性感染症、とくに淋菌感染症、梅毒、尖圭コンジローマにかかった人は、HIV感染症も検査することが大切」と強調した。男性間の性的接触による感染が増加わが国の性感染症の報告数は全体的に減少傾向にあるが、新規HIV感染者とAIDS患者数は年々増加している。その内訳をみると、異性間性的接触による感染はほとんど変化がないのに比べて、男性間性的接触による感染の増加は著しく、2011年では全体の64%を占めていた。人口当たりのHIV陽性累積数は、都道府県別では、東京、大阪、茨城、長野、山梨の順で多く、HIV感染者とAIDS患者の6割が関東に集中している。男性間性的接触をする男性(MSM:men who have sex with men)の割合については、2005年度国勢調査における対象地域(関東、東海、近畿、九州)の男性では、性交渉の相手が同性のみ、もしくは両性である割合が2.0%(95%CI:1.32~2.66%)と報告されている。井戸田氏は、MSMにおけるHIVや性感染症の流行の背景として、解剖学的差異、性交渉の様式、ハッテン場・インターネットでの出会い、薬物(アルコール含む)、心理的要因を挙げた。HIV陽性者の予後と今後の課題HIV陽性者の予後は、抗HIV療法の登場により、20歳時の平均余命が36.1歳(1996~1999年)から49.4歳(2003~2005年)に延長した。また、抗HIV療法の登場により、カポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫などのエイズ関連悪性腫瘍が減少する一方で、非エイズ関連悪性腫瘍(肛門がん、ホジキンリンパ腫、肝がん、皮膚がん、肺がん、頭頸部がん)が増加してきている。HIV陽性者においては脳心血管イベントの発生率が上昇する。禁煙によりそのリスクを下げることができるが、井戸田氏によると、同院を訪れるHIV陽性MSMでは喫煙者が多く52%に喫煙歴があったという。また、最近、抗HIV療法に関連した骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患(脂質異常症、糖尿病)が問題となっている。井戸田氏は、HIVに直接関係のないこれらの疾患について、「それぞれの分野の先生に診てもらえるとHIV陽性者や拠点病院にとって大きな支えになる」と各領域の医師からの協力を期待した。(ケアネット 金沢 浩子)

374.

患者の声を聴き、適切な治療選択を ~動き続けるための、膝の痛みの解消法の実際~

2013年9月24日(火)、ヤンセンファーマ株式会社主催の疼痛メディアセミナーが開催された。このセミナーで石島 旨章氏は、変形性膝関節症について講演。変形性膝関節症のわが国での実態や、解明されつつある病態、治療法について述べた。変形性膝関節症の痛みの要因膝関節の軟骨が摩耗し、関節に炎症や変形が生じる変形性膝関節症は、わが国では患者が約2,500万人、そのうち痛みを伴う患者は約800万人と推定されている。膝の痛みにより活動が制限され、移動能力が低下しロコモティブシンドロームにつながり、ひいては生命予後にも影響しかねない疾患である。変形性膝関節症の痛みは侵害受容性疼痛であるが、疼痛をもたらす要因として「炎症反応」と、軟骨の減少とともに関節が変形し、荷重を支える部位が狭くなり痛みを誘発する「生体力学的異常」がある。これに対し、診断に一般的に用いられる単純レントゲン検査は軟骨の厚みを間接的にみているにすぎず、症状と病態の連関が不十分で、レントゲンで診断できる段階では、軟骨だけでなく軟骨下骨や半月板などの組織にも障害が及んでいる。今後、患者の治療満足度の向上を図るためには、病態の解明を進め診断能力と進行予知能力を向上していく必要がある。進む病態研究現在は、とくに初期の変形性膝関節症をみていくために、バイオマーカーおよびMRIを用いて関節内の代謝異常と構造変化を詳細に評価し、疼痛との関連を評価する試みが進められている。この中で、近年の研究の進展とともに、疼痛に対する炎症の寄与はかなり初期の段階に限られており、変形性膝関節症が進行した状態では炎症の寄与は決して増加しないこと、また、初期の段階でも今まで認識できなかった構造異常に伴う生体力学的異常が起きていることが少しずつ解明されてきている。治療は非薬物療法と薬物療法変形性膝関節症の治療としては、現在は疾患修飾型治療が存在せず、既存の保存療法の選択肢の拡充とエビデンスを確立していくことが現在の課題である。保存療法では、運動療法を中心とした非薬物療法と薬物療法の併用がガイドライン*で推奨されており、薬物療法ではNSAIDsが推奨度Aとされ、広く用いられている。しかし、NSAIDsでは疼痛を改善できない患者も多数存在している。このようなNSAIDsが効かない疼痛に対し、海外ではオピオイドが有効であるとのエビデンスが、システマティクレビューにより報告されつつある(わが国ではオピオイドは本疾患への臨床経験がなく、ガイドラインに未掲載)。これについて前述の形態学的な話でいえば、構造変化に伴う生体力学的異常が進行している状態では、NSAIDsでの疼痛治療は困難と考えられ、このような場合にオピオイドの使用を考慮する余地がある。骨粗鬆症では治療により骨折を予防できる可能性が出てきた。変形性膝関節症ではその段階まで達していないが、病態の理解を丁寧に進めていくことで疾患の進行抑制につながるものと考えている。*変形性膝関節症の管理に関するOARSI(Osteoarthritis Research Society International)勧告:OARSIによるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン(日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化終了版) (ケアネット 萩原 充)

375.

運動器疾患における疼痛に関する患者調査 ~痛みのために患者が困っていることとその解決法~

宗圓 聰 ( そうえん さとし ) 氏近畿大学医学部奈良病院  整形外科・リウマチ科 教授2013年9月24日(火)、ヤンセンファーマ株式会社主催の疼痛メディアセミナーが開催され、宗圓 聰氏は本年発表された、運動器疾患患者(椎間板ヘルニア、関節リウマチ、変形性膝関節症、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症)の疼痛に関する治療実態や治療の満足度に関する調査1)(調査概要:文末参照)について報告した。痛みのために現在困っていること通院治療中の患者でも、痛みのために日常生活で支障を感じている患者は多く、とくに椎間板ヘルニア、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症では70%以上の人が痛みのために日常生活に何らかの支障(階段を上るのに苦労するなど)を感じていた。治療による痛みの改善度合い・効果への満足度どの疾患でも治療により痛みは改善されているが、中程度の痛みが残っていた。痛みの治療効果に対する満足度は疾患により異なり、関節リウマチが最も高く(75%)、脊柱管狭窄症患者の満足度が最も低かった(55%)。関節リウマチでは、近年の治療薬の進歩とともに治療効果への満足度が向上していることがうかがえる。病院以外での治療実施割合治療効果に満足していない患者は、病院・クリニックでの治療以外にコルセット・サポーターなどの装具やサプリメントを中心に、何らかの治療をしている割合が高く、これらによる除痛効果を期待していることが示唆された。経口鎮痛薬:服用している薬剤、服用割合、服用期間経口鎮痛薬を服用している割合は、椎間板ヘルニアで約70%、関節リウマチ、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症で50%強、骨粗鬆症で30%弱であった。服用している経口鎮痛薬は、NSAIDsが約90%を占め、経口薬服用患者のうち70%以上はすでに1年以上にわたって経口薬を服用していた。これらの調査結果から、宗圓氏は特筆すべき点として、経口鎮痛薬として約90%がNSAIDsを服用し、その多くの患者が1年以上続けている状況を指摘。「NSAIDsには副作用としてさまざまな臓器障害があり、とくに高齢者では1年以上続けると腎障害が強く懸念される。3ヵ月継続して効果が思わしくない場合は、オピオイドなど別の薬剤を検討すべきだ」と述べ、NSAIDsの長期使用は慎重に行うべきであると訴えた。*「運動器疾患における疼痛に関する患者実態調査」調査概要・目的:5大疾患の患者の治療実態や治療の満足度の把握・対象:5大疾患の診断を受け通院治療中の40歳以上の患者[椎間板ヘルニア165例、関節リウマチ179例、変形性膝関節症195例、骨粗鬆症186例、脊柱管狭窄症172例(併発している場合は主疾患を優先)]・方法:楽天リサーチ患者パネルを用いたWeb調査・調査地域:全国・期間:2012年11月27日~12月3日・実施:ヤンセンファーマ株式会社(ケアネット 萩原 充)出典1)宗圓 聰. Progress in Medicine. 2013; 33: 1215-1220.※ 所属・施設等は、制作当時のものです。

377.

ロコモティブシンドローム ― 「ロコモ度テスト」で若いうちから対策を ―

2013年9月12日、都内にて日本整形外科学会プレスセミナーが開催され、大江 隆史氏が「ロコモティブシンドロームの2025年問題~幅広い年齢層へのロコモ対策の必要性~」と題し、講演を行った。日本整形外科学会では2007年より、「運動器の障害によって移動能力の低下をきたし、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態」を「ロコモティブシンドローム」(和名:運動器症候群、略称:ロコモ)として提唱。この背景には、わが国では運動器疾患(変形性腰椎症、変形性膝関節症、骨粗鬆症)を複数合併している患者が非常に多く、運動器の障害は要支援・要介護の要因の第1位を占めていることがある。一方で、超高齢社会のわが国では、団塊世代が全員75歳以上となるころに医療費などの社会保障費の高騰が予想される「2025年問題」が懸念されている。すでに総人口の約3分の1がロコモもしくはロコモ予備群であると報告されているいま、2025年問題の観点からも、ロコモ対策は喫緊の課題である。ロコモの特徴と現状大江氏は、ロコモの概念について、「移動能力に着目し、移動能力低下の過程・状態を総合的に捉えたもの」と紹介し、高齢者のロコモでは「加齢に伴い疾患・機能障害が複合・連鎖する悪循環に陥りやすくなり、移動能力の低下を引き起こすことが特徴的な問題である」と述べた。また、骨量・筋力の変化の調査では、運動器の性質・機能の衰えは高齢になる前から始まることが報告されているものの、成人以降は運動器に関する検査(客観的評価)をほとんどの人は受けていないのが現状であり、これを変えないと将来のロコモ予防につながらないことを強調した。「ロコモ度テスト」で若いうちからロコモ対策を続いて大江氏は、日本整形外科学会が開発した「ロコモ度テスト」について言及。日本整形外科学会は従来からロコモのチェックリストを作成していたが、従来のものは、「中高齢者向き」、「数値化が困難」、「主観的である」などの課題があったため、2013年にこれらの課題を解決すべく、新判定基準の「ロコモ度テスト」を開発した。新しい「ロコモ度テスト」は、「立ち上がりテスト」(脚力を調べる)、「2ステップテスト」(歩幅を調べる)、「ロコモ25」(身体の状態・生活状況を調べる)の3つから成り、若いうちから取り組むことができる。このテスト結果が年代相応の値に達しない場合、その状況が続くと「将来ロコモになる可能性が高い」ことを示し、定期的に数値化することでトレーニングによる変化も確認できるようになる。大江氏は、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」の方法を自ら実演して示し、将来、要支援・要介護状態にならないよう、ロコモ度テストを活用し自分のために自分でロコモ対策を行うことの必要性を訴えた。健康日本21(第二次)では、ロコモに関する目標として「ロコモを認知している国民の割合の向上」と「足腰に痛みのある高齢者の割合の減少」を掲げている。また、日本整形外科学会では、ロコモの予防啓発を目的とした「ロコモ チャレンジ!推進協議会」を2010年8月より立ち上げ、さまざまな啓発活動を実施している。大江氏は、「運動器に起因する要介護者数の減少に向け、ロコモ対策先進国として日本が世界をリードしていく」と決意を述べ、講演を締めくくった。(ケアネット 萩原 充)

378.

老人保健施設内の転倒事故

内科最終判決平成15年6月3日 福島地方裁判所 判決概要老人保健施設入所中の95歳女性、介護保険では要介護2と判定されていた。独歩可能で日中はトイレで用を足していたが、夜間はポータブルトイレを使用。事故当日、自室ポータブルトイレの排泄物をナースセンター裏のトイレに捨てにいこうとして、汚物処理場の仕切りに足を引っかけて転倒した。右大腿骨頸部骨折を受傷し、手術が行われたが、転倒したのは施設側の責任だということで裁判となった。詳細な経過患者情報明治38年生まれ、満95歳の女性。介護保険で要介護2の認定を受けていた経過平成12年10月27日老人保健施設に入所。入所動機は、主介護者の次女が入院することで介護者不在となったためであった。■入所時の評価総合的な援助の方針定期的な健康チェックを行い、転倒など事故に注意しながら在宅復帰へ向けてADLの維持・向上を図る。骨粗鬆症あり、下半身の強化に努め転倒にも注意が必要である。排泄に関するケア日中はトイレにいくが夜間はポータブルトイレ使用。介護マニュアルポータブルトイレ清掃は朝5:00と夕方4:00の1日2回行う。ポータブルトイレが清掃されていない場合には、患者はトイレに自分で排泄物を捨てにいったが、容器を洗う場所はなかったので排泄物の処理と容器の洗浄のために、ときおり処理場を利用していた。どうにか自分で捨てにいくことができたので、介護職員に頼むことは遠慮して、自分で捨てていた。1月8日05:00ポータブルトイレの処理状況「処理」17:00ポータブルトイレの処理状況「処理していない」夕食を済ませ自室に戻ったが、ポータブルトイレの排泄物が清掃されておらず、夜間もそのまま使用することを不快に感じ自分で処理場に運ぼうとした。18:00ポータブルトイレ排泄物容器を持ち、シルバーカー(老人カー)につかまりながら廊下を歩いてナースセンター裏のトイレにいき(約20m)、トイレに排泄物を捨てて容器を洗おうと隣の処理場に入ろうとした。ところが、その出入口に設置してあるコンクリート製凸状仕切り(高さ87mm、幅95mm:汚物が流れ出ないようにしたもの)に足を引っかけ転倒した。職員が駆け寄ると「今まで転んだことなんかなかったのに」と悔しそうにいった。そのまま救急車で整形外科に入院し、右大腿骨頸部骨折と診断された。平成13年1月12日観血的整復固定術施行。3月16日退院。事故の結果、創痕、右下肢筋力低下(軽度)の後遺症が残り、1人で歩くことが不自由となった。3月7日要介護3の認定。誠意の感じられない施設側に対し、患者側が損害賠償の提訴に踏み切る(なお事故直後の平成13年1月20日、仕切りの凸部分を取り除くための改造工事が施工された)。当事者の主張入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張施設側は介護ケアーサービスとして入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務があったのに怠り、患者自らが捨てにいくことを余儀なくされて事故が発生した。これは移動介助義務、および入所者の安全性を確保することに配慮すべき義務を果たさなかったためである。病院側(被告)の主張足下のおぼつかないような要介護者に対しては、ポータブルトイレの汚物処理は介護職員に任せ、自ら行わないように指導していた。仮にポータブルトイレの清掃が行われなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。ところが事故発生日に患者が介護職員にポータブルトイレの清掃を頼んだ事実はない。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と事故との間に因果関係は認められない。工作物の設置・保存の瑕疵患者側(原告)の主張老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人の入所施設であるという特質上、入所者の移動などに際して身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が求められている。処理場の出入口には仕切りが存在し、下肢機能が低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる形状の設備であり「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当する。病院側(被告)の主張処理場内の仕切りは、汚水などが処理場外に流出しないことを目的とするもので、構造上は問題はなく、入所者・要介護者が出入りすることは想定されていない。したがって、工作物の設置または保存の瑕疵に該当しない。入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張ポータブルトイレの清掃を他人に頼むのは、患者が遠慮しがちな事項であり、職員に頼まずに自分で清掃しようとしたからといって、入所者に不注意があったとはいえいない。病院側(被告)の主張高齢であるとはいえ判断力には問題なかったから、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。そのように指導されていたにもかかわらず、自ら処理しようとした行動には患者本人の過失がある。裁判所の判断記録によれば、ポータブルトイレの清掃状況は、外泊期間を除いた29日間(処理すべき回数53回)のうち、ポータブルトイレの尿を清掃した「処理」23回トイレの中をみた「確認」15回声をかけたが大丈夫といわれた「声かけ」が2回「処理なし」3回「不明」10回とあるように、必ずしも介護マニュアルに沿って実施されていたわけではない。しかも、実施したのかどうか記録すら残していないこともある。居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれをトイレまで運んで処理・清掃したいと考えるのは当然である。施設側は「ポータブルトイレの清掃がなされていなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである」と主張するが、上記のようにポータブルトイレの清掃に関する介護マニュアルが遵守されていなかった状況では、患者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、施設職員がただちにかつ快くその求めに応じて処理していたかどうかは疑問である。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃をマニュアルどおり定時に行うべき義務に違反したことによって発生した転倒事故といえる。また、老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人が入所するのだから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用などに際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造がとくに求められる。ところが、入所者が出入りすることがある処理場の出入口に仕切りが存在すると、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる可能性があり、「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当するので、施設側の賠償責任は免れない。原告側合計1,055万円の請求に対し、合計537万円の判決考察このような判決をみると、ますます欧米並みの「契約社会」を意識しなければ、医療従事者は不毛な医事紛争に巻き込まれる可能性が高いことを痛感させられます。今回は、95歳という高齢ではあったものの、独歩可能で痴呆はなく、判断力にも問題はなかった高齢者の転倒事故です。日中はトイレまで出かけて用を足していましたが、夜は心配なのでベッド脇に置いたポータブルトイレを使用していました。当初の介護プランでは、1日2回ポータブルトイレを介護職員が掃除することにしました。ところが律儀な患者さんであったのか、排泄物をどうにか自分でトイレに捨てにいくことができたので、施設職員に頼むことは遠慮して、時折自分で捨てていたということです。そのような光景をみれば誰しもが、「ポータブルトイレの汚物をトイレまで捨てにいくことができるのなら、リハビリにもなるし、様子を見ましょう」と考えるのではないでしょうか。そのため、最初に定めたマニュアル(1日2回ポータブルトイレの確認・処理)の遵守が若干おろそかになったと思われます。ところが、ひとたび施設内で傷害事故が発生すると、どのようなマニュアルをもとに患者管理を行っていたのか必ずチェックされることになります。本件では「ポータブルトイレ清掃は朝5:00夕方4:00の1日2回行う」という介護マニュアルが、実態とはかけ離れていたにもかかわらず、変更されることなく維持されたために、施設側が賠償責任を負う結果となりました。したがって、はじめに定めた看護計画や介護計画については、はたして実態に即しているのかどうか、定期的にチェックを入れることがきわめて重要だと思います。もし本件でも、本人や家族とポータブルトイレの汚物処理について話し合いがもたれ、時折自分で処理をすることも容認するといったような合意があれば、このような一方的な判断にはならずにすんだ可能性があります。次に重要なのが、一見転倒の心配などまったく見受けられない患者であっても、不慮の転倒事故はいつ発生してもおかしくないという認識を常に持つことです。ほかの裁判例でもそうですが、病院あるいは老人施設には、通常の施設とは異なる「高度の安全配慮義務」が課せられていると裁判所は考えます。そのため、自宅で高齢者が転倒したら「仕方がない事故」ですが、病院あるいは老人施設では「一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度な注意義務が課せられている」と判断されます。つまり、わずかな段差や滑りやすい床面などがあれば、転倒は「予見可能」であり、スタッフが気づかずに何も手を打たないと「結果回避義務をつくさなかった」ことで、病院・施設側の管理責任を必ず問われることになります。高齢になればなるほど、身体的な問題などから転倒・転落の危険性が高くなりますが、24時間付きっきりの監視を続けることは不可能ですから、あらかじめリスクの高いところへは、患者さんができる限り足を踏み入れないようにしなければなりません。たとえば、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。内科

379.

4年に1回は多すぎる、高齢者の骨密度測定/JAMA

 骨粗鬆症未治療の平均75歳高齢者の男女において、骨密度測定による将来的な骨折リスク(股関節または主要な骨粗鬆症性骨折)の予測能は、4年間隔での2回測定では意味ある改善は得られないことが判明した。米国・Hebrew SeniorLifeのSarah D. Berry氏らが、フラミンガム骨粗鬆症研究の被験者およそ800例について行ったコホート試験の結果、明らかにした。高齢者に対する、骨粗鬆症スクリーニングとして骨密度測定は推奨されているものの、反復測定の有効性については不明だった。JAMA誌2013年9月25日号掲載の報告より。骨密度を2回測定、約10年追跡 研究グループは、フラミンガム骨粗鬆症研究の被験者、男性310例、女性492例を対象にコホート試験を行った。被験者は、1987~1999年にかけて、大腿骨頸部骨密度を2回測定されていた(測定間隔の平均値:3.7年)。 追跡は2009年まで、または2回目骨密度測定から12年後まで行い、主要アウトカムは、股関節または主要な骨粗鬆症性の骨折だった。 被験者の平均年齢は74.8歳、骨密度の年平均変化量は-0.6%(標準偏差:1.8)。追跡期間の中央値は9.6年だった。骨密度2回目の測定値を入れても、予測モデルAUCはほとんど変わらず 追跡期間中に股関節骨折を発症したのは76例、主要な骨粗鬆症性骨折は113例だった。 年間骨密度の減少は骨折リスクの増大に関与しており、標準偏差分減少による股関節骨折のハザード比は、ベースライン時骨密度を補正後、1.43(95%信頼区間[CI]:1.16~1.78)で、主要な骨粗鬆症性骨折については同1.21(同:1.01~1.45)だった。 受信者動作特性曲線(ROC)分析では、ベースライン時の骨密度測定値に2回目の同測定値を追加しても、予測能について意味ある増大はみられなかった。ベースライン時の骨密度による予測モデルの曲線下面積(AUC)は、0.71(同:0.65~0.78)であり、骨密度のベースラインからのパーセント変化による予測モデルの同値も0.68(同:0.62~0.75)だった。 また、ベースライン時骨密度モデルに、2回目の測定値を元にした骨密度変化を追加したモデルでも、AUCは0.72(同:0.66~0.79)と、予測能はあまり変わらなかった。 ネット再分類指数を用いた場合、2回目の骨密度測定により股関節骨折者の分類割合は3.9%(95%CI:-2.2~9.9%)増大した一方で、低リスクと分類される人の割合は-2.2%(同:-4.5~0.1%)の減少だった。 結果を踏まえて著者は、「骨折リスクを改善しようと4年以内に骨密度を再測定し分類することは、この年齢の未治療骨粗鬆症患者には必要ないようだ」と結論している。

380.

シンポジウム「最小侵襲脊椎安定術MISt」第20回記念 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会より

2013年9月6~8日、名古屋市にて第20回記念 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会が行われた。学会中、今大会の会長である名古屋第二赤十字病院 整形外科・脊椎脊髄外科の佐藤公治氏が企画したシンポジウム「最小侵襲脊椎安定術MISt」が開催された(座長:慶応大学 石井賢氏、関西医科大学 齋藤貴徳氏)。シンポジウムでは世界のオピニオンリーダー10名による講演が行われ、 平日にも関わらず450名を超える参加者が日本およびアジアから集まり、 MIStについての熱い議論が交わされた。 ※最小侵襲脊椎安定術(MISt:Minimally Invasive Spine Stabilization)とは、低侵襲に脊椎固定するだけでなく制動や安定化も含めた手技の総称です。Limitation of MIS in Complex Deformity and Revision SurgeryJeffery S. Roh氏(Division of Proliance Surgeon, ProOrtho, Seattle Minimally Invasive Spine Center)The use of Minimally Stabilization(MISt) in Management of Advanced Metastatic Spinal DiseaseMun Keong Kwan氏(Department of Orthopaedic Surgery, Faculty of Medicine, University of Malaya)MIS-PLIFのアプローチによる低侵襲性向上の限界有薗 剛氏(公立学校共済組合九州中央病院 整形外科)腰椎変性側弯症に対する多椎間MIS-TLIF中野 恵介氏(高岡整志会病院 整形外科)転移性脊椎腫瘍に対する低侵襲脊椎安定術(MISt)の応用中西 一夫氏(川崎医科大学 脊椎・災害整形外科)骨粗鬆症椎体骨折に対する骨切りを併用したMIStによる治療経験富田 卓氏(青森市民病院 整形外科)PLIFに併用したCBTScrewの工夫~術後1年の短期成績より~大和田 哲雄氏(関西労災病院 整形外科)内視鏡支援下のXLIF手術稲葉 弘彦氏(岩井整形外科内科病院 整形外科)経皮的頚椎椎弓根スクリューを用いた低侵襲頚椎後方固定の工夫と限界染谷 幸男氏(国保小見川総合病院 整形外科・脊椎脊髄センター)化膿性脊椎炎に対する経皮的挿入椎弓根スクリューを用いた固定術の有用性男澤 朝行氏(帝京大学ちば総合医療センター 整形外科)総合討論※ 所属・施設等は、制作当時のものです。

検索結果 合計:471件 表示位置:361 - 380