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2016年に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が発表されてから、抗菌薬の処方や服薬についてさまざまな取り組みが行われてきました。医師と話をしたり、処方箋を受け取ったりするなかで、確かに抗菌薬の処方数が減ったという実感があります。医師や薬剤師の間では「抗菌薬は大部分の風邪に効かない」「処方された抗菌薬はすべて飲み切らなくてはいけない」は常識ですが、一般の方の意識はどうなのでしょうか。内閣府が行った世論調査でその実態が明らかになりました。内閣府は10月11日、薬が効かない薬剤耐性の感染症に関する世論調査を発表した。抗生物質を処方された際に医師や薬剤師の指示通り飲まないことがあると回答した人は13%だった。「途中で治ったらそれ以上必要と思わない」が理由として最多(52.3%)だった。指示を常に意識して服用している人は82%だった。薬剤耐性について知っているかを尋ねたところ「知っている」と答えた人は49.9%だった。「知らない」との回答は48.7%で拮抗した。(2019年10月11日付 日本経済新聞)この内閣府の調査は、2019年8月~9月に18歳以上の3,000人を個別面接して行われました。有効回答は1,667人でした。薬が効かない薬剤耐性の感染症に対する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とすることが目的です。この調査の結果、抗菌薬が処方された場合に医師や薬剤師の指示を常に守って服用している人は82%でした。「意外と多いな」と思ったのは私だけではないでしょう。一方で、指示どおりに抗菌薬を飲まないことがある人は13%でした。この13%の人たちはどのような認識なのでしょうか。医師や薬剤師の指示どおりに飲めないことがあるのはなぜか、という問いでは以下のような結果となりました。途中で治ったらそれ以上必要と思わないから 52.3%薬を飲むのは最低限にしたいから 35.6%指示どおり飲むのを忘れてしまうから 34.7%この結果から、「薬は嫌い、最低限にしたい」「回復したら薬を中止したくなる」という心理が読み取れますので、服薬指導ではこの点を理解したうえで働きかけをするとよいと思います。たとえば、一辺倒に「最後まで飲んで」と正論を伝えるのではなく、「治ったらお薬を中止したくなるし、お薬は最低限にしたいと思われる方も多いんですよね」などと、よくある不安について話をして共感を得てから、必要なことに絞ってお伝えしてはいかがでしょうか。薬剤耐性の意味まで知っている人は少数派「薬剤耐性」という言葉については、知っている人は49.9%、知らない人は48.7%と真っ二つに分かれる結果でした。ただし、知っている人の中には「言葉だけ知っている人」も30%ほど含まれているので、言葉を知っていてかつ内容まできちんと理解している人はかなり少数派です。「薬剤耐性」という言葉は、私がITや金融など他業界の専門用語を難しいと思うように、一般の人には難しいのだと思います。「菌に抗菌薬が効かなくなる」「抗菌薬が効かない菌が体の中で増える」「それが日本だけでなく世界で起こっている」など、身近なことに感じてもらえるよう、少しでもわかりやすい言葉でお伝えできるとよいでしょう。2018年度の報酬改定では、抗菌薬処方を減らして適正使用を推進するために「抗菌薬適正使用支援加算」と「小児抗菌薬適正使用支援加算」が新設されました。2020年度の報酬改定でも新たな取り組みが評価されるかもしれません。一般の方の薬剤耐性の認識レベルも踏まえて、もうひと踏ん張りして対応を考えることが必要だと思います。